JP2012069416A - 電極形成用ペースト及びその塗膜を電極膜とする高分子トランスデューサ - Google Patents

電極形成用ペースト及びその塗膜を電極膜とする高分子トランスデューサ Download PDF

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Abstract

【課題】任意の固形分濃度に調製でき、ハンドリング性・塗工性・保存安定性に優れた電極形成用ペースト、その電極形成用ペーストを塗工し乾燥して得られる均一で優れた柔軟性を示す電極膜、及び工業的に、また経済的に実現が可能であり優れた性能を示す高分子トランスデューサを提供する。
【解決手段】電極形成用ペーストは、下記化学式(1)
Figure 2012069416

で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及び実質的にイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を含むブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、炭化水素溶媒(B)と、有機溶媒(C)と、導電性微粒子(D)とを含有している。電極膜はこの電極形成用ペーストを乾燥固化し膜状に形成されている。高分子トランスデューサは、高分子固体電解質が一対のこの電極膜で挟まれている。
【選択図】なし

Description

本発明は電極膜材料として有用である電極形成用ペースト及びそれにより形成された塗膜を電極膜とする高分子トランスデューサに関する。
近年、医療機器やマイクロマシン等の分野において、小型かつ軽量なアクチュエータやセンサのように、ある種類のエネルギーを別の種類のエネルギーに変換するトランスデューサの必要性が高まっている。また産業用ロボットやパーソナルロボット等の分野において、軽量で柔軟性に富むトランスデューサの必要性も高まっている。
この様に多くの分野で、軽量で柔軟なトランスデューサとして高分子トランスデューサが注目されており、様々な方式の高分子トランスデューサが報告されている。
例えば、特許文献1に、陽イオン交換膜と該イオン交換膜の両面に接した電極とからなる小型で柔軟性に優れたアクチュエータ素子が、開示されている。また、本発明者らは特許文献2において、特定の分子構造を持つ高分子固体電解質成分により、極めて柔軟性に優れた高分子トランスデューサについて開示している。特許文献1及び2の発明は、いずれも高分子固体電解質に対して少なくとも一対の電極層を設けた構造であり、無電解メッキの手法を用いて高分子固体電解質に電極層が形成された積層構造を有するものである。
一方、その積層構造について、特許文献3及び4に、高分子固体電解質と導電性微粒子とからなる組成物を電極層として用いた高分子トランスデューサが開示されている。これらの高分子トランスデューサの動作において、高分子固体電解質と、例えば、無電解メッキ法で形成されるデンドライト状金属、金属微粒子、カーボン微粒子等の導電性物質との界面における電気二重層の形成が重要な役割を示す。この電気二重層をより多く形成させるためにこのような組成物で形成する方法が採用されている。
一般的に無電解メッキ法は、貴金属ドープと還元剤による還元とを数回繰り返す必要があり、工業的に適したものであるとは言い難い。その点、特許文献3〜4及び非特許文献1〜3に開示されている高分子固体電解質と導電性微粒子との組成物を用い、これを適切な媒体に溶解又は分散させた液やペーストから得られる膜を電極膜とする方法は、工業的・経済的に実現可能であると期待されている。このように用いられるペーストは、固形分濃度の調製、保存安定性、ハンドリング性、塗工性等がいまだ十分ではないため、より実用性に優れたものが望まれている。
特開平6−6991号公報 特開2007−336790号公報 米国特許出願公開第2005/0103706号明細書 米国特許出願公開第2006/0266642号明細書
未来材料、2005年、第5巻、第10号、p.14〜19 アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie International Edition)、2005年、第44巻、p.2410〜2413 ポリマー(Polymer)、2002年、第43巻、p.797〜802
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、任意の固形分濃度に調製でき、ハンドリング性・塗工性・保存安定性に優れた電極形成用ペースト、その電極形成用ペーストを塗工し乾燥して得られる均一で優れた柔軟性を示す電極膜、及び工業的に、また経済的に実現が可能であり優れた性能を示す高分子トランスデューサを提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意検討を行った結果、高分子トランスデューサの製造に適した電極形成用のペースト、この電極形成用ペーストを乾燥して得られる塗膜及びこれを用いて得られる高分子トランスデューサが優れた性能を有することを見だし、本発明を完成させた。
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された電極形成用ペーストは、下記化学式(1)
Figure 2012069416
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及び実質的にイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を含むブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、沸点が150℃以上の炭化水素溶媒(B)と、水酸基、エステル基、カルボニル基、及びアミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する沸点が150℃以上の有機溶媒(C)と、導電性微粒子(D)とを含有していることを特徴とする。
請求項2に記載の電極形成用ペーストは、請求項1に記載されたものであって、前記アニオンYが、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンから選ばれるアニオンであることを特徴とする。
請求項3に記載の電極形成用ペーストは、請求項1に記載されたものであって、前記導電性微粒子(D)が、金属微粒子、金属化合物微粒子、導電性カーボン微粒子、及び/又は導電性高分子の粉体であることを特徴とする。
請求項4に記載の電極膜は、請求項1に記載の電極形成用ペーストを乾燥固化し膜状に形成されていることを特徴とする。
請求項5に記載の高分子トランスデューサは、高分子固体電解質が、
下記化学式(1)
Figure 2012069416
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及び実質的にイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を有するブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、沸点が150℃以上の炭化水素溶媒(B)と、水酸基、エステル基、カルボニル基、及びアミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する沸点が150℃以上の有機溶媒(C)と、導電性微粒子(D)とを含有する電極形成用ペーストを乾燥固化し膜状に形成されている一対の電極膜で挟まれていることを特徴とする。
本発明の電極形成用ペーストは、粘度の調整が容易であるため、優れたハンドリング性及び塗工性を示すことができる。また、この電極形成用ペーストは、その成分である高分子固体電解質(A)が均一に溶解しているものであって、その状態を長期間維持し、安定して保存することができる。電極形成用ペーストに含まれる高分子固定電解質(A)は均質に溶解した状態で安定であるため、その電極形成用ペーストを塗工し、乾燥させることで、均質な塗膜である電極膜を形成することができる。
本発明の電極膜は、均質なものであり、極めて優れた柔軟性及び靭性を示すことができる。高い塗工性を有する電極形成用ペーストにより簡便に形成される電極膜は、工業的、経済的に優れたものである。この電極膜は、高分子トランスデューサの電極としてその形状を問わず好適に用いることができる。
本発明の高分子トランスデューサは、優れた性能を有する電極形成用ペーストにより、煩雑な工程を必要とせずに製造されたものであって、優れた柔軟性により、高い応答感度を示すことができる。
本発明を適用する高分子トランスデューサの一例を示す断面図である。 本発明を適用する高分子トランスデューサの部材が付加された例を示す断面図である。 本発明を適用する高分子トランスデューサの性能測定方法を示す概要図である。 本発明を適用する高分子トランスデューサに変位を与えてからの経過時間と信号強度との相関関係を示す図である。 本発明の適用外の高分子トランスデューサに変位を与えてからの経過時間と信号強度との相関関係を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
本発明の電極形成用ペーストは、高分子固体電解質(A)、沸点が150℃以上である炭化水素溶媒(B)、沸点が150℃以上であって、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基及びアミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有し、かつ炭化水素溶媒(B)とは異なる有機溶媒(C)及び導電性微粒子(D)を含むものである。
高分子固体電解質(A)を構成する化学式(1)中Rのアリール基やRのアリーレン基として、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基、フェニレン基等が挙げられる。
前記化学式(1)中Rの置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、メチルエトキシ基、エチルエトキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。
前記化学式(1)で示される高分子固体電解質(A)に含まれるカチオンは、水素イオンであるが、実質上は水と結合しオキソニウムイオンとなっていてもよい。一般的に、これらを見分けることは困難である。本明細書においては、これらを統一して水素イオンと記載する。水素イオンは、化学結合を介して高分子固体電解質(A)の高分子主鎖に結合していないため高分子固体電解質内において可動である。
可動イオンである水素イオンに対するアニオンYは、高分子固体電解質(A)の高分子主鎖に結合されている。かかるアニオンYとしては、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオン等を挙げることができる。イオンの解離度を高める観点から、より強い酸の共役アニオンであることが好ましく、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンが好ましい。特に高分子への導入容易性の観点も含めるとスルホン酸アニオンが好ましい。
従って、高分子固体電解質(A)を構成する重合体ブロック(a−1)は、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレン等からなる重合体に含まれる芳香環のうち、少なくとも一部にスルホン酸基が導入された重合体ブロックであることが好ましい。なかでも、前駆体となるブロック共重合体の製造容易性や工業的入手性、スルホン酸基導入の容易性等の観点から、ポリスチレン及び/又はポリα−メチルスチレンの芳香環のうち、少なくとも一部にスルホン酸基が導入された重合体ブロックであることがより好ましい。以後、重合体ブロック(a−1)をスルホン化ポリスチレン系ブロックと記載することがある。
スルホン酸基の導入量は、特に制限されないが、高分子固体電解質(A)のハンドリング性や溶媒への溶解性、イオン伝導性、引いては得られる高分子トランスデューサの性能の観点から、芳香環に対して10mol%〜100mol%、好ましくは25mol%〜80mol%、より好ましくは40mol%〜70mol%の範囲である。この指標をスルホン化率と記載することがある。ここでスルホン化率50mol%とは、芳香環100個のうち、50個にスルホン酸基が導入されていることを示す。スルホン化率がこの範囲よりも低いとき、イオン基の量が不十分となり、得られる高分子トランスデューサの性能が低下するので好ましくない。
高分子固体電解質(A)を構成する重合体ブロック(a−2)としては、室温25℃でゴム状、即ちガラス転移温度(Tg)が25℃以下のものであることが必要である。好ましくは0℃(Tgが0℃以下)、より好ましくは−30℃でも、ゴム状(Tgが−30℃以下)のものである。これにより、電極形成用ペーストを塗布し、乾燥して得られる塗膜は柔軟なものとなるため、柔軟な高分子トランスデューサを得ることができる。この条件が満たされる限り、重合体ブロック(a−2)に関する制限はないが、好ましい例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−r−イソプレン)、ポリ(スチレン−r−ブタジエン)、ポリ(スチレン−r−イソプレン)、ポリ(アクリロニトリル−r−ブタジエン)等のポリ共役ジエン類、これらのポリ共役ジエン類に含まれる炭素−炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ポリ共役ジエン類、ポリn−ブチルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類、ポリイソブチレン、ポリシロキサン類等を挙げることができる。なかでもゴムとしての性質や重合体ブロック(a−1)へのスルホン酸基導入の際の副反応を抑制する観点から、炭素−炭素二重結合の全てが水素添加された水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、水添ポリ(ブタジエン−r−イソプレン)、又はポリイソブチレンであることが好ましい。
ブロック共重合体である高分子固体電解質(A)のブロックシーケンスは、特に制限されないが、(a−1)−(a−2)型のジブロック共重合体、(a−1)−(a−2)−(a−1)、(a−2)−(a−1)−(a−2)のトリブロック共重合体、(a−1)−(a−2)−(a−1)−(a−2)のテトラブロック共重合体、(a−1)−(a−2)−(a−1)−(a−2)−(a−1)、(a−2)−(a−1)−(a−2)−(a−1)−(a−2)のペンタブロック共重合体等のリニア型ブロック共重合体、[(a−1)−(a−2)]−X、[(a−2)−(a−1)]−X型のスター型ブロック共重合体(nは2を超える数、Xはカップリング剤残基である)のうちの何れかであると好ましく、(a−1)−(a−2)−(a−1)型のトリブロック共重合体であるとより好ましい。
高分子固体電解質(A)の数平均分子量は、スルホン酸基を導入した後には測定が難しいため、スルホン酸基導入前の数平均分子量を指標としてもよく、その場合において3000〜30万であると好ましく、1万〜20万であるとより好ましい。これよりも数平均分子量が低い場合には、高分子固体電解質の機械的強度が劣るため好ましくなく、これよりも大きい場合には、電極形成用ペーストとする際に溶媒への溶解性が低下するため好ましくない。
また重合体ブロック(a−1)及び重合体ブロック(a−2)の各合計の質量比は、1:9〜9:1であることが好ましい。この範囲を外れると、機械的強度が大きく低下したり、柔軟性を喪失したりするため好ましくない。
またブロック共重合体は、必要に応じて重合体ブロック(a−1)及び重合体ブロック(a−2)とは別の重合体ブロックを有していてもよい。この重合体ブロックは1つであっても複数であってもよく、複数である場合には同じ化学構造を有するものであってもよいし、異なる化学構造を有するものであってもよい。このような重合体ブロックを構成する重合体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィン類;ポリp−メチルスチレン、ポリp−エチルスチレン、ポリp−アダマンチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレン等のp位に置換基を有するポリスチレン類;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマー類、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリε−カプロラクトン等のポリエステル類;ポリアミド−6、ポリアミド−6,12、ポリアミド−6T、ポリアミド−9T等のポリアミド類、ポリウレタン類、ポリシロキサン類等を挙げることができる。
別の重合体ブロックには、所定の機能を担わせることができる。例えば、別の重合体ブロックに、形状安定性を補強する作用を期待する場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド−6、ポリアミド−6,12、ポリアミド−6T、ポリアミド−9T等の結晶性ポリマーや、ポリp−メチルスチレン、ポリp−アダマンチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレン等の高いガラス転移温度を有するポリマーからなる重合体ブロックを用いることが好ましい。なお、別の重合体ブロックには、重合体ブロック(a−1)とは異なる機能を期待するため、実質的に、イオン基が含まれていないことが好ましい。
ブロック共重合体のより具体的な例としては、スチレン及び/又はα−メチルスチレンのベンゼン環のp位(4位)に、スルホン酸基が直接結合している重合体ブロック(a−1)と、1,3−ブタジエン単位及び/又はイソプレン単位からなり炭素−炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている重合体ブロック(a−2)とからなり、ブロックシーケンスが(a−1)−(a−2)−(a−1)であるトリブロック共重合体を挙げることができる。
本発明の電極形成用ペーストに含まれる炭化水素溶媒(B)は、常圧で150℃以上の沸点であることが必要である。これを下回る場合、電極形成用ペーストが乾燥しやすくなり塗工時の作業性が低下する傾向にある。
このような炭化水素溶媒(B)としては、例えば、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、デセン、ウンデセン、α−ターピネン、β−ターピネン等の飽和または不飽和炭化水素類;クメン、o-シメン、m−シメン、p−シメン、o−ジエチルベンゼン、m−ジエチルベンゼン、p−ジエチルベンゼン、o−ジイソプロピルベンゼン、m−ジイソプロピルベンゼン、p−ジイソプロピルベンゼン及びこれらの異性体混合物等の芳香族炭化水素類を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の電極形成用ペーストに含まれる有機溶媒(C)は、水酸基、エステル基、カルボニル基、アミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有するものである。また、常圧で150℃以上の沸点であることが必要である。沸点が150℃以下である場合には、ペーストが乾燥しやすくなり塗工時の作業性が低下する傾向にある。
このような有機溶媒(C)としては、例えば、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、ターピネオール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ターピネオール、シクロヘキサノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類;イソホロン、シクロヘキサノン、2−オクタノン、3−オクタノン等のケトン類;N−メチルピロリドン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類等を挙げることができる。
溶媒としては少なくとも炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)の二種類を用いることが重要である。これは、電極形成用ペーストに含まれる高分子固体電解質(A)が、高い極性を持つスルホン化ポリスチレン系ブロック(a−1)と、低い極性を持つ重合体ブロック(a−2)とからなるブロック共重合体であるがゆえに、単純な、単独の溶媒への溶解が困難であるためである。また、あまりに沸点が高い場合には、電極形成用ペーストを塗工した後の乾燥工程が長時間化したり、溶媒が塗膜内に残留したりする等の影響が現れることがあるため好ましくない。この観点から溶媒の沸点は、300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
本発明の電極形成用ペーストに含まれる導電性微粒子(D)としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル等の金属微粒子;酸化ルテニウム(RuO)、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、二酸化イリジウム(Ir)、酸化タンタル(Ta)、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、硫化亜鉛(ZnS)等の金属化合物微粒子;カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)等のカーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF)等の導電性カーボン微粒子;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン及びこれらの誘導体等の導電性高分子の粉体;等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。なかでも、工業的経済性や高分子トランスデューサとした際の電気化学的安定性等の観点からは、導電性カーボン微粒子であることが好ましい。また、高分子トランスデューサとしての性能の観点からは、大きな比表面積を有するカーボンブラックであることがより好ましい。このようなカーボンブラックの例としてケッチェンブラック(ライオン社製)を挙げることができる。導電性微粒子(D)の平均粒子径は1μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であるのがより好ましく、1nm以上であるのが好ましく、10nm以上であるのがより好ましい。平均粒子径は、例えば電子顕微鏡観察で求めることができる。
電極形成用ペーストは、少なくとも高分子固体電解質(A)、炭化水素溶媒(B)、有機溶媒(C)及び導電性微粒子(D)の四成分からなり、一方、この電極形成用ペーストからなる塗膜である電極膜は、少なくとも高分子固体電解質(A)及び導電性微粒子(D)の二成分からなる。電極形成用ペーストに含まれる炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)は、塗工後の乾燥工程において揮発するものである。
高分子固体電解質(A)と導電性微粒子(D)との組成比は、塗膜の物性に大きく影響を与えるものである。例えば、その質量比は、(A):(D)=99:1〜1:99であると好ましく、得られる塗膜の柔軟性及び電子伝導性の観点からは(A):(D)=95:5〜25:75であることより好ましい。これよりも高分子固体電解質(A)が多い場合には電子伝導性が低下し、導電性微粒子(D)が多い場合には柔軟性が低下する傾向がある。
下記式(2)で定義される電極形成用ペーストの固形分濃度(%)は、ペーストの印刷特性やハンドリング性、さらに適した印刷方法に影響を与える。
[{(A)+(D)}/{(A)+(B)+(C)+(D)}]×100(%)・・・(2)
式(2)中、それぞれ、(A)は高分子固体電解質、(B)は炭化水素溶媒、(C)は有機溶媒、(D)は導電性微粒子の質量を示す。
前記の通り、適切な固形分濃度は採用する印刷方法に依存するものである。本発明の高分子トランスデューサの電極層としての形状から好適であるスクリーン印刷法を用いる場合、適切な固形分濃度は、3質量%以上であると好ましく、10質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましい。固形分濃度がこれよりも低い場合には、ペーストの粘度が低下しすぎるため液ダレ等による不良が発生し易い傾向にある。一方、70質量%よりも固形分濃度が高い場合には、ペーストの粘度が高くなりすぎ、カスレ等の不良が発生し易い傾向にある。
本発明の電極形成用ペーストにおける炭化水素溶媒(B)と有機溶媒(C)との質量比は、特に制限はなく、用いる高分子固体電解質(A)の溶解性や分散性を考慮して決定されるものである。炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)の質量比は、例えば、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは15:85〜85:15の範囲である。
本発明の電極形成用ペーストは、高分子固体電解質(A)と、炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)と、導電性微粒子(D)とを適切な方法で混合することにより得られる。高分子固体電解質(A)は炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)に対して、溶解していても分散していてもよいが、均質な塗膜を得やすいという観点からは溶解している方が好ましい。
混合する方法は、特に制限されないが、例えば高分子固体電解質(A)を予め炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)に溶解させた液(ビヒクル)に導電性微粒子(D)を加え、撹拌機(攪拌翼)、ビーズミル、ボールミル、ロールミル等の混練機、分散機を用いて混合することが挙げられる。
本発明の電極形成用ペーストは、種々の方法により塗工することができる。塗工の方法としては、例えば、スプレー法、ディップ法、バーコート法、ドクターブレード法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット法等を挙げることができる。なかでも塗膜に求められる形状や作業性の観点から、スクリーン印刷法が望ましい。
このように電極形成用ペーストを塗工した後、乾燥させることで本発明の電極膜を得ることができる。乾燥の条件について特に制限はないが、例えば50〜150℃の温度下、1秒〜1日といった時間範囲で行うことができる。これらは用いる炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)や、高分子固体電解質(A)、炭化水素溶媒(B)、有機溶媒(C)、導電性微粒子(D)の組成比等に依存して決定される。
電極形成用ペーストを乾燥固化させた電極膜で構成される本発明の高分子トランスデューサについて、図1を参照しながら詳細に説明する。高分子トランスデューサ1は、高分子固体電解質層2に対し、少なくとも互いに独立し絶縁した一対の電極層3a及び3bが付与された構造を持つ。この構造は、厚み方向に対し、電極層3a/高分子固体電解質層2/電極層3bの順に積層されたものである。積層構造の電極層3aと電極層3bとは、互いには絶縁している独立した電極である。高分子トランスデューサ1を曲げ量等のセンサとして用いる場合には、高分子トランスデューサ1に曲げを与えた際に電極層3a及び電極層3bの間に生じる電位差を信号として読み取って使用する。高分子トランスデューサ1をアクチュエータとして用いる際には、電極層3a及び電極層3aの間に外部から電位差を与えることにより駆動する。
図2に、部材を付加した別な高分子トランスデューサ1を示す。高分子トランスデューサ10は、電極層3a/高分子固体電解質層2/電極層3bの積層構造のそれぞれ電極層3a,3bの外側に、その長手方向の抵抗を低減すべく、集電体4a,4bが設けられたものである。さらに、その集電体4a,4bの外側を、保護層としての作用を有するフィルム基材5a,5bで覆われた構造である。ここで、集電体4a/電極層3a/高分子固体電解質層2/電極層3b/集電体4bの積層構造をセンサ部1Aとする。集電体4a,4bは、高分子トランスデューサ1を構成する一対の電極層3a,3bのうち少なくとも一方の電極の外側、つまり高分子固体電解質2に対して反対側に配設することができる。
集電体4a,4bは、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム等の金属箔や金属薄膜;金、銀、ニッケル等の金属粉またはカーボンパウダー、カーボンナノチューブ、炭素繊維等の炭素微粉とバインダー樹脂からなる成形体;織物、紙、不織布等の布帛や高分子フィルム等にスパッタやメッキ等の方法により金属薄膜を形成したもの等を挙げることができる。なかでも可撓性の観点からは金属粉とバインダー樹脂とからなる膜状成形体、布帛や高分子フィルム等に金属薄膜を形成したものであることが好ましい。
フィルム基材5a,5bは、一般的に用いられるポリマーフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、エラストマーフィルム等を用途に応じて適宜用いることができる。このフィルム基材5a,5bは高分子トランスデューサ1を使用する際に除去してもよいし、そのまま一体としてもよい。そのまま一体として用いる場合にはフィルム基材5a,5bは保護層として作用する。
かかる高分子トランスデューサ1の形状は、特に制限されず、例えば膜状、フィルム状、シート状、板状、繊維状、円柱状、柱状、球状等の種々の形状を挙げられる。
図1及び2に示されるように、膜状、フィルム状、シート状、板状の高分子トランスデューサ1を製造する方法は、例えば、膜状に成形した高分子固体電解質層2の両面上に、電極形成用ペーストを塗工・乾燥して得られる塗膜である電極層3a,3bを、相互に絶縁が確保される状態で貼り合わせ(図1)、必要に応じて集電体4a,4bを塗工法等により形成する(図2)方法;
膜状に成形した高分子固体電解質層2の両面に電極形成用ペーストを塗工・乾燥することで相互に絶縁した電極層3a,3bを形成し(図1)、必要に応じて集電体4a,4bを塗工法等により形成する(図2)方法;
フィルム基材5a上に必要に応じて集電体4aを形成した後、電極形成用ペーストを塗工・乾燥して電極層3aを形成し、その上に高分子固体電解質層2を構成する成分を含む溶液又は分散液を塗工・乾燥して高分子固体電解質層2を形成し、次いで電極形成用ペーストを塗工・乾燥して電極層3bを形成した後、必要に応じて集電体4bを形成し、さらに必要に応じてカバーとしてフィルム基材5bを貼合せる(図2)方法;
フィルム基材5a,5b上に必要に応じてそれぞれ集電体4a,4bを形成した後、電極形成用ペーストを塗工・乾燥してそれぞれ電極層3a,3bを形成し、次いで高分子固体電解質層2を構成する成分を含む溶液又は分散液を、それぞれの電極層3a,3bに塗工・乾燥して、電極層3a−高分子固体電解質層2及び電極層3b−高分子固体電解質層2の積層構造を形成させてできたフィルム状前駆体同士の高分子固体電解質層2面同士を熱プレスし、ラミネートによって貼り合せる(図2)方法;等を挙げられる。
高分子固体電解質層2を構成する成分を含む溶液又は分散液は、例えば、本発明の電極形成用ペーストの構成要素である高分子固体電解質(A)の溶液又は分散液を用いることができる。
高分子トランスデューサ1の電極層3a,3b、高分子固体電解質層2、必要に応じて配設される集電体4a,4b、フィルム基材5a,5bの各厚さは、特に制限されず、高分子トランスデューサの用途等により適宜調整される。ただし、電極層3a,3bの厚さは、好ましくは1μm〜10mm、より好ましくは5μm〜1mm、さらに好ましくは10〜500μmの範囲である。また、高分子固体電解質2の厚さは、好ましくは1μm〜10mm、より好ましくは5μm〜1mm、さらに好ましくは10〜500μmの範囲である。また、図2に示される集電体4a,4bを設ける場合には、その厚みは、好ましくは1nm〜1mm、より好ましくは5nm〜100μm、さらに好ましくは10nm〜50μmの範囲である。同様に、図2に示されるフィルム基材5a,5bの厚みとしては、保護層としてそのまま使用するか否かに関わらず、製造時の取扱い容易性の観点や保護層としての強度の観点から、好ましくは1μm〜10mm、より好ましくは10μm〜1mm、さらに好ましくは30μm〜500μmの範囲ある。
本発明の高分子トランスデューサ1は、空気中、水中、真空中、有機溶媒中で動作することができる。さらに使用環境に応じて、適宜封止を施してもよい。封止材としては特に制限はなく、各種樹脂等を挙げることができる。
この様な本発明の高分子トランスデューサ1に外部より変位、圧力等の機械的エネルギーを加えると、相互に絶縁した電極間に電気エネルギーとして電位差(電圧)を発生させることができる。このため、本発明の高分子トランスデューサを、変動、変位又は圧力を検知する変形センサや変形センサ素子として使用することもできる。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明の電極形成用ペーストの調製を実施例1〜4に示し、それを塗工し、乾燥することにより得られる塗膜を電極膜として含む高分子トランスデューサの製造について実施例5〜8に示す。
実施例及び比較例で使用した材料について以下に示す。
(1)ポリスチレン−b−ポリ(1,3−ブタジエン)−b−ポリスチレンの水素添加物(SEBS):株式会社クラレ製「セプトン8007」をトルエンに溶解させた後、水により3回洗浄し、次いで大過剰のアセトンに再沈殿させて精製したものを用いた。
(2)ポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリスチレンの水素添加物(SEPS):株式会社クラレ製「セプトン2002」をトルエンに溶解させた後、水により3回洗浄し、次いで大過剰のアセトンに再沈殿させて精製したものを用いた。
(3)ポリα−メチルスチレン−b−ポリ(1,3−ブタジエン)−b−ポリα−メチルスチレンの水素添加物(mSEBmS):国際公開第02/40611号に開示されている方法と同様の方法で、ポリα−メチルスチレン−b−ポリ(1,3−ブタジエン)−b−ポリα−メチルスチレン型トリブロック共重合体を合成した。得られたトリブロック共重合体は、その数平均分子量が、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定でポリスチレン換算により、76,000であり、核磁気共鳴(H−NMR)から求められた1,3−ブタジエンに由来する1,4−結合量が55%であり、α−メチルスチレン単位の含有量が30質量%であった。合成したトリブロック共重合体のシクロヘキサン溶液を調製し、十分に窒素置換を行った耐圧容器に仕込んだ後、Ni/Al系のチーグラー型水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下80℃で5時間の水素添加反応を行い、mSEBmSを得た。得られたmSEBmSの水素添加率はH−NMRより99.6mol%であった。
(4)無水酢酸:和光純薬工業株式会社より購入してそのまま用いた。
(5)濃硫酸:和光純薬工業株式会社より購入してそのまま用いた。
(6)ジクロロメタン:キシダ化学株式会社より購入し、モレキュラーシーブ(4A)に接触させたものを用いた。
(7)ジイソプロピルベンゼン:三井化学株式会社より購入し、そのまま用いた。
(8)1−ヘキサノール:和光純薬工業株式会社より購入し、そのまま用いた。
(9)導電性カーボンブラック:ライオン株式会社より購入した「ケッチェンブラックEC600JD」を、150℃で12時間、真空乾燥したものを用いた。
(10)ナフィオン分散液:和光純薬工業株式会社より「20%ナフィオン分散溶液DE2021 CSタイプ」を購入して、そのまま用いた。ナフィオンとは、デュポン社製パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの商品名である。
その他の溶媒、試薬類は市販品を購入し、必要に応じて一般的な方法で精製したものを用いた。
(製造例1)
mSEBmSの355gを撹拌機付きのガラス製反応容器中にて1時間真空乾燥し、次いで、窒素で系内を置換した後、塩化メチレン3Lを加え、35℃にて2時間攪拌して溶解した。溶解後、塩化メチレン155mL中、0℃にて無水酢酸34.7mLと濃硫酸77.5mLとを反応させて得られたスルホン化剤(アセチルサルフェート)を、5分間かけて徐々に滴下した。35℃にて7時間攪拌後、10Lの蒸留水の中に攪拌しながら反応溶液を注ぎ、スルホン化mSEBmSを凝固析出した。析出した固形分を90℃の蒸留水で30分間洗浄し、さらに濾別した。この洗浄及び濾別の作業を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰返し、最後に濾集した重合体を真空乾燥してスルホン化mSEBmSを得た。得られたスルホン化mSEBmSのα−メチルスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMRスペクトル測定から49.8mol%、プロトン交換容量は1.08mmol/gであった。
(製造例2)
製造例1において、mSEBmSに代えてSEBSを用い、反応時間及び用いるスルホン化剤の量を変化させる以外は同様の操作を行ってスルホン化SEBS(1)を得た。得られたスルホン化SEBSのスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率は48.5mol%、プロトン交換容量は1.21mmol/gであった。
(製造例3)
製造例1において、mSEBmSに代えてSEPSを用い、反応時間及び用いるスルホン化剤の量を変化させる以外は同様の操作を行ってスルホン化SEPS(2)を得た。得られたスルホン化SEPSのスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率は51.2mol%、プロトン交換容量は1.29mmol/gであった。
(実施例1)
製造例1で得られたスルホン化mSEBmSの20.5gを、ジイソプロピルベンゼン63.6gと、1−ヘキサノール15.9gとの混合溶媒に攪拌溶解させた。次いで、この溶液に、ケッチェンブラック4.59gを加えて、精密分散乳化機(エム・テクニック株式会社製「クレアミックスCLM−0.8S」)を用い、ローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことにより電極形成用ペースト(I)を調製した。
(実施例2)
製造例1で得られたスルホン化mSEBmSの24gを、ジイソプロピルベンゼン21.6gと、1−ヘキサノール50.4gとの混合溶媒に攪拌溶解させた。次いで、この溶液にケッチェンブラック5.36gを加えて、クレアミックスCLM−0.8Sを用い、ローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことにより電極形成用ペースト(II)を調製した。
(実施例3)
実施例2において、スルホン化mSEBmSの代わりに、製造例2で製造したスルホン化SEBSを用いる以外は同様の作業を行い、電極形成用ペースト(III)を調製した。
(実施例4)
実施例2において、スルホン化mSEBmSの代わりに、製造例3で製造したスルホン化SEPSを用いる以外は同様の作業を行い、電極形成用ペースト(IV)を調製した。
(比較例1)
製造例1で作製したスルホン化mSEBmSの24gを、ジイソプロピルベンゼン72gを加えて攪拌したところ溶解しなかったため、クレアミックスCLM−0.8Sを用い、ローター回転数1000rpmで30分間分散処理を行ったが、分散液には未分散物が目視で確認できた。ここにケッチェンブラック5.36gを加えて、クレアミックスCLM−0.8Sを用い、ローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことによりペースト(V)を調製した。
(比較例2)
製造例1で作製したスルホン化mSEBmSの24gを、1−ヘキサノール72gを加えて攪拌したところ、やや白濁した分散液が得られた。この分散液では未分散物は目視では確認できなかった。ここにケッチェンブラック5.36gを加えて、クレアミックスCLM−0.8Sを用いローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことによりペースト(VI)を調製した。
(比較例3)
製造例1で作製したスルホン化mSEBmSの24gを、トルエン21.6gとイソブチルアルコール50.4gの混合溶媒に攪拌溶解させた。次いで、この溶液にケッチェンブラック5.36gを加えて、クレアミックスCLM−0.8Sを用い、ローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことによりペースト(VII)を調製した。
(比較例4)
高分子固体電解質(A)の成分としてナフィオン20gを含む水系分散液であるナフィオン分散液100gにケッチェンブラック4.47gを加えて、クレアミックスCLM−0.8Sを用い、ローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことによりペースト(VIII)を調製した。
実施例1〜4及び比較例1〜4におけるペーストの組成比を表1に示す。
Figure 2012069416
表1中、括弧内数値は仕込み量(g)であり、ナフィオンはナフィオン分散液100g中に含まれるナフィオンの量である。
(ペースト及び塗膜の評価)
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたペーストの保存安定性評価と印刷特性評価とを行った。
(1)ペーストの保存安定性評価
ペースト(I)〜(VII)を、それぞれガラス瓶に採り、蓋をした状態で25℃にて10日間静置した後、ペーストの状態を目視、及び棒でかき混ぜることにより確認した。その状態において、「変化なし」を○、「ゲル状物の発生あり又はゲル化」を△、「沈降物あり」を×とする指標に従って評価した。
(2)ペーストの印刷特性評価
調製したペースト(I)〜(VII)を、スクリーン印刷装置(ニューロング精密工業社製「LS−34TV」)を用いてテスト印刷を行った。この時、スクリーンはテトロン(ポリエステル)材料製、パターンサイズ20mm×20mm、乳材厚12μm、250メッシュのものを用いた。基材には、無延伸PPフィルム(東セロ株式会社製「GLC−50」、厚み50μm、片面コロナ処理)のコロナ処理面に繰返しテスト印刷を実施して、印刷特性に関して官能評価を行った。「問題なく印刷が可能」を○、「印刷に用いたスクリーンのメッシュ部に詰まりが生じ、印刷性が良好とはいえない」を△、「印刷作業開始後、約10分でペースト表面が乾燥、固形化し印刷が不可能となり、印刷性が不良」を×とする指標に従って評価した。
実施例1〜4及び比較例4で得られたペーストをフィルム上に塗工し、乾燥して得た塗膜の柔軟性評価を行った。
(3)塗膜の柔軟性評価
ペースト(I)〜(IV)及び(VIII)を、それぞれ離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、「ピューレックス A31」)の離型処理面に、クリアランス750μmのブロックコーターを用いて塗工し、100℃のホットプレート上で乾燥して塗膜を得た。この塗膜を10mm×30mmの長さにカットし、長さ方向の15mm分をクランプで挟み、固定したうえで、残りの15mmの部分を手で約10mm押し曲げた際の膜の変化について観察した。
ペーストの保存安定性評価及び印刷特性評価と、塗膜の柔軟性評価との評価結果を表2に示す。
Figure 2012069416
表2から明らかなように、本発明の構成要件を満たしている実施例1〜4の電極形成用ペーストは、印刷に適しておりハンドリングも行い易いものであった。またこれを塗工、乾燥して得られた塗膜は、高分子トランスデューサの柔軟性を達成するのに相応しい柔軟性を有していた。
一方、構成要件である有機溶媒(C)を用いていない比較例1のペーストは、高分子固体電解質(A)が十分に溶媒に溶解しないことに起因して、不溶物が存在しており、これが原因でスクリーン印刷時のスクリーン詰まりが起きる等、ペーストに期待される特性を満たしているとは言い難い結果であった。
さらに、構成要件である炭化水素溶媒(B)を用いていない比較例2のペーストは、保存安定性が劣り、また保存中に発生したゲル分等の影響によりスクリーン印刷時のスクリーン詰まりが起きる等、ペーストに期待される特性を満たしているとは言い難い結果であった。
炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)の沸点が本発明の基準を満たしていない比較例3のペーストは、極めて乾燥による変質を起こし易く、優れたペーストであるとは言い難い結果であった。
本発明で用いる高分子固体電解質(A)とは異なる高分子を用いた比較例4のペーストは、塗膜とした際の柔軟性に劣る結果であった。これは、高分子トランスデューサとした際にも正確な信号を与えないだけでなく、変形により破損してしまうため、実際の使用が難しいことを示した。
(実施例5)
市販の銀ペースト(藤倉化成株式会社製「ドータイトXA−954」)で集電体4a,4bを設けたポリプロピレン製のフィルム5a,5b(東セロ株式会社製 無延伸ポリプロピレンフィルム「GLC50」、膜厚50μm)上に、スクリーン印刷装置LS−34TVを用いて、実施例1で調製した電極形成用ペースト(I)を塗工し、その後80℃で乾燥した。この工程を塗膜の厚みが100μmになるまで行い、電極膜3a,3bを形成し、積層体(X)を形成した。
実施例1において、ケッチェンブラックを用いない以外は同様の操作を行い、高分子固体電解質(A)溶液を調製した。この溶液を、積層体(X)上にスクリーン印刷装置LS−34TVを用いて塗工し、その後80℃で乾燥し高分子固体電解質層2を形成した。この工程を高分子固体電解質(A)の膜厚が15μmになるまで行い、積層体(Y)を形成した。
積層体(Y)の二枚を、高分子固体電解質(A)の面同士が接着するように重ね合わせて、この状態で100℃にて5分間プレスをすることで高分子トランスデューサ1を製造した。この際、トランスデューサとしての評価を行うため、リード線12a,12bを設けた。
(実施例6)
実施例5で用いた電極形成用ペースト(I)の代わりに、実施例2で調製した電極形成用ペースト(II)を用いる以外は同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造。
(実施例7)
電極形成用ペーストとして実施例3で調製した電極形成用ペースト(III)を用い、さらに実施例3においてケッチェンブラックを用いない以外は同様の操作を行い得られた高分子固体電解質(A)溶液を用いる以外は実施例5と同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造した。
(実施例8)
電極形成用ペーストとして実施例4で調製した電極形成用ペースト(IV)を用い、さらに実施例4においてケッチェンブラックを用いない以外は同様の操作を行い得られた高分子固体電解質(A)溶液を用いる以外は実施例5と同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造した。
(比較例5)
実施例5で用いた電極形成用ペースト(I)の代わりに、比較例1で調製したペースト(V)を用いる以外は同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造した。
(比較例6)
実施例5で用いた電極形成用ペースト(I)の代わりに、比較例2で調製したペースト(VI)を用いる以外は同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造した。
(比較例7)
実施例5で用いた電極形成用ペースト(I)の代わりに、比較例3で調製したペースト(VII)を用いる以外は同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造した。
(比較例8)
実施例5で用いた電極形成用ペースト(I)の代わりに、比較例4で調製したペースト(VIII)を用いる以外は同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造した。
(高分子トランスデューサの変形センサとしての性能試験)
変形センサとしての応答感度は、高分子トランスデューサに一定変位を与えたときに発生した電圧と定義する。性能試験の測定における概要図を図3に示す。
実施例5〜8及び比較例5〜8で得られた高分子トランスデューサ1について、センサ部1A(20mm×20mm)のうち、長さ方向の10mm分をクランプ11a,11bで挟み、変形センサ長で10mm分をフリーとして測定セルとした。リード線12a,12bを電圧計(キーエンス社製「NR−ST04」)に接続した。この状態で、高分子トランスデューサ1の固定端から5mmの場所に、変位発生器13の振動板13bから駆動伝達部材13aを介して1mmの変位を与えたときに発生した電圧をデータロガーで測定した。なおこの時、高分子トランスデューサ1の固定端から5mmの変位点Pの変位量を、レーザー変位計14(キーエンス社製「LK−G155」)を用いて同時に測定した。変形開始から20秒後に変形を解除した。
各高分子トランスデューサ1の変形解除までの時間における信号強度の変化について、実施例5〜8を図4(a)〜(d)に示し、比較例5〜8を図5(e)〜(h)に示す。図4及び5から得られた変形センサとしての性能について、以下の基準で判断した。信号保持率は、初期の信号強度のうち、変形の解除直前にどれだけの信号強度(電圧値)が保持されたかで定義した。
「初期信号強度>0.75mV/mm、かつ20秒後(変形解除直前)までの信号保持率が50%以上」を◎、「初期信号強度>0.25mV/mm、かつ20秒後(変形解除直前)までの信号保持率が50%以上」を○、「初期信号に関わらず、信号保持率が50%未満」を△、「変形センサとして機能せず」を×、とする指標に従って評価した。実施例5〜8及び比較例5〜8における評価結果を表3に示す。
Figure 2012069416
表3から明らかなように、本発明の構成要件を満たしている実施例5〜8の高分子トランスデューサは、優れた性能を示した。
構成要件である有機溶媒(C)を用いていない比較例5の高分子トランスデューサは、変形を保持している間にも信号を保持することができるような変形を検知するセンサとしての特性は、不十分であった。
構成要件である炭化水素溶媒(B)を用いていない比較例6の高分子トランスデューサは、良好な初期信号強度を示したものの、信号の保持性が劣り、変形を検知するセンサとしての特性は十分であるとは言い難い結果であった。
炭化水素溶媒(B)及び有機溶媒(C)の沸点が本発明の基準を満たしていない比較例7の高分子トランスデューサは、比較的良好な特性を示したが、ペーストとしては乾燥による変質を極めて起こし易く、実質的な使用が難しい結果であった。
本発明で用いる高分子固体電解質(A)とは異なる高分子を用いた比較例8の高分子トランスデューサは、試験中に電極層の割れ等の内部での破損が生じたため、変形センサとして機能しなかったと推測される。
本発明の電極形成用ペーストは、印刷に適した特性を示し、高分子トランスデューサ用の電極材料として有用である。この電極形成用ペーストを塗工し、乾燥して得られる塗膜は、高分子トランスデューサ用の電極膜として活用され、十分な柔軟性を示し高い応答感度を有する高分子トランスデューサとして使用される。この高分子トランスデューサは、種々の変形や変位を計測する柔軟なセンサとして好適に使用することができる。
1は高分子トランスデューサ、1Aはセンサ部、2は高分子固体電解質層、3a,3bは電極層、4a,4bは集電体、5a,5bはフィルム基材、11a,11bはクリップ、12a,12bはリード線、13は変位発生器、13aは駆動伝達部材、13bは振動板、14はレーザー変位計、Pは変位点である。

Claims (5)

  1. 下記化学式(1)
    Figure 2012069416
    (式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)
    で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及び実質的にイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を含むブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、
    沸点が150℃以上の炭化水素溶媒(B)と、
    水酸基、エステル基、カルボニル基、及びアミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する沸点が150℃以上の有機溶媒(C)と、
    導電性微粒子(D)とを含有していることを特徴とする電極形成用ペースト。
  2. 前記アニオンYが、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンから選ばれるアニオンであることを特徴とする請求項1に記載の電極形成用ペースト。
  3. 前記導電性微粒子(D)が、金属微粒子、金属化合物微粒子、導電性カーボン微粒子、及び/又は導電性高分子の粉体であることを特徴とする請求項1に記載の電極形成用ペースト。
  4. 請求項1に記載の電極形成用ペーストを乾燥固化し膜状に形成されていることを特徴とする電極膜。
  5. 高分子固体電解質が、
    下記化学式(1)
    Figure 2012069416
    (式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及び実質的にイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を有するブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、沸点が150℃以上の炭化水素溶媒(B)と、水酸基、エステル基、カルボニル基、及びアミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する沸点が150℃以上の有機溶媒(C)と、導電性微粒子(D)とを含有する電極形成用ペーストを乾燥固化し膜状に形成されている一対の電極膜で挟まれていることを特徴とする高分子トランスデューサ。
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