第1の実施の形態.
<インバータの構成>
図1に示すように、インバータ1は入力端P1,P2及び出力端Pu,Pv,Pwと接続される。入力端P1,P2には直流電圧が印加される。ここでは入力端P2に印加される電位は入力端P1に印加される電位よりも低い。
インバータ1は入力端P1,P2から入力される直流電圧を三相交流電圧に変換し、この三相交流電圧を出力端Pu,Pv,Pwへと出力する。インバータ1は入力端P1,P2の間で互いに直列に接続される一対のスイッチング素子を3相分備えている。図1ではu相についての一対のスイッチング素子S1,S4と、v相についての一対のスイッチング素子S2,S5と、w相についての一対のスイッチング素子S3,S6とが例示されている。
スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。各スイッチング素子S1〜S3は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P1との間に設けられている。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼ぶ。各スイッチング素子S4〜S6は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P2との間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼ぶ。
またインバータ1はダイオードD1〜D6を備えている。ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwに接続され、ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続される。ダイオードD4〜D6のアノードは入力端P2に接続され、ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続される。なおダイオードD1〜D6はそれぞれスイッチング素子S1〜S6の寄生ダイオードであってもよい。
スイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチ信号が与えられる。かかるスイッチ信号により各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチ信号を与えることにより、インバータ1は直流電圧を三相交流電圧に変換して、これを出力端Pu,Pv,Pwに出力する。
インバータ1は例えば誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は出力端Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷2は例えばモータであって、インバータ1によって印加される三相交流電圧に応じて回転する。
電流検出部4は入力端P2を流れる直流電流idcを検出する。なお電流検出部4は入力端P1を流れる直流電流idcを検出しても良い。ただし、入力端P1には高電位が印加されることから、電流検出部4として絶縁性の高い検出部を採用する必要があり、製造コストの増大を招く。よって、電流検出部4は入力端P2を流れる直流電流idcを検出することが望ましい。
電流検出部4が検出した直流電流idcは制御部3に入力される。制御部3はスイッチング素子S1〜S6のスイッチパターンに基づいて直流電流idcを線電流として検出する。この点については後に詳述する。
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
制御部3についてのより詳細な機能ブロックおよび動作については後に詳述する。
<インバータの一般的な制御と線電流の検出>
以下ではまず一般的なインバータの制御を説明し、続けて直流電流idcと線電流との関係について説明する。まず同じ出力端に接続される一対のスイッチング素子は互いに排他的に導通させる。これは入力端P1,P2が短絡してスイッチング素子へと大電流が流れることを防止するためである。よって、スイッチング素子S1〜S6のスイッチパターンとして次の8つのパターンが存在する。ここで上側のスイッチング素子が導通し、下側のスイッチング素子が非導通であるスイッチ状態を「1」で表現し、上側のスイッチング素子が非導通であって下側のスイッチング素子が導通するスイッチ状態を「0」で表現する。そして各相についてのスイッチパターンをこの順で並べると、スイッチパターンとしては、(000)(001)(010)(011)(100)(101)(110)(111)の8つのパターンが存在する。
上述した各スイッチパターンをスイッチング素子S1〜S6が採用することにより、インバータ1はスイッチパターンに応じた電圧を出力する。各スイッチパターンにより出力される電圧のベクトルを、スイッチパターンの上記3つの数字を10進数で表した数字を用いて、それぞれ電圧ベクトルV0〜V7と表現する。例えばスイッチパターン(100)が採用されることで出力される電圧のベクトルは電圧ベクトルV4である。
図2には電圧ベクトル図が示されている。各電圧ベクトルV1〜V6はこれらの始点を中心点に一致させそれらの終点を放射状に外側に向けて配置される。各電圧ベクトルV1〜V6の終点同士を結ぶと正六角形を構成する。電圧ベクトルV0,V7では同じ入力端に接続されるスイッチング素子のいずれもが導通する。これにより出力端Pu,Pv,Pwが短絡される。したがって電圧ベクトルV0,V7は大きさを有さない。よって電圧ベクトルV0,V7は中心点に配置される。以下では、かかる各電圧ベクトルV0,V7を零電圧ベクトルとも呼称し、各電圧ベクトルV1〜V6を実電圧ベクトルとも呼称する。また上述の説明から理解できるように、実電圧ベクトルが採用されるときには入力端P1,P2の一方に接続されるスイッチング素子のうちいずれか一つのみが導通し、零電圧ベクトルが採用されるときには入力端P1,P2の一方に接続されるスイッチング素子の全てが導通する。なお、各電圧ベクトルV1〜V6のうちの隣り合う二者で挟まれる領域をそれぞれR1〜R6と呼ぶ。
かかる電圧ベクトル図において、出力端Pu,Pv,Pwから出力されるべき電圧のベクトルV(即ち電圧指令ベクトルV*)が、中心点を始点として一定の大きさを持ち、その方向が中心点を中心に一定角速度で回転すれば、出力端Pu,Pv,Pwには三相交流電圧が出力されることになる。なお、電圧ベクトルVの大きさが出力端Pu,Pv,Pwから出力される三相交流電圧の振幅に相当し、角速度の逆数が三相交流電圧の周期に相当する。
かかる電圧ベクトルVを採用すべく、インバータ1は電圧ベクトルV0〜V7を採用する。例えば電圧指令ベクトルV*が位置する領域R1〜R6に応じて、当該領域R1〜R6を構成する2つの電圧ベクトルVi,Vj(i,j=1〜6,i≠j)と電圧ベクトルV0(又は/及び電圧ベクトルV7)とが採用される。かかる電圧ベクトルVi,Vjと電圧ベクトルV0(又は/及び電圧ベクトルV7)とは、これらの合成電圧ベクトルが電圧指令ベクトルV*に一致するように採用される。以下、零電圧ベクトルとして電圧ベクトルV0,V7を採用した場合の一例について説明する。
例えば電圧指令ベクトルV*が領域R1に位置する場合、所定期間Tにおいて例えば電圧ベクトルV0,V4,V6,V7がそれぞれ期間t0,t4,t6,t7(T=t0+t4+t6+t7)に渡って採用される。なお所定期間Tは、電圧指令ベクトルV*が領域R1を通過するのに要する期間に比べて十分に小さい(例えば100分の1)。
所定期間Tにおける合成電圧ベクトルは、V0・t0/T+V4・t4/T+V6・t6/T+V7・t7/Tで表され、この合成電圧ベクトルが電圧指令ベクトルV*と一致するように、電圧ベクトルV0,V4,V6,V7が採用される。換言すれば、合成電圧ベクトルが電圧指令ベクトルV*と一致するように期間t0,t4,t6,t7が求められ、期間t0,t4,t6,t7に渡ってそれぞれ電圧ベクトルV0,V4,V6,V7が採用される。
次に出力端Pu,Pv,Pwをそれぞれ流れる線電流iu,iv,iwと直流電流idcとの関係について述べる。ここで線電流iu,iv,iwは自身がインバータ1から誘導性負荷2へと流れるときに正の値を採る、と仮定する。
例えば電圧ベクトルV4が採用される期間t4において、スイッチング素子S1,S5,S6が導通する(図1も参照)。したがって、入力端P1を流れる直流電流idcは出力端Puを経由して線電流iuとして誘導性負荷2を流れる。線電流iuは誘導性負荷2において線電流iv,iwに分流し、線電流iv,iwはそれぞれ出力端Pv,Pwを流れる。その後、線電流iv,iwが合流して直流電流idcとして入力端P2へと流れる。よって、期間t4において流れる直流電流idcは線電流iuと一致する。
また例えば電圧ベクトルV6が採用される期間t6において、スイッチング素子S1,S2,S6が導通する。したがって、入力端P1を流れる直流電流idcは線電流iu,ivに分流し、線電流iu,ivはそれぞれ出力端Pu,Pvを経由して誘導性負荷2へと流れる。線電流iu,ivは誘導性負荷2において合流して線電流iwとして出力端Pwを流れる。その後線電流iwは直流電流idcとして入力端P2を流れる。よって、期間t6において流れる直流電流idcは線電流iwと一致する。ただし、線電流iwは誘導性負荷2からインバータ1へと流れるので、直流電流idcは負の線電流iwと一致する。
零電圧ベクトルV0,V7が採用されるときには、出力端Pu,Pv,Pwが短絡されるので、直流電流idcは流れない。
以上のように、例えば電圧指令ベクトルV*が領域R1に位置する場合、所定期間T内の期間t4,t6において直流電流idcからそれぞれ線電流iu,iwを検出することができる。さらに線電流iu,iv,iwの和が零であることに鑑みれば、検出した線電流iu,ivを用いて残りの線電流ivを求めることができる。
なお他の領域R2〜R6についても同様にスイッチパターンに基づいて直流電流idcを線電流として検出することができる。図2において、採用されるスイッチパターン、即ち電圧ベクトル、の付近に、直流電流idcに対応する線電流が付記されている。かかる線電流iu,iv,iwは例えば電圧指令ベクトルV*の生成に用いられる。この電圧指令ベクトルV*の生成方法は公知な技術であり、本願の本質とは異なるため詳細な説明を省略する。
一方、上述したインバータ1の制御から理解されるように、例えば電圧指令ベクトルV*が領域R1内において電圧ベクトルV4の近傍に位置する場合、期間t6は短い。したがって、線電流iwを検出するために、短い期間t6において直流電流idcを検出する必要がある。しかしながら、期間t6が所定値よりも短ければ直流電流idcの検出精度が低下する。電圧指令ベクトルV*が各電圧ベクトルV1〜V6の近傍に位置する場合にも、同様にして直流電流idcの検出精度が低下する。
また電圧指令ベクトルV*の大きさが小さいほど、所定期間Tに対する期間t0(t7)の割合が大きくなり、実電圧ベクトルV1〜V6が採用される期間が短くなる。したがって直流電流idcの検出精度が低下する。
図2においては直流電流idcの検出精度が低下するときの電圧指令ベクトルV*の範囲が斜線で示されている。
さて、上述したインバータ1の制御を実現すべく、制御部3は、周期を有するキャリアCと、三相交流電圧についての電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の各々との比較に基づいて、スイッチング素子S1〜S6に各スイッチパターンを採用させる。電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は電圧指令ベクトルV*の構成要素である。キャリアCの周期は所定期間Tであり、キャリアCは図3に示すように例えば三角波である。図3の例示ではキャリアCは二等辺三角波である。より詳細には、キャリアCは各所定期間Tの始期および終期においてボトム(例えば−1)を採り、各所定期間Tの中央でピーク(例えば1)を採る。電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は例えば正弦波であり、互いに120度ずつ位相がずれている。ただし、図3の例示では、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の周期よりも十分に短いキャリアCの一周期たる所定期間Tが示されており、この所定期間Tにおいて電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は一定値に近似されている。
制御部3はこの比較の結果に基づいてスイッチング素子S1〜S6へとスイッチ信号を出力してこれらを制御する。ここでは一例として、制御部3はキャリアCが各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*以上であるときに各上側のスイッチング素子S1〜S3を導通させる。
図3には、電圧指令ベクトルV*が領域R1に位置するときのタイミングチャートが例示されている。すなわち、最大出力電圧となる指令値がu相の電圧指令値Vu*となり、次いで出力電圧が大きくなる指令値がv相の電圧指令値Vv*となり、最小出力電圧となる指令値がw相の電圧指令値Vw*となる。よってキャリアCは所定期間Tの始期から増大してまず時点taにおいて電圧指令値Vu*と一致する。よって時点taにおいてスイッチング素子S1が導通する。続けてキャリアCは増大して時点tbにおいて電圧指令値Vv*と一致し、スイッチング素子S2が導通する。続けてキャリアCは増大して時点tcにおいて電圧指令値Vw*と一致し、スイッチング素子S3が導通する。そしてキャリアCは所定期間Tの半期においてピークを採った後に低減し、再び時点tdにおいて電圧指令値Vw*と一致する。よって時点tdにおいてスイッチング素子S3が非導通する。続けてキャリアCは低減して時点teにおいて電圧指令値Vv*と一致し、スイッチング素子S2が非導通する。続けてキャリアCは低減して時点tfにおいて電圧指令値Vu*と一致し、スイッチング素子S1が非導通する。
このスイッチング制御によって、所定期間Tの始期から時点taまでの期間および時点tfから所定期間Tの終期までの期間では零電圧ベクトルV0が採用され、時点ta〜tbの期間t41および時点te〜tfの期間t42では電圧ベクトルV4が採用され、時点tb〜tcの期間t61および時点td〜teの期間t62では電圧ベクトルV6が採用され、時点tc〜tdの期間では電圧ベクトルV7が採用される。
なお、時点ta,tfは電圧指令値Vu*によって規定され、時点tb,teは電圧指令値Vv*によって規定され、時点tc,tdは電圧指令値Vw*によって規定される。よって期間t41,t42は最小相指令値たる電圧指令値Vu*と中間相指令値たる電圧指令値Vv*とによって規定され、期間t61,t62は中間相指令値たる電圧指令値Vv*と最大相指令値たる電圧指令値Vw*とによって規定される。
さて電圧ベクトルV4,V6の各々は所定期間Tの前後半において採用されている。言い換えれば、期間t4が期間t41,t42に分割され、期間t6が期間t61,t62に分割される。また図3の例示ではキャリアCは二等辺三角波であるので、期間t41,t42は互いに等しく、期間t61,t62は互いに等しい。
そして、期間t41,t42の少なくとも何れか一方において直流電流idcが正の線電流iuとして検出される。期間t41,t42が所定値以上であれば直流電流idcは適切な精度で検出される。同様に期間t61,62の少なくとも何れか一方において、直流電流idcが負の線電流iwとして検出される。期間t61,t62が所定値以上であれば直流電流idcは適切な精度で検出される。一方、例えば期間t41,t42若しくは期間t61,t62が所定値tref以下であれば直流電流idcの検出精度が低下する。
<インバータ1の特徴的な制御>
そこで本願では、最小相指令値及び中間相指令値または最大相指令値及び中間相指令値たる二相の電圧指令値によって規定される期間(実電圧ベクトルが採用される期間、例えば期間t41,t42若しくは期間t61,t62)が所定値以下であることが推定されるときにその期間を増大させることを企図する。ここでは期間t61,t62が所定値以下であり、期間t61或いは期間t62を増大させる場合について説明し、期間t41,t42を増大させる場合についての説明は同様であるので省略する。
さて上述したように期間t61,t62は二相の電圧指令値Vv*,Vw*によって規定される。よって、制御部3は電圧指令値Vv*,Vw*から期間t61,t62を推定することができる。かかる推定は所定期間Tよりも前に行われる。そして、制御部3は、期間t61,t62が所定値以下であることが推定されるときに、キャリアCの周期を変化させずに、二相の電圧指令値Vv*,Vw*の間におけるキャリアCの平均的な変化率の絶対値を低下させる区間を設ける。かかる区間とは、キャリアCの正又は負の傾斜において二相の指令値Vv*,Vw*がキャリアCと交差する時点によって規定される。
例えば図3を参照して、キャリアCの正の傾斜において電圧指令値Vv*,Vw*の間の変化率を低減させる。これによって、キャリアCが電圧指令値Vv*となる時点tbから電圧指令値Vw*となる時点tcまでの期間が増大する。よって期間t61を増大させることができる。したがって、期間t61における直流電流idcの検出精度を向上でき、ひいては線電流iwの検出精度を向上できる。同様にキャリアCの負の傾斜において電圧指令値Vv*,Vw*の間の変化率の絶対値を低減させてもよい。これによって期間t62を増大させることができ、この期間における線電流iwの検出精度を向上できる。
以下では、かかるキャリアCの変化率の絶対値の低下について、具体例の一つを説明する。例えば制御部3は、期間t61が所定値以下であることが推定されたときに、直角三角波以外の三角波(例えば二等辺三角波)のキャリアCから図4に例示する直角三角波のキャリアCに切り替える。図4の例示ではキャリアCは所定期間Tの始期においてボトムを採り、所定の比例定数を有して単調に増加して所定期間Tの終期においてピークを採る。図3,4のキャリアCにおいてピークの値は互いに同一であり、ボトムの値も互いに同一である。よって鋸波(以下、直角三角波とも呼ぶ)のキャリアCの所定期間Tにおける変化率の絶対値は、二等辺三角波の所定期間Tにおける変化率の絶対値よりも小さい。
さて図4のキャリアCは所定期間Tにおいて単調に増加するので、キャリアCはそれぞれ一つの時点でのみ電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と一致する。よって各スイッチング素子S1〜S3は所定期間Tにおいて1回のみスイッチ状態が切り替わる。したがって所定期間T内の互いに異なる2つの期間において同じスイッチパターンは登場しない。図4の例示では、所定期間Tにおいて例えば電圧ベクトルV0,V4,V6,V7がこの順に採用される。以上のように、電圧ベクトルV4が採用される期間t4、及び電圧ベクトルV6が採用される期間t6はいずれも分割されない。したがって図4における期間t6は図3における期間t61,t62の2倍である。言い換えれば電圧ベクトルV6が採用される期間は期間t61から期間t6へと増大する。したがって図4の期間t6における直流電流idcの検出精度を向上することができる。
また二等辺三角波のキャリアCと鋸波のキャリアCとの区別によらずに、所定期間Tにおいて各電圧ベクトルが採用される期間の合計は変らない。したがって、所定期間Tにおいてインバータ1が出力する電圧のベクトルを変えずに、直流電流が検出される期間を増大させることができる。
但し、鋸波以外の三角波(例えば二等辺三角波)のキャリアCを採用しても実電圧ベクトルが採用される期間が所定値以上であるときには当該三角波のキャリアCが採用されることが望ましい。これは次の理由による。第1に、二等辺三角波のキャリアCを採用することで、電流においてキャリア周波数の2倍付近の高調波成分が他の高調波成分に比べて多く発生する。これによって電磁騒音を低減することができる。第2に、鋸波のキャリアCを採用する場合に比べて、電圧指令ベクトルV*に対する出力電圧の追従性が優れており、各高調波成分を全体的に低減することができる。
以上のように、高精度な電流検出の期間が確保できるときには鋸波以外の三角波のキャリアCを採用して電磁騒音の低減および優れた追従性を実現しつつも、高精度な電流検出の期間が確保できないときには鋸波のキャリアCを採用することで電流検出の精度を向上している。
なお図4の例示では鋸波のキャリアCは所定期間Tにおいて単調に増加しているが、これに限らず単調に減少していても良い。これによっても同様の効果を招来する。
しかも、キャリアCの周期を増大させていない。よって、出力電圧のパルスをより細かくすることができ、線電流の波形をより高精度に正弦波に近づけることができる。
なお、電流検出の精度を向上できるという効果を次のように言い換えることができる。即ち、電圧ベクトル図において電流検出の精度が低下する領域を低減できる。この点について以下に説明する。二等辺三角波のキャリアCを採用すれば、例えば電圧ベクトルV6が採用される期間は所定期間Tにおいて互いに長さが等しい2つの期間t61,t62に分割される。高精度な電流検出に必要な期間を所定値trefとすれば、各期間t61,t62が所定値tref以下となるときに電流検出の精度が低下する。期間t61,t62が所定値trefとなる場合の各電圧ベクトルV4,V6が図5で例示される。期間t61,t62が所定値tref以下である場合に電流検出の精度が低下するので、図5における斜線で示す領域において電流検出の精度が低下する。
一方、鋸波のキャリアCを採用すれば、例えば電圧ベクトルV6が採用される期間は所定期間Tにおいて期間t6である。この期間t6が所定値tref以下になれば電流検出の精度が低下する。期間t6が所定値trefとなる場合の各電圧ベクトルV4,V6が図6で例示される。図5,6の比較から理解できるように、電流検出の精度が低下する領域を低減することができる。
なお第1の実施の形態では、所定期間Tにおいて3相のスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通が切り替わる、いわゆる三相変調方式が採用されている。しかしながらこれに限らず、所定期間Tにおいてスイッチング素子S1〜S3のうちいずれか2つのみの導通/非導通が切り替わる、いわゆる二相変調方式が採用されてもよい。この点は後述する他の実施の形態においても同様であるので繰り返しの説明を避ける。
<制御部3の具体的な機能ブロック>
図1を参照して、制御部3は例えば電圧指令生成部31と、キャリア生成部32と、比較部33とを備えている。電圧指令生成部31には例えば誘導性負荷2の一例たるモータの回転速度についての回転速度指令値が入力される。また電圧指令生成部31には電流検出部4から直流電流idcが入力される。電圧指令生成部31はスイッチパターンに基づいて直流電流idcを線電流として検出し、所定期間Tにおいて各線電流を検出する。そして、各線電流から公知な技術を用いてモータの回転速度を推定し、この推定値と回転速度指令値とに基づいて電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は比較部33に出力される。また電圧指令生成部31は生成した電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*から次の所定期間Tにおいて実電圧ベクトルが採用される各期間を推定し、その結果をキャリア生成部32に出力する。また生成した電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を比較部33に出力する。
キャリア生成部32は電圧指令生成部31からの結果に基づいてキャリアCを生成して比較部33に出力する。キャリア生成部32は各期間が所定値以上であると推定されたときには例えば三角波のキャリアCを生成して比較部33に出力する。一方、期間が所定値以下であると推定されたときには、当該期間を規定する二相の電圧指令値の間におけるキャリアCの平均的な変化率の絶対値を低下させて比較部33へと出力する。
比較部33はキャリアCと各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*との比較に基づいて、スイッチング素子S1〜S6に各スイッチパターンを採用させる。つまり比較部33はスイッチング素子S1〜S6へとスイッチ信号を出力する。
以下では、期間が所定値以下であると推定されたときに、キャリアの周期を変えずに、その期間を規定する二相の電圧指令値の間におけるキャリアCの平均的な変化率の絶対値を低下させる、他の態様について具体的に説明する。
第2の実施の形態.
第1の実施の形態においては、実電圧ベクトルV1〜V6の期間が所定値以下であるときに鋸波のキャリアCが採用された。第2の実施の形態では、キャリアCのピーク又はボトムを時間軸において平行移動させて、キャリアCの平均的な変化率の絶対値を低下させる。例えば図7に示すように、図3のキャリアCのピークを時間軸において正の方向に平行移動させる。つまり三角波の正の変化率を有する傾斜(以下、正の傾斜と呼ぶ)を緩やかにし、負の変化率を有する傾斜(以下、負の傾斜と呼ぶ)を急峻にする。キャリアCの正の変化率は低下するので、キャリアCが増大して電圧指令値Vv*に至ってから電圧指令値Vw*に至るまでの期間t61が増大する。一方で三角波の負の変化率の絶対値が増大するので、キャリアCが低減して電圧指令値Vw*に至ってから電圧指令値Vv*に至るまでの期間t62は低減する。
よって、期間t61,t62のうちより長い期間t61において直流電流idcを検出すればその検出精度を高めることができる。しかも図7に例示するように、所定期間Tにおいて各スイッチング素子S1〜S3のスイッチ状態は2回切り替わる。よって第1の実施の形態と同様に、図4の例示と比較して電流に含まれる高調波成分のうち次数の高いもの(キャリア周期の2倍の近傍)を高め次数の低いもの(キャリア周期の近傍)を低下させることができる。したがって、電磁騒音の増大を抑制しつつも高精度な電流検出を実現できる。
なお図3のキャリアCのピークを時間軸において負の方向に平行移動させても良い。この場合、三角波の負の変化率の絶対値が低下するのでキャリアCが低減して電圧指令値Vw*に至ってから電圧指令値Vv*に至るまでの期間t62は長くなる。したがって、期間t62における直流電流idcの検出精度を高めることができる。
なお所定期間Tの各々において、その前半部分および後半部分のどちらで直流電流idcを検出するのか統一しておくことが望ましい。これによって、線電流の検出誤差を低減することができる。なお所定期間Tの各々の前半部分において直流電流idcを検出するのであれば三角波のピークを時間軸において正の方向へと平行移動させて前半部分の各期間が長くする。同様に所定期間Tの各々の後半部分において直流電流idcを検出するのであれば、三角波のピークを時間軸において負の方向へと平行移動させる。後半部分の各期間が長くなるからである。
また図3に例示する二等辺三角波のキャリアCは、逆二等辺三角波のキャリアCと把握することができる。例えば所定期間Tの始期および終期においてキャリアCがピークを採り、所定期間Tの半期においてキャリアCがボトムを採ると把握すれば、所定期間TにおいてキャリアCは逆二等辺三角波となる。この場合、キャリアCのボトムを時間軸において平行移動させることで、キャリアCの正の傾斜又は負の傾斜において電圧指令値Vv*,Vw*の間の平均的な変化率の絶対値を低下させることができる。よって、期間t61又は期間t62を伸ばすことができ、直流電流idcの検出精度を向上することができる。
次に、期間(例えば期間t61,t62)を規定する二相の電圧指令値(例えば電圧指令値Vv*,Vw*)の間におけるキャリアCの平均的な変化率の絶対値の低下量について規定する。すなわち、絶対値が低減されたキャリアCと当該二相の電圧指令値との比較によって求められるスイッチパターンの一つのみが採用される期間が所定値tref以上となるように、当該低下量が求められる。これは、後述する他の実施の形態でも同様である。これによって、期間における直流電流idcの検出精度を必要な精度に向上できる。以下、第2の実施の形態の例に即して具体的に説明する。
第2の実施の形態では、キャリアCのピークを時間軸において平行移動させて絶対値を低下させている。よって絶対値の低下量はピークの平行移動量として把握できる。図7を参照して、図3のキャリアCのピークから図7のキャリアCのピークまでの平行移動量Tpkと、期間t61との比は、キャリアCのピークおよびボトムの差と電圧指令値Vv*,Vw*の比と等しい。ここで、ピークを1とし、ボトムを−1とすると、期間t61は次式で表される。
t61=(T/2+Tpk)・(Vw*−Vv*)/2 ・・・(1)
この期間t61が所定値tref以上となるので、平行移動量Tpkは次式を満たす。
Tpk≧2・tref/(Vw*−Vv*)−T/2 ・・・(2)
以上のように、電圧指令値Vv*,Vw*から平行移動量Tpk(換言すればキャリアCのピークの位置)を算出することができる。これによって、期間t61を所定値tref以上にすることができるので、期間t61における直流電流idcの検出精度を必要な精度まで向上できる。
第3の実施の形態.
第1又は第2の実施の形態において、直角三角波のキャリアCと、例えば電圧指令値Vv*,Vw*の各々との比較に基づく期間t6が所定値tref以下であれば、やはり直流電流idcの検出精度が低下する。そこで、直角三角波のキャリアCに基づく期間t6が所定値tref以下であることが推定されるときには、図8において右側に例示するように、期間t6を規定する二相の電圧指令値Vv*,Vw*の少なくとも何れか一方に対して補正を行ってこれらの差を増大させる。図8の例示では、電圧指令値Vw*を増大させて電圧指令値Vv*,Vw*の差を増大させている。かかる補正は例えば電圧指令生成部31が実行する。
そして、比較部33は直角三角波のキャリアCと補正が行われた後の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*との比較に基づいてスイッチング素子S1〜S6に各スイッチパターンを採用させる。
これによってキャリアCが増大して電圧指令値Vv*に至ってから電圧指令値Vw*に至るまでの期間t6を増大させることができる。したがって、期間t6における直流電流idcの検出精度を高めることができる。しかも電圧指令値Vv*,Vw*のうち中間相以外の電圧指令値Vw*を補正することにより、期間t6が増大した分、零電圧ベクトルV7の期間が低減する。一方で、中間相の電圧指令値Vv*を低減させれば期間t6を増大させることができるものの、その増大量の分、電圧ベクトルV4の期間t4が低減する。この場合、電圧ベクトルV6のみならず大きさを有する電圧ベクトルV4の期間t4も変化するので、大きさを有さない零電圧ベクトルV7が低減する場合に比して出力電圧の誤差が高まる。言い換えれば、中間相以外の電圧指令値Vw*を補正することによって、出力電圧の誤差の増大を抑制しつつも期間t6における直流電流idcの検出精度を向上することができる。
なお高精度で適切な電流検出を実現できる最小限の期間を所定値trefとし、キャリアCのピークを1、ボトムを−1とすると、期間を規定する二相の電圧指令値の差ΔV*は次式を満たす。
ΔV*=2・tref/T ・・・(3)
したがって、二相の電圧指令値の差ΔV*が2・tref/T以上となるように二相の電圧指令値の少なくとも何れか一方、望ましくは中間相以外の電圧指令値を補正するとよい。
また上述のように電圧指令値を補正すれば出力電圧に誤差が生じる。よって次に、この出力電圧の誤差をキャリアのN周期(Nは正の整数)において補償することを企図する。
図9は、キャリアの変更および電圧指令値の補正の順番の一例を模式的に示している。ここで示す電圧指令値V*は電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を代表している。図9に例示するように、キャリアCの一周期T1において二等辺三角波のキャリアCと電圧指令値V*とを比較する。その次の一周期T2において実電圧ベクトルが採用される期間が所定値以下であれば、当該一周期T2において直角三角波のキャリアCと電圧指令値V*とを比較する。その次の一周期T3においても実電圧ベクトルが採用される期間が所定値以下であれば、電圧指令値V*に対して補正を行い、直角三角波のキャリアCと補正後の電圧指令値V*とを比較する。そして、その後の所定の一周期T4において、直角三角波のキャリアCと、次に説明する第2の補正が行われた電圧指令値V*とを比較する。
例えば一周期T3において、電圧指令値Vv*,Vw*の何れか一方に対して補正が実行されると仮定する。その後の一周期T4においては、一周期T3において補正の対象となった電圧指令値Vv*,Vw*の少なくとも何れか一方に対して第2の補正を行う。かかる第2の補正は電圧指令値Vv*,Vw*の差を、一周期T3における電圧指令値Vv*,Vw*の差の増減に対して反対に増減させる補正である。一周期T3において図8に例示するように電圧指令値Vw*を増大させていれば、第2の補正において電圧指令値Vw*を低減させる。より詳細に、例えば補正によって電圧指令値Vv*を変化量ΔVvだけ低減させ、電圧指令値Vw*を変化量ΔVwだけ増大させていれば、第2補正によって電圧指令値Vv*を変化量ΔVvだけ増大させ、電圧指令値Vw*を変化量ΔVwだけ低減させるとよい。かかる第2の補正も例えば電圧指令生成部31が実行する。
そして、一周期T4において比較部33はキャリアCと第2の補正が行われた電圧指令値V*との比較に基づいて、スイッチング素子S1〜S6にスイッチパターンを採用させる。
これによって、補正により発生する各相電圧の変化の正負と、第2の補正によって発生する各相電圧の変化の正負とが互いに反対となる。したがって、二周期T3,T4の全体で考慮すれば、これらの変化が打ち消される。つまり出力電圧の誤差が低減する。
なお、一周期T4の長さが一周期T3の長さのn(nは正の値)倍であれば、第2の補正による各電圧指令値Vv*,Vw*の増減量は、補正による各電圧指令値Vv*,Vw*の差の増減量の1/n倍であることが望ましい。これによって、出力電圧の誤差を解消することができる。
また第2の補正は、キャリアCの一周期T3の次の一周期T4において行われる必要はなく、一周期T3の前後に行われればよい。また一周期に限らず、N周期に渡って第2の補正が行われても良い。一周期T3の長さとN周期の各々の長さとが互いに等しければ、第2の補正による各電圧指令値Vv*,Vw*の増減量は、補正による各電圧指令値Vv*,Vw*の増減量の1/N倍であることが望ましい。これによって、(N+1)周期の全体で考慮すれば、出力電圧の誤差を解消できる。
第4の実施の形態.
第4の実施の形態では、二相の電圧指令値によってスイッチパターンの一つのみが採用される期間が所定値以下であることが推定されるときに、キャリアCに段差形状を形成することで、二相の電圧指令値の間においてキャリアCの平均的な変化率の絶対値を低下させる区間を設ける。例えば当該段差形状においてキャリアCは、当該期間を規定する二相の電圧指令値のうち小さいもの以上かつ大きいもの以下の一定値を採る。これによって、二相の電圧指令値の間におけるキャリアCの平均的な変化率の絶対値を低下させることができる。かかる段差形状の例は後に詳述する。二相の電圧指令値の間におけるキャリアCの平均的な変化率の絶対値を低下させるので、当該期間を増大することができ、直流電流idcの検出精度を向上することができる。しかもキャリアCが一定値を採ることは、例えばキャリアCを生成するカウンタの増減を停止すれば実現できるので、キャリアCの生成が容易である。
以下、図10〜30を参照して段差形状の具体例について説明する。段差形状が形成される前のキャリアC(即ち上記絶対値が低下される前のキャリアC)は三角波であって例えば二等辺三角波である。以下ではかかるキャリアCを変化前キャリアCと呼ぶ。図10〜30においては、変化前キャリアCと、段差形状が形成されたキャリアCとの相違点が鎖線を用いて示されている。
図10〜19の例示では、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*のうちで電圧指令値Vu*が最も小さい最小値を採り、電圧指令値Vw*が最も大きい最大値を採る。つまり、u相が最小相であり、v相が中間相であり、w相が最大相である。
また図10〜19の例示では、変化前キャリアCは最大相指令値たる電圧指令値Vw*を超えており、また最小相指令値たる電圧指令値Vu*を下回っている。これは、例えば正弦波である電圧指令値V*の振幅の2倍が変化前キャリアCの最大値と最小値との差よりも小さいときに実現される。或いは、仮に当該振幅の2倍が当該差よりも大きい電圧指令値V*が採用されたときであっても、正弦波たる電圧指令値V*の山若しくは谷の付近以外においてこれが実現される。
さて図10〜19の例示では、最大相の電圧指令値Vw*と中間相の電圧指令値Vv*との差が所定値以下である。このとき例えば二等辺三角波のキャリアCを採用すれば、図3に例示するように電圧指令値Vv*,Vw*によって規定される期間t61,t62が所定値tref以下となる。言い換えれば、期間t61,t62を規定する電圧指令値Vv*,Vw*のうち一方の電圧指令値Vw*が最大相指令値であるときの、段差形状が例示されている。
図10〜13の例示では、キャリアCに段差形状を設けることで、最大相のスイッチング素子S3,S6の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行い、期間t62もしくは期間t61が所定値tref以上となるように、入力端P1のみに接続されるスイッチング素子S1〜S3の全てが導通する期間(零電圧ベクトルが採用される期間)を短縮する。以下、詳細に説明する。
図10の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c1が形成される。段差形状c1においてキャリアCは、例えば正の傾斜に続けて一定値を採り、時点tcにおいて立ち上がって電圧指令値Vw*を超えている。段差形状c1は当該一定値と立ち上がりによって構成されている。当該一定値は電圧指令値Vv*以上電圧指令値Vw*より小さい値であり、図10の例示では電圧指令値Vv*と等しい値である。時点tcは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vw*を超える時点tc’よりも後であって変化前キャリアCが最大相指令値たる電圧指令値Vw*以上である期間内の時点である。
これによりキャリアCが電圧指令値Vw*以上となる時点tcが遅れ、ひいては電圧ベクトルV6が採用される期間t61を増大させることができる。よってかかる期間t61における直流電流idcの検出精度を向上できる。しかも、電圧ベクトルV6が採用される期間t61が増大した分、零電圧ベクトルV7が採用される期間が低減する。したがって、大きさを有する電圧ベクトルV4の期間が低減される場合に比して、出力電圧の誤差を低減できる。
なお、段差形状c1における一定値は電圧指令値Vv*以上であると述べた。これは、キャリアCが電圧指令値Vv*以上であるときにスイッチング素子S2を導通させる制御を想定しているからである。キャリアCが電圧指令値Vv*を超えるときにスイッチング素子S2を導通させる制御であれば、当該一定値は電圧指令値Vv*よりも大きい値である。また当該一定値は電圧指令値Vw*より小さい値であると述べた。これは、キャリアCが電圧指令値Vw*以上であるときにスイッチング素子S3を導通させる制御を想定しているからである。キャリアCが電圧指令値Vw*を超えるときにスイッチング素子S3を導通させる制御であれば、当該一定値は電圧指令値Vw*と等しくてもよい。この内容は後述する他の態様についても適用可能であるため、繰り返しの説明を避ける。
また図11〜図17の例示において、図16の第2段差形状c7、図17の第2段差形状c8を除く段差形状における一定値は電圧指令値Vv*以上電圧指令値Vw*よりも小さい値である。図16の第2段差形状c7における一定値は電圧指令値Vu*よりも大きく電圧指令値Vv*以下の値である。図17の第2段差形状c8における一定値は電圧指令値Vu*以上電圧指令値Vv*よりも小さい値である。以下では繰り返しの説明を避ける。
図11の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c2が形成される。段差形状c2においてキャリアCは、時点tdにおいて立ち下がって一定値を採る。段差形状c2は当該一定値と立ち下がりによって構成される。時点tdは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vw*を下回る時点td’よりも前であって変化前キャリアCが最大相指令値たる電圧指令値Vw*以上である期間内の時点である。図11の例示では当該一定値は電圧指令値Vw*よりもわずかに小さい値である。
これにより、キャリアCが電圧指令値Vw*を下回る時点tdが早まり、ひいては電圧ベクトルV6が採用される期間t62を増大させることができる。よってかかる期間t62における直流電流idcの検出精度を向上できる。しかも、電圧ベクトルV6が採用される期間t62が増大した分、零電圧ベクトルV7が採用される期間が低減する。したがって、大きさを有する電圧ベクトルV4が採用される期間が低減される場合に比して、出力電圧の誤差を低減できる。
図12の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c3が形成される。段差形状c3においてキャリアCは、時点tcにおいて一定値から立ち上がって電圧指令値Vw*を超え、ピークに至る。図12の例示では時点tcは変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vw*を超える時点tc’よりも後、かつ変化前キャリアCがピークを採る時点よりも前の時点である。これによっても図10を参照して説明した効果と同じ効果を招来する。
図13の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c4が形成される。段差形状c4においてキャリアCは、時点tdにおいて立ち下がって一定値を採る。時点tdは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vw*を下回る時点td’よりも前の時点である。これによっても図11を参照して説明した効果と同じ効果を招来する。
図14,15の例示では、キャリアCに段差形状を設けることで、中間相のスイッチング素子S2,S5の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行い、期間t61もしくは期間t62が所定値tref以上となるように、入力端P1,P2のいずれかのみに接続されるスイッチング素子の一つのみが導通する期間(実電圧ベクトルが採用される期間)を短縮する。以下、詳細に説明する。
図14の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c5が形成される。キャリアCは時点tbにおいて立ち上がって一定値を採り、例えば当該一定値から続けて再び正の傾斜を採る。かかる立ち上がりおよび一定値が段差形状c5を構成する。時点tbは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vu*,Vv*とそれぞれ交差する時点ta,tb’の間の時点である。
これによっても期間t61を増大させることができるので、期間t61における直流電流idcの検出精度を向上できる。ただし、電圧ベクトルV4が採用される期間t41が低減するので、図10,12に比して出力電圧の誤差は大きい。
図15の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c6が形成される。段差形状c6においてキャリアCは、例えば負の傾斜から続けて一定値を採り、時点teにおいて当該一定値から立ち下がって電圧指令値Vv*を下回る。当該一定値および立ち下がりは段差形状c6を構成する。時点teは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vv*,Vu*をそれぞれ下回る時点te’,tfの間の時点である。
これによっても期間t62を増大させることができるので、期間t62における直流電流idcの検出精度を向上できる。ただし、電圧ベクトルV4が採用される期間t42が低減するので、図11,13に比して出力電圧の誤差は大きい。
図16,17の例示では、キャリアCに段差形状を設けたことによる相電圧の誤差を、キャリアCの一周期内で補償するために、キャリアCに第2段差形状を設けることで、各相のスイッチング素子のうち中間相の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行う。
図16に例示するキャリアCは、図14のキャリアCと比較して、負の傾斜において第2段差形状c7を更に有している。第2段差形状c7においてキャリアCは、時点teにおいて立ち下がって例えば第2一定値を採る。第2一定値は電圧指令値Vu*以上かつ電圧指令値Vv*よりも小さい値である。当該第2一定値および立ち下がりは第2段差形状c7を構成する。時点teは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜がそれぞれ電圧指令値Vw*,Vv*を下回る時点td,te’の間の時点である。
時点teが早まることで、電圧ベクトルV6が採用される期間t62が低減し、電圧ベクトルV4が採用される期間t42が増大する。一方上述したように、段差形状c5によって期間t41が低減し期間t61が増大する。したがって、キャリアCの変化の前後において、それぞれ期間t41,t42の合計値及び期間t61,t62の合計値の変動を低減することができる。換言すれば、キャリアCの変化の前後においてキャリアCの一周期内で採用される電圧ベクトルV4,V6の期間の変動を低減できる。よって相電圧の誤差を低減できる。
なお時点tb’,tbの間の期間(段差形状c5による期間の変化量)と時点te’,teの間の期間(段差形状c7による期間の変化量)とが互いに等しいことが望ましい。図16の例示で言えば、段差形状c5において一定値が採用される期間と、第2段差形状c7において第2一定値が採用される期間とが互いに等しいことが望ましい。これによって、キャリアCの変化の前後において所定期間Tにおける期間t41,t42、及び期間t61,t62の合計に変動が生じない。この内容は、段差形状および第2段差形状が形成される他のキャリアCについても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
また、上述の内容に鑑みれば、段差形状c5と第2段差形状c7との関連を次のように把握することができる。即ち、段差形状c5においてキャリアCが電圧指令値Vv*と交差する時点tbと、段差形状c5が設けられる傾斜において変更前キャリアが電圧指令値Vv*と交差する時点tb’との順番は、第2の段差形状c7においてキャリアCが電圧指令値Vv*と交差する時点teと、第2の段差形状c7が設けられる傾斜において変更前キャリアが電圧指令値Vv*と交差する時点te’との順番と同じである。かかる順番は後述する段差形状および第2段差形状においても適用されるので、繰り返しの説明を避ける。
図17に例示するキャリアCは、図15のキャリアCと比較して、正の傾斜において第2段差形状c8を更に有している。第2段差形状c8においてキャリアCは例えば正の傾斜に続けて第2一定値を採る。当該第2一定値は電圧指令値Vu*以上かつ電圧指令値Vv*よりも小さい値である。またキャリアCは時点tbにおいて例えば第2一定値から立ち上がって電圧指令値Vv*を超える。当該第2一定値および立ち上がりは第2段差形状c8を構成する。時点tbは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜がそれぞれ電圧指令値Vv*,Vw*を超える時点tb’,tcの間の時点である。
時点tbが遅れることで電圧ベクトルV4が採用される期間t41が増大し、電圧ベクトルV6が採用される期間t61が低減する。一方、上述したように段差形状c6によって、期間t42は低減し期間t62は増大する。したがって、キャリアCの変化の前後においてそれぞれ期間t41,t42の合計値及び期間t61,t62の合計値の変動を低減することができる。換言すれば、キャリアCの変化の前後においてキャリアCの一周期内で採用される電圧ベクトルV4,V6の期間の変動を低減できる。よって相電圧の誤差を低減できる。
なお、図16,17の例示では、段差形状c5,c6が設けられることによって中間相のスイッチング素子S2の切り替えのタイミングが変化している。よって、これを補償すべく段差形状c7,c8によって中間相のスイッチング素子S2の切り替えタイミングを変化させている。一方、例えば図12,13の段差形状c3,c4が設けられると、最大相のスイッチング素子S1の切り替えのタイミングが変化する。よってこれを補償するためには、第2段差形状を設けて最大相のスイッチング素子S1の切り替えタイミングを変化させればよい。
図18,19の例示では、キャリアCに段差形状を設けることで、各相のスイッチング素子のうち最大相および中間相の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行い、期間t61または期間t62が所定値tref以上となるように、入力端P1のみに接続されるスイッチング素子S1〜S3の全てが導通する期間および入力端P1,P2のいずれか一方のみに接続されるスイッチング素子のうちいずれか一つのみが導通する期間を短縮する。以下、詳細に説明する。
図18の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c9が形成される。段差形状c9においてキャリアCは、時点tbにおいて立ち上がって例えば一定値を採り、時点tcにおいて例えば当該一定値から立ち上がって電圧指令値Vw*を超える。図18の例示では当該一定値と2回の立ち上がりとが段差形状c9を構成する。時点tbは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜がそれぞれ電圧指令値Vu*,Vv*を超える時点ta,tb’の間の時点である。時点tcは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vw*を超える時点tc’よりも後であって変化前キャリアCが最大相指令値たる電圧指令値Vw*以上である期間内の時点である。
時点tbが早まり、時点tcが遅れることによって、電圧ベクトルV6が採用される期間t61が増大する。したがって、期間t61における直流電流idcの検出精度を向上できる。また時点tcが遅れることによって零電圧ベクトルV7の期間が低減する。よって図14に示すように実電圧ベクトルV4の期間のみが低減する場合に比べて、出力電圧の誤差を低減できる。
図19の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c10が形成される。段差形状c10においてキャリアCは、時点tdにおいて立ち下がって例えば一定値を採り、時点teにおいて例えば当該一定値から立ち下がって電圧指令値Vv*を下回る。図19の例示では当該一定値と2回の立ち下がりとが段差形状c10を構成する。時点tdは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vw*を下回る時点td’よりも前であって、変化前キャリアCが最大相指令値たる電圧指令値Vw*以上である期間内の時点である。時点teは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜がそれぞれ電圧指令値Vv*,Vu*を下回る時点te’,tfの間の時点である。
時点tdが早まり、時点teが遅れることによって、電圧ベクトルV6が採用される期間t62が増大する。したがって、期間t62における直流電流idcの検出精度を向上できる。また時点tdが早まることによって零電圧ベクトルV7の期間が低減する。よって図15に示すように実電圧ベクトルV4の期間のみが低減する場合に比べて、出力電圧の誤差を低減できる。
次に、図20の例示するように、最小相の電圧指令値Vu*と中間相の電圧指令値Vv*との差が所定値以下である場合について説明する。このとき、例えば二等辺三角波のキャリアCを採用すれば例えば期間t41,t42が所定値trefを下回る。
図21〜24の例示では、キャリアCに段差形状を設けることで、最小相のスイッチング素子S1,S4の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行い、期間t41もしくは期間t42が所定値tref以上となるように、入力端P2のみに接続されるスイッチング素子S1〜S3の全てが導通する期間(零電圧ベクトルが採用される期間)を短縮する。以下、詳細に説明する。
図21の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c11が形成される。段差形状c11においてキャリアCは、時点taにおいて立ち上がって例えば一定値を採り、例えば当該一定値から続けて正の傾斜を採る。当該一定値と立ち上がりは段差形状c11を構成する。段差形状c11において、当該一定値は電圧指令値Vu*以上電圧指令値Vv*より小さい値である。時点taは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vu*を超える時点ta’よりも前であって変化前キャリアCが最小相指令値たる電圧指令値Vu*以下である期間内の時点である。図21に例示するように時点taは変化前キャリアCがボトムを採る時点であってもよい。
これにより、キャリアCが電圧指令値Vu*以上となる時点taが早まり、ひいては電圧ベクトルV4が採用される期間t41を増大させることができる。よってかかる期間t41における直流電流idcの検出精度を向上できる。しかも、電圧ベクトルV4が採用される期間t41が増大した分、零電圧ベクトルV0が採用される期間が低減する。したがって、大きさを有する電圧ベクトルV6の期間が低減される場合に比して、出力電圧の誤差を低減できる。
なお、図22〜28において、図27の第2段差形状c17と図28の第2段差形状c8を除く段差形状における一定値は電圧指令値Vu*以上であり電圧指令値Vw*よりも小さい値である。図27の第2段差形状c17における一定値は電圧指令値Vv*よりも大きく電圧指令値Vw*以下の値である。図28の第2段差形状c8における一定値は電圧指令値Vv*以上電圧指令値Vw*よりも小さい値である。以下では繰り返しの説明を避ける。
図22の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c12が形成される。段差形状c12においてキャリアCは、例えば負の傾斜に続いて一定値を採り、時点tfにおいて例えば当該一定値から立ち下がって電圧指令値Vu*を下回る。当該一定値と立ち下がりは段差形状c12を構成する。時点tfは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vu*を下回る時点tf’よりも後であって変化前キャリアCが最小相指令値たる電圧指令値Vu*以下である期間内の時点である。図22に例示するように、時点tfは変化前キャリアCがボトムを採る時点であってもよい。
これにより、キャリアCが電圧指令値Vu*を下回る時点tfが遅れ、ひいては電圧ベクトルV4が採用される期間t42を増大させることができる。よってかかる期間t42における直流電流idcの検出精度を向上できる。しかも、電圧ベクトルV4が採用される期間t42が増大した分、零電圧ベクトルV0が採用される期間が低減する。したがって、大きさを有する電圧ベクトルV6が採用される期間が低減される場合に比して、出力電圧の誤差を低減できる。
図23の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c13が形成される。かかる段差形状c13は段差形状c11と同様である。ただし、段差形状c13においてキャリアCが立ち上がる時点taは図21の時点taよりも後である。これによっても図21を参照して説明した効果と同じ効果を招来する。
図24の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c14が形成される。かかる段差形状c14は段差形状c12と同様である。ただし、段差形状c14においてキャリアCが立ち下がる時点tfは図22の時点tfよりも前である。これによっても図22を参照して説明した効果と同じ効果を招来する。
図25,26の例示では、キャリアCに段差形状を設けることで、中間相のスイッチング素子S2,S5の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行い、期間t42もしくは期間t41が所定値tref以上となるように、入力端P1,P2のいずれかのみに接続されるスイッチング素子の一つのみが導通する期間(実電圧ベクトルが採用される期間)を短縮する。以下、詳細に説明する。
図25の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c15が形成される。段差形状c15においてキャリアCは、正の傾斜に続いて例えば一定値を採り、時点tbにおいて立ち上がって電圧指令値Vv*を超える。かかる立ち上がりおよび一定値が段差形状c15を構成する。時点tbは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vv*,Vw*をそれぞれ超える時点tb’,tcの間の時点である。
これによっても期間t41を増大させることができるので、期間t41における直流電流idcの検出精度を向上できる。ただし、電圧ベクトルV6が採用される期間t61が低減するので、出力電圧の誤差は比較的大きい。
図26の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c16が形成される。段差形状c16においてキャリアCは、時点teにおいて負の傾斜から立ち下がって例えば一定値を採る。時点teは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vw*,Vv*をそれぞれ下回る時点td,te’の間の時点である。
これによっても期間t42を増大させることができるので、期間t42における直流電流idcの検出精度を向上できる。ただし、電圧ベクトルV6が採用される期間t62が低減するので、出力電圧の誤差は比較的大きい。
図27,28の例示では、キャリアCに段差形状を設けたことによる相電圧の誤差を、キャリアCの一周期内で補償するために、キャリアCに第2段差形状を設けることで、各相のスイッチング素子のうち中間相の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行う。
図27に例示するキャリアCは、図25のキャリアCと比較して、負の傾斜において第2段差形状c17を更に有している。第2段差形状c17においてキャリアCは、例えば負の傾斜に続いて第2一定値を採る。当該第2一定値は電圧指令値Vv*以上かつ電圧指令値Vw*よりも小さい値である。またキャリアCは時点teにおいて例えば第2一定値から立ち下がって電圧指令値Vv*を下回る。当該第2一定値および立ち下がりは第2段差形状c17を構成する。また時点teは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vv*,Vu*をそれぞれ下回る時点te’,tfの間の時点である。
時点teが遅れることで電圧ベクトルV6が採用される期間t62が増大し、電圧ベクトルV4が採用される期間t42が低減する。一方、上述したように段差形状c15によって、期間t61は低減し期間t41は増大する。したがって、キャリアCの変化の前後においてそれぞれ期間t41,t42の合計値及び期間t61,t62の合計値の変動を低減することができる。換言すれば、キャリアCの変化の前後においてキャリアCの一周期内で採用される電圧ベクトルV4,V6の期間の変動を低減できる。よって相電圧の誤差を低減できる。
図28に例示するキャリアCは、図26のキャリアCと比較して、正の傾斜において第2段差形状c18を更に有している。第2段差形状c18においてキャリアCは、時点tbにおいて立ち上がって電圧指令値Vv*を超えて、例えば当該第2一定値を採る。当該第2一定値および立ち上がりは第2段差形状c18を構成する。第2一定値は電圧指令値Vv*以上かつ電圧指令値Vw*よりも小さい値である。また時点tbは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vu*,Vv*をそれぞれ超える時点ta,tb’の間の時点である。
時点tbが早まることで電圧ベクトルV6が採用される期間t61が増大し、電圧ベクトルV4が採用される期間t41が低減する。一方、上述したように段差形状c16によって、期間t62は低減し期間t42は増大する。したがって、キャリアCの変化の前後においてそれぞれ期間t41,t42の合計値及び期間t61,t62の合計値の変動を低減することができる。換言すれば、キャリアCの変化の前後においてキャリアCの一周期内で採用される電圧ベクトルV4,V6の期間の変動を低減できる。よって相電圧の誤差を低減できる。
なお、図27,28の例示では、段差形状c15,c16が設けられることによって中間相のスイッチング素子S2の切り替えのタイミングが変化している。よって、これを補償すべく段差形状c17,c18によって中間相のスイッチング素子S2の切り替えタイミングを変化させている。一方、例えば図23,24の段差形状c13,c14が設けられると、最小相のスイッチング素子S1の切り替えのタイミングが変化する。よってこれを補償するためには、第2段差形状を設けて最小相のスイッチング素子S1の切り替えタイミングを変化させればよい。
図29,30の例示では、キャリアCに段差形状を設けることで、各相のスイッチング素子のうち最小相および中間相の切り替えのタイミングを早める動作、もしくは遅らせる動作を行い、期間t41または期間t42が所定値tref以上となるように、入力端P1のみに接続されるスイッチング素子S1〜S3の全てが導通する期間および入力端P1,P2のいずれか一方のみに接続されるスイッチング素子のうちいずれか一つのみが導通する期間を短縮する。以下、詳細に説明する。
図29の例示では、キャリアCの正の傾斜において段差形状c19が形成される。段差形状c19においてキャリアCは、時点taにおいて立ち上がって例えば一定値を採り、時点tbにおいて例えば当該一定値から立ち上がって電圧指令値Vv*を超える。図29の例示では当該一定値と2回の立ち上がりとが段差形状c19を構成する。時点taは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vu*を超える時点ta’よりも前であって、変化前キャリアCが最小相指令値たる電圧指令値Vu*以下である期間内の時点である。時点tbは、変化前キャリアCにおいて正の傾斜が電圧指令値Vv*,Vw*をそれぞれ超える時点tb’,tcの間の時点である。
時点taが早まり、時点tbが遅れることによって、電圧ベクトルV4が採用される期間t41が増大する。したがって、期間t41における直流電流idcの検出精度を向上できる。また時点taが早まることによって零電圧ベクトルV0の期間が低減する。よって図25に示すように実電圧ベクトルV6の期間のみが低減する場合に比べて、出力電圧の誤差を低減できる。
図30の例示では、キャリアCの負の傾斜において段差形状c20が形成される。段差形状c20においてキャリアCは、時点teにおいて負の傾斜から立ち下がって例えば一定値を採り、時点tfにおいて例えば当該一定値から立ち下がって電圧指令値Vu*を下回る。図30の例示では当該一定値と2回の立ち下がりとが段差形状c20を構成する。時点teは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vw*,Vv*をそれぞれ下回る時点td,te’の間に時点である。時点tfは、変化前キャリアCにおいて負の傾斜が電圧指令値Vu*を下回る時点tf’よりも後であって、変化前キャリアCが最小相指令値たる電圧指令値Vu*以下である期間内の時点である。
時点teが早まり、時点tfが遅れることによって、電圧ベクトルV4が採用される期間t42が増大する。したがって、期間t42における直流電流idcの検出精度を向上できる。また時点tfが遅れることによって零電圧ベクトルV0の期間が低減する。よって図26に示すように実電圧ベクトルV6の期間のみが低減する場合に比べて、出力電圧の誤差を低減できる。
なおキャリアCに段差形状c1〜c20を形成することは例えば次のようにして実現できる。三角波のキャリアCは例えばカウンタ回路によってカウンタ値を増大(カウントアップ)および低減(カウントダウン)することによって生成される。そして、カウンタ回路による当該カウンタ値の増大および低減を停止することでキャリアCが一定値を採ることができる。またカウンタ値の増大量又は低減量を変更することで、キャリアCは立ち上がり又は立ち下がることができる。したがって、カウンタ値の増大および低減の停止期間と、カウンタ値の増大量又は低減量とを調整することでキャリアCに段差形状を設けることができる。
また図10〜30の例示では、キャリアCとして二等辺三角波が採用されている。よって図10〜30の例示では、スイッチング素子S1〜S3の導通期間はキャリアCの前後半に渡って存在する。したがって、電流の高調波成分はキャリアCの周波数の2倍付近で多く発生する。よって電磁騒音の増大を抑制しつつも高精度な電流検出を実現できる。
また第1乃至第4の実施の形態を適宜に組み合わせることが可能である。