JP2012062228A - Afi型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】基板や液体金属等の異種物質を導入することなく、単純な合成プロセスで軽量な多孔性自立膜を形成することができ、コストの削減を図ることが可能となる多孔性自立膜を提供する。
【解決手段】本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜は、緻密結晶層の少なくとも片面に柱状の結晶が成長したものである。
【選択図】図3

Description

本発明は、AFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜およびその製造方法に関する技術を提供するものである。
多孔質結晶であるゼオライトは、分子ふるい、ガス吸着、イオン交換、固体酸触媒等の産業と密接した機能・特性を有している。分子ふるい特性に関しては、分離膜への応用が1990年代に本格的になされるようになってきた(非特許文献1)。例えば、水とアルコールの分離等が挙げられるが、これは、有機高分子膜では不得意とする条件下での分離への適用が期待されたことによる。
このような背景のもと、多孔質基板にゼオライトを膜形成する種々の研究がなされてきた(特許文献1)。なお、ここで言うゼオライト膜は単結晶膜ではなく微結晶の凝集や連晶による多結晶膜を意味する。
基板に支持されたゼオライト膜(以下、ゼオライト支持膜と呼ぶ。)は、強度や取り扱いの点において優れるものの、多孔質基板を用いた場合にはゼオライト結晶が無配向で膜化しやすいなどの問題点もある。特に、一次元細孔を有するゼオライトでは、例えば、細孔が膜に対して平行に配置していれば、膜のガス透過・分離特性が劣化することにもつながる。そのために、一次元細孔が膜に対して垂直に配向していることが望まれ、配向ゼオライト支持膜の合成研究も盛んになされてきた(非特許文献2、3、4及び5)。
ゼオライト支持膜は、ゼオライト膜の厚さに比べて基板厚が遙かに大きく重量がかさむ等の問題点がある。また、不透明な基板を用いた場合には、ゼオライト膜自身の光学的特性を評価するのが難しくなると言った問題点もあった。このため、強度が低いという問題点があるものの、軽量かつ光学的に透明な「ゼオライト自立膜」の合成が、1990年代後半からなされるようになってきた。
その方法として、最も簡便なのが、固体の基板上にゼオライト膜を合成し、それをはく離することである。ただし、この方法では、はく離する際、ゼオライト膜が割れる等の欠点もある。この欠点を克服するため、特許文献3では、固体の基板ではなく、ゼオライト合成用原料水溶液と反応・混合・溶解しない水銀などの液体金属を用いている。具体的には、ゼオライト合成用原料水溶液と液体金属の界面にゼオライト自立膜を合成させる方法である。液体金属がゼオライト自立膜の支持体として働いているが、液体金属であるが故に、ゼオライト自立膜のみを容易に取り出すことができる。この方法を用いることにより、MFI型ゼオライト自立膜が合成されている。
その他、特許文献2では、アルミニウム基板上にANAとPHI型ゼオライト支持膜を合成させ、水熱合成反応過程にてこのゼオライト支持膜が自然はく離する特性を利用してゼオライト自立膜を形成している。
上述のように、基板に支持されたゼオライト配向膜の合成は、粉末形態を有するゼオライトの一般的な合成方法(単に合成用水溶液を調製し、それを水熱反応により結晶化する方法)と比べ、基板表面の処理や既にマイクロサイズの一次元細孔が配向した特殊な基板の利用、多段の水熱合成等の複数の行程を必要とするプロセスであることや、基板の種類によっては高価であるという問題点がある。
このような状況下、単純プロセスによる合成が望まれ、加えてゼオライト自立膜合成に関しては、水熱合成反応時に膜を形成させるために必要となる種々の材質からなる板状固体や液体金属などの支持体を使用しない新たな合成方法が提案できれば、コスト削減を図ることが可能となる。
また、自立膜で、かつそれが配向性を有していれば、分離膜としての利用のみならず、非特許文献2で示されている細孔の配向と光の電場(偏光)の相対的角度依存性から由来する新規な光学材料等の開発にも結びつき、その工業的利用も十分期待される。
ここで、特許文献3により得られたMFI型と呼ばれる一次元細孔を有するゼオライトの自立膜は、液体金属との界面にて結晶が一軸整列し、一次元細孔の一軸性配向が生じることが報告されている(非特許文献6)。但し、MFI型以外では、ゼオライト配向自立膜の合成例は調査範囲では存在しない。故に、一例として、分離膜としての利用においても、ゼオライトの結晶構造に分離特性は大きく依存するため、MFI型以外のゼオライト配向自立膜及びその合成法を確立することは極めて重要である。
特開2001−089134号公報 特開2004−107111号公報 特開平08−026720号公報 「ゼオライトの化学と工学」(小野嘉夫・八嶋建明編,講談社サイエンティフィク(2000)) I.Girnus, M.M.Pohl, J.Richter-Mendau, M.Schneider, M.Noack, D.Venzke, and J.Caro, Adv.Mater.7(1995)711. T.G.Tsai, K.J.Chao, X.J.Guo, S.L.Sung, C.N.Wu, Y.L.Wang, and H.C.Shih, Adv.Mater.15(1997)1154. G.N.Karanikolos, J.W.Wydra, J.A.Stoeger, H.Garcia, A.Corma, and M.Tsapatsis, Chem.Mater.19(2007)793. E.Hu, Y.L.W.Huang, Q.Yan, D.Liu, and Z.Lai, Microporous Mesoporous Mater.126(2009)81. Y.Kiyozumi, F.Mizukami, K.Maeda, T.Kodzasa, M.Toba, and S.Niwa, Stud.Surf.Sci.Catal.105(1997)2225. A.S.T.Chiang, C.-K.Lee, and Z.-H.Chang, Zeolites 11(1991)380. "Collection of simulated XRD powder patterns for zeolites", by M.M.J.Treacy and J.B.Higgins, Elsevier(2001). "ATRAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES", by Ch.Baerlocher, W.H.Meier, D.H.Olson.Elsevier(2001).
本発明は、上述の問題に鑑みなされたもので、RoHS指令(2006年7月からEU圏で施行された電気・電子機器に対する特定有害物質使用制限指令)等を考慮した環境低負荷、かつ単純なプロセスによるゼオライト自立膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来、平滑基板(水銀等の液体金属を含む)や一次元多孔性基板、金属メッシュ基板等が必要となる一軸性配向ゼオライト膜を、これらの基板を使用することなく、自己組織的に合成し、低コスト、低エネルギー、低環境負荷に優れる多結晶配向性ゼオライト自立膜を見出した。
ゼオライト自立膜合成の一般的な手法として、平らな自立膜形成のためには、反応溶液に対して何らかの界面が必要であり、ステンレス等の固体を基板として用いれば、固―液界面が、水銀などの液体を用いれば、液―液界面が形成され、これらの界面が自立膜形成の場となる。
本発明においては、これらの界面とは異なり、反応溶液とそれが接する大気、即ち気―液界面を自立膜生成(結晶核生成)場所とすることにより、反応溶液を入れる容器内に異種物質(基板・液体金属)を導入する必要性がなくなった。
上記の手法による自立膜合成において、その結晶構造で定義される細孔の配向制御(つまり穴の向きを揃えること)は、結晶核または微結晶の結晶方位が、それらの多数の結晶に渡って揃うことが重要であり、その方法として、微結晶時にその外形が特異的であるゼオライト種を選択する必要がある。
アルミノリン酸塩に若干のシリカが含まれるAFI型ゼオライトは、マイクロ波加熱を利用した結晶成長の初期段階、すなわち微結晶時には六角形の平板形状をしており(非特許文献5参照)、細孔は平板に対して垂直に存在している。故に、気−液界面では板状結晶は界面に対して平行に配向しやすい。これらの特徴を利用することにより、ゼオライト自立膜、さらにはゼオライト配向自立膜の合成が可能になると、本発明者らは考えた。
本発明において見出された新規な多孔性自立膜、すなわち、AFI型アルミノリン酸塩の配向自立膜は、ガス分離・吸着等の化学的な利用法に留まるものではない。一次元細孔を利用した一次元ナノ物質を、高密度かつ安定的に配列できる容器として利用し、かつマクロに配向することにより、この自立膜を基板と考え、垂直配向磁化材料の基板として利用することが可能となる。これにより、エレクトロニクス分野や、その半透明性からオプトナノテクノロジーにおける基板としての利用が大いに期待できる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜は、緻密結晶層の少なくとも片面に柱状の結晶が成長しているため、基板や液体金属等の異種物質を導入することなく、多孔性自立膜を形成することが可能となる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜は、膜厚が概ね100〜2000μmであるため、強度に優れた多孔性自立膜を形成することができる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜は、結晶c軸が緻密結晶層に対して垂直方向に配向しているため、膜のガス透過、分離特性を向上させることができる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜は、前記柱状の結晶が、六角柱状の結晶であり、緻密結晶層に対して垂直方向に成長するため、膜のガス透過性、分離特性をさらに向上させることが可能となる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜は、投影面積が、少なくとも50cm以上であるため、膜のガス透過性、分離特性を確実に高めることができる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法は、Al:P:(CN:HO=1:0.5〜2.0:1.0〜6.0:150〜700(モル比)で合成原料を混合して、反応溶液を作製し、前記反応溶液のpHを2.4〜3.4に調製するため、基板や液体金属等の異種物質を導入することなく、多孔性自立膜を形成することが可能となる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法は、前記合成原料を(CN/Al=1.0〜6.0(モル比)に調製し、配向性を制御するため、基板や液体金属等の異種物質を導入することなく、多孔性自立膜を形成することがより確実となる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法は、前記反応溶液を温度160〜210℃において、6時間以上加熱するため、膜厚制御が可能であり、膜のガス透過性、分離特性をさらに向上させることが可能となる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法は、前記反応溶液を温度0〜50℃において、静置時間を0〜100時間の間で変化させることにより、前記膜厚及び/又は配向性を制御するため、一次元細孔が膜に対して垂直に配向した機械的強度に優れた多孔性自立膜を形成することができる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法は、前記合成原料のP/Al(モル比)を変化させることにより、前記膜厚及び/又は配向性を制御するため、機械的強度に優れた多孔性自立膜を形成することができる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法は、前記合成原料が、Al、P、(CN、HO及びpH調整剤の酸を含有し、前記合成原料に支持基板としての固体や液体を有しないため、軽量かつ分離性能に優れた多孔性自立膜を形成することができる。
本発明に係るAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法は、前記反応溶液の表面と空気の界面にて生成した結晶核及び微結晶が結晶成長して自立膜を生成するため、基板や液体金属等の異種物質を導入することなく、多孔性自立膜を形成することができる。
本発明によれば、基板や水銀等の液体金属の異種物質を導入することなく、単純且つ安全性の高い合成プロセスで軽量な多孔性自立膜を形成することができ、コストの削減を図ることが可能となる。
関連する技術に係るAlPO−5の結晶構造を示す図である。 AlPO−5単結晶の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 本発明に係る多孔性自立膜の写真である。 本発明に係る多孔性自立膜の合成に用いる水熱反応容器の模式図である。 (a)未焼成のAlPO−5粉末結晶のXRDパターンを示す図である。(b)焼成後のAlPO−5粉末結晶のXRDパターンを示す図である。 (a)未焼成のAlPO−5自立膜のXRDパターンを示す図である。(b)焼成後のAlPO−5自立膜のXRDパターンを示す図である。 ゼオライト自立膜の断面SEM写真である。 77KにおけるNガスの吸着脱離等温線である。 Al源として擬ベーマイトを用いて合成した本発明に係る多孔性自立膜の写真である。 AlPO−5の(a)総収率、粉末収率、自立膜収率を示す図である。(b)AlPO−5の面積の加熱時間依存性を示す図である。 AlPO−5の自立膜としての収率、総収率、及び自立膜の加熱温度依存性を示す図である。 AlPO−5自立膜の総面積、個別面積における反応溶液のpH依存性を示す図である。 水熱合成前の熟成時間(TAging)を(a)0時間、(b)3時間、(c)24時間とした場合に得られる本発明に係る多孔性自立膜の写真である。 水熱合成前の熟成時間(TAging)を(a)0時間、(b)3時間、(c)24時間とした場合に得られる本発明に係る多孔性自立膜のXRDパターンを示す図である。 AlPO−5自立膜総面積、個別面積における反応溶液のトリエチルアミン量依存性を示す図である。 AlPO−5自立膜の個別面積に対する反応溶液の水の量依存性を示す図である。 AlPO−5自立膜としての総面積に対する反応溶液のリン酸(P)の量依存性を示す図である。 本発明に係る多孔性自立膜形成起源探索のための水熱合成場の模式図である。 図18による水熱反応で合成された本発明に係る多孔性自立膜の写真である。
本実施の形態に係る多孔性自立膜において、アルファベット大文字3文字からなるのは、IUPACに準拠するゼオライトの骨格構造のトポロジー(例えば、AFI)を表す(非特許文献9)。一方、例えば、AlPO−5、SAPO−5、FAPO−5は、どれもAFIの結晶構造を有するが、骨格の構成元素が若干異なり、それぞれAl―P―O、Si−Al―P−O、Fe―Al−P―Oの各元素からなる。
本実施の形態に係る自立膜は、基板や液体金属等の異種物質を導入することなく形成可能な多孔性自立膜をいう。換言すれば、緻密結晶層の少なくとも片面に柱状の結晶が成長したAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜である。ここで、緻密結晶層とは、図7右図に示す柱状結晶の成長起点となっている層であり、具体的には、AlPO−5の結晶構造を有するものの、結晶核または微結晶同士がその成長過程において互いに融合したために自立膜形成に必要な機械的強度を有し、かつ単独のAlPO−5結晶に典型的な六角柱状の結晶外形を確認することが容易ではなく、またこの層が一定の厚さを持った状態である。
上記の緻密結晶層の片面もしくは両面に柱状の結晶が成長している(図7参照)。柱状の結晶は、緻密結晶層に対して、垂直方向に成長していることが好ましい。結晶の形状としては、柱状、好ましくは、六角柱状であるが、特に限定されるものではない。
本実施の形態に係る自立膜の膜厚は、50〜2000μmである。膜厚が50μm未満の自立膜を合成しようとすると、緻密結晶層を構成する結晶の融合が十分に行われず、自立膜の機械的強度の低下が生じ自立膜そのものを反応容器から回収するのが困難になるばかりでなく、実施例にて詳述する自立膜の個別面積が非常に小さくなる。一方、2000μmを超える膜厚の自立膜を合成しようとすると、膜と呼べる2次元平面状の外形よりも、むしろ単なる凝集体と呼べるような不定形な外形を有するようになる。
本実施の形態に係る多孔性自立膜は、結晶c軸が緻密結晶層に対して垂直方向に配向している。ここで、結晶c軸とは、一次元細孔と平行な結晶方位のことを指す。両者の関係は図1に示されている。
本実施の形態に係る多孔性自立膜の投影面積は、50cm以上である。ここで、投影面積が50cm未満であると、大型・迅速な分離膜装置の製造や、シリコンウエハーの例のように、同一のパターン形成を一枚の自立膜に行う際に作製できるパターンの数が減ってしまう。ここで、投影面積とは、細孔や結晶粒子間空隙などのサブnmからnmオーダーの内部表面積(比表面積)、柱状結晶やその集合体のμm〜mmオーダーの結晶外表面での凹凸を無視し、cmオーダーの平滑な表面を仮定した場合の自立膜がマクロに占める面積のことをいう。
本実施の形態に係る多孔性自立膜の合成原料は、モル比で、Al:P:(CN:HO=1:0.5〜2.0:1.0〜6.0:150〜700である。この範囲を外れると全く自立膜が形成されない。上記の合成原料から反応溶液を形成するが、反応溶液のpHは、2.4〜3.4が望ましい。この範囲外では、自立膜は全く形成されず、図2で示すような柱状の結晶、もしくは凝集体としてAlPO−5が得られる。
また、合成原料のモル比を、(CN/Al=1.0〜6.0、好ましくは、2.0〜4.0において、配向性を制御する。合成原料のモル比が、この範囲を外れると自立膜が複数の破片として得られる、もしくは自立膜自身の面積が小さくなる。ここで、配向性を制御するとは、具体的には、緻密結晶層から少なくともその片面において柱状のAlPO−5が緻密結晶層に対して垂直方向に成長している状態の完全配向から、柱状結晶が無秩序もしくは傾いたり、完全に横に寝た状態の間で変化させることをいう。
反応溶液を温度160〜210℃、好ましくは、180〜200℃において、6時間以上、好ましくは48時間以上加熱する。反応溶液の温度が160℃未満であると、合成反応時間が非常に長くなる、もしくは合成反応が進まない。210℃を超えると、合成容器内のテフロン内筒の変性や合成容器内の圧力が高まり、合成時の安全性の点で好ましくない。また、加熱時間が6時間未満であると自立膜が形成されていない、もしくは実用に耐えられない程度の機械的強度しか持たないことになる。
反応溶液を0〜50℃、好ましくは、10〜40℃において、静置時間を0〜100時間の間で変化させ、膜厚及び/又は配向性を制御する。ここで、反応溶液の温度が0℃未満であると、静置の効果が反映されにくくなり、50℃を超えると、静置時間のわずかな違いで膜厚や配向が変わってしまい、その制御が困難になり、また、合成反応が開始されてしまう恐れもある。
合成原料のモル比P/Alを変化させることにより、膜厚及び/又は配向性を制御する。
合成原料が、Al、P、(CN、HO及びpH調整剤の酸を含有し、合成原料に支持基板としての固体や液体を有しない。換言すれば、水熱合成用容器内にアルミナ、リン酸、(CN、水、pH調製剤の酸を自立膜の主原料として含み、原料溶液と固体もしくは液体との界面は、反応容器内壁のみからなる。
反応溶液の表面と空気の界面に、自立膜の結晶核及び/又は微結晶を生成する。換言すれば、水熱合成容器内の反応溶液の表面と空気の界面、すなわち、気−液界面を自立膜形成に必要な結晶核・微結晶の生成場所とする。ここで、反応溶液とは、Al、P、(CN、HO及びpH調整剤の酸を混合した水性ゲルのことである。
図1に、AlPO―5の結晶構造を示す。骨格の化学組成はAl121248である。格子点位置の球はAl及びP原子を示し、両者は交互に配列している。なお、Al原子とP原子をつなぐ酸素原子はこの図では省略されている。平行六面体で囲まれた領域は結晶の単位胞であり、格子定数がa=b=1.37nm、c=0.85nmの六方晶系である。c軸と平行方向に一次元細孔を有しており、その有効内径は0.73nmである。
図2に、典型的なAlPO―5単結晶の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。c軸は柱状方向と平行である。模式的に一次元細孔をSEM写真に重ねているが、細孔サイズは強調して示している。
以下、本発明の具体的な実施条件について説明する。
(反応溶液の調製手順)
反応溶液の調製は以下のようにして行った。
Al源、P源、有機アミン、pH調整剤として、下記の試薬を用いた。
Al源:アルミナゾル[10wt%水溶液](川研ファインケミカル社製)
P源:オルトリン酸溶液[85wt%水溶液](和光純薬またはアルドリッチ)
有機アミン:トリエチルアミン((C2H5)N)[99wt%+](東京化成または和光純薬)
pH調整剤:硫酸(東京化成)
出発原料のモル混合比が、以下の場合の具体的な反応溶液の調製方法として下記の操作を行った。
Al:P:(CN:HO=1.0:1.0:3.0:550
まず、水99.1gに、オルトリン酸16.3gを分散させる。これを氷冷かつ撹拌下にて(CNを21.1g加える。これを溶液Aとする。
次に、水141gに、撹拌下でアルミナゾル70.0gを分散させたものを溶液Bとする。
溶液Aを撹拌状態にある溶液Bに滴下し、溶液の均一化のために30分間撹拌を保持する。更に、撹拌を続けながら、硫酸を滴下することにより、pHを調整する。1時間の撹拌の後、溶液を所定の時間(その時間依存性に関しては以下の実施例中にて適宜示す。)静置する。
(AlPO−5結晶合成と焼成)
各原料を混合することにより得た反応溶液は、オートクレーブに密封後、加熱用オーブンに投入する。オーブン内のオートクレーブは静置しておく。所定の加熱(温度[Temp]、及びその保持時間[THeating]は、以下の実施例中にて適宜示す。)を終えたら、オートクレーブをオーブンから速やかに取り出し、流水により急冷する。
オートクレーブを開封後、テフロン内筒底部に沈降している自立膜及び粉末結晶を取り出し、超純水にて洗浄後、40℃にて乾燥させた。
このようにして得た自立膜、及び粉末結晶には合成時に使用した(C)Nが一次元細孔内に存在するため、空気5(l)/min.の流量下で600℃にて60時間の焼成を行い、(C)Nを酸化反応により除去した。焼成後は、粉末粉砕試料(詳細は以下に示す。)が白色、自立膜は薄い肌色を呈した。
(合成したAlPO−5の分析)
粉末XRDパターンは、Bragg−Brentano光学系を有するMacScience社 MXP−3TZを用い、Cu−Kα1,2線を使った試料照射幅一定の条件下にて室温測定した。
なお、同一ロットで得られる粉末結晶を比較対象とするが、粉末結晶の選択配向を低減させるため、乳鉢にて粉砕し、50μmメッシュの篩を通過した粒度のものを使用した。
走査電子顕微鏡像(SEM)は、日立S−800を用い、加速電圧10kVにて2次電子像を観察した。
光学顕微鏡像は、オリンパス社BX−70型顕微鏡を用い、無偏光透過像を明・暗視野観察した。
比表面積・細孔容量分析は、Quantachrome Autosorb 1−MPを用い、窒素ガス(N)吸着を77Kにおける飽和蒸気圧条件下で定容法測定を行った。比表面積は、多点BET法、細孔容積は、Saito−Foley(SF)法および非局所密度汎関数法(NLDFT)を用いて見積もった。
(実施例1)
<自立膜の作製>
出発原料のモル比、反応溶液のpH、熟成時間、加熱温度、及びその時間を表1に示す。
上記の方法により、図3に示すように、半透明かつ直径8.0cm以上の自立膜を合成した。図3のスケールの目盛り単位はmmである。
本実施例では、自立膜のみならず、膜形成に関与しないAlPO−5粉末結晶も併せて得られた。
更に、図4に示す模式図のように、反応溶液の調製・混合に用いたテフロン被覆スタラーチップをテフロン容器内に残した状態での水熱合成後、このチップの上に自立膜が存在していた。すなわち、テフロン容器の底面を基板の役割としてこの膜が形成されたのではないことがわかる。なお、スタラーチップが存在しなくとも、自立膜は当然のことながら合成でき、スタラーチップが自立膜形成に直接作用していないことを確認した。
また、自立膜の上には粉末結晶は存在せず、合成容器の底に沈降した自立膜の更に下に粉末結晶が存在することを特徴とする。このようなAlPO−5自立膜とAlPO−5粉末結晶の共存と、合成容器内での相対的位置関係は、以下の実施例においても同様である。
本実施例では、テフロン内筒の内径が8.7cm(面積にして60cm相当)である。より大きな内径を有するテフロン内筒を用いれば、更に大きな面積を有する自立膜を得ることができる。
(実施例2)
<自立膜のキャラクタリゼーション[粉末XRD、SEM、ガス吸着特性]>
自立膜の合成条件を表1に示す。
実施例1と同様にして、自立膜を合成した。
まず、自立膜と併せて得られた粉末結晶のXRDパターンについて説明する。
図5(a)に未焼成粉末結晶のXRDパターンを示し、(b)に焼成した粉末結晶のXRDパターンを示す。
図5のXRDパターン直下に示された複数の縦棒の印は、Cu−Kα1,2線により出現可能な回折線の位置を表し、実際の強度の強い回折線に対しては指数付けを行った。
未焼成粉末結晶の格子定数は、a=b=1.3653nm、c=0.8530nmの六方格子と見積もられた。
一方、焼成後の粉末結晶の格子定数は、a=b=1.3712nm、c=0.8423nmの六方格子である。この粉末パターンは、格子定数及び回折ピークの相対強度も含めて、非特許文献8に記載の粉末XRDパターンに回折線の回折角、相対強度も含めて良い一致を見る。
故に、本実施例における合成条件は、図1に示す結晶構造を有する、IUPAC表記でAFIと骨格構造が命名されるAlPO−5が得られることを確認した。AlPO−5結晶構造は、空間群P6ccを取り、この空間群では001回折線に対する出現可能条件は1=2n(nは自然数)となる。
図6(a)に未焼成自立膜のXRDパターンを示し、(b)に焼成した自立膜のXRDパターンを示す。
図6のXRDパターン直下に示された複数の縦棒の印は、図5と同様に、出現可能な回折線の位置を表し、実際の強度の強い回折線に対しては指数付けを行った。
未焼成自立膜の格子定数は、a=b=1.3653nm、c=0.8530nmの六方格子と見積もられた。
一方、焼成後の粉末結晶の格子定数は、a=b=1.3729nm、c=0.8422nmの六方格子であった。焼成・未焼成を問わず、得られた自立膜は、粉末結晶と同一の反応溶液から得られたこと、及び単位胞の大きさからAlPO−5結晶から形成されることがわかる。
ただし、図5の粉末結晶のXRDパターンとは、回折線の相対強度が全く異なる。002、004などの001(1=2n)となる回折線がそれぞれの周囲の回折線と比べて非常に強い強度を有し、試料面の垂直方向に結晶のc軸が著しい選択配向をしていることがわかる。
図7に、自立膜のSEM像を示す。
図7の左図は、自立膜の断面を観察したものである。自立膜面内方向は右上から左下方向である。
自立膜の膜厚は170μm程度である。図7より、自立膜面内方向から垂直方向に柱状の結晶が伸びていることがわかる。
更に、図7の右図は、断面中央付近を拡大したものである。断面の中央付近はおよそ80μmの厚みを有する緻密結晶層から形成されている。
図8は、合成時に用いたTEAを焼成除去した自立膜の77K(液体窒素温度)での窒素ガスの吸脱着等温線である。図中、黒丸は吸着過程、白丸は脱離過程を表す。
吸着等温線カーブの形状は、P/P<0.05の領域で急激に吸着量が増し、0.1<P/Pでは緩やかに吸着量が増す。IUPACによる分類に従えば、このような等温線形状はマイクロポア(<2nm)の存在を意味し、タイプIに分類される。なお、吸着と脱着曲線の間でわずかにヒステリシスがあることから、結晶粒界等にわずかにメソポア(2〜50nm)が存在する。NLDFT法による細孔分布の解析からは、このメソポアは、2.5nmと3.8nmにピークを持つことが示された。
細孔容量は0.074cc/g、比表面積は210.8m/gと見積もられた。この結果から、多孔性結晶であることが確認され、細孔の閉塞の影響は少なく、種々の吸着材料として応用が可能であることがわかった。
(実施例3)
<出発原料依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
出発原料のAl源として、擬ベーマイト(Catapal B, Sasol North America社製)を用いて合成を行った。その結果、図9に示すように、複数枚に分裂した自立膜が作製された。これは、擬ベーマイトの解膠(アルミナゾル形成)が十分に行われていないうちに水熱反応を行ったためと考えられる。図中のスケールの目盛り単位はmmである。
これにより、自立膜が形成され、かつそれがAlPO−5の結晶構造であることをXRDにより確認した。Al源として、固形物としては、Al(OH)、Al(OCなどが挙げられるが、擬ベーマイトと同様に、酸性水溶液下にて解膠性(ゾル形成能)があれば、その種類は特に限定されない。
一般に市販されているAl(OH)は、アルカリ条件下にて合成されるため、酸性環境での解膠性に乏しいものが多い。実施例1、2ではアルミナゾルをAl源として用いているが、これは、Al(OCを元に酸性溶液下にてゾル化させた商品であり、ゾルのサイズ、安定性等が保たれるため、自立膜の合成に好適である。故にアルミニウムアルコキシドをAl源とする合成例は省略する。
一方、P源に関しては、溶液として市販されるオルトリン酸(HPO、85wt%)が取り扱いの容易さ等の観点から好適であるが、これ以外にも固体の五酸化リン(P)やメタリン酸((HPO)等を用いてもよい。いずれも、水溶液に分散させることにより、直ちにオルトリン酸を用いた場合と同様の形態に溶解することが知られている。ここでは、その実施例は省略する。
構造指向剤として用いる有機アミンは、トリエチルアミン以外の3級アミンではトリプロピルアミンが挙げられ、粉末形態AlPO−5の合成例も報告されている(非特許文献7)。トリエチルアミンをトリプロピルアミンに変更する以外の合成原料のモル比をはじめとする諸条件を上記に記したものに統一した場合の実施例を検討したが、AlPO−5自立膜はもちろん、AlPO−5結晶さえも全く合成できず、トリジマイト(tridimite)様の結晶構造を有する粉末が得られたのみであった。
<加熱時間依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
図10に、生成物(AlPO−5)の(a)総収率、粉末収率、自立膜収率を示し、(b)AlPO−5の面積の加熱時間依存性を示す。ここで、図10(b)中の縦棒は誤差を意味する。
図10より、加熱時間6時間の段階で既に自立膜の形成が確認された。ただし、膜厚が薄いために非常にもろく、取り扱いには細心の注意を払った。回収を含めた自立膜の取り扱いに必要な機械的強度は、加熱時間の増大と共に増した。
図中の破線は、総収率の時間依存性に対する近似曲線を表したもので、下記式(1)の関数を表す。
式(1)
ここで、式中、Wはt時間加熱後の生成物の総収率、Aは到達総収率、tは加熱時間、tは時定数である。ここでは、W=55.5、t=11.2hで実験結果と良い一致を見た。
なお、後述する実施例において、収率の定義として、反応溶液中に含まれるアルミニウムに対する得られた自立膜または粉末結晶試料中のアルミニウム量の比率を表す。総収率は粉末結晶収率と自立膜収率の和となる。
この近似曲線も併せて鑑みると、加熱時間を増すに伴い、生成試料である自立膜と粉末結晶の収率及びそれらの総和である総収率どれも増加するが、おおよそ48時間で合成が完了する。48時間以上の加熱を行っても、生成試料の量はほとんど増加しない。
故に、自立膜合成には少なくとも6時間あれば十分であり、48時間の加熱により、自立膜成長反応がほぼ終了する。
自立膜合成はその使用目的により、以下に示す種々の合成条件から最適なものを選択することになるが、合成反応を十分に進める場合には、48時間以上の加熱を行うのが好ましい。
<加熱温度依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
図11に、水熱合成温度(Temp)を160〜200℃の間で変化させた場合のAlPO−5総収率、自立膜収率、及び自立膜個別面積の結果を示す。なお、自立膜個別面積の定義については後述する。
図11は、生成物(AlPO−5)の自立膜としての収率、総収率、及び自立膜の加熱温度依存性を示す。各加熱温度における加熱時間は、160、170、180、190、200℃に対し、それぞれ120、 96、48、48、48時間とした。これは、各温度で、AlPO−5結晶の合成反応が十分に進行するように考慮した値である。図中の縦棒は、収率に関しては系統誤差、自立膜個別面積に関しては測定誤差を表す。
図11の総収率は温度の上昇と共に単調的に増す。一方、自立膜に関しては160℃では全く自立膜が得られなかったものの、170℃以上では収率が10〜15%の一定に近い値を示した。また、自立膜の個別面積も170℃以上で最大サイズの60cmを有する。
故に、160℃よりも高い温度であれば、自立膜が得られることがわかる。本実施例では、160〜200℃の温度範囲で合成を行ったが、AlPO−5が合成可能な、200℃以上の高温での自立膜合成をなんら排除するものではない。
<反応溶液のpH依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
図12に、硫酸の滴下量を調整することにより、反応溶液のpHを2.45〜3.40の間で変化させて、AlPO−5自立膜合成を行った際の自立膜の個別面積及び総面積を示す。加熱温度は190℃、加熱時間は48時間である。自立膜総面積については、測定誤差、個別面積に関し、統計的分布を誤差棒として表した。以下の図面においても、総面積と個別面積における誤差棒の定義は同様である。
図中、点線は自立膜の総面積、実線は自立膜の個別面積を示す。ここで、総面積と個別面積とは、水熱合成で得られた自立膜が複数の破片として得られた場合に、それらの面積の総和及び破片1個の面積をそれぞれ意味する。故に、一枚の連続した自立膜として得られる場合は、総面積と個別の面積は一致する。
自立膜の収率に関しては、反応溶液のpHが低いほど収率が高く、逆にpH =3.4では、もはや自立膜は形成されない。
ただし、pHが単に低ければ自立膜形成に好適というわけではない。自立膜の個別面積は、pH=2.45では1cm前後の破片状の多数の自立膜が形成されるのに対し、pH=3.0近傍では一枚の大きな自立膜が形成される。一方、自立膜の総面積は、pH=3.0近傍で反応容器内の断面積に相当する60cmとなる。
故に、反応溶液のpHは2.4〜3.4の広い範囲に渡り自立膜が形成されるものの、自立膜1枚の面積に着目した場合、pH=2.8〜3.2が好適である。
<反応溶液の熟成時間依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
図13(a)〜(c)は、反応溶液を加熱前に室温にて静置(熟成)する時間(Taging)を0〜24時間と変化させた場合において生成される自立膜の写真を示す。Tagingは、それぞれ0、3、24hである。図中のスケールの目盛り単位はmmである。
図13から明らかなように、Tagingが増すにつれて、自立膜の透過率は減少する。これは膜厚が増加することに由来する。断面の光学顕微鏡観察から、膜厚はTaging=0hで150±15μmから、Taging=3hで225±20μm、Taging=24hで250±25μmに増大する。
一方、図14に、図13の未焼成自立膜のXRDパターンを示す。熟成時間が無い(図14(a))、もしくは短い(図14(b))では、002回折線が他の回折線よりも遙かに強く、図6(a)とほぼ同様の結果を示し、結晶c軸が自立膜と垂直方向に選択配向している。
一方、熟成時間が24時間の場合(図14(c))、002回折線の強度は、(a)、(b)のパターンと比較して相対的に減少していることから、c軸の配向度が下がっていることを示している。故に、配向性を優先するか、または膜厚を優先するかによって熟成時間の長さを適宜選択すればよい。
<TEA/Al依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
図15に、構造指向剤として用いるトリエチルアミン(TEA:(CN)の量(TEA/Al)を1〜6で変化させた場合の自立膜への寄与を、自立膜の総面積と個別面積とに分けてプロットした。反応溶液のpH=2.95(ただし、(CN/AlO=1、1.5の場合は除く。)である。加熱温度は190℃、加熱時間は48〜68時間とした。ここで総面積と個別面積とは、図12の場合と同じ定義である。なお、反応溶液が(CN/AlO=1及び1.5の場合では、硫酸滴下によるpH調整を行う前の段階で既にそれぞれpH=2.06、2.56であったため、そのまま水熱合成を行った。
TEA/Al=1では、AlPO―5以外の結晶相の混入が、XRDパターンにより確認できた。1.5≦TEA/AlではAlPO−5の単相であった。
図15から明らかなように、TEA/Al=1.5〜6.0の広い範囲で自立膜が形成されるものの、合成容器の断面積である60cmに相当する一枚の自立膜が形成されるのは、モル比がTEA/Al=2〜4の範囲であり、この条件範囲が自立膜形成の点で最も望ましい。
<HO/Al依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
水溶液中の水の量(HO/Al)を150〜700で変化させ、自立膜の収率及び個別面積への寄与を、図16にプロットした。
O/Al=150、700では自立膜は全く形成されず、これらの中間領域にて自立膜が形成された。よって、自立膜が形成されるのは150<HO/Al≦500となる。しかし、HO/Al=500では、自立膜が非常に薄くもろい。
そのため反応容器から取り出すことも容易でなく、実用上の困難が伴う。これらのことを勘案すると、反応容器内の断面積に相当する大きな自立膜を形成する場合には、200≦HO/Al<500の範囲で反応溶液を調製するのが望ましい。
<P/Al依存性>
本実施例における合成条件を表1に示す。
図17に、アルミナに対する酸化リンの量(P/Al)を変化させた場合の自立膜の収率及び総面積の変化をそれぞれプロットした。
自立膜の総面積は、0.8≦P/Al≦1.2では形成されうる最大値(60cm)であり、かつ一枚の自立膜として形成されていた。なお、P/Al=0.8では自立膜が非常にもろく、反応容器底部に一枚の自立膜として形成されるものの、取り出す際に簡単に割れてしまう性状を有していた。
逆に、P/Al=1.2では自立膜の強度は相対的に高かった。なお、P/Al=0.8〜1.2のどの自立膜でも、そのXRDパターンには明瞭は選択配向性が確認でき、この点においては酸化リンの量には影響されない。
一方、1.5≦P/Alでは自立膜は形成されるものの、その総面積は最大値の60cmに達せず、また複数に分断された形態を自立膜は有していた。この領域ではP/Alの値が増すに伴い、総面積は減少し、かつ分断された個々の自立膜の面積も減少する。
故に、合成後の自立膜の取り扱いの観点も含めると、0.8<P/Al<1.5の範囲内で酸化リンの量を調整するのが望ましい。P/Al=0.8、1.0、1.2、1.5、2.0での膜厚は順に90〜130、180〜250、約300、約1300、約1800μmとなり、比の増大に伴い膜厚が増す。故に自立膜の個別面積の大きさが重要でなく、機械的強度が要求される場合には、酸化リンの量(P/Al)を増すのが良い。ただし、膜厚増大に伴い、結晶配向性は次第に損なわれる。
(実施例4)
<自立膜形成起点>
実施例1で示したように、本実施例における自立膜は合成容器であるテフロン内筒の底面にて形成されたものではない。すなわち、反応溶液の加熱途中に水溶液中のどこかで自立膜が形成され、重力による沈降を経て、合成容器の底に到達したものである。
そこで、自立膜合成起点を明らかにする目的で、合成容器内に厚さ0.5mmテフロンシートを加工して作成した中空状の円錐台を設置の上、合成を行い、形成される自立膜の形状・サイズを評価した。
図18は、自立膜形成起源探索のための水熱合成場の模式図である。円錐台テフロンシ
ートの内側は中空となっている。具体的には、円錐台状のシート内に形成される自立膜が円形であれば、その直径を測り、対応する円錐台断面の直径と比較することにより、水溶液中で形成される自立膜の位置(高さ)を知ることができる。
本実施例の合成条件を表1に示す。
図19は、図18による水熱反応で合成された本発明に係る多孔性自立膜の写真である。すなわち、図18を用いた水熱反応により合成された自立膜を示す。図中の中央の円形自立膜は、円錐台状テフロンシート内側の反応容器底部から回収したものである。その他の破片ディスクは、円錐台状テフロンシートの外側とテフロン内筒の間に形成された自立膜であり、その膜厚は100〜120μmであった。なお、図中のスケールの目盛り単位はmmである。
その結果、ほぼ円形の自立膜が円錐台状シート内の底に形成された。その直径は溶液の液面における円錐台状テフロンシートの内径にほぼ一致した。このことは、反応溶液の気−液界面にて生成された多数の結晶核が元となり、それが気−液界面にて、もしくは沈降する過程において結晶成長し、互いに融合しあった結果、水熱合成反応処理後に合成容器を開けた際に自立膜がその底部に存在したと結論づけられる。即ち、溶液上面における気−液界面が自立膜合成の起点となっていることが証明された。
以上述べたように、本発明に係る多孔性自立膜は、以下の点で有用である。
RoHS指令(2006年7月からEU圏で施行された電気・電子機器に対する特定有害物質使用制限指令)に基づく環境低負荷な、かつシンプルな手法によるゼオライト自立膜合成法を提供する。具体的には、従来、平滑基板(水銀等の液体金属を含む)や一次元多孔性基板、金属メッシュ基板などが必要となる一軸性配向膜をこれらの基板を使用することなく、自己組織的に合成できることから、低コスト、低エネルギー、低環境負荷によるゼオライト自立膜の提供が可能となった。
AlPO−5配向自立膜は、今後、ガス分離・吸着などの化学的な利用法に留まらない。その一次元細孔を利用した一次元ナノ物質を高密度かつ安定的に配列されられる容器として利用し、かつそれがマクロに配向していることから、この自立膜を基板と考えるならば、垂直配向磁化材料の基板として利用するなどのエレクトロニクス分野や、その半透明性からオプトナノテクノロジーにおける基板としての利用も期待できる。
従来、基板上に形成したゼオライト膜合成では、剛直な基板の上に膜を形成させるため、重量が大きい欠点があった。しかし、本発明においては、軽量化に優れる自立膜を形成できるというメリットが生じる。
また、他の自立膜合成法では、アルミニウム基板や液体金属などの特異な界面を反応溶液に人工的に設け、その界面上に膜を形成させている。一方、本発明においては、どのような水溶液にも有する気−液界面を、自立膜形成の起点として用いているため、非常にシンプルな膜形成法である。
さらに、基板上のゼオライト膜では細孔の一軸性配向の例があるが、配向特性を付与するために、基板への有機官能基の結合・種結晶の塗布・一次元細孔を有する多孔アルミナの利用が行われている。これらの手法は合成プロセスが多段であるため、複雑かつコストがかかる。しかし、本発明では、自立膜そのものが既に細孔の一軸性配向を有するため、合成プロセスが単純であり、コストを大きく低減できるメリットがある。

Claims (12)

  1. 緻密結晶層の少なくとも片面に柱状の結晶が成長したAFI型アルミノリン酸塩の多
    孔性結晶自立膜。
  2. 膜厚が50〜2000μmであることを特徴とする請求項1に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜。
  3. 結晶c軸が緻密結晶層に対して垂直方向に配向することを特徴とする請求項1又は2に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜。
  4. 前記柱状の結晶が、六角柱状の結晶であり、緻密結晶層に対して垂直方向に成長することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜。
  5. 投影面積が、少なくとも50cm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜。
  6. Al:P:(CN:HO=1:0.5〜2.0:1.0〜6.0:150〜700(モル比)を含有する合成原料から反応溶液を形成し、前記反応溶液のpHを2.4以上3.4未満に調製するAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法。
  7. 前記合成原料を(CN/Al=1.0〜6.0(モル比)に調製し、配向性を制御することを特徴とする請求項6に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法。
  8. 前記反応溶液を温度160〜210℃において、6時間以上加熱することを特徴とする請求項6又は7に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法。
  9. 前記反応溶液を温度0〜50℃において、静置時間を0〜100時間の間で変化させることにより、前記膜厚及び/又は配向性を制御することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法。
  10. 前記合成原料のP/Al(モル比)を変化させることにより、前記膜厚及び/又は配向性を制御することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法。
  11. 前記合成原料が、Al、P、(CN、HO及びpH調整剤の酸を含有し、前記合成原料に支持基板としての固体や液体を有しないことを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法。
  12. 反応溶液の表面と空気の界面に、自立膜の結晶核及び/又は微結晶を生成することを特徴とする請求項6乃至11のいずれか1項に記載のAFI型アルミノリン酸塩の多孔性結晶自立膜の製造方法。



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