JP2012100647A - 粉末状大豆素材及びこれを利用した食用組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】大豆蛋白質及び大豆食物繊維を含有し、蛋白質含量が無脂固形分重量あたり35〜85重量%であって、蛋白質のLCI値が60以上であることを特徴とする粉末状大豆素材。
【選択図】なし
Description
大豆の貯蔵蛋白質は、pH4.5付近で沈澱し、比較的簡単に貯蔵蛋白質以外の酸可溶性成分が主体の大豆ホエー蛋白質画分と貯蔵蛋白質が主体の酸沈殿性蛋白質画分とに分けることができる。この酸沈殿性蛋白質画分を回収したものが分離大豆蛋白であり、ゲル形成能力に富み、栄養的にもアミノ酸スコアが高く、現在広く食品工業分野で利用されている。
一方で脂質親和性蛋白質の物性については詳しく知られておらず、食品素材としての加工適性に関して、特許文献3では、脂質親和性蛋白質の一つであるオレオシンとリン脂質との複合体を、乳化安定剤として利用する技術が開示されている。ただし、脂質親和性蛋白質はこのように複合体となって脂質を随伴するため酸化されやすく、オフフレーバーの原因とも言われている。そのため食品素材としては風味が悪く使いづらいと考えられており、栄養機能面の利点を実際の利用に活かすには未だほど遠い状態であるのが現状である。
なお、従来のオカラ等の大豆食物繊維が主体の素材では、保水性を有するものの、それ自体で結着してまとまる力が少ないために保形性が弱く、食感もざらつきを感じ、唾液を吸い取られるように感じる場合が多かった。これに対し、本発明は脂質親和性蛋白質と大豆食物繊維との組み合わせによって、適度な結着力による保形性および滑らかな食感と乳化性を合わせ持つ素材を見出したものである。
(1)大豆蛋白質及び大豆食物繊維を含有し、蛋白質含量が無脂固形分重量あたり35〜85重量%であって、蛋白質のLCI値が60以上であることを特徴とする粉末状大豆素材、
(2)大豆食物繊維含量が蛋白質に対して15〜130重量%である、前記(1)記載の粉末状大豆素材、
(3)前記(1)記載の粉末状大豆素材を使用した食用組成物、
(4)粉末状組成物、乳化組成物、焼きもしくは揚げ菓子、練り製品、又は半固形状ないしゲル状組成物である、前記(3)記載の食用組成物、
(5)食用組成物が、蛋白質又は食物繊維を強化したものである、前記(4)記載の食用組成物、
(6)大豆蛋白質及び大豆食物繊維を含有し、蛋白質含量が無脂固形分重量あたり35〜85重量%であって、蛋白質のLCI値が60以上である粉末状大豆素材を食用組成物中に配合することを特徴とする食用組成物の物性改良方法、
(7)物性が分散性、保形性、保水性、乳化安定性、酸化安定性又は食感である前記(6)記載の食用組成物の物性改良方法、である。
本発明について説明するに際し、必要な用語についてまず説明する。
大豆に含まれる蛋白質のうち、7S蛋白質と11S蛋白質は、いずれも大豆のプロテインボディーに貯蔵される主要な貯蔵蛋白質である。
「7S蛋白質」はβ−コングリシニンとも呼ばれ、一般には3種のサブユニット(α’、α、β)から構成される糖蛋白質であるが、何れかのサブユニットが欠損していても良い。これらのサブユニットはランダムに組み合わされ、3量体を形成している。等電点はpH4.8付近で分子量は17万程度である。
一方、「11S蛋白質」はグリシニンとも呼ばれ、酸性サブユニット(AS)と塩基性サブユニット(BS)がジスルフィド結合によって結合し、それらが6分子集まった12量体を形成しており、分子量は36万程度である。以下、それぞれ「7S」、「11S」と略記することがある。
7Sと11Sは、品種によっても異なると考えられるが、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、「SDS−PAGE」と称する。)(図1参照)において泳動後のゲルを染色剤であるクマシーブリリアントブルー(CBB)にて染色した後、デンシトメトリーによってピーク面積を測定した場合、従来の分離大豆蛋白(SPI)などでは大豆蛋白質全体の約70%を占める主要な蛋白質である。そこで以下、7Sと11Sを総称して「MSP」(Major Soy Protein)と称する。
脂質親和性蛋白質(Lipophilic Proteins)は、大豆の酸沈殿性蛋白質の内、7Sと11S以外のマイナーな酸沈殿性蛋白質群をいい、レシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するものである。主に膜成分に含まれる大豆膜蛋白質および膜成分に親和性の高い蛋白質がコロイド状に分散しており、酸性で不溶化する。以下、脂質親和性蛋白質を単に「LP」と略記することがある。
このLP中にはSDS−PAGEによる推定分子量において主に34kDa、24kDa、18kDa、17kDaを示す蛋白質、リポキシゲナーゼ、γ−コングリシニンや、その他多くの雑多な蛋白質が含まれる。このLPはSDS−PAGEでは7Sや11Sに比べて染色されにくい性質を有している。
(粉末状大豆素材)
本発明の粉末状大豆素材は、大豆蛋白質及び大豆食物繊維を含有し、蛋白質含量が無脂固形分重量あたり35〜85重量%であって、蛋白質のLCI値が60以上であることを特徴とするものである。
換言すれば、該大豆素材は酸沈殿性蛋白質の内、7Sや11Sとも異なるLPが特に濃縮された大豆蛋白質と大豆食物繊維が主体となっているものである。これについてより詳細に説明する。
・蛋白質含量
本発明の粉末状大豆素材中の蛋白質含量は、無脂固形分あたり35〜85重量%であることが重要であり、42〜68重量%であるのがより好ましく、45〜65重量%がさらに好ましい。ここで「無脂固形分」とは、全固形分からエーテルで抽出される中性脂質を除いた固形分をいう。該大豆素材中の蛋白質含量が少なすぎると相対的に食物繊維含量が多くなり、食感がざらつきやすやぱさつきが多くなり、乳化安定性も低下する傾向となり、逆に多すぎるとLPに随伴する脂質の量が多くなり、風味が劣化しやすくなり好ましくない。なお、蛋白質含量はケルダール法によって定量した窒素量に、「窒素−蛋白質換算係数」(6.25)を乗じて算出される。
本発明の粉末状大豆素材に含まれる大豆蛋白質の組成は、少なくともLPが通常の分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、脱脂大豆、オカラ等の大豆素材に含まれる大豆蛋白質の組成よりも濃縮されていることが重要である。
LPは酸沈殿性蛋白質の内、7S及び11S以外の雑多な蛋白質が混在したものであるが故に、各々の蛋白質を全て特定することは困難である。また分離大豆蛋白等の大豆素材は最終の製品化工程において一般的には加熱殺菌されるため、7S,11SはLPと共に加熱変性が起こっている。そのため、製品化された分離大豆蛋白等からLPを7Sや11Sから分離し、LP含量を測定することが困難である。また、一般的な蛋白質組成の測定方法であるSDS−PAGEではLPが7Sや11Sに比べてCBB染色がされにくいという性質を有し、染色度によって正確に測定することも困難である。
(a)各蛋白質中の主要な蛋白質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDa蛋白質及びリポキシゲナーゼ(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各蛋白質の染色比率を求める(図1参照)。SDS−PAGEは表1の条件で行うものとする。
(b)数1の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
本発明の粉末状大豆素材における蛋白質あたりのMSP含量は、LPの割合が減るほど、すなわちLCI値が低くなるほど多くなる。該大豆素材中にMSPが多く含まれていると、通常の濃縮大豆蛋白の組成に近づき、ネチャつきや硬い食感などの特徴が表れ、好ましくない。そのため、できるだけ含まれていないことが好ましい。MSP含量はLCI値と逆相関の関係にあるため特に限定は不要であるが、より詳細に示すならば、大豆蛋白質あたり40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
なお、MSP含量について測定する場合は、以下の方法によってSDS−PAGEを用いて測定することとする。
脱脂大豆から水抽出した抽出液に硫酸ナトリウムを1Mの濃度になるように溶解し、さらに10mMになるように還元剤である亜硫酸ナトリウムを加え、pHを塩酸か硫酸で4.5に調整し、不溶物を除いた後、透析してイオン強度を0.03以下にすることによって生じる沈殿物を集めることによって得られた画分を「標準精製MSP」とする。
この標準精製MSPの蛋白質含量をケルダール法によって求め、蛋白質量として5〜15μgをSDS−PAGE用ゲルの各ウェルにアプライし、電気泳動後、CBB染色し(図1参照)、デンシトメーターによって、その染色度をカウントする。そして蛋白質アプライ量と染色度の関係を基に検量線を作成する。同一のスラブゲル上に測定試料をアプライし展開する。測定試料には、MSP以外にLPなどが存在するため、デンシトメトリーにてMSPのバンド(αサブユニット、α’サブユニット、βサブユニット、酸性サブユニット、塩基性サブユニット)の染色度だけを合算し、その染色程度から測定試料に含まれるMSPの含量をMSP検量線から測定する。
本発明の粉末状大豆素材は大豆食物繊維を含むことが必須である。すなわち、LPと大豆食物繊維が共存していることが特徴であり、これらの組合せが大豆素材としての特有の効果を発揮させる。該大豆素材中の大豆食物繊維の含量は、蛋白質に対して下限は通常15重量%以上であり、20重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。また該大豆素材中の大豆食物繊維の含量の上限は蛋白質に対して通常130重量%以下であり、100重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましく、90重量%以下がさらに好ましい。
なお、食物繊維の含量は、「五訂増補日本食品標準成分表」(文部科学省、2005)に準ずるものとし、食物繊維含量は酵素−重量法(プロスキー変法)により測定する。
大豆食物繊維が含まれないか少なすぎ、該大豆素材中の蛋白質含量が85重量%を超えてしまうと、LPが大部分を占める構成となり、LP特有の劣化臭のような風味が顕著となり、分散性や保形性等の物性も低下する傾向となる。逆に大豆食物繊維が多すぎ、蛋白質含量が35重量%未満となると、食感にざらつきやぱさつきが生じやすくなり、乳化安定性等の物性も低下する傾向となる。
食用組成物中の脂質は、エーテル抽出法で抽出される中性脂質と、エーテル抽出法では抽出されず、クロロホルム:メタノール=2:1の混合溶媒で抽出される極性脂質とに分類される。
粉末状大豆素材は中性脂質をできるだけ含まないことが好ましく、中性脂質は通常3重量%以下であるのが好ましい。
一方、極性脂質はLPと随伴する性質を有するため、該大豆素材中に通常5〜15重量%含まれる場合が多い。なお、極性脂質含量はクロロホルム−メタノール抽出法で測定される脂質(中性脂質及び極性脂質)の含量からエーテル抽出法で抽出される脂質(中性脂質)の含量を差し引いた値として算出される。
粉末状大豆素材にはホエー成分である糖質や酸可溶性大豆蛋白質(pH4〜6で酸沈殿しない蛋白質)は実質的に含まないのが好ましい。すなわち、該大豆素材の製造時において、原料からホエー成分が抽出除去されていることが好ましい。該大豆素材にホエー成分が多く含まれると食物繊維の含量が相対的に低下して、乳化性や保水性が悪くなる。
本発明の粉末状大豆素材の調製例を示す。なお、以下の調製例はあくまで例示に過ぎず、本発明の粉末状大豆素材が特定するように、大豆蛋白質と大豆食物繊維を共に含有し、特定の蛋白質含量と特定のLCI値を満たすものであれば特に限定されるものではない。
また大豆としては通常の大豆の他、育種あるいは遺伝子操作によって7S又は/及び11Sの一部もしくは全部を欠損させた大豆を原料に用いることできる。
以上のようにして得られる本発明の粉末状大豆素材は、LPと大豆食物繊維が主体となっていることが特徴である。
該大豆素材は種々の食用組成物に使用することができ、その食用組成物の種々の物性を改良することが可能である。ここで、物性とは食用組成物が有する分散性、保形性、保水性、乳化安定性、酸化安定性、粘性、可塑性、食感などを総称した性質いう。
具体的には、該大豆素材を食用組成物に用いた場合、従来の分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白等の既存の大豆素材に比べて、食感が滑らか、ネチャツキが少ない、口当たりが軽い、喉通りが良い等の利点を有しており、既存の大豆素材を用いた場合に比べ、食感の改良された食用組成物に仕上げることが可能であり、また原料の分散性、食用組成物の保形性や乳化安定性の改善や、風味のコクを向上させることができるなど、既存の大豆素材と比較して食用組成物への適用範囲が広い点に特徴を有する。またそれと共にLPが蛋白質組成の主体であるので、該蛋白質の持つ生理機能を高めた食用組成物、および大豆食物繊維との組合せにより、その特性をより生かした食用組成物が調製可能となる。
また、本発明の粉末状大豆素材は、蛋白質と食物繊維に富むため、生理機能素材としても併用することができる。蛋白質又は食物繊維を強化することによって血中コレステロール低減、糖尿病性腎症予防、血糖上昇抑制、腸内環境改善等の栄養機能の発揮を目的にした、いわゆる機能性食品は、通常よりも蛋白質や繊維が多く含まれ、食用組成物の物性変化が起こりやすい。そのため上述の物性改良効果が発揮されるとより有効に作用するため、本発明の粉末状大豆素材を添加する対象として好ましい。
粉末状組成物としては、例えば、粉末飲料、粉末スープ、粉末ソース、粉末味剤、粉末ピックル剤、ケーキ類・パン類・菓子類・麺類・フライ食品用衣材・惣菜(お好み焼きなど)等の小麦粉ミックス粉等が挙げられる。
粉末状組成物へ本発明の粉末状大豆素材を使用した場合、これを水に分散させると分離大豆蛋白に比べてダマになりにくく、非常に分散性が良好となる。また、油分の高いスープや味剤などに使用した場合は乳化安定性にも優れるため、油染み等が生じにくくなる。さらに、即席ラーメン等の油分の高い味剤においては、味剤中の油分の酸化劣化も抑制することができ、酸化安定性にも寄与する。またフライ食品用衣材へ使用した場合、フライ食品にサクサク感を付与し、フライ後の油染みを抑制することができる。
乳化組成物としては、例えば、マヨネーズ、ホイップクリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、チーズ類、ソース類等のO/W乳化組成物又はW/O乳化組成物が挙げられる。
油分が比較的多く含まれる乳化組成物へ本発明の粉末状大豆素材を使用した場合、通常の濃縮大豆蛋白やおからなどを添加するよりも乳化性、保形性、粘性等に優れ、ネチャつきがなく滑らかでざらつかない等の食感改良効果を発揮する。該乳化組成物は、調理パン等のフィリングやトッピングとして利用した場合に加熱調理した際にも軟化してダレてしまったり、油分の分離が生じたりことが起こりにくく、耐熱保形性にも優れるものである。また野菜サラダ等に該乳化組成物をドレッシングとしてかけた場合にも水分の上昇によって乳化物がだれることを防止することができる。また、本発明の粉末状大豆素材はそれ自体にネチャツキやざらつきが少ないことから、乳化組成物の粘度調整剤としても利用することができる。
焼きもしくは揚げ菓子としては、例えば、ケーキ、クッキー、栄養バー、ビスケット、せんべい、かりんとう、あられ、スナック菓子、ドーナツ等が挙げられ、食感が良く食物繊維やLPの含有量が多く、低カロリーの物が得られる。非限定的には20重量%以上、好ましくは25重量%以上の食物繊維と、LCI値が60以上を示す大豆タンパク質を10重量%以上、好ましくは15重量%以上含有するもので、エネルギーが100g当たり500kcal以下、好ましくは400kcal以下のものが得られる。
本発明の粉末状大豆素材に、小麦ふすま、ポテト繊維、難消化デキストリン、ポリデキストロース、イヌリンなどの食物繊維素材を組み合わせて配合し、これらを他の原料と共に混合して水と練り上げ、成型し、焼成する。これにより、乾燥固形分中50〜95重量%を粉末状大豆素材と食物繊維素材が占める、口当たりの良い焼き菓子を調製することができる。また、摂取時の血糖上昇や脂肪蓄積を抑制させたい場合には、糖を無添加とする、あるいは糖アルコールなどに代え、また油脂も中鎖脂肪酸等に代えることができる。
LPは蛋白質が脂質と会合している部分があり、7Sや11Sなどの貯蔵蛋白質に比べてプロテアーゼによる低分子化を受けにくいので消化が遅く腹持ちが良くなると考えられ、空腹感を抑制することでカロリーを抑えたダイエット補助食としても利用することができる。
練り製品としては、例えば、ソーセージ、ハンバーグ、つくね、がんもどき、油揚げ、かまぼこ、ちくわ等が挙げられる。
練り製品へ本発明の粉末状大豆素材を粉体として添加した場合には、生地への良好な分散性を示すので、ダマの形成が防止される。また、練り製品にゴム的でない、歯切れ及び喉通りが良い食感を付与することができる。またこれらの練り製品に対してレトルト加熱等の比較的厳しい熱ショックを与えても物性が変化しにくく、レトルト耐性が強い。
半固形状ないしゲル状組成物としては、例えば、プリン、ゼリー、濃厚流動食、ヨーグルト状の大豆発酵食品等が挙げられる。
半固形状ないしゲル状組成物へ本発明の粉末状大豆素材を使用した場合、従来の7Sや11Sのようなたわみのある強固なゲルとは異なり、軟弱なゲル状あるいは粘性の高い半固形状の物性となり、クリーミーで滑らかな食感を付与することができる。特に大豆発酵食品へ使用した場合、大豆由来の青臭み等も殆ど感じず良好な風味を実現できる。ヨーグルト状の大豆発酵食品において使用する蛋白質源としては、本発明の粉末状大豆素材を単独で使用しても良いし、豆乳や大豆粉の懸濁液を併用し、適宜所望の物性に調整することも可能である。
本発明の粉末状大豆素材は、上述のように様々な食用組成物に物性改良効果を付与できることに加え、食用組成物が本来備える風味や物性を損ねにくい生理機能素材としても利用することができる。
該大豆素材は蛋白質と食物繊維に富み、さらには極性脂質としてリン脂質にも富むので、これらの成分を栄養的に強化するために用いることができる。特に該大豆素材中の主要な蛋白質であるLPは、大豆蛋白質の中で最もコレステロールの低減効果や糖尿病性腎症予防効果が認められる成分である。LPの摂取によってLPが胆汁酸と結合し、その排泄量が増えることから、アミノ酸源が腸まで届く可能性を考え合わせると、腸内の有用な有機酸を生産する腸内細菌にとって栄養源となる糖質や蛋白質を腸に届けることができると考えられる。さらに大豆食物繊維には、血糖上昇をゆるやかにする効果や腸内フローラを改善する効果、さらには抗酸化効果があると言われており、現代人の摂取量が少ないといわれる食物繊維を補うことおよびアンチエージングを目的にも使用ができる素材である。したがって血糖上昇抑制、腎臓保護、脂質代謝改善、整腸作用、ダイエットにも有効であると考えられ、生活習慣病予防のための食品素材として極めて利用価値が高いものである。
したがって、粉末状大豆素材は、食用組成物の物性改良に利用されるのみでなく、これを食用組成物本来の物性を阻害しにくい蛋白質の強化素材や食物繊維の強化素材として利用し、これらの成分が強化された栄養的価値の高い食用組成物を製造することができる。またさらにはこれらの成分の強化により、血糖上昇抑制作用、腎臓保護作用、脂質代謝改善作用、整腸作用等の生理機能を発揮する機能性食品を製造することができる。機能性食品の種類は特に問わず、上記の(1−1)〜(1−5)の各種食用組成物が例示される。ここで食用組成物において蛋白質や食物繊維を強化したというためには、少なくともこれらの成分が組成物中3重量%以上含まれることが好ましく、5重量%以上がより好ましい。
実施例及び比較例で用いる大豆素材A〜Eは、以下の通り調製したもの又は市販品を用いた。
特許文献1の実施例5と同様の製法で、加工脱脂大豆を調製した。すなわち、密閉容器に充填した低変性脱脂大豆(PDI83、水分7.0%)1kgを相対湿度90%以上の雰囲気下で脱脂大豆の品温が85℃になるように湿熱加熱処理を行い、60分間維持した。容器から処理後の脱脂大豆を取り出し、加工脱脂大豆とした。この加工脱脂大豆のPDIは66であった。
得られた加工脱脂大豆に水を15重量倍加え、pH7.0に調整し、25℃にて撹拌抽出を行った。得られた脱脂大豆スラリー(pH6.4)を遠心分離によって可溶性画分と不溶性画分とに分離した。この不溶性画分を回収し、不溶性画分の重量の3倍量の水を加えて加熱殺菌後、スプレードライヤーにて乾燥粉末化して大豆素材Aとした。
市販の濃縮大豆蛋白「アーコンS」(ADM社製)を用いた。
特許文献1の実施例5と同様の製法で、加工脱脂大豆を調製した。すなわち、密閉容器に充填した低変性脱脂大豆(PDI83、水分7.0%)1kgを相対湿度90%以上の雰囲気下で脱脂大豆の品温が85℃になるように湿熱加熱処理を行い、60分間維持した。容器から処理後の脱脂大豆を取り出し、加工脱脂大豆とした。この加工脱脂大豆のPDIは66であった。
得られた加工脱脂大豆に水を15重量倍加え、pH6.0に調整し、25℃にて撹拌抽出を行った。得られた脱脂大豆スラリー(pH6.0)を遠心分離によって可溶性画分と不溶性画分とに分離した。この不溶性画分を回収し、不溶性画分の重量の3倍量の水を加えて加熱殺菌後、スプレードライヤーにて乾燥粉末化して大豆素材Cとした。
市販の乾燥オカラ粉末「PF−20」((株)転生製)を用いた。
不二製油(株)製の乾燥オカラ粉末を用いた。
本発明の粉末状組成物の例として、粉末飲料を調製した。
本発明の大豆素材A(蛋白質含量45%、LCI値70)を牛乳の中に混ぜてスプーンでかき混ぜた。分散が良く、ママ粉などの固い不溶な粉の塊はみられなかった。またオカラを含んでいるにもかかわらず、ざらつきが少なく滑らかな食感であった。
大豆素材Aの代わりに大豆素材B(蛋白質含量70%、LCI値48)を用い、実施例1と同様に牛乳に混ぜてスプーンでかき混ぜた。分散が悪く、固いママコが生じた。
大豆素材Aの代わりに大豆素材D(蛋白質含量25%、LCI値54)を用い、実施例1と同様に牛乳に混ぜてスプーンでかき混ぜた。分散は良かったが、ほとんどが沈み、溶解はせず、ひどくざらつきを感じた。
本発明の粉末状組成物の別の例として、粉末状味剤を調製した。
本発明の大豆素材C(蛋白質含量60%、LCI値66)6部を、固形分20%で、その内に油を50%含むラーメンの味剤100部に加え、加熱混合して得た乳化物をスプレードライし、粉末状味剤を調製した。粉末として得られたものは油染みも少なく乳化安定性が高く、水に加えると程よく分散し、味も自然なものに感じられた。
大豆素材Cの代わりに大豆素材B(蛋白質含量70%、LCI値48)を用い、実施例2と同様の配合と処理方法にて調製した粉末状味剤は、油染みはないものの、水への分散が悪く、味もやや変化していた。
大豆素材Cの代わりに大豆素材D(蛋白質含量25%、LCI値54)を用い、実施例2と同様の配合と処理方法にて粉末状味剤の調製を試みたが、原料を加熱混合しても乳化せず、噴霧が不可能であった。
実施例2,比較例3,4の各味剤の評価を以下に示す。
本発明の粉末状組成物の別の例として、フライ食品用衣材を調製した。
本発明の大豆素材A(蛋白質含量45%、LCI値70)を10部、薄力粉を90部を混合してフライ食品用衣材を調製した。これを水に溶いて粘度が1600mPa・s程度にしたものを油であげ、揚げたまとして食感を確認した。ほどよいサクサク感が感じられた。
大豆素材Aの代わりに大豆素材B(蛋白質含量70%、LCI値48)を用い、実施例3と同じ配合でフライ食品用衣材を調製し、同様に評価したところ、実施例3に比べるとサクサク感が少なく、表面の硬さを感じた。
大豆素材Aの代わりに大豆素材D(蛋白質含量25%、LCI値54)を用い、実施例3と同じ配合でフライ食品用衣材を調製し、同様に評価したところ、サクサク感は感じられたが崩れやすく、好ましくなかった。
本発明の乳化組成物の例として、マヨネーズを調製した。
本発明の大豆素材C(蛋白質含量60%、LCI値66)4部、水41部、大豆油50部、食酢5部をフードカッターに加えて5分撹拌してO/W乳化し、マヨネーズを調製した。該マヨネーズは滑らかで口の中で違和感なく溶けた。また、保形性を有し、加熱しても油が分離することなく、乳化安定性にも優れていた。
大豆素材Cの代わりに大豆素材B(蛋白質含量70%、LCI値48)を用い、実施例4と同様の配合と処理方法にて調製したマヨネーズの食感は、ややネチャつきがあり、重たい食感であった。保形性は無く、油分離が多かった。加熱するとやや凝集が起こり油の分離が進んだ。
大豆素材Cの代わりに大豆素材D(蛋白質含量25%、LCI値54)を用い、実施例4と同様の配合と処理方法にてマヨネーズの調製を試みたが、原料が乳化せず、油が分離していた。
実施例4、比較例7,8で調製した各マヨネーズの乳化の状態を表4に示す。
本発明の焼き菓子の第一例として、バウンドケーキを調製した。
本発明の大豆素材A(蛋白質含量45%、LCI値70)20部にマーガリン20部、砂糖20部、卵白24部を混合し、焼成してバウンドケーキを得た。
大豆素材Aを配合せず、小麦粉20部にマーガリン20部、砂糖20部、卵白24部を混合し、焼成してバウンドケーキを得た。
大豆素材Aの代わりに大豆素材B(蛋白質含量70%、LCI値48)20部にマーガリン20部、砂糖20部、卵白24部を混合し、焼成してバウンドケーキを得た。
大豆素材Aの代わりに大豆素材D(蛋白質含量25%、LCI値54)20部にマーガリン20部、砂糖20部、卵白24部を混合し、焼成してバウンドケーキを得た。
本発明の焼き菓子の第二例として、せんべいを調製した。
本発明の大豆素材A(蛋白質含量45%、LCI値70)20部、マーガリン20部、砂糖15部を混合し、水を15部加えて混練りして生地を調製した。これを熱い鉄板で挟み、加熱してせんべいを調製した。
大豆素材Aの代わりに大豆素材E(蛋白質含量40%、LCI値52)を用い、実施例6と同じ配合と調製方法でせんべいを調製した。
大豆素材Aの代わりに大豆素材D(蛋白質含量25%、LCI値54)を用い、実施例6と同じ配合と調製方法でせんべいを調製した。
本発明の練り製品の例として、レトルトソーセージを調製した。
本発明の大豆素材A(蛋白質含量45%、LCI値70)100部に水400部、豚脂100部をニーダーに入れて混合し、充分に均一な生地にした後、でんぷん30部と香辛料などを含む味剤20部とを添加混合し、ケーシングに充填しレトルト加熱し、レトルトソーセージを得た。その食用組成物は、ほどよいソーセージ様の滑らかな喉通りの良い食感を呈した。
大豆素材Aの代わりに大豆素材B(蛋白質含量70%、LCI値48)を用い、実施例7と同様の配合と処理方法にて調製したレトルトソーセージは、ややぱさつきがあり、なめらかでなく、喉通りの良くない食感をしていた。
パネラー10名による官能評価で好ましい点数を10点満点で採点した。(×10点満点、普通が5点、悪いが0点で点数をつけ、)各調製品の官能評価項目で得られた点数の平均点を表7に示した。
本発明の半固形状ないしゲル状組成物の例として、ヨーグルト状の大豆発酵食品を調製した。
表8の配合の通り、水を60℃に加熱し、撹拌しながら大豆素材A(蛋白質含量45%、LCI値70)と乳酸菌以外の原材料を添加し、溶解後に高圧ホモゲナイザーを用いて圧力15MPaにて均質化した。その後90℃まで加熱後、43℃まで冷却した。次に、乳酸菌を添加し、カップに充填して蓋で密封し、43℃の恒温槽にてpHが4.5に低下するまでおよそ5時間発酵させ、その後10℃以下に冷却し、ヨーグルト状の大豆発酵食品を得た。
表8の通り、大豆素材Aの代わりに無調整豆乳(固形分9重量%、蛋白質含量4.5重量%、LCI値38)を配合する以外は実施例8と同様にしてヨーグルト状の大豆発酵食品を得た。
本発明の焼き菓子の第三例として、スナック風菓子を調製した。
グラニュー糖10部にパーム油5部を混合し、大豆素材Aを25部、小麦ふすまを15部加えて混ぜ、水70部を加えて混練し、焼き菓子の生地を得た。生地を薄く延ばして成型し、160〜170℃で30分焼成したところ、サクサクとしたスナック風の焼き菓子が得られた。本焼き菓子は大豆素材A由来の蛋白質が21%、総食物繊維が31%含まれ、エネルギーが100gあたり400kcalである、高蛋白質・高食物繊維・低カロリーの焼き菓子であった。
本発明の焼き菓子の第四例として、栄養バーを調製した。
マーガリン50部に、グラニュー糖30部、食塩0.2部、ガナッシュ27部を順次混合していき、次に大豆素材A63部、難消化性デキストリン33部、ココアパウダー1.5部、加工デンプン24部を予め混合したものを加え、レーズン45部、オレンジピール12部、乾燥パイン12部、スライスアーモンド12部をさらに加え、最後に全卵45部を加え、良く混合して生地を調製した。
得られた生地を10cm×20cm×70cmの形状に成形し、170℃で22分焼成して栄養バーを得た。本焼き菓子は1本当たり76kcalで、蛋白質を約3%、食物繊維を約4%含むものであった。
このような特徴を利用して、例えば流動性を有する食用組成物において粘度調整の効果はもちろん、液だれしやすい物を液だれしにくくする効果や、原料を混合した生地の成型性向上効果や、食用組成物の製品形態を崩れにくくする保形性向上効果や、油染みを抑える乳化安定化効果や、油脂の劣化を防止する酸化安定化効果を発揮することができる。
また、本発明の粉末状大豆素材は、酸性条件下や、マグネシウムやカルシウムなどの蛋白質と相互作用しやすい2価金属イオン存在下においても、上記の食用組成物の物性改良効果が悪影響を受けにくいことも特長であり、栄養的に蛋白質と共にミネラルを強化した食用組成物を容易に製造することができる。
したがって、さまざまな目的で食用組成物に利用することができ非常に汎用性に優れたものである。
さらに、本発明の粉末状大豆素材自身がLPと食物繊維に富むため、生理機能が優れており、コレステロール低減作用、胆汁酸排泄作用、腎症予防作用、ダイエット作用、食物繊維による整腸作用、腸内フローラの改善作用などの目的でさまざまな食用組成物に利用することができる。
Claims (7)
- 大豆蛋白質及び大豆食物繊維を含有し、蛋白質含量が無脂固形分重量あたり35〜85重量%であって、蛋白質のLCI値が60以上であることを特徴とする粉末状大豆素材。
- 大豆食物繊維含量が蛋白質に対して15〜130重量%である、請求項1記載の粉末状大豆素材。
- 請求項1記載の粉末状大豆素材を使用した食用組成物。
- 粉末状組成物、乳化組成物、焼きもしくは揚げ菓子、練り製品、又は半固形状ないしゲル状組成物である、請求項3記載の食用組成物。
- 食用組成物が、蛋白質又は食物繊維を強化したものである、請求項4記載の食用組成物。
- 大豆蛋白質及び大豆食物繊維を含有し、蛋白質含量が無脂固形分重量あたり35〜85重量%であって、蛋白質のLCI値が60以上である粉末状大豆素材を食用組成物中に配合することを特徴とする食用組成物の物性改良方法。
- 物性が分散性、保形性、保水性、乳化安定性、酸化安定性又は食感である請求項6記載の食用組成物の物性改良方法。
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