JP2012057239A - サーメット皮膜の形成方法とサーメット皮膜被覆部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】導電性基材の表面に、非導電性セラミック溶射皮膜を形成すると共に、該皮膜の気孔中に、電気めっきによって析出しためっき金属を充填させることにより、サーメット皮膜と同じ構成の皮膜を形成し、同時に多孔質サーメット皮膜の封孔を実現して、基材の耐食性を改善する方法と、この処理によって得られるサーメット皮膜被覆部材。
【選択図】図1
Description
(1)特許文献4〜6には、耐食性を有するシリコーン、エチルシリケートなどの珪素化合物、合成樹脂などの有機高分子材料を用いて封孔する方法が開示されている。
(2)特許文献7、8には、金属アルコキシドや金属酸化物粒子などの非金属化合物を含む電解液中に溶射皮膜を浸漬した後、これを電解し、電気泳動法の原理を利用して皮膜の表面や気孔中に溶質成分や酸化物粒子を充填した後、これを加熱焼成する方法が開示されている。
(3)特許文献9には、可視光線によって硬化する有機高分子剤を溶射皮膜の表面に塗布し、気孔内を充填して封孔するとともに、自然光によって硬化させる技術が開示されている。
(4)また、発明者らも特許文献10において、溶射皮膜の表面を電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギーを照射した後、その表面に炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆形成させる方法を提案した。
(5)特許文献11には、溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射を行なって、表面近傍の溶射粒子を溶融させて気孔を熱的に消滅させる技術の提案もある。
(1)珪素化合物などの無機系封孔剤による溶射皮膜の封孔技術は、比較的大きい開口部をもつ気孔をもつものに限定される他、アルカリ性水溶液中では珪素化合物が溶出するため、用途が限られるという欠点がある。
(2)有機高分子系封孔剤を用いる技術は、酸、アルカリなどには優れた耐食性を発揮するものの、温度の影響を受けやすいという欠点がある。例えば、一般の高分子系の封孔剤では150〜180℃で軟化したり、また分解がはじまり、200℃以上の温度では長時間の使用に耐えることができない。
(3)電気泳動現象を利用する封孔技術は、電気泳動作用が及ばない微細な気孔中には、電解液のみが侵入し、酸化物微粒子の大部分は皮膜の表面に滞留するために、完全な封孔処理ができない。また、酸化物微粒子自体には防食効果はなく、さらに金属アルコキシド自体は防食作用が十分でないうえ経時変化して、その機能を消失するとういう欠点がある。
(4)溶射皮膜の表面を電子ビームおよびレーザビームなどの高エネルギー照射処理によって溶融して封孔する技術は、溶融した溶射皮膜が凝固する際に体積収縮を起こして微細な割れを発生することがあり、完全な封孔技術になり得ない。
(5)溶射皮膜の表面に、炭素と水素を主成分とするアモルファス状膜を被覆する方法は、酸、アルカリなどに耐える効果はあるものの、450℃以上の温度ではアモルファス状膜が分解するため、高温環境への適用に問題がある。
(6)なお、その他、従来技術において、珪素系薬剤や高分子系封孔剤を利用する技術がある。これらの封孔剤は、表面張力および粘度が大きいため、微小な開気孔部への侵入が難しく、入口付近に留まっているため、完全な封孔処理ができない。しかも、封孔剤は、乾燥時に水分(浴剤)が揮発して体積が収縮するため充填部に隙間を発生させる。
(7)また、電気泳動法で封孔した金属アルコキシドや酸化物微粒子の充填部でも、加熱焼成に伴う水分の蒸発、体積の収縮は避けられず、加熱焼成工程の必須化によるエネルギー損失および生産コストの増加がある。
(8)さらに、これらの電気泳動法をはじめ封孔剤による封孔処理技術には、共通の課題として、封孔剤が開気孔部の入口付近に留まり、気孔の内部まで侵入せず、溶射皮膜と基材との密着性向上および皮膜を構成する溶射粒子の相互結合力を強化することができない。何よりも、この技術はサーメット皮膜形成の方法を提案するものではない。
(9)なお、電気泳動法による封孔処理には、塩酸、硫酸などの危険な薬剤の使用を必要とするほか、酸化物として有害なPbOを使用が不可避であるという欠点がある。
(1)この発明において、特徴的なことは、まず、導電性基材の表面に、直接またはアンダーコートを介して、非導電性セラミックの多孔質溶射皮膜を被覆形成することであり、次いで、その非導電性セラミック溶射皮膜を被覆してなる基材を、電気めっき液中に浸漬し、この導電性基材を陰極として直流通電し、該セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部にある気孔中にまでめっき液を万遍なく侵入させ且つめっき金属を基材表面の側から順次に析出させて、該溶射皮膜の気孔中に分散している気孔中にめっき金属が充填された状態を導くことで、サーメット皮膜に変化させることにある。
(2)この場合の電気めっき処理において、めっき金属の析出は、非導電性セラミック溶射皮膜表面では起らず導電性をもつ基材表面(または導電性アンダーコートの表面)の側を起点として、析出した金属が溶射皮膜の表面に向けて順次に皮膜内部に存在する粒子間に生成している隙間を選びつつ成長する。従って、溶射皮膜のサーメット化は下層から上層に向い、より長時間のめっき処理によって、やがて皮膜表面にもめっき金属皮膜を生成して、恰もめっき処理したようにすることもできる。
(3)一般に、めっき液からの金属の析出反応、つまり、めっき反応は、非導電性(非電気伝導性)のセラミック溶射皮膜を対象とする場合には起こらない(析出しない)。しかし、本願発明のように、貫通気孔を有する多孔質の非導電性セラミック溶射皮膜の下に金属などの導電性基材があるような場合には、その貫通気孔を介してめっき液が基材にまで達して電気的に導通することで、電気めっきが可能になる。即ち、電気めっき処理した場合、非導電性セラミック溶射皮膜が貫通気孔を有する多孔質素材でさえあれば、空隙部(貫通気孔および開気孔)、とくに溶射粒子の未接合部などの厚み方向に貫通する空隙(貫通気孔)を通ってめっき液が侵入して基材表面に達する。その結果、電気的に導通して、めっき液から金属を析出し、この金属も負に帯電しているため、めっき液から金属が析出し続けるため、やがて、めっき金属が気孔内に析出成長し、これが溶射皮膜全体の気孔に拡大していく。その結果、非導電性セラミック溶射皮膜内部に分散して存在している気孔がめっき金属によって充填され、やがてセラミック層はサーメット層に変化することになる。
(4)上述した説明からわかるように、めっき液からの金属の析出反応とその成長は、溶射皮膜の内部、それも基材(またはアンダーコート)側から順次に始まり、溶射皮膜表面側に向って進み、最終的には、皮膜の表面にまで達することとなる。そして、上述したように、めっき処理時間を長くすると、該非導電性セラミック溶射皮膜の表面を完全に被覆するまでになり、該非導電性セラミック溶射皮膜がサーメット化して導電性皮膜になる。
(1)前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であること。
(2)前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けること。
(3)前記めっき金属充填形サーメット皮膜の表面に、めっき金属被覆層を形成すること。
(4)前記セラミック溶射皮膜の気孔内部に充填するめっき金属が、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、モリブデン、クロム、亜鉛、錫、鉛、金および銀またはこれらの合金から選ばれる1種以上の導電性の金属を用いること。
(5)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いること。
(6)前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いること。
(7)前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Fe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いること。
(8)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成すること。
(9)前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成すること。
(10)前記非導電性セラミック溶射皮膜は、20〜5000μmの厚さにすること。
(1)導電性基材の表面に形成した非導電性セラミック溶射皮膜に対して電気めっき処理を行うので、溶射皮膜の気孔部のみに、めっき金属を析出充填することができるので、セラミック材のサーメット化と同時に封孔、緻密化が図れる。
(2)溶射皮膜の内部に立体的に存在するめっき液の侵入可能な貫通気孔・開気孔部や溶射粒子同士の不完全な相互接合部の隙間(空隙)などに、めっき液から析出した金属を充填することができるので、封孔を確実に果すとともに粒子間の相互結合力を向上させることができる。
(3)めっき金属の析出は、導電性基材の表面側から始まり、時間の経過に伴なって、皮膜の表面方向へ進むという過程を辿るため、溶射皮膜の気孔部や基材と皮膜との境界に存在する隙間などもすべて、基材側から順次に充填封孔されていくので、基材の表面もめっき金属による被覆(遮蔽)効果に優れ、基材の耐食性等の特性を向上させる。
(4)めっき液は、非導電性セラミック溶射皮膜の中に立体的に存在する空隙部(貫通気孔、開気孔)に侵入し、めっき金属を析出してそこの部分を充填していく中で、基材とも電気化学的に結合した状態で付着成長していくので、溶射皮膜全体の基材との密着性を向上させる。
(5)電気めっき金属の種類を選択することによって、基材に対して多くの特性が付与されたサーメット皮膜を被覆形成することができる。例えば、セラミック溶射皮膜に対して、亜鉛めっき金属を気孔内に充填させると、耐食性に優れた皮膜となり、また、半田めっき金属を充填させた後、この金属を加熱溶融すると、高度な密着力を有する皮膜となるなど、溶射皮膜に対し、物理化学的性能を事後的に付与して、1つの溶射皮膜から各種の特性を有するサーメット皮膜に変化させることができる。
(6)電気めっきによるめっき金属の析出反応は、基材表面側から始まり、時間の経過に伴なって、溶射皮膜の表面側へ向って順次に起るが、さらに長時間電流を通じると、最終的には皮膜表面に達し、その後、さらに通電するとめっき析出金属は、皮膜表面に沿って成長を続け、外観上は、恰もセラミック溶射皮膜の表面に直接電気めっきを施したような状態になる。従って、めっき製品の製造技術にも適用できる。
(1)基材の選定
本発明に使用する基材は、導電性(電気伝導性)を有する金属材料が用いられる。例えば、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などが好適である。鋼材の表面に、Ni、Ni−Crなどのめっき膜を形成した基材でもよい。ガラス、石英、プラスチック、セラミック焼結体のように、電気不良導体の基材に対しては、前処理を施した後、無電解めっき、CVD、PVDなどによって、導電性を付与するための金属の薄膜を被覆形成して、基材の表面のみを電気伝導体としたものについても、本発明の基材として使用することができる。
前記導電性基材表面に、非導電性セラミック溶射皮膜を形成するに当たっては、JIS H 9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施することが好ましい。例えば、基材表面のさびや油脂類などを除去した後、Al2O3、SiCなどの研削粒子を吹付けて粗面化し、その表面に直接または金属質の導電性アンダーコートを施工した後に、それらの上に非導電性セラミックの溶射皮膜を形成する。
本発明において用いられる溶射皮膜形成用の溶射材料は、非導電性の材料であることが必要であり、これが前提条件である。その非導電性の程度は、皮膜を形成した基材をめっき液中に浸漬して通電した際に、皮膜の表面に直接、めっき金属が析出しないこと、例えば、ρ:1×0−5Ωcm程度以上の電気抵抗率を示すことが目安となる。このような基準から、本発明方法への適用が可能になるセラミック皮膜形成用溶射材料の代表的な例を列挙すると下記の通りである。非酸化物系セラミックス粒子は、大気中や空気(酸素)を含む環境などの溶射熱源中では、粒子の表面に電気抵抗の大きい酸化膜を生成するので、本発明の目的に使用することができる。
(II)非酸化物系セラミック:TiN、TaN、AlN、BN、Si3N4、NbN,MoSi2、TiSi2、CrB2、ZrB2、TaB、CV、TiC、SiC、HfCなど
(III)酸化物−非酸化物系セラミックの混合物および化合物:例えば、SiO2−Al2O3、−AlNなど
なお、非酸化物系セラミックのように、酸化物に比較すると電気抵抗値の小さいセラミックを成形する場合には、Al2O3などをアンダーコート的に施工した後、その上に非酸化物系セラミックを成膜する方法が推奨される。
アンダーコートは、基材と非導電性セラミック溶射皮膜の間にあって、基材に該セラミック溶射皮膜を直接形成するよりも、より高い密着力を発揮させるのに効果がある。とくに、本発明では、このアンダーコートは、次工程の電気めっき処理時において、めっき金属の析出起点ともなる重要な役割を果すものである。具体的には、Ni、Ni−Cr、Ni−AlおよびNi−Cr−Al合金、自溶合金(JIS H 8302規定)などの導電性の金属・合金が好適に用いられる。なお、アンダーコートの厚さは、10〜150μmの範囲がよく、特に50〜100μmが好適である。
本発明において、この電気めっき処理もまた重要である。この処理によって、前記非導電性セラミック溶射皮膜を、めっき金属充填形サーメット皮膜に変化させることができると同時に皮膜気孔部の封孔ができ、必要に応じて、該溶射皮膜表面をめっき金属で被覆した状態とすることができる。
なお、めっき時間は、溶射皮膜の厚さ、気孔率によって大きく変化するが、その終点は気孔部の充填を目的とする場合には、上述したように、通電後、基材表面から析出しためっき金属が、皮膜の粒界を充填しつつ成長し、その先端が表面に露出した状態を外部から観察することによって判定する。つまり、この判定時期に相当す状態が気孔部の充填完了の目安となる(図4(B)参照)。
この実施例では、SS400鋼試験片(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)の片面をブラスト処理した後、(ブラスト処理)面に直接、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射用および水プラズマ溶射法によって、気孔率:0.2%〜28%程度のAl2O3、Y2O3、YAG(Y2O3とAl2O3の複酸化物)のセラミック溶射皮膜を80μmの厚さに被覆形成した。その後、半数の溶射皮膜試験片については、表1に記載のスルフォン酸液によ電気Niめっきを施し、皮膜気孔部内にめっき金属(Ni)を析出させて充填する処理を行った。試験片の側面および裏面などの基材露出部には、耐食性を有する塗料を塗布し、JIS Z 2371に規定されている塩水噴霧試験を500h実施し、試験後の皮膜表面の赤さび発生状況から耐食性を評価した。なお、塩水噴霧試験中100hと300h経過後の外観変化についても記録した。
この実施例では、セラミック溶射皮膜に対し、本発明に適合する条件で電気亜鉛めっき処理を施したサーメット皮膜被覆部材の耐摩耗性を調査した。
試験用基材として、SS400鋼試験片(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)を用い、その片面に大気プラズマ溶射法によって、Al2O3、YAGの2種類の非導電性セラミックを厚さ150μmに形成し、その後、さらにこれらの溶射皮膜に対して、電気亜鉛めっき処理を施し、Al2O3またはYAGとZnとからなるサーメット皮膜を形成した。なお、比較例として、鉄鋼材料の防食溶射皮膜として常用されているJIS H 8661に規定されているAl、ZnおよびAl−15%Zn合金皮膜(膜厚120μm)を同条件の摩耗試験に供した。
評価方法:摩耗試験の評価は、試験前後における試験片の重量測定を行い、その差から摩耗量を求めて比較した。
試験結果:試験結果を表3に要約した。この結果から明らかなように、比較例のAl、Zn、Al−Zn合金皮膜(No.3〜5)は軟質であったため、大きな摩耗量を示し、耐摩耗性を期待することができない。これに対し、セラミック溶射皮膜を電気亜鉛めっき処理してサーメット化させた皮膜(No.1、2)は、硬度の高いAl2O3、YAGの影響を受けて、高硬度化していため、優れた耐摩耗性を発揮しており、耐食性と耐摩耗性とが要求される分野への適用が可能であることがうかがえる。
この実施例では、SS400鋼基材に被覆したAl2O3溶射皮膜に対して、電気亜鉛めっき処理したAl2O3−Znサーメット皮膜の防食効果を、従来技術によるアルミニウム、アルミニウム−亜鉛合金皮膜および炭化物サーメット、アンダーコート皮膜として汎用されているニッケル−クロム合金皮膜について塩水噴霧試験によって比較検討した。
本発明に係る皮膜については、SS400鋼基材の表面に直接、またはNi−20Crのアンダーコートを施工した上に、Al2O3を大気プラズマ溶射法によって120μmの厚さに被覆形成したものを用いた。気孔率は8%〜12%である。
比較例の皮膜については、(I)Al−15Zn、(II)Zn(98%)、(III)WC−19Co、(IV)Ni−20Cr、(V)Ni−50Crの溶射皮膜を、基材の表面に120μmの厚さに直接形成したものを用いた。なお、WC−18Coは高速フレーム溶射法を、他の皮膜はフレーム溶射法である。
本発明に係るAl2O3溶射皮膜については、さらに、表1に示すめっき液を用いて電気亜鉛めっき処理を行なった。
供試皮膜の耐食性は、JIS Z 2371規定の塩水噴霧試験によって、最高1000hまで実施したが、この間、実施後100h、500hの時点で試験を中断して、皮膜の外観状態を観察し、赤さび発生の有無を記録して耐食性を評価した。
(イ)腐食試験結果を表4に示した。この結果から明らかように、SS400鋼に対して防食作用を示すAl−15Zn(No.5)およびZn(No.6)を被覆した皮膜は、1000hの腐食試験においても、赤さびの発生は認められず良好な耐食性を示した。これに対し、WC−18Co(No.7)、Ni−20Cr(No.8)、Ni−50Cr(No.9)などの金属溶射皮膜(アンダーコート)としての使用頻度の高いものの表面では、腐食試験100h後から赤さびの発生が認められた。この理由は、溶射皮膜それ自体の耐食性は優れているものの、皮膜に存在する貫通気孔を通して内部へ侵入した塩水が、SS400鋼基材に達して腐食させたからであり、1000h後の皮膜(No.7のWC−18Co)の一部は、腐食の進展によって剥離しているところが観察された。
(ロ)これに対して、本発明法に従って電気亜鉛めっき処理をしたAl2O3溶射皮膜(No.2、4)については、皮膜自体は多孔質であったが、電気亜鉛めっき処理によって封孔されるとともに、鋼材の防食作用に優れた亜鉛めっき金属によってサーメット化していることから耐食性が向上し、このことによって、基材の腐食反応が抑制され、赤さびの発生は全く認められなかった。
この実施例では、SUS410鋼(寸法:50mm×50mm×3.2mm厚さ)試験片の片面をブラスト処理した後、その粗面化面に大気プラズマ溶射法によって、Al2O3、Y2O3、YAG、Ce2O3、Eu2O3を直接、120μmの厚さに形成したもの、およびNi−20Cr合金のアンダーコートを50μm厚に施工した上に、前記5種類の酸化物セラミック溶射皮膜を120μm厚さに積層した溶射皮膜試験片を準備した。さらにこれらの溶射皮膜試験片の一部(本発明例)については、溶射皮膜の空隙部に対して電気Niめっきを行って析出した金属ニッケルを充填した。なお、電気Niめっきには、表1記載のNi液を使用した。
この実施例では、半田めっき処理したAl2O3溶射皮膜の耐食性と皮膜の密着強さについて調査した。
(1)基材
基材としてSS400鋼を用い、下記2種類の寸法に仕上げた。角状の試験片は耐食性試験用、円板試験片は皮膜の密着強さ測定用である。
a.角状試験片(寸法:幅50mm×長さ70mm×厚さ3.2mm)
b.円板試験片(寸法:直径25mm×厚さ5mm)
大気プラズマ溶射法によって、基材に直接Al2O3皮膜を120μmの厚さに形成したが、前処理はJIS H 8666に規定されている作業標準により実施した。
a.耐食性試験
耐食性試験は、JIS Z 2371に規定されている塩水噴霧試験方法によって、500hの曝露試験を行った。
b.密着性試験
皮膜の密着性試験は、JIS H 8666規定のセラミック溶射皮膜の密着強度強さ試験方法により実施した。
試験結果を表6に要約した。この結果から明らかなように、半田めっき処理をしない比較例の皮膜(No.1、2)の耐食性は、気孔から侵入する塩水によって、基材のSS400鋼が腐食され、その結果、白色のAl2O3皮膜の表面に多数の赤さびが斑点状となって認められ、加熱処理の防食効果は全く見られなかった。これに対して、半田めっき処理した溶射皮膜では、加熱処理の有無に比較すると赤さびの発生が小さく耐食性の向上が明らかである。とくに、加熱処理によって析出した半田めっきを溶融した皮膜(No.4)では、全く赤さびの発生は見られなかった。この効果は加熱処理によって溶融された半田」が、基材の表面を溶融状態で被覆して、塩水と基材との接触を阻害した結果であると考えられる。
この実施例では、セラミック溶射皮膜に対する電気Niめっき処理の有無と、皮膜の密着強さの関係を調査した。
試験片としてSS400鋼(寸法:直径25mm×厚さ5mm)の円形基材を用い、その両面をブラスト処理して粗面化状態にし、大気プラズマ溶射法によって、直接、またはNi−20Cr合金のアンダーコートを施工した後、Al2O3とYAG皮膜を厚さ120μmになるように被覆形成した。その後、表1記載のスルフォン酸液を用いた電気Niめっき処理を行い、供試皮膜の密着強さをJIS H 8666規定のセラミック溶射皮膜の密着強さ測定方法に準じて調べた。
2 非導電性溶射皮膜
3 めっき金属
4 直流電源
Claims (19)
- 導電性基材の表面に、多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆形成し、次いで、その多孔質非導電性セラミック溶射皮膜を被覆した基材を電気めっき液中に浸漬し、該溶射皮膜被覆基材を陰極として直流の電気めっき処理を行うことによって、該非導電性セラミック溶射皮膜の開気孔部から皮膜内部の気孔中に侵入させためっき液からめっき金属を析出させてそれの充填状態を導くことにより、当該非導電性セラミック溶射皮膜をサーメット化させて、めっき金属充填形サーメット皮膜に変えることを特徴とするサーメット皮膜の形成方法。
- 前記多孔質非導電性セラミック溶射皮膜は、貫通気孔と開気孔を含む気孔率0.2%〜30%の皮膜であることを特徴とする請求項1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項1または2に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記めっき金属充填形サーメット皮膜の表面に、めっき金属被覆層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記セラミック溶射皮膜の気孔内部に充填するめっき金属が、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、モリブデン、クロム、亜鉛、錫、鉛、金および銀またはこれらの合金から選ばれる1種以上の導電性の金属を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
なお、チタン、アルミニウム、モリブデンなどの金属の析出は、非水溶液(有機溶媒)を用いれば可能である。 - 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Fe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項3に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、溶棒式フレーム溶射法、および爆発溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記アンダーコートは、アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法およびプラズマ溶射法から選ばれるいずれかの溶射法によって被覆形成することを特徴とする請求項3〜9のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、20〜5000μmの厚さにすることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載のサーメット皮膜の形成方法。
- 請求項1〜11のいずれか1に記載の方法によって形成されるものであって、導電性基材と、その基材表面に被覆形成された多孔質非導電性セラミック溶射皮膜の気孔中に、電気めっき処理時に析出するめっき金属が充填されて得られる導電性のめっき金属充填形サーメット皮膜とからなることを特徴とするサーメット皮膜被覆部材。
- 前記導電性基材と多孔質非導電性セラミック溶射皮膜との間に必要に応じて導電性金属のアンダーコートを設けることを特徴とする請求項12に記載のサーメット皮膜被覆部材。
- 前記めっき金属充填形サーメット皮膜の表面に、めっき金属被覆層を形成することを特徴とする請求項12または13に記載のサーメット皮膜被覆部材。
- 前記セラミック溶射皮膜の気孔内部に充填するめっき金属が、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、モリブデン、クロム、亜鉛、錫、鉛、金および銀またはこれらの合金から選ばれる1種または2種以上の導電性の金属を用いることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
なお、チタン、アルミニウム、モリブデンなどの金属の析出は、非水溶液(有機溶媒)を用いれば可能である。 - 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、酸化物系セラミック、非酸化物系セラミックおよびそれらの混合物のうちから選ばれる1種以上の非導電性セラミックスを用いることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
- 前記導電性基材は、金属か非導電性基材の表面に導電性金属膜を被覆したもののいずれかを用いることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
- 前記導電性基材の表面に施工するアンダーコートは、Al、Al−Zn、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Fe−Crおよび自溶合金などから選ばれる1種以上の金属または合金を用いることを特徴とする請求項13に記載のサーメット皮膜被覆部材。
- 前記非導電性セラミック溶射皮膜は、20〜5000μmの厚さであることを特徴とする請求項12〜18のいずれか1に記載のサーメット皮膜被覆部材。
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