JP2012001782A - 圧延銅箔 - Google Patents

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岳海 室賀
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聡至 関
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Abstract

【課題】広い温度範囲の熱処理を施した後でも優れた屈曲疲労寿命特性を発揮する圧延銅箔を提供する。
【解決手段】圧延銅箔は、銅(Cu)及び不可避的不純物に、添加元素として、チタン(Ti)と、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属と、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属を含んでいる。
【選択図】なし

Description

本発明は、圧延銅箔に係わり、特に、フレキシブルプリント配線板等に好適に用いられる圧延銅箔に関する。
フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)は、厚さが薄く可撓性に優れることから、電子機器等への実装形態における自由度が高い。そのため、折り畳み式携帯電話の折り曲げ部、デジタルカメラ、プリンターヘッド等の可動部、及びHard Disk Drive (HDD)、Digital Versatile Disc (DVD)、Compact Disk (CD)等、ディスク関連機器の可動部の配線等にFPCが用いられている。
従来、100〜500mass ppmの酸素を含有し、Ag、Au、Pd、Pt、Rh、Ir、Ru、Osの内の1種以上を、次式で定義したTが100〜400になる範囲で含有し、T=[Ag]+0.6[Au]+0.6[Pd]+0.4[Rh]+0.3[Ir]+0.3[Ru]+0.3[Os](ただし、[M]は元素Mのmass ppm濃度)、S、As、Sb、Bi、Se及びTeの合計量が30mass ppm以下であり、厚さが5〜50μmであり、200℃で30分間の焼鈍後の圧延面のX線回折で求めた200面の強度(I)が微粉末銅のX線回折で求めた200面の強度(I)に対し、I/I>20であり、120〜150℃の半軟化温度を有し、室温において継続して300N/mm以上の引張り強さを保持しているフレキシブルプリント回路基板用圧延銅箔が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1に記載のフレキシブルプリント回路基板用圧延銅箔は、上記構成を備えるので、優れた屈曲疲労寿命特性を発揮する。
特開2002−167632号公報
特許文献1に記載のフレキシブルプリント回路基板用圧延銅箔は、当該銅箔に含有されている酸素から酸化物が生成されると、当該酸化物が疲労破壊の起点になる場合があり、屈曲疲労寿命特性の向上には限界がある。
また、酸化物をほとんど含まない無酸素銅を用いた場合、無酸素銅自身が酸素を含有する(100〜500mass ppm)銅より軟化温度が高いため、使用できる軟化温度の最低条件程度である。しかしながら、特許文献1のような添加元素を用いると、更に銅の軟化温度が高くなってしまい、高温の条件においては好都合であるが、低温側の条件では全く使用できない。
また、無酸素銅に何も添加しない状態では、酸化物の影響が無いので低温の条件では、銅箔中で再結晶の進行が適正に進み良好な屈曲疲労寿命特性が得られるが、高温の条件では、銅箔中で再結晶が過剰に進行することにより屈曲疲労寿命特性が低下する場合があり、広い温度範囲の熱処理に対応できない。
本発明の目的は、広い温度範囲の熱処理を施した後でも優れた屈曲疲労寿命特性を発揮する圧延銅箔を提供することにある。
本発明は、銅(Cu)及び不可避的不純物に、添加元素として、チタン(Ti)と、面心立方構造以外の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属と、面心立方構造の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属とを含む圧延銅箔が提供される。
また、上記圧延銅箔は、0.002重量%以下の酸素を更に含んでもよい。
また、上記圧延銅箔において、添加元素のチタン(Ti)は、0.0005重量%以上0.003重量%以下であることが好ましい。
また、上記圧延銅箔において、面心立方構造以外の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属は、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)から選択される1種又は複数の元素であり、総量が0.01重量%以上0.25重量%以下で含まれることが好ましい。
また、上記圧延銅箔において、面心立方構造の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属は、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)から選択される1種又は複数の元素であり、総量が0.003重量%以上0.1重量%以下で含まれることが好ましい。
また、上記圧延銅箔は、20μm以下の厚さを有することが好ましい。
本発明に係る圧延銅箔によれば、広い温度条件の範囲で熱処理を施した後でも、安定して優れた屈曲疲労寿命特性を発揮する圧延銅箔を提供できる。
本発明の実施の形態に係る圧延銅箔の製造の流れを示す図である。 屈曲疲労寿命試験(摺動屈曲試験)の試験方法の概要を示す図である。
(実施の形態の要約)
本実施の形態に係る圧延銅箔は、銅(Cu)及び不可避的不純物に、添加元素として、チタン(Ti)と、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属と、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属とを含む。
(圧延銅箔の概要)
本実施の形態に係る圧延銅箔は、例えばフレキシブルプリント配線板等の可撓性配線部材に用いられる圧延銅箔である。具体的に、本実施の形態に係る圧延銅箔は、銅(Cu)及び不可避的不純物に、添加元素として、チタン(Ti)と、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属と、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属とを含んで構成される。そして、一例として、本実施の形態に係る圧延銅箔は、後述する圧延銅箔の製造工程の最終冷間圧延工程を経た後であって再結晶焼鈍を経る前に得られる圧延銅箔であり、例えばFPC用の圧延銅箔に用いることを目的として、50μm以下、好ましくは20μm以下の厚さを有して形成される。
(銅)
本実施の形態に係る圧延銅箔は、例えば無酸素銅又は無酸素銅に準ずる銅材を母材にして形成される。ここで、本実施の形態に係る「無酸素銅」とは、例えばJIS C1020で規定される無酸素銅、酸化銅(I)[CuO]、及び/又は残留脱酸剤を含まない銅99.96%以上の純度の銅である。なお、酸素含有量は完全にゼロであるわけではなく、数ppm(0.000数%)程度の酸素が、本実施の形態に係る無酸素銅に含まれることは排除されない。従って、本実施の形態に係る圧延銅箔は、一例として0.002重量%以下(すなわち、20ppm以下)の酸素を含んで形成される。なお、圧延銅箔中において酸化物が生成することを抑制すべく、酸素含有量を更に低減させることが好ましい。なお、無酸素銅に不可避的不純物、例えば硫黄(S)、リン(P)等が固溶することにより無酸素銅の軟化温度は上昇する傾向がある。一方、不可避的不純物(例えばS、P等)が所定の添加元素と反応して生成した化合物が無酸素銅中に存在すると、当該無酸素銅の軟化温度は低下する傾向がある。
(チタン(Ti))
チタンは、製造される圧延銅箔の軟化温度を低下、すなわち再結晶を低い温度から開始させる役割をする。ここで、チタンの添加量の上限を0.003重量%(30ppm)に設定した理由は、チタンが0.003重量%を超えると、母材としての銅へ固溶し始めることが実験で確認できたからである。すなわち、チタンは0.003重量%まで銅中の不可避的不純物と反応して化合物を生成するので銅中へは固溶しない。しかしながら、0.003重量%を超えると、銅中のチタンと反応する不可避的不純物がなくなるため、過剰のチタンは銅中に固溶し始める。また、チタンの添加量の下限を0.0005重量%(5ppm)に設定した理由は、実用上の観点から製造される圧延銅箔の軟化温度を適切な温度まで低下させることと、量産での制御可能な最低量のためである。
(面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属)
本実施の形態に係る面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属は、銅に固溶することで銅の結晶格子を歪ませて、製造される圧延銅箔の軟化温度を固溶前の銅の軟化温度より上昇させることが目的である。
銅の結晶格子を歪ませるためには、銅の結晶構造(面心立方構造)と異なる金属であれば原子半径が異なるため固溶すれば結晶格子に歪が生じるが、効果的に歪ませるためには、銅の結晶構造(面心立方構造)と異なる結晶構造の金属を用いる。例えば、スズ(Sn)は条件によって正方晶またはダイヤモンド構造(立方晶)、ジルコニウム(Zr)は条件により六方最密充填構造または体心立方構造、鉄(Fe)は体心立方構造、マグネシウム(Mg)は六方最密充填構造である。そして、当該圧延銅箔中には、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属が固溶していない圧延銅箔の軟化温度より、製造される圧延銅箔の軟化温度が上昇する量の、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属が含まれる。例えば、圧延銅箔中に含まれる面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属は、高い温度条件による熱処理(例えば、400℃×60分間の熱処理)によって製造される圧延銅箔の屈曲疲労寿命特性の低下の抑制を目的として、0.01重量%以上が好ましい。
また、圧延銅箔中に含まれる面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属は、低い温度条件による熱処理(例えば、200℃×60分間の熱処理)によって軟化、すなわち、再結晶が起こらないことによって、製造される圧延銅箔の屈曲疲労寿命特性が向上しないことのないように、0.25重量%以下(すなわち、100ppm以上2500ppm以下)であることが好ましい。
(面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属)
本実施の形態に係る上記結晶構造が、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属は、銅と異なる結晶構造の金属を銅に固溶させて銅の結晶格子を効果的に歪ませて、製造される圧延銅箔の軟化温度を固溶前の銅の軟化温度より上昇させることが目的であったが、本実施の形態に係る面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属は、銅の結晶格子の歪ませ方を補正する非常に重要な役割を持つ。具体的には、銅の結晶構造(面心立方構造)と異なる結晶構造の金属(面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属)を固溶させることは、格子を大きく歪ませるためには効果的であるが、大きく歪むだけでその歪み方は適正ではない。そこで、銅と同じ結晶構造を持ち銅と異なる金属、面心立方構造で原子半径が銅と異なる金属元素(面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属)を添加することで、結晶格子をバランス良く、かつ大きく歪ませることができる(これは、本件発明者らが得た知見である)。
本実施の形態に係る圧延銅箔は、無酸素銅又は無酸素銅に準ずる銅を母材として形成される。先ず、チタン(Ti)は、不可避的不純物、例えば硫黄(S)、リン(P)等との間で化合物を生成する。ここで、S、P等が母材に固溶すると、母材の軟化温度が上昇することが考えられるが、S、P等と硼素が化合物を生成することで、S、P等の母材への固溶を抑制できる。これにより、母材の軟化温度が上昇することを抑制できる。通常の無酸素銅の軟化温度が高い理由は、不可避的不純物であるS、P等が母材に固溶していることが大きな要因の一つであると考えられている。
本実施の形態に係る圧延銅箔においては、無酸素銅又は無酸素銅に準ずる銅の母材に、軟化温度を上昇させる機能を有する面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属と、チタンとを添加する機能目的とはそれぞれ反対の機能を付加することにある。すなわち、本発明の圧延銅箔は、軟化温度を上昇させる機能と低下させる機能の双方を有する。一見、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属と硼素による相反する機能で元の無酸素銅に近い軟化温度になるだけではないか(双方の機能が相殺されるだけ)と思われるが、本件発明者は、双方の機能が相殺されて最初の軟化温度に近い状態に戻るが、低い温度条件(無酸素銅の軟化温度程度)から高い温度条件までの広い温度条件範囲で、再結晶の進行が適正に進んで(過剰に進行することなく)、良好な屈曲疲労寿命が得られることを見出した(通常の無酸素銅は、高い温度条件においては再結晶の進行が過剰に進行してしまい、良好な屈曲疲労寿命特性が得られない)。これは、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属を添加して大きく歪んだ格子を、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属をさらに添加することで、大きく歪んだ状態でその歪み方を整え直すことに起因しているのではないかと考えられる。
以上をまとめると、表1のようになる。表1から、チタンと、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属と、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属の3種類が添加されたときに、低温条件から高温条件までの広い範囲で安定して良好な屈曲疲労寿命が得られる。表1において、○は良好、×は不良とした。
なお、面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属が、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)から選択される1種又は複数の元素で、総量が0.01重量%以上0.25重量%以下で含まれる圧延銅箔についても、同様の効果が確認された。また、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属が、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)から選択される1種又は複数の元素で、総量が0.003重量%以上0.1重量%以下で含まれる圧延銅箔についても、同様の効果が確認された。
(圧延銅箔の製造方法)
図1は、本発明の実施の形態に係る圧延銅箔の製造の流れの一例を示す。まず、原材料として、銅合金材の鋳塊を準備する(鋳塊準備工程:ステップ10、以下、ステップを「S」とする)。例えば、酸素含有量が2ppm以下の無酸素銅(例えば、JIS H3100、JIS C1020等)を母材として、所定量のチタン(Ti)と、所定量の面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属(例えば、スズ(Sn))と、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属(例えば、銀(Ag))とを含む銅合金材のインゴット(すなわち、鋳塊)を準備する。
次に、インゴットに熱間圧延を施して板材を製造する(熱間圧延工程:S20)。熱間圧延工程に続き、板材に冷間圧延を施す工程(冷間圧延工程:S32)と、冷間圧延された板材に焼鈍処理を施す工程(中間焼鈍工程:S34)とを所定回数、繰り返し実施する(S30)。なお、中間焼鈍工程は、冷間圧延が施された板材の加工硬化を緩和する工程である。これにより、「生地」と称される銅条(以下、「最終冷間圧延工程前の銅条」という場合がある)が製造される。
続いて、当該銅条に所定の焼鈍処理を施す(生地焼鈍工程:S40)。生地焼鈍工程は、生地焼鈍工程を経る前の各工程に起因する加工歪を十分に緩和することのできる熱処理、例えば略完全焼鈍処理を実施することが好ましい。続いて、焼鈍処理を施した「生地」(以下、「焼鈍生地」と称する)に対して冷間圧延を施す(最終冷間圧延工程(仕上げ圧延工程という場合もある):S50)。これにより、本実施の形態に係る所定の厚さを有する圧延銅箔が製造される。
なお、続いて、本実施の形態に係る圧延銅箔を、FPCの製造工程に投入することができる。この場合、まず、最終冷間圧延工程を経た圧延銅箔に対して、表面処理等を施す(表面処理等工程:S60)。次に、表面処理等が施された圧延銅箔は、FPCの製造工程に供給される(FPC製造工程:S70)。FPC製造工程を経ることにより、本実施の形態に係る圧延銅箔に表面処理等が施された圧延銅箔を備えるFPCを製造することができる。
FPC製造工程について概略を説明する。FPC製造工程、例えばFPC用の銅箔と、ポリイミド等の樹脂からなるベースフイルム(基材)とを貼り合わせてCopper Claded Laminate (CCL)を形成する工程(CCL工程)と、CCLにエッチング等の手法により回路配線を形成する工程(配線形成工程)と、回路配線上に配線を保護することを目的として、表面処理を施す工程(表面処理工程)とを含む。CCL工程は、接着剤を介して銅箔と基材とを積層した後、熱処理により接着剤を硬化して密着させて積層構造体(3層CCL)を形成する方法と、接着剤を介さずに表面処理が施された銅箔を基材に直接張り合わせた後、加熱・加圧により一体化して積層構造体(2層CCL)を形成する方法との2種類の方法を用いることができる。
ここで、FPC製造工程においては、製造の容易性の観点から冷間圧延加工が施された銅箔(すなわち、加工硬化した硬質な状態の銅箔)を用いることがある。これは、焼鈍されることにより軟化した銅箔は、当該銅箔を裁断した場合、又は基材に積層させた場合に変形(例えば伸び、しわ、折れ等の変形)しやすく、製品不良が発生する場合があるからである。
一方、銅箔の屈曲疲労寿命特性は、銅箔に再結晶焼鈍を施すと、銅箔に圧延加工を施した場合よりも著しく向上する。そこで、上述のCCL工程における基材と銅箔とを密着一体化させる熱処理においては、銅箔の再結晶焼鈍を兼ねる製造方法を採用することが好ましい。なお、再結晶焼鈍の熱処理条件は、CCL工程の内容に応じて変化させることができるものの、一例として、180℃以上400℃以下の温度で、1分間以上120分間以下の時間の熱処理を実施する。また、再結晶焼鈍は、CCL工程において実施される熱処理ではなく、別工程にて実施することもできる。斯かる温度条件の範囲内の熱処理により、再結晶組織を有する銅箔を製造できる。ここで、FPCにおいては、ポリイミド等の樹脂からなるベースフイルムの屈曲疲労寿命が銅箔の屈曲疲労寿命に比較して著しく長い。従って、FPC全体の屈曲疲労寿命は、銅箔の屈曲疲労寿命に大きく依存することになる。
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る圧延銅箔は、無酸素銅へのチタン(Ti)と、所定量の面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属(例えば、スズ(Sn))と、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属(例えば銀(Ag))との添加で最終的には軟化温度は、元の無酸素銅に近い程度になるが、低温の条件(例えば200℃×120分)から高温の条件(例えば400℃×60分)までの広範囲において優れた屈曲疲労寿命特性を発揮することができる。これにより、本実施の形態に係る圧延銅箔は、例えばCCL工程における様々な条件の熱処理に対応することができる。
また、本実施の形態に係る圧延銅箔は、上記のとおり優れた屈曲疲労寿命特性を発揮することができるので、当該圧延銅箔を用いてフレキシブルプリント配線板、その他の導電部材の可撓性配線に適用することができる。更に、本実施の形態に係る圧延銅箔は、無荷重における耐振動性や固定されていない状態における耐振動性等と屈曲疲労寿命特性との間である程度の相関性があると考えられている特性が要求される導電部材に適用することもできる。
次に、上記実施の形態に基づいて製造した実施例に係る圧延銅箔と、比較例に係る圧延銅箔とについて説明する。
実施例1〜6、及び比較例1〜6に係る圧延銅箔はそれぞれ、無酸素銅中の酸素濃度、添加したチタン(Ti)の量、添加したスズ(Sn)の量(面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属結晶構造が面心立方構造以外の金属で前記銅に固溶する元素結晶構造が面心立方構造以外の金属であって前記銅に固溶する金属)、添加した銀(Ag)の量(面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属)がそれぞれ異なる点を除き、すべて同様の工程を経て製造した。表2には、各圧延銅箔の組成を示す。なお、表2において、実施例1〜6、及び比較例1〜6に係る圧延銅箔のB、Sn、Agの量は分析値である。なお、実施例1〜6、及び比較例1〜6に係る圧延銅箔において、Bは、母材としてのCuに対する固溶量が最大で0.09重量%(すなわち、900ppm)であった。
(圧延銅箔の製造)
以下、実施例1に係る圧延銅箔の製造方法を代表例として説明する。まず、無酸素銅を母材にした主原料を溶解炉にて溶解した後、所定量の硼素(すなわち、実施例1において40ppmの量のB)と、スズ[面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属](すなわち、実施例1において110ppmの量のSn)と、銀[面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属](すなわち、実施例1において950ppmの量のAg)とをそれぞれ添加して、厚さ150mm、幅500mmの鋳塊を製造した(鋳塊準備工程)。次に、本実施の形態に係る圧延銅箔の製造方法にしたがって、鋳塊に熱間圧延を施して10mmの板材を製造した(熱間圧延工程)。続いて、板材に冷間圧延(冷間圧延工程)、及び焼鈍処理(中間焼鈍工程)を繰り返して「生地」を製造した。そして、「生地」に焼鈍処理を施した(生地焼鈍工程)。なお、生地焼鈍工程における焼鈍処理は、実施例1〜6、及び比較例1〜6のいずれも、約750℃の温度で約1分間保持することにより実施した。
次に、生地焼鈍工程を経た焼鈍生地に冷間圧延を施した(最終冷間圧延工程)。これにより、厚さが0.012mmの実施例1に係る圧延銅箔を作製した。実施例2〜6、及び比較例1〜6に係る圧延銅箔の製造方法も実施例1と同様である。
(屈曲疲労寿命試験)
図2は、屈曲疲労寿命試験(摺動屈曲試験)の試験方法の概要を示す図である。屈曲疲労寿命試験は、信越エンジニアリング株式会社製の摺動屈曲試験装置(型式:SEK−31B2S)を用い、IPC規格に準拠して実施した。摺動屈曲試験装置2は、圧延銅箔10を保持する試料固定板20と、圧延銅箔10を試料固定板20に固定するネジ20aと、圧延銅箔10に接触して圧延銅箔10に振動を伝達する振動伝達部30と、振動伝達部30を上下方向に振動させる発振駆動体40とを備える。
具体的に、実施例1〜6、及び比較例1〜6に係る圧延銅箔(なお、厚さ0.012mm)、すなわち12μm)のそれぞれから、幅12.7mm、長さ220mmの試験片を作製した後、当該試験片に200℃、120分間で再結晶焼鈍を施した。その後、屈曲疲労寿命試験を実施した。
また、実施例1〜6、及び比較例1〜6に係る圧延銅箔(なお、厚さ0.012mm、すなわち12μm)のそれぞれから、幅12.7mm、長さ220mmの試験片を作製した後、当該試験片に400℃、60分間の再結晶焼鈍を施した。その後、同様にして、屈曲疲労寿命試験を実施した。
屈曲疲労寿命試験の試験条件は、圧延銅箔の曲率Rが1.5mm、振動伝達部30の振幅ストロークが10mm、発振駆動体40の周波数が25Hz(すなわち、振幅速度が1500回/分)である。また、試験片の長さ220mmの方向、すなわち圧延銅箔10の長手方向は圧延方向になるようにした。測定は各試料について5回ずつ実施して、5回の実施結果の平均値を比較した。その結果を表3に示す。
表3を参照すると、実施例1〜6ではいずれも、低い温度条件の200℃×120分と高い温度条件400℃×60分との双方の条件において、2,008,000回〜2,740,000回と優れた屈曲疲労寿命回数が得られ、低い温度条件から高い温度条件までの広い範囲に対応している圧延銅箔であることが示された。
一方、比較例1に係る圧延銅箔では、低い温度条件(すなわち、200℃×120分)では2,700,000回と優れた屈曲疲労寿命回数が得られているが、Agの量が0.13重量%(すなわち、1300ppm)で1000ppmを超えており、Agが過剰に含有されているため、比較例1に係る圧延銅箔においては、高い温度条件(すなわち、400℃×60分)では再結晶の進行バランスが崩れて屈曲疲労寿命回数が1,410,000回と低い結果であった。Snによって大きく歪んだ銅の結晶格子のバランス補正のために入れたAgが適正量以上だったので、再結晶の進行に影響が生じたと考えられる。
また、比較例2に係る圧延銅箔では、低い温度条件(すなわち、200℃×120分)では1,633,000回、高い温度条件(すなわち、400℃×60分)では1,612,000回と共にやや低めな結果であった。これは酸素が過剰に含有されているため、比較例2に係る圧延銅箔中において酸化物が生成し、この酸化物が金属疲労の起点になったためと考えられる。
次に、比較例3に係る圧延銅箔では、低い温度条件(すなわち、200℃×120分)では578,000回と非常に低い屈曲疲労寿命回数である。これはスズ(Sn)の量が0.29重量%(すなわち、2900ppm)で2500ppmを大きく超えて含有されているため、軟化温度が高くなり過ぎたためである(軟化が不十分、再結晶が不十分)。また、比較例3に係る圧延銅箔において、高い温度条件(すなわち、400℃×60分)では十分に軟化(再結晶が適正に進行)して屈曲疲労寿命回数が2,237,000回と優れた結果であった。
次に、比較例4に係る圧延銅箔では、低い温度条件(すなわち、200℃×120分)では482,000回と非常に短い屈曲疲労寿命回数であった。これは、チタン(Ti)の量が0.005重量%(すなわち、50ppm)で30ppm以上になって所定量より多くなりすぎているため、チタンの一部が母相である銅に固溶し始めたため、軟化温度が上がり過ぎた結果である(軟化温度が上がり過ぎたため、低い温度の200℃×120分では軟化が不十分、すなわち、再結晶が不十分なためである)。一方、高い温度条件(すなわち、400℃×60分)では再結晶の進行が適正であり、屈曲疲労寿命回数は2,237,000回と優れた結果であった。
次に、比較例5に係る圧延銅箔では、低い温度条件(すなわち、200℃×120分)では2,594,000回と優れた屈曲疲労寿命回数が得られているが、スズ(Sn)の量が0.005重量%(すなわち、50ppm)で100ppm未満になっており、Snが不足しているため、比較例5に係る圧延銅箔においては、高い温度条件(すなわち、400℃×60分)では再結晶の進行が過剰に進行して屈曲疲労寿命回数が1,114,000回と低い結果であった。
次に、比較例6に係る圧延銅箔では、低い温度条件(すなわち、200℃×120分)では2,361,000回と優れた屈曲疲労寿命回数が得られているが、銀(Ag)の量が0.001重量%(すなわち、10ppm)で30ppm未満になっており、Agが不足しているため、比較例6に係る圧延銅箔においては、高い温度条件(すなわち、400℃×60分)では、Snによって大きく歪んだ銅の結晶格子はAgが適正量以下なのでバランスの補正が上手くできなかったため、再結晶の進行に影響が生じて、屈曲疲労寿命回数が104,000回と低い結果になったと考えられる。
(最適条件についての根拠)
酸素については、少ないほど酸化物生成が少なくなる(屈曲疲労寿命回数を短くする要因が少なくなる)。本発明では20ppm以下であれば問題ない結果が得られているが、10ppm以下の方が好ましく、5ppm以下であればさらに好ましい。
チタンについては、0.003重量%程度まで銅中の不可避的不純物と反応して化合物を生成するので銅中へは固溶しないが、0.003重量%(30ppm)程度を超えると、銅中のチタンと反応する不可避的不純物がなくなるため、過剰のチタンは銅中に固溶し始める。従って、チタンの含有量の上限は0.003重量%程度が好ましく、特に明確な閾値として表すことはできない。すなわち、上限値はおよそ0.003重量%であるという表現が適切である。一方、本発明では、チタンの添加量の下限を0.0005重量%(5ppm)に設定しているが、この値は実用上の観点から製造される圧延銅箔の軟化温度を適切な温度まで十分に低下させることと、量産での製造において制御可能な下限値の目安であり、下限値についても明確に0.0005重量%ということではなく、およそ0.0005重量%程度が好ましい。
面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属(スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg))については、下限値は100ppmで適正であるが、上限値の2500ppmについては、好ましくは2000ppm、さらに好ましくは1500ppm以下である。面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属(銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al))については、下限値の30ppmは、本添加元素の効果をより発揮させるためには、50ppm以上の方が好ましく、100ppm以上であればさらに好ましい。
(実施例の変形例1)
実施例1〜6の変形例1に係る圧延銅箔は、それぞれ面心立方構造以外の結晶構造を有し、銅に固溶する金属として、スズ(Sn)の代わりに、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)をそれぞれ添加して製造した。添加量は、0.1重量%以上0.25重量%以下である。例えば、変形例1に係る圧延銅箔は、スズ(Sn)の代わりにZrを0.02重量%添加した。その結果、実施例1〜6に係る圧延銅箔と同様に、優れた屈曲疲労寿命特性が得られた。
(実施例の変形例2)
実施例1〜6の変形例2に係る圧延銅箔はそれぞれ、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)からなる群から選択される複数の元素をスズ(Sn)の代わりに無酸素銅に添加して製造した。添加量は、0.1重量%以上0.25重量%以下である。例えば、変形例2に係る圧延銅箔は、スズ(Sn)の代わりに0.15重量%のNiと、0.02重量%のTiとを添加した。また、変形例2に係る他の圧延銅箔は、スズ(Sn)単体の代わりに0.1重量%のSnと、0.05重量%のMnを添加した。その結果、実施例1〜6に係る圧延銅箔と同様に、優れた屈曲疲労寿命特性が得られた。
(実施例の変形例3)
実施例1〜6の変形例3に係る圧延銅箔はそれぞれ、面心立方構造の結晶構造を有し、銅に固溶する金属として、銀(Ag)の代わりに金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)を添加して製造した。添加量は、0.03重量%以上0.1重量%以下である。例えば、変形例3に係る圧延銅箔は、銀(Ag)の代わりにニッケル(Ni)を0.05重量%添加した。その結果、実施例1〜6に係る圧延銅箔と同様に、優れた屈曲疲労寿命特性が得られた。
(実施例の変形例4)
実施例1〜6の変形例4に係る圧延銅箔はそれぞれ、結晶構造が面心立方構造の金属で前記銅に固溶する元素として、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)からなる群から選択される複数の元素を銀(Ag)の代わりに無酸素銅に添加して製造した。添加量は、0.03重量%以上0.1重量%以下である。例えば、変形例4に係る圧延銅箔は、銀(Ag)の代わりに0.03重量%のNiと、0.02重量%の白金(Pt)とを添加した。また、変形例4に係る他の圧延銅箔は、銀(Ag)単体の代わりに0.05重量%の銀(Ag)と、0.02重量%の金(Au)を添加した。その結果、実施例1〜6に係る圧延銅箔と同様に、優れた屈曲疲労寿命特性が得られた。
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
Figure 2012001782
Figure 2012001782
Figure 2012001782
2 摺動屈曲試験装置
10 圧延銅箔
20 試料固定板
20a ねじ
30 振動伝達部
40 発振駆動体

Claims (6)

  1. 銅(Cu)及び不可避的不純物に、添加元素として、チタン(Ti)と、面心立方構造以外の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属と、面心立方構造の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属を含むことを特徴とする圧延銅箔。
  2. 酸素が0.002重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の圧延銅箔。
  3. チタン(Ti)が0.0005重量%以上0.003重量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧延銅箔。
  4. 面心立方構造以外の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属が、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)から選択される1種又は複数の元素であり、総量が0.01重量%以上0.25重量%以下で含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧延銅箔。
  5. 面心立方構造の結晶構造を有し、前記銅に固溶する金属が、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)から選択される1種又は複数の元素であり、総量が0.003重量%以上0.1重量%以下で含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧延銅箔。
  6. 20μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧延銅箔。
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