図1は、本発明の一実施形態である記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、
搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端に液体吐出ヘッド本体13を有している。液体吐出ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている(図3参照)。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、液体吐出ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成する液体吐出ヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成する液体吐出ヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示された液体吐出ヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、液体吐出ヘッド本体13の一部である。図4は
、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5(a)は図3のV−V線に沿った縦断面図であり、図5(b)は図5(a)と直交する方向の部分縦断面図であり、主要部分を拡大した図である。図6(a)は、図5に示した液体吐出ヘッド本体13の個別電極35の拡大平面図である。
液体吐出ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、アクチュエータユニットである圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接して液体吐出ヘッド本体13の長手方向に延在している。
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホー
ルド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。すなわち、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。これらの液体吐出孔群7は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。液体吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
液体吐出ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。液体吐出ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜30に形成されている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21全体の厚さは40μm程度であり、100μm以下であることにより、変位量を大きくすることができる。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、液体加圧室10と対向する領域外に引き出されて引出電極35bになっており、引出電極35bの上には接続電極36が形成されている。接続電極36は例えばガラスフリットを含む金からなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。
詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100から外部配線60であるFPC(Flexible Printed Circuit)を通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。外部配線60との接続は、例えば、次のように行なう。個別電極35上の接続電極36に、さらにバンプ46を形成し、バンプ46が外部配線60のカバーフィルム60cを突き破って配線60bと接触することで電気的に接続され、カバーフィルム60cで挟まれていることにより、保持される。
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と
同様に、外部配線60内の別の電極と接続されている。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
平面視したとき、個別電極35は液体加圧室10と重なるように配置されており、液体加圧室10の中央に位置している部位の、個別電極35と共通電極24とに挟まれている圧電セラミック層21bは、圧電アクチュエータユニット21の積層方向に分極されている中央領域55である。分極の向きは上下どちらに向かっていてもよく、その方向に対応し駆動信号を与えることで駆動できる。別電極35と共通電極24とに挟まれている圧電セラミック層21bの中央領域55の周囲の周囲領域56は、中央領域55と逆の方向に分極されている。周囲領域55のさらに外側は、分極されていてもいなくても、いずれでもよい。詳細は後述するが、このような構成にすることにより、駆動する際に、圧電セラミック層21bの液体加圧室10の外側の流路部材の4と接合されている部分の上方の領域(後述の拘束部952)に加わる引っ張り応力を少なくできるため、駆動劣化が生じ難い。
個別電極35は、液体加圧室10と重なっている、あるいは、液体加圧室10と略相似の個別電極35aと個別電極本体35aから引き出されている引出電極35bとから成っている。ここで略相似とは、相似形から角部の曲率などを少し変えたもので、相似形からの外形のずれが大きさの10%以内程度であることをいい、このことは本発明の説明の他の部分においても同じである。周囲領域56は、液体加圧室10の外側まで広がっていてもよいし、液体加圧室10の内側に収まっていてもいい。図5(b)は、周囲領域256が液体加圧室10の内側に収まっている例であり、周囲領域256と隣接する変位素子と距離を大きくできる点で好ましい。また、中央領域55と周囲領域56とは接していなくてもよく、間に分極されていない領域が挟まれていてもよい。なお、周囲領域56の外側の圧電セラミック層21bは、分極されていても、分極されていなくてもどちらでよい。後述の製造方法では、圧電セラミック層21bの中央領域55以外の部分を周囲領域56と同じ方向に分極すると、周囲領域56の形成される位置のずれの影響が少なくなるので好ましい。
本実施の形態における実際の駆動手順のひとつは引き打ちと呼ばれるもので、予め個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、
高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、個別流路32内において圧力波がしぼり12の液体加圧室10側の端5から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これ
によると、液体加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
これとは逆に押し打ちと呼ばれる駆動方法も使用できる。押し打ちは、個別電極35を共通電極34と同じ電位(低電位)にしておき吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34より高い電位(高電位)とする。これにより、液体加圧室10の体積増加により、液体吐出孔8から押し出された液柱が、液体加圧室10内部が正圧状態から負圧状態に反転するときに合わせて、液体加圧室10の体積を増加させて、液柱の根元を切断し、切り離された液滴を吐出する。
また、階調印刷においては、液体吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する液体吐出孔8から連続して行なう。一般に、液体吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。
以上のような基本的に引き打ちの動作においては、駆動劣化が起きる原因を、図8(a)〜(d)を用いて説明する。図8(a)は変位素子950の、電圧を加えていない状態の圧電セラミック層921b、共通電極934、個別電極935および補助電極41の縦断面である。この変位素子950は、個別電極935と共通電極934とに挟まれている圧電セラミック層921bは積層方向に分極されているが、この分極と逆方向に分極された部分は存在せず、本発明の範囲外のものである。共通電極934と個別電極935とに挟まれた部分の圧電セラミック層921bを駆動部951と呼び、プレート922に接合されている部分の上方に位置する圧電セラミック層921bを拘束部952と呼ぶ。
このような変位素子950を利用した液体吐出素子においても上述した一般的な引き打ちにより吐出が行なえる。図8(b)のように個別電極935に電圧を加えた状態で待機し(以下、吐出する前の状態を待機状態という)、図8(c)のように個別電極935に加える電圧を0Vにし(以下、待機状態とは異なる駆動電圧が与えられている状態を駆動状態という)、その後、図8(b)の待機状態に戻るという一連の動作を行なうことにより、液体吐出孔から液滴が吐出される。図8(b)の待機状態では駆動部951が平面方向に縮んでおり、拘束部952には引っ張り応力が働いている。この応力が非常に長時間、繰り返し加わるため、拘束部952には、強弾性ドメインスイッチングが生じ、しだいに平面に延びてしまう。図8(d)は拘束部952が変形して引き伸ばされた状態の変位素子950であり、電圧が加わっていない状態である。電圧が加わっていないにもかかわらず、拘束部952が変形して伸びているため、変位素子950が下側に変形してしまっている。このような状態になると、電圧が加わらない状態にしても図8(b)に示したような変位が0の状態にはならなくなり、駆動信号を与えたときの変位量が小さくなる。その結果、同じ駆動信号を加えても、液滴の吐出速度が遅くなったり、液適量が少なくなったりする。これが駆動劣化である。
変位素子50では、図8(e)に示すように、個別電極35に電圧に加えた際に、中央領域55は収縮し、周囲領域56は伸長する。これにより、プレート22と接合している部分の上方の拘束部は引き伸ばされ難くなる。すなわち、拘束部が周囲領域55であれば
、周囲領域55は電圧が加わることで、自ら伸長しているので、引っ張り応力が加わっても引き伸ばされ難い。拘束部が周囲領域55のさらに外側の領域であれば、周囲領域55が伸長していることにより、引っ張り応力がその分小さくなっているので引き伸ばされ難い。また、周囲領域56が液体加圧室10の外側まで広がっている場合は、周囲領域56の外側が、仮に引き伸ばされたとしても、その部分は、液体加圧室10から位置が離れているため、図8(d)のように生じる駆動劣化の程度をより小さくできる。
中央領域55は、液体加圧室10の面積重心Cをほぼ相似の中心とする位置に配置されていることで、変位を大きくすることができる。また、中央領域55と周囲領域56とを併せた領域も液体加圧室10の面積重心Cをほぼ相似の中心とする位置に配置されていることで、変位を大きくできる。平面視したときの、中央領域55の面積をSo[mm2]、液体加圧室10の面積をSc[mm2]とすると、SoがScの0.45倍以上であることにより変位素子50の変位を大きくすることができる。すなわち、個別電極35に液体加圧室10の中央部で中央領域55が平面方向に収縮する電圧を加えると、変位素子50は、液体加圧室10側に変位し、さらに、周囲領域56はその電圧で伸長し、変位素子50の中央部を液体加圧室10側に押し出すことになるので、変位素子50の変位はより大きくなる。SoがScの0.45倍以上であることにより、周囲領域56の面積が大きくなっても、周囲領域56が存在ない場合よりも変位を大きくできる。また、SoがScの1倍より大きくしても、変位は向上せず、クロストークが大きくなるため、SoはScの1倍以下であることが好ましい。
平面視したとき、中央領域55と周囲領域56とを併せた領域は、形状が液体加圧室10の形状と略相似であるとともに、中央領域55の面積Soと周囲領域56の面積Siが液体加圧室10の面積Scの1.44倍以下であることにより、隣接する液体吐出素子間に生じるクロストークを低減することができる。すなわち、一つの液体吐出素子から液滴を吐出すために変位素子50に電圧を加えると、その際に生じる変位素子50の圧電変形が隣接している変位素子50に伝わり、その変位素子50により吐出が行なわれる液体吐出素子の吐出特性の変動が少なくできる。これは、So+Siの面積をScの1.44倍以上にしても、変位素子50の変位は向上しなく、圧電変形が伝わらないように変位素子50間の距離を大きくできるためである。
図8(a)〜(d)に示した変位素子950の変位状態についてシミュレーションで解析したところ、次のことが分かった。駆動部951の外側が液体加圧室と重なる位置にある場合、変位する際、その部分は、図8(c)に示したように局所的に液体加圧室とは反対側に凸になる。変位素子950では、流路部材に接合されている部位、あるいはその部位に近い圧電アクチュエータユニットは上方に変形し難い状態にあるが、変位素子50では、周囲領域56が圧電変形することにより、周囲領域56が液体加圧室10の直上にある場合には、この上方への凸変形を少なくし、その分撓み変形を液体加圧室側に大きくさせることができる。周囲領域56が液体加圧室10の外側にある場合には、周囲領域56が伸長し、中央領域55を液体加圧室10の中心に向かって押すように作用するため、その場合でも。上方に凸変形した場合と同様の効果を生じさせることができる。
この際、流路部材をステンレス材で作製するとそのヤング率は200GPa程度で厚さは1〜3mm、圧電セラミックスをチタン酸ジルコン酸鉛で作製するとそのヤング率は80GPa程度で厚さは20〜100μmあるため、流路部材はほとんど変形せず、変形はほとんど圧電セラミックスに生じる。中央領域55の周囲に中央領域55と逆方向に分極された周囲領域向56を設けることにより撓み変形における上方への凸変形を抑制し、あるいは平面方向に伸長することで、変位量を大きくすることができる。なお、圧電セラミックスの圧電特性やヤング率や厚さ、振動板のヤング率や厚さが変わっても、これらの物性は平面方向においてほぼ一定であるので、液体加圧室10の直上部分の圧電変形で生じ
る変位と、その外側の領域における圧電変形の寄与により生じる変位とは比例関係にあるので、変位増加効果の生じる領域は変わらないと考えられる。例えば、圧電特性が大きいと、So+Siの面積をScの1.44倍より大きくした場合に、1.44倍の面積の外側の部分の圧電変形量は大きくなり、その圧電変形の寄与による変位素子の変位の増加量は大きくなるが、そもそも圧電特性が大きいと変位素子の変位量も大きいので、変位を増加させる割合としては小さくなり、事実上1.44倍よりも大きくした効果は得られないと考えられる。なお、1.44は、後述の実験により得られた値である。
図7(a)〜(c)は本発明の他の実施例の液体吐出ヘッドの個別電極の構造である。これらの液体吐出ヘッドの基本構造は上述の液体吐出ヘッド2と同じであるため省略し、個別電極の構造の差異を説明する。
図7(a)(b)の液体吐出ヘッドでは、平面視したとき、個別電極335、435は、個別電極本体335a、435aと個別電極本体335a、435a引き出されており、外部配線と電気的に接続されている引出電極335b、435bとを含んでいる。接続電極336、436は引出電極335b、435b上に形成されており、外部配線と電気的に接続される。
図7(a)では、個別電極335は、液体加圧室310と重なっている個別電極本体335aと液体加圧室310の外に引き出されている引出電極335bとを含んでいる。個別電極本体335aが液体加圧室310内に収まっていることにより、隣接する液体吐出素子との間のクロストークを低減できる。引出電極335bと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層321bの中央領域357は積層方向に分極されており、その方向は、個別電極本体335aと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層321bの中央領域355の中央領域355の分極方向と同じである。なお、図7(a)においては、接続電極436と中央領域357の形状が一致しているが、このようになっている必要はない。引出電極335bと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層321bにおいて、中央領域357の周囲の周囲領域356とは逆方向に分極されている。このような構成を有することにより、引出電極335bに電圧が加わった際に、その直下にある圧電セラミック層321aの中央領域357と周囲領域356とは平面方向に伸長と収縮し、互いに逆の圧電変形をすることから変形が相殺され、引出電極335b直下の圧電セラミック層321aの圧電変形に起因するクロストークを抑制することができる。なお、図7(a)においては、個別電極本体335aと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層321bの周囲領域と、引出電極335bと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層321b周囲領域との間に境界がなく繋がっているが、間に分極されない部があってもよい。
図7(b)では、個別電極435は、液体加圧室410と略相似形状の個別電極本体435aと個別電極本体435aから引き出されている引出電極435bとを含んでいる。引出電極435bと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層421bの中央領域は積層方向に分極されており、その方向は、個別電極本体335aと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層321bの中央領域355の中央領域の分極方向と同じであり、図7(b)ではこれら2つの中央領域は繋がって一つの中央領域455となっている。引出電極435bと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層321bにおいて、中央領域455の周囲の周囲領域456とは逆方向に分極されている。このような構成を有することにより、引出電極435bに電圧が加わった際に、その直下にある圧電セラミック層421aの中央領域455と周囲領域456とは平面方向に伸長と収縮し、互いに逆の圧電変形をすることから変形が相殺され、引出電極435b直下の圧電セラミック層421aの圧電変形に起因するクロストークを抑制することができる。なお、図7(b)においては、個別電極本体435aと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層421bの周囲領域と、引出電極435bと共通電極とに挟まれている圧電セラミック層421b周囲領域
との間に境界がなく繋がっているが、間に分極されない部があってもよい。
図7(c)の液体吐出ヘッドでは、平面視したとき、中央領域555と周囲領域556とを併せた領域は、形状が液体加圧室510の形状と略相似であるとともに、面積が前記液体加圧室の面積の1倍以上であり、個別電極535の液体加圧室510と重ならない位置に接続電極536が形成されており、接続電極536と外部配線とが電気的に接続される。外部配線との接続が液体加圧室510と重ならない位置でされるため、この接続部が変位素子の変位を阻害することがないので好ましい。また、外部配線と接続のために平面方向の構造の対称性が崩れておらず、突出した部位がないので、そのような部位に起因するクロストークが生じないので好ましい。
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。まず、圧電セラミック層に用いる圧電材料をチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)とし、PZT粉末とバインダと溶剤とを混合してスラリーを作成し、このスラリーから、成形方法としてロールコーター法を採用して、グリーンシートを作製する。
次いで、1枚のグリーンシートにビアホールとなる貫通孔を金型により打ち抜きなどで形成する。他の1枚のグリーンシートに共通電極34となる導体ペーストを塗布し、乾燥する。これら2枚のグリーシートを積層して、内部に共通電極34およびビアホールを備えた積層成形体を作製する。この積層成形体を1020℃の温度で焼成して圧電焼結体を作製する。
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート22〜31を積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
圧電焼結体と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電焼結体や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電焼結体と流路部材4とを加熱接合することができる。
この後の圧電焼結体の分極および個別電極35の形成の工程について、工程順に示した図9(a)〜(e)を用いて説明する。なお、積層後に分極を行なうことにより、分極により圧電セラミック層が変形し積層し難くなることがない。
図9(a)は、流路部材4に、圧電セラミック層21b、振動板21aおよび共通電極34からなる圧電焼結体を接合した状態の部分縦断面図である。流路部材4は、その一部であるプレート22以外は省略してある。図9(b)においては、分極用電極35−1が形成され、分極用電極35−1と共通電極34に挟まれた圧電セラミック層21bを積層方向に分極している。ここで分極した部分の一部は、後で周囲領域56となる。図中の矢印は分極方向である。分極用電極35−1は、例えば銀を主成分とするもので形成する。なお、分極用電極35−1は、圧電セラミック層21bのほぼ全面に形成し、ほぼ全体を分極するようにするようにしてもよい。そのようにすれば、分極した領域と、後で形成す
る個別電極35との間に位置ずれが生じ難いので好ましい。図9(c)では、分極用電極35−1を取り除いている。分極用電極35−1は、有機溶剤での洗浄や超音波洗浄など等で除去する。磁器が薄い場合、超音波洗浄によると破損するおそれがあるため有機溶剤洗浄等の洗浄液で除去するのが好ましい。
続いて、図9(d)では、分極用電極35−2が形成され、分極用電極35−2と共通電極34に挟まれた圧電セラミック層21bを、図9(b)で分極した方向とは逆の積層方向に分極している。ここで分極した部分が中央領域55となる。図9(e)では個別電極35が形成されている。個別電極は35、分極用電極35−2を取り除いた後、新たに形成してもよいし、分極用電極35−2の上に一部重なるように形成してもよい。分極用電極35−2を取り除いた後に形成すれば、分極用電極35−2がない分、個別電極35の厚さを薄くできるので、変位を大きくできる。その際は、分極用電極35−2は、分極用電極35−1と同様に取り除く。分極用電極35−2の上に一部重なるように形成すれば、工程が簡略化できる。その際は、分極用電極35−2は、例えば、マスキングして、スパッタや蒸着によりAu電極を形成する。この様にして、液体吐出ヘッド2を作製することができる。
図1〜6に示した構造の液体吐出ヘッドを作製し、評価した。だだし、駆動劣化の抑制およびクロストークの抑制の効果があるのは原理的に明らかであるので、液体吐出ヘッドは、液体加圧室の下の流路部材が下まで開口している評価用のものを作製し、レーザー変位計で変位を測定し、評価した。作製した液体吐出ヘッドは表1に示した、液体加圧室面積Sc[mm2]、中央領域面積So[mm2]、周囲領域面積Si[mm2]を持つもので、So+Si>Scであれば図6(a)に示した構造になり、So+Si<Scであれば図6(b)に示した構造になる。
なお、試料No.1は、周囲領域を設けていない、本発明の範囲外の試料である。周囲領域を設けていない場合、変位量は、面積比So/Scの増加に対して極大になる点があることが分かっており、試料No.1のSo/Sc=0.562は、ほぼこの点にあたり、周囲領域を設けない構造では、試料No.1よりも大きな変異を得ることはできない。また、変位量自体は、変位素子の厚みなどによって変わるが、極大となる点などに差異はほとんど生じない。
表1に示したように、試料No.12はSo/Sc=0.450であり、Soの面積比
が試料No.1よりの低くなっているが、周囲領域が形成されているため、周囲領域が形成されてない場合に変位が最大になる試料No.1よりも変位が大きくなった。これはつまり、試料No.12はSo/Sc=0.450で周囲領域が形成されてない場合よりも、変位が大きくなっているということである。このように、So/Scを0.45以上にすることにより周囲領域が形成されていない場合と変位の方向を同じにでき、その変位量を周囲領域が形成されていない場合よりの大きくできる。
また、試料No.2〜7は、周囲領域面積Siのみを変えている。周囲領域面積Siが増加することにより、変位が大きくなってことが分かる。変位の増加は、周囲領域が液体加圧室の外側に広がっていって、So+Si>Scとなっていても続くが(So+Si)/Sc=1.440のところで事実上なくなる。これは、周囲領域の外周部と、液体加圧室との間の距離が大きくなっていくと、外周部の圧電変形の影響が液体加圧室の直上の変位素子の変位に与える影響がすくなくなっていくことによると考えられる。したがって、変位増加が続くのは、(So+Si)/Scを1.440以下の範囲なので、変位を大きくしつつ、クロストークを少なくするためには。(So+Si)/Scを1.440以下にすればよい。