JP2012102191A - 潤滑剤組成物、減速機および電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】潤滑剤組成物は、合成炭化水素油、ウレア系増ちょう剤、およびステアリン酸亜鉛を含み、さらにトリメリット酸エステル、芳香族スルホンアミド、フタル酸エステル、およびヒンダードフェノールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する。減速機18は、少なくとも一方をポリアミド樹脂で形成した小歯車19と大歯車20との噛み合い部分に、前記潤滑剤組成物を充填した。電動パワーステアリング装置1は、操舵補助用の電動モータ17の出力を、前記減速機18を介して減速して操舵機構9に伝える。
【選択図】図1
Description
前記減速機の、小歯車と大歯車との噛み合い部分を少なくとも含む領域には、潤滑のためにグリース等の潤滑剤組成物が充填される。
このうち低摩擦添加剤としては、ステアリン酸リチウムやステアリン酸カルシウム等の金属石けん類が挙げられる。中でも特に低摩擦添加剤としての機能、すなわち潤滑剤組成物の摩擦係数を低減する機能に優れたステアリン酸リチウムが広く用いられる(例えば特許文献1、2等参照)。
しかしステアリン酸リチウムを含む従来の潤滑剤組成物は、機械分野において機械部品の構成材料として多用されているポリアミド樹脂に対して、特に自動車のエンジン周り等の高温環境下で攻撃性を発現して前記ポリアミド樹脂を劣化させ、前記ポリアミド樹脂からなる機械部品(例えば歯車等)の耐久寿命を大きく低下させるといった問題を生じる。
発明者の検討によると、前記ステアリン酸亜鉛は、ポリアミド樹脂に対する潤滑剤組成物の攻撃性を緩和する働きを有している。
また基油のうち合成炭化水素油は、分子中に極性基を有しないためポリアミド樹脂を劣化させにくい特性を有している。
なお、ポリアミド樹脂の耐久寿命を大幅に延長しうる潤滑剤組成物が求められるのは前記減速機に限ったことではなく、例えば保持器をポリアミド樹脂で形成する場合のある転がり軸受やボールねじ等においても同様である。
樹脂の脆化を抑制する手段としては、前記樹脂中に、当該樹脂の可塑剤や安定化剤として機能しうる化合物を含有させるのが一般的である。
歯車等の機械部品を形成するポリアミド樹脂の脆化は、前記機械部品の、潤滑剤組成物と接触する表面から始まり、徐々に内奥部へ進行する。
その結果、前記構成によれば、機械部品の機械的強度や耐久性を低下させることなしに、ポリアミド樹脂の脆化を機械部品の表面において阻止して、前記機械部品の耐久寿命を大幅に延長できる可能性があることを見出した。
すなわち本発明は、合成炭化水素油、ウレア系増ちょう剤、およびステアリン酸亜鉛を含み、さらにトリメリット酸エステル、芳香族スルホンアミド、フタル酸エステル、およびヒンダードフェノールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする潤滑剤組成物である。
のみならず、前記硫黄系酸化防止剤は、特に高温環境下でのステアリン酸亜鉛の酸化劣化を防止する働きもする。また耐摩耗剤としても機能する。そのため特に高温環境下で使用した際に、前記ステアリン酸亜鉛による、低摩擦添加剤としての機能を長期間に亘って維持することもできる。すなわち潤滑剤組成物の耐熱性を向上できる。
さらに本発明の電動パワーステアリング装置(1)は、操舵補助用の電動モータ17の出力を、前記減速機を介して減速して操舵機構(9)に伝えるものであるため、前記ポリアミド樹脂からなる歯車の劣化を長期間に亘って抑制しながら、電動パワーステアリング装置のトルクを低減して、前記電動パワーステアリング装置を組み込んだ自動車の操舵感を向上できる。
本発明の潤滑剤組成物は、合成炭化水素油、ウレア系増ちょう剤、およびステアリン酸亜鉛を含み、さらにトリメリット酸エステル、芳香族スルホンアミド、フタル酸エステル、およびヒンダードフェノールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とするものである。
前記ポリαオレフィン等の合成炭化水素油は、40℃での動粘度が18mm2/s以上、特に30mm2/s以上であるのが好ましく、64mm2/s以下、特に48mm2/s以下であるのが好ましい。これにより、できるだけ低摩擦で回転トルクの上昇を広い温度範囲で抑制できる上、十分な油膜厚さを有するため潤滑性に優れた潤滑剤組成物を形成できる。
ウレア系増ちょう剤としては、ジウレア系、トリウレア系、テトラウレア系等の種々のウレア系増ちょう剤が使用でき、特にジウレア系増ちょう剤が好ましい。ジウレア系増ちょう剤は、式(1):
で表される構造を有し、下記反応式に示すようにジイソシアネート化合物(2)とジアミン化合物(3)(4)とを反応させて合成される。
前記反応は、潤滑剤組成物のもとになる合成炭化水素油中で行うのが好ましく、これにより均一性の高い潤滑剤組成物が得られる。具体的には、ジイソシアネート化合物(2)とアミン化合物(3)(4)とを別々に合成炭化水素油中に溶解してジイソシアネート溶液とアミン溶液を調製する。次いで、前記溶液のうちいずれか一方をかく拌しながら徐々に他方を加えてジイソシアネート化合物(2)とアミン化合物(3)(4)とを反応させると、式(1)で表されるジウレア系増ちょう剤が合成される。
具体的には、前記合成炭化水素油に所定量のステアリン酸亜鉛を配合し、かく拌しながら加熱して前記ステアリン酸亜鉛を完全溶解させた後、かく拌を続けながら室温まで冷却して、前記ステアリン酸亜鉛を増ちょう剤として含むグリース(以下「ステアリン酸亜鉛グリース」と略記する場合がある)を調整する。
ステアリン酸亜鉛の含有割合は、やはり潤滑剤組成物の使用条件等によって適宜変更できる。例えば電動パワーステアリング装置に組み込んで使用する減速機の潤滑用の場合は、潤滑剤組成物の総量中の3質量%以上、特に5質量%以上であるのが好ましく、10質量%以下、特に8質量%以下であるのが好ましい。
特に、可塑剤としてポリアミド樹脂の脆化を防止する機能の点で、式(5):
芳香族スルホンアミドとしては、例えばp−トルエンスルホンアミド、N−n−ブチルベンゼンスルホンアミド、o/p−トルエンスルホンアミド、p−エチルベンゼンスルホンアミド等の1種または2種以上が挙げられる。
フタル酸エステルとしては、例えばフタル酸ベンジル2−エチルヘキシル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ベンジルイソノニル、フタル酸ビス(2−エチル−ヘキシル)、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジアミル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジイソノニルの分岐鎖異性体混合物、フタル酸ジイソプロピル、イソフタル酸ジメチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジノニルの異性体混合物、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジウンデシルの分岐鎖異性体混合物、エチルフタリルエチルグリコラート、フタル酸ビス(2−ブトキシエチル)、フタル酸ジヘプチル等の1種または2種以上が挙げられる。
前記3種の化合物は、いずれもポリアミド樹脂の可塑剤として機能しうるものであり、かかる化合物を、機械部品を形成するポリアミド樹脂中ではなく、前記機械部品と接触する潤滑剤組成物中に含有させることにより、前記機械部品の機械的強度や耐久性を低下させることなしに、ポリアミド樹脂の脆化を機械部品の表面において阻止して、前記機械部品の耐久寿命を大幅に延長することができる。
ヒンダードフェノールとしては、式(8):
ポリアミド樹脂は、下記の劣化反応によって酸化劣化する。
通常型のヒンダードフェノールとしては、例えば式(10):
またリン系ヒンダードフェノールとしては、例えば式(11):
ヒンダードフェノールはそれぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
またトリメリット酸エステル、芳香族スルホンアミド、フタル酸エステル、およびヒンダードフェノールは、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記含有割合は、いずれか1種の化合物を単独で使用する場合は、その化合物の含有割合であり、2種以上の化合物を併用する場合は、前記2種以上の化合物の合計の含有割合である。
本発明の潤滑剤組成物には、さらに硫黄系酸化防止剤を含有させても良い。
前記ベンゾチアゾール化合物の具体的化合物としては、例えば2−メルカプトベンゾチアゾールまたはその亜鉛塩、ジベンゾジチアジルジスルフィド等の1種または2種以上が挙げられ、特に2−メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
含有割合がそれぞれ前記範囲未満では、ベンゾチアゾール化合物による、ステアリン酸亜鉛の酸化劣化を防止すると共にポリアミド樹脂の劣化を抑制する機能や、耐摩耗剤としての機能等が不十分になるおそれがある。また前記範囲を超える場合には潤滑剤組成物の摩擦係数が大きくなったり、電動パワーステアリング装置等のトルクが増大したりするおそれがある。
含有割合が前記範囲未満では、ジチオカルバミン化合物による、ステアリン酸亜鉛の酸化劣化を防止すると共にポリアミド樹脂の劣化を抑制する機能や、耐摩耗剤としての機能等が不十分になるおそれがある。また前記範囲を超える場合には、潤滑剤組成物の摩擦係数が大きくなったり、電動パワーステアリング装置等のトルクが増大したりするおそれがある。
前記ベンズイミダゾール化合物の含有割合は、潤滑剤組成物の総量中の0.5質量%以上、特に1質量%以上であるのが好ましく、3質量%以下であるのが好ましい。
本発明の潤滑剤組成物は、前記以外の他の添加剤を含有してもよい。前記他の添加剤としては、例えば防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、油性剤等が挙げられる。
このうち防錆剤としてはベンゾトリアゾール化合物、カルシウムスルホネート系防錆剤等の1種または2種以上が挙げられ、特にベンゾトリアゾール化合物が好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物としては、式(16):
前記ベンゾトリアゾール化合物の具体的化合物としては、前記式(16)で表されるベンゾトリアゾールや、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−4−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−5−ベンゾトリアゾール等の1種または2種以上が挙げられる。
前記範囲より硬い潤滑剤組成物は、電動パワーステアリング装置等のトルクを増大させるおそれがあり、前記範囲より軟らかい潤滑剤組成物は前記電動パワーステアリング装置等からの漏れを生じたり、離油を生じたりするおそれがある。
図1は、本発明の一実施形態にかかる電動パワーステアリング装置の概略図である。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と一体回転可能に連結されたステアリングシャフト3と、前記ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間シャフト5と、前記中間シャフト5に自在継手6を介して連結されたピニオンシャフト7と、前記ピニオンシャフト7に設けられたピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8とを備えている。
ラックバー8は、車体に固定されるラックハウジング10内に、図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はラックハウジング10の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド11が結合されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、前記回転が、ピニオン歯7aおよびラック歯8aによって自動車の左右方向に沿うラックバー8の直線運動に変換されて操向輪12の転舵が達成される。
またトーションバー13には、両軸3a、3b間の相対回転変位量から操舵トルクを検出するためのトルクセンサ14が設けられており、前記トルクセンサ14のトルク検出結果がECU(Electric Control Unit:電子制御ユニット)15に与えられる。
減速機18は、電動モータ17により回転駆動される入力軸としての小歯車19と、前記小歯車19に噛み合うと共にステアリングシャフト3の出力軸3bに一体回転可能に連結される大歯車20とを備えており、前記小歯車19と大歯車20との噛み合い部分に、本発明の潤滑剤組成物が充填されている。
また、前記ポリアミド樹脂と同様に一般的な熱可塑性樹脂には同様の効果が期待される。かかる熱可塑性樹脂としては、例えばポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
また本発明の潤滑剤組成物は、互いに噛み合う2以上の歯車からなる歯車機構を備えた、減速機以外の種々の駆動伝達機構の潤滑に使用したり、先に説明したように転がり軸受、ボールねじ等の種々の部材の潤滑に用いたりすることもできる。
〈実施例1〉
(ジウレア系グリースの調製)
合成炭化水素油としてのポリαオレフィン〔40℃での動粘度が48mm2/s、100℃ での動粘度が7.9mm2/sであるPAO−8〕にジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートを配合し、かく拌しながら70〜80℃まで加熱した。一方、前記ポリαオレフィンにオクチルアミンおよびステアリルアミンを配合し、かく拌しながら70〜80℃まで加熱した。次に、前記温度を維持しつつ後の混合物を先の混合物に加え、かく拌を続けながら、まず100〜110℃で30分間反応させ、次いで160〜170℃まで昇温したのち放冷してジウレア系グリースを調製した。
(ステアリン酸亜鉛グリースの調製)
前記ポリαオレフィン60質量部にステアリン酸亜鉛40質量部を配合し、かく拌しながら140℃まで加熱して前記ステアリン酸亜鉛を完全溶解させた後、かく拌を続けながら室温まで冷却してステアリン酸亜鉛グリースを調製した。調製されたステアリン酸亜鉛グリースにおける両成分の質量比は、ステアリン酸亜鉛:ポリαオレフィン=40:60であった。
前記ジウレア系グリース60g、およびステアリン酸亜鉛グリース12.5gと、下記の各成分とを配合し、さらにポリαオレフィンを追加して全量を100gに調整した。そして前記混合物をかく拌し、さらに3段ロールを用いて混練して潤滑剤組成物を調製した。
(a) トリメリット酸エステル
式(5):
(b) 硫黄系酸化防止剤
2−メルカプトベンゾチアゾール:0.5g
2−メルカプトベンズイミダゾール:1g
(c) 防錆剤
ベンゾトリアゾール化合物:1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−4−ベンゾトリアゾールと1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−5−ベンゾトリアゾールの混合物:0.1g
〈実施例2〉
前記トリメリット酸エステルに代えて、芳香族スルホンアミドとしての、式(6):
〈実施例3〉
前記トリメリット酸エステルに代えて、フタル酸エステルとしての、式(7):
〈実施例4〉
前記トリメリット酸エステルに代えて、ヒンダードフェノールとしての、式(10):
〈実施例5〉
前記トリメリット酸エステルに代えて、ヒンダードフェノールとしての、式(11):
〈実施例6〉
前記トリメリット酸エステルに代えて、ヒンダードフェノールとしての、式(12):
〈比較例1〉
前記トリメリット酸エステルを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして潤滑剤組成物を調製した。
ナイロン66を射出成形して、日本工業規格JIS K7162:1994(ISO527−2:1993)「プラスチック−引張特性の試験方法 第2部:型成形,押出成形及び注型プラスチックの試験条件」に規定された1A型の試験片を作製した。
次いで前記試験片の表面に実施例、比較例の潤滑剤組成物を厚さ1〜2mmとなるように塗布し、140℃の恒温槽中に入れて1440時間静置した後、潤滑剤組成物をふき取って、JIS K7161:1994(ISO527−1:1993)「プラスチック−引張特性の試験方法 第1部:通則」に規定された引張試験を行った際の引張破壊ひずみεBを測定した。そして式(a):
で求められる伸び保持率(%)を求め、比較例1における伸び保持率を1としたときの伸び保持率の比を求めて、ポリアミド樹脂に対する劣化防止効果を評価した。結果を図2に示す。
図より、合成炭化水素油、ウレア系増ちょう剤、およびステアリン酸亜鉛を含む潤滑剤組成物に、トリメリット酸エステル、芳香族スルホンアミド、フタル酸エステル、およびヒンダードフェノールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有させることにより、ポリアミド樹脂の脆化を機械部品の表面において阻止することができ、前記機械部品の耐久寿命を延長できることが判った。
Claims (4)
- 合成炭化水素油、ウレア系増ちょう剤、およびステアリン酸亜鉛を含む潤滑剤組成物であって、トリメリット酸エステル、芳香族スルホンアミド、フタル酸エステル、およびヒンダードフェノールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
- 硫黄系酸化防止剤をも含有する請求項1に記載の潤滑剤組成物。
- 少なくとも一方がポリアミド樹脂からなる小歯車と大歯車とを備え、前記両歯車の噛み合い部分を含む領域に、前記請求項1または2に記載の潤滑剤組成物を充填したことを特徴とする減速機。
- 操舵補助用の電動モータの出力を、前記請求項3に記載の減速機を介して、操舵機構に伝えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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