JP2012025840A - 環状アミン塩を含む難燃剤及び難燃性樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】ハロゲンを含まない樹脂用難燃剤であって、優れた難燃性を有するとともに、耐湿性及びブルーミングの問題が抑制された樹脂用難燃剤を提供する。
【解決手段】特定の化学構造を有する環状アミン塩を含む難燃剤、ならびにその難燃剤及び樹脂成分を含む樹脂組成物であって、樹脂成分100重量部に対して当該環状アミン塩1〜100重量部を含む難燃性樹脂組成物に係る。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規な難燃剤及び難燃性樹脂組成物に関する。特に、環状アミン塩を含む難燃剤、当該難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物及びその成形品に関する。より詳しくは、射出成形品及び押出成形品の成形で有用であり、例えば家電製品、OA機器、自動車部品、電線被覆材料等として適した、環境負荷の少ないノンハロゲン系難燃性合成樹脂組成物及び成形品に関する。
ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいはこれらの組み合わせによる樹脂アロイ類は、それぞれ特有の機械的特性、熱的特性、成形加工性等の特徴に応じて、例えば建築材料、電気機器用材料、車輌部品、自動車内装部品、家庭用品のほか、種々の工業用品に幅広く使用されている。
しかし、これらの合成樹脂は一般的に燃焼しやすいという欠点を有しているため、合成樹脂を難燃化するための種々の方法が多数提案されている。一般的な合成樹脂の難燃化の方法は、難燃剤を樹脂に配合する方法が採用されている。従来の難燃化するための方法のうち、最も使用されている例が、酸化アンチモンとハロゲン系有機化合物を添加する方法である。ハロゲン系有機化合物としては、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールAのビスジブロモプロピルエーテル、テトラブロモビスフェノールSのビスジブロモプロピルエーテル、トリス2,3−ジブロモプロピルイソシアヌレート、ビストリブロモフェノキシエタン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモビフェニルエーテル、デカブロモビフェニルエタン等が挙げられる。
ところが、近年の世界的な環境問題への取り組みを考慮すると、燃焼時に有害ガス(臭化水素)が発生しやすいハロゲン系有機化合物は、使用の自粛が強く求められている。このため、ハロゲン系難燃剤を使用せずに合成樹脂に難燃性を付与させるいくつかの方法が提案されている。そのうちの一つが水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機水酸化物を添加する方法である。しかし、無機水酸化物は、熱分解で生じる水により難燃性が発現されるため、かなり多量に添加しなければ難燃性が発現しない。かかる大量添加のため、加工性、機械的性質等の樹脂本来が有する機能を著しく低下させてしまうという問題がある。
ハロゲン系難燃剤を使用しない別方法として、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等の有機リン化合物を用いる方法がある。しかし、これらの有機リン化合物はリン酸エステル型難燃剤に属するものであり、ポリエステル等の合成樹脂と高温で加熱混練した場合にはエステル交換反応を起こし、合成樹脂の分子量を著しく低下させ、合成樹脂本来の物性を損なう結果となる。しかも、リン酸エステル型難燃剤自体も空気中の水分等で徐々に加水分解し、リン酸を生成する可能性があり、合成樹脂中でリン酸を生成した場合には、合成樹脂の分子量を低下させたり、電気・電子部品等の用途に用いた場合には短絡を起こす危険性がある。
これに対し、ノンハロゲン系難燃剤としてポリリン酸アンモニウムをはじめとするリン酸塩類の使用が多数提案されている。ところが、この種のリン酸塩類を多量に添加した場合、リン酸塩類は難燃性が低いうえに耐湿性も劣っているために、成形品の外観、機械物性等が大幅に低下してしまう。また、この難燃剤組成物からなる樹脂成形品を高湿度下で使用すれば、表面にリン酸塩類のブリードアウトが発生し、なおかつ、多数のブルーミング現象を引き起こしてしまうという致命的な欠陥もある。
上記の欠点を改善するために、特に耐湿性を改良したメラミン架橋型、フェノール架橋型、エポキシ架橋型、あるいはシランカップリング剤及び末端封鎖されたポリエチレングリコール架橋型の表面処理剤による被覆ポリリン酸アンモニウムも提案されている。ところが、これらは樹脂相溶性又は分散性が悪く、高い機械的強度が得られないという問題点がある。また、多くの被覆ポリリン酸アンモニウムを含む樹脂組成物を混練する場合、熱及び応力によって被覆が壊れてしまい、上記と同様の問題(吸湿によるブリードアウト等の問題)が発生することが多い。
一般的に、ポリリン酸アンモニウムを含む樹脂組成物は、混練時に200℃を超えたあたりから熱分解を起こすので、熱分解物が混練中にもブリードアウトしてしまい、ストランドの水濡れを引き起こす。このことが、難燃性樹脂組成物の物性及び生産性を極端に悪くしてしまう原因となっている。例えば、従来技術では、ポリリン酸ピペラジン塩等が提案されている(特許文献1〜4)。ところが、これらの従来技術においても、上記と同様の問題を抱えており、実用上改善すべき点も多い。つまり、リン酸アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等の縮合リン酸アンモニウム塩類等は基本的に水溶性又は吸水性の物質であるがゆえに、これらの添加が樹脂組成物の耐熱性及び耐湿性が低下させる直接的な原因となる。
これを改善するために、芳香族リン酸モノエステルの脂肪族アミン塩のような有機塩類が提案されている(特許文献5〜7)。しかし、芳香族リン酸モノエステルの脂肪族アミン塩は、所定の難燃性を有するものの、非常に強い吸水性を持っている水溶性有機塩である。例として、下記化学式(1)に表されるようなリン酸モノトリルピペラジン塩がこれに該当する。
この物質は、アニオン成分であるトリルジヒドロゲンホスフェートイオンとカチオン成分であるピペラジンイオンとが交互に配位結合しているオニウム塩であり、水溶性が高く、ほとんどの有機溶剤に不溶であるために樹脂相溶性も非常に悪い。このため、リン酸モノトリルピペラジン塩は耐熱性も低く、特にこれを樹脂組成物として混練した場合、混練温度180〜200℃で熱分解することによって毒性の高いp−クレゾールガスが大量に発生してしまうという致命的な欠点を有するため、実用上とても満足できるものではない。
特開2000−169731 特開2003−026935 WO2004−000973 WO2010−013400 特開2001−064453 特開2001−288309 特開2002−080633
従って、本発明の主な目的は、従来技術の諸問題を解消し、より優れた難燃性を付与できる難燃剤、さらには前記組成物を含む難燃性樹脂組成物及びそれを成形してなる成形品を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の芳香族リン酸エステルの環状アミン塩を難燃剤の有効成分として採用することによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、特に、下記の環状アミン塩を含む難燃剤及び難燃性樹脂組成物に係る。
1. 1)アニオン成分である芳香族リン酸ジエステル及び2)カチオン成分である環状アミンから構成される芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩を含む難燃剤組成物であって、当該環状アミン塩が下記一般式(I)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。nは1〜10の整数を示す。mは0〜9の整数を示す。lは1〜10の整数を示す。〕
で表される、環状アミン塩を含む難燃剤組成物。
2. 当該芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩において、
下記一般式(II)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
で表されるA成分と、
下記一般式(III)
〔式中、Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。mは0〜9の整数を示す。〕
で表されるB成分との構成比率が、イオン当量比でA成分/B成分=0.8/1.0〜1.0/1.2である、前記項1に記載の難燃剤組成物。
3. 芳香族リン酸モノエステルの含有量が難燃剤組成物中1重量%以下である、前記項1に記載の難燃剤組成物。
4. リン酸塩類の少なくとも1種をさらに含む、前記項1に記載の難燃剤組成物。
5. 前記項1に記載の難燃剤組成物及び樹脂成分を含む樹脂組成物であって、樹脂成分100重量部に対して当該芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩1〜100重量部を含む難燃性樹脂組成物。
6. 前記項4に記載の難燃剤組成物及び樹脂成分を含む樹脂組成物であって、樹脂成分100重量部に対して当該芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩1〜50重量部、当該リン酸塩類1〜50重量部を含む難燃性樹脂組成物。
7. 当該樹脂成分がポリオレフィン系樹脂である、前記項5又は6に記載の難燃剤樹脂組成物。
8. 前記項5〜7のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形してなる難燃性樹脂成形品。
9. 電気・電子部品、OA機器部品、家電機器部品、自動車用部品又は機器機構部品に用いられる、前記項8に記載の難燃性樹脂成形品。
10. 下記一般式(I)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。nは1〜10の整数を示す。mは0〜9の整数を示す。lは1〜10の整数を示す。〕
で表される芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩を製造する方法であって、
(1)下記一般式(IV)
〔式中、R〜Rは、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
で表される化合物を、アミンの存在下においてオキシハロゲン化リンと反応させることにより、
下記一般式(V)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
で表される含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を合成する工程、
(2)当該含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を加水分解させることにより、
下記一般式(II)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
で表される芳香族リン酸ジエステルを合成する工程、
(3)当該芳香族リン酸ジエステルに対し、下記一般式(VI)
〔式中、Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。mは0〜9の整数を示す。〕
で表される化合物を添加することによって、前記一般式(I)で表される化合物を合成する工程
を含む、芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩の製造方法。
本発明の難燃剤は、特定の化学構造を有する環状アミン塩を含有することから、従来の難燃剤よりも優れた難燃性を発揮することができる。そのため、比較的少量の添加であっても所望の難燃性を付与することができる。すなわち、添加対象となる材料(樹脂等)の本来の特性を効果的に維持しつつ、優れた難燃性を与えることが可能となる。
また、本発明の難燃剤は、耐湿性に優れるので、吸湿によるブリードアウト、ブルーミング等の問題、ブリードアウト等による難燃性低下の問題も効果的に抑制ないしは防止することができる。
さらに、本発明難燃剤の有効成分である前記環状アミン塩は分子中にハロゲン元素を含まないため、難燃性樹脂及び成形品が燃焼した場合でも有害ガスの発生を効果的に抑制することができる。
特に、本発明では、ポリオレフィン系樹脂等の難燃剤として適用する場合、前記環状アミン塩とともにリン酸塩類を併用することによって、より少ない添加量の難燃剤で優れた難燃性を発揮することができる。従来、ポリリン酸塩類等のリン酸塩類は水溶性又は吸水性が高い。このために、リン酸塩を難燃剤として含む難燃性樹脂組成物及び成形品は、難燃剤のモールドデポジット及びブリードアウト(又はブルーミング)を有効に抑制することが不可能である。これに対し、本発明難燃剤を含む難燃性樹脂組成物及び成形品は、種々の樹脂の本来持つ物性を良好に維持しつつ、ポリリン酸塩類を樹脂に対して高度に相溶化させることができ、なおかつ、ポリリン酸塩類のモールドデポジット及びブリードアウト(又はブルーミング)を有効に抑制しつつ、従来技術と同等以上の高度な難燃性をポリオレフィン系樹脂等に対して付与することができる。
このように、本発明の難燃剤は、例えば有機成分を含む材料に添加するための難燃剤として好適に用いることができる。特に、樹脂成分を含む組成物(例えば樹脂成分を50重量%以上含む組成物)に添加するための難燃剤として好ましく用いることができる。
以下において、本発明の環状アミン塩を主たる成分とした難燃剤組成物、及びこれを樹脂成分に配合した難燃性樹脂組成物、並びにこの組成物を成形してなる成形品について詳細に説明する。
1.環状アミン塩を含む難燃剤組成物
(1)環状アミン塩及びその合成方法
(1−1)環状アミン塩
本発明の樹脂用難燃剤は、1)アニオン成分である芳香族リン酸ジエステル及び2)カチオン成分である環状アミンから構成される芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩を含む難燃剤であって、
前記芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩が、
下記一般式(I)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。nは1〜10の整数を示す。mは0〜9の整数を示す。lは1〜10の整数を示す。〕で表される芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩を含むことを特徴とする。
すなわち、下記一般式(I)で示される芳香族リン酸ジエステル環状アミン塩(以下、「本発明環状アミン塩」ともいう。)は、本発明難燃剤の有効成分として機能するものである。本発明難燃剤は、本発明環状アミン塩の1種又は2種以上を含有する。
本発明環状アミン塩は、アニオン成分(A成分)として芳香族リン酸ジエステルを含み、カチオン成分(B成分)として環状アミンから構成される。このような環状アミン塩は、公知又は市販のものを使用することもできる。以下、本発明環状アミン塩についてA成分及びB成分に分けて説明する。
A成分
本発明環状アミン塩のうちA成分を構成する芳香族リン酸ジエステルは、下記一般式(II)で示される。
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
一般式(II)中のR〜R10は、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。また、それぞれのR〜R10は、互いに同一の置換基であっても良く、あるいは互いに異なる置換基であっても良い。特に、本発明では、R〜R10は、置換基を有していても良い炭化水素基よりも水素原子の方が経済的な見地より好ましい。
炭化水素基としては特に限定されず、鎖状(直鎖及び分岐鎖のいずれでも良い。)又は環状(単環、縮合多環、架橋環又はスピロ環のいずれでも良い。)のいずれでもあっても良い。例えば、側鎖を有する環状炭化水素基を用いることもできる。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基のいずれであっても良い。
炭化水素基としては、例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基の総炭素数(置換基を有する場合は置換基の炭素数も含む。)は制限されないが、一般的には1〜18程度とすれば良く、特に1〜4程度が好ましい。より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基等を例示することができる。
また、炭化水素基には置換基が導入されていても良い。置換基としては、例えばアミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、スルホン基、スルフィドリル基等を挙げることができる。
これらのうち、最も好ましい具体例としては、R、R、R、R、R及びR10が水素原子又はメチル基であり、なおかつ、R、R、R及びRが水素原子であるものである。
一般式(I)で表される芳香族リン酸ジエステルのより具体的な例としては、下記式(1)〜(5)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物自体は、公知又は市販のものを用いることもできる。
B成分
本発明環状アミン塩のうちB成分を構成する環状アミンは、下記一般式(III)で示される。
〔Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。mは0〜9の整数を示す。〕
前記Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンである。従って、m=0である場合は、Zはイミノ基となる。m=0の場合は、例えばピペリジン、ピロリジン等が該当する。
前記のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等を挙げることができる。特に、本発明では、総炭素数2〜6のアルキレン基が好ましい。
このような環状アミンとしては、例えば1つ以上のイミノ基(−NH−)が酸素原子、硫黄原子又はイミノ基とアルキレン基とを介して環状に結合している化合物を用いることができる。より好ましくは、2つ以上のイミノ基がアルキレン基を介して環状に結合してなる環状アミンを用いる。
前記の環状アミンの具体例としては、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン、アゾカン、アゾナン、アゼカン、ジアゼチジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン、1,4,7,10,13−ペンタアザシクロペンタデカン、1,4,7,10,13,16−ヘキサアザシクロオクタデカン等が挙げられる。
これらのうち、本発明では、前記環状アミンAとしては、環状アミン類又は環状ポリアミン類を適宜選択して使用することができる。環状アミン類としては、例えばピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等が挙げられる。また、環状ポリアミン類としては、例えばイミノ基(−NH−)とエチレン基(−CH−CH−)の組合せの2つ以上が環状に連結した環状ポリアミン類が挙げられる。この中でも、特に安価で入手しやすいという見地よりピペラジンが最も好ましい。
一般式(III)で表される環状アミンの具体例としては、下記式(6)〜(10)で表される化合物が挙げられる。
本発明環状アミン塩は、樹脂成分との混練時又は成形時における耐熱性が高いものが好適に使用できる。このため、前記環状アミンAは、第1アミンより第2アミン又は第3アミンが好ましい。また、成形時に起こり得る熱分解ガスによるフラッシングを防止するという見地からも、耐熱性の低い脂肪族アミンよりも環状アミンの方がより好適に使用することができる。
本発明環状アミン塩におけるA成分とB成分との構成比は、特に限定されないが、より難燃性、耐湿性等を効果的に保持するためには、A成分とB成分のそれぞれのイオン当量が等しくなることが好ましい。それぞれのイオン当量が等しくすることによって、剰余のイオン成分の含有量を低くすることができるため、水溶性又は吸湿性の発現を効果的に抑制ないしは防止できる結果、それによる成形品等の外観不良、物性低下等も回避することができる。
かかる見地より、本発明環状アミン塩におけるA成分とB成分との構成比率(イオン当量比)は、A成分/B成分=0.8/1.0〜1.0/1.2の範囲にあれば、前記の不具合を引き起こさずに難燃剤としてより好適に使用することができる。さらには、本発明では、A成分とB成分との構成比が完全に等量であることが最も好ましい。
本発明環状アミン塩の好ましい実施態様
本発明の難燃性樹脂組成物及びその成形品における本発明環状アミン塩の役割としては、難燃剤として機能することはもとより、吸湿防止剤、ブルーミング防止剤等の様々な機能を発揮し得る。この点を鑑みて、より好適な本発明環状アミン塩を具体的に例示すると、構成するB成分の好適な例としてピペラジンを選択した場合には、下記式(11)〜(16)で表される化合物が挙げられる。
なお、本発明の環状アミン塩を構成するA成分である芳香族リン酸ジエステルとB成分である環状アミンとは、それぞれ公知のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって得られる芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩を使用することもできる。
(1−2)本発明環状アミン塩の合成方法
本発明環状アミン塩は公知の製造方法によっても製造することができるが、特に本発明の製造方法により製造することが好ましい。
一般式(IV)で表される化合物から一般式(II)で表される芳香族リン酸エステル酸誘導体を合成する公知の方法としては、従来、Phosphorus and its compounds Volume 2, 1961, Interscience
Pubublishers, Inc., New York, 1230-に記載された方法、すなわちトリアルキルホスフェートからアルカリを使った部分加水分解法による製造方法、モノアルキルジヒドロキシホスフェートとジアルキルヒドロキシホスフェートの混合物を製造した後、水溶性の差により選択分配する製造方法等がある。
上記刊行物に開示の合成経路を応用すると、過剰の上記一般式(IV)で表される化合物を五酸化リン又はオキシ塩化リンと反応することにより、芳香族モノリン酸エステル、芳香族ジリン酸エステル及び芳香族トリリン酸エステルの混合物を合成することができる。しかし、この方法は収率が低い上に精製に手間取るために、経済的に有利な方法ではない。例えば、オキシ塩化リンによるフェノールのリン酸化の場合、オキシ塩化リンを大過剰に加えることによりジクロロモノフェニルホスフェート(モノエステル体)を優先して合成することが可能であり、またフェノールをオキシ塩化リンに対して3当量加えて反応することにより収率良くトリフェニルホスフェート(トリエステル体)を優先して合成することができる。ところが、上記刊行物の合成経路を応用してもモノクロロジフェニルホスフェート(ジエステル体)のみを優先して選択的に直接合成することは困難である。
これに対し、本発明の製造方法は、化学式(IV)で表される化合物をアミンの存在下にてオキシハロゲン化リンと反応させることにより一般式(V)で表される化合物を経由して、一般式(I)で表される環状アミン塩を製造する合成経路である。本発明の製造方法によれば、より収率良く1ポットで直接に目的化合物を得ることができる。より具体的には、目的化合物である本発明環状アミン塩の合成に至る各過程において、中間体生成物の単離及び生成工程を行うことなく、連続的に次の過程に移ることができるので、中間体精製に伴う収率低下が発生しないために高い収率が得られるうえ、工程の簡略化による製造コストの低減も図ることができるため、経済的にも非常に優れた方法となる。かかる見地より、本発明環状アミン塩の製造においては、本発明の製造方法を用いることが好ましい。
本発明の製造方法は、
(1)下記化学式(IV)
〔式中、R〜Rは、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
で表される化合物を、アミンの存在下においてオキシハロゲン化リンと反応させることにより、
下記一般式(V)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
で表される含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を合成する工程(A工程)、
(2)当該含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を加水分解させることにより、
下記一般式(II)
〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
で表される芳香族リン酸ジエステルを合成する工程(B工程)、
(3)当該芳香族リン酸ジエステルに対し、
下記一般式(VI)
〔式中、Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。mは0〜9の整数を示す。〕
で表される化合物を有機溶媒中において添加することによって、前記一般式(I)で表される化合物を得る工程(C工程)
を含む製造方法である。
A工程
A工程では、オキシハロゲン化リン及び前記一般式(IV)で表されるフェノール誘導体が含まれる反応系中に、アミンを添加して脱ハロゲン化水素反応させることにより、前記一般式(V)で表される含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を合成する。この際に添加されるアミンは、上記の選択的エステル反応を効率的に促進させる触媒として機能する。
一般式(IV)で表される化合物は、原料として市販のフェノール及びオキシハロゲン化リンを使用して反応すれば良い。オキシハロゲン化リンとして例えばオキシ塩化リン、オキシ臭化リン等を用いることができる。オキシ塩化リンを使用すれば、一般式(V)で表される化合物のハロゲン原子は塩素となる。また、オキシ塩化リンの代わりにオキシ臭化リンを使用すれば、一般式(V)で表される化合物のハロゲン原子は臭素となる。
また、上記の選択的エステル化反応を効率的に促進させる触媒として、反応系中にアミンを共存させる。アミンの種類は特に限定されないが、例えばトリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、4−ジメチルアミノピリジン等の少なくとも1種が挙げられる。この中でも、経済的な見地よりトリエチルアミンが好ましい。
一般式(V)で表される化合物を合成する方法としては、例えばオキシハロゲン化リンと一般式(IV)で表されるフェノール誘導体の両者に脱ハロゲン化水素触媒となるアミンを常温程度(約10〜40℃)で混合すれば良い。反応温度は10℃を下回ると反応速度が低下するので、反応時間が長くなる。また、反応温度が40℃を超えると反応が暴走し、一般式(V)で表されるジエステル体以外にもトリエステル体等の副生成物が生成されてしまい、反応収率が低下することがある。
各原料の混合割合は、一般式(IV)で表されるフェノール誘導体1モルに対して、オキシハロゲン化リン0.4〜0.6モル程度、好ましくは0.45〜0.55モル程度とすれば良い。また、一般式(IV)で表されるフェノール誘導体1モルに対して、アミン0.8〜1.2モル程度、好ましくは0.9〜1.1モル程度にすれば良い。この原料の仕込割合が上記範囲内から外れた場合には、一般式(V)で表されるジエステル体以外のモノエステル体、トリエステル体等の副生成物が生成してしまうおそれがある。
上記反応においては、必ずアミンのハロゲン化水素塩が生成するので、上記反応を溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、特に限定されないが、例えばベンゼン、トルエン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒等の非プロトン系有機溶媒等を好適に用いることができる。
上記溶媒に関し、アミンのハロゲン化水素塩を水溶液化して分層し、一般式(V)で表されるジエステル体(有機溶媒層中に存在)を液液抽出による分離精製を行うため、アミンのハロゲン化水素塩水溶液の除去を行う必要がある。従って、連続反応を行うためには、上記の反応溶媒は非水溶性の軽溶媒(水よりも比重の軽い溶媒)を使用するのがより好ましい。
一般式(II)で表される芳香族リン酸ジエステルの合成を連続的に同一の反応槽で行うことが好ましい。前の反応で副成したアミンのハロゲン化水素塩を、前述のように水溶液化して分層し、一般式(V)で表されるジエステル体(有機溶媒層中に存在)を液液抽出による分離精製を行うために反応系中に水を投入することが好ましい。これを常温以下(40℃以下)にて良く攪拌して、その後は放置することにより有機溶媒層と水層とに分離し、その後に水層を除去し、アミンのハロゲン化水素塩を反応系中より除去すれば良い。
このときの温度が常温以上(40℃を超える温度)である場合には、わずかながら一般式(V)で表されるジエステル体から加水分解反応が進行してしまい、一般式(II)で酸性リン酸ジエステル体が生成して若干ながら有機溶媒層より水層に移動することが考えられるので、結果として反応収率を下げてしまうことがある。
本発明の製造方法において、特に、A工程では、一般式(II)で表される芳香族リン酸ジエステルを1当量得るために必要な一般式(III)で表されるフェノール誘導体、オキシハロゲン化リンの仕込み割合は、フェノール誘導体で約1当量、オキシハロゲン化リン約0.5当量であり、化学量論的にロスなく合成できることから非常に経済的に有利である。
B工程
B工程では、含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を加水分解することによって芳香族リン酸ジエステルを合成する。すなわち、一般式(V)で表される含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体(芳香族ハロゲン化リン酸ジエステル)から一般式(II)で表される芳香族リン酸ジエステルを得るには、前記含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体に水を添加することによって加水分解を促せば良い。
加水分解に必要な水の量は、一般式(V)で表される含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体(芳香族ハロゲン化リン酸ジエステル)と等量以上の化学量論量の水を加えれば良い。反応温度は限定的ではないが、好ましくは常温以上の温度(特に40℃を超える温度)、より好ましくは80〜120℃で攪拌すれば良い。B工程においては、好ましくは、同時に系中に存在する有機溶媒の沸点、あるいは有機溶媒と水との共沸点で還流することが好ましい。
上記の有機溶媒としては、前反応で使用した有機溶媒をそのまま連続的に使用しても良く、他の有機溶媒を追加して使用しても良く、さらに反応系中の有機溶媒を還流除去後に他の有機溶媒を反応系中に投入する溶媒交換を行っても良い。使用できる溶媒の種類としては、前記のA工程で挙げた溶媒と同様のものを使用することができる。
B工程においては、加水分解後に過剰な水の除去と同時に、わずかながら副成される芳香族リン酸モノエステルの反応系外への除去も行うことができる。芳香族リン酸モノエステルは水溶性がかなり高いので、液液抽出を行うと芳香族リン酸ジエステルとは逆に有機溶媒層中には存在せずに完全に水層に移動する。芳香族リン酸モノエステルの環状アミン塩及び芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩も上記と同様以上の性質を示す。
それゆえに、B工程における最後の反応において、非水溶性有機溶媒層と水層との非均一系加水分解は1ポット連続反応に対する寄与のみならず、モノエステル体とジエステル体の選択性を高めることにも寄与する優れた合成法であるといえる。
もちろん、B工程終了後、公知の精製方法、固液分離方法等に従って芳香族リン酸ジエステルを回収することができるので、これを回収した後、樹脂に難燃剤を混練する際に、別々に用意した芳香族リン酸ジエステル及び環状アミンをドライブレンドした後、樹脂成分に添加しても良い。この場合、芳香族リン酸ジエステルはあまり強い吸水性はないが、ほとんどの環状アミン、環状ポリアミンは吸水性、あるいは水和物となるので、樹脂成分に添加する前に非常に高度に減圧脱水乾燥する必要があり、後の本発明難燃剤を得るのに非常に手間がかかってしまうことがある。
従って、本発明の製造方法のように、B工程の終了後、連続的にC工程を行って芳香族リン酸ジエステル環状アミン塩とすることにより、たとえ脱水乾燥する必要が生じたとしても、あまり高度な乾燥をしなくても効果的に使用することができるので、より好ましい簡便な方法といえる。
C工程
C工程では、B工程終了後に一般式(III)で表される環状アミンを反応系中に添加し、攪拌混合することによって、連続的に前記一般式(I)で表される芳香族リン酸ジエステル環状アミン塩が合成できる。
一般式(III)で表される環状アミンの添加量としては、前述のとおり難燃性、耐湿性を高度に保持するため、双方のイオン当量が等しくなるように一般式(II)で表される芳香族リン酸ジエステルの含まれる化学量論量に対して、等量の適宜選択された環状アミン塩を添加するのが好ましい。一般式(III)で表される環状アミンは、公知のもの又は市販品を使用すれば良い。
C工程においても、必要に応じて溶媒中で実施することもできる。溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶媒;メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒等が挙げられる。
C工程後は、公知の精製方法、固液分離方法等に従って本発明環状アミン塩を回収することができる。本発明の製造方法により、一般式(I)で表される本発明環状アミン塩を合成する場合には、極めて収率が高く効率的に製造を行うことができ、好条件では再結晶後の全工程収率で80%以上(フェノール誘導体に対して)の非常に高い収率で目的物を得ることができる。
本発明環状アミン塩のうち、例えば一般式(II)で表される芳香族リン酸ジエステルとしてジフェニルヒドロゲンホスフェート(DPHP)、一般式(III)で表される環状アミンとしてピペラジンを選択した場合、得られた化合物のH−NMRを測定してみると、ピペラジン(メチレン)のH−NMRのケミカルシフトがδ2.84ppmから3.23ppmへと、同様に31P−NMRでは、DPHP(リン)のケミカルシフトがδ−11.31ppmから−10.54ppmへと、双方ともに低磁場シフトする。これにより、ピペラジンとDPHPが配位結合によって、ピペラジン−1,4−ジイウムカチオン及びジフェニルヒドロゲンホスフェートアニオンからなるオニウム塩が形成されていることがわかる。
(2)本発明環状アミン塩を含む難燃剤組成物
本発明の難燃剤組成物(本発明難燃剤)は、本発明環状アミン塩の1種又は2種以上を含む。すなわち、前記(1)で示した環状アミン塩の少なくとも1種を有効成分として含むものである。
本発明環状アミン塩に必須かつ最も重要な性能である耐湿性及び耐水溶性という点において、本発明では環状アミン塩中に混入し得る芳香族リン酸モノエステルの存在はそれらの性能の劣化をもたらすので、本発明難燃剤中への芳香族リン酸モノエステルの混入量は少ないほど好ましい。すなわち、本発明難燃剤中の芳香族リン酸モノエステルの含有量は1重量%以下であることが好ましく、特に0.1重量%以下であることがより好ましく、さらには0重量%であることが最も好ましい。
なお、芳香族リン酸モノエステルとA成分である芳香族リン酸ジエステルとは、例えばLC/MS、或いはGC/MSを測定することによって、その存在比を調べることができる。また、31P−NMRを測定することによって、ジエステル体のケミカルシフトがδ−12〜−10ppm程度、モノエステル体のケミカルシフトがδ−3〜−4ppm程度であることから容易に確認することができる。
また、本発明難燃剤では、本発明環状アミン塩のほか、公知の難燃剤で配合されている添加剤が含まれていても良い。
特に、本発明難燃剤では、リン酸塩類(C成分)を好適に用いることができる。リン酸塩類のみを難燃剤として使用しても、難燃性、耐湿性、及びブルーミング耐性を同時に獲得することは非常に困難であるが、本発明環状アミン塩とリン酸塩類を同時に含有させることによって、難燃性及び耐湿性を高度に強化する以外にも、ブルーミング現象をより効果的に防止できるという効果を得ることができる。前述のように、従来技術の難燃剤では、リン酸塩類は基本的に合成樹脂とは混ざりにくく分散安定化しにくい。これらの難燃剤成分が樹脂中に良好に分散されていないと、難燃性樹脂の成形性、耐衝撃性等の諸物性が低下してしまい、さらに容易にブリードアウトすることが多い。これに対し、本発明では、本発明環状アミン塩がリン酸塩類に対して合成樹脂中において分散安定化剤及び/又は相溶化剤としても機能する点において、従来技術よりも優位に立つものである。
前記リン酸塩類としては、特に限定されないが、例えば1)ポリリン酸アンモニウム等の無機縮合リン酸アンモニウム塩、2)被覆されたポリリン酸アンモニウム等の無機縮合リン酸アンモニウム塩、3)リン酸、ピロリン酸又は縮合リン酸とトリアジン誘導体とからなる有機塩類等の少なくとも1種を挙げることができる。
前記C成分の1)ポリリン酸アンモニウム等の無機縮合リン酸アンモニウム塩としては、市販品の例として、製品名「エクソリットAP422」、「エクソリットAP700」(いずれもクラリアント社製)、製品名「テラージュS−10」、「テラージュS−20」(いずれもチッソ(株)社製)、製品名「スミセーフP」(住友化学工業社製)等が挙げられる。
前記C成分の2)被覆されたポリリン酸アンモニウム等の無機縮合リン酸アンモニウム塩は、吸湿によって容易に加水分解されるポリリン酸アンモニウム塩の有する欠点を補うために、熱硬化樹脂でマイクロカプセル化したり、メラミン架橋によって被覆等の表面処理を行ったり、また界面活性剤、シリコン化合物等によって顆粒の表面処理を行ったものである。これらの市販品の例として、製品名「エクソリットAP462」(クラリアント社製)、製品名「テラージュC−30」、「テラージュC−60」、「テラージュC−70」、「テラージュC−80」(いずれもチッソ(株)社製)等が挙げられる。
前記C成分の3)リン酸、ピロリン酸、若しくは縮合リン酸と、トリアジン誘導体からなるアミンとからなる有機塩類としては、具体的にはメラミン、グアナミン、メチルグアナミン、エチルグアナミン、ベンゾグアナミン、ベンジルグアナミン、グアナジン、グアニジン、2,4−ジアミノ−6−モルホリノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−チオモルホリノ−1,3,5−トリアジン等のトリアジン誘導体のリン酸塩、ピロリン酸塩、3分子以上リン酸が縮合したポリリン酸塩が挙げられる。
本発明難燃剤において、本発明環状アミン塩のほか、C成分のうち、少なくとも1種のリン酸塩類を含む難燃剤組成物を種々の樹脂成分に混合することにより、合成樹脂組成物等を高度に難燃化することができる。
本発明難燃剤は、チャー形成型のリン・窒素系難燃剤であるが、代表的なチャー形成形難燃剤である赤燐、ポリリン酸アミン塩、大部分のリン酸エステル類、及びトリアジン誘導体は水分に対して大きな影響を受けやすい。つまり、難燃剤として致命的な欠陥となるリン系化合物の特徴、例えば、赤燐に由来するフォスフィン(PH)ガスの発生、ポリリン酸アミン塩に由来するブルーミング現象の発生、リン酸エステルの加水分解に由来する着色、アミン(窒素)系分解ガスの発生、樹脂の着色や分子量低下等の欠陥は、ほとんどが吸湿による水分及び水分由来の活性ラジカル等が原因となっているという問題がある。
すなわち、チャー形成形のリン系難燃剤として実用上最も重要とされる性能は、合成樹脂に高度な難燃性を付与しつつ、同時に高度に耐吸湿性を備えることによりある。
また、チャー形成形のリン系難燃剤のほとんどは、一般的に樹脂相溶性が悪いので、例えば極性の低いポリオレフィン樹脂に添加しても樹脂中に均一に安定的に分散し続けることはないので、難燃剤の樹脂表面への移行や樹脂の機械的物性の極端な低下を引き起こすという問題がある。
リン酸エステル類からなる一部の難燃剤では、樹脂相溶性の優れたものも存在するが、融点及び熱分解開始温度が低い液体のものがほとんどであるために可塑性が強すぎて成形性を低下させることがあり、また成形品に対して高度な難燃性を付与することができないことが多い。
本発明環状アミン塩は単独でも非吸湿性難燃剤であるが、より難燃性を強化するために吸湿性をもつC成分を同時に添加した場合においても、本発明環状アミン塩が樹脂中でC成分を安定的に分散又は相溶化させることができる一種の保護緩衝剤の役割をするので、吸湿性を抑え、なおかつ、難燃剤組成物の樹脂中での分散均一性を維持することにより、成形品表面への移行性、ブルーミング現象、あるいは成形品の表面荒れを同時に抑えることができる。
2.本発明難燃剤を含む難燃性樹脂組成物(本発明組成物)
(1)難燃性樹脂組成物
本発明は、本発明難燃剤及び樹脂成分を含む樹脂組成物であって、樹脂成分100重量部に対して本発明環状アミン塩1〜100重量部を含む難燃性樹脂組成物を包含する。
樹脂成分としては、特に制限されるものではなく、例えば公知の合成樹脂から選択することができる。より具体的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ意味時計樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエーテル・エーテルケトン樹脂、ポリフエニレン・スルフイド樹脂、ポリアミド・イミド樹脂、ポリエーテル・スルフォン樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリメチル・ペンテン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のホモポリマーあるいはコポリマーの単独又はそれらの組み合わせによる樹脂アロイ類等が挙げられる。
本発明組成物において好適なポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンの単独重合体、前記のα―オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体の単体及び混合物等の樹脂、さらにこれと酢酸ビニル又は無水マレイン酸が共重合された樹脂等のポリオレフィン系樹脂が好適に使用することができる。より具体的には、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体等のようなポリプロピレン系樹脂、低密度エチレン単独重合体、高密度エチレン単独重合体、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体のようなポリエチレン系樹脂等が挙げられる。また、本発明において難燃性樹脂組成物の物性を改良するために、必要に応じて、ポリエチレン系合成ゴム、ポリオレフィン系合成ゴム等を配合することもできる。
ポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等が挙げられる。
ポリビニル系樹脂としては、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、酢酸ビニル、ビニルアルコール等のようなビニル単量体の単独重合体のほか、これらのビニル単量体と前述のα−オレフィンとの共重合体等を挙げることができる。
ポリアミド系樹脂としては、例えばポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・3、ポリアミド6・4、ポリアミド4・6、ポリアミド6・10等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ(1,4−シキロヘキサンジメチレンテレフタレート)等が挙げられる。
ポリエーテル系樹脂としては、例えばポリフェニレンエーテル、ポリエチレンエーテル等が挙げられる。
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族−芳香族ポリカーボネート等が挙げられる。一般的には2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル系、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン系、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド系等のビスフェノール類からなる重合物又は共重合物が挙げられる。
また、本発明組成物における樹脂成分としては、上述の各系の樹脂類のほかにも、2種以上の樹脂成分を適当な相溶化剤の共存下又は非共存下に混練して製造されたアロイ樹脂も含まれる。アロイ樹脂としては、例えばポリプロピレン/ポリアミド、ポリプロピレン/ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体/ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体/ポリアミド、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリカーボネート/ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
さらに、樹脂成分として、前記した合成樹脂の変性物、例えば合成樹脂を不飽和カルボン酸類(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等)又はシロキサン等によりグラフトさせて得られる変性物も用いることができる。
上記の樹脂成分の中でも、より汎用性が高く、安価で、かつ、各種物性のバランスを取りやすい成形品が得られるという見地より、特にポリオレフィン系樹脂と本発明難燃剤との組み合わせがより好ましい。特に、ポリプロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体及びエチレン−プロピレンブロック共重合体の少なくとも1種と本発明難燃剤とを含む難燃性樹脂組成物は、成形性、耐熱性、耐吸湿性及び特に高度な難燃性に関し、従来にない特に優れた性能を発揮できるのでより好ましい。
本発明組成物においては、本発明環状アミン塩の配合割合について特に制限はなく、各種物性及び難燃性を保持する程度の配合量を添加すれば良い。このなかでも特に混練安定性及び成形性を保ちつつ、さらには成形品に対して耐湿性及び高度な難燃性を与えるには、樹脂成分100重量部に対して本発明環状アミン塩1〜100重量部を配合すれば良く、さらに好ましくは10重量部〜50重量部を配合すれば良い。本発明難燃剤の配合割合が1重量部を下回ると難燃性が不十分となることがある一方、100重量部を超えると樹脂本来のもつ特性が得られなくなるおそれがある。
また、本発明環状アミン塩に加えて、前記C成分をさらに添加することにより、本発明組成物の特徴であるチャー形成能に対して、発泡による炭化促進効果(アミン、トリアジン、メラミン等のリン酸塩等)が相乗的に起こることにより、より高度な難燃性を獲得することが可能となる。
本発明における難燃剤組成物及び樹脂成分を含む樹脂組成物においては、その配合割合として樹脂成分100重量部に対して本発明環状アミン塩を1〜50重量部、当該C成分を1〜50重量部とすることが好ましく、特に本発明環状アミン塩を10〜30重量部、当該C成分を10〜30重量部とすることがより好ましい。
本発明組成物には、上記成分のほかに、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて公知又は市販の添加剤を適宜配合することができる。例示すると、フェノール系化合物、ホスフィン系化合物、チオエーテル系化合物等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチレート系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の紫外線吸収剤又は耐光剤;カチオン系化合物、アニオン系化合物、ノニオン系化合物、両性化合物、金属酸化物、π系導電性高分子化合物、カーボン等の帯電防止剤及び導電剤;脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩等の滑剤;ベンジリデンソルビトール系化合物等の核剤;タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、ガラス繊維、ガラスビーズ、低融点ガラス等の充填剤のほか、金属不活性化剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面改質剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、粘着剤、ガス吸着剤、鮮度保持剤、酵素、消臭剤、香料等が挙げられる。
また、本発明組成物のドリップコントロール剤として、フィブリル形成能を持つポリテトラフルオロエチレン含有混合粒子粉体を添加することもできる。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン含有混合粒子粉体を添加することにより、難燃性樹脂組成物の燃焼性試験、特にUL規格の垂直燃焼試験(UL94V)において、燃焼時の試験片のドリップ防止性能をより高めることができる。
フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン含有混合粒子粉体としては、例えばポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体等が挙げられるが、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
この場合、前記粉体の平均粒径は限定的ではないが、通常0.1〜1000μm程度とすれば良い。また、その添加量は所望のドリップ防止性能等に応じて適宜設定できるが、一般的には樹脂成分100重量部に対して0.01〜10重量部程度とすることが好ましい。
(2)難燃性樹脂組成物の製造方法
本発明組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得ることができる。好ましくは、上記各成分を溶融混練することによって製造することができる。その場合の混練順序も特に限定されず、各々を同時に混合しても良いし、あるいは数種類を予め混合し、残りを後から混合しても良い。
混合方法としては限定的でなく、例えばタンブラー式V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー等の高速撹拌機、単軸、二軸連続混練機、ロールミキサー等の装置を単独で又は組み合わせて用いる方法が採用できる。
本発明では、さらに予め数種をマスターバッチとして合成樹脂と高濃度の組成物を作成し、その後さらに樹脂と混合希釈し、所定の樹脂組成物を得ることもできる。
(3)難燃性樹脂組成物の使用
本発明組成物は、優れた難燃性を達成するとともに、ブリードが効果的に抑制できるため、成形品として好適に用いることができる。すなわち、本発明の難燃性樹脂組成物は、成形品の製造のための樹脂組成物として好適に用いることができる。これにより、難燃性に優れた成形品を提供することができる。
3.成形品
本発明は、本発明の難燃性樹脂組成物を成形してなる難燃性樹脂成形品も包含する。
成形方法は特に制限がなく、例えば射出成形、押出成形等の公知の成形方法が使用できる。例えば、押出成形機による方法、一度シートを作成し、これを真空成形、プレス成形等の二次加工による方法、射出成形機による方法等が挙げられるが、本発明では汎用性が高いという点で特に射出成形が好ましい。
射出成形においても、通常のコールドランナー方式の射出成形法だけではなく、ランナーレスを可能にするホットランナー方式によって成形品を製造することができる。さらには、例えばガスアシスト射出成形、射出圧縮成形、超高速射出成形等を採用することもできる。
本発明の難燃性樹脂組成物からなる成形品としては、家電製品、OA製品、自動車分野等における難燃性を必要とされる用途に適用することができる。具体的には、電線・ケーブル等の絶縁被覆材料又は各種電気部品、メーターボックス、ランプハウジング、コルゲートチューブ、電線被覆材、バッテリー部品等の各種自動車、船舶、航空機部品、洗面台部品、便器部品、風呂場部品、床暖房部品、照明器具、エアコン等の各種住宅設備部品、屋根材、天井材、壁材、床材等各種建築材料、テレビ、ラジオ、録画・録音機器、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、炊飯器、照明機器等の家庭電化製品等の用途に好適に用いられる。
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、下記の合成例等において得られた各々の化合物の諸物性は次のようにして測定した。
(1)純度
FID検出器付ガスクロマトグラフィー(GC−2010:島津製作所(株)製)及びフォトダイオードアレイ(PDA)3次元UV検出器付高速液体クロマトグラフィー(アライアンスHPLCシステム:
ウォーターズ社製)にて純度の確認を行った。
(2)融点
全自動融点測定装置(FP−62:メトラートレド社製)にて融点の測定を行った。
(3)元素分析
元素分析計(EA1110:CEインスツルメンツ社製)にて炭素、水素及び窒素を、マイクロウェーブ試料分解装置(ETHOS1:マイルストーンゼネラル社製)で湿式分解後に高周波結合プラズマ発光分析装置(ICP−OES、720ES:バリアン社製)にてリンを、それぞれの化合物について元素分析を行った。
(4)構造解析
赤外吸収分析装置(FT−IR、FT−720堀場製作所(株)製)、質量分析計付ガスクロマトグラフィー(GCMS−QP2010Plus:島津製作所(株)製)、300MHz核磁気共鳴吸収分析装置(JNM−AL300:日本電子(株)製)による水素核磁気共鳴(H−NMR)スペクトル及びリン核磁気共鳴(31P−NMR)スペクトルより、各々の化合物の構造同定を行った。
<合成例1>
1.ジフェニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DPHPP)の合成
1.1 ジフェニルクロロホスフェート(DPCP)の合成
コンデンサー、側管付滴下漏斗及び温度計を備えた撹拌装置付4ツ口フラスコに、フェノール94.1g(1.0mol)、オキシ塩化リン76.67g(0.5mol)及びトルエン700gを投入し、側管付滴下漏斗にはトリエチルアミン106.25g(1.05mol)を投入した。コンデンサーの上端に塩化カルシウム管を取り付けて空気中の水分が反応系内に混入しないようにした後、フラスコを恒温水槽にて30℃に保ちながら窒素雰囲気下で撹拌を開始した。撹拌開始後、滴下漏斗よりトリエチルアミンを2時間かけて反応生成物の温度が40℃を超えないように滴下させた。滴下終了後より1時間の反応熟成の後に、反応生成物をサンプリングしてGC/MSを測定したところ、得られた微黄色透明液体の反応中間体の純度は98%以上であり、GC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z268)、反応生成物として上記式(17)で示されるジフェニルクロロホスフェート(DPCP:Mw
268.63)が得られたことが確認できた。
1.2 ジフェニルヒドロゲンホスフェート(DPHP)の合成
前記1.1より、反応物中に含まれる原料のフェノールが、完全に消失しているのをGC/MSで確認した後、フラスコを恒温水槽にて20℃まで冷却し、フラスコに水140gを投入後30分撹拌した。撹拌終了後、反応液を30分静置して有機層と水層に分層させて水層を抜き出した。フラスコをマントルヒーターにて徐々に加熱しながらフラスコ内の反応液の温度が120℃に達するまで反応液中のトルエンを留去した。トルエンの留去量が560gになったところで一旦加熱を停止し、反応物を80℃になるまで冷却した後、水140gを投入して再加熱し、トルエンと水との共沸によりトルエンを反応系中から除去しながら、還流することによって同時にジフェニルヒドロゲンホスフェート(DPHP)の加水分解を2時間かけて行った。これを室温まで冷却した後、酢酸エチル300gをフラスコに投入して撹拌した後、再分層させて水層を抜き出した。有機層を水で洗浄した後、有機層中の反応生成物をサンプリングして反応中間体の純度を確認したところ、純度は99%以上(HPLC)であった。この反応生成物を完全に減圧下で乾燥させると、融点69℃の白色固体となった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた反応生成物が上記式(18)で示されるジフェニルヒドロゲンホスフェート(DPHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 7.11−7.23(4H,m)、7.29−7.40(6H,m)
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −11.31
1.3 ジフェニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DPHPP)の合成
前記1.2に続いて、反応生成物であるジフェニルヒドロゲンホスフェート(DPHP)を含む有機層にメタノール1000gを加えて溶解させて、側管付滴下漏斗にメタノール200gに溶解させた無水ピペラジン21.5g(0.25mol)溶液を投入した。反応液を撹拌しながら2時間かけてピペラジン溶液を滴下すると、白色固体が析出した。この白色固体をメタノール/水(2/1,wt)で再結晶することにより、117.1g(0.20mol,収率80%)の白色結晶粉体が得られた。この白色結晶粉体の融点は202.2℃であった。また、この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた反応生成物が上記式(19)で示されるジフェニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DPHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 3.23(8H,s)、6.96−7.01(4H,m)、7.11−7.14(8H,m)、7.20−7.27(8H,m)
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −10.54
元素分析C2832(Mw586.51)として、
計算値: C,57.34; H,5.50; N,4.78; P,10.56
実測値: C,57.13; H,5.52; N,4.77; P,10.54
<合成例2>
2.ジ−p−トリルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DTHPP)の合成
2.1 ジ−p−トリルクロロホスフェート(DTCP)の合成
前記1.1のフェノールの代わりに、p−クレゾール108.14g(1.0mol)を用い、前記1.1と同様の操作を行うことにより、反応生成物をサンプリングしてGC/MSを測定したところ、得られた微黄色透明液体の反応生成物の純度は98%以上であり、GC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z296)、反応生成物として上記式(20)で示されるジフェニルクロロホスフェート(DPCP:Mw
296.69)が得られたことが確認できた。
2.2 ジ−p−トリルヒドロゲンホスフェート(DTHP)の合成
前記2.1に示された工程に続いて、前記1.2と同様の操作を行い、得られた反応物をサンプリングして反応生成物の純度を確認したところ、純度は99%以上(HPLC)であった。この反応生成物を完全に減圧下で乾燥させると、融点79℃の白色固体となった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた反応生成物が上記式(21)で示されるジ−p−トリルヒドロゲンホスフェート(DPHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 2.25(6H,s)、7.03−7.08(4H,m)、7.12−7.17(4H,m).
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −10.91
2.3 ジ−p−トリルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DTHPP)の合成
前記2.2に示された工程に続いて、前記1.3と同様の操作を行うことにより、112.5g(0.18mol,収率70%)の白色結晶粉体が得られた。この白色結晶粉体の融点は206.2℃であった。また、この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた反応生成物が上記式(22)で示されるジ−p−トリルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DTHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 2.21(12H,s)、3.21(8H,s)、6.98−7.05(16H,m)
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −9.97
元素分析C3240(Mw 642.62)として、
計算値: C,59.81; H,6.27; N,4.36; P,9.64
実測値: C,59.43; H,6.08; N,4.32; P,9.63
<合成例3>
3.ジ−2,6−キシレニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DTHPP)の合成
3.1 ジ−2,6−キシレニルクロロホスフェート(DXCP)の合成
前記1.1のフェノールの代わりに、2,6−キシレノール122.16g(1.0mol)を用い、前記1.1と同様の操作を行うことにより、反応生成物をサンプリングしてGC/MSを測定したところ、得られた微黄色透明液体の反応生成物の純度は99%以上であり、GC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z324)、反応生成物として上記式(23)で示されるジ−2,6−キシレニルクロロホスフェート(DXCP:Mw
324.74)が得られたことが確認できた。
3.2 ジ−2,6−キシレニルヒドロゲンホスフェート(DTHP)の合成
前記3.1に示された工程に続いて、前記1.2と同様の操作を行い、得られた反応生成物をサンプリングして反応生成物の純度を確認したところ、純度は98%以上(HPLC)であった。この反応生成物を完全に減圧下で乾燥させると、融点140.4℃の白色固体となった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた反応生成物が上記式(24)で示されるジ−2,6−キシレニルヒドロゲンホスフェート(DXHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 2.27(12H,s)、6.95−7.06(6H,m)
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −9.97
3.3 ジ−2,6−キシレニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DXHPP)の合成
前記3.2に示された工程に続いて、前記1.3と同様の操作を行うことにより、108.3g(0.16mol,収率62%)の白色結晶粉体が得られた。この白色結晶粉体の融点は224.2℃であった。また、この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた反応生成物が上記式(25)で示されるジ−2,6−キシレニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DXHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 2.28(24H,s)、2.97(8H,s)、6.81−6.85(4H,m)、6.93−6.95(12H,m)
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −8.49
元素分析C3648(Mw 698.72)として、
計算値: C,61.88; H,6.92; N,4.01; P,8.87
実測値: C,61.63; H,6.85; N,3.98; P,8.81
<合成例4>
4.ジ−4−t−ブチルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DBHPP)の合成
4.1 ジ−4−t−ブチルクロロホスフェート(DBCP)の合成
前記1.1のフェノールの代わりに、4−t−ブチルフェノール150.22g(1.0mol)を用い、前記1.1と同様の操作を行うことにより、反応生成物をサンプリングしてGC/MSを測定したところ、得られた黄色固体の反応生成物の純度は97%以上であり、融点は101.0℃であった。また、GC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z380)、反応生成物として上記式(25)で示されるジ−4−t−ブチルクロロホスフェート(DXCP:Mw
380.85)が得られたことが確認できた。
4.2 ジ−4−t−ブチルヒドロゲンホスフェート(DBHP)の合成
前記4.1に示された工程に続いて、前記1.2と同様の操作を行い、得られた反応生成物をサンプリングして反応生成物の純度を確認したところ、純度は98%以上(HPLC)であった。この反応生成物を完全に減圧下で乾燥させると、融点137.4℃の淡赤褐色固体となった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた反応生成物が上記式(27)で示されるジ−4−t−ブチルヒドロゲンホスフェート(DBHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 1.26(18H,s)、7.08−7.11(4H,m)、7.35−7.38(4H,m)
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −10.88
4.3 ジ−4−t−ブチルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DBHPP)の合成
前記4.2に示された工程に続いて、前記1.3と同様の操作を行うことにより、162.2g(0.20mol,収率80%)の淡黄白色結晶粉体が得られた。この白色結晶粉体の融点は252.1℃であった。また、この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた反応生成物が上記式(28)で示されるジ−4−t−ブチルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(DXHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ/ppm 1.23(36H,s)、3.18(8H,s)、7.02−7.05(8H,m)、7.20−7.24(8H,m)
31P−NMR(109MHz,DMSO−d6):δ/ppm −10.04
元素分析C4464(Mw 810.94)として、
計算値: C,65.17; H,7.95; N,3.45; P,7.64
実測値: C,65.30; H,7.89; N,3.47; P,7.61
<比較例1>
5.フェニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(PDHPP)の合成
5.1フェニルジクロロホスフェート(PDCP)の合成
コンデンサー及び温度計を備えた撹拌装置付4ツ口フラスコに、フェノール94.11g(1.00mol)、オキシ塩化リン459.99g(3.00mol)及び塩化亜鉛2.73g(0.02mol)を投入した。コンデンサーの上端に塩化カルシウム管を取り付けて空気中の水分が反応系内に混入しないようにした後、窒素雰囲気下で撹拌を開始し、マントルヒーターにて徐々に昇温させた。反応中は塩化水素ガスが発生するので、突沸しないように5時間かけて80℃まで加熱した。その後、反応生成物中にフェノールのピークが消失していることをGC及びHPLCで確認し、フラスコを減圧して反応生成物の蒸留精製を行った。減圧蒸留は反応生成物中の過剰なオキシ塩化リンを留去するために、留去温度34〜100℃、真空度50Torrにて蒸留を行い、291gのオキシ塩化リン(回収率95%)を得た。この反応生成物をさらに留去温度118〜120℃、真空度6Torrにて蒸留を行い、159.92g(0.76mol:収率75.8%)の無色透明液体を得た。得られた化合物の純度は99%以上(GC)であり、沸点は243℃/760Torrであった。この化合物のGC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z210)、得られた化合物は上記式(29)で示されるフェニルジクロロホスフェート(PDCP:Mw
210.98)であることが確認できた。
5.2 フェニルジヒドロゲンホスフェート(PDHP)の合成
コンデンサー及び温度計を備えた撹拌装置付4ツ口フラスコに、フェニルジクロロホスフェート159.92g(0.76mol)及び水341.1g(18.95mol)を投入した。撹拌開始後5時間加熱還流し、GCにてフェニルジクロロホスフェートのピークが消失していることを確認した後、反応液をエバポレータにて濃縮乾固して赤色粘凋液体を得た。この粘凋体をジクロロメタンでトリチュレーションを行うことにより固体を析出させた。この固体をジクロロメタンで洗浄及び乾燥することにより、110.85g(0.64mol:収率84.0%)の淡褐白色個体を得た。得られた化合物の純度は99%以上(HPLC)であり、融点は100.0℃であった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた化合物は上記式(30)で示されるフェニルジヒドロゲンホスフェート(PDHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 6.86−6.89(3H,m)、7.03−7.08(2H,m)
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ppm −4.10
5.3 フェニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(PDHPP)の合成
コンデンサー、側管付滴下漏斗及び温度計を備えた撹拌装置付4ツ口フラスコに、フェニルジヒドロゲンホスフェート110.85g(0.64mol)及びメタノール998gを投入した。側管付滴下漏斗には、あらかじめメタノール494gに溶解させたピペラジン86.14g(0.64mol)を投入した。撹拌開始後、室温にて1時間かけて滴下漏斗よりピペラジン溶液を滴下させ、滴下終了後に1時間さらに撹拌を続けたところ、白色綿状生成物が析出した。この生成物をメタノールで洗浄後、乾燥することにより157.41g(0.60mol:収率95.0%)の白色固体を得た。得られた化合物の純度は99%以上(HPLC)であるが、明確な融点を示さなかった。また、この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた化合物が上記式(31)で示されるフェニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(PDHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 3.19−3.20(8H,m)、7.01−7.10(3H,m)、7.23−7.29(2H,m)
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ppm −1.51
元素分析C1017P(Fw 260.23)として、
計算値: C,46.15; H,6.58; N,10.77; P,11.90
実測値: C,45.91; H,6.33; N,10.61; P,11.85
<比較例2>
6.p−トリルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(TDHPP)の合成
6.1 p−トリルジクロロホスフェート(TDCP)の合成
前記5.1のフェノールの代わりに、p−クレゾール108.14g(1.0mol)を用い、前記5.1と同様の操作を行うことにより、174.16gの黄色透明液体(0.77mol:収率77.4%)を得た。この化合物のGC/MSを測定したところ、得られた化合物の純度は98%以上であり、GC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z224)、上記式(32)で示されるフェニルジクロロホスフェート(TDCP:Mw
223.96)が得られたことが確認できた。
6.2 p−トリルジヒドロゲンホスフェート(TDHP)の合成
前記6.1に示された工程に続いて、前記5.2と同様の操作を行ったところ、116.48g(0.62mol:収率80.0%)の白色個体(融点98.7℃)を得た。得られた化合物の純度を確認したところ、純度は98%以上(HPLC)であった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた化合物が上記式(33)で示されるp−トリルジヒドロゲンホスフェート(TDHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 2.05(3H,s)、6.84−6.87(2H,m)、6.95−6.98(2H,m).
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ppm −3.89
6.3 p−トリルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(TDHPP)の合成
前記6.2に示された工程に続いて、前記5.3と同様の操作を行うことにより、152.83g(0.56mol,収率90.0%)の白色個体が得られた。得られた化合物の純度は99%以上(HPLC)であるが、明確な融点を示さなかった。また、この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた化合物が上記式(34)で示されるp−トリルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(TDHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 2.15(3H,s)、3.19(8H,s)、6.94−6.96(2H,m)、7.03−7.06(2H,m)
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ppm −0.87
元素分析C1119P(Fw 274.25)として、
計算値: C,48.17; H,6.98; N,10.21; P,11.29
実測値: C,48.00; H,7.06; N,10.21; P,11.21
<比較例3>
7.2,6−キシレニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(XDHPP)の合成
7.1 2,6−キシレニルジクロロホスフェート(XDCP)の合成
前記5.1のフェノールの代わりに、2,6−キシレノール122.16g(1.0mol)を用い、前記5.1と同様の操作を行うことにより、239.04gの褐色液体(1.0mol:収率100%)を得た。この化合物のGC/MSを測定したところ、得られた化合物の純度は95%以上であり、GC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z238)、上記式(35)で示される2,6−キシレニルジクロロホスフェート(XDCP:Mw
237.97)が得られたことが確認できた。
7.2 2,6−キシレニルジヒドロゲンホスフェート(XDHP)の合成
前記7.1に示された工程に続いて、前記5.2と同様の操作を行ったところ、87.93g(0.44mol:収率43.5%)の白色個体(融点139.0℃)を得た。得られた化合物の純度を確認したところ、純度は98%以上(HPLC)であった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた化合物が上記式(36)で示される2,6−キシレニルジヒドロゲンホスフェート(XDHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 2.16(6H,s)、6.84−6.89(1H,m)、6.94−6.96(2H,m).
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ppm −3.83
7.3 2,6−キシレニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(XDHPP)の合成
前記7.2に示された工程に続いて、前記5.3と同様の操作を行うことにより、111.23g(0.39mol,収率88.7%)の白色個体が得られた。得られた化合物の純度は99%以上(HPLC)であるが、明確な融点を示さなかった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた化合物が上記式(37)で示される2,6−キシレニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(XDHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 2.17(6H,s)、3.09(8H,s)、6.80−6.84(1H,m)、6.91−6.94(2H,m)
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ −1.75
元素分析C1221P(Fw 288.28)として、
計算値: C,50.00; H,7.34; N,9.72; P,10.74
実測値: C,49.91; H,7.29; N,9.69; P,10.61
<比較例4>
8.4−t−ブチルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(BDHPP)の合成
8.1 4−t−ブチルジクロロホスフェート(BDCP)の合成
前記5.1のフェノールの代わりに、4−t−ブチルフェノール150.22g(1.0mol)を用い、前記5.1と同様の操作を行うことにより、267.09gの褐色液体(1.0mol:収率100%)を得た。この化合物のGC/MSを測定したところ、得られた化合物の純度は95%以上であり、GC/MSスペクトルの分子イオンピークより(M:m/z266)、上記式(38)で示される4−t−ブチルジクロロホスフェート(BDCP:Mw
266.00)が得られたことが確認できた。
8.2 4−t−ブチルジヒドロゲンホスフェート(BDHP)の合成
前記8.1に示された工程に続いて、前記5.2と同様の操作を行ったところ、115.56g(0.5mol:収率50.2%)の黄色個体(融点96.2℃)を得た。得られた化合物の純度を確認したところ、純度は97%以上(HPLC)であった。この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果より、得られた化合物が上記式(39)で示される4−t−ブチルジヒドロゲンホスフェート(XDHP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 1.14(9H,s)、6.97−7.02(2H,m)、7.29−7.34(2H,m).
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ppm −3.73
8.3 4−t−ブチルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(BDHPP)の合成
前記8.2に示された工程に続いて、前記5.3と同様の操作を行うことにより、135.14g(0.43mol,収率85.1%)の白色個体が得られた。得られた化合物の純度は99%以上(HPLC)であるが、明確な融点を示さなかった。また、この化合物のH−NMR測定及び31P−NMR測定の結果、さらに下記の元素分析の結果より、得られた化合物が上記式(40)で示される4−t−ブチルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩(BDHPP)であることが確認できた。
H−NMR(300MHz,DO):δ/ppm 1.19(9H,s)、3.15(8H,s)、7.03−7.06(2H,m)、7.33−7.36(2H,m)
31P−NMR(109MHz,DO):δ/ppm −1.48
元素分析C1425P(Fw 316.33)として、
計算値: C,53.16; H,7.97; N,8.86; P,9.79
実測値: C,52.81; H,7.78; N,8.93; P,9.71
2.難燃性合成樹脂組成物の調製
前記の各合成例で得られた環状アミン塩を用いて難燃性合成樹脂組成物を調製した。難燃性合成樹脂組成物を構成する成分は、合成樹脂、及び難燃剤からなり、下記にそれぞれの成分を示す。この下記成分を表1及び表2に記載してある配合割合(重量部)に従って、各成分をドライブレンドした後、2軸押出機にて溶融混合して押出混練し、ストランドをカットしてペレット状難燃性樹脂組成物を得た。2軸押出機としては、(株)神戸製鋼所製の2軸押出機「KTX30型」(スクリュウ径30mm、L/D=37、ベント付き)を用いた。
(1)合成樹脂
住友ノーブレンAY564(住友化学(株)製、PP)
(2)難燃剤
DPHPP:ジフェニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩
DTHPP:ジ−p-トリルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩
DXHPP:ジ−2,5−キシレニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩
BDHPP:ジ−4−t−ブチルフェニルヒドロゲンホスフェートピペラジン塩
PDHPP:フェニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩
TDHPP:p−トリルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩
XDHPP:2,5−キシレニルジヒドロゲンホスフェートピペラジン塩
BDHPP:4−t−ブチルフェニルジヒドロゲンホスフェート ピペラジン塩
APP:エクソリットAP422(クラリアント社製 ポリリン酸アンモニウム)
cAPP:エクソリットAP462(クラリアント社製 メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム)
3.難燃性樹脂組成物の成形品の評価
前述で得られた難燃性合成樹脂組成物を用いて射出成形法により成形品を作製した。射出成形は、日精樹脂工業(株)製射出成形機「FE80S型」(型締圧80トン)を使用した。射出成形して種々の試験片を得た後、それらの試験片を23℃、50%RHの条件で48時間状態調整処理してから、それぞれ初期燃焼性評価、耐湿性評価及びブリード評価を行った。さらに、耐湿性試験後に再度燃焼性評価を行った。それらの結果を表1及び表2に示す。
なお、これらの評価方法は、具体的には以下の方法によって行った。
(1)燃焼性
燃焼性の評価は、UL94垂直燃焼試験法に準拠して、1.6mm(1/16inch)厚及び0.8mm(1/32inch)厚UL試験片を作成して燃焼試験を行った。UL94垂直燃焼試験の結果は、「V−0」、「V−1」、「V−2」、「不可」の4段階評価を行った。
(2)ブリード試験
2mm/3mm厚の黒色平板試験片(カーボンブラック1phr添加)を作成後に150℃、7日間加熱し、その後に試験片について23℃、50%Rhの条件で48時間のエージング処理を施した後、試験片表面への難燃剤等の染み出しの有無を目視観察した。なお、耐湿性試験の結果は、「○(染み出しが全くみられない)」、「△(若干の染み出しがみられる)」、「×(著しい染み出しがみられるか、もしくはブルーミングがみられる)」、「××(著しい染み出しがみられるか、もしくはブルーミングがみられ、なおかつ、試験片に亀裂がみられる)の4段階で評価を行った。
(3)耐湿性試験
1.6mm(1/16inch)厚及び0.8mm(1/32inch)厚のUL試験片を作成後に60℃、90%Rhの条件で30日間高湿度状態処理を施し、その後試験片について23℃、50%Rhの条件で48時間のエージング処理を施した後、試験片表面への難燃剤等の染み出しの有無を目視観察した。なお、耐湿性試験の結果は、「○(染み出しが全くみられない)」、「△(若干の染み出しがみられる)」、「×(著しい染み出しがみられるか、もしくはブルーミングがみられる)」の3段階で評価を行った。
難燃剤としてポリリン酸アンモニウム及び被覆ポリリン酸アンモニウムを単独で使用した場合には、難燃性、耐湿性、及びブリード耐性のすべてが実用上不十分であり、特にポリリン酸アンモニウムを単独使用した場合では、ブリード試験において試験片の亀裂発生が多数認められた(比較例5、6)。
また、難燃剤として芳香族リン酸モノエステルピペラジン塩を用いた場合は、若干のブリード耐性が上がるものの、耐湿性及び難燃性についてはポリリン酸アンモニウムとほぼ同様の結果であり、吸湿性が高いため、実用上使用に耐え得るものではないことが確認された(比較例1〜4)。
これに対し、難燃剤として芳香族リン酸ジエステルピペラジン塩を単独使用した場合には、ポリリン酸アンモニウムと同等の難燃性を付与できる上、さらに高度な耐湿性及びブリード耐性が付与されていることが確認された(実施例1〜4)。
一方、難燃剤として、ポリリン酸アンモニウム又は被覆ポリリン酸アンモニウムと芳香族リン酸エステル類(モノエステル、ジエステル)のピペラジン塩とを併用した場合、比較的少量の添加でも高度な難燃性を獲得することができた(実施例5〜10、比較例7〜14)。
しかしながら、このうちポリリン酸アンモニウム又は被覆ポリリン酸アンモニウムと芳香族リン酸モノエステルピペラジン塩とを併用した場合、いずれの場合においても成形後初期では高度な難燃性が付与されているものの、高湿度下における経時劣化に伴って外観不良及び難燃性の低下を引き起こした(比較例7〜12)。それに比べて、芳香族リン酸ジエステルピペラジン塩を併用する場合には、高度な難燃性に加えて、高耐湿性、さらに高ブリード耐性を発揮できることが確認された(実施例5〜10)。
但し、芳香族リン酸ジエステルピペラジン塩と被覆ポリリン酸アンモニウムの併用においては、若干被覆ポリリン酸アンモニウムの分散性に劣り、ブリード試験後にわずかに斑点模様がみられることがあるが、耐湿性試験後のUL94V試験では依然としてV−0ないしV−2の難燃性能を維持していた(実施例6、8)。
また、芳香族リン酸ジエステル、芳香族リン酸モノエステル及びポリリン酸アンモニウムを併用した場合においては、芳香族リン酸モノエステルの高い吸湿性によって、芳香族リン酸ジエステルのもつ耐湿性及びブリード耐性が阻害された(比較例13〜14)。

Claims (10)

  1. 1)アニオン成分である芳香族リン酸ジエステル及び2)カチオン成分である環状アミンから構成される芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩を含む難燃剤組成物であって、当該環状アミン塩が下記一般式(I)
    〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。nは1〜10の整数を示す。mは0〜9の整数を示す。lは1〜10の整数を示す。〕
    で表される、環状アミン塩を含む難燃剤組成物。
  2. 当該芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩において、
    下記一般式(II)
    〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
    で表されるA成分と、
    下記一般式(III)
    〔式中、Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。mは0〜9の整数を示す。〕
    で表されるB成分との構成比率が、イオン当量比でA成分/B成分=0.8/1.0〜1.0/1.2である、請求項1に記載の難燃剤組成物。
  3. 芳香族リン酸モノエステルの含有量が難燃剤組成物中1重量%以下である、請求項1に記載の難燃剤組成物。
  4. リン酸塩類の少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の難燃剤組成物。
  5. 請求項1に記載の難燃剤組成物及び樹脂成分を含む樹脂組成物であって、樹脂成分100重量部に対して当該芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩1〜100重量部を含む難燃性樹脂組成物。
  6. 請求項4に記載の難燃剤組成物及び樹脂成分を含む樹脂組成物であって、樹脂成分100重量部に対して当該芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩1〜50重量部、当該リン酸塩類1〜50重量部を含む難燃性樹脂組成物。
  7. 当該樹脂成分がポリオレフィン系樹脂である、請求項5又は6に記載の難燃剤樹脂組成物。
  8. 請求項5〜7のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形してなる難燃性樹脂成形品。
  9. 電気・電子部品、OA機器部品、家電機器部品、自動車用部品又は機器機構部品に用いられる、請求項8に記載の難燃性樹脂成形品。
  10. 下記一般式(I)
    〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。nは1〜10の整数を示す。mは0〜9の整数を示す。lは1〜10の整数を示す。〕
    で表される芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩を製造する方法であって、
    (1)下記一般式(IV)
    〔式中、R〜Rは、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
    で表される化合物を、アミンの存在下においてオキシハロゲン化リンと反応させることにより、
    下記一般式(V)
    〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
    で表される含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を合成する工程、
    (2)当該含ハロゲン芳香族リン酸エステル酸誘導体を加水分解させることにより、
    下記一般式(II)
    〔式中、R〜R10は、互いに同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。〕
    で表される芳香族リン酸ジエステルを合成する工程、
    (3)当該芳香族リン酸ジエステルに対し、下記一般式(VI)
    〔式中、Aは、1つ以上のイミノ基(−NH−)が少なくともアルキレン基と環状に結合してなる環状アミンを示す。Yはイミノ基を示す。Zは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基を示す。mは0〜9の整数を示す。〕
    で表される化合物を添加することによって、前記一般式(I)で表される化合物を合成する工程
    を含む、芳香族リン酸ジエステルの環状アミン塩の製造方法。
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