JP2011196696A - 伝搬経路推定システム及び伝搬経路推定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】衛星から送信された電波が地表で反射され、当該反射波を衛星で受信するリモートセンシングの場合や、地上の送信源から送信された電波を衛星で受信して送信源の位置を推定するような場合に、電離層が与える影響を排して正確な伝搬経路を推定する伝搬経路推定システム及び伝搬経路推定方法を提供する。
【解決手段】複数の測位衛星10から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機24を有する伝搬経路推定システムであって、衛星50に設けられ、地上から到来して電離層を通過した電波を受信するアレイアンテナ52と、電波の到来方位と仰角とを算出する信号処理装置59と、受信情報として衛星通信により地上に送信する通信データ処理装置60と、受信情報に基づいて、衛星50の位置等を算出する第2算出部と、電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定する第2電子密度推定部と、レイトレーシング手法によりアレイアンテナが受信した電波の伝搬経路を推定する伝搬経路推定部とを備える。
【選択図】図1

Description

本発明は、衛星からリモートセンシングを行う場合や地上から衛星に到来した電波を受信して送信源位置を推定する際に、電離層を通過する電波の伝搬経路を電子密度分布を利用して補正する伝搬経路推定システム及び伝搬経路推定方法に関する。
近年、衛星から電波を送信し、地表からの反射波を衛星で受信することにより地表の観測を行うリモートセンシングの手法が多く用いられており、地表の地形把握や資源探査等に利用されている。例えば、特許文献1には、地球観測衛星の観測データであるリモートセンシングデータを高度解析処理する手段を有する洪水予測システムが記載されている。この洪水予測システムは、リモートセンシングによる衛星画像データ及びGPSデータ等を使用して、洪水災害のシミュレーションを行うことにより、リアルタイムに洪水を予測し、コストや期間も軽減することができる。
また、特許文献2には、電離層を通過して到来した電波の送信源の位置を推定することができるアレイアンテナ装置及び送信源位置推定方法が記載されている。このアレイアンテナ装置及び送信源位置推定方法は、受信した電波の到来方法及び仰角を測定し、IRI(International Reference Ionosphere)モデル等の電離層電子密度分布モデル等を用いてレイトレーシング手法等により電波の伝搬経路を推定し、送信源の位置を推定することができる。
非特許文献1や非特許文献2には、電離層における電子密度モデル関数であるIRI(International Reference Ionosphere)モデルが記載されている。さらに、非特許文献4には、やはり電離層電子密度モデル関数の一つであるGallagherのモデルが記載されている。これらのモデル関数を用いて計算により総電子数(TEC:Total Electron Content)を求めることもできる。
HF帯を用いた電波通信において、受信した電波の到来方法及び仰角を測定し、この到来方法及び仰角と、IRIモデル等の電離層電子密度分布モデル等とを用いて、レイトレーシング手法等により電波の伝搬経路を計算する手法については、非特許文献5,6,7に記載されている。また、非特許文献8には、電波の伝搬特性を予測する手法が記載されている。
特開2007−11582号公報 特開2010−8110号公報
Dieter Bilitza:"International Reference Ionosphere 2000",Radio.Science,Vol.36,Number2,PP261−275,March/April,2001 Dieter Bilitza,et,al.,:"International Reference Ionosphere 1990",November,1990. A.Komjathy:‘Global Ionospheric Total Electron Content Mapping Using the Global Positioning System’ ,UNB,Technical Report No.188,Sep.1997. Gallagher,D.L.,P.D.Craven,and R.H.Comfort,Global core plasma model,J.Geophys.Res.105,A8,18,819−18,833,2000. 前田憲一,後藤三男:"電波伝搬",岩波全書,1953年2月 K.G.Buden:"The Propagation of radio waves".Cambridge University Press,1988. Iwane Kimura:"Effects of Ions on Whistler−Mode Ray Tracing",Radio Science.Vol.I,No.3,269−283,March 1966. "HF propagation prediction method",ITU−R P.533−7. A.Lorence,et al:"Influence of Ionospheric Electron Density Fluctuations of Satellite Rader Interferometry",Geophys.Res.Lett.,Vol.27,No.10,pp1451−1454,May15,2000. 長沢工:"天体の位置計算",地人書館,1985 Raymund,T.D.,Austin,J.R.,Franke,S.J.,Liu,C.H.,Klobuchar,J.A.,and Stalker,J.,:"Application of Comuterized Tomography to the Investigation of Ionospheric Structures",Radio Sci.,25(5),771−789,1990. Stefan Schluer,et al.:"Monitoring the 3 Dimensional Ionospheric Electron Distribution based on GPS Measurements" K.Bhuyan,et al:"Tomographicreconstruction of the Ionosphere using generalized singular value decomposition" ,Current Sci.,Vol1.83,No.9,10 Nov.,2002. Otuka,Y.,et.al.:"A new technique for mapping of total electron content using GPS network in Japan,",Earth Planets Space,111−120,2001. Ma,G.,and T.Maruyama(2003),Derivation of TEC and estimation of instrumental biases from GEONET in Japan,Ann.Geophys.,21,2083−2093. 五十嵐来良,斉藤昭則,大塚雄一:"標準電離層モデル(IRI)で導出したTECとGPS受信機網で観測したTECの比較解析",第1回電離圏の利用と影響に関するシンポジウム講和集,pp24−1〜8,2003.
しかしながら、非特許文献9に示すように、衛星から地上に向けて送信された電波や地上からの反射波は、電離層を通過する際に屈折等を生ずるため、伝搬経路が変化してしまい、本来あるべき位置からずれた位置の観測となってしまうことがある。すなわち、従来のリモートセンシングを行う装置は、電離層の影響により、観測したと認識している地表の位置と実際に観測した地表の位置とがずれてしまうことが考えられる。
同様に、地上の送信源から衛星に向けて送信された電波は、電離層の影響により伝搬経路が変化する。したがって、従来の装置は、送信源の位置を正確に推定するのが困難であると考えられる。
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、衛星から送信された電波が地表で反射され、当該反射波を衛星で受信するリモートセンシングの場合や、地上の送信源から送信された電波を衛星で受信して送信源の位置を推定するような場合に、電離層が与える影響を排して正確な伝搬経路を推定する伝搬経路推定システム及び伝搬経路推定方法を提供することを課題とする。
本発明に係る伝搬経路推定システムは、上記課題を解決するために、複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有する伝搬経路推定システムであって、観測衛星に設けられ、地上から到来して電離層を通過した電波を受信するアレイアンテナと、前記観測衛星に設けられ、前記アレイアンテナが受信した電波の到来方位と仰角とを算出する第1算出部と、前記第1算出部により算出された電波の到来方位と仰角とを受信情報として衛星通信により地上に送信する衛星側通信処理部と、前記衛星側通信処理部により送信された受信情報を地上で受信する地上側通信処理部と、前記地上側通信処理部により受信された受信情報に基づいて、前記観測衛星の位置、前記アレイアンテナが電波を受信した時刻、前記電波の伝搬方向ベクトル、及び前記伝搬方向ベクトルと地表との交点である概略地表位置を算出する第2算出部と、前記1以上の受信機の各々から前記複数の測位衛星の各々に対する擬似距離およびキャリア位相擬似距離に基づき前記衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出部と、電子密度を推定する3次元空間を設定し、当該3次元空間を複数の領域に分割する空間設定部と、前記総電子数算出部により算出された総電子数に基づいて前記空間設定部により分割された領域毎の電子密度を推定する第1電子密度推定部と、前記第1電子密度推定部により推定された電子密度と、前記第2算出部により算出された概略地表位置及び前記アレイアンテナが電波を受信した時刻とに基づいて、前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定する第2電子密度推定部と、前記第2電子密度推定部により推定された電子密度と前記地上側通信処理部により受信された受信情報とに基づいて、レイトレーシング手法により前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路を推定する伝搬経路推定部とを備えることを特徴とする。
本発明に係る伝搬経路推定方法は、上記課題を解決するために、複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有する伝搬経路推定方法であって、観測衛星に設けられたアレイアンテナで地上から到来して電離層を通過した電波を受信し、受信した電波の到来方位と仰角とを算出する第1算出ステップと、前記第1算出ステップにより算出された電波の到来方位と仰角とを受信情報として衛星通信により地上に送信する衛星側通信処理ステップと、前記衛星通信処理ステップにより送信された受信情報を地上で受信する地上側通信処理ステップと、前記地上側通信処理ステップにより受信された受信情報に基づいて、前記観測衛星の位置、前記アレイアンテナが電波を受信した時刻、前記電波の伝搬方向ベクトル、及び前記伝搬方向ベクトルと地表との交点である概略地表位置を算出する第2算出ステップと、前記1以上の受信機の各々から前記複数の測位衛星の各々に対する擬似距離およびキャリア位相擬似距離に基づき前記衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出ステップと、電子密度を推定する3次元空間を設定し、当該3次元空間を複数の領域に分割する空間設定ステップと、前記総電子数算出ステップにより算出された総電子数に基づいて前記空間設定ステップにより分割された領域毎の電子密度を推定する第1電子密度推定ステップと、前記第1電子密度推定ステップにより推定された電子密度と、前記第2算出ステップにより算出された概略地表位置及び前記アレイアンテナが電波を受信した時刻とに基づいて、前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定する第2電子密度推定ステップと、前記第2電子密度推定ステップにより推定された電子密度と前記地上側通信処理ステップにより受信された受信情報とに基づいて、レイトレーシング手法により前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路を推定する伝搬経路推定ステップとを備えることを特徴とする。
本発明によれば、衛星から送信された電波が地表で反射され、当該反射波を衛星で受信するリモートセンシングの場合や、地上の送信源から送信された電波を衛星で受信して送信源の位置を推定するような場合に、電離層が与える影響を排して正確な伝搬経路を推定することができる。
本発明の実施例1の形態の伝搬経路推定システム及び測位システムの構成を示すブロック図である。 本発明の実施例1の形態の伝搬経路推定システムにおける信号処理装置の詳細なブロック図である。 本発明の実施例1の形態の伝搬経路推定システムの動作を示すフローチャート図である。 本発明の実施例1の形態の伝搬経路推定システムにおけるレイトレーシング手法による伝搬経路推定を説明する図である。 本発明の実施例1の形態の伝搬経路推定システムの3次元電子密度推定空間設定部による3次元空間設定を説明する図である。
以下、本発明の伝搬経路推定システム及び伝搬経路推定方法の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施例1の伝搬経路推定システムの構成を示すブロック図である。この伝搬経路推定システムは、複数の測位衛星(測位衛星10a、10b、10c)から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機24を有する。なお、本発明の伝搬経路推定システムは、従来から存在する衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用することができる。
まず、本実施の形態の構成を説明する。本実施例の伝搬経路推定システムは、図1に示すように、地上衛星通信系1、測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10c、衛星信号処理系20、信号処理系30、インターネットデータ処理系40、衛星50、電離層観測系70、及びデータサーバ系80で構成されている。衛星50は、上空に存在するものであるが、伝搬経路推定システムの構成の一部であるものとする。
測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10c、及び衛星信号処理系20は、測位システムを構成するものであり、従来の測位システムを利用してもよい。なお、インターネットデータ処理系40も含めて測位システムとすることも可能であるが、インターネットデータ処理系40は、必ずしも必須のものではなく、付加的なものである。また、衛星信号処理系20、信号処理系30、インターネットデータ処理系40、及び電離層観測系70は、互いに通信回線で接続されている。さらに、信号処理系30と地上衛星通信系1とは、互いに通信回線で接続されている。
測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10cは、GPS、Galileo、準天頂衛星(QZSS)等の航法衛星であり、複数の周波数の衛星信号を送信する。
衛星信号処理系20は、アンテナ22、衛星信号受信機24、及び衛星信号処理装置26から構成される。衛星信号受信機24は、本発明の受信機に対応し、複数の測位衛星(測位衛星10a、10b、10c)から送信される複数の周波数の衛星信号をアンテナ22を介して受信する。また、衛星信号処理装置26は、衛星信号に含まれる航法情報を用いて位置情報を得るとともに、擬似距離及び位相情報を取得する。
衛星50は、本発明の観測衛星に対応し、衛星通信・信号処理系51と電源系68と姿勢制御・航法系69とを有している。また、衛星通信・信号処理系51は、複数のアンテナ52−1,52−2,…,52−nからなるアレイアンテナ52と、アンプ53−1,53−2,…,53−nと、周波数変換部54−1,54−2,…,54−nと、デジタイザ55−1,55−2,…,55−nと、リモートセンシング用送受信アンテナ56と、アンプ57と、周波数変換部59と、信号処理装置59と、通信データ処理装置60と、復調器61と、変調器62と、周波数変換部63,64と、アンプ65,66と、衛星通信アンテナ67とを備える。
アレイアンテナ52は、衛星50に設けられた通信電波受信用のアンテナであり、地上から到来して電離層を通過した電波を受信する。例えば、アレイアンテナ52は、既存の放送局から送信され、電離層を通過して到来する放送信号(電波)を受信して受信信号を出力する。
アンプ53−1〜53−nは、それぞれアンテナ52−1〜52−nからの信号を増幅する。周波数変換部54−1〜54−nは、アンプ53−1〜53−nにより増幅された信号をベースバンドの信号に変換する。デジタイザ55−1〜55−nは、周波数変換部54−1〜54−nにより変換され出力された信号をA/D変換し、デジタル受信信号として出力する。
信号処理装置59は、本発明の第1算出部に対応し、デジタイザ55−1〜55−nの各々により出力されたデジタル受信信号に基づいて、アレイアンテナ52が受信した電波の到来方位と仰角とを算出する。例えば、信号処理装置59は、MUSIC(Multiple Signal Classification)法や独立成分分析(ICA:Independent Component Analysis)の手法などを用いて、受信した電波の到来方位角および到来仰角・受信強度を算出する。
また、信号処理装置59は、リモートセンシングを行う際にはリモートセンシング用信号を生成し、周波数変換部58、及びアンプ57を介して、リモートセンシング用送受信アンテナ56からリモートセンシング用信号を送信させる。
通信データ処理装置60は、本発明の衛星側通信処理部に対応し、信号処理装置59により算出された電波の到来方位と仰角とを受信情報として衛星通信により地上に送信する。具体的には、通信データ処理装置60は、変調器62、周波数変換部64、及びアンプ66を介して、衛星通信アンテナ67から受信情報を衛星通信により地上に向けて送信する。また、衛星通信アンテナ67は、送信のみならず衛星通信により双方向の情報の授受が可能であり、受信した情報はアンプ65、周波数変換部63、及び復調器61を介して通信データ処理装置60に送る。
地上衛星通信系1は、衛星通信アンテナ11、アンプ12a,12b、周波数変換部13a,13b、復調器14、通信データ処理装置15、変調器16、及びアンテナ制御装置17により構成される。なお、地上衛星通信系1は、本発明の地上側通信処理部に対応し、衛星側通信処理部(通信データ処理装置60)により送信された受信情報を地上で受信する。
具体的には、衛星通信アンテナ11は、衛星50から送信された受信情報を受信し、アンプ12a、周波数変換部13a、及び復調器14を介して通信データ処理装置15に送る。通信データ処理装置15は、通信回線を介して受信情報を信号処理系30やデータサーバ系80に出力する。また、通信データ処理装置15は、変調器16、周波数変換部13b、及びアンプ12bを介して衛星通信アンテナ11から情報を送信することも可能である。また、通信データ処理装置15は、アンテナ制御装置17に衛星通信アンテナ11を制御させることにより、効率よく情報の送受信を行うことができる。
信号処理系30は、信号処理装置32を有し、通信回線を介して得た情報に基づき衛星位置、信号通過経路の電離層総電子数(TEC)、周波数間バイアス、伝搬経路等を算出する。信号処理装置32の詳細な構成については後述する。受信したデータ・処理結果は、データサーバ系80へLAN経由で伝送され保存される。
インターネットデータ処理系40は、ルータ42、GEONET収集データ処理装置44、及び外部インターネット網46で構成されている。ルータ42は、スイッチングハブでもよい。インターネットデータ処理系40は、公開されている電離層関連の情報や国土地理院が公開しているGPS観測データ(GEONETデータ)や国際的に観測結果を公開しているIGS(International GPS Service for Geodynamics)データ等をインターネット経由で収集する装置である。インターネットデータ処理系40により収集された結果は、信号処理系30で処理される。ルータ42は、セキュリティを考慮して設けられ、ファイアウォールとする。
電離層観測系70は、イオノゾンデ用アンテナ72と、イオノゾンデ74と、イオノゾンデ収集データ処理装置76とを備える。イオノゾンデ74は、イオノゾンデ用アンテナ72を介して複数の周波数の観測信号を電離層に送信し、送信した観測信号が電離層で反射された反射信号を受信して、観測信号の往復時間等のデータを収集する。
イオノゾンデ収集データ処理装置76は、イオノゾンデ74で収集したデータから、電離層の高さ方向の電子密度分布情報(E層ピーク電子密度、E層ピーク電子密度高度、F1層ピーク電子密度、F1層ピーク電子密度高度、F2層ピーク電子密度、F2層ピーク電子密度高度、臨海(プラズマ)周波数など)を算出し、得られた算出結果を通信回線を介して信号処理系30に送信する。また、イオノゾンデ収集データ処理装置76は、イオノゾンデ74で収集したデータを通信回線を介してデータサーバ系80に送信する。
データサーバ系80は、データ収集部82を備える。データ収集部82は、通信回線を介して地上衛星通信系1や信号処理系30で得られた各種演算結果や各種データを受け取り、保存する。
図2は、本発明の実施例1の伝搬経路推定システムにおける信号処理装置32の詳細なブロック図である。図2に示すように、信号処理装置32は、衛星TEC算出部33、TECバイアス補正部34、周波数間バイアス推定部35、3次元電子密度推定空間設定部36、電子密度モデル算出部37、第1電子密度推定部38、第2電子密度推定部39、受信情報処理部41、伝搬経路推定部43、及び補正部45で構成されている。
衛星TEC算出部33、TECバイアス補正部34、及び周波数間バイアス推定部35は、本発明の総電子数算出部に対応し、1以上の受信機の各々から複数の測位衛星の各々に対する擬似距離及びキャリア位相擬似距離に基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出する。
衛星ナビゲーションシステム「Galileo」やGPS(Global Positioning System)、QZSS(Quasi Zenith Satellites System;準天頂衛星システム)等の衛星から送信される信号は、地球上の観測点の測位を行うのに利用される。これらの衛星により放送される複数周波数信号の擬似距離差は、電波の伝搬経路上の電子数に関係していることが知られている。
衛星から地上に向けて送信される信号は、電離層を通過する際に伝搬遅延量を生じる。この電離層伝搬遅延量は、伝搬する信号の周波数に依存している。そのため、衛星からの複数の周波数信号を受信することにより、信号の通過経路における総電子数(TEC:Total Electron Content)を得ることができる。電波の伝搬経路上の総電子数を推定する場合には、複数周波数信号の送信・受信時刻による擬似距離(コード距離)差を使用する方法や複数周波数のキャリア位相擬似距離(フェーズ距離)の差を利用する方法が知られている。
具体的には、衛星TEC算出部33は、衛星信号受信機24から測位衛星10a、10b、10cの各々に対する擬似距離及びキャリア位相擬似距離に基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出する。
周波数間バイアス推定部35は、周波数間バイアスを算出し、TECバイアス補正部34に出力する。周波数間バイアス推定部35による周波数間バイアスの推定方法は、どのようなものでもよく、従来手法を用いてよい。
TECバイアス補正部34は、周波数間バイアス推定部35により推定された周波数間バイアスを用いて補正を行い、最終的な総電子数を算出する。
3次元電子密度推定空間設定部36は、本発明の空間設定部に対応し、電子密度を推定する3次元空間を設定し、当該3次元空間を複数の領域に分割する。
電子密度モデル算出部37は、上述したようなIRIモデルやGallagherモデル等の電離層電子密度モデル関数に基づき電子密度モデルを算出する。
第1電子密度推定部38は、総電子数算出部(TECバイアス補正部34)により算出された総電子数に基づいて3次元電子密度推定空間設定部36により分割された領域毎の電子密度を推定する。本実施例において、第1電子密度推定部38は、非特許文献11や非特許文献12に記載されているようなMART(Multiplicative Algebraic Reconstruction Technique)の手法を用いて電子密度を推定するものとする。なお、非特許文献11や非特許文献12には、トモグラフィ手法による衛星TECを用いた3次元電子密度推定が記載されており、MARTと呼ばれる代数的再構成法が適用されている。一方、非特許文献7には、GSVD(Generalized Singular Value Decomposition)を用いたトモグラフィック再構成による電子密度推定が記載されている。
受信情報処理部41は、本発明の第2算出部に対応し、地上衛星通信系1により受信された受信情報に基づいて、衛星50の位置、アレイアンテナ52が電波を受信した時刻、電波の伝搬方向ベクトル、及び伝搬方向ベクトルと地表との交点である概略地表位置を算出する。なお、受信情報処理部41は、通信回線を介して地上衛星通信系1内の通信データ処理装置15から受信情報を得る。
第2電子密度推定部39は、第1電子密度推定部38により推定された電子密度と、受信情報処理部41により算出された概略地表位置及びアレイアンテナ52が電波を受信した時刻とに基づいて、アレイアンテナ52が受信した電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定する。
伝搬経路推定部43は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度と地上衛星通信系1により受信された受信情報とに基づいて、レイトレーシング手法によりアレイアンテナ52が受信した電波の伝搬経路を推定する。なお、伝搬経路推定部43は、通信回線を介して地上衛星通信系1内の通信データ処理装置15から受信情報を得てもよいし、受信情報処理部41から受信情報を得てもよい。また、レイトレーシング手法の詳細については、例えば非特許文献6に記載されている。
また、衛星50がリモートセンシングを行う場合には、伝搬経路推定部43は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度に基づいて、レイトレーシング手法により衛星50が送信した電波の伝搬経路を推定することもできる。
補正部45は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度に基づいて、伝搬経路推定部43により推定された伝搬経路上の伝搬遅延量と位相の変化量とを算出するとともに、算出結果を用いて地上衛星通信系1により受信された受信情報の補正を行う。なお、補正部45は、伝搬経路推定部43を介して第2電子密度推定部39により推定された電子密度の情報を得るものとする。また、補正部45は、補正した受信情報をデータサーバ系80に出力して保存してもよいし、補正した受信情報を受信情報処理部41にフィードバックさせて伝搬経路推定を伝搬経路推定部43に再度行わせてもよい。
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図3は、本実施例の伝搬経路推定システムの動作を示すフローチャート図である。ここでは、リモートセンシングを行う場合について述べる。まず衛星50は、信号処理装置59でリモートセンシング用信号を生成し、リモートセンシング用送受信アンテナ56からリモートセンシング用信号を地表に向けて送信する。送信されたリモートセンシング用信号は、地表で反射し、反射波として衛星50に戻る。衛星50に設けられたアレイアンテナ52は、地表で反射し電離層を通過した電波を受信する。
信号処理装置59は、アレイアンテナ52が受信した電波の到来方位と仰角とを算出する。この信号処理装置59の動作は、本発明の第1算出ステップに対応する。通信データ処理装置60は、信号処理装置59により算出された電波の到来方位と仰角・信号強度とを受信情報として衛星通信により地上に送信する。なお、デジタイザ55−1〜55−nによりデジタイズされたデータを衛星通信により地上へ送信し、信号処理系30で到来方位と仰角とを算出してもよい。この通信データ処理装置60の動作は、本発明の衛星側通信処理ステップに対応する。なお、通信データ処理装置60は、受信情報に衛星50が電波を送信あるいは受信した時刻の情報も入れるものとする。
地上衛星通信系1は、衛星側通信処理部(通信データ処理装置60)により送信された受信情報を地上で受信する。この地上衛星通信系1の動作は、本発明の地上側通信処理ステップに対応する。
信号処理装置32内の受信情報処理部41は、地上衛星通信系1により受信された受信情報に基づいて、衛星50の位置、リモートセンシング用送受信アンテナ56が信号を送信した時刻、アレイアンテナ52が電波を受信した時刻、電波の伝搬方向ベクトル、及び伝搬方向ベクトルと地表との交点である概略地表位置を算出する(ステップS1)。また、ステップS1は、本発明の第2算出ステップに対応する
具体的には、受信情報処理部41は、衛星50が電波を送信あるいは受信した時刻に関する情報を受信情報から得るとともに、非特許文献10に記された方法を用いて、衛星50の軌道6要素から衛星50の地球固定座標系で軌道位置(X,Y,Z)を計算する。なお、受信情報処理部41は、予めITU−Rの衛星軌道情報を記録媒体等を介して備えていてもよいし、インターネット等を介して外部から衛星軌道情報を得てもよい。また、受信情報に衛星50の位置の情報が含まれている場合には、受信情報処理部41は、必ずしも衛星50の位置計算を独自に行う必要はなく、受信情報から得ればよい。
さらに、受信情報処理部41は、衛星位置(X,Y,Z)と衛星50のアンテナで受信した電波の方位(φ)、仰角(θ)方向(衛星固定座標系)とに基づいて、電波の伝搬方向ベクトルを求めるとともに、このベクトルと地表面との交点を概略地表位置(X,Y,Z)として求める。その際に、受信情報処理部41は、地球固定座標系としてWGS84座標系あるいは国土地理院が採用している測地成果2000で使用している座標系(ITRF94とGRS80)を用いるものとする。
なお、図4は、本実施例の伝搬経路推定システムにおけるレイトレーシング手法による伝搬経路推定を説明する図である。受信情報処理部41により求められる概略地表位置は、図4に示すように、レイトレーシング無しで電離層における伝搬経路変化を考慮しない伝搬方向ベクトルと地表との交点である。
次に、信号処理装置32は、3次元電子密度の推定を行う(ステップS2)。具体的には、衛星TEC算出部33は、1以上の受信機の各々から複数の測位衛星の各々に対する擬似距離およびキャリア位相擬似距離に基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出する(本発明の総電子数算出ステップに対応)。すなわち、衛星TEC算出部33は、広範囲に設置した衛星受信機収集データからGPS等の衛星のTECを計算する。ここで、本実施例の衛星TEC算出部33は、衛星から放送される2周波の信号(GPS衛星のL1周波数(1575.42MHz)とL2周波数(1227.60MHz)の信号)に基づいて信号伝搬経路のTECを算出するものとする。GPS以外でも異なる2周波を放送している場合には同様な手法が使用できる。
ここでは、測位衛星10aと衛星信号受信機24との間の擬似距離について考える。衛星信号通過経路のTECは、測位衛星10aから送信される衛星信号(ここではL1とL2で示す)に基づき求められる。まず、擬似距離(コード距離、シュードレンジ)とキャリア位相擬似距離(フェーズ距離)は、以下のように表すことができる。
ここで、ρは、遅延時間による距離(擬似距離)を示す。また、Φは、キャリア位相を示す。rは、真の距離を示す。cは光速である。また、δtは、受信機時刻誤差を示し、δtは、衛星時刻誤差を示す。なお、本実施例において、右下の添え字は基本的に地上(受信機等)に関連する項を示し、右上の添え字は基本的に上空(衛星等)に関連する項を示す。δtu、L1orL2 biasは、受信機周波数依存ハードウェア依存バイアスを示し、δt L1orL2 biasは、衛星周波数依存ハードウェア依存バイアスを示す。さらに、Iは、電離層伝搬遅延量を示し、Tは、対流圏伝搬遅延量を示す。NL1orL2,ambは、整数不確定値を示し、εは、観測誤差を示す。
衛星TEC算出部33は、2つの周波数の観測値の差(遅延時間の差)をとることにより、TECを求めることができる。
(3)式は、2つの周波数の遅延時間の差を示す。(4)式は、位相距離の差を示す。ここで、fは周波数である。また、λは波長を示す。Δbiasは、周波数間バイアスを示す。また、TECtrueは、真の総電子数を示す。
次に、TECバイアス補正部34は、周波数間バイアス推定部35により事前に推定された周波数間バイアスΔbiasによる補正をTECに実施する。まず、バイアス補正後の2つの周波数の遅延時間差は、次式により表される。
ここで、(6)式には、観測値から分からない不確定値(λL1ΔNL1,amb−λL2ΔNL2,amb)が含まれている。そこで、TECバイアス補正部34は、(5)式と(6)式とを組み合わせて、以下に示す式により整数不確定値を削除する。この手法は、非特許文献3にも記載されている。
ここで、添え字kは、データの番号を示す。また、Mは、連続的に収集できたサンプル数の合計を示す。さらに、TECk,uは、衛星uの伝搬経路上の総電子数(個/m)を示す。
電子密度モデル算出部37は、電離層電子密度モデル関数に基づき電子密度モデルを算出し、算出した電子密度モデルを3次元電子密度推定空間設定部36に出力する。なお、電子密度モデル算出部37による電離層モデルは、例えば非特許文献1,2,4等に記載されている。
次に、3次元電子密度推定空間設定部36は、電子密度を推定する3次元空間を設定し、当該3次元空間を複数の領域に分割する。この3次元電子密度推定空間設定部36の動作は、本発明の空間設定ステップに対応する。また、3次元電子密度推定空間設定部36は、推定する3次元空間の電離層電子密度モデル値あるいは推定値を設定する。
具体的には、3次元電子密度推定空間設定部36は、衛星から衛星受信機が配置されている地点まで3次元空間における電離層を、緯度・経度・高さ方向に分割し、電離層モデル値を使用して分割した領域内あるいは格子点の位置の電子密度を設定する。非特許文献1,2等に記載されたIRIモデルは、高さ1000kmまでが有効範囲であるため、衛星が存在する空間までは設定できない。そこで、3次元電子密度推定空間設定部36は、例えば非特許文献4に記載されたGCPM(Global Core Plasma Model)を用いる手法や、IRIモデルの約400km〜1000kmを外挿する手法を採用することができる。
図5は、本実施例の伝搬経路推定システム32内の3次元電子密度推定空間設定部36による3次元空間設定を説明する図である。本実施例の3次元電子密度推定空間設定部36は、図5に示すように、3次元空間をX1〜X12の12個の領域(ブロック)に分割しているが、実際には膨大な数のブロック数となる。図5において、測位衛星S1〜S4と衛星信号受信機Rx1〜Rx3との間における信号通過経路は、矢印により表されている。図5の衛星・TEC・電子密度の関係は、次式により表される。
(9)式において、X1〜X12は、空間を分割した領域(メッシュ)の電子密度を示し、現時点では不明である。また、TEC は、i衛星・j受信機間で決まる総電子数を示す。例えば、図5中の太い矢印TEC は、測位衛星S2と衛星信号受信機Rx1との間の信号通過経路における総電子数を示す。TECバイアス補正部34により出力されたTECの値は、(9)式の右辺に代入される。
ここで、(9)式の行列式をAX=Eと表すことにする。行列Aの中のゼロでない要素(1で表されている要素)は、i衛星・j受信機間の信号が通過したメッシュを示す。第1電子密度推定部38は、AX=Eの式における電子密度X(X1〜X12)をトモグラフィ手法を用いて推定する。
具体的には、第1電子密度推定部38は、MARTあるいはGSVD手法により、衛星信号通過経路の電子密度を推定する。すなわち、電子密度推定部38は、総電子数算出部(TECバイアス補正部34)により算出された総電子数に基づいて3次元電子密度推定空間設定部36により分割された領域毎の電子密度を推定する。この電子密度推定部38の動作は、本発明の電子密度推定ステップに対応する。
なお、本実施例において、第1電子密度推定部38は、MARTあるいはGSVD手法により電子密度を推定するが、本発明を実現するためには、必ずしもいずれかの手法を使う必要はなく、衛星信号受信機が得た観測値に基づいて暫定的に各領域の電子密度を推定できればよい。
MARTの手法は、上述したように非特許文献5,6等に記載されているが、ここで簡潔に説明する。
(10)式は、MARTのアルゴリズムを示す式である。aは、(9)式のA行列i行ベクトルを表す。また、aijは、A行列のij成分を表す。Xは、X列行列のj成分を表す。さらに、Eは、(9)式のE行列のi成分を表している。また、λは、収束の度合いを決めるパラメータである。
第1電子密度推定部38は、(10)式に示すMARTのアルゴリズムを使用して、(10)式の値が収束するまで繰り返し処理を実施し、3次元電子密度推定空間設定部36により分割された領域毎の電子密度を推定する。その際に、電子密度推定部38は、TECバイアス補正部34により出力されたTECの値をE行列の値に使用するとともに、電子密度モデル算出部37により算出されたモデル値をXの初期値として使用する。
なお、第1電子密度推定部38は、信号が全く通過していない空間の電子密度を推定することはできない。
GSVD手法を採用する場合には、第1電子密度推定部38は、以下に示す方式で電子密度を求める。なお、GSVD手法については、非特許文献13に記載がある。
(11)式のLは、Tikhonov行列と呼ばれる。0次のTikhonov正規化では、Lを単位行列とする。αは、正規化パラメータで、α>0とする。また、Lは、正値2次形式行列(固有値が全て正)である。
(11)式を満足する電子密度Xは、次式で表すことができる。
なお、第1電子密度推定部38は、AX=Eの式における電子密度X(X1〜X12)を推定する際に、本発明の発明者により発明され既に出願されている特願2009−297309に記載された手法を用いて電子密度を推定してもよい。
また、非特許文献14及び非特許文献15には、電離層を球核の薄い層とみなした電子密度計算について記載されており、GPSを使用した観測結果のみに基づいて3次元電子密度推定を試みている。さらに、非特許文献16には、3次元方向の電子密度分布を高さ方向に計算した場合について記載されている。
また、第1電子密度推定部38は、電離層観測系2のイオノゾンデ収集データ処理装置76で算出した電離層の高さ方向の電子密度分布情報等を利用してもよい。
次に、第2電子密度推定部39は、第1電子密度推定部38により推定された電子密度と、受信情報処理部41により算出された概略地表位置(X,Y,Z)及びアレイアンテナ52が電波を受信した時刻とに基づいて、アレイアンテナ52が受信した電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定する。この第2電子密度推定部39の動作は、本発明の第2電子密度推定ステップに対応する。
また、第2電子密度推定部39は、第1電子密度推定部38により推定された電子密度と、受信情報処理部41により算出された概略地表位置(X,Y,Z)及びリモートセンシング送受信アンテナ56が電波を送信した時刻と送信時の衛星位置とに基づいて、リモートセンシング送受信アンテナ56が送信した電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定することもできる。
次に、信号処理装置32は、衛星位置からレイトレーシングを行う(ステップS3)。具体的には、伝搬経路推定部43は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度と地上衛星通信系1により受信された受信情報とに基づいて、レイトレーシング手法によりアレイアンテナ52が受信した電波の伝搬経路を推定する。この伝搬経路推定部43の動作は、本発明の伝搬経路推定ステップに対応する。あるいは、伝搬経路推定部43は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度に基づいて、レイトレーシング手法により衛星50が送信した電波の伝搬経路を推定する。
すなわち、伝搬経路推定部43は、非特許文献5,6に記載されているレイトレーシング手法により、まず衛星送信時刻ts、衛星位置(X,Y,Z)、衛星位置(X,Y,Zsnd、信号送信(地表送信源からの電波の受信の場合は信号送信源)方向(方位(φsnd)、仰角(θsnd))に対してレイトレーシングを実施する。その際に、伝搬経路推定部43は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度を使用してレイトレーシングを行う。伝搬経路推定部43は、レイトレーシング結果に基づいて推定される、衛星50から送信された電波が地表に到達した際の地表面における位置をレイトレーシング推定値(Xer1,Yer1,Zer1)とし、通過経路上の電子密度をρ(s)sndとする。ここで、sは、通過経路上の場所を示す変数である。
なお、地表送信源からの電波を受信した場合においては、伝搬経路推定部43は、上述した動作を行うことにより処理が完了する。すなわち、伝搬経路推定部43は、非特許文献5,6に記載されているレイトレーシング手法により、衛星受信時刻tr、衛星位置(X,Y,Z)、信号受信方向(方位(φrcv)、仰角(θrcv))に対してレイトレーシングを実施し、レイトレーシング推定位置を、緯度・経度・高さに変換して、送信源の位置を特定する。
また、リモートセンシングを行う場合に地上からの反射波を受信した際には、伝搬経路推定部43は、非特許文献5,6に記載されているレイトレーシング手法により、地表面からの反射波を受信した時刻tr、衛星位置(X,Y,Zrcv、信号受信方向(方位(φrcv)、仰角(θrcv))から、同様に衛星50から信号受信方向に対するレイトレーシングを実施する。その際に、伝搬経路推定部43は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度を使用してレイトレーシングを行う。伝搬経路推定部43は、レイトレーシング結果に基づいて推定される、地表面で電波が反射した位置をレイトレーシング推定値(Xer2,Yer2,Zer2)とし、通過経路上の電子密度をρ(s)rcvとする。
本実施例の伝搬経路推定システムは、以上のようにして衛星50が送信あるいは受信した電波の伝搬経路を推定することができ、リモートセンシングの際の地表における反射位置をより正確に推定することができる。また、地上の送信源から送信された電波を衛星50で受信した場合には、本実施例の伝搬経路推定システムは、送信源位置をより正確に特定することができる。
さらに、信号処理装置32は、電離層による伝搬遅延量・位相変化量を推定する(ステップS4)。具体的には、補正部45は、第2電子密度推定部39により推定された電子密度に基づいて、伝搬経路推定部43により推定された伝搬経路上の伝搬遅延量と位相の変化量とを算出する。すなわち、補正部45は、伝搬経路上の電子密度ρ(s)snd及びρ(s)rcvに基づいて、伝搬遅延量と位相の変化量とを算出する。
補正部45は、電離層により生じる伝搬遅延量Δτtotalを、(13)式と(15)式とを用いて計算することができる。
ここで、eは電子の電荷を示す。また、mは電子の質量を示す。εは真空の誘電率を示す。fは送受信周波数を示す。
また、補正部45は、衛星50からの電波の送受信の際に電離層により生じる位相量Δφtotalを、(14)式と(15)式とを用いて計算することができる。
さらに、補正部45は、電離層により生じる位相差の送受信差Δφsrを、次式を用いて計算することができる。
このようにして求めた電離層による伝搬遅延量・位相変化量は、例えば衛星50と地表との距離を求めるうえでも役立つ。
さらに、補正部45は、衛星観測結果の補正を行う(ステップS5)。すなわち、補正部45は、算出結果を用いて地上衛星通信系1により受信された受信情報の補正を行う。具体的には、補正部45は、ステップS4で計算した伝搬遅延量Δτtotal、位相量Δφtotal、位相差Δφsrを使用し、衛星50で送受信した電波の観測結果の補正を実施する。
補正部45は、例えば、補正した受信情報をデータサーバ系80に出力して保存してもよいし、補正した受信情報を受信情報処理部41にフィードバックさせて伝搬経路推定を伝搬経路推定部43に再度行わせてもよい。
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係る伝搬経路推定システム及び伝搬経路推定方法によれば、衛星50から送信された電波が地表で反射され、当該反射波を衛星50で受信するリモートセンシングの場合や、地上の送信源から送信された電波を衛星50で受信して送信源の位置を推定するような場合に、電離層が与える影響を排して正確な伝搬経路を推定することができる。
また、本実施例の伝搬経路推定システムは、正確な伝搬経路推定を行った結果、リモートセンシングの際の地表における反射位置をより正確に推定することができる。あるいは、地上の送信源から送信された電波を衛星50で受信した場合には、本実施例の伝搬経路推定システムは、送信源位置をより正確に特定することができる。
さらに、補正部45は、推定した伝搬経路に基づいて、伝搬遅延量Δτtotal、位相量Δφtotal、位相差Δφsrを計算し、衛星50で送受信した電波の観測結果の補正を行うことができ、より正確な観測結果を得られることができる。また、本実施例の伝搬経路推定システムは、補正した観測結果をフィードバックして、伝搬経路推定の近似精度を向上させることができる。
本発明に係る伝搬経路推定システム及び伝搬経路推定方法は、リモートセンシングや送信源位置推定を行う際に、観測衛星で送受信される電波の伝搬経路を推定する伝搬経路推定システムに利用可能である。
1 地上衛星通信系
10a、10b、10c 測位衛星
11 衛星通信アンテナ
12a,12b アンプ
13a,13b 周波数変換部
14 復調器
15 通信データ処理装置
16 変調器
17 アンテナ制御装置
20 衛星信号処理系
22 アンテナ
24 衛星信号受信機
26 衛星信号処理装置
30 信号処理系
32 信号処理装置
33 衛星TEC算出部
34 TECバイアス補正部
35 周波数間バイアス推定部
36 3次元電子密度推定空間設定部
37 電子密度モデル算出部
38 第1電子密度推定部
39 第2電子密度推定部
40 インターネットデータ処理系
41 受信情報処理部
42 ルータ
43 伝搬経路推定部
44 GEONET収集データ処理装置
45 補正部
46 外部インターネット網
50 衛星
51 衛星通信・信号処理系
52 アレイアンテナ
53 アンプ
54 周波数変換部
55 デジタイザ
56 リモートセンシング用送受信アンテナ
57 アンプ
58 周波数変換部
59 信号処理装置
60 通信データ処理装置
61 復調器
62 変調器
63,64 周波数変換部
65,66 アンプ
67 衛星通信アンテナ
68 電源系
69 姿勢制御・航法系
70 電離層観測系
72 イオノゾンデ用アンテナ
74 イオノゾンデ
76 イオノゾンデ収集データ処理装置
80 データサーバ系
82 データ収集部
S1,S2,S3,S4 測位衛星
Rx1,Rx2,Rx3 衛星信号受信機

Claims (4)

  1. 複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有する伝搬経路推定システムであって、
    観測衛星に設けられ、地上から到来して電離層を通過した電波を受信するアレイアンテナと、
    前記観測衛星に設けられ、前記アレイアンテナが受信した電波の到来方位と仰角とを算出する第1算出部と、
    前記第1算出部により算出された電波の到来方位と仰角とを受信情報として衛星通信により地上に送信する衛星側通信処理部と、
    前記衛星側通信処理部により送信された受信情報を地上で受信する地上側通信処理部と、
    前記地上側通信処理部により受信された受信情報に基づいて、前記観測衛星の位置、前記アレイアンテナが電波を受信した時刻、前記電波の伝搬方向ベクトル、及び前記伝搬方向ベクトルと地表との交点である概略地表位置を算出する第2算出部と、
    前記1以上の受信機の各々から前記複数の測位衛星の各々に対する擬似距離およびキャリア位相擬似距離に基づき前記衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出部と、
    電子密度を推定する3次元空間を設定し、当該3次元空間を複数の領域に分割する空間設定部と、
    前記総電子数算出部により算出された総電子数に基づいて前記空間設定部により分割された領域毎の電子密度を推定する第1電子密度推定部と、
    前記第1電子密度推定部により推定された電子密度と、前記第2算出部により算出された概略地表位置及び前記アレイアンテナが電波を受信した時刻とに基づいて、前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定する第2電子密度推定部と、
    前記第2電子密度推定部により推定された電子密度と前記地上側通信処理部により受信された受信情報とに基づいて、レイトレーシング手法により前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路を推定する伝搬経路推定部と、
    を備えることを特徴とする伝搬経路推定システム。
  2. 前記伝搬経路推定部は、前記第2電子密度推定部により推定された電子密度に基づいて、レイトレーシング手法により前記観測衛星が送信した電波の伝搬経路を推定することを特徴とする請求項1記載の伝搬経路推定システム。
  3. 前記第2電子密度推定部により推定された電子密度に基づいて、前記伝搬経路推定部により推定された伝搬経路上の伝搬遅延量と位相の変化量とを算出するとともに、算出結果を用いて前記地上側通信処理部により受信された受信情報の補正を行う補正部を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の伝搬経路推定システム。
  4. 複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有する伝搬経路推定方法であって、
    観測衛星に設けられたアレイアンテナで地上から到来して電離層を通過した電波を受信し、受信した電波の到来方位と仰角とを算出する第1算出ステップと、
    前記第1算出ステップにより算出された電波の到来方位と仰角とを受信情報として衛星通信により地上に送信する衛星側通信処理ステップと、
    前記衛星通信処理ステップにより送信された受信情報を地上で受信する地上側通信処理ステップと、
    前記地上側通信処理ステップにより受信された受信情報に基づいて、前記観測衛星の位置、前記アレイアンテナが電波を受信した時刻、前記電波の伝搬方向ベクトル、及び前記伝搬方向ベクトルと地表との交点である概略地表位置を算出する第2算出ステップと、
    前記1以上の受信機の各々から前記複数の測位衛星の各々に対する擬似距離およびキャリア位相擬似距離に基づき前記衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出ステップと、
    電子密度を推定する3次元空間を設定し、当該3次元空間を複数の領域に分割する空間設定ステップと、
    前記総電子数算出ステップにより算出された総電子数に基づいて前記空間設定ステップにより分割された領域毎の電子密度を推定する第1電子密度推定ステップと、
    前記第1電子密度推定ステップにより推定された電子密度と、前記第2算出ステップにより算出された概略地表位置及び前記アレイアンテナが電波を受信した時刻とに基づいて、前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路に対応する領域の電子密度を推定する第2電子密度推定ステップと、
    前記第2電子密度推定ステップにより推定された電子密度と前記地上側通信処理ステップにより受信された受信情報とに基づいて、レイトレーシング手法により前記アレイアンテナが受信した電波の伝搬経路を推定する伝搬経路推定ステップと、
    を備えることを特徴とする伝搬経路推定方法。
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