JP2012118438A - ワイヤグリッド偏光子及びワイヤグリッド偏光子の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来のガラス基板で、半導体プロセスを応用した方法で製造されるワイヤグリッド偏光子は生産性に乏しいという欠点がある。また、ガラス基板のワイヤグリッド偏光子は厚みが大きく、重く、割れやすいといった、使用上の欠点があった。またPCなどの樹脂フィルム基材を包含するワイヤグリッド偏光子では、フィルム基材が熱、湿度、光などの影響で分解したり、変形したり、変色したりするといった使用上の問題があった。
【解決手段】基材と、前記基材上に形成された樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜上に形成された金属ワイヤとを包含するワイヤグリッド偏光子であって、該ワイヤグリッド偏光子から前記金属ワイヤの構造を維持したままで前記基材を分離することが可能なワイヤグリッド偏光子。
【選択図】なし

Description

本発明は液晶ディスプレイなどに好ましく使用できるワイヤグリッド偏光子及び、該ワイヤグリッド偏光子の製造方法に関するものである。
近年のフォトリソグラフィー技術の発達により、光の波長レベルのピッチを有する微細構造パターンを形成することができるようになってきた。この様に非常に小さいピッチのパターンを有する部材や製品は、半導体分野だけでなく、光学分野において利用範囲が広く有用である。
例えば、金属などで構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列してなるワイヤグリッドは、そのピッチが入射光に比べてかなり小さいピッチ(例えば、2分の1以下)であれば、導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射し、導電体線に対して垂直な電場ベクトル成分の光をほとんど透過させるため、単一偏光を作り出す偏光子として使用できる。ワイヤグリッド偏光子は、透過しない光を反射し再利用することができるので、ディスプレイの光源装置などの用途では、光の有効利用の観点からも望ましいものである。
近年、非常に周期の狭い格子状凸凹構造を有するガラス基板のワイヤグリッド偏光子が開発されている。
例えば、特許文献1には、透明ガラス基板の表面上に透明誘電体の膜を堆積させ、次いで、ホログラフィ干渉リソグラフィを使用してフォトレジスト内に微細な格子構造を形成し、次いで、この構造をイオンビームエッチングやリアクティブエッチングにより金属膜に転写して平行なグリッド導電素子のアレイを前記基板上に形成し、その後、このグリッド導電素子をマスクとして基板をエッチングすることで、導電素子を支持する、非常に狭い周期の周期的な格子状凸凹構造を有するリブを作製することが開示されている。しかしながら、ガラス基板で、半導体プロセスを応用した製造方法では生産性に乏しいという欠点がある。また、ガラス基板のワイヤグリッド偏光子は厚みが大きく、重く、割れやすいといった、使用上の欠点があった。
特許文献2では、厚み100μmのPC(ポリカーボネート)フィルム基板上に、UVナノインプリント技術によって、光硬化性樹脂(東洋合成社製、型番PAK01)で樹脂皮膜を形成してワイヤグリッド偏光子を製造する方法が提案されているが、特許文献2で開示された方法では、光硬化性樹脂の粘度が高いためにスタンパを押し当てた時に光硬化性樹脂の樹脂厚みが不均一になりやすく、ナノインプリント工程で多数の欠陥が生じ、また透過率、偏光性能においても面内ばらつきやロット間ばらつきの多い製品となってしまう問題があった。さらにPCなどの樹脂フィルム基材を包含するワイヤグリッド偏光子は、フィルム基材が熱、湿度、光などの影響で分解したり、変形したり、変色したりするといった使用上の問題があった。
特許文献3では、樹脂基材と、前記基材上に形成された厚みが0.01μmから20μmの範囲の樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜上に形成された金属ワイヤとを包含するワイヤグリッド偏光子が提案されており、耐久性に優れるTACフィルムやCOPフィルムを基材として、これらの基材への浸透性の高い光硬化性樹脂を樹脂皮膜の原料として、基材と樹脂皮膜とを強固に接着させることによって、高温高湿下での劣化の少ないワイヤグリット偏光子を提供した。そして、このようなワイヤグリッド偏光子を、特許文献2と同様に樹脂フィルム基材で包含した場合、フィルム基材の特性として熱、湿度、光などの影響で分解したり、変形したり、変色したりするといった問題は避けられなかった。また携帯電話などの薄型液晶用途では厚みがきわめて薄い偏光子の要求があるが、フィルム基材の厚みがワイヤグリッド偏光子の厚みの下限界を決めてしまう問題もあった。
特表2003−502708号公報 特開2008−145581号公報 特開2010−151850号公報
本発明の目的は、前記のような従来のワイヤグリッド偏光子に比べ、光学性能の点でも、低欠陥の点でも良好であって、基材と樹脂皮膜とを分離することが可能な加工性信頼性に優れたワイヤグリッド偏光子を提供することにある。
本発明者らは検討の結果、特定の基材上に、特定の樹脂皮膜を形成し、この樹脂皮膜上に金属ワイヤを形成してなるワイヤグリッド偏光子は、上記したようなナノインプリント工程での問題が改善され、また、ワイヤグリッド偏光子から前記金属ワイヤの構造を維持したままで基材と樹脂皮膜とを分離することが可能であって、極めて薄く、大面積で、加工性に優れ、信頼性にも優れたワイヤグリット偏光子を安定した品質で製造できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
1.基材と、前記基材上に形成された樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜上に形成された金属ワイヤとを包含するワイヤグリッド偏光子であって、該ワイヤグリッド偏光子から前記金属ワイヤの構造を維持したままで前記基材を分離することが可能なワイヤグリッド偏光子。
2.前記樹脂皮膜が0.005μmから3μmの厚みであって、前記基材と前記樹脂皮膜との剥離力が5N/25mm以下であることを特徴とする上記1に記載のワイヤグリッド偏光子。
3.基材上に樹脂皮膜を形成する工程と、前記樹脂皮膜上に金属ワイヤを形成してワイヤグリッド偏光子を製造する工程と、を含むワイヤグリッド偏光膜の製造方法において、基材上に硬化後樹脂皮膜となる光硬化性樹脂を塗布してから、光硬化性樹脂を紫外線硬化反応させるまでの時間を2秒以内とすることを特徴とするワイヤグリッド偏光膜の製造方法。
本発明のワイヤグリッド偏光子は、光学性能の点でも、低欠陥の点でも良好であって、薄くて軽量で大面積のものも可能であって、基材と樹脂皮膜とを分離することが可能な加工性信頼性に優れたワイヤグリッド偏光子である。本発明のワイヤグリッド偏光子は、軽量薄型化が要求される小型液晶ディスプレイや、熱、湿度、光などに対する高度な信頼性が必要とされる車載や屋外使用機器やプロジェクタ装置などの用途に好ましく使用できる。
本発明の実施形態から金属ワイヤを除いた形状の断面模式図である。 本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の断面模式図である。 本発明の実施形態に係る積層体の断面模式図である。 本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光膜の断面模式図である。
本発明のワイヤグリッド偏光子は、基材と、前記基材上に形成された樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜上に形成された金属ワイヤを包含するワイヤグリッド偏光子であって、該ワイヤグリッド偏光子から前記金属ワイヤの構造を維持したままで前記基材を分離することが可能なワイヤグリッド偏光子である。このようなワイヤグリッド偏光子は、例えば液晶表示素子のガラスなどの物品に、金属ワイヤと樹脂皮膜を包含するワイヤグリッド偏光膜のみを転着して、基材はワイヤグリッド偏光膜から分離し除去するといった使い方が可能になる。
ワイヤグリッド偏光子を構成する基材としては、樹脂皮膜を一時的に担持することが可能であって、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程において樹脂皮膜と基材との剥離力が5N/25mm以下になるように調整できる基材であることが好ましい。
基材の形態は特に制限は無いが、コンベアベルトのような形状、ロール状のフィルム又はシートのような形状、剛直で平坦な枚葉形状、柔軟で屈曲性のある枚葉形状などが挙げられる。基材の材質は鉄や、ステンレスや、チタンのような金属や、樹脂や、ガラスや、セラミックなどの無機材料が挙げられる。これらの中でも、強度や耐久性の点で金属製のベルト形状の基材が好ましく、大面積のワイヤグリッド偏光子の製造のし易さや、ワイヤグリッド偏光子の取り扱いの容易さの点でロールフィルム状のプラスチックフィルム基材が好ましい。プラスチックフィルム基材としては透明で厚みの均一な材料が好ましい。
例えばポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、シクロオレフィン(COP)樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂、ポリスチレン(PST)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリメタクリル酸メチル樹脂、トリアセテートセルロース(TAC)樹脂などが価格や基材との剥離性の点で好ましく、加工性や強度、耐熱性に優れる点でPET、PC、COP、COC、TACがより好ましい。
基材の厚みには素材を問わず特に制限が無く、通常4μm〜2mmの範囲のものが使用出来るが、製造の容易さや取り扱いの点で8μm〜500μmの範囲のものが好ましく、連続生産性の点で15μm〜200μmの範囲のものが特に好ましい。
基材はワイヤグリッド偏光子の製造工程、保管工程、運送工程、ワイヤグリッド偏光膜の転着工程から選ばれる一つ以上の工程において、樹脂皮膜を一時的に担持することが可能であって、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程において金属ワイヤの構造を維持出来ることが必要である。金属ワイヤの構造を維持するとは、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程の前後で、ワイヤグリッド偏光膜の意図しない箇所ではワイヤグリッド偏光膜の性能に影響を与えるほどの損傷を与えないことを指す。意図しない箇所とは、例えばワイヤグリッド偏光膜を用途に応じて意図的に切り抜いて所望の形状にしたときの切り抜き線及び、切り抜き線の近傍及び外側の、該用途には使用されない領域以外の箇所を指す。損傷とは、例えば直径500μmを越える大きさでのワイヤグリッド偏光膜の欠損や汚染、金属ワイヤの歪み変形などを指す。
このように金属ワイヤの構造を維持したままでワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離するためには、樹脂皮膜と基材との剥離力が5N/25mm以下になるように調整できる基材であることが好ましい。ワイヤグリッド偏光膜と基材との分離工程をより短時間により効率良く行うには、剥離力は3N/25mm以下になるように調整できる基材であることが好ましい。剥離力の調整方法としては、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程よりも前の工程での剥離力が、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程での剥離力以下である場合には、樹脂皮膜を一時的に安定に担持することができるが、そのためにはワイヤグリッド偏光膜と基材との剥離力は0.1N/25mm以上であることが好ましく、前の工程をより短時間に効率良く行うには0.5N/25mm以上であることがより好ましい。
このように剥離力を調整する具体的な方法としては、(い)基材の樹脂皮膜と接着させる面の結合力を化学結合力で調整するために官能基を導入または除去する方法、(ろ)浸透などの物理的結合力で調整するために易接着コーティングや、コロナ処理や、表面粗化処理や、樹脂皮膜材料の組成や、温度や時間や圧力などの樹脂皮膜材料の浸透条件の強化などで結合力を強化する方法。または、難接着コーティングや、エージング処理や、表面緻密化処理や、樹脂皮膜材料の組成や、温度や時間や圧力などの樹脂皮膜材料の浸透条件の緩和などで結合力を低下する方法。(は)基材と樹脂皮膜との剥離力を静電気、磁力、真空吸着、機械的把持などの外部調整可能な手段で調整する方法などが挙げられる。
これらの方法のなかでも、難接着コーティングや、エージング処理や、表面緻密化処理や、樹脂皮膜材料の組成や、温度や時間や圧力などの樹脂皮膜材料の浸透条件の緩和などで結合力を低下する方法が好ましく、特に、基材フィルム上に硬化後樹脂皮膜となる光硬化性樹脂を塗布してから、紫外線硬化反応させるまでの時間を2秒以内とすることが、基材フィルムへの光硬化性樹脂の浸透量を低めに調整できるため好ましい。さらに、1秒以内とすることがより好ましい。なお、ここで言う硬化反応とは、硬化反応後に樹脂皮膜として用いることができる状態になる反応を指し、光硬化性樹脂組成物が必ずしも100%硬化していなくてもよい。また、紫外線硬化反応させる際の搬送温度は、−20℃から150℃とすることで、目的とした結合力を発揮することができる。より好ましくは、0℃から60℃である。
この方法に対して、特許文献3に開示の内容は、基材と樹脂皮膜とを強固に接着し、高温高湿下での劣化を抑制することが目的の一つである。この思想からすると、光硬化性樹脂が基材に充分浸透しないうちに硬化させるような搬送条件は想定されていない。
一方で、本発明の基材と樹脂皮膜の剥離力を低く保つという技術思想とその解決法は、本発明において、基材と樹脂皮膜とを分離するという課題に着眼することで、初めて見出されたものである。
他方、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程での剥離力が、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程よりも前の工程での剥離力未満である場合には、そのように剥離力を調整する具体的な方法としては、基材または樹脂皮膜または基材と樹脂皮膜との界面の材料に、(イ)PST樹脂のような溶剤に易溶性の樹脂を用い、溶剤との接触によって剥離力を調整する方法や、(ロ)POM樹脂のような熱的に易分解性の樹脂を用い、加熱によって剥離力を調整する方法や、(ハ)感光性の材料を用い、露光によって剥離力を調整する方法などで、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程での剥離力を向上させる方法が挙げられる。これら以外にも(ニ)基材と樹脂皮膜との膨張係数の差を利用して、界面に亀裂を生じさせることで剥離力を調整する方法や、(ホ)基材と樹脂皮膜との剥離力を静電気、磁力、真空吸着、機械的把持などの外部調整可能な手段で調整する方法などが挙げられる。
基材には上記のように樹脂皮膜との剥離力を調整する処理を施しておくことが好ましく、例えば樹脂皮膜と接着させる面の結合力を強化するために、化学結合を可能にするための官能基処理やコーティング処理、浸透などの物理的結合のための易接着コーティング、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、高エネルギー線照射処理、表面粗化処理、多孔質化処理などを施すことが好ましい。また、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程での剥離力を調整する手段として、易溶性、易分解性、感光性、静電気、磁力、真空吸着、機械的把持などの外部調整可能な手段を導入するためのコーティングや、機械的加工などを施すことも好ましい。
基材には目的に応じて可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、難燃剤、ガスバリア機能を有する材料、粘着剤などを配合、あるいは積層体として複合化したものを使用することも好ましい。
樹脂皮膜としては、高さが0.01μm〜20μmの範囲であって、特定方向に延在するピッチが0.01μm〜20μmの範囲である規則的な凸凹構造を表面に有し、厚みが0.01μm〜3μmの範囲の光硬化性樹脂の成形体からなる樹脂皮膜が好ましい。このような構造をとることで、樹脂皮膜の凸凹構造の上に金属ワイヤを形成することが容易になる。
ワイヤグリッド偏光子の特性として、金属ワイヤのピッチが対象とする光の波長の4分の1以下である時に十分な偏光性能が得られ、さらにピッチが小さくなるほど偏光性能が向上することが知られている。
樹脂皮膜表面の凸凹構造及び金属ワイヤのピッチが20μm以下であるとテラヘルツ帯域の偏光特性を発現でき、ピッチが150nm以下であると可視域までの特性も発現でき好ましい。さらにピッチが120nm以下であると400nm近傍の短波長光まで、10nm程度であると紫外領域までの偏光特性を併せもつことができるので特に好ましい、このようにピッチを小さくすることに対応していずれの波長域での消光比も向上するので、より好ましい。
樹脂皮膜の表面の凸凹構造の高さは、光学性能を向上させるために金属ワイヤの周囲の空気を含む層を構成する目的と、金属ワイヤの間隔を一定に強固に保持させるために十分な強度をもたせる目的から、該凸凹構造のピッチの0.5倍〜2.0倍の範囲、特に1.0倍〜2.0倍の範囲であることが好ましい。
樹脂皮膜表面の凸凹構造の断面形状には制限はない。これらの断面形状は、台形、矩形、方形、プリズム状や、半円状などの正弦波状であってもよい。ここで、正弦波状とは凹部と凸部の繰り返しからなる曲線部をもつことを意味する。曲線部は湾曲した曲線であればよく、例えば、凸部にくびれがある形状も正弦波状に含める。また、樹脂皮膜の凸部及びその側面の少なくとも一部を誘電体が覆いやすくする目的から、前記形状の端部又は頂点、谷は緩やかな曲率をもった湾曲形状にすることが好ましい。
樹脂皮膜の厚みは薄ければ薄いほど、(a)樹脂皮膜での光の吸収を抑えることができ、透過率が向上する、(b)樹脂皮膜中の揮発性残留成分量を減らし、ブリードなどによる汚染を防ぐことができる。(c)光硬化性樹脂の硬化収縮により発生するカールを小さくし、ワイヤグリッド偏光子の平面性を向上させる。(d)樹脂皮膜の屈曲性が向上し、ワイヤグリッド偏光子を変形させたときのクラックの発生を抑制できる。(e)温度や湿度の変化により基材や金属ワイヤとの層間に発生する応力ストレスへの追従性が向上し、製造工程での安定生産性や使用環境での信頼性が増すなどの好ましい効果が認められた。
その反面、ナノインプリント技術により樹脂皮膜の厚みを薄くして転写物を製造しようとすると、(f)光硬化性樹脂に混入している微小異物や、生産設備の周囲に浮遊している微小異物が転写面に混入したとき、異物の周囲にレンズ状欠陥が発生する頻度が高くなる。(g)塗り筋や、液ハジキなどの不具合により光硬化性樹脂を樹脂基材に均一に塗工することが困難で、転写欠陥が発生する頻度が高くなる。(h)光硬化性樹脂が酸素阻害を受け易くなり、未反応成分が残留して転写欠陥が発生する頻度が高くなる。(i)ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程で、ワイヤグリッド偏光膜に欠損を生じやすくなるなど、歩留まりが低下する問題があった。
本発明のワイヤグリッド偏光子に包含される樹脂皮膜の厚みには特に制限は無いが、携帯電話の薄型液晶の用途では80μm以下とすることが好ましい。樹脂皮膜のより好ましい厚みは0.001μm〜3μmの範囲であって、本発明の、特定の光硬化性樹脂の組成と、転写プロセスの最適化によって、このような厚みの範囲に調整して製造できる。
本発明のワイヤグリッド偏光子は、金属ワイヤを支持する樹脂皮膜の厚みが3μm以下と薄いことによって、ワイヤグリッド偏光子の曲げや裁断加工や収縮応力などのストレスに対する耐久性が向上する。またワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程での、ワイヤグリッド偏光膜の性能に影響を及ぼすほどの損傷を最小限に抑制出来る。これらの点では樹脂皮膜の厚みが2μm以下であることがより好ましい。
樹脂皮膜が充分薄いことによってワイヤグリッド偏光膜の平坦性が改善される点からは樹脂皮膜の厚みは1μm以下であることがさらに好ましく、0.5μm以下であることが特に好ましい。他方、極度に樹脂皮膜が薄い場合には、ワイヤグリッド偏光膜と基材とを分離する工程での操作性が悪化する問題がある点から、樹脂皮膜の厚みは0.001μm以上あることが好ましい。
このように本発明のワイヤグリッド偏光子は曲げや収縮応力などのストレスに強く、裁断することも容易で、裁断線の周囲についても樹脂皮膜部の割れや折れが広がらないので、任意の形状や数ミリ角の小片に切り分けることも可能である。また樹脂皮膜の厚みを薄く出来ることで、本発明のワイヤグリッド偏光子は温度や湿度の変化に対しても高い信頼性を有していることが確認された。一般に材料の非表面積が増加する場合には信頼性は低下する傾向があるが、本発明のワイヤグリッド偏光子の場合には、おそらく厚みを薄くしたことで樹脂基材や金属ワイヤとの層間に発生する応力ストレスへの追従性が向上した結果、逆に信頼性が増したと推測される。
樹脂皮膜の厚みを薄くし、且つ転写欠陥の発生を少なくするためには、使用する光硬化性樹脂の粘度が低く、スタンパからの離型性が良く、樹脂基材との接着性が良いことが求められる。
本発明で使用される光硬化性樹脂は、(A)1分子中に3以上のアクリル基及び/またはメタクリル基を含有する1種以上の単量体を、20〜60重量%の範囲で含有すること。(B)光硬化反応によって結合して固形となる成分が98重量%以上であること。(C)25℃における粘度が10mPa・s以下であることを同時に満たす組成物であることが好ましい。さらに(D)N−ビニル化合物である単量体を、5〜40重量%の範囲で含有すること。(E)アクリル基及び/またはメタクリル基を含有するシリコン化合物を0.1〜10重量%の範囲で含有すること。(F)粘性の調整及び、硬化物の諸物性を調整する目的でさらに別の単量体を配合することがより好ましい。(G)光硬化性樹脂組成物への光重合開始剤の配合比は0.1〜5.0重量%の範囲であることが好ましい。(H)光硬化性樹脂組成物は、異物(パーティクル)が、ろ過などの手法で除去されているものが好ましい。ろ過の場合、捕捉出来る最小粒子径が1μm以下のフィルターを使用することが好ましく、樹脂皮膜を薄くしたときの歩留まりを向上させるには0.5μm以下のものがさらに好ましい。いずれの最小粒子径でも、フィルターの捕捉効率は99.9%以上であることが好ましい。
光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]―フェニル}−2−メチル−プロパン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、1,2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]エタノン、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)などが挙げられる。特に本発明においては、高感度で、低揮発性である2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン、1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]エタノン、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)などが剥離性調整の観点から好ましく用いられる。
これら光重合開始剤は単独で適用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。このほか公知の光重合促進剤及び増感剤などと組み合わせて適用することもできる。
光硬化性樹脂組成物には、本来の目的を損なわない範囲で必要に応じて他の従来の添加物、例えば流動調整剤、レベリング剤、有機及び無機の染料及び顔料、増量剤、可塑剤、潤滑剤、補強剤、酸化防止剤、黄変防止剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、沈降防止剤、消泡剤、耐磨耗性付与剤、摩擦低減剤、帯電防止剤、防曇剤等を含むことが出来る。
樹脂皮膜は、ロールプロセスでの光ナノインプリント技術により成形することが好ましく。例えば樹脂皮膜表面の凸凹構造の反転形状となる凹凸構造を有するモールドに、光硬化性樹脂組成物を流し込み、光硬化させることで成形する。光硬化性樹脂組成物をモールドに流し込む方法としては、樹脂基材に光硬化性樹脂組成物を薄膜状に塗布した後で、モールドと接触させ、モールドの凹凸構造と樹脂基材の間に充填する方法や、モールドの表面に光硬化性樹脂組成物を薄膜状に塗布した後、樹脂基材と接触させることでモールドの凹凸構造と樹脂基材の間に充填する方法が挙げられる。
光硬化性樹脂組成物を塗布する方法には特に制限は無く、例えば、ロールコーター法、(マイクロ)グラビアコーター法、エアドクタコーター法、ブレ−ドコーター法、ナイフコーター法、ロッドコーター法、カーテン(フロー)コーター法、キスコーター法、ビードコーター法、キャストコーター法、ロータリースクリーン法、浸漬コーティング法、スロットオリフィスコーター法、バーコード法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、押出コーター、ファウンテンコーター法などが挙げられる。
いずれの方法にせよ、モールドの凹凸構造内に気泡を混入させないこと、及びモールドと樹脂基材間に保持した光硬化性樹脂組成物の厚みむらを小さくすることが重要である。
モールドの温度は25℃〜100℃の範囲で一定に調節されていることが好ましい。モールドの温度が25℃以上であると光硬化性樹脂の流動性が向上すると共に、樹脂皮膜と樹脂基材との接着力が向上する効果や、樹脂皮膜の硬化反応後のモールドからの離型性が向上する効果があるので好ましい。またモールドの温度が100℃以下であると基材の熱変形が少ないので好ましい。30℃〜80℃の範囲がより好ましく、35℃〜70℃の範囲がさらに好ましく、40℃〜65℃の範囲が特に好ましい。
樹脂皮膜の厚みは、モールドへの光硬化性樹脂組成物の充填量と、樹脂基材とモールドを押し当てる圧力によって調整することが出来る。
また転写設備周辺のクリーン度はクラス10000以上であることが好ましく、クラス1000以上であることがより好ましく、クラス100以上であることがさらに好ましく、クラス10以上であることが特に好ましい。
樹脂皮膜と金属ワイヤとの密着性を向上させるために、金属ワイヤを形成する前に誘電体層を樹脂皮膜表面の凸部及び、その側面部の少なくとも一部を覆うように設けておくことが好ましい。誘電体層を構成する誘電体は、樹脂皮膜及び金属ワイヤを構成する金属との密着力が強い材料が好ましく、例えば、珪素(Si)の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はその複合物や、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、ジルコニア(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、銅(Cu)などの金属の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はそれらの複合物(誘電体単体に他の元素、単体又は化合物が混ざった誘電体)を用いることができる。
金属ワイヤを構成する金属としては、特に制限は無く、例えば、アルミニウム(Al)、銀又はそれらの合金で構成されていることが好ましい。コストと耐久性の観点からAl又はその合金で構成されていることがより好ましい。
金属ワイヤを樹脂皮膜の上、好ましくは予め樹脂皮膜層の凸部及び、その側面部の少なくとも一部を覆うように形成された誘電体層の上に形成する方法には特に制限は無く、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着法が好ましく、中でも、金属を凸部に選択的に、又は凸部の一方の側面に偏って選択積層できるような方法が好ましく、例えば、真空蒸着法が挙げられる。
金属ワイヤの幅は、光学特性及びワイヤグリッドの構造強度の観点から樹脂皮膜の表面の凸凹構造のピッチの0.2倍から0.6倍の範囲であることが好ましい。また、金属ワイヤの高さは、ワイヤグリッド偏光子の光学特性及び、ワイヤグリッドの構造強度及び、金属ワイヤと凸凹構造との密着力を考慮すると、20nmから220nmの範囲が好ましく、50nmから200nmの範囲がより好ましい。また、金属ワイヤは、樹脂皮膜の表面の凸部頂部より上方に伸びるよう設けられていることが、光学特性上好ましい。
本発明のワイヤグリッド偏光子は、ワイヤグリッド偏光膜を所望の物品に転着する目的で、金属ワイヤの面上に粘着剤層や接着剤層を形成することが好ましい。また、汚れ防止とクリーニング性を持たせる目的で、金属ワイヤの面上に保護層を形成することも好ましい。これらの粘着剤層、接着剤層、保護層から選ばれる機能を有する層には特に制限はなく、従来公知の材料を使用することが出来るが、高温高湿度の使用環境における偏光子の性能低下を抑制するためには、これらの層の酸価は5.0mgKOH/g以下であることが好ましい。これらの層を金属ワイヤの面上に形成する際、優れた光学性能を発現する点では金属ワイヤ同士に挟まれる領域がこれらの層を形成する材料で満たされるのでは無く空気またはこれらの層を形成する材料よりも屈折率の小さい物質によって満たされていることが好ましく、ワイヤグリッド偏光子が優れた耐久性を発現する点では金属金属ワイヤ同士に挟まれる領域がこれらの層を形成する材料で満たされていることが好ましい。
これらの機能を有する層には目的に応じて可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、難燃剤、ガスバリア機能を有する材料、屈折率の調整剤などを配合、あるいは積層体として複合化したものを使用することも好ましい。保護層の場合、表面に光反射率を制御する目的で誘電体薄膜やモスアイ構造を形成することも好ましい。
本発明のワイヤグリッド偏光子は前記してきたように、基材上に樹脂皮膜を形成する工程と、前記樹脂皮膜上に金属ワイヤを形成する工程を包含する方法によって製造出来る。さらに該ワイヤグリッド偏光子から前記基材を分離する工程を包含する方法によって、樹脂皮膜上に形成された金属ワイヤを包含するワイヤグリッド偏光膜を製造出来る。
ワイヤグリッド偏光子から前記基材を分離する方法には特に制限は無く、例えばワイヤグリッド偏光子として使用者に提供して、所望の物品にワイヤグリッド偏光膜を転着させる段階で使用者が金属ワイヤの面上に粘着剤層を形成して所望の物品に接着し、次いでワイヤグリッド偏光子の基材を分離除去する方法や、ワイヤグリッド偏光子の金属ワイヤの面上に粘着剤層、接着剤層、表面保護層から選ばれる、機能を有する層を形成したものを使用者に提供して、これを使用者が所望の物品に接着し、次いでワイヤグリッド偏光子の基材を分離除去する方法や、ワイヤグリッド偏光子の金属ワイヤの面上に粘着剤層、接着剤層、表面保護層から選ばれる、機能を有する層を形成し、次いでワイヤグリッド偏光子の基材を分離除去したワイヤグリッド偏光膜を使用者に提供して、これを使用者がそのまま所望の用途に用いる方法などが挙げられる。
ワイヤグリッド偏光子から基材を分離しワイヤグリッド偏光膜を製造する方法はバッチ方式で実施しても良いし、ロールプロセス等を応用した連続方式で実施しても良い。ワイヤグリッド偏光子から金属ワイヤの構造を維持したままで基材を分離するには、基材と樹脂皮膜との剥離力が5N/25mm以下であるように調整すれば機械的に引き剥がすことが可能であり、引き剥がし装置として従来公知のテンター装置、ロール巻取機等を使用出来る。あるいは前記してきたように基材または樹脂皮膜または基材と樹脂皮膜との界面の材料に、PST樹脂のような溶剤に易溶性の樹脂を用い、溶剤との接触によって剥離力が5N/25mmを大きく下回る値に調整してほとんど無荷重で剥離したり、基材を溶解除去したりする方法なども可能である。
本発明のワイヤグリッド偏光子から基材を分離除去することによって樹脂皮膜と基材との界面がワイヤグリッド偏光膜の表面にあらわれる。このワイヤグリッド偏光膜にあらわれた新たな表面をそのままにして使用することも可能であるし、新たな表面にさらに粘着層、接着層を形成して他の任意の物品と接着して使用することも可能である。新たな表面に表面保護層を設けることも可能であるし、新たな表面に光反射率を制御する目的で誘電体薄膜やモスアイ構造を形成することも好ましい。
本発明を実施例に基づいて説明する。
なお、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(粘度の測定)
E型粘度計(東機産業社製 型番RE550L)を用い、試料量1.0mlで評価した。粘度の測定は全て25℃で行った。
(樹脂皮膜と基材との剥離力)
樹脂皮膜が形成された基材について、樹脂皮膜の面または樹脂皮膜の上に金属ワイヤが形成された面に、接着剤を塗布し、剥離試験用の易接着PETフィルム(東洋紡績製型番A4100)のコート面に貼り合せた後で長さ100mm、幅10mmの短冊状に裁断して剥離力評価用の試料を作成した。この試料を、引張試験機(エー・アンド・デイ社製 型番RTG−1210)を用い、室温(23℃)にて、1m/分の速度で90度剥離試験し評価した。
(透過率、偏光度の測定)
実施例、比較例のワイヤグリッド偏光子について、分光光度計(日本分光社製 型番V-7100)を用い偏光度及び光線透過率を測定した。ここでは、直線偏光に対する平行ニコル、直交ニコル状態での透過光強度を測定し、偏光度、光線透過率は下記式より算出した。また、測定波長は550nmとした。
偏光度=[(Imax−Imin)/(Imax+Imin)]×100 %
光線透過率=[(Imax+Imin)/2] %
ここで、Imaxは平行ニコル時の透過光強度であり、Iminは直交ニコル時の透過光強度である。
(酸価の測定)
粘着剤層の粘着剤について評価した。粘着剤3.0gをN,N−ジメチルホルムアミド100mLに加え、一晩攪拌し、溶解させた。JIS−K−8001に記載されるフェノールフタレイン溶液もしくは、0.1gのチモールブルーをエタノール50mlに溶かし、水を加えて100mlにしたチモールブルー溶液を数滴加えた。粘着剤を溶解させた試料溶液は、JIS−K−0070に記載の0.1mol/lの水酸化カリウム(KOH)エタノール溶液を用いて、攪拌しながら中和滴定を行うことで酸価を測定した。KOH溶液は、ファクター既知の0.1mol/lの塩酸を用いて中和滴定を行うことで、実際に溶かした量から算出されるKOHの濃度と、上記の滴定で得られた結果から算出される濃度の比(ファクター)を求めたものを使用した。滴定の終点はフェノールフタレインを用いた場合では、薄い紅色が30秒間続いた点を終点とした。粘着剤によっては、DMFへ溶解した際、薄く黄色に色づくものがあり、この場合は、フェノールフタレインの変色による終点の判断が難しくなるため、チモールブルーを使用した。チモールブルーを用いた場合、黄緑色が30秒間続いた点を終点とした。また、粘着剤中にUV吸収剤などを含む場合も、DMFへの溶解により、薄く黄色に色づくことがあるため、チモールブルーを使用した。終点の判断は、濃い黄色が30秒間続いた点を終点とし、酸価は以下の式を用いて算出した。
A=B×f×5.611/S
A:酸価(mgKOH/g)
B:滴定に用いた0.1mol/l KOHエタノール溶液の量(ml)
f:0.1mol/l KOHエタノール溶液のファクター
S:粘着剤の質量(g)
(実施例1)
(ワイヤグリッド偏光子の製造)
三官能以上のアクリレート化合物である単量体として、トリメチロールプロパントリアクリレートを32質量%、N−ビニル化合物である単量体としてN−ビニル−2−ピロリドンを32質量%、その他の単量体として1,9−ノナンジオールジアクリレートを33質量%、光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドを2質量%、シリコンジアクリレートを1質量%配合したものをろ過して光硬化性樹脂1を調整した。この粘度は7.9mPa・sであった。
厚み80μm、幅250mm、長さ200mのロール状のTAC樹脂フィルム上に連続的に上記光硬化性樹脂1を塗布した後、0.2秒後に微細格子パターンを表面に有するロールスタンパと接触させながら紫外線硬化させることで、微細格子パターンを連続的に転写した。この転写フィルムの断面を電子顕微鏡により観察したところ微細格子パターンの形状はロールスタンパの正確な反転形状になっており、ピッチが100nm、高さが105nmのライン&スペース構造であることが確認できた。樹脂皮膜の厚みは0.4μmであった。
転写フィルムを連続製膜装置によって、転写フィルムの転写面側に窒化珪素薄膜を形成した。次いで窒化珪素薄膜の上にアルミニウムのワイヤを形成することでワイヤグリッド偏光子1を製造した。
(樹脂皮膜の剥離力評価)
転写フィルムについて微細格子パターンを転写した側の面に、接着剤として上記の光硬化性樹脂1を1μmの厚みで塗布して剥離試験用の易接着PETフィルムと貼り合せ、剥離力評価用の試料1(図1参照)を作成した。また、ワイヤグリッド偏光子1についても、アルミニウムのワイヤが形成された側の面に同様に接着剤を塗布し、剥離力評価用の試料2(図2参照)を作成し、それぞれの剥離力を評価した。試験の結果、試料1と試料2のいずれも試料の全面にわたり樹脂皮膜層と基材の界面で滑らかに剥離した。試料1の場合も、試料2の場合も、樹脂皮膜と基材との剥離力は4.6N/25mmであった。このように樹脂皮膜層と基材の界面の剥離力を低めに調整できた理由は、光硬化性樹脂を塗布してから紫外線硬化反応させるまでの時間を0.2秒と短めに設定したことによって光硬化性樹脂がTAC樹脂フィルムに浸透する量を低めに調整できたことによる。
尚、試料2について剥離試験前と剥離試験後の透過率と偏光度をそれぞれ測定したところこれらの特性は維持されていた。また剥離試験後の試料2を、自然光光源及び偏光光源で透かしながら、10倍のルーペで欠点の有無について観察したが、剥離面全面にわたり剥離に起因する欠損や変形などのワイヤグリッド偏光膜の異常は認められなかった。これらの結果を表1に示す。
(比較例1)
(ワイヤグリッド偏光子の製造)
TAC基材上に微細格子パターンを転写した樹脂皮膜を形成する際、TAC樹脂フィルム上に連続的に上記光硬化性樹脂1を塗布した後、TAC樹脂フィルムを光硬化性樹脂が塗布された状態のままで20℃、50%RHの標準環境下で5秒間搬送した後で、微細格子パターンを表面に有するロールスタンパと接触させながら紫外線硬化させることで、微細格子パターンを連続的に転写した以外、実施例1と同様にしてワイヤグリッド偏光子2を製造した。
(樹脂皮膜の剥離力評価)
実施例1と同様にして転写フィルムから作成した剥離試験用の試料3と、ワイヤグリッド偏光子2から作成した剥離試験用の試料4を作成し、それぞれの剥離力を評価したが、光硬化性樹脂が塗布されてから紫外線硬化反応するまでの5秒間のあいだに、光硬化性樹脂がTAC樹脂フィルムに深く浸透したためにいずれの試料も樹脂皮膜と基材との剥離力は極めて強く、これらの界面で剥離する以前にTAC樹脂フィルム基材がワイヤグリッド偏光膜と共に裂けたり、また部分的に接着剤と剥離試験用の易接着PETフィルムとの界面部で剥離したりしてしまった。このように比較例の方法では、ワイヤグリッド偏光子2から基材を分離することは出来なかった。これらの結果を表1に示す。
(比較例2)
(ワイヤグリッド偏光子の製造)
光硬化性樹脂を市販の光硬化性樹脂組成物(商品名PAK−01 東洋合成社製)に代えて、実施例1と同様にしてワイヤグリッド偏光子の製造を試みた。この樹脂組成物の粘度は72.0mPa・sであった。しかしながら連続転写の工程において、樹脂の塗布厚みが不均一なうえロールスタンパと接触させたときに気泡が入りやすく、転写を開始した直後からロールスタンパが樹脂の付着残留物で汚染されてしまった。このため連続プロセスによる製造は断念し、あらためて厚み80μm、幅200mm、長さ200mmの正方形のTAC樹脂フィルム上に、バーコータを用いてPAK−01を塗付した後、5秒後に微細格子パターンを表面に有する幅100mm、長さ100mmの平板状のスタンパと接触させながら紫外線硬化させることで、微細格子パターンを転写したが、部分的にスタンパに樹脂の付着残留物が発生した。この転写フィルムの断面を電子顕微鏡により観察したところ、微細格子パターンの形状は概ねロールスタンパの反転形状になっており、ピッチが100nm、高さが105nmのライン&スペース構造が確認できたものの、スタンパに樹脂の付着残留物が発生した箇所においては平均径が200〜2000μmの微細格子パターンの無い領域が多数存在した。また樹脂皮膜の厚みには若干のむらがあり5〜8μmの範囲であった。この転写フィルムを回分式の製膜装置を使用した以外は実施例1と同様にして、転写フィルムの転写面側に窒化珪素薄膜を形成した。次いで窒化珪素薄膜の上にアルミニウムのワイヤを形成することでワイヤグリッド偏光子3を製造した。
(樹脂皮膜の剥離力評価)
実施例1と同様にして転写フィルムから作成した剥離試験用の試料5と、ワイヤグリッド偏光子3から作成した剥離試験用の試料6を作成し、それぞれの剥離力を評価したが、いずれの試料も樹脂皮膜と基材との剥離力は極めて強く、これらの界面で剥離する以前にTAC樹脂フィルム基材がワイヤグリッド偏光膜と共に裂け、また部分的に接着剤と剥離試験用の易接着PETフィルムとの界面部で剥離したり、転写時に部分的にスタンパに樹脂の付着残留物が発生したために出来た樹脂皮膜層の欠陥部を中心に樹脂皮膜層が凝集破壊したりしてしまった。このように比較例の方法では、ワイヤグリッド偏光子3から基材を分離することは出来なかった。これらの結果を表1に示す。
(実施例2)
(ワイヤグリッド偏光子の製造)
三官能以上のアクリレート化合物である単量体として、トリメチロールプロパントリアクリレートを25質量%、N−ビニル化合物である単量体としてN−ビニル−2−ピロリドンを15質量%、その他の単量体として1,9−ノナンジオールジアクリレートを57質量%、光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドを2質量%、シリコンジアクリレートを1質量%配合したものをろ過して光硬化性樹脂2を調整した。この粘度は8.8mPa・sであった。
この光硬化樹脂2を使用した以外、実施例1と同様にしてワイヤグリッド偏光子4を製造した。
(樹脂皮膜の剥離力評価)
実施例1と同様にして転写フィルムから作成した剥離試験用の試料7と、ワイヤグリッド偏光子4から作成した剥離試験用の試料8を作成し、それぞれの剥離力を評価した。試験の結果、試料7と試料8のいずれも試料の全面にわたり樹脂皮膜層と基材の界面で滑らかに剥離した。試料7の場合も、試料8の場合も、樹脂皮膜と基材との剥離力は1.3N/25mmであった。
尚、試料8について剥離試験前と剥離試験後の透過率と偏光度をそれぞれ測定したところこれらの特性は維持されていた。また剥離試験後の試料8を、自然光光源及び偏光光源で透かしながら、10倍のルーペで欠点の有無について観察したが、剥離面全面にわたり剥離に起因する欠損や変形などのワイヤグリッド偏光膜の異常は認められなかった。これらの結果を表1に示す。
(ワイヤグリッド偏光膜4の製造)
ワイヤグリッド偏光子4は、厚み80μm、幅250mm、長さ200mのロール状のTAC樹脂フィルム基材上に、幅200mmで基材の全長にわたり形成されている。これと、幅250mm、長さ200mのロール状のノンキャリア粘着フィルム1(商品名「WT♯5402A」:積水化学工業社製)とを、ロールツーロール方式のラミネータを用いてノンキャリア粘着フィルムの軽剥離面とワイヤグリッド偏光子4のアルミワイヤ面とを貼り合せた積層体1(図3参照)を連続的に製造した。ノンキャリア粘着フィルム1の粘着層の酸価を測定したところ、0.8mgKOH/gであった。次いで積層体1からTACフィルム基材を連続的に剥離除去して、アルミワイヤ面上に粘着層が形成されたワイヤグリッド偏光膜4(図4参照)を連続的に製造した。TACフィルム基材を剥離する際、ワイヤグリッド偏光子4の全面にわたり樹脂皮膜層と基材の界面で滑らかに剥離した。
尚、基材を剥離する前の積層体1と基材を剥離した後のワイヤグリッド偏光膜4について透過率と偏光度をそれぞれ測定したところこれらの特性は維持されていた。またワイヤグリッド偏光膜4を、自然光光源及び偏光光源で透かしながら、10倍のルーペで欠点の有無について観察したが、剥離面全面にわたり剥離に起因する欠損や変形などの異常は認められなかった。このアルミワイヤ面上に粘着層が形成されたワイヤグリッド偏光膜4は、ハサミやカッターナイフなどを用いて所望の形に切り抜くことが出来、粘着層の重剥離面のセパレータを剥がして、ガラス板などの所望の物品に貼り合せることが出来た。
(ワイヤグリッド偏光子膜5の製造)
ノンキャリア粘着フィルム2(商品名「EW1500」:エリエールテクセル社製)を用いた以外、ワイヤグリッド偏光子膜4と同様にして積層体2及び、ワイヤグリッド偏光膜5を連続的に製造した。ノンキャリア粘着フィルム2の粘着層の酸価を測定したところ、6.0mgKOH/gであった。TACフィルム基材を剥離する際、ワイヤグリッド偏光子4の全面にわたり樹脂皮膜層と基材の界面で滑らかに剥離した。尚、基材を剥離する前の積層体2と基材を剥離した後のワイヤグリッド偏光膜5について透過率と偏光度をそれぞれ測定したところこれらの特性は維持されていた。またワイヤグリッド偏光膜5を、自然光光源及び偏光光源で透かしながら、10倍のルーペで欠点の有無について観察したが、剥離面全面にわたり剥離に起因する欠損や変形などの異常は認められなかった。このアルミワイヤ面上に粘着層が形成されたワイヤグリッド偏光膜5は、ハサミやカッターナイフなどを用いて所望の形に切り抜くことが出来、粘着層の重剥離面のセパレータを剥がして、ガラス板などの所望の物品に貼り合せることが出来た。
(ワイヤグリッド偏光膜の信頼性評価)
ワイヤグリッド偏光膜4とワイヤグリッド偏光膜5をそれぞれ1cm角に切り抜き、ガラス板に貼り付け、25℃、50%RHの室内で、約24時間放置後、光学性能と外観を評価した。これを温恒温恒湿槽(型式:μ―2002 いすゞ製作所社製)に入れ、槽内の環境を85℃、85%RHに設定し、恒温恒湿試験を500時間行った。試験後、再度25℃、50%RHの室内で、約24時間放置後、光学性能と外観を評価した。試験後のワイヤグリッド偏光膜4の偏光度は試験前と同じであったのに対し、試験後のワイヤグリッド偏光膜5の偏光度は試験前と比較して特性が20%低下した。また、試験後の試料の色合いは試験前に比べ黄色味を帯びていた。
本発明のワイヤグリッド偏光子は、軽量薄型化が要求される小型液晶ディスプレイや、熱、湿度、光などに対する高度な信頼性が必要とされる車載や屋外使用機器やプロジェクタ装置などの用途に好ましく使用できる。
1 易剥離性PETフィルム
2 接着剤層
3 樹脂皮膜層
4 TAC樹脂フィルム基材
5 金属ワイヤ層
6 ノンキャリア粘着フィルムの重剥離側セパレータ
7 ノンキャリア粘着フィルムの粘着層

Claims (3)

  1. 基材と、前記基材上に形成された樹脂皮膜と、前記樹脂皮膜上に形成された金属ワイヤとを包含するワイヤグリッド偏光子であって、該ワイヤグリッド偏光子から前記金属ワイヤの構造を維持したままで前記基材を分離することが可能なワイヤグリッド偏光子。
  2. 前記樹脂皮膜が0.005μmから3μmの厚みであって、前記基材と前記樹脂皮膜との剥離力が5N/25mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光子。
  3. 基材上に厚みが0.005μmから3μmの範囲の樹脂皮膜を形成する工程と、前記樹脂皮膜上に金属ワイヤを形成してワイヤグリッド偏光子を製造する工程とを含むワイヤグリッド偏光膜の製造方法において、基材上に硬化後樹脂皮膜となる光硬化性樹脂を塗布してから、光硬化性樹脂を紫外線硬化反応させるまでの時間を2秒以内とすることを特徴とするワイヤグリッド偏光膜の製造方法。
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