JP2012064519A - 酸化物超電導導体用基材及びその製造方法と酸化物超電導導体及びその製造方法 - Google Patents

酸化物超電導導体用基材及びその製造方法と酸化物超電導導体及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】良好な超電導特性の酸化物超電導導体を提供可能な酸化物超電導導体用基材、及び該酸化物超電導導体用基材を工程時間を短縮して効率的に製造することができる酸化物超電導導体用基材の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、良好な超電導特性の酸化物超電導導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の酸化物超電導導体用基材10は、金属基材1上に、第1拡散防止層11と、第2拡散防止層12と、第3拡散防止層13と、イオンビームアシスト蒸着法により成膜された中間層4とがこの順に設けられてなり、第2拡散防止層12の表面粗さRaが、金属基材1の表面粗さRaよりも低く設定されてなることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、酸化物超電導導体用基材及びその製造方法と酸化物超電導導体及びその製造方法に関する。
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REは希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。中でも、Y系酸化物超電導体(YBaCu7−X)やGd系酸化物超電導体(GdBaCu7−X)を用いた超電導線材は、外部磁界に対して強く、強磁界内でも高い電流密度を維持することができるため、超電導コイル用導体としての利用、あるいは電力供給用ケーブルとしての利用の他、超電導線材への通電時に発生するおそれのある故障電流の遮断を目的とした超電導限流器用の導体としての研究開発も進められている。
この種のRE−123系酸化物超電導線材の一構造例として、図8に示す如くテープ状の金属基材101上に、IBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition;イオンビームアシスト蒸着)法によって成膜された中間層102と、その上に成膜されたキャップ層103と、酸化物超電導層104とを積層形成した酸化物超電導線材Aが知られている。
前記構造においてキャップ層103の結晶面内配向性が高い方が、更にその上に成膜される酸化物超電導層104も高い結晶配向性となり、この酸化物超電導層104の結晶面内配向性が高くなる程、臨界電流値等の超電導特性が優れた酸化物超電導線材Aを得ることができる。
IBAD法は、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオンガンから発生された希ガスイオンと酸素イオンとの混合イオンを同時に斜め方向(例えば45度)から照射しながら堆積させるもので、この方法によれば、基材上に厚さ数〜数十nmという薄膜の中間層102を良好な結晶配向性で形成することができる。
図8に示す構造の酸化物超電導線材Aにおいて、中間層102及びキャップ層103は、酸化物超電導層104の結晶配向性を整え、成膜時の加熱処理に伴う元素の不要拡散を抑制するとともに、金属基材101と酸化物超電導層104の中間の膨張係数を有して熱ストレスを緩和するなどの複合的な効果を得るための層であって、これらの層を順序に積層することで始めて単結晶に近い結晶配向性であって、超電導特性の優れた酸化物超電導層104を得ることができる。
また、図9に示す酸化物超電導線材Bのように、金属基材101上に拡散防止層111、ベッド層112を順に積層し、その上に中間層102をIBAD法により形成する検討も行われている。中間層102は、ベッド層112上に形成されることにより、その結晶配向状態をさらに良好なものとすることができる。また、拡散防止層111は、酸化物超電導導体の製造時の高温プロセスにおいて、金属基材101から酸化物超電導層104へ金属基材構成元素が拡散する問題を防ぐために設けられている。
上述のような単結晶に近い結晶配向性の中間層102とキャップ層103と酸化物超電導層104を成長させる必要があるため、成膜の土台となる金属基材101の表面は凹凸の少ない平滑な面とする必要がある。特に、IBAD法により成膜される中間層102の膜厚は数〜数十nmと薄いため、基材102の表面を平滑化することは重要である。
酸化物超電導導体の基材表面の凹凸を小さくするための技術として、従来、電解研磨により基材の表面粗さRaを9nm以下に研磨する方法(特許文献1参照)、超電導層に接する中間層の表面粗さを電解研磨法、酸を用いた化学研磨法、圧延ロールを用いた鏡面転写法などにより20nm以下とする方法(特許文献2参照)、基板上に形成された中間薄膜層表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法により表面粗さRa20nm以下にすることで臨界電流密度の優れた超電導層を生成しようとする方法(特許文献3)が知られている。
特開2007−280710号公報 特開2009−16257号公報 特開2006−27958号公報
このように、酸化物超電導線材の金属基材は、中間層や超電導層等の成膜前に、予め研磨され平坦化されたものが使用される。しかしながら、金属基材の元々の表面粗さが大きい場合、金属基材の研磨に長時間を要し、生産効率が低下してしまうという問題があった。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、良好な超電導特性の酸化物超電導導体を提供可能な酸化物超電導導体用基材、及び該酸化物超電導導体用基材を工程時間を短縮して効率的に製造することができる酸化物超電導導体用基材の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、良好な超電導特性の酸化物超電導導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の酸化物超電導導体用基材は、金属基材上に、第1拡散防止層と、第2拡散防止層と、第3拡散防止層と、イオンビームアシスト蒸着法により成膜された中間層とがこの順に設けられてなり、前記第2拡散防止層の表面粗さRaが、前記金属基材の表面粗さRaよりも低く設定されてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導導体用基材において、前記第2拡散防止層はAlの酸化物よりなることが好ましい。
本発明の酸化物超電導導体用基材において、前記金属基材の表面粗さRaは13.5nm以上とすることができる。
本発明の酸化物超電導導体用基材において、前記金属基材の表面粗さRaは17nm以下とすることもできる。
本発明の酸化物超電導導体用基材において、前記第2拡散防止層はAlよりなり、前記第1拡散防止層と前記第3拡散防止層はアモルファスAlよりなることもできる。
本発明の酸化物超電導導体用基材において、前記第3拡散防止層と前記中間層との間にベッド層が介在されてなることもできる。
また、本発明は、上記酸化物超電導導体用基材の上に、キャップ層と酸化物超電導層とを備えてなることを特徴とする酸化物超電導導体を提供する。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、金属基材上に、第1拡散防止層と、第2拡散防止層と、第3拡散防止層と、イオンビームアシスト蒸着法により成膜された中間層とがこの順に設けられてなる酸化物超電導導体用基材の製造方法であって、前記金属基材上に前記第1拡散防止層を形成する第1拡散防止層形成工程と、前記第1拡散防止層上に第2拡散防止層を形成する第2拡散防止層形成工程と、前記第2拡散防止層上に前記第3拡散防止層を形成する工程と、イオンビームアシスト蒸着法により中間層を成膜する工程と、を備え、前記第2拡散防止層形成工程が、前記第1拡散防止層の表面にAlよりなる金属層を形成する金属層形成工程と、前記金属層を溶融させる金属層形成工程と、前記金属層を酸化させて前記第2拡散防止層を形成する金属層酸化工程と、前記第2拡散防止層の表面を研磨して表面粗さRaを前記金属基材の表面粗さRaよりも低くする研磨工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、前記金属基材の表面粗さRaが13.5nm以上とすることもできる。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、前記金属基材の表面粗さRaが17nm以下とすることもできる。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、前記第2拡散防止層はAlよりなり、前記第1拡散防止層と前記第3拡散防止層はアモルファスAlよりなることも好ましい。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、前記第3拡散防止層と前記中間層との間にベッド層を介在させることもできる。
本発明の酸化物超電導導体の製造方法は、上記酸化物超電導導体用基材の製造方法により得られる酸化物超電導導体用基材の上に、キャップ層と酸化物超電導層とを形成することを特徴とする。
本発明の酸化物超電導基材の製造方法による製造される酸化物超電導導体用基材は、表面粗さRaが金属基材よりも小さい第2拡散防止層上にIBAD法による中間層が形成されているため、中間層の結晶配向性が良好であり、その上に形成されるキャップ層及び酸化物超電導層の結晶配向性を良好なものとすることができる。さらに、本発明の酸化物超電導導体の製造方法によれば、前記したように良好な結晶配向性の中間層を備える酸化物超電導導体用基材上にキャップ層及び酸化物超電導層が形成されるので、超電導特性が良好な酸化物超電導導体となる。
また、本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法によれば、金属層酸化工程により形成される第2拡散防止層の表面粗さRaは、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなる。そのため、所定の表面粗さRaとなるまでの研磨工程の時間は、通常の金属基材を同じ表面粗さRaとなるまで研磨する場合と比較して短縮することができる。したがって、金属基材よりも低い表面粗さRaの第2拡散防止層上に形成される第3拡散防止層を介して形成される中間層の結晶配向性は良好となり、良好な超電導特性の酸化物超電導導体を提供可能な酸化物超電導導体用基材を、工程時間を短縮して効率的に製造することができる。
本発明に係る酸化物超電導導体用基材の一例を示す概略構成図である。 本発明に係る酸化物超電導導体の一例を示す概略構成図である。 本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法の一例を示すフローチャートである。 イオンビームアシスト蒸着法により成膜する装置の一例を示す概略構成図である。 図3に示す成膜装置に適用されるイオンガンの構造の一例を示す概略構成図である。 Al層の厚さと酸化熱処理に要する時間の関係をプロットしたグラフである。 熱処理時間と、金属基材の構成元素であるCrがAl層中を拡散する距離との関係をプロットしたグラフである。 従来の酸化物超電導線材の一例を示す概略構成図である。 従来の酸化物超電導線材の他例を示す概略構成図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。
(酸化物超電導導体用基材)
図1は、本発明に係る酸化物超電導導体用基材の実施形態の一例を示す概略構成図である。
図1に示す酸化物超電導導体用基材10は、金属基材1上に、第1拡散防止層11と、第2拡散防止層12と、第3拡散防止層13と、ベッド層3と、中間層4とがこの順に積層されて構成されている。本実施形態の酸化物超電導導体用基材10において、第2拡散防止層12の表面粗さRaは、金属基材1の表面粗さRaよりも低く設定されている。なお、本発明の明細書および特許請求の範囲において、「表面粗さRa」はJIS B0601の算術平均粗さRaであり、「最大高さRy」はJIS B0601の最大高さRyである。
金属基材1は、通常の超電導線材の基材として使用することができ、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。金属基材1の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
金属基材1の表面粗さRaは17nm以下であることが好ましい。金属基材1の表面粗さRaが大きくなると、金属基材1の最大高さRyも大きくなる。後述する第2拡散防止層12形成工程において、金属層の厚さは金属基材1の凹凸を埋めるために金属基材1の最大高さRyよりも大きくする必要があるが、金属基材1の表面粗さRaおよび最大粗さRyが大きくなると金属層の厚さが厚くなり、金属層酸化工程での加熱時間が増加し、金属基材1の構成元素が拡散しやすくなるため、第1拡散防止層11を厚膜化する必要が生じる。第1拡散防止層11の厚さが300nmを超えると表面剥離頻度が増す傾向があるが、金属基材1の表面粗さRaを17nm以下とすることにより、金属基材1の最大粗さRyを100nm以下にすることができ、金属層の厚さが厚くなりすぎることがなく、第1拡散防止層11の厚さを300nm以下に抑えることができる。そのため、金属基材1表面の最大高さRyは100nm以下とすることが好ましい。
また、金属基材1の表面粗さRaを、10nm以上とすることにより、後述する製造方法において形成される第2拡散防止層12の研磨工程前の表面粗さRaを金属基材1よりも小さくすることができるため好ましい。さらに、金属基材1の表面粗さRaを13.5nm以上とすることにより、後述する製造方法において、金属基材の表面を研磨して平坦化する通常の製造方法と比較して、研磨工程を含む金属基材上に拡散防止層を形成する工程全体の時間を短縮し、酸化物超電導層17の結晶配向性を向上可能な酸化物超電導導体用基材を効率的に製造することができるため好ましい。以上の理由により、金属基材1の表面粗さRaは13.5nm以上17nm以下が、特に好ましい。
第1拡散防止層11は、後述する製造方法において、その上に第2拡散防止層12を形成する際に、金属層を溶融させる熱処理工程の加熱により、金属基材1の構成元素が金属層へと拡散し、該構成元素と金属層の金属元素とが金属間化合物を形成することを防止する目的で設けられている。第1拡散防止層11を設けずに、金属基材1上に直接金属層を形成して溶融させると、金属層に金属間化合物が形成されるため、その後の酸化処理により形成される第2拡散防止層12の表面粗さRaは、金属基材1よりも遥かに大きくなってしまう。
第1拡散防止層11は、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、中でも、アモルファスのAlより構成されていることが好ましい。第1拡散防止層11の厚さは、200〜300nmとすることが好ましく、255〜300nmとすることがより好ましい。
第1拡散防止層11の厚さが200nm未満となると、第2拡散防止層12を形成する際の加熱により、金属基材1の構成元素が金属層へと拡散することを十分に防止できなくなる虞がある。一方、第1拡散防止層11の厚さが300nmを超えると、拡散防止層11の内部応力が増大し、これにより、他の層を含めて全体が金属基材1から剥離しやすくなる虞がある。また、第1拡散防止層11は、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
第2拡散防止層12は、その表面粗さRaが金属基材1の表面粗さRaよりも低く設定されている。第2拡散防止層12の表面粗さRaは、6nm以下とすることが好ましく、2nm以下とすることがより好ましい。第2拡散防止層12の表面粗さRaを6nm以下とすることにより、後述する中間層4の結晶配向性が良好となり、その上に形成される後述のキャップ層16及び酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとすることができる酸化物超電導導体用基材10とすることができる。
第2拡散防止層12は、融点が800℃以下の金属の酸化物より構成され、具体的には、Alより構成されていることが好ましい。第2拡散防止層12の厚さは、後述する第2拡散防止層12形成工程において成膜する金属層、金属基材1の表面粗さ、および第2拡散防止層12形成工程の研磨工程において研磨する厚さ等により決定される。なお、第2拡散防止層12の形成方法については、後述の製造方法の実施形態にて詳述する。
第3拡散防止層13は、金属基材1の構成元素が第1拡散防止層11及び第2拡散防止層12を超えて後述する酸化物超電導層17側へと拡散することを防止する目的で形成されたものである。金属層の溶融および酸化により形成された第2拡散防止層12はアモルファスではないため、通常、アモルファスである第1拡散防止層11に比べて、元素の拡散スピードが速い。本実施形態のように、第3拡散防止層13を設けることにより、金属基材1の構成元素が後述する酸化物超電導層17側へと拡散することをより効果的に防ぐことができる。
第3拡散防止層13は、Si、Al、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、中でも、アモルファスのAlより構成されていることが好ましい。第3拡散防止層13の厚さは、10〜100nmとすることが好ましい。
第3拡散防止層13の厚さが10nm未満となると、金属基材1の構成元素が第2拡散防止層12を超えて酸化物超電導層17側へと拡散する虞がある。一方、第3拡散防止層13の厚さが100nmを超えると、第3拡散防止層13の形成工程に長時間を要する虞がある。なお、拡散防止層13は、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
ベッド層3は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層3は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy、Er、Eu、Ho、La等を例示することができる。このベッド層3は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。なお、ベッド層3は省略することもできる。
中間層4は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層される後述のキャップ層16の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層4の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。
中間層4の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、5〜300nmの範囲とすることができる。
中間層4は、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する。)で積層する。IBAD法で形成された中間層4は、結晶配向性が高く、その上に成膜する後述するキャップ層16や酸化物超電導層17の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、先にも説明した如く蒸着時に、下地の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層4は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
中間層4をIBAD法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層16の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層16の上に成膜する酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できる酸化物超電導層17を得るようにすることができる。
(酸化物超電導導体)
図2は、本発明に係る酸化物超電導導体の実施形態の一例を示す概略構成図である。
図2に示す酸化物超電導導体20は、図1に示す酸化物超電導導体用基材10の中間層4の上に、キャップ層16と、酸化物超電導層17と、安定化層18とがこの順に積層されて構成されている。図2に示す酸化物超電導導体20において、図1に示す酸化物超電導導体用基材10と同じ構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
キャップ層16は、酸化物超電導導体用基材10の中間層4の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、中間層4よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層16の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層16の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層16であるCeO層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。
CeO層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲とすることができる。
酸化物超電導層17は公知のもので良く、具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層17として、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)などを例示することができる。
酸化物超電導層17は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、PLD(パルスレーザー蒸着)法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)又はCVD法を用いることが好ましい。
酸化物超電導層17の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
ここで前述のように、良好な配向性を有するキャップ層16上に酸化物超電導層17を形成すると、このキャップ層16上に積層される酸化物超電導層17もキャップ層16の配向性に整合するように結晶化する。よって前記キャップ層16上に形成された酸化物超電導層17は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層17を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材1の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、金属基材1の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層17は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材1の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
安定化層18は、酸化物超電導層17の一部領域が常電導状態に遷移しようとした場合に、酸化物超電導層17からの電流のバイパス路として機能する。
安定化層18は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀又は銀合金、銅などからなるものが例示できる。安定化層18は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層18は、公知の方法で積層できるが、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層18の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
(酸化物超電導導体用基材の製造方法)
図3は、本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の酸化物超電導導体用基材10の製造方法は、図3に示すように、金属基材準備工程S10と、第1拡散防止層形成工程S20と、第2拡散防止層形成工程S30と、第3拡散防止層形成工程S40と、ベッド層形成工程S50と、中間層形成工程S60と、を有する。
金属基材準備工程S10においては、前述した材質及び厚さの金属基材1を準備する。金属基材1は、その表面粗さRaが17nm以下のものを使用することが好ましい。金属基材1の表面粗さRaが大きくなると、金属基材1の最大高さRyも大きくなる。後述する第2拡散防止層12形成工程において、金属層の厚さは金属基材1の凹凸を埋めるために金属基材1の最大高さRyよりも大きくする必要があるが、金属基材1の表面粗さRaおよび最大粗さRyが大きくなると金属層の厚さが厚くなり、金属層酸化工程での加熱時間が増加し、金属基材1の構成元素が拡散しやすくなるため、第1拡散防止層11を厚膜化する必要が生じる。第1拡散防止層11の厚さが300nmを超えると表面剥離頻度が増す傾向があるが、金属基材1の表面粗さRaを17nm以下とすることにより、金属基材1の最大粗さRyを100nm以下にすることができ、金属層の厚さが厚くなりすぎることがなく、第1拡散防止層11の厚さを300nm以下に抑えることができる。そのため、金属基材1表面の最大高さRyは100nm以下とすることが好ましい。
また、金属基材1の表面粗さRaが10nm以上17nm以下のものを使用することにより、第2拡散防止層形成工程S30の金属層酸化工程S33で形成される第2拡散防止層12の研磨工程S34前の表面粗さRaを金属基材1よりも小さくすることができるため好ましい。さらに、金属基材1の表面粗さRaが13.5nm以上17nm以下のものを使用することにより、金属基材の表面を研磨して平坦化する通常の製造方法と比較して、研磨工程を含む金属基材上に拡散防止層を形成する工程全体の時間(基材準備工程S10から第3拡散防止層形成工程S40までの総時間)を短縮し、酸化物超電導層17の結晶配向性を向上可能な酸化物超電導導体用基材を効率的に製造することができるため好ましい。なお、表面粗さRaが13〜25nm程度の金属基材1は、市販品として入手可能である。
第1拡散防止層形成工程S20においては、通常のスパッタ法等の成膜法により第1拡散防止層11を金属基材1上に形成する。第1拡散防止層11は、第2拡散防止層形成工程S30の金属層溶融工程S33における加熱により、金属基材1の構成元素が金属層へと拡散し、該構成元素と金属層の金属元素とが金属間化合物を形成することを防止する目的で形成される。本工程において、第1拡散防止層11は、前述した材質より形成すればよく、第1拡散防止層11の厚さは、200〜300nmとすることが好ましく、255〜300nmとすることがより好ましい。
第1拡散防止層11の厚さが200nm未満となると、第2拡散防止層形成工程S30における加熱により、金属基材1の構成元素が金属層へと拡散することを十分に防止できなくなる虞がある。一方、第1拡散防止層11の厚さが300nmを超えると、拡散防止層11の内部応力が増大し、これにより、他の層を含めて全体が金属基材1から剥離しやすくなる虞がある。
第2拡散防止層形成工程S30は、金属層形成工程S31と、金属層溶融工程S32と、金属層酸化工程S33と、研磨工程S34とを有する。
金属層形成工程S31においては、金属基材1上に形成された第1拡散防止層11上に、通常のスパッタ法等の成膜法により、融点が800℃以下の金属を成膜して金属層を形成する。ここで、融点が800℃以下の金属を採用するのは、次の金属層溶融工程S32で金属層を溶融させる際に、融点が高い金属を用いることにより溶融温度が高くなり、金属基材1の構成元素の拡散速度が上昇することを防ぐためである。金属基材1の構成元素の拡散を防ぐためには、第1拡散防止層11を厚膜化することも有効であるが、第1拡散防止層11が厚すぎると第1拡散防止層11の形成に長時間を要し、生産性が低下する虞がある。融点が800℃以下の金属としては、具体的には、Al等が挙げられ、中でも純Al(純度99.0%以上)が好ましい。
金属層形成工程S33において形成する金属層の厚さは、金属基材1表面の凹凸を埋めるために、金属基材1表面の最大高さRyよりも大きくなるように設定する。
図6に金属層がAl層の場合、Al層の厚さと、酸化工程の800℃での熱処理に要する時間との関係をプロットしたグラフを示す。図7に、800での熱処理時間と、金属基材1の構成元素の一例であるCrが、Alよりなる拡散防止層中を拡散する距離との関係をプロットしたグラフを示す。図7に示すように、熱処理時間が長くなるほど、金属基材1の構成元素であるCrの拡散距離が長くなる。前述のように、第1拡散防止層11の厚さを300nm以下として、第1拡散防止層の剥離頻度の増加を抑えるためには、後述する金属層酸化工程S33において、金属基材1の構成元素の拡散距離が300nm未満となる条件で熱処理を行う必要がある。図7より35時間未満の熱処理を行うことにより、金属基材1の構成元素の拡散距離を300nm未満に抑えることができることがわかる。また、図6より、後述する金属層酸化工程S33において、35時間未満の熱処理で金属層であるAl層を酸化するためには、金属層であるAl層の厚さを115nm以下にする必要がある。このため、金属層の厚さは115nm以下とすることが好ましく、105nm以下とすることがより好ましい。
金属層溶融工程S32においては、金属基材1上に第1拡散防止層11を介して形成した金属層を、金属層を構成する金属の融点以上の温度で、無酸素雰囲気中にて溶融させる。金属層溶融工程S32における熱処理条件は、金属層が溶融することができれば特に限定されないが、例えば、金属層がAlよりなる場合、800℃程度の温度で3〜15分間の熱処理を行えばよい。製造する酸化物超電導導体用基材10が長尺である場合は、長尺の金属基材1上に第1拡散防止層11と金属層とが形成された長尺の積層体テープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過して、所定の時間熱処理されるようにすればよい。
金属層酸化工程S33においては、金属層溶融工程S32で溶融された後の金属層を、金属層を構成する金属の融点以下の温度で、酸素雰囲気中で熱処理することにより酸化させて金属酸化物層である第2拡散防止層12を形成する。金属層酸化工程S33における熱処理条件は、金属層を構成する金属全体が酸化されて金属酸化物となり、金属酸化物層である第2拡散防止層12となれば特に限定されない。図6に金属層がAl層の場合、Al層の厚さと、酸化工程の熱処理に要する時間との関係をプロットしたグラフを示す。図6に示すように、金属層であるAl層の厚さが厚くなるほど、酸化工程の熱処理に要する時間も長くなる。金属層の熱処理条件の一例として、金属層が厚さ100nmのAlよりなる場合、600℃程度の温度で25時間程度の熱処理を行えば、Al層全体が酸化されてAl層とすることができる。製造する酸化物超電導導体用基材10が長尺である場合は、長尺の金属基材1上に第1拡散防止層11と一度溶融された金属層とが形成された長尺の積層体テープを、該積層体テープ全体が酸素雰囲気に暴露されるように熱処理炉内に収容して、所定の時間熱処理すればよい。このようなバッチ式の熱処理炉にて熱処理を行うことにより、工程時間を短縮することができるため好ましい。
研磨工程S34においては、金属層酸化工程S33において酸化された金属酸化物層である第2拡散防止層12を研磨加工により研磨して、第2拡散防止層12を金属基材1の表面粗さよりも低く設定する。本実施形態の酸化物超電導導体用基材10の製造方法によれば、金属層酸化工程S33により形成される第2拡散防止層12の表面粗さRaは、金属基材1の表面粗さRaよりも小さくなる。そのため、所定の表面粗さRaとなるまでの研磨工程S34の時間は、通常の金属基材1を同じ表面粗さRaとなるまで研磨する場合と比較して短縮することができる。
研磨工程S34において、第2拡散防止層12の表面粗さRaを、6nm以下とすることが好ましく、2nm以下とすることがより好ましい。第2拡散防止層12の表面粗さRaを6nm以下とすることにより、中間層4の結晶配向性が良好となり、その上に形成されるキャップ層16及び酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとすることができる酸化物超電導導体用基材10とすることができる。
研磨工程S34において、第2拡散防止層12の表面を研磨加工により研磨する際、例えば、アルミナ(Al)粒子の粒径として平均粒径3μmの研磨粒子を用いて研磨することにより第2拡散防止層12の表面粗さRaを6nm以下とすることができる。
以上の金属層形成工程S31、金属層溶融工程S32、金属層酸化工程S33、研磨工程S34により、表面粗さRaが金属基材1よりも低く設定された第2酸化防止層12を形成することができる。
第3拡散防止層形成工程S40においては、通常のスパッタ法等の成膜法により第3拡散防止層13を第2拡散防止層12上に形成する。第3拡散防止層13は、金属基材1の構成元素が第1拡散防止層11及び第2拡散防止層12を超えて酸化物超電導層17側へと拡散することを防止する目的で形成されたものである。金属層の溶融および酸化により形成された第2拡散防止層12はアモルファスではないため、通常、アモルファスである第1拡散防止層11に比べて、元素の拡散スピードが速い。本実施形態のように、第3拡散防止層13を設けることにより、金属基材1の構成元素が酸化物超電導層17側へと拡散することをより効果的に防ぐことができる。
本工程において、第3拡散防止層13は、前述した材質より形成すればよく、第3拡散防止層13の厚さは、10〜100nmとすることが好ましい。第3拡散防止層13の厚さが10nm未満となると、金属基材1の構成元素が第2拡散防止層12を超えて酸化物超電導層17側へと拡散する虞がある。一方、第3拡散防止層13の厚さが100nmを超えると、第3拡散防止層13の形成工程に長時間を要する虞がある。
ベッド層形成工程S50においては、例えばスパッタリング法等の成膜法によりベッド層3を形成する。その際、ベッド層3の厚さは例えば10〜100nmとする。なお、ベッド層形成工程S50は省略することもできる
中間層形成工程S60においては、IBAD法により前述した材質よりなる中間層4を形成する。
図4は、イオンビームアシスト蒸着法により成膜する装置の一例を示す概略構成図であり、図5は、図4に示す成膜装置に適用されるイオンガンの構造の一例を示す概略構成図である。
図4に示す如く、中間層4を製造するイオンビームアシストスパッタ装置30は、テープ状の基材などが配置される成膜領域31に面するようにターゲット32が配置され、このターゲット32に対して斜め方向に対向するようにスパッタイオンソース源33が配置されるとともに、成膜領域31の法線に対し所定の角度で(例えば45゜など)斜め方向から対向するようにアシストイオンソース源35を配置し構成される。
この例のイオンビームアシストスパッタ装置30は、真空チャンバに収容される形態で設けられる成膜装置であり、テープ状の基材37が対向配置された第1のロール38と第2のロール39とに複数回往復巻回されて成膜領域31を往復走行される構造などを例示することができる。
この実施形態において適用されるイオンソース源33、35であるイオンガンは、図5に示す如く、容器24の内部に、引出電極21とフィラメント22とArガス等の導入管23とを備えて構成され、容器24の先端からイオンをビーム状に平行に照射できる装置である。
実施形態で用いる真空チャンバは、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有するものとされる。この真空チャンバには、真空チャンバ内にキャリアガス及び反応ガスを導入するガス供給手段と、真空チャンバ内のガスを排気する排気手段が接続されているが、図4ではこれら供給手段と排気手段を略し、各装置の配置関係のみを示している。
ここで用いるターゲット32とは、前述した材料の中間層4を形成する場合に見合った組成のターゲットとすることができる。
図4に示す構造のイオンビームアシストスパッタ装置30を用いることでIBAD法を実現し、目的の中間層4を成膜することができる。
以上の工程により、本実施形態の酸化物超電導導体用基材10を製造することができる。
(酸化物超電導導体の製造方法)
次に、本発明に係る酸化物超電導導体の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の酸化物超電導導体20は、上記した本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法により製造された酸化物超電導導体用基材10の中間層4上に、キャップ層16と、酸化物超電導層17と、安定化層18とを、この順に積層して製造される。
まず、酸化物超電導導体用基材10の中間層上にキャップ層16を形成する。キャップ層16は前述した材質よりなり、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によりキャップ層16としてCeO層を成膜する場合の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。キャップ層16の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲とすることができる。
次に、酸化物超電導導体用基材10上に形成されたキャップ層16上に、酸化物超電導層17を形成する。酸化物超電導層17は前述した材質よりなる。酸化物超電導層17は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、PLD(パルスレーザー蒸着)法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)又はCVD法を用いることが好ましい。
酸化物超電導層17の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
次いで、導電性が良好な金属からなる安定化層18を形成する。安定化層18は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層18は、公知の方法で積層できるが、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層18の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
以上の工程により、本実施形態の酸化物超電導導体20を製造することができる。
本実施形態の酸化物超電導導体用基材10の製造方法によれば、金属層酸化工程S33により形成される第2拡散防止層12の表面粗さRaは、金属基材1の表面粗さRaよりも小さくなる。そのため、所定の表面粗さRaとなるまでの研磨工程S34の時間は、通常の金属基材1を同じ表面粗さRaとなるまで研磨する場合と比較して短縮することができる。本発明者の検討の結果、後述の実施例に示す如く、本実施形態の製造方法により金属基材1上に拡散防止層11、12、13を形成するまでの工程時間は、金属基材を所定の表面粗さRaとなるまで研磨して拡散防止層を形成する通常の方法と比較して短縮することができる。したがって、金属基材よりも低い表面粗さRaの第2拡散防止層上に形成される第3拡散防止層を介して形成される中間層の結晶配向性は良好となり、良好な超電導特性の酸化物超電導導体を提供可能な酸化物超電導導体用基材を、工程時間を短縮して効率的に製造することができる。
また、本発明の酸化物超電導基材の製造方法による製造される酸化物超電導導体用基材10は、表面粗さRaが金属基材1よりも小さい第2拡散防止層12上にIBAD法による中間層4が形成されているため、中間層4の結晶配向性が良好であり、その上に形成されるキャップ層16及び酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとすることができる。さらに、本発明の酸化物超電導導体の製造方法によれば、前記したように良好な結晶配向性の中間層4を備える酸化物超電導導体用基材10上にキャップ層16及び酸化物超電導層17が形成されるので、超電導特性が良好な酸化物超電導導体となる。
以上、本発明の酸化物超電導導体用基材及びその製造方法と酸化物超電導導体及びその製造方法の一実施形態について説明したが、上記実施形態において、酸化物超電導導体用基材及び酸化物超電導導体を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「実施例1」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ150m、表面粗さRa17nm、最大高さRy(JIS B0601)98nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ280nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ100nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて25時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは9.3nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速100m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。
次に、図4に示す構造のイオンビームアシストスパッタ装置を用いてIBAD法を実施し、イオンビームアシスト蒸着によりベッド層上に厚さ5〜10nmのMgOの配向層を形成した。この際、アシストイオンビームの入射角度は、テープ状基材成膜面の法線に対し、45゜とした。IBAD法の実施にあたりテープ状の基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、MgOの配向層を形成した。以上の方法により、酸化物超電導導体用基材を製造した。
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した。パルスレーザー蒸着法の実施にあたり成膜装置内部でテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜するようにした。
次に、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの安定化基層を形成した。このスパッタ法においてもテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜できるようにしている。次に、酸素アニールを500℃で10時間行い、26時間炉冷後、取り出した。以上の方法により、酸化物超電導導体を製造した。得られた酸化物超電導導体の平均臨界電流値Icは370Aであり、良好な超電導特性を示した。
「実施例2」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ150m、表面粗さRa10nm、最大高さRy70nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ200nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ70nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて12時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは9.2nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速100m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。
次に、実施例1と同様の手法にて、イオンビームアシスト蒸着によりベッド層上に厚さ5〜10nmのMgOの配向層を形成した。
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した。パルスレーザー蒸着法の実施にあたり成膜装置内部でテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜するようにした。
次に、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの安定化基層を形成した。このスパッタ法においてもテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜できるようにしている。次に、酸素アニールを500℃で10時間行い、26時間炉冷後、取り出した。以上の方法により、酸化物超電導導体を製造した。得られた酸化物超電導導体の平均臨界電流値Icは370Aであり、良好な超電導特性を示した。
「実施例3」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ150m、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ150nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ40nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて4時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは9.2nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも大きくなってしまっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速100m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。
次に、実施例1と同様の手法にて、イオンビームアシスト蒸着によりベッド層上に厚さ5〜10nmのMgOの配向層を形成した。
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した。パルスレーザー蒸着法の実施にあたり成膜装置内部でテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜するようにした。
次に、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの安定化基層を形成した。このスパッタ法においてもテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜できるようにしている。次に、酸素アニールを500℃で10時間行い、26時間炉冷後、取り出した。以上の方法により、酸化物超電導導体を製造した。得られた酸化物超電導導体の平均臨界電流値Icは375Aであり、良好な超電導特性を示した。
「実施例4」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ150m、表面粗さRa18nm、最大高さRy103nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ325nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ108nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて27時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは11.4nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速100m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、実施例1と同様にして、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した後、イオンビームアシスト蒸着によりベッド層上に厚さ5〜10nmのMgOの配向層を形成した。
次に、実施例1と同様にして、パルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成し、更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した後、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの安定化基層を形成した。次に、酸素アニールを500℃で10時間行い、26時間炉冷後、取り出した。以上の方法により、酸化物超電導導体を製造した。得られた酸化物超電導導体の平均臨界電流値Icは370Aであり、良好な超電導特性を示した。
「実施例5」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ150m、表面粗さRa25nm、最大高さRy120nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ357nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ125nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて38時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは12.1nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速100m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、実施例1と同様にして、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した後、イオンビームアシスト蒸着によりベッド層上に厚さ5〜10nmのMgOの配向層を形成した。
次に、実施例1と同様にして、パルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成し、更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した後、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの安定化基層を形成した。次に、酸素アニールを500℃で10時間行い、26時間炉冷後、取り出した。以上の方法により、酸化物超電導導体を製造した。得られた酸化物超電導導体の平均臨界電流値Icは370Aであり、良好な超電導特性を示した。
実施例1〜5における研磨前の第2拡散防止層(Al層)の表面粗さRaの変化を表1に示す。
Figure 2012064519
表1の結果より、表面粗さRaが10nm以上の金属基材を用いて、本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法を実施した場合(実施例1及び2)では、研磨前の第2拡散防止層の表面粗さRaが金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっており、研磨工程時間を短縮する効果があることが確認された。また、第1拡散防止層の厚さが300nmを超えている実施例4および5では、拡散防止層の表面剥離の頻度が高くなっていた。
「実施例6」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa13nm、最大高さRy78nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ250nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ83nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて17時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは9.3nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速50m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は200時間であった。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成した。
「比較例1」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa13nm、最大高さRy78nmのテープ状の金属基材を用意し、このテープ状金属基材の表面を平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、研磨速度50m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高低差Ry40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は200時間であった。
次に、研磨後の金属基材上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの拡散防止層を形成した。
「実施例7」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa13.5nm、最大高さRy78nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ255nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ85nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて18時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは9.3nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速50m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は200時間であった。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成した。
「比較例2」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa13.5nm、最大高さRy78nmのテープ状の金属基材を用意し、このテープ状金属基材の表面を平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、研磨速度20m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高低差Ry40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は500時間であった。
次に、研磨後の金属基材上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの拡散防止層を形成した。
「実施例8」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa17nm、最大高さRy98nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ280nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ100nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて25時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは9.3nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速50m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は200時間であった。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成した。
「比較例3」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa17nm、最大高さRy98nmのテープ状の金属基材を用意し、このテープ状金属基材の表面を平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、研磨速度20m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高低差Ry40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は500時間であった。
次に、研磨後の金属基材上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの拡散防止層を形成した。
「実施例9」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa18nm、最大高さRy103nmのテープ状の金属基材を用意し、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ325nmの第1拡散防止層を形成し、更に第1拡散防止層上にイオンビームスパッタ法により純Al(純度99.0%)からなる厚さ108nmの金属層(Al層)を成膜した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の金属基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、第1拡散防止層と金属層を形成した。
次に、温度域が10mの熱処理炉を使用し、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体を、800℃の無酸素雰囲気中で5分間熱処理をして金属層を溶融させた。この際、金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体のテープをリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に熱処理炉を通過できるようにしてテープ状積層体の全長にわたり、熱処理を行った。
次に、バッチ式の熱処理炉を使用し、熱処理炉内に金属基材と第1拡散防止層と金属層との積層体全体を収容し、600℃の酸素雰囲気中にて27時間熱処理を行い、金属層(Al層)全体を酸化させてAl層である第2拡散防止層を形成した。形成されたAl層の表面粗さRaは11.4nmであり、金属基材の表面粗さRaよりも小さくなっていた。
次いで、形成した第2拡散防止層であるAl層の表面を、平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、線速50m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高さRy40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は200時間であった。
続いて、研磨後の第2拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの第3拡散防止層を形成した。
「比較例4」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10km、表面粗さRa18nm、最大高さRy103nmのテープ状の金属基材を用意し、このテープ状金属基材の表面を平均粒径3μmのアルミナ砥粒を用いて、研磨速度20m/Hで、表面粗さRa5nm、最大高低差Ry40nmになるまで研磨した。研磨工程時間は500時間であった。
次に、研磨後の金属基材上に、イオンビームスパッタ法を用いてAlからなる厚さ20nmの拡散防止層を形成した。
実施例6〜9および比較例1〜4について、研磨工程を含む拡散防止層形成工程までの合計時間を表2に示す。また、実施例6〜9および比較例1〜4について、使用する金属基材の表面粗さ毎に、各実施例および各比較例において拡散防止層形成までに要する時間差(各比較例の合計時間から各実施例の合計時間を引いた時間)を表2に併記した。
Figure 2012064519
表2の結果より、本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法は、従来のように金属基材を研磨する方法と比較して、研磨工程を含む金属基材上に拡散防止層を形成するまでの工程時間を短縮する効果があり、特に、表面粗さRaが13.5nm以上の金属基材を使用する場合に、工程時間を短縮できることが確認された。
1…金属基材、3…ベッド層、4…中間層、10…酸化物超電導導体用基材、11…第1拡散防止層、12…第2拡散防止層、13…第3拡散防止層、16…キャップ層、17…酸化物超電導層、18…安定化層、20…酸化物超電導導体。

Claims (13)

  1. 金属基材上に、第1拡散防止層と、第2拡散防止層と、第3拡散防止層と、イオンビームアシスト蒸着法により成膜された中間層とがこの順に設けられてなり、前記第2拡散防止層の表面粗さRaが、前記金属基材の表面粗さRaよりも低く設定されてなることを特徴とする酸化物超電導導体用基材。
  2. 前記第2拡散防止層はAlの酸化物よりなることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導導体用基材。
  3. 前記金属基材の表面粗さRaが13.5nm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導導体用基材。
  4. 前記金属基材の表面粗さRaが17nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材。
  5. 前記第2拡散防止層はAlよりなり、前記第1拡散防止層と前記第3拡散防止層はアモルファスAlよりなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材。
  6. 前記第3拡散防止層と前記中間層との間にベッド層が介在されてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材の上に、キャップ層と酸化物超電導層とを備えてなることを特徴とする酸化物超電導導体。
  8. 金属基材上に、第1拡散防止層と、第2拡散防止層と、第3拡散防止層と、イオンビームアシスト蒸着法により成膜された中間層とがこの順に設けられてなる酸化物超電導導体用基材の製造方法であって、
    前記金属基材上に前記第1拡散防止層を形成する第1拡散防止層形成工程と、
    前記第1拡散防止層上に第2拡散防止層を形成する第2拡散防止層形成工程と、
    前記第2拡散防止層上に前記第3拡散防止層を形成する工程と、
    イオンビームアシスト蒸着法により中間層を成膜する工程と、を備え、
    前記第2拡散防止層形成工程が、
    前記第1拡散防止層の表面にAlよりなる金属層を形成する金属層形成工程と、
    前記金属層を溶融させる金属層形成工程と、
    前記金属層を酸化させて前記第2拡散防止層を形成する金属層酸化工程と、
    前記第2拡散防止層の表面を研磨して表面粗さRaを前記金属基材の表面粗さRaよりも低くする研磨工程と、
    を備えることを特徴とする酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  9. 前記金属基材の表面粗さRaが13.5nm以上であることを特徴とする請求項8に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  10. 前記金属基材の表面粗さRaが17nm以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  11. 前記第2拡散防止層はAlよりなり、前記第1拡散防止層と前記第3拡散防止層はアモルファスAlよりなることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  12. 前記第3拡散防止層と前記中間層との間にベッド層を介在させることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  13. 請求項8〜12のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法により得られる酸化物超電導導体用基材の上に、キャップ層と酸化物超電導層とを形成することを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。
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