以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明のパイプ成形体の一実施形態を用いたロボットアームを備えるピッキングロボットの斜視図である。図1に示されるように、ピッキングロボット1は、本体2と、本体2に連結されたロボットアーム3と、ロボットアーム3の先端に取り付けられたピッキング装置4とを備えている。このようなピッキングロボット1は、例えば、工場内に吊り下げられた状態で、対象物(例えば医薬品や食料品等)をピッキングして移送する。
本体2は、図中の直交座標系Sにおけるx−y平面内を任意に移動可能とされている。本体2の下面2sには、後述するロボットアーム3のアッパーアーム5を本体2に連結するための複数(ここでは3つ)の連結部2aが設けられている。
ロボットアーム3は、複数(ここでは3つ)の長尺円筒状のアッパーアーム(パイプ成形体)5を有している。アッパーアーム5は、その基端5aが本体2の連結部2aに連結されている。アッパーアーム5と本体2との連結は、アッパーアーム5の基端5aに取り付けられた連結部材6を介して行われている。アッパーアーム5は、本体2に連結された状態において、基端5aを中心に回動可能とされている。
また、ロボットアーム3は、複数(ここでは6つ)の長尺円筒状のロワーアーム(パイプ成形体)7を有している。ロワーアーム7は、アッパーアーム5よりも小径の円筒状を呈している。ロワーアーム7は、その基端7aがアッパーアーム5の先端5bに連結されている。ここでは、1つのアッパーアーム5に対して2つのロワーアーム7が連結されている。ロワーアーム7とアッパーアーム5との連結は、アッパーアーム5の先端5bに取り付けられた連結部材8と、ロワーアーム7の基端7aに取り付けられた連結部材9とを介して行われている。
ピッキング装置4は、ロワーアーム7の先端7bに、連結部材10を介して取り付けられている。ピッキング装置4は、例えば、真空吸着等によって対象物をピッキングする。ピッキングロボット1においては、本体2がx−y平面内を移動すると共にアッパーアーム5が回動することによって、x−y−z空間内の任意の位置にピッキング装置4を移動させることができる。
図2は、ロワーアーム7の構成を模式的に示す斜視図であり、図3は、図2のIII−III線に沿っての断面図である。図2及び図3に示されるように、ロワーアーム7は、円管状に形成された外側層71と、円管状に形成され、外側層71の一端71aから他端71bに渡って延在するように外側層71の内側に配置された内側層72と、外側層71と内側層72との間に配置された制振層73とを有している。つまり、ロワーアーム7においては、円管状の内側層72を覆うように内側層72上に制振層73が積層されており、制振層73を覆うように制振層73上に外側層71が積層されている。なお、外側層71の一端71aは、ロワーアーム7の基端7aであり、外側層71の他端71bは、ロワーアーム7の先端7bである。ロワーアーム7は、その基端7aから先端7bに渡って外径及び内径を変化させない円管形状でも良いし、その基端7aから先端7bに向かって外径及び内径を小さくするテーパ形状としてもよい。テーパ形状とした場合、先端7bに向かってその直径を小さくする、すなわちロワーアーム7の先端7b側の重量を小さくすることにより、振動減衰特性を改善することが可能となる。
外側層71及び内側層72は、炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics」と称する)からなる。より具体的には、外側層71及び内側層72は、所定の方向に配向された炭素繊維を含む炭素繊維層にマトリックス樹脂(例えばエポキシ樹脂)を含浸してなる炭素繊維プリプレグを複数層(例えば、外側層71であれば6層、内側層72であれば5層)積層し熱硬化して作製される。
外側層71及び内側層72の炭素繊維プリプレグとしては、例えば、JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125(炭素繊維:三菱レイヨン(株)製PAN系炭素繊維(商品名:パイロフィルTR30S)、マトリックス樹脂:130°硬化エポキシ、炭素繊維目付け:125g/m2、樹脂含有量:35重量%、プリプレグ厚さ:0.126mm)、JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグE6025E−26K(炭素繊維:日本グラファイトファイバー(株)製ピッチ系炭素繊維(商品名:グラノックXN−60)、マトリックス樹脂:130°硬化エポキシ、炭素繊維目付け:260g/m2、樹脂含有量27.5重量%、プリプレグ厚さ0.202mm)、JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N33C269(炭素繊維:三菱レイヨン(株)製PAN系炭素繊維(商品名:パイロフィルTR30S)、マトリックス樹脂:130°硬化エポキシ、炭素繊維目付け:269g/m2、樹脂含有量:33.4重量%、プリプレグ厚さ:0.260mm)、及び、JX日鉱日石エネルギー(株)製平織り炭素繊維プリプレグFMP61−2026A(炭素繊維:東レ(株)製PAN系炭素繊維(商品名:トレカT300)、マトリックス樹脂:130°硬化エポキシ、炭素繊維目付け:198g/m2、樹脂含有量:44.0重量%、プリプレグ厚さ:0.250mm)等を使用することができる。
制振層73は、外側層71及び内側層72を構成するCFRPの剛性よりも低い剛性の粘弾性材料からなる。制振層73の粘弾性材料は、25°における貯蔵弾性率が、0.1MPa以上2500MPa以下の範囲であることが好ましく、0.1MPa以上250MPa以下の範囲であることがさらに好ましく、0.1MPa以上100MPa以下の範囲であることが一層好ましい。粘弾性材料の貯蔵弾性率が、2500MPa以下であれば、十分な制振性能を得ることができ、0.1MPa以上であれば、ロワーアーム7の剛性の低下が少なく、産業用部品として要求される性能を満たすことができる。また、制振層73の粘弾性材料は、炭素繊維プリプレグを熱硬化して外側層71及び内側層72を作製することから、その際に発生する熱に対して安定であることが好ましい。さらに、制振層73の粘弾性材料は、外側層71及び内側層72のマトリックス樹脂との接着性に優れていることが好ましい。
以上の観点から、制振層73を構成する粘弾性材料は、例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、及び、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)等のゴム、並びに、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、及び、柔軟鎖を持つポリマーであるゴムやエラストマー等を添加することによって弾性率を低くしたエポキシ樹脂等の、CFRPに比べて柔軟な材料とすることができる。
ここで、ロボットアーム3においては、アッパーアーム5も、ロワーアーム7と同様の構成となっている。すなわち、アッパーアーム5は、円管状に形成された外側層(後述する外側層51)と、円管状に形成され、外側層の一端から他端に渡って延在するように外側層の内側に配置された内側層と、外側層と内側層との間に配置された制振層とを有している。つまり、アッパーアーム5も、円管状の内側層を覆うように内側層上に制振層が積層されており、制振層を覆うように制振層上に外側層が積層されている。なお、ここでの外側層の一端はアッパーアーム5の基端5aであり、外側層の他端はアッパーアーム5の先端5bである。アッパーアーム5は、その基端5aから先端5bに渡って外径及び内径を変化させない円管形状でも良いし、その基端5aから先端5bに向かって外径及び内径を小さくするテーパ形状としてもよい。テーパ形状とした場合、先端5bに向かってその直径を小さくする、すなわちアッパーアーム5の先端5b側の重量を小さくすることにより、振動減衰特性を改善することが可能となる。
アッパーアーム5の外側層、内側層、及び制振層のそれぞれは、ロワーアーム7の外側層71、内側層72、及び制振層73のそれぞれと同様の材料から構成することができる。ただし、アッパーアーム5の外側層及び内側層は、ロワーアーム7の外側層71及び内側層72よりも多く炭素繊維プリプレグを積層して構成される(例えば、外側層であれば9層、内側層であれば7層)。つまり、アッパーアーム5は、ロワーアームよりも大径であることから、ロワーアームよりも多く炭素繊維プリプレグを積層して厚肉とすることによって、つぶれ破壊を防止するように構成されている。アッパーアーム5及びロワーアーム7の肉厚は、肉厚/平均直径(=外径と内径の和の1/2)を0.05以上とすることを目安に設定される。このため、アッパーアーム5及びロワーアーム7は、直径が大きくなるほど厚肉となる。
図4は、ロワーアーム7の端部の構造を示す平面図である。図4に示されるように、ロワーアーム7の基端7aを含む端部(すなわち外側層71の一端71aを含む一端部)には、所定のピッチで螺旋状のねじ溝74を形成する(スパイラル加工を施す)ことにより、雄ねじ74aが設けられている。一方で、連結部材9には、その雄ねじ74aに対応する雌ねじ9aが設けられている。したがって、ロワーアーム7と連結部材9とは、接着剤による接着に加えて、雄ねじ74aと雌ねじ9aとの螺合を用いて接合されている。なお、ねじ溝74は、外側層71の炭素繊維プリプレグ2〜3層程度まで達する深さに形成されており、制振層73までは達していない。
ねじ溝74の断面形状は、その底部74cが略直線状であるような矩形状(コの字状)を呈している。つまり、ねじ溝74の底部74cが平坦となっている。このため、ロワーアーム7に何らかの応力が発生した際に、ねじ溝74の底部74cの一部分にその応力が集中することが避けられる。その結果、ねじ溝74を起点とした破壊が防止される。
また、ロワーアーム7の先端7bを含む端部(すなわち外側層71の他端71bを含む他端部)にも、所定のピッチで螺旋状のねじ溝74を形成することにより、雄ねじ74bが設けられている。そして、連結部材10には、その雄ねじ74bに対応する雌ねじ10bが設けられている。したがって、ロワーアーム7と連結部材10とは、接着剤による接着に加えて、雄ねじ74bと雌ねじ10bとの螺合を用いて接合されている。
図5は、アッパーアーム5の構造を示す平面図である。図5に示されるように、アッパーアーム5の基端5a及び先端5bにおける外側層51にも、ロワーアーム7の基端7a及び先端7bにおける外側層71と同様に、雄ねじ52a,52bが設けられている。すなわち、アッパーアーム5の基端5aを含む端部(すなわち外側層51の一端51aを含む一端部)には、所定のピッチで螺旋状のねじ溝52を形成することにより、雄ねじ52aが設けられている。そして、連結部材6には、その雄ねじ52aに対応する雌ねじ6aが設けられている。したがって、アッパーアーム5と連結部材6とは、接着剤による接着に加えて、雄ねじ52aと雌ねじ6aとの螺合を用いて接合されている。なお、溝52の断面形状も、溝74と同様に、その底部52cが略直線状であるような矩形状(コの字状)を呈している。
さらに、アッパーアーム5の先端5bを含む端部(すなわち外側層51の他端51bを含む他端部)にも、所定のピッチで螺旋状のねじ溝52を形成することにより、雄ねじ52bが設けられている。そして、連結部材8には、その雄ねじ52bに対応する雌ねじ8bが設けられている。したがって、アッパーアーム5と連結部材8とは、接着剤による接着に加えて、雄ねじ52bと雌ねじ8bとの螺合を用いて接合されている。
なお、連結部材6,8,9,10の材料としては、例えば、アルミ合金、チタン合金、及びSUSなどの金属材料を用いることができるが、特に、軽量化や低コスト化の観点から、アルミ合金を用いることが好ましい。また、各アームと各連結部材との接合に用いる接着剤としては、エポキシ系やポリウレタン系等の常温硬化型や加熱硬化型を用いることができる。
以上説明したように、ロワーアーム7は、CFRPにより円管状に形成された外側層71と内側層72とを備えているので、剛性が確保される。さらに、ロワーアーム7は、外側層71と内側層72との間に配置された制振層73を備えているので、振動減衰特性が向上される。よって、ロワーアーム7を用いたロボットアーム3においては、剛性が確保されると共に振動減衰特性が向上される。
また、ロワーアーム7においては、制振層73が円管状を呈しているので、外側層71及び内側層72の周方向について等方的に振動減衰特性が向上される。また、ロワーアーム7においては、制振層73が、外側層71の一端71aから他端71bに渡って(すなわち、ロワーアーム7の基端7aから先端7bに渡って)延在しているので、振動減衰特性が一層向上される。
また、アッパーアーム5も、ロワーアーム7と同様に、CFRPにより円管状に形成された外側層51及び内側層と、外側層51と内側層との間に配置された制振層とを備えている。よって、ロワーアーム7に加えてアッパーアーム5をさらに用いたロボットアーム3においては、より高い剛性が確保されると共に振動減衰特性がさらに向上される。
以上の実施形態は、本発明のパイプ成形体の一実施形態を説明したものであり、本発明のパイプ成形体は、上記のアッパーアーム5及びロワーアーム7に限定されない。例えば図6に示されるように、ねじ溝74の断面形状は、外側層71の内部に向かって狭まると共に底部74cが略直線状であるような台形状(逆台形状)とすることができる。この場合にも、ねじ溝74の底部74cが平坦となるので、ねじ溝74の底部74cの一部分に応力が集中することが避けられる。その結果、ねじ溝74を起点とした破壊が防止される。なお、ねじ溝52の断面形状についても、この場合のねじ溝74と同様の逆台形形状とすることができる。
また、ロワーアーム7において、制振層73を、図7に示されるような態様とすることができる。図7に示されるように、この制振層73は、外側層71の一端71aから一端71aと他端71bとの間の所定位置(ここでは外側層71の全長の2/3の位置)まで延在するように外側層71と内側層72との間に配置されている。つまり、この制振層73は、ロワーアーム7の基端7aから、ロワーアーム7の全長の2/3程度の位置まで延在している。このように、制振層73をロワーアーム7の基端7a側の所定の範囲に留めることにより、振動減衰特性が向上されると共に剛性の低下が抑制される。なお、アッパーアーム5についても、その制振層を図7に示される制振層73と同様の構成としてもよい。
また、ロワーアーム7は、図8に示される態様とすることができる。図8に示されるロワーアーム7は、円管状に形成された外側層81と、円管状に形成され、外側層81の一端から他端に渡って延在するように外側層81の内側に配置された内側層82と、円管状に形成され、外側層81の一端から他端に渡って延在するように外側層81と内側層82との間に配置された中間層83と、外側層81と内側層82との間に配置された2つの制振層84,85とを有している。制振層84は、外側層81と中間層83との間に配置されており、制振層85は、中間層83と内側層82との間に配置されている。
つまり、このロワーアーム7においては、円管状の内側層82を覆うように内側層82上に制振層85が積層されており、制振層85を覆うように制振層85上に中間層83が積層されており、中間層83を覆うように中間層83上に制振層84が積層されており、制振層84を覆うように制振層84上に外側層81が積層されている。なお、外側層81の一端は、ロワーアーム7の基端7aであり、外側層81の他端は、ロワーアーム7の先端7bである。
外側層81、内側層82、及び中間層83は、上述した外側層71及び内側層72と同様の材料からなるものとすることができる。また、制振層84及び制振層85は、上述した制振層73と同様の材料からなるものとすることができる。このように構成されるロワーアーム7をロボットアーム3に用いることにより、より高い剛性を確保しつつ振動減衰特性のさらなる向上を図ることが可能となる。
[実施例1]
本発明のパイプ成形体の実施例として、ロワーアーム7に対応する試験用パイプ成形体を用意した。この試験用パイプ成形体の仕様は、下記の表1に示される通りである。なお、表1を含む以下の表において、「積層角」は、各パイプ成形体の長手方向と炭素繊維の配向方向との角度を示している。積層角は、0°が各パイプ成形体の長手方向を示し、90°が各パイプ成形体の円周方向を示し、±45°がバイアス方向を示している。また、以下の表において、「Ply」は、プリプレグの層数を示しており、「MPT」は、1層のプリプレグの厚さを示している。
表1に示されるように、この試験用パイプ成形体においては、内側層72として、積層角を90°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)2層と、積層角を0°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグE6025E−26K)3層とを用いた。
また、この試験用パイプ成形体においては、外側層71として、積層角を90°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)2層と、積層角を0°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)4層とを用いた。さらに、この試験用パイプ成形体においては、制振層73として、SBRシート(アスク工業(株)製、商品名:アスナーシート)を用いた。制振層73としてのSBRシートは、試験用パイプ成形体の基端から先端に渡って(すなわち、試験用パイプ成形体の全長に渡って)配置した。
以上の炭素繊維プリプレグ及びSBRシートを、表1の順にアルミニウム等の円筒状の芯材に巻きつけて積層し、炭素繊維プリプレグの外側からPPやPET等の熱収縮テープを巻きつけることにより炭素繊維プリプレグを固定しながら熱硬化した後に、芯材を抜き取ることによって、内径10.47mm、外径14.00mm、長さ900mmの円筒形状の試験用パイプ成形体を得た。
一方で、試験用パイプ成形体の比較例として、以下のように比較用パイプ成形体を用意した。この比較用パイプ成形体の仕様は、下記の表2に示される通りである。つまり、比較用パイプ成形体は、試験用パイプ成形体に対して、制振層73に対応する層を有していない点で異なっている。炭素繊維プリプレグを、表2の順に円筒状の芯材に巻きつけて積層し、炭素繊維プリプレグの外側からPPやPET等の熱収縮テープを巻きつけることにより炭素繊維プリプレグを固定しながら熱硬化した後に、芯材を抜き取ることによって、内径10.77mm、外径14.00mm、長さ900mmの円筒形状の比較用パイプ成形体を得た。
以上のように準備した試験用パイプ成形体及び比較用パイプ成形体の振動減衰特性を評価した。試験用パイプ成形体及び比較用パイプ成形体の振動減衰特性の評価方法は、以下の通りである。まず、図9に示されるように、アルミニウムからなる保持部材Aを用意する。保持部材Aは、平板状(幅100mm、高さ100mm、厚さ10mm)の基部A1と、基部A1の略中央部から突出して設けられた円柱状の保持部A2とからなる。保持部A2の外径は、試験用パイプ成形体の内径と略同一に設定される。
続いて、試験用パイプ成形体の一方の端部から、試験用パイプ成形体内に保持部A2の先端部を50mm程度挿入し、その状態において接着剤により試験用パイプ成形体と保持部A2とを接着する。そして、基部A1を固定壁に固定する。これにより、試験用パイプ成形体が片持ち梁状態となる。
続いて、試験用パイプ成形体の他方の端部(先端部)に、1kgの重りを吊り下げる。そして、重りを吊り下げるための糸を切断することにより、試験用パイプ成形体に自由振動を発生させる。
続いて、自由振動中の試験用パイプ成形体の先端部の変位をレーザ変位計で測定する。以上の工程により、図10に示される減衰自由振動波形を得た。なお、試験用パイプ成形体が円筒形状であることに起因してレーザ変位計のレーザの反射がばらつくため、試験用パイプ成形体の先端部に軽量な板を取り付けて、それをレーザのターゲットとした。
比較用パイプ成形体についても同様の工程を行い、図11に示される減衰自由振動波形を得た。ただし、保持部A2の外径は、比較用パイプ成形体の内径と略同一に設定した。
図10及び図11に示されるように、試験用パイプ成形体は、比較用パイプ成形体に比べて、振動による先端部の変位(図中アーム先端たわみ)が速やかに減衰した。したがって、CFRPからなる内側層と外側層との間に、SBRからなる制振層を設けることによって、振動減衰特性が向上することが確認された。
[実施例2]
本発明のパイプ成形体の他の実施例として、アッパーアーム5に対応する試験用パイプ成形体を用意した。この試験用パイプ成形体の仕様は下記の表3に示される通りである。
表3に示されるように、この試験用パイプ成形体においては、内側層として、積層角を90°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)2層と、積層角を−45°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)1層と、積層角を45°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)1層と、積層角を0°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N33C269)3層とを用いた。
また、この試験用パイプ成形体においては、外側層51として、積層角を−45°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)1層と、積層角を45°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)1層と、積層角を0°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N33C269)3層と、積層角を0°/90°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製平織り炭素繊維プリプレグFMP61−2026A)2層と、積層角を90°とした炭素繊維プリプレグ(JX日鉱日石エネルギー(株)製炭素繊維プリプレグB24N35R125)2層とを用いた。
さらに、この試験用パイプ成形体においては、制振層として、SBRシート(アスク工業(株)製、商品名:アスナーシート)を用いた。ただし、この試験用パイプ成形体においては、SBRシートを、試験用パイプ成形体の基端から試験用パイプ成形体の全長の2/3の位置までの範囲に配置した。
以上の炭素繊維プリプレグ及びSBRシートを、表3の順に円筒状の芯材に巻きつけて積層し、炭素繊維プリプレグの外側からPPやPET等の熱収縮テープを巻きつけることにより炭素繊維プリプレグを固定しながら熱硬化した後に、芯材を抜き取ることによって、内径48.52mm、外径55.00mm、長さ300mmの円筒形状の試験用パイプ成形体を得た。
一方で、この試験用パイプ成形体の比較例として、以下のように比較用パイプ成形体を用意した。この比較用パイプ成形体の仕様は、下記の表4に示される通りである。つまり、この比較用パイプ成形体は、上述した試験用パイプ成形体に対して、制振層に対応する層を有していない点で異なっている。炭素繊維プリプレグを、表4の順に円筒状の芯材に巻きつけて積層し、炭素繊維プリプレグの外側からPPやPET等の熱収縮テープを巻きつけることにより炭素繊維プリプレグを固定しながら熱硬化した後に、芯材を抜き取ることによって、内径48.82mm、外径55.00mm、長さ300mmの円筒形状の比較用パイプ成形体を得た。
以上のように準備した試験用パイプ成形体は、対応する比較用パイプ成形体に比べて振動減衰特性が向上される。
[実施例3]
本発明のパイプ成形体の実施例として、以下のように試験用パイプ成形体を用意した。より具体的には、その積層構成を表3に示される積層構成と同様とした。ただし、この試験用パイプ成形体においては、制振層としてのSBRシートを、試験用パイプ成形体の基端から先端に渡って(すなわち、試験用パイプ成形体の全長に渡って)配置した。そのようなSBRシート及び炭素繊維プリプレグを、表3の順に円筒状の芯材に巻きつけて複数積層し、炭素繊維プリプレグの外側からPPやPET等の熱収縮テープを巻きつけることにより炭素繊維プリプレグを固定しながら熱硬化した後に、芯材を抜き取ることによって、内径φ49mm、外径φ55.48mm、肉厚3.24t、長さ100mmの円筒形状のCFRPパイプ成形体を成形した。その後に、センタレス研磨により外径がφ55mmとなるように調整した。そして、そのCFRPパイプ成形体の一端部の表面(外側層)に、5mmのピッチで螺旋状のねじ溝を形成することにより雄ねじを設け、図12に示される試験用パイプ成形体20を得た。試験用パイプ成形体20の雄ねじ21の具体的な仕様は、凸部φ55mm(公差−0.05mm〜−0.10mm)、凹部φ54mm(公差−0.05mm〜−0.10mm)、溝深さ0.5mmとした。
雄ねじ21は、通常のねじ加工の要領で形成した。より具体的には、上述したようにCFRPパイプ成形体を成形した後に、そのCFRPパイプ成形体を旋盤にセットして回転させながら、CFRPパイプ成形体の長手方向に沿って所定の速さでバイトを移動させることにより雄ねじ21を形成した。なお、バイトの代わりに円盤状の砥石を用いてもよい。
一方で、アルミニウムによって外径φ80mm、厚さ20mmの円筒形状の接合部材25を作製した。この接合部材25の内側には、試験用パイプ成形体20の雄ねじ21に螺合可能なように雌ねじ26を形成した。この雌ねじ26の具体的な仕様は、溝ピッチ5mm、凸部φ54mm(公差+0.15mm〜+0.10mm)、凹部φ55mm(公差+0.15mm〜+0.10mm)、溝深さ0.5mmとした。そして、試験用パイプ成形体20の雄ねじ21及び接合部材25の雌ねじ26に接着剤を塗布した後、接合部材25を試験用パイプ成形体20の雄ねじ21に螺合し、接着剤を加熱硬化した。
試験用パイプ成形体20の比較例として、図13に示される比較用パイプ成形体30を用意した。比較用パイプ成形体30は、雄ねじを有さない点で試験用パイプ成形体20と異なっている。一方で、この比較用パイプ成形体30に接合される接合部材35を用意した。接合部材35は、雌ねじを有さない点で接合部材25と異なっている。そして、比較用パイプ成形体30の接合部(すなわち一端部の表面)及び接合部材35の接合部(すなわち内面)に接着剤を塗布した後、比較用パイプ成形体30の一端部を接合部材35に挿入し、接着剤を加熱硬化した。
試験用パイプ成形体20の他の比較例として、図14に示される比較用パイプ成形体40を用意した。比較用パイプ成形体40は、試験用CFRPパイプ20に対して、雄ねじ21に代えて凹凸部41を有する点で異なっている。凹凸部41は、CFRPパイプ成形体の一端部の表面に円周状に複数の溝を設けることにより形成した。凹凸部41の具体的な仕様は、溝ピッチ5mm、凸部φ55mm(公差−0.05mm〜−0.10mm)、凹部φ54mm(公差−0.05mm〜−0.10mm)、溝深さ0.5mmとした。
一方で、この比較用パイプ成形体40に接合される接合部材45を用意した。接合部材45は、雄ねじに代えて凹凸部46を有する点で接合部材25と異なっている。凹凸部46の具体的な仕様は、溝ピッチ5mm、凸部φ55mm(公差+0.15mm〜+0.10mm)、凹部φ56mm(公差+0.15mm〜+0.10mm)、溝深さ0.5mmとした。そして、比較用パイプ成形体40の凹凸部41及び接合部材45の凹凸部46に接着剤を塗布した後、比較用パイプ成形体40を接合部材45に挿入し、接着剤を加熱硬化した。
各パイプ成形体と各接合部材との接合には、接着剤として、ナガセケムテック(株)製2液混合型エポキシ接着剤(主剤:AW−106、硬化剤:HV−953U)を使用した。また、各パイプ成形体と各接合部材との接合においては、接着剤を硬化するために、各パイプ成形体と各接合部材とを、60℃に保温した加熱炉内に1時間程度保持した。
以上のように準備した試験用パイプ成形体20と接合部材25との接合強度、比較用パイプ成形体30と接合部材35との接合強度、及び、比較用パイプ成形体40と接合部材45との接合強度を、押し抜き試験により評価した。この押し抜き試験は、試験速度を1mm/分とした。評価結果は、下記の表5に示される通りであった。表5の結果によれば、試験用パイプ成形体20と接合部材25との接合強度(破壊荷重)がもっとも高かった。したがって、CFRP製のパイプ成形体とアルミニウム製の接合部材との接合に、ねじ同士の螺合を用いることによって、接合強度が向上することが確認された。