JP2011218481A - 炭窒化チタン基サーメット製切削インサートおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高負荷切削加工条件下で、優れた耐欠損性および仕上げ面精度を示すTiCN基サーメット製切削インサートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部、すくい面、すくい面に設けたチップブレーカを備えるTiCN基サーメット製切削インサートにおいて、貫通穴内面の最表面部にはCo,Niを主成分とする実質単一相からなる軟質な金属シミダシ層が形成され、一方、逃げ面およびチップブレーカ表面には金属シミダシ層が存在せず、かつ、その表面粗さは、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下とした耐欠損性、仕上げ面精度に優れたTiCN基サーメット製切削インサート。
【選択図】図3

Description

本発明は、インサート着脱式の各種工具に取り付けられて切削加工に用いられる炭窒化チタン基(TiCN基)サーメット製切削インサートおよびその製造方法に関するものであり、特に、負荷の高い切削加工で優れた耐欠損性および優れた仕上げ面精度を示す、工具本体への取り付け用貫通穴を有するTiCN基サーメット製切削インサートに関するものである。
従来から、Tiの炭化物あるいは窒化物あるいは炭窒化物を主成分とし、元素周期律表4a、5aおよび6a族の炭化物あるいは窒化物あるいは炭窒化物を1種または2種以上含有する硬質相とNiおよびCoの内の1種または2種を主成分とする金属結合相からなるTiCN基サーメット製切削インサートが広く知られている(特許文献1,2)。
このようなインサートにおいて、切削抵抗を低減したり、切削加工中に生成する切りくずをコントロールするために、図1に示されるようなチップブレーカを有する切削インサートを用いること、また、図2に示されるようなL字形レバーや、ねじあるいは偏心ピンなどで、工具本体への取り付け用貫通穴を有する切削インサートを工具本体へクランプすることも、その取り扱いが簡便であるため広く知られている。
しかし、TiCN基サーメット製切削インサートを焼結で製造しようとした場合、焼結体表面には、Ni、Co等の金属結合相を主体とする、所謂、金属シミダシ層が形成され、焼結体表面の組織状態が不均一になるため、耐欠損性を低下させるという問題点があること(特許文献3〜5)も、また、広く知られている。
特開平9−108908号公報 特開平9−207005号公報 特公昭60−34618号公報 特開平4−146006号公報 特許第3803694号明細書
TiCN基サーメット製切削インサートは、炭化タングステン基(WC基)超硬合金製切削インサートに比べると、耐欠損性が低い工具材料であるとされているため、切刃に対して高負荷が作用する切削条件下での使用は避けられ、軽負荷の切削条件下で使用されることが多かった。
しかし、近年、切削加工の分野では、高能率加工が求められており、切削時の切刃に対する負荷はますます高くなる傾向にある。例えば、図2に示されるようなL字形レバーなどで工具本体へ取り付けたTiCN基サーメット製切削インサートを、重切削、断続切削等のような切刃に対して高負荷が作用する切削条件下において使用した場合には、切刃からの欠損発生に加え、クランプ手段と接触するインサート貫通穴内面の表面から破損が生じ、比較的短時間で使用寿命にいたるのが現状である。そして、貫通穴内面からの破損が生じたような場合には、同一インサートの他の切れ刃への交換も不可能となるため、着脱式インサートとしては致命的な問題点となる。
そこで、本発明は、TiCN基サーメット製切削インサートを、切刃に対して高負荷が作用する切削条件下で使用した場合でも、欠損が発生することなく、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮するTiCN基サーメット製切削インサートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部、すくい面、およびすくい面にチップブレーカを備えるTiCN基サーメット製切削インサート(以下、TiCNインサートという)において、ねじ、L字形レバー、偏心ピン等のクランプ手段と接触する貫通穴内面の状態とTiCNインサートを工具本体へ保持する力との関連を研究した結果、原料粉末を成形後、これを焼結し上記インサートを製造した場合、焼結体の焼結肌全体に、サーメットの金属結合相成分であるCo、Niの1種または2種が富化した金属シミダシ層が形成されるが、貫通穴内面の最表面部にCo、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる軟質な金属シミダシ層を所定層厚ならびに所定の表面占有率(面積率)で積極的に形成させた場合には、高負荷が作用する切削条件においても、上記クランプ手段と接触する貫通穴内面の表面部からの亀裂・破損発生を抑制することができるため、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し、工具寿命の延命化を図れることを見出したのである。
特に、この金属シミダシ層は硬質粒子を含有する二相以上から構成される層ではなく、Co、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる軟質な金属シミダシ層となっていることが重要である。
ただ、焼結により、貫通穴内面の最表面部に軟質な金属シミダシ層を所定層厚ならびに所定の表面占有率(面積率)で形成した場合には、切削に関与する切れ刃の逃げ面およびチップブレーカの表面にも同様に金属シミダシ層が形成されるが、特に、逃げ面表面に形成された金属シミダシ層は、被削材との溶着現象に起因すると考えられる被削材の仕上げ面精度の低下を招き、また、チップブレーカの表面に形成された金属シミダシ層は、切りくずの溶着による、やはり被削材の仕上げ面精度の低下や耐欠損性の劣化を招くことになるため、インサート表面にウエットブラスト処理を施し、特に、逃げ面およびチップブレーカ表面に形成された金属シミダシ層を除去すると同時に、表面平滑化を図ることにより、仕上げ面精度の向上、耐欠損性の向上を図り得ることを見出したのである。
また、切れ刃部表面に金属シミダシ層が生成すると、その下方の部位の金属結合相が貧化し靭性が低下する可能性もあるため、加えて、ウエットブラスト処理を施す際に、インサート表面の平滑化を行い、同時に、インサートの少なくともすくい面の表面部に圧縮残留応力を付与した場合には、さらに一段と耐欠損性が向上することを見出したのである。
但し、ウエットブラスト処理を作用しすぎると、被処理表面の表面粗さが逆に悪化し、仕上げ面精度や耐欠損性に悪影響を及ぼすため、表面粗さを一定範囲を超えないように管理することが重要である。
本発明は、前記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部およびすくい面を備える炭窒化チタン基サーメット製切削インサートにおいて、すくい面にチップブレーカを備えるとともに、上記貫通穴が主として焼結肌で構成され、その貫通穴内面の最表面部にはCo、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる金属シミダシ層が0.1μm以上5μm以下の層厚かつ60面積%以上の表面占有率(面積率)で形成されており、一方、逃げ面およびチップブレーカの表面には上記金属シミダシ層が存在せず、かつ、該逃げ面およびチップブレーカの表面粗さは、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であることを特徴とする炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
(2) 貫通穴内面の金属シミダシ層の表面占有率(面積率)が80面積%以上である前記(1)に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
(3) 上記インサートの少なくともすくい面の表面部の硬質相の残留応力が、圧縮で450MPa以上であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
(4) 上記インサートの少なくともすくい面の表面部の硬質相の残留応力が、圧縮で600MPa以上であることを特徴とする前記(3)に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
(5) 上記インサートの刃先先端のホーニング部の表面粗さが、インサートの逃げ面およびチップブレーカの表面粗さより小さく形成されていることを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
(6) 上記ホーニング部の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.1μm以下である前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
(7) 工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部、すくい面、およびすくい面にチップブレーカを備える炭窒化チタン基サーメット製切削インサートを製造する方法において、上記インサートの表面に、Co、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる金属シミダシ層を形成し、次いで、上記インサートを軸線回りに回転可能な一対の回転軸により挟み込んで保持しつつ上記軸線回りに回転させながら、少なくとも一つ以上のブラストガンにより研磨液を噴射してウエットブラスト処理を施すことにより、上記貫通穴内面の表面部には金属シミダシ層を形成させたまま、上記逃げ面およびチップブレーカの表面から上記金属シミダシ層を除去し、上記逃げ面およびチップブレーカの表面粗さを、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下とし、かつ、少なくともすくい面の表面部の硬質相の残留応力を圧縮で450MPa以上とすることを特徴とする炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
(8) 上記インサートを回転可能に挟み込む上記回転軸の軸線方向に対して、30度以上60度以下の噴射角で、ブラストガンから研磨液を噴射してウエットブラスト処理を施す前記(7)に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
(9) 上記噴射角が40度以上50度以下である前記(8)に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
(10) 上記インサートにウエットブラスト処理を施した後、上記インサートの刃先先端部にホーニング加工を施す前記(7)乃至(9)のいずれかに記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
(11) 上記ホーニング加工を、湿式ブラシホーニングで施す前記(7)乃至(10)のいずれかに記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。」
を特徴とするものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、この発明では、工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部およびチップブレーカを備えるTiCN基サーメット製切削インサートにおいて、上記貫通穴は主として焼結肌で構成され、しかも、貫通穴内面の最表面部には、サーメットの金属結合相成分であるCo、Niの1種または2種が富化した金属シミダシ層が形成される。
そして、本発明においては、貫通穴内面に形成された金属シミダシ層を、工具本体へインサートを固定するねじ、L字形レバー、偏心ピン等のクランプ手段との接触面において発生しやすい亀裂・破損の発生防止層として利用することにより、工具寿命の延命化を図っている。
図2に示されるように、上記貫通穴の表面は、貫通穴に通されるねじ、L字形レバー、偏心ピン等のクランプ手段と接触し、インサートを工具本体に固定保持するが、貫通穴内面の最表面部に形成されるNi、Coの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる軟質な金属シミダシ層の表面占有率(面積率)が60%未満の場合には、貫通穴におけるクランプ手段との接触面における亀裂・破損発生防止効果が少なく、また、亀裂・破損の進展を抑制する効果も少ないので、軟質な金属シミダシ層の表面占有率(面積率)を60%以上、好ましくは80%以上、と定めた。
また、貫通穴内面の最表面部に形成される金属シミダシ層の厚さが0.1μm未満の場合には、貫通穴におけるクランプ手段との接触面に亀裂・破損が生じた場合、その進展を抑制する効果が小さく、一方、金属シミダシ層の厚さが5μmを超えると、切れ刃部に生成する金属シミダシ層の下方の部位の金属結合相が貧化しすぎるのに加え、ウエットブラスト処理で逃げ面およびチップブレーカ表面に形成された金属シミダシ層が除去しにくくなるため、貫通穴内面の最表面部に形成される金属シミダシ層の厚さは0.1〜5μmと定めた。
なお、金属シミダシ層における軟質金属成分の表面占有率(面積率)および層厚は、主として、焼結用原料粉末の配合割合と焼結条件によって影響されるので、所定の焼結肌が得られるように配合割合、焼結条件を調整することが必要である。
また、貫通穴内面を主として焼結肌にて構成しようとした場合、焼結によって得られたインサートの逃げ面およびチップブレーカの表面にも自ずと金属シミダシ層が形成され、逃げ面の表面に形成された金属シミダシ層は被削材の仕上げ面精度の低下を招き、また、チップブレーカの表面に形成された金属シミダシ層は、やはり被削材の仕上げ面精度の低下や耐欠損性の劣化を招くことになるため、インサート表面(但し、貫通穴を除く)にウエットブラスト処理を施し、特に、逃げ面およびチップブレーカ表面に形成された金属シミダシ層を除去し、表面平滑化を図ると同時にインサートの少なくともすくい面の表面部に残留応力を付与することにより、仕上げ面精度の向上、耐欠損性の向上を図ることができる。
ウエットブラスト処理とは、すでによく知られているように、噴射研磨材を含有した液体(一般的には水)である研磨液を被処理物に噴射して、圧縮残留応力を付与したり、表面の研磨を行ったりする処理であるが、このようなウエットブラスト処理の噴射研磨材としては、硬質の微粒メディアであれば材質としてはアルミナ、炭化珪素、ジルコニア、樹脂系、ガラス系など種々使用可能であり、初期投入時の中心粒子径としては約1〜100μm程度が望ましく、生産性と品質の両方を考慮すると約10〜50μm程度がより好ましい。また、噴射条件としては、例えばメディアとしてアルミナを使用する場合には液体(水)と混合した状態において15〜60重量%の範囲となるようにメディアを含有させて研磨液を調整し、ブラストガンに供給する圧縮空気の圧力すなわち噴射圧力を0.05〜0.5MPa、好ましくは0.1〜0.3MPaの範囲として噴射するのが望ましい。
インサートの逃げ面、チップブレーカの金属シミダシ層がウエットブラスト処理により除去されると、インサート表面は平滑化される場合が多い。
インサートの逃げ面の平滑化は、主に被削材の仕上げ精度の改善に寄与し、また、チップブレーカの表面粗さの低減は、主に被削材の仕上げ精度の改善や耐欠損性改善に寄与するが、特に、インサートの逃げ面、チップブレーカの表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaが0.2μmを超える粗面になると低下傾向を示すようになるので、インサートの逃げ面およびチップブレーカの表面粗さは、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下とする。
また、切削初期段階では、切刃先端のホーニング部が被削材の切削加工表面に接触して切削加工表面を形成し、その後、切れ刃の摩耗が発達してくると、切削加工表面に接触する領域は逃げ面側に移行するようになる。
したがって、ウエットブラスト処理を施した後、インサートの刃先先端部に湿式ブラシ等によるホーニング加工を施すことにより、刃先先端に形成されるホーニング部の表面粗さを他の部分より小さくする、好ましくは、Raで0.1μm以下にすると、耐欠損性が更に改善され、切削初期段階での被削材に光沢のある良好な仕上げ面を形成することができる。
この発明においては、表面粗さは、JIS B0601−1994(2001)にしたがい、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで測定する。カットオフ値を0.08mmとしているのは、切削加工表面の品質に影響を与えるのは切削インサート表面のミクロな状態であって、焼結前の圧粉体の密度バラツキや焼結時に発生する焼結変形等に起因するインサート本体の焼結肌でのうねり現象(うねり成分)の影響を除去するためである。
本発明では、ウエットブラスト処理により、インサートの逃げ面およびチップブレーカ表面の金属シミダシ層除去と同時に、少なくともすくい面の表面部の硬質相に圧縮で450MPa以上の残留応力を付与するが、圧縮残留応力が450MPa未満の場合には、切削加工時に作用する高負荷に対する耐欠損性向上効果が少ないことから、耐欠損性を高めるため、インサート表面部の硬質相に付与する圧縮残留応力の値は450MPa以上、好ましくは600MPa以上、と定める。
本発明でいう、インサートの逃げ面表面部の硬質相に付与する残留応力の値とは、(株)養賢堂発行の「残留応力のX線評価」(田中啓介、鈴木賢治、秋庭義明著)の第六章冒頭(P99〜105)に記載される周知のsin2Ψ法を用いX線回折装置によって測定された値である。
さらに、sin2Ψ測定範囲に関しては、0〜0.5ないし0〜0.75間で選択される範囲において等間隔に5ないし6点、並傾法にて展開し測定した。
測定に用いたX線回折装置はスペクトリス(株)製のPANalytical
X’ Pert PRO MPDで、X線源としてはCuKα線を使用した。
残留応力測定にはNaCl型結晶構造を有する硬質相の(422)面の回折ヒ゜ークを用いた。
また、測定に用いた残留応力計算ソフトウエアはX’ Pert High Score Plusで、硬質相のヤング゛率として475GPa、ポアソン比として0.200を使用し計算を実施した。
なお、インサート表面の処理手段としては、従来から、ショットピーニング(ショットブラスト)、ドライブラスト等も知られているが、比較的大きな鋼球やセラミックボールを使用するショットピーニング(ショットブラスト)は加工エネルギーが過大であるため、インサート表面、内面に粗大クラックが発生したり、また、研磨能力が低い処理であるため金属シミダシ層の十分な除去を行うことができない恐れがあり、また、二種の流体(粉流・気流)でインサート表面をブラストするドライブラストは、ウエットブラストに比べて加工エネルギーが小さいためやはり金属シミダシ層の十分な除去を行うことができず、また、表面平滑化、圧縮応力も十分でなく、噴射研磨材の処理表面への食い込み・残留も生じやすいため、金属シミダシ層の除去、表面平滑化、圧縮残留応力の付与の観点から、ウエットブラスト処理が最も好ましく、本発明によるウエットブラストによれば上記の各種弊害が生じることはない。
図3(a)〜(c)を用いて、本発明におけるウエットブラスト処理の概略を説明する。
図3(a)において、インサート全体に金属シミダシ層が形成された焼結肌のままのTiCN基サーメット製切削インサートを、軸線回りに回転可能な一対の回転軸により挟み込んで保持しつつ上記軸線回りに回転させながら、該回転軸の軸線方向に対して、45度の噴射角を有する相対向する2本のブラストガンから上記インサートの表面に研磨液を噴射して1個ずつウエットブラスト処理を行うことにより、貫通穴を除くインサート全面を均一に処理することができる。この場合、インサートの貫通穴が存在する箇所は、一対の回転軸により挟み込まれた状態となるため、貫通穴内面は処理が行われず、したがって、貫通穴内面は、所定表面占有率(面積率)、所定層厚のCo、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる軟質な金属シミダシ層が形成された焼結肌が維持される。
一方、インサートの逃げ面およびチップブレーカの表面からは、ウエットブラスト処理により金属シミダシ層が除去され、同時に、平滑面が形成されるが、研磨液の種類、噴射圧等を調整することにより、インサートの逃げ面およびチップブレーカの表面粗さがカットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下の平滑面を形成することができ、同時に、上記インサートの少なくともすくい面の表面部の硬質相には450MPa以上の圧縮残留応力を付与することができる。
本発明では、インサート表面(但し、貫通穴内面を除く)にウエットブラスト処理を施すことによって、インサート貫通穴内面に金属シミダシ層を形成したままで、インサートの逃げ面およびチップブレーカの表面から金属シミダシ層を除去し、表面を平滑化すると同時に、少なくともすくい面の表面部の硬質相に所定の圧縮残留応力を付与することができる。
図3(b)に示すように、回転軸の軸線方向に対するブラストガンの噴射角θは、30度以上60度以下、好ましくは、40度以上50度以下、であれば、インサート全面(貫通穴の内面を除く)に対して均一なウエットブラスト処理を行うことができる。
また、図3(c)に示すように、貫通穴内面および貫通穴周辺のすくい面が、より確実に、ウエットブラストを受けないようにするためには、インサートと、これを挟み込む回転軸との間に、マスキング部材を介在させればよく、これによって、マスキング部材でカバーされた領域(貫通穴内面および貫通穴周辺)を焼結肌のままに維持することができる。
本発明でいうインサートとしては、概略正方形、三角形、菱形、丸形等の略平板インサートのみならず、三角形等の溝入れあるいはねじ切りインサート、各種刃先交換式エンドミル用インサート、あるいは縦刃型インサートなどを用いることが可能であり、その形状は問わない。
本発明のTiCN基サーメット製切削インサートおよびその製造方法によれば、本発明のTiCN基サーメット製切削インサートは、工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部、すくい面、およびすくい面にチップブレーカを備え、該貫通穴内面には所定表面占有率(面積率)、所定層厚のCo、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる軟質な金属シミダシ層が形成されたままの焼結肌が維持されているため、高負荷が作用する切削加工において、貫通穴内面のクランプ手段との接触面からの亀裂・破損の発生・進展が抑制され、一方、インサートの逃げ面およびチップブレーカには、ウエットブラスト処理が施され、逃げ面、チップブレーカ表面には、上記金属シミダシ層は存在せず、かつ、該逃げ面およびチップブレーカの表面粗さは、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下とされ、表面の平滑化が図られると同時に、少なくともすくい面の表面部の硬質相に圧縮残留応力が付与されることから、その結果として、優れた耐欠損性を発揮するとともに、すぐれた仕上げ面精度を長期の使用に亘って維持し得るようになる。
チップブレーカを有する切削インサートの模式図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図を示す。 工具本体へのL字形レバーを用いたインサートの取り付け形態を示す断面図である。 インサートに対するウエットブラスト処理の形態を示し、(a)は、インサートを挟み込む一対の回転軸の軸線方向に対して、45度の噴射角を有する相対向する2本のブラストガンを配置し、インサートを、軸線回りに回転させてウエットブラスト処理を行う一つの形態を示し、(b)は、ブラストガンと軸線のなす噴射角θを示し、(c)は、インサートと、これを挟み込む回転軸との間に、マスキング部材を介在させて挟み込みウエットブラスト処理を行う他の形態を示す。
本発明を、実施例に基づいて以下に説明する。
下記の原料配合組成を有するP30グレードTiCN基サーメットの原料粉末をプレス成型した後、下記の条件で焼結し、焼結温度および窒素雰囲気圧力を調整することにより種々の厚さと表面占有率(面積率)を有するCo、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる軟質な金属シミダシ層を有するとともに、ISO・DNMG150612に規定する形状・寸法を有するチップブレーカ並びに貫通穴を有するTiCN基サーメットA〜Eを作製した。
表1に、このTiCN基サーメットA〜Eの特性を示す。
TiCN基サーメットA〜Dの表面には、CoおよびNiを主成分とする実質的に単一相の金属シミダシ層が、表1に示す層厚並びに表面占有率で生成していた。
原料配合組成:
いずれも0.5〜2mmの平均粒径を有するTiCN粉末、WC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Co粉末、Ni粉末を、それぞれ、45wt%、22wt%、3wt%、10wt%、15wt%、5wt%となるように配合し、ボールミルにて24時間湿式混合し、乾燥した。
焼結条件:
(1)常温から1200℃までを、10Pa以下の真空雰囲気中にて10℃/分の速度で昇温し、
(2)1350℃までの昇温を10Pa以下の真空雰囲気中にて、2.0℃/分の速度で昇温し、
(3)1350℃から所定の焼結温度(1500℃)までの1.5℃/分の速度での昇温、並びに前記焼結温度に60分間保持を133Paの窒素雰囲気で行い、
(4)上記焼結温度から1200℃まで10Pa以下の真空雰囲気中にて、0.5〜10.0℃/分の速度で冷却し、
(5)1200℃からの炉冷を90kPa以下のAr雰囲気中にて行った。
なお、切れ刃には、砥粒を含有したナイロンブラシを使用し、すくい面側から測定した幅が0.11mm、かつ、逃げ面側から測定した幅が0.06mmのウォーターフォール型の曲面ホーニングを湿式処理で施した。
上記TiCN基サーメットB,C,Dに、中心粒子径40μmを有するアルミナを噴射研磨材とし、表2に示す噴射圧力で、図3(a)に示されるウエットブラスト処理装置を用いて、ウエットブラスト処理を施すことにより、本発明1〜5のインサートを製造した。
ウエットブラスト処理では、噴射研磨材のアルミナを水と混合し研磨液中の研磨材の含有量が30重量%となるように噴射研磨液を調製した。
また、図3(a)に示されるウエットブラスト処理装置において、噴射角θは45°一定とし、一対の回転軸で挟み込んで保持した部分を除いてインサート全面(但し、貫通穴内面を除く)が処理されるようウエットブラストを行い、一方、インサートの貫通穴内面にはウエットブラスト処理を施さず、金属シミダシ層が形成された焼結肌を維持したままである。
本発明1〜5のインサートの貫通穴内面と逃げ面およびチップブレーカの最表面に形成された金属シミダシ層について、該層の表面占有率(面積率)およびその層厚を電子顕微鏡を使用して測定した。
また、本発明1〜5のインサート表面部の硬質相の残留応力を、インサート逃げ面の平坦面で前述のX線回折装置により測定した。
さらに、本発明1〜5のインサートの逃げ面およびホーニング部の表面粗さを、JIS B0601−1994(2001)にしたがい、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで測定した。
表2に、金属シミダシ層の表面占有率(面積率),その層厚、残留応力および表面粗さの測定値を示す。
なお、本発明1〜5のインサートでは、すくい面がブレーカを有した曲面となっているためにX線回折測定に必要な平坦面を確保できず、すくい面の残留応力を直接測定することはできないが、本実施例1では、ウエットブラスト処理時の噴射角を45°として、基本的に逃げ面とすくい面に同様な作用が加わるように処理を行っているので、すくい面、特に逃げ面とほぼ直角に位置する切れ刃近傍のランド部分やブレーカ底部(すくい面では切れ刃に近いランド部分や凹状に湾曲した最も深いブレーカ底部の残留応力値が耐欠損性向上に重要である)の残留応力は、逃げ面で測定された残留応力と概略同等であると考えられることから、インサートの残留応力は、逃げ面について測定した残留応力で代表させることとする。
また、表面粗さについても、ウエットブラスト処理時の噴射角を45°としたことから、すくい面(ブレーカ底)の表面粗さは逃げ面の表面粗さとほぼ同等の値を示したので、インサートの表面粗さは、逃げ面について測定した表面粗さで代表させることとする。
比較のために、TiCN基サーメットA,B,C,Eに対して、表2に示すような条件で処理することで、金属シミダシ層の表面占有率(面積率)、層厚、および硬質相の残留応力、表面粗さをそれぞれ変化させ、上記本発明1〜5のインサートと同様な組成・形状・寸法を有する比較例1〜5のインサートを製造した。
本発明1〜5と同様な測定方法で、(貫通穴内面の)金属シミダシ層の表面占有率(面積率)およびその層厚を測定し、また、インサート逃げ面の平坦面における残留応力をX線回折装置により測定し、また、インサートの逃げ面およびホーニング部の表面粗さを、JIS B0601−1994(2001)にしたがい、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで測定した。
表2に、測定結果を示す。
Figure 2011218481
Figure 2011218481
表2によると、インサートの表面(逃げ面およびチップブレーカ)へのウエットブラストの噴射圧力を高めると、圧縮残留応力を増加させる効果があるが、噴射圧力が所定範囲以上に高くなると逆に表面粗さが大になり、若干平滑性が低下する傾向にあることがわかる。
また、ナイロンブラシによるホーニングを施したホーニング部の表面粗さは0.05μm、または、0.06μmと滑らかであるが、この表面に、本発明条件のウエットブラスト処理を施すとやはり逆に表面粗さが大になり、平滑性が低下することが分かる。
本発明では、貫通穴内面には所定の厚さの金属シミダシ層を有し、また、ウエットブラスト処理によりインサート表面の粗さも改善され、さらに、高い圧縮残留応力が付与されている。また、焼結後のインサート表面の粗さがもともと小さいTiCN基サーメットDを使用した本発明5のウエットブラスト処理後の表面粗さは、当然のことながら大きくは改善されていない。
比較例1は、金属シミダシ層が7〜9μmと厚い層厚のTiCN基サーメットAにウエットブラスト処理を行ったため、逃げ面およびチップブレーカ表面の金属シミダシ層を完全に除去するために、0.5MPaの噴射圧力を必要とした。その結果、表面粗さの観点からみると過処理となったため、逃げ面やホーニング部の表面粗さが0.2μmを超える粗面となった。
比較例4は、本発明4と同様の工程で作製された後に、貫通穴内面の金属シミダシ層を除去するために、貫通穴内面だけを改めて別のインサート保持方法によりウエットブラスト処理を行ったものである。
つぎに、上記の各種切削インサートを、いずれもバイトの先端部に図2に示されるL字形レバーにて固定した状態で、以下に示す条件により切削試験を行った。
《切削試験1》湿式断続の高送りかつ高切り込み切削
被削材;JIS−S55Cの溝入り丸棒(溝は長手方向に4溝)
切削速度;160m/min.
送り;0.6mm/rev.
切り込み;5mm
上記切削試験1における切れ刃交換までの実切削時間を評価した。
表3に、切れ刃交換までの実切削時間とともに、切れ刃交換の理由並びに切れ刃交換時の切削加工表面の状況を示す。
なお、切れ刃交換までの時間は、使用切れ刃にチッピングや欠損等が発生するか、L字形レバーと接触する貫通穴内面から大破するなど、実切削を継続することが不能となるまでの時間とし、また、正常な切削が維持されている場合は、逃げ面摩耗幅が0.4mmに達するまでの時間とした。
Figure 2011218481
表3によれば、本発明1〜5は、貫通穴内面に所定厚さと所定表面占有率の金属シミダシ層を有しているため、湿式断続の高送りかつ高切り込みの高負荷切削を行ってもL字形レバーと接触する貫通穴内面から大破することもなく、また逃げ面やチップブレーカから金属シミダシ層も除去され表面粗さも改善されており、さらに、高い圧縮残留応力も付与されているため、使用切れ刃も長寿命を示す結果となった。さらに、切れ刃の表面粗さが改善されていることから、切れ刃交換直前まで、光沢のある良好な仕上げ面を示した。
これに対して、焼結後にインサートの全周面に7〜9μmの厚い金属シミダシ層を生成した比較例1では、金属シミダシ層直下の金属結合相の貧化の程度が大きいことと、さらにインサートの表面粗さが十分改善されていないことの理由によると考えられるが、ウエットブラストで700MPaを超える大きい圧縮残留応力が付与されているにもかかわらず比較的短時間で欠損を生じた。また、インサートの表面粗さが十分改善されていないために、仕上げ面は切削開始時より光沢のない白濁仕上げ面を示しており、切れ刃交換の判断基準に切削加工表面の評価も入れると、切削開始直後に切削を終了しなければならない状況である。
逃げ面およびチップブレーカの金属シミダシ層が除去されていない比較例2,3では、この切れ刃の金属シミダシ層に被削材や切りくずの溶着が発生しやすく仕上げ面が切削初期段階より白濁を示した。また、この切りくずの溶着現象の発生とインサート切れ刃の表面粗さや圧縮残留応力が十分でないことにより、やはり短時間で使用切れ刃に欠損を生じた。
貫通穴内部に金属シミダシ層のない比較例4,5は、切削初期にL字形レバーと接触する貫通穴内面から大破した。このため、継続する切削がある場合は、他の切れ刃に交換することができなく、インサートそのものを交換する必要がある。
下記の原料配合組成を有するP20グレードTiCN基サーメットの原料粉末をプレス成型した後、下記の条件で焼結し、ISO・CCMT120408に規定する形状・寸法を有する貫通穴を有するTiCN基サーメットF〜Hを作製した。表4に、このTiCN基サーメットF〜Hの特性を示す。
TiCN基サーメットF,Gの表面には、表4に示す層厚並びに表面占有率を有するCoおよびNiを主成分とする実質的に単一相の金属シミダシ層が生成していた。
原料配合組成:
いずれも0.5〜2mmの平均粒径を有するTiCN粉末、WC粉末、TaC粉末、NbC粉末、MoC粉末、Co粉末、Ni粉末を、それぞれ、50wt%、15wt%、3wt%、6wt%、10wt%、8wt%、8wt%となるように配合し、ボールミルにて24時間湿式混合し、乾燥した。
焼結条件:
(1)常温から1200℃までを、10Pa以下の真空雰囲気中にて、10℃/分の速度で昇温し、
(2)1350℃までの昇温を10Pa以下の真空雰囲気中にて、2.0℃/分の速度で昇温し、
(3)1350℃から所定の焼結温度(1550℃)まで1.5℃/分の速度で昇温、並びに前記焼結温度に60分間保持を200Paの窒素雰囲気で行い、
(4)上記焼結温度から1200℃まで10Pa以下の真空雰囲気中にて、2.0〜10.0℃/分の速度で冷却し、
(5)1200℃からの炉冷を90kPa以下のAr雰囲気中にて行った。
これらのTiCN基サーメットF〜Hに、実施例1と同様のブラシホーニング処理及びウエットブラストを、表5に示す工程順序、処理条件で施すことにより、本発明6〜9および比較例6〜8を作製した。
なお、ブラシホーニングによるホーニング形状は、半径0.06mmの丸ホーニングとした。
また、ウエットブラスト処理は、実施例1と同様に、図3(a)に示される装置を用い(但し、ブラストガンは、切れ刃に対抗する1本のみを使用した)、貫通穴内面を除く少なくともインサートの逃げ面およびチップブレーカ表面を処理した。したがって、インサートの貫通穴内面にはウエットブラスト処理は施されておらず、金属シミダシ層が形成された焼結肌を維持したままである。
なお、インサートの逃げ角が7度であることから、噴射角を45度とすると、逃げ面、すくい面それぞれの噴射の角度が異なることになり、すくい面の噴射の角度がより直角に近いものとなることによって、すくい面には、逃げ面で測定した残留応力と同等以上の圧縮残留応力が付与されているものと考えられる。
本発明6〜9のインサートおよび比較例6〜8について、電子顕微鏡を使用して貫通穴内面と逃げ面およびチップブレーカの最表面に形成された金属シミダシ層の厚さ、該層の表面占有率(面積率)を測定した。
また、本発明6〜9のインサートおよび比較例6〜8について、インサート表面部の硬質相の残留応力を、インサート逃げ面の平坦面でX線回折装置により測定した。
さらに、本発明6〜9のインサートおよび比較例6〜8について、逃げ面およびホーニング部の表面粗さを、JIS B0601−1994(2001)にしたがい、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで測定した。
表5に、金属シミダシ層の表面占有率(面積率),その層厚、残留応力および表面粗さの測定値を示す。
比較のために、TiCN基サーメットF,G,Hに対して、表5に示すような条件で処理することで、金属シミダシ層の表面占有率(面積率)、層厚、および硬質相の残留応力、表面粗さを変化させたインサート(比較例6〜8)を製造した。
本発明6〜9と同様な方法で、(貫通穴内面)の金属シミダシ層の表面占有率(面積率)およびその層厚を測定し、また、インサート逃げ面の表面部の硬質相の残留応力、インサートの逃げ面およびホーニング部の表面粗さを測定した。
表5に、測定結果を示す。
Figure 2011218481
Figure 2011218481
つぎに、上記の各種切削インサートを、いずれもバイトの先端部にねじにて固定した状態で、以下に示す条件により切削試験を行った。
《切削試験2》湿式断続切削
被削材;JIS−SNCM439の溝入り丸棒(溝は長手方向に6溝)
切削速度;130m/min、
送り;0.5mm/rev、
切り込み;4mm
上記切削試験2における切れ刃交換までの実切削時間を評価した。
表6に、切れ刃交換までの実切削時間とともに、切れ刃交換の理由を示す。
なお、切れ刃交換までの時間は、使用切れ刃にチッピングや欠損等が発生するか、クランプ用ねじと接触する貫通穴内面から大破するなど、実切削を継続することが不能となるまでの時間とし、また、正常な切削が維持されている場合は、逃げ面摩耗幅が0.4mmに達するまでの時間とした。
《切削試験3》湿式連続切削
被削材;JIS−SUJ2の丸棒
切削速度;320m/min、
送り;0.4mm/rev、
切り込み;2mm
上記切削試験3における、切削時間0.2分後の切削開始時点の切削加工表面の観察を行った。
表6に、上記切削試験3,4における切削試験結果を示す。
Figure 2011218481
表6によれば、本発明6〜9は、貫通穴内面に所定厚さと所定表面占有率の金属シミダシ層を有しているため、湿式断続の高負荷切削を行ってもクランプ用ねじと接触する貫通穴内面から大破することもなく、また逃げ面やチップブレーカから金属シミダシ層も除去され表面粗さも改善されており、さらに、高い圧縮残留応力も付与されているため、使用切れ刃も長寿命を示す結果となった。
また、本発明6,7に比較し、ホーニング部の表面粗さをさらに改善した本発明8,9は、切れ刃交換までの実切削時間も長く、さらに良好な仕上げ面を得ることが難しいSUJ2の切削でも、光沢のある良好な仕上げ面を示す結果となった。
これに対して、逃げ面およびチップブレーカの金属シミダシ層が除去されていない比較例6では、この切れ刃の金属シミダシ層に被削材や切りくずの溶着が発生しやすく仕上げ面が毛羽立ち白濁を示した。また、この切りくずの溶着現象の発生とさらにインサート切れ刃の表面粗さや圧縮残留応力が十分でないことにより、やはり短時間で使用切れ刃に欠損を生じた。
貫通穴内部に金属シミダシ層が生成しているものの、その表面占有率が56面積%しかない比較例7は、同一工程順序、処理条件で製造された、しかし、貫通穴内部の金属シミダシ層の表面占有率63面積%を有する本発明9と比較して、クランプ用ねじと接触する貫通穴内面から大破し、短寿命を示した。
貫通穴内部に金属シミダシ層のない比較例8は、切削初期にクランプ用ねじと接触する貫通穴内面から大破した。このため、比較例7,8では、継続する切削がある場合は、他の切れ刃に交換することができなく、インサートそのものを交換する必要がある。
表1〜6に示される結果から、本発明のTiCN基サーメット製切削インサートおよびその製造方法によれば、工具本体へのインサート取り付け用貫通穴の内面の最表面部には、所定の表面占有率(面積率)を有し、所定層厚の金属シミダシ層が形成されているため、これに接触するクランプ手段との接触面における亀裂・破損の発生を防止し得るとともに、また、逃げ面およびチップブレーカの表面粗さは、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であり、さらに、表面部の硬質相の残留応力が、圧縮で450MPa以上であることから、高負荷が作用する切削加工において優れた耐欠損性、仕上げ面精度を示し、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し、工具寿命の延命化が可能である。
これに対して、工具本体へのインサート取り付け用貫通穴の内面の最表面部に、所定の表面占有率(面積率)、層厚の金属シミダシ層が形成されていない比較例のインサートでは、高負荷条件の切削加工においては、切削初期にクランプ用ねじと接触する貫通穴内面から大破し、他の切れ刃に交換することができなくなって、インサートそのものが短時間で寿命となってしまった。
本発明によれば、切刃に対して高負荷が作用する切削条件下で、優れた耐欠損性を備え、かつ、仕上げ面精度の優れた切削加工表面の形成を可能とするTiCN基サーメット製切削インサートを提供することができるばかりか、このインサートを通常条件の切削加工に適用した場合にも、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削加工の省エネ化、低コスト化に十分満足に対応することができるものである。

Claims (11)

  1. 工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部およびすくい面を備える炭窒化チタン基サーメット製切削インサートにおいて、すくい面にチップブレーカを備えるとともに上記貫通穴が主として焼結肌で構成され、その貫通穴内面の最表面部にはCo、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる金属シミダシ層が0.1μm以上5μm以下の層厚かつ60面積%以上の表面占有率で形成されており、一方、逃げ面およびチップブレーカの表面には上記金属シミダシ層が存在せず、かつ、該逃げ面およびチップブレーカの表面粗さは、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であることを特徴とする炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
  2. 貫通穴内面の金属シミダシ層の表面占有率が80面積%以上である請求項1に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
  3. 上記インサートの少なくともすくい面の表面部の硬質相の残留応力が、圧縮で450MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
  4. 上記インサートの少なくともすくい面の表面部の硬質相の残留応力が、圧縮で600MPa以上であることを特徴とする請求項3に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
  5. 上記インサートの刃先先端のホーニング部の表面粗さが、インサートの逃げ面およびチップブレーカの表面粗さより小さく形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
  6. 上記ホーニング部の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.1μm以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサート。
  7. 工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部、すくい面、およびすくい面にチップブレーカを備える炭窒化チタン基サーメット製切削インサートを製造する方法において、上記インサートの表面に、Co、Niの1種または2種を主成分とする実質単一相からなる金属シミダシ層を形成し、次いで、上記インサートを軸線回りに回転可能な一対の回転軸により挟み込んで保持しつつ上記軸線回りに回転させながら、少なくとも一つ以上のブラストガンにより研磨液を噴射してウエットブラスト処理を施すことにより、上記貫通穴内面の表面部には金属シミダシ層を形成させたまま、上記逃げ面およびチップブレーカの表面から上記金属シミダシ層を除去し、上記逃げ面およびチップブレーカの表面粗さを、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下とし、かつ、少なくともすくい面の表面部の硬質相の残留応力を圧縮で450MPa以上とすることを特徴とする炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
  8. 上記インサートを回転可能に挟み込む上記回転軸の軸線方向に対して、30度以上60度以下の噴射角で、ブラストガンから研磨液を噴射してウエットブラスト処理を施す請求項7に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
  9. 上記噴射角が40度以上50度以下である請求項8に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
  10. 上記インサートにウエットブラスト処理を施した後、上記インサートの刃先先端部にホーニング加工を施す請求項7乃至9のいずれか一項に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
  11. 上記ホーニング加工を、湿式ブラシホーニングで施す請求項7乃至10のいずれか一項に記載の炭窒化チタン基サーメット製切削インサートの製造方法。
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