(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年1月19日出願の「Method and System for Crosstalk Cancellation」と題された米国特許出願第11/334,864号の一部継続出願であり、かつその優先権の利益を主張するものである。米国特許出願第11/334,864号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
米国特許出願第11/334,864号は、2006年5月23日に米国特許第7,050,388号として特許付与された、2004年8月5日出願の「Method and System for Crosstalk Cancellation」と題された米国特許出願第10/911,915号の継続出願である。米国特許出願第10/911,915号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
米国特許出願第10/911,915号は、2003年8月7日出願の「Method for Crosstalk Cancellation in High−Speed Communication Systems」と題された米国仮特許出願第60/494,072号の優先権の利益を主張するものである。米国仮特許出願第60/494,072号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
本出願は、さらに、2005年8月23日出願の「High Speed, Mixed−Signal Adjustable Filter and Emulation Channel」と題された米国仮特許出願第60/710,573号の優先権の利益を主張するものである。米国仮特許出願第60/710,573号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
本出願は、2002年3月28日出願の「Method and System for Decoding Multilevel Signals」と題された米国特許出願第10/108,598号、および2003年7月15日出願の「Adaptive Noise Filtering and Equalization for Optimal High Speed Multilevel Signal Decoding」と題された米国特許出願第10/620,477号に関連する。米国特許出願第10/108,598号および米国特許出願第10/620,477号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
本発明は、通信の分野に関し、より具体的には、2つ以上の高速通信チャネル間で発生する可能性のあるクロストーク干渉などの信号または信号効果を、モデル化、エミュレート、またはシミュレートすることに関する。
通信サービスの消費の増加は、通信システムにおけるデータ搬送容量または帯域幅の増加の必要性を促す。クロストークとして知られる現象は、それらの通信システム内でしばしば発生して、高速信号伝送を損ない、これによって通信帯域幅を望まない低いレベルに制限する可能性がある。
クロストークは、1つの通信チャネル内の信号が、別のチャネル上で通信されている異なる信号からの干渉(または妨害)によって害される現象で、通信システム内で生じるものである。干渉は、さまざまな効果が原因で生じる場合がある。例えば、回路基板、電気コネクタ、およびツイストペアケーブル束などの電気システム内で、各電気経路はチャネルとして機能する。高い通信速度においては、これらの導電性経路はアンテナのように振る舞い、電磁エネルギーの放射および受信の両方を行う。本明細書で「アグレッシングチャネル(aggressing channel)」と呼んでいる1つのチャネルから放射されるエネルギーは、本明細書で「ビクティムチャネル(victim channel)」と呼ぶ別のチャネル内に望んでいないにも関わらず結合されるか、またはそのチャネルによって受信される。「クロストーク」として知られる信号エネルギーのこのような望まない伝達は、受信するチャネル上のデータの完全性を損なう可能性がある。1つのチャネルが、1つ以上の他のチャネルにエネルギーを放射することと、1つ以上の他のチャネルからエネルギーを受信することの両方を行う可能性があるという点で、クロストークは、通常、双方向性である。
クロストークは、容量結合されるクロストーク、誘導結合されるクロストークまたは放射されるクロストークなど、いくつかの方法で発生する可能性がある。クロストークは、バックプレーンまたはケーブル環境内で、大きな問題となる可能性がある。複数ピンコネクタ内での結合は、しばしばクロストークの主要なメカニズムである。通信リンクの送信端または近位端において結合が発生する場合、その結合はしばしば近端クロストークまたは「NEXT」と呼ばれる。受信または遠位側で発生する場合、その結合はしばしば遠端クロストークまたは「FEXT」と呼ばれる。NEXTは、一般にFEXTよりも深刻である。
バックプレーンシステムにおいて、NEXTは、通常送信信号が受信信号に干渉することによって発生する。そのような送信信号は、集積回路であってもよいシリアライザ/デシリアライザ(「SERDES」)装置内で発生する可能性がある。受信信号は、一般にSERDES装置への到着時には減衰しており、そのため通常、送信信号は受信信号よりも大きくなる。送信信号から来るNEXTは、受信信号の品質をビットエラーが発生するレベルまで深刻に損なう可能性がある。
クロストークは、通信システムの増加するスループットレートへの重大な障害として浮上しつつある。特に対処しない場合、クロストークは、しばしばノイズとして現れる。特に、クロストークは、受信される信号の値の不確実性を増加させることによって信号品質を低下させ、それによって信頼性の高い通信をより困難にする、すなわち、データエラーが発生する確率が増加する。言い換えると、クロストークは、通常、データレートが増加すると、より問題が多いものとなる。クロストークによって信号の完全性が減少するだけでなく、さらにアグレッシング信号の帯域幅とともにクロストークの量はしばしば増加するので、それによってより高いデータレートの通信はより困難になる。これは、バイナリまたはマルチレベル信号を使用する電気システムにおいて特に当てはまり、その理由は、そのような信号が流れる導電性経路は、通常、それらの信号のレベル遷移に関連して、高い周波数において、より効率的にエネルギーを放射して受信するものだからである。言い換えると、バイナリまたはマルチレベル通信信号内の各信号は、より低い周波数成分と比較してクロストーク劣化をより受けやすい高周波信号成分から構成されている。
増加しつつあるデータスループットレートへのクロストーク妨害は、ビクティム信号の高周波成分が、長い信号伝送経路長(例えば、マルチギガビット/秒のデータレートに対して、長さが数インチの回路トレース)によって大きく減衰する傾向により、さらに悪化する。すなわち、通信信号の高周波成分は、比較的高いレベルのクロストーク干渉を受けるだけでなく、さらに、伝送損失が原因でしばしば微弱であるため、干渉を受けやすい。
それらの減衰させられた高周波成分は、チャネル等化として知られる技術によって増幅されてもよいが、そのようなチャネル等化は、データを搬送する高周波信号を増幅することの副産物として、ノイズおよびクロストークもしばしば増加させる。通信リンク内に存在するクロストークの量は、信号の完全性を復元するために利用されることが可能な等化のレベルをしばしば制限する。例えば、次世代のバックプレーンシステムのために望ましいマルチギガビット/秒のデータレートにおいては、通信チャネル上のクロストークエネルギーのレベルは、そのような高速通信の基礎となる高い周波数において、ビクティム信号エネルギーのレベルを超過する可能性がある。このような状況では、外部からの、または漂遊の信号エネルギーが、望ましいデータ搬送信号のエネルギーよりも優位を占める可能性があり、したがって、ほとんどの従来のシステムアーキテクチャを使用して、これらのデータレートで通信を行うことは、実際的なものではなくなっている。
「ノイズ」という用語は、本明細書で使用する場合、クロストークとは異なり、完全にランダムな現象を意味する。対照的に、クロストークは、決定性のパラメータであり、ただし、しばしば未知のパラメータである。従来技術は、クロストークを軽減するためにシステムを修正することは理論的に可能であるという知識を含んでいる。特に、(i)干渉している、またはアグレッシングチャネル上で通信されているデータと、(ii)アグレッシングチャネルからビクティムチャネルへの結合において発生する信号変換と、の定義を使用して、クロストークは、理論的に決定され、キャンセルされることが可能である。すなわち、通信チャネル内に入力され、通信信号によって搬送されるデータが既知であり、かつ、クロストークによって通信信号に与えられる信号変換もまた既知であるならば、クロストーク信号劣化はキャンセルすることが可能であるということを、当業者は理解している。しかし、クロストークを適切にキャンセルするシステムの実際的な実施をサポートするために、この信号変換の定義のレベルが十分な精度および確度を有するレベルまで、従来技術を使用して達成することは困難である。その結果、クロストークに対処する従来技術は、高速な(例えば、マルチギガビット/秒の)通信システムに対しては、一般に不十分である。したがって、ビクティム信号の忠実度を向上させるため、そして、増加しつつあるデータスループットレートに対してクロストークがしばしばもたらす障害を取り除くために、クロストークをキャンセルすることが、当技術分野において必要とされている。
クロストークの元となる物理学(例えば、電気システムにおける電磁結合、または光学システムにおける4光波混合)は、一般によく理解されているが、理解のみでは、クロストーク伝達関数のための直接的かつ単純なモデルは提供されない。従来のモデル化が困難である1つの一般的な理由は、ビクティム(victim)およびアグレッサ(aggressor)信号経路の相対的な幾何学的配置が、クロストーク効果の伝達関数に大きく影響し、それらの信号経路はかなり複雑な可能性があるということである。言い換えると、信号導管の解析に基づく従来のモデル化方法を使用してクロストークをモデル化するための努力は、信号経路が複雑であることによって通常は阻止される。さらに、所定の特定のクロストーク応答のためのクロストークキャンセラを設計することは、一般に望ましくなく、その理由は、(i)システムは、さまざまなビクティム−アグレッサペアについて、多くのさまざまな応答を有する場合があるということ(それぞれが特定の設計を必要とするということ)、および(ii)異なるシステムは、異なる設計の組を必要とする場合があるということである。したがって、十分な柔軟性を有するクロストークキャンセルのシステムおよび方法が、当技術分野において必要とされており、このようなシステムおよび方法における柔軟性は(i)与えられたシステムの通常の動作から生じる可能性のあるさまざまなクロストーク伝達関数に対応するためのものであり、(ii)各ビクティム−アグレッサペアについての特性化および調節の複雑な手動作業を回避するために自己キャリブレーションのためのものである。
クロストークキャンセルのための従来技術のもう1つの制限は、速度に関係する。なぜなら、そのような技術は、通常、マルチギガボーレートをサポートするチャネルなどの高速環境に非常に適しているわけではないからである。すなわち、従来のデータ処理技術に基づくクロストークキャンセル装置は、例えば、1、2、または10ギガビット/秒を超えるデータ伝送レートに対応するための十分な速度で動作しない場合がある。より大まかに言えば、信号または信号効果をエミュレートするための従来技術は、広範な適用例のための適切な信号処理速度をしばしば欠いている。
当技術分野におけるこれらの代表的な欠点に対処するために必要とされていることは、高速環境と共存できるが、低電力消費と、妥当な生産コストとを提供することのできるクロストークキャンセルのための機能である。信号、信号変換または信号効果をエミュレートまたはモデル化することが可能な高速回路に対する別の必要性がある。信号、信号変換または信号効果を、正確に、かつ精密にエミュレート、モデル化またはシミュレートすることが可能なアナログまたは混合信号回路に対するさらに別の必要性がある。1、2、または10ギガビット/秒、あるいはそれ以上で動作するデータ伝送チャネル上で発生するクロストークを補償することが可能なシステムに対する、さらに別の必要性がある。そのような機能は、改善された信号処理を容易にし、かつ/または、より高いデータレートをサポートして、さまざまな通信適用例において帯域幅を向上させる。
本発明は、信号への効果をエミュレートするため、シミュレートするため、モデル化するため、またはその他の方法で表現するために、信号のサンプルを処理することをサポートする。その効果として可能性があるものをいくつか挙げると、信号変換、信号遅延、何らかの他の信号または事象との信号同期化、信号の再整形または変形、クロストーク効果、別の信号またはサンプリングされる信号から何らかの他の信号へのエネルギー伝達などがある。
本発明の一つの態様では、回路が、信号変換を特徴づける1つ以上の信号処理パラメータに従って信号のサンプルを処理することによって、信号変換の表現を生成してもよい。したがって、回路は、現実世界の信号変換の表現または理論的信号効果の表現を生成するために、デジタル信号のサンプルを処理してもよい。デジタル信号は、例えば、バイナリ信号における2つのレベルなど個別の数のデジタル化されたレベルを含んでいてもよい。処理のさまざまな段階においてデジタル信号自体と同じ数のデジタル化されたレベルをサンプルが維持するように、デジタル信号のサンプルを処理することはアナログ信号処理を適用することを含んでいてもよい。言い換えると、サンプルを処理することは、サンプリングされる前のデジタル信号内にすでに存在している任意のデジタル化を超えてサンプルをデジタル化することを必ずしも含まない。それにもかかわらず、処理は、例えば1つ以上の処理パラメータを設定するデジタルコントローラからのフィードバックを介したデジタル制御の下で進行してもよい。したがって、回路は、例えば信号に対して、アナログ信号処理、混合信号処理またはアナログおよびデジタル処理の組み合わせを適用してもよい。
サンプルを処理することは、サンプルを遅延させること、および/または整形することを含んでいてもよい。サンプルを整形するために、有限インパルスフィルタがサンプルを処理して所望の波形形状を作成してもよい。有限インパルスフィルタは、タップ付き遅延線(tapped delay line)のアナログ実施を含んでいてもよい。サンプルは、高周波減衰またはロールオフを緩和するために、サンプルにエネルギーを追加する機能をそれぞれが有する一連の遅延ステージを通じて伝送されてもよい。すなわち、タップ付き遅延線は、能動要素を含んでいてもよい。
回路は、サンプルの成分または実質的にサンプル全体を、遅延が異なる2つの信号経路に送り込んでもよい。したがって、2つの信号経路は、一方が他方よりも時間的に進んだ2つの信号を出力してもよい。回路は、2つの信号にそれぞれの重み、スケーリングファクタまたは利得を適用してもよい。重みは、一方が増加した場合に他方が減少するように相互に相補的であってもよく、または相互に逆数であってもよい。回路は、加算、減算、合計または何らかのその他の形態の信号合成を用いて、2つの重み付けされた信号を合成してもよい。
回路は、さらに、または代わりに、遅延要素のネットワークを通るようにサンプルをルーティングしてもよく、遅延要素のネットワーク内では1つ以上のスイッチング装置、ルーティング要素またはトランジスタが、ルートを、したがって結果として生じる遅延を決定してもよい。したがって、回路は、2つの(またはそれよりも多くの)遅延要素を含んでいてもよい。選択された量の遅延をサンプルに付与するために、回路は、2つの遅延要素を通るようにサンプルをルーティングしてもよい。より少ない遅延が所望される場合に、回路は、遅延要素のうちの1つを通るように信号をルーティングし、その一方でもう1つの遅延要素はバイパスしてもよい。このようにして、回路は設定可能なレベルの遅延を提供してもよい。
この概要に示す信号効果をエミュレートすることの説明は、あくまで例示を目的としている。本発明のさまざまな態様は、開示される実施形態の以下の詳細な説明の検討から、ならびに図面および特許請求の範囲を参照することによって、より明確に理解および認識されるであろう。さらに、本発明のその他の態様、システム、方法、特徴、利点および目的が、以下の図面および詳細な説明を考察することによって、当業者にとって明白となるであろう。すべてのそのような態様、システム、方法、特徴、利点および目的は、本明細書に含まれること、本発明の範囲に含まれること、および任意の添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図されている。
本発明の多くの態様は、図面を参照することにより、より良く理解されることが可能である。図面内の構成要素は必ずしも一定の縮尺ではなく、それよりもむしろ本発明の例示的実施形態の原理を明確に説明することに重点が置かれている。さらに、図面内で、参照する番号は、複数の図面にわたって、類似した、または対応する、しかし必ずしも同一ではない要素を示している。
バックプレーン上で通信を行っている2つのラインカードを有し、クロストークが発生している通信システムの機能ブロック図を示す。
図1に示すシステムのためのクロストークモデルの機能ブロック図を示す。
本発明の例示的実施形態に係るバックプレーン−ラインカードコネクタについてのクロストーク応答のプロットを示す。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルシステムの機能ブロック図を示す。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置の機能ブロックを含むクロストークキャンセルシステムの機能ブロック図を示す。
本発明の例示的実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る調節可能な遅延を有するクロストークキャンセル装置のクロストークモデル化フィルタの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係るハイパスフィルタを有するクロストークキャンセル装置のクロストークモデル化フィルタの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置の制御モジュールの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークをキャンセルするためのプロセスを説明するフローチャートである。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置をキャリブレーションするためのプロセスを説明するフローチャートである。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルを実施する前の通信システムのテストデータを示す。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルを実施した後の通信システムのテストデータを示す。
本発明の例示的実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタに基づく信号遅延装置の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る伝送路をシミュレートする受動回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る信号、信号効果または信号変換を、エミュレート、シミュレートまたはモデル化するための回路の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る一緒にカスケードされた受動フィルタリングステージの線形回路における周波数の関数としての減衰のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係る直列に接続された能動ステージに基づく回路における時間の関数としての信号振幅のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る信号遅延を制御するための回路の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る信号遅延を制御するための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る有限インパルス応答(FIR)フィルタの回路図である。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路からの出力パルスにおける時間の関数としての電圧のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路からの出力パルスにおける時間の関数としての電圧のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路における遅延プロットのファミリーのグラフである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路における遅延設定の関数として測定された遅延のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路における立ち上がり時間のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路におけるアイダイアグラムである。
本発明の例示的実施形態に係る信号への効果をエミュレートすることに関連して、信号を遅延させるためのプロセスのフローチャートである。
本発明の例示的実施形態に係る信号変換をエミュレートすることに関連して、遅延させられた信号を合成するためのプロセスのフローチャートである。
本発明は、時間遅延の選択可能なレベルと周波数に依存する利得とを信号サンプルに適用することによって、別の信号のチャネル内への第1の信号の望ましくない結合などの信号変換をモデル化することをサポートすることが可能である。
本発明の例示的実施形態では、高速デジタルデータ通信システムなどの通信システム内における1つ以上の通信経路上でのクロストークを、キャンセルすることをサポートすることが可能である。すなわち、本発明の例示的実施形態は、2つ以上の通信チャネル間で発生しているクロストークなどの信号干渉を補償することをサポートすることが可能である。クロストークを補償することにより、信号品質が向上し、通信帯域幅または情報搬送能力が増す可能性がある。
クロストーク効果の柔軟で適合性のあるモデルは、クロストーク干渉を正確に表すキャンセル信号を出力することが可能である。このキャンセル信号を、クロストークを有する信号経路上に結合することにより、そのようなクロストークをキャンセルすること、そしてそれによってクロストークが帯域幅に対して負わせる可能性がある損傷を無効にすることが可能である。
1つの通信チャネル上で伝送されている通信信号は、クロストークなどの望ましくない信号を、別の通信チャネル内に結合して、そのチャネル上で伝送されている通信信号に干渉する可能性がある。2つのチャネル間で発生することに加えて、このクロストーク効果は、複数の通信チャネル間で結合する可能性もあり、その場合には、各チャネルは2つ以上のチャネルにクロストークを生じさせ、2つ以上のチャネルからクロストークを受ける。チャネルは、信号経路を提供する導電体または光ファイバなどの媒体であってもよい。1本の光ファイバまたはワイヤが、2つ以上のチャネル(それぞれがデジタルまたはアナログ情報を伝達している)のための伝送媒体を提供してもよい。あるいは、各チャネルが専用の伝送媒体を有していてもよい。例えば、回路基板が、複数の導体を回路トレースの形態で有し、それらのトレースのうちの各トレースが、専用の通信チャネルを提供してもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置が、クロストーク干渉を受けているチャネル内にクロストークキャンセル信号を入力して、受けたクロストークをキャンセルするか、またはその他の方法で補償してもよい。クロストークキャンセル信号は、クロストークを発生させている別のチャネル上を伝播している信号から導き出されるか、または生成されてもよい。クロストークキャンセル装置は、クロストークを発生させるチャネルと、クロストークを受けるチャネルとの間に結合されてもよい。この構成では、クロストークキャンセル装置は、クロストークを引き起こしている信号の一部をサンプリングするか、または受信してもよく、そして望ましくないクロストークを受けているチャネルに適用するためのクロストークキャンセル信号を作成してもよい。言い換えると、クロストークキャンセル装置は、クロストークのキャンセルまたは補正を提供するために、クロストークを引き起こしているチャネルにタップを付けて、クロストークキャンセル信号を生成し、クロストーク干渉を受けているチャネルにクロストークキャンセル信号を適用してもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置は、クロストーク効果のモデルを介してクロストークキャンセル信号を生成してもよい。モデルは、クロストーク信号を推定する、近似する、エミュレートする、またはなぞらえるような信号の形態で、クロストークキャンセル信号を生成してもよい。クロストークキャンセル信号は、実際のクロストーク信号に一致する波形または形状を有していてもよい。モデル化パラメータの組などのモデルを調節する設定値または調節手段が、この波形の特性を定義してもよい。
クロストークキャンセル信号は、実際のクロストーク信号と同期してもよい。すなわち、クロストークキャンセル信号のタイミングは、実際のクロストーク信号のタイミングに一致するように調節されてもよい。時間遅延またはその他のタイミングパラメータが、クロストークキャンセル信号と実際のクロストーク信号との間の相対的なタイミングまたは時間的な対応関係を定義してもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル信号が実際のクロストークに密接に一致し、それによって効果的なクロストークキャンセルがもたらされるように、クロストークキャンセル装置は、モデル化、遅延、タイミングおよび/または信号整形の調節を実施してもよい。クロストークキャンセル装置のコントローラはクロストークキャンセル装置の出力を監視および解析してもよい。すなわち、コントローラはクロストークがキャンセルされた信号を処理してもよい。このクロストークがキャンセルされた信号は、クロストーク干渉を有するチャネルにクロストークキャンセル信号を適用することによってもたらされた改善された通信信号である。クロストークをキャンセルした後に残っている残留クロストークを最小にするために、コントローラは、モデル化パラメータおよび時間遅延を、個別にまたは一斉に変化させてもよい。クロストークキャンセル装置の動作を調節することにより、クロストーク効果の流動的な状況および/または変動が補償されてもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置は、内部からまたは外部から起動されるキャリブレーションまたはセットアップ手順を経てもよい。キャリブレーション手順を実行しているクロストークキャンセル装置またはその他の装置は、既知のまたは所定のテスト信号の通信チャネル上への伝送を開始してもよい。テスト信号は、クロストークを引き起こすチャネル、またはクロストーク干渉を受けるチャネル上に伝送されてもよい。また、1つのテスト信号が、クロストークを発生させているチャネル上に伝送され、その一方、異なるテスト信号が、発生させられたクロストーク干渉を受けているチャネル上に伝送されてもよい。例えば、ランダム化された通信信号が、クロストークを発生させているチャネル上を伝播してもよく、一方、クロストークを受けているチャネルは、実質的にデータ伝送が行われていないことを表す均一な電圧または電流信号を有していてもよい。クロストークキャンセル装置は、これらの既知の条件を利用して、クロストーク干渉を効果的に補償するクロストークキャンセル信号のタイミングおよび形状を定義してもよい。言い換えると、クロストークを発生させている通信チャネル上で、およびクロストークを受けている通信チャネル上で伝送されるテスト信号を使用し、クロストークキャンセル装置は、クロストークキャンセル装置を動作させることに基づいたクロストーク効果のモデルを定義するか、またはさらに精密にしてもよい。
次に、図1〜図30に提示する図面(複数の図面にわたって同様の番号は同様の要素を示す)のそれぞれを参照して、本発明の例示的実施形態について詳細に説明する。図1〜図12は、一般に、通信クロストークを補正、キャンセル、または補償するための方法およびシステムに関する。図13〜図30は、一般に、クロストーク(または、何らかのその他の現象)に関連して発生する場合がある信号、信号変換および信号効果を、モデル化すること、シミュレートすること、またはエミュレートすることに関する。したがって、図13〜図30は、クロストークへの対処に関連して信号を処理するための例示的方法およびシステムを提供する。それゆえに、図1〜図12を参照して本明細書で説明するクロストークキャンセル装置は、図13〜図30を参照して本明細書で説明する技術を含んでいてもよい。
ここで、図1を参照すると、この図は、バックプレーン信号経路120、130上で通信を行っている2つのラインカード101a、101bを有し、クロストーク150、151を示している通信システム100の機能ブロック図を示している。より具体的には、図1は、バックプレーン通信システム100の例示的場合におけるバックプレーンクロストーク150およびコネクタクロストーク151の発生を示したものである。
ラインカード101a、101bは、シャーシスロットからスライドして挿入されて出し入れするモジュールであり、通常は回路基板であって通信チャネルに関連する通信機能を提供する。バックプレーン103は回路トレースなどの信号経路の1組であり、そのようなシャーシの背面に位置している。そして、このシャーシは、それぞれ取り付けられたラインカード101a、101bと、別の通信装置との間で信号を伝送しており、この別の通信装置とは、別のラインカード101a、101bまたはラックマウント型デジタル通信システム内のデータ処理構成要素などである。
図1に示すシステム100内の各ラインカード101a、101bは、2つの図示されているチャネル120、130などの複数のチャネルのデータを送信および受信する。例示的チャネル130は、(i)ラインカード101a上のトランスミッタ(Tx)104aから始まり、(ii)ラインカード101aを離れ、コネクタ102aを通して、バックプレーン103に伝わり、(iii)バックプレーン103を横切って、別のコネクタ102bおよびラインカード101bに継続され、(iv)レシーバ(Rx)105bによって受信される。図1は、「ビクティム(victim)」または「vict.」(ビクティムトランスミッタ104aからビクティムレシーバ105bまで)および「アグレッサ(aggressor)」または「agg.」(アグレッサトランスミッタ104bからアグレッサレシーバ105aまで)とラベル付けされた2つのそのようなチャネルを示している。
信号経路120、130が、相互にきわめて接近している場合、アグレッサチャネル120から信号エネルギーが放射され、ビクティムチャネル130内に取り入れられる。すなわち、第1の信号経路が第2の信号経路の近くに配置されているバックプレーン103およびコネクタ102a、102bの領域内では、第1の信号経路内を伝播している信号エネルギーの一部が、第2の信号経路内に結合して、この第2の信号経路上を伝播している信号を害するか、または損なう可能性がある。このクロストーク結合150は、例えば、ラインカード101a、101b上、コネクタ102a、102b内、バックプレーン103上、またはその任意の組み合わせにおいて発生する場合がある。
図1には示していないが、クロストークは、さらに逆方向でも発生する可能性がある。具体的には、「ビクティム(victim)」チャネル130は、しばしば「アグレッサ(aggressor)」チャネル120を害するエネルギーを放射する。すなわち、クロストークは、双方向の様式で頻繁に発生して、第1の信号経路から第2の信号経路へだけでなく、第2の信号経路から第1の信号経路へも伝達される。さらに、相互にきわめて近接して共存している3つ以上の信号経路を有するシステム(図示せず)では、クロストークは、3つ以上の信号経路間で伝達される可能性がある。すなわち、1つの信号は、2つ以上の他の信号にクロストークを負わせるだけでなく、2つ以上の他の信号からクロストーク干渉を受ける可能性もある。
図1に示して上記で説明した、複数の物理経路の場合と同様に、クロストークは、1つの伝送媒体(例えば、1つのケーブルまたはトレース)上を伝播しているアグレッサおよびビクティムチャネルについて発生する可能性がある。このシナリオにおいては、各チャネルは特定の信号帯域(例えば、周波数分割多重システムにおける周波数帯域、光波長分割多重システムなどにおけるスペクトルバンド、または時分割多重システムにおける時間ウィンドウ)に対応してもよい。言い換えると、1つはクロストークを発生させており、1つはクロストークを受けている2つの通信チャネルは、光導波路またはワイヤなどの通信媒体内で共存して、各通信チャネルが専用の通信信号の伝送をサポートしていてもよい。
説明をわかりやすくするために、それぞれが独立した物理経路上にある2つのチャネル間で発生しているクロストークに基づいた本発明の例示的実施形態を、図1に示し、本明細書で詳細に説明する。本発明の別の例示的実施形態では、方法およびシステムは、1つの通信媒体上で共存しているチャネル間で発生しているクロストークをキャンセルする。当業者であれば、本明細書に含まれる詳細な説明、フローチャート、プロットおよび機能ブロック図に従って、1つの通信媒体上のクロストークを示している2つ以上のチャネルを有する適用例について、本発明を作製および使用することが可能であろう。
次に、図2を参照すると、この図は、図1に示したシステム100のためのクロストークモデル210の機能ブロック図200を示す。より具体的には、図2は、1つの例示的伝達関数210に基づいたコネクタ102b内でのクロストーク効果151のモデル210を示したものである。
アグレッサトランスミッタ104bは、アグレッサチャネル120上にアグレッサ通信信号u(t)215を出力する。このアグレッサ通信信号u(t)215からのエネルギーは、コネクタ102b内でのクロストーク151を介して、ビクティムチャネル130内に結合する。アグレッサ通信信号u(t)215は、ある範囲にわたる周波数から構成される。クロストーク151は周波数に依存する現象であるため、アグレッサ通信信号u(t)215の周波数は、さまざまな効率でビクティムチャネル内に結合する。クロストーク効果151の周波数モデルH(f)210は、これらの周波数成分のそれぞれが信号n(t)230の形態でビクティムチャネル130内に結合する程度を表現する。このクロストーク信号n(t)230は、ビクティムトランスミッタ104aからビクティムチャネル130上を伝播している純然たる通信信号x(t)214と合成される。ビクティムチャネル130は、結果として生じる合成信号y(t)260を、ビクティムレシーバ105bに伝送する。
クロストーク伝達関数210は、周波数応答H(f)210(または、その時間領域での同等なインパルス応答h(t))によって特徴付けられてもよい。図2に示すように、応答H(f)210は、アグレッサデータ信号u(t)215がアグレッシングトランスミッタ104bからビクティムレシーバ105bへのルートのコネクタ部分において遭遇する変換を伝えるものである。この応答210の詳細は、通常、特定のビクティム−アグレッサチャネルペアによって異なる。それにもかかわらず、応答の一般的性質は、幾何学的制約と、基礎をなす物理学とに基づいている。例えば、バックプレーンコネクタのクロストーク応答151は、物理的システムパラメータに依存してもよい。バックプレーンクロストーク150も、伝達関数を使用してモデル化されてもよく、そして、バックプレーンおよびコネクタクロストーク150、151は、(異なるにも関わらず)1つの伝達関数を使用して捕捉されてもよい。
ラインカード−バックプレーン接続上で発生しているクロストークをクロストークキャンセル装置が補償する本発明の例示的な非限定的実施形態を、図3〜図12Bを参照して以下で説明する。本明細書に開示される実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなるように、そして、本発明の範囲を当業者に伝えるものとなるようにするために提供される。本発明はバックプレーン上で、または通信システム内のその他の位置において発生しているクロストークに対処するために適用されることが可能であるということ、および、本発明はさまざまな形態のクロストークを補償することが可能であるということを、当業者は理解するであろう。
次に、図3を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るバックプレーン−ラインカードコネクタ102bにおけるクロストーク応答210のプロット300を示す。このプロット300は、クロストーク信号151における電力の実験室の測定値を示したものであり、より具体的にはコネクタ102b内でアグレッサチャネル120からビクティムチャネル130に伝達される電力の周波数の関数である。横軸は、ギガヘルツ(GHz)の単位で測定された周波数である。縦軸は、デシベル(「dB」)単位の信号電力、より具体的にはクロストーク周波数応答210の2乗を、10を底とする対数として、その10倍を示したものである。したがって、このプロット300は、1つのチャネル120から別のチャネル130に伝達されるクロストーク電力のレベルを、アグレッサ信号u(t)215の各周波数成分について示したものである。
コネクタ102a、102b内でのクロストーク151の主要なメカニズムは、通常、コネクタのピン間の容量結合である。このメカニズムは、図3において、プロット300の応答の一般的な高域通過性として明白にわかる。言い換えると、プロット300は、約1GHzより上のより高い信号周波数が、1GHzより下のより低い周波数よりも容易にクロストークメカニズム151を介してエネルギーを伝達するという傾向を示す。約1GHz未満を示すプロット300の左側は、約−25dB未満の電力を有する減衰したクロストーク信号を示す。したがって、通信信号u(t)215の約1GHz未満の周波数成分は、それらの通信信号の搬送される電力の比較的小さな部分を、コネクタクロストーク151を介してビクティムチャネル130に伝達するということを、このプロット300は示している。クロストーク151の大きさは、約0.25GHzと1GHzとの間で増加する。したがって、このプロット300に基づいて考えれば、ビクティム通信信号x(t)214の約1GHzと4.25GHzとの間の周波数を有する成分は、類似した信号周波数を有するアグレッサ通信信号u(t)215からのクロストーク効果151を特に受けやすい。
さらに、2GHzより上の周波数における周波数応答プロット300内の変動は、クロストーク効果151がピンのペア間の単純な容量結合以外の効果によって大きく影響されることを示している。言い換えると、2GHzより上では、プロット300は周波数の増加に伴って一般に漸近的に(かつ単調に)増加する古典的な容量結合応答から外れている。対照的に、図示されているプロット300は、約4.6GHzにおける極小などの頂部と谷部のパターンを、より高い周波数において示す。
上記のように、適切なクロストークキャンセルは、システムのクロストーク応答を正確にモデル化することに大きく依存する。クロストークキャンセルのパフォーマンスは、クロストーク効果が強い周波数についてのモデルの正確さ、すなわち、約1GHzより上の周波数についてのモデルの正確さに特に依存する。
プロット300内の前述の頂部と谷部の高次効果は、事前には一般に知られていないビクティム信号経路130とアグレッサ信号経路120との間の特定の相対的な幾何学的関係に大きく依存する。言い換えると、信号に対する実際のクロストークの影響に関する経験的データまたはテスト測定値なしに、通信経路の幾何学的または物理的な解析に基づいて、正確かつ十分なクロストークモデルを導き出すことは、問題が多い可能性がある。
別の言い方をすれば、図3のプロット300は、通信信号214、215のより高い周波数成分はクロストーク151を特に受けやすいということを含んでいることを示しており、また、それらのより高い周波数成分についてのクロストーク応答210をモデル化することは、この高周波応答の本質的に不安定な性質に対処することを含んでいることを示している。システムのクロストーク応答210の正確なモデルは、適切なクロストークキャンセルのための基礎を提供することが可能であるため、そのようなモデルはそれらの高次の不安定な応答特性を正確に表す必要がある。受動回路解析では、必要な精度を有するモデルは容易には導き出されないのに対して、実際の信号応答は適切なモデルを構築するための基礎として役立つ可能性がある。
本発明の一つの例示的実施形態では、図3に示すプロット300内に提示されている測定データなどのクロストーク測定データに基づいて、クロストークキャンセル装置内のクロストークモデルが定義されてもよい。実験室内でそのような測定データを取得することの代案として、例えば、図9および図11を参照して以下で説明するように、クロストークキャンセル装置をキャリブレーションモードに切り換えることによって、現場作業中にデータを取得してもよい。
次に、図4を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルシステム400の機能ブロック図を示す。上記のように、本発明は、図1および図2に示して上記で説明した通信システム100などの高速ディジタル通信システム内におけるクロストークキャンセルを提供することが可能である。より具体的には、図1、図2、図3および図4を参照して上記で説明したように、バックプレーン−ラインカードコネクタ101b内で発生しているクロストーク151をキャンセルするように配置されたクロストークキャンセル装置またはクロストークキャンセラ(「XTC」)401を、図4は示している。
デジタルデータx(t)214は、ビクティムレシーバ105bによって受信されるようにビクティムチャネル130内を伝播する。ビクティムチャネル130は、さらにアグレッサトランスミッタ104bによって出力されたデジタルデータu(t)215から導き出され、かつビクティムレシーバ105bにおける受信は意図されていない望まないクロストーク信号n(t)230も搬送する。意図されたデータストリーム信号x(t)214と、クロストーク信号n(t)230とは、合成信号y(t)260を付加的に形成する。クロストークキャンセラ401は、合成信号y(t)260を受信し、キャンセルによって、この信号260からクロストーク干渉n(t)230を補正し、そして補正された信号z(t)420を、ビクティムレシーバ105bによる受信のために出力する。すなわち、クロストークキャンセラ401は、実際のクロストーク230の推定を、ビクティムチャネル130内を伝播している信号260に適用して、クロストーク信号要素230を効果的にキャンセルし、一方で、望ましいデータ信号214は実質的にそのままにする。
クロストークキャンセラ401が実行するステップは、以下を含む。
(i)y(t)260(クロストーク151によって害されたビクティム信号)と、u(t)215(クロストーク信号230を引き起こしているアグレッサチャネル120上を伝播しているアグレッサ信号)の代表的な部分とを、独立した入力として受け入れるステップ。
(ii)伝送されたアグレッサ信号u(t)215を、クロストーク効果151を介してシステム200内で実際に発生する信号変換210をエミュレートするためのクロストーク推定に、変換するステップ。
(iii)ビクティムy(t)260のクロストーク信号n(t)230成分をキャンセルするために、ビクティムy(t)260からモデル化されたクロストークを減算するステップ。
(iv)クロストーク補償のための特定の技術を有さない従来のレシーバであってもよいビクティムレシーバ105bに、補償された信号z(t)420を出力するステップ。
次に、図5を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルシステム500の機能ブロック図を示す。より具体的には、図5は、クロストークモデル501と、加算ノード502と、コントローラ、電子制御「メカニズム」または制御モジュール503とからなる3つの機能要素501、502、503を有する例示的クロストークキャンセラ401のアーキテクチャの概要を示している。モデル501は、クロストーク推定信号w(t)520を生成し、一方、加算ノード502は、このクロストーク推定520をビクティムチャネル130に適用する。コントローラ503は、加算ノード502の出力z(t)420に基づいて、モデル501内のパラメータを調節する。
モデル501は、調節可能な周波数応答関数G(f)501の形態で、アグレッサ伝達関数H(f)210をエミュレートする。すなわち、モデル501は疑似クロストーク信号w(t)520を生成しており、この疑似クロストーク信号w(t)520は、アグレッサチャネル120とビクティムチャネル130との間のコネクタ102b内における電磁結合によって引き起こされる実際の干渉しているクロストーク信号n(t)230のモデル、シミュレーション、推定またはエミュレーションであってもよい。モデル周波数応答G(f)501は、図3に示して上記で説明したプロット300に類似した周波数依存応答に適合する方法で、アグレッサデータ信号u(t)215を効果的にフィルタリングする。
同じアグレッサデータストリームu(t)215が、実際のクロストーク応答H(f) 210とクロストークキャンセラのモデル501との両方を駆動するため、モデル510の出力w(t)520は、理想的な場合、アグレッサ信号成分n(t)230と等しい。すなわち、環境にノイズがなく、すべてのシステムパラメータが既知で完璧にモデル化された理論的または理想的な場合には、G(f)501はH(f)210と等しい。さらに、この理想的なシナリオでは、H(f)210およびG(f)501のそれぞれの出力信号n(t)230およびw(t)520も、相互に等しくなる。多くの未知の影響と不確定な要因とを有する現実世界の状況では、実質的にエラーのない高速データレートの通信をサポートするための十分な精度および確度で、G(f)501はH(f)210を近似する。
差分ノード502は、エミュレートされたアグレッサ信号w(t)520またはエミュレーション信号520を合成信号y(t)260から減算する。したがって、受信するビクティム信号y(t)260からクロストーク干渉を除去するか、または低減させる。現実世界の動作環境内で機能している物理的実施においては、モデルG(f)501は、真の応答H(f)210に正確には一致しない。コントローラ503は、実際のクロストーク効果H(f)210と、エミュレートされた、またはモデル化されたクロストーク効果G(f)501との間の不正確さに関連する誤差を最小にするために、モデル501を調節する。
加算ノード502の実施は、通常、当業者にとって簡単である。ただし、2つの入力への高い感度を維持するために、特別な注意が払われるべきである。発生する、および、したがってモデル化されるクロストーク信号230、520の振幅が小さいことは、特に高周波においてはまれではない。一見したところでは無視できるように見えるが、それらの高周波は、しばしば等化装置(図示せず)を介して増幅される。したがって、無視された高周波クロストークは、等化の前は小さいことがあるが、等化の後で非常に大きくなる可能性がある。加算ノードは、そのような高周波応答に対応するように実施されるべきである。
補償された信号z(t)420(すなわち、差分ノード502の出力)の一部は、取り出されて、コントローラ503に送り込まれ、ビクティムレシーバ105bが受信するのと実質的に同じ信号420をコントローラ503に提供する。コントローラは、応答G(f)501によって特徴付けられるモデル化フィルタ501のパラメータを、実際の応答H(f)210への適合度を最大にするために調節する。特に、コントローラ503は、クロストークが補償された信号z(t)420を入力として取り込み、その信号420を処理、監視または解析して、信号忠実度を判定する。言い換えると、コントローラ503は、モデルの出力520がクロストーク信号230をキャンセルした程度を解析することによって、モデルのパフォーマンスを評価する。コントローラ503は、さらにクロストークのキャンセルを強化するため、および変化する状況への動的な対応を提供するために、モデル501を調節する。
コントローラ503の出力は、モデル化フィルタ501のパラメータを含むため、コントローラはモデル化された応答G(f)420を調節することが可能である。したがって、コントローラ503は、モデル化フィルタ501を操作して、z(t)420上のクロストークを最小にすることによって、補償された信号420の忠実度を最大にする、すなわちG(f)420とH(f)210との間の一致を最大にすることが可能である。別の言い方をすれば、コントローラ503は、補正されたクロストークがキャンセルされた信号z(t)420を監視し、クロストークモデルG(f)420を動的に調節して、クロストークのキャンセルを強化し、信号品質を向上させる。したがって、本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置401は、モデル化誤差と、変動する動的状況と、その他の効果とを補償するために、クロストークのキャンセルを適合させ、自己補正し、また自己設定するフィードバックループを含んでいてもよい。
図5に示すシステムは、比較的低度の複雑さ、消費電力およびコストを提供するために、アナログ集積回路を主に使用して実施されてもよい。一実施形態では、モデル501と差分ノード502は、完全にアナログである。別の実施形態では、アグレッサデータソース104bのデジタル性を活用するために、モデル501の特定の側面はデジタル的に実施される。
コントローラ503は、通常、アナログおよびデジタルの両方の回路を含んでいる。コントローラ503におけるアナログ前処理の特定の側面のため、このデジタル回路は通信データレートに比較して低い速度で動作することが可能であり、したがって、実際的な実施を容易にすることが可能である。特に、デジタル回路は、チャネルボーレートより何桁も低い速度で動作することが可能である。本発明の一例示的実施形態では、コントローラ503内のデジタル回路は、チャネルボーレートの少なくとも1桁下で動作する。本発明の一つの例示的実施形態では、コントローラ503内のデジタル回路は、チャネルボーレートの少なくとも2桁下で動作する。本発明の一つの例示的実施形態では、コントローラ503内のデジタル回路は、チャネルボーレートの少なくとも3桁下で動作する。低電力および低コストのクロストークキャンセルソリューションを、一緒になってもたらすコントローラ503およびモデル501のより詳細な例示的実施形態について、以下でさらに詳しく説明する。
次に、図6を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタ(tapped delay line filter)600の機能ブロック図である。タップ付き遅延線フィルタ600は、入力信号215を、一連の遅延ステージ601a、601b、601cを通じて遅延させ、各遅延ステージ601a、601b、601cの出力を、通常は増幅器602a、602b、602c、602dを使用してスケーリングし、それらのスケーリングされた出力を加算するか、またはその他の方法で合成することによって、入力信号215から出力信号620を生成する装置である。タップ付き遅延線フィルタ600は、課せられたクロストーク信号n(t)230の形状または波形を近似した形状または波形を有する信号v(t)620を生成するモデル501のアナログ構成要素であってもよい。すなわち、タップ付き遅延線フィルタ600は、アナログ構成要素を介して実施される例示的波形整形器であってもよい。
上記のように、実際のクロストーク応答210を正確にモデル化することは、クロストークキャンセルを介したクロストーク干渉230の適切な除去を容易にする。クロストークキャンセル装置(図示せず)が、不正確なクロストークモデル(図示せず)に基づくならば、そのような装置は、信号品質を向上させるよりもむしろ低下させる可能性がある。例えば、誤ったモデルを用いた結果として、クロストークのキャンセルを目的とした「補正」信号は受信されるビクティム信号に干渉を追加する可能性があり、その一方でキャンセルの目標となるクロストーク信号は、実質的にそのまま残される可能性がある。したがって、例えばフィルタリングメカニズムに基づくクロストークモデルは、適用例の中で遭遇する可能性があるさまざまなクロストーク伝達関数のモデル化をサポートする十分な柔軟性を有するべきである。すなわち、柔軟なクロストークモデルは、例えばさまざまな適用例、動作条件および環境に容易に適応できない柔軟性のないモデルよりも望ましい。
図6に示すような本発明の一つの例示的実施形態では、電気的に制御可能な利得係数602a、602b、602c、602dを有するアナログタップ付き遅延線フィルタ600(トランスバーサルフィルタとしても知られている)が、アグレッサクロストーク伝達関数210をモデル化する。このフィルタ600は、広範囲の動作条件および状況をサポートする望ましいレベルの柔軟性と適応性とを提供することが可能である。より具体的には、タップ付き遅延線フィルタ600は、ビクティムチャネル130に課されるクロストーク信号230の波形を近似した波形を生成することが可能である。
図示されているフィルタ600は、N個の遅延要素601a、601b、601c(それぞれが時間遅延δ(デルタ)を提供する)と、n=0、...、Nについての係数αn(アルファn)を備えた対応する可変係数増幅器602a、602b、602c、602dとを有する例示的タップ付き遅延線フィルタである。タップ付き遅延フィルタ600の出力v(t)620は、次のように書かれてもよい。
v(t)=α0u(t)+α1u(t−δ)+...+αNu(t−Nδ)
利得係数α0、α1、α2...αn(アルファ0、アルファ1、アルファ2...アルファn)の値を変化させることは、フィルタ600の応答に対応する変化を引き起こす可能性がある。タップ付き遅延線フィルタ600は、アグレッサのインパルス応答を最大Nδ(デルタのN倍)まで、すなわちフィルタ600の時間スパンまでモデル化することが可能である。その上、(図3に示して上記で説明した)アグレッサ応答210の周波数成分は、周波数f=1/(2δ)(周波数は、デルタの2倍の逆数に等しい)までモデル化されることが可能である。したがって、δ(デルタ)は、ビクティム信号x(t)214における対象となる最高の信号周波数がf=1/(2δ)(周波数は、デルタの2倍の逆数に等しい)未満となるように選択されるべきである。さらに、Nは、アグレッサインパルス応答の大部分がNδ(デルタのN倍)の時間スパン以内に含まれるように選択されるべきである。すなわち、アグレッサ周波数応答210は、f=1/(Nδ)(周波数は、デルタのN倍の逆数に等しい)の周波数よりも下で、大きな変動を示すべきではない。Nおよびδ(デルタ)を選択するためのこれらの条件は、アグレッサ信号の条件と対照的である。アグレッサノイズが、指定された周波数よりも上にとどまる場合、これは重要ではない。その理由はうまく設計されたレシーバは、ビクティム信号品質を低下させることなく、容易にそれらの高周波を抑制することができるからである。
タップ付き遅延線フィルタ600は、アグレッサ応答210によって引き起こされるパルス整形をエミュレート、推定または模倣することが可能ではあるが、このフィルタ600は通常、非実際的な数のタップまたは遅延ステージなしでは、非常に変化しやすい時間遅延に適切に対処することはできない。時間遅延は、図5に示して上記で説明した(i)アグレッサデータ信号u(t)215の一部をクロストークキャンセラ401に導く回路タップと、(ii)クロストークキャンセラ401内の加算ノード502との間にわたる信号経路の長さに直接関連している。より具体的には、効果的な相互キャンセルのために、モデル化された信号と実際の信号230、520が相互に適切に同期されているようにするため、またはタイミングが合わせられているようにするために、モデル化された時間遅延は実際のクロストーク信号n(t)230の時間遅延を密接に近似すべきである。タップ付き遅延線フィルタ600の出力620は、モデル501の出力w(t)520として直接使用されてもよいが、タップ付き遅延線フィルタの出力620をビクティムチャネル130上のクロストーク信号230と同期させることによって、クロストークのキャンセルが強化され、高められた信号忠実度がビクティムレシーバ105bに提供され、全体的なモデル化の柔軟性が向上する可能性がある。
実際のクロストーク信号230およびそのモデル化された対応物520の両方の結合点の位置は、ビクティム−アグレッサペアによって非常にさまざまである可能性があるため、それらのそれぞれの遅延は明確に定義されないか、または不確実になりやすい可能性がある。バックプレーン−ラインカードコネクタ102bを介した主要な結合という比較的単純な場合でさえ、ラインカード101b上の信号経路長はさまざまであることが多い。したがって、ラインカードのレイアウトに関する特定の知識と解析なしでは、時間遅延を予測することは困難になる可能性がある。時間遅延におけるこの不確実性に対処するために、図7に示すように、調節可能な遅延701がクロストークモデル化フィルタ501内に組み込まれてもよい。
次に、図7を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係る調節可能な遅延701を有するクロストークキャンセル装置401のクロストークモデル化フィルタ(「XTMF」)501の機能ブロック図である。調節可能な遅延701は、タップ付き遅延線フィルタ600の前に置くこと、または(図7に示すように)後に置くことが可能である。本発明の一つの例示的実施形態では、調節可能な遅延701を、図示しているようにアナログタップ付き遅延線フィルタ600の出力側に配置するのではなく、入力側に配置することによって実施が簡略化される可能性がある。この簡略化は、デジタル信号u(t) 215の離散的性質によってもたらされてもよく、この場合、遅延装置701の出力を量子化すること、またはハードリミットすることによって、信号の線形性が容易に維持される可能性がある。あるいは、図示した構成に従って調節可能な遅延701がタップ付き遅延線フィルタ600の後に続く場合、調節可能な遅延701への入力において、信号v(t)620はアナログである。調節可能な遅延701内にアナログ信号を入力することは、広範囲にわたる信号値および周波数の線形応答の必要性を生じさせる可能性がある。
タップ付き遅延線フィルタ600は、意図したデータ信号x(t)214と一緒にビクティムチャネル130上を望ましくなく伝播しているクロストーク信号n(t)230を近似した補正信号w(t)520を出力するが、調節可能な遅延701は補正信号520の波形を、望ましくないクロストーク信号230の波形と同期させる。すなわち、調節可能な遅延701は、補正信号520が実際のクロストーク干渉230と、時間的に一致するように、かつ同期するように、補正信号520のタイミングを合わせるか、または補正信号520を調整する。
タップ付き遅延線フィルタ600および調整可能な遅延701の機能に基づいて、クロストークモデル化フィルタ501は、実際のクロストーク信号n(t)230に正確に一致した形状およびタイミングを有するキャンセル信号w(t)520を出力する。図5に示して上記で説明したように、減算ノード502を介して、ビクティムチャネル130内に挿入されるか、またはビクティムチャネル130に適用された場合、キャンセル信号w(t)520は、実際のクロストーク信号230を無効にし、それによってビクティムレシーバ105bに送られる通信信号z(t)420の品質を向上させる。
図5を参照して上記で説明し、図8を参照して下記でさらに詳細に説明するように、コントローラ503は、タップ付き遅延線フィルタ600と調節可能な遅延701とを調節することにより、それらのそれぞれのパフォーマンスを微調整し、そしてビクティムレシーバ105bに送られる補正された信号420の忠実度を向上させる。
本発明の一つの例示的実施形態では、図15に示して下記で説明する回路1510が、クロストークモデル化フィルタ501の代わりに用いられる。したがって、図7に示す調節可能な遅延701とタップ付き遅延線フィルタ600は、それぞれ以下で説明するように、図15の時間整合モジュール1535とFIRフィルタ1560とを含んでいてもよい。
次に、図8を参照すると、この図は本発明の例示的実施形態に係るハイパスフィルタ801を有するクロストークキャンセル装置800のクロストークモデル化フィルタ501’の機能ブロック図である。ハイパスフィルタ801は、通常、固定され、または調節不可能なフィルタである。図8に示す例示的実施形態の構成において、調節可能な遅延701はタップ付き遅延線フィルタ600に入力を送り込み、これによって図7を参照して上記で説明した利点を特定の適用例のために提供する。
図7に示すように、例示的クロストークモデル化フィルタ501’内に、任意選択のハイパスフィルタ801を含めることによって、一部の適用例または動作環境においてパフォーマンスが向上する可能性がある。ハイパスフィルタ801は、一定範囲の周波数成分を有する信号を受信し、周波数しきい値より下の周波数成分を減衰させ、周波数しきい値より上の周波数成分を伝送する装置である。
タップ付き遅延線フィルタ600は、
1/(Nδ)<f<1/(2δ)
の周波数範囲にわたって柔軟なモデル化応答を有するが、f<1/(Nδ)(周波数はデルタの2倍の逆数よりも小さい)などの、より低い周波数においては、しばしば柔軟性に劣る。したがって、クロストーク応答210の低周波特性を正確にモデル化するためには、フィルタタップの個数Nを大きくすることが必要とされ、それによってフィルタの複雑さが増加する可能性があり、あるいは、より長い遅延インクリメントδ(デルタ)が必要とされて、それによって高周波の柔軟性が減少する可能性がある。多くの適用例において、そのようなトレードオフを避けることが好ましい。図3を参照して上記で説明したように、電気システムの場合、低周波クロストーク特性は、通常、容量結合効果によって支配され、したがって単純な一次の抵抗−容量(「RC」)ハイパスフィルタなどのハイパスフィルタを使用して正確にモデル化することが可能である。すなわち、クロストークモデル化フィルタ801内にハイパスフィルタ801を挿入することにより、タップ付き遅延線フィルタ600内に扱いにくい、または費用のかかる多数のタップフィルタを必要とすることなしに、高レベルのパフォーマンスを提供することが可能である。
図7に示したクロストークモデル化フィルタ501の例示的実施形態と同様に、タップ付き遅延線フィルタ600と、調節可能な遅延701と、ハイパスフィルタ801との順序付けは、さまざまな配置をサポートするために変更されてもよい。すなわち、本発明は、図8に示す機能ブロック701、600、801のそれぞれに対応する物理的構成要素を意図した適用例のための許容できるパフォーマンスを提供する任意の並列または直列の構成に配置することをサポートしている。それにもかかわらず、特定の構成または順序付けは、他の構成に比較して、選ばれた適用例の状況のための特定の利点またはトレードオフを提供する場合がある。
図8に示す例示的直列構成では、調節可能な遅延701を、タップ付き遅延線フィルタ600の入力側に、ハイパスフィルタ801をタップ付き遅延線フィルタ600の出力側に配置する。この順序付けでは、調節可能な遅延701の実施は入力および出力の両方の信号の離散的振幅の性質を活用することによって、簡略化される可能性がある。タップ付き遅延線フィルタ600も、調節可能な遅延701から提供される離散的振幅の入力をデジタル遅延要素を介して、活用してもよい。ハイパスフィルタ801は、そのRC実施においては、アナログ装置であり、離散的振幅の入力をハイパスフィルタ801に提供することによって利益を受けることはない。したがって、ハイパスフィルタ801を、クロストークモデル化フィルタ501’の出力側に、または別の位置に配置することによる不利益は通常何もない。
図5を参照して上記で説明したように、制御モジュール503は、クロストークが補償された信号z(t)420を入力として取り込み、クロストーク応答モデル501を調節するための制御信号820、830を出力する。クロストークモデル化フィルタ501への制御モジュールの出力820、830は、(i)調節可能な遅延構成要素701によって実施される時間遅延を制御するための「遅延制御」信号830と、(ii)タップ付き遅延線フィルタ600内の可変係数増幅器602a〜d上の利得を制御するための一組の「フィルタ制御」信号820とを含んでいる。すなわち、コントローラ503は、モデル化パラメータをタップ付き遅延線フィルタ600に出力し、タイミングパラメータを調節可能な遅延701に出力する。
これらの出力制御値は、補償された信号z(t)420の観測、処理および/または解析に基づいて決定される。2002年3月28日出願の「Method and System for Decoding Multilevel Signals」と題された米国特許出願第10/108,598号明細書は、信号忠実度を評価するための実施可能な例示的システムおよび方法を開示している。同一所有者に所有される2003年7月15日出願の「Adaptive Noise Filtering and Equalization for Optimal High Speed Multilevel Signal Decoding」と題された米国特許出願第10/620,477号明細書は、クロストークモデル化フィルタ501の装置パラメータを制御するための実施可能な例示的システムおよび方法を開示している。米国特許出願第10/108,598号明細書および米国特許出願第10/620,477号明細書の開示は、参照により本明細書に完全に援用されるものとする。クロストークモデル501、タップ付き遅延線フィルタ600および調節可能な遅延701のうちの1つ以上は、それぞれが米国特許出願第10/108,598号明細書または米国特許出願第10/620,477号明細書に開示された方法および/またはシステムを使用して、制御および/または調節されてもよい。調節可能な遅延701の時間遅延調節は、例えば、これらの特許出願の開示に従って、可能性のある値の全範囲を通して掃引される変数として、遅延制御を扱うことによって決定されてもよい。
次に、図9を参照すると、この図は、図8に示す例示的クロストークモデル化フィルタ501’または図7に示す例示的クロストークモデル化フィルタ501などのクロストークモデル501と、それらに関連する調節可能な遅延701とを制御するための例示的システム900を示したものである。より具体的には、図9は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置401の制御モジュール900の機能ブロック図である。図9に示す例示的コントローラ900は、比較的単純な理論的解析と実施とを容易にし、またその関連で、上記の米国特許出願第10/620,477号明細書および米国特許出願第10/108,598号明細書に開示された制御方法およびシステムを超える利益を特定の適用例に提供することが可能である。
図9のコントローラ900は、ビクティムレシーバ105bによって受信されることになっているクロストークがキャンセルされた信号z(t)420を受信する周波数伝達応答P(f)を有するフィルタ901を含んでいる。フィルタ901は、この周波数伝達応答に基づくスペクトル重み付けフィルタであってもよい。このフィルタ901の出力は、電力検出または信号2乗装置902に結合され、この装置はローパスフィルタ903に出力を提供する。ローパスフィルタ903は、一定範囲の周波数成分を有する信号を受信し、周波数しきい値より上の周波数成分を減衰させ、周波数しきい値より下の周波数成分を伝送する装置である。
アナログ−デジタル変換器(「ADC」)は、ローパスフィルタの出力を受信し、対応するデジタル信号を生成して、その信号をデジタルコントローラ905に送り込む。次に、デジタルコントローラ905は、調節可能な遅延701とタップ付き遅延線フィルタ600のそれぞれのためのデジタル制御信号を生成する。それぞれのデジタル−アナログ変換器(「DAC」)906a、906bは、それらの信号を遅延制御線830およびフィルタ制御線820上でそれぞれの伝送のために、アナログ領域に変換する。アナログ遅延制御信号は、調節可能な遅延701を調節し、一方、アナログフィルタ制御信号はタップ付き遅延線フィルタ600を調節する。
データを搬送していないという一時的状況にあるチャネル上にクロストークが負わされている単純な動作例について説明することは有用である。より具体的には、ビクティムトランスミッタ104aがデータを何も送信せず、一方でアグレッシングトランスミッタ104bは、疑似ランダムまたはコード化された疑似ランダムデータなどの広範なスペクトル成分または広範な信号周波数を有するデータを送信している場合を考慮する。すなわち、図5を再び簡単に参照すると、信号x(t)214は実質的に0であり、一方でu(t)215は、ランダムに変化しているデジタルデータパターンによってもたらされる広範なアナログスペクトル成分を有するデジタルデータ信号である。この場合、信号y(t) 260は、単に発生したアグレッサn(t)230であり、信号w(t)520は、モデル化されたアグレッサである。したがって、信号z(t)420は、実際にはキャンセル装置のモデル化誤差である。完全なクロストークキャンセルという理論的かつ理想的な状況においては、z(t)420は0である。
言い換えると、ビクティムチャネル130上で実質的に均一な電圧を伝送し、一方でアグレッサチャネル120上に広範な周波数を有する信号を伝送することにより、ビクティムチャネル130上に実質的に純粋なクロストークが提供され、n(t)230はy(t)260に等しくなる。クロストークキャンセラ401が、純粋なクロストーク信号n(t)230とやはり同等のキャンセル信号w(t)520を出力する場合、z(t)420は、実質的に信号エネルギーを有さない。したがって、この状態においては、z(t) 420内の信号エネルギーは、クロストークモデル化フィルタ501内のモデル化または遅延の不正確さを示す。
制御モジュール900は、定義済みの信号をアグレッサチャネル120上に伝送し、一定電圧の、または実質的にデータのない信号をビクティムチャネル130上に伝送するというこのような状態を実施してもよい。次に、制御モジュール900は、クロストークモデル化フィルタ501’の調節可能なパラメータを調節して、ビクティムレシーバ105bによって受信される信号z(t)420を最小にし、それによって実際のクロストーク信号n(t)230に一致するクロストークキャンセル信号w(t)520を提供し、さらに、実際のクロストーク応答H(f)210に効果的に一致するモデル化されたクロストーク応答G(f)501を提供してもよい。より一般的には、制御モジュール900は、アグレッサチャネル120、ビクティムチャネル130またはアグレッサチャネル120とビクティムチャネル130の両方の上で、定義済みの信号パターンまたは既知の信号パターンの伝送を引き起こして、クロストーク効果151を特徴付け、そしてクロストークキャンセルまたは別の形態のクロストーク補償を、制御、最適化または調節する。さらに、制御モジュール900は、セットアップモードまたは自己設定手順の形態の学習または適応モードを有していてもよく、また自動または自己キャリブレーションを実施してもよい。
図9を参照し、データのないチャネル上にクロストークを負わせる例を超えて一般的に述べると、この誤差信号z(t)420は、特定の周波数における他の周波数よりも高い任意の重要性を強調するために、応答がP(f)として示される任意選択のフィルタ901を使用してスペクトル的に重み付けされてもよい。例えば、ビクティムレシーバ105b内の等化の効果をエミュレートするために、誤差信号z(t)420をハイパスフィルタリングすることが望ましい場合がある。次に、(スペクトル的に重み付けされた可能性がある)誤差信号z(t)420は、2乗されるか、または電力検出される。すなわち、2乗装置902の出力は信号電力となる。次に、電力信号は、誤差信号z(t)420の積分された電力、すなわちエネルギーを取得するために、比較的低いカットオフ周波数を有するローパスフィルタ903(または、積分器)を通過させられる。したがって、この点における信号は、誤差信号z(t)420の統計的分散(すなわち、標準偏差の2乗)のアナログ推定に対応する。
当業者によく知られているように、誤差分散は、忠実度を評価するための有用な尺度である。ローパスフィルタ903のカットオフ周波数は非常に低い周波数(通常は、シンボル伝送レートより何桁も下)にあるため、任意のモデル化フィルタ変化の過渡効果が減衰して消えた後の分散信号はほぼ定数である。したがって、アナログ分散信号は、単純な低速高分解能アナログ−デジタル変換器904を使用してサンプリングしてもよい。アナログ−デジタル変換器904によるデジタル化された信号出力は、誤差分散情報を単純なマイクロプロセッサ、状態機械、有限状態機械、デジタルコントローラまたは同様の装置(本明細書では、「デジタルコントローラ」と呼ぶ)905に提供する。現在の応答モデル化パラメータの組についての誤差分散を記録した後、デジタルコントローラ905は、次にDACの組906に、新しいパラメータをデジタル的に出力し、それらのDACが、対応するアナログ信号をアグレッサエミュレーションモジュール501に提供することによって、新しいフィルタ設定を指定してもよい。
デジタルコントローラ905は、(i)クロストークモデル化フィルタ501のパラメータを設定すること、および(ii)現在のパラメータのモデル化誤差分散への影響を直接観測することの両方が可能であるため、デジタルコントローラ905はアグレッサ応答モデル501の実際の応答210への適合度を最大にするパラメータの組を見つけることができる。試行錯誤処理は、過度に複雑ではないため、多くの場合、モデルパラメータのすべての組み合わせをテストすることが可能である。ただし、当業者に知られているその他の経験的検索/最適化手法を代わりに使用してもよい。本発明の一つの例示的実施形態では、上記の米国特許出願第10/620,477号明細書に記載されているような、座標−降下アプローチが、許容できるモデルパラメータを識別するための検索および最適化を提供する。
上記のように、制御モジュール900は、実際的な制御の実施を提供するために、アナログおよびデジタル回路の組み合わせを含んでいてもよい。フィルタ901および電力検出装置902は、共同で高速アナログ信号を入力および出力する。ローパスフィルタ903は、高速アナログ信号を入力として取り込み、低速アナログ信号を出力する。フィルタ901、電力検出装置902およびローパスフィルタ903は、共同で関連する統計情報を高速信号から抽出し、より簡潔な形態でそれを提示することによって、高速信号の投射を低速信号上に取り出す。ADC904は、この低速アナログ信号を入力として取り込み、対応するデジタル化された近似を出力する。その結果として、コントローラ905はこの低速デジタル信号を受信して処理する。デジタル信号は低速であるため、関連する処理回路の複雑さは、信号が高速である場合に必要とされる複雑さよりも少ない。デジタルコントローラ905は、低速デジタル制御信号をデジタル−アナログ変換器906a、906bに出力し、デジタル−アナログ変換器906a、906bは、次に低速アナログ信号を出力する。直列の、単純な高速アナログ前処理および低速デジタル処理の結果として、制御モジュール900は、強力な統計的特性化に基づいた信号解析を提供し、回路の複雑さが比較的少ない堅牢な制御手法を実施し、これらの要因によって高速通信システムにおける実際的なクロストークキャンセルを容易にすることが可能となる。
図9に示す図では、誤差分散を生成するために、電力検出(または信号2乗)装置902が使用されているが、全波整流器(これは、信号の絶対値を取得する)を代わりに使用してもよい。全波整流器に基づいた実施の場合、ローパスフィルタ903の出力は、もはや誤差分散には対応しないが、それにもかかわらず、有効な忠実度の基準を表す。特に、これは、誤差信号420の1−ノルムであり、したがって、忠実度の尺度は、依然として適切な数学的特性を有している。信号の「1−ノルム」を決定することは、通常、制御信号の絶対値を積分することを含んでいることを、当業者は理解する。この代用は、特定の適用例にとって有利な場合があり、その理由は、(i)1−ノルム信号は、低減されたダイナミックレンジを有する(したがって、アナログ−デジタル変換器904への分解能の制約を緩和する)場合があるということ、および、(ii)全波整流器は、電力検出器よりも実施が容易な場合があるということである。そのような変更は、本発明の範囲内であると見なされる。
同様に、電力検出器902は、半波整流器または信号の大きさを評価するために使用される任意の類似した装置を使用して置き換えてもよい。さらに、図5〜図9に示すクロストークキャンセラ401の機能ブロック、モジュールおよびそれぞれのサブモジュールへの分割は、概念的なものであり、機能のハード境界または構成要素の物理的グループ分けを必ずしも示すものではないことを、当業者は理解するであろう。むしろ、機能ブロック図に基づいた図としての例示的実施形態の表現は、本発明の例示的実施形態の説明を容易にするものである。実際には、これらのモジュールは、本発明の範囲を逸脱することなく、組み合わされること、分割されること、およびその他の方法で他のモジュールに再区分されることが可能である。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセルシステムは、モノリシックICなどの1つの集積回路(「IC」)である。クロストークキャンセル装置、制御モジュールおよびクロストークモデル化フィルタのそれぞれが、1つのICであってもよい。そのようなICは、相補型金属酸化膜半導体(「CMOS」)ICであってもよく、また、例えば0.18ミクロンプロセスで製造されていてもよい。
クロストークをキャンセルするためのプロセス、およびクロストークキャンセラをキャリブレーションするためのプロセスを、それぞれ図10および図11を参照して、次に説明する。記載されているとおりに本発明が機能するためには、本明細書に記載されているプロセス内の特定のステップは、必然的に他のステップに先行しなければならない。ただし、そのような順序またはシーケンスが本発明の機能を変えない場合、本発明は記載されているステップの順序に限定されない。すなわち、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、一部のステップは、その他のステップの前または後に、あるいは、その他のステップと並行して実行されてもよいということが認識される。
次に、図10を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストーク151をキャンセルするためのクロストークのキャンセルと題されたプロセス1000を説明するフローチャートである。プロセス1000の最初のステップであるステップ1010において、アグレッサトランスミッタ104bは、アグレッサ通信信号u(t)215を、アグレッサチャネル120上に送信する。この通信信号215は、データを搬送するアナログまたはデジタル信号であってもよい。
ステップ1015において、クロストーク効果151は、アグレッサ通信信号u(t)215からのエネルギーを、クロストークn(t)230としてビクティムチャネル130内に結合する。結合メカニズムは、バックプレーン103上を伝播する電気的データ信号の例示的場合のように、電磁結合であってもよく、または別の光学的または電気的クロストークメカニズムであってもよい。クロストーク効果151のエネルギー伝達は、ビクティムレシーバ105bへ向けての信号伝播をもたらす方法で、ビクティムチャネル130内にクロストーク信号n(t)215を生成する。
ステップ1020において、ビクティムトランスミッタ104aは、ビクティム通信信号x(t)214を、ビクティムチャネル130上に送信する。ビクティム通信信号214は、アナログまたはデジタル信号のいずれであってもよい。ステップ1025において、クロストーク信号n(t)230は、ビクティムチャネル130内において、ビクティム通信信号x(t)214と共存するか、または混合する。合成信号y(t)260が、これらの信号214、230の合成によってもたらされる。
ステップ1030において、クロストークモデル501は、アグレッサ通信信号u(t)215のサンプルを取得する。言い換えると、タップまたはその他のノードが、アグレッサ通信信号215の代表的な部分を、クロストークモデル501による受信および処理のために、クロストークキャンセラ401に導く。
ステップ1035において、クロストークモデル501は、アグレッサ通信信号u(t)215のサンプリングされた部分を、タップ付き遅延線フィルタ600を介して処理する。タップ付き遅延線フィルタ600の利得またはスケーリング定数などのモデル化パラメータが、クロストーク信号n(t)215の波形推定v(t)620を生成するための基礎を提供する。より具体的には、タップ付き遅延線フィルタ内の可変係数増幅器602a、602b、602c、602dの係数α0、α1、α2...αn(アルファ0、アルファ1、アルファ2...アルファn)が、クロストーク信号215を近似する波形v(t)620を定義する。
一つの例示的実施形態では、図15に示して下記で説明する有限インパルス応答(「FIR」)フィルタ1560が、ステップ1035において、クロストークの波形推定を生成する。したがって、システム1510は、プロセス1000のステップのうちの1つ以上を実行するか、またはそれらのステップに関わってもよい。
ステップ1040において、クロストークモデル501内の調節可能な遅延701は、波形推定v(t)620に時間遅延を適用して、この波形620をビクティムチャネル130内を伝播して干渉しているクロストーク信号n(t)230と同期させる。ステップ1045において、クロストークキャンセラ401の加算ノード502は、結果として生じるクロストークキャンセル信号w(t)520を、ビクティムチャネル130と、その中を伝播しているクロストークと通信との合成信号y(t)260とに適用する。クロストークキャンセル信号w(t)520は、ビクティムチャネル130内を伝播しているクロストーク信号成分w(t)520の少なくとも一部をキャンセルする。このクロストーク干渉520を低減させることにより、ビクティムレシーバ105bへ送付するためにクロストークキャンセラ410から出力される通信信号z(t)420の信号忠実度が向上する。
一つの例示的実施形態では、図15に示す時間整合モジュール1535が、ステップ1040の可変遅延を適用する。したがって、プロセス1000の一つの例示的実施形態では、システム1510が、クロストークキャンセルのためのクロストーク推定を提供する。
ステップ1050において、コントローラ503は、クロストークが補償された信号z(t)420を処理または解析して、クロストークキャンセルの効果を判定する。言い換えると、コントローラ503は、信号忠実度を評価して、波形およびタイミングの両方において実際のクロストークn(t)230に正確に一致するクロストークキャンセル信号w(t)520を、クロストークキャンセラが適用しているかどうかを判定する。
ステップ1055において、コントローラ503は、モデル化パラメータ、具体的にはタップ付き遅延線フィルタ600内の可変係数増幅器602a、602b、602c、602dの係数を調節して、クロストークキャンセル信号w(t)520と実際のクロストーク信号n(t)230との間の波形の一致を最適化する。さらに、コントローラ503は、調節可能な遅延701の可変または調節可能時間遅延を調節して、クロストークキャンセル信号w(t)520を実際のクロストーク信号n(t)230と同期させる。すなわち、コントローラ503は、クロストークモデル化フィルタ501へのパラメータ調節を実施することによって、クロストークキャンセラ401の動作を調節して、ビクティムレシーバ105bに送られる最終的な通信信号z(t)420の忠実度を向上させる。
ステップ1055に続いて、プロセス1000は、ステップ1010〜1055を繰り返す。クロストークキャンセラ401は、クロストーク230のキャンセルと、動的状況への適応応答の実施とを継続し、それによって継続的な高レベルの通信信号忠実度を提供する。
次に、図11を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置401をキャリブレーションするためのクロストークキャンセラのキャリブレーションと題されたプロセス1100を説明するフローチャートである。プロセス1100の最初のステップであるステップ1110において、コントローラ503は、キャリブレーションシーケンスを開始する。コントローラ900は、アグレッサトランスミッタ104bに、既知の、または定義済みのテストパターンを有する信号、例えばランダムまたは疑似ランダムビットパターンのデータを、アグレッサチャネル120上に出力するように指示する。このテストまたはキャリブレーション信号は、アグレッサ通信信号u(t)215のフォーマットを有していてもよく、またはクロストーク応答H(f)210を特徴付けるために独自にフォーマットされていてもよい。すなわち、コントローラ900は、アグレッサチャネル120上の所定の電圧パターンを有する信号の伝送を制御してもよい。
ステップ1115において、コントローラ900は、ビクティムトランスミッタ104bに、既知のビクティムテストまたは基準信号を、ビクティムチャネル130上に出力するように指示する。テスト信号は、所定の通信信号であってもよく、または、単にデータのない一定電圧であってもよい。ビクティムチャネル130上に既知のテスト信号を送信することによって、ビクティムチャネル130上に信号ひずみを発生させるその他の効果から、クロストーク応答H(f)210を分離することを容易にする。すなわち、コントローラ900は、ビクティムチャネル130上の所定の電圧パターンを有する信号の伝送を制御してもよい。
ステップ1120において、既知のアグレッサ信号u(t)215からのクロストークn(t)230が、ビクティムチャネル130内に結合する。ビクティムチャネル130は一定電圧をビクティム信号x(t)214として搬送しているため、ビクティムチャネル130上の通信とクロストークとの合成信号y(t)260は、実質的にクロストーク信号n(t)230である。
ステップ1125において、クロストークキャンセラ401は、クロストーク信号n(t)230の推定w(t)520を、クロストークキャンセルのために生成する。クロストークキャンセラ401は、クロストーク信号n(t)230とクロストークキャンセル信号w(t)520との間の波形およびタイミングの一致をもたらすモデル化および遅延パラメータを使用して、この推定520を生成する。クロストーク補償器401は、クロストーク推定520をビクティムチャネル130に適用して、その上を伝播しているクロストーク230の少なくとも一部をキャンセルする。結果として生じるクロストークがキャンセルされた信号z(t)420は、ビクティムレシーバ105bに伝播する。
ステップ1130において、コントローラ503は、クロストークキャンセラ401によって出力されるクロストークがキャンセルされた信号z(t)420を処理および解析する。解析に基づいて、コントローラ503は、クロストークがキャンセルされた信号z(t)420内のエネルギーを最小にするために、モデル化および遅延パラメータを調節する。すなわち、コントローラ503は、残留クロストークを減少させるように、クロストークキャンセラ401の動作パラメータを変化させる。この制御動作は、クロストーク補償信号w(t)520を、ビクティムチャネル130に課されている実際のクロストークn(t)230と一致させる。
ステップ1140において、コントローラ503は、キャリブレーションサイクルを完了し、そしてクロストークキャンセラ401が実データを処理するための準備が整っていることの通知を、アグレッサおよびビクティムトランスミッタ104a、104bに提供する。この通知に応じて、ステップ1145において、ビクティムトランスミッタ104aおよびアグレッサトランスミッタ104bは、それらのそれぞれのチャネル130、120上に、それぞれが実データを伝送する。
ステップ1150において、アグレッサチャネル120上に伝送されている実データ215からのクロストーク230が、ビクティムチャネル130内に結合する。ステップ1155において、クロストークキャンセラ401は、アグレッサチャネル120内に伝送されている実データ215のサンプルを処理し、キャリブレーション中に定義または更新されたモデル化および遅延パラメータを使用して、クロストーク230のエミュレーションまたは推定520を生成する。
ステップ1160において、クロストークキャンセラ401は、クロストークキャンセルのために、ビクティムチャネル130にクロストーク推定520を適用し、ビクティムレシーバ105に、高忠実度信号を提示する。プロセス1100は、ステップ1160に続いて終了する。コントローラ503は、定義済みの、または一定の時間間隔ごとに、あるいは、信号忠実度が損なわれたこと、またはしきい値未満に低下したことを、コントローラの監視機能が判定した場合に、キャリブレーション手順を繰り返してもよい。
次に、図12Aおよび図12Bを参照すると、これらの図は、それぞれ本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルを実施する前および後の通信システムのテストデータを示す。これらの図は、実験室条件下で取り込まれた測定データのアイダイアグラム1200、1250を示す。当業者によく知られているように、アイダイアグラム1200、1250は、信号品質の可視指示を提供する。アイダイアグラム1200、1250内の「眼」1225、1275の開きのレベルは、信号品質のレベルと相互に関連している。すなわち、アイダイアグラム内のノイズのあるゆがんだ、または閉じられた眼は、通常、信号の損傷を示す。
図12Aは、現場条件を表すと考えられる実験室条件下で動作している5ギガビット/秒のバイナリ通信システムからのアイダイアグラム1200である。ビクティム信号130は800ミリボルトの振幅を有し、一方、アグレッサ信号120は1,200ミリボルトの振幅を有する。図12Aは、等化および制限増幅の後の、しかし、クロストーク補償なしで受信された信号260のアイダイアグラム1200を示したものである。図12Bは、本発明の例示的実施形態によるクロストークキャンセルの適用と、それに続く、等化および制限増幅の後に受信された信号420のアイダイアグラム1250を示したものである。図12Aのアイダイアグラムと同様に、ビクティム信号130は800ミリボルトの振幅を有し、一方、アグレッサ信号120は1,200ミリボルトの振幅を有する。
クロストークが補正されたアイダイアグラム1250と、クロストーク補償なしのアイダイアグラム1200との両方において、信号経路は制限増幅器を含むため、各アイダイアグラム1200、1250の上部および下部における水平の「まぶた」の厚さは、信号品質の有用な判断基準を提供しない。むしろ、クロストークキャンセルによって提供される信号パフォーマンスの向上は、クロストーク補正なしのアイダイアグラム1225の狭く、ノイズのある眼1225と比較してクロストークが補正されたアイダイアグラム1250における広く開いた眼1275によって、明らかにわかる。
本発明の例示的実施形態によるクロストークキャンセルによって達成される通信パフォーマンスの向上をさらに特徴付けるために、クロストークキャンセルの前および後のビットエラーレートの測定値が、このテストシステムから、同じテスト条件下で取得された。クロストークキャンセルなしの場合、通信システムは、平均して100,000ビット伝送されるごとに1ビットのエラーを示した。クロストークキャンセルありの場合、通信システムは、平均して100,000,000,000,000ビット伝送されるごとに1ビットのエラーを示した。
要約すると、例示的クロストークキャンセルシステムを、図1〜図12を参照して説明した。クロストークキャンセルシステムは、アグレッサ信号をサンプリングしてもよく、そして、コネクタにおいてしばしば発生するクロストーク結合の遅延と応答とをエミュレートしてもよい。このエミュレートされたアグレッサ応答が、受信されるビクティム信号から減算されて、補正されたビクティム信号が生成されてもよく、それによってクロストーク干渉のレベルが減少し、改善されたジッタと、より低いビットエラーレートとが達成されてもよい。着実な結果を提供するために、クロストーク効果のモデル(エミュレートされるチャネル応答)は、クロストークに一致し、したがってクロストークを除去またはキャンセルするように、電子的にプログラム可能かつ適合可能であってもよい。
プログラム可能なマルチギガビットレートにおけるエミュレーション/モデル化チャネル応答の作成に、標準的なデジタル信号処理(「DSP」)技術を使用することは、最適とは言えない可能性がある。従来のDSP技術は、十分な速度が欠けているか、またはかなりの電力を消費する場合がある。したがって、クロストークキャンセルシステムは、例えばアナログ信号処理、混合信号処理またはハイブリッドアプローチを介して、従来のDSP処理を超えるパフォーマンスを提供するプログラム可能なエミュレーションチャネルまたはモデルを含んでいてもよい。そのような高速なプログラム可能エミュレーションチャネルは、アナログ信号処理を介してアナログ領域内で、かつ/または、例えばマルチギガビットデータ転送レートをサポートする処理レートにおいて、信号を処理することが可能である。
言い換えると、アナログ信号処理(または、アナログおよびデジタル信号処理のハイブリッド結合)は、全面的にデジタルの環境内で実施されるクロストークキャンセルを超えるパフォーマンスの利点を提供することが可能である。上記のように、デジタル実施においては、アクセス可能なアグレッシングデータ信号と受信されるビクティム信号とは、(アグレッサ信号のいかなる固有のデジタル化をも超えて)デジタル化されてもよく、マイクロプロセッサがキャンセル処理を実施してもよい。高速環境におけるデジタルクロストークキャンセルに一般に関連付けられるアナログ−デジタル変換器およびマイクロプロセッサは、一部の適用例に関して、複雑さ、コストまたは電力消費などの欠点を有する可能性がある。
信号、信号変換および信号効果のモデル化、シミュレート、推定またはエミュレートを行うことが可能な高速装置は、クロストークキャンセルのサポート以外に、広範な適用例を有していてもよい。いくつかの適用例を挙げると、そのような装置は、任意波形を生成するため、等化のため、または幅広く用いられているFIRフィルタとして使用されてもよい。したがって、信号または信号効果をエミュレートするコンパクトな回路、または集積回路が、(例えば、テスト装置内の、または通信装置内の)高速任意波形発生器として、パルス整形フィルタとして、等化器として、またはその他として使用されてもよい。
例示的な高速エミュレーション回路またはチャネルを、クロストークキャンセルの適用例に関連して、図13〜図30を参照して、以下でさらに詳細に説明する。ただし、そのクロストーク適用例は、可能性のある多くの適用例のうちの1つに過ぎず、むしろ説明の目的のために提供されており、限定的であることは意図していない。したがって、本明細書に記載して開示されたエミュレーション回路またはチャネルは、通信または信号処理の多数の適用例および用途を有していてもよい。
例えば、マルチギガビット信号をパルス整形および/またはフィルタリングする機能が、非常に高速な関数発生器を作成するために、あるいは、集積回路またはその他の通信ハードウェアをテストするために、テスト機器内で有益に使用されてもよい。別の例として、伝送信号のプリエンファシス、デエンファシスまたは等化器応答のエミュレーションが、レシーバのパフォーマンスの正確な特徴付けをサポートしてもよい。同様に、エミュレーション回路またはチャネルが、可能性のある干渉装置を、その干渉装置が存在する場合のレシーバパフォーマンスを確認するために、エミュレートしてもよい。
「エミュレーション回路」または「エミュレーションチャネル」という用語は、本明細書で使用する場合、一般に、信号、信号変換または信号への効果を、モデル化、シミュレート、推定、エミュレート、表現、描写または再現するシステムを意味する。エミュレーション回路またはエミュレーションチャネルは、クロストークを引き起こす信号を処理することを介して、シミュレートされたクロストーク信号を作成することが可能である。エミュレーション回路またはチャネルは、パルスなどの短期間の信号を受信して、その受信信号を、指定された、または選択された、形状または期間を有する波形に変換してもよい。
次に、図13〜図28について説明すると、図13は、本発明の実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタ600に基づいた例示的信号遅延装置1300の機能ブロック図を示す。図6を参照して上記で説明したように、タップ付き遅延線フィルタ600は、入力信号を処理して、所望の形状を有する出力信号1305を生成してもよい。図示されているように、タップ付き遅延線フィルタ600は、入力信号1310のデジタル化されたバージョンに対して、DSPを介して影響を及ぼしている。
したがって、図13のシステム1300は、FIRフィルタのDSP実装を表してもよい。そのようなDSP実装では、入力信号は、アナログ−デジタル変換器(ADC)1315を使用して量子化され、クロックレジスタを使用して遅延させられる。遅延させられたサンプルからFIRフィルタ600の実施に関連付けられた乗算および加算関数を、数学処理が実行する。入力信号がデジタル通信信号である場合、ADC1315は、情報をデジタル的に搬送するために、その入力信号を最初に存在していたよりも大きな数のディジタルレベルにデジタル化する。
多くの状況において適切であるとはいえ、システム1300は、マルチギガビット信号処理を含むその他の状況のために望ましい可能性があるレベルよりも、遅いレベルの速度を提供する場合がある。入力信号1310が高データレートを搬送するように変調されている場合、ADC1315は、通常、そのデータレートよりも高速でサンプリングを行わなければならず、意味のあるデータを提供するためには、十分な分解能を有していなければならない。そのようなサンプリングレートおよび分解能は、入力1310のデータレートがマルチギガビットの範囲内にある場合、困難な可能性がある。その上、タップ付き遅延線フィルタ600の数学操作は、マルチギガビット信号に対しては、実際性を欠く可能性がある。
以下でさらに詳細に説明するように、非常に高速な信号については、アナログ信号処理に基づく実施が、図13のDSPベースの実施よりも、速度および電力消費に関してパフォーマンスが優れていることが多い。すなわち、システム1300は、エミュレーション回路またはクロストークキャンセルシステムの構成要素となることが可能ではあるが、多くの適用例について一般に向上したパフォーマンスを提供するその他の実施形態については以下で説明する。
次に、図14を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る伝送路をシミュレートするための例示的受動回路1400の回路図を示したものである。より具体的には、図14は、合成伝送路のセクション1400を示している。純粋にアナログのFIRフィルタは、伝送路および/または、そのような合成伝送路1400を使用して、遅延要素として実施されてもよい。合成伝送路1400では、集中インダクタ1405およびキャパシタ1410が、特性インピーダンスZ0を有する通常の伝送路をエミュレートする。次の式は、特性インピーダンスを記述する。
Z0=(L/C)1/2
合成伝送路1400は、通常の伝送路よりも少ないスペースを占めていてもよい。ただし、図示しているように、遅延は固定されており、調節機能はない。統合された伝送路および合成伝送路1400の高周波損失は、高周波においてはかなり大きい可能性があり、それによって、信号劣化、すなわち信号の望ましくない変換がもたらされ、したがって信号品質が低下する可能性がある。この実施のもう1つの問題は、遅延およびフィルタが占める場合がある比較的大きな物理的スペースの量である。
したがって、システム1400は、エミュレーション回路またはクロストークキャンセルシステムの構成要素となることが可能ではあるが、多くの適用例について一般に向上したパフォーマンスを提供する実施形態を、以下で説明する。
次に、図15を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号、信号効果または信号変換を、エミュレート、シミュレートまたはモデル化するための例示的回路1500/1510の機能ブロック図を示したものである。エミュレーションチャネルまたはエミュレーション回路として特徴付けられてもよい図示したシステム1510は、図1〜図12を参照して上記で説明したクロストークモデル501またはクロストークモデル化フィルタ501の例示的実施形態であってもよい。言い換えると、図15のシステム1500および/またはシステム1510の一つの例示的適用例は、通信システム内で発生しているクロストークのキャンセルに関連してクロストークをモデル化することである。
ここで、図15を参照すると、システム1500は、タップインタフェース1503と、エミュレーションチャネル1510と、制御バス1595と、エミュレーション出力1590とを含んでいる。エミュレーションチャネル1510への入力は、タップ1503からのデジタル信号である。タップ1503は、一般には物理的通信媒体上を伝送されているデジタル通信信号を傍受またはサンプリングして、その代表をエミュレーションチャネル入力1520に送信する。タップ1503は、代表的信号をタップ出力1506にも送信する。したがって、タップ入力1501と、タップ出力1506と、エミュレーションチャネル入力1520とは、すべて同じデジタル信号の複製を伝送する。
言い換えると、タップ1503は、ラックマウント型通信システムのバックプレーンのような経路またはチャネルを通じて、あるいは何らかのその他の導体を通じて流れる信号のサンプルを抽出する装置である。上記のように、タップ1503がサンプリングする信号は、ビクティム通信信号上にクロストークを引き起こすアグレッサ通信信号であってもよい。あるいは、サンプリングされる信号は、何らかのその他の通信信号であってもよく、または情報通信以外の何らかの目的のために役立つ信号であってもよい。アグレッサ信号は、通常デジタルであるが、一部の実施形態では代わりにアナログ通信信号または信号パルスさえ含んでいてもよい。
エミュレーションチャネル1510は、制御バス入力1595からの制御コマンドに基づいて、サンプル信号を搬送するエミュレーションチャネル入力1520を遅延させ、フィルタリングする。いくつかの図面の中でも特に、図5、図8および図9を参照して上記で説明したように、コントローラまたは制御モジュール503、900、905は、制御信号を、制御バス1570を介してエミュレーションチャネル1510に送信してもよい。言い換えると、制御バス1570は、エミュレーションチャネル1510と、制御信号を生成する上記の装置503、900、905のうちの1つ(または、何らかのその他のシステム)との間の信号接続または経路を含んでいてもよい。
以下でさらに詳細に説明するように、制御バス1570上を流れる制御信号は、エミュレーションチャネル1510の信号処理パラメータを定義する。それらの信号処理パラメータは、エミュレーションチャネル入力1520とエミュレーションチャネル出力1590との間で入力信号が受ける変換を指定する。より具体的には、制御信号は、FIRフィルタ1560および時間整合モジュール1535の遅延および振幅パラメータを指定する。
制限増幅器1525は、通信チャネルからのエミュレーションチャネル入力1520を緩衝して、エミュレーションチャネル1510の動作に影響を及ぼすことなく、チャネル入力振幅が変化することを可能にする。言い換えると、制限増幅器1525は、サンプリングされる通信チャネルとエミュレーションチャネル1510との間の分離を提供するために支援する。
制限増幅器1525は、可変レベルの時間遅延を提供する時間整合モジュール1535に入力を送り込む。適用される遅延は、エミュレーションチャネル1510の出力を、指定に従ってタイミング合わせすること、または同期させることが可能である。例えば、時間整合モジュール1535は、シミュレートされたクロストークが実際のクロストークと時間的に整合しているように、シミュレートされたクロストーク信号を遅延させてもよい。そのように整合されているため、上記でより詳細に説明したように、シミュレートされたクロストークは、実際のクロストークを、一方が他方から減算された場合にキャンセルすることが可能である。
時間整合モジュール1535は、粗動時間整合モジュール(coarse temporal alignment module)1530Aと、微動時間整合モジュール(fine temporal alignment module)1530Bと、可変時間整合モジュール(variable temporal alignment module)1530Cとを含んでいる。以下でさらに詳細に説明するように、粗動、微動および可変時間整合モジュール1530A、1530B、1530Cは、ICチップなどの集積回路の部分、ブランチまたはセクションであってもよい。3つのモジュール1530A、1530B、1530Cを備えるように示しているが、他の実施形態では、より少ない、またはより多いタイミング構成要素を有していてもよい。
粗動時間整合モジュール1530Aは、単位間隔の精度で選択可能な遅延を提供する。微動時間整合モジュール1530Bは、単位間隔未満で選択可能な遅延を提供して、全体的で調節可能な遅延をさらに細分する。可変遅延モジュール1530Cは、可変遅延モジュール1530Cを制御するDAC1584の分解能に従った実質的に連続的な遅延調節を提供する。可変遅延モジュール1530Cは、微動遅延モジュール1530Bが提供する遅延調節のレベルよりは少なくとも大きい遅延調節のレベルを通常は提供する。
「単位間隔」という用語は、本明細書で使用する場合、一般にデータ伝送信号の条件変化の間の期間を意味する。したがって、単位間隔は、2つの信号条件の間の最小時間間隔、またはビットストリーム内で1つのビットが占める期間であってもよい。例えば、2.5ギガビット/秒のボーレートを有するシリアルラインは、0.4ナノ秒(1/(2.5Gb/s))の単位間隔を有していてもよい。
時間整合モジュール1535は、制御バス1595上を伝送されている制御信号によって指定された通りに遅延させられるか、または時間的にシフトされた信号を、FIRフィルタ1560に送り込む。FIRフィルタ1560は、受信した信号をフィルタリングおよびパルス整形する。
大まかには、FIRフィルタは、インパルス信号への応答が最終的に0に整定する信号処理装置である。したがって、FIRフィルタは、一般にフィードバックなしで動作可能である安定な装置である。FIRフィルタは、入力信号の遅延させられたバージョンの重み付き平均に基づいて、出力信号を生成する装置とみなしてもよい。
FIRフィルタ1560の信号処理は、信号のさまざまな周波数成分が異なる大きさを有していてもよいような周波数に依存する信号振幅を提供してもよい。したがって、出力信号は、周波数に依存する利得に基づいた波形形状を呈する。すなわち、FIRフィルタ1560は、以下でさらに詳細に説明するように、調節可能な信号処理パラメータに基づいて、入力信号を出力信号に変換または整形する。
FIRフィルタ1560の出力は、所望のエミュレーションチャネル出力1590である。制御バス1570は、デジタル信号を受信し、スイッチと、DAC1580、1582、1584、1586および1588とを通じて、時間整合モジュール1535およびFIRフィルタ1560を制御する。図22を参照して以下でさらに詳細に説明するように、DACモジュール1586は複数のDACを含んでおり、この複数のDACはFIRフィルタ1586内の各FIRタップ(または信号処理レッグ)について1つずつある。
時間整合モジュール1535およびFIRフィルタ1560は、伝送される信号を所定の時間だけ遅延させる遅延要素をそれぞれ含んでいる。時間整合モジュール1535は、通常、0.05単位間隔程度のステップサイズを有する非常に小さな電子的に制御可能な遅延を含んでいる。したがって、時間整合モジュール1535は、微細なレベルの時間分解能を有する遅延を提供する。
時間整合モジュール1535の微細な時間分解能は、エミュレートされたクロストーク信号を、実際のクロストークに正確に整合させることを容易にする。上記のように、そのような正確な整合は、クロストークキャンセルシステムが有益なレベルのクロストーク補償を達成することを支援する。対照的に、不適切な時間整合は、ノイズを望ましく減少させるのではなく、不注意にノイズを追加する場合がある。
図15の例示的実施形態は、時間整合モジュール1535およびFIRフィルタ1560内に、差動の調節可能な混合信号遅延を組み込んでおり、それによって高速動作、信号忠実度、良好なパフォーマンスおよびコンパクトなサイズを提供するものである。
例示的システム1500は、信号の量子化と、それに続く数学操作を伴う処理とを回避できるという点で、DSPベースのアプローチに優る利点を提供することが可能である。システム1500に比較して、デジタル信号処理を介した信号または信号変換のエミュレーションでは、より遅い速度と、より大きな電力消費とが提供されてしまう場合がある。言い換えると、システム1500と、特にシステム1510とによって提供されるアナログ信号処理は、デジタルの対応物と実質的に同等の数学操作を実行することが可能であるが、より少ない電力を使用し、より高速に動作する。
さらに、図15に示す実施形態では、遅延モジュール1530A、1530B、1530Cが非同期の混合信号遅延であり、したがって、伝送路または合成伝送路なしで構築されることが可能であるという点で、伝送路アプローチに優る利点が提供される。固定された伝送路の遅延には、通常、調節機能はないが、システム1500の非同期の混合信号遅延では、電子的に調節可能である。
その上、システム1500の非同期の混合信号遅延では、入力ポート1520と出力ポート1590との間で、時間整合モジュール1535とFIRフィルタ1560とを通じて信号が伝播する際に、その信号を再生すること、または能動的にブーストすることが可能である。すなわち、エミュレーションチャネル1510は、処理される信号にエネルギーを追加することが可能なアクティブ遅延を含み、それによって強固な周波数成分を有する強力な信号が維持される。
対照的に、図14を参照して上記で説明した伝送路アプローチでは、信号は直列の損失にさらされる場合があり、それによって信号は最終的に使用できなくなる場合がある。より長い遅延においては、実際の、またはシミュレートされた伝送路1400上の損失が、許容できないレベルまで累積する可能性がある。その上、損失は、より低い周波数においてよりもより高い周波数において、より厳しいものとなる可能性がある。そして、ほとんどのクロストークキャンセルの状況では、高周波信号成分がクロストークを最も良くエミュレートする。
要約すると、システム1510は、アナログ実施の利益を、デジタル信号処理アプローチの特定の利点と組み合わせるものとみなしてもよい。したがって、時間遅延およびFIRフィルタ応答は、電子的手段を介して制御されてもよく、またコンパクトな形態の中に組み込まれてもよい。さらに、例示的システム1510は、過度なレベルの電力を消費することなく、高速で動作可能であるという点で、伝送路アプローチに関連する利益を提供する。
エミュレーションチャネル1510およびその構成要素についてさらに詳細に説明するための準備として、信号処理装置における周波数に依存する信号減衰について簡潔に説明しておくことは有用であろう。ここで、図16を参照すると、この図は本発明の実施形態に係る同時にカスケードされた受動フィルタリングステージの線形回路において、周波数の関数である減衰の例示的プロット1600を示す。
線形システムにおいて、損失は、カスケード(縦続)するか、または累積する。受動フィルタリングまたは遅延回路において、RC時定数によって作成される各ポールは、カスケード(縦続)し、それによって回路を通じて伝送される信号の使用可能な帯域幅を減少させる。時定数RCの1次ポールをそれぞれが伴うN個の回路のカスケード(縦続)についての周波数応答の大きさは、次の式によって与えられる。
H(ω)=((1+(ωRC)2))−N/2
図16の周波数応答曲線1605、1610、1615は、遅延ステージの数が増加するにつれて、ロールオフまたは高周波信号劣化がどのように悪化するかを示したものである。「ロールオフ」という用語は、本明細書で使用する場合、信号内の高周波エネルギーの損失を意味する。
すなわち、回路を通過する信号は、通常、フィルタリング回路を通過するにつれてエネルギーを失うか、または振幅が減少する複数の周波数成分を含んでいる。フィルタリングまたは遅延回路の精巧さ(「ポール」または遅延ステージの数によって表される)が増すに従って、高周波信号成分は、低周波信号成分よりも急速にエネルギーを失う。したがって、1ステージ回路の周波数応答プロット1605は、比較的平坦であり、高周波信号成分が比較的高いレベルのエネルギーを保持することを示している。プロット1610で示すように、3ステージ回路は、かなりの量の高周波エネルギーを信号から抑制する。最後に、プロット1615は、5ステージ回路がさらに大きな量の高周波信号強度を失うことを示している。5GHzにおいて、1ステージは1dBの損失を有し、3ステージは3dBの損失を有し、5ステージは5dBの損失を有する。
より一般的には、所与の周波数におけるdB単位でのロールオフ、RdBは、次の式に従ってステージの数Nとともに直線的に増加する。
Rdb=−20log(H(ω))=Nlog(((1+(ωRC)2))1/2)
遅延線において、ステージの数Nは、遅延の量に対応する。上記のように、ロールオフは遅延の追加とともに増加する。結果として、線形遅延線の有用な周波数は、所望の遅延の量に逆比例する。言い換えると、時間遅延の追加を介して、受動遅延線の精巧さを増すということは、高周波信号成分を望ましくなく減衰させるということをもたらす可能性がある。その高周波減衰は、高速信号を処理するための回路の能力、または高周波信号成分を含むクロストークなどの信号効果をエミュレートするための回路の能力を制限する可能性がある。
上記の高周波劣化は、伝送路および合成伝送路の損失が非常に大きい集積回路において問題となる可能性がある。結果として、そのような伝送路は、例えば、5ギガビット/秒(「Gbs」)の信号について1ナノ秒(「ns」)程度の大きな遅延を提供するためには適していない可能性がある。
ただし、能動回路技術が、このロールオフの問題を克服することが可能である。以下でさらに詳細に説明するように、エミュレーションチャネル1510は、高周波信号強度をブーストするための能動回路技術を有益に含んでいてもよい。
次に、図17を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る直列に接続された能動ステージに基づく回路について、時間の関数である信号振幅の例示的プロット1700を示したものである。図17は、制限的な方法で動作する能動回路が、図16を参照して上記で説明した周波数ロールオフの問題を、どのようにして克服できるかを示すものである。より具体的には、それらの能動回路は、大幅な高周波振幅の損失または周波数帯域幅の劣化なしに信号を再生することが可能である。
図17を参照すると、プロット1700は、一連の制限増幅器を通した信号の伝播を示している。各ステージにおいて、信号は約1.2ボルトから約0.75ボルトに減衰し、その後、増幅されて約1.2ボルトに戻される。したがって、6番目の増幅器の出力における信号振幅は、2番目の増幅器から出力される信号振幅と実質的に同じである。入力振幅が、出力応答を制限するのに十分であるならば、信号は一連の増幅器を通して伝播する際に実質的に再生される。
例示的実施形態では、エミュレーションチャネル1510の時間整合モジュール1535とFIRフィルタ1560とは、それぞれが電子的に調節可能であり、かつ能動遅延線を備えた差動の混合信号遅延を含んでいる。この原理は、入力信号が混合信号遅延の制限を引き起こすパルスである場合に効果的である。
エミュレーションチャネル1510は、出力1590に近い信号処理のより後のステージにおいて、線形回路を含むアナログ処理を適用する。特に、ロールオフを示す可能性がある要素は、図22を参照して以下でさらに詳細に説明するFIRフィルタ1560のタップ重み付け増幅器2210A〜Eと加算ノード2240とである。(入力1520に近い)前部において、制限、混合信号遅延を使用し、(出力1590に近い)後部において、線形アナログ信号処理を使用することにより、高速で調節可能な遅延1530A、1530B、1530CおよびFIRフィルタ1560は、コンパクトな集積回路の形態を有することが可能である。さらに、エミュレーションチャネル1510は、望ましい周波数応答を示すことができ、また高忠実度の信号を提供することが可能である。
次に、図18を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための例示的回路1800の機能ブロック図を示したものである。すなわち、電子的に調節可能な混合信号遅延のブロック図を図18に示している。例示的実施形態において、上記で説明した図15の時間整合モジュール1530A、1530B、1530Cは、それぞれが回路1800のうちの少なくとも1つを含んでいる。それぞれの時間整合モジュール1530A、1530B、1530Cが、回路1800のうちの2つ以上を含んでいる場合、それらの回路1800は、通常、遅延が加算されるように直列配置で相互に結合される。
一例示的実施形態では、回路1800は、以下で説明するように、信号整形のための機能を提供する。例えば、回路1800は、図30に示した以下で説明するプロセス3000を介した信号処理方法と共同で機能させてもよい。
入力信号1801は2つの支線に分かれ、一方がスルー経路1805に対応し、もう一方が最大遅延経路1810に対応する。調節可能な選択回路1820は、スルー経路1805からの信号を、最大遅延経路1810からの遅延させられた信号に加算する。調節可能な選択回路1820は、この加算を制御線1822上の制御信号から導き出された相補型重み付けを用いて実行する。
制御信号1822は、最大遅延経路1810の重み付けを増加させ、その一方で同時にスルー経路1805の重み付けを減少させること、ならびにその逆が可能である。あるいは、調節可能な選択回路1820は、制御信号1822の制御下で最大遅延経路1810の寄与を減少させ、その一方でスルー経路1805の寄与を増加させてもよい。すなわち、調節可能な選択回路1820は、増幅器1824、1826の利得を協働的な方法で変更し、一方の利得が増加する場合は他方の利得を減少させ、またその逆も行う。したがって、システム1800は、差動増幅器1824、1826と、電流ステアリングとを使用して、一方が他方に比較して遅延させられた2つの信号の重み付けされた加算を実施する。
適切にスケーリングされて遅延させられた信号と、スルー信号とを加算することにより、スルー遅延と最大遅延との間の遅延を有する出力信号が作成される。言い換えると、調節可能な選択回路1820が出力する信号は、スルー経路1805の遅延と等しいか、またはそれよりも大きく、かつ遅延経路1810の遅延と等しいか、またはそれよりも小さい遅延を有する。
結果として生じる加算信号は、最大遅延経路1810を通じて伝播する間に発生したロールオフを補償するために、任意選択の等化器セクション1830を通過してもよい。図17を参照して上記で説明したように、ロールオフを補償することにより、複数の遅延ステージを通じた高周波損失の累積が回避される。
ドライバステージ1840は、信号を2乗(スクエア)して立ち上がり時間を維持する制限動作を提供する。そのステージ1840は、次のステージを制限条件で駆動するのに十分な出力レベルを生成する増幅器を含んでいる。言い換えると、等化器ステージ1830とドライバステージ1840は、粗動時間整合モジュール1530Aの出力信号を、下流の微動時間整合モジュール1530Bにおける後続の処理のために準備してもよい。
粗動時間整合1530A、微動時間整合1530Bおよび可変遅延1530Cの遅延は、それぞれが図18のブロック図に基づいていてもよい。相違点は、最大遅延経路1810の遅延を決定するために使用される遅延ステージ1815A、1815B、1815C、...、1815Nの数である。言い換えると、粗動時間整合モジュール1530Aは、一般に微動時間整合モジュール1530Bよりも多くの遅延ステージ1815A、1815B、1815C、...、1815Nを有する。
次に、図19を参照すると、この図は、本発明の実施形態による、入力信号を制御可能に遅延させるための例示的回路1800の回路図を示す。より具体的には、図19は、上記で説明した、ブロック図の形態で図18に示す回路1800の、例示的な、トランジスタレベルの実施を示す。
図19Aは、回路1800の高レベルの図を提供する。回路図は、あくまで説明を目的として、2つの任意セクション1900A、1900Bに分割されている。図19Bおよび図19Cは、それぞれそれら2つの図面セクション1900A、1900Bを示している。
差動入力1801は、「IN+」および「IN−」とラベル付けされている。最大遅延経路1810を提供するために、トランジスタ1901、1902、1903、1904、1905および1906を使用して、差動増幅器1815A、1815B、1815Cが作成されている。説明の目的のために、図19は、図18に示して上記で説明した要素1815A、1815B、1815Cとして機能する3つの増幅器を示している。ただし、上記のように増幅器の数は可変であり、1個から5個、8個、10個、15個、20個またはそれ以上までの範囲であってもよい。より具体的には、図18の遅延要素1815Aは、トランジスタ1901とトランジスタ1902とを含んでいる。一方、遅延要素1815Bは、トランジスタ1903とトランジスタ1904とを含んでいる。
遅延を増加させるために、各遅延増幅器の負荷の中に任意選択のキャパシタが追加されてもよい。高速においては、自然な寄生容量で一般に十分であり、そのような補助的なキャパシタを省略することにより、面積の観点からの利点を実現してもよい。
トランジスタ1911、1912、1913、1914、1915および1916は、抵抗器1937および抵抗器1938における出力を備えた調節可能な選択回路1820を形成する。すなわち、例示的実施形態では、図18の要素1820は、図19のトランジスタ1911、1912、1913、1914、1915、および1916を含んでいる。
調節可能で選択を提供する(調節可能な選択回路1820の)電流ステアリング装置は、トランジスタ1907、1908、1909および1910を含む差動増幅器である。すなわち、トランジスタ1907、1908、1909および1910は、増幅器1824と増幅器1826との間で相補型利得を分割する。
それぞれ「Vcntrl+」および「Vcntl−」とラベル付けされた制御線1950および1951は、基準DAC1588およびバーニヤDAC1580という2つのDACに接続されている。例示的実施形態では、基準DAC1588およびバーニヤDAC1580は、実質的に相互に同一なコピーである。バーニヤDACの「1580」というラベル付けは、図19の回路1530が、上記の粗動時間整合モジュール1530Aの一部分を実施するものであるということを仮定したものである。例示的実施形態の中の微動時間整合モジュール1530Bに接続される場合、バーニヤDACのラベルは「1582」であってもよい。
任意に選択された等化器セクション1830は、トランジスタ1917、1918、1919、1920および1921と、抵抗1941と、負荷抵抗器1939および1940とからなる差動増幅器である。要素1941は、縮退抵抗器と見なされてもよく、そして、等化機能を作成する周波数応答整形の一部として見なされてもよい。
等化器セクション1830は、次の式によって記載されるゼロを有するブースト機能を提供する(「Cz」はトランジスタ1918および1919に関連する寄生容量であり、「Rz」は抵抗1941である)。
ω=2/(Rz*Cz)
図19Cの回路図内に点線で示したように、必要に応じてトランジスタ1918および1919の両端に、シャント容量をさらに追加してもよい。高速においては、寄生容量で一般に十分であり、追加される容量は通常、回路から除去してもよい。
例示的実施形態では、出力ドライバ1840は、トランジスタ1922と1923とを含んでいる。上記のように、出力ドライバ1840と等化器1830とは、出力信号が十分な振幅と許容できる立ち上がり時間とを有することを確実にするために役立っている。調節可能な選択回路1820からの振幅と立ち上がり時間とが十分である場合、出力ドライバ1840と等化器1830は、回路1800から除去されてもよい。
図19の例示的回路実施形態1800では、通常MOS/CMOSトランジスタが使用されている。ただし、代替の実施形態では、バイポーラトランジスタが使用されてもよい。図示している実施形態では、負荷抵抗器を含んでいるが、その他の例示的回路の実施形態では、能動負荷あるいは能動および受動負荷の並列接続を含んでいてもよい。
上記のように、電流ステアリング装置として特徴付けられてもよい調節可能な選択回路1820は、同じ基準電圧に接続された2つのDAC1580および1588によって制御されている。共通の基準電圧を使用することにより、高度のノイズ耐性と処理許容範囲とが、制御回路に提供される。
差動DACトポロジを使用して結合された電流ステアリング装置1820の大きなコモンモード除去は、電圧供給線または基準線上に存在する可能性のあるコモンモードノイズを除去する。回路シミュレーションは、そのようなノイズ除去を確認すること、またはそのようなノイズ除去の解析を支援することが可能である。さらに、差動DACトポロジは、電子的にプログラム可能なバーニヤを遅延のために提供する。
同じ基準DAC1588が、粗動時間整合モジュール1530Aと、微動時間整合モジュール1530Bと、可変遅延モジュール1530Cと、FIRフィルタ1560の遅延とに対して入力を提供してもよい。一方、これらの遅延装置1530A、1530B、1530C、1560の各セットは、さまざまな適用例についての最適なパフォーマンスのために遅延を電子的に微調整するため、あるいは、プロセス、電圧または温度変化を補償するために、専用のバーニヤDAC1580、1582、1584、1586を有していてもよい。言い換えると、バーニヤDAC1580、1582、1584、1586は、ノイズ変化などの変化する条件に応じて動的なタイミング調節を行う。FIR遅延バーニヤ1586は、さまざまなデータレートへの対応において特に有用であり、その理由はFIR遅延がクロストークキャンセルシステムにおいて、通常、単位間隔を整数で割った値(例えば、1または1/2)に調整されるからである。
次に、図20を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号遅延を制御するための例示的回路1530の機能ブロック図を示したものである。例示的実施において、図15の粗動時間整合モジュール1530A、微動時間整合モジュール1530B、可変遅延モジュール1530Cは、それぞれが図20にブロック図の形態で示す回路1530を含んでいてもよい。
以下でさらに詳細に説明するように、回路1530では、粗動および微動時間整合モジュール1530A、1530B内で任意の所与の時間において、信号遅延を提供している動作中の遅延要素1800A、1800B、1800Cの数を選択する。図20では、3つの能動遅延要素1800A、1800B、1800Cを示しているが、実際の数は、わずか2個であってもよく、あるいは5個、10個、15個などの何らかのより大きな数であってもよい。図18および図19は、図20に示す3つの能動遅延要素1800A、1800B、1800Cのそれぞれの例示的実施形態をブロック図として、および回路図として示したものである。
したがって、例示的実施形態において、図20のブロック図は、図15の微動時間整合モジュール1530Bを説明してもよい。一方、図18のブロック図1800は、図20の3つの遅延1800A、1800B、1800Cのうちの1つの例示的実施形態を説明したものである。
さらに、図20のブロック図は、エミュレーションチャネル1510の遅延動作またはタイミング機能を説明しているとみなしてもよい。図20のシステム1530と関連付けられたプロセス2900を、図29を参照して以下でさらに詳細に説明する。
入力信号2005は、バイパス増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dに並列に入力を送り込んでいる。スイッチ2030A、2030Bは、遅延要素1800B、1800Cが、先行する遅延要素1800A、1800Bから入力を受け取るか、または関連するバイパス増幅器2020B、2020Cから入力を受け取るかを決定する。
例えば、スイッチ2030Bは、バイパス増幅器2020Bの出力または遅延要素1800Aの出力を選択する。例示的実施形態では、バイパス増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dのうちの正確に1つが、任意の時点において有効にされる。したがって、増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dと、通常は半導体トランジスタ要素である関連するスイッチング装置2030A、2030B、2030Cとは、信号ルーティング要素のバンクまたは組とみなしてもよい。
エミュレーションチャネルは、入力信号を遅延させるアクティブ状態にない任意の遅延要素1800A、1800B、1800Cの電源をオフにし、停止し、または除去する。そのような状況において遅延要素1800A、1800B、1800Cをオフにすることは、電力消費を減少させるだけでなく、さらにスイッチ2030A、2030B、2030C、2030Dの作成を支援する。
次の表は、時間遅延のレベルを選択および制御するための例示的方式を提供する。より具体的には、この表は特定のバイパス増幅器および遅延の設定に対して、いずれの遅延要素1800A、1800B、1800Cが有効にされるかを示している。
最大の遅延のためには、すべての遅延要素1800A、1800B、1800Cがアクティブであり、そして、バイパス増幅器2020B、2020Cおよび2020Dが非アクティブである一方で、増幅器2020Aは遅延2010Aに入力を送り込む。このシナリオにおいて、信号は遅延要素1800A、1800B、1800Cのそれぞれを通じて順次伝播する。
最小の遅延のためには、バイパス増幅器3 2020Dが選択され、すべての遅延要素1800A、1800B、1800Cはオフにされる。このシナリオでは、信号は、3つのすべての遅延要素1800A、1800B、1800Cをバイパスするか、またはそれらを避けて流れる。
一つの例示的実施形態では、入力2005と第1の遅延要素2010との間のバイパス増幅器2020Aは除去されてもよい。ただし、そのような除去は、等しくない時間遅延を有する追加の信号遅延をもたらす。追加の信号遅延は、通常、バイパス増幅器とその関連する遅延要素との合成遅延である。
次に、図21を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号遅延を制御するための例示的回路2050の回路図を示したものである。より具体的には、図21は、図20を参照して上記で説明したスイッチング機能の例示的なトランジスタレベルの実施を示したものであり、遅延要素1800A、1800B、1800Cのうちの1つと、バイパス増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dのうちの関連する1つとを示している。
説明の目的のために、回路2050は、1つの遅延要素1800Aと、関連する1つのバイパス増幅器2020Bとに関して説明する。バイパス増幅器2020Bは、遅延要素1800Aを選択するため、またはバイパスするために、遅延要素1800Aと組み合わせて動作する。
回路ポート2100Aおよび2100Bは、遅延要素1800Aへのインタフェースを提供する。回路ポート2110Aおよび2110Bは、バイパス増幅器2020Bへのインタフェースを提供する。一方、ポート2165および2175は、それぞれ遅延要素1800Aおよびバイパス増幅器2020Bのためのイネーブル信号を受信する。
共通負荷2160Aおよび2160Bは、遅延要素1800Aおよび対応するバイパス増幅器2020Bの間で共有される。トランジスタ2100Aおよび2100Bは、遅延要素1800Aの差動出力を表す。
トランジスタ2120および2130は、電流源2135のための電流ミラーを形成する。トランジスタ2110Aおよび2110Bは、差動バイパス増幅器2020Bの機能を表し、また提供する。トランジスタ2140および2150は、電流源2155のための電流ミラーである。
遅延1800Aを有効にし、バイパス増幅器2020Bを無効にするには、ポート2170上のロー電圧によってトランジスタ2125がオフにされ、ポート2165上のハイ電圧を使用してトランジスタ2145がオンにされなければならない。ポート2170上のロー電圧をオフにすると、トランジスタ2100Aおよび2100Bを通じて電流が流れるという結果になる。ポート2165上にハイ電圧を印加すると、電流ミラー電圧がトランジスタ2140までプルダウンされ、それによってトランジスタ2110Aおよび2110Bはオフになる。
バイパス増幅器2020Bを有効にし、遅延要素1800Aを無効にするには、ポート2170にハイ電圧が印加され、ポート2165にロー電圧が印加される。遅延経路を選択するために電流モードスイッチングを使用するというこの方法は、一般にバイパス要素としてMOSスイッチを使用する方法と比べて、優れたパフォーマンスと帯域幅を提供する。
次に、図22を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係る例示的有限インパルス応答(FIR)フィルタ1560の回路図を示したものである。より具体的には、図22は、上記で説明した混合信号遅延に基づいて、やはり上記で説明したFIRフィルタ1560の例示的実施形態を提供する。
5タップのFIRフィルタ1560を示しているが、タップの数は適用パラメータに従って変更してもよい。混合信号遅延要素1530a、1530b、1530c、1530d、1530eは、5つのタップ係数増幅器2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eに接続されている。
遅延要素1530eは、タップ遅延の均一性を維持するために最後に配置されており、厳密に必要なものではない。タップ重み付け増幅器2210は電流ステアリングによって動作する差動可変利得増幅器である。例示的実施形態では、タップ重み付け増幅器2210はギルバートセル(Gilbert cell)の変形とみなしてもよい。
タップ係数2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eは、それぞれ個別のDAC2220と、共通基準DAC1588とによって制御されている。各タップ係数2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eは、対応するタップ係数DAC2220A〜Eと基準DAC1588との差動電圧の関数である。タップ係数は正または負であってもよい。
係数DAC2220A〜Eおよび基準DAC1588は、同じ回路の実質的に同一のコピーであってもよく、また実質的に同一の基準電圧を有していてもよい。共通のアーキテクチャを共有することは、コモンモードノイズと電源ノイズとに対する耐性を提供するために役立つ。
基準DAC2230は、必要に応じて遅延要素1530a、1530b、1530c、1530d、1530eと共有されてもよい。すべてのタップ係数増幅器の出力は、加算ノード2240で合成される。加算プロセスは、タップ係数増幅器2210A〜Eの出力電流を、すべてのタップ係数増幅器2210A〜Eによって一般に共有されている差動負荷内において加算することによって発生する。FIRフィルタ1560の加算ノード2240からの出力2250は、エミュレーションチャネル1510の出力を提供する。
図15〜図22は、一般にCMOSでの実施を示しているが、その他の回路および/または製造技術を使用してもよい。例えば、CMOSトランジスタの代わりにバイポーラトランジスタを用いてもよい。抵抗器として示している負荷は、その代わりに能動負荷あるいは受動および能動負荷の並列接続であってもよい。さらに、図示しているDAC1580、1582、1584、1586のうちの1つ以上は、アナログ電圧制御に取り替えてもよい。
一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置が、図15に示して上記で説明した粗動、微動および可変時間整合ブロック1530A、1530B、1530Cよりも多くの時間整合装置を含んでいてもよいし、または少ない時間整合装置を含んでいてもよい。さらに、時間整合ブロック1530A、1530B、1530Cの順序は、変更されていてもよい。例えば、例示的実施形態では、可変遅延1530Cが微動時間整合1530Bに入力を送り込んでもよく、次に微動時間整合1530Bは粗動時間整合1530Aに入力を送り込んでもよい。
別の変形形態では、FIRフィルタ1560内のタップの数は、上記の例示的数よりも少なくてもよく、または多くてもよい。さらに別の変形形態では、任意に選択された可変利得増幅器がFIR加算ノード2240の後に配置されてもよい。そのような増幅器は、タップ係数2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eを変更することなく、エミュレーションチャネルの出力振幅の制御を容易にすることができる。ただし、加算ノード2240の後に可変利得増幅器を追加することは、一般に利用可能な帯域幅を低下させる場合がある。
図15のシステム1510の実施形態は、0.18ミクロン(「μm」)および0.13μmCMOS技術を使用して製造された。製造およびテストの際に、0.18μm集積回路は、上記の図示している要素1530A、1530B、1530Cおよび1560に一般に対応しており、それぞれ約155ピコ秒(「ps」)の粗動選択可能遅延を3つと、それぞれ約45psの微動選択可能遅延を3つと、約80psの遅延を有する5タップFIRフィルタとを含んでいた。図23〜図28は、そのような製造された装置の実験室テストの結果を示す。
図23は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510からの出力パルスについての時間の関数である電圧の例示的プロット2300を示したものである。より具体的には、プロット2300は、0.18μmCMOSに基づいたエミュレーションチャネル回路1510の実施形態を通り、1つの入力パルスについての5Gbsにおける出力パルスを示す。テストに備えて、FIRフィルタ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、信号整形なしで信号を通過させるために、それぞれ正規化された(1 0 0 0 0)に設定された。
図24は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510からの出力パルスの時間の関数である電圧の例示的プロット2400を示したものである。より具体的には、図24は、FIRフィルタ1560のパルス整形を行う能力の実証を提供する。実証のために、エミュレーションチャネル回路1510の実施形態は0.18μmCMOSを使用して製造された。
FIRフィルタ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、それぞれ正規化された(1 0 0 0 −1)に設定された。これらの値を使用して、回路1510は1つの5Gbs入力パルスを処理し、2つの出力パルスを作成する。2つの出力パルスは、図24に示すように、それぞれベースライン2430よりも上に上昇して下に下降する第1のパルス2410、およびそれを反転した第2のパルス2420を含んでいる。
このシナリオにおいては、FIRフィルタ1560は、ハイパスフィルタとして効果的に機能する。より一般的には、可変タップ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、FIRフィルタ1560が広範のさまざまなフィルタ応答を提供し、それによって柔軟性を提供し、広範な適用例をサポートしてもよいように設定されることが可能である。
一つの例示的実施形態では、図18の回路1530は、波形2400に類似した信号を出力してもよい。
エミュレーション回路1510の実施形態は、0.13μmCMOSによる集積回路としても製造された。そのバージョンは約160psの粗動選択可能遅延を6つと、約85psの微動選択可能遅延を2つと、約95psの遅延を有する5タップFIRフィルタとを有しており、それぞれ、そして一般に図15に示して上記で説明した要素1530A、1530B、1530Cおよび1560に対応している。プロセス、電圧および温度に対して単位間隔全体を通じた有効範囲を確実にするために、可変遅延セクション1530Cは約2微動遅延をカバーするように設計されている。0.13μmCMOS実施は、DAC設定を通じてプログラム可能な遅延バーニヤを有する。
図25は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510について、遅延プロットのファミリーの例示的グラフ2500を示したものである。より具体的には、図25は、エミュレーションチャネル回路1510を通じて測定された相対遅延を示したものであり、5Gbsのデータレートでx軸上の遅延インデックスによって示されている粗動および微動遅延設定の関数として示されている。図示されているデータは、製造された装置の実験室テストを介して収集された。相対遅延は、さまざまな遅延バーニヤ設定についても示されており、これは遅延要素を微調整し、それによって選択可能なレベルの信号遅延を提供するバーニヤの能力を実証している。
図26は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510の遅延設定の関数として測定された遅延の例示的プロット2600を示したものである。データは、上記の説明に沿って構築された装置の実験室テストにおいて収集された。可変遅延は、5Gbsにおける16進DAC設定の関数として特徴付けられている。プロット2600は、粗動遅延と微動遅延と可変遅延との合成が、複数の単位間隔にわたる遅延の完全な有効範囲を提供していることを示している。さらに、データは、実際の遅延が広い範囲にわたって設定されてもよいということ、そして、その範囲のかなりの部分にわたって遅延は実質的に線形であるということを示している。
図27は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510についての立ち上がり時間の例示的プロット2700を示したものである。より具体的には、プロット2700は、エミュレーションチャネル1510の物理的0.13μm集積回路によって実施された実験室テストにおいて取得されたデータを示している。エミュレーションチャネルを通過した後のパルスの20%〜80%立ち上がり時間は127psである。すなわち、パルスは、その定常状態の20%から80%の値に、約127ps後に立ち上がる。
図28は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510についての例示的アイダイアグラム2700を示したものである。図示されているアイダイアグラム2700は、PRBS31に基づいた疑似ランダムビットシーケンス(PRBS)を含み、5Gbsの通信信号を含んだエミュレーションチャネル回路1510の実験室テストで収集された。
上記のように、アイダイアグラムは、信号品質の可視指示を提供する。アイダイアグラム内の「眼」の開きのレベルは、信号の品質または完全性のレベルと相互に関連している。すなわち、アイダイアグラム内のノイズのあるゆがんだ、または閉じられた眼は、通常、信号の損傷を示す。アイダイアグラムは、ジッタ、タイミング問題、ノイズなどの損傷を明らかにすることが可能である。
図示しているテストのために、FIRフィルタ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、それぞれ正規化された(0 0 1 0 0)に設定された。この開いているアイダイアグラム2800は、エミュレーションチャネル1510を通じて信号が伝播する際に、信号の完全性が望ましく維持されていることを示している。
次に、図29を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号への効果をエミュレートすることに関連し、信号を遅延させるための例示的プロセス2900のフローチャートを示したものである。信号の遅延と題されたプロセス2900について、上記の図20を例示的に参照して説明する。
例示的実施形態では、プロセス2900またはその中の選択されたステップは、図18のシステム1800、図15のシステム1535、粗動時間整合モジュール1530A、微動時間整合モジュール1530B、可変遅延モジュール1530CまたはFIRフィルタ1560において発生してもよい。プロセス2900は、ネットワークを通過する信号のルートに基づいて、調節可能な量の遅延を提供するために、遅延要素のネットワークを通じて信号をルーティングするための方法の例とみなしてもよい。
ステップ2910において、例えば回路1530などの信号遅延装置が、所望のレベルの信号遅延を指定する制御線2005上の制御信号を受信する。制御信号は、例えば絶対遅延、目標遅延、相対遅延、時間、時間遅延の増分変化あるいは時間遅延を増加または減少させるための指示を、指定または定義してもよい。制御バス1570は、制御線2005に入力を提供してもよく、または制御線2005を含んでいてもよい。
ステップ2920において、スイッチング要素2030A、2030B、2030Cのバンクまたは組が、制御信号に従った状態を呈する。すなわち、ルーティング要素とみなしてもよいスイッチング要素2030A、2030B、2030Cのそれぞれが、2つ以上の経路のうちの1つを通じて電気の流れを導くために設定される。例えば、スイッチ2030A、2030B、2030Cは、上記の表に記載した状態を有してもよい。
ステップ2930において、スイッチング要素2030A、2030B、2030Cが1つの状態に設定されている場合、信号はすべての遅延要素1800A、1800B、1800Cを通じて流れる。この状況では、遅延要素1800A、1800B、1800Cのそれぞれの遅延は累積的であり、伝送される信号は比較的長い時間、遅延させられる。この状態では、スイッチ2030A、2030B、2030C(通常は、ソリッドステートであり、トランジスタを含む)は、直列配置で接続される。この配置では、スイッチ2030Aは、図20に示されている状態とは反対の状態を有し、一方、スイッチ2030Bおよび2030Cは、図示されている配置となる。
ステップ2940において、制御信号によってスイッチ2030A、2030B、2030Cが第2の状態に設定されている場合、信号は少なくとも1つの遅延要素1800Aを避けて通るか、またはバイパスし、そして、少なくとも1つのその他の遅延要素1800B、1800Cを通過する。図20は、そのような例示的配置にあるスイッチ2030A、2030B、2030Cを示す。
ステップ2950において、図5、図7および/または図8のモジュール505、または図9のモジュール900などのコントローラが、遅延をさらに精密にするために、状態を調節、変更または更新する。すなわち、エミュレーションチャネル1510は、付与される遅延とエミュレートされる信号効果との間の一致を提供するために、上記の動的フィードバックを使用する。プロセス2900は、エミュレーション処理に関連して信号に適用される遅延のレベルをさらに精密に処理を継続するために、ステップ2950に続いて繰り返される。
次に、図30を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号変換をエミュレートすることに関連して、遅延させられた信号を合成するための例示的プロセス3000のフローチャートを示したものである。遅延させられ重み付けされた信号の加算と題されたプロセス3000について、上記の図18を例示的に参照して説明する。
例示的実施形態では、プロセス3000またはその中の選択されたステップは、図18のシステム1800、図15のシステム1535、粗動時間整合モジュール1530A、微動時間整合モジュール1530B、可変遅延モジュール1530CまたはFIRフィルタ1560において発生してもよい。
さらに、プロセス3000とプロセス2900とは相互に並列に実行されてもよく、プロセス3000がプロセス2900に入力を送り込んでもよく、またはプロセス2900がプロセス3000に入力を送り込んでもよい。プロセス3000は、それぞれが異なる遅延を有する2つの信号経路を通じて信号を送り込み、2つの信号経路の出力の重み付けされた和を作成する方法の例とみなしてもよい。
ステップ3010において、エミュレーションチャネル1510は、サンプル信号の第1の部分が遅延線1810を通るように導き、その一方、第2の部分がスルー線1805上を伝送するように導く。言い換えると、サンプル信号は、全体的に、または部分的に、異なる量の遅延を提供する2つの信号経路1805、1810を通じて伝送される。遅延線とみなしてもよい遅延経路1810は、少なくとも1つの遅延要素1815A、1815B、1815C、1815Nを有する。したがって、信号が遅延経路1810を通じて伝播するための伝送時間は、信号がスルー経路1805を通じて伝播するための伝送時間よりも大きい。
ステップ3020において、調節可能な選択回路1820は、遅延経路1810およびスルー経路1805からそれぞれの信号を受信し、その際、スルー経路の信号は遅延経路の信号に先立って到着する。
ステップ3030において、調節可能な選択回路1820は、相補型の重み付け係数を、遅延させられた信号とスルー経路信号とに適用し、結果を合成する。しがたって、調節可能な選択回路1830は、スルー経路1805からの信号に第1の利得を適用し、遅延経路1810からの信号に第2の利得を適用する。図18を参照して上記で説明したように、2つの利得は、通常、相互に相補的である。重み付けされるか、または相補的に増幅された信号を合成することは、通常、2つの信号を一緒に加算または合計することを含んでいる。
ステップ3040において、調節可能な選択回路1820は、重み付けの指定を含む制御信号を、制御線1822を介して受信する。制御信号は、調節可能な選択回路1820が遅延経路1810およびスルー経路1805の出力に適用する相対的な重みまたは利得を設定する。
図5、図7および/または図8のモジュール505、または図9のモジュール900などのコントローラは、制御信号とその重み付けの指定とを、調節、変更、更新する。システム1530は、上記の動的フィードバックを使用し、これによって別の信号または信号効果に類似したエミュレーション信号を提供する。プロセス3000は、エミュレーション処理に関連して信号サンプルに適用される信号処理のレベルをさらに精密にする処理を継続するために、ステップ3040に続いて繰り返される。
要約すると、本発明の例示的実施形態は、アナログおよびデジタル信号処理(または、デジタル制御の下でのアナログ信号処理)を、デジタル信号のサンプルに(あるいは、信号パルスに、または何らかのその他の信号に)適用してもよい。信号処理は、信号効果の表現を作成するために、サンプルを整形し、遅延させてもよい。表現される信号効果は、例えば、クロストークまたは何らかのその他の現象であってもよい。
本発明によるシステムは、1つの通信信号上に、別の信号によって負わされたクロストークを、キャンセル、補正または補償する回路を含んでいてもよいが、当業者は本発明がこの適用例に限定されないこと、および本明細書に記載した実施形態は例示的なものであり限定的なものではないことを理解するであろう。さらに、本明細書に記載した本発明の実施形態のさまざまなその他の代替が、本発明の実施において使用されてもよいことが理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年1月19日出願の「Method and System for Crosstalk Cancellation」と題された米国特許出願第11/334,864号の一部継続出願であり、かつその優先権の利益を主張するものである。米国特許出願第11/334,864号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
米国特許出願第11/334,864号は、2006年5月23日に米国特許第7,050,388号として特許付与された、2004年8月5日出願の「Method and System for Crosstalk Cancellation」と題された米国特許出願第10/911,915号の継続出願である。米国特許出願第10/911,915号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
米国特許出願第10/911,915号は、2003年8月7日出願の「Method for Crosstalk Cancellation in High−Speed Communication Systems」と題された米国仮特許出願第60/494,072号の優先権の利益を主張するものである。米国仮特許出願第60/494,072号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
本出願は、さらに、2005年8月23日出願の「High Speed, Mixed−Signal Adjustable Filter and Emulation Channel」と題された米国仮特許出願第60/710,573号の優先権の利益を主張するものである。米国仮特許出願第60/710,573号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
本出願は、2002年3月28日出願の「Method and System for Decoding Multilevel Signals」と題された米国特許出願第10/108,598号、および2003年7月15日出願の「Adaptive Noise Filtering and Equalization for Optimal High Speed Multilevel Signal Decoding」と題された米国特許出願第10/620,477号に関連する。米国特許出願第10/108,598号および米国特許出願第10/620,477号の全内容は、参照することにより本明細書に援用されるものとする。
本発明は、通信の分野に関し、より具体的には、2つ以上の高速通信チャネル間で発生する可能性のあるクロストーク干渉などの信号または信号効果を、モデル化、エミュレート、またはシミュレートすることに関する。
通信サービスの消費の増加は、通信システムにおけるデータ搬送容量または帯域幅の増加の必要性を促す。クロストークとして知られる現象は、それらの通信システム内でしばしば発生して、高速信号伝送を損ない、これによって通信帯域幅を望まない低いレベルに制限する可能性がある。
クロストークは、1つの通信チャネル内の信号が、別のチャネル上で通信されている異なる信号からの干渉(または妨害)によって害される現象で、通信システム内で生じるものである。干渉は、さまざまな効果が原因で生じる場合がある。例えば、回路基板、電気コネクタ、およびツイストペアケーブル束などの電気システム内で、各電気経路はチャネルとして機能する。高い通信速度においては、これらの導電性経路はアンテナのように振る舞い、電磁エネルギーの放射および受信の両方を行う。本明細書で「アグレッシングチャネル(aggressing channel)」と呼んでいる1つのチャネルから放射されるエネルギーは、本明細書で「ビクティムチャネル(victim channel)」と呼ぶ別のチャネル内に望んでいないにも関わらず結合されるか、またはそのチャネルによって受信される。「クロストーク」として知られる信号エネルギーのこのような望まない伝達は、受信するチャネル上のデータの完全性を損なう可能性がある。1つのチャネルが、1つ以上の他のチャネルにエネルギーを放射することと、1つ以上の他のチャネルからエネルギーを受信することの両方を行う可能性があるという点で、クロストークは、通常、双方向性である。
クロストークは、容量結合されるクロストーク、誘導結合されるクロストークまたは放射されるクロストークなど、いくつかの方法で発生する可能性がある。クロストークは、バックプレーンまたはケーブル環境内で、大きな問題となる可能性がある。複数ピンコネクタ内での結合は、しばしばクロストークの主要なメカニズムである。通信リンクの送信端または近位端において結合が発生する場合、その結合はしばしば近端クロストークまたは「NEXT」と呼ばれる。受信または遠位側で発生する場合、その結合はしばしば遠端クロストークまたは「FEXT」と呼ばれる。NEXTは、一般にFEXTよりも深刻である。
バックプレーンシステムにおいて、NEXTは、通常送信信号が受信信号に干渉することによって発生する。そのような送信信号は、集積回路であってもよいシリアライザ/デシリアライザ(「SERDES」)装置内で発生する可能性がある。受信信号は、一般にSERDES装置への到着時には減衰しており、そのため通常、送信信号は受信信号よりも大きくなる。送信信号から来るNEXTは、受信信号の品質をビットエラーが発生するレベルまで深刻に損なう可能性がある。
クロストークは、通信システムの増加するスループットレートへの重大な障害として浮上しつつある。特に対処しない場合、クロストークは、しばしばノイズとして現れる。特に、クロストークは、受信される信号の値の不確実性を増加させることによって信号品質を低下させ、それによって信頼性の高い通信をより困難にする、すなわち、データエラーが発生する確率が増加する。言い換えると、クロストークは、通常、データレートが増加すると、より問題が多いものとなる。クロストークによって信号の完全性が減少するだけでなく、さらにアグレッシング信号の帯域幅とともにクロストークの量はしばしば増加するので、それによってより高いデータレートの通信はより困難になる。これは、バイナリまたはマルチレベル信号を使用する電気システムにおいて特に当てはまり、その理由は、そのような信号が流れる導電性経路は、通常、それらの信号のレベル遷移に関連して、高い周波数において、より効率的にエネルギーを放射して受信するものだからである。言い換えると、バイナリまたはマルチレベル通信信号内の各信号は、より低い周波数成分と比較してクロストーク劣化をより受けやすい高周波信号成分から構成されている。
増加しつつあるデータスループットレートへのクロストーク妨害は、ビクティム信号の高周波成分が、長い信号伝送経路長(例えば、マルチギガビット/秒のデータレートに対して、長さが数インチの回路トレース)によって大きく減衰する傾向により、さらに悪化する。すなわち、通信信号の高周波成分は、比較的高いレベルのクロストーク干渉を受けるだけでなく、さらに、伝送損失が原因でしばしば微弱であるため、干渉を受けやすい。
それらの減衰させられた高周波成分は、チャネル等化として知られる技術によって増幅されてもよいが、そのようなチャネル等化は、データを搬送する高周波信号を増幅することの副産物として、ノイズおよびクロストークもしばしば増加させる。通信リンク内に存在するクロストークの量は、信号の完全性を復元するために利用されることが可能な等化のレベルをしばしば制限する。例えば、次世代のバックプレーンシステムのために望ましいマルチギガビット/秒のデータレートにおいては、通信チャネル上のクロストークエネルギーのレベルは、そのような高速通信の基礎となる高い周波数において、ビクティム信号エネルギーのレベルを超過する可能性がある。このような状況では、外部からの、または漂遊の信号エネルギーが、望ましいデータ搬送信号のエネルギーよりも優位を占める可能性があり、したがって、ほとんどの従来のシステムアーキテクチャを使用して、これらのデータレートで通信を行うことは、実際的なものではなくなっている。
「ノイズ」という用語は、本明細書で使用する場合、クロストークとは異なり、完全にランダムな現象を意味する。対照的に、クロストークは、決定性のパラメータであり、ただし、しばしば未知のパラメータである。従来技術は、クロストークを軽減するためにシステムを修正することは理論的に可能であるという知識を含んでいる。特に、(i)干渉している、またはアグレッシングチャネル上で通信されているデータと、(ii)アグレッシングチャネルからビクティムチャネルへの結合において発生する信号変換と、の定義を使用して、クロストークは、理論的に決定され、キャンセルされることが可能である。すなわち、通信チャネル内に入力され、通信信号によって搬送されるデータが既知であり、かつ、クロストークによって通信信号に与えられる信号変換もまた既知であるならば、クロストーク信号劣化はキャンセルすることが可能であるということを、当業者は理解している。しかし、クロストークを適切にキャンセルするシステムの実際的な実施をサポートするために、この信号変換の定義のレベルが十分な精度および確度を有するレベルまで、従来技術を使用して達成することは困難である。その結果、クロストークに対処する従来技術は、高速な(例えば、マルチギガビット/秒の)通信システムに対しては、一般に不十分である。したがって、ビクティム信号の忠実度を向上させるため、そして、増加しつつあるデータスループットレートに対してクロストークがしばしばもたらす障害を取り除くために、クロストークをキャンセルすることが、当技術分野において必要とされている。
クロストークの元となる物理学(例えば、電気システムにおける電磁結合、または光学システムにおける4光波混合)は、一般によく理解されているが、理解のみでは、クロストーク伝達関数のための直接的かつ単純なモデルは提供されない。従来のモデル化が困難である1つの一般的な理由は、ビクティム(victim)およびアグレッサ(aggressor)信号経路の相対的な幾何学的配置が、クロストーク効果の伝達関数に大きく影響し、それらの信号経路はかなり複雑な可能性があるということである。言い換えると、信号導管の解析に基づく従来のモデル化方法を使用してクロストークをモデル化するための努力は、信号経路が複雑であることによって通常は阻止される。さらに、所定の特定のクロストーク応答のためのクロストークキャンセラを設計することは、一般に望ましくなく、その理由は、(i)システムは、さまざまなビクティム−アグレッサペアについて、多くのさまざまな応答を有する場合があるということ(それぞれが特定の設計を必要とするということ)、および(ii)異なるシステムは、異なる設計の組を必要とする場合があるということである。したがって、十分な柔軟性を有するクロストークキャンセルのシステムおよび方法が、当技術分野において必要とされており、このようなシステムおよび方法における柔軟性は(i)与えられたシステムの通常の動作から生じる可能性のあるさまざまなクロストーク伝達関数に対応するためのものであり、(ii)各ビクティム−アグレッサペアについての特性化および調節の複雑な手動作業を回避するために自己キャリブレーションのためのものである。
クロストークキャンセルのための従来技術のもう1つの制限は、速度に関係する。なぜなら、そのような技術は、通常、マルチギガボーレートをサポートするチャネルなどの高速環境に非常に適しているわけではないからである。すなわち、従来のデータ処理技術に基づくクロストークキャンセル装置は、例えば、1、2、または10ギガビット/秒を超えるデータ伝送レートに対応するための十分な速度で動作しない場合がある。より大まかに言えば、信号または信号効果をエミュレートするための従来技術は、広範な適用例のための適切な信号処理速度をしばしば欠いている。
当技術分野におけるこれらの代表的な欠点に対処するために必要とされていることは、高速環境と共存できるが、低電力消費と、妥当な生産コストとを提供することのできるクロストークキャンセルのための機能である。信号、信号変換または信号効果をエミュレートまたはモデル化することが可能な高速回路に対する別の必要性がある。信号、信号変換または信号効果を、正確に、かつ精密にエミュレート、モデル化またはシミュレートすることが可能なアナログまたは混合信号回路に対するさらに別の必要性がある。1、2、または10ギガビット/秒、あるいはそれ以上で動作するデータ伝送チャネル上で発生するクロストークを補償することが可能なシステムに対する、さらに別の必要性がある。そのような機能は、改善された信号処理を容易にし、かつ/または、より高いデータレートをサポートして、さまざまな通信適用例において帯域幅を向上させる。
米国特許出願公開第2005/0030884号明細書
特開昭64−065936号公報
特開2002−076859号公報
本発明は、信号への効果をエミュレートするため、シミュレートするため、モデル化するため、またはその他の方法で表現するために、信号のサンプルを処理することをサポートする。その効果として可能性があるものをいくつか挙げると、信号変換、信号遅延、何らかの他の信号または事象との信号同期化、信号の再整形または変形、クロストーク効果、別の信号またはサンプリングされる信号から何らかの他の信号へのエネルギー伝達などがある。
本発明の一つの態様では、回路が、信号変換を特徴づける1つ以上の信号処理パラメータに従って信号のサンプルを処理することによって、信号変換の表現を生成してもよい。したがって、回路は、現実世界の信号変換の表現または理論的信号効果の表現を生成するために、デジタル信号のサンプルを処理してもよい。デジタル信号は、例えば、バイナリ信号における2つのレベルなど個別の数のデジタル化されたレベルを含んでいてもよい。処理のさまざまな段階においてデジタル信号自体と同じ数のデジタル化されたレベルをサンプルが維持するように、デジタル信号のサンプルを処理することはアナログ信号処理を適用することを含んでいてもよい。言い換えると、サンプルを処理することは、サンプリングされる前のデジタル信号内にすでに存在している任意のデジタル化を超えてサンプルをデジタル化することを必ずしも含まない。それにもかかわらず、処理は、例えば1つ以上の処理パラメータを設定するデジタルコントローラからのフィードバックを介したデジタル制御の下で進行してもよい。したがって、回路は、例えば信号に対して、アナログ信号処理、混合信号処理またはアナログおよびデジタル処理の組み合わせを適用してもよい。
サンプルを処理することは、サンプルを遅延させること、および/または整形することを含んでいてもよい。サンプルを整形するために、有限インパルスフィルタがサンプルを処理して所望の波形形状を作成してもよい。有限インパルスフィルタは、タップ付き遅延線(tapped delay line)のアナログ実施を含んでいてもよい。サンプルは、高周波減衰またはロールオフを緩和するために、サンプルにエネルギーを追加する機能をそれぞれが有する一連の遅延ステージを通じて伝送されてもよい。すなわち、タップ付き遅延線は、能動要素を含んでいてもよい。
回路は、サンプルの成分または実質的にサンプル全体を、遅延が異なる2つの信号経路に送り込んでもよい。したがって、2つの信号経路は、一方が他方よりも時間的に進んだ2つの信号を出力してもよい。回路は、2つの信号にそれぞれの重み、スケーリングファクタまたは利得を適用してもよい。重みは、一方が増加した場合に他方が減少するように相互に相補的であってもよく、または相互に逆数であってもよい。回路は、加算、減算、合計または何らかのその他の形態の信号合成を用いて、2つの重み付けされた信号を合成してもよい。
回路は、さらに、または代わりに、遅延要素のネットワークを通るようにサンプルをルーティングしてもよく、遅延要素のネットワーク内では1つ以上のスイッチング装置、ルーティング要素またはトランジスタが、ルートを、したがって結果として生じる遅延を決定してもよい。したがって、回路は、2つの(またはそれよりも多くの)遅延要素を含んでいてもよい。選択された量の遅延をサンプルに付与するために、回路は、2つの遅延要素を通るようにサンプルをルーティングしてもよい。より少ない遅延が所望される場合に、回路は、遅延要素のうちの1つを通るように信号をルーティングし、その一方でもう1つの遅延要素はバイパスしてもよい。このようにして、回路は設定可能なレベルの遅延を提供してもよい。
また、情報を搬送するために使われることができる所定の数のデジタル信号レベルを有する単一の信号を成形するための方法であって、前記単一の信号のサンプルを取得するステップと、前記サンプルを第1の量の時間だけ遅延させる第1のステップであって、前記第1の量の時間はスルー経路の遅延であるステップと、前記サンプルを第2の量の時間だけ遅延させる第2のステップであって、前記第2の量の時間は前記第1の量の時間よりも長い時間であるステップと、前記単一の信号を補完するために、第1のスケーリングファクタを第1のステップで遅延された部分に掛けることによって、前記サンプルの第1のステップで遅延された部分をスケーリングし、第2のスケーリングファクタを第2のステップで遅延された部分に掛けることによって、前記サンプルの第2のステップで遅延された部分をスケーリングするステップであって、第1のスケーリングファクタは、第2のスケーリングファクタと相補型に重み付けられるステップとを備え、前記サンプルの前記スケーリングされた第1のステップで遅延された部分を、前記サンプルの前記スケーリングされて遅延された第2のステップで遅延された部分と合成した結果の前記信号を提供するステップとを含み、前記サンプルと、前記サンプルの第1のステップで遅延された部分と、前記サンプルの第2のステップで遅延された部分と、前記サンプルのスケーリングされた第1のステップで遅延された部分と、前記サンプルのスケーリングされた第1のステップで遅延された部分と、前記提供されるステップで提供された前記信号とは、それぞれ前記所定の数のデジタル信号レベルを有する。
さらに、前記スケーリングするステップは、前記第1のスケーリングファクタを増加させると共に前記第2のスケーリングファクタを減少させるサブステップ、または、前記第1のスケーリングファクタを減少させると共に前記第2のスケーリングファクタを増加させるサブステップと、その後に、ロールオフを補償するために、前記サンプルに対して周波数に依存する利得を適用するサブステップと、を含む。
さらに、前記第1のスケーリングファクタと前記第2のスケーリングファクタとは、相互の補数であり、前記サンプルのスケーリングされた第1のステップで遅延された部分を、前記サンプルのスケーリングされた第2のステップで遅延された部分と合成することは、前記サンプルのスケーリングされた第1のステップで遅延された部分を、前記サンプルのスケーリングされた第2のステップで遅延された部分と合計することを含む。
さらに、前記提供するステップは、合成された前記サンプルのスケーリングされた第1のステップで遅延された部分と第2のステップで遅延された部分を、能動遅延要素を備えている有限インパルス応答フィルタを使用して所望の形状に成形する。
この概要に示す信号効果をエミュレートすることの説明は、あくまで例示を目的としている。本発明のさまざまな態様は、開示される実施形態の以下の詳細な説明の検討から、ならびに図面および特許請求の範囲を参照することによって、より明確に理解および認識されるであろう。さらに、本発明のその他の態様、システム、方法、特徴、利点および目的が、以下の図面および詳細な説明を考察することによって、当業者にとって明白となるであろう。すべてのそのような態様、システム、方法、特徴、利点および目的は、本明細書に含まれること、本発明の範囲に含まれること、および任意の添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図されている。
本発明の多くの態様は、図面を参照することにより、より良く理解されることが可能である。図面内の構成要素は必ずしも一定の縮尺ではなく、それよりもむしろ本発明の例示的実施形態の原理を明確に説明することに重点が置かれている。さらに、図面内で、参照する番号は、複数の図面にわたって、類似した、または対応する、しかし必ずしも同一ではない要素を示している。
バックプレーン上で通信を行っている2つのラインカードを有し、クロストークが発生している通信システムの機能ブロック図を示す。
図1に示すシステムのためのクロストークモデルの機能ブロック図を示す。
本発明の例示的実施形態に係るバックプレーン−ラインカードコネクタについてのクロストーク応答のプロットを示す。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルシステムの機能ブロック図を示す。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置の機能ブロックを含むクロストークキャンセルシステムの機能ブロック図を示す。
本発明の例示的実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る調節可能な遅延を有するクロストークキャンセル装置のクロストークモデル化フィルタの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係るハイパスフィルタを有するクロストークキャンセル装置のクロストークモデル化フィルタの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置の制御モジュールの機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークをキャンセルするためのプロセスを説明するフローチャートである。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置をキャリブレーションするためのプロセスを説明するフローチャートである。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルを実施する前の通信システムのテストデータを示す。
本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルを実施した後の通信システムのテストデータを示す。
本発明の例示的実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタに基づく信号遅延装置の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る伝送路をシミュレートする受動回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る信号、信号効果または信号変換を、エミュレート、シミュレートまたはモデル化するための回路の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る一緒にカスケードされた受動フィルタリングステージの線形回路における周波数の関数としての減衰のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係る直列に接続された能動ステージに基づく回路における時間の関数としての信号振幅のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る信号遅延を制御するための回路の機能ブロック図である。
本発明の例示的実施形態に係る信号遅延を制御するための回路の回路図である。
本発明の例示的実施形態に係る有限インパルス応答(FIR)フィルタの回路図である。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路からの出力パルスにおける時間の関数としての電圧のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路からの出力パルスにおける時間の関数としての電圧のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路における遅延プロットのファミリーのグラフである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路における遅延設定の関数として測定された遅延のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路における立ち上がり時間のプロットである。
本発明の例示的実施形態に係るエミュレーション回路におけるアイダイアグラムである。
本発明の例示的実施形態に係る信号への効果をエミュレートすることに関連して、信号を遅延させるためのプロセスのフローチャートである。
本発明の例示的実施形態に係る信号変換をエミュレートすることに関連して、遅延させられた信号を合成するためのプロセスのフローチャートである。
本発明は、時間遅延の選択可能なレベルと周波数に依存する利得とを信号サンプルに適用することによって、別の信号のチャネル内への第1の信号の望ましくない結合などの信号変換をモデル化することをサポートすることが可能である。
本発明の例示的実施形態では、高速デジタルデータ通信システムなどの通信システム内における1つ以上の通信経路上でのクロストークを、キャンセルすることをサポートすることが可能である。すなわち、本発明の例示的実施形態は、2つ以上の通信チャネル間で発生しているクロストークなどの信号干渉を補償することをサポートすることが可能である。クロストークを補償することにより、信号品質が向上し、通信帯域幅または情報搬送能力が増す可能性がある。
クロストーク効果の柔軟で適合性のあるモデルは、クロストーク干渉を正確に表すキャンセル信号を出力することが可能である。このキャンセル信号を、クロストークを有する信号経路上に結合することにより、そのようなクロストークをキャンセルすること、そしてそれによってクロストークが帯域幅に対して負わせる可能性がある損傷を無効にすることが可能である。
1つの通信チャネル上で伝送されている通信信号は、クロストークなどの望ましくない信号を、別の通信チャネル内に結合して、そのチャネル上で伝送されている通信信号に干渉する可能性がある。2つのチャネル間で発生することに加えて、このクロストーク効果は、複数の通信チャネル間で結合する可能性もあり、その場合には、各チャネルは2つ以上のチャネルにクロストークを生じさせ、2つ以上のチャネルからクロストークを受ける。チャネルは、信号経路を提供する導電体または光ファイバなどの媒体であってもよい。1本の光ファイバまたはワイヤが、2つ以上のチャネル(それぞれがデジタルまたはアナログ情報を伝達している)のための伝送媒体を提供してもよい。あるいは、各チャネルが専用の伝送媒体を有していてもよい。例えば、回路基板が、複数の導体を回路トレースの形態で有し、それらのトレースのうちの各トレースが、専用の通信チャネルを提供してもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置が、クロストーク干渉を受けているチャネル内にクロストークキャンセル信号を入力して、受けたクロストークをキャンセルするか、またはその他の方法で補償してもよい。クロストークキャンセル信号は、クロストークを発生させている別のチャネル上を伝播している信号から導き出されるか、または生成されてもよい。クロストークキャンセル装置は、クロストークを発生させるチャネルと、クロストークを受けるチャネルとの間に結合されてもよい。この構成では、クロストークキャンセル装置は、クロストークを引き起こしている信号の一部をサンプリングするか、または受信してもよく、そして望ましくないクロストークを受けているチャネルに適用するためのクロストークキャンセル信号を作成してもよい。言い換えると、クロストークキャンセル装置は、クロストークのキャンセルまたは補正を提供するために、クロストークを引き起こしているチャネルにタップを付けて、クロストークキャンセル信号を生成し、クロストーク干渉を受けているチャネルにクロストークキャンセル信号を適用してもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置は、クロストーク効果のモデルを介してクロストークキャンセル信号を生成してもよい。モデルは、クロストーク信号を推定する、近似する、エミュレートする、またはなぞらえるような信号の形態で、クロストークキャンセル信号を生成してもよい。クロストークキャンセル信号は、実際のクロストーク信号に一致する波形または形状を有していてもよい。モデル化パラメータの組などのモデルを調節する設定値または調節手段が、この波形の特性を定義してもよい。
クロストークキャンセル信号は、実際のクロストーク信号と同期してもよい。すなわち、クロストークキャンセル信号のタイミングは、実際のクロストーク信号のタイミングに一致するように調節されてもよい。時間遅延またはその他のタイミングパラメータが、クロストークキャンセル信号と実際のクロストーク信号との間の相対的なタイミングまたは時間的な対応関係を定義してもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル信号が実際のクロストークに密接に一致し、それによって効果的なクロストークキャンセルがもたらされるように、クロストークキャンセル装置は、モデル化、遅延、タイミングおよび/または信号整形の調節を実施してもよい。クロストークキャンセル装置のコントローラはクロストークキャンセル装置の出力を監視および解析してもよい。すなわち、コントローラはクロストークがキャンセルされた信号を処理してもよい。このクロストークがキャンセルされた信号は、クロストーク干渉を有するチャネルにクロストークキャンセル信号を適用することによってもたらされた改善された通信信号である。クロストークをキャンセルした後に残っている残留クロストークを最小にするために、コントローラは、モデル化パラメータおよび時間遅延を、個別にまたは一斉に変化させてもよい。クロストークキャンセル装置の動作を調節することにより、クロストーク効果の流動的な状況および/または変動が補償されてもよい。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置は、内部からまたは外部から起動されるキャリブレーションまたはセットアップ手順を経てもよい。キャリブレーション手順を実行しているクロストークキャンセル装置またはその他の装置は、既知のまたは所定のテスト信号の通信チャネル上への伝送を開始してもよい。テスト信号は、クロストークを引き起こすチャネル、またはクロストーク干渉を受けるチャネル上に伝送されてもよい。また、1つのテスト信号が、クロストークを発生させているチャネル上に伝送され、その一方、異なるテスト信号が、発生させられたクロストーク干渉を受けているチャネル上に伝送されてもよい。例えば、ランダム化された通信信号が、クロストークを発生させているチャネル上を伝播してもよく、一方、クロストークを受けているチャネルは、実質的にデータ伝送が行われていないことを表す均一な電圧または電流信号を有していてもよい。クロストークキャンセル装置は、これらの既知の条件を利用して、クロストーク干渉を効果的に補償するクロストークキャンセル信号のタイミングおよび形状を定義してもよい。言い換えると、クロストークを発生させている通信チャネル上で、およびクロストークを受けている通信チャネル上で伝送されるテスト信号を使用し、クロストークキャンセル装置は、クロストークキャンセル装置を動作させることに基づいたクロストーク効果のモデルを定義するか、またはさらに精密にしてもよい。
次に、図1〜図30に提示する図面(複数の図面にわたって同様の番号は同様の要素を示す)のそれぞれを参照して、本発明の例示的実施形態について詳細に説明する。図1〜図12は、一般に、通信クロストークを補正、キャンセル、または補償するための方法およびシステムに関する。図13〜図30は、一般に、クロストーク(または、何らかのその他の現象)に関連して発生する場合がある信号、信号変換および信号効果を、モデル化すること、シミュレートすること、またはエミュレートすることに関する。したがって、図13〜図30は、クロストークへの対処に関連して信号を処理するための例示的方法およびシステムを提供する。それゆえに、図1〜図12を参照して本明細書で説明するクロストークキャンセル装置は、図13〜図30を参照して本明細書で説明する技術を含んでいてもよい。
ここで、図1を参照すると、この図は、バックプレーン信号経路120、130上で通信を行っている2つのラインカード101a、101bを有し、クロストーク150、151を示している通信システム100の機能ブロック図を示している。より具体的には、図1は、バックプレーン通信システム100の例示的場合におけるバックプレーンクロストーク150およびコネクタクロストーク151の発生を示したものである。
ラインカード101a、101bは、シャーシスロットからスライドして挿入されて出し入れするモジュールであり、通常は回路基板であって通信チャネルに関連する通信機能を提供する。バックプレーン103は回路トレースなどの信号経路の1組であり、そのようなシャーシの背面に位置している。そして、このシャーシは、それぞれ取り付けられたラインカード101a、101bと、別の通信装置との間で信号を伝送しており、この別の通信装置とは、別のラインカード101a、101bまたはラックマウント型デジタル通信システム内のデータ処理構成要素などである。
図1に示すシステム100内の各ラインカード101a、101bは、2つの図示されているチャネル120、130などの複数のチャネルのデータを送信および受信する。例示的チャネル130は、(i)ラインカード101a上のトランスミッタ(Tx)104aから始まり、(ii)ラインカード101aを離れ、コネクタ102aを通して、バックプレーン103に伝わり、(iii)バックプレーン103を横切って、別のコネクタ102bおよびラインカード101bに継続され、(iv)レシーバ(Rx)105bによって受信される。図1は、「ビクティム(victim)」または「vict.」(ビクティムトランスミッタ104aからビクティムレシーバ105bまで)および「アグレッサ(aggressor)」または「agg.」(アグレッサトランスミッタ104bからアグレッサレシーバ105aまで)とラベル付けされた2つのそのようなチャネルを示している。
信号経路120、130が、相互にきわめて接近している場合、アグレッサチャネル120から信号エネルギーが放射され、ビクティムチャネル130内に取り入れられる。すなわち、第1の信号経路が第2の信号経路の近くに配置されているバックプレーン103およびコネクタ102a、102bの領域内では、第1の信号経路内を伝播している信号エネルギーの一部が、第2の信号経路内に結合して、この第2の信号経路上を伝播している信号を害するか、または損なう可能性がある。このクロストーク結合150は、例えば、ラインカード101a、101b上、コネクタ102a、102b内、バックプレーン103上、またはその任意の組み合わせにおいて発生する場合がある。
図1には示していないが、クロストークは、さらに逆方向でも発生する可能性がある。具体的には、「ビクティム(victim)」チャネル130は、しばしば「アグレッサ(aggressor)」チャネル120を害するエネルギーを放射する。すなわち、クロストークは、双方向の様式で頻繁に発生して、第1の信号経路から第2の信号経路へだけでなく、第2の信号経路から第1の信号経路へも伝達される。さらに、相互にきわめて近接して共存している3つ以上の信号経路を有するシステム(図示せず)では、クロストークは、3つ以上の信号経路間で伝達される可能性がある。すなわち、1つの信号は、2つ以上の他の信号にクロストークを負わせるだけでなく、2つ以上の他の信号からクロストーク干渉を受ける可能性もある。
図1に示して上記で説明した、複数の物理経路の場合と同様に、クロストークは、1つの伝送媒体(例えば、1つのケーブルまたはトレース)上を伝播しているアグレッサおよびビクティムチャネルについて発生する可能性がある。このシナリオにおいては、各チャネルは特定の信号帯域(例えば、周波数分割多重システムにおける周波数帯域、光波長分割多重システムなどにおけるスペクトルバンド、または時分割多重システムにおける時間ウィンドウ)に対応してもよい。言い換えると、1つはクロストークを発生させており、1つはクロストークを受けている2つの通信チャネルは、光導波路またはワイヤなどの通信媒体内で共存して、各通信チャネルが専用の通信信号の伝送をサポートしていてもよい。
説明をわかりやすくするために、それぞれが独立した物理経路上にある2つのチャネル間で発生しているクロストークに基づいた本発明の例示的実施形態を、図1に示し、本明細書で詳細に説明する。本発明の別の例示的実施形態では、方法およびシステムは、1つの通信媒体上で共存しているチャネル間で発生しているクロストークをキャンセルする。当業者であれば、本明細書に含まれる詳細な説明、フローチャート、プロットおよび機能ブロック図に従って、1つの通信媒体上のクロストークを示している2つ以上のチャネルを有する適用例について、本発明を作製および使用することが可能であろう。
次に、図2を参照すると、この図は、図1に示したシステム100のためのクロストークモデル210の機能ブロック図200を示す。より具体的には、図2は、1つの例示的伝達関数210に基づいたコネクタ102b内でのクロストーク効果151のモデル210を示したものである。
アグレッサトランスミッタ104bは、アグレッサチャネル120上にアグレッサ通信信号u(t)215を出力する。このアグレッサ通信信号u(t)215からのエネルギーは、コネクタ102b内でのクロストーク151を介して、ビクティムチャネル130内に結合する。アグレッサ通信信号u(t)215は、ある範囲にわたる周波数から構成される。クロストーク151は周波数に依存する現象であるため、アグレッサ通信信号u(t)215の周波数は、さまざまな効率でビクティムチャネル内に結合する。クロストーク効果151の周波数モデルH(f)210は、これらの周波数成分のそれぞれが信号n(t)230の形態でビクティムチャネル130内に結合する程度を表現する。このクロストーク信号n(t)230は、ビクティムトランスミッタ104aからビクティムチャネル130上を伝播している純然たる通信信号x(t)214と合成される。ビクティムチャネル130は、結果として生じる合成信号y(t)260を、ビクティムレシーバ105bに伝送する。
クロストーク伝達関数210は、周波数応答H(f)210(または、その時間領域での同等なインパルス応答h(t))によって特徴付けられてもよい。図2に示すように、応答H(f)210は、アグレッサデータ信号u(t)215がアグレッシングトランスミッタ104bからビクティムレシーバ105bへのルートのコネクタ部分において遭遇する変換を伝えるものである。この応答210の詳細は、通常、特定のビクティム−アグレッサチャネルペアによって異なる。それにもかかわらず、応答の一般的性質は、幾何学的制約と、基礎をなす物理学とに基づいている。例えば、バックプレーンコネクタのクロストーク応答151は、物理的システムパラメータに依存してもよい。バックプレーンクロストーク150も、伝達関数を使用してモデル化されてもよく、そして、バックプレーンおよびコネクタクロストーク150、151は、(異なるにも関わらず)1つの伝達関数を使用して捕捉されてもよい。
ラインカード−バックプレーン接続上で発生しているクロストークをクロストークキャンセル装置が補償する本発明の例示的な非限定的実施形態を、図3〜図12Bを参照して以下で説明する。本明細書に開示される実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなるように、そして、本発明の範囲を当業者に伝えるものとなるようにするために提供される。本発明はバックプレーン上で、または通信システム内のその他の位置において発生しているクロストークに対処するために適用されることが可能であるということ、および、本発明はさまざまな形態のクロストークを補償することが可能であるということを、当業者は理解するであろう。
次に、図3を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るバックプレーン−ラインカードコネクタ102bにおけるクロストーク応答210のプロット300を示す。このプロット300は、クロストーク信号151における電力の実験室の測定値を示したものであり、より具体的にはコネクタ102b内でアグレッサチャネル120からビクティムチャネル130に伝達される電力の周波数の関数である。横軸は、ギガヘルツ(GHz)の単位で測定された周波数である。縦軸は、デシベル(「dB」)単位の信号電力、より具体的にはクロストーク周波数応答210の2乗を、10を底とする対数として、その10倍を示したものである。したがって、このプロット300は、1つのチャネル120から別のチャネル130に伝達されるクロストーク電力のレベルを、アグレッサ信号u(t)215の各周波数成分について示したものである。
コネクタ102a、102b内でのクロストーク151の主要なメカニズムは、通常、コネクタのピン間の容量結合である。このメカニズムは、図3において、プロット300の応答の一般的な高域通過性として明白にわかる。言い換えると、プロット300は、約1GHzより上のより高い信号周波数が、1GHzより下のより低い周波数よりも容易にクロストークメカニズム151を介してエネルギーを伝達するという傾向を示す。約1GHz未満を示すプロット300の左側は、約−25dB未満の電力を有する減衰したクロストーク信号を示す。したがって、通信信号u(t)215の約1GHz未満の周波数成分は、それらの通信信号の搬送される電力の比較的小さな部分を、コネクタクロストーク151を介してビクティムチャネル130に伝達するということを、このプロット300は示している。クロストーク151の大きさは、約0.25GHzと1GHzとの間で増加する。したがって、このプロット300に基づいて考えれば、ビクティム通信信号x(t)214の約1GHzと4.25GHzとの間の周波数を有する成分は、類似した信号周波数を有するアグレッサ通信信号u(t)215からのクロストーク効果151を特に受けやすい。
さらに、2GHzより上の周波数における周波数応答プロット300内の変動は、クロストーク効果151がピンのペア間の単純な容量結合以外の効果によって大きく影響されることを示している。言い換えると、2GHzより上では、プロット300は周波数の増加に伴って一般に漸近的に(かつ単調に)増加する古典的な容量結合応答から外れている。対照的に、図示されているプロット300は、約4.6GHzにおける極小などの頂部と谷部のパターンを、より高い周波数において示す。
上記のように、適切なクロストークキャンセルは、システムのクロストーク応答を正確にモデル化することに大きく依存する。クロストークキャンセルのパフォーマンスは、クロストーク効果が強い周波数についてのモデルの正確さ、すなわち、約1GHzより上の周波数についてのモデルの正確さに特に依存する。
プロット300内の前述の頂部と谷部の高次効果は、事前には一般に知られていないビクティム信号経路130とアグレッサ信号経路120との間の特定の相対的な幾何学的関係に大きく依存する。言い換えると、信号に対する実際のクロストークの影響に関する経験的データまたはテスト測定値なしに、通信経路の幾何学的または物理的な解析に基づいて、正確かつ十分なクロストークモデルを導き出すことは、問題が多い可能性がある。
別の言い方をすれば、図3のプロット300は、通信信号214、215のより高い周波数成分はクロストーク151を特に受けやすいということを含んでいることを示しており、また、それらのより高い周波数成分についてのクロストーク応答210をモデル化することは、この高周波応答の本質的に不安定な性質に対処することを含んでいることを示している。システムのクロストーク応答210の正確なモデルは、適切なクロストークキャンセルのための基礎を提供することが可能であるため、そのようなモデルはそれらの高次の不安定な応答特性を正確に表す必要がある。受動回路解析では、必要な精度を有するモデルは容易には導き出されないのに対して、実際の信号応答は適切なモデルを構築するための基礎として役立つ可能性がある。
本発明の一つの例示的実施形態では、図3に示すプロット300内に提示されている測定データなどのクロストーク測定データに基づいて、クロストークキャンセル装置内のクロストークモデルが定義されてもよい。実験室内でそのような測定データを取得することの代案として、例えば、図9および図11を参照して以下で説明するように、クロストークキャンセル装置をキャリブレーションモードに切り換えることによって、現場作業中にデータを取得してもよい。
次に、図4を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルシステム400の機能ブロック図を示す。上記のように、本発明は、図1および図2に示して上記で説明した通信システム100などの高速ディジタル通信システム内におけるクロストークキャンセルを提供することが可能である。より具体的には、図1、図2、図3および図4を参照して上記で説明したように、バックプレーン−ラインカードコネクタ101b内で発生しているクロストーク151をキャンセルするように配置されたクロストークキャンセル装置またはクロストークキャンセラ(「XTC」)401を、図4は示している。
デジタルデータx(t)214は、ビクティムレシーバ105bによって受信されるようにビクティムチャネル130内を伝播する。ビクティムチャネル130は、さらにアグレッサトランスミッタ104bによって出力されたデジタルデータu(t)215から導き出され、かつビクティムレシーバ105bにおける受信は意図されていない望まないクロストーク信号n(t)230も搬送する。意図されたデータストリーム信号x(t)214と、クロストーク信号n(t)230とは、合成信号y(t)260を付加的に形成する。クロストークキャンセラ401は、合成信号y(t)260を受信し、キャンセルによって、この信号260からクロストーク干渉n(t)230を補正し、そして補正された信号z(t)420を、ビクティムレシーバ105bによる受信のために出力する。すなわち、クロストークキャンセラ401は、実際のクロストーク230の推定を、ビクティムチャネル130内を伝播している信号260に適用して、クロストーク信号要素230を効果的にキャンセルし、一方で、望ましいデータ信号214は実質的にそのままにする。
クロストークキャンセラ401が実行するステップは、以下を含む。
(i)y(t)260(クロストーク151によって害されたビクティム信号)と、u(t)215(クロストーク信号230を引き起こしているアグレッサチャネル120上を伝播しているアグレッサ信号)の代表的な部分とを、独立した入力として受け入れるステップ。
(ii)伝送されたアグレッサ信号u(t)215を、クロストーク効果151を介してシステム200内で実際に発生する信号変換210をエミュレートするためのクロストーク推定に、変換するステップ。
(iii)ビクティムy(t)260のクロストーク信号n(t)230成分をキャンセルするために、ビクティムy(t)260からモデル化されたクロストークを減算するステップ。
(iv)クロストーク補償のための特定の技術を有さない従来のレシーバであってもよいビクティムレシーバ105bに、補償された信号z(t)420を出力するステップ。
次に、図5を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルシステム500の機能ブロック図を示す。より具体的には、図5は、クロストークモデル501と、加算ノード502と、コントローラ、電子制御「メカニズム」または制御モジュール503とからなる3つの機能要素501、502、503を有する例示的クロストークキャンセラ401のアーキテクチャの概要を示している。モデル501は、クロストーク推定信号w(t)520を生成し、一方、加算ノード502は、このクロストーク推定520をビクティムチャネル130に適用する。コントローラ503は、加算ノード502の出力z(t)420に基づいて、モデル501内のパラメータを調節する。
モデル501は、調節可能な周波数応答関数G(f)501の形態で、アグレッサ伝達関数H(f)210をエミュレートする。すなわち、モデル501は疑似クロストーク信号w(t)520を生成しており、この疑似クロストーク信号w(t)520は、アグレッサチャネル120とビクティムチャネル130との間のコネクタ102b内における電磁結合によって引き起こされる実際の干渉しているクロストーク信号n(t)230のモデル、シミュレーション、推定またはエミュレーションであってもよい。モデル周波数応答G(f)501は、図3に示して上記で説明したプロット300に類似した周波数依存応答に適合する方法で、アグレッサデータ信号u(t)215を効果的にフィルタリングする。
同じアグレッサデータストリームu(t)215が、実際のクロストーク応答H(f) 210とクロストークキャンセラのモデル501との両方を駆動するため、モデル510の出力w(t)520は、理想的な場合、アグレッサ信号成分n(t)230と等しい。すなわち、環境にノイズがなく、すべてのシステムパラメータが既知で完璧にモデル化された理論的または理想的な場合には、G(f)501はH(f)210と等しい。さらに、この理想的なシナリオでは、H(f)210およびG(f)501のそれぞれの出力信号n(t)230およびw(t)520も、相互に等しくなる。多くの未知の影響と不確定な要因とを有する現実世界の状況では、実質的にエラーのない高速データレートの通信をサポートするための十分な精度および確度で、G(f)501はH(f)210を近似する。
差分ノード502は、エミュレートされたアグレッサ信号w(t)520またはエミュレーション信号520を合成信号y(t)260から減算する。したがって、受信するビクティム信号y(t)260からクロストーク干渉を除去するか、または低減させる。現実世界の動作環境内で機能している物理的実施においては、モデルG(f)501は、真の応答H(f)210に正確には一致しない。コントローラ503は、実際のクロストーク効果H(f)210と、エミュレートされた、またはモデル化されたクロストーク効果G(f)501との間の不正確さに関連する誤差を最小にするために、モデル501を調節する。
加算ノード502の実施は、通常、当業者にとって簡単である。ただし、2つの入力への高い感度を維持するために、特別な注意が払われるべきである。発生する、および、したがってモデル化されるクロストーク信号230、520の振幅が小さいことは、特に高周波においてはまれではない。一見したところでは無視できるように見えるが、それらの高周波は、しばしば等化装置(図示せず)を介して増幅される。したがって、無視された高周波クロストークは、等化の前は小さいことがあるが、等化の後で非常に大きくなる可能性がある。加算ノードは、そのような高周波応答に対応するように実施されるべきである。
補償された信号z(t)420(すなわち、差分ノード502の出力)の一部は、取り出されて、コントローラ503に送り込まれ、ビクティムレシーバ105bが受信するのと実質的に同じ信号420をコントローラ503に提供する。コントローラは、応答G(f)501によって特徴付けられるモデル化フィルタ501のパラメータを、実際の応答H(f)210への適合度を最大にするために調節する。特に、コントローラ503は、クロストークが補償された信号z(t)420を入力として取り込み、その信号420を処理、監視または解析して、信号忠実度を判定する。言い換えると、コントローラ503は、モデルの出力520がクロストーク信号230をキャンセルした程度を解析することによって、モデルのパフォーマンスを評価する。コントローラ503は、さらにクロストークのキャンセルを強化するため、および変化する状況への動的な対応を提供するために、モデル501を調節する。
コントローラ503の出力は、モデル化フィルタ501のパラメータを含むため、コントローラはモデル化された応答G(f)420を調節することが可能である。したがって、コントローラ503は、モデル化フィルタ501を操作して、z(t)420上のクロストークを最小にすることによって、補償された信号420の忠実度を最大にする、すなわちG(f)420とH(f)210との間の一致を最大にすることが可能である。別の言い方をすれば、コントローラ503は、補正されたクロストークがキャンセルされた信号z(t)420を監視し、クロストークモデルG(f)420を動的に調節して、クロストークのキャンセルを強化し、信号品質を向上させる。したがって、本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置401は、モデル化誤差と、変動する動的状況と、その他の効果とを補償するために、クロストークのキャンセルを適合させ、自己補正し、また自己設定するフィードバックループを含んでいてもよい。
図5に示すシステムは、比較的低度の複雑さ、消費電力およびコストを提供するために、アナログ集積回路を主に使用して実施されてもよい。一実施形態では、モデル501と差分ノード502は、完全にアナログである。別の実施形態では、アグレッサデータソース104bのデジタル性を活用するために、モデル501の特定の側面はデジタル的に実施される。
コントローラ503は、通常、アナログおよびデジタルの両方の回路を含んでいる。コントローラ503におけるアナログ前処理の特定の側面のため、このデジタル回路は通信データレートに比較して低い速度で動作することが可能であり、したがって、実際的な実施を容易にすることが可能である。特に、デジタル回路は、チャネルボーレートより何桁も低い速度で動作することが可能である。本発明の一例示的実施形態では、コントローラ503内のデジタル回路は、チャネルボーレートの少なくとも1桁下で動作する。本発明の一つの例示的実施形態では、コントローラ503内のデジタル回路は、チャネルボーレートの少なくとも2桁下で動作する。本発明の一つの例示的実施形態では、コントローラ503内のデジタル回路は、チャネルボーレートの少なくとも3桁下で動作する。低電力および低コストのクロストークキャンセルソリューションを、一緒になってもたらすコントローラ503およびモデル501のより詳細な例示的実施形態について、以下でさらに詳しく説明する。
次に、図6を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタ(tapped delay line filter)600の機能ブロック図である。タップ付き遅延線フィルタ600は、入力信号215を、一連の遅延ステージ601a、601b、601cを通じて遅延させ、各遅延ステージ601a、601b、601cの出力を、通常は増幅器602a、602b、602c、602dを使用してスケーリングし、それらのスケーリングされた出力を加算するか、またはその他の方法で合成することによって、入力信号215から出力信号620を生成する装置である。タップ付き遅延線フィルタ600は、課せられたクロストーク信号n(t)230の形状または波形を近似した形状または波形を有する信号v(t)620を生成するモデル501のアナログ構成要素であってもよい。すなわち、タップ付き遅延線フィルタ600は、アナログ構成要素を介して実施される例示的波形整形器であってもよい。
上記のように、実際のクロストーク応答210を正確にモデル化することは、クロストークキャンセルを介したクロストーク干渉230の適切な除去を容易にする。クロストークキャンセル装置(図示せず)が、不正確なクロストークモデル(図示せず)に基づくならば、そのような装置は、信号品質を向上させるよりもむしろ低下させる可能性がある。例えば、誤ったモデルを用いた結果として、クロストークのキャンセルを目的とした「補正」信号は受信されるビクティム信号に干渉を追加する可能性があり、その一方でキャンセルの目標となるクロストーク信号は、実質的にそのまま残される可能性がある。したがって、例えばフィルタリングメカニズムに基づくクロストークモデルは、適用例の中で遭遇する可能性があるさまざまなクロストーク伝達関数のモデル化をサポートする十分な柔軟性を有するべきである。すなわち、柔軟なクロストークモデルは、例えばさまざまな適用例、動作条件および環境に容易に適応できない柔軟性のないモデルよりも望ましい。
図6に示すような本発明の一つの例示的実施形態では、電気的に制御可能な利得係数602a、602b、602c、602dを有するアナログタップ付き遅延線フィルタ600(トランスバーサルフィルタとしても知られている)が、アグレッサクロストーク伝達関数210をモデル化する。このフィルタ600は、広範囲の動作条件および状況をサポートする望ましいレベルの柔軟性と適応性とを提供することが可能である。より具体的には、タップ付き遅延線フィルタ600は、ビクティムチャネル130に課されるクロストーク信号230の波形を近似した波形を生成することが可能である。
図示されているフィルタ600は、N個の遅延要素601a、601b、601c(それぞれが時間遅延δ(デルタ)を提供する)と、n=0、...、Nについての係数αn(アルファn)を備えた対応する可変係数増幅器602a、602b、602c、602dとを有する例示的タップ付き遅延線フィルタである。タップ付き遅延フィルタ600の出力v(t)620は、次のように書かれてもよい。
v(t)=α0u(t)+α1u(t−δ)+...+αNu(t−Nδ)
利得係数α0、α1、α2...αn(アルファ0、アルファ1、アルファ2...アルファn)の値を変化させることは、フィルタ600の応答に対応する変化を引き起こす可能性がある。タップ付き遅延線フィルタ600は、アグレッサのインパルス応答を最大Nδ(デルタのN倍)まで、すなわちフィルタ600の時間スパンまでモデル化することが可能である。その上、(図3に示して上記で説明した)アグレッサ応答210の周波数成分は、周波数f=1/(2δ)(周波数は、デルタの2倍の逆数に等しい)までモデル化されることが可能である。したがって、δ(デルタ)は、ビクティム信号x(t)214における対象となる最高の信号周波数がf=1/(2δ)(周波数は、デルタの2倍の逆数に等しい)未満となるように選択されるべきである。さらに、Nは、アグレッサインパルス応答の大部分がNδ(デルタのN倍)の時間スパン以内に含まれるように選択されるべきである。すなわち、アグレッサ周波数応答210は、f=1/(Nδ)(周波数は、デルタのN倍の逆数に等しい)の周波数よりも下で、大きな変動を示すべきではない。Nおよびδ(デルタ)を選択するためのこれらの条件は、アグレッサ信号の条件と対照的である。アグレッサノイズが、指定された周波数よりも上にとどまる場合、これは重要ではない。その理由はうまく設計されたレシーバは、ビクティム信号品質を低下させることなく、容易にそれらの高周波を抑制することができるからである。
タップ付き遅延線フィルタ600は、アグレッサ応答210によって引き起こされるパルス整形をエミュレート、推定または模倣することが可能ではあるが、このフィルタ600は通常、非実際的な数のタップまたは遅延ステージなしでは、非常に変化しやすい時間遅延に適切に対処することはできない。時間遅延は、図5に示して上記で説明した(i)アグレッサデータ信号u(t)215の一部をクロストークキャンセラ401に導く回路タップと、(ii)クロストークキャンセラ401内の加算ノード502との間にわたる信号経路の長さに直接関連している。より具体的には、効果的な相互キャンセルのために、モデル化された信号と実際の信号230、520が相互に適切に同期されているようにするため、またはタイミングが合わせられているようにするために、モデル化された時間遅延は実際のクロストーク信号n(t)230の時間遅延を密接に近似すべきである。タップ付き遅延線フィルタ600の出力620は、モデル501の出力w(t)520として直接使用されてもよいが、タップ付き遅延線フィルタの出力620をビクティムチャネル130上のクロストーク信号230と同期させることによって、クロストークのキャンセルが強化され、高められた信号忠実度がビクティムレシーバ105bに提供され、全体的なモデル化の柔軟性が向上する可能性がある。
実際のクロストーク信号230およびそのモデル化された対応物520の両方の結合点の位置は、ビクティム−アグレッサペアによって非常にさまざまである可能性があるため、それらのそれぞれの遅延は明確に定義されないか、または不確実になりやすい可能性がある。バックプレーン−ラインカードコネクタ102bを介した主要な結合という比較的単純な場合でさえ、ラインカード101b上の信号経路長はさまざまであることが多い。したがって、ラインカードのレイアウトに関する特定の知識と解析なしでは、時間遅延を予測することは困難になる可能性がある。時間遅延におけるこの不確実性に対処するために、図7に示すように、調節可能な遅延701がクロストークモデル化フィルタ501内に組み込まれてもよい。
次に、図7を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係る調節可能な遅延701を有するクロストークキャンセル装置401のクロストークモデル化フィルタ(「XTMF」)501の機能ブロック図である。調節可能な遅延701は、タップ付き遅延線フィルタ600の前に置くこと、または(図7に示すように)後に置くことが可能である。本発明の一つの例示的実施形態では、調節可能な遅延701を、図示しているようにアナログタップ付き遅延線フィルタ600の出力側に配置するのではなく、入力側に配置することによって実施が簡略化される可能性がある。この簡略化は、デジタル信号u(t) 215の離散的性質によってもたらされてもよく、この場合、遅延装置701の出力を量子化すること、またはハードリミットすることによって、信号の線形性が容易に維持される可能性がある。あるいは、図示した構成に従って調節可能な遅延701がタップ付き遅延線フィルタ600の後に続く場合、調節可能な遅延701への入力において、信号v(t)620はアナログである。調節可能な遅延701内にアナログ信号を入力することは、広範囲にわたる信号値および周波数の線形応答の必要性を生じさせる可能性がある。
タップ付き遅延線フィルタ600は、意図したデータ信号x(t)214と一緒にビクティムチャネル130上を望ましくなく伝播しているクロストーク信号n(t)230を近似した補正信号w(t)520を出力するが、調節可能な遅延701は補正信号520の波形を、望ましくないクロストーク信号230の波形と同期させる。すなわち、調節可能な遅延701は、補正信号520が実際のクロストーク干渉230と、時間的に一致するように、かつ同期するように、補正信号520のタイミングを合わせるか、または補正信号520を調整する。
タップ付き遅延線フィルタ600および調整可能な遅延701の機能に基づいて、クロストークモデル化フィルタ501は、実際のクロストーク信号n(t)230に正確に一致した形状およびタイミングを有するキャンセル信号w(t)520を出力する。図5に示して上記で説明したように、減算ノード502を介して、ビクティムチャネル130内に挿入されるか、またはビクティムチャネル130に適用された場合、キャンセル信号w(t)520は、実際のクロストーク信号230を無効にし、それによってビクティムレシーバ105bに送られる通信信号z(t)420の品質を向上させる。
図5を参照して上記で説明し、図8を参照して下記でさらに詳細に説明するように、コントローラ503は、タップ付き遅延線フィルタ600と調節可能な遅延701とを調節することにより、それらのそれぞれのパフォーマンスを微調整し、そしてビクティムレシーバ105bに送られる補正された信号420の忠実度を向上させる。
本発明の一つの例示的実施形態では、図15に示して下記で説明する回路1510が、クロストークモデル化フィルタ501の代わりに用いられる。したがって、図7に示す調節可能な遅延701とタップ付き遅延線フィルタ600は、それぞれ以下で説明するように、図15の時間整合モジュール1535とFIRフィルタ1560とを含んでいてもよい。
次に、図8を参照すると、この図は本発明の例示的実施形態に係るハイパスフィルタ801を有するクロストークキャンセル装置800のクロストークモデル化フィルタ501’の機能ブロック図である。ハイパスフィルタ801は、通常、固定され、または調節不可能なフィルタである。図8に示す例示的実施形態の構成において、調節可能な遅延701はタップ付き遅延線フィルタ600に入力を送り込み、これによって図7を参照して上記で説明した利点を特定の適用例のために提供する。
図7に示すように、例示的クロストークモデル化フィルタ501’内に、任意選択のハイパスフィルタ801を含めることによって、一部の適用例または動作環境においてパフォーマンスが向上する可能性がある。ハイパスフィルタ801は、一定範囲の周波数成分を有する信号を受信し、周波数しきい値より下の周波数成分を減衰させ、周波数しきい値より上の周波数成分を伝送する装置である。
タップ付き遅延線フィルタ600は、
1/(Nδ)<f<1/(2δ)
の周波数範囲にわたって柔軟なモデル化応答を有するが、f<1/(Nδ)(周波数はデルタの2倍の逆数よりも小さい)などの、より低い周波数においては、しばしば柔軟性に劣る。したがって、クロストーク応答210の低周波特性を正確にモデル化するためには、フィルタタップの個数Nを大きくすることが必要とされ、それによってフィルタの複雑さが増加する可能性があり、あるいは、より長い遅延インクリメントδ(デルタ)が必要とされて、それによって高周波の柔軟性が減少する可能性がある。多くの適用例において、そのようなトレードオフを避けることが好ましい。図3を参照して上記で説明したように、電気システムの場合、低周波クロストーク特性は、通常、容量結合効果によって支配され、したがって単純な一次の抵抗−容量(「RC」)ハイパスフィルタなどのハイパスフィルタを使用して正確にモデル化することが可能である。すなわち、クロストークモデル化フィルタ801内にハイパスフィルタ801を挿入することにより、タップ付き遅延線フィルタ600内に扱いにくい、または費用のかかる多数のタップフィルタを必要とすることなしに、高レベルのパフォーマンスを提供することが可能である。
図7に示したクロストークモデル化フィルタ501の例示的実施形態と同様に、タップ付き遅延線フィルタ600と、調節可能な遅延701と、ハイパスフィルタ801との順序付けは、さまざまな配置をサポートするために変更されてもよい。すなわち、本発明は、図8に示す機能ブロック701、600、801のそれぞれに対応する物理的構成要素を意図した適用例のための許容できるパフォーマンスを提供する任意の並列または直列の構成に配置することをサポートしている。それにもかかわらず、特定の構成または順序付けは、他の構成に比較して、選ばれた適用例の状況のための特定の利点またはトレードオフを提供する場合がある。
図8に示す例示的直列構成では、調節可能な遅延701を、タップ付き遅延線フィルタ600の入力側に、ハイパスフィルタ801をタップ付き遅延線フィルタ600の出力側に配置する。この順序付けでは、調節可能な遅延701の実施は入力および出力の両方の信号の離散的振幅の性質を活用することによって、簡略化される可能性がある。タップ付き遅延線フィルタ600も、調節可能な遅延701から提供される離散的振幅の入力をデジタル遅延要素を介して、活用してもよい。ハイパスフィルタ801は、そのRC実施においては、アナログ装置であり、離散的振幅の入力をハイパスフィルタ801に提供することによって利益を受けることはない。したがって、ハイパスフィルタ801を、クロストークモデル化フィルタ501’の出力側に、または別の位置に配置することによる不利益は通常何もない。
図5を参照して上記で説明したように、制御モジュール503は、クロストークが補償された信号z(t)420を入力として取り込み、クロストーク応答モデル501を調節するための制御信号820、830を出力する。クロストークモデル化フィルタ501への制御モジュールの出力820、830は、(i)調節可能な遅延構成要素701によって実施される時間遅延を制御するための「遅延制御」信号830と、(ii)タップ付き遅延線フィルタ600内の可変係数増幅器602a〜d上の利得を制御するための一組の「フィルタ制御」信号820とを含んでいる。すなわち、コントローラ503は、モデル化パラメータをタップ付き遅延線フィルタ600に出力し、タイミングパラメータを調節可能な遅延701に出力する。
これらの出力制御値は、補償された信号z(t)420の観測、処理および/または解析に基づいて決定される。2002年3月28日出願の「Method and System for Decoding Multilevel Signals」と題された米国特許出願第10/108,598号明細書は、信号忠実度を評価するための実施可能な例示的システムおよび方法を開示している。同一所有者に所有される2003年7月15日出願の「Adaptive Noise Filtering and Equalization for Optimal High Speed Multilevel Signal Decoding」と題された米国特許出願第10/620,477号明細書は、クロストークモデル化フィルタ501の装置パラメータを制御するための実施可能な例示的システムおよび方法を開示している。米国特許出願第10/108,598号明細書および米国特許出願第10/620,477号明細書の開示は、参照により本明細書に完全に援用されるものとする。クロストークモデル501、タップ付き遅延線フィルタ600および調節可能な遅延701のうちの1つ以上は、それぞれが米国特許出願第10/108,598号明細書または米国特許出願第10/620,477号明細書に開示された方法および/またはシステムを使用して、制御および/または調節されてもよい。調節可能な遅延701の時間遅延調節は、例えば、これらの特許出願の開示に従って、可能性のある値の全範囲を通して掃引される変数として、遅延制御を扱うことによって決定されてもよい。
次に、図9を参照すると、この図は、図8に示す例示的クロストークモデル化フィルタ501’または図7に示す例示的クロストークモデル化フィルタ501などのクロストークモデル501と、それらに関連する調節可能な遅延701とを制御するための例示的システム900を示したものである。より具体的には、図9は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置401の制御モジュール900の機能ブロック図である。図9に示す例示的コントローラ900は、比較的単純な理論的解析と実施とを容易にし、またその関連で、上記の米国特許出願第10/620,477号明細書および米国特許出願第10/108,598号明細書に開示された制御方法およびシステムを超える利益を特定の適用例に提供することが可能である。
図9のコントローラ900は、ビクティムレシーバ105bによって受信されることになっているクロストークがキャンセルされた信号z(t)420を受信する周波数伝達応答P(f)を有するフィルタ901を含んでいる。フィルタ901は、この周波数伝達応答に基づくスペクトル重み付けフィルタであってもよい。このフィルタ901の出力は、電力検出または信号2乗装置902に結合され、この装置はローパスフィルタ903に出力を提供する。ローパスフィルタ903は、一定範囲の周波数成分を有する信号を受信し、周波数しきい値より上の周波数成分を減衰させ、周波数しきい値より下の周波数成分を伝送する装置である。
アナログ−デジタル変換器(「ADC」)は、ローパスフィルタの出力を受信し、対応するデジタル信号を生成して、その信号をデジタルコントローラ905に送り込む。次に、デジタルコントローラ905は、調節可能な遅延701とタップ付き遅延線フィルタ600のそれぞれのためのデジタル制御信号を生成する。それぞれのデジタル−アナログ変換器(「DAC」)906a、906bは、それらの信号を遅延制御線830およびフィルタ制御線820上でそれぞれの伝送のために、アナログ領域に変換する。アナログ遅延制御信号は、調節可能な遅延701を調節し、一方、アナログフィルタ制御信号はタップ付き遅延線フィルタ600を調節する。
データを搬送していないという一時的状況にあるチャネル上にクロストークが負わされている単純な動作例について説明することは有用である。より具体的には、ビクティムトランスミッタ104aがデータを何も送信せず、一方でアグレッシングトランスミッタ104bは、疑似ランダムまたはコード化された疑似ランダムデータなどの広範なスペクトル成分または広範な信号周波数を有するデータを送信している場合を考慮する。すなわち、図5を再び簡単に参照すると、信号x(t)214は実質的に0であり、一方でu(t)215は、ランダムに変化しているデジタルデータパターンによってもたらされる広範なアナログスペクトル成分を有するデジタルデータ信号である。この場合、信号y(t) 260は、単に発生したアグレッサn(t)230であり、信号w(t)520は、モデル化されたアグレッサである。したがって、信号z(t)420は、実際にはキャンセル装置のモデル化誤差である。完全なクロストークキャンセルという理論的かつ理想的な状況においては、z(t)420は0である。
言い換えると、ビクティムチャネル130上で実質的に均一な電圧を伝送し、一方でアグレッサチャネル120上に広範な周波数を有する信号を伝送することにより、ビクティムチャネル130上に実質的に純粋なクロストークが提供され、n(t)230はy(t)260に等しくなる。クロストークキャンセラ401が、純粋なクロストーク信号n(t)230とやはり同等のキャンセル信号w(t)520を出力する場合、z(t)420は、実質的に信号エネルギーを有さない。したがって、この状態においては、z(t) 420内の信号エネルギーは、クロストークモデル化フィルタ501内のモデル化または遅延の不正確さを示す。
制御モジュール900は、定義済みの信号をアグレッサチャネル120上に伝送し、一定電圧の、または実質的にデータのない信号をビクティムチャネル130上に伝送するというこのような状態を実施してもよい。次に、制御モジュール900は、クロストークモデル化フィルタ501’の調節可能なパラメータを調節して、ビクティムレシーバ105bによって受信される信号z(t)420を最小にし、それによって実際のクロストーク信号n(t)230に一致するクロストークキャンセル信号w(t)520を提供し、さらに、実際のクロストーク応答H(f)210に効果的に一致するモデル化されたクロストーク応答G(f)501を提供してもよい。より一般的には、制御モジュール900は、アグレッサチャネル120、ビクティムチャネル130またはアグレッサチャネル120とビクティムチャネル130の両方の上で、定義済みの信号パターンまたは既知の信号パターンの伝送を引き起こして、クロストーク効果151を特徴付け、そしてクロストークキャンセルまたは別の形態のクロストーク補償を、制御、最適化または調節する。さらに、制御モジュール900は、セットアップモードまたは自己設定手順の形態の学習または適応モードを有していてもよく、また自動または自己キャリブレーションを実施してもよい。
図9を参照し、データのないチャネル上にクロストークを負わせる例を超えて一般的に述べると、この誤差信号z(t)420は、特定の周波数における他の周波数よりも高い任意の重要性を強調するために、応答がP(f)として示される任意選択のフィルタ901を使用してスペクトル的に重み付けされてもよい。例えば、ビクティムレシーバ105b内の等化の効果をエミュレートするために、誤差信号z(t)420をハイパスフィルタリングすることが望ましい場合がある。次に、(スペクトル的に重み付けされた可能性がある)誤差信号z(t)420は、2乗されるか、または電力検出される。すなわち、2乗装置902の出力は信号電力となる。次に、電力信号は、誤差信号z(t)420の積分された電力、すなわちエネルギーを取得するために、比較的低いカットオフ周波数を有するローパスフィルタ903(または、積分器)を通過させられる。したがって、この点における信号は、誤差信号z(t)420の統計的分散(すなわち、標準偏差の2乗)のアナログ推定に対応する。
当業者によく知られているように、誤差分散は、忠実度を評価するための有用な尺度である。ローパスフィルタ903のカットオフ周波数は非常に低い周波数(通常は、シンボル伝送レートより何桁も下)にあるため、任意のモデル化フィルタ変化の過渡効果が減衰して消えた後の分散信号はほぼ定数である。したがって、アナログ分散信号は、単純な低速高分解能アナログ−デジタル変換器904を使用してサンプリングしてもよい。アナログ−デジタル変換器904によるデジタル化された信号出力は、誤差分散情報を単純なマイクロプロセッサ、状態機械、有限状態機械、デジタルコントローラまたは同様の装置(本明細書では、「デジタルコントローラ」と呼ぶ)905に提供する。現在の応答モデル化パラメータの組についての誤差分散を記録した後、デジタルコントローラ905は、次にDACの組906に、新しいパラメータをデジタル的に出力し、それらのDACが、対応するアナログ信号をアグレッサエミュレーションモジュール501に提供することによって、新しいフィルタ設定を指定してもよい。
デジタルコントローラ905は、(i)クロストークモデル化フィルタ501のパラメータを設定すること、および(ii)現在のパラメータのモデル化誤差分散への影響を直接観測することの両方が可能であるため、デジタルコントローラ905はアグレッサ応答モデル501の実際の応答210への適合度を最大にするパラメータの組を見つけることができる。試行錯誤処理は、過度に複雑ではないため、多くの場合、モデルパラメータのすべての組み合わせをテストすることが可能である。ただし、当業者に知られているその他の経験的検索/最適化手法を代わりに使用してもよい。本発明の一つの例示的実施形態では、上記の米国特許出願第10/620,477号明細書に記載されているような、座標−降下アプローチが、許容できるモデルパラメータを識別するための検索および最適化を提供する。
上記のように、制御モジュール900は、実際的な制御の実施を提供するために、アナログおよびデジタル回路の組み合わせを含んでいてもよい。フィルタ901および電力検出装置902は、共同で高速アナログ信号を入力および出力する。ローパスフィルタ903は、高速アナログ信号を入力として取り込み、低速アナログ信号を出力する。フィルタ901、電力検出装置902およびローパスフィルタ903は、共同で関連する統計情報を高速信号から抽出し、より簡潔な形態でそれを提示することによって、高速信号の投射を低速信号上に取り出す。ADC904は、この低速アナログ信号を入力として取り込み、対応するデジタル化された近似を出力する。その結果として、コントローラ905はこの低速デジタル信号を受信して処理する。デジタル信号は低速であるため、関連する処理回路の複雑さは、信号が高速である場合に必要とされる複雑さよりも少ない。デジタルコントローラ905は、低速デジタル制御信号をデジタル−アナログ変換器906a、906bに出力し、デジタル−アナログ変換器906a、906bは、次に低速アナログ信号を出力する。直列の、単純な高速アナログ前処理および低速デジタル処理の結果として、制御モジュール900は、強力な統計的特性化に基づいた信号解析を提供し、回路の複雑さが比較的少ない堅牢な制御手法を実施し、これらの要因によって高速通信システムにおける実際的なクロストークキャンセルを容易にすることが可能となる。
図9に示す図では、誤差分散を生成するために、電力検出(または信号2乗)装置902が使用されているが、全波整流器(これは、信号の絶対値を取得する)を代わりに使用してもよい。全波整流器に基づいた実施の場合、ローパスフィルタ903の出力は、もはや誤差分散には対応しないが、それにもかかわらず、有効な忠実度の基準を表す。特に、これは、誤差信号420の1−ノルムであり、したがって、忠実度の尺度は、依然として適切な数学的特性を有している。信号の「1−ノルム」を決定することは、通常、制御信号の絶対値を積分することを含んでいることを、当業者は理解する。この代用は、特定の適用例にとって有利な場合があり、その理由は、(i)1−ノルム信号は、低減されたダイナミックレンジを有する(したがって、アナログ−デジタル変換器904への分解能の制約を緩和する)場合があるということ、および、(ii)全波整流器は、電力検出器よりも実施が容易な場合があるということである。そのような変更は、本発明の範囲内であると見なされる。
同様に、電力検出器902は、半波整流器または信号の大きさを評価するために使用される任意の類似した装置を使用して置き換えてもよい。さらに、図5〜図9に示すクロストークキャンセラ401の機能ブロック、モジュールおよびそれぞれのサブモジュールへの分割は、概念的なものであり、機能のハード境界または構成要素の物理的グループ分けを必ずしも示すものではないことを、当業者は理解するであろう。むしろ、機能ブロック図に基づいた図としての例示的実施形態の表現は、本発明の例示的実施形態の説明を容易にするものである。実際には、これらのモジュールは、本発明の範囲を逸脱することなく、組み合わされること、分割されること、およびその他の方法で他のモジュールに再区分されることが可能である。
本発明の一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセルシステムは、モノリシックICなどの1つの集積回路(「IC」)である。クロストークキャンセル装置、制御モジュールおよびクロストークモデル化フィルタのそれぞれが、1つのICであってもよい。そのようなICは、相補型金属酸化膜半導体(「CMOS」)ICであってもよく、また、例えば0.18ミクロンプロセスで製造されていてもよい。
クロストークをキャンセルするためのプロセス、およびクロストークキャンセラをキャリブレーションするためのプロセスを、それぞれ図10および図11を参照して、次に説明する。記載されているとおりに本発明が機能するためには、本明細書に記載されているプロセス内の特定のステップは、必然的に他のステップに先行しなければならない。ただし、そのような順序またはシーケンスが本発明の機能を変えない場合、本発明は記載されているステップの順序に限定されない。すなわち、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、一部のステップは、その他のステップの前または後に、あるいは、その他のステップと並行して実行されてもよいということが認識される。
次に、図10を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストーク151をキャンセルするためのクロストークのキャンセルと題されたプロセス1000を説明するフローチャートである。プロセス1000の最初のステップであるステップ1010において、アグレッサトランスミッタ104bは、アグレッサ通信信号u(t)215を、アグレッサチャネル120上に送信する。この通信信号215は、データを搬送するアナログまたはデジタル信号であってもよい。
ステップ1015において、クロストーク効果151は、アグレッサ通信信号u(t)215からのエネルギーを、クロストークn(t)230としてビクティムチャネル130内に結合する。結合メカニズムは、バックプレーン103上を伝播する電気的データ信号の例示的場合のように、電磁結合であってもよく、または別の光学的または電気的クロストークメカニズムであってもよい。クロストーク効果151のエネルギー伝達は、ビクティムレシーバ105bへ向けての信号伝播をもたらす方法で、ビクティムチャネル130内にクロストーク信号n(t)215を生成する。
ステップ1020において、ビクティムトランスミッタ104aは、ビクティム通信信号x(t)214を、ビクティムチャネル130上に送信する。ビクティム通信信号214は、アナログまたはデジタル信号のいずれであってもよい。ステップ1025において、クロストーク信号n(t)230は、ビクティムチャネル130内において、ビクティム通信信号x(t)214と共存するか、または混合する。合成信号y(t)260が、これらの信号214、230の合成によってもたらされる。
ステップ1030において、クロストークモデル501は、アグレッサ通信信号u(t)215のサンプルを取得する。言い換えると、タップまたはその他のノードが、アグレッサ通信信号215の代表的な部分を、クロストークモデル501による受信および処理のために、クロストークキャンセラ401に導く。
ステップ1035において、クロストークモデル501は、アグレッサ通信信号u(t)215のサンプリングされた部分を、タップ付き遅延線フィルタ600を介して処理する。タップ付き遅延線フィルタ600の利得またはスケーリング定数などのモデル化パラメータが、クロストーク信号n(t)215の波形推定v(t)620を生成するための基礎を提供する。より具体的には、タップ付き遅延線フィルタ内の可変係数増幅器602a、602b、602c、602dの係数α0、α1、α2...αn(アルファ0、アルファ1、アルファ2...アルファn)が、クロストーク信号215を近似する波形v(t)620を定義する。
一つの例示的実施形態では、図15に示して下記で説明する有限インパルス応答(「FIR」)フィルタ1560が、ステップ1035において、クロストークの波形推定を生成する。したがって、システム1510は、プロセス1000のステップのうちの1つ以上を実行するか、またはそれらのステップに関わってもよい。
ステップ1040において、クロストークモデル501内の調節可能な遅延701は、波形推定v(t)620に時間遅延を適用して、この波形620をビクティムチャネル130内を伝播して干渉しているクロストーク信号n(t)230と同期させる。ステップ1045において、クロストークキャンセラ401の加算ノード502は、結果として生じるクロストークキャンセル信号w(t)520を、ビクティムチャネル130と、その中を伝播しているクロストークと通信との合成信号y(t)260とに適用する。クロストークキャンセル信号w(t)520は、ビクティムチャネル130内を伝播しているクロストーク信号成分w(t)520の少なくとも一部をキャンセルする。このクロストーク干渉520を低減させることにより、ビクティムレシーバ105bへ送付するためにクロストークキャンセラ410から出力される通信信号z(t)420の信号忠実度が向上する。
一つの例示的実施形態では、図15に示す時間整合モジュール1535が、ステップ1040の可変遅延を適用する。したがって、プロセス1000の一つの例示的実施形態では、システム1510が、クロストークキャンセルのためのクロストーク推定を提供する。
ステップ1050において、コントローラ503は、クロストークが補償された信号z(t)420を処理または解析して、クロストークキャンセルの効果を判定する。言い換えると、コントローラ503は、信号忠実度を評価して、波形およびタイミングの両方において実際のクロストークn(t)230に正確に一致するクロストークキャンセル信号w(t)520を、クロストークキャンセラが適用しているかどうかを判定する。
ステップ1055において、コントローラ503は、モデル化パラメータ、具体的にはタップ付き遅延線フィルタ600内の可変係数増幅器602a、602b、602c、602dの係数を調節して、クロストークキャンセル信号w(t)520と実際のクロストーク信号n(t)230との間の波形の一致を最適化する。さらに、コントローラ503は、調節可能な遅延701の可変または調節可能時間遅延を調節して、クロストークキャンセル信号w(t)520を実際のクロストーク信号n(t)230と同期させる。すなわち、コントローラ503は、クロストークモデル化フィルタ501へのパラメータ調節を実施することによって、クロストークキャンセラ401の動作を調節して、ビクティムレシーバ105bに送られる最終的な通信信号z(t)420の忠実度を向上させる。
ステップ1055に続いて、プロセス1000は、ステップ1010〜1055を繰り返す。クロストークキャンセラ401は、クロストーク230のキャンセルと、動的状況への適応応答の実施とを継続し、それによって継続的な高レベルの通信信号忠実度を提供する。
次に、図11を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセル装置401をキャリブレーションするためのクロストークキャンセラのキャリブレーションと題されたプロセス1100を説明するフローチャートである。プロセス1100の最初のステップであるステップ1110において、コントローラ503は、キャリブレーションシーケンスを開始する。コントローラ900は、アグレッサトランスミッタ104bに、既知の、または定義済みのテストパターンを有する信号、例えばランダムまたは疑似ランダムビットパターンのデータを、アグレッサチャネル120上に出力するように指示する。このテストまたはキャリブレーション信号は、アグレッサ通信信号u(t)215のフォーマットを有していてもよく、またはクロストーク応答H(f)210を特徴付けるために独自にフォーマットされていてもよい。すなわち、コントローラ900は、アグレッサチャネル120上の所定の電圧パターンを有する信号の伝送を制御してもよい。
ステップ1115において、コントローラ900は、ビクティムトランスミッタ104bに、既知のビクティムテストまたは基準信号を、ビクティムチャネル130上に出力するように指示する。テスト信号は、所定の通信信号であってもよく、または、単にデータのない一定電圧であってもよい。ビクティムチャネル130上に既知のテスト信号を送信することによって、ビクティムチャネル130上に信号ひずみを発生させるその他の効果から、クロストーク応答H(f)210を分離することを容易にする。すなわち、コントローラ900は、ビクティムチャネル130上の所定の電圧パターンを有する信号の伝送を制御してもよい。
ステップ1120において、既知のアグレッサ信号u(t)215からのクロストークn(t)230が、ビクティムチャネル130内に結合する。ビクティムチャネル130は一定電圧をビクティム信号x(t)214として搬送しているため、ビクティムチャネル130上の通信とクロストークとの合成信号y(t)260は、実質的にクロストーク信号n(t)230である。
ステップ1125において、クロストークキャンセラ401は、クロストーク信号n(t)230の推定w(t)520を、クロストークキャンセルのために生成する。クロストークキャンセラ401は、クロストーク信号n(t)230とクロストークキャンセル信号w(t)520との間の波形およびタイミングの一致をもたらすモデル化および遅延パラメータを使用して、この推定520を生成する。クロストーク補償器401は、クロストーク推定520をビクティムチャネル130に適用して、その上を伝播しているクロストーク230の少なくとも一部をキャンセルする。結果として生じるクロストークがキャンセルされた信号z(t)420は、ビクティムレシーバ105bに伝播する。
ステップ1130において、コントローラ503は、クロストークキャンセラ401によって出力されるクロストークがキャンセルされた信号z(t)420を処理および解析する。解析に基づいて、コントローラ503は、クロストークがキャンセルされた信号z(t)420内のエネルギーを最小にするために、モデル化および遅延パラメータを調節する。すなわち、コントローラ503は、残留クロストークを減少させるように、クロストークキャンセラ401の動作パラメータを変化させる。この制御動作は、クロストーク補償信号w(t)520を、ビクティムチャネル130に課されている実際のクロストークn(t)230と一致させる。
ステップ1140において、コントローラ503は、キャリブレーションサイクルを完了し、そしてクロストークキャンセラ401が実データを処理するための準備が整っていることの通知を、アグレッサおよびビクティムトランスミッタ104a、104bに提供する。この通知に応じて、ステップ1145において、ビクティムトランスミッタ104aおよびアグレッサトランスミッタ104bは、それらのそれぞれのチャネル130、120上に、それぞれが実データを伝送する。
ステップ1150において、アグレッサチャネル120上に伝送されている実データ215からのクロストーク230が、ビクティムチャネル130内に結合する。ステップ1155において、クロストークキャンセラ401は、アグレッサチャネル120内に伝送されている実データ215のサンプルを処理し、キャリブレーション中に定義または更新されたモデル化および遅延パラメータを使用して、クロストーク230のエミュレーションまたは推定520を生成する。
ステップ1160において、クロストークキャンセラ401は、クロストークキャンセルのために、ビクティムチャネル130にクロストーク推定520を適用し、ビクティムレシーバ105に、高忠実度信号を提示する。プロセス1100は、ステップ1160に続いて終了する。コントローラ503は、定義済みの、または一定の時間間隔ごとに、あるいは、信号忠実度が損なわれたこと、またはしきい値未満に低下したことを、コントローラの監視機能が判定した場合に、キャリブレーション手順を繰り返してもよい。
次に、図12Aおよび図12Bを参照すると、これらの図は、それぞれ本発明の例示的実施形態に係るクロストークキャンセルを実施する前および後の通信システムのテストデータを示す。これらの図は、実験室条件下で取り込まれた測定データのアイダイアグラム1200、1250を示す。当業者によく知られているように、アイダイアグラム1200、1250は、信号品質の可視指示を提供する。アイダイアグラム1200、1250内の「眼」1225、1275の開きのレベルは、信号品質のレベルと相互に関連している。すなわち、アイダイアグラム内のノイズのあるゆがんだ、または閉じられた眼は、通常、信号の損傷を示す。
図12Aは、現場条件を表すと考えられる実験室条件下で動作している5ギガビット/秒のバイナリ通信システムからのアイダイアグラム1200である。ビクティム信号130は800ミリボルトの振幅を有し、一方、アグレッサ信号120は1,200ミリボルトの振幅を有する。図12Aは、等化および制限増幅の後の、しかし、クロストーク補償なしで受信された信号260のアイダイアグラム1200を示したものである。図12Bは、本発明の例示的実施形態によるクロストークキャンセルの適用と、それに続く、等化および制限増幅の後に受信された信号420のアイダイアグラム1250を示したものである。図12Aのアイダイアグラムと同様に、ビクティム信号130は800ミリボルトの振幅を有し、一方、アグレッサ信号120は1,200ミリボルトの振幅を有する。
クロストークが補正されたアイダイアグラム1250と、クロストーク補償なしのアイダイアグラム1200との両方において、信号経路は制限増幅器を含むため、各アイダイアグラム1200、1250の上部および下部における水平の「まぶた」の厚さは、信号品質の有用な判断基準を提供しない。むしろ、クロストークキャンセルによって提供される信号パフォーマンスの向上は、クロストーク補正なしのアイダイアグラム1225の狭く、ノイズのある眼1225と比較してクロストークが補正されたアイダイアグラム1250における広く開いた眼1275によって、明らかにわかる。
本発明の例示的実施形態によるクロストークキャンセルによって達成される通信パフォーマンスの向上をさらに特徴付けるために、クロストークキャンセルの前および後のビットエラーレートの測定値が、このテストシステムから、同じテスト条件下で取得された。クロストークキャンセルなしの場合、通信システムは、平均して100,000ビット伝送されるごとに1ビットのエラーを示した。クロストークキャンセルありの場合、通信システムは、平均して100,000,000,000,000ビット伝送されるごとに1ビットのエラーを示した。
要約すると、例示的クロストークキャンセルシステムを、図1〜図12を参照して説明した。クロストークキャンセルシステムは、アグレッサ信号をサンプリングしてもよく、そして、コネクタにおいてしばしば発生するクロストーク結合の遅延と応答とをエミュレートしてもよい。このエミュレートされたアグレッサ応答が、受信されるビクティム信号から減算されて、補正されたビクティム信号が生成されてもよく、それによってクロストーク干渉のレベルが減少し、改善されたジッタと、より低いビットエラーレートとが達成されてもよい。着実な結果を提供するために、クロストーク効果のモデル(エミュレートされるチャネル応答)は、クロストークに一致し、したがってクロストークを除去またはキャンセルするように、電子的にプログラム可能かつ適合可能であってもよい。
プログラム可能なマルチギガビットレートにおけるエミュレーション/モデル化チャネル応答の作成に、標準的なデジタル信号処理(「DSP」)技術を使用することは、最適とは言えない可能性がある。従来のDSP技術は、十分な速度が欠けているか、またはかなりの電力を消費する場合がある。したがって、クロストークキャンセルシステムは、例えばアナログ信号処理、混合信号処理またはハイブリッドアプローチを介して、従来のDSP処理を超えるパフォーマンスを提供するプログラム可能なエミュレーションチャネルまたはモデルを含んでいてもよい。そのような高速なプログラム可能エミュレーションチャネルは、アナログ信号処理を介してアナログ領域内で、かつ/または、例えばマルチギガビットデータ転送レートをサポートする処理レートにおいて、信号を処理することが可能である。
言い換えると、アナログ信号処理(または、アナログおよびデジタル信号処理のハイブリッド結合)は、全面的にデジタルの環境内で実施されるクロストークキャンセルを超えるパフォーマンスの利点を提供することが可能である。上記のように、デジタル実施においては、アクセス可能なアグレッシングデータ信号と受信されるビクティム信号とは、(アグレッサ信号のいかなる固有のデジタル化をも超えて)デジタル化されてもよく、マイクロプロセッサがキャンセル処理を実施してもよい。高速環境におけるデジタルクロストークキャンセルに一般に関連付けられるアナログ−デジタル変換器およびマイクロプロセッサは、一部の適用例に関して、複雑さ、コストまたは電力消費などの欠点を有する可能性がある。
信号、信号変換および信号効果のモデル化、シミュレート、推定またはエミュレートを行うことが可能な高速装置は、クロストークキャンセルのサポート以外に、広範な適用例を有していてもよい。いくつかの適用例を挙げると、そのような装置は、任意波形を生成するため、等化のため、または幅広く用いられているFIRフィルタとして使用されてもよい。したがって、信号または信号効果をエミュレートするコンパクトな回路、または集積回路が、(例えば、テスト装置内の、または通信装置内の)高速任意波形発生器として、パルス整形フィルタとして、等化器として、またはその他として使用されてもよい。
例示的な高速エミュレーション回路またはチャネルを、クロストークキャンセルの適用例に関連して、図13〜図30を参照して、以下でさらに詳細に説明する。ただし、そのクロストーク適用例は、可能性のある多くの適用例のうちの1つに過ぎず、むしろ説明の目的のために提供されており、限定的であることは意図していない。したがって、本明細書に記載して開示されたエミュレーション回路またはチャネルは、通信または信号処理の多数の適用例および用途を有していてもよい。
例えば、マルチギガビット信号をパルス整形および/またはフィルタリングする機能が、非常に高速な関数発生器を作成するために、あるいは、集積回路またはその他の通信ハードウェアをテストするために、テスト機器内で有益に使用されてもよい。別の例として、伝送信号のプリエンファシス、デエンファシスまたは等化器応答のエミュレーションが、レシーバのパフォーマンスの正確な特徴付けをサポートしてもよい。同様に、エミュレーション回路またはチャネルが、可能性のある干渉装置を、その干渉装置が存在する場合のレシーバパフォーマンスを確認するために、エミュレートしてもよい。
「エミュレーション回路」または「エミュレーションチャネル」という用語は、本明細書で使用する場合、一般に、信号、信号変換または信号への効果を、モデル化、シミュレート、推定、エミュレート、表現、描写または再現するシステムを意味する。エミュレーション回路またはエミュレーションチャネルは、クロストークを引き起こす信号を処理することを介して、シミュレートされたクロストーク信号を作成することが可能である。エミュレーション回路またはチャネルは、パルスなどの短期間の信号を受信して、その受信信号を、指定された、または選択された、形状または期間を有する波形に変換してもよい。
次に、図13〜図28について説明すると、図13は、本発明の実施形態に係るタップ付き遅延線フィルタ600に基づいた例示的信号遅延装置1300の機能ブロック図を示す。図6を参照して上記で説明したように、タップ付き遅延線フィルタ600は、入力信号を処理して、所望の形状を有する出力信号1305を生成してもよい。図示されているように、タップ付き遅延線フィルタ600は、入力信号1310のデジタル化されたバージョンに対して、DSPを介して影響を及ぼしている。
したがって、図13のシステム1300は、FIRフィルタのDSP実装を表してもよい。そのようなDSP実装では、入力信号は、アナログ−デジタル変換器(ADC)1315を使用して量子化され、クロックレジスタを使用して遅延させられる。遅延させられたサンプルからFIRフィルタ600の実施に関連付けられた乗算および加算関数を、数学処理が実行する。入力信号がデジタル通信信号である場合、ADC1315は、情報をデジタル的に搬送するために、その入力信号を最初に存在していたよりも大きな数のディジタルレベルにデジタル化する。
多くの状況において適切であるとはいえ、システム1300は、マルチギガビット信号処理を含むその他の状況のために望ましい可能性があるレベルよりも、遅いレベルの速度を提供する場合がある。入力信号1310が高データレートを搬送するように変調されている場合、ADC1315は、通常、そのデータレートよりも高速でサンプリングを行わなければならず、意味のあるデータを提供するためには、十分な分解能を有していなければならない。そのようなサンプリングレートおよび分解能は、入力1310のデータレートがマルチギガビットの範囲内にある場合、困難な可能性がある。その上、タップ付き遅延線フィルタ600の数学操作は、マルチギガビット信号に対しては、実際性を欠く可能性がある。
以下でさらに詳細に説明するように、非常に高速な信号については、アナログ信号処理に基づく実施が、図13のDSPベースの実施よりも、速度および電力消費に関してパフォーマンスが優れていることが多い。すなわち、システム1300は、エミュレーション回路またはクロストークキャンセルシステムの構成要素となることが可能ではあるが、多くの適用例について一般に向上したパフォーマンスを提供するその他の実施形態については以下で説明する。
次に、図14を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る伝送路をシミュレートするための例示的受動回路1400の回路図を示したものである。より具体的には、図14は、合成伝送路のセクション1400を示している。純粋にアナログのFIRフィルタは、伝送路および/または、そのような合成伝送路1400を使用して、遅延要素として実施されてもよい。合成伝送路1400では、集中インダクタ1405およびキャパシタ1410が、特性インピーダンスZ0を有する通常の伝送路をエミュレートする。次の式は、特性インピーダンスを記述する。
Z0=(L/C)1/2
合成伝送路1400は、通常の伝送路よりも少ないスペースを占めていてもよい。ただし、図示しているように、遅延は固定されており、調節機能はない。統合された伝送路および合成伝送路1400の高周波損失は、高周波においてはかなり大きい可能性があり、それによって、信号劣化、すなわち信号の望ましくない変換がもたらされ、したがって信号品質が低下する可能性がある。この実施のもう1つの問題は、遅延およびフィルタが占める場合がある比較的大きな物理的スペースの量である。
したがって、システム1400は、エミュレーション回路またはクロストークキャンセルシステムの構成要素となることが可能ではあるが、多くの適用例について一般に向上したパフォーマンスを提供する実施形態を、以下で説明する。
次に、図15を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号、信号効果または信号変換を、エミュレート、シミュレートまたはモデル化するための例示的回路1500/1510の機能ブロック図を示したものである。エミュレーションチャネルまたはエミュレーション回路として特徴付けられてもよい図示したシステム1510は、図1〜図12を参照して上記で説明したクロストークモデル501またはクロストークモデル化フィルタ501の例示的実施形態であってもよい。言い換えると、図15のシステム1500および/またはシステム1510の一つの例示的適用例は、通信システム内で発生しているクロストークのキャンセルに関連してクロストークをモデル化することである。
ここで、図15を参照すると、システム1500は、タップインタフェース1503と、エミュレーションチャネル1510と、制御バス1595と、エミュレーション出力1590とを含んでいる。エミュレーションチャネル1510への入力は、タップ1503からのデジタル信号である。タップ1503は、一般には物理的通信媒体上を伝送されているデジタル通信信号を傍受またはサンプリングして、その代表をエミュレーションチャネル入力1520に送信する。タップ1503は、代表的信号をタップ出力1506にも送信する。したがって、タップ入力1501と、タップ出力1506と、エミュレーションチャネル入力1520とは、すべて同じデジタル信号の複製を伝送する。
言い換えると、タップ1503は、ラックマウント型通信システムのバックプレーンのような経路またはチャネルを通じて、あるいは何らかのその他の導体を通じて流れる信号のサンプルを抽出する装置である。上記のように、タップ1503がサンプリングする信号は、ビクティム通信信号上にクロストークを引き起こすアグレッサ通信信号であってもよい。あるいは、サンプリングされる信号は、何らかのその他の通信信号であってもよく、または情報通信以外の何らかの目的のために役立つ信号であってもよい。アグレッサ信号は、通常デジタルであるが、一部の実施形態では代わりにアナログ通信信号または信号パルスさえ含んでいてもよい。
エミュレーションチャネル1510は、制御バス入力1595からの制御コマンドに基づいて、サンプル信号を搬送するエミュレーションチャネル入力1520を遅延させ、フィルタリングする。いくつかの図面の中でも特に、図5、図8および図9を参照して上記で説明したように、コントローラまたは制御モジュール503、900、905は、制御信号を、制御バス1570を介してエミュレーションチャネル1510に送信してもよい。言い換えると、制御バス1570は、エミュレーションチャネル1510と、制御信号を生成する上記の装置503、900、905のうちの1つ(または、何らかのその他のシステム)との間の信号接続または経路を含んでいてもよい。
以下でさらに詳細に説明するように、制御バス1570上を流れる制御信号は、エミュレーションチャネル1510の信号処理パラメータを定義する。それらの信号処理パラメータは、エミュレーションチャネル入力1520とエミュレーションチャネル出力1590との間で入力信号が受ける変換を指定する。より具体的には、制御信号は、FIRフィルタ1560および時間整合モジュール1535の遅延および振幅パラメータを指定する。
制限増幅器1525は、通信チャネルからのエミュレーションチャネル入力1520を緩衝して、エミュレーションチャネル1510の動作に影響を及ぼすことなく、チャネル入力振幅が変化することを可能にする。言い換えると、制限増幅器1525は、サンプリングされる通信チャネルとエミュレーションチャネル1510との間の分離を提供するために支援する。
制限増幅器1525は、可変レベルの時間遅延を提供する時間整合モジュール1535に入力を送り込む。適用される遅延は、エミュレーションチャネル1510の出力を、指定に従ってタイミング合わせすること、または同期させることが可能である。例えば、時間整合モジュール1535は、シミュレートされたクロストークが実際のクロストークと時間的に整合しているように、シミュレートされたクロストーク信号を遅延させてもよい。そのように整合されているため、上記でより詳細に説明したように、シミュレートされたクロストークは、実際のクロストークを、一方が他方から減算された場合にキャンセルすることが可能である。
時間整合モジュール1535は、粗動時間整合モジュール(coarse temporal alignment module)1530Aと、微動時間整合モジュール(fine temporal alignment module)1530Bと、可変時間整合モジュール(variable temporal alignment module)1530Cとを含んでいる。以下でさらに詳細に説明するように、粗動、微動および可変時間整合モジュール1530A、1530B、1530Cは、ICチップなどの集積回路の部分、ブランチまたはセクションであってもよい。3つのモジュール1530A、1530B、1530Cを備えるように示しているが、他の実施形態では、より少ない、またはより多いタイミング構成要素を有していてもよい。
粗動時間整合モジュール1530Aは、単位間隔の精度で選択可能な遅延を提供する。微動時間整合モジュール1530Bは、単位間隔未満で選択可能な遅延を提供して、全体的で調節可能な遅延をさらに細分する。可変遅延モジュール1530Cは、可変遅延モジュール1530Cを制御するDAC1584の分解能に従った実質的に連続的な遅延調節を提供する。可変遅延モジュール1530Cは、微動遅延モジュール1530Bが提供する遅延調節のレベルよりは少なくとも大きい遅延調節のレベルを通常は提供する。
「単位間隔」という用語は、本明細書で使用する場合、一般にデータ伝送信号の条件変化の間の期間を意味する。したがって、単位間隔は、2つの信号条件の間の最小時間間隔、またはビットストリーム内で1つのビットが占める期間であってもよい。例えば、2.5ギガビット/秒のボーレートを有するシリアルラインは、0.4ナノ秒(1/(2.5Gb/s))の単位間隔を有していてもよい。
時間整合モジュール1535は、制御バス1595上を伝送されている制御信号によって指定された通りに遅延させられるか、または時間的にシフトされた信号を、FIRフィルタ1560に送り込む。FIRフィルタ1560は、受信した信号をフィルタリングおよびパルス整形する。
大まかには、FIRフィルタは、インパルス信号への応答が最終的に0に整定する信号処理装置である。したがって、FIRフィルタは、一般にフィードバックなしで動作可能である安定な装置である。FIRフィルタは、入力信号の遅延させられたバージョンの重み付き平均に基づいて、出力信号を生成する装置とみなしてもよい。
FIRフィルタ1560の信号処理は、信号のさまざまな周波数成分が異なる大きさを有していてもよいような周波数に依存する信号振幅を提供してもよい。したがって、出力信号は、周波数に依存する利得に基づいた波形形状を呈する。すなわち、FIRフィルタ1560は、以下でさらに詳細に説明するように、調節可能な信号処理パラメータに基づいて、入力信号を出力信号に変換または整形する。
FIRフィルタ1560の出力は、所望のエミュレーションチャネル出力1590である。制御バス1570は、デジタル信号を受信し、スイッチと、DAC1580、1582、1584、1586および1588とを通じて、時間整合モジュール1535およびFIRフィルタ1560を制御する。図22を参照して以下でさらに詳細に説明するように、DACモジュール1586は複数のDACを含んでおり、この複数のDACはFIRフィルタ1586内の各FIRタップ(または信号処理レッグ)について1つずつある。
時間整合モジュール1535およびFIRフィルタ1560は、伝送される信号を所定の時間だけ遅延させる遅延要素をそれぞれ含んでいる。時間整合モジュール1535は、通常、0.05単位間隔程度のステップサイズを有する非常に小さな電子的に制御可能な遅延を含んでいる。したがって、時間整合モジュール1535は、微細なレベルの時間分解能を有する遅延を提供する。
時間整合モジュール1535の微細な時間分解能は、エミュレートされたクロストーク信号を、実際のクロストークに正確に整合させることを容易にする。上記のように、そのような正確な整合は、クロストークキャンセルシステムが有益なレベルのクロストーク補償を達成することを支援する。対照的に、不適切な時間整合は、ノイズを望ましく減少させるのではなく、不注意にノイズを追加する場合がある。
図15の例示的実施形態は、時間整合モジュール1535およびFIRフィルタ1560内に、差動の調節可能な混合信号遅延を組み込んでおり、それによって高速動作、信号忠実度、良好なパフォーマンスおよびコンパクトなサイズを提供するものである。
例示的システム1500は、信号の量子化と、それに続く数学操作を伴う処理とを回避できるという点で、DSPベースのアプローチに優る利点を提供することが可能である。システム1500に比較して、デジタル信号処理を介した信号または信号変換のエミュレーションでは、より遅い速度と、より大きな電力消費とが提供されてしまう場合がある。言い換えると、システム1500と、特にシステム1510とによって提供されるアナログ信号処理は、デジタルの対応物と実質的に同等の数学操作を実行することが可能であるが、より少ない電力を使用し、より高速に動作する。
さらに、図15に示す実施形態では、遅延モジュール1530A、1530B、1530Cが非同期の混合信号遅延であり、したがって、伝送路または合成伝送路なしで構築されることが可能であるという点で、伝送路アプローチに優る利点が提供される。固定された伝送路の遅延には、通常、調節機能はないが、システム1500の非同期の混合信号遅延では、電子的に調節可能である。
その上、システム1500の非同期の混合信号遅延では、入力ポート1520と出力ポート1590との間で、時間整合モジュール1535とFIRフィルタ1560とを通じて信号が伝播する際に、その信号を再生すること、または能動的にブーストすることが可能である。すなわち、エミュレーションチャネル1510は、処理される信号にエネルギーを追加することが可能なアクティブ遅延を含み、それによって強固な周波数成分を有する強力な信号が維持される。
対照的に、図14を参照して上記で説明した伝送路アプローチでは、信号は直列の損失にさらされる場合があり、それによって信号は最終的に使用できなくなる場合がある。より長い遅延においては、実際の、またはシミュレートされた伝送路1400上の損失が、許容できないレベルまで累積する可能性がある。その上、損失は、より低い周波数においてよりもより高い周波数において、より厳しいものとなる可能性がある。そして、ほとんどのクロストークキャンセルの状況では、高周波信号成分がクロストークを最も良くエミュレートする。
要約すると、システム1510は、アナログ実施の利益を、デジタル信号処理アプローチの特定の利点と組み合わせるものとみなしてもよい。したがって、時間遅延およびFIRフィルタ応答は、電子的手段を介して制御されてもよく、またコンパクトな形態の中に組み込まれてもよい。さらに、例示的システム1510は、過度なレベルの電力を消費することなく、高速で動作可能であるという点で、伝送路アプローチに関連する利益を提供する。
エミュレーションチャネル1510およびその構成要素についてさらに詳細に説明するための準備として、信号処理装置における周波数に依存する信号減衰について簡潔に説明しておくことは有用であろう。ここで、図16を参照すると、この図は本発明の実施形態に係る同時にカスケードされた受動フィルタリングステージの線形回路において、周波数の関数である減衰の例示的プロット1600を示す。
線形システムにおいて、損失は、カスケード(縦続)するか、または累積する。受動フィルタリングまたは遅延回路において、RC時定数によって作成される各ポールは、カスケード(縦続)し、それによって回路を通じて伝送される信号の使用可能な帯域幅を減少させる。時定数RCの1次ポールをそれぞれが伴うN個の回路のカスケード(縦続)についての周波数応答の大きさは、次の式によって与えられる。
H(ω)=((1+(ωRC)2))−N/2
図16の周波数応答曲線1605、1610、1615は、遅延ステージの数が増加するにつれて、ロールオフまたは高周波信号劣化がどのように悪化するかを示したものである。「ロールオフ」という用語は、本明細書で使用する場合、信号内の高周波エネルギーの損失を意味する。
すなわち、回路を通過する信号は、通常、フィルタリング回路を通過するにつれてエネルギーを失うか、または振幅が減少する複数の周波数成分を含んでいる。フィルタリングまたは遅延回路の精巧さ(「ポール」または遅延ステージの数によって表される)が増すに従って、高周波信号成分は、低周波信号成分よりも急速にエネルギーを失う。したがって、1ステージ回路の周波数応答プロット1605は、比較的平坦であり、高周波信号成分が比較的高いレベルのエネルギーを保持することを示している。プロット1610で示すように、3ステージ回路は、かなりの量の高周波エネルギーを信号から抑制する。最後に、プロット1615は、5ステージ回路がさらに大きな量の高周波信号強度を失うことを示している。5GHzにおいて、1ステージは1dBの損失を有し、3ステージは3dBの損失を有し、5ステージは5dBの損失を有する。
より一般的には、所与の周波数におけるdB単位でのロールオフ、RdBは、次の式に従ってステージの数Nとともに直線的に増加する。
Rdb=−20log(H(ω))=Nlog(((1+(ωRC)2))1/2)
遅延線において、ステージの数Nは、遅延の量に対応する。上記のように、ロールオフは遅延の追加とともに増加する。結果として、線形遅延線の有用な周波数は、所望の遅延の量に逆比例する。言い換えると、時間遅延の追加を介して、受動遅延線の精巧さを増すということは、高周波信号成分を望ましくなく減衰させるということをもたらす可能性がある。その高周波減衰は、高速信号を処理するための回路の能力、または高周波信号成分を含むクロストークなどの信号効果をエミュレートするための回路の能力を制限する可能性がある。
上記の高周波劣化は、伝送路および合成伝送路の損失が非常に大きい集積回路において問題となる可能性がある。結果として、そのような伝送路は、例えば、5ギガビット/秒(「Gbs」)の信号について1ナノ秒(「ns」)程度の大きな遅延を提供するためには適していない可能性がある。
ただし、能動回路技術が、このロールオフの問題を克服することが可能である。以下でさらに詳細に説明するように、エミュレーションチャネル1510は、高周波信号強度をブーストするための能動回路技術を有益に含んでいてもよい。
次に、図17を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る直列に接続された能動ステージに基づく回路について、時間の関数である信号振幅の例示的プロット1700を示したものである。図17は、制限的な方法で動作する能動回路が、図16を参照して上記で説明した周波数ロールオフの問題を、どのようにして克服できるかを示すものである。より具体的には、それらの能動回路は、大幅な高周波振幅の損失または周波数帯域幅の劣化なしに信号を再生することが可能である。
図17を参照すると、プロット1700は、一連の制限増幅器を通した信号の伝播を示している。各ステージにおいて、信号は約1.2ボルトから約0.75ボルトに減衰し、その後、増幅されて約1.2ボルトに戻される。したがって、6番目の増幅器の出力における信号振幅は、2番目の増幅器から出力される信号振幅と実質的に同じである。入力振幅が、出力応答を制限するのに十分であるならば、信号は一連の増幅器を通して伝播する際に実質的に再生される。
例示的実施形態では、エミュレーションチャネル1510の時間整合モジュール1535とFIRフィルタ1560とは、それぞれが電子的に調節可能であり、かつ能動遅延線を備えた差動の混合信号遅延を含んでいる。この原理は、入力信号が混合信号遅延の制限を引き起こすパルスである場合に効果的である。
エミュレーションチャネル1510は、出力1590に近い信号処理のより後のステージにおいて、線形回路を含むアナログ処理を適用する。特に、ロールオフを示す可能性がある要素は、図22を参照して以下でさらに詳細に説明するFIRフィルタ1560のタップ重み付け増幅器2210A〜Eと加算ノード2240とである。(入力1520に近い)前部において、制限、混合信号遅延を使用し、(出力1590に近い)後部において、線形アナログ信号処理を使用することにより、高速で調節可能な遅延1530A、1530B、1530CおよびFIRフィルタ1560は、コンパクトな集積回路の形態を有することが可能である。さらに、エミュレーションチャネル1510は、望ましい周波数応答を示すことができ、また高忠実度の信号を提供することが可能である。
次に、図18を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る入力信号を制御可能に遅延させるための例示的回路1800の機能ブロック図を示したものである。すなわち、電子的に調節可能な混合信号遅延のブロック図を図18に示している。例示的実施形態において、上記で説明した図15の時間整合モジュール1530A、1530B、1530Cは、それぞれが回路1800のうちの少なくとも1つを含んでいる。それぞれの時間整合モジュール1530A、1530B、1530Cが、回路1800のうちの2つ以上を含んでいる場合、それらの回路1800は、通常、遅延が加算されるように直列配置で相互に結合される。
一例示的実施形態では、回路1800は、以下で説明するように、信号整形のための機能を提供する。例えば、回路1800は、図30に示した以下で説明するプロセス3000を介した信号処理方法と共同で機能させてもよい。
入力信号1801は2つの支線に分かれ、一方がスルー経路1805に対応し、もう一方が最大遅延経路1810に対応する。調節可能な選択回路1820は、スルー経路1805からの信号を、最大遅延経路1810からの遅延させられた信号に加算する。調節可能な選択回路1820は、この加算を制御線1822上の制御信号から導き出された相補型重み付けを用いて実行する。
制御信号1822は、最大遅延経路1810の重み付けを増加させ、その一方で同時にスルー経路1805の重み付けを減少させること、ならびにその逆が可能である。あるいは、調節可能な選択回路1820は、制御信号1822の制御下で最大遅延経路1810の寄与を減少させ、その一方でスルー経路1805の寄与を増加させてもよい。すなわち、調節可能な選択回路1820は、増幅器1824、1826の利得を協働的な方法で変更し、一方の利得が増加する場合は他方の利得を減少させ、またその逆も行う。したがって、システム1800は、差動増幅器1824、1826と、電流ステアリングとを使用して、一方が他方に比較して遅延させられた2つの信号の重み付けされた加算を実施する。
適切にスケーリングされて遅延させられた信号と、スルー信号とを加算することにより、スルー遅延と最大遅延との間の遅延を有する出力信号が作成される。言い換えると、調節可能な選択回路1820が出力する信号は、スルー経路1805の遅延と等しいか、またはそれよりも大きく、かつ遅延経路1810の遅延と等しいか、またはそれよりも小さい遅延を有する。
結果として生じる加算信号は、最大遅延経路1810を通じて伝播する間に発生したロールオフを補償するために、任意選択の等化器セクション1830を通過してもよい。図17を参照して上記で説明したように、ロールオフを補償することにより、複数の遅延ステージを通じた高周波損失の累積が回避される。
ドライバステージ1840は、信号を2乗(スクエア)して立ち上がり時間を維持する制限動作を提供する。そのステージ1840は、次のステージを制限条件で駆動するのに十分な出力レベルを生成する増幅器を含んでいる。言い換えると、等化器ステージ1830とドライバステージ1840は、粗動時間整合モジュール1530Aの出力信号を、下流の微動時間整合モジュール1530Bにおける後続の処理のために準備してもよい。
粗動時間整合1530A、微動時間整合1530Bおよび可変遅延1530Cの遅延は、それぞれが図18のブロック図に基づいていてもよい。相違点は、最大遅延経路1810の遅延を決定するために使用される遅延ステージ1815A、1815B、1815C、...、1815Nの数である。言い換えると、粗動時間整合モジュール1530Aは、一般に微動時間整合モジュール1530Bよりも多くの遅延ステージ1815A、1815B、1815C、...、1815Nを有する。
次に、図19を参照すると、この図は、本発明の実施形態による、入力信号を制御可能に遅延させるための例示的回路1800の回路図を示す。より具体的には、図19は、上記で説明した、ブロック図の形態で図18に示す回路1800の、例示的な、トランジスタレベルの実施を示す。
図19Aは、回路1800の高レベルの図を提供する。回路図は、あくまで説明を目的として、2つの任意セクション1900A、1900Bに分割されている。図19Bおよび図19Cは、それぞれそれら2つの図面セクション1900A、1900Bを示している。
差動入力1801は、「IN+」および「IN−」とラベル付けされている。最大遅延経路1810を提供するために、トランジスタ1901、1902、1903、1904、1905および1906を使用して、差動増幅器1815A、1815B、1815Cが作成されている。説明の目的のために、図19は、図18に示して上記で説明した要素1815A、1815B、1815Cとして機能する3つの増幅器を示している。ただし、上記のように増幅器の数は可変であり、1個から5個、8個、10個、15個、20個またはそれ以上までの範囲であってもよい。より具体的には、図18の遅延要素1815Aは、トランジスタ1901とトランジスタ1902とを含んでいる。一方、遅延要素1815Bは、トランジスタ1903とトランジスタ1904とを含んでいる。
遅延を増加させるために、各遅延増幅器の負荷の中に任意選択のキャパシタが追加されてもよい。高速においては、自然な寄生容量で一般に十分であり、そのような補助的なキャパシタを省略することにより、面積の観点からの利点を実現してもよい。
トランジスタ1911、1912、1913、1914、1915および1916は、抵抗器1937および抵抗器1938における出力を備えた調節可能な選択回路1820を形成する。すなわち、例示的実施形態では、図18の要素1820は、図19のトランジスタ1911、1912、1913、1914、1915、および1916を含んでいる。
調節可能で選択を提供する(調節可能な選択回路1820の)電流ステアリング装置は、トランジスタ1907、1908、1909および1910を含む差動増幅器である。すなわち、トランジスタ1907、1908、1909および1910は、増幅器1824と増幅器1826との間で相補型利得を分割する。
それぞれ「Vcntrl+」および「Vcntl−」とラベル付けされた制御線1950および1951は、基準DAC1588およびバーニヤDAC1580という2つのDACに接続されている。例示的実施形態では、基準DAC1588およびバーニヤDAC1580は、実質的に相互に同一なコピーである。バーニヤDACの「1580」というラベル付けは、図19の回路1530が、上記の粗動時間整合モジュール1530Aの一部分を実施するものであるということを仮定したものである。例示的実施形態の中の微動時間整合モジュール1530Bに接続される場合、バーニヤDACのラベルは「1582」であってもよい。
任意に選択された等化器セクション1830は、トランジスタ1917、1918、1919、1920および1921と、抵抗1941と、負荷抵抗器1939および1940とからなる差動増幅器である。要素1941は、縮退抵抗器と見なされてもよく、そして、等化機能を作成する周波数応答整形の一部として見なされてもよい。
等化器セクション1830は、次の式によって記載されるゼロを有するブースト機能を提供する(「Cz」はトランジスタ1918および1919に関連する寄生容量であり、「Rz」は抵抗1941である)。
ω=2/(Rz*Cz)
図19Cの回路図内に点線で示したように、必要に応じてトランジスタ1918および1919の両端に、シャント容量をさらに追加してもよい。高速においては、寄生容量で一般に十分であり、追加される容量は通常、回路から除去してもよい。
例示的実施形態では、出力ドライバ1840は、トランジスタ1922と1923とを含んでいる。上記のように、出力ドライバ1840と等化器1830とは、出力信号が十分な振幅と許容できる立ち上がり時間とを有することを確実にするために役立っている。調節可能な選択回路1820からの振幅と立ち上がり時間とが十分である場合、出力ドライバ1840と等化器1830は、回路1800から除去されてもよい。
図19の例示的回路実施形態1800では、通常MOS/CMOSトランジスタが使用されている。ただし、代替の実施形態では、バイポーラトランジスタが使用されてもよい。図示している実施形態では、負荷抵抗器を含んでいるが、その他の例示的回路の実施形態では、能動負荷あるいは能動および受動負荷の並列接続を含んでいてもよい。
上記のように、電流ステアリング装置として特徴付けられてもよい調節可能な選択回路1820は、同じ基準電圧に接続された2つのDAC1580および1588によって制御されている。共通の基準電圧を使用することにより、高度のノイズ耐性と処理許容範囲とが、制御回路に提供される。
差動DACトポロジを使用して結合された電流ステアリング装置1820の大きなコモンモード除去は、電圧供給線または基準線上に存在する可能性のあるコモンモードノイズを除去する。回路シミュレーションは、そのようなノイズ除去を確認すること、またはそのようなノイズ除去の解析を支援することが可能である。さらに、差動DACトポロジは、電子的にプログラム可能なバーニヤを遅延のために提供する。
同じ基準DAC1588が、粗動時間整合モジュール1530Aと、微動時間整合モジュール1530Bと、可変遅延モジュール1530Cと、FIRフィルタ1560の遅延とに対して入力を提供してもよい。一方、これらの遅延装置1530A、1530B、1530C、1560の各セットは、さまざまな適用例についての最適なパフォーマンスのために遅延を電子的に微調整するため、あるいは、プロセス、電圧または温度変化を補償するために、専用のバーニヤDAC1580、1582、1584、1586を有していてもよい。言い換えると、バーニヤDAC1580、1582、1584、1586は、ノイズ変化などの変化する条件に応じて動的なタイミング調節を行う。FIR遅延バーニヤ1586は、さまざまなデータレートへの対応において特に有用であり、その理由はFIR遅延がクロストークキャンセルシステムにおいて、通常、単位間隔を整数で割った値(例えば、1または1/2)に調整されるからである。
次に、図20を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号遅延を制御するための例示的回路1530の機能ブロック図を示したものである。例示的実施において、図15の粗動時間整合モジュール1530A、微動時間整合モジュール1530B、可変遅延モジュール1530Cは、それぞれが図20にブロック図の形態で示す回路1530を含んでいてもよい。
以下でさらに詳細に説明するように、回路1530では、粗動および微動時間整合モジュール1530A、1530B内で任意の所与の時間において、信号遅延を提供している動作中の遅延要素1800A、1800B、1800Cの数を選択する。図20では、3つの能動遅延要素1800A、1800B、1800Cを示しているが、実際の数は、わずか2個であってもよく、あるいは5個、10個、15個などの何らかのより大きな数であってもよい。図18および図19は、図20に示す3つの能動遅延要素1800A、1800B、1800Cのそれぞれの例示的実施形態をブロック図として、および回路図として示したものである。
したがって、例示的実施形態において、図20のブロック図は、図15の微動時間整合モジュール1530Bを説明してもよい。一方、図18のブロック図1800は、図20の3つの遅延1800A、1800B、1800Cのうちの1つの例示的実施形態を説明したものである。
さらに、図20のブロック図は、エミュレーションチャネル1510の遅延動作またはタイミング機能を説明しているとみなしてもよい。図20のシステム1530と関連付けられたプロセス2900を、図29を参照して以下でさらに詳細に説明する。
入力信号2005は、バイパス増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dに並列に入力を送り込んでいる。スイッチ2030A、2030Bは、遅延要素1800B、1800Cが、先行する遅延要素1800A、1800Bから入力を受け取るか、または関連するバイパス増幅器2020B、2020Cから入力を受け取るかを決定する。
例えば、スイッチ2030Bは、バイパス増幅器2020Bの出力または遅延要素1800Aの出力を選択する。例示的実施形態では、バイパス増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dのうちの正確に1つが、任意の時点において有効にされる。したがって、増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dと、通常は半導体トランジスタ要素である関連するスイッチング装置2030A、2030B、2030Cとは、信号ルーティング要素のバンクまたは組とみなしてもよい。
エミュレーションチャネルは、入力信号を遅延させるアクティブ状態にない任意の遅延要素1800A、1800B、1800Cの電源をオフにし、停止し、または除去する。そのような状況において遅延要素1800A、1800B、1800Cをオフにすることは、電力消費を減少させるだけでなく、さらにスイッチ2030A、2030B、2030C、2030Dの作成を支援する。
次の表は、時間遅延のレベルを選択および制御するための例示的方式を提供する。より具体的には、この表は特定のバイパス増幅器および遅延の設定に対して、いずれの遅延要素1800A、1800B、1800Cが有効にされるかを示している。
最大の遅延のためには、すべての遅延要素1800A、1800B、1800Cがアクティブであり、そして、バイパス増幅器2020B、2020Cおよび2020Dが非アクティブである一方で、増幅器2020Aは遅延2010Aに入力を送り込む。このシナリオにおいて、信号は遅延要素1800A、1800B、1800Cのそれぞれを通じて順次伝播する。
最小の遅延のためには、バイパス増幅器3 2020Dが選択され、すべての遅延要素1800A、1800B、1800Cはオフにされる。このシナリオでは、信号は、3つのすべての遅延要素1800A、1800B、1800Cをバイパスするか、またはそれらを避けて流れる。
一つの例示的実施形態では、入力2005と第1の遅延要素2010との間のバイパス増幅器2020Aは除去されてもよい。ただし、そのような除去は、等しくない時間遅延を有する追加の信号遅延をもたらす。追加の信号遅延は、通常、バイパス増幅器とその関連する遅延要素との合成遅延である。
次に、図21を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号遅延を制御するための例示的回路2050の回路図を示したものである。より具体的には、図21は、図20を参照して上記で説明したスイッチング機能の例示的なトランジスタレベルの実施を示したものであり、遅延要素1800A、1800B、1800Cのうちの1つと、バイパス増幅器2020A、2020B、2020C、2020Dのうちの関連する1つとを示している。
説明の目的のために、回路2050は、1つの遅延要素1800Aと、関連する1つのバイパス増幅器2020Bとに関して説明する。バイパス増幅器2020Bは、遅延要素1800Aを選択するため、またはバイパスするために、遅延要素1800Aと組み合わせて動作する。
回路ポート2100Aおよび2100Bは、遅延要素1800Aへのインタフェースを提供する。回路ポート2110Aおよび2110Bは、バイパス増幅器2020Bへのインタフェースを提供する。一方、ポート2165および2175は、それぞれ遅延要素1800Aおよびバイパス増幅器2020Bのためのイネーブル信号を受信する。
共通負荷2160Aおよび2160Bは、遅延要素1800Aおよび対応するバイパス増幅器2020Bの間で共有される。トランジスタ2100Aおよび2100Bは、遅延要素1800Aの差動出力を表す。
トランジスタ2120および2130は、電流源2135のための電流ミラーを形成する。トランジスタ2110Aおよび2110Bは、差動バイパス増幅器2020Bの機能を表し、また提供する。トランジスタ2140および2150は、電流源2155のための電流ミラーである。
遅延1800Aを有効にし、バイパス増幅器2020Bを無効にするには、ポート2170上のロー電圧によってトランジスタ2125がオフにされ、ポート2165上のハイ電圧を使用してトランジスタ2145がオンにされなければならない。ポート2170上のロー電圧をオフにすると、トランジスタ2100Aおよび2100Bを通じて電流が流れるという結果になる。ポート2165上にハイ電圧を印加すると、電流ミラー電圧がトランジスタ2140までプルダウンされ、それによってトランジスタ2110Aおよび2110Bはオフになる。
バイパス増幅器2020Bを有効にし、遅延要素1800Aを無効にするには、ポート2170にハイ電圧が印加され、ポート2165にロー電圧が印加される。遅延経路を選択するために電流モードスイッチングを使用するというこの方法は、一般にバイパス要素としてMOSスイッチを使用する方法と比べて、優れたパフォーマンスと帯域幅を提供する。
次に、図22を参照すると、この図は、本発明の例示的実施形態に係る例示的有限インパルス応答(FIR)フィルタ1560の回路図を示したものである。より具体的には、図22は、上記で説明した混合信号遅延に基づいて、やはり上記で説明したFIRフィルタ1560の例示的実施形態を提供する。
5タップのFIRフィルタ1560を示しているが、タップの数は適用パラメータに従って変更してもよい。混合信号遅延要素1530a、1530b、1530c、1530d、1530eは、5つのタップ係数増幅器2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eに接続されている。
遅延要素1530eは、タップ遅延の均一性を維持するために最後に配置されており、厳密に必要なものではない。タップ重み付け増幅器2210は電流ステアリングによって動作する差動可変利得増幅器である。例示的実施形態では、タップ重み付け増幅器2210はギルバートセル(Gilbert cell)の変形とみなしてもよい。
タップ係数2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eは、それぞれ個別のDAC2220と、共通基準DAC1588とによって制御されている。各タップ係数2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eは、対応するタップ係数DAC2220A〜Eと基準DAC1588との差動電圧の関数である。タップ係数は正または負であってもよい。
係数DAC2220A〜Eおよび基準DAC1588は、同じ回路の実質的に同一のコピーであってもよく、また実質的に同一の基準電圧を有していてもよい。共通のアーキテクチャを共有することは、コモンモードノイズと電源ノイズとに対する耐性を提供するために役立つ。
基準DAC2230は、必要に応じて遅延要素1530a、1530b、1530c、1530d、1530eと共有されてもよい。すべてのタップ係数増幅器の出力は、加算ノード2240で合成される。加算プロセスは、タップ係数増幅器2210A〜Eの出力電流を、すべてのタップ係数増幅器2210A〜Eによって一般に共有されている差動負荷内において加算することによって発生する。FIRフィルタ1560の加算ノード2240からの出力2250は、エミュレーションチャネル1510の出力を提供する。
図15〜図22は、一般にCMOSでの実施を示しているが、その他の回路および/または製造技術を使用してもよい。例えば、CMOSトランジスタの代わりにバイポーラトランジスタを用いてもよい。抵抗器として示している負荷は、その代わりに能動負荷あるいは受動および能動負荷の並列接続であってもよい。さらに、図示しているDAC1580、1582、1584、1586のうちの1つ以上は、アナログ電圧制御に取り替えてもよい。
一つの例示的実施形態では、クロストークキャンセル装置が、図15に示して上記で説明した粗動、微動および可変時間整合ブロック1530A、1530B、1530Cよりも多くの時間整合装置を含んでいてもよいし、または少ない時間整合装置を含んでいてもよい。さらに、時間整合ブロック1530A、1530B、1530Cの順序は、変更されていてもよい。例えば、例示的実施形態では、可変遅延1530Cが微動時間整合1530Bに入力を送り込んでもよく、次に微動時間整合1530Bは粗動時間整合1530Aに入力を送り込んでもよい。
別の変形形態では、FIRフィルタ1560内のタップの数は、上記の例示的数よりも少なくてもよく、または多くてもよい。さらに別の変形形態では、任意に選択された可変利得増幅器がFIR加算ノード2240の後に配置されてもよい。そのような増幅器は、タップ係数2210A、2210B、2210C、2210Dおよび2210Eを変更することなく、エミュレーションチャネルの出力振幅の制御を容易にすることができる。ただし、加算ノード2240の後に可変利得増幅器を追加することは、一般に利用可能な帯域幅を低下させる場合がある。
図15のシステム1510の実施形態は、0.18ミクロン(「μm」)および0.13μmCMOS技術を使用して製造された。製造およびテストの際に、0.18μm集積回路は、上記の図示している要素1530A、1530B、1530Cおよび1560に一般に対応しており、それぞれ約155ピコ秒(「ps」)の粗動選択可能遅延を3つと、それぞれ約45psの微動選択可能遅延を3つと、約80psの遅延を有する5タップFIRフィルタとを含んでいた。図23〜図28は、そのような製造された装置の実験室テストの結果を示す。
図23は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510からの出力パルスについての時間の関数である電圧の例示的プロット2300を示したものである。より具体的には、プロット2300は、0.18μmCMOSに基づいたエミュレーションチャネル回路1510の実施形態を通り、1つの入力パルスについての5Gbsにおける出力パルスを示す。テストに備えて、FIRフィルタ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、信号整形なしで信号を通過させるために、それぞれ正規化された(1 0 0 0 0)に設定された。
図24は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510からの出力パルスの時間の関数である電圧の例示的プロット2400を示したものである。より具体的には、図24は、FIRフィルタ1560のパルス整形を行う能力の実証を提供する。実証のために、エミュレーションチャネル回路1510の実施形態は0.18μmCMOSを使用して製造された。
FIRフィルタ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、それぞれ正規化された(1 0 0 0 −1)に設定された。これらの値を使用して、回路1510は1つの5Gbs入力パルスを処理し、2つの出力パルスを作成する。2つの出力パルスは、図24に示すように、それぞれベースライン2430よりも上に上昇して下に下降する第1のパルス2410、およびそれを反転した第2のパルス2420を含んでいる。
このシナリオにおいては、FIRフィルタ1560は、ハイパスフィルタとして効果的に機能する。より一般的には、可変タップ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、FIRフィルタ1560が広範のさまざまなフィルタ応答を提供し、それによって柔軟性を提供し、広範な適用例をサポートしてもよいように設定されることが可能である。
一つの例示的実施形態では、図18の回路1530は、波形2400に類似した信号を出力してもよい。
エミュレーション回路1510の実施形態は、0.13μmCMOSによる集積回路としても製造された。そのバージョンは約160psの粗動選択可能遅延を6つと、約85psの微動選択可能遅延を2つと、約95psの遅延を有する5タップFIRフィルタとを有しており、それぞれ、そして一般に図15に示して上記で説明した要素1530A、1530B、1530Cおよび1560に対応している。プロセス、電圧および温度に対して単位間隔全体を通じた有効範囲を確実にするために、可変遅延セクション1530Cは約2微動遅延をカバーするように設計されている。0.13μmCMOS実施は、DAC設定を通じてプログラム可能な遅延バーニヤを有する。
図25は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510について、遅延プロットのファミリーの例示的グラフ2500を示したものである。より具体的には、図25は、エミュレーションチャネル回路1510を通じて測定された相対遅延を示したものであり、5Gbsのデータレートでx軸上の遅延インデックスによって示されている粗動および微動遅延設定の関数として示されている。図示されているデータは、製造された装置の実験室テストを介して収集された。相対遅延は、さまざまな遅延バーニヤ設定についても示されており、これは遅延要素を微調整し、それによって選択可能なレベルの信号遅延を提供するバーニヤの能力を実証している。
図26は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510の遅延設定の関数として測定された遅延の例示的プロット2600を示したものである。データは、上記の説明に沿って構築された装置の実験室テストにおいて収集された。可変遅延は、5Gbsにおける16進DAC設定の関数として特徴付けられている。プロット2600は、粗動遅延と微動遅延と可変遅延との合成が、複数の単位間隔にわたる遅延の完全な有効範囲を提供していることを示している。さらに、データは、実際の遅延が広い範囲にわたって設定されてもよいということ、そして、その範囲のかなりの部分にわたって遅延は実質的に線形であるということを示している。
図27は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510についての立ち上がり時間の例示的プロット2700を示したものである。より具体的には、プロット2700は、エミュレーションチャネル1510の物理的0.13μm集積回路によって実施された実験室テストにおいて取得されたデータを示している。エミュレーションチャネルを通過した後のパルスの20%〜80%立ち上がり時間は127psである。すなわち、パルスは、その定常状態の20%から80%の値に、約127ps後に立ち上がる。
図28は、本発明の実施形態に係るエミュレーションチャネル回路1510についての例示的アイダイアグラム2700を示したものである。図示されているアイダイアグラム2700は、PRBS31に基づいた疑似ランダムビットシーケンス(PRBS)を含み、5Gbsの通信信号を含んだエミュレーションチャネル回路1510の実験室テストで収集された。
上記のように、アイダイアグラムは、信号品質の可視指示を提供する。アイダイアグラム内の「眼」の開きのレベルは、信号の品質または完全性のレベルと相互に関連している。すなわち、アイダイアグラム内のノイズのあるゆがんだ、または閉じられた眼は、通常、信号の損傷を示す。アイダイアグラムは、ジッタ、タイミング問題、ノイズなどの損傷を明らかにすることが可能である。
図示しているテストのために、FIRフィルタ係数2220A、2220B、2220C、2220D、2220Eは、それぞれ正規化された(0 0 1 0 0)に設定された。この開いているアイダイアグラム2800は、エミュレーションチャネル1510を通じて信号が伝播する際に、信号の完全性が望ましく維持されていることを示している。
次に、図29を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号への効果をエミュレートすることに関連し、信号を遅延させるための例示的プロセス2900のフローチャートを示したものである。信号の遅延と題されたプロセス2900について、上記の図20を例示的に参照して説明する。
例示的実施形態では、プロセス2900またはその中の選択されたステップは、図18のシステム1800、図15のシステム1535、粗動時間整合モジュール1530A、微動時間整合モジュール1530B、可変遅延モジュール1530CまたはFIRフィルタ1560において発生してもよい。プロセス2900は、ネットワークを通過する信号のルートに基づいて、調節可能な量の遅延を提供するために、遅延要素のネットワークを通じて信号をルーティングするための方法の例とみなしてもよい。
ステップ2910において、例えば回路1530などの信号遅延装置が、所望のレベルの信号遅延を指定する制御線2005上の制御信号を受信する。制御信号は、例えば絶対遅延、目標遅延、相対遅延、時間、時間遅延の増分変化あるいは時間遅延を増加または減少させるための指示を、指定または定義してもよい。制御バス1570は、制御線2005に入力を提供してもよく、または制御線2005を含んでいてもよい。
ステップ2920において、スイッチング要素2030A、2030B、2030Cのバンクまたは組が、制御信号に従った状態を呈する。すなわち、ルーティング要素とみなしてもよいスイッチング要素2030A、2030B、2030Cのそれぞれが、2つ以上の経路のうちの1つを通じて電気の流れを導くために設定される。例えば、スイッチ2030A、2030B、2030Cは、上記の表に記載した状態を有してもよい。
ステップ2930において、スイッチング要素2030A、2030B、2030Cが1つの状態に設定されている場合、信号はすべての遅延要素1800A、1800B、1800Cを通じて流れる。この状況では、遅延要素1800A、1800B、1800Cのそれぞれの遅延は累積的であり、伝送される信号は比較的長い時間、遅延させられる。この状態では、スイッチ2030A、2030B、2030C(通常は、ソリッドステートであり、トランジスタを含む)は、直列配置で接続される。この配置では、スイッチ2030Aは、図20に示されている状態とは反対の状態を有し、一方、スイッチ2030Bおよび2030Cは、図示されている配置となる。
ステップ2940において、制御信号によってスイッチ2030A、2030B、2030Cが第2の状態に設定されている場合、信号は少なくとも1つの遅延要素1800Aを避けて通るか、またはバイパスし、そして、少なくとも1つのその他の遅延要素1800B、1800Cを通過する。図20は、そのような例示的配置にあるスイッチ2030A、2030B、2030Cを示す。
ステップ2950において、図5、図7および/または図8のモジュール505、または図9のモジュール900などのコントローラが、遅延をさらに精密にするために、状態を調節、変更または更新する。すなわち、エミュレーションチャネル1510は、付与される遅延とエミュレートされる信号効果との間の一致を提供するために、上記の動的フィードバックを使用する。プロセス2900は、エミュレーション処理に関連して信号に適用される遅延のレベルをさらに精密に処理を継続するために、ステップ2950に続いて繰り返される。
次に、図30を参照すると、この図は、本発明の実施形態に係る信号変換をエミュレートすることに関連して、遅延させられた信号を合成するための例示的プロセス3000のフローチャートを示したものである。遅延させられ重み付けされた信号の加算と題されたプロセス3000について、上記の図18を例示的に参照して説明する。
例示的実施形態では、プロセス3000またはその中の選択されたステップは、図18のシステム1800、図15のシステム1535、粗動時間整合モジュール1530A、微動時間整合モジュール1530B、可変遅延モジュール1530CまたはFIRフィルタ1560において発生してもよい。
さらに、プロセス3000とプロセス2900とは相互に並列に実行されてもよく、プロセス3000がプロセス2900に入力を送り込んでもよく、またはプロセス2900がプロセス3000に入力を送り込んでもよい。プロセス3000は、それぞれが異なる遅延を有する2つの信号経路を通じて信号を送り込み、2つの信号経路の出力の重み付けされた和を作成する方法の例とみなしてもよい。
ステップ3010において、エミュレーションチャネル1510は、サンプル信号の第1の部分が遅延線1810を通るように導き、その一方、第2の部分がスルー線1805上を伝送するように導く。言い換えると、サンプル信号は、全体的に、または部分的に、異なる量の遅延を提供する2つの信号経路1805、1810を通じて伝送される。遅延線とみなしてもよい遅延経路1810は、少なくとも1つの遅延要素1815A、1815B、1815C、1815Nを有する。したがって、信号が遅延経路1810を通じて伝播するための伝送時間は、信号がスルー経路1805を通じて伝播するための伝送時間よりも大きい。
ステップ3020において、調節可能な選択回路1820は、遅延経路1810およびスルー経路1805からそれぞれの信号を受信し、その際、スルー経路の信号は遅延経路の信号に先立って到着する。
ステップ3030において、調節可能な選択回路1820は、相補型の重み付け係数を、遅延させられた信号とスルー経路信号とに適用し、結果を合成する。しがたって、調節可能な選択回路1830は、スルー経路1805からの信号に第1の利得を適用し、遅延経路1810からの信号に第2の利得を適用する。図18を参照して上記で説明したように、2つの利得は、通常、相互に相補的である。重み付けされるか、または相補的に増幅された信号を合成することは、通常、2つの信号を一緒に加算または合計することを含んでいる。
ステップ3040において、調節可能な選択回路1820は、重み付けの指定を含む制御信号を、制御線1822を介して受信する。制御信号は、調節可能な選択回路1820が遅延経路1810およびスルー経路1805の出力に適用する相対的な重みまたは利得を設定する。
図5、図7および/または図8のモジュール505、または図9のモジュール900などのコントローラは、制御信号とその重み付けの指定とを、調節、変更、更新する。システム1530は、上記の動的フィードバックを使用し、これによって別の信号または信号効果に類似したエミュレーション信号を提供する。プロセス3000は、エミュレーション処理に関連して信号サンプルに適用される信号処理のレベルをさらに精密にする処理を継続するために、ステップ3040に続いて繰り返される。
要約すると、本発明の例示的実施形態は、アナログおよびデジタル信号処理(または、デジタル制御の下でのアナログ信号処理)を、デジタル信号のサンプルに(あるいは、信号パルスに、または何らかのその他の信号に)適用してもよい。信号処理は、信号効果の表現を作成するために、サンプルを整形し、遅延させてもよい。表現される信号効果は、例えば、クロストークまたは何らかのその他の現象であってもよい。
本発明によるシステムは、1つの通信信号上に、別の信号によって負わされたクロストークを、キャンセル、補正または補償する回路を含んでいてもよいが、当業者は本発明がこの適用例に限定されないこと、および本明細書に記載した実施形態は例示的なものであり限定的なものではないことを理解するであろう。さらに、本明細書に記載した本発明の実施形態のさまざまなその他の代替が、本発明の実施において使用されてもよいことが理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。