JP2012041629A - 耐食性摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】 耐摩耗性と耐食性を兼ね備えた炭素系被膜を形成する技術を提供し、摺動性と耐食性に優れた耐食性摺動部材の提供を課題とする。
【解決手段】
摺動部材表面から炭素系被膜の表面に向かってシリコン添加量を減少させる一方、前記摺動部材表面から炭素系被膜表面に向かってフッ素添加量を増大させた傾斜機能皮膜を形成する、又は/及びシリコン元素の添加量が10原子%から30原子%、フッ素の添加量が10原子%以下の第1の炭素系被膜層と、シリコン元素の添加量が5原子%から20原子%、フッ素元素の添加量が10原子%から30原子%の第2の炭素系被膜層を積層する。
【選択図】図2
【解決手段】
摺動部材表面から炭素系被膜の表面に向かってシリコン添加量を減少させる一方、前記摺動部材表面から炭素系被膜表面に向かってフッ素添加量を増大させた傾斜機能皮膜を形成する、又は/及びシリコン元素の添加量が10原子%から30原子%、フッ素の添加量が10原子%以下の第1の炭素系被膜層と、シリコン元素の添加量が5原子%から20原子%、フッ素元素の添加量が10原子%から30原子%の第2の炭素系被膜層を積層する。
【選択図】図2
Description
本発明は、シリコン元素及びフッ素元素を含む炭素系被膜をコーティングした耐食性摺動部材及びその製造方法に関する。
炭素系硬質材料であるダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCとも略す)被膜は耐摩耗性、摺動性、離型性、耐食性など優れた物性を有することから、切削工具や金型、摺動部品や耐食性が要求される部品などの表面にコーティングする被膜として広く実用化されている。
特許文献1には、基板材料上にフッ素元素の添加量を底面から表面に近づくに従って徐々に増大させた傾斜構造のDLC膜、或いは、フッ素元素を含むDLC膜と、フッ素元素を含まないDLC膜とを交互に積層した積層構造の炭素系摺動材に関する技術が開示されている。大気中で優れた摩擦特性を示すDLCにフッ素を添加したフッ素含有DLC(以下、F−DLCとも略す)は真空中においても二硫化モリブデンを凌ぐ、優れた摩擦特性を呈するとされている。F−DLCは高い撥水性を有し、耐薬品性に優れるが、フッ素の添加量が10%を超えると硬度が5GPa以下に低下するという課題があった。
また、特許文献2には、酸化アルミニウム層で覆われているアルミニウム合金を基材とし、その基材の表面に基材側から順に、導電層、前記基材との密着性を向上させ、基材の硬度を補うためのバッファー層、及び含有率0.5〜4.5原子%のアルミニウム元素を含むDLC被膜層を形成した低摩擦、耐摩耗性に優れた硬質炭素被膜を有する摺動部材に関する技術が開示されている。
アルミニウム元素を添加したDLC被膜の表面のアルミニウム元素は、アルミニウム酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物として存在する。従って、アルミニウム含有DLC被膜の表面は、親水性であり、水の存在下における摺動で、低摩擦化が実現可能である。さらに、水と同じOH基を有する液体や蒸気(例えば、アルコール類や油中の添加剤)存在下における摺動でも低摩擦化が実現可能であるとされている。しかし、前記アルミニウム含有DLC被膜にピンホールなどの欠陥が存在する場合、前記被膜が親水性であるため酸、アルカリ水溶液はこの欠陥を通じて浸透するため、下地材を腐食する可能性があった。
摺動部材表面に部材との密着性に優れ、摺動性と耐食性を兼ね備えたDLC被膜を形成する技術を提供し、摺動性と耐食性に優れた耐食性摺動部材を提供することを課題としている。
本発明の請求項1に係る耐食性摺動部材は、部材表面にシリコン元素及びフッ素元素を含む炭素系被膜を形成してなることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る耐食性摺動部材は、請求項1に記載の前記炭素系被膜がダイヤモンドライクカーボン(DLC)であることを特徴とする。
本発明の請求項3に係る耐食性摺動部材は、請求項1及び2に記載の前記シリコン元素の割合が炭素元素に対して0.1原子%乃至30原子%であることを特徴とする。
本発明の請求項4に係る耐食性摺動部材は、請求項1から3のいずれかに記載の前記フッ素元素の割合が炭素元素に対して0.1原子%乃至15原子%であることを特徴とする。
本発明の請求項5に係る耐食性摺動部材は、請求項1から4のいずれかに記載の前記部材表面から被膜表面に向かってフッ素添加量を徐々に増大させた傾斜組成被膜であることを特徴とする。
本発明の請求項6に係る耐食性摺動部材は、請求項1から5のいずれかに記載の前記部材表面から被膜表面に向かってシリコン添加量を徐々に減少させた傾斜組成被膜であることを特徴とする。
本発明の請求項7に係る耐食性摺動部材は、前記部材表面にシリコン元素の添加量が3原子%乃至30原子%、フッ素の添加量が0.1原子%乃至15原子%の第1の炭素系被膜層と、その表面にフッ素元素の添加量が5原子%乃至30原子%、シリコンの添加量が0.1原子%乃至20原子%の第2の炭素系被膜層を積層したことを特徴とする。
本発明の請求項8に係る耐食性摺動部材は、請求項1から7のいずれかに記載の前記炭素系被膜層の硬度が7GPa乃至20GPaであることを特徴とする。
燃料ポンプ用部品の表面に、請求項1から8のいずれかに記載の炭素系被膜を被着したことを特徴とする。
摺動部材表面に部材との密着性に優れ、摺動性と耐食性を兼ね備えたDLC被膜を形成する技術を提供でき、摺動性と耐食性に優れた耐食性摺動部材を安価に提供することができる。
本発明の実施形態について図を用いて詳細に説明する。図1に示すように本発明に係る耐食性摺動部材は、摺動部材10の表面にシリコン元素とフッ素元素を含むDLC被膜11が形成されてなる。前記DLC被膜に含まれるシリコン元素の割合は炭素元素に対して0.1原子%乃至30原子%である。好ましくは、5原子%乃至20原子%である。また、前記DLC被膜に含まれるフッ素元素の割合は炭素元素に対して0.1原子%乃至30原子%である。好ましくは、5原子%乃至20原子%である。
フッ素元素を含むF−DLC被膜のフッ素の含有率とF−DLC被膜の硬度及び水の接触角の関係を図3に示す。硬度はフッ素含有量の増加と共に急激に減少し、フッ素の含有率が炭素に対して20%になると3GPa以下に減少する。一方、接触角はフッ素の含有量の増加と共に徐々に増加し、フッ素の含有率が20%になると、接触角は90°を超える。また、本願発明者らの実験結果では、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)とフッ化炭素(C3F8)の混合ガスを用いてシリコン元素とフッ素元素を含有するDLC被膜(以下、Si/F−DLC被膜とも略す)を形成すると、硬度11GPa〜12GPa、接触角105°〜110°のSi/F−DLC被膜が得られることが明らかになった。
フッ素元素を含むF−DLC被膜にシリコン元素を添加することによってF−DLC被膜の硬度を向上することができる。一方、非特許文献1によれば、シリコン元素を添加したDLC被膜はシリコンの添加量の増加と共に水の撥水角が増加することが示されている。本願に係るSi/F−DLC被膜は、フッ素元素とシリコン元素を添加することによって、DLC膜の硬度を維持しながら撥水角を大きくすることができたものである。
本発明によれば、前記摺動部材10の表面から被膜11の表面に向かってシリコン添加量を徐々に減少させる一方、前記摺動部材表面から被膜表面に向かってフッ素添加量を徐々に増大させた傾斜組成被膜とすることができる。本願の目的は、摺動性と耐食性を兼ね備えたDLC被膜を被着した摺動部材の実用化にあり、DLC膜の硬度は少なくとも7GPa以上であることが望ましく、10GPa〜20GPaのSi/F−DLC被膜を被着することが望ましい。
一方、通常のDLC被膜は耐薬品性に優れた被膜であって、酸性やアルカリ性溶液に侵されることはないが、製造コストを考慮したDLC被膜には必ずといってよいほど数ミクロン程度、或いはそれ以下のピンホールが存在し、このピンホールを通じて溶液が浸透して下地の金属基材を腐食する。しかし、水の接触角が100°以上のF−DLC被膜や本願に係るSi/F−DLC被膜は数ミクロン程度、或いはそれ以下のピンホールが存在しても、このピンホールを通じて溶液は浸透できないため金属基材が腐食されることはない。即ち、実質的に優れた耐食性を有するDLC被膜である。
本発明によれば、図2に示すように前記摺動部材10表面にシリコン元素の添加量が10原子%から30原子%及びフッ素の添加量が10原子%以下の第1の炭素系被膜層12と、その表面にシリコン元素の添加量が5原子%から20原子%及びフッ素元素の添加量が10原子%から30原子%の第2の炭素系被膜層13を積層することができる。
前記摺動部材10がアルミニウム又はアルミニウム合金の場合、アルゴンプラズマを照射して基材表面の酸化物や吸着物等を除去して、前記HMDSOガス、或いはHMDSガスなど有機シリコンガスプラズマで基材表面をイオン照射処理すれば前記摺動部材表面に前記第1の炭素系被膜層12を強固に被着することができる。また、必要に応じてSi、Cr、W、Tiから選択される少なくとも1種の元素を主成分とする下地層を介して前記炭素系被膜層12を形成することもできる。
自動車等に使用する燃料ポンプ用部材に本願技術を適用すれば、摺動性と耐食性に優れた燃料ポンプ用摺動部品を安価に製造することができる。
以下、アルミニウム合金(Al−2.5Cu−11Si)製摺動部材表面に本願に係るSi/F−DLC被膜の形成について図を用いて説明する。本実施例に用いたプラズマ処理装置の概略図を図4に示す。高周波電力給電電極23をフィードスルー25を介して真空容器内に導入し、前記給電電極に摺動部材24が係止されている。前記給電電極は整合器27を介して高周波電源26に接続され、またパルス電源28に接続されている。
前記プラズマ処理装置内を予め高真空に排気して十分ガス出しした後、ガス導入口22から水素ガス20%とアルゴンガス80%の混合ガスを導入して圧力0.6パスカルに調整し、周波数13.56MHz、出力500Wの高周波電力を前記給電電極23に給電して放電プラズマを発生させた。同時に、パルス電源28から1kHz、10kVの負のパルス電圧を前記給電電極に重畳して印加し、前記摺動部品表面にアルゴンイオンを照射して酸化物、吸着物等を除去した。
次ぎに、原料ガスとして前記HMDSOガスと前記フッ化炭素(C3F8)ガスを流量比1:0.1の割合で導入してガス圧力を0.5パスカルに調整し、前記給電電極23に300Wの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させた。同時に、前記パルス電源28から5kV、パルス幅5μs、繰り返し周波数1kHzの負のパルス電圧を前記給電電極23に重畳して印加して前記摺動部品24表面にDLC被膜を形成した。被膜形成中に前記原料ガスの導入割合を段階的に変化させ、最終段階で前記流量比を1:1にし、フッ素元素の添加量が段階的に増加したSi/F−DLCの傾斜組成被膜を形成した。120分間の製膜で厚さ1.6μmのSi/F−DLC被膜が得られた。
得られたSi/F−DLC被膜の硬度は11GPa〜12GPa、水の接触角は105°〜110°であった。また、摩擦係数は0.05〜0.06であった。この摺動部品を10%の食塩水に浸漬して通電測定した結果、電流密度は1nA/cm2以下であった。
実施例1では、15分毎にフッ化炭素ガスの流量比を段階的に増加させたが、本実施例に限定されるものではなく、適用部材と目的に応じてガスの流量比を変更することができる。また、前記HMDSOガスと前記フッ化炭素(C3F8)ガスの流量比は、必ずしも単調増加である必要はなく、任意に変更することが可能であり、これらのSi/F−DLC被膜も本願に含まれる。更に、前記原料ガスに炭化水素ガスを添加することによって、炭素元素に対するシリコン元素、及びフッ素元素の含有率を任意に変えたSi/F−DLC被膜を形成することができる。
更に、フッ素化合物ガスとしては、前記ガスの他にCF4、C2F6、SiF4、BF3などから選択される少なくとも1種のフッ素化合物ガスを用いることができる。また、シリコン化合物ガスとしては、前記ガスの他にSiCl4、SiF4、Si(CH3)4などから選択される少なくとも1種のシリコン化合物ガスを用いることができる。
アルミニウム合金(Al−2.5Cu−11Si)製摺動部材表面にシリコン元素とフッ素元素の添加割合の異なる2層のSi/F−DLC被膜を積層した構造について説明する。概略断面図を図2に示す。本実施例においても、実施例1で用いたプラズマ処理装置と同じものを用いた。
実施例1と同様に、前記摺動部品表面にアルゴンと水素イオンを照射して表面の酸化物、吸着物等を除去した後、原料ガスとして前記HMDSOガスとアセチレン(C2H2)ガス、及び前記フッ化炭素(C3F8)ガスを流量比1:1:0.1の割合で導入してガス圧力を0.5パスカルに調整し、前記給電電極23に300Wの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させた。同時に、前記パルス電源28から5kV、パルス幅5μs、繰り返し周波数1kHzの負のパルス電圧を前記給電電極に重畳して印加して前記摺動部品表面に第1のSi/F−DLC被膜層12を形成した。該Si/F−DLC被膜層のシリコン含有量は24原子%、フッ素含有量は1.8原子%で、硬度は18GPaであった。
次に、原料ガスとして前記HMDSOガスとアセチレン(C2H2)ガス、及び前記フッ化炭素(C3F8)ガスを流量比1:1:1の割合で導入してガス圧力を0.5パスカルに調整し、前記給電電極23に500Wの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させた。同時に、前記パルス電源28から5kV、パルス幅5μs、繰り返し周波数2kHzの負のパルス電圧を前記給電電極に重畳して印加して前記摺動部品24表面に第2のSi/F−DLC被膜層13を形成した。成膜時間60分で厚さ1.6μmのSi/F−DLC被膜層を得た。該被膜層のシリコン含有量は21原子%、フッ素含有量は12原子%で、被膜全体の硬度は16GPa、水の接触角は100°〜105°であった。
上記実施例では、シリコンとフッ素の含有量が異なる第1のSi/F−DLC被膜層と第2のSi/F−DLC被膜層を積層した耐食性摺動部材について説明したが、適用課題に応じて3層以上のSi/F−DLC被膜層を積層することができる。また、前記Si/F−DLC被膜層の形成方法としてプラズマイオン注入成膜法(PBIID)を用いた実施例について説明したが、プラズマCVD法、スパッタ法、直流パルス放電法、直流グロー放電等を用いることができることは云うまでもない。
10:基材、11:Si/F−DLC被膜層、12:第1のSi/F−DLC被膜層、13:第2のSi/F−DLC被膜層、20:真空容器、23:給電電極、24:摺動部品、26:高周波電源、27:整合器、28:パルス電源
Claims (9)
- 部材表面にシリコン元素及びフッ素元素を含む炭素系被膜を形成してなることを特徴とする耐食性摺動部材。
- 前記炭素系被膜がダイヤモンドライクカーボン(DLC)であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性摺動部材。
- 前記シリコン元素の割合が炭素元素に対して0.1原子%乃至30原子%であることを特徴とする請求項1及び2に記載の耐食性摺動部材。
- 前記フッ素元素の割合が炭素元素に対して0.1原子%乃至20原子%であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐食性摺動部材。
- 前記部材表面から被膜表面に向かってフッ素添加量を徐々に増大させた傾斜組成被膜であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の耐食性摺動部材。
- 前記部材表面から被膜表面に向かってシリコン添加量を徐々に減少させた傾斜組成被膜であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の耐食性摺動部材。
- 前記部材表面に、シリコン元素の添加量が3原子%乃至30原子%、フッ素添加量が0.1原子%乃至15原子%の第1の炭素系被膜層と、その表面にフッ素元素の添加量が5原子%乃至30原子%、シリコンの添加量が0.1原子%乃至20原子%の第2の炭素系被膜層を積層したことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の耐食性摺動部材。
- 前記炭素系被膜層の硬度が7GPa乃至20GPaであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の耐食性摺動部材。
- 部品基材表面に、請求項1から8のいずれかに記載の炭素系被膜を被着したことを特徴とする燃料ポンプ用部品。
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WO2015064019A1 (ja) * | 2013-10-28 | 2015-05-07 | 日本軽金属株式会社 | 導電性保護被膜を有する部材及びその製造方法 |
WO2022097300A1 (ja) * | 2020-11-09 | 2022-05-12 | オースリーメディカル株式会社 | 医療機器用金属材料、医療機器用金属材料の製造方法、及び医療機器 |
RU2809018C1 (ru) * | 2020-11-09 | 2023-12-05 | Терумицу ХАСЭБЕ | Металлический материал для медицинского устройства, способ изготовления металлического материала для медицинского устройства и медицинское устройство |
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