JP2012097303A - 硬質皮膜形成部材および硬質皮膜の形成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基材1上に硬質皮膜4を備えた硬質皮膜形成部材10であって、硬質皮膜4は、組成がTiaCrbAlcSidYe(BuCvNw)(ただし、a、b、c、d、e、u、v、wは所定量の原子比)を満足するA層2と、組成がTifCrgAlh(BxCyNz)(ただし、f、g、h、x、y、zは所定量の原子比)を満足するB層3とを備え、A層2とB層3が交互に積層され、前記A層と前記B層の1組の積層構造を1単位としたときに、この1単位の厚さが、10〜50nmであり、かつ硬質皮膜4の膜厚が1〜5μmであることを特徴とする。
【選択図】図1
Description
これらのような構成によれば、皮膜の耐摩耗性がさらに向上する。
本発明に係る硬質皮膜の形成方法によれは、硬度が高く、耐摩耗性に優れた硬質皮膜を基材上に形成することができる。
図1に示すように、本発明に係る硬質皮膜形成部材10は、基材1上に硬質皮膜(以下、適宜、皮膜という)4を備えたものである。この皮膜4は、所定の元素を所定量含有するA層2と、所定の元素を所定量含有するB層3とを備える。そして、A層2とB層3が交互に積層され、A層2とB層3の1組の積層構造を1単位としたときに、この1単位の厚さ(積層周期)が10〜50nmであり、かつ皮膜4の膜厚が1〜5μmとして構成したものである。本実施形態では、基材1上に最初にB層3が形成され、このB層3の上にA層2が形成されて、複数の単位を形成している。また、硬質皮膜4のB層3と基材1との間に下地層(図示省略)を備えていてもよい。なお、「基材1上」とは、基材1の片面や両面、あるいは表面全体等をいい、工具の種類に応じて被覆されている部位は異なる。
以下、具体的に説明する。
基材1としては、超硬合金、金属炭化物を有する鉄基合金、サーメット、高速度工具鋼等が挙げられる。しかし、基材1としては、これらに限定されるものではなく、チップ、ドリル、エンドミル等の切削工具や、プレス、鍛造金型、成型用金型、打ち抜きパンチ等の治工具等の部材に適用できるものであれば、どのようなものでもよい。
A層2は、組成がTiaCrbAlcSidYe(BuCvNw)からなり、前記a、b、c、d、e、u、v、wが原子比であるときに、「0.05≦a」(金属元素中、以下同じ)、「0.05≦b」、「0.2≦a+b≦0.55」、「0.4≦c≦0.7」、「0.02≦d≦0.2」、「0≦e≦0.1」、「0≦u≦0.1」、「0≦v≦0.3」、「a+b+c+d+e=1」、「u+v+w=1」を満足する層である。このA層2は、高耐酸化性、高硬度であり、耐摩耗性に優れる皮膜である。
[Cr:b(0.05≦b、0.2≦a+b≦0.55、a+b+c+d+e=1)]
TiおよびCrは、A層2の結晶構造を高硬度相に保つために、添加する元素である。この効果を発揮するには、TiとCrを合計で、原子比で0.2以上添加する必要がある。一方、Al、Si、Yの添加量を確保するために、TiとCrの合計が0.55以下である必要がある。また、異なる格子定数の窒化物(例えば、TiN:0.424nm、CrN:0.414nm、AlN:0.412nm)を組合せると硬さが上昇するが、この効果を発揮させるには、Ti量およびCr量は、原子比で各々0.05以上であることが必要である。したがって、Tiの原子比a、および、Crの原子比bは、0.05≦a、0.05≦b、かつ、0.2≦a+b≦0.55とする。より好適な範囲は、0.2≦a+b≦0.5である。
Alは、A層2の耐酸化性を向上させる元素である。A層2に高い耐酸化性を付与するためには、Alを原子比で0.4以上添加する必要がある。一方、0.7を超えると、A層2が軟質化し、耐摩耗性が低下する。したがって、Alの原子比cは、0.4≦c≦0.7とする。より好適な範囲は、0.45≦c≦0.6である。
Siは、A層2の耐酸化性を向上させる元素である。A層2に高い耐酸化性を付与するためには、Siを原子比で0.02以上添加する必要がある。一方、0.2を超えると、A層2が軟質化し、耐摩耗性が低下する。したがって、Siの原子比dは、0.02≦d≦0.2とする。より好適な範囲は、0.05≦d≦0.15である。
Yは、耐酸化性を更に高める場合に添加する元素である。ただし、原子比で0.1を超えるとA層2が軟質化し、耐摩耗性が低下する。したがって、Yの原子比eは、0≦e≦0.1とする。より好適な範囲は、0.02≦e≦0.05である。
BおよびCは、添加によりA層2を高硬度化させることができる。ただし、Bが原子比で0.1を超えると、A層2が非晶質化し、硬さが低下する。また、Cが原子比で0.3を超えると、A層2中に遊離Cが生じA層2が軟質化し、かつ耐酸化性が低下する。したがって、B、Cは、原子比で、各々0.1、0.3以下添加しても良い。Nは、金属元素と結合して、本発明における皮膜4の骨格をなす窒化物を形成する役割を果たすことから0.6以上は必要である。
B層3は、組成がTifCrgAlh(BxCyNz)からなり、前記f、g、h、x、y、zが原子比であるときに、「0≦f」、「0.05≦g」、「0.25≦f+g≦0.6」、「0.4≦h≦0.75」、「0≦x≦0.1」、「0≦y≦0.3」、「f+g+h=1」、「x+y+z=1」を満足する層である。このB層3は、高靭性であり、かつ耐酸化性に優れる皮膜である。
Tiは、B層3の靱性を確保するために、Crとともに添加する元素である。この効果を発揮するには、TiとCrを合計で、原子比で0.25以上添加する必要がある。一方、合計で0.6を超えると相対的にAlが少なくなり耐酸化性が低下する。したがって、0.25≦f+g≦0.6とする。より好適な範囲は、0.3≦f+g≦0.5である。なお、B層3は、A層2ほど高硬度化させる必要が無いことから、Tiは0であっても良い。Tiを添加せずにCrのみを添加した場合、すなわちB層がCrgAlh(BxCyNz)の場合、Tiを含む場合と比べて硬さは変わらないが、CrはTiに比べて耐酸化性が良いことから、ドライの高速切削では耐摩耗性が向上する。
Crは、B層3の耐酸化性および靱性を確保するために添加する元素である。耐酸化性確保の効果を発揮するには、原子比で0.05以上添加する必要がある。また、靱性確保の効果を発揮するには、TiとCrを合計で、原子比で0.25以上添加する必要がある。一方、合計で0.6を超えると相対的にAlが少なくなり耐酸化性が低下する。したがって、Crの原子比gは、0.05≦g、かつ、0.25≦f+g≦0.6とする。より好適な範囲は、0.3≦f+g≦0.5である。
B層3に関しても一定の耐酸化性を付与するために、Alを原子比で0.4以上添加することが必要である。一方、0.75を超えると、B層3が軟質化し、耐摩耗性が低下する。したがって、Alの原子比hは、0.4≦h≦0.75とする。より好適な範囲は、0.5≦h≦0.7である。
BおよびCは、添加によりB層3を高硬度化させることができる。ただし、Bが原子比で0.1を超えると、B層3が非晶質化し、硬さが低下する。また、Cが原子比で0.3を超えると、B層3中に遊離Cが生じB層3が軟質化し、かつ耐酸化性が低下する。したがって、B、Cは、原子比で、各々0.1、0.3以下添加しても良い。Nは、金属元素と結合して、本発明における皮膜4の骨格をなす窒化物を形成する役割を果たすことから0.6以上は必要である。
[1単位の厚さ:10〜50nm]
1層のA層2と、1層のB層3の積層構造である1単位の厚さ(すなわち積層周期)が10〜50nmであるときに、皮膜4の硬さが大きくなり耐摩耗性が向上する。前記のとおり、A層2およびB層3の組成を規定した場合であっても、1単位の厚さが10nm未満、または、50nmを超えると、皮膜4の耐摩耗性が向上しない。したがって、1単位の厚さは、10〜50nmとする。より好ましくは、20〜40nmである。なお、1単位(積層周期)とは、例えばA層2と、このA層2の上に密着して形成されたB層3との1組の他、このA層2の下に密着して形成されたB層3との1組のこともいう。したがって、A層2の上下のいずれのB層3との組み合わせでも、1単位の厚さは10〜50nmとする。
皮膜4の膜厚(すなわち、総膜厚)については、1μm未満では耐摩耗性の向上効果が小さい。一方、5μmを超えると、PVD(Physical Vapor Deposition(物理気相成長または物理蒸着))法で成膜された皮膜特有の残留圧縮応力により、基材1から皮膜4が剥離する。したがって、皮膜4の膜厚は、1〜5μmとする。
A層2とB層3の膜厚比は、ほぼ1:1を目安とするが、1:5〜5:1程度まで変化しても硬度や耐摩耗性等の性能にほとんど変化は無い。ただし、1:5〜5:1の範囲を超えると、性能が低下しやすくなる。したがって、A層2とB層3の膜厚比は、1:5〜5:1が好ましい。さらに好ましくは、1:3〜3:1である。また、ここでは、基材1上の第一層、すなわち、基材1に接着する層はB層3とし、B層3の上にA層2が積層されたものとしているが、A層とB層との積層の順番は特に規定されるものではない。しかしながら、基材1上の第一層は、靱性ならびに密着性に優れるB層3である方が好ましい。なお、A層2とB層3の数は、同じであっても異なっていてもよい。
硬質皮膜形成部材10は、硬質皮膜4をθ−2θ法のX線回折にて測定したときの(200)面からの回折線の積分強度I(200)が、(111)面からの回折線の積分強度I(111)の2倍以上(すなわち、I(111)×2≦I(200))であることが好ましい。また、硬質皮膜形成部材10は、硬質皮膜4をθ−2θ法のX線回折にて測定したときの(200)面からの回折線の半値幅(FWHM:Full Width Half Maximum)が0.7°以上であることが好ましい。
回折線の強度比、すなわち優先配向は成膜時に基材1に印加するバイアス電圧に依存する。バイアス電圧が増加するに伴い、(200)配向が優勢となるが、特に耐摩耗性は(200)面が優れる。そして、その指標となる強度比でその関係が(111)の強度の2倍以上になるときに、耐摩耗性が向上する。より好適には3倍以上である。
基材1に印加するバイアス電圧の値により、配向だけではなく皮膜4の結晶状態も変化する。具体的には皮膜4の結晶粒径が変化し、その指標として、より強く観察される(200)面回折線の半値幅を使用することが出来る。回折線の半値幅が0.7°以上で耐摩耗性がより向上する。より好適には0.9°以上である。回折線の半値幅は、バイアス電圧が−130V以下の値の領域で増加する傾向があるが、その増加は2°付近で飽和する。
使用装置:理学電気製RINT−ULTIMA PC、測定方法:θ−2θ、X線源:Cukα(グラファイトモノクロメータ使用)、励起電圧−電流:40kV−40mA、発散スリット:1°、発散縦制限スリット:10.00mm、散乱スリット:1°、受光スリット:0.15mm、モノクロ受光スリット:なし
本発明に係る硬質皮膜の形成方法は、硬質皮膜形成部材を作製するための硬質皮膜の形成方法であって、硬質皮膜をアークイオンプレーティング法またはスパッタリング法で形成するものである。
図3に示すように、複合成膜装置100は、真空排気する排気口11と、成膜ガスおよび希ガスを供給するガス供給口12とを有するチャンバー13と、アーク式蒸発源14に接続されたアーク電源15と、スパッタ蒸発源16に接続されたスパッタ電源17と、成膜対象である被処理体(図示省略)を支持する基材ステージ18上の支持台19と、この支持台19と前記チャンバー13との間で支持台19を通して被処理体に負のバイアス電圧を印加するバイアス電源20とを備えている。また、その他、ヒータ21、放電用直流電源22、フィラメント加熱用交流電源23等を備えている。
なお、アーク式蒸発源14を用いることにより、アークイオンプレーティング(AIP)蒸発、スパッタ蒸発源16を用いることにより、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング(UBM)蒸発を行うことができる。
本実施例においては、図3に示す複合成膜装置を用いて、皮膜を形成した。
[第1実施例]
第1実施例では、成膜時のバイアス電圧を−150Vに固定し、積層構造の1単位の厚さ(積層周期)が30nmとなるように、各々組成の異なるA層、B層を形成し、硬さや切削性能に及ぼす皮膜組成の影響について検討した。
<皮膜組成>
A層およびB層中の金属元素の成分組成を、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により測定した。
皮膜の硬さは、超硬エンドミルにおける皮膜のビッカース硬さを、マイクロビッカース硬度計において、荷重20mN、保持時間15秒の条件で調べることにより評価した。硬さが25GPa以上のものを良好、25GPa未満のものを不良とした。
耐摩耗性は、以下の条件にて切削試験を実施し、一定距離経過後の境界部摩耗量(フランク摩耗量(摩耗幅))を測定することにより評価した。摩耗量(摩耗幅)が200μm未満のものを耐摩耗性が良好、200μmを超えるものを耐摩耗性が不良とした。
被削材:SKD61(HRC57)
切削速度:400m/分
深さ切込み:5mm
径方向切込み:0.6mm
送り:0.06mm/刃
評価条件:100m切削後のフランク摩耗(境界部)
これらの結果を表1、2に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは、各層の組成に下線を引いて示す。ただし、必須の成分を含有しないものについては、下線で示していない。
一方、No.27〜49は、本発明の範囲を満足していないため、硬さ、耐摩耗性が不良であった。なお、No.50は、切削中に皮膜が基材から剥離した。具体的には、以下のとおりである。
第2実施例では、皮膜組成を一定とし、サンプルごとに1単位の厚さの異なる皮膜を形成し、硬さや切削性能に及ぼす1単位の厚さの影響について検討した。
皮膜の形成は、第1実施例と同様の方法で行った(厚さ以外の条件は第1実施例と同様である)。この際、サンプルごとに1単位の厚さを変化させた。
これらの結果を表3に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは、数値に下線を引いて示す。
第3実施例では、皮膜組成および1単位の厚さを一定とし、皮膜形成時のバイアス電圧を変化させ、硬さや切削性能に及ぼす、X線回折による皮膜の優先配向および回折線の半値幅の影響について検討した。
皮膜の形成は、第1実施例と同様の方法で行った。この際、サンプルごとにバイアス電圧を変化させた。なお、1単位の厚さは30nm、A層とB層の厚さの比率は1:1、総膜厚は3μmとした。
X線回折の条件を以下に示す。
[X線回折装置]
使用装置:理学電気製RINT−ULTIMA PC
測定方法:θ−2θ
X線源:Cukα(グラファイトモノクロメータ使用)
励起電圧−電流:40kV−40mA
発散スリット:1°
発散縦制限スリット:10.00mm
散乱スリット:1°
受光スリット:0.15mm
モノクロ受光スリット:なし
これらの結果を表4に示す。なお、表中、本発明の好ましい範囲を満たさないものは、数値に下線を引いて示す。
一方、No.59、60は、硬さ、耐摩耗性の向上効果は良好であったものの、バイアス電圧が本発明の好ましい上限値である−130Vを超えるため、No.61〜63に比べるとやや劣った。
2 A層
3 B層
4 硬質皮膜
10 硬質皮膜形成部材
Claims (5)
- 基材上に硬質皮膜を備えた硬質皮膜形成部材であって、
前記硬質皮膜は、組成がTiaCrbAlcSidYe(BuCvNw)からなり、前記a、b、c、d、e、u、v、wが原子比であるときに、
0.05≦a
0.05≦b
0.2≦a+b≦0.55
0.4≦c≦0.7
0.02≦d≦0.2
0≦e≦0.1
0≦u≦0.1
0≦v≦0.3
a+b+c+d+e=1
u+v+w=1
を満足するA層と、
組成がTifCrgAlh(BxCyNz)からなり、前記f、g、h、x、y、zが原子比であるときに、
0≦f
0.05≦g
0.25≦f+g≦0.6
0.4≦h≦0.75
0≦x≦0.1
0≦y≦0.3
f+g+h=1
x+y+z=1
を満足するB層とを備え、
前記A層と前記B層が交互に積層され、前記A層と前記B層の1組の積層構造を1単位としたときに、この1単位の厚さが10〜50nmであり、
かつ前記硬質皮膜の膜厚が1〜5μmであることを特徴とする硬質皮膜形成部材。 - 前記硬質皮膜をθ−2θ法のX線回折にて測定したときの(200)面からの回折線の積分強度I(200)が、(111)面からの回折線の積分強度I(111)の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の硬質皮膜形成部材。
- 前記硬質皮膜をθ−2θ法のX線回折にて測定したときの(200)面からの回折線の半値幅が0.7°以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の硬質皮膜形成部材。
- 請求項1に記載の硬質皮膜形成部材を作製するための硬質皮膜の形成方法であって、前記硬質皮膜をアークイオンプレーティング法またはスパッタリング法で形成することを特徴とする硬質皮膜の形成方法。
- 請求項2または請求項3に記載の硬質皮膜形成部材を作製するための硬質皮膜の形成方法であって、前記硬質皮膜をアークイオンプレーティング法またはスパッタリング法で形成するときに、前記基材に印加するバイアス電圧を絶対値が130V以上の負の電圧とすることを特徴とする硬質皮膜の形成方法。
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