JP2012107047A - 気管支感染症の治療法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の態様によれば、第一治療期間の後に第二の治療休止期間を設けることができ、その間は患者の気管支系にはアミノグリコシド系抗生物質は投与されない。悪性の感染症の治療に対しては、患者の気管支系へのアミノグリコシド系抗生物質投与による第一の治療期およびその後のアミノグリコシド系抗生物質を投与しない第二の治療休止期のサイクルを、抗菌効果が現われるまで2回またはそれ以上繰返して行うことができる。CF患者が罹患する感染症のような慢性感染症の場合では、この第一および第二の治療期のサイクルを、患者治療中に複数回繰返すことができる。
【選択図】なし
Description
本発明は、気管支感染症に抵抗性のない患者に対して、トブラマイシンのようなアミノグリコシド系抗生物質のドライパウダー製剤を用いる新規の改善された治療法に関する。
嚢胞性線維症(CF)は、米国およびヨーロッパ北部において最も良く知られている寿命を縮める遺伝的疾患であって、米国では約30000人が罹患(Cunningham,J.C.ら、“An Introduction to Cystic Fibrosis for Patients and Families,”第5版、Bethesda:Cystic Fibrosis Foundation(2003))し、西ヨーロッパにおいても同様の患者数にのぼる。常染色体劣性であるこの疾患の遺伝的欠陥は、塩素イオンチャンネル蛋白質をコードするCF膜貫通コンダクタンス制御(CFTR)遺伝子(Collins,F.S.,“Cystic Fibrosis Molecular Biology and Therapeutic Implications,”Science 256:774−779(1992))におけるある突然変異である。一般的に慢性気管支感染症、副鼻腔炎、および膵臓の機能不全による消化器吸収不良を患うCF患者では、発汗による塩分損失、閉塞性肝胆嚢疾患および生殖能の低下が多く認められた(FitzSimmons,S.C.,“The Changing Epidemiology of Cystic Fibrosis,”J.Pediatr.122:1−9(1993))。CF患者では、呼吸器疾患が病状の主要な要因であり、それによる死亡率は90%にも達する(Cystic Fibrosis Foundation,Cystic Fibrosis Foundation Patient Registry 2003 Annual Data Report,Bethesda,MD:Cystic Fibrosis Foundation,(2004);Davis,P.B.ら、“Cystic fibrosis”,Amer.J.Respir.Crit.Care Med 154(5):1229−56(1996))。肺機能(努力呼気肺活1秒量(予測FEV1)として計測される)は、CFにおける生存率を予測する重要な因子の一つである。あるCF患者集団の2年生存率の減少率は、予測FEV1が10%減少すると2倍になり、患者のFEV1が予測値の30%未満になるとその2年生存率は50%未満となる(Kerem,E.ら、“Predictioin of Mortality in Patients with Cystic Fibrosis,”N.Engl.J.Med.326:1187−1191(1992))。肺機能の低下速度に関しては、患者によっても罹患期間もよっても異なる。遡及的な長期の分析から、肺機能低下速度は年間予測FEV1で2%未満から年間予測FEV1で9%超まであることがわかり、低下速度は全般に死亡年齢に関連しているとされる(Corey,M.ら、“Longitudinal Analysis of Pulmonary Function Decline in Patient with Cystic Fifrosis,”J.Pediatr.131(6):809−1(1997))。
Colonization with Pseudomonas aeruginosa in Cystic Fibrosis:Correlations Between Anti−Pseudomonas aeruginosa Antibody Levels And Pulmonary Function,”Pediatr.Pulmonol.10:92−100(1991);Ballmann,M.ら、“Long Term Follow Up of Changes in FEV1 and Treatment Intensity During Pseudomonas Aeruginosa Colinisation in Patients with Cystic Fibrosis”, Thorax 53:732−737(1998);Pamukcu,A.ら、”Effects of Pseudomonas aeruginosa Colonisation on Lung Function and Anthropometric Variables in Children with Cystic Fibrosis”,Pediatr.Pulmonol.19:10−15(1995))。P.aeruginosaによる慢性の気管支感染症への罹患から始まり、肺炎、肺機能の低下および最終的には死に至るまで関連性があることは、P.aeruginosaによる慢性感染症が伴うと生存率が優位に低下すること(Henry,R.L.ら、“Mucoid Pseudomonas aeruginosa is a Marker of Poor Survival in Cystic Fibrosis”,Pediatr.Pulmonol.12(3):158−61(1992))、ならびにP.aeruginosaによる慢性感染症への早期罹患と小児死亡率とに有意な関連性があること(Demko,C.A.ら、“Gender Differences in Cystic Fibrosis:Pseudomonas aeruginosa Infection”,J.Clin.Epidemiol.48:1041−1049(1995))によって示唆される。肺への細菌の侵入を抑える(MacLusky,I.B.ら、“Long−term Effects of Inhaled Tobramycin in Patients with Cystic Fibrosis Colonized with Pseudomonas aeruginosa”,Pediatr.Pulmonol.7(1):42−8(1989))か、またはその感染の結果生じる炎症を抑える(Konstan,M.W.ら、“Effect of high−dose Ibuprofen in Patients with Cystic Fibrosis”,N.Engl.J.Med.332(13):848−54(1995))ことのどちらかの長期持続的治療を行うと、感染症患者における肺機能低下速度が減少することがこれまでにわかっている。
市場から購入可能なTOBI(登録商標)製品のような吸入用抗生物質のほかに、種々の長期療法が日常的に処方され、肺における閉塞、感染症および炎症の破壊サイクルが抑制される。積極的気道クリアランス療法(Aggressive Airway Clearance Therapy(非特許文献10))、吸入による気管支拡張薬療法(非特許文献11)、およびヒト組換え型α−ドルナーゼ(rhDNアーゼ;非特許文献12)のような粘液溶解療法については、いずれもCF患者に対する治療に明らかに役立つものである。それらの療法に関しては、CF患者にとって重大な問題があり(非特許文献13)、コンプライアンス(服薬遵守)の欠如で一定の治療にばらつきが出る(非特許文献14)ことが分かっている。
前述にように、市販されているTOBI(登録商標)吸入用液体エアゾルトブラマイシン溶液は、CF患者におけるP.aeruginosa感染症の治療に高い有効性を示すことがすでに証明されている。CF患者における肺機能の保持に伴う治療負荷および関連する免疫学的接種を行うと、治療に要する投与期間が短縮または患者に対する治療の利便性が増大する治療上の改善によって患者に便宜が図られ、その結果として治療効果も高まる。したがって、アミノグリコシド系抗生物質を患者に吸入させて送達し、投薬コストを下げ、患者のコンプライアンスを上げ、吸入療法の全般的有効性を増大させるための新規の改善された方法およびデバイス類の必要とされる。
本発明は、90〜130mgのアミノグリコシド系抗生物質を含有するドライパウダーエアゾル組成物を、気管支感染症患者の気管支系に対して、20〜36日間の第一治療期間に1日1〜3回投与する工程を含む治療方法を提供する。本発明の態様によれば、第一治療期間の後に第二の治療休止期間を設けることができ、その間は患者の気管支系にはアミノグリコシド系抗生物質は投与されない。悪性の感染症の治療に対しては、患者の気管支系へのアミノグリコシド系抗生物質投与による第一の治療期およびその後のアミノグリコシド系抗生物質を投与しない第二の治療休止期のサイクルを、抗菌効果が現われるまで2回またはそれ以上繰返して行うことができる。CF患者が罹患する感染症のような慢性感染症の場合では、この第一および第二の治療期のサイクルを、患者治療中に複数回繰返すことができる。
本発明の方法は、CFに伴うシュードモナス属菌による気管支感染症のような、アミノグリコシド系抗生物質が有効ないずれの気管支感染症の治療にも有用である。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
90〜130mgのアミノグリコシド系抗生物質を含有するドライパウダーエアゾル組成物を、気管支感染症の患者の気管支系に対して、20〜36日間の第一治療期間に1日1〜3回投与する工程を含む、気管支感染症の治療方法。
(項目2)
前記第一治療期間の後に、前記患者の気管支系にアミノグリコシド系抗生物質を投与しない第二の治療休止期間を設ける、項目1に記載の治療方法。
(項目3)
前記アミノグリコシド系抗生物質が、ゲンタマイシン、アミカシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ネチルミシンおよびトブラマイシン、あるいはそれらの薬学的に受容可能な塩からなる群から選択される、項目1に記載の治療方法。
(項目4)
前記アミノグリコシド系抗生物質が、トブラマイシンまたはその薬学的に受容可能な塩である、項目3に記載の治療方法。
(項目5)
前記エアゾルパウダー組成物が、100〜120mgのトブラマイシンを含有する、項目4に記載の治療方法。
(項目6)
前記エアゾルパウダー組成物が、110〜115mgのトブラマイシンを含有する、項目5に記載の治療方法。
(項目7)
前記患者に投与される前記エアゾルパウダー組成物が、2〜6個の用量単位に分割されている、項目1に記載の治療方法。
(項目8)
前記患者に投与される前記エアゾルパウダー組成物が、3〜5個の用量単位に分割されている、項目7に記載の治療方法。
(項目9)
前記エアゾルパウダー組成物が、4個の用量単位に分割されている、項目8に記載の治療方法。
(項目10)
前記第二の治療休止期間が、20〜36日間である、項目2に記載の治療方法。
(項目11)
前記第一の治療期間が、26〜30日間である、項目2に記載の治療方法。
(項目12)
前記第二の治療休止期間が、26〜30日間である、項目11に記載の治療方法。
(項目13)
前記第一の治療期間が、28日間である、項目2に記載の治療方法。
(項目14)
前記第二の治療休止期間が、26〜30日間である、項目13に記載の治療方法。
(項目15)
前記第一の治療期間の治療の後に、前記第二の治療休止期間を設ける治療レジメンを複数回繰返す、項目2に記載の治療方法。
(項目16)
前記パウダーが、空気力学的粒径域1〜5μmの粒子を少なくとも50%含有する、項目2に記載の治療方法。
(項目17)
前記患者が、嚢胞性線維症患者である、項目2に記載の治療方法。
(項目18)
前記嚢胞性線維症患者が、シュードモナス属菌による気管支感染症に罹患している、項目17に記載の治療方法。
(項目19)
前記エアゾルパウダーが、ドライパウダー吸入器を用いて前記患者に投与される、項目1に記載の治療方法。
(項目20)
前記エアゾルパウダーが、前記ドライパウダー吸入器内の単一容器に分配され、前記エアゾルパウダーが、前記容器から前記吸入器によってヒト被験体または動物被験体の肺内に送達される、項目1に記載の治療方法。
(項目21)
前記エアゾルパウダーが、前記ドライパウダー吸入器内の複数容器に分配され、前記エアゾルパウダーが、前記容器から前記吸入器によってヒト被験体または動物被験体の肺内に送達される、項目20に記載の治療方法。
(項目22)
110〜115mgのトブラマイシン抗生物質を含有するドライパウダーエアゾル組成物を、気管支感染症に罹患した嚢胞性線維症患者の気管支系に対して、28日間の第一治療期間に1日2回投与する工程、その後に前記患者の気管支系にトブラマイシン抗生物質が投与されない26〜30日間の第二の治療休止期間を設ける工程、および前記第一および前記第二の治療期間を繰返す工程を含む、前記患者の治療方法。
(項目23)
前記患者に投与される前記エアゾルパウダー組成物が、3〜5個の用量単位に分割されている、項目22に記載の治療方法。
(項目24)
前記エアゾルパウダー組成物が、4個の用量単位に分割されている、項目23に記載の治療方法。
(項目25)
前記嚢胞性線維症患者が、シュードモナス属菌による気管支感染症に罹患している、項目22に記載の治療方法。
(項目26)
前記第一および前記第二の治療期間が、複数回繰返される、項目22に記載の治療方法。
本明細書において特別に規定されるものを除き、本明細書で使用される用語のすべてについては、当業者にとって公知と考えられるのと同じ意味を持つものとする。本明細書では以下の略語が用いられる。
ALT アラニン−アミノトランスフェラーゼ
AUC 曲線下面積
BID 1日2回
BUN 血中尿素体窒素
CaCl2 塩化カルシウム
CF 嚢胞性線維症
CFC クロロフルオロ炭素
Cmax 最高濃度
CFTR 嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子
DPI ドライパウダー吸入剤
DSPC 1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
FDA 米国食品医薬品局
FEV1 1秒努力肺活量
FVC 努力肺活量
FEF25−75 25〜75%間の努力呼気流量
HPMC 2−ヒドロキシプロピルメチルセルロース
IRB 治験委員会
IVRS 対話型音声応答システム
MedDRA 医学規制用語集
MIC 最小抑制濃度
P.aeruginosa Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)
PFOB 臭化ペルフルオロオクチル
QPIT 定量的ピロカルピン電離療法検査
SAE 重篤な有害事象
tmax 最高濃度到達時間
TOBI(登録商標) 吸入用トブラマイシン300mg溶液(Chiron社(米国、カリフォルニア州、エメリビル市)製)
TPI 吸入用トブラマイシン粉末。
Drying Handbook”、第5版、K.Masters編、John Wiley & Sons社(米国ニューヨーク州、ニューヨーク市)刊(1991)、および国際公開第97/41833号に全般的に記載されているように実施される。尚、それに関係する記述箇所は、本明細書中に参考として援用されている。
硫酸トブラマイシンのドライパウダー組成物については、以下の手順によって調製した。ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)がゲル状態から液晶状態に移行する温度(約80℃)以上になるように、潅注用滅菌水(SWFI)を加熱する。次にその熱水にDSPCおよび塩化カルシウム・二水和物を加える。得られた液体分散物を、UltraTurrax T−50(商品名)(IKA Labortechnik社製)中、8000rpmで5分間混合処理する。次にその液体分散物に混合しながら、臭化ペルフルオロオクチル(PFOB)を滴加(1分あたり15mlの滴加速度)する。滴加終了後に、得られた水中PFOB滴型エマルションをさらに10000rpmで10分間混合する。UltraTurraxでの乳化工程によってミクロンサイズの液滴が生成する。つづいてそのエマルションの連続相に硫酸トブラマイシンを溶解させ、得られた分散液を噴霧乾燥用の供給原料として用いる。次にその供給原料を噴霧乾燥して以下の表1に示した組成のドライパウダー製剤を得た。
この実施例は、本発明のトブラマイシンドライパウダー組成物の単回投与が、トブラマイシンに関して同様の薬物動態学的挙動を示すトブラマイシン溶液での投与と比較して、トブラマイシンの送達効率が高いことを示す臨床試験の記述である。
この試験は、無作為化、開放性、連続コホート、活性薬剤対照、単回投与および用量漸増による試験として設計した。連続コホートの各々において、被験体全体はT−326Inhaler(商品名)デバイス(Nektar Therapeutics社(米国、カリフォルニア州、サンカルロス市)製)を使用した以下に示す投与スケジュールに従うトブラマイシン粉末の単回投与、またはDeVilbiss PulmoAidesTMコンプレッサー装着のPALI LC PLUSTMジェットネブライザーによってエアゾル化させた吸入用300mgトブラマイシン溶液(TOBI)の単回投与のいずれかを、3:1に比率で無作為に分けて試験を行った。尚、患者は一つのコホートのみの参加とした。
TPI(吸入用トブラマイシン粉末)の単回投与は、T−326Inhaler(商品名)デバイスを使用して行った。
コホート1:TPI(1カプセルあたりに遊離塩基としてのトブラマイシンが「活性用量」として14mg含有)カプセルを2個投与。
コホート2:TPI(活性用量14mg)カプセルを4個投与。
コホート3:TPI(活性用量28mg)カプセルを2個投与。
コホート4:TPI(活性用量28mg)カプセルを4個投与。
コホート5:TPI(活性用量28mg)カプセルを3個投与。
300mg/5mL[保存剤不含、トブラマイシン濃度60mg/mL、溶媒として1/4生理食塩水5mL使用、pH6.0±0.5]溶液でのTOBIの単回投与は、DeVilbiss PulmoAideTMコンプレッサー装着のPARI LC PLUSTMジェットネブライザーによってエアゾル化して行った。
本試験に関する一次結果の算定基準は、治験の全般的な安全性および忍容性とした。この結果をさらに評価するために、被験体を無作為に3:1に分けるスキームを選択して治験群への登録者数を最大にした。
被験体については、以下の採用基準のすべてに該当する場合に、本試験の参加に適格であるとした。
・試験に関係するいかなる手続きを行う前でも、説明による同意(インフォームドコンセント)の書面およびHIPAA(健康保険計画実施協会)の認可が得られていること。
・スクリーニング時における年齢が6歳以上の男性および女性であること。
・定量的ピロカルピンイオン導入検査(QPIT)で記録された汗中の塩化物濃度が60meq/L以上であり、および/または嚢胞性線維症(CF)と整合性がある同定可能な二つの変異を有する遺伝子型を持ち、CFと一致する一種または複数の臨床的特徴を示すことからCFと診断されていること。
・女性の被験体の場合は11歳以上であるか、または初潮に達していて、しかも血清による妊娠検査で陰性であること。妊娠可能年齢の性的活動性の女性については、試験期間中の避妊に同意しなければならない。
・要求時に喀痰試料を排出できること。
・FEV1が予測値(性別、年齢および身長に基づいてKnudson式で算出される値)の40%以上であること。
・プロトコールの要求にすべて従うことができること。
・試験研究者の見解において臨床上、安定していること。
被験体については、以下の除外基準のいずれかに該当する場合、試験対象から除外される。
・試験薬投与前14日以内および試験期間中に、試験以外でアミノグリコシドを吸入または静脈内に投与した場合。
・試験薬投与前14日以内および試験期間中に、治療のためのいずれかの投薬が行われた場合。
・試験薬投与前7日以内および試験期間中に、ループ系利尿剤が投与された場合。
・試験薬投与前30日以内のいずれかにおいて、60cc超の喀血を生じた場合。
・アミノグリコシドまたは吸入による抗生物質に対して局所的または全身的な過敏症の既往歴がある場合。
・血清中クレアチニン濃度が2mg/dlまたはそれ以上、BUN(血液尿素窒素)が40mg/dlまたはそれ以上、あるいは尿検査で2+またはそれ以上の蛋白尿とされた場合。
被験体、その両親、または後見人は、試験のいずれの時期においても既得権を侵さずに参加への同意を撤回することができるものとする。試験研究者の側も、臨床的判断において最大の注意を払わなければならない被験体の場合、または試験プロトコールに応じることができないと考えられる被験体の場合にその被験体を除外できるものとする。可能な場合、試験終了時の外来による追跡調査で挙げられた検査および評価項目についても実施した。
・プロトコール違反;
・追跡調査の遺失;
・同意の撤回;
・死亡;
・不適切な登録;
・管理上の理由;
・そのほかの上記記載以外の事由。
80名までの被験体について、無作為化して治験を行った。被験体には対照薬剤または以下に挙げたような本試験薬のいずれかの単回投与が行われた。
コホート1:TPI(活性用量14mg)カプセルを2個投与。
コホート2:TPI(活性用量14mg)カプセルを4個投与。
コホート3:TPI(活性用量28mg)カプセルを2個投与。
コホート4:TPI(活性用量28mg)カプセルを4個投与。
コホート5:TPI(活性用量28mg)カプセルを3個投与。
TOBI 300mg/5mL[保存剤不含、トブラマイシン濃度60mg/mL(1/4生理食塩水5mL添加、pH6.0±0.5に調整]は、DeVilbiss PulmoAideコンプレッサー装着のPARI LC PLUSジェットネブライザーによってエアゾル化して投与した。
本試験で用いたTPIは、トブラマイシンならびに二種類の賦形剤、すなわち1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)および塩化カルシウム(CaCl2)から成るドライパウダー製剤である。TPIは25mgまたは50mgの粉末のいずれかを含有するように、対応するサイズの2−ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)製カプセル内に充填して用いた。本試験ではトブラマイシン粉末は、二種類の活性用量、すなわち1カプセルあたりトブラマイシンとして14mgおよび28mgで用いた。
無作為に対照薬治験群に割り当てられた被験体には、吸入用トブラマイシン60mg/mL溶液TOBI(登録商標)300mgを投与した。尚、吸入用トブラマイシン溶液は、PARI LC PLUSジェットネブライザーおよびDeVilbiss PulmoAideコンプレッサーを介して被験体に投与された。300mg用量のTOBI(登録商標)吸入用トブラマイシン溶液は、市販のTOBI(登録商標)吸入用トブラマイシン溶液アンプルを購入して準備した。5mLアンプル試験用薬2本は、ホイル袋に入れて用意した。この試験は単回投与で行ったが、試験薬の調製、ならびにネブライザーおよび送達系のセットアップの際に万一こぼれる場合には、2本の5mLアンプルの試験薬が入った前述のホイル袋を用いて患者に提供した。
適格被験体については、試験薬による治験群または対照薬による治験群のいずれかに3:1の比率で無作為に割り振った。被験体が適格基準に適合すると試験研究者または治験コーディネーターが確認すると、試験スタッフはその患者についての無作為化確認書の記入を完了し、対話型音声応答システム(IVRS)によって被験体番号および治験群割り当ての情報を得た。
対照薬治験群での用量は、6歳またはそれ以上のCF患者におけるP.aeruginosaの予後管理用にFDAが認可した用量である300mgのTOBIに設定した。PK(薬物速度論)でのモデル解析を用いると、PARI LC PLUSジェットネブライザー/DeVilbiss PulmoAideコンプレッサーを介して300mg用量のTOBIを送達した場合の、全身における生物学的利用率は、噴霧された全投与用量の11.7%であると想定された。またTOBI300mg吸入1時間後における血清中トブラマイシン濃度の平均値および標準偏差は1.0±0.58μg/mLとなり、吸収されずに沈着する量が多いことが示唆された。
被験体には、300mgTOBI(登録商標)トブラマイシン吸入用60mg/mL溶液の単回投与、あるいは用量強度14mgのカプセル2個または4個、または用量強度28mgのカプセル2,3または4個から成るTPIの単回投与のいずれかで投与を行った。尚、食事に関係する投与時期の制限は設けなかった。
本試験は、標識オープン式の臨床試験研究とした。2種類の異なる薬物送達系を用いるので、治験の同一性の盲験性は実現不能である。
追加の支持療法については、試験現場ごとでの標準的な医療業務にしたがって投与が成された。除外基準の中に列挙された投薬は、被験体選定のスクリーニング時点から試験後の追跡調査での外来時に至るまで被験体には行わなかった。
被験体は、研究者および治験コーディネーターの存在のもとで、自分で試験薬の単回投与を行った。本試験薬投与における早期の中止、中断または延期のいずれの場合でもその理由を原本およびCRFに記録した。試験薬投与期間のすべてについても、原本およびCRFに記録した。
・=[(予備投与時のFEV1−スクリーニング時のFEV1)/スクリーニング時のFEV1]×100。
300mg/5mL TOBIに対するTPIの比較用量評価は、試験薬による治験と対照薬による治験とのエアゾル搬送特性の評価に基づくものである。試験薬による治験および対照薬による治験でのエアゾル特性に関しては、血清中および喀痰中のトブラマイシン濃度の時間推移、本実施例に記載されるような血清および喀痰に関するいわゆる薬物動態学的パラメーターの計算、治験薬の投与に要する時間の計測、ならびにT−326Inhalerデバイスとカプセルとのパーフォーマンスの評価に基づいて求めた。
血液試料は、投与前、ならびに治験での吸入における初回の吸入が開始されてから0.5,1,2,4,8および12時間後に採取した。試料の採取は可能な限り決められた時間に近づけて行い、たとえば試験薬投与の0.5時間後の採血ならば±2分以内に、またそれ以降の採血時間では設定時間から±10分以内の時間に行うこととした。それらの時間域からはずれて採取された血液については、プロトコール逸脱とみなした。
喀痰試料は、治験第1日目の予備投与の前、ならびに試験薬吸入時における最初の吸気開始の0.5,1,2,4,8および12時間後に、被験体に深い咳をしてもらって喀出されたものを採取して得た。喀痰試料の採取は、可能な限り設定時間に近づけて行い、しかも血清採取と同じ時間帯で行った。これらの時間間隔をはずれて採取された試料については、プロトコール逸脱とみなした。
治験の投与時間は、被験体の最初の吸入の開始から投与完了までの時間と規定した。治験の投与は、T−326Inhalerデバイスがガタガタ音を発生し始めた時、または対照のPALI LC PLUSネブライザーがブツブツ音を発生し始めた時に終了させた。TPIカプセルの場合、被験体の二回目の呼吸の際にガタガタ音が聞こえるかどうかに試験研究者は注意し、その徴候があればカプセルはすでに空になっているとした。
本試験プロトコールには明記していないが、使用したT−326Inhalerデバイスおよび使用したTPIカプセルについては、使用後に分析してパーフォーマンスの評価を行った。
有害事象(AE)とは、医薬品の投与を受けた治験被験体において医学上不都合ないかなる出来事も規定し、用量にはかかわらず、また治験による投与と必ずしも明らかな因果関係が証明されない場合も含まれる。したがってAEは、医薬品の使用に一時的に付随する好ましくなく意図されない徴候(実験上の異常な見解も含む)、症状または疾患のいかなるものも、その医薬品との関連性の考慮の有無にかかわらず、含めることができよう。この定義には介在性の病気または傷害、およびさきに存在する病状の増悪も含まれる。予期しないAEとは、本質または重篤性が実用上の医薬品情報とは整合しない事象のことである。
軽度:通常生活に支障なし。
中程度:通常生活に何らかの支障あり。
重度:通常生活が不能。
すなわち、
関連性なし:治験薬を摂取しても起こらないか、またはAEの出現が治験薬の投与時間と合理的な関連性がみられないか、あるいはそのAEが治験医薬品とは関連性がないと考えられる場合。
関連する可能性あり:本試験医薬品の投与とAEとに合理的な時間関連性がみられ、そのAEについて試験医薬品の摂取以外の原因でも同様に説明し得る場合。
高い関連性あり:本治験とAEとに合理的な時間関連性がみられ、そのAEについて試験医薬品の摂取による出現説明の方がそれ以外の原因による説明よりも妥当である場合、またはそのAEの原因として試験医薬品が最も考えられる場合。
本治験ではSAEは全く報告されなかった。
血液学的基礎データ、血清化学、および浸漬式スティックによる蛋白尿検査の測定を対象とする研究室での検査は、スクリーニング時点、および治験薬投与後8日目の追跡調査時に実施した。治験第1日目の投与時には、投与開始から12時間後に血液尿素窒素(BUN)および血清クレアチニンを計測した。スクリーニング時における尿浸漬スティックによる蛋白尿検査の結果が微量陽性または1+であった場合は、さらに同検査を投与前に再度行い、また血清化学および血液学的検査についても、スクリーニング時点で異常値を示した場合は再度検査を行った。
肺活量測定検査(1秒間努力呼気肺活量[FEV1(L)]、努力肺活量[FVC(L)]、および努力肺活量の1/4〜3/4の中程度における努力性吐出流速[FEF25−75])については、本治験の単回投与の前日、および投与完了の30分後に実施して気道の反応を評価した。また投与後8日目の追跡調査時にもルーチンの肺活量測定を実施した。
生命徴候は、投与前日、ならびに投与開始の30分、1,4,8および12時間後に計測し、その実施項目には10分間安静後の座位での動脈血圧、心拍数および呼吸数、ならびに体温の測定を含めた。また生命徴候の計測は、投与後8日目の追跡調査の訪問時にも行った。
被験体の身体検査は、投与後8日目の追跡調査の訪問時に行い、その実施項目は被験体の全身外観、皮膚、リンパ節、HEENT(頭部、眼部、耳部、鼻部および咽喉部)、両肺、心血管系、腹部、手足、筋骨格系、神経系、および(所望により)尿生殖器系の身体所見から構成されるようにした。
本試験において用いられた効力測定は標準的、すなわち広く用いられ、信頼性、正確さ、ならびに有効薬剤と無効薬剤との識別能を有すると一般に認識されるものとした。本試験において用いられる安全性の測定は、標準的な臨床上および研究室の手順で行った。
喀痰および血清中のトブラマイシンのアッセイから得られた濃度(C)対時間(t)のデータについては、モデル非依存的な方法によって解析して薬物動態学的パラメータ類を得た。最高濃度(Cmax)および最高濃度到達時間(tmax)に関しては視認によって求めた。最終速度定数(λz)に関しては、最終相の対数線形回帰によって求めた。半減期(t1/2)に関しては、式t1/2=ln(2)/λzで算出した。尚、計算は定量限界低濃度域をすべてゼロとして行った。0時間(投与前)から投与12時間後までの、喀痰および血清中の濃度−時間曲線下の面積、すなわちAUC(0,12)に関しては、台形則によって算出した。無限時間までのAUC,すなわちAUC(0、∞)に関しては、式AUC(0,12)+C(12)/λz;但し、C(12)は投与開始12時間後の濃度、で算出した。
線形回帰モデルは、全コホートから得られたTPIの血清中濃度データのlogAUC(0,12)対log(TPI用量)に当てはめ、TOBIに対するTPIの相対用量を推定した。その相対用量および95%信頼区間については、当てはめた回帰線の逆関数、ならびTOBIデータの平均logAUC(0,12)における上側および下側の95%信頼域を用いて求めた。
本試験は、臨床試験実施に関する基準(GCP)に従い行われた。
症例報告書データは、Clintrial(登録商標)データベースに二重に入力した。
この第1相試験の目標は、試験薬であるTPIおよび対照薬であるTOBIの治験の安全性の評価、およびTPI投与で得られる薬物動態学的プロフィールがTOBI300mg/5mL投与の場合に相当することの推断を行うことである。本試験で規定される目標には有効性の項目を含めなかった。設定された摘要事項および解析事項についてはすべて本質的な診査を行った。TPI治験群とTOBI治験群との間の統計的類似検定および両治験群間の差に関する統計的仮説検定は、いずれも本試験では企画しなかった。本試験では治験センターごとの登録可能な被験体が少数であるため、本試験の統計解析計画ではデータを全解析センターにプールするように前もって指定した。
・すべてに登録された集団:本試験に登録され、無作為化された被験体。
・安全性評価が可能な集団:無作為化され、前述の試験薬のすべてまたは一部の投与を受けた被験体。
・薬物動態学的評価が可能な集団:無作為化され、前述の試験薬のすべての投与を受けた被験体。
本単回投与治験を受けた被験体のすべては、喀痰および血清中のトブラマイシン濃度、血清に関して推定された薬物動態学的パラメータ類、ならびに治験の投与時間に基づき影響を受けるエアゾル送達特性の解析および評価にあてた。
本試験のプロトコールでは、エアゾル送達に関する二次変数を認定しなかった。
本治験の投薬を受けた被験体のすべてについては、AE、肺機能変化、臨床検査結果、生命徴候および身体検査に基づき、安全性の評価がなされた。
基礎的症状、および治験の結果生じた有害事象(AE)に関しては、MedDRAシソーラスを用いて符号化した。個々の治験の結果生じたAEの全発生率(治験期間中または治験後に少なくとも1回の有害事象が認められた被験体の%)については、TPI治験とTOBI治験との間の顕著な差に関する記述的評価を行った。その統計的検定は企画しなかった。またAEについては、試験薬および対照薬での治験に関する重篤度(軽度、中程度、重度)および薬物との関連性(関連性なし、関連性高い)も摘要した。薬物との関連性を評価するための「関連性」分類には、個々のAEを本治験と「関連性あり」、「関連性高い」、および「関連性認めず」と試験研究者が判定を下して行った。
被験体が肺疾患に罹患していない場合では、肺機能の正常値はFEV1、FVCおよびFEF25−75(肺活量計測値)で表されてきた。これらの標準値は、一般に肺疾患罹患被検者の試験において用いられている。肺活量計測値の生データは、以下に述べるようにKnudson式を用いて標準の予測%値に変換した。FEV1、FVCまたはFEF25−75に関するKnudson標準値とは、被験体ごとに以下の式を用いる年齢(歳)と身長(cm)との線形連結である。
Knudson標準値=C0+C1×身長+C2×年齢
式中、係数C0、C1およびC2は、被験体の性別および年齢群に基づき定められている。
%予測値=(生の観測値/Knudson標準値)×100
投与前から試験薬投与終了30分後までの予測されるFEV1%の変化(FEV1%)および相対変化については、以下の式を用いて算出した。
FEV1%の変化=投与後のFEV1%−投与前のFEV1%
相対変化=[(投与後のFEV1%−投与前のFEV1%)÷投与前のFEV1%]×100
基準値からの相対変化が20%以上の低下となった被験体については、気管支痙攣が起きたと規定した。
・投与前から投与終了30分後において予測されるFVC%およびFEF25−75%の変化および相対変化
・投与前から治験投与8日目の追跡時までに予測されるFEV1%、FVC%およびFEF25−75の変化および相対変化
安全性に関するほかの変数
臨床検査結果、生命徴候、併用薬、医療処置および身体検査を含むほかの安全性に関する変数に関しては、記述的な摘要を行った。さらに基底値から試験終了時の値の変化についても計算し、臨床検査データ、生命徴候および肺活量測定値に摘要した。尚、これらの計算では、試験薬投与のできるだけ近い時点に得られた評価値を基底値とした。各々の正常域よりも高いかまたは低い臨床検査結果の発生頻度の変化についても、評価を行った。
試料サイズおよび並列処理設計選択範囲については、統計力要件よりも臨床的および実地における要件に基づき設定した。すべての解析は診査によって行い、記述的方法を用いて取扱った。本試験では推論による統計解析は企画しなかった。
各コホートの試験終了時に、主要な安全性に関する変数の概要を作成し、治験データ監視委員会(DMC)に提出して用量増大の検討および決定がなされた。以下の結果は、被験体によって列挙され、治験完了後にコホートごとにまとめられたもので、DMCでの審議をサポートする。
・投与前後で予測されたFEV1%および変化%;
・重篤な有害事象;
・治験の結果発生したAE;
・呼吸器系の、治験の結果発生したAE。
本試験には、15名の試験研究者によって全部で97名の被験体がスクリーニングされた。
登録された90名の被験体のうちの3名については、治験薬投与の前にすでにAEが見られたため脱落させ、本治験の単回投与は行わなかった(表3)。90名のうちの残りの87名の被験体については、治験薬の投与が行われた。
登録された90名の被験体のうちの86名は、無作為化し、治験薬の単回投与を行い、本プロトコールに関する安全性の評価対象とした。その90名のうちの3名については、AEのために治験薬投与前に試験から脱落したため、安全性の評価からは除外した。残りの1名については、投与時にカプセルがT−326Inhalerデバイスの不具合で穿刺されなかったために治験薬の投与が行われず、安全性の評価対象から除外した。
本試験の登録被験体は、男性43名および女性47名、年齢は7〜50歳で嚢胞性線維症と診断された被験体であった。被験体の平均年齢はTOBI治験群での19.5歳からTPI2×14mg投与群での24.1歳までであり、治験群間でほぼ同等であった。被験体のうち15名が7〜12歳、22名が13〜17歳、および53名が18〜50歳であった。
登録被験体については、臨床検査データ(定量的ピロカルピン−イオン導入検査(QPIT)時の汗中の塩化物濃度が60mEq/L以上であり、および/または二つの変異が確認された遺伝子型であること)の記録、および臨床的に安定型の嚢胞性線維症と診断しても臨床上明らかにに整合していることの記録がなされた。試験開始前に認められた医療履歴の所見、ならびに徴候および症状に関しては、治験群間で差はほとんどなかった。
本プロトコールで要求される単回治験薬投与に関するコンプライアンスについては、90名のうちの86名の被験体が本治験を受けた(3名については基礎的症状で投与前に脱落し、1名については投与工程は行われたが、T−326Inhalerデバイスが治験薬カプセルを穿刺しなかったために実際には治験薬の投与は行われなかった)ことから、許容されるものであった。コンプライアンス不履行の被験体4名の事象については、表6にさらに列挙した。
図1に示すように、TPIおよびTOBI投与後のトブラマイシンの血清中平均濃度−時間プロフィールから、薬物が迅速に吸収されたことが認められた。すなわちtmax(最高濃度到達時間)の中央値が治験投与のすべてにおいて1時間であった。薬物の体内分布も極めて速いと考えられ、血清中からの消失は一相性の指数関数的減少挙動を示し、最終の平均半減期は2.8〜3.5時間の範囲であった。TOBI投与後のトブラマイシンの薬物動態学的パラメータ値については、過去に発表された試験結果と整合するものであった。
TOBI300mg投与後の体内摂取量に関しては、TPI4×28mgカプセル投与後の場合と極めて類似していた(図2および3)。全コホートから得られたAUC(0,12)データを用量の関数として調べてみると(図2)、その結果からTPIの115mg用量がTOBIの場合と同様な平均AUC(0,12)を示すと考えられることが分かる。AUC(0,∞)について考慮すると(図3)、TPIの112mg用量がTOBIの場合と同様なAUC(0,∞)を示すと考えられる。これらの結果に基づくと、TPIの28mgカプセル4個(総投与量112mg)で、TOBIの場合に極めて近い全身的体内摂取量になると考えられることがわかる。
TPIおよびTOBI投与後では、喀痰中の最高濃度は平均で投与30分後に現われ(図4)、その後半減期0.8〜2.2時間で減衰した(表8)。
TOBIの被験体への投薬時間の平均は、約16分間であった(表9)。これに対して2カプセルのTPIの投薬では、2×14mgおよび2×28mgの投与の場合、各々平均で1.7分間および2.5分間であった。またTPI4×14mg、3×28mgおよび4×28mgの投薬の場合、各々平均で4.2分間,4.5分間および4.9分間であったが、それらのコホートでは2個目のデバイスは装填されておらず、各々3個目および4個目のカプセルの投与に用いた。したがってカプセル数が増えるとTPIの投与時間が増えるが、それによって用量強度も増す。
2個のカプセル以外のTPIカプセル投与のすべてケースでは、要求されるように投与を行った(但し、TPI4×28mg投与群中の被験体のうちの1名で、3個目および4個目のカプセルは、それからはずれた)。カプセル投与では85%またはそれ以上の頻度で2回目の呼吸時にガタガタ音(吸入終了の音)が聞こえた。
本試験では、無作為化した被験体のうちの3名が、投与前のAEによって治験薬投与の前に脱落した。無作為化した被験体のうちの別の1名については、本試験が完了したが、投与時に2個のTPIカプセルの両方とも穿刺されなかったために実際には吸入されなかったことが後になって判明した。これらの被験体については入替えがなされるまで、スクリーニングおよび登録の作業は継続し、入替え用の被験体には新たな無作為コードナンバーが割り振られた。
本プロトコールでは、無作為化された被験体および本治験の投与が完全に行われた被験体に関して、薬物速度論の評価が可能であるとした。試験が進行した時点で、予期されない投与およびTPIカプセルの状態の問題点によって、薬物速度論での評価の妥当性基準の見直しを行なった。6名の被験体の全員については、薬物速度論および用量比較の解析対象から除外した(4名の被験体については治験薬の投与が行われず、2名の被験体については治験薬投与が完全な用量で行われなかった)。それ以外の84名の被験体については、薬物速度論および用量比較の評価が可能とした。
本試験には、試験医薬品(TPI)と対照薬(TOBI)との臨床上および薬物動態学的な同等性を証明するようなデザインまたは検出力を設定しなかった。
以下の亜群解析は、TPIが正しい用量で投与された後の血清へのトブラマイシンの取込み(AUC(0,12)、AUC(0,∞)およびCmax)に関して行った。
・以前にドライパウダーを使用した被験体と未使用の被験体との間(P>0.8);
・男性被験体と女性被験体との間(P>0.1);
・体重(P>0.2)
これらの変数の中でトブラマイシンの体内摂取に影響すると考えられるものはなかった。
TPIおよびTOBI投与後のトブラマイシンの血清中平均濃度−時間プロフィールから、薬物が迅速に吸収されることが分かる。すなわちtmaxはすべての治験例において1時間であった。薬物体内分布は極めて速いと考えられ、一相性の指数関数的な減衰が見られ、最終平均半減期は2.8〜3.5時間の範囲にある。TOBI投与後のトブラマイシンの薬物動態学的パラメータ値については、既存の報文と整合している。
90名の登録被験体のうちの86名について、以下に要約するように単回投与の治験を行った。
・TPI2×14mg、すなわち28mgまでの単回投与を受けた12名の被験体
・TPI4×14mg、すなわち56mgまでの単回投与を受けた13名の被験体
・TPI2×28mg、すなわち56mgまでの単回投与を受けた14名の被験体
・TPI3×28mg、すなわち84mgまでの単回投与を受けた15名の被験体
・TPI4×28mg、すなわち112mgまでの単回投与を受けた13名の被験体
・60mg/mLTOBI5mL、すなわち300mgまでの単回投与を受けた20名の被験体。
治験薬の単回投与中または投与後における、治験の結果生じたAEの発生率に関しては、TOBI投与群の被験体の場合(6/20、30.0%)と比較してTPI投与群の被験体の方が高かった(40/66、60.6%)。TPI用量レベルが異なっても、いずれのAEについても被験体発生率は同様であった(TPI2×14mgでは45%、;4×14mgでは54%;2×28mgでは64%;3×28mgでは67%;4×28mgでは69%)が、試料サイズが小さすぎたため、TPI用量が増大したときにAE発生率が増大するという傾向があることは判断できなかった。治験で生じたAEの重篤度については、すべて軽度または中程度であった。
66名のTPI投与被験体のうちの40名、および20名のTOBI投与被験体のうちの6名では、治験中または治験後に治験に結果生じたAEが見られた。いずれのAEについてもその発生被験体%は、TPI用量レベル間で同等であった。治験により生じたAEのすべては、軽度または中程度のものであった。
66名のTPI投与被験体のうちの24名(36.4%)、および20名のTOBI投与被験体のうちの2名(10%)では、それらケースで見られるAEが試験研究者の見解では治験と関連性があるかまたは高いものであった(表12)。試験研究者によると、咳および咳の悪化のほとんどのケース(10/66=15.2%)ならびに味覚異常のすべてのケース(16.7%)は、TPI治験と関連性があるかまたは高いとされた(表11)。喀血および咽喉の炎症(ともに4.5%)ならびに流涙増加(3.0%)についても、TPI治験に関係すると考えられた。これに対して、胸部圧迫感、単純ヘルペス、好酸球数増加、咽喉の渇き、咽頭炎、喀痰増加、および喀痰粘性上昇のそれぞれ単独のケースについては、TOBI治験に関係すると考えられた。
TPI4×28mg投与の被験体のうちの1名では、投与後の2日目にSAE(中程度の咳および喀痰増加)が見られ、CFの肺疾患が悪化したため治験後の8日目に入院した。同一被験体で生じたそれらSAEについては、いずれもTPI治験に関係しないと考えられた。
TPI4×28mg投与被験体のうちの1名では、治験薬投与で中程度の咳の悪化、ならびに味覚異常および流涙増加が見られたため、投与を中断し、最終的に投与中止とし、その被験体を本試験から脱落させた。試験研究者の見解では、そのAEのいずれもTPI治験と関連性があるとされた。
咳が見られた4名の被験体(TPI4×14mg被験体1名、4×28mg1名、3×28mg2名)については、投薬の変更、中断または延期を行った。試験研究者によると、そのAEはいずれもTPI治験と関連性があると考えられた。
本試験では死亡例は報告されなかった。SAEについては、治験2日目に被験体のうちの1名にのみ中程度の咳および喀痰増加が報告され、その被験体は治験完了の8日目に入院したが、それらのAEは治験と関連性がないと考えられた。5名のTPI投与被験体では、TPI吸入の数分以内に中程度の咳または咳の悪化が生じ、そのうちの1名(味覚異常および流涙増加も併発)については、本試験から脱落させ、残りの4名については投薬を中断した。被験体のすべてで基礎的な呼吸器症状が報告され、またAEとしての咳も報告されたが、1名については基礎的症状としての咳が留意された。これらのAEについては、投薬の変更を最小限にするか、または変更しなくとも5〜35分以内に解消した。後者の4名の被験体には投薬を遅らせ、最初の中断から数分以内に投薬は無事に完了した。これらのAEは、嚢胞性線維症にしばしば伴う基礎的な気管支過敏症におそらく関係するものであったが、試験研究者の見解では、各AEは試験薬物の投与と関連性があるとされた。したがって、本試験では各用量のTPI、およびTOBI300mg/5mLの投与は良好な忍容性を示した。
TOBIおよびTPI治験群では、試験前の基礎データから追跡調査時までの血液学的検査結果の平均値の変化には、いずれも注目するものはなかった。平均値の基底値からの変化については、TOBIおよびTPI治験群間で大きな差は見られず、いずれの血液学的検査においてもTPIの用量が上がっても平均値の増加パターンは見られなかった。
TOBIおよびTPI治験群において、基底値から追跡調査時の値までの血清化学的検査結果の平均値の変化で注目されるものはなかった。いずれの血清化学的検査結果の平均値も、基底値からの変化に関してTOBI投与群とTPI投与群との間に大きな差は見られず、TPIの用量を上げても平均値の増加パターンは見られなかった。
浸漬式スティックによる蛋白尿検査は定量的検査であるが、基底値から追跡調査時の値までの定量的変化は算出しなかった。TOBIまたはTPI投与群では浸漬式スティックによる尿蛋白質検査結果が2+またはそれ以上である頻度で、基底値から追跡調査時の値までの増加で注目されるものは見られなかった。
1名を除いて本試験では臨床上有意な血液学的検査結果は認められなかった。TOBI投与被験体No.12/405では、追跡調査時の好酸球数が9%という臨床上有意な結果(正常域0〜6%)が見られたため、AEとして記録し、それは試験研究者の見解ではTOBI治験と関連性があるとされた。その被験体の好酸球の基底値はもともと正常値の上限(5.9%)であったが、治験8日目にはその基底値から上昇した。この好酸球数9.0%という結果の臨床上の重要性に関しては、不確定である。
本試験においては1名を除き、臨床上有意な血清化学的結果は認められなかった。その1名の被験体(TPI3×28mg投与)では、追跡調査時の血糖値の結果が臨床上有意であったが、その結果はCFに関連した糖尿病に起因するものであった。
本試験では1例を除き、浸漬式スティックによる尿蛋白検査結果で臨床上有意なものは認められなかった。その1名の被験体(TPI4×28mg投与)では、治験後6日目に3+の陽性の結果となった。尚、その被験体では、スクリーニング時および投与当日の検査においては1+の陽性を示していた。この3+という陽性の尿蛋白検査結果については、治験2日目からのSAE(咳および喀痰の増加)と整合性があると治験コーディネーターが判断し、その被験体を入院させた。
TPI2×28mg単回吸入投与後、1例のみにおいて30分以内に起きたと考えられる無症候性の気管支痙攣(FEV1低下率20.9%)が見られた(表11)。尚、その所見は米国胸部学界(ATS)の診断基準によらずに行った肺活量測定で認められたものであった。ATS診断基準にしたがって検査を行えば、FEV1の低下率は少なくなる可能性があると考えられる(11%)。予想されるFEV1%の同様な無症候性の低下については、TOBI投与被験体でも認められた(19.1%の低下)。
TOBIおよびTPI投与群において予測されたFEV1%、FVC%およびFEF25−75%の平均値の変化に関しては、スクリーニング時から投与1日前まで、ならびに投与前日から投与8日目の追跡調査時まで、比較的安定していた。また投与前から投与30分後までの予測されたFEV1、FVCまたはFEF25−75の%の平均値の変化に関しては、TOBI投与群とTPI投与群との間に明らかな差は見られず、異なる用量のTPI投与群間で用量に関連する差は見られなかった。
本試験を通じての生命徴候またはその変化に関しては、TPI投与群とTOBI投与群との間に大きな差または整合する差は見られなかった。
90名の被験体のうちの38名では、投与後に併用して投薬および医療を受けた。その併用の投薬および医療の頻度またはタイプによって、明らかな差は見られなかった。
治験中または治験後の、治験により生じたAEに関しては、TOBI投与の被験体の場合(30.0%)よりもTPI投与の被験体の場合(60.6%)の方が多く見られた。いずれのAEにおける被験体%も、各種TPI用量レベル間で同等(45〜69%)であった。これは試料サイズが小さすぎたため、いずれのAEも、その発生率がTPIの用量の増加で上昇する傾向があるか判定できなかったためである。
TPIの単回投与は、TOBI(登録商標)トブラマイシン吸入用溶液の投与の場合と比較して、トブラマイシンの薬物動態学的特徴は変わらないにもかかわらず、トブラマイシンの送達効率が高い結果となった。TOBI(登録商標)トブラマイシン吸入用溶液投与後の全身体内摂取量は、TPI4×28mgカプセル投与後に見られた量と極めて類似しており、相当する用量の計算値は115mgTPIであった。したがって、TPI28mgカプセル4個(総量112mg)で、300mgTOBI(登録商標)トブラマイシン吸入用溶液に相当する全身の体内摂取量が達成されると考えられる。
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