JP2012079415A - 高分子電解質膜、およびそれを用いた膜/電極接合体,燃料電池 - Google Patents

高分子電解質膜、およびそれを用いた膜/電極接合体,燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】添加成分の溶出を起こすことなく、耐酸化性及びプロトン伝導性を向上することができる優れた固体高分子電解質膜と、該組成物を用いた膜/電極接合体、燃料電池を提供する。
【解決手段】芳香族炭化水素系高分子電解質と、含燐高分子化合物と金属元素とを混合し、含燐高分子化合物と金属元素を膜中に均一に分散させる。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐久性およびプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜、該高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体、燃料電池に関する。
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性の高分子電解質膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては、例えば米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。
パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜は、燃料電池の電解質膜としてバランスの良い特性を示すものの、コストや性能などで、より優れた膜が求められている。また、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜などのフッ素系高分子電解質膜は、燃料電池に使用した場合、運転条件によっては有害なフッ酸が排気ガス中へ混入することや、廃棄時に環境へ大きな負荷を与えることなどの問題も有している。そのため、炭化水素系高分子電解質膜の開発が現在盛んに行われている。
一方、水素を燃料として用いる燃料電池では、副反応によってラジカルが生成し、高分子電解質膜の分解を引き起こす。炭化水素系高分子電解質膜は、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜よりも耐ラジカル性が劣るという問題点がある。耐酸化性が低い理由は、炭化水素化合物は一般にラジカルに対する耐久性が低く、炭化水素骨格を有する電解質はラジカルによる劣化反応(過酸化物ラジカルによる酸化反応)を起こしやすいためと考えられている。
そこで、フッ素系電解質と同等以上、もしくは実用上十分な耐酸化性を有し、しかも低コストで製造可能な高耐久性固体高分子電解質を提供することを目的として、様々な方法が提案されている。この中で、高分子電解質に添加剤を加えることで耐久性を向上させる方法は、既存の高分子電解質にも適用でき簡便な方法として有効な方法である。これまでに炭化水素部を有する高分子化合物からなり、燐を含む官能基を導入した高耐久性固体高分子電解質(下記特許文献1および2)、電解質基及び炭化水素部を有する高分子化合物と、含燐高分子化合物とを混合することにより得られる高耐久性固体高分子電解質組成物(下記特許文献3および4)などが提案されている。
しかしながら、燐を含む官能基を導入する方法は、電解質ポリマーの重合が複雑となる、適応できる電解質ポリマーの構造が限定されるといった欠点がある。また電解質基及び炭化水素部を有する高分子化合物と、含燐高分子化合物とを混合する方法では、含燐高分子化合物が燃料電池の運転条件において溶出する可能性がある。
含燐高分子化合物の溶出を抑制する方法として、非水溶性の化合物を用いる方法が考えられ、非水溶性の含燐高分子化合物として燐を含む官能基を導入した芳香族系高分子化合物(下記特許文献5、6)が提案されている。しかしながら、これらの場合、燐を含む高分子化合物中の燐の密度が低く、十分な耐酸化性を得るためには多量の含燐高分子化合物の添加が必要となるため、プロトン伝導性の低下やコストの上昇が懸念される。
一方、燐酸が多くの金属と不溶性あるいは難溶性の塩を作ることが知られている。耐酸化性に優れた固体高分子電解質組成物として、炭化水素系固体高分子電解質とキレート性官能基を有するホスホン酸ジルコニウム化合物との複合体(下記特許文献7)が出願されている。ホスホン酸基を備えたキレート性官能基の水への溶解性はZrと複合化することにより低下するが、その溶解性の低下は十分でない。
以上のことから、本出願人により芳香族炭化水素系高分子電解質90〜99.95質量部と含燐高分子化合物0.05〜10質量部と金属元素10〜5000ppmを含むことを要旨とする高分子電解質組成物(下記特許文献8)が提案されている。この高分子電解質組成物は、高い耐酸化性を有すると共に、高温の水への含燐高分子化合物の溶出が少なく耐酸化性が長時間持続するという効果がある。しかし、プロトン伝導性は芳香族炭化水素系高分子電解質のみと比較して同等か僅かに低下しており、より高性能な高分子電解質膜を得るという点では不十分であった。
特開2000−11755号公報 特開2004−79252号公報 特開2000−11756号公報 特開2004−134269号公報 特開2003−238678号公報 特開2004−175997号公報 特開2002−343132号公報 特願2009−149664号明細書
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、添加成分の溶出などを起こすことなく、耐酸化性及びプロトン伝導性を向上することができる優れた高分子電解質膜と、該高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体、燃料電池の提供を課題とするものである。
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)芳香族炭化水素系高分子電解質90〜99.95質量部と含燐高分子化合物0.05〜10質量部と金属元素10〜5000ppmを含む固体高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜であって、高分子電解質膜中に存在する燐元素と金属元素を含む組成物が0.5μm以下のサイズで均一に分散している高分子電解質膜。
(2)上記の高分子電解質膜の膜表面5〜10nmにある金属元素量が、全添加量に対して10%以下であり、膜厚が5〜30μmである(1)に記載の高分子電解質膜。
(3)高分子電解質と金属アルコキシドあるいは金属キレート化合物と高分子電解質を溶解する非プロトン性極性溶媒あるいは非プロトン性極性溶媒と水あるいはアルコールとの混合溶媒を含む溶液から製膜される(1)又は(2)のいずれかに記載の高分子電解質膜。
(4)高分子電解質と金属アルコキシドあるいは金属キレート化合物と含燐高分子化合物と高分子電解質を溶解する非プロトン性極性溶媒あるいは非プロトン性極性溶媒と水あるいはアルコールとの混合溶媒を含む溶液から製膜される(1)又は(2)のいずれかに記載の高分子電解質膜。
(5)前記含燐高分子化合物が、ポリビニルホスホン酸であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の高分子電解質膜。
(6)前記金属元素がMg、Ca、Co、Ni、Zn、Sr、Zr、Ba、Ceからなる群より選ばれる1種以上の金属元素であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の高分子電解質膜。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体。
(8)(7)に記載の膜/ 電極接合体を用いた燃料電池。
本発明において、芳香族炭化水素系高分子電解質とは、主な構造が酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族炭化水素系高分子から主になっており、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基、リン酸基、カルボキシル基などの酸性のイオン性基を有するものをいう。また前記芳香族炭化水素系高分子電解質が親水性セグメントと疎水性セグメントを有するブロック共重合ポリマーであるとイオン交換容量が高くても熱水に対する膨潤性が少なく耐久性が高いため好ましい。
含燐高分子化合物には、3価の燐を含む官能基及び/又は5価の燐を含む官能基が含まれる種々の化合物が含まれる。また、含燐高分子化合物としては、ホスホン酸基を有する化合物が好ましく、その中でもアルキルホスホン酸系化合物が特に好ましい。また、特にポリビニルホスホン酸が好ましく例示される。
金属元素としては、P−OH構造もしくはP−OH構造とS−OH構造と相互作用して含燐高分子化合物を非水溶性あるいは難溶性にするものが望ましく、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類元素等が挙げられる。特にMg、Ca、Co、Ni、Zn、Sr、Zr、Ba、Ceが好ましい。
本発明においては、芳香族炭化水素系高分子電解質に対し、燐を含む官能基が導入されているので、燐を含む官能基により、高分子電解質の酸化劣化反応が抑制される。さらに、金属元素の添加により含燐高分子化合物の溶出を抑制することが出来る。これにより、実用上十分な耐酸化性を有する高分子電解質膜を得ることが可能となる。
さらに、含燐高分子化合物と金属元素を膜中で均一に分散させることにより、プロトン伝導性を向上させることが出来る。
本発明に係る高分子電解質膜は、芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物と金属元素を含むことにより、含燐高分子化合物の溶出が抑制され、耐酸化性が長時間持続するという効果がある。また含燐高分子化合物と金属元素を膜中で均一に分散させることにより、プロトン伝導性が向上するという効果がある。
図1は実施例1と比較例4の膜のTEM写真である。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明に係る耐久性およびプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜は、芳香族炭化水素系高分子電解質と、含燐高分子化合物と金属元素とを混合することにより得られるものである。
本発明における芳香族炭化水素系高分子電解質は、0.5〜3.0meq/gのイオン交換容量を有することが必要であり、1.0〜2.5meq/gのイオン交換容量を有することが好ましい。
芳香族炭化水素系高分子電解質とは、主な構造が酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族炭化水素系高分子から主になっており、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基、リン酸基、カルボキシル基などの酸性のイオン性基を有するものをいう。イオン性基としては、スルホン酸基やスルホンイミド基などの強酸基であるとプロトン伝導性が高くなるため好ましく、ホスホン酸基やリン酸基では、高温低湿度の状態でもプロトン伝導性を示すため好ましい。
本発明における芳香族炭化水素系高分子電解質の構造は特に限定されないが、下記化学式1で表される構造から選ばれる1種以上の構造、及び下記化学式2で表される構造から選ばれる1種以上の構造を有する1種以上のポリマーを含む高分子電解質が例示される。化学式1及び2において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Arは電子吸引性基を有する1種以上の芳香族基を、Zは酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Arは二価の芳香族基又は二価の脂肪族基からなる群より選ばれる1種以上の基を、それぞれ表す。
本発明における芳香族炭化水素系高分子電解質は、化学式1又は2で表される構造の範囲内において複数の構造を含んでいてもよい。また、化学式1で表される構造と、化学式2で表される構造との結合様式は特に限定されるものではなく、ランダムに結合していてもよいし、化学式1及び化学式2で表されるうちのいずれか構造が連続したブロック構造や、化学式1で表される構造が連続したブロックと化学式2で表される構造が連続したブロック構造とが結合した形態であってもよく、化学式1で表される構造と化学式2で表される構造が交互に結合していてもよい。芳香族炭化水素系高分子電解質がブロック構造の場合、高いプロトン伝導性を得るためにイオン交換容量を高くしても、熱水に対する膨潤性が抑えられ、耐久性に優れるため好ましい。
化学式1、化学式2がブロック構造をとった場合の分子量は特に限定されないが、数平均分子量がそれぞれ1000以上50000以下が好ましく、さらに好ましくは2000以上、20000以下である。
化学式1におけるXは−S(=O)−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子電解質膜を得ることもできる。ZはOであるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがSであると耐酸化性が向上するため好ましい。
化学式1及び2におけるArは2価の二価の芳香族基又は二価の脂肪族基からなる群より選ばれる1種以上の基である。Arの例としては、ベンゼン環、ピリジン環などの芳香環、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合多環芳香族基や、芳香族基が、直接結合、脂肪族基、スルホン基、エーテル基、スルフィド基、パーフルオロアルキル基、及び芳香族基を含む脂肪族基で複数連結した基や、脂肪族基、及び芳香族基を含む脂肪族基などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。化学式1及び2におけるArは、複数の構造からなっていてもよい。
化学式1及び2におけるArの例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
化学式1及び2におけるArの例として記した上記の構造の中でも、化学式3E、3AVの構造は高分子電解質膜の膨潤を抑制するため好ましい。また、化学式3F、3G、3N、3O、3U、3Yなどの構造は高分子電解質膜の軟化温度を低下させるため電極触媒層との接合性が向上し好ましい。化学式3AX、3AYで表される構造も高分子電解質膜の軟化温度を低下させるため電極触媒層との接合性が向上し好ましい。さらに化学式3AY〜3BNで表される構造は、電極触媒層との接合性が向上すると共に耐久性を向上させるため好ましい、また、化学式3AO、3AI、3AN、3AQ、3Xで表される構造は、メタノール透過性を抑制するため好ましい。また、化学式3I、3J、3Kで表される構造は、燃料電池におけるフラッディングを抑制するため好ましい。また、化学式3BOで表される構造は、高分子電解質膜の耐久性を向上させるため好ましい。なお、Arが化学式3AY〜3BNで表される構造の場合は、化学式1及び2におけるZが硫黄原子であることが好ましい。化学式3Nにおけるoは2〜10の整数を表す。
化学式1及び2におけるArは複数の基から構成されていてもよいが、好ましい組み合わせとしては、化学式3Eで表される構造と、化学式3F、3G、3N、3O、3U、3Y、3AX〜3BNで表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造との組み合わせ、化学式3F、3G、3N、3O、3U、3Y、で表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造と、3AY〜3BNで表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造との組み合わせ、化学式3AO、3AI、3AN、3AQ、3Xで表される構造からなる群より選ばれる1種以上の構造と、及び、3AY〜3BNで表される構造から群より選ばれる1種以上の構造との組み合わせが好ましい。また、前記の好ましい構造、及び好ましい構造の組み合わせに、化学式3I、3J、3Kをさらに組み合わせることによってフラッディング抑制効果を、化学式3BOで表される構造をさらに組み合わせることによって耐久性向上効果を、それぞれ得ることができる。
化学式2におけるArは、電子吸引性基を有する2価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
化学式2におけるArの構造の例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
化学式2におけるArの好ましい構造は、化学式4A〜4Dで表される構造であり、中でも化学式4C及び4Dで表される構造がより好ましく、さらに化学式4Dで表される構造が好ましい。化学式4Aの構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式4Bの構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式4C又は4Dの構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式4Dの構造がより好ましい。化学式2におけるAr1は、複数の構造からなっていてもよく、複数の構造から構成される場合には、化学式4A〜4Dからなる群より選ばれる2種以上の構造や、化学式4A〜4Dからなる群より選ばれる1種以上の構造と化学式4E〜4Qからなる群より選ばれる1種以上の構造の組み合わせが好ましい。
本発明における高分子電解質を構成するポリマーは、例えば、電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物や芳香族ジニトロ化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物、アルキルジチオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを、塩基性化合物の存在下、加熱することによって、芳香族求核置換反応により重合することができる。
モノマー中の、反応性のハロゲン基又はニトロ基と、反応性のヒドロキシ基又はメルカプト基のモル比は任意のモル比にすることで、得られるポリマーの重合度を調整することができるが、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1であり、0.95〜1.05であるとさらに好ましく、1であると最も高重合度のポリマーを得ることができる。
電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物のうち、イオン性基を有するものとしては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができ、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンが好ましい。
イオン性基を含有しない、活性化芳香族ジハロゲン化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジクロロビフェニル、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)−p−ターフェニル、等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。中でも好ましいのは、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリルであり、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリルがさらに好ましい。
ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’−ビフェノール、4,4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4−ヘキシルレゾルシノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、4,4’−チオジフェノール、4,4’−オキシジフェノール、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド、4,4’−ビフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、4,4’−チオジフェノール、4,4’−オキシジフェノール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4−エチルレゾルシノール、4−ヘキシルレゾルシノール、2−ヘキシルハイドロキノン、2−オクチルハイドロキノン、2−オクダデシルハイドロキノン、2−ターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーアミルハイドロキノン、2,2’−ジヘキシル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1−オクチル−2,6−ジヒドロキシナフタレン、2−ヘキシル−1,5−ジヒドロキシナフタレン、などが挙げられるがこれらに限定されることなく、上記の電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物や芳香族ジニトロ化合物と反応し得る化合物であれば用いることができる。
アルキルジチオール化合物の例としては、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,11−ウンデカンジチオール、1,12−ドデカンジチオール、1,13−トリデカンジチオール、1,14−テトラデカンジチオール、1,15−ペンタデカンジチオール、1,16−ヘキサデカンジチオール、1,17−ヘプタデカンジチオール、1,18−オクタデカンジチオール、1,19−ノナデカンジチオール、1,20−イコサンジチオール、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、3,7−ジチア−1,9−ノナンジチオール、3−チア−1,5−ペンタンジチオール、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ブタンジチオール、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンなどが挙げられるがこれらに限定されることなく、上記の電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物や芳香族ジニトロ化合物と反応し得る化合物であれば用いることができる。
重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
また、上記重合反応において、塩基性化合物を用いずに、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物、及びアルキルジチオール化合物を、フェニルイソシアネートなどのイソシアネート化合物と反応させてカルバモイル化したものと、活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物とを直接反応させることもできる。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類や芳香族ジメルカプト化合物を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。塩基性化合物は、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物、及びアルキルジチオール化合物の、水酸基及びメルカプチト基に対して、アルカリ金属として100モル%以上の量を用いると良好に重合することができ、好ましくは、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物、及びアルキルジチオール化合物の、水酸基及びメルカプチト基に対して、アルカリ金属として105〜125モル%の範囲である。塩基性化合物の量が多くなりすぎると、分解などの副反応の原因となるので好ましくない。
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
本発明の固体高分子電解質は、化学式1及び化学式2で表されるうちのいずれか構造が連続したブロック構造や、化学式1で表される構造が連続したブロックと化学式2で表される構造が連続したブロック構造とが結合した形態であってもよいが、そうしたブロック構造の形成方法は特に限定されない。例えば、化学式1で表されるセグメントを有し、両末端がヒドロキシ基もしくはハロゲノ基であるかまたは末端の一方がヒドロキシ基もう一方がハロゲノ基であるポリマーと、化学式2で表されるセグメントを有し、両末端がヒドロキシ基もしくはハロゲノ基であるかまたは末端の一方がヒドロキシ基もう一方がハロゲノ基であるポリマーとを組み合わせて反応させることにより製造し得る。
例えば、a . 両末端にヒドロキシ基を有するポリマーと両末端にハロゲノ基を有するポリマーとを塩基の作用下に芳香族求核置換反応で縮合させる方法、b . 両末端にヒドロキシ基とハロゲノ基を一つずつ有するポリマーと両末端にヒドロキシ基とハロゲノ基を一つずつ有する別のポリマーとを塩基の作用下に芳香族求核置換反応で縮合させる方法、c . 両末端にヒドロキシ基を有するポリマーと両末端にヒドロキシ基を有する別のポリマーとを4 , 4 ’ − ジフルオロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン、4 , 4 ’ −ジフルオロジフェニルスルホンなど連結基として働く化合物を用いて結合させる方法、d. 両末端にハロゲノ基を有するポリマーと両末端にハロゲノ基を有する別のポリマーとを4 、4 ’ − ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA 、4 , 4 ’ − ジヒドロキシベンゾフェノン、4 、4 ’ − ジヒドロキシジフェニルスルホンなど連結基として働く化合物を用いるか、脱ハロゲン縮合反応により結合させる方法などが例示される。また、上記反応と同様の素反応が起こりうる反応性基を有するポリマーおよびモノマーを重合反応させる方法も用いることが出来る。
また、本発明の複合高分子電解質膜に用いる芳香族炭化水素系高分子電解質は、後で述べる方法により測定した対数粘度が0.1dL/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.1dL/gよりも小さいと、高分子電解質膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。対数粘度は、0.3dL/g以上であることがさらに好ましい。一方、対数粘度が5dL/gを超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
本発明における複合高分子電解質膜は任意の厚みにすることができるが、5μm以下だと所定の特性を満たすことが困難になるので5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましい。また、100μm以上になると製造が困難になるため、100μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
本発明における複合高分子電解質膜組成物は、その他のポリマーを含んでいてもよい。そのようなポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの樹脂組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせといえる、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。本発明の高分子電解質膜には、プロトン伝導性ポリマーが全体の50質量%以上100質量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。50重量%未満の場合には、高分子電解質膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なイオン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の高分子電解質膜は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
本発明において、含燐高分子化合物とは、燐を含む官能基が含まれている高分子化合物をいい、主鎖もしくは側鎖中に燐を含む官能基を有する高分子化合物が該当する。また、燐を含む官能基には、3価の燐を含む官能基と、5価の燐を含む官能基とがあるが、本発明でいう「燐を含む官能基」には、3価及び5価の官能基の双方が含まれる。これらの燐を含む官能基は、次の化6の式(3価の燐を含む官能基)、及び化7の式(5価の燐を含む官能基)に示すような一般式で表すことができる。
なお、化6の式及び化7の式において、x、y、及びzは、0又は1の値をとる。また、化7の式及び化8の式において、Rは、一般式CmHnで表される直鎖、環状、もしくは分岐構造のある炭化水素化合物を表し、又はR2及びR3はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子もしくは水素原子または1価の有機基である。さらに、化6の式及び化7の式において、y又はzが1の場合には、R又はRは、金属原子でもよい。
燐を含む官能基の具体例としては、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスファイト基、リン酸、リン酸エステル等が挙げられる。中でも、ホスホン酸基は、安価であり、炭化水素部を有する高分子化合物に対し高い耐酸化性を付与することができるので、燐を含む官能基として特に好適である。
また、含燐高分子化合物の具体例としては、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルホスホン酸を含む共重合体、あるいはホスホン酸基等を導入したポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、直鎖型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、架橋型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、直鎖型ポリスチレン樹脂、架橋型ポリスチレン樹脂、直鎖型ポリ(トリフルオロスチレン)樹脂、架橋型(トリフルオロスチレン)樹脂、ポリ(2、3−ジフェニル−1、4−フェニレンオキシド)樹脂、ポリ(アリルエーテルケトン)樹脂、ポリ(アリレンエーテルスルホン)樹脂、ポリ(フェニルキノサンリン)樹脂、ポリ(ベンジルシラン)樹脂、ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン樹脂、ポリスチレン−グラフト−ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン−グラフト−テトラフルオロエチレン樹脂等が一例として挙げられる。
芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物との混合方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。例えば、溶液によるドープ又はブレンドでもよい。また、芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物の双方が熱溶融するものである場合には、熱溶融によるブレンドでもよい。
また、芳香族炭化水素系高分子電解質と、含燐高分子化合物とを均一に混合することにより、固体高分子電解質全体に含燐高分子化合物を均一に分散させた構造としてもよい。あるいは、芳香族炭化水素系高分子電解質のみで固体高分子電解質の主要部を構成し、耐酸化性が要求される部分のみを芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物との混合物で構成してもよい。
例えば、固体高分子電解質膜を過酸化物溶液に浸漬した状態で加熱する場合のように、膜中でラジカルがランダムに生成するような環境では、芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物とを均一に混合し、含燐高分子化合物を固体高分子電解質膜中に均一に分散させた構造が有効である。
一方、水電解用あるいは燃料電池用の電解質膜のように膜表面の触媒層で過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって劣化反応を起こす環境では、含燐高分子化合物が膜中に均一に分散している必要はない。この場合には、芳香族炭化水素系高分子電解質に対して含燐高分子化合物をドープすることにより、酸化劣化反応の最も激しい膜の表面部分のみを芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物の混合物とすればよい。
あるいは、芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物の混合物からなる膜状成形物を、芳香族炭化水素系高分子電解質のみからなる電解質と電極の間に挿入する方法も、電解質膜の性能維持のために有効と考えられる。
また、芳香族炭化水素系高分子電解質に導入する電解質基の種類及び量、あるいは、含燐高分子化合物と、芳香族炭化水素系高分子電解質との混合比率は、導電率、耐酸化性等、固体高分子電解質膜に要求される特性と芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物の相溶性に応じて調整すればよい。
すなわち、含燐高分子化合物の導入量が多くなるほど、耐酸化性は向上する。しかし、含燐高分子化合物の導入量が増大すると、芳香族炭化水素系高分子電解質と含燐高分子化合物が均一な溶液を作れなくなって製膜が困難になったり、含燐高分子化合物の0.5μmより大きい粒子が出来て、膜が脆弱になったりする。膜の物性を保つため、含燐高分子化合物の粒子は0.3μm以下であることがより好ましい。
但し、燐を含む高分子化合物の導入量が高分子電解質組成物の0.05質量部未満になると、耐酸化性向上効果が十分ではなくなる。従って、燐を含む高分子化合物の導入量は、全電解質基の0.05質量部以上とする必要がある。特に、燃料電池、水電解、食塩電解等、過酷な条件下で使用される固体高分子電解質の場合には、燐を含む官能基は0.3質量部以上が好適である。また含燐高分子化合物の導入量が高分子電解質組成物の10質量部を超えると膜の物性が低下する。従って、含燐高分子化合物の導入量は全電解質の10質量部未満とする必要がある。
本発明においては、高分子電解質膜組成物が金属元素を10〜5000ppm含有することを特徴とするが、好ましい金属元素としては、P−OH構造もしくはP−OH構造とS−OH構造と相互作用して含燐高分子化合物を非水溶性あるいは難溶性にするものが望ましく、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類元素等が挙げられる。特にMg、Ca、Co、Ni、Zn、Sr、Zr、Ba、Ceが好ましい。
本発明における複合高分子電解質膜組成物は上述した金属元素のいずれか1つのみを含むものであっても良く、あるいは、2種以上の金属元素を含むものであっても良い。
金属元素の量は、電解質組成物に対し10ppm以上含有させないと、含燐高分子化合物の溶出抑制効果が十分でなく、5000ppmを超えるとプロトン伝導性が低下するなど燃料電池膜の電解質としての特性が低下するため好ましくない。好ましい含有量は50ppm以上5000ppm以下である。
また、金属元素の添加量が5000ppm以下であっても、金属元素が膜の表面に偏って存在しているとプロトン伝導が阻害されるため好ましくない。金属元素の含有量が10〜5000ppmの時、X線光電子分析(XPS)による膜表面の組成分析において、金属元素のAtom%が0.5以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。
金属元素を添加した効果として、先に言及しているように含燐高分子化合物の水への溶出を抑制することが挙げられるが、上記の量の金属元素を含有させることにより、含燐高分子化合物の水への溶出は、80℃で48時間浸漬した場合でも10質量%以下である。
また、含燐高分子化合物と金属元素を膜内に均一に分散させることで、プロトン伝導性が向上する効果が得られる。プロトン伝導性が向上する原因ははっきりしていないが、金属燐酸塩によるプロトン伝導やホスホン酸基により酸基の密度が上昇することが原因と考えられる。ここで、均一に分散とは後述の実施例に記載の方法で判定した結果をさす。
金属元素の混合方法は種々の方法を用いることができるが、金属元素を膜全体に均一に分散させるためには、製膜前の芳香族炭化水素系高分子電解質を含む溶液に金属元素を含む化合物を添加する方法が望ましい。例えば、芳香族炭化水素系高分子電解質を適当な溶媒に溶解した溶液に、金属元素を含む化合物あるいはその溶液を添加して混合し、その後含燐高分子化合物あるいはその溶液を添加する方法である。あるいは、芳香族炭化水素系高分子電解質を適当な溶媒に溶解した溶液に、含燐高分子化合物あるいはその溶液を添加して混合し、その後金属元素を含む化合物あるいはその溶液を添加する方法である。また、含燐高分子化合物あるいはその溶液と金属元素を含む化合物あるいはその溶液を混合して含燐化合物と金属の複合物を作成した後、芳香族炭化水素系高分子電解質と混合する方法でもよい。また、芳香族炭化水素系高分子電解質を適当な溶媒に溶解した溶液に、金属元素を含む化合物あるいはその溶液を添加して混合して作成した炭化水素系高分子電解質と金属元素の混合物の電解質膜若しくはその前駆体、触媒層、若しくは拡散層、又は、その表面に触媒層が形成された芳香族炭化水素系高分子電解質と金属元素の混合物の電解質膜若しくはその前駆体、拡散層、若しくはポリエチレンテレフタレート等の基材を、含燐高分子化合物を含む溶液に接触させる方法でもよい。これらの方法で金属元素を混合する際、必要に応じて冷却あるいは過熱しても良い。
高分子電解質膜のスルホン酸基が陽イオン種と塩を形成している状態で含燐高分子化合物あるいは金属元素をドープ、混合しても良く、酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換した状態で含燐高分子化合物あるいは金属元素をドープ、混合しても良い。
金属元素を含む化合物は、芳香族炭化水素系電解質の溶液と均一に混合して沈殿を生じないものであれば特に限定されない。好ましくは金属アルコキシドあるいは金属キレート化合物である。
金属アルコキシドは特に限定されないが、Mg、Ca、Co、Ni、Zn、Sr、Zr、Ba、Ceの金属アルコキシドが好ましく、特にZrが好ましい。アルコキシル基としては、好ましくは炭素数1 〜 1 0 のアルコキシル基、より好ましくは炭素数2 〜 4 のアルコキシル基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n − プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n − ブチルオキシ基、s e c − ブチルオキシ基、t e r t − ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n − ペンチルオキシ基、2 , 2 − ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n − ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2 − メチルペンチルオキシ基、または2 − エチルヘキシルオキシ基などが挙げられる。
前記アルコキシル基は、置換基を有していてもよく、前記置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシル基、アルキルチオ基、エステル基、アシル基などが挙げられる。
金属キレート化合物は特に限定されないが、Mg、Ca、Co、Ni、Zn、Sr、Zr、Ba、Ceの金属アルコキシドが好ましく、特にZrが好ましい。キレート基としては、アセト酢酸エステル類( アセト酢酸エチル等) 、1 , 3 − ジケトン類( アセチルアセトン等) 、アセトアセタミド類(N , N ’ − ジメチルアミノアセトアセタミド等) 等が挙げられ、アセチルアセトンが好ましい。
金属元素を含む化合物を溶解する際に用いる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド、N−モルフォリンオキサイドなどの非プロトン性有機極性溶媒や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などの極性溶媒、及びこれらの有機溶媒の混合物、並びに水との混合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
金属アルコキシドを用いる場合には、含燐高分子化合物あるいは芳香族炭化水素系電解質への反応性を制御する目的で、金属原子にキレート化しうる化学改質剤を用いてもよい。化学改質剤としては、例えばアセト酢酸エステル類( アセト酢酸エチル等) 、1 , 3 − ジケトン類( アセチルアセトン等) 、アセトアセタミド類(N , N ’ − ジメチルアミノアセトアセタミド等) 等が挙げられる。これら化学改質剤を用いる時は金属アルコキシドに対して0 . 1 〜 3.5 当量が好ましく、より好ましくは0.5〜 3 当量である。
さらに、含燐高分子化合物あるいは芳香族炭化水素系電解質との反応を調節する触媒として酸やアルカリを用いてもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等が一般的である。酸触媒としては無機又は有機のプロトン酸を用いることができる。無機プロトン酸としては、塩酸、硫酸、硼酸、硝酸、過塩素酸、テトラフルオロ硼酸、ヘキサフルオロ砒素酸、臭化水素酸等が挙げられる。
有機プロトン酸としては、酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。酸の量により金属化合物の溶媒への溶解度が変化するため、金属化合物が可溶な溶解度になるように調節しなければならず、金属アルコキシドに対して0 . 0 0 0 1 〜 1 当量が好ましい。
また、含燐高分子化合物あるいは金属元素をドープ、混合した後、過剰な含燐高分子化合物あるいは金属元素を除くために、任意の段階でイオン交換水による洗浄を行ってもよい。この時、必要に応じて熱をかけてもよい。
なお、いずれの方法による場合でも、過剰の含燐高分子化合物あるいは金属元素の残留、溶出等が問題とならない時には、イオン交換水による洗浄を省略しても良い。
本発明の高分子電解質膜を製造するための溶液組成物に用いることのできる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド、N−モルフォリンオキサイドなどの非プロトン性有機極性溶媒や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などの極性溶媒、及びこれらの有機溶媒の混合物、並びに水との混合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
溶液組成物における高分子電解質の濃度は0.1〜50重量%の範囲が好ましく、3〜50重量%の範囲にあることがより好ましく、5〜30重量%の範囲がさらに好ましい。
本発明の高分子電解質膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液組成物からのキャストであり、キャストした溶液組成物から上記のように溶媒を除去して高分子電解質膜を得ることができる。溶媒の除去は、乾燥によることが高分子電解質膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下できるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液組成物の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液組成物の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液組成物の厚みは特に制限されないが、10〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液組成物の厚みが10μmよりも薄いと高分子電解質膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2000μmよりも厚いと不均一な膜ができやすくなる傾向にある。溶液組成物のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にしたりして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液組成物は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液組成物を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。加工において、加熱を伴う場合、プロトン伝導性ポリマー中のスルホン酸基がカチオンと塩を形成していると、安定性が向上するため好ましい。ただし、高分子電解質膜として使用するためには、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに膜を浸漬処理することで行うことが効果的である。
本発明の膜/電極接合体は、本発明の複合高分子電解質膜を電極触媒層と接合することによって得ることができる。
電極は、電極材料と、その表面に形成された触媒を含む層(電極触媒層)とからなり、電極材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスなど、導電性の多孔質材料を用いることができるが、それらに限定されるものではない。カーボンペーパーやカーボンクロスなど、導電性の多孔質材料は、撥水処理、親水処理などの表面処理がされたものを用いることもできる。触媒には、公知の材料を用いることができる。例えば、白金、白金とルテニウムなどの合金などを挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
触媒は公知の任意の形態で用いることができ、例えば触媒微粒子を坦持させたカーボン粒子を用いることができるが、それらに限定されるものではない。
触媒や触媒を坦持した粒子を含む電極触媒層には、接着剤を用いることができ、接着剤としては、プロトン伝導性を有する樹脂を用いることができる。
この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し複合高分子電解質膜と電極とを接着する方法、複合高分子電解質膜と、予め電極に触媒を含むペーストを塗布して作製しておいた電極触媒層とを加熱加圧する方法、別のシートに作製した触媒層を複合高分子電解質膜に転写した後、電極を取り付ける方法、複合高分子電解質膜の表面に触媒及び導電性粒子などを含む分散液を、スプレー、印刷などでコートしてから電極を接合する方法等があるが、これらに限定されるものではない。接着剤としては、ナフィオン(商品名)溶液など公知のものを用いてもよいし、本発明における高分子電解質を構成するポリマーと同種のポリマー組成物を主成分としたものを用いてもよいし、他の炭化水素系プロトン伝導性ポリマーを主成分とするものを用いてもよい。電極反応に必要な白金、白金−ルテニウム合金などの触媒は、カーボンなどの導電性粒子に坦持させたものを、上記接着剤中に分散させておくことで、電極触媒層を得ることができる。
本発明の燃料電池は、本発明の複合高分子電解質膜又は膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
本発明の複合高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池に適している。本発明の固体高分子電解質膜は、含燐高分子化合物により耐酸化性およびプロトン伝導性に優れると共に、含燐高分子化合物の溶出を抑制することで長期の耐久性に優れる。本発明の複合高分子電解質膜は、燃料にメタノール、ジメチルエーテル、ギ酸などの液体を用いる燃料電池に用いることができるが、水素などの気体などを用いる燃料電池に特に好適に用いることができる。また、電解膜、分離膜など、高分子電解質膜としても公知の任意の用途に用いることができる。
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
<溶液粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dLの濃度でN−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)に溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度(ln[ta/tb])/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度を表す)。
<プロトン伝導性>
自作測定用プローブ(テフロン(登録商標)製)上で短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃95%RHの恒温・恒湿オーブン(株式会社ナガノ科学機械製作所、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を変化させて測定し、極間距離とC−Cプロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出した。
導電率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
<発電評価>
デュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液に、市販の40%Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業株式会社 燃料電池用触媒 TEC10V40E)と、少量の超純水及びイソプロパノールを加えた後、均一になるまで撹拌し、触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が0.5mg/cmになるように均一に塗布・乾燥して、電極触媒層付きガス拡散層を作製した。上記の電極触媒層付きガス拡散層の間に、高分子電解質膜を、電極触媒層が膜に接するように挟み、ホットプレス法により160℃、10MPaにて3分間加圧、加熱することにより、膜−電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製の評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込んでセル温度80℃で、アノード及びカソードにそれぞれ75℃で加湿した水素と空気を供給して発電特性を評価した。電流密度が0.5A/cmにおける出力電圧を電力(V)とした。
<NMR測定>
ポリマー(スルホン酸基はNaもしくはK塩)を溶媒に溶解し、VARIAN社製UNITY−500を用いて室温でH−NMRの測定を行った。溶媒にはNMPと重ジメチルスルホキシドの混合溶媒(85/15 vol./vol.)を用いた。ブロックポリマーの親水性セグメント及び疎水性セグメントをそれぞれ構成する親水性オリゴマー及び疎水性オリゴマーは、H−NMRスペクトルを測定し、末端基由来のピークと骨格部分のピークのそれぞれの積分比から、数平均分子量を求めた。また、ブロックポリマーについては、親水性セグメントと疎水性セグメントの組成比をH−NMRで分析した。
<膨潤性評価>
23℃50%RHの室内に1日放置しておいた高分子電解質膜を50mm四方に切り出した後、80℃の熱水に24時間浸漬した。浸漬後、膜の寸法及び重量をすばやく測定した。膜は120℃で3時間乾燥させ、乾燥重量を測定した。以下の式に従って、吸水率及び面積膨潤率を算出した。膜の寸法は特定の頂点に結合した直交する2辺の長さを測定した。
吸水率(%)={浸漬後の重量(g)−乾燥重量(g)}÷乾燥重量(g)×100
面積膨潤率(%)={浸漬後の辺の長さA(mm)×浸漬後の辺の長さB(mm)}÷{50×50}×100−100
<燐の定量分析>
高分子電解質膜を真空乾燥器(110℃)で8時間乾燥させた後、デシケーター中で室温まで放冷した。試料の一部を50ml三角フラスコに秤量し、硫酸(97%、精密分析用)3ml、硝酸(60%、精密分析用)3.5ml、過塩素酸(60%、精密分析用)0.5mlを加えて、ホットプレート上で除々に昇温し、酸分解した。最終的には、硫酸白煙が確認されるまで加熱を続け、硝酸、過塩素酸を除去した。アンモニア水を用いて中和処理を行い、モリブデン酸と分解液中のリン酸を反応させ、リンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元して生じるヘテロポリ青の830nmにおける吸光度を測定して定量した。定量に際しては、別途、リン標準溶液を用いて求めた検量線を用いて行った。
<ジルコニウムの定量分析>
高分子電解質膜を真空乾燥器(110℃)で8時間乾燥させた後、デシケーター中で室温まで放冷した。試料の一部を白金るつぼに秤量し、ホットプレート上で加熱、炭化し、炭化後に電気炉(550℃)で一晩加熱し、灰化した。灰化残渣に塩酸(6M)5mlおよびフッ化水素酸(50%)数滴を添加し、ホットプレート上で加熱処理(100℃)を行った。酸が揮発した後、塩酸(1.2M)20mlを添加し、一晩静置し、無機物を完全に溶解させた。溶解液中のジルコニウム量については、ICP発光分析装置を用いて検量線法により求めた。
<セリウムの定量分析>
試料を真空乾燥器(110℃)で8時間乾燥させた後、デシケーター中で室温まで放冷した。試料の一部を密閉系酸分解用のテフロン(登録商標)製容器に秤量し、硝酸(60%、精密分析用)4mlを加えて、マイクロ波分解装置内で加熱酸分解を行った。完全分解後を確認した後、精製水を用いて30 mlに希釈定容したものを測定液とした。測定液中のセリウム量については、ICP発光分析装置を用いて検量線法により求めた。
<含燐化合物の溶出試験>
高分子電解質膜を重量で500倍以上の過剰量の水に浸漬し、80℃のオーブンで48時間加熱した。試料を取り出し、風乾させた後、燐の定量分析を行った。含燐化合物の溶出量は以下の式より求めた。
溶出量(%)=(溶出試験前の燐の量−溶出試験後の燐の量)/溶出試験前の燐の量×100
<フェントン試験>
硫酸第一鉄(7水和物)0.149gを1Lの水に溶解し、30ppmのFe水溶液を調整した。30ppmのFe水溶液50mlに30% 過酸化水素水50 g を加え、さらに水を加えてよく攪拌し全量を500mlとしてフェントン試薬を調整した。予め100 ℃ で1 時間乾燥した後で重量を測定しておいた高分子電解質膜52m g を、試薬瓶に入れたフェントン試薬29mlに浸漬し、60℃ で3時間または4時間処理し、膜を取り出して水洗し、100 ℃ で1 時間乾燥した後重量を測定した。膜が形状をとどめていない場合は、残渣をガラスフィルターで濾過し、100 ℃ で1 時間乾燥した後重量を測定した。処理前の重量に対する処理後の重量の残存%を求めた。
<透過型電子顕微鏡(TEM)測定>
乾燥させた高分子電解質膜をエポキシ樹脂に包埋した。包埋した試料をミクロトームで超薄切片とし、カーボン蒸着を施してTEM観察用の試料とした。日本電子製JEM2100透過電子顕微鏡を加速電圧200kVで使用し、観察、写真撮影を行った。また、STEM−EDXで元素分析を行った。
<X線光電子分光(XPS)測定>
XPS測定はShimadzu−Kratos ESCA−3400を用いて行った。X線源としてMgKα線を用い、中性炭素を285eVにシフトした。
高分子電解質の合成に関して以下に示す。
<製造例1:高分子電解質(P1)の合成>
4,4’−ジクロロベンゾフェノン−3,3−ジスルホン酸ナトリウム86.90g(190.9mmol)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)41.91g(242.9mmol)、4,4’−ビフェノール(略号:BP)65.14g(353.6mmol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(略号:6F−BisA)26.81g(80.2mmol)、炭酸カリウム65.95g(477.2mmol)、NMP 500ml、トルエン100mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、5時間加熱した。反応溶液を室温まで冷却した後、3000mlの純水に注ぎオリゴマーを固化させ、さらに純水で5回洗浄して、NMP及び無機塩を除去した。濾別した後、120℃で16時間減圧乾燥してランダム共重合体の高分子電解質(P1)を得た。以下、概高分子電解質を(P1)と略記する。P1の化学構造を以下に示す。P1の対数粘度は、1.2dL/gだった。

[上記式中XはNaイオン又はKイオンを表す。]
<製造例2:疎水性オリゴマーの合成>
2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)30.00g(173.9mmol)、4,4’−ビフェノール(略号:BP)33.75g(181.1mmol)、炭酸カリウム27.54g(199.2mmol)、NMP440mlを窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。200℃に昇温し、4時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、3000mlの純水に注ぎオリゴマーを固化させ、さらに純水で3回洗浄して、NMP及び無機塩を除去した。水洗したオリゴマーは、濾別した後、120℃で16時間減圧乾燥して疎水性オリゴマーを得た。H−NMR測定による数平均分子量は6840だった。
<製造例3:親水性オリゴマーの合成>
4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ(略号:S−DCDPS)250.0g(508.9mmol)、BP103.5g(555.2mmol)、炭酸カリウム84.40g(610.7mmol)、NMP700ml、トルエン150mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、16時間加熱した。続いて、NMP500mlを投入し、攪拌しながら室温まで冷却した。得られた溶液を、25G2ガラスフィルターで吸引濾過したところ、黄色の透明な溶液が得られた。得られた溶液を3Lのアセトンに滴下してオリゴマーを固化させた。オリゴマーはさらにアセトンで3回洗浄した後、濾別して減圧乾燥し親水性オリゴマーを得た。H−NMR測定による数平均分子量は6650であった。親水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。

[上記式中XはNaイオン又はKイオンを表す。]
<製造例4:高分子電解質(P2)の合成>
親水性オリゴマー 6.95g、疎水性オリゴマー 6.44g、NMP110mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた200ml枝付きフラスコに入れ、窒素気流下70℃のオイルバス中で攪拌し溶解させた。その後、デカフルオロビフェニル(DFB) 0.67g、炭酸カリウム0.25gを加え、110℃まで加熱し、10時間反応させた。反応溶液の固形分濃度は10重量%とした。その後、室温まで冷却し、1Lの純水中に滴下してポリマーを固化させた。純水で3回洗浄した後、純水に浸漬したまま80℃で5時間処理した。さらに水を除去したポリマーを、1000mlのイソプロパノールと500mlの水との混合溶媒に室温で16時間浸漬し、ポリマーを取り出し洗浄を行った。同じ操作をもう一度行った。その後、濾過でポリマーを濾別し、120℃で12時間減圧乾燥して高分子電解質(P2)を得た。P2の対数粘度は、2.2dL/gだった。H−NMRから求めた親水性セグメントと疎水性セグメントの組成比は32/68だった。
ビニルホスホン酸(VP)とN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)の共重合体の合成に関して以下に示す。
J.Appl.Poly.sci.,70 1947(1998)の記載に準拠し、下記で表される単位構造を有するランダムポリマー(VP−N)を得た。燐量の分析より、このポリマーの燐量はポリマー1gあたり0.11gだった。
実施例1
P2を2N硫酸に一晩浸漬して、スルホン酸基を酸型に変換し、純水で洗浄して遊離の硫酸を除き、110℃で8時間減圧乾燥した。得られた酸型のP2の12%NMP溶液20gにアセチルアセトンジルコニウム(キシダ化学)の2%NMP溶液量0.15gを加え混合し、ポリビニルホスホン酸(略称PVPA、PANCHIM製)の10%水溶液0.6gを加えて混合した。その後、アプリケーターを用いてガラス板上に300μmの厚みでキャストし、100℃で2時間加熱して乾燥した。その後、ガラス板を室温付近まで放冷し、膜ごと水につけて膜を剥離した。剥離した膜を純水で洗浄して残留NMPを除き、風乾して高分子電解質膜を得た。
実施例2
P2のかわりにP1を用い、アセチルアセトンジルコニウムの2%NMP溶液量を1.2gにした以外は実施例1と同様にして高分子電解質膜を作成した。
実施例3
アセチルアセトンジルコニウムの2%NMP溶液量を0.05g、PVPAの10%水溶液量を0.3gにした以外は実施例1と同様にして高分子電解質膜を作成した。
実施例4
アセチルアセトンジルコニウムの2%NMP溶液0.2gのかわりにアセチルアセトンジルコニウムの3%NMP溶液量を2.3g、PVPAの10%水溶液0.3gのかわりにPVPAの20%水溶液1.5gを用いた以外は実施例1と同様にして高分子電解質膜を作成した。
実施例5
P2を2N硫酸に一晩浸漬して、スルホン酸基を酸型に変換し、純水で洗浄して遊離の硫酸を除き、110℃で8時間減圧乾燥した。得られた酸型のP2の12%NMP溶液20gにPVPAの10%水溶液1.4gを加えて混合し、アセチルアセトンジルコニウムの2%NMP溶液1.6gを加え混合した。その後、アプリケーターを用いてガラス板上に300μmの厚みでキャストし、100℃で2時間加熱して乾燥した。その後、ガラス板を室温付近まで放冷し、膜ごと水につけて膜を剥離した。剥離した膜を純水で洗浄して残留NMPを除き、風乾して高分子電解質膜を得た。
実施例6
P2の12%NMP溶液20gにアセチルアセトンジルコニウム20mgを加えアセチルアセトンジルコニウムが溶解するまで混合した。その後、アプリケーターを用いてガラス板上に300μmの厚みでキャストし、100℃で2時間加熱して乾燥した。その後、ガラス板を室温付近まで放冷し、膜ごと水につけて膜を剥離した。その後、膜を純水に浸漬して洗浄し、2N硫酸に1時間浸漬して、スルホン酸基を酸型に変換し、純水で洗浄して遊離の硫酸を除き、風乾した。この膜を過剰量のPVPAの10%水溶液に浸漬し、1時間加熱還流処理した。処理後、室温で膜を水洗し、風乾して高分子電解質膜を得た。
実施例7
アセチルアセトンジルコニウムの2%NMP溶液0.2gのかわりに、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド、1-ブタノール溶液(和光純薬工業製)とアセチルアセトン(東京化成工業製)と酢酸(ナカライテスク製)のZrとアセチルアセトンと酢酸のmol比が1:2:1の混合物0.03gを使用し、PVPAの10%水溶液量を0.6gにした以外は実施例1と同様にして高分子電解質膜を作成した。
実施例8
PVPAのかわりに、VP−Nの10%メタノール溶液0.6gを用いた以外は実施例1と同様にして高分子電解質膜を得た。
実施例9
アセチルアセトンジルコニウムのかわりに、アセチルアセトンセリウム(III)(2水和物)(キシダ化学製)の2%NMP溶液0.15gを用いた以外は実施例3と同様にして高分子電解質膜を作成した。
比較例1
P1の12%NMP溶液20gをアプリケーターを用いてガラス板上に300μmの厚みでキャストし、100℃で2時間加熱して乾燥した。その後、ガラス板を室温付近まで放冷し、膜ごと水につけて膜を剥離した。剥離した膜は純水に浸漬した後、1N硫酸に1時間浸漬して、スルホン酸基を酸型に変換し、純水で洗浄して遊離の硫酸を除き、風乾して高分子電解質膜を得た。
比較例2
P1のかわりにP2を用いた以外は比較例1と同様にして高分子電解質膜を作成した。
比較例3
アセチルアセトンジルコニウムを添加しなかった以外は実施例3と同様にして高分子電解質膜を作成した。
比較例4
P2の12%NMP溶液20gとPVPAの5%NMP/水=15/85(wt/wt)溶液0.6gを混合した。その後、アプリケーターを用いてガラス板上に300μmの厚みでキャストし、100℃で2時間加熱して乾燥した。その後、ガラス板を室温付近まで放冷し、膜ごと水につけて膜を剥離した。剥離した膜を純水に浸漬した後、ZrOCl・8HOの0.015wt%水溶液に一晩浸漬した。その後、膜を純水に浸漬して洗浄し、2N硫酸に1時間浸漬して、スルホン酸基を酸型に変換し、純水で洗浄して遊離の硫酸を除き、風乾して高分子電解質膜を得た。
比較例5
比較例2で得られたプロトン交換膜0.4gをZrOCl・8HOの4wt%水溶液100mlに浸漬し、2時間加熱還流した。その後、膜を取り出して、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(キレスト株式会社)の50%水溶液に一晩浸漬した。膜を純水で洗浄して遊離の酸を除き、風乾してプロトン交換膜を得た。
実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性を表1に示す。

含燐高分子化合物および金属元素を膜中に0.5μm以下のサイズで均一に分散させた実施例1〜9では、添加剤を加えていない比較例1、2と比べて高いプロトン伝導性を示した。
実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜について、添加剤の分散性を評価するためにTEMおよびXPS測定を行った。TEM写真の例を図1に示す。STEM−EDX分析を行うと、実施例1では、黒く見える部分からP及びZrが検出された。比較例4では膜中の黒く見える部分からP、膜表面の黒く見える部分からP及びZrが検出された。TEM写真の黒く見える部分のサイズから、燐元素と金属元素を含む組成物のサイズを求めた。
含燐高分子化合物と金属元素を添加した膜で、燐元素と金属元素を含む組成物のサイズが0.5μm以下で、かつ膜表面に燐元素と金属元素を含む層がない膜を、添加剤が均一に分散していると判定した。
TEM写真から求めた燐元素と金属元素を含む組成物のサイズを表2に示す。比較例3、4では膜中の黒色部分から金属元素は検出されなかったので、燐元素を含み金属元素を含まない組成物のサイズを示している。比較例4では膜表面にZr元素が多いため膜中のZr元素量が検出限界以下だったと推測される。
またXPS測定で得られた膜表面の元素量の分析結果を表2に示す。膜表面の金属元素の全体量に対する割合は以下の式より求めた。XPSの検出範囲を0.0075μmとして計算した。
膜表面の金属元素の全体量に対する割合=[{膜表面のZr量(Atom%)×0.0075(μm)/膜厚(μm)}/膜全体のZr量(Atom%)]×100

比較例3、4ではTEM写真で黒色部がひも状の形状をとり、明確な長さが判別できなかったので、黒色部の幅を示した。
実施例1〜9では燐元素と金属元素を含む組成物のサイズが0.5μm以下で、かつ比較例4で見られるような添加剤を含む表面層が見られなかった。XPS分析でも比較例4では膜表面にZr元素が多くなっていたが、実施例1〜9ではZr元素は検出限界以下で、Zrが膜全体に均一に分散している場合に妥当な値であった。
実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜について、フェントン試験を行った。結果を表3に示す。

比較例1のランダムポリマーの高分子電解質膜は3時間で膜がかなり脆い状態となり、4時間ではほとんど形状を留めていなかった。比較例2のブロック共重合体ポリマーの高分子電解質膜は4時間で親水性セグメントが完全に脱落し、疎水部のみが残留した状態であった。実施例1〜9及び比較例3〜5の含燐化合物を添加した高分子電解質膜は重量変化が小さく、含燐化合物の添加によりフェントン耐性が上がることを確認した。
実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜について、含燐化合物の溶出試験および溶出試験後の膜のフェントン試験を行った。結果を表4に示す。

80℃の水に48時間浸漬することにより、含燐高分子化合物のみを添加した比較例3では燐の溶出が見られたが、含燐高分子化合物と金属元素を添加した実施例1〜9、比較例4では燐の溶出が抑制されていた。また低分子量の含燐化合物と金属元素を添加した比較例5では燐の溶出の抑制が不十分であった。
溶出試験後の膜のフェントン試験を行ったところ、含燐高分子化合物と金属元素を添加した実施例1〜9は金属元素を添加していない比較例3および溶出の抑制が不十分な比較例5より高いフェントン耐性を示し、金属元素の添加により含燐高分子化合物の溶出を抑制することで長期にわたる高い耐酸化性が得られると考えられる。
実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜について、発電試験を行った。結果を表5に示す。

電力は、比較例2より実施例1の方が高く、高い電池性能を示した。
以上の結果より、高分子電解質に含燐高分子化合物を混合することにより耐酸化性が向上することが明らかになった。また含燐高分子化合物に加えて金属元素を添加することにより、含燐高分子化合物の溶出が抑制されることが明らかになった。さらに、含燐高分子化合物と金属元素を0.5μm以下のサイズで均一に分散させることにより、プロトン伝導性が向上した。以上のことから、長期にわたる耐酸化性を向上させると共にプロトン伝導性を向上させた固体高分子電解質膜を得ることが出来る。
本発明は、添加成分の溶出などを起こすことなく、耐酸化性及びプロトン伝導性を向上することができる優れた高分子電解質膜と、該高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体、燃料電池を提供するものであり、産業界に寄与すること大である。

Claims (8)

  1. 芳香族炭化水素系高分子電解質90〜99.95質量部と含燐高分子化合物0.05〜10質量部と金属元素10〜5000ppmを含む固体高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜であって、高分子電解質膜中に存在する燐元素と金属元素を含む組成物が0.5μm以下のサイズで均一に分散している高分子電解質膜。
  2. 上記の高分子電解質膜の膜表面5〜10nmにある金属元素量が、全添加量に対して10%以下であり、膜厚が5〜30μmである請求項1に記載の高分子電解質膜。
  3. 高分子電解質と金属アルコキシドあるいは金属キレート化合物と高分子電解質を溶解する非プロトン性極性溶媒あるいは非プロトン性極性溶媒と水あるいはアルコールとの混合溶媒を含む溶液から製膜される請求項1又は2のいずれかに記載の高分子電解質膜。
  4. 高分子電解質と金属アルコキシドあるいは金属キレート化合物と含燐高分子化合物と高分子電解質を溶解する非プロトン性極性溶媒あるいは非プロトン性極性溶媒と水あるいはアルコールとの混合溶媒を含む溶液から製膜される請求項1又は2のいずれかに記載の高分子電解質膜。
  5. 前記含燐高分子化合物が、ポリビニルホスホン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質膜。
  6. 前記金属元素がMg、Ca、Co、Ni、Zn、Sr、Zr、Ba、Ceからなる群より選ばれる1種以上の金属元素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体。
  8. 請求項7に記載の膜/ 電極接合体を用いた燃料電池。
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