JP2011202255A - 溶接構造体 - Google Patents

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Abstract

【課題】
硬度の高い水を用いても溶接隙間部などの耐食性が低下することなく優れた耐食性を有する溶接構造体を提供する。
【解決手段】
硬度が50mg/l以上の水を貯水・貯湯する、溶着部から5mm以内の酸化皮膜中の平均Cr濃度が、表層から15nm以内においてCr>35at%であり、構成する材料がC:0.02%以下、Si:3%以下、Mn:3%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.2〜3%、Cr:20〜30%、Mo:3%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.03%以下、Al:0.02〜0.5%であり、残部Feおよび他の不可避的不純物からなることを特徴とする、溶接部の耐食性に優れた溶接構造体。

Description

本発明は、温水容器などのTIG溶接などにより施工される溶接構造体において、硬度の高い水を用いても溶接隙間部などの耐食性が低下することなく優れた耐食性を有する溶接構造体に関する。
CO2冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器に用いられる貯湯槽など胴板と鏡板と呼ばれる加工板をTIG溶接により接合される溶接構造体である。それらの溶接構造体を上水の温水環境で使用すると、溶接隙間部で腐食が生じやすい。特に硬度の高い硬水を用いる環境においては溶接隙間部で隙間腐食を起こしやすくなる。これらの温水用溶接構造体用の材料としてフェライト系ステンレス鋼のSUS444(低C、低N、18〜19Cr−2Mo−Nb、Ti系鋼)が広く用いられてきた。SUS444は温水環境での耐食性向上を主目的に開発された鋼種である。しかし、硬度の高い水を使用すると、溶接接合部で隙間腐食を起こすし板厚を貫通して漏水に至ることもある。
このため、硬度の高い水を用いる温水容器では腐食しやすい隙間構造の形成をできるだけ避ける構造とすることが望ましい。しかし、鏡と胴の溶接接合部など、施工上、隙間の形成を回避することが難しい部位もある。耐食性の観点から、隙間腐食を防止するため隙間構造を避けた突き合わせ溶接が好ましいが、溶接が難しく、強度も得られにくい。
近年におけるCO2冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器などの貯湯容器には使用水圧の上昇により、耐圧性が要求されており、溶接構造体としての強度を得るためには重ね溶接により溶着部をしっかり確保する必要がある。その場合に胴板と鏡板で溶接隙間ができる。温水容器をTIG溶接により製造する際には、溶接部の耐食性低下を小さくするため、一般にArバックガスシールを行って裏ビード側の酸化を抑制する対策が採られている。ところが、電気温水器では追い焚き機能のニーズが高まり、蛇管を内部に装入した構造の缶体が増えてきた。この場合、溶接時にArバックガスシールを行うためのノズルを缶体内部に挿入することが難しくなり、バックガスシールなしのTIG溶接を採用せざるを得ないケ−スが増え、耐食性低下に対する不安要因となっている。CO2冷媒ヒートポンプ給湯器ではヒーター加熱を行わないので、ヒーター挿入のためのフランジは本来不要であるが、TIG溶接時のバックガスシール用ノズルを挿入するためにはフランジが省略できないなど、コストアップに繋がる問題が生じる。
発明者らの調査によれば溶接で耐食性が低下する熱影響部は溶接ビードから10mm程度の範囲であり、SUS444を用いてArバックガスシールを行わないTIG溶接に供すると、裏ビード部での酸化スケールの生成部分では著しい耐食性低下が生じることが予想される。
貯湯容器が接する水の硬度は、水中のCaイオンとMgイオン、これに対応する炭酸カルシウムに換算し、1l中の量で表したものである。Ca等硬度成分の多い水を硬水、少ない水を軟水と呼ぶ。日本の全表土の1/3は火成岩土壌でできているため、Caが少なく水はほとんどの地域で上水は軟水となる。沖縄本島は、中、南部の地域が石灰岩層から形成されているため、その地域の井戸水や地下水は硬水になり、硬度が高くなっている。 日本における硬度の水道水質基準は300mg/l以下であるが、欧州などにおいてはそれを越える硬水となっている。
硬水が溶接構造体の腐食に及ぼす影響としては腐食の発生により、腐食部近傍にCaが析出するため、そこで隙間構造を形成する。白スケールと称されるのがそれである。構造的に隙間がなくても白スケールの付着により隙間腐食を生じるケースがある。さらに使用水中のCaイオン濃度が高いと、電導性が高くなり、腐食発生後の腐食の成長を加速させる。したがって、硬度の高い水を使用する場合には耐食性の高い材料を用いる必要がある。近年では水処理技術により硬水を軟水化する設備も設けられているが、設備の付加はコストが高くなるのに加え、設置スペースの問題もあり、一般家庭においては普及しやすいものではない。
また、ステンレス鋼を使用した温水器については特開昭54−72711をはじめとした多くの出願があるが、硬度の高い水によってもたらされる使用環境に配慮された発明例はない。
特開昭54−72711
昨今の温水容器においては、TIG溶接で製造する際にArバックガスシールを実施しにくい構造のものが増えている。一方で、製造コスト低減等の要請から溶接部に隙間を形成しないような構造の温水容器を設計することも難しい状況にある。さらにはCO2冷媒ヒートポンプ給湯器の普及により、硬度の高い欧州などの地域でも温水容器が必要となってきている。本発明は、このような現状に鑑み、硬度の高い水を用いてもArバックガスシールの有無によらずTIG溶接により隙間構造をもった温水容器を構築したときに、どのような隙間構造であっても優れた耐食性を呈するフェライト系ステンレス鋼を開発し提供することを目的とする。
発明者らは上記目的を達成すべく詳細な研究を行った結果、以下のようなことを見出した。
(i)最も溶接隙間腐食の起こりやすい溶接ボンドから1mmほど離れ、隙間間隔が20μm程以下の部分の表面に生成する酸化スケールを制御することにより、硬水中からのCaの析出、付着を抑制し、Arバックガスシールの有無によらずTIG溶接隙間部においても耐隙間腐食性を維持することができる。
(ii)20質量%を超えるCr含有量を確保して基本的耐食性レヘ゛ルを向上させることにより、硬度の高い水を用いても溶接スケール直下での溶接構造体の腐食の成長を抑える。
本発明はこのような思想に基づいて溶接構造体としての構造ならびにそれを構成するフェライト系ステンレス鋼を提供するものである。
すなわち本発明は、以下の構成を有するものである。
請求項1に記載の発明は、
硬度が50mg/l以上の水を貯水・貯湯する、溶着部から5mm以内の酸化皮膜中の平均Cr濃度が、表層から15nm以内においてCr>35at%であり、構成する材料がC:0.02%以下、Si:3%以下、Mn:3%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.2〜3%、Cr:20〜30%、Mo:3%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.03%以下、Al:0.02〜0.5%であり、残部Feおよび他の不可避的不純物からなることを特徴とする、溶接部の耐食性に優れた溶接構造体である。
請求項2に記載の発明は、
溶接構造体を構成する材料が、更にCu:0.1〜3.0%、B:0.0003〜0.005%、W:0.01〜0.5%のいずれか1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接構造体である。
この溶接構造体材料を用いることにより、その鋼板をそれぞれ胴板、鏡板に用い、TIG溶接を行った場合に、Arバックガスシールの有無にかかわらず、溶接ボンドから5mm以内の酸化スケール中の平均Cr濃度が、表層から15nm以内においてCr>35at%となる。平均Cr比率は、各金属元素量を求め、Cr比率をCr量/Σ(全金属元素量)として算出し、各測定点におけるCr比率の平均値を算出することで求めることができる。
本発明の溶接構造体を使用すると、溶接作業性が容易となり、作業性も向上するとともに硬度の高い温水環境における溶接部の耐食性が顕著に改善される。特に、バックガスシールなしのTIG溶接によって形成された溶接隙間部において長期間優れた耐食性が維持される。すなわち温水容器をTIG溶接により製造する際に、Arバックガスシールを省略しても高い信頼性が得られる。したがって本発明によれば、高耐食性が要求される硬度の高い水環境での温水容器において設計自由度の拡大が可能になる。また、CO2冷媒ヒートポンプ給湯器の温水缶体ではバックガスシールのためのフランジが不要になり、コスト低減が可能になる。
溶接サンフ゜ルの断面の模式図である。 腐食試験に用いた溶接サンフ゜ルの概観である。 隙間腐食発生電位の測定結果である。
本発明の溶接構造体を構成する成分元素について説明する。
C:0.02質量%以下、N:0.03質量%以下
C、Nは鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.03質量%まで含有が許容される。
Si:3質量%以下
SiはArガスシールを行ってTIG溶接する場合、溶接部の耐食性改善に有効に作用する。しかしながら発明者らの詳細な検討によれば、ガスシールなしでTIG溶接する場合、Siは逆に溶接部の耐食性を阻害する要因になることがわかった。このため、耐食性の点ではSi含有量は低い方が好ましく、本発明では3質量%以下に規定する。ただし、Siはフェライト系鋼の硬質化に寄与するので、例えば水道に直結して使用する高圧タイプの温水容器をはじめとして継手の強度が要求されるような用途などでは、Siの添加は有利となる。
Mn:3質量%以下
Mnはステンレス鋼の脱酸剤として使用される。しかしMnは不動態皮膜中のCr濃度を低下させ、耐食性低下を招く要因となるので、Mn含有量は低い方が好ましく、3質量%以下の含有量に規定される。スクラップを原料とするステンレス鋼ではある程度のMn混入は避けられないので、過剰に含有されないよう管理が必要である。
P:0.04質量%以下
Pは母材および溶接部の靭性を損なうので低い方が望ましい。ただし、含Cr鋼の溶製において精錬による脱Pは困難であることから、P含有量を極低化するには原料の厳選などに過剰なコスト増を伴う。したがって本発明では一般的なフェライト系ステンレス鋼と同様に、0.04質量%までのP含有を許容する。
S:0.03質量%以下
Sは孔食の起点となりやすいMnSを形成して耐食性を阻害することが知られているが、本発明では適量のTiを必須添加するので、Sを特に厳しく規制する必要はない。すなわち、TiはSとの親和力が強く、化学的に安定な硫化物を形成するので、耐食性低下の原因になるMnSの生成が十分に抑止される。一方、あまり多量にSが含まれると溶接部の高温割れが生じやすくなるので、S含有量は0.03質量%以下に規定される。
Cr:20〜30質量%
Crは不動態皮膜の主要構成元素であり、耐孔食性や耐隙間腐食性などの局部腐食性の向上をもたらす。バックガスシールなしでTIG溶接した溶接部の耐食性はCr含有量に大きく依存することから、Crは本発明において特に重要な元素である。発明者らの検討の結果、バックガスシールなしで溶接した溶接部に硬度の高い温水環境で要求される耐食性を付与するには20質量%以上のCr含有量を確保すべきであることがわかった。耐食性向上効果はCr含有量が多くなるに伴って向上する。しかし、Cr含有量が多くなるとC、Nの低減が難しくなり、機械的性質や靭性を損ねかつコストを増大させる要因となる。本発明では、Cr含有量が20質量%以上の鋼ではNiの溶接隙間部の耐食性改善効果が大きくなることにより厳しい環境への適用においてもCr含有量のさらなる増加に頼ることなく、上述の問題を最小限に抑え、十分な耐食性を得ることができる。したがって本発明ではCr含有量を20〜30質量%とする。
Mo:0.2〜3.0質量%
MoはCrとともに耐食性レヘ゛ルを向上させるための有効な元素であり、その耐食性向上作用は高Crになるほど大きくなることが知られている。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、バックガスシールなしでTIG溶接した溶接隙間部や裏ビード側の溶接部については、Moによってもたらされる耐食性向上作用はあまり大きくないことがわかった。本発明の主な用途である上水の温水環境に対しては0.2質量%以上のMoを含有させることが効果的であるが、3.0質量%を超えて増量しても耐隙間腐食性の改善効果は小さく、徒にコスト上昇を招くのみで得策ではない。したがってMo含有量は3.0質量%以下とする。
Nb:0.05〜0.6質量%
NbはTiと同様にC、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。その効果を十分発揮させるには0.05質量%以上のNb含有量を確保することが望ましい。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靭性も低下するので、Nb含有量の上限は0.6質量%とする。
Ti:0.05〜0.4質量%以下
TiはArバックガスシールを行う従来のTIG溶接において溶接部の耐食性向上に寄与する元素であるが、バックガスシールなしのTIG溶接においても隙間部やその裏ビード側溶接部の耐食性を顕著に改善する作用を有することがわかった。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが、Arバックガスシールを行うTIG溶接の場合は、Alとの複合添加により溶接時に鋼表面にAl主体の酸化皮膜が優先的に形成され、結果的にCrの酸化ロスが抑制されるものと考えられる。他方、バックガスシールなしのTIG溶接の場合は、その溶接部においてTiは腐食発生後の再不動態化を促進する作用を発揮し、それによって耐食性が向上するものと推察される。このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
Al:0.02〜0.5質量%
AlはTiとの複合添加によって溶接による耐食性低下を抑制する。その作用を十分に得るためには0.02質量%以上のAl含有量を確保することが望ましい。一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や、溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.5質量%以下とする。
Ni:0.2〜2.0質量%
NiはArバックガスシールなしのTIG溶接において溶接スケール中のCr濃度を高め、化学的に安定なCr23の生成量を増加しスケールの耐食性を向上させるのに重要な元素である。溶接スケール部においてはCr,Fe,Ti,Al系酸化物が形成される。Niの添加によりCrの活量を上げて、4/3Cr+O2→2/3 Cr23の反応を促進させるために、耐食性に弊害があるFe23が減少され、Cr>20atm%以上の組成を維持できる効果があることを見出した。これにより硬水中に含まれるCaが析出しても表面に付着しにくくなり、白スケールによる隙間構造が形成されにくくなる。その効果を出すためにはNiが0.2%以上必要である。ただし多量のNi含有は鋼を硬質にして、加工性を阻害するので、2.0質量%以下の範囲で行う。
Cu:0.1〜3.0質量%
Cuは、ArバックガスシールなしのTIG突合せ溶接部の耐食性において、溶接裏面熱影響部での孔食発生を抑制し、TIG溶接隙間では隙間腐食面積を小さくするので、0.1〜3.0%を選択的に添加しても良い。
しかし、侵食深さについては、隙間条件にもよるが逆に侵食を深くすることがある。したがって、バックガスシールなしのTIG溶接で隙間を形成する用途ではCuは耐食性を阻害する恐れがあるので、そのような溶接を行う場合には添加しない方が良い。
B:0.0003〜0.005質量%
Bは、二次加工性の改善のために、最も重要な元素であり、必要に応じて添加する。その効果は、0.0003%以上で発揮される。しかし、多量に添加すると、深絞り加工性が劣化するとともに、鋳片の割れが発生するため、上限を0.005%とした。
W:0.01〜0.5質量%
Wは、ステンレス鋼の耐食性、耐局部腐食性を向上させる。その効果は0.01%の添加で認められ、0.5%を超えるとその効果は飽和する。したがって必要に応じて0.01〜0.5%添加する。
本発明にかかる鋼材の冷延焼鈍酸洗板を重ねTIG溶接を行った場合に、Arバックガスシールの有無にかかわらず、TIG溶接を行った場合に溶接ボンドから5mm以内の酸化スケール中の平均Cr濃度が、表層から15nm以内においてCr>35at%となる。
(溶接条件)
溶接法:溶接芯線なしの突合せ溶接
溶接電流:60A 溶接速度:300mm/min
トーチシール側のArガス流量:12L/min
電極径:φ1.6mm
実施例により本発明の具体的な効果を示す。
表1に示す化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板を作製した。その後、冷間圧延にて板厚1.0mmとし、仕上焼鈍を1000〜1070℃で行い、酸洗を施すことによって供試材とした。
Figure 2011202255
各供試材について、図1に示す方法にてTIG溶接隙間を形成し、腐食試験を実施した。溶接条件は[0030]記述のものであり、Arバックガスシールの有り、無しでそれぞれ行った。2枚の鋼板を重ねてTIG溶接する際、隙間開口部を作るため、一方の鋼板を溶接部から5mm以上出るように重ね、かつ10°の角度で曲げを施した後、隙間となる面を大気に曝した状態で溶接を行った。本試験片にて溶接を行うと、溶け込み(溶接金属部)が裏面まで到達し、裏面に約4mm幅の裏ビードが形成される。この条件の場合、溶接熱影響部(HAZ)は板厚中央部でビード中心からの距離が約10mmの範囲となる。隙間深さを溶接ビード中心から曲げ位置までの距離(mm)と定義し、2枚の鋼板の隙間間隔が20μm以下になるように作製した。溶接で生じた酸化スケールを除去していない試料から15×40mmの試験片を切り出した。図2に溶接隙間試験片の外観を模式的に示す。溶接ビードが試験片長手方向中央位置を横切るように試験片を採取した。この浸漬試験片には溶接ビード部、熟影響部および母材部が含まれる。母材部の端にリード線をスポット溶接にて接続し、リード線およびその接続部分のみを樹脂被覆した。
浸漬試験には硬度の異なる上水にNaCl試薬で200ppmCl水溶液に調合したものを試験液とした。硬度は20、50、300mg/lである。80℃における定電位試験により隙間腐食発生電位を、試験片と同一の表面積を有するPt板を電気的に接続したPt補助カソ−ト゛試験により隙間腐食深さを評価した。定電位試験は設定電位における48時間後の電流変化より腐食発生の有無を評価した。Pt補助カソード試験は30日間の浸漬試験で評価した。
また、供試材において最も隙間腐食が生じやすい溶着部から5mmの部分の酸化皮膜分析を微小部X線発光電子分析法(μ−XPS)で行った。ビーム径は50μmである。これにより酸化スケールの最表層から深さ5、15、20nmの位置における各金属元素量を求め、Cr比率をCr量/Σ(全金属元素量)で算出した。そして、各測定位置におけるCr比率の平均値を平均Cr率とした。
本発明例である鋼No.1と比較例である鋼No.6を用いて溶接隙間部の隙間腐食発生電位に及ぼす硬度の影響を調査した。本試験においては溶接時にArバックガスシールを行った。図3に隙間腐食発生電位の測定結果を示す。比較例である鋼No.6は試験液中の硬度が高くなるほど隙間腐食発生電位は卑になっており、すなわち使用水の硬度が高いほど溶接隙間部で隙間腐食が発生しやすくなることがわかった。一方、本発明例である鋼No.1は試験水の硬度が高くなると隙間腐食発生電位が貴になっており、高度の高い水に対して隙間腐食を起こしにくいことがわかる。
Pt補助カソ−ト゛試験により供試材の隙間腐食深さを評価した。表2に隙間腐食の最大深さと溶接酸化スケールの最大Cr比率の測定結果を示す。本発明例である鋼No.1〜5は試験液中の硬度ならびにArバックガスシールの有無によらず隙間腐食深さは0.2mm未満であった。一方、比較例である鋼No.6〜8は0.2mm以上の隙間腐食が認められた。鋼No.6のArバックガスシールありの場合は硬度が20mg/lであれば0.2mm以下の隙間腐食性を有していたが、硬度が高くなるあるいはArバックガスシールを行わないと0.2mmを越える隙間腐食が認められた。したがって、硬度が20mg/l程度の上水であれば、本発明によらずArバックガスシールなどを適正に施すことにより耐食性は得られるが硬度が50mg/l以上であればその限りでない。
Figure 2011202255
本発明例である鋼No.1〜5は酸化スケールのCr比率は高く、表層から15nmまでは35atm%を超えていた。一方、比較例である鋼No.6〜8 はNi、Cr、Tiなどの不足により、酸化スケールのCr比率は発明例と比較して低かった。本分析結果より表層から15nmのCr比率が35atm%を超える場合に溶接隙間部の耐隙間腐食性に優れることが示唆される。したがって、本発明の溶接構造体の組成をもつものは、溶接時のArガスシールの有無によらず、硬度の高い水環境において、温水缶体や貯水槽などの貯湯環境で優れた耐隙間腐食性を有することが期待できる。
本発明における溶接構造体は、高度の高い硬水などを用いるCO冷媒ヒートポンプ給湯器、電気温水器、定置型燃料電池、エコウィルなどに使用される温水器缶体としての使用が可能となる。本溶接構造体を用いることにより、硬度の高い地域において温水缶体を使用する場合にも軟水化処理設備など設定する必要なく、耐食性が維持できる。また溶接時にArバックガスシールを施さなくても溶接構造体としての使用が可能となり、作業性の向上とともに製造コストも削減できる。

Claims (2)

  1. 硬度が50mg/l以上の水を貯水・貯湯する、溶着部から5mm以内の酸化皮膜中の平均Cr濃度が、表層から15nm以内においてCr>35at%であり、構成する材料がC:0.02%以下、Si:3%以下、Mn:3%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.2〜3%、Cr:20〜30%、Mo:3%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.03%以下、Al:0.02〜0.5%であり、残部Feおよび他の不可避的不純物からなることを特徴とする、溶接部の耐食性に優れた溶接構造体。
  2. 溶接構造体を構成する材料が、更にCu:0.1〜3.0%、B:0.0003〜0.005%、W:0.01〜0.5%のいずれか1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接構造体。
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