JP2011212012A - 植物苗の病害虫防除方法及び設備 - Google Patents

植物苗の病害虫防除方法及び設備 Download PDF

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Abstract

【課題】一度に大量の処理が要求され且つ草丈の低いイチゴ苗に特に好適な、化学合成農薬に頼らない、そして温湯を使用しない、病害虫防除方法と設備を提案する。
【解決手段】設備は、植物苗が植え付けられた育苗容器(P)を支持する可動棚(7A)が使用され、この可動棚(7A)を処理空間(処理室(2))内に出し入れ自在に設置し、ファン・ヒーターユニット(20A)と加湿ノズル(22a)を利用して、当該処理空間(処理室(2))内に、所要温度に調整した飽和水蒸気流を、前記可動棚(7A)上を水平に流動するように生成させ、当該飽和水蒸気流中に前記植物苗を、熱傷害を受けない範囲内の時間だけ曝しておくものである。
【選択図】図3

Description

本発明は、イチゴ等の植物の育苗期間中の病害虫防除方法と、この方法を実施するのに好適な設備に関するものである。
食の安全・安心志向の高まる中、病害虫防除における化学合成農薬の使用量の削減は避けて通れない課題となっている。以下、イチゴを例にとって説明すると、イチゴの作期は長く病虫害も数多い。安定生産のためには農薬による防除が欠かせないが、化学農薬に耐性のついた病害虫が多く、有効な薬剤が減少しているため、薬剤に頼らない防除法の開発が望まれている。イチゴのような促成作型においては、無病害虫苗の定植により、本圃施設内へのハダニ、アブラムシ、うどんこ病等の病害虫の持ち込みを減少させることが出来、さらに生物農薬の効果を安定させられることが明らかとなっている。そのため、苗の無病害虫化は本圃での減農薬達成には重要な手段であるが、現状では育苗期間中の病害虫防除は化学農薬に頼っており、上述のように薬剤耐性のため、防除困難になりつつある。
そこで化学農薬に替わるイチゴ苗の病害虫防除法として、下記のような温湯処理が検討されている。即ち、
方法A 50℃前後の温湯にポット苗を浸漬し、ハダニやうどんこ病菌などの表在性微小 害虫や病原菌を防除する方法(非特許文献1〜4)。これら文献によれば、ミカンキ イロアザミウマは45℃・5分で死滅し、カンザワハダニは53℃・2分で死滅し、ワタア ブラムシは48℃・30秒で死滅した。又、うどんこ病菌は、45℃・3分30秒、或いは50
℃・30秒で完全に不活化した。一方、48℃・5分と50℃・3分ではイチゴ苗への直接的 な傷害、その後の生育、開花への影響はなかった。
方法B 上記の他には、株の中心部に寄生するシクラメンホコリダニの防除方法として 、55℃±2℃の温湯を株のクラウン部へ灌注処理する方法が知られている。
(非特許文献5,6)
方法C 又、熱処理によって植物の抵抗性を誘導することも試みられている。
(非特許文献7)
小板橋基夫・西村範夫「温湯浸漬によるイチゴうどんこ病菌の不活化処理法の検討」日本植物病理学会報 2002年 68(1),P48 小板橋基夫・中島規子・柏尾具俊・西村範夫「温湯浸漬によるイチゴうどんこ病およびハダニの不活化処理法の検討」日本植物病理学会報 2002年 68(2),P197 中島規子・大和陽一・柏尾具俊・小板橋基夫「温湯浸漬処理がイチゴ苗に及ぼす影響と病害虫の防除効果」園芸学会雑誌 別冊 園芸学会大会研究発表2002年 71(2),P154 柏尾具役・中島規子「イチゴ苗に寄生したミカンキイロアザミウマ、カンザワハダニ、ワタアブラムシの温湯浸漬による殺虫法」日本応用動物昆虫学会大会講演要旨 2003年 47,P22 水越亨・後藤昌人「イチゴのシクラメンホコリダニに対する温湯灌注防除法」北日本病害虫研究会報 2004年 55:P232−P235 水越亨「イチゴのシクラメンホコリダニに対する温湯灌注防除法」今月の農業 2005年 49(6),P62−P65 佐藤達雄「熱ショックによる野菜の病害抵抗性の誘導」農林水産技術研究ジャーナル 2009年 32(7),P31−P35
イチゴは10アールあたり7000〜8000株を本圃に定植するため、一度に大量の苗を処理する必要がある。従って、方法Aでは大型水槽が必要となる。又、方法Bや方法Cでは、1株ごとの処理になるため多大な労力が必要となり、特に方法Bでは通常の薬剤散布に比して6倍の時間が必要になる。更に、上記の方法は全て熱媒体として温湯を利用するものであり、方法Aのように温湯に苗を浸漬する方法では、処理作業毎に低温になった温湯の再加熱が必要であり、方法Bや方法Cのように温湯灌注では、1株あたり500〜1000mlの温湯が必要となるため、どちらも大量の水を加熱する際に莫大なエネルギーが必要となる。特に方法Bや方法Cでは、定植後の圃場に大量の温湯を散布するため、湿害の発生が懸念されることや作業効率が悪いことが問題である。又、方法Cでは施設の密閉による温度上昇を利用することも出来るが、実施時期は夏期に限られる。
本発明は、上記のような従来の問題点を解消することの出来る植物苗の病害虫防除方法を提案するものであって、請求項1に記載の本発明に係る植物苗の病害虫防除方法は、植物苗を囲む処理空間(処理室(2))内に、所要温度に調整した飽和水蒸気流を、前記植物苗の上側を水平に流動するように生成させ、当該飽和水蒸気流中に前記植物苗を、熱傷害を受けない範囲内の時間だけ曝しておくことを特徴とするものである。具体的には、請求項2に記載のように、前記植物苗は、育苗容器(P)に植え込まれた状態で可動棚(7A)上に載置され、この可動棚(7A)が前記処理空間(処理室(2))内に対して出し入れされる。又、この本発明方法をイチゴ苗に実施する場合は、請求項3に記載のように、前記飽和水蒸気流中にイチゴ苗を曝しておく時間を、当該飽和水蒸気が温度50℃のときで5〜10分間、当該飽和水蒸気が温度52℃のときで5分間として、実施することが出来る。
本発明は又、上記の植物苗の病害虫防除方法を実施するのに好適な植物苗の病害虫防除設備も提案する。即ち、請求項4に記載の本発明に係る植物苗の病害虫防除設備は、後述する実施例との関係を理解し易くするために、当該実施例の説明において使用した参照符号を括弧付きで付して示すと、植物苗が植え込まれた育苗容器(P)を支持する移動自在な可動棚(7A)と、この可動棚(7A)を出し入れするための開閉自在な出入り口(4)を備えた処理室(2)と、この処理室(2)内の定位置に搬入された前記可動棚(7A)上の育苗容器(P)の上側空間を水平に流動する蒸熱処理流路(32A)を含む循環流路中に飽和水蒸気流を生成する飽和水蒸気流生成手段を備え、この飽和水蒸気流生成手段は、前記循環流路中に設けられたファン・ヒーターユニット(20A〜20C)と、当該循環流路中に水を噴霧する加湿ノズル(22a〜22d)と、前記循環流路中の温度・湿度を検出する温湿度センサー(29)と、前記ファン・ヒーターユニット(20A〜20C)及び前記加湿ノズル(22a〜22d)からの水の噴霧を前記温湿度センサー(29)からの検出情報と設定時間に基づいて制御する制御装置(28)を備えた構成になっている。
上記本発明設備を実施する場合、具体的には請求項5に記載のように、前記飽和水蒸気流生成手段が生成する前記循環流路は、前記処理室(2)内の可動棚移動方向に対して直交する水平横向きの前記蒸熱処理流路(32A)、可動棚(7A)の前記移動方向と平行な一側辺側を降下する降下流路(空隙部(18))、前記可動棚(7A)の下側の逆向き水平流路(蒸熱処理流路(32B))、及び前記可動棚(7A)の他側辺側を上昇する上昇流路(空隙部(17))によって形成することが出来る。この場合、請求項6に記載のように、前記ファン・ヒーターユニット(20A〜20C)は、前記蒸熱処理流路(32A)と前記上昇流路(空隙部(17))との間を仕切るように設けられた垂直な隔壁(2e)に設け、前記加湿ノズル(22a〜22d)は、前記隔壁(2e)より前記蒸熱処理流路(32A)側に配設することが出来る。更に、請求項7に記載のように、前記可動棚(7A)の下側空間を当該可動棚(7A)の移動方向と平行に移動する少なくとも1つの下段可動棚(7B,7C)を設け、前記循環流路の逆向き水平流路によって前記下段可動棚(7B,7C)上の蒸熱処理流路(32B,32C)を形成し、最下段の可動棚(7C)には、その下側に前記逆向き水平流路が生じるのを防止する側壁(34)を設けることが出来る。
又、請求項8に記載のように、処理室(2)の前記出入り口(4)は、当該処理室(2)内の可動棚移動方向の少なくとも一端側に設け、前記可動棚(7A)は、処理室(2)内の可動棚移動方向の全域を占める長さを有するものとすることが出来る。又、請求項9に記載のように、処理室(2)の前記開閉自在な出入り口(4)は、処理室(2)内の可動棚移動方向の両端に設けることも出来る。
更に、請求項10に記載のように、処理室(41)内には、複数台の可動棚(40)が並列収納される可動棚収納空間(42)を設け、この可動棚収納空間(42)内に前記蒸熱処理流路を、当該可動棚収納空間(42)内の可動棚並列方向と平行に飽和水蒸気が流れる方向に形成することが出来る。この場合、請求項11に記載のように、飽和水蒸気流生成手段が生成する循環流路は、前記可動棚収納空間(42)内の可動棚並列方向と平行な前記蒸熱処理流路、前記可動棚収納空間(42)の可動棚並列方向の一端外側の上昇流路(垂直空間(49))、前記可動棚収納空間(42)の上側の逆向き水平流路(水平空間(44))、及び前記可動棚収納空間(42)の可動棚並列方向の他端外側の降下流路(垂直空間(51))によって構成し、開閉自在な出入り口(55)は、前記可動棚収納空間(42)の可動棚並列方向と平行な側壁(41a)に設けることが出来る。
又、ファン・ヒーターユニットはファン部(ファンユニット(50a〜50d))とヒーター部(ヒーターユニット(53a,53b))とに分割し、請求項12に記載のように、ファン部(ファンユニット(50a〜50d))は、前記蒸熱処理流路(可動棚収納空間(42))と前記上昇流路(垂直空間(49))との間を仕切る垂直な隔壁(間仕切り壁ユニット(47))の前記上昇流路(垂直空間(49))側に設け、前記ヒーター部(ヒーターユニット(53a,53b))と加湿ノズル(54a)は、前記逆向き水平流路(水平空間(44))内に設けることが出来る。更に、請求項13に記載のように、前記各可動棚(40)は、育苗容器(P)を載置する棚板(40a)を上下複数段に備えると共に、各段の棚板(40a)上空間が前記可動棚収納空間(42)内の可動棚並列方向に貫通開放されたものとし、前記降下流路(垂直空間(51))内には、降下する飽和水蒸気流を前記可動棚収納空間(42)内の上下方向の全域に分散させて当該可動棚収納空間(42)内に流入させる整流ガイド(52a〜52c)を配設することが出来る。
尚、前記処理室(2)は、請求項14に記載のように、室温を設定低温に保持するクーラー(室内ユニット(5)及び室外ユニット(6))を備えた夜冷庫の植物苗収蔵室を利用して構成することが出来る。
請求項1に記載の本発明方法によれば、処理空間を大きくして、一度に数千の植物苗を収容出来るように構成しても、苗を熱処理する熱媒体として飽和水蒸気を用いるものであるから、温湯を熱媒体として利用する場合よりも、処理空間内雰囲気の温湿度や処理時間の制御が容易であり、病害虫を死滅させるのに十分で且つ植物には重大な傷害を発生させない温湿度の維持が可能である。特に、大量の育苗が必要なイチゴ栽培において効果的である。又、飽和水蒸気の比熱は水より遥かに小さいため、少ないエネルギーで速やかな温度上昇が可能であるから、ランニングコストも低く抑えることが出来る。尚、使用する飽和水蒸気の湿度は、95〜98%が好ましい。
上記本発明方法は、ビニールハウスなどの囲いの内部で植物苗を露地植えしたり、ビニールハウスなどの囲いの内部で地面上に多数の育苗容器を直置きしている既設の環境においても、当該ビニールハウスなどの囲いの内部を処理空間として実施することが可能であるが、請求項2に記載のように、前記処理空間内に対して出し入れ自在な可動棚上に、植物苗を植えこんだポットなどの育苗容器を載置して処理すれば、処理空間や前記飽和水蒸気流生成手段を膨大な量の植物苗の処理に効率良く活用することが出来、その経済的効果は甚大である。勿論、圃場に湿害などの悪影響を及ぼさないで済む。尚、前記のような既設の環境において本発明方法を実施する場合、飽和水蒸気流生成手段に必要な加湿ノズルは、既設の設備が備える水噴霧手段を利用することも出来る。
更に、請求項3に記載の本発明方法では、飽和水蒸気の温度を50〜52℃としている。これは、次の表1〜表4に示す実験結果から得られた知見事項、即ち、1)イチゴ苗の場合、湿度95%の飽和水蒸気を条件に、48℃・30分間以下、50℃・10分間以下、52℃・5分間以下の処理時間であれば、殆ど傷害が発生しない。2)ハダニは50℃・5分間以上の処理で死滅する。3)アブラムシは44℃・5分間以上の処理でほぼ完全に死滅する。4)うどんこ病菌は44℃・10分間以上の処理でほぼ完全に分生子の再生が観察されなくなる。という知見事項に基づいている。即ち、飽和水蒸気の温度が50℃未満の低温であっても、処理時間を長くすればそれなりの病害虫防除の効果は得られると思われるが、請求項2に記載の本発明方法では、大量の苗を処理する場合の実用面から考察して、飽和水蒸気の温度を50〜52℃とし、僅か5〜10分間の蒸熱処理を行うだけで、イチゴ苗に枯死に至るような致命的な熱的傷害を発生させずに、ハダニ、アブラムシ、うどんこ病の同時防除を可能としたものである。換言すれば、請求項3に記載の本発明方法によれば、大量のイチゴ苗を能率良く蒸熱処理しながら所期の病害虫防除の効果を確実に得ることが出来る。
勿論、本発明方法は、各種の植物苗を蒸熱処理の対象とするものであって、イチゴ苗に限定されるものではない。本発明の蒸熱処理によって植物苗が受ける熱的傷害の程度、即ち、耐熱性は、植物の種類などによって異なることは当然予想される。従って、本発明の蒸熱処理を施す植物苗がイチゴ苗でない場合は、下記に説明するイチゴ苗に対する耐熱性実験の要領で、処理対象の植物苗の耐熱性実験を行なって、実際の耐熱性を見極め、この耐熱性に応じて、飽和水蒸気の温度と曝される時間の長さを設定しなければならない。以下、上記1)〜4)の知見事項を得るために行なった実験内容とその結果を説明する。
イチゴ苗の耐熱性について行なった蒸熱処理の実験結果は、表1に示す通りである。
実験方法は、ガラス室で育苗中の4株のイチゴポット苗を、温度48℃、50℃、52℃、及び54℃の飽和水蒸気中にそれぞれ5分間、10分間、20分間、及び30分間、曝した結果を判定することである。その結果は、
54℃・10分又は54℃・20分の蒸熱処理では地上部は殆ど枯死した。
52℃・10分間の蒸熱処理では一部の葉に傷害(ヤケ症状など)が認められ、4株中2株 で新葉が発生しなくなった。
52℃・20分間の蒸熱処理では殆どの葉に傷害が認められた。
50℃・10分間の蒸熱処理では傷害は軽微であった。
50℃・20分間の蒸熱処理では一部の葉に傷害が認められるものの、52℃・10分間の蒸熱 処理より傷害は軽微であった。
50℃・30分間の蒸熱処理では52℃・20分間の蒸熱処理より傷害は軽微ではあるが、4株 中2株で新葉が発生しなくなった。
48℃の蒸熱処理では30分間でも傷害は認められない。
尚、表1において、○:葉に傷害が無いか又は軽微、△:葉に傷害が出るが枯死には至らない、×:枯死する、を表している。
イチゴ苗の耐熱性
Figure 2011212012
ハダニ・アブラムシに対する蒸熱処理の殺虫効果を得るために行なった実験結果は、表2及び表3に示す通りである。
その実験方法は、ハダニ或いはアブラムシの発生したイチゴ圃場から葉柄ごと複葉を採集し、実体顕微鏡で確認しながらリーフパンチにて直径15mmのリーフディスクをハダニ或いはアブラムシごと打ち抜き、両面テープでシャーレに10枚貼り付けた。そしてこのシャーレごと、温度46℃、48℃、及び50℃の飽和水蒸気中にそれぞれ5分間、10分間、20分間、及び30分間、曝す蒸熱処理を行い、死亡虫数を計数することである。
ハダニの死亡率(%)
Figure 2011212012
アブラムシの死亡率(%)
Figure 2011212012
イチゴうどんこ病菌の蒸熱処理による殺菌効果を得るために行なった実験結果は、表4に示す通りである。
実験に使用したうどんこ病菌は、9cmポットに育苗したイチゴ苗(品種とよのか)に発生したものを20℃に保った室内で培養し、上位葉に新たに発生した生育の旺盛なものを使用した。
蒸熱処理には、うどんこ病を発症した部位を葉柄ごと切り取り、温度40℃、42℃、及び44℃の飽和水蒸気中にそれぞれ10分間、20分間、及び30分間、曝す条件で蒸熱処理を行った。この蒸熱処理を施したものと無処理のものそれぞれについて、小葉ごとに切り分け、湿らせた濾紙を敷いたシャーレに入れて、20℃の室内で乾燥しないように培養し、3日後、実体顕微鏡にて一つの病斑につき3カ所を観察し、発病程度を以下の様に指数化し、発病度、即ち、
発病度={Σ(発病指数×各発病指数の視野数)/(4×調査視野数)}×100
を算定した。ここで
発病指数0:全く分生子が再生しない
発病指数1:視野内4mm2に再生した分生子が25%未満の範囲で観察される。
発病指数2:視野内4mm2に再生した分生子が25%以上50%未満の範囲で観察される。
発病指数3:視野内4mm2に再生した分生子が50%以上の範囲で観察される。
発病指数4:無処理のものと同様に長く再生した分生子が観察される。
とする。そして上記蒸熱処理を行なっていない無処理のものと発病度を比較し、防除価を算出した。
うどんこ病菌の防除価(%)
Figure 2011212012
尚、上記本発明方法を実施する場合、請求項4に記載の本発明設備によれば、制御装置により、ファン・ヒーターユニット及び前記加湿ノズルからの水の噴霧を、循環流路中の温度・湿度を検出する温湿度センサーからの検出情報と設定時間に基づいて制御することにより、適正な温湿度に維持された飽和水蒸気流を、可動棚上に載置された育苗容器の苗の株元に水平横向きに流通させ、草丈の低いイチゴ苗であっても、本発明方法による病害虫防除のための蒸熱処理を確実且つ効果的に適用することが出来る。勿論、育苗容器を載置した可動棚を処理室に対して出し入れするものであるから、大量の育苗容器の処理を少ない労力で能率良く処理することが出来る。
又、請求項5に記載の構成によれば、可動棚の周囲には、当該可動棚を挟むように降下流路と上昇流路を形成するだけで良く、これら降下流路と上昇流路は横断面積をそれほど必要としないので、処理室の平面積は使用する可動棚に合わせて最小限に抑えることが出来る。又、生成した飽和水蒸気の流れ方向を可動棚移動方向に対し直交する左右横方向に限定されるので、可動棚上に載置された全ての育苗容器の植物苗に対して均等に飽和水蒸気流を接触させ、ムラのない蒸熱処理が期待出来る。この場合、請求項6に記載の構成によれば、可動棚上側の広い空間を利用して加熱空気と噴霧水とをムラなく混合して均質な飽和水蒸気を生成出来る。更に、請求項7に記載の構成によれば、上下複数段の可動棚を利用して、処理室内の空間を効率良く蒸熱処理に活用することが出来、1つの処理室で一度に処理出来る苗の量を大幅に増大させることが出来る。又、苗の収納に利用されない最下段の可動棚の下側空間を飽和水蒸気が流動するのを防止し、生成した飽和水蒸気を効率良く有効活用出来る。
尚、処理室内の可動棚移動方向に複数台の可動棚を並列させるように構成することも出来るが、請求項8に記載の構成によれば、処理室内に平面視で1台の可動棚を収納するだけであるから、処理室内に複数台の可動棚を並列させなければならない場合と比較して可動棚の出し入れを能率的に行える。この場合、請求項9に記載の構成によれば、可動棚を少なくとも2組準備しておくだけで、処理室内で1組(1台又は複数台)の可動棚を利用して蒸熱処理を行なっている間に、他の組の1台又は複数台の可動棚を処理室の一方の出入り口の外で育苗容器の積み込み作業を行い、処理室内での蒸熱処理が済んだ1組の可動棚は、他方の出入り口から処理室外に搬出して処理済み育苗容器の降ろし作業を行なうと共に、入れ替わりに、一方の出入り口の外で待機している他の組の育苗容器積み込み済みの可動棚を一方の出入り口から処理室内に搬入するというように、処理室の両端の出入り口を交互に利用して、処理済み可動棚の搬出と処理前可動棚の搬入とを連続的に行なうことが出来る。即ち、処理室外に搬出した処理済み可動棚から処理済み育苗容器を降ろし、この後、空になった可動棚に処理前育苗容器を積み込んで処理室内に搬入するまでの、処理室内が空いた状態になる無駄な待ち時間を無くして、処理室を効率的に稼働させ、大量の育苗容器も能率良く処理出来る。勿論、複数台の可動棚を処理室内で可動棚移動方向に並列させる場合でも、その複数台の可動棚を前後二組に分けて、両側の出入り口を利用して短時間に能率良く出し入れすることが出来る。
又、請求項10に記載の構成によれば、奥行きが短く左右横巾が長い一般的な棚を可動棚として利用し易くなり、処理室の規模を大きくしても、取り扱う可動棚自体は小型のものを利用できるので、可動棚の取り扱いが容易である。しかも、可動棚収納空間内の蒸熱処理流路は、可動棚収納空間内の可動棚並列方向と平行であるから、当該可動棚収納空間の可動棚並列方向の長さを長大にして可動棚並列台数を増やし、処理能力の大きな設備を構成する場合でも、その可動棚収納空間内の全域にムラなく飽和水蒸気を流動させ、ムラの無い均質な蒸熱処理が容易に行える。
上記請求項10に記載の構成を採用する場合、可動棚収納空間内を流動した後の飽和水蒸気を元に戻す逆向き流路は、可動棚収納空間の横側部に配設することも出来るが、請求項11に記載の構成によれば、可動棚収納空間の上側に逆向き水平流路を形成するので、処理室の占有床面積を小さく抑えることが出来る。又、可動棚収納空間内への可動棚の出入り口は、飽和水蒸気流生成手段が生成する循環流路と干渉する恐れのない可動棚収納空間の可動棚並列方向と平行な側壁に設けるので、当該出入り口を、必要最小限のサイズに抑えて簡単容易に構成することが出来る。更に、請求項12に記載の構成によれば、可動棚収納空間の前後両端に配設される上昇流路と降下流路の、可動棚収納空間内の可動棚並列方向の厚さを、最小限に抑えることが出来、しかも均質に加熱加湿された飽和水蒸気を生成して、良好な蒸熱処理を実現出来る。又、請求項13に記載の構成によれば、育苗容器を多段に収納出来る収納効率の良い可動棚を活用しながら、降下流路を降下する飽和水蒸気流を可動棚収納空間内の高さ方向の全域、即ち、可動棚の各段上の植物苗に対して均等に供給流入させることが出来、ムラの無い良好な蒸熱処理を行わせることが出来る。
更に、請求項14に記載の構成によれば、1つの処理室を、本発明方法による蒸熱処理のための設備と、蒸熱処理を済ませた育苗期間中の苗の夜冷処理を行なうための夜冷庫とに兼用することが出来、その経済効果は甚大である。
図1は、本発明方法を実施するための設備の第1実施例を示す横断平面図である。 図2は、同上設備の縦断側面図である。 図3は、同上設備の縦断正面図である。 図4は、本発明方法を実施するための設備の第2実施例を示す横断平面図である。 図5は、本発明方法を実施するための設備の第3実施例を示す縦断側面図である。 図6は、同上設備の横断平面図である。 図7は、同上設備の可動棚収納空間の終端付近での縦断正面図である。 図8は、同上設備の可動棚収納空間の中間位置付近での縦断背面図である。
以下、本発明方法を実施するための設備の第1実施例を図1〜図3に基づいて説明すると、この実施例に係る蒸熱処理設備は、既存の夜冷庫を改造したものであって、建屋1内の処理室2は平面視長方形の矩形立方体状のもので、その長手方向の一端には、当該処理室2の左右横幅の略全体が開放出来る、両開き観音扉式の開閉扉3を備えた出入り口4が設けられ、当該処理室2の長手方向の他端上部には、夜冷庫として使用するときに室温を設定低温に保持するクーラーの室内ユニット5が取り付けられている。6は、建屋1の外に設置されたクーラーの室外ユニットである。
7A〜7Cは使用する可動棚であって、それぞれ平面視長方形の支持台8と、この支持台8の長手方向と平行な左右両側辺の下側に長手方向適当間隔おきに設けられた脚柱9と、各脚柱9の下端に取り付けられた溝付き車輪10とから構成されている。これら3台の可動棚7A〜7Cは、長手方向の全長は互いに等しくて、処理室2の長手方向の全長より少し短い程度のものであるが、最上段可動棚7Aの左右両脚柱9間に中段可動棚7Bが入り込むと共に、中段可動棚7Bの左右両脚柱9間に最下段可動棚7Cが入り込めるように、各可動棚7A〜7Cの左右横幅が変えられ、高さに関しては、最下段可動棚7Cの支持台8が床面に接近し、中段可動棚7Bの支持台8が最下段可動棚7Cの支持台8と最上段可動棚7Aの支持台8との間の略中間高さに位置するように変えられている。勿論、最下段可動棚7Cの支持台8と中段可動棚7Bの支持台8との間、及び中段可動棚7Bの支持台8と最上段可動棚7Aの支持台8との間には、育苗容器Pに植え付けられた処理対象苗の全高より十分高い蒸熱処理空間が確保されている。
上記入れ子式の三段の可動棚7A〜7Cは、それぞれ左右一対の山形断面のガイドレール11a,11b、12a,12b、及び13a,13bに前記溝付き車輪10を介して走行自在に支持されるものであり、当該三組のガイドレール11a〜13bは、処理室2の外と処理室2内との間で出入り口4を経由して連続するように床面上に敷設され、処理室2内では、当該処理室2の左右横幅方向に関して略左右対称に敷設されている。
従って、各段の可動棚7A〜7Cは、ガイドレール11a〜13b上で手押し移動させることにより、開閉扉3が開かれた出入り口4から処理室2内に搬入し、この処理室2内では、最上段可動棚7Aの下側内側に中段可動棚7Bが入り込み、この中段可動棚7Bの下側内側に最下段可動棚7Cが入り込む状態に、入れ子式に互いに嵌合させることが出来る。この状態で開閉扉3を閉じるのであるが、各段の可動棚7A〜7Cの長手方向の前端と処理室2の出入り口4に対面する奥壁2aとの間に生じる隙間、及び各段の可動棚7A〜7Cの長手方向の後端と閉じられた開閉扉3との間に生じる隙間を塞ぐ隙間閉塞部材(ゴム製のパッキング材など)14a,14b、15a,15b、及び16a,16bが、各段の可動棚7A〜7Cの長手方向の前後両側辺に取り付けられている。又、各段の可動棚7A〜7C(支持台8)の左右両側辺と処理室2の左右両側壁部2b,2cとの間には、これら左右両側壁部2b,2cに沿って上下方向の空隙部17,18が形成される。
尚、出入り口4を通過するように床面上にガイドレール11a〜13bが敷設されている場合、開閉扉3はガイドレール11a〜13bと干渉しないように、床面との間に隙間を確保する必要がある。この場合は、閉じられた開閉扉3の下側辺と床面との間の隙間を閉じるための隙間閉塞部材(ゴム製のパッキング材など)19を併用することになるが、この隙間閉塞部材19は、開閉扉3の下側辺に取り付けて垂下させておくことも出来るし、開閉扉3を閉じる前に床面上の所定位置に配置して、閉じた開閉扉3の下側辺がこの隙間閉塞部材19に当接するようにしても良い。
処理室2内には、上記のようにこの処理室2内の所定位置まで搬入された最上段の可動棚7Aより上側でその一側辺寄りの位置、即ち、片側の側壁部2bに近い位置に、処理室2の天井部2dから垂直に垂下する隔壁2eが、当該処理室2の前後方向の全長にわたって連続するように設けられている。この隔壁2eは、その下側辺が最上段の可動棚7Aの支持台8の上に接近するものであって、当該隔壁2eに複数台のファン・ヒーターユニット20A〜20Cが、最上段の可動棚7Aの上側空間に向かって送風する向きに、処理室2の前後長さ方向適当間隔おきに取り付けられている。各ファン・ヒーターユニット20A〜20Cは、モーター21aにより駆動されるファン部21bと、このファン部21bの風下側に位置する電気ヒーター部21cとから構成されている。更に、最上段可動棚7Aの上側空間には、処理室2の前後長さ方向適当間隔おきに複数の加湿ノズル22a〜22dが、前記隔壁2eに近い位置で且つ最上段可動棚7Aの上側空間に向かって水を噴霧する向きに配設されている。各加湿ノズル22a〜22dは、処理室2の天井部2dに取り付けられて垂下する支持用ブラケット23に水平に支持された共通給水管24に接続支持されたもので、当該共通給水管24から供給される水を、共通エアー配管25から供給される圧力エアーによって平均10μmの微粒化して噴霧するエアー噴霧式のものである。
加湿ノズル22a〜22dに給水する共通給水管24は、送水ポンプ26aや加湿ノズル22a〜22dの目詰まりを防止するためのフィルター(例えば5μm用濾過フィルターと1μm用濾過フィルターの組合せ)などを含む、処理室2の外に設置された送水ユニット26に接続され、加湿ノズル22a〜22dに圧力エアーを送る共通エアー配管25は、処理室2の外に設置されたエアーコンプレッサー27aを含む送気ユニット27に接続されている。これら送水ユニット26、送気ユニット27、及び各ファン・ヒーターユニット20A〜20Cは、処理室2の外に設置された制御装置28により、処理室2内の前記上下方向の空隙部17に設置された温湿度センサー29からの検出情報29a、人為的に設定された運転時間情報30、及び起動信号31などに基づいて運転制御される。
而して、各ファン・ヒーターユニット20A〜20C、送水ユニット26、及び送気ユニット27を稼働させることにより、各ファン・ヒーターユニット20A〜20Cから送出された加熱空気流に各加湿ノズル22a〜22dから噴霧される水が加えられて、所定温度の飽和水蒸気流が生成され、この飽和水蒸気流が、処理室2の天井部2dの下側を水平に流動した後、処理室2の側壁部2cに沿って降下し、次に処理室2の床面側を逆向きに水平に流動した後、処理室2の側壁部2bに沿って上昇し、各ファン・ヒーターユニット20A〜20Cによって吸引されることにより、処理室2内を、その前後長さ方向の略全域において左右幅方向に上下循環流動することになる。従って、この処理室2内に先に説明したように各段可動棚7A〜7Cを所定位置まで搬入し且つ開閉扉3を閉じておけば、最上段可動棚7Aの上側の蒸熱処理流路32Aを水平正方向に流動する飽和水蒸気流、処理室2の側壁部2cと各段可動棚7A〜7Cとの間の上下方向の空隙部18から中段可動棚7Bの上側の蒸熱処理流路32Bを水平逆方向に流動する飽和水蒸気流、及び前記上下方向の空隙部18から最下段可動棚7Cの上側の蒸熱処理流路32Cを水平逆方向に流動する飽和水蒸気流が生成されることになる。
尚、各段可動棚7A〜7Cの支持台8が、一般的な育苗棚と同様に、エキスパンドメタルなどの通風、通水性のあるネット状部材が敷設されて構成されている場合には、この支持台8上の蒸熱処理流路32A〜32Cを流動する飽和水蒸気流の一部が各段可動棚7A〜7Cの支持台8を上下方向に通過流動する恐れがある。従って、上記のような構成の支持台8が使用されているときには、当該支持台8の上の少なくとも育苗容器Pを支持する領域に、少なくとも飽和水蒸気流の通過を抑制出来る薄板状素材、例えばステンレス鋼板製の仕切り33を敷設することが出来る。尚、各段可動棚7A〜7Cと処理室2の左右両側壁部2b,2cとの間の上下方向の空隙部17,18の幅が狭いときには、仕切り33の存在により、各段可動棚7A〜7Cの上側の蒸熱処理流路32A〜32Cと前記上下方向の空隙部17,18との間の飽和水蒸気流の流れが悪くなるので、このような場合には、前記仕切り33は、支持台8の左右横巾の全域に敷設しないで、図示のように、支持台8の左右両側辺から適当距離だけ内側に入った領域にのみ敷設することが出来る。勿論、最下段可動棚7Cの下側には蒸熱処理流路を形成する必要がないので、最下段可動棚7Cの支持台8上には、その左右横幅の全域に仕切り33を敷設すると共に、最下段可動棚7Cの下側に無駄に飽和水蒸気流が流入するのを防止するために、最下段可動棚7Cの前記空隙18側の側辺に側壁34を張設するのが望ましい。
ファン・ヒーターユニット20A〜20Cは、最上段可動棚7Aの上側空間に対して横側方に離れて位置しているのではなく、最上段可動棚7Aの上側空間内の側辺寄りにあって且つ当該最上段可動棚7Aの支持台8より上方に離れて位置しているので、このファン・ヒーターユニット20A〜20Cから送出される飽和水蒸気流は、最上段可動棚7Aの支持台8上で隔壁2eに近い領域には殆ど流れないことになる。従って、最上段可動棚7Aの支持台8上の育苗容器載置エリアは、隔壁2eから出来る限り離して設定することが望ましいが、図示のように、最上段可動棚7Aの支持台8上に対する仕切り33の敷設エリアを隔壁2eから離して、この最上段可動棚7Aの支持台8上の仕切り33の敷設エリアと隔壁2eとの間に、飽和水蒸気流が下方に通過流動するエリアを形成することにより、最上段可動棚7Aの支持台8上の育苗容器載置エリアを隔壁2e側に広げても、当該隔壁2eに近い育苗容器載置エリアに載置された育苗容器Pに対しても、飽和水蒸気流を作用させることが可能になる。
以上のように構成された本発明の植物苗の病害虫防除設備において、各段可動棚7A〜7Cの支持台8上で仕切り33が敷設された育苗容器載置エリアに、例えばイチゴ苗が植え付けられた育苗容器Pを適当密度で載置し、これら各段可動棚7A〜7Cをガイドレール11a〜13b上で手押し走行させて処理室2内の所定位置へ搬入し、開閉扉3を閉じたならば、制御装置28に起動信号31を与えて、ファン・ヒーターユニット20A〜20C、送水ユニット26、及び送気ユニット27を稼働させる。制御装置28の自動運転プログラムには、前以って飽和水蒸気の湿度(例えば95%)、温度(例えば52℃)、及びこの温湿度での運転時間(例えば5分)などが設定されている。温度設定には、例えばデジタル温度指示調節計を採用し、ファン・ヒーターユニット20A〜20Cの電気ヒーター部21cをサイリスター制御することによって、精度の高い制御が行える。又、温湿度の調節幅は例えば0.1deg(又は0.1%)単位とし、温湿度を精細に調節出来るように構成すると共に、温湿度センサー29の温度センサーには測温抵抗体(Pt100Ω JIS A-Class)を使用し、高精度に温度を測定して誤差の少ない制御を行えるように構成するのが望ましい。
而して制御装置28の自動制御により、処理室2内には設定された温湿度(例えば95%・52℃)の飽和水蒸気流が設定時間(例えば5分)だけ循環流動することになる。従って、各段可動棚7A〜7C上に載置された育苗容器Pのイチゴ苗は、各段の蒸熱処理流路32A〜32C内を水平に流動する例えば95%・52℃の飽和水蒸気に例えば5分間だけ曝される蒸熱処理を受け、凝縮潜熱により加熱されて所期の病害虫の防除が行われる。所定時間の蒸熱処理が終了して、ファン・ヒーターユニット20A〜20C、送水ユニット26、及び送気ユニット27が自動停止したならば、開閉扉3を開き、各段可動棚7A〜7Cをガイドレール11a〜13b上で手押し走行させて処理室2の外に搬出することにより、一連の蒸熱処理が完了する。処理室2を本発明による植物苗の病害虫防除方法の実施に使用しないときは、この処理室2が備えるクーラーの室内ユニット5及び室外ユニット6を稼働させて処理室2内を設定された低温に維持させることにより、処理室2を、従前通り夜冷庫として活用出来る。
上記第1実施例では、処理室2には片側にのみ開閉自在な出入り口4が設けられているが、図4の第2実施例に示すように、処理室2の長手方向の両端、即ち、可動棚の出し入れ方向の両端にそれぞれ開閉扉3A,3Bを備えた出入り口4A,4Bを設けることが出来る。可動棚として、ガイドレール11a〜13b上を移動させるタイプの可動棚7A〜7Cを使用するときは、当該ガイドレール11a〜13bは、処理室2内を縦断して両出入り口4A,4Bの外側に延出するように敷設することになる。又、可動棚としては、2組の可動棚35A,35Bが使用される。両可動棚35A,35Bは、上記実施例で示したものと同一の、それぞれ入れ子式に組み合わせられる3台の可動棚7A〜7Cから構成されているので、処理室2の外に敷設されるガイドレール11a〜13bの長さは、3台の可動棚7A〜7Cの内、少なくとも2台の可動棚を直列させることが出来る長さが必要である。勿論、各可動棚35A,35Bは、それぞれ1台又は2台の可動棚から構成されるものであっても良い。
この図4に示す第2実施例の作業方法について説明すると、図示のように処理室2内にセットされた1組の可動棚35Aが蒸熱処理を受けている間に、出入り口4A,4Bの一方、例えば出入り口4Aの外でガイドレール11a〜13b上に支持されている他の組の可動棚35Bの各可動棚7A〜7C上に処理前の育苗容器Pの積み込み作業を行なう。そして処理室2内の可動棚ユニット35A上に載置された育苗容器Pに対する蒸熱処理が済めば、前後両出入り口4A,4Bを開き、処理室2内の処理済み可動棚ユニット35Aを出入り口4Bから処理室2の外に搬出すると共に、入れ違いに、出入り口4Aの外で待機している処理前可動棚ユニット35Bを出入り口4Aから処理室2内に搬入して、当該可動棚ユニット35B上の育苗容器Pに対する蒸熱処理を開始する。
上記のように両端に開閉自在な出入り口4A,4Bを備えた処理室2と、2組の可動棚35A,35Bを使用することにより、2組の可動棚35A,35Bを処理室2の前後両側から交互に処理室2内に搬入して蒸熱処理を連続的に行なわせることが出来る。
次に、本発明設備の第3実施例を図5〜図8に基づいて説明する。この第3実施例では、左右横巾に対して奥行きが浅く且つ上下複数段に棚板40aを備えた一般的なラック40bの底部に自在車輪40cを取り付けて構成した、床面上で任意の方向に移動させることが出来る可動棚40を複数台使用している。尚、各可動棚40は、各段棚板40aの上側の育苗容器Pを支持する空間が少なくとも奥行き方向に貫通開放されている。
処理室41には、複数台の前記可動棚40を、各可動棚40の奥行き方向前後両側部が互いに隣接するように並列させて収納する可動棚収納空間42が、左右両側壁部41a,41b間に形成されている。この可動棚収納空間42の高さは、処理室41の左右両側壁部41a,41b間に水平に架設された天井側仕切り板43によって、可動棚40が丁度入り込める高さに制限され、当該天井側仕切り板43と処理室41の天井部41cとの間の水平空間44が、天井側仕切り板43の前後両端と処理室41の前後両側壁部41d,41eとの間の上下方向の開口部45,46を経由して、下側の可動棚収納空間42と連通している。
又、可動棚収納空間42の可動棚並列方向の開口部45側の端部には、当該可動棚収納空間42を塞ぐように間仕切り壁ユニット47が立設され、可動棚収納空間42の可動棚並列方向の開口部46側の端部には、開口部46の真下に位置するように整流ユニット48が立設されている。間仕切り壁ユニット47には、可動棚収納空間42の縦断面全域から開口部45の下側の垂直空間49内に向かって水平に気流を生成する複数のファンユニット50a〜50dが取り付けられ、整流ユニット48には、開口部46からこの整流ユニット48内の垂直空間51に向かって下向きに流れる気流を可動棚収納空間42の縦断面全域にほぼ均等に分散流入させるための上下複数段の整流ガイド52a〜52cが設けられている。
又、天井側仕切り板43の上側の水平空間44内には、開口部45に近い位置で当該水平空間44のほぼ縦断面全域をカバーするように並設された左右2台のヒーターユニット53a,53bと、開口部46に近い位置で加湿ユニット54が設けられている。この加湿ユニット54は、第1実施例に示した加湿ノズル22a〜22dと同様に、水を圧力エアーで噴霧する加湿ノズル54aを、水平空間44の中間高さで且つ左右巾方向全域にわたって水平に架設された共通給水管54bに、開口部46のある方向に向けて水平に水を噴霧するように、適当間隔おきに取り付けて構成したものである。54bは、処理室41の天井部41cから垂下して共通給水管54bを支持するブラケットである。
処理室41の左右両側壁部41a,41bの内、一方の側壁部41aには、可動棚収納空間42の整流ユニット48のある側の端部に、1台の可動棚40をその左右横巾方向に出し入れ出来る大きさの出入り口55と、この出入り口55を開閉する開閉扉56とが設けられている。又、処理室41の天井部41cには、水平空間44の前後両端の開口部45,46の真上に位置するように、排気ダンパー57と吸気ダンパー58とが取り付けられている。これら排気ダンパー57と吸気ダンパー58とは、処理室41内の循環雰囲気の入れ替えや温度及び湿度を急速に下げる必要がある場合などに補助的に使用される。
上記構成の設備によれば、被処理植物苗を植え込んだ育苗容器Pを所要密度で各段棚板40a上に積載した所要台数の可動棚40を準備し、各可動棚40を、開閉扉56が開かれた出入り口55から可動棚収納空間42内の一端部に、当該可動棚40の左右巾方向に移動させて進入させた後、当該可動棚40を、ファンユニット50a〜50dのある方向に向けて可動棚収納空間42内を平行移動させることにより、準備された所要台数の可動棚40を、各可動棚40の奥行き方向前後両側部が互いに隣接するように、可動棚収納空間42内に並列収納させることが出来る。
一方、ファンユニット50a〜50dを稼働させることにより、可動棚収納空間42内、垂直空間49、開口部45、水平空間44、開口部46、及び垂直空間51をこの順番に経由して可動棚収納空間42内に戻る気流の循環経路が形成される。このとき、ファンユニット50a〜50dの配列と整流ユニット48が備える整流ガイド52a〜52cの作用によって、可動棚収納空間42には、当該可動棚収納空間42内の縦断面ほぼ全域をほぼ等しい強さで気流が流れることになる。従って、第1実施例において説明したように、この処理室41内の循環経路中の適当か所、例えば水平空間44内に配置した温湿度センサーからの情報と設定された蒸熱処理プログラムとに従って、ヒーターユニット53a,53bと加湿ユニット54に接続された給水装置と給気装置とを制御することにより、可動棚収納空間42内に温度及び湿度が調整された蒸熱処理のための飽和水蒸気を隈なく流動させることが出来る。
従って、上記のように準備された所要台数の可動棚40を可動棚収納空間42内に並列収容し、出入り口55の開閉扉56を閉じた状態で、上記のように可動棚収納空間42内に温度及び湿度が調整された蒸熱処理のための飽和水蒸気を整流ユニット48側からファンユニット50a〜50d側に向けて水平に流動させることにより、並列状態の全ての可動棚40の各段棚板40a上の育苗容器支持空間内を可動棚奥行き方向に貫通流動する飽和水蒸気によって、全ての可動棚40の各段棚板40a上の育苗容器Pに植え込まれている被処理植物苗を所期通りに蒸熱処理することが出来る。この設備稼働状態において、可動棚収納空間42内が、温度及び湿度が調整された飽和水蒸気の蒸熱処理流路となり、開口部45下の垂直空間49内が処理後の飽和水蒸気の上昇流路となり、水平空間44内が温度及び湿度が調整された飽和水蒸気を生成するための逆向き水平流路となり、そして開口部46下の垂直空間51内が生成された飽和水蒸気の降下流路となって、当該降下流路から可動棚収納空間42内(蒸熱処理流路)に向かって生成された飽和水蒸気が送給されることになる。
本発明の植物苗の病害虫防除方法及び設備は、一度に大量の処理が要求され且つ草丈の低い植物苗、特にイチゴ苗の、化学合成農薬に頼らない、そして温湯を使用しない、病害虫防除に活用出来る。
1 建屋
2,41 処理室
2e 隔壁
3,3A,3B,56 開閉扉
4,4A,4B,55 出入り口
5 クーラーの室内ユニット
6 クーラーの室外ユニット
7A〜7C,40 可動棚
8 可動棚の支持台
9 可動棚の脚柱
10 溝付き車輪
11a〜13b ガイドレール
14a〜16b,19 隙間閉塞部材
17 上下方向の空隙部(上昇流路)
18 上下方向の空隙部(降下流路)
20A〜20C ファン・ヒーターユニット
22a〜22d 加湿ノズル
23 支持用ブラケット
24 共通給水管
25 共通エアー配管
26 送水ユニット
27 送気ユニット
29 温湿度センサー
32A〜32C 蒸熱処理流路
33 仕切り
34 側壁
35A,35B 2組の可動棚
40a 可動棚の上下複数段の棚板
40b 可動棚を構成するラック
40c 可動棚の自在車輪
41 処理室
42 可動棚収納空間(蒸熱処理流路)
43 天井側仕切り板
44 水平空間(逆向き水平流路)
45,46 開口部
47 間仕切り壁ユニット
48 整流ユニット
49 垂直空間(上昇流路)
50a〜50d ファンユニット
51 垂直空間(降下流路)
52a〜52c 整流ガイド
53a,53b ヒーターユニット
54 加湿ユニット
54a 加湿ノズル
57 排気ダンパー
58 吸気ダンパー
P 育苗容器

Claims (14)

  1. 植物苗を囲む処理空間内に、所要温度に調整した飽和水蒸気流を、前記植物苗の上側を水平に流動するように生成させ、当該飽和水蒸気流中に前記植物苗を、熱傷害を受けない範囲内の時間だけ曝しておくことを特徴とする、植物苗の病害虫防除方法。
  2. 前記植物苗は、育苗容器に植え込まれた状態で可動棚上に載置され、この可動棚が前記処理空間内に対して出し入れされることを特徴とする、請求項1に記載の植物苗の病害虫防除方法。
  3. 前記植物苗がイチゴ苗であって、前記飽和水蒸気流中にイチゴ苗を曝しておく時間を、当該飽和水蒸気が温度50℃のときで5〜10分間、当該飽和水蒸気が温度52℃のときで5分間とする、請求項1又は2に記載の植物苗の病害虫防除方法。
  4. 植物苗が植え込まれた育苗容器を支持する移動自在な可動棚と、この可動棚を出し入れするための開閉自在な出入り口を備えた処理室と、この処理室内の定位置に搬入された前記可動棚上の育苗容器の上側空間を水平に流動する蒸熱処理流路を含む循環流路中に飽和水蒸気流を生成する飽和水蒸気流生成手段を備え、この飽和水蒸気流生成手段は、前記循環流路中に設けられたファン・ヒーターユニットと、当該循環流路中に水を噴霧する加湿ノズルと、前記循環流路中の温度・湿度を検出する温湿度センサーと、前記ファン・ヒーターユニット及び前記加湿ノズルからの水の噴霧を前記温湿度センサーからの検出情報と設定時間に基づいて制御する制御装置を備えている、植物苗の病害虫防除設備。
  5. 前記飽和水蒸気流生成手段が生成する前記循環流路は、前記処理室内の可動棚移動方向に対して直交する水平横向きの前記蒸熱処理流路、可動棚の前記移動方向と平行な一側辺側を降下する降下流路、前記可動棚の下側の逆向き水平流路、及び前記可動棚の他側辺側を上昇する上昇流路によって形成されている、請求項4に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  6. 前記ファン・ヒーターユニットは、前記蒸熱処理流路と前記上昇流路との間を仕切るように設けられた垂直な隔壁に設けられ、前記加湿ノズルは、前記隔壁より前記蒸熱処理流路側に配設されている、請求項5に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  7. 前記可動棚の下側空間を当該可動棚の移動方向と平行に移動する少なくとも1つの下段可動棚が設けられ、前記循環流路の逆向き水平流路によって前記下段可動棚上の蒸熱処理流路が形成され、最下段の可動棚には、その下側に前記逆向き水平流路が生じるのを防止する側壁が設けられている、請求項5又は6に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  8. 処理室の前記出入り口は、当該処理室内の可動棚移動方向の少なくとも一端側に設けられ、前記可動棚は、処理室内の可動棚移動方向の全域を占める長さを有する、請求項5〜7の何れか1項に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  9. 処理室の前記開閉自在な出入り口は、処理室内の可動棚移動方向の両端に設けられている、請求項5〜8の何れか1項に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  10. 前記処理室内には、複数台の前記可動棚が並列収納される可動棚収納空間が設けられ、この可動棚収納空間内に前記蒸熱処理流路が、当該可動棚収納空間内の可動棚並列方向と平行に飽和水蒸気が流れる方向に形成されている、請求項4に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  11. 前記飽和水蒸気流生成手段が生成する循環流路は、前記可動棚収納空間内の可動棚並列方向と平行な前記蒸熱処理流路、前記可動棚収納空間の可動棚並列方向の一端外側の上昇流路、前記可動棚収納空間の上側の逆向き水平流路、及び前記可動棚収納空間の可動棚並列方向の他端外側の降下流路によって構成され、前記開閉自在な出入り口は、前記可動棚収納空間の可動棚並列方向と平行な側壁に設けられている、請求項10に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  12. 前記ファン・ヒーターユニットのファン部は、前記蒸熱処理流路と前記上昇流路との間を仕切る垂直な隔壁の前記上昇流路側に設けられ、当該ファン・ヒーターユニットのヒーター部と前記加湿ノズルは、前記逆向き水平流路内に設けられている、請求項11に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  13. 前記各可動棚は、育苗容器を載置する棚板を上下複数段に備えると共に、各段の棚板上空間が前記可動棚収納空間内の可動棚移動方向に貫通開放され、前記降下流路内には、降下する飽和水蒸気流を前記可動棚収納空間内の上下方向の全域に分散させて当該可動棚収納空間内に流入させる整流ガイドが配設されている、請求項11又は12に記載の植物苗の病害虫防除設備。
  14. 前記処理室は、室温を設定低温に保持するクーラーを備えた夜冷庫の植物苗収蔵室である、請求項4〜13の何れか1項に記載の植物苗の病害虫防除設備。
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