JP2012041324A - 白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】白金含有薬剤により招来される肝機能低下を抑制する薬剤を提供する。
【解決手段】アラニルグルタミン誘導体を含有することを特徴とする、白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制剤。
【選択図】図1

Description

本発明は、シスプラチン(シス−ジアミンジクロロ白金(II)、CDDP)に代表される、白金を含有する薬剤の投与による副作用である、肝機能低下の抑制剤に関する。より具体的には、アラニルグルタミン誘導体を含有する該肝機能低下の抑制剤に関する。
シスプラチンに代表される白金含有薬剤は非小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、胃癌、小細胞肺癌、及び骨肉腫等に有効な制癌剤として使用されている。シスプラチンは副作用として、特に腎機能障害を有することが知られているが、肝臓に対する副作用としては、まれにAST(GOT),ALT(GPT)の上昇が報告されているものの、腎機能障害と比べて副作用としての発症頻度は低い。
非特許文献1ではシスプラチン等を用いた癌化学療法と関連して、粘膜炎治療剤としてアラニルグルタミンを投与した報告がなされている。又、特許文献1ではアラニンやグルタミンを含有する肝炎治療薬について、特許文献2ではアラニンとグルタミンとを含有する特にアルコール性の肝障害に対する治療及び予防薬について、そして特許文献3ではアラニルグルタミンを含有する蛋白代謝改善剤について報告されている。しかし、いずれにも、白金含有薬剤投与によるアンモニア処理能・蛋白合成能等の肝機能の低下やその抑制剤については記載されていない。
アンモニアには神経毒性があり、血中アンモニアが一定値以上まで上昇すると、食欲抑制や肝性脳症等を引き起こすことが知られている。
なお、アラニルグルタミンは体内で速やかにアラニンとグルタミンとに分解することが知られている。
特開平5−221858 公開特許公報 平1−216924号 特開平6−166633
International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics (2006), 65(5), 1330-1337
本発明者らは、シスプラチン投与により、肝アンモニア処理や肝蛋白合成に代表される肝機能が低下することを見出した。本発明の課題は、このシスプラチンに代表される白金含有薬剤により招来される肝機能低下を抑制する薬剤を提供することである。
かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、シスプラチン投与に関連してアラニルグルタミンを投与することによって、肝機能低下が軽減されることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、アラニルグルタミン誘導体を含有することを特徴とする、白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制剤(以下、「本発明の肝機能低下の抑制剤」と呼ぶこともある)を提供する。
本発明は、又、アラニルグルタミン誘導体を含有することを特徴とする薬剤を、白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制が必要な対象に投与することを含む、白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制方法を提供する。
本発明は、又、白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制剤の製造のための、アラニルグルタミンを含有することを特徴とする薬剤の使用を提供する。
アラニルグルタミン誘導体を含有することを特徴とする、本発明の白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制剤は、白金含有薬剤(特にシスプラチン)の副作用である肝機能低下を、特に肝アンモニア処理能低下や肝蛋白合成低下を、抑制又は軽減する。
実施例1のシスプラチン投与後の肝アンモニア処理能の経日変化を示す図である。「AA投与前」はアミノ酸溶液投与前の血中アンモニア濃度を、「投与直後」はアミノ酸溶液投与後の血中アンモニア濃度を示す。シスプラチン未投与の正常ラット群をday0とした。 実施例2のアラニルグルタミン前投与が肝アンモニア処理能に及ぼす影響を示す図である。「CDDP群」は生理食塩水投与群を、「AG前投与群」はアラニルグルタミン溶液投与群を示す。図2Aはシスプラチン投与3日目にアミノ酸溶液を静注した際の投与前後の血中アンモニア濃度変化を、図2Bはアミノ酸溶液投与後の血中Gln/Glu比を示す。 図3A: 実施例3のシスプラチン投与翌朝までの摂餌量を示す。図3B: 実施例3のシスプラチン投与2日目のラット血漿中プレアルブミン量を示す図である。
本発明において、アラニルグルタミン誘導体には、アラニルグルタミンや、アラニン及びグルタミン混合物が含まれ、更にこれらの薬理学的に許容される塩も含まれる。
アラニルグルタミン誘導体がアラニルグルタミン又はその薬学的に許容しうる塩である、本発明の肝機能低下の抑制剤は好ましい。又、アラニルグルタミン誘導体がアラニン及びグルタミン混合物、又はその薬学的に許容しうる塩である、本発明の肝機能低下の抑制剤も好ましい。
アラニルグルタミンには、L−アラニル−L−グルタミン、L−アラニル−D−グルタミン、D−アラニル−L−グルタミン、D−アラニル−D−グルタミン、及びこれらの混合物が含まれるが、L−アラニル−L−グルタミンが好ましい。
アラニン及びグルタミン混合物の混合比としては、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、モル比で、例えばアラニン1に対してグルタミン0.1 〜10が好ましく、特に、0.8〜1.2が好ましい。
白金含有薬剤とは、シスプラチンに代表される白金錯体系の化学療法剤であり、例えばシスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチンが含まれ、シスプラチン、ネダプラチンが好ましく、特にシスプラチンが好ましい。白金含有薬剤がシスプラチンである、本発明の肝機能低下の抑制剤は好ましい。
白金含有薬剤投与による肝機能低下とは、アンモニア処理能低下や蛋白合成能低下といった肝臓の機能低下を意味し、必ずしも炎症や肝細胞壊死を伴うものではない。この肝機能低下は、肝細胞壊死を反映するGOT,GPT上昇と必ずしも相関するものではなく、これらの値に反映されるとは限らない。この肝機能低下は、肝炎や肝硬変といった疾患とは全く異なるものである。なお、ここでアンモニア処理能低下は、肝臓での尿素サイクルが円滑に機能しなくなりアミノ酸代謝時に発生するアンモニアを処理できなくなって血中アンモニア濃度の上昇を生ずるものと考えられる。
肝機能低下が肝アンモニア処理能低下である、本発明の肝機能低下の抑制剤が好ましい。又、肝機能低下が肝蛋白合成低下である、本発明の肝機能低下の抑制剤も好ましい。
本発明の肝機能低下抑制剤は、白金含有薬剤投与により招来される肝機能低下の予防剤又は治療剤として使用することができ得るが、好ましくは予防剤として使用される。
本発明の肝機能低下抑制剤は、白金含有薬剤の投与に関連して使用される。好ましくは、白金含有薬剤の投与前に、経口投与又は経静脈投与されることにより、肝機能低下を抑制又は軽減する。特に、アラニルグルタミン誘導体が白金含有薬剤投与前に経静脈投与されるように用いられることを特徴とする、本発明の肝機能低下の抑制剤は好ましい。
投与量や方法は、投与対象の年齢、体重、症状の程度等により異なるが、具体的には、対象が成人の場合、例えば、1日当りの投与量として、経口または非経口投与の場合、アラニルグルタミンとして0.02g〜0.6g/kg投与する。
本発明の肝機能低下の抑制剤が提供される形態としては、経口投与用には、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤等が挙げられ、非経口投与用には、例えば、注射剤、懸濁液等が挙げられる。注射剤としては輸液の形態でもよい。これらの剤形の製剤は、慣用の製剤材料を用いて、当該分野での公知の製剤方法に準じ製造することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に開示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(シスプラチンによる肝アンモニア処理能低下)
[方法] Wistar-Imamichi ラット、オス、8週齢に心臓カテーテル手術を実施し、手術後6日程度の回復期間をおいた後、9週齢で試験に用いた。明期は7:00〜19:00で、試験中は実験食(AIN-93G)自由摂餌とし、シスプラチンを4mg/8ml/kgをbolusで心臓カテーテルから投与した。シスプラチン投与1日目、2日目、3日目、4日目にアミノ酸溶液としてL-Ala−L−Gln溶液 (0.7g/kg)を1時間かけて静注し、該アミノ酸溶液静注前後の血中アンモニア濃度を測定した。なお、各日程で異なる個体を用いた。
[結果] 図1に示すようにアミノ酸溶液投与前のベースの血中アンモニア濃度は漸増し、4日目には100μg/dl程度に達して、day0に比し有意な上昇を示した。又、アミノ酸溶液投与後の血中アンモニア濃度は、2日目の群平均で約300μg/dl、3日目で約400μg/dl、4日目で約160μg/dlに達し、3日目でピークを示した。
この結果から、シスプラチン投与により肝アンモニア処理能が低下することにより、アミノ酸溶液投与後に血中アンモニア濃度が顕著に上昇すると考えられた。
(AlaGln前投与による肝アンモニア処理能低下抑制)
[方法] Wistar-Imamichi ラット、オス、8週齢に心臓カテーテル手術を実施し、手術後6日程度の回復期間をおいた後、9週齢で試験に用いた。明期は7:00〜19:00で、試験中は実験食(AIN-93G)自由摂餌とし、シスプラチン投与の2時間半前から1時間かけてL-Ala―L-Gln溶液(1.0g/10ml/kg)又は生理食塩水(10ml/kg)を静注し、シスプラチンは4mg/8ml/kgをbolusで心臓カテーテルから投与した。シスプラチン投与後3日目にアミノ酸溶液としてL-Ala−L−Gln溶液(0.5g/kg)を1時間かけて静注し、静注前後の血中アンモニア上昇をAlaGln前投与あり(AG前投与群)となし(CDDP群)で比較した。
[結果] 図2Aに示すようにAlaGln前投与なしのCDDP群では、アミノ酸静注後のアンモニア上昇平均が76±1.8(μg/dl)、AG前投与群では32±7.6(μg/dl)であり、AlaGln前投与によりアンモニア上昇の抑制が示された。(P=0.09) また血中アンモニア濃度上昇により増加することが報告されているGln/Glu比に関しても、図2Bに示すように、アミノ酸投与後に、CDDP群に比しAlaGln前投与群で低下傾向が見られた。(CDDP群:15.1±1.37、AG前投与群:11.8±0.519, P=0.058)
この結果から、AlaGln前投与によりシスプラチン誘発肝機能低下が抑制され、肝アンモニア処理能低下が抑制されたと考えられる。
(シスプラチンによる血中プレアルブミン低下の軽減作用)
[方法] Wistar-Imamichi ラット、オス、9週齢を試験に用い、明期は7:00〜19:00、シスプラチン投与日は9:45に絶食開始、14:00〜15:20の間にvehicle(0.5%カルボキシメチルセルロース溶液)またはAlaGln(1g/15ml/kg)を経口投与し、1時間半後にイソフルラン麻酔下、尾静脈にシスプラチン(5mg/kg)を投与して、シスプラチン投与日をday0とした。摂餌は同日18:00に開始、day1朝までに自由摂餌とし、その後24時間絶食後、day2に剖検を実施した。剖検はエーテル麻酔下、開腹して下大静脈より採血を行い、プラズマを採取してプレアルブミン測定(ウェスタンブロッティング法)に用いた。
群構成は、以下の通りとした:
無処置群: vehicle溶液経口投与、後に生理食塩水経静脈.投与、
対照群: vehicle溶液経口投与、後にシスプラチン経静脈投与、
AlaGln群: AlaGln経口投与、後にシスプラチン経静脈投与。

[結果] 図3Aに示すように、シスプラチン投与により摂餌量は約2/3に減少し、血中プレアルブミンは、無処置群平均値を100%とした場合、シスプラチン投与2日目で有意に低下した(60.6±5.03%, P<0.05)。一方、AlaGln群でも同様の摂餌量低下が見られたが、プレアルブミンの有意な低下は認められず(80.1±7.05%)、対照群に比し弱い改善傾向(P=0.064)を示した。(図3B) AlaGln前投与により、肝臓で生合成される早期栄養指標であるプレアルブミン量の低下が抑制されたと考えられる。
この結果からAlaGln前投与により肝臓が保護され、シスプラチンによる肝臓での蛋白合成低下が抑制されたと考えられる。
以上記載のように、本発明はシスプラチン投与により招来される肝機能低下を軽減するもので有用であり、肝性脳症やアンモニア血症のリスクを低下し、より安全にシスプラチンに代表される白金含有薬剤による癌治療を行うことを可能にする。

Claims (7)

  1. アラニルグルタミン誘導体を含有することを特徴とする、白金含有薬剤投与による肝機能低下の抑制剤。
  2. 肝機能低下が肝アンモニア処理能低下である、請求項1記載の肝機能低下の抑制剤。
  3. 肝機能低下が肝蛋白合成低下である、請求項1記載の肝機能低下の抑制剤。
  4. アラニルグルタミン誘導体が白金含有薬剤投与前に経静脈投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項記載の肝機能低下の抑制剤。
  5. アラニルグルタミン誘導体がアラニルグルタミン又はその薬学的に許容しうる塩である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の肝機能低下の抑制剤。
  6. アラニルグルタミン誘導体がアラニン及びグルタミン混合物、又はその薬学的に許容しうる塩である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の肝機能低下の抑制剤。
  7. 白金含有薬剤がシスプラチンである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の肝機能低下の抑制剤。
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