JP2011225483A - 性フェロモン誘導体を用いた徐放性フェロモン製剤及びそれを用いた害虫の防除方法 - Google Patents

性フェロモン誘導体を用いた徐放性フェロモン製剤及びそれを用いた害虫の防除方法 Download PDF

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Abstract

【課題】プラスチックの材質や膜厚及び性フェロモン物質との相溶性や親和性等を考慮することなく、性フェロモン物質を長期間一定速度で放出制御できる徐放性フェロモン製剤を提供する。
【解決手段】大気中に設置中において、性フェロモン物質に変化する性フェロモン誘導体を少なくとも含む高分子製性フェロモン徐放性製剤を提供する。また、この高分子製性フェロモン徐放性製剤を大気中に放出するステップを少なくとも含む害虫の防除方法を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、性フェロモン物質を圃場に漂わせ、害虫の交尾行動を撹乱させて害虫防除する交信撹乱方法に用いる徐放性フェロモン製剤及びそれを用いた防除方法に関するものである。
交信撹乱による害虫の防除は、人工的に合成した対象害虫の性フェロモン物質を大気中に放散、浮遊させ、雄雌間の交信を撹乱させて交尾率を下げ、次世代の誕生を抑制することにより行われる。そのため、交信撹乱による害虫の防除には、害虫の発生期間中、安定して性フェロモン物質を放出できる徐放性フェロモン製剤が用いられている。この徐放性フェロモン製剤は、害虫の性フェロモン構成成分の一種以上をその幾何異性体等と混合した溶液をプラスチック容器に封入してそのプラスチック膜を透過させたり、プラスチックに混ぜ込んでそのプラスチックとの相溶性や親和性を利用して長期間一定速度で放出を制御している(特許文献1〜2)。
プラスチックの中でも、ポリエチレンに代表されるポリオレフィン系プラスチックは、例えば、性状の異なるグレードが多種多様に存在するため材料としての選択の幅が広く、かつ、汎用であるため価格も低い。また、成形性が優れており、押出成形、フィルム成形、延伸成形、射出成形等、幅広い成形が可能で、機械的強度、特に低温時の機械的強度が優れているため気温の低い時期や地域での使用に適している。さらに、耐薬品性が優れているため有機物質である性フェロモン物質と接触しても使用中に腐食や浸食を起こすことはなく、耐候性も優れていることから屋外での使用に適している等の特徴があり、性フェロモン徐放性製剤の材質として使用されてきた。
しかしながら、性フェロモン物質の中には、ポリオレフィン系プラスチックとの相溶性や親和性が良すぎるために放出が極端に速すぎたり、逆に、悪すぎるために全く放出しないものもある。例えば、アルデヒドやアセテート等では比較的放出は速いが、カルボン酸、アルコール及びケトン等では放出が遅い傾向にある。そのため、アセテートの性フェロモン物質にアルコールを加えたり(特許文献3)、アルデヒドの性フェロモン物質にアセテートを加えたり(特許文献4)アルコールの性フェロモン物質にアセテートを加えたりして(特許文献5)放出を制御している。
また、ある程度放出の制御は出来るもののプラスチック膜の厚みを製造可能な限界のところで制御しなければならない場合もある(特許文献6)。
さらに、複数の性フェロモン物質を同時に放出させなければならない場合等は、その混合比率を変えたり、別々の容器に入れたりして放出を制御しなければならなかった。
特開昭56−142202号公報 特開昭57−156403号公報 特開平11−69936号公報 公開平11−279011号公報 特開平6−211614号公報 特開昭59−216802号公報
本発明は、プラスチックの材質や膜厚及び性フェロモン物質との相溶性や親和性等を考慮することなく、性フェロモン物質を長期間一定速度で放出制御できる徐放性フェロモン製剤を提供する。
本発明者らは、性フェロモン物質の活性化を検討していたところ、性フェロモン物質の活性エステル等が加水分解により性フェロモン物質を生成すること又は性フェロモン物質のカルボニル化合物等が光分解により性フェロモン物質を生成することを見いだした。これにより、その生成反応を制御することで得られる性フェロモン物質の量を制御でき、さらには、性フェロモン物質の放出を制御できることを考え出し、本発明に到達した。
本発明は、大気中に設置中において、性フェロモン物質に変化する性フェロモン誘導体を少なくとも含む高分子製性フェロモン徐放性製剤を提供する。また、本発明は、この高分子製性フェロモン徐放性製剤を大気中に放出するステップを少なくとも含む害虫の防除方法を提供する。
本発明は、徐放性フェロモン製剤のプラスチックの材質や膜厚及び性フェロモン物質との相溶性や親和性等を考慮することなく、性フェロモン物質を長期間一定速度で放出制御することができる。
本発明の徐放性製剤は、大気中に設置中において性フェロモン物質に変化する性フェロモン誘導体を少なくとも含む高分子製性フェロモン徐放性製剤である。
大気中に設置中において変化する機構は、自然界や大気中で反応して、性フェロモン物質に変化するのであれば、脱水反応や光縮合反応等、どのような反応でも構わない。性フェロモン物質を長期間一定速度で放出するための制御としては、特に製剤のプラスチックの材質を変えたり、プラスチック膜の厚みを制御したり又は別々の容器に入れたりする等の徐放性製剤による放出制御と、性フェロモン誘導体の反応による性フェロモン物質の生成量の制御等である反応制御の2つが好ましい。
大気中に設置中の変化機構において、加水分解反応は、性フェロモン誘導体に水が反応し、分解して性フェロモン物質が得られる反応のことを言う。
性フェロモン物質が、カルボン酸、アルコール、ケトン又はアルデヒド等である場合に、加水分解反応を起こす性フェロモン誘導体としては、当該性フェロモン物質のエステル化合物、アミド化合物、チオエステル化合物、アセタール化合物、ヘミアセタール化合物、ケタール化合物、ヘミケタール化合物、酸塩化物及び酸無水物が挙げられる。
また、エステル化合物としては、炭素−酸素結合が切れやすい活性エステルや酸素−珪素結合が切れやすいシリルエステル等がある。活性エステルとしては、カルボン酸エステル、チオエステル及びアミド等が挙げられ、シリルエステルとしては、好ましくは−COOSi(R)基(式中、Rは独立して好ましくは炭素数1〜3のアルキル基を示す。)等が挙げられる。
大気中に設置中の変化機構において、光分解反応は、光化学反応のうち、光を吸収することにより起こる分解反応を言う。直接光分解反応と光増感分解反応に大別される。
性フェロモン物質が、カルボン酸、ケトン又はアルデヒド等である場合に、光分解反応を起こす性フェロモン誘導体としては、カルボニル化合物、アジド及びアゾ化合物及び過酸化物が挙げられる。
性フェロモン物質の生成反応は、高分子製性フェロモン徐放性製剤の内部、製剤の外側表面、及び/又は大気中で起きても良い。また、大気中に設置中において、高分子製性フェロモン徐放性製剤の容器内に外部から透過した水が製剤内で性フェロモン誘導体を加水分解してもよいし、高分子製性フェロモン徐放性製剤の容器内に透過した光が製剤内で性フェロモン誘導体の光反応を起こしてもよい。その反応が連鎖反応である場合には、容器を出てから起きる方が望ましい。容器内で連鎖反応が起こると、その反応速度によっては性フェロモン誘導体がほとんど全て性フェロモン物質に変化してしまうため、従来の徐放性製剤と何ら変わらない放出性の悪いものになってしまう。また、性フェロモン誘導体から性フェロモン物質に変化する際の脱離成分が容器内で蓄積し、それらが希釈剤として働くことで、さらに放出性能の悪いものになってしまうためである。
各種反応により性フェロモン物質に変化する前の性フェロモン誘導体は、それ自体が性フェロモン物質では無く、変化して初めて性フェロモン物質となる。
本発明の徐放性製剤は、従来、徐放性製剤による放出制御が難しかった性フェロモン物質であっても、変化前の化合物(性フェロモン誘導体)であれば放出制御が可能である場合や、徐放性製剤による放出制御に加えて、更に性フェロモン誘導体から性フェロモン物質への変化を抑えることで従来よりも放出を抑えたい場合に、特に有効である。
変化後の性フェロモン物質は、性フェロモン物質であれば特に限定されるものではなく、カルボン酸、アルコール、ケトン又はアルデヒド等が挙げられるが、従来のプラスチック製徐放性製剤では放出が遅く、放出制御が難しかったカルボン酸、アルコール及びケトン類が特に有効である。
カルボン酸は、例えば、エステル化合物、アミド化合物、チオエステル化合物、酸塩化物及び酸無水物の加水分解反応によって得られる。アルコールは、例えば、エステル化合物、アセタール化合物及びヘミアセタール化合物の加水分解反応によって得られる。ケトンは、ケタールやヘミケタールの加水分解反応によって得られる。また、例えば、アルコールは、カルボニル化合物、アジド化合物、アゾ化合物及び過酸化物の光分解によっても得られる。
本発明の高分子製性フェロモン徐放性製剤の使用対象となる害虫は、性フェロモン物質としてカルボン酸、アルコール又はケトン類をもつ害虫であれば特に限定されないが、好ましくは甲虫目(鞘翅類)(Coleoptera)や鱗翅目(チョウ類) (Lepidoptera)等の害虫であることが望ましい。具体的には、カリフォルニアノコギリカミキリ(Prionus californicus)等の甲虫目、コドリンガ(Cydia pomonella)やモモシンクイガ(Carposina sasakii)等の鱗翅目等が挙げられる。
本発明の高分子製性フェロモン徐放性製剤の形状は、変化前の性フェロモン誘導体を保持できれば何でも構わないが、チューブ、カプセル、アンプル、缶又は袋状が望ましい。特に、形状がチューブのものは放出が均一であり、その内径が0.5〜2.0mm、その肉厚が0.2〜1.0mmの範囲が好ましい。また、それらは、開放型のものでもあっても密閉型のものであっても構わないが、野外で使用する場合には雨や塵の混入を避けるため後者の方が望ましい。
高分子製性フェロモン徐放性製剤の材質としては、変化前の性フェロモン誘導体を透過するものであれば何でも構わない。但し、高分子製性フェロモン徐放性製剤の内部において性フェロモン誘導体から性フェロモン物質を生成させる場合には、高分子製性フェロモン徐放性製剤の材質は、得られた性フェロモン物質を透過できることが必要である。加工性の観点から高分子材料が望ましく、特に、ポリオレフィン系重合体が好ましい。具体的には、ポリエチレンやポリプロピレンに例示されるポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−アクリル酸エステル共重合体に例示されるエチレンを80質量%以上含む共重合体が挙げられる。また、生分解性のポリエステルや塩化ビニルでも構わない。
変化前の性フェロモン誘導体は、単独でも2種類以上混合されていても良く、更には変化後のものと同じ性フェロモン物質又はそれ以外の性フェロモン物質と混合されて使用されても構わない。それ以外に、安定剤、着色料、反応開始剤又は希釈剤等のその他成分が、通常の使用量入っていても良い。
本発明の高分子製性フェロモン徐放性製剤を用いて害虫を防除する方法は、変化前の性フェロモン誘導体又は変化後の性フェロモン物質に指定されたものはなく、能動的であっても受動的であっても構わない。能動的な方法としては、噴霧や散布等が挙げられ、受動的な方法としては容器や担持体からの透過等が挙げられるが、放出制御のし易さからすると後者の方が特に有効である。
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<徐放性製剤の製造>
所定の内径、肉厚を持つポリエチレンチューブからなる高分子製容器を押出成型して作製した。次に、大気中で変化して性フェロモン物質となる性フェロモン誘導体を含む性フェロモン組成物を作成した。その溶液をポリエチレンチューブの一端から注入し、チューブの両端を高周波加熱しながら加圧して溶融封鎖し、溶融部分を切断して徐放性製剤が試作された。交信撹乱剤は害虫を防除する圃場に、必要量の性フェロモン物質が放出されるように割り振って等間隔に点在して配置した。
<誘引阻害率>
誘引阻害率は、交信撹乱効果の比較的容易な推定方法であり、下記式
誘引阻害率(%)={(無処理区の誘殺虫数−フェロモン処理区の誘殺虫数)/(無処
理区の誘殺虫数)}×100
で表されるため、数値が高い程その効果が高いことが多い。
実施例1及び比較例1
ホップの害虫であるカリフォルニアノコギリカミキリの交信撹乱法試験を行った。各区の成分は、表1の通りである。各交信撹乱剤とも、長さは200mm、材質はポリエチレン製の細管で、成分を90mg、及び酸化防止剤としてBHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)2.0mgを含んでおり、これらを7月6日にヘクタール当たり250本設置した。この際、各区の中心部にフェロモントラップを設置し、8/3まで誘引阻害率を測定した。結果を表2に示す。
Figure 2011225483
Figure 2011225483
表2に示すように、性フェロモン物質をトリメチルシリル化した性フェロモン誘導体を用いた方が、比較例1の性フェロモン物質そのものを用いるよりも誘引阻害率が良かった。これは、カルボン酸そのままではポリエチレンを透過し難いため放出量が少なくなってしまったのに対して、そのトリメチルシリル化した性フェロモン誘導体では容易にポリエチレンを透過するため、その後、製剤表面で加水分解されて多量のカルボン酸に活性化され、その結果、放出量が多くなったためと考えられる。
実施例2及び比較例2
リンゴの害虫であるコドリンガの交信撹乱法試験を行った。各区の成分は表3の通りである。各交信撹乱剤とも、長さは200mm、材質はポリエチレン製の細管で、成分を130mg、酸化防止剤としてBHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)5.0mg、及び安定剤としてHBMCBT(2−(2'−ヒドロキシ−3'−tertブチル−5'-メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)2.5mgを含んでおり、これらを4月29日にヘクタール当たり1000本設置した。この際、各区の中心部にフェロモントラップを設置し、9月30日まで誘引阻害率を測定した。結果を表4に示す。
Figure 2011225483
Figure 2011225483
表4に示すように、性フェロモン物質の過酸化物である性フェロモン誘導体を用いた方が、比較例2の性フェロモン物質そのものを用いるよりも誘引阻害率が良かった。これは、アルコールそのままではポリエチレンを透過し難いため放出量が少なくなってしまったのに対して、その過酸化物である性フェロモン誘導体では容易にポリエチレンを透過するため、その後、製剤表面で光分解されて多量のアルコールに活性化され、その結果、放出量が多くなったためと考えられる。

Claims (5)

  1. 大気中に設置中において、性フェロモン物質に変化する性フェロモン誘導体を少なくとも含む高分子製性フェロモン徐放性製剤。
  2. 上記変化が、加水分解反応又は光分解反応による請求項1記載の高分子製性フェロモン徐放性製剤。
  3. 上記性フェロモン物質が、カルボン酸、アルコール及びケトンの中から選ばれる請求項1又は請求項2に記載の高分子製性フェロモン徐放性製剤。
  4. 上記高分子が、ポリオレフィンである請求項1〜3記載のいずれかに記載の高分子製性フェロモン徐放性製剤。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の高分子製性フェロモン徐放性製剤を大気中に設置するステップを少なくとも含む害虫の防除方法。
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