JP2012155883A - 電極材料、該電極材料を用いた蓄電デバイス、リチウムイオン二次電池、及び電極材料の製造方法 - Google Patents

電極材料、該電極材料を用いた蓄電デバイス、リチウムイオン二次電池、及び電極材料の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 安定した結晶構造を備えつつさらなる高容量が達成される電極材料を提供することにある。
【解決手段】
本発明にかかるバナジウム系複合酸化物を含む電極材料に含まれるバナジウム系複合酸化物の組成M(0<x<1)は、その結晶相(MV)に対してアルカリ金属Mが欠損された組成であることから、本来カリウムイオンが存在するサイトにもリチウムイオンが挿入可能になることと、電解質中を伝導される電荷の移動抵抗が低下することにより、該電極材料を用いることで極めて高容量の蓄電デバイスを得ることができる。なお、Mの構成比を低下させてもアルカリ金属Mが存在することにより、結晶構造は大きく崩れることなく維持される。
【選択図】図6

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスに使用される電極材料、及びその製造方法に関する。
エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池(LIB)は、近年、電気自動車(EV)の蓄電源として使用されている。EVの走行距離を伸ばすために、LIB等に高いエネルギー密度(すなわち、高容量化)やサイクル特性(容量維持率)を与えることが重要な課題となっている。
このような背景のもと、LIBの電極材料、特に正極材料の活物質にはコバルト酸、マンガン酸、又はニッケル酸とリチウムの化合物が用いられている。そして、近年では、活物質としてV等のバナジウム酸化物も用いられつつある。この種のバナジウム酸化物は、充電末時の組成が熱的に安定であり、それが電極材料として使用された電池は高容量を示すことから、EVの蓄電源としての使用に対して好適である。
活物質としてバナジウム酸化物を用いたリチウムイオン二次電池に関する技術は、特許文献1及び2や非特許文献1に記載されている。
例えば、本出願人による特許文献1には、バナジウム酸化物における結晶構造の隙間に、リチウムイオンよりもイオン半径の大きいイオンをドープする技術が開示されている。
このイオン半径の大きいイオンは、例えば、ナトリウムイオンやセシウムイオンである。この技術により、充放電に伴う結晶構造の崩壊を抑制し、リチウムイオンの結晶構造内への円滑な出入りを確保することができる。
また、本出願人による特許文献2では、バナジウムイオンよりもイオン半径の大きい周期表第V族、第VI族のイオンをドープして、このイオンを結晶の層間保持部材として機能させ、リチウムイオンの結晶構造内への円滑な出入りを確保する技術が提案されている。
一方、非特許文献1では、ナトリウムイオンを予め含んだバナジウム系複合酸化物の使用を目的として、化学量論組成Na0.33のバナジウム系複合酸化物の電気化学的特性について検討されている。
しかし、特許文献1及び2の提案では、イオン半径の大きなイオンをドープすることに着目したものの、具体的にどのような結晶構造を有する成分を使用した場合に、容量やサイクル特性に優れるかについてまでは検討されていなかった。
また、非特許文献1におけるNa0.33の組成のバナジウム系複合酸化物のみを用いた場合では、一度、Liイオンが結晶中に取り込まれると、Vによる結晶構造に不可逆的な変化が起こり、構造が崩れてしまうために、サイクル特性が低下してしまう場合があった。そのため、化学量論組成がNa0.33の結晶相を有しつつ、化合物としては組成が異なるバナジウム系複合酸化物の開発が望まれていた。
特開2008−300234号公報 特開2008−300233号公報 S.Bach, J.P.Pereira-Ramos, N.Baffier, R.Messina, Journal of Electrochem. Soc., 137, (1990)1042-1048
このような状況に対して、本出願人は鋭意研鑽のもと、化学量論組成Na0.33及び/又はNa1.015の結晶相を有し、Na(0<x<0.33)で表されるバナジウム系複合酸化物を含む電極材料を開発した。当該電極材料をリチウムイオン二次電池等に用いることで、上記結晶構造の崩壊が防止され、サイクル特性の改良が達成されている。しかしながら、この電極材料では、充電による結晶構造の変化が防止される安定した結晶構造を備えてはいるものの容量が最大値でも360mAh/g程度にとどまっている。この数値は十分実用に供する水準ではあるものの、より一層の向上が望まれるものであった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安定した結晶構造を備えつつさらなる高容量が達成される電極材料を提供することにある。
また、本発明は、上記電極材料を電極として用いて製造される蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために請求項1に記載の電極材料は、化学量論組成MV(Mはアルカリ金属を示す)の結晶相を有し、M(0<x<1)で表わされるバナジウム系複合酸化物を含むことを特徴とする。
本発明にかかるバナジウム系複合酸化物を含む電極材料に含まれるバナジウム系複合酸化物の組成M(0<x<1)は、その結晶相(MV)に対してアルカリ金属Mが欠損された組成であることから、本来アルカリ金属イオンが存在するサイトにもリチウムイオンが挿入可能になる。さらに、電荷の移動抵抗が低下し、該電極材料を用いることで極めて高容量の蓄電デバイスを得ることができる。なお、アルカリ金属Mの構成比を低下させても、アルカリ金属Mが存在することにより、結晶構造は大きく崩れることなく維持される。
なお、上記xは、0<x<1を満たす任意の値をとることができ、好ましくは、0.15≦x≦0.9を満たす値をとり、より好ましくは、0.15≦x≦0.45の値をとる。
また、上記アルカリ金属Mは、イオン半径の比較的大きな元素を用いれば結晶構造のさらなる安定性を確保することができ、一方で、イオン半径の比較的小さな元素を用いれば初期容量のさらなる増加を図ることができるものと考えられる。特に、アルカリ金属Mとしては、Li、Na、又はKのいずれかを用いることが好適である。
さらに、本発明の電極材料のバナジウム系複合酸化物は、アルカリ金属Mを含む硝酸塩とメタバナジン酸アンモニウムを原料物質として混合し、熱処理して固相反応させることにより得ることが好ましい。また、酸素雰囲気下の熱処理における温度は、200℃〜700℃の範囲であり、好ましくは280℃〜320℃、特に好ましくは約300℃である。
また、本発明にかかる電極材料を使用して製造される蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池においては、本発明にかかる電極材料を正極に使用することが好ましい。
本発明にかかるバナジウム系複合酸化物を含む電極材料では、安定な結晶構造が確保されつつ、電荷の移動抵抗を低くすることができるので、該電極材料を用いて極めて高容量の蓄電デバイスを得ることができる。
バナジウム系複合酸化物の結晶構造を模式的に示した説明図である。 (a)は、KVの結晶構造、(b)は、K(0<x<1)の結晶構造をそれぞれ模式的に示した説明図である。 本発明にかかるリチウムイオン二次電池の一例を示す断面図である。 本発明にかかるリチウムイオン二次電池の他の一例を示す断面図である。 本発明の正極材料粉末のX線回折パターンを示すグラフである。 K/Vの値と初期容量の関係を示すグラフである。 (a)は、本発明にかかるリチウムイオン二次電池にかかる放電曲線であり、(b)は、微分容量/電位(dQ/dV)曲線である。 本発明にかかるリチウムイオン二次電池の充放電前後における正極材料のX線回折パターンを示すグラフである。 本発明の正極材料粉末に対して交流インピーダンス法を行った結果を示すグラフである。 (a)はVを用いて作成したリチウムイオン二次電池の放電曲線、(b)は、微分容量/電位曲線である。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態にかかる電極材料は、活物質として、アルカリ金属の一種であるカリウムが添加されたバナジウム系複合酸化物(以下、カリウムバナジウム酸化物と記す)を含む。これにより、活物質が予め有しているカリウムイオンにより、結晶構造の崩壊が回避される。従って、結晶構造の隙間へのリチウムイオンの出入り、つまりドープ、脱ドープが円滑に確保される。なお、本実施の形態において、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、挿入等により、正極等における活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。また、脱ドープとは、放出、脱離等により、活物質からリチウムイオンが出る現象を意味する。
図1は、本実施の形態に係るカリウムバナジウム酸化物の結晶構造を模式的に示した説明図である。なお、バナジウム酸化物の結晶は、一般的にはスピネル構造をとるものと考えられるが、図においては説明の簡略化のためにバナジウム酸化物が、平坦な層状の結晶構造10をとるものとして以下の説明を行う。図示のように、この結晶構造10では、バナジウム酸化物の層12間に、リチウムイオン14よりもイオン半径が大きいカリウムイオン16が介在する。これにより、リチウムイオン14の層12間への出入りが円滑に確保される。
カリウムバナジウム酸化物としては、化学量論組成がKVの結晶相を有し、組成としてはK(0<x<1)で表されるものが使用される。この場合、K/Vの値x/3は、0<x/3<0.33・・となる。従って、上記カリウムバナジウム酸化物は、化学量論組成KVのカリウムバナジウム酸化物と比較してカリウムが一部欠損した組成となっている。
図2(a)は、KVの結晶構造を模式的に示しており、図2(b)は、K(0<x<1)の結晶構造をそれぞれ模式的に示している。
図から理解されるように、化学量論組成K(0<x<1)のカリウムバナジウム酸化物では、KVと比較してカリウムイオン16が一部欠損した組成である分、本来カリウムイオンが存在するサイトにもリチウムイオンが挿入可能になる。さらに、リチウムイオン14の層間における移動抵抗が減少し、移動自由度が高くなる。これにより、化学量論組成K(0<x<1)のカリウムバナジウム酸化物を含む電極材料を用いて作成された蓄電デバイスは、高い初期容量を示すこととなる。
一方で、このカリウムバナジウム酸化物Kでは上述のようにカリウムイオン16は少ないものの、そのカリウムイオン16が存在しKVの結晶層を有することから、結晶構造が大きく崩れることなく維持されるものと考えられる。従って、このカリウムバナジウム酸化物を含む電極材料を用いて作成された電池は、充放電による結晶構造の崩壊が防止され、高いサイクル特性を示すものと考えられる。
本実施の形態では、電池容量を向上させる観点からは、カリウムバナジウム酸化物中のカリウムの構成比を減らし(すなわち、上記のxの値を0に近い値とし)、リチウムイオンによる結晶層間の移動抵抗を減少させることが好適である。
すなわち、本実施の形態では、化学量論組成KVの結晶相を有し、K(0<x<1)で表わされるカリウムバナジウム酸化物を含む電極材料を使用することで、Kの構成比(上記xの値)を制御することで、初期容量の大きさを調整することができる。
なお、上記xは、0<x<1を満たす任意の値をとることができる。なお、xの値としては、電池容量の観点からは、0に近いほど空孔が多く形成されて容量が向上するので好ましいが、結晶構造の安定性を考慮すると、0.15≦x≦0.9であることが好ましく、0.15≦x≦0.45であることが特に好ましい。
また、本実施の形態にかかるカリウムバナジウム酸化物の結晶相のKVは、X線回折において、2θ=10〜15°の間の001面のピークに最も強い回折線を確認することができる(図5参照)。
ここで、本実施の形態に係るカリウムバナジウム酸化物では、KVの結晶構造が存在しているが、全体としての組成はK(0<x<1)である。カリウムバナジウム酸化物K(0<x<1)の原料として、好ましくは硝酸カリウム(KNO)とメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)が用いられる。KNOは融点が333℃であり、固体との適合性が良いため、比較的に低い温度、例えば、280℃〜320℃でも反応がスムーズに進行する。
KNOとNHVOとの配合比は、得られるカリウムバナジウム酸化物Kのxの値が所望の値となるように、両者の組成から計算した量を、それぞれ配合する。例えば、xの値が0.3であるK0.3を得る場合には、モル比でKNO/NHVO=0.1となるように配合すればよい。
従って、組成Kの酸化物を得る場合には、モル比でKNO/NHVO=x/3となるように配合すればよい。この場合、得られるカリウムバナジウム酸化物のK/Vの値はx/3となる。
KNOとNHVOは、固相反応(固相法)により反応させる。具体的には、原料物質を混合、および粉砕等することで準備した原料粉末を高温で熱処理し、カリウムバナジウム酸化物を合成する。特に、本実施の形態では、この熱処理を、例えば、酸素濃度20〜100%の酸素雰囲気下において、280℃以上320℃以下の温度で4時間から24時間行う。なお、この熱処理における温度は、200℃〜700℃の範囲で行われ、280℃〜320℃の範囲で行われることが好ましく、特に約300℃で行われることが好ましい。KNOとNHVOとを原料物質とすることにより、上記固相反応において、NHVOが熱分解してバナジウム化合物となる過程で、融点の低いKNOが溶融し、溶融したKNOがバナジウム化合物を覆うような状態で反応が進む。従って、上記熱処理温度を280℃以上320℃以下の比較的低い温度に設定しても良好な熱分解が進行するものと考えられる。
なお、熱処理は、反応時の雰囲気ムラを最も少なくする目的において酸素雰囲気下で行うことが好ましいが、例えば、窒素雰囲気下や、ヘリウム、ネオン、及びアルゴン等の希ガス雰囲気下で行っても良い。
上述のように、原料物質を熱処理して固相反応させて得られたカリウムバナジウム酸化物は、安定した層状の結晶構造を多く含む。従って、得られたカリウムバナジウム酸化物を含む電極材料を、蓄電デバイスの電極に使用することで当該デバイスは極めて良好なサイクル特性を示すこととなる。
以下では、上記電極材料を用いて、蓄電デバイスとしてのリチウムイオン二次電池の正極材料を製造する具体的工程、及び該電池の形態について説明する。
本実施の形態のリチウムイオン二次電池は、上記電極材料を使用した正極と、負極と、溶媒に溶解した電解質とを備え、必要に応じてさらにリチウム極を備えている。
正極は、上記電極材料粉末を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダーと、好ましくは導電性粒子とともに混合し、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等の溶媒を用いて正極材料のスラリー状の塗布層とし、これを集電体上に塗布することで作製できる。この塗布層は、例えば10〜100μmの厚さに形成することが好ましい。
上記導電性粒子は、例えば、ケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム、及びタングステン等の金属、酸化インジウム、及び酸化スズ等の導電性金属酸化物等である。導電性粒子は、電極材料の活物質重量の1〜30%の割合で添加することが好ましい。
集電体としては、塗布層と接する面が導電性を示す導電性基体が使用される。この導電性基体は、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成することができる。導電性材料としては、例えば、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金、又は導電性カーボンが好ましい。また、集電体は、非導電性材料により形成された基体本体を導電性材料で被覆した構成としてもよい。
負極は、通常使用されているリチウム系材料の活物質を、上記電極材料粉末と同様に、バインダーと共に混合してスラリーを形成し、集電体に塗布することで得ることができる。このリチウム系材料は、例えば、リチウム系金属材料、金属とリチウム金属との金属間化合物材料、リチウム化合物、またはリチウムインターカレーション炭素材料である。リチウム系金属材料は、例えば金属リチウムやリチウム合金(例えばLi-Al合金)である。金属とリチウム金属との金属問化合物材料は、例えばスズやケイ素である。リチウム化合物は、例えば窒化リチウムである。
リチウムインターカレーション炭素材料は、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素材料等の炭素系材料、ポリアセン系物質等である。なお、ポリアセン系物質は、例えば、ポリアセン系骨格を有する不溶かつ不融性の基体であるPAS等である。なお、これらのリチウムインターカレーション炭素材料は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。
リチウムイオンをドープ、脱ドープ可能な炭素材料等を使用する場合には、リチウム極を別途設ける。そして、初期充電時にリチウムイオンを、リチウム極から負極にプレドープさせる。リチウム極は、リチウムイオン供給源を上述した集電体に貼り付けることにより形成される。リチウムイオン供給源としては、少なくともリチウム元素を含有し、リチウムイオンを供給することのできる物質であれば使用可能である。例えば、金属リチウムあるいはリチウム−アルミニウム合金等が使用可能である。
リチウムイオンは、本実施の形態の電極材料に対し、モル比で0.1〜6の割合でドープされることが好ましい。リチウムイオンのドープ量がモル比で0.1未満であると、ドープ効果が充分に発揮されず、他方リチウムイオンのドープ量が6を超えると、電極材料が金属にまで還元されてしまうことがある。
リチウム極は、リチウムインターカレーション炭素材料以外の負極材料として例示したリチウム系材料を使用しても良い。
電解質は、例えば、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等のリチウム塩を使用することができる。
この電解質を溶解する溶媒は非水系溶媒である。非水系溶媒は、例えば、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物等の電解液である。なお、電解液は、非水系溶媒の溶液であってもよいし、この電解液を含むポリマーゲル(ポリマーゲル電解質)であってもよい。
非水系溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、n−メチルピロリジノン、N,N'−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等である。また、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物でも良い。
図3は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池の一例の概要構成を示す断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池20は、正極21と、負極22とが電解質層23を介して対向配置されて成る。
正極21は、本発明の電極材料を含む正極活物質層21aと、正極集電体21bとから構成されている。そして、正極活物質層21aは、正極集電体21bの電解質層23側の面に施されている。
負極22は、負極活物質層22aと、負極集電体22bと、から構成されており、負極活物質層22aが負極集電体22bの電解質層23側の面に施されている。
図4は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池の他の一例の概要構成を示す断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池30は、正極31と負極32とが、セパレータ33を介して交互に複数積層された電極ユニット34を備えている。そして、電極ユニット34の両側の最外層(図の上下の最外層)には、セパレータ33を介してリチウム極35が配置されている。リチウム極35は、例えば、金属リチウム35aが、リチウム極集電体35b上に設けられる構成をとっている。リチウム極集電体35bは、多数の孔(貫通孔)が形成されたいわゆる多孔質体に形成されている。そして、リチウム極35から溶出したリチウムイオンは、負極32にプレドープされるようになっている。
正極31は、本実施の形態にかかる電極材料を含む正極活物質層31aが、正極集電体31bの両面に設けられて構成されている。正極集電体31bは、リチウム極集電体35bと同様に多孔質体になっている。
同様に、負極32は、負極活物質層32aが負極集電体32bの両面に設けられて構成されている。なお、負極集電体32bは多孔質体になっている。また、セパレータ33は、電解液、正極活物質、負極活物質等に対して耐久性があり、通気孔を有するポリオレフィンの多孔質体等により形成されている。
また、複数の正極集電体31bがリード36を介して互いに接続されている。同様に、複数の負極集電体32b及びリチウム極集電体35bがリード37を介して互いに接続されている。
リチウムイオン二次電池30は、上述の電極ユニット34が、図示しないラミネートフィルムでパッケージングされ、その内部に電解液が浸されることで構成されている。
また、リチウムイオン二次電池の構成は、図3及び図4に示した形態に限定されるものではなく、例えば、金属リチウムを負極として設け、正極ヘリチウムイオンをドープした後、負極を入れ替える方式のものであってもよい。
なお、上記実施の形態では、Vに添加されるアルカリ金属Mとして、カリウムを用いたが、これに限られるものではない。アルカリ金属Mは、イオン半径の比較的大きな元素を用いれば結晶構造のさらなる安定性を確保することができ、一方で、イオン半径の比較的小さな元素を用いれば初期容量のさらなる増加を図ることができるものと考えられる。特に、アルカリ金属Mとしては、カリウム以外に、リチウムやナトリウムを用いることが好適である。
本発明に係る電極材料におけるバナジウム系複合酸化物では、アルカリ金属Mの構成比(上記xの値)を制御することで、初期容量の大きさと結晶構造の安定性の調整をとることができる。具体的には、アルカリ金属Mの構成比を少なくすることで、本来カリウムイオンが存在するサイトにもリチウムイオンが挿入可能になることと、上記電荷の移動抵抗をより低下させることにより、初期容量の向上を図ることができる。なお、アルカリ金属Mの構成比を増加させることで、バナジウム酸化物の層間がより確実に確保されることとなり、結晶構造のさらなる安定化が実現される。
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
[正極の製造]
原料としてKNO及びNHVOの粉末を準備し、これら粉末を、KNO/NHVOのモル比が0.05となるように配合した。そして、配合した粉末5gを用いて、酸素濃度100%の酸素雰囲気下で、昇温温度10K/分の条件で300℃まで昇温し、その後、温度を維持して5時間熱処理を行うことで固相反応させ、正極材料粉末Aを得た。
ここで、X線回折装置により上記正極材料粉末Aの結晶構造を解析したところ、何れの粉末に対しても図5に示すように、2θ=10〜15°の間に001面に対応する最も強いピークが得られた。このことから、正極材料粉末Aは、主としてKVの結晶相を有していることがわかった。
また、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光装置により、正極材料粉末AのKとVの含有量を測定し、元素比K/Vを求めたところ、0.05となることを確認した。すなわち、X線回折とICP分析結果より、正極材料粉末Aは、全体組成がK0.15であるカリウムバナジウム酸化物を含むことを確認した。
そして、正極粉末材料Aについて、その90重量%を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むバインダー5重量%と、導電性カーボンブラック5重量%と混合し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用いてスラリーした。その後、スラリーを、多孔密度が、2g/cmとなるように均一に塗布して成型し、24×36mm四方に裁断して、上記正極粉末材料Aに対応する正極Aを得た。
[負極の作製]
グラファイトと、バインダーとしてPVDFとを、重量比94:6で混合し、NMPで希釈したスラリーを調製した。このスラリーを、片面当たりの合材密度1.5mg/cmとなるように、貫通孔を有する銅製集電体両面または片面に均一に塗布したものを成型し、26×38mm四方に裁断して負極とした。
[電池の作製]
上述の工程により正極Aを12枚作成と負極12枚(内片面塗布2枚)とを、セパレータとしてのポリオレフィン系微多孔膜を介して積層した。なお、片面塗布の負極2枚は最外層に塗布した。そして、さらにセパレータを介して、ステンレス多孔箔に金属リチウムを貼り付けたリチウム極を最外層に配置して、正極A、負極、リチウム極およびセパレータからなる電極積層ユニットを作製した。
この電極積層ユニットをアルミニウムのラミネートフィルムでパッケージングし、ホウフッ化リチウム(LiBF)を1モル/Lで溶解したエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/3(重量比)の電解液を注入した。これにより、リチウムイオン二次電池Aを組み立てた。
[初期放電容量の測定]
作製したリチウムイオン二次電池Aを、20日間放置した後、1セルを分解した。金属リチウムはいずれも完全に消失していたことから、必要量のリチウムイオンが予め負極に担持吸蔵、すなわちプレドープされたことが確認された。
また、他の1セルの電池を用いて、0.1C放電にて、電池容量の指標としての活物質あたりの初期放電容量(mAh/g活物質)を測定した。リチウムイオン二次電池Aの初期放電容量は活物質あたり396mAh/gであった。
[放電特性の調査]
更に、他の一セルの電池を用いて放電特性を調査した。放電特性は容量Q(時間)の経過に伴う電圧の値を測定することで得られる。本実施例では、1回目の充電後(1サイクル目)に測定を行い、放電後の2回目の充電後(2サイクル目)に測定を行った。図7(a)に得られた放電曲線を示す。図から明確に理解されるように、本実施例では、1サイクル目と2サイクル目において放電挙動がほぼ一致した。
また、図7(b)には、微分容量/電位(dQ/dV)曲線を示している。図から理解されるように、dQ/dVの曲線の外形も1サイクル目と2サイクル目とでほぼ一致している。
なお、比較のため、図10(a)には、公知のVを含む正極材料を用いて作成したリチウムイオン二次電池Dにおける放電曲線を示し、図10(b)には、このリチウムイオン二次電池Dにおける微分容量/電位(dQ/dV)を示す。図から理解されるように、1サイクル目と2サイクル目において放電の挙動が異なっている。これは、電池Dの結晶構造の安定性が完全ではなく、充放電による結晶構造の変化が起こり、特に、容量低下が加速していることを示している。図10(b)におけるdQ/dVの曲線の外形も1サイクル目と2サイクル目の形状が大きくことなっている。
これに対して、本実施例のリチウムイオン二次電池Aにおける放電曲線は、上述のように、1サイクル目と2サイクル目とで放電曲線の形状がほとんど変化していない。従って、リチウムイオン二次電池Aにおいては、結晶構造が極めて安定的で、充放電による崩壊がほとんど起こっていないものと考えられ、サイクル特性の向上が図られる。
[交流インピーダンス測定による正極材料の構造解析]
他の1セルのリチウムイオン二次電池Aに対して充電及び放電を2回行い(すなわち、2サイクル後)、該電池Aを充電状態として、インピーダンス測定装置を用いて交流インピーダンス測定を行った。印加電圧を3.5Vとして、周波数の測定範囲は、0.1Hz〜100kHzとした。図9に、インピーダンス測定の結果を表すグラフを示す。該グラフでは、横軸Z′が、インピーダンスの実数成分を示し、縦軸Z″が、インピーダンスの
虚数成分示し、各プロットは周波数を示すいわゆるCole−Coleプロットである。
なお、リチウムイオン二次電池Aの測定結果は、菱形のプロットで示している。図示のように、バルク抵抗成分は約3.2Ωであった。後述の実施例2,3に比べて低い。つまり、KNO/NHVOのモル比が小さいほど、リチウムイオン14のバナジウム酸化物の層間における移動抵抗が低下していることが理解される。
[X線解析]
未充電の1セルの電池Aを分解して正極材料Aに対してX線回折装置による結晶構造の解析を行い、一方で他の1セルの電池Aに対して1回充放電(1サイクル)を行った後、これを分解して正極材料Aに対して上記X線回折装置による結晶構造の解析を行った。図8には、上記充放電前の正極材料AのX線パターンと、充放電後の正極材料AのX線パターンを示す。図から明らかなように、正極材料Aは、充放電前と充放電後において略同形のパターンを示している。これは、充放電前後において、結晶相の変化がほとんど無いということを意味している。従って、本発明にかかるリチウムイオン二次電池Aでは、充放電による結晶構造の崩壊がほとんど起こらず、極めて良好なサイクル特性を備える。
(実施例2)
上記原料のKNO及びNHVOの粉末を、KNO/NHVOのモル比が0.15となるように配合した点以外は、実施例1と同様の処理を行い、正極粉末材料B、及びこれを用いたリチウムイオン二次電池Bを得た。正極粉末材料BにおけるK/Vの値は、0.15であり、リチウムイオン二次電池Bの初期放電容量は、活物質あたり347mAh/gであった。また、交流インピーダンス測定によるリチウムイオン二次電池Bのバルク抵抗は、5.9Ωであった(図9の四角形のプロットのグラフ参照)。リチウムイオン二次電池Bの初期容量は、リチウムイオン二次電池Aの初期容量と比較して若干低くなっているものの、正極材料中のカリウムの含有量が増加していることから、結晶構造はより安定しており充放電による崩壊がより確実に防止されるものと考えられる。
(実施例3)
上記原料のKNO及びNHVOの粉末を、KNO/NHVOのモル比が0.30となるように配合した点以外は、実施例1と同様の処理を行い、正極粉末材料C、及びこれを用いたリチウムイオン二次電池Cを得た。正極粉末材料CにおけるK/Vの値は、0.30であり、リチウムイオン二次電池Cの初期放電容量は、活物質あたり296mAh/gであった。また、交流インピーダンス測定によるリチウムイオン二次電池Cのバルク抵抗は、6.0Ωであった(図9の三角形のプロットのグラフ参照)。リチウムイオン二次電池Cの初期容量は、リチウムイオン二次電池Bの初期容量と比較して若干低くなっているものの、正極材料中のカリウムの含有量がさらに増加していることから、結晶構造はより一層安定しており充放電による崩壊がさらに確実に防止されるものと考えられる。特に、リチウムイオン二次電池Cについては、極めて安定的な結晶構造を追及したにもかかわらず、初期容量の値は、十分に実用に耐えうるものである。
(比較例1)
原料としてNaOH及びNHVOの粉末を準備し、これら粉末を、NaOH/NHVOのモル比が0.05となるように配合した。そして、配合した粉末5gを用いて、酸素雰囲気下で、昇温温度10K/分の条件で300℃まで昇温し、300℃まで昇温した後、温度を維持して5時間熱処理を行うことで固相反応させ、正極材料粉末αを得た。Na/Vの値は、0.05であった。
ここで、X線回折装置により上記正極材料粉末αの結晶構造を解析したところ、何れの粉末に対しても、2θ=10〜15°の間に002面に対応する最も強いピークが得られ、2θ=25〜30°の間に11−1面に対応する2番目に強いピークが得られた。このことから、正極材料粉末αは、それぞれNa0.33或いはNa1.015の結晶相を有していることがわかった。
また、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光装置により、正極材料粉末αのNaとVの含有量を測定し、元素比Na/Vを求めたところ、0.05となることを確認した。すなわち、X線回折とICP分析結果より、正極材料粉末αは、全体組成がNa0.10であるナトリウムバナジウム酸化物を含むことを確認した。
そして、正極粉末材料αについて、その90重量%を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むバインダー5重量%と、導電性カーボンブラック5重量%と混合し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用いてスラリーした。その後、スラリーを、多孔密度が、2g/cmとなるように均一に塗布して成型し、24×36mm四方に裁断して、上記正極粉末材料αに対応する正極αを得た。
そして、他の処理にかかる工程は全て実施例1と同様に行い、この正極材料粉末αを用いたリチウムイオン二次電池αを得た。
得られたリチウムイオン二次電池αについて、初期放電容量は活物質あたり335mAh/gであった。
(比較例2)
原料としてのNaOH及びNHVOの粉末の配合を、NaOH/NHVOのモル比が0.15となるように配合した。その後、比較例1における原料の混合粉末に対して行ったと処理と同様の処理を行い、正極材料粉末βを得た。Na/Vの値は、0.15であった。X線回析装置により、この正極材料粉末βもNa0.33或いはNa1.015の結晶相を有していることがわかった。更に、ICP発光分光装置によるNa/Vの測定値は、0.15であることを確認した。
その後、正極材料粉末βに対して、比較例1の正極粉末材料βに対する処理と同様の処理を行い、リチウムイオン二次電池βを得た。得られたリチウムイオン二次電池βの初期放電容量は活物質あたり268mAh/gであった。
以上により、実施例1〜3と比較例1及び2に対する初期容量の測定結果を表1に示す。
Figure 2012155883
上記表に示された結果から明らかなように、実施例1〜3にかかる正極粉末材料では、バナジウム含有量に対するアルカリ金属の含有量、すなわち、K/Vの値と、比較例1及び2においてこの値に対応するNa/Vの値が等しい場合(ともに、0.05又は0.15をとる場合)を比較して明らかなように、初期電池容量が高くなっている。すなわち、実施例は、比較例とアルカリ金属の欠損の度合いが同程度であっても、より高容量であることから、高い初期電池容量を追及することができる。
このことは、特に、K/Vの値が0.3である正極材料Cを用いて作成されたリチウムイオン二次電池Cが、Na/Vの値が0.15である正極材料βを用いて作成されたリチウムイオン二次電池βと比較しても、より大きい初期容量値を示すことからも明らかである。
そして、以上の結果から、K/Vの値を0.05より小さい正極材料を用いることで、さらに高容量(例えば、400mAh/g以上)のリチウムイオン二次電池を得ることができると考えられる。
一方で、図9に示された交流インピーダンス測定の結果を参照すると、K/Vの値が大きくなるにつれてバルク抵抗が大きくなっていることが理解される。これは、バナジウム結晶の層間のカリウムイオンが増加することでリチウムイオンの移動自由度が低下したためであると考えられる。このように、カリウムイオンが増加することで、結晶相がより安定的に保持されその崩壊がより確実に防止されるものと考えられる。従って、K/Vの値が0.3より大きい正極材料を用いることで、該材料がさらに安定な結晶構造を備え、より良好なサイクル特性を備えたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、リチウムイオン二次電池の正極材料として、アルカリ金属としてカリウムを添加したカリウムバナジウム酸化物を含むものについて説明したが、これに限られるものではなく例えば、ナトリウムやリチウム等の他のアルカリ金属をバナジウム酸化物に添加して生成されるバナジウム系複合酸化物を、電池の正極材料として用いても良い。
特に、上記実施の形態において、説明したように、バナジウム酸化物の層間にアルカリ金属イオンが挟みこまれてなる結晶構造モデルの説明(図1及び図2参照)は、リチウムイオン二次電池における伝導イオンであるリチウムイオンのイオン半径以上のイオン半径を有するアルカリ金属であれば、カリウムイオンに限らず当然に成り立つものである。
また、本発明にかかる電極材料は、リチウムイオン二次電池に限られるものではなく、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなど、他の種々の蓄電デバイスに適用しても良い。
更に、上記実施の形態では、本発明にかかる電極材料を正極材料として用いているが、負極材料として用いても良い。
10 結晶構造
12 層
14 リチウムイオン
16 カリウムイオン
20 リチウムイオン二次電池
21 正極
21a 正極活物質
21b 正極集電体
22 負極
22a 負極活物質
22b 負極集電
23 電解質層

Claims (8)

  1. 化学量論組成MV(Mはアルカリ金属を示す)の結晶相を有し、M(0<x<1)で表わされるバナジウム系複合酸化物を含むことを特徴とする電極材料。
  2. 前記バナジウム系複合酸化物におけるxの値が、0.15≦x≦0.9を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
  3. アルカリ金属Mが、Li、Na、及びKからなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極材料。
  4. 請求項1〜3の何れか1項に記載の電極材料を製造する方法であって、
    原料物質として、アルカリ金属Mを含む硝酸塩とメタバナジン酸アンモニウムを用いて製造することを特徴とする電極材料の製造方法。
  5. 前記硝酸塩と前記メタバナジン酸アンモニウムとの固相反応により前記バナジウム系複合酸化物を合成することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記固相反応が、酸素雰囲気下における280℃〜320℃の範囲の温度の熱処理を含むことを特徴とする請求項5に記載の電極材料。
  7. 請求項1〜3の何れか1項に記載の電極材料を使用して製造された蓄電デバイス。
  8. 請求項1〜3の何れか1項に記載の電極材料を使用した正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
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