JP2012154969A - サーモクロミック体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側において高い透過率を示すサーモクロミック体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】サーモクロミック体1は、基体20上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜11と、酸化亜鉛系薄膜11上に形成された二酸化バナジウム系薄膜12と、二酸化バナジウム系薄膜12上に形成された酸化ケイ素系薄膜13とを備え、400nm以下である波長λに対し、酸化亜鉛系薄膜11の光学膜厚はλ/4であり、二酸化バナジウム系薄膜12の光学膜厚はλ/2であり、酸化ケイ素系薄膜13の光学膜厚はλ/4である。
【選択図】図1

Description

本発明は、サーモクロミック体及びその製造方法に関し、特に、金属下地膜を有するサーモクロミック体及びその製造方法に関する。本発明のサーモクロミック体は、従来よりも自然な透過光が得られ、例えば、熱線遮蔽ガラス等に適用可能である。
二酸化バナジウムは、サーモクロミック現象を示す材料として知られている。サーモクロミック現象とは、温度変化によって光学特性が可逆的に変化する現象をいう。二酸化バナジウムは、サーモクロミック現象として、約68℃で単斜晶系から正方晶系ルチル構造に相転移するのに伴って赤外域における光反射率が大きく増加する。
このように、室温近傍において二酸化バナジウムの光学特性が変化する性質に着目し、従来から二酸化バナジウムを熱線遮蔽材料として利用する試みがなされている。二酸化バナジウムの相転移は、可逆的な半導体−金属転移であり、特許文献1に記載のタングステン又は特許文献2に記載のモリブデン等を少量添加することで、相転移温度を室温近傍又はそれ以下の温度にまで低下させることが可能である。
近年、環境意識の高まりとともに、低炭素社会を目指した自然エネルギーの有効利用が活発に進められている。例えば建築物においては、窓ガラス等の開口部を通じて、夏には熱の流入、冬には熱の流出が少なからず生じ、冷暖房に使用されるエネルギーが増加する一因となっている。
このような課題を解決する方法の一つとして、室温近傍でサーモクロミック現象が生じるように調整された二酸化バナジウム系材料を窓ガラスにコーティングすることにより、無駄な熱の流出入を防止し、結果として冷暖房の省エネルギーを実現させることが検討されている。
単斜晶系結晶構造を有する良質な二酸化バナジウム系薄膜の形成は、一般に難易度の高い技術とされている。例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように、バナジウム金属又はバナジウム合金のターゲットを用いて、反応性スパッタリング法によって二酸化バナジウム系薄膜を形成するには、スパッタリング雰囲気中の酸素比率を極めて限られた範囲に制御する必要がある。
このような課題を解決する方法として、例えば特許文献3には、遷移金属の下地膜を形成し、これにより、幅広い酸素ガス流量比の範囲で二酸化バナジウム膜を成膜するサーモクロミック体の製造方法が提案されている。このサーモクロミック体の製造方法は、遷移金属の下地膜によってスパッタリング雰囲気の酸素ガス流量比の範囲を拡大することができる。しかしながら、遷移金属の下地膜に起因する大きな着色が発生するため、製造されるサーモクロミック体の可視光透過率は、低下してしまうといった問題がある。
二酸化バナジウム系薄膜は、可視光領域において光吸収を示す。このため、二酸化バナジウム系薄膜は、極力薄い膜厚でサーモクロミック特性が発揮されるように優れた結晶性が要求される。しかしながら、二酸化バナジウム系薄膜をガラス基板上へ直接成膜する場合には、必要な一定値以上の膜厚まで厚くしなければVO相が主成分の膜が得られない。
非特許文献1には、基体温度400℃において、V酸化物ターゲットを用いた反応性のRFマグネトロンスパッタリングによる成膜を実施した場合、膜厚200nm程度では、V相が主成分の膜となり、膜厚500nmを超えるとVO相が主成分となることが記載されている。また、非特許文献1には、V酸化物ターゲットを用いたAr−5%H雰囲気での反応性のRFマグネトロンスパッタリングによる成膜を実施した場合、膜厚100nm以下では非晶質の膜となり、膜厚400nmを超えるとVO相の膜が得られることが記載されている。実際、可視光領域での光吸収を軽減するためには、膜厚を100nm以下にする必要があるため、ガラス基板に対する直接成膜の実用化は、現状では困難である。
このような課題に対し、例えば非特許文献2には、ガラス基板上に30nm以下のZnOを下地膜として形成することにより、非特許文献1に記載の方法と同様のプロセスで100nm以下の膜厚でもVO相の膜形成が可能であることが記載されている。この非特許文献2に記載の方法で用いられるZnOの下地膜は、特許文献3に記載の方法で用いた遷移金属の下地膜と比較して可視光の光吸収が小さい点においても優れている。
このようにZnOを下地膜とする方法によって、膜厚100nm以下の薄い膜でも結晶性の良好なVO相の膜を形成することができる。しかしながら、この場合、基体上にZnO下地膜、酸化バナジウム薄膜を順次形成した2層積層膜となり、酸化バナジウム薄膜が最表面層となる。非特許文献3に記載されているように、VO相からなる酸化バナジウム薄膜は、屈折率が高いため、そのまま最表面層に用いると可視光に対する反射率が高くなってしまうといった課題があった。
これを解決する方法として、非特許文献4に記載されている方法では、最表面の反射防止を目的とし、SiO層を最表面層として、その下にVO層を設けた2層積層膜を形成することで、赤外波長域のサーモクロミック性能を維持しつつ、可視光波長域の透明性の向上を実現している。しかしながら、波長400〜800nmの可視光波長域の全域において、透明性が実現されているわけではなく、特に短波長側である波長400〜500nmの青色光がほとんど透過しない。このため、膜の透過色が黄色味を帯びてしまい、サーモクロミックガラス等による実用を考慮した場合には、視認性について課題が残されていた。
以上の点から、ZnOを下地膜とし、この下地膜上にVO層を形成し、さらにVO層上に最表面層としてSiO層を形成してなる3層積層膜が有効であることが推察される。しかしながら、実際に3層積層膜を形成した例はなく、また、非特許文献4の残された課題の一つである、短波長側である波長400〜500nmの青色光がほとんど透過しないといった課題についても、3層積層膜に関しては検討されてはいない。
特開平7−331430号公報 特開平8−3546号公報 特開平2000−137251号公報
Jpn.J.Appl.Phys.Vol.39(2000)pp.6016−6024 Jpn.J.Appl.Phys.Vol.42(2003)pp.6523−6531 Jpn.J.Appl.Phys.Vol.43(2004)pp.186−187 Thin Solid Films Vol.365(2000)pp.5−6
本発明は、サーモクロミック機能を有する3層積層膜の各層の膜厚を適宜制御することによって、可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側において高い透過率を示すサーモクロミック体及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前述した課題を解決するために鋭意検討した結果、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、結晶性が良好なVO相からなる二酸化バナジウム系薄膜と、最表面層としての酸化ケイ素系薄膜とが順次積層されてなる3層積層膜を備えたサーモクロミック体において、各層の膜厚を適宜制御することによって、可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側において、高い透過率を実現することが可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、第1の本発明は、基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、400nm以下である波長λに対し、酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚はλ/4であり、二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第2の本発明は、第1の本発明において、波長λが、200〜400nmであることを特徴とするサーモクロミック体である。
第3の本発明は、第1又は第2の本発明において、酸化亜鉛系薄膜が、酸化亜鉛からなる薄膜、又は、酸化亜鉛に、アルミニウムと、ガリウムと、硼素と、インジウムとからなる元素群から選択される1種以上の元素を添加してなる薄膜であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第4の本発明は、第1乃至第3の何れか1の本発明において、二酸化バナジウム系薄膜が、二酸化バナジウムからなる薄膜、又は、二酸化バナジウムに、タングステンと、モリブデンと、タンタルと、ニオブとからなる金属元素群から選択される1種以上の金属元素を添加してなる薄膜であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第5の本発明は、第1乃至第3の何れか1の本発明において、二酸化バナジウム系薄膜が、二酸化バナジウムにタングステンを添加してなる薄膜であり、二酸化バナジウム系薄膜中のタングステンの含有量は、W/(V+W)で表わされる原子数比で0.001〜0.1であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第6の本発明は、第1乃至第3の何れか1の本発明において、二酸化バナジウム系薄膜が、二酸化バナジウムにモリブデンを添加してなる薄膜であり、二酸化バナジウム系薄膜中のモリブデンの含有量が、Mo/(V+Mo)で表わされる原子数比で0.001〜0.1であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第7の本発明は、基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、400nm以下である波長λに対し、λは、λよりも大きく700nm以下であり、酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚はλ/4であり、二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第8の本発明は、基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、400nm以下である波長λに対し、λは、λよりも大きく700nm以下であり、酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚はλ/4であり、二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第9の本発明は、基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、400nm以下である波長λに対し、λ、λは、何れもλよりも大きく600nm以下であり、酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚は、λ/4であり、二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体である。
第10の本発明は、第1乃至第9の何れか1の本発明のサーモクロミック体からなる熱線遮蔽ガラスである。
第11の本発明は、基体上に下地膜として酸化亜鉛系薄膜を形成し、酸化亜鉛系薄膜上に二酸化バナジウム系薄膜を形成し、二酸化バナジウム系薄膜上に酸化ケイ素系薄膜を形成し、400nm以下である波長λに対し、酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚をλ/4とし、二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚をλ/2とし、酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚をλ/4とすることを特徴とするサーモクロミック体の製造方法である。
本発明によれば、3層積層膜を備えたサーモクロミック体において3層積層膜の各層の膜厚を適宜制御することによって、可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側において高い透過率を得ることが可能である。具体的に、波長λを400nm以下にすることにより可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側において高い透過率を示す。また、本発明によれば、第1の薄膜層である酸化亜鉛系薄膜及び/又は第3の薄膜層である酸化ケイ素系薄膜を光学膜厚λ/4より厚くすることにより、さらに高い透過率を示す。
3層積層膜を備えたサーモクロミック体の模式的な断面図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温及び80℃における透過率(λ0=300nm)を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における透過率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における反射率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における透過率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における反射率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における透過率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における反射率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における透過率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における反射率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における透過率を示す図である。 3層積層膜を備えたサーモクロミック体の室温における反射率を示す図である。
以下、本発明のサーモクロミック体の実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.サーモクロミック体
2.サーモクロミック体の第1の変形例
3.サーモクロミック体の第2の変形例
4.サーモクロミック体の第3の変形例
5.サーモクロミック体の製造方法
6.サーモクロミック体の適用例
7.実施例
(1. サーモクロミック体)
本実施の形態におけるサーモクロミック体について説明する。図1に示すように、本実施の形態におけるサーモクロミック体1は、基体20上に、下地膜である第1の薄膜層として酸化亜鉛系薄膜11が形成されている。そして、酸化亜鉛系薄膜11上に第2の薄膜層として二酸化バナジウム系薄膜12が形成され、さらに二酸化バナジウム系薄膜12上に第3の薄膜層として酸化ケイ素系薄膜13が形成されている。すなわち、サーモクロミック体1は、基体20上に、酸化亜鉛系薄膜11と、二酸化バナジウム系薄膜12と、酸化ケイ素系薄膜13とからなる3層積層膜10を備えてなる。
そして、サーモクロミック体1は、400nm以下である波長λに対し、酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚はλ/4であり、二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4である。サーモクロミック体1において、波長λと各層の光学膜厚とがこのような相対関係を有することにより、波長λにおいて可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側で高い透過率を得ることが可能である。なお、波長λは、200〜400nmであることが好ましい。
下地膜である第1の薄膜層としての酸化亜鉛系薄膜11は、酸化亜鉛からなる薄膜、又は、酸化亜鉛に、アルミニウムと、ガリウムと、硼素と、インジウムとからなる元素群から選択される1種以上の元素を添加してなる薄膜である。これにより、第1の薄膜層である酸化亜鉛系薄膜11上に形成される第2の薄膜層としての二酸化バナジウム系薄膜12を低い基体温度で結晶性良く形成することが可能となる。すなわち、二酸化バナジウム系薄膜12が100nm以下の極薄の薄膜であっても、高い結晶性を示すことが可能である。
酸化亜鉛系薄膜11が、酸化亜鉛に、アルミニウムと、ガリウムと、硼素と、インジウムとからなる元素群から選択される1種以上の元素を添加してなる薄膜である場合、各元素の含有量は、(Al+Ga+B+In)/(Zn+Al+Ga+B+In)で表わされる原子数比で0.10以下であることが好ましい。この原子数比が0.10を超える場合には、酸化亜鉛系薄膜の結晶性が低く、結果として、二酸化バナジウム系薄膜12を結晶性良く形成することができない。
また、出発原料として酸化物ターゲットを使用し、直流スパッタリング法によって、酸化亜鉛系薄膜11を形成する場合においても、酸化物ターゲットにおける(Al+Ga+B+In)/(Zn+Al+Ga+B+In)で表わされる原子数比が0.10以下であることが好ましい。この原子数比が0.10を超えると、アーキングが起こり易くなるため、直流スパッタリングが困難となる。
また、酸化亜鉛系薄膜11は、透明性が高く可視光の吸収が小さい。そのため、酸化亜鉛系薄膜11の膜厚は、特に制限されないが、光学膜厚でλ-/4の整数倍であることが好ましい。
第2の薄膜層としての二酸化バナジウム系薄膜12は、二酸化バナジウムからなる薄膜、又は、二酸化バナジウムに、タングステンと、モリブデンと、タンタルと、ニオブとからなる金属元素群から選択される1種以上の金属元素を添加してなる薄膜である。
第2の薄膜層である二酸化バナジウム系薄膜12は、単斜晶の空間群P2/cで表されるVO相からなる結晶膜である。このVO相は、転移点を超えると空間群P4/mnmで表される正方晶のVO相に変態することにより、サーモクロミック特性を示す。
特に、転移点を制御するためには、タングステン、又はモリブデンが含まれることが好ましい。タングステンの含有量は、W/(V+W)で表わされる原子数比で0.001〜0.1であることが好ましく、0.01〜0.02であることがより好ましい。モリブデンの含有量は、Mo/(V+Mo)で表わされる原子数比で0.001〜0.1であることが好ましく、0.02〜0.045であることがより好ましい。なお、不可避不純物の含有量は、このような原子数比で特定されるとは限らない。
二酸化バナジウム系薄膜12は、優れたサーモクロミック特性が得られるという観点から、転移点以下の温度範囲において、JCPDSカードの44−0252に記載の空間群P2/cで表される単斜晶系の結晶構造をとる。二酸化バナジウム系薄膜12は、単斜晶系結晶構造をとることによって、前記金属元素群を添加しない場合には、転移温度68℃において半導体−金属相転移が起こり、JCPDSカードの44−0253に記載の空間群P4/mnmで表される正方晶系ルチル型結晶構造に転移する。前記金属元素群を適量含有した場合には、68℃の転移温度を室温近傍に制御することが可能となる。
二酸化バナジウム系薄膜12は、光吸収が大きい。このため、二酸化バナジウム系薄膜12の膜厚は、薄い方が好ましく、光学膜厚でλ/2の整数倍であることが好ましい。なお、二酸化バナジウム系薄膜12がサーモクロミック膜として効果的に機能するために、波長λは、400nm以下とする。より好ましくは、200〜400nmとする。波長λを200〜400nmとすることにより、可視光の波長域において最大(極大)透過率及び最小(極小)反射率が良好に得られるように制御することが可能となる。
二酸化バナジウム系薄膜12は、二酸化バナジウムからなることにより、屈折率が高い(非特許文献3参照)。一方、酸化ケイ素系薄膜13は、屈折率が低い。このため、酸化ケイ素系薄膜13は、二酸化バナジウム系薄膜12の高い屈折率に起因する表面の光反射を低減させることを目的として、サーモクロミック体の最表面に形成される。酸化ケイ素系薄膜13が、二酸化バナジウム系薄膜12上に形成されることにより、サーモクロミック体1の最表面における光の反射率を効果的に低減させることが可能となる。
酸化ケイ素系薄膜13は、二酸化ケイ素(SiO)薄膜が好ましいが、これに限定されず、例えば、光吸収が顕著に生じない程度の酸素欠損を有するSiO2−x薄膜であってもよい。なお、酸化ケイ素系薄膜の材料は、結晶質であっても非晶質であってもよい。
酸化ケイ素系薄膜13は、透明性が高く可視光の吸収が小さい。このため、酸化ケイ素系薄膜13の膜厚は特に制限されないが、基本的には光学膜厚でλ/4の整数倍であることが好ましい。
サーモクロミック体1は、このような3層積層膜10を備えることにより、可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側において高い透過率を得ることが可能である。
サーモクロミック体1は、可視光領域における透過率の向上を目的として構成されたものである。具体的に、サーモクロミック体1は、最大透過率が50%以上であり、波長500nmにおける透過率が40%以上であることが好ましい。
一般に、可視光領域における透過率を向上させる方法としては、可視光領域における反射率を下げることが行われる。反射防止構造は、各層が光吸収が小さく、透明性が高い膜によって構成された3層積層膜等の多層膜に適用される。この場合、反射防止効果の中心波長をλとすると、基体側から第1の薄膜層となる低屈折率層の光学膜厚をλ/4、第2の薄膜層となる高屈折率層の光学膜厚をλ/2、第3の薄膜層となる低屈折率層又は中間屈折率層の光学膜厚をλ/4に設計する。この場合、可視光領域における最大透過率を示す波長が概ね一致するため、可視光領域における透過率を向上させるためには、視感度の高い波長550nmを中心波長λに設定すればよい。
サーモクロミック体1は、このような通常の反射防止構造と同様の膜構造を備える。しかしながら、サーモクロミック体1は、可視光の吸収が比較的大きい二酸化バナジウム系薄膜12を第2の薄膜層として備えるため、反射防止効果の中心波長と可視光領域における最大透過率を示す波長が一致しない。そのため、波長λを変化させながら可視光領域におけるサーモクロミック体1の透過率の変化を調べることで良好な透過率となる波長λを決定する。波長400〜500nmの可視光領域短波長側である青色光領域の透過率を向上させるために、波長λは、400nm以下とする。例えば波長λは、200〜400nmとする。
波長λが400nmを超える場合、例えば波長λが500nmである場合、波長660nmにおいて可視光領域における最大透過率は、約55%を示すが、非特許文献4に記載の技術と同様に、波長400〜500nmの可視光領域短波長側の光の吸収が大きくなり、具体的には、波長500nmにおける透過率が約34%となる。
以下、本実施の形態におけるサーモクロミック体の変形例について説明する。なお、以下に述べるサーモクロミック体の変形例は、サーモクロミック体1と基本的に同様の構成を備える。このため、サーモクロミック体1と同一の構成について同一の符号を付して説明を省略する。
(2.サーモクロミック体の第1の変形例)
本実施の形態におけるサーモクロミック体の第1の変形例であるサーモクロミック体1Aは、下地膜である第1の薄膜層としての酸化亜鉛系薄膜11Aと、酸化亜鉛薄膜11A上に形成された第2の薄膜層としての二酸化バナジウム系薄膜12と、二酸化バナジウム系薄膜12上に形成された第3の薄膜層としての酸化ケイ素系薄膜13とからなる3層積層膜10Aを基体20上に形成してなる。
3層積層膜10Aにおいて、上述したように、可視光波長域の短波長側の透過率を向上させるために、波長λは、400nm以下とする。例えば波長λを200〜400nmとして高い透過率を得ることができる。
サーモクロミック体1Aにおいて、光学膜厚がλ/2である二酸化バナジウム系薄膜12、光学膜厚がλ/4である酸化ケイ素系薄膜13を備える点は、サーモクロミック体1と同一である。但し、サーモクロミック体1Aは、波長λに対し、λをλよりも大きい値とし、上述の酸化亜鉛系薄膜11に替え、光学膜厚がλ/4である酸化亜鉛系薄膜11Aを備える。λは、λよりも大きく、700nm以下とする。
このように、サーモクロミック体1Aは、波長λ≦400nmにおいて、二酸化バナジウム系薄膜12、酸化ケイ素系薄膜13の光学膜圧をそれぞれλ/2、λ/4に固定したまま、酸化亜鉛系薄膜11Aの光学膜厚をλ/4より厚いλ/4とすることにより、可視光の透過率をより高めることが可能となる。
光学膜厚を厚くすることで可視光透過率をより高めることが可能である。しかしながら、可視光吸収の大きい二酸化バナジウム系薄膜12を含む3層積層膜において、可視光透過率をより高めるためには、透明薄膜膜のみからなる3層積層膜とは異なり、反射防止効果を高め過ぎることはむしろ好ましくない。このため、上述したように、λは、700nm以下とする。
(3.サーモクロミック体の第2の変形例)
本実施の形態におけるサーモクロミック体の第2の変形例であるサーモクロミック体1Bは、基体20上に形成された下地膜としての酸化亜鉛系薄膜11と、酸化亜鉛系薄膜11上に形成された第2の薄膜層としての二酸化バナジウム系薄膜12と、二酸化バナジウム系薄膜12上に形成された第3の薄膜層としての酸化ケイ素系薄膜13Bとからなる3層積層膜10Bを備える。
この3層積層膜10Bにおいて、上述したように、可視光波長域の短波長側の透過率を向上させるために、波長λは、400nm以下とする。波長λは、例えば200〜400nmとする。
サーモクロミック体1Bにおいて、光学膜厚がλ/4である酸化亜鉛系薄膜11、光学膜厚がλ/2である二酸化バナジウム系薄膜12を備える点は、サーモクロミック体1と同一である。但し、サーモクロミック体1Bは、波長λに対し、λをλよりも大きい値とし、上述の酸化ケイ素系薄膜13に替え、光学膜厚がλ/4である酸化ケイ素系薄膜13Bを備える。サーモクロミック体1Bにおいても、上述したように、反射防止効果を高めすぎることを防止するといった理由から、λは、700nm以下とする。
このように、サーモクロミック体1Bは、波長λ≦400nmにおいて、酸化亜鉛系薄膜11、二酸化バナジウム系薄膜12の光学膜厚をそれぞれλ/4、λ/2に固定し、第3の薄膜層13Aの光学膜厚をλ/4より厚いλ/4とすることにより、可視光の透過率をより高めることが可能となる。
(4.サーモクロミック体の第3の変形例)
本実施の形態におけるサーモクロミック体の第3の変形例であるサーモクロミック体1Cは、基体20上に形成された下地膜である第1の薄膜層としての酸化亜鉛系薄膜11Aと、酸化亜鉛系薄膜11A上に形成された第2の薄膜層としての二酸化バナジウム系薄膜12と、二酸化バナジウム系薄膜12上に形成された第3の薄膜層としての酸化ケイ素系薄膜13Bとからなる3層積層膜10Cを備える。
この3層積層膜10Cにおいて、上述したように、可視光波長域の短波長側の透過率を向上させるために、波長λは、400nm以下とする。波長λは、例えば200〜400nmとする。
サーモクロミック体1Cにおいて、光学膜厚がλ/2である第2の薄膜層12を備える点は、サーモクロミック体1と同一である。但し、サーモクロミック体1Cは、波長λに対し、λ,λを何れもλよりも大きい値とし、上述の第1の薄膜層11及び第3の薄膜層13に替え、光学膜厚がλ/4である酸化亜鉛系薄膜11A及び光学膜厚がλ/4である酸化ケイ素系薄膜13Bを備える。このサーモクロミック体1Cにおいても、上述した反射防止効果を高めすぎることを防止するといった理由から、λ,λは、何れも600nm以下とする。
このように、サーモクロミック体1Cは、波長λ≦400nmにおいて、二酸化バナジウム系薄膜12の光学膜厚をそれぞれλ/2に固定し、酸化亜鉛系薄膜11A、酸化ケイ素系薄膜13Bの光学膜厚を何れもλ/4より厚いλ/4,λ/4とすることにより、可視光の透過率をより高めることが可能となる。
なお、以上のように、第2の薄膜層の膜厚を固定し、第1の薄膜層及び/又は第3の薄膜層の膜厚を厚くする膜厚制御は、第1の薄膜層及び/又は第3の薄膜層の膜厚を固定して、第2の薄膜層の膜厚を薄くすることと同義である。
(5. サーモクロミック体の製造方法)
サーモクロミック1は、基体20上に、下地膜として酸化亜鉛系薄膜11を形成し、酸化亜鉛系薄膜11上に二酸化バナジウム系薄膜12を形成し、二酸化バナジウム系薄膜12上に酸化ケイ素系薄膜13を形成することにより製造される。
サーモクロミック体1は、基体20上に、従来から知られている成膜方法、すなわち特許文献1に記載のスパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法等の物理的成膜方法、又は、特許文献4に記載のCVD(Chemical Vapor Deposition)法、スプレー法、MOD(Metal Organic Decompositon)法等の化学的成膜方法によって薄膜を順次積層形成することにより製造される。
サーモクロミック体1の製造方法としては、特にスパッタリング法が好ましい。具体的には、直流スパッタリング法、直流パルススパッタリング法、高周波スパッタリング法等が挙げられる。これらの方法の内、特許文献1に記載されているように、二酸化バナジウム系薄膜の形成には、高周波スパッタリング法が一般的に適用される。本実施の形態においても、酸化バナジウム系焼結体ターゲットを用いる場合には、高周波スパッタリング法が特に好ましい。
バナジウム系金属ターゲットを用いる場合には、直流パルススパッタリング法も有用である。直流パルススパッタリング法は、高周波スパッタリング法における一般的な周波数13.56MHzよりも低い数百kHzの周波数を採用したり、印加電流・印加電圧の波形を変化(例えば矩形状に変化)させたりする方法であり、広い意味で直流スパッタリング法に含まれる。
直流パルススパッタリング法は、ターゲットに印加する負電圧を周期的に停止し、その間に低い正電圧を印加して正のチャージングを電子により中和することにより、アーキングを抑制しながら成膜することが可能である。直流パルススパッタリング法は、高周波スパッタリング法のようにインピーダンス整合回路を制御する必要がなく、成膜速度が高周波スパッタリング法よりも速い等の利点がある。
また、直流パルススパッタリング法は、PEM(Plasma Emission Monitor)等と組み合わせて、最適な酸素量を精密制御することにより、二酸化バナジウム系薄膜の形成が可能である。なお、直流スパッタリング法又は直流パルススパッタリング法であっても、高速成膜を実現するためには、何れも導電性ターゲットが必要である。
サーモクロミック体1を各種スパッタリング法で形成する場合には、スパッタリングガスとして不活性ガスと酸素、特にアルゴンと酸素からなる混合ガスを用いることが好ましい。また、スパッタリング装置のチャンバー内を0.1〜5Pa、特に0.2〜0.8Paの圧力として、スパッタリングすることが好ましい。
例えば、2×10−4Pa以下まで真空排気後、アルゴンと酸素からなる混合ガスを導入し、ガス圧を0.2〜0.5Paとし、ターゲットの面積に対する直流電力、すなわち直流電力密度が1〜3W/cm程度の範囲となるよう電力を印加してプラズマを発生させ、プリスパッタリングを実施することができる。このプリスパッタリングを5〜30分間行い、放電状態を安定させた後、必要により基体位置を修正した上でスパッタリング成膜することが好ましい。
所定の温度に基板を加熱して成膜することにより、各層が所望の構造をとる結晶膜を得ることができる。基体温度は、200℃以上500℃以下が好ましい。また、室温近傍の低温で非晶質膜を形成し、その後、非酸化性などの適当な雰囲気における熱処理によって結晶膜としてもよい。
なお、上述のサーモクロミック体1A,1B,1Cも、ここで述べたサーモクロミック体1の製造方法と同一の方法により製造することができる。
(6.サーモクロミック体の適用例)
サーモクロミック体1は、例えば、熱線遮蔽ガラスや、熱線遮蔽フィルムに好適に適用することができる。熱線遮蔽ガラスや熱線遮蔽フィルムは、例えば、基体10としてガラスやフィルムを用い、この基体10上に酸化亜鉛系薄膜からなる下地膜11を形成し、下地膜11上に二酸化バナジウム系薄膜12を形成し、二酸化バナジウム系薄膜12上に酸化ケイ素系薄膜13を形成することにより得られる。このとき、熱線遮蔽ガラスや熱線遮蔽フィルムは、下地膜11と、二酸化バナジウム系薄膜12と、酸化ケイ素系薄膜13との各薄膜層の光学膜厚を制御した薄膜を基体10上に順次積層形成することによって、可視光領域、特に波長400〜500nmの短波長側において高い透過率を得ることが可能な熱線遮蔽フィルム又は熱線遮蔽ガラスとすることができる。
(7.実施例)
以下、本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例にて製造したサーモクロミック体の各薄膜層の薄膜の組成をICP発光分光法によって調べた。各薄膜層の膜厚は、表面粗さ計(テンコール社製Alpha−Step IQ)で測定した。成膜速度は、膜厚と成膜時間から算出した。
膜の生成相は、X線回折装置(フィリップス製X´PertPRO MPD)を用いて、2θ/θ測定によって同定した。
製造したサーモクロミック体の光学特性として、分光光度計(日本分光製V−570及び日立ハイテクノロジーズ製U−4100型)を用いて、室温における透過率と反射率、及び80℃における透過率を測定し、これらの測定データより室温における波長300〜1000nmにおける最大透過率及び最小反射率を算出した。
(実施例1)
基体上に、第1の薄膜層として酸化亜鉛薄膜からなる下地膜を形成し、下地膜上に、第2の薄膜層として二酸化バナジウム薄膜を形成し、さらに、二酸化バナジウム薄膜上に、第3の薄膜層として酸化ケイ素系薄膜を形成した。これにより、基体上に3層積層膜を成膜してなるサーモクロミック体を製造した。製造したサーモクロミック体において、第1の薄膜層の光学膜厚をλ/4、第2の薄膜層の光学膜厚をλ/2、第3の薄膜層の光学膜厚をλ/4とした。実施例1において、波長λは、300nmとした。
具体的には、アーキング抑制機能がない直流電源及び高周波電源を装備したマグネトロンスパッタリング装置(アネルバ製、SPF−530H)の非磁性体ターゲット用カソードに、酸化マグネシウム酸化物焼結体、二酸化バナジウム酸化物焼結体、及び金属ケイ素(シリコン)の3種のスパッタリングターゲットを取り付けて成膜を実施した。基体としては、厚さ1.1mmのコーニング7059ガラス基板を用いた。スパッタリング装置のチャンバー内を1×10−4Pa以下の真空度まで排気し、基体温度が400℃に到達したことを確認した。
先ず、基体としてのガラス基板上に、下地膜である酸化亜鉛薄膜を第1の薄膜層として形成した。酸化亜鉛薄膜の形成においては、アルゴンガスを導入し、全ガス圧を0.3Paに調整した。ターゲット−基体間距離を49mmとした。直流電力200Wを印加して高周波プラズマを発生させ、直流スパッタリングによる成膜を行った。10分間のプリスパッタリング後、スパッタリングターゲットの直上、すなわち静止対向位置に基体を配置し、基体温度400℃でスパッタリングを実施して、光学膜厚λ/4の酸化亜鉛薄膜を形成した。
次に、第1の薄膜層である酸化亜鉛薄膜上に、第2の薄膜層として二酸化バナジウム薄膜を形成した。二酸化バナジウム薄膜の形成においては、アルゴンと酸素の混合ガスを酸素の比率が0.7%になるように導入し、ガス圧を0.5Paに調整した。ターゲット−基体間距離を60mmとした。高周波電力200Wを印加して高周波プラズマを発生させ、高周波スパッタリングによる成膜を行った。10分間のプリスパッタリング後、スパッタリングターゲットの直上、すなわち静止対向位置に基体を配置し、酸化亜鉛薄膜と同じ基体温度でスパッタリングを実施し、光学膜厚λ/2の二酸化バナジウム薄膜を形成した。
さらに、第2の薄膜層である二酸化バナジウム薄膜上に、第3の薄膜層として酸化ケイ素薄膜を形成した。酸化ケイ素薄膜の形成においては、アルゴンと酸素の混合ガスを酸素の比率が2.0%になるように導入し、ガス圧を0.5Paに調整した。ターゲット−基体間距離を60mmとした。高周波電力200Wを印加して高周波プラズマを発生させ、高周波スパッタリングによる成膜を行った。10分間のプリスパッタリング後、スパッタリングターゲットの直上、すなわち静止対向位置に基体を配置し、酸化亜鉛薄膜と同じ基体温度でスパッタリングを実施して、光学膜厚λ/4の酸化ケイ素薄膜を形成した。
以上の工程を経て、波長λとした3層積層膜を備えたサーモクロミック体を製造した。
このように製造したサーモクロミック体が備える3層積層膜の結晶性をX線回折測定によって調べた。その結果、第1の薄膜層において、ZnO相の形成が確認され、また第2の薄膜層において、空間群P2/cの単斜晶系の結晶構造からなるVO相の生成が確認された。第3の薄膜層においては、回折ピークが確認されないことから、非晶質であると判断された。
図2に、実施例1のサーモクロミック体の室温及び80℃それぞれにおける透過率を示す。また、図3に、実施例1のサーモクロミック体の室温における透過率のプロファイルを示し、図4に、実施例1のサーモクロミック体の室温における反射率のプロファイルを示す。なお、図3〜5、7〜12では、比較のために、他の必要な実施例、比較例のプロファイルも併せて示す。
図2及び図3に示すように、波長572nmで最大透過率50.8%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る48.0%を示す。さらに、図4に示すように、最小反射率6.7%を示す波長は、388nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
このように、下地膜として酸化亜鉛薄膜を形成した実施例1のサーモクロミック体では、波長λを300nmとすることにより、高い透過率を得るとともに、反射率が低減されることがわかった。
(実施例2及び実施例3)
実施例2では波長λを400nmとし、実施例3では波長λを200nmとした以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。
図3に、実施例2のサーモクロミック体及び実施例3のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図4に、実施例2のサーモクロミック体及び実施例3のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図3に示すように、実施例2では波長624nmで最大透過率55.8%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る48.0%を示す。また、実施例3では波長800nmで最大透過率54.4%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る44.6%を示す。さらに、図4に示すように、実施例2では最小反射率6.7%を示す波長は440nmであり、実施例3では最小反射率5.7%を示す波長は266nmであり、何れの場合も最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
(比較例1及び比較例2)
比較例1では波長λを500nmとし、比較例2では波長λを550nmとした以外は、実施例1〜3と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。
図3に、比較例1のサーモクロミック体、比較例2のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図4に、比較例1のサーモクロミック体、比較例2のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図3より、比較例1では波長660nmで最大透過率55.2%を示し、比較例2では波長687nmで最大透過率53.7%を示すが、一方で波長500nmでの透過率は40%を下回る33.8%(比較例1)及び30.1%(比較例2)にとどまった。なお、図4より、比較例1では最小反射率2.3%を示す波長は、572nmであり、比較例2では最小反射率2.2%を示す波長は、622nmであり、何れの場合も最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
図3、4に示す結果から明らかなように、3層積層膜を備えたサーモクロミック体において、波長λを300nmより大きくすると、透過率のプロファイルは、長波長側にシフトする。このため、300nm<λにおいて、波長λを大きくするにつれて波長400〜500nmの可視光領域短波長側の透過率が低下することがわかった。具体的に、波長λが400nmである場合は、波長500nmにおける透過率は、40%を上回るが、波長λが500nm以上の場合は40%を下回ってしまう。
実施例1、2と比較例1、2の結果から、波長400〜500nmの可視光領域短波長側の透過率を向上させるためには、3層積層構造からなるサーモクロミック体の波長λを400nm以下とする必要があることがわかった。
(実施例4〜6)
第1の薄膜層の酸化亜鉛薄膜の光学膜厚及び第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜の光学膜厚を何れもλ/4よりも厚くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については、波長λを300nmでλ/2に固定し、酸化亜鉛薄膜の光学膜厚λ/4、酸化シリコン薄膜の光学膜厚λ/4を、波長λ及びλが何れも400nm(実施例4)、500nm(実施例5)、600nm(実施例6)相当の光学膜厚となるように設定した。
図5に、実施例4〜6のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図6に、実施例4〜6のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図5に示すように、実施例4では、波長604nmで最大透過率59.0%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る52.2%を示す。また、実施例5では、波長632nmで最大透過率64.0%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る50.4%を示す。さらに、実施例6では波長662nmで最大透過率65.6%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る44.7%を示す。
図6に示すように、実施例4では、最小反射率8.1%を示す波長は468nmであり、実施例5では、最小反射率7.6%を示す波長は548nmであり、実施例6では、最小反射率6.2%を示す波長は624nmであり、何れの場合も最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
(比較例3)
第1の薄膜層である酸化亜鉛薄膜の光学膜厚及び第3の薄膜層である酸化シリコン薄膜の光学膜厚をともにλ/4より厚くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については波長λを300nmに固定し、酸化亜鉛薄膜の光学膜厚λ/4及び酸化シリコン薄膜の光学膜厚λ/4を、波長λ及びλが何れも700nm相当の光学膜厚となるよう厚くした。
図5に、比較例3のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図6に、比較例3のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図5に示すように、比較例3では波長752nmで最大透過率が65.2%を示す。一方、波長500nmでの透過率は40%を下回る38.3%にとどまる。なお、図6に示すように、比較例3では最小反射率5.9%を示す波長は696nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
(比較例4)
第1の薄膜層である酸化亜鉛薄膜の光学膜厚及び第3の薄膜層である酸化シリコン薄膜の光学膜厚を何れもλ/4よりともに薄くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第2の薄膜層である二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については波長λを300nmに固定し、酸化亜鉛薄膜の光学膜厚λ/4及び酸化シリコン薄膜の光学膜厚λ/4を、波長λ及びλが200nm相当の光学膜厚となるように薄くした。
図5に、比較例4のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図6に、比較例4のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図5に示すように、比較例4では波長656nmで最大透過率が44.2%と低い値にとどまり、波長500nmでの透過率は40%をわずかに上回る40.7%にとどまるに過ぎなかった。なお、図6に示すように、比較例4では最小反射率4.1%を示す波長は、256nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
このように、第1の薄膜層の光学膜厚及び第3の薄膜層の光学膜厚を何れもλ/4より厚くしたサーモクロミック体は、実施例1及び実施例4〜6の結果から明らかなように、波長λ及びλが300〜600nmの場合、波長500nmにおける透過率が40%を上回ったが、比較例3の結果に示すように、波長λ及びλが700nmの場合には40%を下回った。
一方、第1の薄膜層の光学膜厚及び第3の薄膜層の光学膜厚を何れもλ/4より薄くしたサーモクロミック体は、比較例4の結果から明らかなように、波長λ及びλを200nmとした場合には、3層積層膜とすることによる反射防止効果が十分得られず、可視光領域での透過率の向上が十分得られない。
実施例1及び実施例4〜6、比較例3、比較例4の結果から、3層積層膜を備えたサーモクロミック体の波長λを固定し、第1の薄膜層及び第3の薄膜層の光学膜厚を何れもλ/4より厚くした方が好ましく、さらに波長λを固定した場合については、第1の薄膜層の光学膜厚λ/4及び第3の薄膜層の光学膜厚λ/4を、λ,λが300〜600nm相当の範囲となるように厚くすることが3層積層膜を備えたサーモクロミック体の可視光領域における透過率の向上に有効であることがわかった。
(比較例5)
最表面の第3の薄膜層となる酸化ケイ素系薄膜を形成しないこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、2層積層膜を備えたサーモクロミック体を製造した。
図5に、比較例5のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図6に、比較例5のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図5に示すように、比較例5のサーモクロミック体では波長790nmで最大透過率が42.1%と低い値にとどまり、波長500nmでの透過率は、40%を下回る36.5%にとどまっていた。なお、図6に示すように、比較例5では、可視光全域で40%前後の非常に高い反射率を示すことがわかった。
このような実施例1及び比較例5の結果から、波長λをλ≦400nmとした場合において、最表面の第3の薄膜層として酸化ケイ素薄膜を形成した3層積層膜を備えたサーモクロミック体は、第3の薄膜層としての酸化ケイ素薄膜を形成しない2層積層膜を備えたサーモクロミック体に比べ、可視光領域、特に波長500nmにてより高い透過率を得ることができることがわかった。
(実施例7及び実施例8)
第1の薄膜層の酸化亜鉛薄膜の光学膜厚をλ/4より厚くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜及び第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜の光学膜厚については波長λを300nmに固定し、酸化亜鉛薄膜のみを、波長λが500nm(実施例7)、700nm(実施例8)相当の光学膜厚λ/4となるように厚くした。
図7に、実施例7及び実施例8のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図8に、実施例8のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図7に示すように、実施例7では、波長616nmで最大透過率55.5%を示し、波長500nmでの透過率は、40%を上回る47.7%を示す。また、実施例8では波長654nmで最大透過率57.5%を示し、波長500nmでの透過率は、40%を上回る42.2%を示す。さらに、図8に示すように、実施例7において最小反射率10.0%を示す波長は、362nmであり、実施例8において最小反射率8.9%を示す波長は374nmであり、何れの場合も最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
(比較例6)
第1の薄膜層の酸化亜鉛薄膜の光学膜厚をλ/4より厚くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜及び第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜の光学膜厚については、波長λを300nmに固定し、酸化亜鉛薄膜のみを、波長λが900nm相当の光学膜厚λ/4となるように厚くした。
図7に、比較例6のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図8に、比較例6のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図7に示すように、比較例6では波長752nmで最大透過率が56.0%を示すが、波長500nmでの透過率は40%を下回る38.5%にとどまることがわかった。なお、図8に示すように、比較例6では最小反射率6.8%を示す波長は384nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
(比較例7)
第1の薄膜層の酸化亜鉛薄膜の光学膜厚をλ/4より薄くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜及び第3の薄膜層の酸化シリコン薄膜の光学膜厚については、波長λを300nmに固定し、酸化亜鉛薄膜のみを、波長λが200nm相当の光学膜厚λ/4となるように薄くした。
図7に、比較例7のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図8に、比較例7の3層積層構造からなるサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図7に示すように、比較例7において、波長500nmでの透過率は、40%を上回る48.2%を示すが、波長606nmにおける最大透過率は、49.6%と低い値にとどまる。なお、図8に示すように、比較例7では最小反射率7.7%を示す波長は、378nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長となる。
このように、下地膜である第1の薄膜層の酸化亜鉛薄膜のみの光学膜厚をλ/4より厚くすると、実施例1、7、8の結果に示す通り、波長λが300〜700nmとした場合、波長500nmにおける透過率が40%を上回った。しかしながら、比較例6の結果に示す通り、波長λが900nmの場合には40%を下回った。
一方、比較例7の結果に示す通り、波長λを200nmとして第1の薄膜層の光学膜厚をλ/4より薄くすると、可視光領域での透過率の向上が十分得られない。
実施例1、7、8、比較例6、7の結果から、3層積層膜を備えたサーモクロミック体の波長λを固定し、第1の薄膜層のみの光学膜厚をλ/4より厚くすること、具体的には、光学膜厚λ/4をλが300〜700nm相当の範囲になるように厚くすることが3層積層膜を備えたサーモクロミック体の可視光領域における透過率の向上に有効であることがわかった。
(実施例9及び実施例10)
第3の薄膜層である酸化ケイ素薄膜の光学膜厚をλ/4より厚くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第1の薄膜層である酸化亜鉛薄膜の光学膜厚及び第2の薄膜層である二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については、何れも波長λを300nmに固定し、第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜のみを、波長λが500nm(実施例9)、700nm(実施例10)相当の光学膜厚となるように厚くした。
図9に、実施例9及び実施例10のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図10に、実施例9及び実施例10のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図9に示すように、実施例9では、波長614nmで最大透過率58.6%を示し、波長500nmでの透過率は、40%を上回る51.5%を示す。また、実施例10では、波長704nmで最大透過率62.0%を示し、波長500nmでの透過率は、40%を上回る43.0%を示す。さらに、図10に示すように、実施例9では、最小反射率12.4%を示す波長は、510nmであり、実施例10では、最小反射率10.7%を示す波長は、734nmであり、何れの場合も最大透過率を示す波長とは比較的近い波長であることがわかった。
(比較例8)
第3の薄膜層である酸化ケイ素薄膜の光学膜厚をλ/4より厚くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第1の薄膜層である酸化亜鉛薄膜の光学膜厚及び第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については、何れも波長λを300nmに固定し、第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜のみを、波長λが900nm相当の光学膜厚λ/4となるように厚くした。
図9に、比較例8のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図10に、比較例8のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図9に示すように、比較例8では波長800nmで最大透過率が59.7%を示すが、波長500nmでの透過率は40%を下回る37.9%にとどまることがわかった。なお、図10に示すように、比較例8では最小反射率9.2%を示す波長は340nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
(比較例9)
第3の薄膜層の酸化シリコン薄膜の光学膜厚をλ/4より薄くしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第1の薄膜層の酸化亜鉛薄膜の光学膜厚及び第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については、波長λを300nmに固定し、第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜のみ、波長λが200nm相当の光学膜厚となるように薄くした。
図9に、比較例9のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図10に、比較例9のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図9に示すように、比較例9では波長500nmでの透過率は40%を上回る45.7%を示すが、波長620nmにおける最大透過率は47.5%と低い値にとどまることがわかった。なお、図10に示すように、比較例9では最小反射率5.5%を示す波長は266nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
このように、波長λを300nmに固定し、第3の薄膜層の酸化ケイ素系薄膜のみの光学膜厚をλ/4より厚くする場合、実施例1、9、10の結果に示すように、波長λが300〜700nmの場合については、波長500nmにおける透過率が40%を上回ったが、比較例8の結果に示すように、波長λが900nmの場合には40%を下回った。
一方、第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜の光学膜厚をλ/4より薄くした場合、比較例9に示すように、波長λを200nmとすると、可視光領域にて透過率を向上させることができない。
実施例1、9、10、比較例8、9の結果から、3層積層膜を備えたサーモクロミック体の波長λを固定し、第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜のみの光学膜厚をλ/4より厚くし、その光学膜厚λ/4をλが300〜700nm相当の範囲に厚くすることで、可視光領域の透過率向上に有効であることがわかった。
(実施例11)
第1の薄膜層をアルミニウム添加酸化亜鉛薄膜に変更したこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。この際、酸化亜鉛薄膜へのアルミニウム添加量は、Al/(Zn+Al)原子数比で0.047とした。
図11に、実施例11のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図12に、実施例11のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図11に示すように、波長574nmで最大透過率52.1%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る48.9%を示す。さらに、図12に示すように、最小反射率7.5%を示す波長は388nmであり、最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
このように、3層積層膜を備えたサーモクロミック体において、第1の薄膜層を酸化亜鉛薄膜から、同じ酸化亜鉛系薄膜であるアルミニウム添加酸化亜鉛薄膜に変更した場合においても、波長400〜500nmの可視光領域短波長側の透過率及び反射率は、第1の薄膜層を酸化亜鉛薄膜であるサーモクロミック体と同様に、高い透過率を得るとともに、反射率が低減されることがわかった。
(実施例12及び実施例13)
第1の薄膜層の光学膜厚及び第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜の光学膜厚をλ/4より厚くしたこと以外は、実施例11と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。
具体的には、第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については、波長λを300nmに固定し、第1の薄膜層及び第3の薄膜層を、波長λ及びλが何れも400nm(実施例12)、500nm(実施例13)相当の光学膜厚λ/4,λ/4となるように厚くした。
図11に、実施例12及び13のサーモクロミック体の透過率のプロファイルを示す。また、図12に、実施例12及び実施例13のサーモクロミック体の反射率のプロファイルを示す。
図11に示すように、実施例12では、波長610nmで最大透過率57.9%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る50.9%を示す。また、実施例13では波長652nmで最大透過率63.1%を示し、波長500nmでの透過率は40%を上回る45.7%を示すことがわかった。さらに、図12に示すように、実施例12では、最小反射率7.9%を示す波長は479nmであり、実施例13では、最小反射率6.0%を示す波長は592nmであり、何れの場合も最大透過率を示す波長とは異なり、より低い波長であることがわかった。
このように、第1の薄膜層のアルミニウム添加酸化亜鉛薄膜からなる第1の薄膜層の光学膜厚及び第3の薄膜層の酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚を何れもλ/4より厚くした場合においても、波長400〜500nmの可視光領域短波長側の透過率及び反射率は、第1の薄膜層が酸化亜鉛薄膜である場合と同様に、可視光領域における透過率の向上に有効であることがわかった。
(実施例14)
第1の薄膜層をガリウム添加酸化亜鉛薄膜に変更したこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。このとき、酸化亜鉛薄膜へのガリウム添加量は、Ga/(Zn+Ga)原子数比で0.050とした。
実施例14のサーモクロミック体の透過率及び反射率のプロファイルは、図11に示す実施例11のアルミニウム添加酸化亜鉛を用いたサーモクロミック体の透過率のプロファイル、図12に示す実施例11のアルミニウム添加酸化亜鉛を用いたサーモクロミック体の反射率のプロファイルとそれぞれほぼ同一曲線であった。
(実施例15及び実施例16)
第1の薄膜層のガリウム添加酸化亜鉛薄膜の光学膜厚及び第3の薄膜層の酸化ケイ素薄膜の光学膜厚を何れもλ/4よりも厚くしたこと以外は、実施例14と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。具体的には、第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜の光学膜厚については波長λを300nmに固定し、第1の薄膜層及び第3の薄膜層を、波長λ及びλが何れも400nm(実施例15)、500nm(実施例16)相当の光学膜厚λ/4,λ/4となるように厚くした。
実施例15及び実施例16のサーモクロミック体の透過率のプロファイルは、それぞれ図11に示す実施例12及び実施例13のアルミニウム添加酸化亜鉛を用いたサーモクロミック体のプロファイルとほぼ同一曲線であった。また、実施例15及び実施例16のサーモクロミック体の反射率のプロファイルは、それぞれ図12に示す実施例12及び実施例13のアルミニウム添加酸化亜鉛を用いたサーモクロミック体のプロファイルとほぼ同一曲線であった。
このように、実施例14〜16の結果から明らかなように、第1の薄膜層の下地膜を酸化亜鉛薄膜から、同じ酸化亜鉛系薄膜のガリウム添加酸化亜鉛薄膜に変更した場合においても、アルミニウム添加酸化亜鉛薄膜の場合とほぼ同一の結果が得られ、第1の薄膜層が酸化亜鉛薄膜の場合と同様に、高い透過率を得るとともに、反射率が低減されることがわかった。また、ガリウム添加酸化亜鉛薄膜からなる第1の薄膜層の光学膜厚及び第3の薄膜層の酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚を何れもλ/4より厚くすることにより、可視光領域における透過率の向上に有効であることがわかった。
(実施例17)
第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜をタングステン添加二酸化バナジウム薄膜に変更したこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜のタングステン添加量は、W/(V+W)で表されるタングステン原子数比で0.015とした。
実施例17のサーモクロミック体の室温及び80℃における透過率及び反射率のプロファイルは、図2−4に示す実施例1のサーモクロミック体の透過率のプロファイルとほぼ同一曲線であった。なお、転移温度は32℃であった。
(実施例18)
第2の薄膜層をモリブデン添加二酸化バナジウム薄膜に変更したこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、サーモクロミック体を製造した。第2の薄膜層のタモリブデン添加量は、Mo/(V+Mo)で表されるモリブデン原子数比で0.032とした。
実施例18のサーモクロミック体の室温及び80℃における透過率及び反射率のプロファイルは、図2−4に示す実施例1のサーモクロミック体の透過率及び反射率のプロファイルとほぼ同一曲線であった。
実施例17、18に示す結果から明らかなように、実施例1の第2の薄膜層の二酸化バナジウム薄膜をタングステン添加二酸化バナジウム薄膜又はモリブデン添加二酸化バナジウム薄膜に変更した場合においても、第2の薄膜層が二酸化バナジウム薄膜の場合とほぼ同じ結果が得られ、高い透過率を得るとともに、反射率が低減されることがわかった。
なお、実施例1〜19、比較例1〜9の条件及び結果のまとめを[表1]に示す。
Figure 2012154969
11 第1の薄膜層、12 第2の薄膜層、13 第3の薄膜層、20 基体

Claims (11)

  1. 基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、
    前記酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、
    前記二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、
    400nm以下である波長λに対し、前記酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚はλ/4であり、前記二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、前記酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体。
  2. 波長λは、200〜400nmであることを特徴とする請求項1記載のサーモクロミック体。
  3. 前記酸化亜鉛系薄膜は、酸化亜鉛からなる薄膜、又は、酸化亜鉛に、アルミニウムと、ガリウムと、硼素と、インジウムとからなる元素群から選択される1種以上の元素を添加してなる薄膜であることを特徴とする請求項1又は2記載のサーモクロミック体。
  4. 前記二酸化バナジウム系薄膜は、二酸化バナジウムからなる薄膜、又は、二酸化バナジウムに、タングステンと、モリブデンと、タンタルと、ニオブとからなる金属元素群から選択される1種以上の金属元素を添加してなる薄膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のサーモクロミック体。
  5. 前記二酸化バナジウム系薄膜は、二酸化バナジウムにタングステンを添加してなる薄膜であり、該二酸化バナジウム系薄膜中の該タングステンの含有量は、W/(V+W)で表わされる原子数比で0.001〜0.1であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のサーモクロミック体。
  6. 前記二酸化バナジウム系薄膜は、二酸化バナジウムにモリブデンを添加してなる薄膜であり、該二酸化バナジウム系薄膜中の該モリブデンの含有量は、Mo/(V+Mo)で表わされる原子数比で0.001〜0.1であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のサーモクロミック体。
  7. 基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、
    前記酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、
    前記二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、
    400nm以下である波長λに対し、λは、λよりも大きく700nm以下であり、前記酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚はλ/4であり、前記二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、前記酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体。
  8. 基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、
    前記酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、
    前記二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、
    400nm以下である波長λに対し、λは、λよりも大きく700nm以下であり、前記酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚はλ/4であり、前記二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、前記酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体。
  9. 基体上に形成された、下地膜としての酸化亜鉛系薄膜と、
    前記酸化亜鉛系薄膜上に形成された二酸化バナジウム系薄膜と、
    前記二酸化バナジウム系薄膜上に形成された酸化ケイ素系薄膜とを備え、
    400nm以下である波長λに対し、λ、λは、何れもλよりも大きく600nm以下であり、前記酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚は、λ/4であり、前記二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚はλ/2であり、前記酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚はλ/4であることを特徴とするサーモクロミック体。
  10. 前記請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載のサーモクロミック体からなる熱線遮蔽ガラス。
  11. 基体上に下地膜として酸化亜鉛系薄膜を形成し、
    前記酸化亜鉛系薄膜上に二酸化バナジウム系薄膜を形成し、
    前記二酸化バナジウム系薄膜上に酸化ケイ素系薄膜を形成し、
    400nm以下である波長λに対し、前記酸化亜鉛系薄膜の光学膜厚をλ/4とし、前記二酸化バナジウム系薄膜の光学膜厚をλ/2とし、前記酸化ケイ素系薄膜の光学膜厚をλ/4とすることを特徴とするサーモクロミック体の製造方法。
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