JP2012057239A - サーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 - Google Patents

サーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 Download PDF

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Abstract

【課題】基材表面に、密着性と各種の特性に優れたサーメット皮膜を形成する方法、なかでも非導電性セラミック溶射皮膜を電気めっきすることによって、めっき金属充填形サーメット皮膜に変化させる方法と、この方法の実施によって得られるサーメット皮膜被覆部材とを提案すること。
【解決手段】導電性基材の表面に、非導電性セラミック溶射皮膜を形成すると共に、該皮膜の気孔中に、電気めっきによって析出しためっき金属を充填させることにより、サーメット皮膜と同じ構成の皮膜を形成し、同時に多孔質サーメット皮膜の封孔を実現して、基材の耐食性を改善する方法と、この処理によって得られるサーメット皮膜被覆部材。
【選択図】図1

Description

本発明は、封孔技術を利用した新規なサーメット皮膜の形成技術であって、具体的には、非導電性セラミック溶射皮膜を、この皮膜の開気孔部(外部に開かれた気孔部の呼称で、腐食性の液体、ガス成分の皮膜内部への進入通路となる)の中に、電気めっき法によってめっき析出金属を充填することにより、サーメット皮膜に変化させる方法と、この方法の実施によって得られるサーメット皮膜被覆部材に関する提案である。
溶射法は、ArやHなどのガスプラズマ炎または炭化水素の燃焼炎などを用いて、金属(以下、合金を含めて金属と言う)やセラミックス、サーメットなどの粒子を、軟化もしくは溶融した状態にして被処理基材表面に吹付け、堆積させて皮膜状にする表面処理の方法である。この方法は、熱によって軟化したり溶融する材料であれば、ガラスやプラスチックをはじめ、融点の高いタングステン(融点3,387℃)、タンタル(融点2,996℃)などの金属はもとより、Al(融点2,015℃)、MgO(融点2,800℃)などの酸化物系セラミックスでも成膜することが可能であり、皮膜材料種の選択自由度が非常に大きいという特徴がある。このため、溶射皮膜の特性を利用した用途が、多くの産業分野に拡大している。
そして、溶射装置や溶射ガンなどのハード面の性能についても、これらの良し悪しが、溶射皮膜の品質に大きな影響を与えることから、品質の向上や生産性の向上と共に、さらなる改善、開発が世界的規模で精力的に行なわれている。例えば、特許文献1では、大気中で溶射された金属皮膜の粒子は、酸化物を多量に含むため、皮膜を構成する粒子間の相互結合力や基材との密着力低下原因となるとして、空気を排除した50hPa〜200hPaの低圧アルゴンガス雰囲気下でプラズマ溶射(減圧プラズマ溶射)する方法やその装置を提案している。
また、特許文献2では、炭化物サーメット粒子のように、高温の熱源中において、炭化物が分解したり酸化する現象を最少限に止めると共に熱源の運動エネルギーを最大限に利用して炭化物粒子の飛行速度を上げ、その粒子の被爆時間(温度)を極限まで短縮する、所謂、高速フレーム溶射法を提案している。
溶射皮膜の品質や溶射装置については、上述したように、改善されてきたが、溶射のプロセスについては、解明が未だ不十分である。例えば、溶射熱源中に投入された溶射粒子群には完全に溶融するものがある一方で、未溶融状態のままのものもあり、こうした粒子は基材表面に堆積した際、相互の融着が不完全ないしは不均等になることから、空隙(気孔)が不可避に発生し、これが皮膜の気孔となって顕在化する。
例えば、特許文献3によれば、減圧プラズマ溶射法で形成されたAlやYの溶射皮膜は、0.2〜7%程度の気孔が存在しているとの開示がある。即ち、これらの気孔の大部分は、貫通気孔(皮膜の外部から基材の表面まで続いている気孔)として存在しているため、使用環境の中では腐食性のガスや流体の侵入通路を提供することとなって、基材表面の腐食が進行し、該皮膜と基材との接合力の低下を招いて剥離する原因となる。
以上説明したように、溶射皮膜は、一般に、気孔が不可避に存在することから、従来、成膜後に封孔処理を施すことが奨励されている。例えば、JIS H 9302セラミック溶射作業標準では、セラミック溶射皮膜を形成した後、その表面に、無機系あるいは有機高分子系の封孔剤を塗布したり噴霧して、気孔内部に充填する方法が記載されている。
さらに、溶射皮膜の気孔を封孔するための方法、および封孔材については、次のような提案がある。
(1)特許文献4〜6には、耐食性を有するシリコーン、エチルシリケートなどの珪素化合物、合成樹脂などの有機高分子材料を用いて封孔する方法が開示されている。
(2)特許文献7、8には、金属アルコキシドや金属酸化物粒子などの非金属化合物を含む電解液中に溶射皮膜を浸漬した後、これを電解し、電気泳動法の原理を利用して皮膜の表面や気孔中に溶質成分や酸化物粒子を充填した後、これを加熱焼成する方法が開示されている。
(3)特許文献9には、可視光線によって硬化する有機高分子剤を溶射皮膜の表面に塗布し、気孔内を充填して封孔するとともに、自然光によって硬化させる技術が開示されている。
(4)また、発明者らも特許文献10において、溶射皮膜の表面を電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギーを照射した後、その表面に炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆形成させる方法を提案した。
(5)特許文献11には、溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射を行なって、表面近傍の溶射粒子を溶融させて気孔を熱的に消滅させる技術の提案もある。
特開平1−139749号公報 特開平9−67661号公報 特開2001−164354号公報 特開昭54−32422号公報 特開昭57−70275号公報 特開昭64−62453号公報 特開昭62−260096号公報 特開平7−41927号公報 特開平5−106014号公報 特開平7−321194号公報 特開平10−306363号公報
上掲の従来技術は、いずれもセラミック溶射皮膜の耐食性や耐摩耗性、耐熱性などの特性のいずれかの特性を改善するために行われる封孔技術であるが、次のような課題がある。
(1)珪素化合物などの無機系封孔剤による溶射皮膜の封孔技術は、比較的大きい開口部をもつ気孔をもつものに限定される他、アルカリ性水溶液中では珪素化合物が溶出するため、用途が限られるという欠点がある。
(2)有機高分子系封孔剤を用いる技術は、酸、アルカリなどには優れた耐食性を発揮するものの、温度の影響を受けやすいという欠点がある。例えば、一般の高分子系の封孔剤では150〜180℃で軟化したり、また分解がはじまり、200℃以上の温度では長時間の使用に耐えることができない。
(3)電気泳動現象を利用する封孔技術は、電気泳動作用が及ばない微細な気孔中には、電解液のみが侵入し、酸化物微粒子の大部分は皮膜の表面に滞留するために、完全な封孔処理ができない。また、酸化物微粒子自体には防食効果はなく、さらに金属アルコキシド自体は防食作用が十分でないうえ経時変化して、その機能を消失するとういう欠点がある。
(4)溶射皮膜の表面を電子ビームおよびレーザビームなどの高エネルギー照射処理によって溶融して封孔する技術は、溶融した溶射皮膜が凝固する際に体積収縮を起こして微細な割れを発生することがあり、完全な封孔技術になり得ない。
(5)溶射皮膜の表面に、炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆する方法は、酸、アルカリなどに耐える効果はあるものの、450℃以上の温度ではアモルファス状膜が分解するため、高温環境への適用に問題がある。
(6)なお、その他、従来技術において、珪素系薬剤や高分子系封孔剤を利用する技術がある。これらの封孔剤は、表面張力および粘度が大きいため、微小な開気孔部への侵入が難しく、入口付近に留まっているため、完全な封孔処理ができない。しかも、封孔剤は、乾燥時に水分(浴剤)が揮発して体積が収縮するため充填部に隙間を発生させる。
(7)また、電気泳動法で封孔した金属アルコキシドや酸化物微粒子の充填部でも、加熱焼成に伴う水分の蒸発、体積の収縮は避けられず、加熱焼成工程の必須化によるエネルギー損失および生産コストの増加がある。
(8)さらに、これらの電気泳動法をはじめ封孔剤による封孔処理技術には、共通の課題として、封孔剤が開気孔部の入口付近に留まり、気孔の内部まで侵入せず、溶射皮膜と基材との密着性向上および皮膜を構成する溶射粒子の相互結合力を強化することができない。何よりも、この技術はサーメット皮膜形成の方法を提案するものではない。
(9)なお、電気泳動法による封孔処理には、塩酸、硫酸などの危険な薬剤の使用を必要とするほか、酸化物として有害なPbOを使用が不可避であるという欠点がある。
本発明の目的は、従来技術が抱えている前述の課題を解決すること、とくに、基材表面に、密着性と各種の特性に優れたサーメット皮膜を形成する方法、なかでも非導電性セラミック溶射皮膜を電気めっきする、めっき金属充填形サーメット皮膜に変化させる方法と、この方法の実施によって得られるサーメット皮膜被覆部材とを提案することにある。
上記目的を実現する方法として、本発明は、導電性基材の表面に、多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気めっき液中に浸漬し、該溶射皮膜被覆基材を陰極として直流の電気めっき処理を行うことによって、該非導電性セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部の気孔中に侵入させためっき液からめっき金属を析出させてそれの充填状態を導くことにより、当該非導電性セラミック溶射皮膜をサーメット化させて、めっき金属充填形サーメット皮膜に変えることを特徴とするサーメット皮膜の形成方法を提案する。
ここで、この方法は、下記の知見に基づいて開発されたものである。
(1)この発明において、特徴的なことは、まず、導電性基材の表面に、直接またはアンダーコートを介して、非導電性セラミックの多孔質溶射皮膜を被覆形成することであり、次いで、その非導電性セラミック溶射皮膜を被覆してなる基材を、電気めっき液中に浸漬し、この導電性基材を陰極として直流通電し、該セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部にある気孔中にまでめっき液を万遍なく侵入させ且つめっき金属を基材表面の側から順次に析出させて、該溶射皮膜の気孔中に分散している気孔中にめっき金属が充填された状態を導くことで、サーメット皮膜に変化させることにある。
(2)この場合の電気めっき処理において、めっき金属の析出は、非導電性セラミック溶射皮膜表面では起らず導電性をもつ基材表面(または導電性アンダーコートの表面)の側を起点として、析出した金属が溶射皮膜の表面に向けて順次に皮膜内部に存在する粒子間に生成している隙間を選びつつ成長する。従って、溶射皮膜のサーメット化は下層から上層に向い、より長時間のめっき処理によって、やがて皮膜表面にもめっき金属皮膜を生成して、恰もめっき処理したようにすることもできる。
(3)一般に、めっき液からの金属の析出反応、つまり、めっき反応は、非導電性(非電気伝導性)のセラミック溶射皮膜を対象とする場合には起こらない(析出しない)。しかし、本願発明のように、貫通気孔を有する多孔質の非導電性セラミック溶射皮膜の下に金属などの導電性基材があるような場合には、その貫通気孔を介してめっき液が基材にまで達して電気的に導通することで、電気めっきが可能になる。即ち、電気めっき処理した場合、非導電性セラミック溶射皮膜が貫通気孔を有する多孔質素材でさえあれば、空隙部(貫通気孔および開気孔)、とくに溶射粒子の未接合部などの厚み方向に貫通する空隙(貫通気孔)を通ってめっき液が侵入して基材表面に達する。その結果、電気的に導通して、めっき液から金属を析出し、この金属も負に帯電しているため、めっき液から金属が析出し続けるため、やがて、めっき金属が気孔内に析出成長し、これが溶射皮膜全体の気孔に拡大していく。その結果、非導電性セラミック溶射皮膜内部に分散して存在している気孔がめっき金属によって充填され、やがてセラミック層はサーメット層に変化することになる。
(4)上述した説明からわかるように、めっき液からの金属の析出反応とその成長は、溶射皮膜の内部、それも基材(またはアンダーコート)側から順次に始まり、溶射皮膜表面側に向って進み、最終的には、皮膜の表面にまで達することとなる。そして、上述したように、めっき処理時間を長くすると、該非導電性セラミック溶射皮膜の表面を完全に被覆するまでになり、該非導電性セラミック溶射皮膜がサーメット化して導電性皮膜になる。
また、本発明は、前記記載の方法によって形成される部材であって、導電性基材と、その基材表面に被覆形成された多孔質非導電性セラミック溶射皮膜の気孔中に、電気めっき処理時に析出するめっき金属が充填されて得られる導電性のめっき金属充填形サーメット皮膜と、からなることを特徴とするサーメット皮膜被覆部材を提案するる。
なお、本発明は下記の構成にすることが、より好ましい実施形態となる。
(1)前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であること。
(2)前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けること。
(3)前記めっき金属充填形サーメット皮膜の表面に、めっき金属被覆層を形成すること。
(4)前記セラミック溶射皮膜の気孔内部に充填するめっき金属が、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、モリブデン、クロム、亜鉛、錫、鉛、金および銀またはこれらの合金から選ばれる1種以上の導電性の金属を用いること。
(5)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いること。
(6)前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いること。
(7)前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Fe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いること。
(8)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成すること。
(9)前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成すること。
(10)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、20〜5000μmの厚さにすること。
上述した構成に係る本発明によれば、次のような効果が期待できる。例えば、導電性基材の表面に形成された非導電性セラミック溶射皮膜を、電気めっき処理によってサーメット皮膜に変えることができるので、たとえ既存の非導電性セラミック溶射皮膜からでもこれを金属の性質を付与したサーメット皮膜に変えることができる。
その他、本発明によれば、次のような効果も期待できる。
(1)導電性基材の表面に形成した非導電性セラミック溶射皮膜に対して電気めっき処理を行うので、溶射皮膜の気孔部のみに、めっき金属を析出充填することができるので、セラミック材のサーメット化と同時に封孔、緻密化が図れる。
(2)溶射皮膜の内部に立体的に存在するめっき液の侵入可能な貫通気孔・開気孔部や溶射粒子同士の不完全な相互接合部の隙間(空隙)などに、めっき液から析出した金属を充填することができるので、封孔を確実に果すとともに粒子間の相互結合力を向上させることができる。
(3)めっき金属の析出は、導電性基材の表面側から始まり、時間の経過に伴なって、皮膜の表面方向へ進むという過程を辿るため、溶射皮膜の気孔部や基材と皮膜との境界に存在する隙間などもすべて、基材側から順次に充填封孔されていくので、基材の表面もめっき金属による被覆(遮蔽)効果に優れ、基材の耐食性等の特性を向上させる。
(4)めっき液は、非導電性セラミック溶射皮膜の中に立体的に存在する空隙部(貫通気孔、開気孔)に侵入し、めっき金属を析出してそこの部分を充填していく中で、基材とも電気化学的に結合した状態で付着成長していくので、溶射皮膜全体の基材との密着性を向上させる。
(5)電気めっき金属の種類を選択することによって、基材に対して多くの特性が付与されたサーメット皮膜を被覆形成することができる。例えば、セラミック溶射皮膜に対して、亜鉛めっき金属を気孔内に充填させると、耐食性に優れた皮膜となり、また、半田めっき金属を充填させた後、この金属を加熱溶融すると、高度な密着力を有する皮膜となるなど、溶射皮膜に対し、物理化学的性能を事後的に付与して、1つの溶射皮膜から各種の特性を有するサーメット皮膜に変化させることができる。
(6)電気めっきによるめっき金属の析出反応は、基材表面側から始まり、時間の経過に伴なって、溶射皮膜の表面側へ向って順次に起るが、さらに長時間電流を通じると、最終的には皮膜表面に達し、その後、さらに通電するとめっき析出金属は、皮膜表面に沿って成長を続け、外観上は、恰もセラミック溶射皮膜の表面に直接電気めっきを施したような状態になる。従って、めっき製品の製造技術にも適用できる。
本発明の方法を実施するための工程の流れを示したものである。 本発明方法の一形態を示す電気めっき装置の略線図である。 非導電性Al溶射皮膜の表面にまで成長した銅めっき金属膜の断面ミクロ組織を示した写真である。 Al溶射皮膜をニッケル処理した際の通電時間の変化に伴う皮膜表面におけるニッケル金属の成長状況を示した写真である。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本発明の方法を実施するための工程の流れを示したものである。以下、この工程順に従って本発明を説明する。
(1)基材の選定
本発明に使用する基材は、導電性(電気伝導性)を有する金属材料が用いられる。例えば、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などが好適である。鋼材の表面に、Ni、Ni−Crなどのめっき膜を形成した基材でもよい。ガラス、石英、プラスチック、セラミック焼結体のように、電気不良導体の基材に対しては、前処理を施した後、無電解めっき、CVD、PVDなどによって、導電性を付与するための金属の薄膜を被覆形成して、基材の表面のみを電気伝導体としたものについても、本発明の基材として使用することができる。
(2)基材表面への溶射皮膜の被覆
前記導電性基材表面に、非導電性セラミック溶射皮膜を形成するに当たっては、JIS H 9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施することが好ましい。例えば、基材表面のさびや油脂類などを除去した後、Al、SiCなどの研削粒子を吹付けて粗面化し、その表面に直接または金属質の導電性アンダーコートを施工した後に、それらの上に非導電性セラミックの溶射皮膜を形成する。
セラミック溶射皮膜の形成方法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法あるいは爆発溶射法などが好適に用いられる。
前記の導電性アンダーコートは、前記の各種溶射法に加え、アーク溶射法、フレーム溶射法などを用いることができるので、溶射法の種類については、特に制限はない。
(3)非導電性セラミック溶射材料
本発明において用いられる溶射皮膜形成用の溶射材料は、非導電性の材料であることが必要であり、これが前提条件である。その非導電性の程度は、皮膜を形成した基材をめっき液中に浸漬して通電した際に、皮膜の表面に直接、めっき金属が析出しないこと、例えば、ρ:1×0−5Ωcm程度以上の電気抵抗率を示すことが目安となる。このような基準から、本発明方法への適用が可能になるセラミック皮膜形成用溶射材料の代表的な例を列挙すると下記の通りである。非酸化物系セラミックス粒子は、大気中や空気(酸素)を含む環境などの溶射熱源中では、粒子の表面に電気抵抗の大きい酸化膜を生成するので、本発明の目的に使用することができる。
(I)酸化物系セラミック:Al、TiO、ZrO、Y、NiO、MgO、Cr、CoO、SiO、Al−TiO、Al−MgO、Al−Y、BaTiO、LaCrO、2MgO−SiOなど
(II)非酸化物系セラミック:TiN、TaN、AlN、BN、Si、NbN,MoSi、TiSi、CrB、ZrB、TaB、CV、TiC、SiC、HfCなど
(III)酸化物−非酸化物系セラミックの混合物および化合物:例えば、SiO−Al、−AlNなど
なお、非酸化物系セラミックのように、酸化物に比較すると電気抵抗値の小さいセラミックを成形する場合には、Alなどをアンダーコート的に施工した後、その上に非酸化物系セラミックを成膜する方法が推奨される。
上記溶射材料の粒径は、5〜100μmの大きさのものがよく、水プラズマ溶射法用粉末を除き、5〜50μmの範囲がより好適である。セラミックを棒状にして用いる溶棒式フレーム溶射法の材料については、棒状として用いて差支えない。
上述した溶射用材料を用いて被覆形成する溶射皮膜の厚さは、20〜5000μmの範囲が好適である。膜厚が20μm未満では、貫通気孔が多くなりすぎる上、被覆の効果が不充分になる。一般に、溶射皮膜の場合、必然的に多くの貫通気孔や開気孔が存在するが、本発明においてこれらの気孔部には、上述した電気めっき処理に際して析出するめっき金属が侵入して充填され、封孔される。一方、膜厚が2000μm、ときには5000μmに達する水プラズマ溶射皮膜では気孔径が大きくなって、粒子間結合力の低下が懸念される。ただし、この場合であっても500μm、好ましくは2000μm以下であれば、次工程のめっき処理によって析出するめっき金属の充填現象によってこのような弱点も解決することができる。
従って、本発明において、非導電性セラミック溶射皮膜は、少なくとも0.2%以上、好ましくは5%〜20%程度の気孔率を有する溶射皮膜であって、この皮膜は貫通気孔や開気孔、連通気孔を有する多孔質素材であることが有利であり、この気孔率の大きさに比例してサーメット化の程度が決定される。
(4)アンダーコート材料
アンダーコートは、基材と非導電性セラミック溶射皮膜の間にあって、基材に該セラミック溶射皮膜を直接形成するよりも、より高い密着力を発揮させるのに効果がある。とくに、本発明では、このアンダーコートは、次工程の電気めっき処理時において、めっき金属の析出起点ともなる重要な役割を果すものである。具体的には、Ni、Ni−Cr、Ni−AlおよびNi−Cr−Al合金、自溶合金(JIS H 8302規定)などの導電性の金属・合金が好適に用いられる。なお、アンダーコートの厚さは、10〜150μmの範囲がよく、特に50〜100μmが好適である。
(5)電気めっき処理
本発明において、この電気めっき処理もまた重要である。この処理によって、前記非導電性セラミック溶射皮膜を、めっき金属充填形サーメット皮膜に変化させることができると同時に皮膜気孔部の封孔ができ、必要に応じて、該溶射皮膜表面をめっき金属で被覆した状態とすることができる。
即ち、この電気めっき処理の原理は、図2に示す通りである。すなわち、前記多孔質な非導電性セラミック溶射皮膜2にて被覆されている導電性基材1を、銅めっき液中に浸漬し、その基材1を陰極とすると共に、めっき金属3の銅を陽極として直流を通電してめっきする方法である。このようにして通電すると、陽極から溶出した銅がイオンとして、めっき液中に溶出する一方、陰極の基材表面では、多孔質な非導電性セラミック溶射皮膜の開気孔部から侵入しためっき液から銅イオンが金属銅として析出する電気化学的反応を利用するものである。例えば、めっき金属の析出量は、基本的には通電電気量に略比例するが、本発明において、電流密度は、1A/dm〜30A/dm程度、好ましくは3A/dm〜10A/dm程度の直流電源を用い、温度(室温)20℃〜60℃程度の条件を採用することが好ましい。また、本発明において使用できる代表的なめっき浴組成の例を表1に示す。
なお、めっき時間は、溶射皮膜の厚さ、気孔率によって大きく変化するが、その終点は気孔部の充填を目的とする場合には、上述したように、通電後、基材表面から析出しためっき金属が、皮膜の粒界を充填しつつ成長し、その先端が表面に露出した状態を外部から観察することによって判定する。つまり、この判定時期に相当す状態が気孔部の充填完了の目安となる(図4(B)参照)。
Figure 2012057239
いずれのめっき液中であっても、酸化物系および非酸化物系の非導電性セラミック溶射皮膜自体は、化学的に安定しており溶出することはない。しかも、本発明で用いられるセラミック溶射皮膜は、非導電性であるため、該皮膜表面にめっき金属が析出することはないのが普通である。なお、表1に示すもの以外のめっき金属としては、クロム、モリブデン、錫、鉛、金、銀などの金属やそれらの合金などを使用することができる。なお、アルミニウムやチタン、モリブデンなどの金属は非水溶液(有機質溶媒)を用いれば、析出させることができ、さらに、無電解めっき処理によっても、金属を析出させることが可能であるので、湿式のめっき法については、特に制約を受けない。
本発明において、非導電性セラミック溶射皮膜の気孔中に、めっき金属が析出する理由は、セラミック溶射皮膜中の貫通気孔や開気孔、空隙部分からめっき液がそれらの気孔内部に侵入し、これらの気孔を通じて陰極として存在する導電性基材の表面、もしくはアンダーコート表面に順次に達して導通し、下記のような反応を起して、めっき金属を析出する。
めっき液中の金属イオン → 陰極面にて電子を放出して金属として析出する。
Figure 2012057239
このような電気めっき処理において、通電を続けていると、導電性基材表面側の皮膜気孔内にまずめっき金属が析出し、このようにして析出しためっき金属は、基材表面側から、次第に溶射皮膜表面側の気孔に向って順次に析出(成長)しつづけ、セラミック溶射皮膜中の大半の空隙を埋めるように、とくに、めっき液が存在する大半の空隙部(完全な閉気孔を除く)内にめっき析出金属が析出して充填封孔することとなる。該セラミック溶射皮膜の空隙内、即ち、貫通気孔や開気孔等は皮膜の厚さ方向に、立体的(三次元的)に存在しているため、それらのすべてがめっき金属によって連続した状態で充填されていく。従って、めっき終了後の該セラミック溶射皮膜は、めっき金属によって完全に封孔された状態となると共に、その結果、該非導電性セラミック溶射皮膜の気孔には析出しためっき金属が充填された状態になるから、正しくサーメット皮膜と化する。しかも、このようなサーメット皮膜は、めっき金属が基材と電気化学的作用によって接合しているため、基材との密着性が向上することはもちろん、セラミック粒子間の相互結合力の向上に対しても大きな役割を果して、皮膜全体の強度を向上させることになる。
そして、この処理において、めっき時間を延長すると、セラミック溶射皮膜の内部に存在するほとんど全ての気孔(空隙)が充填封孔され、やがて溶射皮膜の表面に達してここを被覆するまでになる。なお、めっき金属の析出は、当初は溶射皮膜の基材側の下層部分から、微小な粒子状の金属を析出していく。ただし、貫通気孔のない皮膜表面では、このような析出金属粒子は確認できないため、本発明によれば、従来の技術では困難であった貫通気孔部の可視化が可能となる。つまり、この現象は、溶射皮膜の貫通気孔部の位置とその分布、程度を判定するための試験方法としても有効である。
以上説明したところから判るように、実際の溶射皮膜の表面には多数の小さい貫通気孔部や開気孔が存在するため、皮膜の内部から成長して皮膜表面に達する析出金属は、多数の小さい粒子として観察されるので、さらに通電を続けると、これらの析出金属粒子は、それぞれ成長して金属粒子同士が接合し合って、最終的には、セラミック溶射皮膜の全表面が完全に被覆された状態となり、恰も溶射皮膜の表面にめっき処理を施したような外観を呈するようになる。
図3は、非導電性セラミック溶射皮膜として、Al溶射皮膜を用い、そこに銅めっきを施した例であるが、溶射皮膜の気孔中に析出しためっき金属銅が充填されていると共に、皮膜表面にまでめっき金属銅の析出層が成長し、該皮膜表面を完全に覆うまでに到って、銅めっき金属膜が形成された状態の部材断面のミクロ組織を示したものである。即ち、セラミック溶射皮膜部に注目してみると、Al粒子間の空隙部に銅が粒子状に析出して充填されている一方、皮膜の表面にも比較的厚い銅のめっき膜が生成しており、表面を被覆している状況が確認できる。なお、ミクロ組織写真では、電気めっきによって析出した銅は、溶射粒子の隙間に金属粒子として観察されているが、実際の皮膜では、すべての金属粒子は立体的な網目状として連結された状態で存在している。このような銅めっき膜は、一般の銅めっき膜と同じような金属光沢を示すとともに、セラミック皮膜では不可能な半田付け加工なども容易となる。
なお、電気めっき処理によって析出する金属量は、その金属の電気化学当量によって支配されることは周知のとおりである。すなわち、めっき金属の析出量(析出速度)は、その金属固有の数値を有するものの通電量に比例し、また、同じ通電量であれば通電時間に比例するので、通電量と通電時間を制御することによって、皮膜内部の空隙部への充填量および皮膜表面に被覆形成されて金属量を調整することができる。図3に示す実験の通電条件は、3A/dm、50℃、浴組成は表1記載の銅めっき液、24時間で行ったものである。
図4は、Al溶射皮膜をNiめっき処理した際の通電時間の変化に伴う皮膜表面における金属ニッケルの成長の状況を示したものである。例えば、図4(B)の状態を示すような場合には、皮膜内部に存在する空隙部は、ほぼ析出金属ニッケルによって充填されている状態であり、封孔処理の操作が終了した状態と見做される。なお、図4(C)の状態から、さらに通電を続けると、析出金ニッケルは皮膜の表面を完全に被覆する状態となって、やがて図3に示したような皮膜構造となる。
このような処理を施して得られるサーメット皮膜被覆部材は、一般的な用途としては、電気めっき処理が終了した時点で使用することができるものであるが、用途によっては(例えば、機械構造部材のように、寸法精度が要求される場合)皮膜表面を研削、研磨などの加工を行うことも可能である。また、溶射皮膜の表面を機械加工した後、電気めっき処理することでもできるので、上述した工程の順序については、特に制約されない。
(実施例1)
この実施例では、SS400鋼試験片(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)の片面をブラスト処理した後、(ブラスト処理)面に直接、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射用および水プラズマ溶射法によって、気孔率:0.2%〜28%程度のAl、Y、YAG(YとAlの複酸化物)のセラミック溶射皮膜を80μmの厚さに被覆形成した。その後、半数の溶射皮膜試験片については、表1に記載のスルフォン酸液によ電気Niめっきを施し、皮膜気孔部内にめっき金属(Ni)を析出させて充填する処理を行った。試験片の側面および裏面などの基材露出部には、耐食性を有する塗料を塗布し、JIS Z 2371に規定されている塩水噴霧試験を500h実施し、試験後の皮膜表面の赤さび発生状況から耐食性を評価した。なお、塩水噴霧試験中100hと300h経過後の外観変化についても記録した。
表2は、以上の結果を要約したものである。この結果から明らかなように、電気めっき処理を施こさない試験片(No.2、4、6、8、10、12、14、16,18)では、試験後100h経過すると、すでに赤さびが出はじめ、300h経過後には、赤さびの発生面積が10%以上に拡大し、この種の液状の腐食性媒体に対しては、耐食性に乏しいことが判明した。即ち、供試した3種類のプラズマ溶射法によって形成されたセラミック溶射皮膜の表面では、程度の差はあるものの、貫通気孔が多数存在していたため、ここから塩水が皮膜内部へ侵入して基材を腐食させたことが明らかである。
これに対し、本発明に適合する電気Niめっき処理を施して得られたNi含有Al、Y、YAGサーメット皮膜の試験片(No.1、3、5、7、9、11、13、15、17)では、300h経過後でも明瞭な赤さびの発生は認められず、500h経過後になって、やっと該サーメット皮膜表面の1〜2%程度に赤さびの発生が見られるだけであり、前者に比較すると、はるかに優れた耐食性を有することが明らかとなった。この効果は、塩水が侵入する溶射皮膜の貫通気孔部がめっき液から析出したNiによって充填された結果、塩水の皮膜内部、ひいては鋼基材へ向うの侵入経路が消失して断たれたものと推定される。なお、めっき金属量は、めっき処理前後の試験片の重量差から算出したものである。
Figure 2012057239
(実施例2)
この実施例では、セラミック溶射皮膜に対し、本発明に適合する条件で電気亜鉛めっき処理を施したサーメット皮膜被覆部材の耐摩耗性を調査した。
試験用基材として、SS400鋼試験片(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)を用い、その片面に大気プラズマ溶射法によって、Al、YAGの2種類の非導電性セラミックを厚さ150μmに形成し、その後、さらにこれらの溶射皮膜に対して、電気亜鉛めっき処理を施し、AlまたはYAGとZnとからなるサーメット皮膜を形成した。なお、比較例として、鉄鋼材料の防食溶射皮膜として常用されているJIS H 8661に規定されているAl、ZnおよびAl−15%Zn合金皮膜(膜厚120μm)を同条件の摩耗試験に供した。
試験方法:摩耗試験は、JIS H 8503に規定されているめっきの耐摩耗試験方法に準じ、往復運動摩耗試験方法により実施した。試験条件は荷重3.5N、往復速度40回/分を10回(計400回)を20回(計800回)実施した摩耗面積30×12mm、摩耗試験紙CC320である。
評価方法:摩耗試験の評価は、試験前後における試験片の重量測定を行い、その差から摩耗量を求めて比較した。
試験結果:試験結果を表3に要約した。この結果から明らかなように、比較例のAl、Zn、Al−Zn合金皮膜(No.3〜5)は軟質であったため、大きな摩耗量を示し、耐摩耗性を期待することができない。これに対し、セラミック溶射皮膜を電気亜鉛めっき処理してサーメット化させた皮膜(No.1、2)は、硬度の高いAl、YAGの影響を受けて、高硬度化していため、優れた耐摩耗性を発揮しており、耐食性と耐摩耗性とが要求される分野への適用が可能であることがうかがえる。
Figure 2012057239
(実施例3)
この実施例では、SS400鋼基材に被覆したAl溶射皮膜に対して、電気亜鉛めっき処理したAl−Znサーメット皮膜の防食効果を、従来技術によるアルミニウム、アルミニウム−亜鉛合金皮膜および炭化物サーメット、アンダーコート皮膜として汎用されているニッケル−クロム合金皮膜について塩水噴霧試験によって比較検討した。
(1)溶射皮膜の種類と溶射法(数字はmass%を示す)
本発明に係る皮膜については、SS400鋼基材の表面に直接、またはNi−20Crのアンダーコートを施工した上に、Alを大気プラズマ溶射法によって120μmの厚さに被覆形成したものを用いた。気孔率は8%〜12%である。
比較例の皮膜については、(I)Al−15Zn、(II)Zn(98%)、(III)WC−19Co、(IV)Ni−20Cr、(V)Ni−50Crの溶射皮膜を、基材の表面に120μmの厚さに直接形成したものを用いた。なお、WC−18Coは高速フレーム溶射法を、他の皮膜はフレーム溶射法である。
(2)亜鉛めっき処理
本発明に係るAl溶射皮膜については、さらに、表1に示すめっき液を用いて電気亜鉛めっき処理を行なった。
(3)腐食試験
供試皮膜の耐食性は、JIS Z 2371規定の塩水噴霧試験によって、最高1000hまで実施したが、この間、実施後100h、500hの時点で試験を中断して、皮膜の外観状態を観察し、赤さび発生の有無を記録して耐食性を評価した。
(4)腐食試験結果
(イ)腐食試験結果を表4に示した。この結果から明らかように、SS400鋼に対して防食作用を示すAl−15Zn(No.5)およびZn(No.6)を被覆した皮膜は、1000hの腐食試験においても、赤さびの発生は認められず良好な耐食性を示した。これに対し、WC−18Co(No.7)、Ni−20Cr(No.8)、Ni−50Cr(No.9)などの金属溶射皮膜(アンダーコート)としての使用頻度の高いものの表面では、腐食試験100h後から赤さびの発生が認められた。この理由は、溶射皮膜それ自体の耐食性は優れているものの、皮膜に存在する貫通気孔を通して内部へ侵入した塩水が、SS400鋼基材に達して腐食させたからであり、1000h後の皮膜(No.7のWC−18Co)の一部は、腐食の進展によって剥離しているところが観察された。
(ロ)これに対して、本発明法に従って電気亜鉛めっき処理をしたAl溶射皮膜(No.2、4)については、皮膜自体は多孔質であったが、電気亜鉛めっき処理によって封孔されるとともに、鋼材の防食作用に優れた亜鉛めっき金属によってサーメット化していることから耐食性が向上し、このことによって、基材の腐食反応が抑制され、赤さびの発生は全く認められなかった。
Figure 2012057239
(実施例4)
この実施例では、SUS410鋼(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)試験片の片面をブラスト処理した後、その粗面化面に大気プラズマ溶射法によって、Al、Y、YAG、Ce、Euを直接、120μmの厚さに形成したもの、およびNi−20Cr合金のアンダーコートを50μm厚に施工した上に、前記5種類の酸化物セラミック溶射皮膜を120μm厚さに積層した溶射皮膜試験片を準備した。さらにこれらの溶射皮膜試験片の一部(本発明例)については、溶射皮膜の空隙部に対して電気Niめっきを行って析出した金属ニッケルを充填した。なお、電気Niめっきには、表1記載のNi液を使用した。
熱衝撃試験は、加熱温度250℃と500℃のものについて、それぞれの温度で15分間維持した後、20℃の水道水中に投入する操作を1サイクルとして、1サイクル毎に皮膜の外観変化を観察しつつ5回繰返した。試験片枚数は、1条件につき3枚とし、そのうちの1枚に亀裂や剥離が発生した場合には「1/3割れ」と表示し、3枚とも異常が認められない場合には〇印を記入した。
表5は、以上の熱処理試験結果を要約したものである。この結果から明らかなように、250℃の加熱と水冷を繰返す試験に対しては、すべての供試皮膜に割れや剥離は認められなかった。しかし、500℃の加熱と水冷条件の熱衝撃試験では、アンダーコートを施工せず、また、電気Niめっき処理もない試験片(No.12、14、16、18、20)の皮膜では、割れや局部的な皮膜の剥離が発生した。これに対して、本発明に従い溶射皮膜を電気Niめっき処理した試験片(No.11、13,15、17、19)のサーメット皮膜では、全く異常は認められず、健全な状態を維持しており、電気Niめっきによる溶射皮膜空隙部へのめっき金属の充填作用は、皮膜の耐熱衝撃性能の向上に寄与していることが推定される。
Figure 2012057239
(実施例5)
この実施例では、半田めっき処理したAl溶射皮膜の耐食性と皮膜の密着強さについて調査した。
(1)基材
基材としてSS400鋼を用い、下記2種類の寸法に仕上げた。角状の試験片は耐食性試験用、円板試験片は皮膜の密着強さ測定用である。
a.角状試験片(寸法:幅50mm×長さ70mm×厚さ3.2mm)
b.円板試験片(寸法:直径25mm×厚さ5mm)
(2)溶射皮膜
大気プラズマ溶射法によって、基材に直接Al皮膜を120μmの厚さに形成したが、前処理はJIS H 8666に規定されている作業標準により実施した。
(3)半田めっき処理:表1記載の半田めっき液を用いた。
(4)試験方法
a.耐食性試験
耐食性試験は、JIS Z 2371に規定されている塩水噴霧試験方法によって、500hの曝露試験を行った。
b.密着性試験
皮膜の密着性試験は、JIS H 8666規定のセラミック溶射皮膜の密着強度強さ試験方法により実施した。
なお、上記試験の実施に当って、比較例として、半田めっき処理をしないAl溶射皮膜と半田めっき処理後の加熱処理を行なわないAl溶射皮膜を同じ条件で試験し、これらの処理との関係を調べた。
(5)試験結果
試験結果を表6に要約した。この結果から明らかなように、半田めっき処理をしない比較例の皮膜(No.1、2)の耐食性は、気孔から侵入する塩水によって、基材のSS400鋼が腐食され、その結果、白色のAl皮膜の表面に多数の赤さびが斑点状となって認められ、加熱処理の防食効果は全く見られなかった。これに対して、半田めっき処理した溶射皮膜では、加熱処理の有無に比較すると赤さびの発生が小さく耐食性の向上が明らかである。とくに、加熱処理によって析出した半田めっきを溶融した皮膜(No.4)では、全く赤さびの発生は見られなかった。この効果は加熱処理によって溶融された半田」が、基材の表面を溶融状態で被覆して、塩水と基材との接触を阻害した結果であると考えられる。
一方、半田めっき金属の溶融化は、皮膜の密着強さにも大きな影響を与え、半田めっき処理のない皮膜(No.1、2)に比較すると、約1.8の密着性の向上が確認された。なお、半田めっきを加熱しない場合でも、約1.3倍の密着性の向上が認められ、半田めっき処理についても、耐食性と皮膜の密着性向上に効果があることが確認された。
Figure 2012057239
(実施例6)
この実施例では、セラミック溶射皮膜に対する電気Niめっき処理の有無と、皮膜の密着強さの関係を調査した。
試験片としてSS400鋼(寸法:直径25mm×厚さ5mm)の円形基材を用い、その両面をブラスト処理して粗面化状態にし、大気プラズマ溶射法によって、直接、またはNi−20Cr合金のアンダーコートを施工した後、AlとYAG皮膜を厚さ120μmになるように被覆形成した。その後、表1記載のスルフォン酸液を用いた電気Niめっき処理を行い、供試皮膜の密着強さをJIS H 8666規定のセラミック溶射皮膜の密着強さ測定方法に準じて調べた。
表7は、以上の結果を要約したものである。この結果から明らかなよう、供試皮膜の密着強さはアンダーコートを有する皮膜の方が高い強さを示す一方、電気Niめっき処理を施したサーメット化した皮膜(No.1、3、5、7)は、Niめっき処理のない比較例の溶射皮膜(No.2、4、6、8)に比較して、AlおよびYAG皮膜とも10MPa以上の強さの向上が認められた。
Figure 2012057239
本発明は、非導電性セラミック溶射皮膜をサーメット皮膜に変化させると共に、多孔質溶射皮膜の封孔を同時に実現する方法であるが、一般的なめっき被覆処理、封孔処理、貫通気孔の可視化技術としても有効であり、また皮膜の強化技術、非導電性セラミック皮膜への電気めっき技術として有効である。さらに、本発明の技術は、CVD法、PVD法などの方法によって形成される非導電性薄膜に対しても、適用することが可能である。
1 導電性基材
2 非導電性溶射皮膜
3 めっき金属
4 直流電源

Claims (19)

  1. 導電性基材の表面に、多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気めっき液中に浸漬し、該溶射皮膜被覆基材を陰極として直流の電気めっき処理を行うことによって、該非導電性セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部の気孔中に侵入させためっき液からめっき金属を析出させてそれの充填状態を導くことにより、当該非導電性セラミック溶射皮膜をサーメット化させて、めっき金属充填形サーメット皮膜に変えることを特徴とするサーメット皮膜の形成方法。
  2. 前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であることを特徴とする請求項1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  3. 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項1または2に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  4. 前記めっき金属充填形サーメット皮膜の表面に、めっき金属被覆層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  5. 前記セラミック溶射皮膜の気孔内部に充填するめっき金属が、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、モリブデン、クロム、亜鉛、錫、鉛、金および銀またはこれらの合金から選ばれる1種以上の導電性の金属を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
    なお、チタン、アルミニウム、モリブデンなどの金属の析出は、非水溶液(有機溶媒)を用いれば可能である。
  6. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  7. 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  8. 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Fe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項3に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  9. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  10. 前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項3〜9のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  11. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、20〜5000μmの厚さにすることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
  12. 請求項1〜11のいずれか1に記載の方法によって形成されるものであって、導電性基材と、その基材表面に被覆形成された多孔質非導電性セラミック溶射皮膜の気孔中に、電気めっき処理時に析出するめっき金属が充填されて得られる導電性のめっき金属充填形サーメット皮膜とからなることを特徴とするサーメット皮膜被覆部材。
  13. 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項12に記載のサーメット皮膜被覆部材。
  14. 前記めっき金属充填形サーメット皮膜の表面に、めっき金属被覆層を形成することを特徴とする請求項12または13に記載のサーメット皮膜被覆部材。
  15. 前記セラミック溶射皮膜の気孔内部に充填するめっき金属が、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、モリブデン、クロム、亜鉛、錫、鉛、金および銀またはこれらの合金から選ばれる1種または2種以上の導電性の金属を用いることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
    なお、チタン、アルミニウム、モリブデンなどの金属の析出は、非水溶液(有機溶媒)を用いれば可能である。
  16. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
  17. 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
  18. 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Fe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項13に記載のサーメット皮膜被覆部材。
  19. 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、20〜5000μmの厚さであることを特徴とする請求項12〜18のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
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