本発明に係る実施形態を、ハイブリッド車両に具体化し図面を参照して以下に説明する。図1は、本発明に係る車両用駆動装置1を適用したハイブリッド車両用駆動系の概略を示している。図1において、実線による矢印は、各装置間をつなぐ油圧配管を示しており、破線による矢印は、制御用の信号線を示している。また、図1において電磁切替弁50、電動オイルポンプ60、及びリザーバ72は電動モータ20と別体に記載されている。しかし実際には電磁切替弁50、及び電動オイルポンプ60はクラッチ装置40とともに電動モータ20と一体化され、リザーバ72はケース3、及びフロントケース6内に形成されている。また本実施形態においては、車両用駆動装置1のエンジン側を前側とし、変速機側を後側とする。
ケース3は外形を形成する外周壁部3cと、電動モータ20及びクラッチ装置40とトルクコンバータ2との間に形成された後側側壁部3aとを有している。また、ケース3は外周壁部3cが後側側壁部3aから自動変速装置5側に向って所定量延在され、トルクコンバータ2の一部を覆っている。そして延在されたケース3はトルクコンバータ2の残りの部分を覆う図略のケースとボルトによって固定され、自動変速装置5のケース(図示せず)を形成している。
ケース3のエンジン10側にはケース3の蓋部であり前側側壁部3bを形成するフロントケース6が配置され、ケース3とフロントケース6とは、ボルトによって固定されている。ケース3を構成するフロントケース6の前側側壁部3bの中心部には他方の軸としての入力軸41が軸承されるよう貫通孔6aが設けられている。そして貫通孔6aと入力軸41との間にはボールベアリング34が介在され、入力軸41を回転可能に軸承している。
図1に示したように、車両の駆動源としてのエンジン(EG)10と回転電機である電動モータ20とは、湿式多板クラッチであるクラッチ装置40を介して直列に接続されている。クラッチ装置40は、エンジン10と電動モータ20との間の接続を接離しトルク伝達を断続している。また、電動モータ20には、車両の自動変速装置5が直列に接続されており、自動変速装置5には、図示しない車両の駆動輪が図示しないディファレンシャル装置を介して接続されている。自動変速装置(T/M)5は、変速機(図示しない)、及びトルクコンバータ2からなり、トルクコンバータ2の出力が、変速機の入力軸に入力されている。
図1、図2に示すように電動モータ20とトルクコンバータ2とは一方の軸としての出力軸26、及びトルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16を介して回転連結されている。トルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16は他方の軸としての入力軸41と同一回転軸上に並んで配置され、トルクコンバータ2のフロントカバー14に連結されてフロントカバー14と一体回転される。そしてセンタピース16とともにフロントカバー14が回転されることにより、フロントカバー14と連結されるトルクコンバータ2内のポンプインペラ(図示せず)が回転される。これによりポンプインペラによって油流が発生し、発生した油流によって変速機の入力軸に連結されたタービンランナ(図示せず)が回転して変速機の入力軸に回転力が伝達される。出力軸26、センタピース16、及びフロントカバー14の回転軸は、変速機の入力軸と同一回転軸に配置されている。
エンジン10は、炭化水素系の燃料により出力を発生させる通常の内燃機関である。ただしこれに限定されるものではなく、回転軸を駆動させる駆動源であればどのようなものでもよい。また電動モータ20は、車輪駆動用の同期モータであるがこれに限定されるものではない。さらに自動変速装置5は、通常の遊星歯車式自動変速機であり、これに限定されるものではない。クラッチ装置40は、普段はエンジン10と電動モータ20との間を接続しているノーマルクローズタイプのクラッチ装置である。
図1に示すように電磁切替弁50は3ポートを有する2ポジションの電磁弁であり、1つのポートは後述する管路65a、65b、65c、65dによってクラッチ装置40の後述する油圧室46に接続されている。また他の1つのポートは電動オイルポンプ60の吐出口に接続され、残る1つのポートはリザーバ72に接続されている。そして電動オイルポンプ60の吸込口は常にリザーバ72と接続されている。
電磁切替弁50が、図1に示した作動位置P1にある場合、電動オイルポンプ60の吐出口が油圧室46に接続されており、リザーバ72がオリフィス71を介して電動オイルポンプ60の吐出口、及び油圧室46に接続されている。このとき電動オイルポンプ60がリザーバ72内のオイルを吸引し電磁切替弁50を介して油圧室46へと吐出しクラッチ装置40の接続を解除状態とする。この状態において電動オイルポンプ60から油圧室46に吐出されるオイルの圧力は、リザーバ72への通路がオリフィス71によって制限されるため大きく低下することなく十分な圧力として供給される。
また、電磁切替弁50が、図1に示した作動位置P2にある場合、電動オイルポンプ60の吐出口と、油圧室46とがリザーバ72と連通され油圧室46内のオイル(油圧)がリザーバ72へと戻されてクラッチ装置40が接続される。なおこのとき電動オイルポンプ60は停止されている。
電磁切替弁50、及び電動オイルポンプ60には、コントローラ(ECU)70が電気的に接続されている。コントローラ70は電動オイルポンプ60および電磁切替弁50を作動させて、クラッチ装置40に適正な油圧のオイルを供給し、クラッチ装置40を目標とする接続状態に制御している。
コントローラ70は、エンジン10または電動モータ20の回転を制御し、車両を走行させている。さらに、コントローラ70は、自動変速装置5のシフトバルブを作動させる電磁ソレノイド(図示せず)と接続されており、エンジン10の回転速度、車両速度、シフト位置等に基づき、自動変速装置5の作動を制御している。
次に、クラッチ装置40について図2、3に基づいて詳細に説明する。クラッチ装置40は、エンジン10に回転可能に連結される入力軸41(他方の軸)と、電動モータ20のロータ21の回転軸と同一軸線上に回転軸が配置されるロータ21と一体的に連結された出力軸26(一方の軸)と、を有している。
また、クラッチ装置40は、出力軸26の大径側係合部26aに係合された複数の第1クラッチプレートであるセパレートプレート43と、入力軸41の小径側係合部41dに係合された複数の第2クラッチプレートである摩擦プレート42と、を有している。
また、クラッチ装置40は、電動モータ20、セパレートプレート43、及び摩擦プレート42等を囲繞するケースを構成するケース3、及びフロントケース6と、出力軸26と一体的に形成されたシリンダ部材48と、該シリンダ部材48に設けられたシリンダ部49に回転軸線方向に摺動可能に嵌合され、複数のセパレートプレート43、及び摩擦プレート42を押圧する押圧部44aを備えたピストン部材44と、を有している。
さらにクラッチ装置40は、ピストン部材44とシリンダ部材48との間に縮設され、ピストン部材44を複数のセパレートプレート43、及び摩擦プレート42側に向かって付勢する弾性部材であるコイルバネ45と、ピストン部材44とシリンダ部49との間に形成される油圧室46と、ピストン部材44の受圧面44cと対向してシリンダ部材48に設けられるチェックボール式の開閉弁52と、を有している。
入力軸41は、図示しないフライホイール、及び回転振動を吸収するためのダンパを介してエンジン10の出力軸11に回転連結されている(図1参照)。図2に示すように入力軸41はダンパとの固定部41aと、フロントケース6の前側側壁部3bの貫通孔6aに回転支持される連結部41bと、摩擦プレート42を係合する小径側係合部41dが外周部に形成された環状部41cと、を有している。以後、入力軸41が支持される前側側壁部3bの側を入力軸側と称す。
図2、図3に示すように、環状部41cは入力軸41に半径方向に環状に延在するように形成され自動変速装置5側と入力軸側とにそれぞれ壁面38と、反対側の側面である壁面39とを有している。壁面38と壁面39との間には入力軸41の回転軸線(以降、回転軸線とのみ称す)を中心とした同一円周上に等配に3箇所、回転軸線方向に貫通する貫通孔31が設けられている。各貫通孔31の貫通位置は、後述する出力軸26が有する内周開口部32の連結部32aに設けられる開口部が壁面38と対向するオイル孔35よりも回転軸線から離れたオイル孔35の半径方向外周側である。このように形成されることによりオイル孔35と貫通孔31とは連通された状態を形成している。なお、貫通孔31は3箇所を越えて設けてもよいし、1箇所又は2箇所でもよい。
また壁面38において回転軸線を中心とした各貫通孔31の半径方向外縁部には回転軸線方向に沿って延びる突部33が設けられている。突部33は回転軸線を中心に円環状に連続して形成されている。図2の断面形状に示すように、突部33の内周面には回転軸線と平行な平面部33aを有していることが好ましい。この形状によって壁面38に沿って半径方向外周に向かって流れるオイルを良好に停止させ滞留させることができるとともに、突部33を乗り越えるオイルに対しても適切な量だけ良好に乗り越えさせることができる。また突部33の壁面38からの高さは、各貫通孔31に分流させるオイルの必要量と突部33を乗り越えて壁面38上をさらに摩擦プレート38に向かって流れていくオイルの必要量とに応じて決定するものであり、適宜設定すればよい。
環状部41cの外周には小径側係合部41dが形成されている。小径側係合部41dは回転軸線方向に拡幅され、前述した複数の円環上の摩擦プレート42が回転を規制され回転軸線方向に移動可能に係合されている。小径側係合部41dにおける環状部41cの両側部分では摩擦プレート42が係合される位置に達する供給孔36、36がそれぞれ回転軸線から離れる方向に沿って、つまり回転軸線から半径方向に穿設されている。供給孔36、36はオイル孔35から流出し貫通孔31により環状部41cの両側面に分流されたオイルを摩擦プレート42の係合部に供給し、延いては摩擦プレート42に供給するものである。なお、供給孔36、36は各貫通孔31に対応して各貫通孔31の半径方向外周に3箇所のみ配置されるのではなく、所望の位置にさらに複数箇所(例えばさらに3箇所等)設けてもよい。
なお、図2、図3に示すように、本実施形態において各貫通孔31は突部33を熱間鍛造によって形成した後、壁面39側から壁面38に向かってドリルによって加工され、このような方法によって安価に製作されている。ただし製作方法はどのようなものでもよく、全て切削加工によって形成してもよいし、鋳物によって形成してもよい。また可能であれば冷間鍛造によって形成後、ドリルによって加工してもよい。
出力軸26は、トルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16に回転連結されている。センタピース16はケース3の後側側壁部3aに形成された貫通孔3dに回転可能に軸承されている。以後、出力軸26と連結されるセンタピース16が軸承される後側側壁部3aの側を出力軸側と称す。
出力軸26は、図2に示す回転軸方向の断面が逆S字状を呈し、半径方向外周側にエンジン10側に開口された外周開口部27が形成され、内周側に自動変速装置5側に開口された内周開口部32が形成されている。外周開口部27は小径側壁部27dと、大径側壁部27cと、段付きの各底壁部27e、27fとによって包囲され形成されている。なお外周開口部27はシリンダ部材48の一部を兼用している。具体的にはシリンダ部材48は外周開口部27と、後述する固定部材54とによって構成されている。大径側壁部27cの入力軸側の先端部内周面の大径側係合部26aには前述した複数の円環状のセパレートプレート43が回転を規制され回転軸線方向に移動可能に係合されている。
そして複数のセパレートプレート43と、入力軸41の環状部41cの外周部に形成された小径側係合部41dに係合された複数の摩擦プレート42とが交互に接離可能に配置されている。摩擦プレート42と、セパレートプレート43とが交互に配置された状態でセパレートプレート43が回転軸線方向入力軸側に向かって押付けられるとセパレートプレート43が軸方向に移動する。これによって各摩擦プレート42の両面に貼付された各摩擦板42aと各セパレートプレート43とが押付け合って係合し、入力軸41と出力軸26とが回転連結されて、エンジン10の出力軸11と自動変速装置5の入力軸とが一体回転する。
出力軸26の半径方向内周側に形成される内周開口部32は、トルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16と一体回転可能にスプライン結合される固定部32bと、固定部32bの入力軸側の端部から外周方向に向けて延在される連結部32aとを有している。このとき連結部32aの入力軸側の面と、入力軸41が有する環状部41cの出力軸側の壁面38とは狭い所定の隙間を有して対向して配置されている。
内周開口部32と外周開口部27の小径側壁部27dとによって囲まれ自動変速装置5側に開口される空間には、ケース3の後側側壁部3aから円環状の突部63が突設されている。そして外周開口部27の小径側壁部27d内周面が突部63の外周面63bに嵌合され、突部63の内周面63aと内周開口部32の固定部32bとの間にはボールベアリング64が介在され、突部63と内周開口部32とがスムーズに相対回転可能となっている。
後側側壁部3a、及び突部63の内部には前述したように電磁切替弁50と油圧室46とを接続する連通して形成された管路65a、65b、65c、65dを有している。管路65aが電磁切替弁50側の接続管路であり、管路65dが油圧室46側の接続管路である。そして管路65dは突部63の外周面63b全周に刻設された油路66と接続している。油路66は、外周開口部27の小径側壁部27dに貫設される後述する流入ポート61を介して油圧室46に接続され油圧室46へのオイルの給排を許容している。回転軸線方向における油路66の両側には溝が刻設され、該溝内には例えば樹脂製の環状リング67、68が設けられ油路66からのオイルの漏洩を制御している。環状リング67、68部では内周開口部32の内部空間内のベアリング等に油路66のオイルの一部を潤滑油として供給するため、所定量のオイルの漏洩を許容する設計になっている。そして内周開口部32の内部空間内に供給されたオイル(潤滑油)が内部空間に充満するとオイルは連結部32aのオイル孔35から流出が許容され所定の隙間を有して対向する環状部41cの壁面38に供給される。オイル孔35は、連結部32aの回転軸線を中心とした同一円周上に等配に複数(本実施形態においては3箇所)貫設されている。なお、オイル孔35は、3箇所に限らず4箇所以上設けてもよいし、1または2箇所でもよい。
ピストン部材44は、前述したシリンダ部材48内に収容されている。ピストン部材44は、略円板状に形成され中心部に貫通孔44bが形成され、シリンダ部材48と兼用する外周開口部27の小径側壁部27dの外周面に、ピストン部材44側に設けられたゴム製等のOリングを介して軸方向に移動可能に装架されている。ピストン部材44の出力軸側では、軸方向断面において内径部である貫通孔44b側の肉厚が厚く、該肉厚はピストン部材44の外周側に向かって漸減している。またピストン部材44の入力軸側においては、入力軸41の軸線と直交する平面である受圧面44cを有している(図3参照)。そしてピストン部材44は受圧面44cの外周側で軸方向入力軸側に向かって突設される押圧部44aを有している。押圧部44aは円環状に設けられ、押圧部44aの円環内周面には、ピストン部材44が軸方向に摺動可能なように後述する固定部材54の外周面54aと嵌合するための摺動面44dが形成されている。またピストン部材44の最外周面は外周開口部27(シリンダ部材48)の大径側壁部27cの内周面と軸方向に移動可能に係合している。
固定部材54はシリンダ部材48の一部を構成し、シリンダ部材48の一部を兼用する外周開口部27の小径側壁部27d外周面に装架され小径側壁部27dと一体的に固定されている。このように構成された固定部材54におけるピストン部材44との対向面と、固定部材54の外周面54aと、外周開口部27の小径側壁部27dの外周面と、によってシリンダ部材48のシリンダ部49が形成されている。
固定部材54は略円環状に形成され、外周面54aと、内周面54bと、入力軸側平面54cと、出力軸側平面54dと、を有している。そして小径側壁部27dの外周面で固定部材54の入力軸側には例えばCリング等の固定リング47が嵌入しており、これによって固定部材54の入力軸側方向への移動を規制している。
固定部材54の内周面54bには例えばゴム製のOリングが配設され油圧室46を液密に封止している。固定部材54の外周面54aは、ピストン部材44の押圧部44aの内周面である摺動面44dに嵌合している。固定部材54の外周面54aにも例えばゴム製のOリングが配設され、油圧室46を液密に封止している。また固定部材54の図2、図3に示す位置にはクラッチ装置40を係合するために電動オイルポンプ60の作動が停止され油圧室46内のオイルが流入ポート61から排出されて油圧が低下したときに油圧室46内に残留するオイルを排出するためのチェックボール式の開閉弁52が設けられている。
開閉弁52は、固定部材54に貫設された貫通孔に嵌入されている。開閉弁52は、ボール52aと、ケース52bとを有している。ボール52aは精度よく真球度が確保された一般的にチェックバルブに利用される例えばステンレス等の金属製のボールであり、ケース52b内の空間52c内に収容されている。
クラッチ装置40の係合解除時には、油圧室46内には油圧が供給される。これによってボール52aに油圧が付与されボール52aがケース52bのシール部57に押圧されて油圧室46内の油圧を封止している。
またクラッチ装置40の係合時には油圧室46内のオイル(油圧)が流入ポート61を介して排出され油圧室46内の圧力が低下する。そしてボール52aはボール52a自身が受ける遠心力によって出力軸26の外周方向へ付勢されシール部57から連続して形成されたテーパ面上を転がり出力軸26の外周側に移動する。これによりボール52aはシール部57から離間してシール部57を開放し油圧室46内の残留オイルをケース3内に排出する。
油圧室46は固定部材54の出力軸側平面54dと、ピストン部材44の受圧面44cと、押圧部44aの摺動面44dと、外周開口部27の小径側壁部27d外周面とによって囲繞され形成されている。油圧室46は、前述したように電磁切替弁50、管路65a、65b、65c、65d、及び油路66を介して電動オイルポンプ60とリザーバ72とに連通する流入ポート(流入口)61と接続され、流入ポート61は外周開口部27の小径側壁部27dに貫設されている。流入ポート61は小径側壁部27dの円周上に例えば3カ所等配に設けられている。ただし、流入ポート61の個数は3カ所に限らず、油圧室46に供給する油圧の大きさや、油圧室46から油を排出するときの排出能力を考慮して決定すべきであり、適宜実施者によって決定すればよい。
油圧室46にオイル(油圧)を供給する側(P1側)と、油圧室46からオイル(油圧)を抜く側(P2側)とは電磁切替弁50を操作することによって切替えられ、P2側に切替えられることによって油圧室46は流入ポート61を介して大気と連通される。
弾性部材であるコイルばね45は、図2、図3に示すように、ピストン部材44と、外周開口部27(シリンダ部材48)の底壁部27fとの間に縮設されている。コイルばね45は本実施形態においてはピストン部材44の回転軸線における同一半径上に10個、均等な間隔で配置されピストン部材44を入力軸側に付勢し、ピストン部材44の押圧部44aによって摩擦プレート42と、セパレートプレート43とを所定の荷重で押圧し圧接する。コイルばね45が配置されるピストン部材44の出力軸側の面には、10個の各コイルばね45が配置されるようにコイルばね45のコイル外径より若干大きな径の円筒穴が穿設され、各コイルばね45が該円筒穴に係入されている。なお、本実施形態においてはコイルばね45を10個配置した。しかしこれに限らず摩擦プレート42及びセパレートプレート43を押圧して係合させることが可能な付勢力を付与でき、且つ押圧部44aが摩擦プレート42及びセパレートプレート43を全周に亘って均等に押圧できればコイルばねはいくつ配置してもよい。
次に回転電機である電動モータ20について図2に基づいて説明する。3相交流モータ等からなる電動モータ20は、出力軸26の外周開口部27の外周側に配置されている。電動モータ20は、円筒状のロータ21と、ロータ21の半径方向外周に対向して配置され珪素鋼板(図示せず)を積層してなるステータ22と、ステータ22の突出部に巻回されるコイル23とを備えている。ロータ21はステータ22との間で磁気的な反発力または吸引力が発生することにより、ステータ22に対し回転可能な構成となっている。
ステータ22は、外周側がケース3の外周壁部3cの内周面に固定されている。またロータ21は、出力軸側端面から板部材24が半径方向内周側に延在されて出力軸26の底壁部27eの出力軸側側面にボルトによって固定されている。これにより電動モータ20はロータ21のみが出力軸26と一体回転される。またコイル23はコントローラ70と電気的に接続されており、コントローラ70は、各種状態を検出するいずれも図示しない各センサ(車速センサ、スロットル開度センサ、シフト位置センサ等)からの信号に基づいてコイル23への通電量、或いはコイル23の非通電を制御している。
次に、車両用駆動装置1の作動について説明する。いま、車両が停止状態にある場合に、図略のイグニッションスイッチをONにして運転者がアクセルペダルを踏む(低スロットル開度時)と、エンジン10が始動される。つまり、発進するためにアクセルペダルが踏まれてスロットルが一定開度以上開かれると、燃料噴射装置が作動されるとともに、点火プラグが点火され、ケース3に固定されるスタータモータ(図示せず)の出力軸が駆動される。そしてスタータモータの出力軸と噛合するフライホイール(図示せず)外周のリングギア(図示せず)が、フライホイール、及び出力軸11とともに回転されエンジン10が始動される。ただしこのようなアクセルペダルを踏むと、エンジン10が始動される方式ではなく、イグニッションスイッチをONした段階でエンジン10が始動されてもよい。
そして同時にバッテリ(図示せず)から電動モータ20へ電流が流れ、電動モータ20は駆動モータとして機能する。このときクラッチ装置40は係合されており、これによりエンジン10と電動モータ20の両方の駆動力が加算され出力軸26を介してトルクコンバータ2に伝達される。そしてトルクコンバータ2にて所定のトルク比にて増大された上で自動変速装置5の入力軸に伝達されて車両が走行する。
車両が高速走行状態にある場合には、電動モータ20が無負荷運転(モータに生じる逆起電力により生じるトルクを相殺させるようにモータ出力を制御する)され、電動モータ20を空転させる。これにより、クラッチ装置40は係合されたままで、車両は、専らエンジン10のみの駆動力によって走行する。
また、車両減速時にあっては、クラッチ装置40の係合が解除されてエンジン10が切り離され、エンジン10のエンジンブレーキによる減速の影響を排除した状態で電動モータ20によって効率的に回生電力を回収している。
次に、上述した車両用駆動装置1の各運転状態でのクラッチ装置40の各作動状態におけるオイルの挙動について説明する。まず、クラッチ装置40の係合を解除して接続を切断する車両減速時の走行について説明する。
まずクラッチ装置40の係合を解除するため、電磁切替弁50を駆動して油圧室46に接続する電磁切替弁50のP2側回路をP1側回路に切替える。そして、電動オイルポンプ60を駆動させ、コントローラ70によって所定圧の油圧を電磁切替弁50、及び流入ポート61を介して油圧室46内に供給する。油圧室46に供給された油圧は、ピストン部材44の受圧面44cに作用しピストン部材44を付勢して出力軸側に向って移動させ始める。油圧室46の圧力がさらに上昇するとピストン部材44はコイルばね45のばね力に抗して出力軸側に向って移動し、やがてクラッチ装置40の摩擦プレート42、及びセパレートプレート43からピストン部材44の押圧部44aが離間して摩擦プレート42とセパレートプレート43との間の係合が解除される。
このとき油路66の圧力も上昇しており、これによって油路66内のオイルが両側に設けられた環状リング67、68を越えて内周開口部32の内部空間内に所定量だけ漏洩し潤滑油として供給され、やがて連結部32aのオイル孔35から流出(供給)される(図3内の潤滑油経路を示す実線矢印のうち右側の矢印参照)。連結部32aの入力軸側には入力軸41が有する環状部41cが狭い空間を介して対向している。よってオイル孔35から流出(供給)されたオイル(潤滑油)は環状部41cの壁面38に効果的に付着する。このとき環状部41cは入力軸41とともに回転しているので、壁面38に付着したオイルは遠心力によって環状部41cの半径方向外周側に壁面38に沿って流されていく。そしてオイルはオイル孔35よりも回転軸線から離れた位置に設けられた貫通孔31の外縁部に設けられた環状の突部33の内周面に堰き止められて滞留し、あふれた一部のオイルは突部33を乗り越えて更に回転軸線から離れ半径方向外周側に流れていく。環状の突部33に滞留したオイルの一部は突部33の内周面に沿って設けられた3箇所の貫通孔31に進入し分流され各貫通孔31を通過して壁面38と反対側の壁面39に到達する。壁面39に到達したオイルは遠心力を受け壁面39上を環状部41cの半径方向外周に流されていく。
このように壁面38と壁面39とに分流されたオイルが壁面38、39に沿って、半径方向外周側に向かってそれぞれ移動し、やがて外周部の小径側係合部41dに設けられた各供給孔36を通過して摩擦プレート42に到達する。これによって小径側係合部41dに係合されている全ての摩擦プレート42の表面がオイルによって均一に覆われ熱を奪われて効果的に冷却される。更に遠心力によって摩擦プレート42上を半径方向外周に流されたオイルがセパレートプレート43との間まで到達しセパレートプレート43表面に均一に付着してセパレートプレート43を効果的に冷却する。
なお、実際には潤滑油経路を示す図3の左側の実線矢印に示すように、上述の状態においてリザーバ72を形成するケース3、及びケース6内には潤滑油が貯留され、該貯留された潤滑油は入力軸41、及び環状部41c等の回転により掻き上げられ壁面39にも所定量だけ付着する。しかし、実際には掻き上げによって壁面39に付着する量は摩擦プレート42、及びセパレートプレート43を冷却するには十分ではない。そこで本発明においては貫通孔31を介して壁面38から壁面39側に向けてオイルを分流させ、該分流させたオイルと、掻き上げによって壁面39に付着させたオイルとの総量が、壁面39側における摩擦プレート42、及びセパレートプレート43の冷却のための必要量となるようにしている。
次に、例えば、車両発進時、及び通常走行時のようにエンジン10の駆動力と電動モータ20の駆動力とを合算して走行する状態へと移行する場合について説明する。このときはクラッチ装置40を係合し入力軸41と出力軸26とを再び連結する。そのため電磁切替弁50を駆動し油圧室46に接続するP1側をリザーバ72に直接接続されるP2側に切替える。これによって油圧室46内の圧力は大気圧まで低下する。そしてピストン部材44は入力軸方向に付勢しているコイルバネ45の付勢によって押動され、油圧室46内のオイルの多くは流入ポート61を介してリザーバ72に強制的に押し出されて排出される。また、油圧室46に残留してしまったオイルは開閉弁52から前述した作用によって排出される。そしてコイルばね45は、ピストン部材44を入力軸側に向かってさらに押動し、ピストン部材44の押圧部44aによってセパレートプレート43を押圧してセパレートプレート43と摩擦プレート42とを係合させクラッチ装置40を係合状態とする。
このとき、油圧室46へのオイルの油圧の供給が停止するのでオイル孔35からのオイルの流出(供給)も停止される。しかしオイル孔35からのオイルの流出が停止してからクラッチ装置40が係合するまでの間は非常に短時間であるので、摩擦プレート42及びセパレートプレート43にはこれまで供給されたオイルがまだ付着し残存している。これにより摩擦プレート42と、セパレートプレート43とが係合するときには残存するオイルによって適切に潤滑がされて発熱が抑制され、摩擦プレート42と、セパレートプレート43とが摩擦によって高温となり焼き付く虞はない。
上述の説明から明らかなように、本実施形態においては、クラッチ装置40はハイブリッド車両用のクラッチ装置として構成される。ハイブリッド車両は、大きな駆動力が必要なときにはクラッチ装置40を係合させエンジン10と電動モータ20とを同時に駆動源として使用したり、減速時にはクラッチ装置40を解除してエンジン10を切り離し、電動モータ20によって効率的に発電をさせたりする。このように頻繁にクラッチ装置40の係合及び解除を行なうハイブリッド車両に適用するため、大きな効果が得られる。
また、本実施形態においては、摩擦プレート42(第2クラッチプレート)が係合される他方の軸としての入力軸41に形成された環状部41cに向かってオイルを流出(供給)するために、セパレートプレート43(第1クラッチプレート)が係合される一方の軸としての出力軸26に形成されたオイル孔35が、セパレートプレート43と摩擦プレート42とを離間、または係合させるために油圧室46にオイルの給排を許容する油路66と連通して形成されている。これにより油圧室46にオイルが供給されセパレートプレート43と摩擦プレート42との係合が解除されるとオイル孔35から環状部41cの壁面38(側面)に向かってオイルが供給される。環状部41cの壁面38に供給されたオイルはエンジン回転に伴い発生される遠心力によって壁面(側面)上を半径方向外周に向かって流され、摩擦プレート42及び摩擦プレート42の外周部であるセパレートプレート43との間に到達する。また、側面上を半径方向外周に向かって流されたオイルのうちの一部は環状部41cに設けられた貫通孔31の開口部に到達する。貫通孔31の開口部に到達したオイルの一部は分流されて貫通孔31内に進入し環状部41c内を通過して反対側の側面である壁面39に到達する。壁面39に到達したオイルは回転する環状部41cの壁面39上を遠心力によって半径方向外周に流され、やがて摩擦プレート42及び摩擦プレート42の外周部であるセパレートプレート43との間に到達する。このようにして、オイル孔35から流出するオイルを環状部41cの両側面から供給することによって回転軸線方向に整列して並んだ摩擦プレート42とセパレートプレート43とに均一にオイルを供給して行き渡らせることができる。これにより係合が解除されている摩擦プレート42と、セパレートプレート43とに蓄積した熱をオイルによって効果的に除去し冷却することができる。
また、摩擦プレート42と、セパレートプレート43との間で最も大きな摩擦熱が発生する場合は係合の瞬間である。このとき油圧室46へのオイルの供給、及びオイル孔35へのオイルの供給は停止される。しかし、オイル孔35にオイルの供給が停止されてから、摩擦プレート42とセパレートプレート43とが係合するまでの間は非常に短時間であるので係合解除状態においては、摩擦プレート42とセパレートプレート43とに供給されたオイルの残留分によって十分に潤滑がされ、摩擦熱の発生を効果的に抑制することができる。このような構成によって摩擦プレート42とセパレートプレート43とを潤滑し回転エネルギーロスの少ない発熱の抑制、及び冷却を行なうことができる。
また、本実施形態においては環状部41cに設けた貫通孔31の突部33は回転軸線を中心に円環状に形成されている。このような構成とすることにより、突部33は容易に型抜きができるので低コストに製造できコスト低減に寄与する。
また、本実施形態においては、第1クラッチプレートは一方の軸としての出力軸26に係合されたセパレートプレート43であり、第2クラッチプレートは他方の軸としての入力軸41に係合された摩擦プレート42である。このようにセパレートプレート43が、セパレートプレート43を押圧するための押圧部44aを備えたピストン部材44と同じ出力軸26側に係合されるので、セパレートプレート43とピストン部材44(押圧部44a)との間の構造を簡易で低コストなものにすることができる。
なお、本実施形態における潤滑油を滞留するための突部33は環状に連続して形成した。しかしこれに限らず、貫通孔31にそれぞれ対応させ、貫通孔31の直径程度の幅で突部を形成し、該突部を貫通孔31の外周縁にのみそれぞれ配置してもよいし、貫通孔31のそれぞれの位置には対応させるが、貫通孔31の直径よりは大きな所定の円弧長さによって突部を形成し、該突部を断続的に複数個、円周上に並べて配置してもよい。これらによっても相応の効果が期待できる。また、突部33を設けず貫通孔31のみの構成としてもよい、これによっても所定の効果は期待できる。
また、本発明はハイブリッド車用に限らず、入力軸に連結する1つの駆動源を備え、該駆動源の駆動力を本発明に係るクラッチ装置40によって接離するだけの構成としてもよい。これによっても相応の効果が期待できる。
また、本実施形態においては出力軸26を一方の軸とし出力軸26に第1クラッチプレートとしてのセパレートプレート43を係合した。また入力軸41を他方の軸とし入力軸41に第2クラッチプレートとしての摩擦プレート42を係合した。しかしこれに限らず入力軸41を一方の軸として、入力軸41に第1クラッチプレートとしてのセパレートプレート43を係合し、出力軸26を他方の軸として、出力軸26に第2クラッチプレートとしての摩擦プレート42を係合してもよい。これにより入力軸41側のセパレートプレート43を押圧するための出力軸26側のピストン部材44の押圧部44aの構成が若干複雑になるがその点以外では同様の効果が得られる。
また、本実施形態における入力軸41と出力軸26とを反転させる構成としてもよい。つまり本実施形態における出力軸26にエンジンを連結して新入力軸とし、入力軸41を電動モータのロータと一体的に回転する構成とし新出力軸としてもよい。これによっても同様の効果が得られる。
また、本実施形態における変速機は、一般的に変速機として用いられる遊星歯車変速機以外にも、無段変速機や、一般的に手動変速機で採用される同期噛合式歯車変速機であってもよい。
また、本実施形態において弾性部材としてコイルばね45を適用したが、これに限らず板バネ等によって構成してもよい。さらに、ゴムや気体を利用してもよい。
また、本実施形態においては油圧室46のみにオイルを供給した。しかし、本発明はこの構成に限らずピストン部材44とシリンダ部材48との間にオイルを供給することによって油圧室46の付勢力をキャンセルするキャンセラ室を設け、クラッチ係合時に遠心力によってキャンセラ室に発生する油圧を利用してより迅速に係合動作を行なうタイプのクラッチ装置にも適用可能である。
さらに、本ハイブリッド車用駆動装置1は、上述した使用態様に限らず、車両発進時にクラッチ装置40の係合を解除して電動モータ20のみによって駆動する等、他の使用態様にて使用してもよいことは勿論であり、車両発進後の運転状況に応じてクラッチ装置40の係脱を適宜実施すればよい。