JP2011135762A - 交流電動機の駆動制御装置及び基準磁束演算装置 - Google Patents

交流電動機の駆動制御装置及び基準磁束演算装置 Download PDF

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Abstract

【課題】制御モードを切り替えることなくシームレスで交流電動機を駆動制御する。
【解決手段】基本コンポーネント演算器34は、トルク誤差等に応じて基本係数を演算する。デルタ演算器36は、基本係数に応じ、基本係数が増加するに従って0度から60度まで順次増加するように非切替領域の角度Deltaを演算する。基準磁束軌跡演算器32は、角度Deltaを用いて基準磁束の軌跡を演算し、最大基準磁束ψmax及び最小基準磁束ψminを演算する。切替パターン演算部34は、磁束がψmaxとψminとの間にあり、位相角がDelta内のときにはインバータ26の出力電圧ベクトルを切り替えることなく維持する。これにより、インバータ電圧が高周波スイッチングから矩形形状にシームレスに変化していく。
【選択図】図1

Description

本発明は交流モータ(ACモータ)のシームレスなシングルモード制御に関する。
ハイブリッド車両や電気自動車に搭載される駆動源としての交流電動機を、制御モードを適宜切り替えて駆動制御する構成が知られている。例えば、2つの制御モードを切り替える方法、あるいは3つの制御モードを切り替える方法がある。2つの制御モードを切り替える方法では、低回転域では通常のPWM制御を行い、高回転域では矩形波制御を行う。3つの制御モードを切り替える方法では、これらの制御モードに加え、過変調制御モードが用いられる。回転数及びトルクが小さい領域から順に、変調率が1以下の正弦波制御モード、変調率が1を超える過変調制御モード、矩形波制御モードに順に切り替える。
図20(a)〜(c)に、これら3つの制御モードを模式的に示す。(a)の正弦波制御モードでは、三角波比較によるPWM制御における三角波の振幅以下の振幅で正弦波状の出力電圧指令値を生成してPWM信号に変換する。(b)の過変調制御モードでは、三角波の振幅を超えた振幅で正弦波状の出力電圧指令値を生成してPWM信号に変換する。(c)の矩形波制御モードでは、ハイレベル期間及びローレベル期間の比が1:1の矩形波信号を生成する。低回転低トルク領域において正弦波制御モードを用いることで、電動機を応答性良く制御するとともに、低回転域であっても滑らかな回転を得ることができる。また、高回転高トルク領域において矩形波制御モードを用いることで、直流電源の電圧利用率を向上させて高回転域での出力を向上させるとともに、銅損の発生やスイッチング損失を抑えてエネルギ効率を向上させることができる(特許文献1,2参照)。これら3つの制御モードは、予め用意されメモリに記憶された制御モード設定用マップを参照しつつ、回転数及び出力トルクに応じて順次切り替えられる。
特開2009−165326号公報 特開2008−253000号公報
しかしながら、回転数及び出力トルクに応じて3つの制御モードを切り替える方法は、これを実現するための装置構成が比較的複雑なものとなる。また、ある制御モードから次の制御モードに切り替える際に、トルク変動が生じ得る。さらに、交流モータを制御する方法として、磁束とトルクを直接かつ独立に制御するダイレクトトルクコントロール(DTC)が知られているが、このDTCに比べてトルクレスポンスが相対的に低い。
なお、交流電動機の駆動制御として、空間ベクトル変調(SPM)も提案されているが、基準電圧を生成するためにリアルタイムで複雑な方程式を解かなくてはならない、より多くの電動機パラメータに依存する等の問題がある。
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、制御モードを切り替えることなくシームレスで交流電動機を駆動制御することができる駆動制御装置及び基準磁束演算装置を提供することにある。
本発明は、交流電動機の駆動制御装置であって、基準トルクと現在トルクのトルク誤差、及び交流電動機の速度に応じて基本係数を演算する基本係数演算手段と、前記基本係数を用いて非切替領域を規定する角度Deltaを演算するデルタ演算手段と、前記角度Deltaと基準磁束に応じて最大基準磁束及び最小基準磁束を演算する基準磁束軌跡演算手段と、基準トルクと現在トルクとのトルク誤差、基準磁束と現在磁束の磁束誤差、磁束の位相角、及び前記角度Deltaに応じて演算された最大基準磁束及び最小基準磁束に応じて交流電動機を駆動するインバータの出力電圧ベクトルを選択する切替パターン演算手段とを備えることを特徴とする。
本発明の1つの実施形態では、さらに、前記角度Deltaに応じたトルク減少分を補償すべく基準トルクを補正するトルク補償手段を備える。
また、本発明の1つの実施形態では、前記デルタ演算手段は、前記基本係数に応じ、前記基本係数が増加するに従って0度から60度まで順次増加するように前記角度Deltaを演算する。
また、本発明の1つの実施形態では、前記切替パターン演算手段は、現在磁束が前記最大基準磁束と前記最小基準磁束との間にあり、前記位相角が前記角度Deltaで規定される前記非切替領域内にあり、かつ、現在の出力電圧ベクトルがゼロベクトルでない場合に現在の出力電圧ベクトルを切り替えることなく維持し、現在磁束が前記最大基準磁束と前記最小基準磁束との間になく、あるいは前記位相角が前記角度Deltaで規定される前記非切替領域内になく、あるいは、現在の出力電圧ベクトルがゼロベクトルである場合に予め設定された切替パターンテーブルに従って出力電圧ベクトルを選択する。さらに、前記基準磁束軌跡演算手段は、前記インバータの出力電圧ベクトルの切替タイミングに対応する理論的な基準磁束軌跡の角度と実際の角度とのずれであるオフセットを演算するオフセット算出部と、前記オフセットを用いて基準磁束を補正する基準磁束補正部とを備えてもよい。また、本発明は、交流電動機の駆動装置に用いられる基準磁束演算装置であって、基準トルクと現在トルクのトルク誤差、及び交流電動機の速度に応じて基本係数を演算する基本係数演算手段と、前記基本係数を用いて非切替領域を規定する角度Deltaを演算するデルタ演算手段と、インバータの出力電圧ベクトルの切替タイミングに対応する理論的な基準磁束軌跡の角度と実際の角度とのずれであるオフセットを演算するオフセット算出部と、前記オフセットを用いて角度Deltaの中心位置を補正する中心位置補正部と、補正された角度Deltaの中心位置と前記位相角との間の角度αを算出するα算出部とを備え、前記角度α及び角度Deltaを用い、前記基準磁束にcos(Delta/2)/cos(α)を乗じることで基準磁束を補正することを特徴とする。
このように、本発明では、従来のDCTのように予め設定された切替パターンテーブルを用い、トルク誤差や磁束誤差に応じてインバータの出力電圧ベクトルを順次切り替えるのではなく、非切替領域Deltaを設定し、磁束の位相角がこのDelta内にある場合にはインバータの出力電圧ベクトルを切り替えることなくそのまま維持する。角度Deltaはインバータの基本係数から演算され、基本係数に応じて0度から60度まで連続的に変化する。基本係数はトルク誤差や交流電動機の速度に基づいて演算される。角度Deltaの領域では出力電圧ベクトルは維持されるため、磁束軌跡は従来のDCTのように磁束が一定の円形状から変動する。具体的には、Delta=0度の場合には従来と同様に磁束軌跡は円形状であるが、Deltaが増加するに従って連続的に6角形状に変化していく。これに伴い、インバータ電圧も高周波のパターンから矩形のパターンに連続的に変化していく。これにより、制御モードの切替のないシームレスな駆動が可能となる。
なお、角度Deltaが0度から60度に順次増加するに従って磁束軌跡が円形状から6角形状に変化するため、平均トルクは減少する。この場合、トルク補償器で角度Deltaに応じて基準(目標)トルクを補正することで、トルク減少分を補償できる。
本発明によれば、制御モードを切り替えることなくシームレスで交流電動機を駆動制御することができる。また、本発明では、インバータ電圧は高周波パターンから矩形パターンにわたって滑らかに変化するから、トルク変動を抑制することができる。また、本発明では従来のDTCと同様にトルクを直接制御するため、レスポンスも迅速である。
実施形態の駆動制御装置の構成ブロック図である。 角度Deltaと補償トルクの関係を示すグラフ図である。 基本係数とDeltaの関係を示すグラフ図である。 実施形態の基準磁束軌跡説明図である。 Deltaが0度と60度の場合の基準磁束軌跡説明図である。 Deltaが0度と60度の場合のインバータ電圧パターン説明図である。 Deltaの変化に応じた基準磁束軌跡説明図である。 Delta=20度の場合の基準磁束軌跡とインバータ電圧パターンの関係を示す説明図である。 Delta=40度の場合の基準磁束軌跡とインバータ電圧パターンの関係を示す説明図である。 Delta=55度の場合の基準磁束軌跡とインバータ電圧パターンの関係を示す説明図である。 Delta=60度の場合の基準磁束軌跡とインバータ電圧パターンの関係を示す説明図である。 実施形態のシミュレーション結果を示すグラフ図である。 実施形態のシミュレーション結果を示すグラフ図である。 実施形態のシミュレーション結果を示す、磁束軌跡とインバータ電圧パターンの説明図である。 実施形態のシミュレーション結果を示す、磁束軌跡とインバータ電圧パターンの説明図である。 実施形態のシミュレーション結果を示す、磁束軌跡とインバータ電圧パターンの説明図である。 インバータ出力電圧ベクトルの説明である。 d−q平面におけるS(1)〜S(6)領域と従来の磁束軌跡の説明図である。 切替パターンテーブルの一例を示す図である。 従来の制御モードの説明図である。 基準磁束軌跡演算ユニットの概念構成図である。 基準磁束軌跡演算ユニットの構成ブロック図である。 オフセット説明図である。 オフセット無考慮時の基準磁束軌跡の説明図である。 オフセット評価器の構成ブロック図である。 位相角に対する磁束軌跡の説明図である。 図25の一部拡大図である。 実施形態のシミュレーション結果を示す磁束軌跡説明図である。
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態における交流電動機の駆動制御装置の構成ブロック図を示す。図1における記号の定義は、以下のとおりである。
ωr:モータ速度
ωr:基準(目標)モータ速度
Te:基準(目標)トルク
Te:モータトルク
ψ:基準(目標)磁束
ΔTe:トルク誤差
Δψ:磁束誤差
dTe:量子化トルク信号
dψ:量子化磁束信号
ρs:位相角
θr:ロータ角
ωc:クロスオーバ速度
ψmax:最大基準(目標)磁束
ψmin:最小基準(目標)磁束
Delta:非切替領域の角度
図1の構成ブロック図は、DTCの構成ブロック図を基本とし、これにいくつかの機能ブロックを付加して修正したものである。
基準(目標)モータ速度ωrとモータ速度ωrは、ともに差分器10に供給される。差分器10は、ωrとωrの差分を演算し、ωrに対するωrの誤差としてPI器12に出力する。PI器12は、誤差を比例積分し、基準(目標)トルクTeを算出してトルク補償器14に出力する。
トルク補償器14は、Delta演算部36で演算された非切替領域の角度Deltaを用いて基準(目標)トルクTeを補正し、差分器16に出力する。トルク補償器14は、以下の式に従って基準(目標)トルクTeをDeltaに応じて補正する。Deltaの値をδとすると、
補償トルク=π/3・Te{δ−cos(δ/2)Ln{(1+sin(δ/2))/(1−sin(δ/2))}}
である。図2に、Deltaと補償トルクTcomとの関係を示す。Delta=0の場合には補償トルクTcomは1、すなわち基準トルクTeのままであるが、Deltaが増大するに従ってトルクTeを増大させるように補償する。Deltaが増加するに従って補償トルクを増大させるのは、Deltaが増大するほど平均トルクが不足するためこれを補償する必要があるからである。これについてはさらに後述する。
再び図1に戻り、差分器16は、補正(補償)された基準(目標)トルクTe(Tcom)とトルクTeとの差分を演算し、補償された基準(目標)トルクTeに対するトルクTeの誤差ΔTeとしてトルク比較器18に出力する。
一方、モータ速度ωrは、磁束演算部11に供給される。磁束演算部11は、予め用意されたマップを用いてモータ速度ωrに対応する基準(目標)磁束ψを演算し、差分器20に出力する。差分器20は、基準(目標)磁束ψと磁束ψとの差分を演算し、基準(目標)磁束ψに対する磁束ψの誤差Δψとして磁束比較器22に出力する。
トルク比較器18は、トルク誤差ΔTeとトルクヒステリシスΔTeとに基づいて3値の量子化トルク信号dTeを演算するヒステリシスコンパレータであり、量子化トルク信号dTeを切替パターン演算器24に出力する。また、磁束比較器22は、磁束誤差Δψと最大基準磁束ψmaxと最小基準磁束ψminとに基づいて2値の量子化磁束信号dψを演算するヒステレシスコンパレータであり、量子化磁束信号dψを切替パターン演算器24に出力する。
切替パターン演算器24は、予め作成され記憶された切替パターンテーブルを用いて、トルク比較器18からの量子化トルク信号dTe及び磁束比較器22からの量子化磁束信号dψ並びに位相角ρsに対応する電圧ベクトルを選択し、インバータ26に供給する。インバータ26は、切替パターン演算器24からの信号に基づいてスイッチング制御され、モータ(IPM)28を駆動する。
モータ28のロータ角θr及びモータ速度ωrはそれぞれセンサで検出されて評価器30に供給される。評価器30は、これらの信号に基づいて磁束ψ及びトルクTe並びに位相角ρsを評価する。トルクTeは差分器16に供給され、磁束ψは差分器20に供給される。また、トルクTeは、基準トルクTe、モータ速度ωr、クロスオーバ速度ωcとともに、インバータ電圧の基本コンポーネント演算器34に供給される。
インバータ電圧の基本コンポーネント演算器34は、差分器及び比例積分器を有し、トルクTeと基準トルクTeとの差分を演算し、その誤差を比例積分器で比例積分する。
デルタ演算器36は、インバータ電圧の基本コンポーネント演算器34で算出された結果に基づいて非切替領域の角度Deltaを演算する。具体的には、基本コンポーネント演算器34で演算された基本係数をfcとすると、
fc=1/π{8sin(δ/2)+π−3δ}
の関係にある。ここで、δはデルタ演算器36で演算されるDeltaの値である。演算されたDeltaは、基準磁束軌跡演算器32に供給される。図3に、デルタ演算器36で演算されるDeltaを示す。基本係数fc(図ではInで示す)が増大すると、Deltaもこれに応じて増大していく。基本係数fcが1の場合、Deltaは0である。
基準磁束軌跡演算器32は、デルタ演算器36からの角度Deltaと、位相角ρsと、基準磁束ψを用いて基準磁束軌跡を演算する。すなわち、通常のDTCと異なり、本実施形態では、基準磁束軌跡は一定ではなく変動し、その最大基準磁束ψmax及び最小基準磁束ψminは、角度Deltaと位相角ρsと基準磁束ψに応じて適応的に決定される。演算して得られた基準磁束軌跡の最大基準磁束ψmax及び最小基準磁束ψminは、磁束比較器22に供給される。磁束比較器22は、既述したように、これら最大基準磁束ψmax及び最小基準磁束ψminをヒステリシスループのしきい値として用いて量子化磁束信号dψを演算(1,−1のいずれかのレベルに量子化)する。すなわち、磁束誤差Δψがψmaxより大きい場合には「1」、磁束誤差Δψがψminより小さい場合には「−1」のレベルに量子化し、磁束誤差Δψがψminとψmaxの間にある場合には、それ以前の状態に応じて「1」あるいは「−1」のレベルに量子化する。例えば、誤差Δψがψmaxより大きい状態からψminとψmaxの間の状態に移行した場合には「1」のレベルに量子化し、磁束誤差Δψがψminより小さい状態からψminとΨmaxの間の状態に移行した場合には「−1」のレベルに量子化する。このようなヒステリシス特性をもたせることで、頻繁な切替を防止できる。
ここで、磁束軌跡について簡単に述べると、インバータ26のスイッチングモードの組み合わせ(U相、V相、W相の各スイッチのオンオフ)に応じて電圧ベクトルは8種類存在する。図17に、これら8種類の電圧ベクトルを示す。すなわち、v0(000)、v1(100)、v2(110)、v3(010)、v4(011)、v5(001)、v6(001)、v7(111)である。これらの中で、v0(000)及びv7(111)はゼロベクトルであり、他は非ゼロベクトルである。磁束ベクトルは、電圧ベクトルの積分として表現される。電圧降下が小さいものとすると、磁束の軌跡は、インバータ電圧ベクトルの方を向く。インバータ26の出力が非ゼロベクトルのいずれかであると、磁束は出力電圧に比例した速度で移動する。ゼロベクトルの場合には、移動速度はとても小さく近似的にゼロとみなすことができる。したがって、電圧ベクトルを適当に選択することにより、磁束は特定の軌跡に沿って移動する。磁束ψの大きさを一定に維持するために、基準(目標)磁束ψと現在の磁束との誤差Δψが許容範囲内となるように電圧ベクトルが選択される。電圧ベクトルの選択は、誤差の大きさのみならず、磁束ψの向きにも依存する。図18に、磁束軌跡の一例を示す。インバータ出力電圧ベクトルはπ/3のステップで周期的に変化するから、磁束ψの向きを区別するために、d軸とq軸からなるd−q平面は6つの領域S(1)〜S(6)に分割される。例えば、磁束ψがS(1)領域に存在する場合に、反時計回りに磁束ψを回転させるためには、電圧ベクトルv3(010)を選択すればよい。次に、磁束ψがS(2)領域に存在する場合、反時計回りに磁束ψを回転させるためには、電圧ベクトルv4(011)を選択すればよい。
一方、トルクTeが基準(目標)トルクTeよりも小さい場合には、可能な限り迅速にトルクTeを増大させる必要がある。そして、トルクTeが基準トルクTeに達した場合には、インバータスイッチング周波数を小さくするために可能な限り穏やかにトルクTeを減少させる必要がある。これを行うためにゼロベクトルを用いる。例えば、磁束ψを時計回りに回転させる場合、トルクTeが基準トルクTeに達すると、磁束ψを止めてトルクを減少させるためにゼロベクトルが選択される。一方、トルクTeが基準トルクTeの下限許容値(最小基準トルク)に達すると、磁束ψを時計回りに回転させるための電圧ベクトルが選択される。磁束ψを反時計回りに回転させる場合には、トルクTeが基準トルクTeに達すると、磁束ψを止めてトルクを減少させるためにゼロベクトルが選択される。また、トルクTeが基準トルクTeの上限許容値(最大基準トルク)に達すると、磁束ψを反時計回りに回転させるための電圧ベクトルが選択される。
磁束の誤差Δψ及びトルク誤差ΔTeは、2値及び3値のヒステリシスコンパレータを用いて容易に量子化される。トルク誤差ΔTeは2値のヒステリシスコンパレータを用いて1、−1のいずれかに量子化され、磁束誤差Δψは3値のヒステリシスコンパレータを用いて1,0,−1のいずれかに量子化される。ヒステリシスコンパレータで量子化された磁束誤差ΔψをHψ、同様に量子化されたトルク誤差ΔTeをHTeとすると、インバータ出力電圧ベクトルは、HΨ、HTe、及びS(i)(i=1〜6)により決定される。S(i)については、位相角ρsから決定される。
図19に、インバータ26の切替パターンテーブルの一例を示す。図において、例えばHΨ=1、HTe=1、S(1)領域の場合には電圧ベクトルとしてv2(110)が選択される。また、HΨ=−1、HTe=1、S(2)領域の場合には電圧ベクトルとしてv4(011)が選択される。なお、より詳細なインバータの出力電圧ベクトルの選択については、”A New Quick-Response and High-Efficiency Control Strategy of an Induction Motor”, Isao Takahashi and Toshihiko Noguchi, IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRY APPLICATIONS, vol. 1A-22, No.5, 1986を参照されたい。
一方、本実施形態では、図19に示される切替パターンテーブルをそのまま用いるのではなく、非切替領域の角度Deltaを用いてインバータの出力電圧ベクトルを選択する。具体的には、
(1)磁束ψが最大基準磁束ψmaxと最小基準磁束ψminとの間にあるか否か
(2)位相角がDelta内にあるか否か
(3)現在の電圧ベクトルがゼロベクトルでないか否か
を順次判定する。そして、上記の(1)〜(3)のいずれかでNOと判定された場合、例えば磁束ψが最小基準磁束ψminより小さい場合あるいは最大基準磁束ψmaxより大きい場合、位相角がDelta内にない場合、あるいは現在の電圧ベクトルがゼロベクトルである場合(つまり、v0あるいはv7である場合)には、図19の切替パターンテーブルを用いて電圧ベクトルを選択する。すなわち、Hψ、HTeをそれぞれ本実施形態におけるdψ、dTeとして、dψ、dTe、S(i)に応じて電圧ベクトルを選択することで切り替える。一方、上記の(1)〜(3)のいずれもYESと判定された場合、すなわち、磁束ψが最小基準磁束ψminと最大基準磁束ψmax*の間にあり、位相角がDelta内にあり、かつ、ゼロベクトルでない場合には、スイッチングを行うことなく電圧ベクトルをそのまま維持するように制御する。位相角がDelta内にある場合に電圧ベクトルを切り替えずにそのまま維持するため、従来のように磁束ψが一定となるように制御するのではなく、磁束軌跡が円形状から変化することが理解されよう。
図4に、以上のようにして制御される本実施形態における基準磁束軌跡を示す。図において、Deltaは非切替領域であり、60−Deltaは、60度のうちDeltaでない残存領域を示す。Deltaの領域では電圧ベクトルは切り替えられずにそのまま維持されるため、磁束軌跡は一定ではなく変動する。そして、Deltaが0度から60度まで変化すると、基準磁束軌跡は、円形状から6角形状に変化する。
図5に、Delta=0度の場合とDelta=60度の場合の基準磁束軌跡を示す。図5(a)はDelta=0度の場合であり、従来のDTCに対応する。図5(b)はDelta=60度の場合である。このようにDeltaに応じて磁束軌跡が変化するので、インバータ出力電圧も正弦波パターンの高周波スイッチング(HF)からシンプルな矩形波に変化する。図6に、インバータ電圧の波形変化を示す。図6(a)はDelta=0度の場合、図6(b)はDelta=60度の場合のインバータ電圧波形である。
図7に、従来のDCTにおける磁束軌跡に対し、本実施形態におけるDeltaに応じて磁束軌跡がどのように変化していくかを示す。図7(a)は従来のDCTにおける磁束軌跡である。磁束軌跡は円形状で一定である。これに対し、図7(b)、(c)、(d)はDeltaを0度から60度まで順次増大させた場合の磁束軌跡である。図7(e)は、弱磁界の領域である。Deltaは、図3に示すように基本係数fcが増大するに従って0度から順次60度まで増加していく。モータ速度との関係では、低速域では基本係数fcは小さいため、これに応じてDeltaも小さく、例えば図7(a)や図7(b)の磁束軌跡である。高速域では基本係数fcも大きくなり、これに応じてDeltaも大きくなり、図7(c)や図7(d)の磁束軌跡となる。
さらに、図8〜図11に、それぞれDelta=20度、40度、55度、60度の場合の磁束軌跡とインバータ電圧との対応関係を示す。Deltaが小さい場合、位相角がDelta内に存在せず、60−Deltaの領域に存在する場合が多く、スイッチングテーブルを用いた電圧ベクトルの切替が行われる。Deltaが大きくなると、位相角がDelta内に存在するようになり、スイッチングテーブルを用いた切替が行われず電圧ベクトルはそのまま維持される。この図からも、本実施形態では、Deltaの変化に応じてインバータ電圧が高周波スイッチングから矩形形状に連続的に変化していくように動作することがわかる。
なお、Deltaが0度から60度まで順次増加すると、その分だけ平均トルクは減少するので、このトルク減少分を補うことが必要となる。このトルク減少分を補うのがトルク補償器14であり、デルタ演算器36で演算されたDeltaに応じて不足するトルクを基準トルクTeを補正することで補償する。Deltaが増加するに従い、磁束軌跡は6角形状に変化して平均トルクが減少するから、補償トルクはDeltaが増加するほど大きく設定する(図3参照)。補償トルクは差分器16に供給される。
以上説明したように、本実施形態の駆動制御方法では、すべての速度域においてシームレスなトルク制御が可能である。そして、基準トルクTeと現在のトルクTeとの誤差ΔTeに応じて角度Deltaが連続的に変化していくと、これに応答してインバータのスイッチングパターンも連続的に変化していく。したがって、高周波パターンから矩形パターンにわたってインバータ電圧は滑らかに変化し、トルク変動を抑制することができる。トルク変動は、モード切替時に生じるものであるところ、本実施形態では単一のモードで動作するからである。本実施形態の駆動方法は単一モードであるから、従来の複数モードを切り替える駆動方法に比べてシンプルである。また、本実施形態では、トルクと磁束が直接演算されるため、計算が簡単である。また、本実施形態ではトルクを直接制御するため、レスポンスも速い利点がある。
図12〜図16に、永久磁石同期モータでのコンピュータシミュレーション結果を示す。図12(a)はモータトルクと負荷トルクの時間変化を示しており、符号100がモータトルク、符号200が負荷トルクを示す。図12(b)はモータ速度の時間変化を示す。また、図12(c)は磁束の時間変化を示す。図13はモータ速度の変化に対応するインバータのスイッチングパターンを示す。モータ速度が増大するに従い、スイッチングパターンはシームレスに変化していく。図14〜図16は磁束軌跡とインバータ電圧の変化をそれぞれ示す。シミュレーション結果より、本実施形態の駆動方法により、全ての速度域にわたって、単一モードでのシームレスな制御が可能であることが分かる。
ところで、基準磁束軌跡演算器32は、上記のようにデルタ演算器36からの角度Deltaと、位相角ρsと、基準磁束ψを用いて基準磁束軌跡を演算し、最大基準磁束ψmaxと最小基準磁束ψminとを演算するが、インバータ26のスイッチングトランジスタのスイッチング動作には物理的な遅れがあるため、理論値と実際の値との間には誤差あるいはオフセットが生じ得る。そこで、基準磁束軌跡演算器32は、このようなオフセットも考慮して、最大基準磁束ψmaxと最小基準磁束ψminを決定するのが好適である。具体的には、基準磁束軌跡演算器32では、基準磁束ψからオフセットを考慮した新基準磁束ψnewを生成し、この新基準磁束ψnewから最大基準磁束ψmaxと最小基準磁束ψminを生成するのが好適である。
図21に、この場合の基準磁束軌跡演算器32を構成する基準磁束軌跡演算ユニット32aの概念構成ブロック図を示す。基準磁束軌跡演算ユニット32aには、デルタ演算器36からの角度Deltaと、位相角ρsと、基準磁束ψが供給される。基準磁束軌跡演算ユニット32aは、これらの物理量からオフセットを演算し、演算したオフセットを用いて新基準磁束ψnewを生成する。
図22に、基準磁束軌跡演算ユニット32aの詳細構成ブロック図を示す。基準磁束軌跡演算ユニット32aは、理論Delta中心計算器32bと、オフセット評価器32cと、加算器32dと、α計算器32eと、磁束ψnew計算器32fから構成される。理論Delta中心計算器32bは、位相角ρsから理論的なDelta中心角を計算して出力する。
オフセット評価器32cは、位相角ρsと基準磁束ψからオフセットを計算して出力する。
加算器32dは、理論Delta中心計算器32bで計算された理論Delta中心と、オフセット評価器32cで評価されたオフセットとを加算することで実際のDelta中心を算出し出力する。
α計算器32eは、実際のDelta中心と位相角ρsからαを計算して出力する。ここで、αは、実際のDelta中心と位相角ρsとの間の角度として定義される。
磁束ψnew計算器32fは、計算されたαと、デルタ演算器36で演算された角度Deltaと、基準磁束ψに基づいて、新基準磁束ψnewを計算して出力する。
図23に、一例として、角度Delta=60度における磁束軌跡を示す。既述したように、角度Deltawを0度から60度まで変化させると、基準磁束は円形から6角形に変化する。このとき、スイッチング誤差がなければ6角形の頂点は図17のスイッチングモードに対応してそれぞれ30度、90度、150度、210度、270度、330度に一致するはずであるが、スイッチング誤差のために実際の磁束軌跡はこれらの角度からずれる。図24に、スイッチング誤差によるオフセットが生じている場合に、これを考慮することなくインバータ26を駆動した場合の磁束軌跡を示す。本来であれば磁束軌跡は6角形となるところ、オフセットがあるため余分なスイッチングが生じて6角形を維持することができず、インバータ26の駆動効率が低下してしまう。そこで、本実施形態では、このようなずれ、すなわちオフセットを補償することで正確な制御を可能とする。
図25に、オフセット評価器32cの詳細構成ブロック図を示す。オフセット評価器32cは、磁束セクタ計算器32gと、ルックアップテーブル32hと、実際角計算器32iと加算器32jから構成される。
磁束セクタ計算器32gは、位相角ρsから磁束セクタを計算する。磁束セクタは、360度を6等分に分割した場合の各セクタであり、例えば0度から60度を第1セクタ、60度から120度を第2セクタ等と設定する。位相角ρsがどのセクタに含まれているかを判定し、セクタ番号nを出力する。
ルックアップテーブル32hは、各セクタ毎に基準磁束の理論角度を予めテーブルとして保持しておき、セクタ番号nに対応する理論角度を出力する。例えば、セクタ番号n=1、すなわち第1セクタの理論角度は30度等である。
一方、実際角計算器32iは、位相角ρsと基準磁束ψから、実際の基準磁束の角度を計算する。実際の角度は、
B=|ψ(k)|sin(ψs(k))−|ψ(k−1)|sin(ψs(k−1))
A=|ψ(k)|cos(ψs(k))−|ψ(k−1)|cos(ψs(k−1))
として、
実際の角度=tan−1(B/A)
により算出される。但し、ψ(k)は現在の基準磁束であり、ψ(k−1)はその1つ前の基準磁束であることを示す。同様に、ρs(k)は現在の位相角であり、ρs(k−1)はその1つ前の位相角であることを示す。
加算器32jは、理論角度と、実際の角度との差分を演算することでオフセットを算出する。従って、例えば理論角度が30度である場合には、
オフセット=30度−tan−1(B/A)
によりオフセットが算出される。
以上のようにしてオフセットが算出された後、図22に示されるように、このオフセットを用いて角度Delta中心が加算器32dにより修正され、アルファ計算器32eによりαが計算される。
図26及び図27に、Delta中心と角度αとの関係を示す。図26は、図4に示す基準磁束軌跡を、横軸に位相角、縦軸に基準磁束として展開した場合の基準磁束変化を示す。また、図27は、図26における位相角30度から90度までの一部拡大図である。既述したように、Deltaの領域は基準磁束は一定であり、60−Deltaの領域は基準磁束は変動する。図26に示すように、理論的にはDelta中心は60度であるが、実際にはオフセットが生じてDelta中心は60度からずれる。実際のDelta中心は、加算器32dにより算出される、理論Delta中心+オフセットである。アルファ計算器32eは、実際のDelta中心と位相角ρsとを用いて、これらの間の角度αを求める。
αが算出されると、磁束ψnew計算器32fは、αと基準磁束ψと角度Deltaとを用いて新基準磁束ψnewを計算する。具体的には、
ψnew={cos(Delta/2)/cos(α)}・ψ
により算出する。
以上のようにして、オフセットを考慮した新基準磁束ψnewを用いてインバータ26が制御される。
図28に、本実施形態のシミュレーション結果を示す。図28(a)は、Delta=0度の場合の基準磁束軌跡であり、図28(b)はDelta=60度の場合の基準磁束軌跡である。Delta=0度の場合には基準磁束ψnewは一定であり、これに応じて最大基準磁束ψmax及び最小基準磁束ψminも一定値であり、これらを用いて電圧ベクトルを切り替える。すなわち、基準磁束ψnewが最大基準磁束ψmax(=ψnew+Δψ:Δψは所定値)より大きい場合、あるいは基準磁束ψnewが最小基準磁束ψmin(=ψnew−Δψ)より小さい場合に図19の切替パターンテーブルを用いて電圧ベクトルが選択される。一方、Delta=60度の場合には、スイッチングが行われることなく基準磁束ψnewは変動する。
なお、本実施形態では、ヒステリシスループを用いたDTCシステムにおいてオフセットを考慮した基準磁束軌跡の補正について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば空間ベクトル変調(SVM)を用いてDTCシステム(DTC−SVM)や、定スイッチング周波数(CSF)を用いたDTC(DTC−CSF)にも同様に適用することができる。
10 差分器、12 比例積分器、14 トルク補償器、16 差分器、18 トルク比較器、20 差分器、22 磁束比較器、24 切替パターン演算器、26 インバータ、28 モータ、30 評価器、32 基準磁束軌跡演算器、34 基本コンポーネント演算器、36 デルタ(Delta)演算器。

Claims (7)

  1. 交流電動機の駆動制御装置であって、
    基準トルクと現在トルクのトルク誤差、及び交流電動機の速度に応じて基本係数を演算する基本係数演算手段と、
    前記基本係数を用いて非切替領域を規定する角度Deltaを演算するデルタ演算手段と、
    前記角度Deltaと基準磁束に応じて最大基準磁束及び最小基準磁束を演算する基準磁束軌跡演算手段と、
    基準トルクと現在トルクとのトルク誤差、基準磁束と現在磁束の磁束誤差、磁束の位相角、及び前記角度Deltaに応じて演算された最大基準磁束及び最小基準磁束に応じて交流電動機を駆動するインバータの出力電圧ベクトルを選択する切替パターン演算手段と、
    を備えることを特徴とする交流電動機の駆動装置。
  2. 請求項1記載の装置において、さらに、
    前記角度Deltaに応じたトルク減少分を補償すべく基準トルクを補正するトルク補償手段
    を備えることを特徴とする交流電動機の駆動装置。
  3. 請求項1記載の装置において、
    前記デルタ演算手段は、前記基本係数に応じ、前記基本係数が増加するに従って0度から60度まで順次増加するように前記角度Deltaを演算することを特徴とする交流電動機の駆動装置。
  4. 請求項1記載の装置において、
    前記切替パターン演算手段は、現在磁束が前記最大基準磁束と前記最小基準磁束との間にあり、前記位相角が前記角度Deltaで規定される前記非切替領域内にあり、かつ、現在の出力電圧ベクトルがゼロベクトルでない場合に現在の出力電圧ベクトルを切り替えることなく維持し、現在磁束が前記最大基準磁束と前記最小基準磁束との間になく、あるいは前記位相角が前記角度Deltaで規定される前記非切替領域内になく、あるいは、現在の出力電圧ベクトルがゼロベクトルである場合に予め設定された切替パターンテーブルに従って出力電圧ベクトルを選択する
    ことを特徴とする交流電動機の駆動装置。
  5. 請求項1記載の装置において、
    前記基準磁束軌跡演算手段は、
    前記インバータの出力電圧ベクトルの切替タイミングに対応する理論的な基準磁束軌跡の角度と実際の角度とのずれであるオフセットを演算するオフセット算出部と、
    前記オフセットを用いて基準磁束を補正する基準磁束補正部と、
    を備えることを特徴とする交流電動機の駆動装置。
  6. 請求項5記載の装置において、
    前記基準磁束補正部は、
    前記オフセットを用いて角度Deltaの中心位置を補正する中心位置補正部と、
    補正された角度Deltaの中心位置と前記位相角との間の角度αを算出するα算出部と、
    を備え、前記角度α及び角度Deltaを用い、前記基準磁束にcos(Delta/2)/cos(α)を乗じることで前記基準磁束を補正することを特徴とする交流電動機の駆動装置。
  7. 交流電動機の駆動装置に用いられる基準磁束演算装置であって、
    基準トルクと現在トルクのトルク誤差、及び交流電動機の速度に応じて基本係数を演算する基本係数演算手段と、
    前記基本係数を用いて非切替領域を規定する角度Deltaを演算するデルタ演算手段と、
    インバータの出力電圧ベクトルの切替タイミングに対応する理論的な基準磁束軌跡の角度と実際の角度とのずれであるオフセットを演算するオフセット算出部と、
    前記オフセットを用いて角度Deltaの中心位置を補正する中心位置補正部と、
    補正された角度Deltaの中心位置と位相角との間の角度αを算出するα算出部と、
    を備え、前記角度α及び角度Deltaを用い、前記基準磁束にcos(Delta/2)/cos(α)を乗じることで基準磁束を補正することを特徴とする基準磁束演算装置。
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