以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
本発明の一実施形態のレーザ加工方法では、切断予定ラインに沿って加工対象物にレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に改質領域を形成する。そこで、まず、この改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。
図2に示すように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。
ちなみに、ここでのレーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
ところで、本実施形態で形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。
また、本実施形態においては、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。
この改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
次に、本発明の一実施形態のレーザ加工方法について詳細に説明する。図7に示すように、加工対象物1は、SiC基板12を備える円形板状(例えば、直径3インチ、厚さ350μm)のウェハである。図8に示すように、SiC基板12は、六方晶系の結晶構造を有しており、その結晶軸CAは、SiC基板12の厚さ方向に対して角度θ(例えば4°)傾斜している。つまり、SiC基板12は、角度θのオフ角を有する六方晶系SiC基板である。図9に示すように、SiC基板12は、c面とオフ角分の角度θを成す表面(主面)12a及び裏面(主面)12bを有している。SiC基板12においては、a面は、SiC基板12の厚さ方向(図中の二点鎖線)に対して角度θ傾斜しており、m面は、SiC基板12の厚さ方向に対して傾斜していない。
図7及び図9に示すように、加工対象物1には、表面12a及びa面に平行な方向に延在する複数本の切断予定ライン(第1の切断予定ライン)5aと、表面12a及びm面に平行な方向に延在する複数本の切断予定ライン(第2の切断予定ライン)5mと、が格子状(例えば1mm×1mm)に設定されている。SiC基板12の表面12aには、切断予定ライン5a,5mによって画定された領域ごとに機能素子が形成されており、SiC基板12の裏面12bには、切断予定ライン5a,5mによって画定された領域ごとにメタル配線が形成されている。機能素子及びメタル配線は、切断予定ライン5a,5mに沿って加工対象物1が切断されることで得られる個々のチップにおいてパワーデバイスを構成する。なお、SiC基板12には、切断予定ライン5aと平行な方向にオリエンテーションフラット6aが形成されており、切断予定ライン5mと平行な方向にオリエンテーションフラット6mが形成されている。
以上の加工対象物1を切断予定ライン5a,5mに沿って次のように切断する。まず、図10に示すように、SiC基板12の裏面12bのメタル配線を覆うように加工対象物1にエキスパンドテープ23を貼り付ける。続いて、図11(a)に示すように、20ns〜100nsのパルス幅で(より好ましくは50ns〜60nsのパルス幅で)パルス発振されたレーザ光Lの集光点PをSiC基板12の内部に合わせて、パルスピッチが10μm〜18μmとなるように(より好ましくはパルスピッチが12μm〜14μmとなるように)切断予定ライン5aに沿ってレーザ光Lを加工対象物1に照射する。これにより、切断予定ライン5aに沿って、切断の起点となる改質領域(第1の改質領域)7aをSiC基板12の内部に形成する。この改質領域7aは、溶融処理領域を含むものとなる。なお、パルスピッチとは、「加工対象物1に対するレーザ光Lの集光点Pの移動速度」を「パルスレーザ光Lの繰り返し周波数」で除した値である。
改質領域7aの形成についてより詳細には、SiC基板12の表面12aをレーザ光入射面としてSiC基板12の内部にレーザ光Lの集光点Pを位置させ、切断予定ライン5aに沿って集光点Pを相対的に移動させる。そして、切断予定ライン5aに沿った集光点Pの相対的な移動を1本の切断予定ライン5に対して複数回(例えば8回)行う。このとき、表面12aから集光点Pの位置までの距離を各回で変えることにより、SiC基板12の厚さ方向に並ぶように1本の切断予定ライン5aに対して複数列(第1の列数、例えば8列)の改質領域7aを形成する。ここでは、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに2番目に近い改質領域7aが、表面12aに最も近い改質領域7aよりも小さくなるように、SiC基板12の裏面12b側から順に(すなわち、レーザ光入射面から遠い順に)改質領域7aを形成する。なお、改質領域7aの大きさは、例えばレーザ光Lのパルスエネルギーを変化させることで調節することができる。
これにより、各改質領域7aから発生した亀裂が、SiC基板12の厚さ方向に伸展して互いに繋がるようにする。特に、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに最も近い改質領域7aからSiC基板12の厚さ方向に伸展した亀裂が、表面12aに到達するようにする。これらのことは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有する難加工材料からなるSiC基板12を切断予定ライン5aに沿って精度良く切断する上で極めて重要である。
切断予定ライン5aに沿って改質領域7aを形成した後に、図11(b)に示すように、20ns〜100nsのパルス幅で(より好ましくは50ns〜60nsのパルス幅で)パルス発振されたレーザ光Lの集光点PをSiC基板12の内部に合わせて、パルスピッチが10μm〜18μmとなるように(より好ましくはパルスピッチが12μm〜14μmとなるように)切断予定ライン5mに沿ってレーザ光Lを加工対象物1に照射する。これにより、切断予定ライン5mに沿って、切断の起点となる改質領域(第2の改質領域)7mをSiC基板12の内部に形成する。この改質領域7mは、溶融処理領域を含むものとなる。
改質領域7mの形成についてより詳細には、SiC基板12の表面12aをレーザ光入射面としてSiC基板12の内部にレーザ光Lの集光点Pを位置させ、切断予定ライン5mに沿って集光点Pを相対的に移動させる。そして、切断予定ライン5mに沿った集光点Pの相対的な移動を1本の切断予定ライン5に対して複数回(例えば6回)行う。このとき、表面12aから集光点Pの位置までの距離を各回で変えることにより、SiC基板12の厚さ方向に並ぶように1本の切断予定ライン5mに対して複数列(第1の列数よりも少ない第2の列数(1列の場合を含む)、例えば6列)の改質領域7mを形成する。ここでは、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに最も近い改質領域7mが、表面12aに2番目に近い改質領域7mよりも小さくなるように、SiC基板12の裏面12b側から順に(すなわち、レーザ光入射面から遠い順に)改質領域7mを形成する。なお、改質領域7mの大きさは、例えばレーザ光Lのパルスエネルギーを変化させることで調節することができる。
これにより、各改質領域7mから発生した亀裂が、SiC基板12の厚さ方向に伸展して互いに繋がるようにする。特に、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに最も近い改質領域7mからSiC基板12の厚さ方向に伸展した亀裂が、表面12aに到達するようにする。これらのことは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有する難加工材料からなるSiC基板12を切断予定ライン5mに沿って精度良く切断する上で極めて重要である。
切断予定ライン5mに沿って改質領域7mを形成した後に、図12(a)に示すように、エキスパンドテープ23を拡張させ、その状態で、エキスパンドテープ23を介してSiC基板12の裏面12bに、各切断予定ライン5mに沿ってナイフエッジ41を押し当てる。これにより、改質領域7mを起点として切断予定ライン5mに沿って加工対象物1をバー状に切断する。このとき、エキスパンドテープ23が拡張させられた状態にあるため、図12(b)に示すように、バー状に切断された加工対象物1が互いに離間することになる。
切断予定ライン5mに沿って加工対象物1を切断した後に、図13(a)に示すように、引き続きエキスパンドテープ23が拡張させられた状態で、エキスパンドテープ23を介してSiC基板12の裏面12bに、各切断予定ライン5aに沿ってナイフエッジ41を押し当てる。これにより、改質領域7aを起点として切断予定ライン5aに沿って加工対象物1をチップ状に切断する。このとき、エキスパンドテープ23が拡張させられた状態にあるため、図13(b)に示すように、チップ状に切断された加工対象物1が互いに離間することになる。以上のように、加工対象物1が切断予定ライン5a,5mに沿ってチップ状に切断されて多数のパワーデバイスが得られる。
以上のレーザ加工方法によれば、次のような理由により、c面とオフ角分の角度を成す表面12aを有する六方晶系SiC基板12を備える板状の加工対象物1を切断予定ライン5a,5mに沿って精度良く切断して、その結果、切断予定ライン5a,5mに沿って精度良く切断された加工対象物1(すなわち、パワーデバイス)を得ることが可能となる。
まず、パルスピッチが10μm〜18μmとなるように切断予定ライン5a,5mに沿って加工対象物1にレーザ光Lを照射する。このような条件で加工対象物1にレーザ光Lを照射すると、改質領域7a,7mからSiC基板12の厚さ方向に亀裂を伸展させ易くする一方で、改質領域7a,7mからc面方向に亀裂を伸展させ難くすることができる。更に、パルスピッチが12μm〜14μmとなるように切断予定ライン5a,5mに沿って加工対象物1にレーザ光Lを照射すれば、改質領域7a,7mからSiC基板12の厚さ方向に亀裂をより一層伸展させ易くする一方で、改質領域7a,7mからc面方向に亀裂をより一層伸展させ難くすることができる。
また、20ns〜100nsのパルス幅でレーザ光Lをパルス発振させる。これにより、改質領域7a,7mからSiC基板12の厚さ方向に亀裂を確実に伸展させ易くする一方で、改質領域7a,7mからc面方向に亀裂を確実に伸展させ難くすることができる。更に、50ns〜60nsのパルス幅でレーザ光Lをパルス発振させれば、改質領域7a,7mからSiC基板12の厚さ方向に亀裂をより確実に伸展させ易くする一方で、改質領域7a,7mからc面方向に亀裂をより確実に伸展させ難くすることができる。
また、切断予定ライン5aに沿っては、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに2番目に近い改質領域7aを相対的に小さく形成する。これにより、a面がSiC基板12の厚さ方向に対して傾斜していても、表面12aに2番目に近い改質領域7aから発生した亀裂が、a面方向に伸展して、切断予定ライン5aから大きくずれた状態で表面12aに到達するのを防止することができる。そして、切断予定ライン5aに沿っては、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに最も近い改質領域7aを相対的に大きく形成する。これにより、改質領域7aからはSiC基板12の厚さ方向に亀裂が伸展し難い状態にあるものの、表面12aに最も近い改質領域7aから表面12aに亀裂を確実に到達させることができる。また、切断予定ライン5mに沿っては、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに2番目に近い改質領域7mを相対的に大きく形成する。これにより、改質領域7mからはSiC基板12の厚さ方向に亀裂が伸展し易い状態にあることと相俟って、表面12aに2番目に近い改質領域7mから発生した亀裂を表面12a或いはその近傍に到達させることができる。そして、切断予定ライン5mに沿っては、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに最も近い改質領域7mを相対的に小さく形成する。これにより、表面12aにダメージが生じるのを防止しつつ、改質領域7mから表面12aに亀裂を確実に到達させることができる。以上のように、切断予定ライン5aに沿っては、改質領域7aから表面12aに亀裂を確実に到達させることができ、また、切断予定ライン5mに沿っては、改質領域7mから表面12aに亀裂を確実に到達させることができる。この効果は、後述する改質領域7a,7mの形成列数や形成順序とは無関係に奏され、後述する改質領域7a,7mの形成列数や形成順序に従うと、より顕著に奏される。
また、1本の切断予定ライン5aに沿っては、1本の切断予定ライン5mに沿って改質領域7mを形成する場合よりも多い列数の改質領域7aを形成する。これにより、a面がSiC基板12の厚さ方向に対して傾斜していても、各改質領域7aの形成時に改質領域7aからa面方向に亀裂が大きく伸展するのを防止しつつ、全ての改質領域7a間においてSiC基板12の厚さ方向に亀裂が繋がり易い状態にすることができる。また、1本の切断予定ライン5mに沿っては、1本の切断予定ライン5aに沿って改質領域7aを形成する場合よりも少ない列数の改質領域7mを形成する。これにより、それぞれの改質領域7mの形成時に改質領域7mからSiC基板12の厚さ方向に亀裂を大きく伸展させることができる。以上のように、切断予定ライン5aに沿っては、改質領域7aからSiC基板12の厚さ方向に亀裂を伸展させることができ、また、切断予定ライン5mに沿っては、改質領域7mからSiC基板12の厚さ方向に亀裂を伸展させることができる。この効果は、前述した改質領域7a,7mの形成サイズや後述する改質領域7a,7mの形成順序とは無関係に奏され、前述した改質領域7a,7mの形成サイズや後述する改質領域7a,7mの形成順序に従うと、より顕著に奏される。
また、SiC基板12の厚さ方向に亀裂を伸展させるための条件が緩やかな改質領域7mを形成する前に、SiC基板12の厚さ方向に亀裂を伸展させるための条件がシビアな改質領域7aを形成する。これにより、改質領域7aの形成時に、切断予定ライン5aが切断予定ライン5mと交差する部分において、改質領域7aからSiC基板12の厚さ方向への亀裂の伸展が改質領域7mによって阻害されるのを防止することができる。この効果は、前述した改質領域7a,7mの形成サイズや形成列数とは無関係に奏される。
更に、改質領域7mを起点として切断予定ライン5mに沿って加工対象物1を切断し、その後に、改質領域7aを起点として切断予定ライン5aに沿って加工対象物1を切断する。これにより、少ない列数の改質領域7mの形成によって比較的切断し難いと想定される切断予定ライン5mに沿って加工対象物1を切断し、その後に、多い列数の改質領域7aの形成によって比較的切断し易いと想定される切断予定ライン5aに沿って加工対象物1を切断することになる。そのため、切断予定ライン5mに沿って加工対象物1を切断するのに要する力と切断予定ライン5aに沿って加工対象物1を切断するのに要する力とを均一化し、切断予定ライン5mに沿っての切断精度と切断予定ライン5aに沿っての切断精度とを共により一層向上させることができる。この効果は、前述した改質領域7a,7mの形成サイズや形成列数とは無関係に奏される。
図14は、上述したレーザ加工方法によって切断予定ライン5aに沿って切断されたSiC基板12の切断面の写真を示す図である。また、図15は、上述したレーザ加工方法によって切断予定ライン5mに沿って切断されたSiC基板12の切断面の写真を示す図である。更に、図16は、上述したレーザ加工方法によって切断予定ライン5a,5mに沿って切断されたSiC基板12の平面写真を示す図である。ここでは、4°のオフ角を有する厚さ350μmの六方晶系SiC基板12を準備した。
まず、図14に示すように、切断予定ライン5aに沿っては、SiC基板12の厚さ方向に並ぶように1本の切断予定ライン5aに対して8列の改質領域7aを形成した。そして、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに2番目に近い改質領域7aが、表面12aに最も近い改質領域7aよりも小さくなるように、SiC基板12の裏面12b側から順に改質領域7aを形成した。図14から、表面12aに2番目に近い改質領域7aの形成によって、改質領域7aから発生した亀裂の伸展が止められていることが分かる。その結果、切断予定ライン5aに対する切断面の蛇行は、図16に示すように、±4μm以下に抑えられた。
なお、表面12aから集光点Pの位置までの距離は、SiC基板12の裏面12b側の改質領域7aから順に、314.5μm、280.0μm、246.0μm、212.0μm、171.5μm、123.5μm、79.0μm、32.0μmである。また、レーザ光Lのパルスエネルギーは、SiC基板12の裏面12b側の改質領域7aから順に、25μJ、25μJ、25μJ、25μJ、20μJ、15μJ、6μJ、6μJである。
また、図15に示すように、切断予定ライン5mに沿っては、SiC基板12の厚さ方向に並ぶように1本の切断予定ライン5mに対して6列の改質領域7mを形成した。そして、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに最も近い改質領域7mが、表面12aに2番目に近い改質領域7mよりも小さくなるように、SiC基板12の裏面12b側から順に改質領域7mを形成した。図15から、表面12aに2番目に近い改質領域7mの形成によって、改質領域7mから発生した亀裂が表面12a或いはその近傍まで伸展していることが分かる。その結果、切断予定ライン5mに対する切断面の蛇行は、図16に示すように、±2μm以下に抑えられた。
なお、表面12aから集光点Pの位置までの距離は、SiC基板12の裏面12b側の改質領域7mから順に、315.5μm、264.5μm、213.5μm、155.0μm、95.5μm、34.5μmである。また、レーザ光Lのパルスエネルギーは、SiC基板12の裏面12b側の改質領域7mから順に、25μJ、25μJ、20μJ、20μJ、15μJ、7μJである。
次に、改質領域7a,7mからSiC基板12のレーザ光入射面である表面12aに到達する亀裂(以下、「ハーフカット」という)と、改質領域7a,7mからc面方向に伸展する亀裂(以下、「c面割れ」という)との関係について説明する。ここでは、図17及び図18に示すように、SiC基板12の厚さ方向に亀裂を伸展させようとした場合に、改質領域7mに比べ、ハーフカットをより発生させ難くかつc面割れをより発生させ易い改質領域7aを対象として説明する。
図19は、パルス幅とID閾値、HC閾値及び加工マージンとの関係を示す表である。ここでは、パルス幅を1ns、10ns〜120nsの範囲で変化させて、パルス幅ごとにID閾値、HC閾値及び加工マージンについて評価した。また、図20は、パルスピッチとID閾値、HC閾値及び加工マージンとの関係を示す表である。ここでは、パルスピッチを6μm〜22μmの範囲で変化させて、パルスピッチごとにID閾値、HC閾値及び加工マージンについて評価した。
なお、ID閾値とは、c面割れを発生させ得るレーザ光Lのパルスエネルギーの最小値であり、ID閾値が高いもの(すなわち、c面割れを発生させ難いもの)から順に、優、良、可、不可と評価した。また、HC閾値とは、ハーフカットを発生させ得るレーザ光Lのパルスエネルギーの最小値であり、HC閾値が低いもの(すなわち、ハーフカットを発生させ易いもの)から順に、優、良、可、不可と評価した。更に、加工マージンとは、ID閾値とHC閾値との差であり、加工マージンが大きいものから順に、優、良、可、不可と評価した。そして、総合は、ID閾値、HC閾値、加工マージンという優先順位で重みづけを行い、優、良、可、不可と評価した。
その結果、図19に示すように、20ns〜100nsのパルス幅でレーザ光Lをパルス発振させることが好ましく、50ns〜60nsのパルス幅でレーザ光Lをパルス発振させることがより好ましいことが分かった。これらによれば、c面割れの発生を抑制しつつ、ハーフカットの発生を促進することができる。なお、パルス幅が10nsである場合におけるID閾値、加工マージン及び総合の各評価は、パルス幅が20nsである場合よりも不可に近い可であった。
また、図20に示すように、パルスピッチが10μm〜18μmとなるように切断予定ライン5a,5mに沿ってSiC基板12にレーザ光Lを照射することが好ましく、、パルスピッチが11μm〜15μmとなるように切断予定ライン5a,5mに沿ってSiC基板12にレーザ光Lを照射することがより好ましく、更に、パルスピッチが12μm〜14μmとなるように切断予定ライン5a,5mに沿ってSiC基板12にレーザ光Lを照射することがより一層好ましいことが分かった。これらによれば、c面割れの発生を抑制しつつ、ハーフカットの発生を促進することができる。なお、パルスピッチが10μmのときはID閾値の評価が可であることから、c面割れの発生の抑制をより重視すれば、パルスピッチは10μmよりも大きいことがより好ましい。
図21〜図23は、レーザ光Lを開口数0.8で集光した場合におけるパルス幅及びパルスピッチの加工マージンの実験結果を示す表である。これらの実験結果は、図19及び図20に示す評価の根拠となっている。図21〜図23の実験結果を得たときの実験条件は、次のとおりである。まず、4°のオフ角を有する厚さ100μmの六方晶系SiC基板12を対象とし、表面12a及びa面に平行な方向に延在する切断予定ライン5aに沿ってレーザ光Lの集光点Pを移動させた。また、レーザ光Lを開口数0.8で集光し、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aから距離59μmの位置に集光点Pを合わせた。
以上の実験条件を前提として、レーザ光Lのエネルギー(パルスエネルギー)及びパワーと、レーザ光Lのパルスピッチとをそれぞれ変化させ、改質領域7a並びにハーフカット及びc面割れの状態を観察した。図21〜図23では、それぞれ、レーザ光Lのパルス幅を27ns、40ns、57nsとし、レーザ光Lのパルス幅(切り返し周波数)を10kHz、20kHz、35kHzとした。
図21〜図23の実験結果において、STは、ハーフカットが発生しなかったことを示し、HCは、ハーフカットが発生したことを示す。また、IDは、c面割れが発生したことを示し、LV1〜LV3は、c面割れの発生規模を示す。2本の切断予定ライン5aのそれぞれに沿って改質領域7aを形成した場合に、40mmの領域(20mm×2本の領域)に対して、c面割れの発生領域が150μm未満だったときをLV1とし、c面割れの発生領域が450μm未満だったときをLV2とし、c面割れの発生領域が450μm以上だったときをLV3とした。LV1では、切断予定ライン5aに垂直な方向へのc割れの伸展が10μm〜20μmとなったのに対し、LV2,LV3では、切断予定ライン5aに垂直な方向へのc割れの伸展が最大で100μm程度となった。
図24は、パルスピッチとHC閾値との関係を示すグラフである。また、図25は、パルスピッチとID閾値との関係を示すグラフである。更に、図26は、パルスピッチと加工マージンとの関係を示すグラフである。これらのグラフは、図21〜図23の実験結果に基づいて作成したものである。図24及び図25に示すように、パルス幅が大きくなると、HC閾値及びID閾値の両方が上昇するが、HC閾値の劣化(上昇)に比べ、ID閾値の向上(上昇)の効果が大きくなった。これは、図26に示すように、パルス幅が大きくなると、加工マージンが大きくなることを意味する。例えば、パルス幅27ns及びパルス幅57nsに着目した場合、パルスピッチが12μmのときに、HC閾値は、15μJから17μJに2μJ分劣化(上昇)しているのに対し、ID閾値は、17μJから29μJに12μJ分向上(上昇)している。そして、パルス幅40nsの場合には、パルス幅27nsの場合に比べ、パルスピッチ10μm〜16μmの範囲で加工マージンの大幅な向上が認められた。また、パルス幅57nsの場合には、パルス幅27nsの場合に比べ、パルスピッチ6μm〜20μmの範囲で加工マージンの大幅な向上が認められた。
図27〜図29は、レーザ光Lを開口数0.6で集光した場合におけるパルス幅及びパルスピッチの加工マージンの実験結果を示す表である。これらの実験結果は、図19及び図20に示す評価の根拠となっている。図27〜図29の実験結果を得たときの実験条件は、次のとおりである。まず、c面とオフ角分の角度を成す表面12aを有する厚さ350μmの六方晶系SiC基板12を対象とし、表面12a及びa面に平行な方向に延在する切断予定ライン5aに沿ってレーザ光Lの集光点Pを移動させた。また、レーザ光Lを開口数0.6で集光し、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aから距離50μmの位置に集光点Pを合わせた。
以上の実験条件を前提として、レーザ光Lのエネルギー(パルスエネルギー)及びパワーと、レーザ光Lのパルスピッチとをそれぞれ変化させ、改質領域7a並びにハーフカット及びc面割れの状態を観察した。図27〜図29では、それぞれ、レーザ光Lのパルス幅を27ns、40ns、57nsとし、レーザ光Lのパルス幅(切り返し周波数)を10kHz、20kHz、35kHzとした。
図27〜図29の実験結果において、STは、ハーフカットが発生しなかったことを示し、HCは、ハーフカットが発生したことを示す。また、IDは、c面割れが発生したことを示し、LV1〜LV3は、c面割れの発生規模を示す。LV1〜LV3の基準は、上述した図21〜図23の実験結果の場合と同様である。更に、ODは、レーザ光Lのエネルギーを大きくしたときに、改質領域7aも大きくなり、それに起因して暴れた亀裂が切断予定ライン5aから大きく外れてSiC基板12の表面12aに到達したことを示す。この場合には、c面割れについて評価しなかった。ただし、パルス幅40ns及びパルス幅57nsでは、パルスピッチ12μm以上で大規模なc面割れは発生しなかった。
図30は、パルスピッチとHC閾値との関係を示すグラフである。このグラフは、図27〜図29の実験結果に基づいて作成したものである。図30に示すように、パルス幅57nsの場合には、パルス幅40nsの場合に比べ、HC閾値が2μJ〜4μJ程度発生し難くなった。上述した開口数0.8の場合に比べ、開口数0.6の場合には、レーザ光Lの集光点Pで収差の影響が小さくなるため、パルス幅57nsの場合とパルス幅40nsの場合とでは、同程度のHC閾値となった。このことから、収差補正を行えば、パルス幅が大きくても(少なくとも60nsまでは)HC閾値は劣化しないといえる。
次に、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aの近傍でのHC品質の加工マージンの実験結果について説明する。図31〜図33の実験結果を得たときの実験条件は、次のとおりである。まず、4°のオフ角を有する厚さ100μmの六方晶系SiC基板12を対象とし、表面12a及びa面に平行な方向に延在する切断予定ライン5aに沿ってレーザ光Lの集光点Pを移動させた。また、レーザ光Lを開口数0.8で集光した。
まず、図31の実験結果では、27ns,40ns,50ns,57nsのそれぞれのパルス幅でレーザ光Lを照射し、集光点位置40.6μmでハーフカットが発生し、かつ集光点位置40.6μmでハーフカットが発生しないエネルギー(パルスエネルギー)を用いて、集光点位置を25.3μm〜40.6μmの範囲で変化させてハーフカットの状態を観察した。レーザ光Lのパルスピッチは14μmで一定とした。なお、集光点位置とは、表面12aから集光点Pの位置までの距離である。その結果、パルス幅によるハーフカットの品質の劣化は殆どなく、パルス幅27ns〜57nsにおいて高品質の(切断予定ラインに対するハーフカットの蛇行が小さい)ハーフカットを発生させられた。また、加工マージンは、パルス幅が大きいほど大きくなった。パルス幅が小さいと、一部のハーフカットで枝分かれや割れ(OD)が発生し易くなった。
また、図32の実験結果では、27ns,40ns,50ns,57nsのそれぞれのパルス幅でレーザ光Lを照射し、パルスエネルギーを7μJ〜12μJの範囲で変化させてハーフカットの状態を観察した。レーザ光Lのパルスピッチは14μmで一定とし、集光点位置は34.5μmで一定とした。その結果、パルス幅によるHC閾値の変化は殆どなかった。また、同じパルスエネルギーで同程度の品質のハーフカットを発生させられた。
更に、図33の実験結果では、10μm,12μm,14μm,16μm,18μmのそれぞれのパルスピッチでレーザ光Lを照射し、パルスエネルギーを7μJ〜12μJの範囲で変化させてハーフカットの状態を観察した。レーザ光Lのパルス幅は57nsで一定とし、集光点位置は34.5μmで一定とした。その結果、パルスピッチによるHC閾値の変化は殆どなかった。また、集光点位置が34.5μmの場合には、同じパルスエネルギーで同程度の品質のハーフカットを発生させられた。
次に、c面割れを抑制する他のレーザ加工方法について説明する。まず、c面とオフ角分の角度を成す表面12aを有する六方晶系SiC基板12を備える板状の加工対象物1を準備し、切断予定ライン5a,5mを設定する。続いて、図34(a)に示すように、レーザ光Lの集光点PをSiC基板12の内部に合わせて、切断予定ライン5a(5m)の両側に設定された2本の予備ライン5pのそれぞれに沿ってレーザ光Lを加工対象物1に照射する。これにより、各予備ライン5pに沿って予備改質領域7pをSiC基板12の内部に形成する。この予備改質領域7pは、溶融処理領域を含むものとなる。
予備ライン5pは、表面12aに平行な面内において切断予定ライン5a(5m)の両側に位置しかつ切断予定ライン5a(5m)に平行な方向に延在するラインである。なお、切断予定ライン5a,5mによって画定された領域ごとにSiC基板12の表面12aに機能素子が形成されている場合、予備ライン5pは、SiC基板12の厚さ方向から見て、隣り合う機能素子の間の領域内に設定されることが好ましい。
各予備ライン5pに沿ってレーザ光Lを加工対象物1に照射する際には、切断の起点となる改質領域7a(7m)に比べて予備改質領域7pからSiC基板12に亀裂が発生し難くなるようにする。予備改質領域7pは、レーザ光Lのパルスエネルギー、パルスピッチ、パルス幅等を小さくすることで、切断の起点となる改質領域7a(7m)に比べてSiC基板12に亀裂を発生させ難いものとすることができる。
予備ライン5pに沿って予備改質領域7pを形成した後に、レーザ光Lの集光点PをSiC基板12の内部に合わせて、切断予定ライン5a(5m)に沿ってレーザ光Lを加工対象物1に照射する。これにより、切断予定ライン5a(5m)に沿って、切断の起点となる改質領域7a(7m)をSiC基板12の内部に形成する。この改質領域7a(7m)は、溶融処理領域を含むものとなる。切断予定ライン5a(5m)に沿って改質領域7a(7m)を形成した後に、改質領域7a(7m)を起点として切断予定ライン5a(5m)に沿って加工対象物1を切断する。
以上のレーザ加工方法によれば、次のような理由により、c面とオフ角分の角度を成す表面12aを有する六方晶系SiC基板12を備える板状の加工対象物1を切断予定ライン5a,5mに沿って精度良く切断して、その結果、切断予定ライン5a,5mに沿って精度良く切断された加工対象物1(すなわち、パワーデバイス)を得ることが可能となる。
すなわち、切断予定ライン5a(5m)に沿ってSiC基板12の内部に改質領域7a(7m)を形成する際には、各予備ライン5pに沿ってSiC基板12の内部に予備改質領域7pが形成されている。そして、予備ライン5pは、表面12aに平行な面内において切断予定ライン5a(5m)の両側に位置しかつ切断予定ライン5a(5m)に平行な方向に延在している。そのため、改質領域7a(7m)からc面方向に亀裂が伸展しても、図34(b)に示すように予備改質領域7pを形成しない場合に比べ、図34(a)に示すように、その亀裂(c面割れ)の伸展が予備改質領域7pによって抑制されることになる。これにより、改質領域7a(7m)からc面方向に亀裂が伸展し易くなるか否かを考慮せずに、改質領域7a(7m)からSiC基板12の厚さ方向に亀裂が伸展し易くなるようにレーザ光を加工対象物1に照射することができる。なお、予備改質領域7pは、切断の起点として機能させる(つまり、予備改質領域7pからSiC基板12の厚さ方向への亀裂の伸展を促進させる)必要はないことから、SiC基板12に亀裂が発生し難くなるようなレーザ光Lの照射によって形成されるので、予備改質領域7pの形成時に予備改質領域7pからc面方向に亀裂が伸展することは容易に抑制することができる。従って、c面とオフ角分の角度を成す主面を有する六方晶系SiC基板12を備える板状の加工対象物を切断予定ライン5a(5m)に沿って精度良く切断することが可能となる。
また、改質領域7a(7m)の形成時に、SiC基板12のレーザ光入射面である表面12aから所定の距離にレーザ光Lの集光点Pを合わせる場合、予備改質領域7pの形成時にも、表面12aから同じ距離にレーザ光Lの集光点Pを合わせることが好ましい。これによれば、改質領域7a(7m)からc面方向への亀裂の伸展をより確実に抑制することができる。
なお、各予備ライン5pに沿ってSiC基板12の内部に予備改質領域7pを形成するのと同時に、それらの予備ライン5pの間に設定された切断予定ライン5a(5m)に沿ってSiC基板12の内部に改質領域7a(7m)を形成しても、c面割れの伸展が予備改質領域7pによって抑制されることになる。この場合には、切断予定ライン5a(5m)に沿った改質領域7a(7m)の形成に対して、予備ライン5pに沿った予備改質領域7pの形成を先行させることが好ましい。