以下、本発明の実施の形態を図1〜14に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る車輪用軸受装置1を示す断面図である。同図に示す車輪用軸受装置1は、ハブ輪21を含む複列の車輪用軸受20と、等速自在継手2とが一体化されて主要部が構成される。なお、以下の説明において、インボード側およびアウトボード側とは、それぞれ、車輪用軸受装置1を車両に取り付けた状態で車両の車幅方向内側および外側となる側を意味する。図1においては右側がインボード側、左側がアウトボード側である。
等速自在継手2は、外側継手部材3と、外側継手部材3の内径側に配された内側継手部材6と、外側継手部材3と内側継手部材6との間に介在する複数のボール7と、外側継手部材3と内側継手部材6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要部として構成される。内側継手部材6の内周には、図示しない動力伝達装置から延びたシャフト10の端部10aがトルク伝達可能に結合されている。シャフト10の端部10a外周には、内側継手部材6からのシャフト10の抜けを防止するための止め輪9が嵌合されている。
外側継手部材3は、マウス部4と軸部5とを備える。マウス部4は一端を開口させた椀状をなし、その内球面4aには、軸方向に延びた複数のトラック溝4a1が円周方向等間隔に形成されている。マウス部4の開口は、大径部11a、小径部11bおよび蛇腹部11cを一体に有する筒状のブーツ11によって閉塞されている。具体的には、マウス部4に外嵌した大径部11aをブーツバンド12で締め付けることにより、また、シャフト10のブーツ装着部10bに外嵌した小径部11bをブーツバンド12で締め付けることによりマウス部4の開口がブーツ11で閉塞される。これにより、継手内部に封入したグリース等の潤滑剤の外部漏洩や、継手内部への異物侵入が防止される。
軸部5は、その先端側から基端側に向かって、嵌入部としての小径部5a、中径部5bおよび大径部5cを順に有し、軸部5の軸心上には先端面(アウトボード側の端面)に開口したボルト孔5dが設けられている。ボルト孔5dには、フランジ(ワッシャ)を一体に有する頭部30aと、ねじ軸部30bとからなるボルト部材30のねじ軸部30bが、ハブ輪21を介して螺合される。これにより、外側継手部材3の軸部5がハブ輪21に対してボルト固定され、ハブ輪21からの外側継手部材3の軸部5の抜けが規制される。
内側継手部材6は、その外球面6aに、軸方向に延び、円周方向等間隔に形成された複数のトラック溝6a1を有する。
外側継手部材3のトラック溝4a1と内側継手部材6のトラック溝6a1とは対をなし、各対のトラック溝4a1,6a1で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込まれる。ケージ8は、外側継手部材3と内側継手部材6との間に摺動可能に介在し、その外球面8aにてマウス部4の内球面4aと嵌合し、その内球面8bにて内側継手部材6の外球面6aと嵌合する。なお、この実施形態で用いている等速自在継手2は、各トラック溝4a1,6a1が曲面状をなしたいわゆるバーフィールド型(BJ)であるが、マウス部4の開口側でトラック溝4a1を直線状とし、マウス部4の奥部側でトラック溝6a1を直線状にしたいわゆるアンダーカットフリー型(UJ)等、その他の等速自在継手を用いることもできる。
ハブ輪21は、軸方向に延びた孔部24を有する筒部23と、筒部23のアウトボード側から外径側に延びたフランジ22とを一体に有する。フランジ22は、ハブ輪21を車輪に取り付けるためのものであり、ボルト装着孔22aを有する。ボルト装着孔22aにはハブボルト31が装着され、ハブボルト31で図示しないホイールおよびブレーキロータがフランジ22に固定される。
孔部24は、ハブ輪21の軸方向略中間部に位置する軸部嵌合孔24aと、アウトボード側の一端が軸部嵌合孔24aに繋がり、アウトボード側に向かって徐々に縮径したテーパ部(テーパ孔)24bとを備える。テーパ部24bのテーパ角度は、例えば15°〜75°とされる。軸部嵌合孔24aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して外側継手部材3の軸部5とハブ輪21とが結合される。
筒部23のうち、軸部嵌合孔24aよりもアウトボード側には、ボルト部材30の頭部30aを受けるために、内径方向に突出する円筒状の受け部23aが設けられている。図1に示す完成品状態において、受け部23aの内周には、外側継手部材3の軸部5のうち、嵌入部としての小径部5aが嵌入されている。図7(a)(b)に示すように、受け部23aの内径寸法d1は、小径部5aの外径寸法dよりも僅かに大きく設定されており(d1>d)、受け部23aの内径面23a2と小径部5aの外径面とは微小な半径方向隙間を介して対向している。
筒部23の外周面のうち、インボード側の外周面には小径の段差部23bが形成され、この段差部23bに内輪26を圧入することにより複列の内側軌道面29,29を有する内方部材が構成される。複列の内側軌道面のうち、アウトボード側の内側軌道面29はハブ輪21の外周面に形成され、インボード側の内側軌道面29は内輪26の外周面に形成されている。車輪用軸受20は、この内方部材と、内方部材の外径側に配置され、内周に複列の外側軌道面28,28を有する円筒状の外方部材25と、外方部材25のアウトボード側の外側軌道面28とハブ輪21の内側軌道面29との間、および外方部材25のインボード側の外側軌道面28と内輪26の内側軌道面29との間に配置された転動体としてのボール27とで主要部が構成される。外方部材25は、図示しない車体の懸架装置から延びるナックル32(図1中、二点鎖線で示す)に取り付けられる。外方部材25の両端開口部には、車輪用軸受20内部に封入されるグリース等の潤滑剤の外部漏洩等を防止すべく、環状のシール部材S,Sがそれぞれ装着されている。上記のように、ハブ輪21と、ハブ輪21の段差部23bに圧入された内輪26とで内側軌道面29,29を有する内方部材を構成していることから、車輪用軸受装置1の軽量・コンパクト化が図られる。
車輪用軸受20は、ハブ輪21の筒部23のインボード側端部を加締めることによって形成した加締部23cで内輪26をアウトボード側に押圧することにより、内輪26をハブ輪21に固定すると共に、軸受内部に予圧を付与する構造である。このように、加締部23cで車輪用軸受20に予圧を付与した場合、外側継手部材3とボルト部材30とで車輪用軸受20に予圧を付与する必要がなく、しかも、ボルト部材30の締付トルクを厳密に管理する必要もなくなる。従って、予圧量を考慮せずに外側継手部材3の軸部5をハブ輪21に組み付けることができるので、両者の組み付け性が向上する。
ハブ輪21のインボード側端部は、外側継手部材3のアウトボード側端部に当接している。詳しくは、ハブ輪21の加締部23cの端面23c1と、外側継手部材3のマウス部4のバック面4bとが互いに対向し、かつ接触している。
図2(a)(b)に示すように、凹凸嵌合構造Mは、軸部5の大径部5cの外径面に設けられた軸方向に延びる凸部41と、ハブ輪21の孔部24のうち、軸部嵌合孔24aの内径面24a1に形成される凹部42とで構成される。凸部41と、凸部41に嵌合するハブ輪21の凹部42との嵌合部位43は密着状態にある。本実施形態では、軸部5の大径部5cの外径面に雄スプライン44を形成することにより、軸方向に延びる複数の凸部41が周方向に沿って所定間隔で配設され、ハブ輪21の軸部嵌合孔24aの内径面24a1に、凸部41が嵌合する軸方向の凹部42が周方向に沿って複数形成されている。
本実施形態において、凸部41は、頂部(歯先)41aが凸アール状に形成された断面三角形状を呈し、凹部42との嵌合領域は図2(b)に示す範囲Aである。具体的に述べると、断面における凸部41の円周方向両側の中腹部から頂部41aに至る範囲で各凸部41と各凹部42が嵌合している。周方向で隣り合う凸部41,41間において、ハブ輪21の内径面24a1よりも内径側には隙間Gが形成されている。そのため各凸部41は、凹部42と嵌合しない領域Bを有する。
図3(a)にも示すように、凸部41のピッチ円上において、径方向線Rと凸部41の側面41bとがなす角度をθ1としたときに、0°≦θ1≦45°に設定する(同図において、θ1は30°程度である)。ここで、凸部41のピッチ円とは、凸部41の側面41bのうち、凹部42に嵌合する領域と凹部42に嵌合しない領域との境界部を通る円C1から、凸部41の頂部41aにいたるまでの距離の中間点を通る円C2である。凸部41のピッチ円C2の直径をPCDとし、凸部41の数をZとしたとき、PCDに対するZの比P(P=PCD/Z)は、0.3≦P≦1.0に設定する。
図2(a)(b)および図3(a)には、頂部41aが凸アール状に形成された断面三角形状の凸部41を示しているが、図3(b)および図3(c)に示すような他の断面形状を有する凸部41を採用することもできる。図3(b)は、θ1を約0°とした断面矩形状の凸部41を、また、図3(c)は、θ1を約45°とした断面三角形状の凸部41をそれぞれ示すものである。
ハブ輪21と外側継手部材3とは、ハブ輪21の孔部24と外側継手部材3の軸部5との間に形成される上記の凹凸嵌合構造Mによってトルク伝達可能に結合される。凹凸嵌合構造Mは、例えば以下示す手順を経ることによって得られる。
まず、図1および図2に示すように、外側継手部材3の軸部5の大径部5c外径面に、転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の公知の加工方法にて、軸方向に延びた多数の凸部41を有する雄スプライン44を形成する。軸部5の凸部41を雄スプライン44で形成することにより、この種のシャフトにスプラインを形成するための加工設備を活用することができ、低コストに凸部41を形成することができる。また、軸部5の軸心上に、その先端面に開口したボルト孔5dを形成する。
次いで、軸部5のうち、図1および図4にクロスハッチングで示す領域に熱硬化処理を施して硬化層Hを形成する。硬化層Hは、凸部41の全体および底部41cも含めて円周方向に連続して形成される。なお、硬化層Hの軸方向の形成範囲は、少なくとも雄スプライン44のアウトボード側の端縁から、軸部5の基端部に至るまでの連続領域を含む範囲とする。熱硬化処理の方法は特に問わず、高周波焼入れや浸炭焼入れ等を採用することができる。
その一方、ハブ輪21の内径側は未焼き状態とする。すなわち、ハブ輪21の孔部24の内径面は熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。外側継手部材3の軸部5の硬化層Hとハブ輪21の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。例えば、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。なお、ハブ輪21は、孔部24の内径面のうち、軸部嵌合孔24aの内径面24a1が未硬化部であれば足り、その他の領域には熱硬化処理を施しても構わない。また、軸部5の硬化層Hとの間で上記の硬度差が確保されるのであれば、未硬化部とすべきハブ輪21の所定領域に熱硬化処理を施しても構わない。
凸部41の高さ方向の中間部は、凹部42の形成前における軸部嵌合孔24aの内径面24a1の位置に対応している。具体的には、図4および図6に示すように、軸部嵌合孔24aの内径寸法Dを、雄スプライン44の最大外径寸法(凸部41の頂部41aを通る円軌道の直径寸法)D1よりも小さく、雄スプライン44の最小外径寸法(円周方向で隣り合う凸部41,41間にある底部41cを通る円軌道の直径寸法)D2よりも大きくなるように設定する(D2<D<D1)。
図4に示すように、ハブ輪21の孔部24のうち、軸部嵌合孔24aのインボード側端部には、凸部41の圧入開始時のガイドを行うガイド部M1が設けられる。ガイド部M1は、図5(a)に示すように、軸部嵌合孔24aのインボード側端部に周方向所定間隔(ここでは凸部41と同一ピッチ)で複数設けたガイド溝45で構成される。ガイド溝45の溝底を結ぶ円軌道の直径寸法D3は、雄スプライン44の最大外径寸法D1よりも若干量大きくなるように設定する(D3>D1)。これにより、軸部5に設けた凸部41の先端部をハブ輪21の軸部嵌合孔24aのインボード側端部に配置した状態においては、凸部41の頂部41aとガイド溝45の溝底との間に径方向隙間E1が形成される。
そして、図4に示すように、ハブ輪21の孔部24のインボード側端部に外側継手部材3の軸部5の先端を配置した後、軸部5をハブ輪21の軸部嵌合孔24aに対して圧入する。軸部5の圧入に際しては、軸部嵌合孔24aのインボード側端部に設けたガイド溝45に、軸部5に設けた凸部41の先端部を嵌合させる。このとき、上記のように、凸部41とガイド溝45との間に径方向隙間E1を形成するようにしたことから、凸部41のガイド溝45への嵌合を容易に行うことができ、しかも、ガイド溝45が凸部41の圧入の妨げにならない。なお、軸部5を圧入するのに先立って、軸部5のうち、雄スプライン44を含む先端側の外径面に予めシール材を塗布しておく。使用可能なシール材に特段の限定はないが、例えば種々の樹脂からなるシール材を選択使用することができる。
ハブ輪21の孔部24には、軸部5の圧入方向に沿って縮径するテーパ部24bが設けられているので、ガイド溝45の形成時には、その形成用治具を圧入すると、孔部24の軸部嵌合孔24aに対する上記治具の芯出しが行われるため、高精度のガイド溝45が形成される。そのため、軸部5に設けた凸部41とガイド溝45の位相を合わせた状態で軸部5(凸部41)の圧入を開始すると、軸部嵌合孔24aのインボード側端部のガイド溝45に沿って軸部5の芯出しが行われる。そして、軸部嵌合孔24aの内径寸法Dと、雄スプライン44の最大外径寸法D1および最小外径寸法D2とをD2<D<D1の寸法関係に設定したことから、軸部5を軸部嵌合孔24aに圧入すると、凸部41がハブ輪21のインボード側端面の内径部に食い込み、ハブ輪21の肉を切り込む。軸部5の圧入を進行させると、軸部嵌合孔24aの内径面24a1が凸部41で切り出され、又は押し出されて、軸部嵌合孔24aの内径面24a1に軸部5の凸部41に対応した形状の凹部42が形成される。この際、軸部5の凸部41をハブ輪21の軸部嵌合孔24aの内径面24a1よりも20ポイント以上高硬度に形成しているので、ハブ輪21の軸部嵌合孔24aの内径面24a1に凹部42が容易に形成される。またこのように軸部5側の硬度を高くすることで、軸部5の捩り強度を向上させることもできる。
この圧入工程を経ることにより、図2(a)(b)に示すように、軸部5の凸部41に嵌合する凹部42がハブ輪21の軸部嵌合孔24aの内径面24a1に形成される。凸部41がハブ輪21の軸部嵌合孔24aの内径面24a1に食い込んでいくことによって、孔部24が僅かに拡径した状態となり、凸部41を設けた軸部5の軸方向移動を許容する。その一方で、軸部5の軸方向移動が停止すれば、内径面24a1が元の径に戻ろうとして縮径する。言い換えれば、凸部41の圧入時にハブ輪21が外径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が、凸部41のうち、凹部42と嵌合する部分の表面に付与される。そのため、凹部42は、その軸方向全体に亘って凸部41の表面と密着する。これによって凹凸嵌合構造Mが構成される。軸部5の先端側の外径面には、上記のとおり予めシール材を塗布したことから、軸部5を圧入するのに伴って凸部41と凹部42の嵌合部43にはシール材が行き渡る。従って、嵌合部43への異物の侵入は効果的に防止される。また、軸部5の圧入に伴って、ハブ輪21の内径面24a1には塑性変形に伴う加工硬化が生じる。そのため、回転トルクの伝達性が向上する。
凹凸嵌合構造Mを形成する際には、ハブ輪21を固定した状態として軸部5を移動させても良いし、これとは逆に、軸部5を固定した状態としてハブ輪21を移動させてもよい。あるいは、両者を移動させてもよい。
テーパ部24bは、上記のとおり、ガイド溝形成用治具や軸部5の圧入を開始する際のガイドとして機能させることができるので、軸部5の圧入精度を向上することができる。テーパ部24bよりもアウトボード側の軸部嵌合孔24aのインボード側端部にガイド溝45(ガイド部M1)を設けたことから、このガイド溝45に凸部41を沿わせた状態で軸部5を圧入することができる。そのため、ハブ輪21の孔部24(軸線)に対して軸部5が芯ずれした状態や傾いた状態で凸部41の圧入が進行するような事態を効果的に防止することができる。従って、高精度な凹凸嵌合構造Mを得ることができる。また、軸部5を圧入する際には、軸部5の外径面に塗布したシール材が潤滑剤として機能するので、軸部5を円滑に圧入することができる。
ガイド溝45の形態は図5(a)に示すものに限定されない。例えば、図5(b)に示すように、凸部41の側面41bとの間に周方向隙間E2が形成されるようにガイド溝45を形成しても良い。あるいは図5(c)に示すように、凸部41の頂部41aとの間に径方向隙間E1が、また、凸部41の側面41bとの間に周方向隙間E2が形成されるようにガイド溝45を形成しても良い。
軸部5の圧入は、図1に示すように、外側継手部材3のマウス部4のバック面4bがハブ輪21の加締部23cの端面23c1に当接するまで行われる。このように、ハブ輪21と外側継手部材3のマウス部4とを当接させれば、車輪用軸受装置1の軸方向の曲げ剛性が向上して耐久性に富む高品質な製品となる。また、ハブ輪21に対する外側継手部材3の軸部5の軸方向における相対的な位置決めを行うことができるので、車輪用軸受装置1の寸法精度が安定すると共に、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さが安定してトルク伝達性能が向上する。さらに、この接触によってハブ輪21とマウス部4との間にシール構造が構成されるので、凹凸嵌合構造Mへの異物侵入を防止することができる。これにより、凹凸嵌合構造Mの嵌合状態が長期間安定的に維持される。
但し、ハブ輪21の端面23c1とマウス部4のバック面4bとを接触させる場合、両者の接触面圧は100MPa以下とするのが望ましい。接触面圧が100MPaを超えるような場合、接触部(端面23c1とバック面4bとの間)でもトルク伝達が行われてしまうおそれがあり、特に過大なトルクが負荷され、接触部の摩擦力がトルクに耐えられなくなったときには、接触部に急激なスリップが生じて異音が発生するおそれがあるからである。これに対し、上記のように両者の接触面圧を100MPa以下としておけば、小さなトルク負荷でも接触部が滑るようになり、異音の発生を抑制することができる。
軸部5の圧入が完了し、マウス部4のバック面4bとハブ輪21の加締部23cの端面23c1とが接触した時点において、軸部5の中径部5bは、ハブ輪21の孔部24(軸部嵌合孔24a)の内径面24a1、および受け部23aのインボード側端面に対して非接触とされる。これにより、軸部5の中径部5bの外径側に、凹部42の形成に伴って形成されるはみ出し部46を収納するポケット部47が形成される。
ハブ輪21の孔部24に対して外側継手部材3の軸部5を圧入すると、図7(a)にも示すように、凸部41による切り出し又は押し出し作用によって凹部42から材料(ハブ輪21の肉)がはみ出し、はみ出し部46が形成される。このはみ出し部46を放置すれば、これが脱落して車両の内部に入り込むおそれがある。これに対して、上記のようなポケット部47を形成すれば、はみ出し部46は、カールしつつポケット部47内に収納、保持されるため、上記不具合を解消することができる。またこの場合、はみ出し部46をポケット部47内に収納したままにすることができ、はみ出し部46の除去処理を別途行う必要がなくなる。従って、組立作業工数を減少させることができ、組立作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。なお、ポケット部47の形状は、はみ出し部46全体を収容できるものであれば足り、その形状は問わない。また、ポケット部47の容量は、少なくとも予想されるはみ出し部46の発生量よりも大きくする。
以上のようにして構成される凹凸嵌合構造Mは、車輪用軸受20の軌道面28,29の内径側(直下位置)を避けて配置するのが望ましい。特に、内側軌道面29,29上における接触角が通る線との交点の内径側を避け、これらの交点の間の軸方向一部領域に凹凸嵌合構造Mを形成するのが一層望ましい。軸受軌道面のフープ応力が増大するのを効果的に抑制あるいは防止することができるからである。フープ応力の増大を抑制あるいは防止することができれば、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、および応力腐食割れ等の不具合発生を防止することができ、車輪用軸受20の高品質化を図ることができる。
また、図6に示すように、凹凸嵌合構造Mを構成する際には、ハブ輪21に対する凸部41の圧入代をΔd(=D1−D)とし、凸部41の高さをhとしたときに、Δd/2hを、0.3<Δd/2h<0.86の範囲に設定するのが望ましい。これにより、凸部41の高さ方向中間部付近がハブ輪21の内径面に食い込むことになるので、凸部41の圧入代を十分に確保することができ、凹部42を確実に形成することが可能となる。
Δd/2hが0.3以下である場合、捩り強度が低くなり、また、Δd/2hが0.86以上の場合には、圧入時における微小な芯ずれや傾きにより、凸部41の全体が相手側に食い込んで圧入荷重が急激に増大し、凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化するおそれがある。凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化すると、捩り強度が低下するだけでなく、ハブ輪21外径の膨張量も増大するため、車輪用軸受20の機能に悪影響が及んで回転寿命が低下する等の問題が生じる。これに対し、Δd/2hを上記範囲に設定することにより凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度を得ることができる。
以上に述べた凹凸嵌合構造Mでは、凸部41と凹部42の嵌合部位43が隙間無く密着しているので、径方向及び円周方向におけるガタを抑制することができる。そのため、ハブ輪21と外側継手部材3の結合部をコンパクト化しても高いトルク負荷容量を確保することができ、車輪用軸受装置1の小型・軽量化を図ることができる。また、結合部でのガタが抑制されることから、トルク伝達時の異音発生も効果的に防止することができる。
また、ハブ輪21の孔部24に、雌スプライン等を予め形成しておく必要がないことから、ハブ輪21の加工コストを低廉化すると共に生産性を高めることができる。また、ハブ輪21と外側継手部材3の軸部5の組み付けに際して、スプライン同士の位相合わせを省略することができるから、組立性の向上を図ることができる。さらに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持することができる。また、上記のとおり、ハブ輪21の内径側を低硬度としたことから、ハブ輪21に形成した凹部42は軸部5の凸部41と高い密着性をもって嵌合する。そのため、径方向および円周方向におけるガタ防止により一層有効となる。
また、図3に示すように、各凸部41のピッチ円C2上において、径方向線Rと凸部41の側面41bとが成す角度θ1を0°≦θ1≦45°の範囲に設定しているので、圧入後のハブ輪21の拡径量を小さくし、圧入性の向上を図ることができる。これは、軸部5を圧入するとハブ輪21の孔部24が拡径するが、θ1が大きすぎると圧入時の拡径力が働き易くなるため、圧入終了時におけるハブ輪21の拡径量が大きくなり、ハブ輪21外径部や車輪用軸受20の内輪26外径部の引張応力(フープ応力)が高くなること、およびトルク伝達時に径方向への分力が大きくなるため、ハブ輪21が拡径し、ハブ輪21外径部や内輪26外径部のフープ応力が高くなること、等による。これらフープ応力の増加は、軸受寿命の低下を招く。
また、凸部41のピッチ円径をPCDとし、凸部41の数をZとして、0.30≦PCD/Z≦1.0にしている。PCD/Zが小さすぎる場合(PCD/Zが0.30よりも小さい場合)、ハブ輪21に対する凸部41の圧入代の適用範囲が非常に狭く、寸法公差も狭くなるため、圧入が困難となるからである。
特に、20°≦θ1≦35°に設定すると共に、0.33≦PCD/Z≦0.7に設定すれば、軸部5(外側継手部材3)の形成材料に特殊鋼を用いる、凸部41に表面処理を施す、あるいは凸部41を鋭利な形状にする等の対策を講じずとも、一般的な機械構造用鋼で形成した軸部5を用いて凹部42を成形することが可能となる。しかも、軸部5の圧入後におけるハブ輪21の拡径量を抑制することができる。また、θ1≧20°とすることにより、軸部5側に凸部41を設ける場合には、最もコストや加工精度のバランスに富む転造加工によって凸部41を成形することができる。
軸部5の圧入が完了すると、軸部5(小径部5a)の先端面は、ハブ輪21に設けた受け部23aの受け面23a1よりもインボード側に位置する。そして、受け部23aを介して軸部5のボルト孔5dにボルト部材30のねじ軸部30bを螺合する。これにより、外側継手部材3の軸部5がハブ輪21に対してボルト固定され、ハブ輪21と外側継手部材3の分離が規制される。ボルト部材30の締結は、ボルト部材30の座面30a1を、受け部23aの受け面23a1に当接させるようにして行う。ボルト部材30の締結が完了すると、ボルト部材30の頭部30aと外側継手部材3のマウス部4とでハブ輪21が軸方向に挟持される。このように、ハブ輪21をボルト部材30とマウス部4とで軸方向に挟持することにより、車輪用軸受装置1の軸方向の曲げ剛性が一層向上し、信頼性および耐久性の向上を図ることができる。
図7(b)に示すように、ボルト部材30の座面30a1とハブ輪21の受け部23aの受け面23a1との間には、シール材S1を介在させても良い。このようにすれば、両者間の密封性を確保することができるので、アウトボード側からの凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入を防止することができる。密封性を確保し得る限り使用可能なシール材S1に特段の限定はないが、例えば、軸部5の外径面に塗布したシール材と同種のものを使用することができる。もちろん、軸部5に塗布したシール材とは異なる種類のシール材を用いても良い。シール材は、座面30a1又は受け面23a1の何れか一方に塗布してもよいし、双方に塗布してもよい。
なお、ボルト部材30の座面30a1とハブ輪21の受け面23a1とが隙間無く密着するのであれば、必ずしも両面間にシール材S1を介在させる必要はない。例えば、受け面23a1を研削すれば、ボルト部材30の座面30a1との密着性が向上するので、図7(a)に示すようにシール材S1を省略することができる。密着性が確保されるのであれば、受け面23a1への研削加工を省略することももちろん可能である。
以上に示す車輪用軸受装置1は、これに補修等を施す必要が生じた場合に、軸受部分(車輪用軸受20)と継手部分(等速自在継手2)とを個別に補修可能とするため、ハブ輪21からの外側継手部材3の分離が許容される。ハブ輪21から外側継手部材3を分離するには、図1に示す完成品の状態からボルト部材30を取り外した状態とし、その後、ハブ輪21と外側継手部材3の軸部5との間に凹凸嵌合構造Mの結合力以上の引き抜き力を与えてハブ輪21から外側継手部材3の軸部5を引き抜く。これにより、ハブ輪21と外側継手部材3とが分離する。ここでは、ハブ輪21と外側継手部材3を分離した後、分離したハブ輪21と外側継手部材3をそのまま再結合する場合を例にとり、以下、分離工程および再結合工程について詳述する。
分離工程、すなわちハブ輪21からの外側継手部材3の軸部5の引き抜きは、例えば図8に示すような治具50を用いて行うことができる。治具50は、基盤51と、この基盤51のねじ孔52に螺合する押圧用ボルト部材53と、軸部5のボルト孔5dに螺合されるねじ軸56とを備える。基盤51には貫孔54が設けられ、この貫孔54に挿通されたハブ輪21のボルト31にナット部材55を螺合することにより、基盤51がハブ輪21に取り付けられる。基盤51をハブ輪21に取り付けた後、基部56aを受け部23aよりもアウトボード側に突出させるようにして、軸部5のボルト孔5dにねじ軸56を螺合する。基部56aの突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定する。
ねじ軸56と同一軸心上に押圧用ボルト部材53を配設すると共に、押圧用ボルト部材53をアウトボード側から基盤51のねじ孔52に螺着し、この状態で、図8中に白抜き矢印で示す方向に押圧用ボルト部材53を螺進させる。ねじ軸56と押圧用ボルト部材53とが同一軸心上に配設されていることから、押圧用ボルト部材53を螺進させると、ねじ軸56がインボード側に押圧される。これに伴い、外側継手部材3がハブ輪21に対してインボード側に移動し、押圧用ボルト部材53の螺進がある程度進行すると、凹凸嵌合構造Mが解かれてハブ輪21から外側継手部材3が分離する。
ハブ輪21と外側継手部材3が分離した状態からは、図1に示すボルト部材30を使用して凹凸嵌合構造Mを再構成することにより、ハブ輪21と外側継手部材3を再結合することができる。再結合工程においては、図9に示すように、ハブ輪21から基盤51を取り外すと共に、軸部5からねじ軸56を取り外した後、ハブ輪21の受け部23aの内周にボルト部材30を挿通し、ボルト部材30の座面30a1をハブ輪21の受け面23a1に当接させる。併せて、軸部5側の凸部41と、前回の軸部5の圧入によって形成されたハブ輪21の凹部42の円周方向の位相を合わせるようにして、ハブ輪21の孔部24内径に外側継手部材3の軸部5を配置する。ハブ輪21の孔部24(軸部嵌合孔24a)に形成された凹部42のインボード側にはガイド溝45が設けられているので、凸部41とガイド溝45の円周方向の位相を合わせれば良い。なお、図9では、等速自在継手2の構成部材のうち、外側継手部材3以外の部材の図示を省略している。
そして、軸部5側の凸部41とハブ輪21側の凹部42(ガイド溝45)の円周方向の位相を合わせた状態で、外側継手部材3とハブ輪21とを相対的に接近移動させると、外側継手部材3の軸部5がハブ輪21の孔部24内へ嵌入し、凸部41とガイド溝45とが嵌合する。このように、凸部41とガイド溝45とが嵌合すると、ボルト部材30のねじ軸部30bがボルト孔5dに螺合する。この状態にてボルト部材30を回転させ、ボルト孔5dへボルト部材30をねじ込むと、このねじ込みにより生じる推力で、外側継手部材3の軸部5がハブ輪21の軸部嵌合孔24aに圧入される。これにより、前回の圧入と同様に、凸部41の凹部42に対する嵌合部位43の全体が、対応する凹部42に対して密着する凹凸嵌合構造Mが再構成され、外側継手部材3とハブ輪21とが再結合される。
このように、ボルト部材30をボルト孔5dに再度ねじ込むことで凹凸嵌合構造Mを再構成可能とすれば、圧入用のプレス機等、大掛かりな設備を用いることなく凹凸嵌合構造Mを再構成することができる。ボルト部材30のねじ込みによる推力を利用しての凹凸嵌合構造Mの再構成が可能となるのは、再度の圧入が、凹部42が形成された軸部嵌合孔24aに軸部5を圧入することにより行われるので、圧入荷重が1回目よりも小さくなることによる。以上から、自動車整備工場等の現場においても、ハブ輪21と外側継手部材3の分離および再結合、すなわち車輪用軸受装置の点検、整備、補修等を容易に行うことが可能となり、高いメンテナンス性が得られる。
なお、ハブ輪21と外側継手部材3の分離および再結合は、図8および図9に示すように、車輪用軸受20の外方部材25を車両のナックル32に取り付けたままの状態で行うことができる。そのため、現場でのメンテナンス性は特に良好なものとなる。
ところで、この車輪用軸受装置1の各種性能(ハブ輪21と外側継手部材3の結合強度やトルク伝達性能等)は、凹凸嵌合構造Mの形成態様によって大きく左右される。そのため、凹凸嵌合構造Mの構成後、特に再構成後には、凹凸嵌合構造Mが所望の精度・態様で形成されたか否かを確認する必要がある。凹凸嵌合構造Mの精度確認方法としては、ハブ輪21と外側継手部材3の軸方向相対位置を確認することが考えられる。しかしながら、ハブ輪21と外側継手部材3の分離および再結合(補修作業)は、上記のように、車輪用軸受20の外方部材25をナックル32に取り付けた状態のまま行われるために、ハブ輪21と外側継手部材3の軸方向相対位置を確認するためにも工夫が必要となる。
すなわち、ハブ輪21と外側継手部材3の軸方向相対位置は、例えば互いに対向するハブ輪21の加締部23cの端面23c1と外側継手部材3のマウス部4のバック面4bとの間の軸方向離間距離を測定することによって(加締部23cの端面23c1とマウス部4のバック面4bとが当接状態にある本実施形態においては、両者の接触態様をチェックすることによって)確認することができるが、この部分はナックル32で覆われているために作業者が目視することができず、確認作業に困難を極める。凹凸嵌合構造Mの再構成時には、ボルト部材30の締付トルクが管理されており、このトルク管理によって再構成後の凹凸嵌合構造Mの精度保障を行うことも可能である。しかし、外側継手部材3の軸部5が傾いた状態で圧入される場合もあるために、これだけで凹凸嵌合構造Mの精度保障を行うのは危険である。
この点、本発明では、外側継手部材3の軸部5に、凹凸嵌合構造が構成された状態において、ハブ輪21に設けた受け部23aの内周に嵌入される嵌入部としての小径部5aを設け、この小径部5aを凹凸嵌合構造Mの嵌合状態(凹凸嵌合構造Mが所望の精度・態様で形成されているか否か)を確認するための部位とした。すなわち、軸部5に設けた小径部5a(の先端面)は、凹凸嵌合構造Mの再構成後にボルト部材30を取り外すことによって、アウトボード側から作業者が目視できる態様で外部に露出する。このように、軸部5の小径部5aが外部に露出すれば、車輪用軸受20をナックル32に取り付けたままの状態であっても、図7(a)に示すように、ハブ輪21の受け部23aの受け面23a1と軸部5の先端面との軸方向離間距離x1を測定することによってハブ輪21に対する外側継手部材3の軸方向相対位置、さらに言えば凹凸嵌合構造Mが所望の精度・態様で形成されているか否かを確認することができる。そのため、車輪用軸受20をナックル32に取り付けたままの状態でハブ輪21と外側継手部材3とを再結合した場合であっても、凹凸嵌合構造Mの精度・態様の確認作業を容易かつ正確に行うことができる。これにより、ハブ輪21と外側継手部材3の再結合後においても、高い結合強度やトルク伝達性能に優れた特性を示し、信頼性に富む車輪用軸受装置1を提供することができる。
以上では、分離したハブ輪21と外側継手部材3をそのまま再結合する場合について説明を行ったが、例えばハブ輪21が破損等し、これを交換する必要が生じた場合であっても、同様の手順でハブ輪21と外側継手部材3を結合することができる。この場合、新たに用いるハブ輪21には、孔部24(軸部嵌合孔24a)の内径面24a1に、周方向に沿って所定間隔で小凹部を設けておくのが望ましい。このようなハブ輪21を用いることによって、軸部5を圧入する際の圧入抵抗を減じることができ、ボルト部材3のねじ込みにより生じる推力でハブ輪21と外側継手部材3を結合することができるからである。
図10は、本発明の第2実施形態に係る車輪用軸受装置1を示す断面図である。同図に示す車輪用軸受装置1が、図1に示すものと異なる主な点は、ハブ輪21の加締部23cの端面23c1とマウス部4のバック面4bとを非接触にした点にある。この場合、図11(a)にも拡大して示すように、加締部23cの端面23c1とマウス部4のバック面4bとの間には隙間60が設けられる。このような隙間60を形成することにより、外側継手部材3のマウス部4とハブ輪21の接触に起因した異音の発生をより効果的に防止することができる。
このように、ハブ輪21の端面23c1とマウス部4のバック面4bとを非接触にした場合、凹凸嵌合構造Mへの異物侵入防止手段が凹凸嵌合構造Mよりもインボード側に設けられる。具体的には、図11(a)に示すように、ハブ輪21の加締部23cとマウス部4のバック面4bとの間の隙間60に嵌着したシール部材61で異物侵入防止手段が構成される。このように、シール部材61で、ハブ輪21の加締部23cとマウス部4との間に形成される隙間60を塞ぐことにより、この隙間60を介して凹凸嵌合構造Mに雨水や異物が侵入するのを防止することができる。シール部材61としては、図11(a)に示すような市販のOリング等を使用することができる他、例えば図11(b)に示すようなガスケット等のようなものも使用可能である。
なお、上述した以外の構成は、図1に示す車輪用軸受装置1と実質的に同一であるから、共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
以上で説明を行った実施形態では、ボルト部材30として、頭部30aにフランジ(ワッシャ)が一体に設けられたものを用いたが、ワッシャは別部材としてボルト部材30の頭部30aとハブ輪21との間に介装することもできる。
また、以上で説明を行った実施形態では、凸部41のピッチと、凹部42のピッチとを同一値に設定している。そのため、図2(b)に示すように、凸部41の高さ方向の中間部において、凸部41の周方向厚さLと、隣接する凸部41,41間の溝幅L0とがほぼ同値となっている。これに対して、図12(a)に示すように、凸部41の高さ方向の中間部において、凸部41の周方向厚さL2を、隣接する凸部41,41間の溝幅L1よりも小さくすることもできる。換言すると、凸部41の高さ方向の中間部において、軸部5の凸部41の周方向厚さL2を、ハブ輪21の隣接する凹部42,42間に形成される突出部48の周方向厚さL1よりも小さくする(L2<L1)。
各凸部41において上記関係を満たすことにより、凸部41の周方向厚さL2の総和Σを、突出部48の周方向厚さL1の総和Σ1よりも小さく設定することが可能となる。これによって、ハブ輪21の突出部48のせん断面積を大きくすることができ、捩り強度を確保することができる。しかも、凸部41の歯厚が小となるので、圧入荷重を小さくして圧入性の向上を図ることができる。
このとき、全ての凸部41および突出部48について、L2<L1の関係を満足させる必要はなく、軸部5の凸部41の周方向厚さの総和Σが、ハブ輪21の突出部48の周方向厚さの総和Σ1よりも小さくなる限り、一部の凸部41および突出部48については、L2=L1とし、あるいはL2>L1とすることもできる。
なお、図12(a)では、凸部41を断面台形に形成しているが、凸部41の断面形状はこれに限定されない。例えば、図12(b)に示すように、凸部41を、インボリュート形状の断面に形成することもできる。
以上で説明を行った実施形態では、軸部5側に雄スプライン44(凸部41)を形成しているが、これとは逆に、図13(a)に示すように、ハブ輪21の孔部24の内径面に雌スプライン71を形成することによってハブ輪21側に凸部41を形成することもできる。この場合、軸部5に雄スプライン44を形成した場合と同様に、例えば、ハブ輪21の雌スプライン71に熱硬化処理を施す一方、軸部5の外径面は未焼き状態とする等の手段で、ハブ輪21の凸部41を軸部5の外径面よりもHRCで20ポイント以上高硬度にする。雌スプライン71は、公知のブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって形成することができる。熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
その後、軸部5をハブ輪21の孔部24に圧入すれば、ハブ輪21側の凸部41で軸部5の外径面に凸部41と嵌合する凹部42が形成され、これによって、凸部41と凹部42の嵌合部位43が密着する凹凸嵌合構造Mが構成される。凸部41と凹部42の嵌合部位43は、図13(b)に示す範囲Aである。凸部41のうち、その他の領域は凹部42と嵌合しない領域Bとなる。軸部5の外径面よりも外径側で、かつ周方向で隣り合う凸部41,41間には隙間Gが形成される。
図14に示すように、凸部41の高さ方向の中間部が、凹部形成前の軸部5の外径面の位置に対応する。すなわち、軸部5の外径寸法D10は、雌スプライン71の凸部41の最小内径寸法D8(凸部41の頂部41aを通る円軌道の直径寸法)よりも大きく、雌スプライン71の最大内径寸法D9(隣り合う凸部41,41間の底部41cを通る円軌道の直径寸法)よりも小さく設定される(D8<D10<D9)。また、軸部5に対する凸部41の圧入代をΔdとし、凸部41の高さをhとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86の範囲に設定する。このときの圧入代Δdは、軸部5の外径寸法D10と、凸部41の最小内径寸法D8との径差(D10−D8)で表される。これにより、凸部41の高さ方向中間部付近が軸部5の外径面に食い込むことになるので、凸部41の圧入代を十分に確保することができ、凹部42を確実に形成することが可能となる。
この凹凸嵌合構造Mでも、図13(b)に示すように、凸部41のうち、凹部42に嵌合する領域と凹部42に嵌合しない領域との境界部を通る円C1から凸部41の頂部41aに至るまでの距離の中間点を通る円C2をピッチ円とし、このピッチ円上において、径方向線Rと凸部41の側面とがなす角度θ1が0°≦θ1≦45°に設定される。また、凸部41のピッチ円C2の直径をPCDとし、凸部41の数をZとして、0.30≦PCD/Z≦1.0に設定される。
この構成でも、圧入によってはみ出し部46が形成されるので、このはみ出し部46を収納するポケット部47を設けるのが好ましい。この構成では、はみ出し部46が軸部5のインボード側に形成されるので、ポケット部47は、凹凸嵌合構造Mよりもインボード側で、かつハブ輪21側に設ける(図示は省略する)。
このように、ハブ輪21の孔部24の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部41を設ける場合、軸部5側の熱硬化処理を行う必要がないので、等速自在継手2の外側継手部材3の生産性に優れる、という利点が得られる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、凹凸嵌合構造Mの凸部41の断面形状として、以上で示した形状以外にも、半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の断面形状を採用することができ、凸部41の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。凸部41は、軸部5やハブ輪21とは別体のキーのようなもので形成することもできる。
また、ハブ輪21の孔部24としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部24に嵌挿する軸部5の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪21の孔部24に軸部5を圧入する際には、凸部41の少なくとも圧入開始側の端面を含む端部領域の硬度が、圧入される側の硬度よりも高ければよく、必ずしも凸部41の全体の硬度を高くする必要がない。また、以上で説明した実施形態では、図2(b)や図13(b)等に示すように、凹凸嵌合構造Mを構成する軸部5の外径面とハブ輪21の内径面との間に隙間Gが形成されているが、このような隙間Gが形成されないように、周方向で隣接する凸部41,41間に形成される溝の全体を相手側の肉で充足させてもよい。
図示は省略するが、凹部42が形成される側の部材には、予め、周方向に沿って所定間隔で小凹部を設けておいてもよい。小凹部としては、凹部42の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部41の圧入時に形成されるはみ出し部46の容量を減少させることができるので、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部46を少なくできるので、ポケット部47の容積を小さくでき、ポケット部47の加工性及び軸部5の強度向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
また、車輪用軸受20の転動体として、ボール27以外にころを使用することもできる。さらには、等速自在継手2において、内側継手部材6とシャフト10とを上述した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
また、以上の実施形態は、本発明を第3世代の車輪用軸受装置に適用したものであるが、本発明は、第1世代や第2世代、さらには第4世代の車輪軸受装置にも同様に適用することができる。