本発明はトナー粒子に含有される磁性体に特徴を有する磁性トナーに関するものであり、画像形成方法及び定着方法に関しては、従来公知の電子写真プロセスが適用でき、特に限定されるものではない。
本発明の磁性トナーによる作用効果の一つである静電オフセットとは定着時に熱的ではなく、静電的に定着フィルムに付着する現象である。従って、いわゆる低温定着性や耐高温オフセット性といったトナーの熱溶融特性を向上させるだけでは解決し得ない課題であり、帯電均一性の制御が重要となる。つまり、定着時の帯電性が均一であるほど、電荷の偏ったトナーの発生を抑制し、静電オフセットは発生しにくくなる。
また、耐久時の濃度の安定性に関しても、トナー帯電性の寄与は大きく、耐久初期と耐久後半で帯電性に差の少ないことが、画質安定化を達成するために重要となる。
トナーの帯電均一性を上げるためには、トナー間での材料の分散性を均一化することでトナー間でのばらつきを無くすことが重要となる。
磁性トナーの場合、特に磁性体の分散性が悪化すると、磁性体自体がトナーから露出し、トナーの帯電のリークポイントになり、トナー帯電性の不均一化を招くのに加え、その他の材料の分散性にも大きく影響を及ぼす。そのため、トナーの帯電性を均一化するためには、磁性体分散性の制御が非常に重要となる。
本発明者らは、磁性トナーに関する構成材料及び製造法に関して検討を進め、本発明の磁性トナーに使用するシラン化合物により表面処理された磁性体の、処理状態を制御することで、所望の耐静電オフセット性、耐久画像安定性を達成できることを見出した。
つまり、磁性体の表面処理状態を均一化することで、トナー間及びトナー中での磁性体の存在状態の均一化を推進し、これまでにないトナーの帯電均一性、帯電安定性を得ることで、本発明の耐静電オフセット性、耐久画像安定性を達成できることを見出した。
本発明のシラン化合物(以後「処理剤」とも呼ぶ)により表面処理された磁性体(以後「処理磁性体」ともいう)において、所望の分散性を達成するポイントは以下の2点であると本発明者らは考えている。
1つは、磁性体表面に存在する処理剤の縮合状態が均一であること、2つめはその処理剤が均一且つ十分に磁性体表面を被覆しており、処理状態にムラが無いことである。
このように2つのポイントを制御することで、本発明ではこれまでにない均一性を達成した処理磁性体を得ることが可能になったのである。
本発明では磁性体表面に存在する処理剤の分子量に着目した。
本発明では磁性体表面に存在するシラン化合物の状態を把握するために、テトラヒドロフランを用い、磁性体表面からシラン化合物を溶解させている。
よってテトラヒドロフランに溶解している成分は磁性体表面のシラン化合物であると考えられ、本発明においてはこのシラン化合物の状態をモニターし、制御している。
具体的にはテトラヒドロフランに分散し、25℃で3時間静置し、得られた上澄み液をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した分子量分布において、該シラン化合物に由来する成分に関し、分子量1000000以下の領域における分子量1000以上10000以下の成分の割合を70%以上に制御することで、所望の均一性を得ることができることが分かった。
テトラヒドロフラン(THF)は非プロトン性の極性溶媒であり、多くの有機化合物や高分子を溶解する溶媒である。
本発明では磁性体をTHFで溶出することで、磁性体表面に存在する処理剤をTHF中に溶解させることができる。この際、磁性体表面に存在する処理剤を十分に溶出させる条件としては磁性体を25℃で3時間溶出させることが必要であった。更に、溶出させた処理剤をGPCを用いて分析することで、処理剤の縮合状態を分子量でモニターし、所望の縮合状態を発見するに至った。
処理剤の縮合状態は疎水性の指標となり、一般に縮合が進むほど未反応のOH基が減少すると共に、嵩高くなるため、疎水性は高まる方向である。
一方で、嵩高くなった縮合物は磁性体表面を均一に被覆することが難しく、疎水性の高い部分と低い部分のムラが生まれ易い。逆に、低い縮合度の処理剤は均一被覆性の向上には有効であるものの、疎水性自体が低く、また、未反応のOH基も多くなる傾向にあり、十分な疎水性が得られない場合が多い。
また、本発明のトナーにおいては水系媒体中での製造方法が重要である。
これは、水系媒体中で製造することにより、本発明のトナーに使用される磁性体の表面処理の効果を顕著に得られるためである。
水系媒体中での製造方法としては、分散重合法、会合凝集法、溶解懸濁法、懸濁重合法等が挙げられるが、本発明のトナーは懸濁重合法で製造されることが、本発明の好適な物性を満たしやすく特に好ましい。
懸濁重合法とは、重合性単量体及び着色剤(更に必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤)を均一に溶解又は分散させて重合性単量体組成物を得る。その後、この重合性単量体組成物を分散安定剤を含有する連続層(例えば水相)中に適当な撹拌器を用いて分散し同時に重合反応を行わせ、所望の粒径を有するトナーを得るものである。この懸濁重合法で得られるトナー(以後「重合トナー」ともいう)は、個々のトナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、本発明の帯電均一性を推進するために有効な製造方法の1つである。
本発明のトナーは磁性酸化鉄を有する磁性体を含有するものであり、本発明のトナーの好適な製造法である懸濁重合法などの水系媒体中で製造する場合、疎水化処理した磁性体(以下、処理磁性体とも呼ぶ)であることが好ましい。疎水化処理磁性体を用いることにより、磁性体がトナー外部に露出を抑制し、製造安定性を増すことができる。疎水化処理磁性体は未処理の磁性体を表面処理して成るものであり、下記に本発明で用いることの出来る磁性体について説明する。
磁性体は、四三酸化鉄やγ−酸化鉄などの磁性酸化鉄を主成分とするものであり、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、珪素などの元素を含んでもよい。これら磁性体は、窒素吸着法によるBET比表面積が2.0m2/g以上30.0m2/g以下であることが好ましく、3.0m2/g以上28.0m2/g以下であることがより好ましい。
磁性体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、鱗片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形等の異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。
磁性体は、例えば下記の方法で製造することができる。第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHを7.0以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄粒子の芯となる種晶をまず生成する。
次に、種晶を含むスラリー状の液に前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを7.0以上11.0以下に維持し、空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粒子を成長させる。この時、任意のpH及び反応温度、攪拌条件を選択することにより、磁性体の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。
磁性体を表面処理する方法としては乾式と湿式の2種類がある。乾式にて表面処理をする場合、乾燥した磁性体にシラン化合物を投入し、気相中にて表面処理を行う。湿式にて表面処理を行う場合、乾燥させたものを水系媒体に再分散させる、又は、酸化反応終了後、酸化鉄を乾燥せずに別の水系媒体に再分散させて、シラン化合物による表面処理を行う。本発明に使用する磁性体はシラン化合物により気相中で表面処理(以下、乾式法とも呼ぶ)された磁性体であることが、本発明のトナー間の磁性体分散性の向上を達成するために好ましい。
この理由については、以下のように考えている。乾式法では、反応系内に水が少量しか存在しないため、シラン化合物に含まれる親水基と水とで水素結合を形成しにくい。よって、水が存在する湿式処理に比べ、磁性体表面との水素結合率が高くなり、より均一で効率的なシラン化合物による疎水化処理を行うことができる。
また、処理剤の親水基が水と水素結合を形成して水をトラップしたまま磁性体表面に吸着及び反応すると、親水基が未反応のまま処理磁性体表面に残る。親水基は水と馴染みやすいため、磁性体親水基が多く存在する場合、トナー製造時の磁性体の偏在にばらつきが生まれやすい。
乾式処理法はこうした水素結合に由来する不具合を防止できるため、本発明の処理磁性体に求められる処理剤の均一被覆による磁性体分散性の更なる向上を達成できるため、有利である。
次に、乾式処理の具体的な方法について例示する。乾式処理法には処理剤を揮発させて処理する方法、スプレードライヤーの如き装置を用いて噴霧する方法、ヘンシェルミキサー等の装置を用いてシェアをかけながら攪拌する手法がある。中でも、ヘンシェルミキサーの如き攪拌装置を用いて処理する手法が簡便且つ本発明が求める処理磁性体物性に制御しやすく、好ましい。そうした処理方法を用いる場合、未処理の磁性体を分散させながら上記水溶液を滴下した後さらに分散させることで、シラン化合物の加水分解物が表面に吸着した磁性体が得られる。
その後加熱によって縮合反応を進行させることで、疎水化処理した処理磁性体が得られる。
磁性体の表面処理に用いることが出来るシラン化合物としては、一般式(1)で示されるアルキルアルコキシシランが好ましい。中でも、アルコキシシランに加水分解処理を施して使用するのが好ましい。
RmSiYn (1)
[式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1から3の整数を示し、Yはアルキル基、ビニル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基などの官能基を示し、nは1から3の整数を示す。但し、m+n=4である。]
一般式(1)で示されるアルキルアルコキシシランとしては、例えば、ジエチルジメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、等を挙げることができる。
この中で、高い疎水性を磁性体に付与するという観点では、下記一般式(2)で示されるアルキルトリアルコキシシランを用いることが好ましい。
CpH2p+1−Si−(OCqH2q+1)3 (2)
[式中、pは2から20の整数を示し、qは1から3の整数を示す。]
上記式におけるpが2より小さいと、処理磁性体に疎水性を十分に付与することが出来ず、またpが20より大きいと疎水性は十分になるが、磁性トナー中の処理磁性体の存在状態を制御するのが困難となる。また、pは2以上4以下とすることで、疎水性を維持しつつも、アルキルトリアルコキシシランの嵩高さを抑え、立体的な障害を抑制しやすいため、磁性体表面処理の均一性を両立するのに好ましい。
qが3より大きいとアルキルアルコキシシランの反応性が低下して疎水化が十分に行われ難くなる。よって、qが1から3の整数(より好ましくは、1又は2の整数)を示すアルキルトリアルコキシシランを使用することが好ましい。
上記アルコキシシランを用いる場合、単独で処理する、或いは複数の種類を併用して処理することが可能である。複数の種類を併用する場合、それぞれのアルコキシシランで個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。
また、本発明に用いられるシラン化合物はアルコキシシランに加水分解処理を施したものであることが好ましい。一般式(1)で示されるシラン化合物の場合、加水分解を行うことでアルコキシ基部分が加水分解反応を起こし、以下の式(3)のような構造を形成する。
Yn−Si−(OH)m (3)
アルコキシシランを加水分解すると、式(3)のように、末端がOH基になるため、未処理の磁性体表面に存在するOH基との親和性が高まる。それにより処理剤が未処理の磁性体表面に吸着されやすくなるため、十分に表面を被覆でき、未処理部分が残り難くなる。
事前に加水分解を行わない場合の湿式処理では、表面処理工程時の加水分解と磁性体表面への吸着が並行して行われる。その場合、シラン化合物による磁性体の処理がばらばらに起こり、、処理状態のムラを招きやすい。事前に加水分解を行わない場合の乾式処理では、磁性体表面へのシラン化合物の吸着性に劣り、均一性も低い傾向にある。
また、アルコキシシランの加水分解は、例えば下記方法で行うことができる。
pHを4以上6以下に調整した水溶液にアルコキシシランを徐々に投入し、例えばディスパー翼などを用いて攪拌して均一に分散させ、所望の加水分解率となるように分散時間を調整し、加水分解を行う。高せん断を付与できる分散装置を用いた場合、アルコキシシランがエマルジョンを形成するためにアルコキシシランと水の接触面積が飛躍的に増加し、シロキサン率を低く維持した状態で加水分解率を増加させることができる。また、この時に加水分解時のpHを調整することも重要である。pHが高すぎる若しくは低すぎる場合、シラン化合物同士の縮合反応が進行してしまったり、加水分解がほとんど進行しなくなったりしてしまう。使用するアルコキシシランの種類によっては所望の加水分解率、シロキサン率に調整できるpH領域が異なるため、加水分解率、シロキサン率を測定しながら、適宜pHを調整する必要がある。このようにしてアルコキシシランを加水分解した水溶液を得る。
また、処理磁性体の処理剤であるシラン化合物は、アルコキシシランの加水分解率が70%以上であることが好ましく、80%以上であると更に好ましい。アルコキシシランの加水分解率の求め方、定義については後述する。
アルコキシシランを加水分解することで、上述したように処理剤と未処理の磁性体表面との親和性が高くなり、処理剤が磁性体の表面を均一に被覆しやすくなる。加水分解率を高めることによって上記親和性は高まる方向であり、処理の均一性と共に耐湿性が大幅に高まる傾向であった。本発明者らの検討の結果、アルコキシシランの加水分解率は70%以上であると処理剤の親和性が特に高まり、処理剤が均一に被覆することで高温高湿環境下で長期使用しても画像濃度が高いまま維持されるため、好ましい。アルコキシシランの加水分解率が80%以上であると、より一層の効果が期待できる。また、加水分解率の上限の制限はなく、加水分解率100%であっても、当然に本願の効果を奏するものである。
また、上記シラン化合物中の加水分解されたアルコキシシランのうち、シロキサンとして存在する割合(以下、シロキサン率ともいう。)は30%以下であることが好ましく、更に好ましくは20%以下である。ここでシロキサンとはケイ素−酸素−ケイ素結合を有する化合物を指す。シロキサン率の求め方、定義については後述する。
シロキサンは加水分解されたアルコキシシラン同士の縮合反応により生成するため、加水分解されたアルコキシシラン単体よりも嵩高い。そのため、磁性体表面を均一に処理するためにはシロキサン率を低く抑えることが重要であった。シロキサン率を40%以下とすると、処理磁性体表面に存在するシロキサン量を低く抑えることが出来るため、磁性体表面処理のムラが抑制される。その結果、磁性体と樹脂の密着性が向上し、高温高湿下での水分の吸収によるリークサイトを低減できるため、高温高湿下でのゴーストの抑制や耐久濃度が向上するため好ましい。
また、シラン化合物の分子量均一化による疎水度の均一化のためには、処理剤の加水分解工程や処理工程での磁性体表面への吸着も重要であるが、最終的に乾燥工程での熱処理条件の制御による分子量制御が重要となる。乾燥工程では、熱エネルギーにより上記式(3)におけるOH基が脱水縮合し、シロキサン結合が形成される。
一般に乾燥温度を高めると、縮合は進みやすく、低温ではゆるやかな反応となる。よって熱処理の温度を細かく制御することで、分子量をある程度上げると共に、未反応のシラン化合物を低減することが可能となる。
本発明においては乾燥温度を比較的高めで熱処理を行うことで縮合を所望の分子量範囲まで進める。所望の分子量まで縮合を進めた場合においても、未反応のシラン化合物が存在する場合は、疎水性が不足する部分が存在し、ムラが生まれ易い。
従来のように乾燥温度を一定のまま未反応のシラン化合物の低減を進めると、縮合が過度に進み所望の分子量分布でなくなる。その結果、表面処理状態にムラが生まれ易く、また凝集も進み易くなる。
未反応シラン化合物の低減を比較的低温で熱処理を行うことで、過度に縮合を進めず、且つ、熱処理による凝集を抑制できるため好ましい。
本発明においては、磁性体の製造工程において、シラン化合物の処理工程の後、熱処理工程を行う際に熱処理温度を120℃以上180℃以下で1時間以上6時間以下熱処理を行った後、50℃以上110℃以下で1時間以上10時間以下熱処理を行うことが好ましい。
より好ましくは120℃以上180℃以下で1時間以上4時間以下熱処理を行った後、50℃以上110℃以下で1時間以上6時間以下熱処理を行うことが好ましい。
更に好ましくは120℃以上180℃以下で1時間以上3時間以下熱処理を行った後、50℃以上110℃以下で2時間以上4時間以下熱処理を行うことが好ましい。
第1段目に120℃以上180℃以下の場合、磁性体の凝集を抑制しつつシラン化合物の縮合を進めることができる。
また第2段目の熱処理温度が50℃以上110℃以下の場合、過度に縮合を進めず、第1段目の縮合状態を比較的保持しつつ、未反応のシラン化合物を減少できるため、好ましい。
前述したように本発明における分子量1000以上10000以下の成分は縮合したシラン化合物であり、この領域に存在するシラン化合物は十分な疎水性を持ち、且つ過度に縮合が進んでいない状態であり、疎水性と均一な被覆を達成するために有効な成分であると考えられる。
更に一定の分子量帯に存在するシラン化合物の存在率を高めることで疎水性を揃えることができ、トナー間での磁性体の存在状態のばらつきを抑制できる。
本発明においては、分子量1000000以下の領域における分子量1000以上10000以下の成分の割合を70%以上に制御することで、処理剤自体の縮合状態を均一化し、疎水度のムラを低減すると共に、十分な疎水性を得ることができることが分かった。
このような処理剤の均一化と疎水化により、トナー粒子間で磁性体の分散性の偏りが無くなる。更にトナー粒子内においても磁性体の分散性が向上し、トナーからの露出が無いのは勿論のこと、磁性体が一部分に塊となって存在することによる帯電サイトのばらつきも無くなるため、トナーの帯電均一性が飛躍的に高まったものと考えられる。
また、本発明に用いられる磁性体は2.7(mol/L)の塩酸に分散し、25℃で1時間静置した際の上澄み液の波長338nmでの吸光度が3.0以下であるという特徴を有している。
この塩酸への溶出性は磁性体表面の均一被覆性を表す指標と考えられる。鉄原子の特性波長は338nm付近であるため、本発明の吸光度は塩酸中の鉄濃度に対応する。本来磁性体表面を処理剤で100%被覆している場合、水分子は処理剤を通過して磁性体母体に作用することはできないため、塩酸により鉄成分が溶け出されることはない。逆に処理剤の被覆が十分でない場合は水分子が磁性体母体に作用することができることを表すと考えられる。
よって、磁性体を塩酸溶解させた時に観察される波長338nmでの吸光度の強度は処理剤の未被覆部分から塩酸溶液が磁性体母体に作用して溶解された鉄の量を表し、未被覆部分の量に比例すると考えられる。
検討の結果、2.7(mol/L)の塩酸を用いて、25℃で1時間溶出することで、磁性体表面の処理剤による未被覆部量をモニターすることができることが分かった。この条件であれば、処理剤による磁性体の処理が十分でない場合であっても、磁性体の溶解が比較的ゆっくりと進行するため、未被覆部分の割合を見積もることができると考える。
鋭意検討の後、本発明においては処理剤の被覆性を高め、2.7(mol/L)の塩酸に分散し、25℃で1時間静置した際の上澄み液の波長338nmでの吸光度を3.0以下とすることで、本発明に必要な均一被覆性を得ることが可能となることを見出した。
吸光度が3.0以下の場合、未被覆部分を持った磁性体は極微量しか存在せず、トナー内部からの露出自体も僅かであると考えられ、所望の磁性体分散の均一性を得ることのできる処理剤の被覆率であることが分かった。
吸光度が3.0を超える場合、被覆されてない部分を持った磁性体が比較的多く存在することを表している。そのような磁性体はトナー中での偏在やトナーからの露出など、トナーの帯電均一性を乱す要因となり、所望の静電オフセット性や高温高湿環境下での帯電性を満たすことができない。
このように、処理磁性体表面に存在する処理剤の状態の均一化と十分な被覆性を兼ね備えることで、本発明に必要とされる良好な磁性体分散性が得られ、これまでにない帯電の均一化を図ることができるのである。
これにより、本発明のトナーは低温低湿環境下のような帯電のばらつきがおきやすい環境においても、均一な帯電を行うことができる。その結果、所望の耐静電オフセット性を得ることができると共に、高温高湿下のような帯電に不利な環境においても帯電能が高く、所望の画質を得ることができる。
本発明の磁性体表面に存在するシラン化合物の疎水性均一化と、処理の均一性を得るためのポイントは、処理剤の状態制御と乾燥工程での熱処理縮合による分子量均一化の推進である。
本発明においては、該磁性体の製造工程において、シラン化合物の処理工程の前に解砕処理を行うことが好ましい。処理工程での均一被覆性を達成するためには、処理工程前に磁性体の凝集を低減し、微分散性を高めることで処理剤の未被覆部を低減することが重要となる。具体的には処理工程前の未処理磁性体の解砕を行うことが本発明に必要な未処理磁性体へのシラン化合物による均一な被覆を達成するためには好ましい方法である。
即ち、処理工程の前工程として磁性体を解砕処理することで磁性体の凝集を抑制し、1次粒子での分散を促進できる。磁性体をこのように微分散させた状態で処理を行うことで、処理の均一性は飛躍的に高まり、処理剤の未被覆部の低減には非常に有効である。
解砕処理する方法としては、ジェットミル、衝撃式粉砕機、ピンミル、ハンマミル、メディアを用いたサンドミル、グレンミル、バスケットミル、ボールミル、サンドグラインダー、ビスコミルなどの解砕機がある。
また、処理磁性体の処理剤であるシラン化合物の加水分解率が80%以上であると更に好ましい。アルコキシシランの加水分解率は、後述する測定方法において求めた。
また、本発明の磁性トナーに用いられる磁性体をテトラヒドロフランに分散し、25℃で3時間静置し、得られた上澄み液をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した分子量分布において、分子量1000000以下の領域におけるシラン化合物に由来する成分に関し、分子量1000以下の割合が20%以下であることが好ましい。
分子量1000以下の割合が20%以下であることで、特に耐静電オフセット性の更なる向上が見られ、例えば低温低湿下での耐久試験後半においても耐静電オフセット性の悪化を防げることが分かった。この理由を本発明者らは次のように考えている。
分子量1000以下の処理剤を20%以下に減らすことは未反応の処理剤を低減し、本発明の磁性体の処理剤による均一被覆性と疎水性を更に高める効果があると考えられる。つまり、処理剤の未縮合に由来する疎水性の低い部分を低減し、処理剤のムラを無くすと共に、高い疎水性を得ることが可能となる。これによりトナー内部に存在する樹脂との親和性の低いサイトを低減することが可能となり、トナー内での分散性が向上する。これによりトナーの帯電サイトのばらつきを抑制し、耐久後半でも帯電の均一化が図れ、良好な耐静電オフセット性が得られたものと考えられる。
そのような磁性体の均一化により、トナー中での分散性は更に高まり、トナーの帯電均一性の高さから、低温低湿下でも安定した画質を提供でき、トナーのダメージによる均一性の劣化の進み易い耐久後半にも良好なカブリ性を維持できる。
本発明の磁性トナーは、結着樹脂を含有するものである。本発明の磁性トナーに用いられる結着樹脂としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂を用いることができ、これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。この中でも特にスチレンとアクリル系モノマーとの共重合体からなるスチレン−アクリル樹脂が現像特性の点で好ましい。
本発明では、処理磁性体以外に他の着色剤を併用しても良い。併用し得る着色剤としては、上記した公知の染料及び顔料の他、磁性又は非磁性の無機化合物が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケルなどの強磁性金属粒子、又はこれらにクロム、マンガン、銅、亜鉛、アルミニウム、希土類元素などを加えた合金、ヘマタイトなどの粒子、チタンブラック、ニグロシン染料/顔料、カーボンブラック、フタロシアニン等が挙げられる。これらもまた、表面を処理して用いることが好ましい。
本発明の磁性トナーには、帯電特性向上のために必要に応じて荷電制御剤を配合することが好ましい。荷電制御剤としては、公知のものが利用できるが、帯電スピードが速く、且つ一定の帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が特に好ましい。更に、トナーを後述するような重合法を用いて直接製造する場合には、重合阻害性が低く、水系分散媒体への可溶化物が実質的に無い荷電制御剤が特に好ましい。荷電制御剤のうち、ネガ系荷電制御剤として具体的には、サリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸などの芳香族カルボン酸の金属化合物、アゾ染料又はアゾ顔料の金属塩又は金属錯体、スルホン酸基又はスルホン酸塩基又はスルホン酸エステル基を有する重合体又は共重合体、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーン等が挙げられる。ポジ系荷電制御剤としては、四級アンモニウム塩、該四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物、グアニジン化合物、ニグロシン系化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。中でもスルホン酸基、スルホン酸塩基又はスルホン酸エステル基を有する重合体又は共重合体は極性が高く、懸濁重合法と組み合わせた場合に磁性トナー表面に存在させやすいため好ましい。
荷電制御剤を磁性トナーに含有させる方法としては、磁性トナー粒子内部に添加する方法と、懸濁重合により磁性トナーの製造を行う場合には、造粒前に重合性単量体組成物中に荷電制御剤を添加する方法が一般的である。また、水中で油液滴を形成し重合を行っている最中、又は重合後に荷電制御剤を溶解、懸濁させた重合性単量体を加えることによりシード重合を行い、磁性トナー表面を均一に覆うことも可能である。また、荷電制御剤として有機金属化合物を用いる場合は、磁性トナー粒子にこれら化合物を添加し、シェアをかけ混合・撹拌することにより導入することも可能である。
本発明の磁性トナーは高画質化のため、磁性トナーの重量平均粒径(D4)は3μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは4μm以上9μm以下である。また、トナー粒径が小さいものほど定着性は良好なものとなり、この観点からもトナー粒径は10μm以下であることが好ましい。
上記の理由から、重量平均粒径(D4)はある程度小さい方が好ましいが、重量平均粒径が3μm未満の場合、粉体としての流動性及び撹拌性が低下し、個々のトナーを均一に帯電させることが困難となることに加え、カブリの増大を招き好ましくない。
本発明の磁性トナーのガラス転移温度(Tg)は40.0℃以上70.0℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が40.0℃未満では保存安定性が低下すると共に、長期使用においてトナー劣化しやすく、70.0℃よりも高いと定着性が悪化する。よって、定着性と保存安定性、そして現像性のバランスを考えるとトナーのガラス転移温度は40.0℃以上70.0℃以下であることが好ましい。
本発明の磁性トナーは耐久現像性の更なる向上のためにコア−シェル構造を有している事が好ましい。これは、シェル層を有する事によりトナーの表面性が均一になり、流動性が向上すると共に帯電性が均一になるためである。
また、高分子量体のシェルが均一に表層を覆うため、長期保存においても低融点物質の染み出し等が生じ難く保存安定性が向上する。
このため、シェル層には非晶質の高分子量体を用いること好ましく、帯電の安定性と言う観点から酸価は5.0mgKOH/g以上20.0mgKOH/g以下である事が好ましい。
シェルを形成させる具体的手法としては、コア粒子にシェル用の微粒子を埋め込んだり、水系媒体中で磁性トナーを製造する場合はコア粒子にシェル用の微粒子を付着させ、乾燥させる事によりシェル層を形成させる事が可能である。また、溶解懸濁法、懸濁重合法においてはシェル用の高分子量体の親水性を利用し、水との界面、即ち、磁性トナー表面近傍にこれら高分子量体を偏在せしめ、シェルを形成することが可能である。さらには、所謂シード重合法によりコア粒子表面にモノマーを膨潤させ、重合することによりシェルを形成することができる。
シェルを形成する樹脂としては特に非晶質ポリエステルが上記効果が大きく発現され好ましい。
本発明に使用することができる非晶質ポリエステル樹脂は、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、あるいはその両者を適宜選択して使用することが可能である。
本発明に使用される非晶質ポリエステル樹脂は、アルコール成分と酸成分から構成される通常のものが使用でき、両成分については以下に例示する。
アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブテンジオール、オクテンジオール、シクロヘキセンジメタノール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノール誘導体などが挙げられる。
2価のカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸の如きベンゼンジカルボン酸またはその無水物、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きアルキルジカルボン酸またはその無水物、またさらに炭素数6から18のアルキルまたはアルケニル基で置換されたコハク酸もしくはその無水物、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸またはその無水物などが挙げられる。
さらに、多価アルコール成分としてグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、ノボラック型フェノール樹脂のオキシアルキレンエーテルの如き多価アルコールが挙げられ、多価酸成分としてトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸やその無水物等の多価カルボン酸が挙げられる。
上記非晶質ポリエステル樹脂の中では、帯電特性、環境安定性が優れておりその他の電子写真特性においてバランスのとれた前記のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましく使用される。この化合物の場合には、定着性やトナーの耐久性の点においてアルキレンオキサイドの平均付加モル数は2.0モル以上10.0モル以下であることが好ましい。
また、シェルを形成する高分子量体の数平均分子量(Mn)は2500以上20000以下が好ましく用いられる。
本発明に関わる磁性トナー粒子の製造において、重合性単量体組成物を構成する重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、その他のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等の単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で、又は混合して使用し得る。上述の単量体の中でも、スチレン又はスチレン誘導体を単独で、或いは他の単量体と混合して使用することが磁性トナーの現像特性及び耐久性の点から好ましい。
本発明の磁性トナー粒子を水系媒体中にて重合性単量体を重合して製造する手法にて製造する場合、使用出来る重合開始剤としては重合反応時における半減期が0.5時間以上30.0時間以下であるものが好ましい。また、重合開始剤の添加量は重合性単量体100質量部に対して0.5質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
具体的な重合開始剤例としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系又はジアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート等の過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
本発明の磁性トナー粒子の製造においては必要に応じて架橋剤を添加することが出来る。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.01質量部以上10.00質量部以下である。
ここで架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のような芳香族ジビニル化合物、例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート等のような二重結合を2個有するカルボン酸エステル、ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物、及び3個以上のビニル基を有する化合物が単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
本発明の磁性トナー粒子を懸濁重合法で製造する場合、上述のトナー組成物等を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、超音波分散機等の分散機に依って均一に溶解又は分散させた重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁する。この時、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望のトナー粒子のサイズとするほうが、得られるトナー粒子の粒径がシャープになる。重合開始剤添加の時期としては、重合性単量体中に他の添加剤を添加する時同時に加えても良いし、水系媒体中に懸濁する直前に混合しても良い。また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体又は溶媒に溶解した重合開始剤を加えることもできる。
造粒後は、通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行えば良い。
本発明の磁性トナー粒子を製造する場合には、分散安定剤として公知の界面活性剤や有機分散剤・無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤は、有害な超微粉を生じ難く、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れ難く、洗浄も容易でトナーに悪影響を与え難いため、好ましく使用できる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸三カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛、ヒドロキシアパタイト等の燐酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物が挙げられる。
これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して0.20質量部以上20.00質量部以下の量を用いることが好ましい。また、上記分散安定剤は単独で用いても良いし、複数種を併用してもよい。更に、重合性単量体100質量部に対して、0.0001質量部以上0.1000質量部以下の界面活性剤を併用しても良い。
これら無機分散剤を用いる場合には、そのまま使用しても良いが、より細かい粒子を得るため、水系媒体中にて該無機分散剤粒子を生成させて用いることができる。例えば、燐酸三カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウム塩が副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合による超微粒トナーが発生し難くなるので、より好都合である。
界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等が挙げられる。
上記重合性単量体を重合する工程において、重合温度は40℃以上、一般には50℃以上90℃以下の温度に設定される。
上記工程終了後、得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥することにより磁性トナー粒子が得られる。この磁性トナー粒子に、後述するような無機微粉体を必要に応じて混合して該磁性トナー粒子の表面に付着させることで、本発明の磁性トナーを得ることができる。また、製造工程(無機微粉体の混合前)に分級工程を入れ、磁性トナー粒子中に含まれる粗粉や微粉をカットすることも可能である。
本発明の磁性トナーは無機微粉体を有するものである。本発明で用いられる無機微粉体としては、シリカ、酸化チタン、アルミナなどが使用できる。シリカ微粉体としては、例えば、ケイ素ハロゲン化物の蒸気相酸化により生成されたいわゆる乾式法又はヒュームドシリカと称される乾式シリカ、及び水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカの両者が使用可能である。しかし、表面及びシリカ微粉体の内部にあるシラノール基が少なく、またNa2O、SO3 2-等の製造残滓の少ない乾式シリカの方が好ましい。また乾式シリカにおいては、製造工程において例えば、塩化アルミニウム、塩化チタン等他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによって、シリカと他の金属酸化物の複合微粉体を得ることも可能であり、それらも包含する。
本発明において無機微粉体は疎水化処理された物であることが、磁性トナーの環境安定性を向上させることができるため好ましい。
本発明に用いられる磁性トナーには、実質的な悪影響を与えない範囲内で更に他の添加剤、例えばポリフッ化エチレン粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末の如き滑剤粉末、あるいは酸化セリウム粉末、炭化ケイ素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末などの研磨剤、あるいは例えば酸化チタン粉末、酸化アルミニウム粉末などの流動性付与剤、ケーキング防止剤、また、逆極性の有機微粒子、及び無機微粒子を現像性向上剤として少量用いることもできる。これらの添加剤も表面を疎水化処理して用いることも可能である。
本発明の磁性トナーは、必要に応じてさらに他の外添剤(例えば荷電制御剤等)と混合して一成分現像剤として用いることができ、またキャリアと併用して二成分現像剤として用いることができる。二成分現像方法に用いる場合のキャリアとしては、従来知られているものがすべて使用可能であるが、具体的には、表面酸化又は未酸化の鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、希土類等の金属及びそれらの合金又は酸化物等の、平均粒径20μm以上300μm以下の粒子が好ましくは使用される。
次に、本発明の磁性トナーを好適に用いることのできる画像形成装置の一例を図1に沿って具体的に説明する。図1において、100は静電潜像担持体(以下、感光体とも呼ぶ)であり、その周囲に帯電ローラー117、トナー担持体102を有する現像器140、転写帯電ローラー114、クリーナー116、レジスタローラー124等が設けられている。静電潜像担持体100は帯電ローラー117によって例えば−600Vに帯電される(印加電圧は例えば交流電圧1.85kVpp、直流電圧−620Vdc)。そして、レーザー発生装置121によりレーザー光123を静電潜像担持体100に照射することによって露光が行われ、目的の画像に対応した静電潜像が形成される。静電潜像担持体100上の静電潜像は現像器140によって一成分トナーで現像されてトナー画像を得、トナー画像は転写材を介して静電潜像担持体に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像を載せた転写材は搬送ベルト125等により定着器126へ運ばれ転写材上に定着される。また、一部静電潜像担持体上に残されたトナーはクリーナー116によりクリーニングされる。
次に、本発明のトナーに係る各物性の測定方法に関して記載する。
(1)磁性体表面に存在する処理剤のGPC測定方法
本発明のような表面処理磁性体を溶媒に溶解することで磁性体表面に存在する処理剤のみを磁性体母体から剥離し、分子量の観察をすることができる。この際、溶媒としては磁性体母体を溶解せず、表面処理剤を剥離できる溶媒を選択する必要がある。
・サンプルの調整
ガラス製サンプル瓶にTHF5mlを秤量し、磁性体3.0gをに加え、発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、超音波分散を5分行い、3時間静置した。
静置後に得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マエショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:Shodex KF−801、802、803、804、805、806、807の7連(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:0.10ml
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F−850、F−450、F−288、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、A−500」、東ソ−社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
(2)磁性体の塩酸溶出測定法
ガラス製バイアルに2.7mol/L濃度の塩酸8g(分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤,和光純薬工業社製)0.16gを含む)に、磁性体1gを加え、発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、超音波分散を5分行う。その後25℃にて1時間静置した。
次に、磁性体以外の上澄み部分を抽出し、2.7mol/L濃度の塩酸で4倍に希釈した。希釈液の入った石英セルを分光光度計「MPS2000」(島津製作所社製)にセットし、10分間そのままの状態を維持して、透過率の変動が落ち着くのを待つ。10分経過したら、測定波長338nmの吸光度を測定する。
(3)シラン化合物の加水分解率測定方法
シラン化合物の加水分解率について述べる。アルコキシシランに加水分解処理を施すと、加水分解物と未加水分解物及び縮合物により構成される混合物が得られる。下記に述べるのは、得られる混合物中における加水分解物の比率である。この混合物は上述したシラン化合物に該当するものである。
まず、アルコキシシランの加水分解反応に関して、メトキシシランを例に取って説明する。メトキシシランが加水分解すると、メトキシ基がヒドロキシル基になると共にメタノールが生成する。したがって、メトキシ基とメタノールの量比から加水分解の進行度を知ることが出来る。本発明では、1H−NMR(核磁気共鳴)によって上記量比を測定し、加水分解率を求めた。メトキシシランを例として、具体的な測定及び計算手法を下記に示す。
まず、加水分解処理を施す前のメトキシシランの1H−NMR(核磁気共鳴)を重クロロホルムを用いて測定し、メトキシ基由来のピーク位置を確認した。その後、メトキシシランに対して加水分解処理を施してシラン化合物とし、未処理の磁性体に対して加える直前のシラン化合物水溶液をpH7.0、温度10℃にすることで加水分解反応を停止させた。得られた水溶液の水分を除去してシラン化合物の乾固物を得た。この乾固物に重クロロホルムを少量添加して1H−NMRを測定した(図2参照)。得られたスペクトルにおけるメトキシ基由来のピークは、予め確認したピーク位置を元に決定した。メトキシ基由来のピーク面積をAとし、メタノールのメチル基由来のピーク面積をBとして加水分解率を下式で求めた。
加水分解率(%)=B/(A+B)×100
なお、1H−NMRの測定条件は下記のように設定した。
測定装置 :FT NMR装置 JNM−EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数 :1024回
測定温度 :40℃
(4)処理磁性体のBET測定
BET比表面積の測定は、脱ガス装置バキュプレップ061(マイクロメソティック社製)、BET測定装置ジェミニ2375(マイクロメソティック社製)を用いて行った。本発明におけるBET比表面積は、多点法BET比表面積の値である。具体的には、以下のような手順で行う。
空のサンプルセルの質量を測定した後、処理磁性体を2.0g秤量して充填する。さらに、脱ガス装置に、試料が充填されたサンプルセルをセットし、室温で12時間脱ガスを行う。脱ガス終了後、サンプルセル全体の質量を測定し、空サンプルセルとの差から試料の正確な質量を算出する。次に、BET測定装置のバランスポートおよび分析ポートに空のサンプルセルをセットする。所定の位置に液体窒素の入ったデュワー瓶をセットし、飽和蒸気圧(P0)測定コマンドにより、P0を測定する。P0測定終了後、分析ポートに脱ガス調製されたサンプルセルをセットし、サンプル質量およびP0を入力後、BET測定コマンドにより測定を開始する。後は自動でBET比表面積が算出される。
(5)トナーの平均粒径及び粒度分布
本発明のトナーの重量平均粒径(D4)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出した。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
尚、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行った。
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
[1]Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
[2]ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
[3]発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
[4]前記[2]のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
[5]前記[4]のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
[6]サンプルスタンド内に設置した前記[1]の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記[5]の電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
[7]測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
(6)トナーのガラス転移点(Tg)測定
トナーのガラス転移点の測定には例えば、示差走査熱量計で測定を行い、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、磁性トナー10mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定範囲30℃以上200℃以下の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。この昇温過程で、温度40℃以上100℃以下の範囲において比熱変化が得られる。このときの比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点を、結着樹脂のガラス転移温度Tgとする。
(7)樹脂の酸価測定
酸価は試料1gに含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウムのmg数である。結着樹脂の酸価はJIS K 0070−1992に準じて測定されるが、具体的には、以下の手順に従って測定する。
・試薬の準備
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95vol%)90mlに溶かし、イオン交換水を加えて100mlとし、フェノールフタレイン溶液を得る。
特級水酸化カリウム7gを5mlの水に溶かし、エチルアルコール(95vol%)を加えて1lとする。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、ろ過して、水酸化カリウム溶液を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。前記水酸化カリウム溶液のファクターは、0.1モル/l塩酸25mlを三角フラスコに取り、前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した前記水酸化カリウム溶液の量から求める。前記0.1モル/l塩酸は、JIS K 8001−1998に準じて作成されたものを用いる。
・操作
(A)本試験
粉砕した樹脂の試料2.0gを200mlの三角フラスコに精秤し、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液100mlを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。尚、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときとする。
(B)空試験
試料を用いない(すなわちトルエン/エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)以外は、上記操作と同様の滴定を行う。
(3)得られた結果を下記式に代入して、酸価を算出する。
A=[(C−B)×f×5.61]/S
ここで、A:酸価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料(g)である。
以下、本発明を製造例及び実施例により更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、以下の配合における部数は全て質量部を示す。
<未処理磁性体の製造>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.0当量以上1.1当量以下の苛性ソーダ溶液、鉄元素に対してケイ素元素換算で1.5質量%のケイ酸ソーダを混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
水溶液をpH9.0に維持しながら、空気を吹き込み、80℃以上90℃以下で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH8.0に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、磁性酸化鉄を含むスラリー液を得た。このスラリーをろ過と洗浄を行った後、再びろ過をした。その後、解砕、乾燥を行い、未処理の磁性体を得た。
<シラン化合物1の調製>
イソブチルトリメトキシシラン10部をイオン交換水80部に対して撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度50℃に保持し、ディスパー翼を用いて0.46m/sで60分分散させて加水分解を行い、シラン化合物1を得た。このシラン化合物1の物性を測定したところ、加水分解率は90%であった。得られたシラン化合物1の物性を表1に示す。
<シラン化合物2乃至9の調製>
表1に記載するアルコキシシランを用い、加水分解率が所望の値となるよう、加水分解時間、水溶液のpH、温度を調整したこと以外はシラン化合物1の製造と同様にして、シラン化合物2乃至5、及び8、9を得た。シラン化合物6及び7は表1に記載するアルコキシシランを用い、加水分解を行わず、そのまま用いた。得られたシラン化合物2乃至9の物性を表1に示す。
<磁性体1の製造>
未処理の磁性体100部をボールミルにより解砕処理した後、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株):FM−10C)に入れ、周速34.5m/sで分散しながら、シラン化合物1を4部噴霧して加えた。そのまま10分間分散させた後、シラン化合物1が吸着した磁性体を取り出し、150℃で2時間、次いで100℃で4時間静置して、処理磁性体を乾燥すると共にシラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、目開き100μmの篩を通過した処理磁性体1として得た。この処理磁性体1の物性を測定したところ、GPC測定における分子量1000以上10000以下の割合が77%、塩酸溶出時の吸光度は1.5であった。また、処理磁性体1の個数平均粒径は0.24μm、磁場79.6kA/m(1000エルステッド)で着磁した時の磁化の強さ及び残留磁化が66.8Am2/kg(emu/g)、3.1Am2/kg(emu/g)であった。
得られた処理磁性体1の物性を表2に示す。
<磁性体2乃至5の製造>
磁性体1の製造において、シラン化合物、乾燥条件を表2に記載したように変更すること以外は処理磁性体1の製造と同様にして、処理磁性体2乃至5を得た。得られた処理磁性体2乃至5の物性を表2に示す。
<磁性体6の製造>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.0当量以上1.1当量以下の苛性ソーダ溶液、鉄元素に対してケイ素元素換算で1.5質量%のケイ酸ソーダを混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
水溶液をpH9.0に維持しながら、空気を吹き込み、80℃以上90℃以下で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH8.0に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、磁性酸化鉄を含むスラリー液を得た。
その後、スラリー液のpHを約5.0に調整する。そして、撹拌しながらn−ヘキシルトリメトキシシランカップリング剤を磁性酸化鉄100部に対し2.0部(磁性酸化鉄の量は含水サンプルから含水量を引いた値として計算した)添加し、加水分解を10時間行った。その後、pHを4.0に再調整し、加水分解を更に10時間進めた。その後、撹拌を十分行うと共にスラリーを循環させながらピンミルにて分散を行い、分散液のpHを8.6にしてカップリング処理を行った。
磁性体の疎水性を更に高めるため、さらに再度スラリー液のpHを約4.5に調整し、n−ヘキシルトリメトキシシランカップリング剤を磁性酸化鉄100部に対し1.0部加え、加水分解を10時間行った。その後、pHを4.0に再調整し、加水分解を更に10時間進めた。その後、撹拌を十分行うと共にスラリーを循環させながらピンミルにて分散を行い、分散液のpHを8.6にしてカップリング処理を行った。
生成した疎水性磁性体をフィルタープレスにてろ過し、多量の水で洗浄した後に70℃で3時間、100℃で5時間乾燥し、得られた粒子を解砕処理して個数平均粒径が0.22μmの処理磁性体6を得た。
<比較用磁性体1の製造>
磁性体1の製造において、シラン化合物7を用い、処理前に解砕を行わず、乾燥条件を表2に記載したように変更したこと以外は処理磁性体1の製造と同様にして比較用処理磁性体1を得た。得られた比較用処理磁性体1の物性を表2に示す。
<比較用磁性体2の製造>
比較用磁性体1の製造において、シラン化合物及び乾燥条件を表2に記載したように変更すること以外は比較用磁性体1の製造と同様にして、比較用磁性体2を得た。得られた比較用磁性体2の物性を表2に示す。
<比較用磁性体3の製造>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.0当量以上1.1当量以下の苛性ソーダ溶液、鉄元素に対してケイ素元素換算で1.5質量%のケイ酸ソーダを混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
水溶液をpH9.0に維持しながら、空気を吹き込み、80℃以上90℃以下で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH8.0に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化反応終期にpHを約4.8に調整する。そして、撹拌しながらn−ヘキシルトリメトキシシランカップリング剤を磁性酸化鉄100部に対し2.0部(磁性酸化鉄の量は含水サンプルから含水量を引いた値として計算した)添加し、加水分解を行った。その後、撹拌を十分行うと共にスラリーを循環させながらピンミルにて分散を行い、分散液のpHを8.6にしてカップリング処理を行った。生成した疎水性磁性体をフィルタープレスにてろ過し、多量の水で洗浄した後に100℃で3時間乾燥し、得られた粒子を解砕処理して比較用磁性体3を得た。
<磁性トナー1の製造>
イオン交換水720部に0.1モル/L−Na3PO4水溶液450部を投入して60℃に加温した後、1.0モル/L−CaCl2水溶液67.7部を添加して、分散安定剤を含む水系媒体を得た。
・スチレン 74.00部
・n−ブチルアクリレート 26.00部
・ジビニルベンゼン 0.52部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T−77:保土ヶ谷化学社製) 1.00部
・処理磁性体1 90.00部
・非晶質ポリエステル 3.00部
(ビスフェノールAのE.O.付加物とテレフタル酸との縮合反応により得られる飽和ポリエステル樹脂 Mn=5000、酸価=12mgKOH/g、Tg=68℃)
上記成分をアトライター(三井三池化工機(株))を用いて均一に分散混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を60℃に加温し、そこにパラフィンワックス(吸熱ピークトップ温度:77.2℃)15.0部を混合溶解した後、重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.5部を溶解させた。
上記水系媒体中に上記単量体組成物を投入し、60℃、N2雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて18.8m/sで10分間撹拌し、造粒した。
その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ0.5℃/分の速度で70℃まで昇温し、70℃に保持したまま5時間反応させた。その後、90℃に昇温し、2時間保持した後、0.5℃/分の速度で30℃まで徐々に冷却した。冷却後、塩酸を加えて洗浄した後に濾過・乾燥して磁性トナー粒子1を得た。
この磁性トナー粒子1を100部と個数平均1次粒径12nmの疎水性シリカ微粉体1.0部をヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))で混合し、重量平均粒径(D4)が7.5μmの磁性トナー1を得た。得られた磁性トナーを分析したところ、スチレン−アクリルにより構成される結着樹脂100部を含有していた。
<磁性トナー2乃至6の製造>
磁性トナー1の製造において、処理磁性体1の代わりに処理磁性体2乃至6を用いたこと以外は磁性トナー1の製造と同様にし、磁性トナー2乃至6を得た。これらの磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
<比較用磁性トナー1乃至3の製造>
磁性トナー1の製造において、処理磁性体1の代わりに比較用処理磁性体1乃至3を用いたこと以外は磁性トナー1の製造と同様にし、比較用トナー1乃至3を得た。これらの磁性トナーを分析したところ、結着樹脂100部を含有していた。
〔実施例1〕
トナー1を用いて以下の評価を行った。
[静電オフセット評価]
静電オフセットは、トナーの載った紙が定着器を通過する際、トナーが定着フィルムやローラーの如き定着部材側に静電気的に付着することにより発生する現象である。従って、低湿環境の如き帯電分布がブロードになりやすい環境下で、トナーを充填した後に出す最初の画像では、帯電が安定化しにくく、静電オフセットは発生しやすい。本体構成によっては定着時に定着フィルムにバイアスを印加させることで、定着フィルムへのトナー付着を抑制する機構があり、静電オフセットは大きく改善されるが、本発明においては装置によらない本質的な耐静電オフセット性の改良を主眼としている。
また、プロセススピードを増したマシンを使用することで、トナーの帯電にかけることのできる時間は短くなり、十分な帯電均一性を得る上では、非常に不利な条件となる。
これらのことを考慮して本発明のトナーを評価した。
キヤノン製レーザービームプリンタ:LBP3410を使用し、プロセススピードを210mm/secから263mm/secとなるように改造した。
次にLBP3410用カートリッジ「トナーカートリッジ510」にトナー1を詰め替えたのものを、上記設定のLBP3410を改造して定着時に定着フィルムに対して電圧が掛からない構成としたものに設置した。その後、低温低湿環境(15℃,10%)で24時間調温・調湿した。
その後、画像の前半半分がベタ黒、後半半分が白地の静電オフセット試験用チャートをA4紙(CS−680:68g/m2)で連続10枚の画出しを行い、目視にて耐静電オフセット性の評価を行った。これを初期静電オフセット評価とする。また、印字率4%の画像を6000枚出力し、その後上記と同様の耐静電オフセット性評価を行った。これを耐久後の静電オフセット評価とした。
なお、耐久前後の耐静電オフセット性の評価基準は以下のように定めた。
A:全くみられない。
B:白地部のごく一部にかすかにオフセット画像が現れる。
C:白地部の一部にオフセット画像が現れる。
D:白地部の広範囲にオフセット画像が現れる。
E:白地部にオフセット画像が著しく現れ、非常に劣った画像である。
[低温低湿環境下でのカブリ評価]
キヤノン製レーザービームプリンタ:LBP−3410を使用し、プロセススピードを210mm/secから263mm/secとなるように改造した。
次にLBP3410用カートリッジ「トナーカートリッジ510」にトナー1を詰め替えたのものを、上記設定のLBP3410を改造して定着時に定着フィルムに対して電圧が掛からない構成としたものに設置した。その後、低温低湿環境(15℃,10%)で24時間調温・調湿した。
次に白画像を出力して、その反射率を東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC−6DSを使用して測定した。一方、白画像形成前の転写紙(標準紙)についても同様に反射率を測定した。フィルターはグリーンフィルターを使用し、下記式にてカブリを算出した。
カブリ(反射率)(%)=標準紙の反射率(%)−白画像サンプルの反射率(%)
なお、カブリは得られたカブリ値の最大値を用いて以下の判断基準に従って評価した。これを初期かぶり評価とする。次に印字率4%の画像を6000枚出力した後に上記と同様にカブリを測定し、耐久後のカブリ評価とした。
カブリの評価基準
A:非常に良好(0.5%未満)
B:良好(0.5%以上1.5%未満)
C:並(1.5%以上2.5%未満)
D:劣る(2.5%以上)
[高温高湿環境下での現像性評価]
画像形成装置としてLBP3410(キヤノン製)を用い、プロセススピードを210mm/secから263mm/secとなるように改造した。
次にLBP3410用カートリッジ「トナーカートリッジ510」にトナー1を詰め替えたものを、上記設定のLBP3410(キヤノン社製)を改造して定着時に定着フィルムに対して電圧が掛からない構成としたものに設置した。その後、高温高湿環境下(32.5℃,80%RH)にて24時間調温・調湿した。
次に印字率が4%の横線を連続モードで6000枚画出し試験を行った。なお、記録媒体としてはA4の75g/m2の紙を使用した。通紙耐久前後に、印字紙全面にベタ画像部を形成したチャートを1枚ずつ出力し、このベタ画像をマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、反射濃度計にて測定を行った。評価は耐久初期の反射濃度と、耐久後の反射濃度を評価した。
○初期濃度の評価基準
A:耐久前の反射濃度が1.45以上である。
B:耐久前の反射濃度が1.40以上1.45未満である。
C:耐久前の反射濃度が1.35以上1.40未満である。
D:耐久前の反射濃度が1.35未満である。
○耐久後濃度の評価基準
A:耐久後の反射濃度が1.40以上である。
B:耐久後の反射濃度が1.35以上1.40未満である。
C:耐久後の反射濃度が1.30以上1.35未満である。
D:耐久後の反射濃度が1.30未満である。
トナー1は上記評価において、耐久前後での耐静電オフセット性、カブリ、濃度の全ての評価項目において良好な結果であった。
〔実施例2乃至6〕
実施例1と同様の評価をトナー2乃至トナー6に対し行い、結果を表3にまとめた。いずれの評価においても実用上問題ないレベルであった。
〔比較例1乃至3〕
実施例1と同様の評価を比較用トナー1乃至3に対し行い、結果を表3にまとめた。耐久前後での耐静電オフセット性、カブリ、濃度のいずれかの評価項目において実用上好ましくない結果であった。