図1に本発明を適用した光情報処理装置の概略を示す。光情報処理装置は、複数種類の光学的記録媒体すなわち光ディスク等といわれる光記録媒体の情報の処理を行うものである。光記録媒体としてはCD、CD−R、DVD等、基板厚さや記録密度が異なる複数種類のものが挙げられる。
光記録媒体の情報の処理には、光記録媒体に記録されている情報の再生、光記録媒体への情報の記録等が含まれ、本形態の光情報処理装置100では、かかる再生、記録の両方を行うことが可能である。
光情報処理装置100は、光記録媒体10を回転操作するスピンドルモータ11と、光記録媒体10の情報の処理にあたり情報信号の記録再生を行うのに使用される光ピックアップ20と、光ピックアップ20を光記録媒体10の内外周に移動操作するための送りモータ12と、所定の変調及び復調処理を行う変復調回路13と、光ピックアップ20のサーボ制御などを行うサーボ制御回路14と、光情報処理装置100の全体の制御を行うシステムコントローラ15とを備えている。
スピンドルモータ11は、サーボ制御回路14により駆動制御され、所定の回転数で回転駆動される。記録再生の対象となる光記録媒体10は、スピンドルモータ11の駆動軸11a上にチャッキングされ、サーボ制御回路14により駆動制御されるスピンドルモータ11によって、所定の回転数で回転操作される。
変復調回路13は、システムコントローラ15及び外部回路16に接続されている。変復調回路13は、情報信号を光記録媒体10に記録するときには、システムコントローラ15による制御のもとで、光記録媒体10に記録する信号を外部回路16から受け取り、当該信号に対して所定の変調処理を施す。変復調回路13によって変調された信号は、光ピックアップ20に供給される。
変復調回路13は、情報信号を光記録媒体10から再生するときには、システムコントローラ15による制御のもとで、光記録媒体10から再生された再生信号を光ピックアップ20から受け取り、当該再生信号に対して所定の復調処理を施す。変復調回路13によって復調された信号は、変復調回路13から外部回路16へ出力される。
送りモータ12は、情報信号の記録及び再生を行うとき、光ピックアップ20を光記録媒体10の径方向の所定の位置に移動させるためのものであり、サーボ制御回路14からの制御信号に基づいて駆動される。すなわち、送りモータ12は、サーボ制御回路14に接続されており、サーボ制御回路14により制御される。
サーボ制御回路14は、システムコントローラ15による制御のもとで、光ピックアップ20が光記録媒体10に対向する所定の位置に移動されるように、送りモータ12を制御する。サーボ制御回路14は、スピンドルモータ11にも接続されており、システムコントローラ15による制御のもとで、スピンドルモータ11の動作を制御する。このように、サーボ制御回路14は、光記録媒体10に対する情報信号の記録及び再生時に、光記録媒体10が所定の回転数で回転駆動されるように、スピンドルモータ11を制御する。
光ピックアップ20は、光記録媒体10に対する情報信号の記録及び再生を行うとき、回転駆動される光記録媒体10に対してレーザ光を照射し、その戻り光を検出する。光ピックアップ20は、変復調回路13に接続されている。情報信号の記録を行う際には、外部回路16から入力され変復調回路13によって所定の変調処理が施された信号が光ピックアップ20に供給される。
光ピックアップ20は、変復調回路13から供給される信号に基づいて、光記録媒体10に対して、光強度変調が施されたレーザ光を照射する。また、情報信号の再生を行う際には、光ピックアップ20は、回転駆動される光記録媒体10に対して、一定の出力のレーザ光を照射し、その戻り光から再生信号が生成され、この再生信号が変復調回路13に供給される。
光ピックアップ20は、サーボ制御回路14にも接続されている。そして、情報信号の記録再生時に、回転駆動される光記録媒体10によって反射されて戻ってきた戻り光からフォーカスサーボ信号及びトラッキングサーボ信号が生成され、それらのサーボ信号がサーボ制御回路14に供給される。
図2は、本発明を適用した光ピックアップの概略構成図である。
本形態の光ピックアップ20は、CD、CD−R、DVD等、基板厚さや記録密度が異なる複数種類の光記録媒体10の再生、記録を行うものである。
光ピックアップ20は、第1の波長の光としての、波長が780nm帯域の第1のレーザ光L1を出射する第1の出射手段としての第1のレーザダイオード21と、第2の波長の光としての、波長が660nm帯域の第2のレーザ光L2を出射する第2の出射手段としての第2のレーザダイオード22とが共通パッケージに収納された2波長光源23を有している。
光ピックアップ20はまた、2波長光源23から出射された第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2を回折して3ビームを生成する波長選択性回折素子としての回折素子30と、回折素子30を通過した第1のレーザ光L1及び第2のレーザ光L2を光記録媒体10の記録面10aに集光させるための、これらレーザ光L1、L2に共通の光学系Loとを備えている。
光ピックアップ20はまた、光記録媒体10の記録面10aで反射された反射光であって共通光学系Loを通過した、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の戻り光Lr1、Lr2の光軸のずれを補正する光軸調整素子27と、戻り光Lr1、Lr2を受光するための受光手段としての共通受光素子28とを備えている。
2波長光源23としては、同一半導体基板上に2波長光源が形成されたモノリッシックタイプ、または、個別チップを組み込んだハイブリットタイプの何れかを採用することができる。
共通光学系Loは、出射レーザ光L1、L2とこれらの戻り光Lr1、Lr2とを分離する平板状のビームスプリッタ24と、ビームスプリッタ24によって導かれた出射レーザ光L1、L2を平行光化するコリメートレンズ25と、コリメートレンズ25を透過した出射レーザ光L1、L2を光記録媒体10の記録面10aに収束させる対物レンズ26とを有している。
このような構成の光ピックアップ20において、光記録媒体10としてのCD−Rから情報を再生等するときは、第1のレーザ光源21から、波長が780nmの第1のレーザ光L1を出射する。
第1のレーザ光L1は、回折素子30に入射することで共通光学系Loに進入し、ビームスプリッタ24、コリメートレンズ25を経た後、対物レンズ26によって、CD−Rの記録面10aに光スポットとして収束する。
記録面10aで反射した第1のレーザ光L1の戻り光Lr1は、対物レンズ26、コリメートレンズ25、ビームスプリッタ24、光軸調整素子27を介して共通受光素子28に集光し、共通受光素子28で検出された信号によりCD−Rの情報再生が行われる。
光記録媒体10としてのDVDに情報を再生等するときは、第2のレーザ光源22から、波長が660nmの第2のレーザ光L2を出射する。第2のレーザ光L2も、第1のレーザ光L2と同様に、回折素子30に入射することで共通光学系Loに進入し、対物レンズ26によってDVDの記録面10aに光スポットとして収束し、記録面10aで反射した第2のレーザ光L2の戻り光Lr2は、ビームスプリッタ24を介して共通受光素子28に集光する。共通受光素子28で検出された信号によりDVDの情報再生等が行われる。
回折素子30は、2波長光源23側に配設された第1の回折格子面31と、ビームスプリッタ24側に配設された第2の回折格子面32とを有しており、その両面に回折格子面が形成されたものとなっている。
回折素子30は、3ビーム法言い換えると3スポット法によりトラッキングエラー検出を行なうために、2波長光源23から出射された長波長780nmの第1のレーザ光L1および短波長660nmの第2のレーザ光L2の双方を回折して3ビームを生成するためのものである。
図3に示すように、第1の回折格子面31は、長波長側の780nmのレーザ光L1を角度αで回折し、短波長側の660nmのレーザ光L2を回折せずにそのまま透過させる。第2の回折格子面32は、逆に、長波長側の780nmのレーザ光L1を回折せずにそのまま透過させ、短波長側の660nmのレーザ光L2を角度βで回折する。
同図に示されているように、第1の回折格子面31に形成されている周期格子31aの格子ピッチP1と、第2の回折格子面32に形成されている周期格子32aの格子ピッチP2とは互いに異なっており、格子ピッチP2が格子ピッチP1より大きくなっている。
これらの回折角度α、βは、レーザ光L1の波長をΛ1、レーザ光L2の波長をΛ2とすると、格子ピッチP1、格子ピッチP2を用いて、下式を満足する値として求められる。
sin(α)=Λ1/P1
sin(β)=Λ2/P2
図4は、第1の回折格子面31に形成されている周期格子31aの方向と、第2の回折格子面32に形成されている周期格子32aの方向との関係を示している。同図(a)は回折素子30における第1の回折格子面31、第2の回折格子面32の配設位置を示しており、同図(b)、(c)は、同図(a)における第1の回折格子面31、第2の回折格子面32の図示位置に対応して、それぞれ第1の回折格子面31、第2の回折格子面32の周期格子31a、32aの形成態様を示している。なお、同図(a)において、符号d1、d2はそれぞれ、周期格子31a、32aの溝深さを示している。
同図(b)、(c)の対比から分かるように、周期格子31aの方向と、周期格子32aの方向とは、予め定めた所定の角度θをなしている。言い換えると、周期格子31aの方向に対する周期格子32aの方向は、光軸周りに角度θ傾いている。
この結果、第1の回折格子面31による長波長側のレーザ光L1の回折方向に対して、第2の回折格子面32による短波長側のレーザ光L2の回折方向は、光軸周りに角度θだけ傾いた方向になる。
この角度θは、異なる種類の光記録媒体におけるビームのスポット位置に合わせて設定される。
図5は、異なる種類の光記録媒体10を再生するためのレーザ光L1、L2のスポット位置を示す説明図であり、この図を参照して角度θの設定方法を説明する。
光記録媒体10の記録面10aにおける長波長のレーザ光L1の3ビームのスポット位置を、メインスポットL1Mと、メインスポットL1Mから上下方向及び左右方向においてずれた位置にあるとともにこれら両方向においてメインスポットL1Mを中心に対称に位置する第1のサブスポットL1Aおよび第2のサブスポットL1Bとする。
このとき、短波長側のレーザ光L2の3ビームのスポット位置は、メインスポットL1Mと重なり合うメインスポットL2Mとするとともに、メインスポットL2Mから上下方向及び左右方向においてずれた位置にあるとともにこれら両方向においてメインスポットL2Mを中心に対称に位置する第1のサブスポットL2Aおよび第2のサブスポットL2Bとなる。
そうすると、トラックピッチの違いにより、第1のレーザ光L1のサブスポットL1A、L1Bと、第2のレーザ光L2のサブスポットL2A、L2Bとは、光軸周りに角度θ傾いた位置とする必要がある。
この角度θは、周期格子31aの方向と、周期格子32aの方向とが光軸周りになす角度に一致するため、かかる角度がθとなるように、第1の回折格子面31、第2の回折格子面32が、回折素子30に形成されている。そのためには回折素子30の第1の回折格子面31あるいは第2の回折格子面32のいずれかの光軸周りの回転調整を行なえば足りる。
周期格子31aの方向と、周期格子32aの方向とが光軸周りになす角度をθに調整していることによって、回折素子30を透過した各レーザ光L1、L2は、それぞれ光記録媒体10の適切な位置に光スポットを形成する。
同様に、共通受光素子28の受光面に形成される3ビームのスポット形成位置の調整を行なうことができる。
図6は、異なる種類の光記録媒体10からの戻り光を受光する共通受光素子28の受光面を示している。同図に示すように、共通受光素子28は、受光面28a上に、図2に示した第1、第2の戻り光Lr1、Lr2を受光する、4分割型のメイン受光部33と、メイン受光部33を中心に対称に配設された2分割型の2つのサブ受光部34、35とを有する、分割型受光面を備えた差動プッシュプル式のものである。
第1の戻り光Lr1は、同図に示すように、3ビームとして、メイン受光部33に、メイン戻りスポットR1Mとして集光するとともに、サブ受光部34、35に、第1、第2のサブ戻りスポットR1A、R1Bとして集光する。第2の戻り光Lr2は、同図に示すように、3ビームとして、メイン受光部33に、メイン戻りスポットR2Mとして集光するとともに、サブ受光部34、35に、第1、第2のサブ戻りスポットR2A、R2Bとして集光する。
第1、第2の戻り光Lr1、Lr2は、メイン戻りスポットR1M、R2Mの中心を合わせると、光記録媒体10のトラックピッチの違いにより、第1のレーザ光Lr1のサブ戻りスポットR1A、R1Bを結ぶ直線に対して、第2のレーザ光のサブ戻りスポットR2A、R2Bを結ぶ直線が、光軸周りに角度θ傾いて受光面28a上に集光する。この角度θは、周期格子31aの方向と、周期格子32aの方向とが光軸周りになす角度に一致する。従って、回折素子30において、かかる角度をθとすることにより、戻り光Lr1、Lr2が受光面28a上にかかる態様で集光する。
また、図3に示した格子ピッチP1、P2は、回折角度α、βを左右するものである。これら回折角度α、βは、メインスポットL1M、L2Mと、第1のサブスポットL1A、L2Aおよび第2のサブスポットL1B、L2Bとの距離を左右するものである。またこれら回折角度α、βは、メイン戻りスポットR1M、R2Mと、第1のサブ戻りスポットR1A、R2Aおよび第2のサブスポットR1B、R2Bとの距離を左右するものである。
よって、光記録媒体10、共通受光素子28の所定の位置にサブビームが配されるように、各格子ピッチP1、P2が選択される。
光ピックアップ20に用いる回折素子30では、0次透過効率と1次回折効率との比(±1次回折光効率/0次光透過率)が0.05〜0.30程度の範囲の値をとるようになっている。
ここでCDとDVDに用いる回折素子30の回折効率が各波長の光で大きく異なると、共通受光素子28のゲイン調整が難しいこと、サブビームの光量が少なすぎてノイズが多くなり記録・再生特性が劣化することなどが起こる。また、サブビーム強度が高すぎると、メインビーム強度が低下するため記録するためのパワーが低下してしまうため、より高出力の半導体レーザが必要となる。またサブビームでディスクに記録してしまうことも生じ、記録特性が劣化することにもなる。
そこで、図4(a)に示した周期格子31a、32aの溝深さd1、d2が調整される。溝深さd1、d2と回折素子30の回折効率との関係は後述するが、溝深さd1、d2を選択することにより、0次透過効率と1次回折効率との比が上述の範囲に収められる。
なお、回折素子30は、第1の回折格子面31、第2の回折格子面32を一体に有した構成となっているが、第1の回折格子面31のみを備えた第1の回折素子と、第2の回折格子面32のみを備えた第2の回折素子とに分離した構成であってもよい。この構成では、上述の角度θを、第1の回折素子と第2の回折素子との光軸周りの回転によって、各回折格子の製造後に調整可能となる。
また第1の回折素子と第2の回折素子とに分離した構成では、これらを光ピックアップ20に組み込む際の位置調整等の調整を容易にするために、双方の回折素子を共通のホルダ等によって支持し、これより光軸回りに一体回転可能にするように構成することができる。またこのように分離した構成では、各回折格子面を対向配置させた構成としてもよい。
回折素子30、第1、第2の回折素子は何れも、光の波長に応じて回折特性の異なる光選択性回折素子である。
以下、本発明を適用した光選択性回折素子について説明する。
図7に示すように、光選択性回折素子40は、図7の紙面左右方向及び垂直方向に数mm角程度の大きさで延在し第1の波長λ1の光L2と第2の波長λ2の光L1とを透過する平板状の第1の基板としての基板43と、基板43の延在方向のうち図7における左右方向に沿って基板43に交互に配設された第1の材料によって形成された第1の部分である第1のサブ波長構造としてのサブ波長構造41と第2の材料によって形成された第2の部分である突状部42とを有している。
光L1、L2はそれぞれ第1、第2のレーザダイオード21、22から出射される第1、第2のレーザ光に相当し、波長λ1、λ2はそれぞれ上記の波長Λ2(=660nm)、Λ1(=780nm)に相当し、サブ波長構造41及び突状部42は第1の回折格子面31に相当する。
サブ波長構造41と突状部42とは、図7の紙面垂直方向にライン状をなす態様で互い違いに配設されており、波長λ1、λ2よりも大きい周期的構造を形成している。この周期すなわち回折格子の各格子周期は、波長λ1、λ2よりも十分に長い、たとえば20〜100μmである。
第1の材料は石英、第2の材料は高誘電体材であるTa205であり、互いに異なっているとともに、これらの屈折率も互いに異なっている。たとえば、波長λ1について石英、Ta205の屈折率はそれぞれ1.456、2.309であり、波長λ2について石英、Ta205の屈折率はそれぞれ1.454、2.261である。
基板43の材料も石英であり、透明基板となっている。基板43、突状部42の材料としては石英など、波長λ1、波長λ2間での屈折率差が0.005以下のものが好適であり、光学機器に使われる、屈折率が1.6以下の一般的なガラス材料(BK7など)、樹脂材料が使用可能である。
サブ波長構造41は、波長λ1、λ2よりも小さい、400nm以下のピッチの微細構造による周期的構造を有し、構造性複屈折を呈する。構造性複屈折とは、屈折率の異なる2種類の媒質を光の波長よりも短い周期でストライプ状に配設したとき、ストライプに平行な偏光成分であるTE波とストライプに垂直な偏光成分であるTE波とで屈折率が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
ここで、以下の説明のため、図8を参照して、サブ波長構造41のような断面矩形波状の微細凹凸構造の用語を説明する。この微細凹凸構造の凹凸は断面形状が矩形波形状であり、矩形波状の凹凸は図8の紙面に垂直な方向に均一な断面形状で形成されている。よって微細凹凸構造における凸部は図面に垂直な方向に長い凸条をなし、凹部は図面に直行する方向に長い凹条をなす。凸条をなす凸部をランドといい、凹条をなす凹部をスペースという。
断面矩形波状の微細凹凸構造のピッチPは、1対をなすランドとスペースのランド幅aとスペース幅bとの和である。またスペース底部に対するランドの高さを溝深さdとする。この溝深さdは上記溝深さd1、d2に相当する。
このとき、フィリングファクタfはa/Pで表される。フィリングファクタfが大きいことは、ピッチPに占めるランド幅aが大きいことを示す。
微細凹凸構造が、本形態のようにサブ波長構造であると、微細凹凸構造へ空気領域から入射する入射光において、ランド長手方向すなわち図8における紙面に垂直な方向に平行に振動する偏光成分であるTE成分と、微細凹凸構造の周期方向すなわち図8における左右方向に平行に振動する偏光成分であるTM成分とに対し、微細凹凸構造は屈折率が異なる媒質のように作用し、複屈折作用が発現する。
サブ波長構造41における有効屈折率を、TE成分についてn//、TM成分についてn⊥とすると、これらの有効屈折率すなわち任意の偏光方向の光がサブ波長構造41のような微細凹凸構造を通過するときに感じる屈折率は、サブ波長構造41が形成された材料の屈折率n、微細凹凸構造のフィリングファクタfを用いて次のように表される。
すなわち、サブ波長構造41の周期よりも大きい波長λ1、λ2を持つレーザ光L2、L1が垂直入射したと仮定すると、この入射光であるレーザ光L2、L1の偏光方向が、サブ波長構造41のスペース延在方向に平行なTE方向であるか垂直なTM方向であるかによって、サブ波長構造41の有効屈折率はそれぞれ上式1、2で与えられる。
また位相差ψは、次の式3で表される。
よって、位相差ψは、フィリングファクタf、溝深さdを適当に選択することで任意に調整可能であることが分かる。
図9に、Ta205で形成したサブ波長構造41に波長λ1の光L2を入射させた場合のフィリングファクタと、TE方向、TM方向の有効屈折率との関係を示す。この関係は上式1、2によって得られる。またすでに述べたように、Ta205自体の屈折率は波長λ1について2.309であり、これはフィリングファクタfが1の場合すなわちスペースが形成されていない場合に相当する。
図9に示されているように、入射光の偏光方向をサブ波長構造41のTE方向とTM方向との間で変化させることで、有効屈折率が上式1と上式2との間で変化する。
図10に、入射光の波長と屈折率との関係を、Ta205で形成したサブ波長構造41のフィリングファクタfが0.26のときのTE方向の有効屈折率と石英の屈折率とで比較した相関図を示す。
この条件においてサブ波長構造41のTE方向の有効屈折率は波長λ1で1.456、波長λ2で1.436であり、これらの差は0.024である。上述した、光学機器に使われる、屈折率が1.6以下の一般的なガラス材料(BK7など)等における波長λ1、λ2間での屈折率差が0.005以下であることと比べると、大きな屈折率差が生じていることが分かる。
その一方で、波長λ1におけるサブ波長構造41のTE方向の有効屈折率は1.456であって、石英の屈折率と実質的に等しい。なお、実質的に、とは、ここでは、光ピックアップ20、光情報処理装置100に用いたときに光学的に与える影響がないに等しいか否かを基準に判断する(本出願全体において同様)。
このように、サブ波長構造41の有効屈折率は、使用する材料の屈折率とフィリングファクタfによって変化させることが可能である。また、上式1から明らかなように、サブ波長構造41を形成した場合は、その有効屈折率は、その材料の屈折率より小さくなる。よって、サブ波長構造41で突状部42の屈折率と同等の有効屈折率を得るためには、サブ波長構造41を形成する材料の屈折率を突状部42を形成する材料の屈折率より大きくする必要がある。
以上のことを考慮して、光選択性回折素子40は、かかるTa205によって形成したサブ波長構造41と石英で形成した突状部42及び基板43とを備えている。サブ波長構造41と突状部42との周期で決まる回折格子の方向と、サブ波長構造41のサブ波長格子の方向は平行であり、入射光L1、L2の偏光方向はかかる回折格子及びサブ波長格子に平行なTE方向である。
サブ波長構造41のフィリングファクタfは0.26であり、有効屈折率は、波長λ1について1.456、波長λ2について1.436となっている。突状部42の屈折率は、波長λ1について1.456、波長λ2について1.436となっている。これらの条件下において、波長λ1についてのサブ波長構造41の有効屈折率と突状部42の屈折率とは実質的に互いに等しい。溝深さは図7に示したようにd1であり、上述のd1に相当する。
よって、サブ波長構造41の有効屈折率と突状部42の屈折率とは、波長λ1の光L2に対しては実質的に互いに等しいため、図7(a)に示したように波長λ1の光L2は回折を生じず0次光のみが生じる。
また、サブ波長構造41の有効屈折率と突状部42の屈折率とは、波長λ2の波長の光L1に対しては実質的に互いに異なるため、図7(b)に示したように波長λ2の波長の光L1は回折を生じ、0次光及び±1次光が生じる。なお、この±1次光は、図5に示した第1のサブスポットL1Aおよび第2のサブスポットL1B並びに図6に示した第1のサブ戻りスポットR1Aおよび第2のサブスポットR1Bの集光光に相当する。
図11に、ピッチPが0.3μm、フィリングファクタfが0.26であるサブ波長構造41を備えた光選択性回折素子40の、0次透過率及び1次回折効率の溝深さ依存性を、波長λ1、λ2によって比較して示す。ピッチPは図3等に示したピッチP1に相当する。
図11(a)から明らかなように、波長λ1においては上述のようにサブ波長構造41の有効屈折率と突状部42の屈折率とは実質的に差がないため、回折光が発生せず、1次回折効率は0である。
一方、波長λ2においては、図11(b)から明らかなように、サブ波長構造41の有効屈折率と突状部42の屈折率との差、および溝深さd1に依存して0次透過率及び1次回折効率が変化する。
これらのことから、光選択性回折素子40を使用する光学機器等のアプリケーションたとえば光ピックアップ20、光情報処理装置100の使用条件、すなわち、上述のように光ピックアップ20に用いる回折素子30では、0次透過効率と1次回折効率との回折比を0.05〜0.30程度の範囲とするようになっていることから、溝深さd1を、回折比がかかる値をとるように調整されている。
たとえば、図11(b)から分かるように、溝深さd1が5.5μmでは、波長λ2において、0次透過率0.86、1次回折効率0.06であることから、回折比は0.07となる。波長λ1では、0次透過率はほぼ1であり、±1次回折光及び高次回折光の回折効率は何れも0.5%以下である。よって、光選択性回折素子40は、溝深さd1を5.5μmとすれば、λ1、λ2の2波長で波長選択性のある回折機能が実質的に確保される。
図12に、本発明を適用した光選択性回折素子50を示す。光選択性回折素子50について、光選択性回折素子40と異なる部分について主に説明する。
光選択性回折素子40は、波長λ1の光L2については透過し、波長λ2の光L1については回折するものであるが、光選択性回折素子50は、波長λ1の光L2については回折し、波長λ2の光L1については透過するものである。
光選択性回折素子50は、サブ波長構造41に対応する、第3の材料によって形成された第3の部分である第2のサブ波長構造としてのサブ波長構造51と、突状部42に対応する、第4の材料によって形成された第4の部分である突状部52と、基板43に対応する、第2の基板である基板53とを備えている。
第3、第4の材料の選択、およびサブ波長構造51のフィリングファクタfの選択により、サブ波長構造51の有効屈折率と突状部52の屈折率とを適切に選択することにより、波長λ1の光L2については回折し、波長λ2の光L1については透過する特性が得られる。
かかる特性は、光選択性回折格子50が、波長λ1の光L2については回折格子として機能し、波長λ2の光L1については回折を行わずに直進透過することによって得られる。回折効率は、サブ波長構造51の溝深さd2やフィリングファクタf等の格子形状を変えることで調整され、回折光の角度はサブ波長構造51の格子ピッチPの大きさによって調整される。溝深さd2は、図3等に示したd2に相当し、格子ピッチPは図3等に示したピッチP2に相当する。サブ波長構造51及び突状部52は第2の回折格子面32に相当する。
図13に、入射光の波長と屈折率との関係を、Ta205で形成したサブ波長構造51のフィリングファクタfが0.27のときのTE方向の有効屈折率と石英の屈折率とで比較した相関図を示す。
この条件においてサブ波長構造51のTE方向の有効屈折率は波長λ1で1.474であり、波長λ2で1.454であり、これらの差は0.020である。上述した、光学機器に使われる、屈折率が1.6以下の一般的なガラス材料(BK7など)等における波長λ1、λ2間での屈折率差が0.005以下であることと比べると、大きな屈折率差が生じていることが分かる。
その一方で、波長λ2におけるサブ波長構造51のTE方向の有効屈折率は1.456であって、石英の屈折率と実質的に等しい。このように、サブ波長構造41の有効屈折率は、使用する材料の屈折率とフィリングファクタfによって変化させることが可能である。
以上のことを考慮して、光選択性回折素子50は、かかるTa205によって形成したサブ波長構造51と石英で形成した突状部52及び基板53とを備えている。サブ波長構造51と突状部52との周期で決まる回折格子の方向と、サブ波長構造51のサブ波長格子の方向は平行であり、入射光L1、L2の偏光方向はかかる回折格子及びサブ波長格子に平行なTE方向である。
サブ波長構造51のフィリングファクタfは0.27であり、有効屈折率は、波長λ1について1.474、波長λ2について1.454となっている。突状部52の屈折率は、波長λ1について1.456、波長λ2について1.454となっている。これらの条件下において、波長λ2についてのサブ波長構造41の有効屈折率と突状部42の屈折率とは実質的に互いに等しい。溝深さは図12に示したようにd2であり、上述のd2に相当する。
よって、サブ波長構造51の有効屈折率と突状部52の屈折率とは、波長λ1の波長の光L1に対しては実質的に互いに異なるため、図13(a)に示したように波長λ1の波長の光L2は回折を生じ、0次光及び±1次光が生じる。なお、この±1次光は、図5に示した第1のサブスポットL2Aおよび第2のサブスポットL2B並びに図6に示した第1のサブ戻りスポットR2Aおよび第2のサブスポットR2Bの集光光に相当する。
また、サブ波長構造51の有効屈折率と突状部52の屈折率とは、波長λ2の光L2に対しては実質的に互いに等しいため、図13(b)に示したように波長λ1の光L1は回折を生じず0次光のみが生じる。
図14に、ピッチPが0.3μm、フィリングファクタfが0.27であるサブ波長構造51を備えた光選択性回折素子50の、0次透過率及び1次回折効率の溝深さ依存性を、波長λ1、λ2によって比較して示す。ピッチPは図3等に示したピッチP2に相当する。
図14(a)から明らかなように、波長λ1においてはサブ波長構造51の有効屈折率と突状部52の屈折率との差、および溝深さd2に依存して0次透過率及び1次回折効率が変化する。
一方、波長λ2においては、上述のようにサブ波長構造51の有効屈折率と突状部52の屈折率とは実質的に差がないため、図14(b)から明らかなように、回折光が発生せず、1次回折効率は0である。
これらのことから、光選択性回折素子50を使用する光学機器等のアプリケーションたとえば光ピックアップ20、光情報処理装置100の使用条件、すなわち、上述のように光ピックアップ20に用いる回折素子30では、0次透過効率と1次回折効率との回折比を0.05〜0.30程度の範囲とするようになっていることから、溝深さd2を、回折比がかかる値をとるように調整されている。
たとえば、図14(a)から分かるように、溝深さd2が4.5μmでは、波長λ1において、0次透過率0.86、1次回折効率0.06であることから、回折比は0.07となる。波長λ2では、0次透過率はほぼ1であり、±1次回折光及び高次回折光の回折効率は何れも0.5%以下である。よって、光選択性回折素子50は、溝深さd2を4.5μmとすれば、λ1、λ2の2波長で波長選択性のある回折機能が実質的に確保される。
図15に、本発明を適用した光選択性回折素子60を示す。光選択性回折素子60は、光選択性回折素子40と光選択性回折素子50とを組み合わせて一体化したものであって、基板43と基板53とが共通化され基板63となっており、回折素子30に相当するものとなっている。光選択性回折素子40、光選択性回折素子50はそれぞれ、回折素子30を分離した上述の第1の回折素子、第2の回折素子に相当する。
基板63は、基板43と基板53とが共通化されていることから、基板43を透過した光を基板53によって透過する構成と同様のものとなっている。その他、光選択性回折素子40、光選択性回折素子50に備えられた構成、光L1、L2の偏光方向等については同じ符号を付して説明を省略する。
光選択性回折素子60は、同図(a)に示すように、波長λ1の光L2については、サブ波長構造41と突状部42との部分では回折し、サブ波長構造51と突状部52との部分では透過する。すなわちサブ波長構造41と突状部42との部分のみが回折格子として機能する。
一方で、光選択性回折素子60は、同図(b)に示すように、波長λ2の光L1については、サブ波長構造41と突状部42との部分では透過し、サブ波長構造51と突状部52との部分では回折する。すなわちサブ波長構造51と突状部52との部分のみが回折格子として機能する。
このように、光選択性回折素子60では、複合化された1つの素子で、2種の波長λ1、λ2に対して、それぞれ独立に回折素子として機能するようになっている。よって、回折素子30として用いることができるものである。
以上、回折素子30、第1、第2の回折素子、光選択性回折素子40、50、60について説明したが、これらについては種々の変形が可能である。
すなわち、波長λ1を660nm、波長λ2を780nmとし、2波長に着目して説明してきたが、他の波長であってもよい。入射光の波長は、可視光領域から赤外光領域すなわち300〜1600nmの範囲内とされる。図10、16から明らかなように、2つの波長差が広がるほど、2つの波長の間での屈折率差は大きくとれる。
使用する波長は、2波長に限定されるものでなく、3つ以上のレーザ光を搭載した、3波長以上を用いる光学機器にも適用可能である。
回折格子への入射光は、回折格子へ垂直入射するものと説明したが、垂直入射に限定されるものでなく、斜め入射する構成であってもよい。
回折素子への入射光の偏光方向はTE方向である必要はなく、TM方向であってもよい。この場合には図9から明らかなように、有効屈折率が異なることとなる。また偏光方向はTE方向とTM方向の間であってもよい。この場合はTE方向の有効屈折率とTM方向の有効屈折率の中間の屈折率となる。
上述の例では、回折格子の格子方向とサブ波長構造の格子方向とは、図16(a)に示すように平行としたが、図16(b)、(c)に示すように、平行でなくてもよい。同図(c)は回折格子方向とサブ波長構造の格子方向が垂直な場合を示し、同図(b)は同図(a)と同図(c)との中間の角度である場合を示している。有効屈折率はサブ波長構造の格子方向に応じて変化するため、所望の有効屈折率が得られるようにサブ波長構造の格子方向を選択することも可能である。
サブ波長構造の格子の断面形状は、矩形状に限られるものでなく、台形形状もしくは三角形形状もしくは部分円形状または部分楕円形状であってもよい。所望する有効屈折率にあうように、該形状に応じてフィリングファクタを調整してやればよい。
同様に上述の例で突状部とした、サブ波長構造が形成されていない部分の断面形状についても、矩形状に限られるものでなく、台形形状もしくは三角形形状もしくは部分円形状または部分楕円形状であってもよい。所望する回折効率にあうように、該形状に応じて溝深さを調整してやればよい。
上述の例で突状部とした部分の部材と基板として説明した部分とは異なる材料で形成してもよい。
図17に示すように、上述の例で突状部として説明した部分にもサブ波長構造を形成してもよい。
図18に示すように、サブ波長構造のランドの高さ言い換えるとスペースの深さもしくは溝深さd3が、上述の例で突状部とした部分の高さhよりも浅く、サブ波長構造が突状部の間の部分において上端部のみに形成されたものであってもよい。
以上述べた光選択性回折素子の製造方法を説明する。この製造方法では、基板上にサブ波長構造を先に形成し、次に突状部を形成する。サブ波長構造を形成するには、サブ波長構造の形状に応じて、サブ波長構造を反転した形状のモールドが必要であるため、このモールドの製造方法についても説明する。
まず、図19ないし図21を参照して、図18に示した光選択性回折素子を除く光選択性回折素子の製造方法を説明する。図19はナノインプリント基板としてのモールドの製造方法を示し、図20はサブ波長構造の製造方法を示し、図21は突状部の製造方法を示している。なお、モールドの製造方法は、図18に示した光選択性回折素子の製造方法についても同様である。
モールドを形成するにあたっては、図19(a)に示すような平板状のシリコン基板71を用意する。このシリコン基板71はその表面上に電子線描画用レジスト層72を形成するものであるが、かかる表面は、結晶面(110)となっている。シリコン基板71には予めX線回折分析を実施し、表面・研磨面と結晶軸とのズレ、及び、基板オリフラ方向と結晶軸とのズレを測定しておく。この測定結果から、同図(c)を参照して後述するウェットエッチング後の端面71aが、レジストパターンのピッチ、ライン幅を維持した形状の面{111}の壁として現れるように、目的とするライン方向とオリフラ方向とを専用治具で軸合わせする。
そのうえで、シリコン基板71上に、電子線描画用レジスト層72を形成する。電子線描画用レジスト層72は、電子線描画用レジストをシリコン基板71上に塗布しプリベークすることで形成する。これにより電子線描画基板準備が行われ、続いて、電子線による描画が行われる。電子線による描画は、目的製品のピッチ、線幅によって異なる描画条件に応じて予め決定、設計されたプログラムによって行われる。
描画後、同図(b)に示すように、現像、リンスを行って電子線描画用レジスト層72を所定形状で残し、レジストパターンを形成する。レジスト部分の形状は、形成されるサブ波長構造におけるランド部分の形状に対応している。
同図(c)に示すように、レジストパターンをマスクとしてシリコン基板71をKOHによりアルカリウェットエッチングする。シリコン基板71はレジストパターンの形状と同じ形状で深さ方向にエッチングされる。このときシリコン基板71はレジストパターンと同じビッチ、同じライン幅で深さ方向にエッチングされ、これによって形成された壁がウェットエッチング端面である面{111}の端面71aとして現れる。
同図(d)に示すように、電子線描画用レジスト層72を剥離し、シリコン金型すなわちモールド73が作成される。同図(d)に付した符号は、図8に示した対応する符号部分とほぼ同じ大きさを有する部分であることを示している。
図19(e)はモールド73の俯瞰図であり、同図(d)に示したものをその一部として備えている。同図(a)〜(d)は同図(e)に比して拡大した状態を示したものである。なおモールド73は光透過性材料によって形成してもよい。
モールド73を使用してサブ波長構造を形成するにあたっては、図20(a)に示すように、上述の基板に相当する製品基板としてのガラス基板74に転写用樹脂であるUV硬化樹脂75を塗布する。
同図(b)に示すように、モールド73を上方から押し当て、ナノインプリント転写を行う。転写材料であるUV硬化樹脂75は十分に粘度が低いので、モールド73の凹凸に入り込んで形状転写が行われる。
同図(c)に示すように、光透過材料であるガラス基板74側からUV照射を行い、UV硬化樹脂75を硬化させる。なお、図19に示した製造方法で製造したモールド73を使用しているが、光硬化性樹脂をナノインプリント材料として使用する場合は、光透過性のたとえば石英基板製の金型を使用するのが望ましい。石英基板性の金型は、ここで示しているナノインプリント技術をそのまま使用して製造することが可能である。このときは凹凸が反転する点で異なる。なおUV硬化樹脂75の代わりに熱硬化樹脂をナノインプリント材料として使用することもでき、この場合、その硬化は、加熱により行う。
図20(d)に示すように、モールド73を取り外す離型処理を行う。ガラス基板74上にはUV硬化樹脂75の層によって形成されたインプリント樹脂層76が形成されている。インプリント樹脂層76は、ガラス基板74の全面を覆っている。すなわち、モールド73の凸部に対応する部分にも、薄層がレイヤーとして形成されている。
同図(e)に示すように、O2ドライエッチングによりレイヤーを除去し、モールド73の凸部に対応する部分における薄層を取り除いてこの部分においてガラス基板74を露出させる。ドライエッチング装置としては、TCP装置、NLD装置などの高密度プラズマエッチング装置を用いる。
エッチング条件を次に示す。
・ガス種:酸素ガス(O2)
・ガス導入量:20sccm
・圧力:0.4Pa
・樹脂エッチング速度:30nm/秒
・上部バイアス電力:1KW
・下部バイアス電力:60W
続いて、同図(f)に示す塗布膜成膜処理を行う。この処理においては、レイヤー除去処理を行った基板を取り出し、スピンナーにて高屈折材料であるゾル−ゲル材料77をガラス基板74が露出した部分であるインプリント樹脂層76の間隙すなわちサブ波長構造のランドを形成する部分に塗布して、プリベークする。必要な高さに応じて、かかる塗布とプリベークとを繰り返す。最後にポストベークを行い、ゾル−ゲル材料77を完全に硬化し、同図(f)に示す状態とする。この際、同材料は僅かに収縮する。
塗布膜成膜処理の条件を次に示す。
・JSR社製 ナノコンポジット材料使用、無機超微粒子を含む感光性ゾル−ゲル材料、屈折率1.90
・型番:Z−7503に高屈折率超微粒子を混合し、ベース材料屈折率を上昇
・高屈折率超微粒子の材質:Ta205材料
・高屈折率超微粒子の粒径:10nm以下
・粘度:10mPa・s
・硬化:光照射エネルギー量 400mj/cm2*120秒
同図(g)に示すように、インプリント樹脂層76を除去してインプリント膜の除去処理を行う。除去処理は、例えば、CAROS洗浄すなわち硫酸と過酸化水素水との混合液による洗浄を行う、有機樹脂物の除去方法により行う。これにより、ガラス基板74上にサブ波長構造78が形成される。
サブ波長構造78の相互間に突状部を形成するにあたっては、図21(a)に示すように、ガラス基板74の全面にわたって、サブ波長構造78のスペース部分も埋めるように、マスク・レジスト層79を形成する。マスク・レジスト層79はレジストとなる。
同図(b)に示すように、マスク・レジスト層79上の、サブ波長構造78に対応する部分に、露光用マスクパターン80を形成し、同図(c)に示すように、露光用マスクパターン80側から露光を行い、同図(d)に示すように、現像、リンスを行って露光用マスクパターン80を除去し、サブ波長構造78のスペース部分にマスク・レジスト層79が残った状態とする。これにより、突状部に対応する部分においてガラス基板74が露出したパターニングが行われる。
同図(e)に示すように、ガラス基板74が露出したマスク・レジスト層79の間隙部分に低屈折率材料であるゾル−ゲル材料81を塗布してベーク処理により硬化させる。このとき、ゾル−ゲル材料81の塗布、プリベーク及びポストベークによるベーク処理は、図20(f)に示した塗布膜成膜処理と同様にして行う。
かかる低屈折率材料塗布・ベーク処理の条件を次に示す。
・JSR社製 ナノコンポジット材料使用
・型番:Z−7503
・材質:無機超微粒子を含む感光性ゾル−ゲル材料、屈折率1.45
・超微粒子の粒径:10nm以下
・粘度:1mPa・s
・硬化:光照射エネルギー量 400mj/cm2*120秒
図21(f)に示すように、マスク・レジスト層79を除去して、屈折率が高い構造であるサブ波長構造78と、屈折率が低い構造である突状部82とを備えた回折格子構造83を有する光選択性回折素子84を得る。この回折格子構造83は、図3等に示した第1の回折格子面31に相当する。
必要に応じて、ガラス基板74の、回折格子構造83が形成されていない面に、図20、図21(a)〜(f)に示した処理を施し、かかる面にも回折格子構造83を形成して、同図(g)に示すように、ガラス基板74の両面に回折格子構造83を有する光選択性回折素子84を形成することができる。この光選択性回折素子84は上述の回折素子30、光選択性回折素子60に相当するものである。
なお、この場合、2回目に回折格子構造83を形成するにあたっては、必要に応じて、1回目に回折格子構造83を形成するにあたって用いたモールド73とは別の形状のモールドを、図19に示した工程によって製造し、これを用いる。2回目に形成する回折格子構造83は、1回目に形成した回折格子構造83とその光学特性が異なるため、1回目に形成した回折格子構造83とスペース幅等の形状が異なる場合があるからである。2回目に形成した回折格子構造83は、図3等に示した第2の回折格子面32に相当する。
ガラス基板74の各面に形成するサブ波長構造78のピッチ、溝深さ、屈折率等を異ならせることで、上述の回折素子30、光選択性回折素子60に相当する光選択性回折素子84を製造することが可能である。
両面に回折格子構造83を形成する方法としては、上述のように1枚のガラス基板74の両面に上述の処理を施す方法のほか、2枚のガラス基板74それぞれの片面に互いに異なる回折格子構造83を形成し、これらガラス基板74を接合して一体化する方法がある。
図22、図23を参照して、図18に示した光選択性回折素子の製造方法を説明する。図22はサブ波長構造の製造方法を示し、図23は突状部の製造方法を示している。図22は図19に対応し、図23は図20に対応しているので、図19、図20に示したのと同様の部分には同じ符号を付して適宜説明を省略する。
なお、使用するモールド73は図19に示した製造方法と同様に製造可能であるため説明を省略する。ただし、モールド73に備えられた、サブ波長構造に対応する凸部の高さは、形成すべきサブ波長構造の溝深さである図18に示した溝深さd3に対応して形成される。
モールド73を使用してサブ波長構造を形成するにあたっては、図22(a)に示すように、上述の基板に相当する製品基板としてのガラス基板74に、高屈折率材料によって高屈折率層90を形成した上で、高屈折率層90上に転写用樹脂であるUV硬化樹脂75を塗布する。
この高屈折率層90を備えていることが、上述の製造方法と主に異なる。高屈折率層90は、図18に示した溝深さd3と突状部の高さhとの差の厚みを形成する部分であるため、その高さはかかる厚みと同じ高さに調整される。
塗布膜成膜処理の条件を次に示す。
・JSR社製 ナノコンポジット材料使用、無機超微粒子を含む感光性ゾル−ゲル材料、屈折率1.90
・型番:Z−7503に高屈折率超微粒子を混合し、ベース材料屈折率を上昇
・高屈折率超微粒子の材質:Ta205材料
・高屈折率超微粒子の粒径:10nm以下
・粘度:10mPa・s
・硬化:光照射エネルギー量 400mj/cm2*120秒
図22(b)ないし(d)まで、図20(b)ないし(d)と同様に、転写処理、硬化処理、離型処理を行う。
図22(e)においてレイヤー除去処理を行うと、レイヤーの除去により、高屈折率層90の一部の、サブ波長構造のランドを形成すべき部分が露出する。
続いて、同図(f)に示す塗布膜成膜処理を行う。この処理においては、高屈折材料であるゾル−ゲル材料77を高屈折率層90が露出した部分であるサブ波長構造のランドを形成する部分に塗布し、ゾル−ゲル材料77を完全に硬化して、同図(f)に示す状態とする。
同図(g)に示すように、インプリント樹脂層76を除去してインプリント膜の除去処理を行い、ガラス基板74上に高屈折率層90とゾル−ゲル材料77によって構成されたサブ波長構造91を形成する。ただし、この状態では、高屈折率層90が、突状部を形成すべき部分にも延在している。この部分の高屈折率層90は、図23に示す、突状部の形成過程で除去される。
突状部を形成するにあたっては、図23(a)に示すように、マスク・レジスト層79を形成してから、同図(b)に示すように、最終的にサブ波長構造を形成すべき部分に対応する部分に、露光用マスクパターン80を形成し、同図(c)に示すように、露光用マスクパターン80側から露光を行う。
同図(d)に示すように、現像、リンスを行って露光用マスクパターン80を除去するとともに、高屈折率層90の突状部を形成すべき部分を除去し、完成したサブ波長構造91のスペース部分にマスク・レジスト層79が残った状態とする。
同図(e)に示すように、ガラス基板74が露出したマスク・レジスト層79の間隙部分に低屈折率材料であるゾル−ゲル材料81を塗布してベーク処理により硬化させる。
同図(f)に示すように、マスク・レジスト層79を除去して、屈折率が高い構造であるサブ波長構造91と、屈折率が低い構造である突状部82とを備えた回折格子構造92を有する光選択性回折素子93を得る。この回折格子構造92は、図3等に示した第1の回折格子面31に相当する。
この場合も必要に応じて、ガラス基板74の、回折格子構造83が形成されていない面にも回折格子構造92を形成して、同図(g)に示すように、ガラス基板74の両面に回折格子構造92を有する光選択性回折素子93を形成することができる。この光選択性回折素子93は上述の回折素子30、光選択性回折素子60に相当するものである。2回目に形成した回折格子構造92は、図3等に示した第2の回折格子面32に相当する。
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
たとえば、上述の形態では、第1の波長をλ1、第2の波長をλ2とし、第1のサブ波長構造の有効屈折率と第2の材料の屈折率とが、波長λ1の光に対しては実質的に等しく波長λ2の光に対しては実質的に異なるとしたが、第1のサブ波長構造の有効屈折率と第2の材料の屈折率とは、波長λ2の光に対しては実質的に等しく波長λ1の光に対しては実質的に異なる構造であってもよい。
上述の形態では、光記録媒体をDVDおよびCDとして2波長に対応した光ピックアップ20、光情報処理装置100を説明したが、光ピックアップ20、光情報処理装置100は、波長405nm帯の青紫レーザ光を用いたBlu−rByや、HD DVD及びDVDの2波長に対応したものであってもよい。
上述の形態では、光源として2つのレーザ光源を備えているが、本発明は3つ以上のレーザ光源を備えている多光源型の光ピックアップ、光情報処理装置に対しても適用可能である。
上述の形態は、CD、DVDのそれぞれに専用の回折格子を備えた場合の例であるが、例えば、CDについては3ビーム方式ではなく1ビーム方式を用いるような場合には、DVDに適した回折効率の、光選択性回折素子50のような第2の回折格子のみを備えていてもよい。
透過率の調整は、回折格子のデューティすなわち格子の1周期に占める凸部言い換えるとサブ波長構造が形成されている領域の割合を変えることで行ってもよい。
さらには、光選択性回折素子は、図24に示すように、例えば〔特許文献2〕に開示されているような、光選択性回折素子自体又はサブ波長構造を形成する回折格子の格子溝を領域X1、X2、X3ごとにずらした、回折格子の領域分割を行った構成とし、検出する信号の質を向上するようにしてもよい。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。