以下、添付図面を参照して、本願の開示する溶接システム、溶接制御装置及び溶接異常の検出方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施例における例示で本発明が限定されるものではない。
まず、実施例1に係る溶接システムについて、図1を用いて説明する。図1は、実施例1に係る溶接システムのブロック図である。
図1に示すように、実施例1に係る溶接システム1は、溶接ロボット10と、電源装置30と、溶接制御装置50とを備える。
溶接制御装置50は、溶接ロボット10及び電源装置30を制御することによって、被溶接部材である母材Wに対して溶接を行う。具体的には、溶接制御装置50の制御部51は、多関節リンク構造の溶接ロボット10を制御して、溶接ロボット10のロボットアームの先端に取り付けた溶接機器15の位置や姿勢を変化させる。また、溶接制御装置50の制御部51は、電源装置30の電源部32を制御して、溶接に必要な溶接電力を電源部32から溶接機器15へ供給させる。これによって、母材Wに対する溶接が行われる。
さらに、溶接制御装置50は、母材Wに対する溶接の異常状態を検出する異常検出部52を備えている。異常検出部52は、電源装置30の溶接情報検出部33によって検出された溶接情報が所定の異常判定条件を満たす場合に、母材Wに対する溶接が異常状態であると判定する。
ここで、溶接情報検出部33によって検出される溶接情報として、例えば、溶接電流や溶接電圧などのような溶接電力に関する情報がある。また、異常検出部52によって用いられる異常判定条件として、例えば、溶接情報に対する処理内容や異常判定のための閾値(以下、「判定閾値」と記載する)などがある。
異常検出部52は、溶接情報検出部33によって検出された溶接情報に対して所定の処理を行って得られた処理情報を判定閾値と比較し、この比較結果に基づいて、母材Wに対する溶接の異常状態が発生しているか否かを判定する。例えば、異常検出部52は、平均化処理後の溶接情報が判定閾値を越えていると判定した場合に、母材Wに対する溶接が異常状態であることを検出する。
このように、異常検出部52は、溶接情報検出部33によって検出された溶接情報が設定された異常判定条件を満たす場合に、母材Wに対する溶接が異常状態であることを検出する。
ところで、溶接ロボット10及び電源装置30に対する制御部51の制御状態(以下、「溶接制御状態」と記載する)によっては、固定的な異常判定条件では、溶接の異常状態を適切に検出することができない場合がある。
そこで、異常検出部52は、溶接制御状態に応じて、異常判定条件を変更するようにしている。ここで、異常検出部52が異常判定条件を変更するために参照する溶接制御状態として、例えば、溶接速度、溶接法種別、溶接姿勢、電源部32の出力設定などがあり、異常検出部52はこれらの情報を制御部51などから取得する。
溶接速度は、溶接機器15の母材Wに対する溶接の速度である。溶接法種別は、溶接機器15の母材Wに対する溶接法の種別であり、例えば、パルスアーク溶接や短絡アーク溶接などがある。溶接姿勢は、母材Wに対する溶接機器15の姿勢である。
電源部32の出力設定は、電源部32から出力させる溶接電力に関する制御部51の指令値である。例えば、電源部32の出力設定として、溶接機器15へ出力させる溶接電圧に対する指令値(以下、「溶接電圧指令値」と記載する)や溶接機器15へ出力させる溶接電流に対する指令値(以下、「溶接電流指令値」と記載する)などがある。
上述したように異常判定条件として、例えば、溶接情報に対する処理内容や判定閾値などがあり、異常検出部52は、これらの異常判定条件のうち少なくとも一つの異常判定条件を溶接制御状態に応じて変更する。また、溶接情報に対する処理内容の変更には、溶接情報に対する処理の条件を変更するパラメータの変更などがある。
例えば、溶接情報を平均化する平均化処理のパラメータを溶接速度に応じて変更するとした異常判定条件がある場合、異常検出部52は、溶接速度に応じて平均化処理のパラメータを変更する。また、例えば、平均化した溶接情報と比較する判定閾値を、溶接速度に応じて変更する変更条件がある場合、異常検出部52は、溶接速度に応じて判定閾値を変更する。
このように、実施例1に係る溶接システム1では、溶接制御状態に応じて、異常判定条件を変更して母材Wに対する溶接の異常状態を検出するようにしており、そのため、溶接異常の検出を適切に行うことができる。
[溶接システム1の構成]
以下、実施例1に係る溶接システム1の構成について、図面を用いてさらに具体的に説明する。図2は実施例1に係る溶接システム1の外観模式図、図3は実施例1に係る溶接システム1の詳細ブロック図である。
図2に示すように、実施例1に係る溶接システム1は、溶接ロボット10と、電源装置30と、操作装置40と、溶接制御装置50とを備える。なお、ここでは、MIG(Metal Inert Gas)溶接、MAG(Metal Active Gas)溶接などの消耗電極式のアーク溶接を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。例えば、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接などの非消耗電極式のアーク溶接の他、様々な溶接に適用することができる。
[溶接ロボット10]
まず、溶接ロボット10の構成について説明する。溶接ロボット10は、図2に示すように、ベース部11を介して床面などに固定される。溶接ロボット10は、複数のロボットアーム12を有しており、各ロボットアーム12は、内部にサーボモータ13a(図3参照)を備えた関節部13を介して他のロボットアーム12と接続される。
なお、図2に示す関節部13には、両側のロボットアーム12のなす角を変化させるように回転する関節部と、両側のロボットアーム12のなす角を保持したまま回転する関節部とがある。また、関節部13を介して相互に接続されたロボットアーム12のうち、ベース部11に最も近いロボットアーム12の基端はベース部11に固定され、最も遠いロボットアーム12の先端には溶接機器15が取り付けられる。
溶接ロボット10のロボット制御部20(図3参照)は、溶接制御装置50からの指示に従い、各関節部13のサーボモータ13aを個別に任意の角度だけ回転させることで、溶接機器15の位置及び姿勢を変更する。
送給部14は、ロボットアーム12の所定位置に配置され、溶接ワイヤ缶18に格納された溶接ワイヤ18aを、トーチケーブル17を介して溶接機器15へ送り出す。なお、トーチケーブル17は、コンジットケーブル17aを内包しており、コンジットケーブル17a内を通して溶接ワイヤ18aが溶接機器15へ送り出される。
また、送給部14は、ガスボンベ19から供給されたシールドガスを、トーチケーブル17を介して溶接機器15へ供給する。なお、トーチケーブル17は、ガス供給ホース17bを内包しており、ガス供給ホース17b内を通してガスボンベ19から供給されたシールドガスが溶接機器15へ供給される。
また、送給部14には、溶接ワイヤ18aの溶接機器15への送給速度を検出する送給速度検出器が設けられており、この送給速度検出器によって検出された溶接ワイヤ18aの送給速度の情報は電源装置30へ出力される。
溶接機器15は、溶接トーチ15aとコンタクトチップ15bとを備える。溶接トーチ15aは、トーチケーブル17を挿入するために中空構造となっており、溶接トーチ15aの最先端部にコンタクトチップ15bが取り付けられる。
溶接ワイヤ18aは、コンタクトチップ15bの貫通孔を介して、コンタクトチップ15bの先端から送り出される。また、コンタクトチップ15bは、電力供給線17cと接続され、電力供給線17cを介して、電源装置30からアーク溶接のための溶接電力が供給される。
また、溶接トーチ15a内にはガス供給ホース17bの先端開口からシールドガスが供給される。このように供給されたシールドガスは溶接トーチ15aの先端から吐出され、溶接ワイヤ18aの先端から発生するアークを雰囲気から遮蔽する。
[電源装置30]
次に、電源装置30の構成について説明する。電源装置30は、図3に示すように、電源制御部31と、電源部32と、溶接情報検出部33とを備える。
電源制御部31は、溶接制御装置50からの要求に従って電源部32を制御する。例えば、電源制御部31は、溶接制御装置50から溶接開始指令を受信すると、電源部32を制御して、電源部32から溶接機器15への電力供給を行う。また、電源制御部31は、溶接制御装置50から溶接停止指令を受信すると、電源部32を制御して、電源部32から溶接機器15への電力供給を停止する。
また、電源制御部31は、溶接制御装置50から溶接電流指令値Iord、溶接電圧指令値Eord及び溶接法指定値Wtypなどを受信した場合に、これらの情報を電源部32へ設定する。
電源部32は、パルスアーク溶接と短絡アーク溶接のいずれにも対応可能な電源であり、電源制御部31から設定された情報に基づき、溶接電力を溶接機器15へ供給する。具体的には、電源部32は、溶接法指定値Wtypに基づいて、パルスアーク溶接用溶接電力と短絡アーク溶接用溶接電力のいずれかを選択し、溶接電流指令値Iord及び溶接電圧指令値Eordに基づいた溶接電力を電力供給線17c経由で溶接機器15へ出力する。
例えば、パルスアーク溶接用溶接電力の場合、電源部32によって生成されるパルス電圧は、電圧値が高いパルス区間と電圧値が低いベース区間とが交互に繰り返される波形を有する。
パルス区間において、電源部32は、溶接情報検出部33によって検出した溶接電流の波形が、溶接制御装置50から要求された溶接電流指令値Iordに応じた電流波形となるように、パルス電圧の電圧波形を生成する。また、電源部32は、溶接情報検出部33によって検出した溶接電圧の平均値が、要求された溶接電圧指令値Eordに応じた値となるように、ベース区間の時間を変更する。
このように、電源装置30は、電源部32から電力供給線17cを介して溶接電力を溶接機器15へ供給することによって、コンタクトチップ15bと母材Wとの間に溶接電流を流して、溶接ワイヤ18aの先端からアークを発生させる。
溶接情報検出部33は、溶接電圧を検出する電圧検出器33aと、溶接電流を検出する電流検出器33bと、A/Dコンバータ33c,33dとを備える。
電圧検出器33aは、母材Wに接続されたアース線34と電力供給線17cとの間の電圧に基づいて溶接電圧を検出する。電圧検出器33aによって検出された溶接電圧の情報は、A/Dコンバータ33cによってデジタル化され、通信ケーブル35を介して溶接制御装置50へ出力される。
電流検出器33bは、母材Wに接続されたアース線34へ流れる電流に基づいて溶接電流を検出する。電流検出器33bによって検出された溶接電流の情報は、A/Dコンバータ33dによってデジタル化され、通信ケーブル35を介して溶接制御装置50へ出力される。
また、溶接情報検出部33は、送給部14の送給速度検出器から溶接ワイヤ18aの送給速度の情報を取得し、デジタル値のワイヤ速度値Dsとして、溶接制御装置50へ送信する。
次に、操作装置40について説明する。操作装置40は、図3に示すように、入力部41と、通信部42と、表示部43と、制御部44とを備える。この操作装置40は、例えば、アーク溶接の作業内容を作業者がプログラムする場合やアーク溶接の状態を作業者が監視する場合などに用いられる。
入力部41は、キーボードなどを備え、作業者から溶接機器15の軌道や溶接法の種別などの溶接条件の情報(以下、「溶接設定情報」と記載する)を受け付ける。
通信部42は、入力部41によって受け付けられた溶接設定情報を通信ネットワーク56経由で溶接制御装置50へ送信し、また、溶接制御装置50から取得した情報を受信する。なお、通信ネットワーク56としては、有線LAN(Local Area Network)や、無線LANといった一般的なネットワークを用いることができる。
表示部43は、例えば、液晶表示装置などから構成され、溶接制御装置50から通信部42が取得した情報や制御部44から取得した情報などを表示する。
制御部44は、操作装置40全体を制御する。例えば、入力部41から溶接設定情報を取得した場合、制御部44は、溶接設定情報を通信部42から通信ネットワーク56経由で溶接制御装置50へ送信する。
また、制御部44は、溶接制御装置50から通信部42を介して表示すべき情報を受信すると、受信した情報を表示部43に表示させる。例えば、制御部44は、後述する溶接情報や処理情報を溶接制御装置50から取得し、取得した溶接情報や処理情報を表示部43に表示させる。
[溶接制御装置50]
次に、溶接制御装置50について説明する。溶接制御装置50は、図3に示すように、制御部51と、異常検出部52とを備える。また、溶接制御装置50は、操作装置40との間で情報を通信ネットワーク56経由で送受信する通信部53を備える。
まず、制御部51について説明する。制御部51は、操作装置40から溶接設定情報を通信ネットワーク56経由で取得し、取得した溶接設定情報に基づいて、制御ケーブル54,55を介して溶接ロボット10及び電源装置30を制御して、母材Wに対するアーク溶接を行う。溶接設定情報には、ロボット制御情報や電源制御情報が含まれる。
具体的には、制御部51は、溶接設定情報のうちロボット制御情報に従って、溶接ロボット10を制御し、先端のロボットアーム12に取り付けられた溶接機器15の位置や姿勢を変化させる。ロボット制御情報には、溶接予定線の情報や溶接速度の情報などがある。
溶接予定線の情報は、溶接機器15の軌道を示す情報である。すなわち、溶接予定線の情報は、溶接機器15の位置の変化や溶接機器15の母材Wに対する姿勢の変化を示す情報であり、移動位置の座標情報や姿勢情報Anglとして溶接ロボット10へ入力される。溶接速度の情報は、溶接機器15によるアーク溶接の速度を示す情報であり、溶接速度指令値Vordとして溶接ロボット10へ出力される。
また、制御部51は、溶接設定情報のうち電源制御情報に従って電源装置30を制御することによって、送給部14から溶接ワイヤ18aの供給をさせながら電源部32から溶接機器15への溶接電力の供給を行わせて、溶接機器15によるアーク溶接を実行させる。電源制御情報には、溶接電圧指令値Eord、溶接電流指令値Iord、溶接法指定値Wtyp、溶接開始指令、溶接停止指令、溶接ワイヤ18aの送給速度の情報などが含まれる。
このように制御部51は、溶接機器15の位置や姿勢を変化させながら、溶接ワイヤ18aを送給部14から溶接機器15へ送給させ、電源部32から溶接電力をコンタクトチップ15bへ供給させることによって、溶接ワイヤ18aの先端からアークを発生させて母材Wを溶接する。なお、操作装置40から溶接設定情報を取得するのではなく、制御部51が操作装置40からの情報に基づいて溶接設定情報を生成することもできる。
また、制御部51は、異常検出部52によってアーク溶接の異常状態が検出された場合に、溶接ロボット10及び電源装置30を制御してアーク溶接を中断させる。従って、溶接異常となった箇所を作業者が容易に把握することができ、作業者は、溶接異常となった箇所から再度アーク溶接を開始することが容易となる。
また、制御部51は、異常検出部52によってアーク溶接の異常状態が検出された場合に、アーク溶接が異常である旨の情報を通信部53経由で、操作装置40へ通知し、操作装置40の表示部43に表示させる。従って、作業者は、操作装置40の表示部43によってアーク溶接が異常状態となったことを容易に把握することができる。
アーク溶接が異常である旨の情報として、制御部51は、例えば、「ワイヤ切れ状態」、「コンタクトチップ15bと母材Wとの間の距離の増加」、「コンタクトチップ15bと母材Wとの間の距離の減少」、「短絡異常」などの情報を通知する。従って、作業者は、アーク溶接がどのような異常状態かを容易に把握することができる。
なお、制御部51は、作業者からの操作装置40への入力に基づいて、「正常」と「異常」といった2種類の情報のみを表示部43に表示させるモードと、上述のように「ワイヤ切れ状態」などの異常内容を表示部43に表示させるモードを切り替える。従って、作業者は所望の情報を取得することが可能となる。
次に、異常検出部52について説明する。異常検出部52は、処理パラメータ決定部52aと、判定パラメータ決定部52bと、情報処理部52cと、異常判定部52dとを備える。なお、以下においては、異常検出部52の構成の一例を具体的に説明するが、異常検出部52の構成はこれに限定されるものではない。すなわち、異常検出部52は、溶接情報が異常判定条件を満たす場合に、アーク溶接の異常状態を検出し、かつ、溶接制御状態に応じて異常判定条件を変更する構成であればよく、溶接制御状態などに応じて適切な異常検出ができるように種々の変形が可能である。
処理パラメータ決定部52aは、制御部51から、溶接設定情報を取得する。そして、処理パラメータ決定部52aは、取得した溶接設定情報に基づいて、情報処理部52cへ設定する処理パラメータを決定する。
処理パラメータ決定部52aにより決定される処理パラメータは、情報処理部52cにおいて行われる処理に用いるパラメータであり、この処理パラメータにより情報処理部52cにおける処理内容が決定される。また、上述したように、溶接設定情報として、溶接法指定値Wtyp、溶接電流指令値Iord、溶接電圧指令値Eord、溶接速度指令値Vord、姿勢情報Anglなどの情報がある。
ここでは、溶接法指定値Wtyp、溶接電流指令値Iord、溶接電圧指令値Eord、溶接速度指令値Vordに基づいて、処理パラメータを決定する例を挙げて説明するが、処理パラメータの決定に用いる溶接設定情報はこれに限定されない。すなわち、例えば、溶接法指定値Wtyp、溶接電流指令値Iord、溶接電圧指令値Eord、溶接速度指令値Vord、姿勢情報Anglなどの種々の溶接設定情報のいずれか一つ又は複数の情報に基づいて、種々の処理パラメータを決定することができる。
図4は、処理パラメータ決定部52aのブロック図である。処理パラメータ決定部52aは、図4に示すように、移動平均時間演算器61と、短絡判定用電圧値演算器62とを備える。
移動平均時間演算器61は、関数TAVE(Vord,Wtyp,Iord)を演算する演算器であり、溶接速度指令値Vord、溶接法指定値Wtyp及び溶接電流指令値Iordに基づき、移動平均時間Taveを演算する。
短絡判定用電圧値演算器62は、関数VS_SHLD(Iord,Eord)を演算する演算器であり、溶接電流指令値Iord及び溶接電圧指令値Eordに基づき、短絡判定用電圧値Vs_shldを演算する。
処理パラメータ決定部52aは、上述のように演算した移動平均時間Taveと短絡判定用電圧値Vs_shldとを処理パラメータとして情報処理部52cへ設定する。また、処理パラメータ決定部52aは、制御部51から取得した溶接法指定値Wtyp、溶接電流指令値Iord及び溶接電圧指令値Eordを情報処理部52cへ設定する。
判定パラメータ決定部52bは、制御部51から、溶接設定情報を取得する。そして、判定パラメータ決定部52bは、取得した溶接設定情報に基づいて、異常判定部52dへ設定する判定パラメータを決定する。この判定パラメータは、異常判定部52dによって異常判定を行うための閾値である。
図5は、判定パラメータ決定部52bのブロック図である。判定パラメータ決定部52bは、図5に示すように、短絡時間偏差許容値演算器63と、短絡周期偏差許容値演算器64と、アーク溶接開始過渡時間演算器65とを備える。
短絡時間偏差許容値演算器63は、関数TS_DS(Iord,Eord)を演算する演算器であり、溶接電流指令値Iord及び溶接電圧指令値Eordに基づき、短絡時間偏差許容値Ts_dsを演算する。
短絡周期偏差許容値演算器64は、関数TTS_DS(Iord,Eord)を演算する演算器であり、溶接電流指令値Iord及び溶接電圧指令値Eordに基づき、短絡周期偏差許容値Tts_dsを演算する。
アーク溶接開始過渡時間演算器65は、関数TTRNJ(Vord,Wtyp,Iord)を演算する演算器であり、溶接速度指令値Vord、溶接法指定値Wtyp及び溶接電流指令値Iordに基づき、アーク溶接開始過渡時間Ttrnjを演算する。
判定パラメータ決定部52bは、上述のように演算した短絡時間偏差許容値Ts_ds、短絡周期偏差許容値Tts_ds及びアーク溶接開始過渡時間Ttrnjを判定パラメータとして異常判定部52dへ設定する。また、判定パラメータ決定部52bは、制御部51から取得した溶接電流指令値Iord、溶接電圧指令値Eord、溶接法指定値Wtyp及び溶接速度指令値Vordを異常判定部52dへ設定する。
図6は、情報処理部52cのブロック図である。情報処理部52cは、図6に示すように、処理パラメータ記憶部71と、電流波形解析部72と、電圧波形解析部73と、データ記憶部74とを備える。
また、情報処理部52cは、移動平均電流演算器75と、移動平均電圧演算器76と、移動平均ピーク電流演算器77と、移動平均ボトム電流演算器78と、移動平均ピーク電圧演算器79と、移動平均ボトム電圧演算器80と、移動平均短絡時間演算器81と、移動平均短絡周期演算器82とを備える。
処理パラメータ記憶部71は、処理パラメータ決定部52aによって処理パラメータとして設定される溶接電流指令値Iord、溶接電圧指令値Eord、溶接法指定値Wtyp、移動平均時間Tave及び短絡判定用電圧値Vs_shldを記憶する。
電流波形解析部72は、溶接電流値Diを溶接情報検出部33から順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された処理パラメータに基づいて、溶接電流ピーク値Ipと、溶接電流ボトム値Ibとを検出する。
ここで、図7を参照し、電流波形解析部72による溶接電流ピーク値Ip及び溶接電流ボトム値Ibの検出処理手順を説明する。図7は、電流波形解析部72による検出処理の説明図である。
まず、電流波形解析部72は、溶接電流指令値Iordを処理パラメータ記憶部71から読み出し、溶接情報検出部33から順次取得される溶接電流値Diが、溶接電流指令値Iordよりも小さい値から大きい値に変化する時間を判定する。図7に示す例では、溶接電流値Diが溶接電流指令値Iordよりも小さい値から大きい値に変化する時間は、時間T11である。
その後、電流波形解析部72は、溶接電流値Diが、溶接電流指令値Iordよりも小さい値から大きい値に再度変化する時間を判定する。図7に示す例では、溶接電流値Diが、溶接電流指令値Iordよりも小さい値から大きい値に再度変化する時間は、時間T12である。
次に、電流波形解析部72は、図7に示すように、時間T11から時間T12までに取得された溶接電流値Diのうち、最も電流値が高い溶接電流値Diを溶接電流ピーク値Ipとし、最も電流値が低い溶接電流値Diを溶接電流ボトム値Ibとして検出する。
電流波形解析部72は、以上の処理を繰り返し行って、溶接電流ピーク値Ipと、溶接電流ボトム値Ibとを繰り返し検出する。
図6に戻り、情報処理部52cについての説明を続ける。電圧波形解析部73は、処理パラメータ記憶部71に設定された溶接法指定値Wtypがパルスアーク溶接を示す情報である場合(Wtyp=p)と短絡アーク溶接を示す情報である場合(Wtyp=s)とで、次のように異なる処理を行う。
(i)Wtyp=pの場合
電圧波形解析部73は、溶接法指定値Wtypがパルスアーク溶接を示す情報である場合、溶接電圧値Dvを溶接情報検出部33から順次取得し、溶接電圧ピーク値Vpと、溶接電圧ボトム値Vbとを検出する。
ここで、図8を参照して電圧波形解析部73による溶接電圧ピーク値Vpと溶接電圧ボトム値Vbの検出処理手順を説明する。図8は、電圧波形解析部73による検出処理の説明図(その1)である。
電流波形解析部72は、溶接電流指令値Iordよりも小さい値から大きい値に変化する毎に(図7に示す時間T11,T12)、電圧波形解析部73に対して検出信号を出力する。電圧波形解析部73は、電流波形解析部72から検出信号を入力したタイミングに基づき、溶接電圧ピーク値Vpと、溶接電圧ボトム値Vbとを検出する。
具体的には、電圧波形解析部73は、図8に示すように、電流波形解析部72から検出信号を入力した時間T11から次に検出信号を入力した時間T12までに取得される溶接電圧値Dvのうち、最も電圧値が高い溶接電圧値Dvを溶接電圧ピーク値Vpとし、最も電圧値が低い溶接電圧値Dvを溶接電圧ボトム値Vbとして検出する。
電圧波形解析部73は、以上の処理を繰り返し行って、溶接電圧ピーク値Vpと、溶接電圧ボトム値Vbとを繰り返し検出する。
(ii)Wtyp=sの場合
電圧波形解析部73は、溶接法指定値Wtypが短絡アーク溶接を示す情報である場合、溶接電圧値Dvを溶接情報検出部33から順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された情報に基づいて、短絡時間Ts及び短絡周期TTsを検出する。
ここで、図9を参照して電圧波形解析部73による短絡時間Ts及び短絡周期TTsの検出処理手順を説明する。図9は、電圧波形解析部73による検出処理の説明図(その2)である。
まず、電圧波形解析部73は、短絡判定用電圧値Vs_shldを処理パラメータ記憶部71から読み出し、溶接情報検出部33から順次取得される溶接電圧値Dvが、短絡判定用電圧値Vs_shldよりも大きい値から小さい値に変化する時間を判定する。図9に示す例では、溶接電圧値Dvが短絡判定用電圧値Vs_shldよりも大きい値から小さい値に変化する時間は、時間T21である。
次に、電圧波形解析部73は、溶接電圧値Dvが、短絡判定用電圧値Vs_shldよりも小さい値から大きい値に変化する時間を判定する。図9に示す例では、溶接電圧値Dvが短絡判定用電圧値Vs_shldよりも小さい値から大きい値に変化する時間は、時間T22である。
次に、電圧波形解析部73は、溶接電圧値Dvが、短絡判定用電圧値Vs_shldよりも大きい値から小さい値に再度変化する時間を判定する。図9に示す例では、溶接電圧値Dvが、短絡判定用電圧値Vs_shldよりも大きい値から小さい値に再度変化する時間は、時間T23である。
そして、電圧波形解析部73は、図9に示すように、時間T21から時間T22までの時間を短絡時間Tsとして検出し、時間T21から時間T23までの時間を短絡周期TTsとして検出する。
電圧波形解析部73は、以上の処理を繰り返し行って、短絡時間Tsと短絡周期TTsとを繰り返し検出する。
図6に戻り、情報処理部52cについての説明を続ける。データ記憶部74は、溶接電流値Di、溶接電圧値Dv及びワイヤ速度値Dsを溶接情報検出部33から順次取得して記憶する。なお、このデータ記憶部74は、リングバッファによって構成され、溶接電流値Di、溶接電圧値Dv及びワイヤ速度値Dsを最新のものから所定時間前のものまで一定量だけ保持する。リングバッファのサイズは、例えば、記憶するデータの分解能、データのサンプリング周波数、データの記憶時間などによって決定される。
移動平均電流演算器75は、溶接電流値Diを溶接情報検出部33から順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均電流値Iaveを検出する。具体的には、移動平均電流演算器75は、溶接情報検出部33から取得した溶接電流値Diのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの溶接電流値Diの平均を、移動平均電流値Iaveとして演算する。
移動平均電圧演算器76は、溶接電圧値Dvを溶接情報検出部33から順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均電圧値Vaveを検出する。具体的には、移動平均電圧演算器76は、溶接情報検出部33から取得した溶接電圧値Dvのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの溶接電圧値Dvの平均を、移動平均電圧値Vaveとして演算する。
移動平均ピーク電流演算器77は、電流波形解析部72から溶接電流ピーク値Ipを順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均ピーク電流値Ip_aveを演算する。具体的には、移動平均ピーク電流演算器77は、電流波形解析部72から取得した溶接電流ピーク値Ipのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの溶接電流ピーク値Ipの平均を、移動平均ピーク電流値Ip_aveとして演算する。
移動平均ボトム電流演算器78は、電流波形解析部72から溶接電流ボトム値Ibを順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均ボトム電流値Ib_aveを演算する。具体的には、移動平均ボトム電流演算器78は、電流波形解析部72から取得した溶接電流ボトム値Ibのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの溶接電流ボトム値Ibの平均を、移動平均ボトム電流値Ib_aveとして演算する。
移動平均ピーク電圧演算器79は、電圧波形解析部73から溶接電圧ピーク値Vpを順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均ピーク電圧値Vp_aveを演算する。具体的には、移動平均ピーク電圧演算器79は、電圧波形解析部73から取得した溶接電圧ピーク値Vpのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの溶接電圧ピーク値Vpの平均を、移動平均ピーク電圧値Vp_aveとして演算する。
移動平均ボトム電圧演算器80は、電圧波形解析部73から溶接電圧ボトム値Vbを順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均ボトム電圧値Vb_aveを演算する。具体的には、移動平均ボトム電圧演算器80は、電圧波形解析部73から取得した溶接電圧ボトム値Vbのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの溶接電圧ボトム値Vbの平均を、移動平均ボトム電圧値Vb_aveとして演算する。
移動平均短絡時間演算器81は、電圧波形解析部73から短絡時間Tsを順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均短絡時間Tsaveを演算する。具体的には、移動平均短絡時間演算器81は、電圧波形解析部73から取得した短絡時間Tsのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの短絡時間Tsの平均を、移動平均短絡時間Tsaveとして演算する。
移動平均短絡周期演算器82は、電圧波形解析部73から短絡周期TTsを順次取得し、処理パラメータ記憶部71に設定された移動平均時間Taveに基づいて、移動平均短絡周期TTsaveを演算する。具体的には、移動平均短絡周期演算器82は、電圧波形解析部73から取得した短絡周期TTsのうち最新のものから移動平均時間Tave前のものまでの短絡周期TTsの平均を、移動平均短絡周期TTsaveとして演算する。
このように、情報処理部52cは、溶接情報に対して所定の処理を行って処理情報を生成し、異常判定部52dへ出力する。処理情報として、移動平均電流値Iave、移動平均電圧値Vave、溶接電流ピーク値Ip、移動平均ピーク電流値Ip_ave、溶接電流ボトム値Ib、移動平均ボトム電流値Ib_ave、溶接電圧ピーク値Vp、移動平均ピーク電圧値Vp_ave、溶接電圧ボトム値Vb、移動平均ボトム電圧値Vb_ave、短絡時間Ts、移動平均短絡時間Tsave、短絡周期TTs、移動平均短絡周期TTsaveを生成し、異常判定部52dへ出力する。
次に、図10,図11A〜図11Cを参照して、異常判定部52dによって実行される異常判定処理を具体的に説明する。
異常判定部52dは、情報処理部52cから出力される情報及び判定パラメータ決定部52bによって設定される情報に基づいて、アーク溶接の異常を判定する。
情報処理部52cから出力される情報には、上述したように、移動平均電流値Iave、移動平均電圧値Vave、移動平均ピーク電流値Ip_ave、溶接電流ピーク値Ip、移動平均ボトム電流値Ib_ave、溶接電流ボトム値Ib、移動平均ピーク電圧値Vp_ave、溶接電圧ピーク値Vp、移動平均ボトム電圧値Vb_ave、溶接電圧ボトム値Vb、移動平均短絡時間Tsave、短絡時間Ts、移動平均短絡周期TTsave、及び短絡周期TTsが含まれる。
また、判定パラメータ決定部52bによって設定される情報には、上述したように、短絡時間偏差許容値Ts_ds、短絡周期偏差許容値Tts_ds、アーク溶接開始過渡時間Ttrnj、溶接電流指令値Iord、溶接電圧指令値Eord、溶接法指定値Wtyp及び溶接速度指令値Vordが含まれる。
ここでは、理解を容易にするために、一例として、移動平均電流値Iave、移動平均電圧値Vave、移動平均ピーク電圧値Vp_ave、移動平均短絡時間Tsave、移動平均短絡周期TTsave、短絡時間Ts、及び短絡周期TTsに基づいて、いくつかの種類のアーク溶接の異常を判定する例を説明するが、アーク溶接の異常の検出はこれに限定されない。すなわち、異常判定部52dは、情報処理部52cから出力される情報及び判定パラメータ決定部52bによって設定される情報のうち、一部又は全部を用いて種々のアーク溶接の異常を検出することができる。
図10は、異常判定部52dによって実行される異常判定処理の手順を示すフローチャートである。この異常判定処理は、所定時間毎に繰り返し行われる処理である。また、図11A〜11Cは、アーク溶接の異常状態を示す模式図である。
図10に示すように、異常判定部52dは、異常判定処理を開始すると、アーク溶接法の種別がパルスアーク溶接であるか否かを判定する(ステップS100)。この処理において、異常判定部52dは、判定パラメータ決定部52bによって設定された溶接法指定値Wtypがパルスアーク溶接を示す情報である場合に、アーク溶接法の種別がパルスアーク溶接であると判定する。一方、溶接法指定値Wtypが短絡アーク溶接を示す情報である場合に、異常判定部52dはアーク溶接法の種別がパルスアーク溶接ではないと判定する。
アーク溶接法の種別がパルスアーク溶接であると判定すると(ステップS100,Yes)、異常判定部52dは、溶接電流の平均値が増加したか否かを判定する(ステップS101)。この処理において、異常判定部52dは、例えば、情報処理部52cから出力された移動平均電流値Iaveが所定値以上増加したことを所定期間以上検出すると、溶接電流の平均値が増加したと判定する。
ステップS101において、溶接電流の平均値が増加していないと判定すると(ステップS101,No)、異常判定部52dは、溶接電流の平均値が減少したか否かを判定する(ステップS102)。この処理において、異常判定部52dは、例えば、情報処理部52cから出力された移動平均電流値Iaveが所定値以上減少したことを所定期間以上検出すると、溶接電流の平均値が減少したと判定する。
そして、溶接電流の平均値が減少していないと判定すると(ステップS102,No)、異常判定部52dは、アーク溶接は正常であると判定し(ステップS104)、異常判定処理を終了する。
一方、溶接電流の平均値が減少したと判定すると(ステップS102,Yes)、異常判定部52dは、溶接電圧のピーク電圧と平均電圧との差が減少したか否かを判定する(ステップS103)。この処理において、異常判定部52dは、例えば、情報処理部52cから出力された移動平均ピーク電圧値Vp_aveと移動平均電圧値Vaveとの差が所定値以上減少したことを所定期間以上検出すると、溶接電圧のピーク値と平均値との差が減少したと判定する。
溶接電圧のピーク値と平均値との差が減少したと判定すると(ステップS103,Yes)、異常判定部52dは、ワイヤ切れが発生してアーク溶接が異常状態となったと判定し(ステップS105)、異常判定処理を終了する。すなわち、図11Aの右図に示すように、溶接ワイヤ18aがコンタクトチップ15bの先端から送り出されない状態になったと判定する。
ここで、図12A及び図12Bを参照して、ワイヤ切れについて説明する。図12Aは、ワイヤ切れによる溶接電流の変動を示す図、図12Bは、ワイヤ切れによる溶接電圧の変動を示す図である。
図12Aに示すように、例えば、時間T31からワイヤ切れが発生した場合、溶接電流の平均値は、急激に減少した後、一時的に増加に転じ、その後、ワイヤ切れの前の状態よりも減少する。また、溶接電流のピーク値及びボトム値は、一時的に変動するがワイヤ切れの前の状態と同様の状態となる。
一方、溶接電圧のピーク値は、図12Bに示すように、一時的に増加した後、ワイヤ切れの前の状態よりも減少する。また、溶接電圧の平均値及びボトム値は、一時的に変動した後、ワイヤ切れの前の状態と同様の状態となる。
このように、ワイヤ切れが発生した場合、溶接電流の平均値は、ワイヤ切れの前の状態よりも減少した状態となり、溶接電圧のピーク値と平均値との差は、ワイヤ切れの前の状態よりも減少した状態となる。
従って、上述のように、異常判定部52dにおいて、溶接電流の平均値が減少したと判定し、かつ、溶接電圧のピーク値と平均値との差が減少したと判定することによって、ワイヤ切れの異常を判定することができる。
図10に戻り、異常判定処理についての説明を続ける。ステップS103において、溶接電圧のピーク値と平均値との差が減少していないと判定すると(ステップS103,No)、異常判定部52dは、アーク溶接が異常であると判定し(ステップS106)、異常判定処理を終了する。ここで異常判定部52dが判定するアーク溶接の異常は、コンタクトチップ15bと母材Wとの距離(以下、「チップ母材間距離」と記載する場合がある)の増加である(図11B参照)。
ここで、図13A及び図13Bを参照して、チップ母材間距離増加について説明する。図13Aは、チップ母材間距離の増加による溶接電流の変動を示す図、図13Bは、チップ母材間距離の増加による溶接電圧の変動を示す図である。なお、図13A及び図13Bと図12A及び図12Bとでは溶接条件が異なるため、溶接電流の値及び溶接電圧の値が異なるが、溶接条件が異なる場合であっても、チップ母材間距離が増加する場合における平均値、ピーク値、ボトム値の変化の傾向は同様である。
図13Aに示すように、例えば、時間T41からチップ母材間距離が増加した場合、溶接電流の平均値は、チップ母材間距離の増加前の状態よりも減少する。また、溶接電流のピーク値及びボトム値は、一時的に減少するが、その後、ワイヤ切れの前の状態と同様の状態となる。
一方、溶接電圧の平均値、ピーク値は、図13Bに示すように、チップ母材間距離の増加前の状態よりも増加するが、溶接電圧のピーク値と平均値との差は、チップと母材間の距離の増加前の状態と同様の状態である。
このように、チップ母材間距離が増加した場合、溶接電流の平均値は、チップ母材間距離の増加前の状態よりも減少し、溶接電圧のピーク値と平均値との差は、チップと母材間の距離の増加前の状態と同様である。
従って、上述のように、異常判定部52dにおいて、溶接電流の平均値が減少したと判定し、かつ、溶接電圧のピーク値と平均値との差が減少していないと判定することによって、チップ母材間距離が増加したことを判定することができる。
特に、チップ母材間距離が増加した場合、ワイヤ切れが発生した場合と同様に、溶接電流の平均値が減少するものの、溶接電圧のピーク値と平均値との差を判定することで、チップ母材間距離の増加とワイヤ切れの発生とを区別することができる。
図10に戻り、異常判定処理についての説明を続ける。ステップS101において、溶接電流の平均値が増加したと判定すると(ステップS101,Yes)、異常判定部52dは、アーク溶接が異常であると判定し(ステップS107)、異常判定処理を終了する。ここで異常判定部52dが判定するアーク溶接の異常は、チップ母材間距離の減少である(図11C参照)。
ここで、図14A及び図14Bを参照して、チップ母材間距離の減少について説明する。図14Aは、チップ母材間距離の減少による溶接電流の変動を示す図、図14Bは、チップ母材間距離の減少による溶接電圧の変動を示す図である。なお、図14A及び図14Bと図12A及び図12Bとでは溶接条件が異なるため、溶接電流の値及び溶接電圧の値が異なるが、溶接条件が異なる場合であっても、チップ母材間距離が減少する場合における平均値、ピーク値、ボトム値の変化の傾向は同様である。
図14Aに示すように、例えば、時間T51からチップ母材間距離が減少した場合、溶接電流の平均値、ピーク値、ボトム値は、チップ母材間距離の減少前の状態よりも増加する。一方、溶接電圧の平均値、ピーク値、ボトム値は、図14Bに示すように、チップ母材間距離の減少前の状態よりも減少する。
このように、チップ母材間距離が減少した場合、溶接電流の平均値は、チップ母材間距離の減少前の状態よりも増加する。従って、上述のように、異常判定部52dにおいて、溶接電流の平均値が増加したと判定することによって、チップ母材間距離が減少したことを判定することができる。
図10に戻り、異常判定処理についての説明を続ける。ステップS100において、アーク溶接法の種別がパルスアーク溶接ではないと判定すると(ステップS100,No)、異常判定部52dは、短絡時間の偏差を算出する(ステップS108)。具体的には、異常判定部52dは、情報処理部52cから出力される移動平均短絡時間Tsaveと短絡時間Tsとの差を、短絡時間の偏差として算出する。
つづいて、異常判定部52dは、短絡時間の偏差が閾値を越えたか否かを判定する(ステップS109)。具体的には、異常判定部52dは、情報処理部52cから出力される移動平均短絡時間Tsaveと短絡時間Tsとの差が、判定パラメータ決定部52bによって設定される短絡時間偏差許容値Ts_dsよりも大きい場合に、短絡時間の偏差が閾値を越えたと判定する。
短絡時間の偏差が閾値を越えたと判定すると(ステップS109,Yes)、異常判定部52dは、アーク溶接が異常であると判定し(ステップS112)、異常判定処理を終了する。ここで異常判定部52dが判定するアーク溶接の異常は、短絡異常による溶接品質不良である。すなわち、異常判定部52dは、母材Wに対するアーク溶接の品質が正常ではないと判定する。
一方、短絡時間の偏差が閾値を越えていないと判定すると(ステップS109,No)、異常判定部52dは、短絡周期の偏差を算出する(ステップS110)。具体的には、異常判定部52dは、情報処理部52cから出力される移動平均短絡周期TTsaveと短絡周期TTsとの差を、短絡周期の偏差として算出する。
つづいて、異常判定部52dは、短絡周期の偏差が閾値を越えたか否かを判定する(ステップS111)。具体的には、異常判定部52dは、情報処理部52cから出力される移動平均短絡周期TTsaveと短絡周期TTsとの差が、判定パラメータ決定部52bによって設定される短絡周期偏差許容値Tts_dsよりも大きい場合に、短絡周期の偏差が閾値を越えたと判定する。
短絡周期の偏差が閾値を越えたと判定すると(ステップS111,Yes)、異常判定部52dは、アーク溶接が異常であると判定し(ステップS112)、異常判定処理を終了する。ここで異常判定部52dが判定するアーク溶接の異常は、短絡異常による溶接品質不良である。すなわち、異常判定部52dは、母材Wに対するアーク溶接の品質が正常ではないと判定する。
一方、短絡周期の偏差が閾値を越えていないと判定すると(ステップS111,No)、異常判定部52dは、アーク溶接は正常であると判定し(ステップS104)、異常判定処理を終了する。
このように、実施例1では、溶接機器15を有する溶接ロボット10と溶接機器15に溶接電力を供給する電源部32とをそれぞれ制御部51によって制御して、溶接機器15による溶接を実行させる。また、溶接電流及び溶接電圧のうち少なくとも一方を含む溶接情報を検出し、検出した溶接情報が所定の条件を満たす場合に、母材Wに対する溶接の異常状態を検出する。
そして、溶接ロボット10及び電源部32のうち少なくとも一方に対する制御部51の制御状態に応じて、母材Wに対する溶接の異常状態を検出するための条件を変更する。例えば、溶接の速度、溶接法の種別、電源部32の出力設定などに応じて、溶接の異常状態を検出するための条件を変更する。
従って、実施例1に係る溶接システムによれば、母材Wに対する溶接の制御状態に応じて、溶接異常の検出を適切に行うことができる。
なお、上述においては、母材Wに対する溶接の異常状態の一例として、溶接ワイヤ18aの送給切れの発生、コンタクトチップ15bと母材W間の距離の増減、短絡異常による溶接品質不良の発生について説明したが、異常検出部によって検出する溶接異常はこれに限定されない。すなわち、異常検出部によって検出する溶接の異常状態は、例えば、母材Wに対する溶接の品質を損ねる溶接状態であり、アーク切れなども含む。
なお、情報処理部52cに設定されるパラメータと異常判定部52dによって異常判定を行うための閾値とを共に変更するのではなく、どちらか一方を変更するようにしてもよい。
また、上述においては、溶接情報検出部33を電源装置30に設けたが、溶接情報検出部33を溶接制御装置50に設けるようにしてもよい。また、異常検出部52の一部又は全部を電源装置30に設けるようにしてもよい。また、溶接ロボット10と溶接制御装置50とを別体として説明したが、溶接ロボット10と溶接制御装置50とを一体化してもよい。また、溶接ロボット10と電源装置30と溶接制御装置50とを一体化してもよい。
また、上述においては、アーク溶接法の種別として、パルスアーク溶接と短絡アーク溶接の2つの種別について説明したが、アーク溶接法の種別はこれに限定されるものではない。
また、上述においては、溶接情報検出部33から溶接電流値Di及び溶接電圧値Dvをデジタル信号により送信することとしたが、溶接情報検出部33から溶接電流値Di及び溶接電圧値Dvをアナログ信号により送信するようにしてもよい。この場合、情報処理部52cに、A/Dコンバータを設けて、溶接電流値Di及び溶接電圧値Dvをデジタル化して処理するか、溶接電流値Di及び溶接電圧値Dvをアナログ回路によって処理する。