JP2011232259A - 蛍光強度補正方法、蛍光強度算出方法及び蛍光強度算出装置 - Google Patents

蛍光強度補正方法、蛍光強度算出方法及び蛍光強度算出装置 Download PDF

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Abstract

【課題】複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、蛍光色素数によらず、全ての光検出器の測定データを有効に活用して、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出する技術の提供。
【解決手段】蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含む蛍光強度補正方法を提供する。
【選択図】図1

Description

本発明は、蛍光強度補正方法あるいは蛍光強度算出方法と蛍光強度算出装置に関する。より詳しくは、微小粒子に多重標識された複数の蛍光色素のそれぞれから発生する蛍光の強度を正確に算出するための蛍光強度補正方法等に関する。
従来、細胞等の微小粒子を蛍光色素を用いて標識し、これにレーザ光を照射して励起された蛍光色素から発生する蛍光の強度やパターンを計測することによって、微小粒子の特性を測定する装置(例えば、フローサイトメータ)が用いられている。近年では、細胞等の特性をより詳細に分析するため、微小粒子を複数の蛍光色素を用いて標識し、各蛍光色素から発生する光を受光波長帯域の異なる複数の光検出器(PMTなど)により計測するマルチカラー測定が行われるようになっている。マルチカラー測定では、各光検出器の受光波長帯域に蛍光波長が合致する蛍光色素がそれぞれ選択されて使用される。
一方、現在利用されている蛍光色素(例えば、FITC、PE(フィコエリスリン)、APC(アロフィコシアニン)など)は、蛍光中心波長が近接しており、蛍光スペクトルに互いに重複する波長帯域が存在する。従って、これらの蛍光色素を組み合わせてマルチカラー測定を行う場合、各蛍光色素から発生する蛍光を光学フィルタにより波長帯域別に分離しても、各光検出器には目的以外の蛍光色素からの蛍光が漏れ込むことがある。蛍光の漏れ込みが生じると、各光検出器で計測される蛍光強度が目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度よりも大きくなり、データにずれが生じる。
このデータのずれを補正するため、光検出器で計測された蛍光強度から漏れ込み分の蛍光強度を差し引く蛍光補正(コンペンセーション)が行われている。蛍光補正は、光検出器で計測された蛍光強度が、目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度となるように、専用回路上でパルスに電気的あるいは数学的な補正を加えるものである。
数学的に蛍光補正を行う方法として、各光検出器で計測された蛍光強度をベクトルとして表し、このベクトルに予め設定した漏れ込み行列の逆行列を作用させることで、目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度を算出する方法が用いられている(図10・11,特許文献1参照)。この漏れ込み行列は、単標識した微小粒子の蛍光波長分布を解析することによって作成されるものであり、各蛍光色素の蛍光波長分布が列ベクトルとして配列したものである。また、漏れ込み行列の逆行列は「補正行列」とも称される。
特開2003−83894号公報
補正行列を用いた蛍光補正方法では、各光検出器で計測された蛍光強度を要素とするベクトルに漏れ込み行列の逆行例を作用させるため、漏れ込み行列が正方行列であることが必要となる。
漏れ込み行列の行列サイズは、使用する蛍光色素と光検出器の数によって定まるため、補正行列が正方行列であるためには、蛍光色素の数と光検出器の数が等しくなければならない。図10・11には、5種類(FITC,PE,ECD,PC5,PC7)の蛍光色素と5つの光検出器を用いて5カラー測定を行う場合を例に示した。
近年では、細胞等の特性をより詳細に分析するため使用可能な蛍光色素数を増やしたいというユーザのニーズに応えるため、光検出器の数を増やした装置も開発されてきている。このような光検出器を多数配設した装置では、微小粒子の標識に使用する蛍光色素の数よりも、測定に使用する光検出器の数のほうが多くなる場合があり得る。この場合、補正行列を用いた蛍光補正を有効に適用するためには蛍光色素数と光検出器数が同数である必要があることから、全ての光検出器の測定データを用いることなく、蛍光色素数に一致する数の光検出器を適当に選択して測定データを利用している。このため、得られた測定データが有効に活用されていないという問題があった。
本発明は、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、蛍光色素数によらず、全ての光検出器の測定データを有効に活用して、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出する技術を提供することを主な目的とする。
上記課題解決のため、本発明は、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含む蛍光強度補正方法を提供する。
前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似は、最小二乗法を用いて行うことができる。また、このとき、前記検出値に無効な値が含まれる場合には、無効な検出値を除外して、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を行ってもよい。無効な検出値を除外することで、蛍光強度の補正精度を高められる。
具体的には、前記手順において、下記式で示される評価関数が最小値となるパラメータa(k=1〜m)を正規方程式や特異値分解などを用いて求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出できる。
(式中、X(x)は、k番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。また、yは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σは、i番目の光検出器の測定値に対する重みの逆数を表す。例えばi番目の光検出器の測定誤差分散などでもよく、もしそのような重みの逆数がなければ全て1としてもよい。)
また、前記検出値に無効な値が含まれる場合には、前記手順において、下記式で示される評価関数が最小値となるパラメータa(k=1〜m)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出できる。
あるいは、
(式中、X(x)は、k番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。また、yは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。ただし、無効な検出値をy(i=「N+1」〜N)、有効な検出値をy(i=1〜N)とする。)
また、本発明は、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る手順と、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似することにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する手順と、を含む蛍光強度算出方法を提供する。
さらに、本発明は、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段と、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似することにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する算出手段と、を備える蛍光強度算出装置をも提供する。
本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
また、本発明において、「無効な検出値」とは、明らかに信頼性の低い検出値であり、計算に用いると蛍光強度の算出精度を低下させる可能性がある検出値を意味する。例えば、ある蛍光色素を単標識した微小粒子の測定を行った場合にその蛍光色素の蛍光波長帯域外の波長を受光波長帯域とする光検出器で得られた検出値や、ある蛍光色素を単標識した微小粒子に励起波長帯域外の光を照射して測定を行った場合に光検出器で得られた検出値などが含まれる。これらの検出値は、理論上検出されないはずである。しかし、実際の装置では、機械的に遮蔽されているべき蛍光が漏れてきたり、電気的なノイズが印加されたりなどの理由によって、これらの検出値が得られてくる場合がある。また、何らかの理由により特定の光検出器の特性が悪化して、このような信頼性の低い検出値がえられてくることもある。
本発明により、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、蛍光色素数によらず、全ての光検出器の測定データを有効に活用して、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出する技術が提供される。
測定スペクトルを単染色スペクトルの線形和により近似して得られる近似曲線を説明するグラフである。 N×M行例Aの要素を説明する図である。 陽性プロセスコントロールのPE - PE-TR2次元プロット図である。(A)は蛍光補正前のプロット図、(B)は従来手法である逆行列法により蛍光補正処理を行ったプロット図、(C)は最小二乗法(正規方程式)にて蛍光補正処理を行ったプロット図、(D)は最小二乗法(SVD法)にて蛍光補正処理を行ったプロット図である。 細胞集団間の分離の良否を評価する指標の定義を説明する図である。 シミュレーション・データを従来手法である逆行列法により蛍光補正処理して得たプロット図である。 シミュレーション・データを本発明に係る最小二乗法を利用した方法により蛍光補正処理して得たプロット図である。 無効な検出値が含まれる測定スペクトルの例を示すスペクトログラムである。 図7に示した測定スペクトルから無効な検出値を除外したスペクトルを示すスペクトログラムである。 図7及び図8に示したスペクトルを、本発明に係る最小二乗法を利用した方法により蛍光補正処理し、分離の良否を比較した結果を示す図である。 従来の補正行列を用いた蛍光補正方法を説明する図である。 従来の補正行列の行列要素を説明する図である。
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。

1.蛍光強度補正方法
(1−1)近似曲線
(1−2)線形最小二乗法
(1−2−1)正規方程式
(1−2−2)特異値分解
2.蛍光強度算出方法
(2−1)標識
(2−2)測定
(2−3)蛍光強度算出
3.蛍光強度算出装置
1.蛍光強度補正方法
(1−1)近似曲線
本発明に係る蛍光強度補正方法は、測定スペクトルを単染色スペクトルの線形和により近似することにより、各蛍光色素からの真の蛍光強度を算出することを特徴とする。「測定スペクトル」とは、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られるものである。また、「単染色スペクトル」とは、各蛍光色素の蛍光波長分布であり、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を光検出器で受光し、検出値を収集して得られるものである。
図1に基づいて、測定スペクトルを単染色スペクトルの線形和により近似して得られる近似曲線について説明する。
図中、X軸は観測点を、Y軸は検出値を示す。図では、光検出器xで受光された蛍光の検出値をy、光検出器xで受光された蛍光の検出値をy、光検出器xで受光された蛍光の検出値をyで示している。各検出値y〜yを結ぶ線が測定スペクトルである。
また、図では、1番目の蛍光色素(蛍光色素1)の単染色スペクトルを表す曲線(基底関数)をX(x),2番目の蛍光色素(蛍光色素2)の単染色スペクトルを表す曲線をX(x),m番目の蛍光色素(蛍光色素m)の単染色スペクトルを表す曲線をX(x)で示している。
各光検出器では、蛍光色素1から蛍光色素mまでの全ての蛍光色素からの蛍光がそれぞれ所定比率で漏れ込んだ状態で受光される。そのため、各光検出器の検出値は、蛍光色素1から蛍光色素mまでの基底関数にそれぞれ所定比率を乗じた値の和として下記式(1)によって近似することができる。ここで、各光検出器への各蛍光色素からの蛍光の漏れ込み比率aは、各蛍光色素の発光強度(真の蛍光強度)により規定される。
具体的には、例えば、光検出器xの検出値yは、蛍光色素1の蛍光強度X(x)に比率aを乗じた値から蛍光色素mの基底関数X(x)に比率aを乗じた値までの和y(x)として近似される。そして、光検出器xへの蛍光色素1〜mからの蛍光の漏れ込み比率a(k=1〜m)は、蛍光色素1〜mの発光強度に相応する。
この式(1)で示される近似曲線は、次に説明する線形最小二乗法を用いてaを求めることにより得られる。このaは、各蛍光色素の真の蛍光強度に同等である。
(1−2)線形最小二乗法
を求めるため、まず、下記式(2)で示される評価関数(カイ二乗)を定義する。そして、この式(2)が最小値となるようなパラメータa(k=1〜m)を求める。
(式中、σは、i番目の光検出器の測定値に対する重みの逆数を表す。例えばi番目の光検出器の測定誤差分散などでもよく、もしそのような重みの逆数がなければ全て1としてもよい。)
(1−2−1)正規方程式
次に、下記式(3)の要素から構成されるN×M行例A(図2参照)と、長さNのベクトルb(下記式(4))を定義し、当てはめにより得たM個のパラメータa〜aを並べたベクトルをaとおく。
上記(2)式が最小値をとるのは、χをM個のパラメータaで微分した値がすべて0になるときである。
上記式(5)は、和をとる順番を換えると次式のような行列方程式(正規方程式)の形にできる。
ここで、[akj]はM×M行列、[β]は長さMのベクトルである。
従って、上記式(5)は、行列形で書くと次式のようになる。
式(9)は、m元連立一次方程式であり、これを解くことによってaが得られる。
(1−2−2)特異値分解
上記の正規方程式を用いた方法に替えて特異値分解により、M個のパラメータa〜aを並べたベクトルaを求めても良い。
特異値分解(SVD)とは、任意のN×M行列Aが、3個の行列U,W,Vの積の形(下記式(10))に書ける線形代数の定理に基いている。行列UはN×Mの列直交行列、行列WはM×Mの対角行列(対角成分wは非負で、特異値と称される)、行列VはM×Mの直交行列Vの転置である。また、行列U,Vは正規直交行列であり、各列が互いに正規直交である(下記式(11)参照)。
上記式(2)は、次式のように書きなおすことができる。
行列Aを特異値分解して、上記式(10)のように行列U,W,Vが得られたとき、式(12)を最小にするベクトルaは次式により求められる。この操作は、後退代入と呼ばれる。もし、wの中で十分に小さい値があれば、1/wを0と置き換えて処理を進める。
2.蛍光強度算出方法
次に、上述の蛍光強度補正方法を適用した本発明に係る蛍光強度算出方法について説明する。
(2−1)標識
始めに、測定対象とする微小粒子を複数の蛍光色素により標識する。蛍光色素の標識は、一般に、蛍光標識抗体を微小粒子の表面に存在する分子に結合させることにより行われる。蛍光色素としては、特に限定されないが、例えば、フィコエリスリン(PE)、FITC、PE−Cy5、PE−Cy7、PE−テキサスレッド(PE-Texas red)、アロフィコシアニン(APC)、APC−Cy7、エチジウムブロマイド(Ethidium bromide)、プロピジウムアイオダイド(Propidium iodide)、ヘキスト(Hoechst)33258/33342、DAPI、アクリジンオレンジ(Acridine orange)、クロモマイシン(Chromomycin)、ミトラマイシン(Mithramycin)、オリボマイシン(Olivomycin)、パイロニン(Pyronin)Y、チアゾールオレンジ(Thiazole orange)、ローダミン(Rhodamine)101イソチオシアネート(isothiocyanate)、BCECF、BCECF−AM、C.SNARF−1、C.SNARF−1−AMA、エクオリン(Aequorin)、Indo−1、Indo−1−AM、Fluo−3、Fluo−3−AM、Fura−2、Fura−2−AM、オキソノール(Oxonol)、テキサスレッド(Texas red)、ローダミン(Rhodamine)123、10−N−ノニ−アクリジンオレンジ(Acridine orange)、フルオレセイン(Fluorecein)、フルオレセインジアセテート(Fluorescein diacetate)、カルボキシフルオレセイン(Carboxyfluorescein)、カルビキシフルオレセインジアセテート(Caboxyfluorescein diacetate)、カルボキシジクロロフルオレセイン(Carboxydichlorofluorescein)、カルボキシジクロロフルオレセインジアセテート(Carboxydichlorofluorescein diacetate)などが挙げられる。
(2−2)測定
蛍光色素により標識した微小粒子を、受光波長帯域が異なる光検出器が蛍光色素の数よりも多く配設されたマルチカラー測定装置により測定し、各光検出器からの検出値を収集して測定スペクトルを得る。測定操作は、通常行われる方法と同様にして行うことができる。
(2−3)蛍光強度算出
測定スペクトルを、上述した方法に従って単染色スペクトルの線形和により近似し、各蛍光色素から発生した真の蛍光強度を算出する。このとき、光検出器における測定誤差分散が不明の場合には、上記式(2)中のσは全て1としてよい。単染色スペクトルは、測定の都度に各蛍光色素を個別に標識したサンプルを調製して取得してもよく、あるいは予め記憶された標準スペクトルを利用してもよい。
3.蛍光強度算出装置
本発明に係る蛍光強度算出装置は、従来のフローサイトメータ等と同様に流体系と光学系、分取系、データ処理系などから構成される。
流体系は、フローセルにおいて測定対象とする微小粒子を含むサンプル液をシース液の層流の中心に流し、フローセル内に微小粒子を一列に配列させる手段である。フローセルに替えて、マイクロチップ上に形成した流路内において、微小粒子を一列に配列させてもよい。
光学系は、蛍光色素により標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段である。光学系では、微小粒子から発生する前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光も検出される。光学系は、具体的には、レーザ光源と、微小粒子に対してレーザ光を集光・照射するための集光レンズやダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等からなる照射系と、レーザ光の照射によって微小粒子から発生する蛍光や散乱光を検出する検出系と、によって構成される。検出系は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって構成され、受光波長帯域の異なる光検出器が複数配設される。
微小粒子の分取を行う場合には、サンプル液を、微小粒子を含む液滴としてフローセル外の空間に吐出し、液滴の移動方向を制御して所望の特性を備えた微小粒子を分取する。分取系は、サンプル液を液滴化してフローセルから吐出させるピエゾ素子等の振動素子と、吐出される液滴に電荷を付与する荷電手段と、液滴の移動方向に沿って、移動する液滴を挟んで対向して配設された対電極などから構成される。
データ処理系は、光検出器から検出値を電気信号として入力され、電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を解析する。データ処理系は、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、上述した方法に従って単染色スペクトルの線形和により近似し、各蛍光色素から発生した真の蛍光強度を算出する。このため、データ処理系は、上述した本発明に係る蛍光強度算出方法の各ステップを実行するためのプログラムを記憶するハードディスク等の記録媒体と、プラグラムを実行するCPU及びメモリ等を有する。
市販のフローサイトメトリー用の陽性プロセスコントロール(全血コントロール検体)(Immuno-Trol、Beckman-Coulter社)の解析により得た測定データを、従来の逆行列を用いた蛍光補正方法と本発明に係る蛍光補正方法とによって処理し比較検討した。
Immuno-Trolの標識は、付属の添付書類に従ってFITC、PE、PE-TR、PE-Cy5の4種類の蛍光試薬により行った。FITC - SSC2次元プロット図でリンパ球と思われる細胞集団にゲートをかけたものを、PE - PE-TR2次元プロット図で表示したのが図3である。
図3(A)は、PE単染色スペクトルを測定したときにピークがあるPMT(CH15)を横軸に、PE-TR単染色スペクトルを測定したときにピークがあるPMT(CH19)を縦軸に取ったときの2次元プロット図であり、蛍光補正前のプロット図に相当する。
図3(B)は、従来手法である逆行列法により蛍光補正処理を行ったプロット図、図3(C)は最小二乗法(正規方程式)にて蛍光補正処理を行ったプロット図、図3(D)は、最小二乗法(SVD法)にて蛍光補正処理を行ったプロット図である。
各プロット図において、細胞集団間の分離の良否を評価する指標を、以下のように定義した。すなわち、プロット図でLogを取り、PEポジティブの細胞集団とPE-TRポジティブの細胞集団の中心座標と標準偏差をそれぞれ求め、お互いの中心間距離をD、各標準偏差をσ1、σ2とした(図4参照)。そして、計算式「(D-σ12)/ D」を、細胞集団間の分離を表す指標とした。この指標は、値が大きいほど細胞集団間の分離が良好であり、蛍光補正処理の性能が良好であることを意味する。
図3に示したPE-TR - PE2次元プロット図と、PE-Cy5 - PE2次元プロット図及びPE-Cy5 - PE-TR2次元プロット図における指標を、「表1」にまとめる。
全ての2次元プロット図において、逆行列法により蛍光補正処理を行ったプロット図に比べて、最小二乗法(正規方程式あるいはSVD法)にて蛍光補正処理を行ったプロット図で、指標が大きな値となっており、本発明に係る蛍光補正方法が良好な細胞集団の分離をもたらしていることが確認できる。
また、図5、6には、FITC, Alexa500, Alexa514, Alexa532, PE, PE-TR, PI, Alexa600, PE-Cy5, PerCP, PerCP-Cy5.5, PE-Cy7の12種類の蛍光試薬を使用したと仮定して、ノイズを含むスペクトル波形をランダムに発生させるシミュレーション・データを処理した2次元プロット図を示す。横軸には全てFITCを、縦軸には各グラフの上に書いてある蛍光色素を取ってある。図4は、従来方法である逆行列法、図5は本発明である最小二乗法を利用した方法で蛍光補正している。逆行列法では分離できていないプロットがあるが、本発明では全てのプロットが良好に分離できていることが分かる。
検出値に無効な値が含まれる測定データと無効な検出値を除外した測定データを、最小二条法を利用した蛍光補正方法によって処理し比較検討した。
図7は、無効な検出値が含まれる測定スペクトルの例である。
AF488, PE, PerCP-Cy5.5, PE-Cy7, PI, APC, APC-Cy7の7種類の単染色素スペクトルを測定したもので、ピークが1になるように正規化してある。横軸はPMT、縦軸は検出値を示しており、488nmレーザで励起された蛍光スペクトルの検出値は488Ch1〜32に、640nmレーザで励起された蛍光スペクトルの検出値は640Ch1〜32に、それぞれ表示してある。
640nmで励起される蛍光色素としては、PerCP-Cy5.5, PE-Cy7, APC, APC-Cy7があるが、それらは640Ch1〜20の検出器が感知する波長では理論上発光しないことが分かっている。また、AF488, PE, PIは640nmレーザでは全く励起されない。従って、図7中の640Ch1〜20に表れている波形はノイズであり、無効な検出値である。これらの無効な検出値を除外したスペクトルを、図8に示す。
図7及び図8に示したスペクトルを、最小二条法を利用した蛍光補正方法によって処理し、分離の良否を比較した結果を図9に示す。図中、「All Channel」は無効な検出値が含まれる測定データを処理した結果を、「Cut Ch1-20」は無効な検出値を除外したデータを処理した結果を示す。測定データから無効な検出値である640Ch1〜20の検出値を除外することにより、特にAPC-Cy7の分離が良くなっていることが分かる。
本発明に係る蛍光強度補正方法等によれば、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、蛍光色素数によらず、全ての光検出器の測定データを有効に活用して、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出できる。従って、本発明に係る蛍光強度補正方法等は、細胞等の微小粒子の特性をより詳細に解析するため寄与し得る。

Claims (9)

  1. 蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含む蛍光強度補正方法。
  2. 前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を最小二乗法を用いて行う請求項1記載の蛍光強度補正方法。
  3. 前記手順において、下記式で示される評価関数が最小値となるパラメータa(k=1〜m)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する請求項2記載の蛍光強度補正方法。
    (式中、X(x)は、k番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。また、yは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。)
  4. パラメータaを正規方程式あるいは特異値分解を用いて求める請求項3記載の蛍光強度補正方法。
  5. 前記検出値に無効な値が含まれる場合、前記手順において、無効な検出値を除外して、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を最小二乗法を用いて行う請求項1記載の蛍光強度補正方法。
  6. 前記手順において、下記式で示される評価関数が最小値となるパラメータa(k=1〜m)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する請求項5記載の蛍光強度補正方法。
    (式中、X(x)は、k番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。また、yは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。ただし、無効な検出値をy(i=「N+1」〜N)、有効な検出値をy(i=1〜N)とする。)
  7. 前記手順において、下記式で示される評価関数が最小値となるパラメータa(k=1〜m)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する請求項5記載の蛍光強度補正方法。
    (式中、X(x)は、k番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。また、yは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。ただし、無効な検出値をy(i=「N+1」〜N)、有効な検出値をy(i=1〜N)とする。)
  8. 蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る手順と、
    各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似することにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する手順と、を含む蛍光強度算出方法。
  9. 蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、蛍光色素の数よりも多く配設した、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段と、
    各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似することにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する算出手段と、を備える蛍光強度算出装置。

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