以下に本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1において、図の左側が自動製パン機1の正面(前面)側、図の右側が自動製パン機1の背面(後面)側である。また、自動製パン機1に正面から向き合った観察者の左手側が自動製パン機1の左側、右手側が自動製パン機1の右側であるものとする。
自動製パン機1は合成樹脂製の外殻により構成される箱形の本体10を有する。本体10の上面前部には操作部20が設けられる。操作部20には、図示は省略するが、パンの種類(小麦粉パン、米粉パン、具材入りパンなど)の選択キー、調理内容の選択キー、タイマーキー、スタートキー、取り消しキーなどといった操作キー群と、設定された調理内容やタイマー予約時刻などを表示する表示部が設けられている。表示部は、液晶表示パネルと、発光ダイオードを光源とする表示ランプにより構成される。
操作部20から後ろの本体上面は合成樹脂製の蓋30で覆われる。蓋30は図示しない蝶番軸で本体10の背面側の縁に取り付けられており、その蝶番軸を支点として垂直面内で回動する。
本体10の内部には焼成室40が設けられる。焼成室40は板金製で、上面が開口しており、ここからパン容器50が入れられる。焼成室40は水平断面矩形の周側壁40aと底壁40bを備える。
本体10の内部には板金製の基台12が設置されている。基台12には、焼成室40の中心にあたる箇所に、アルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器支持部13が固定されている。パン容器支持部13の内部は焼成室40の内部に露出している。
パン容器支持部13の中心には原動軸14が垂直に支持されている。原動軸14に回転を与えるのはプーリ15、16である。プーリ15と原動軸14の間、及びプーリ16と原動軸14の間にはそれぞれクラッチが配置されていて、プーリ15を一方向に回転させて原動軸14に回転を伝えるとき、原動軸14の回転はプーリ16には伝わらず、プーリ16をプーリ15とは逆方向に回転させて原動軸14に回転を伝えるとき、原動軸14の回転はプーリ15には伝わらない仕組みになっている。
プーリ15を回転させるのは基台12に支持された混練モータ60である。混練モータ60は竪軸であって、下面から出力軸61が突出する。出力軸61には、プーリ15にベルト63で連結するプーリ62が固定されている。混練モータ60自身が低速・高トルクタイプであり、その上プーリ62がプーリ15を減速回転させるので、原動軸14は低速・高トルクで回転する。
プーリ16を回転させるのは同じく基台12に支持された粉砕モータ64である。粉砕モータ64も竪軸であって、上面から出力軸65が突出する。出力65には、プーリ16にベルト67で連結するプーリ66が固定されている。
粉砕モータ64は後述する粉砕ブレードに高速回転を与える役割を担う。そのため、粉砕モータ64には高速回転タイプのものが選定され、プーリ66とプーリ16の減速比もほぼ1:1になるように設定されている。
パン容器支持部13は、パン容器50の底面に固定された筒状の台座51を受け入れてパン容器50を支える。台座51もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。
パン容器50は板金製で、バケツのような形状をしており、口縁部には手提げ用のハンドル(図示せず)が取り付けられている。パン容器50の水平断面は四隅を丸めた矩形である。
図10に示す通り、パン容器50の内側壁には、矩形の長辺にあたる2面のそれぞれ中央に、垂直方向に延びるうね状の突部50aが形成されている。突部50aは混練を助けるためのものである。
パン容器50と台座51は、上記のように別々に成型したものを組み合わせる他、ダイキャストなどで一体成型することも可能である。
パン容器50の底部中心には垂直なブレード回転軸52が、シール対策を施した上で垂直に支持されている。ブレード回転軸52には、原動軸14よりカップリング53を介して回転力が伝えられる。カップリング53を構成する2部材のうち、一方の部材はブレード回転軸52の下端に固定され、他方の部材は原動軸14の上端に固定される。カップリング53の全体は台座51とパン容器支持部13に囲い込まれる。
パン容器支持部13の内周面と台座51の外周面には、それぞれ図示しない突起が形成される。これらの突起は周知のバヨネット結合を構成する。すなわちパン容器50をパン容器支持部13に取り付ける際、台座51の突起がパン容器支持部13の突起に干渉しないようにしてパン容器50を下ろし、台座51がパン容器支持部13にはまり込んだ後、パン容器50を水平にひねると、パン容器支持部13の突起の下面に台座51の突起が係合して、パン容器50が上方に抜けなくなるようにする。この操作で、カップリング53の連結も同時に達成されるようにする。パン容器50の取り付け時ひねり方向は後述する混練ブレードの回転方向に一致させ、混練ブレードが回転してもパン容器50が外れないようにしておく。
焼成室40の内部に配置された加熱装置41がパン容器50を包囲し、製パン原料を加熱する。加熱装置41はシーズヒータにより構成される。
ブレード回転軸52には、パン容器50の底部より少し上の箇所に、粉砕ブレード54(図3参照)が取り付けられる。粉砕ブレード54はブレード回転軸52に対し回転不能とされる。粉砕ブレード54はステンレス鋼板製であり、図8及び図9に示すように、飛行機のプロペラのような形状を有している。
粉砕ブレード54の中心部はブレード回転軸52に嵌合するハブ54aとなっている。ハブ54aの下面にはハブ54aを直径方向に横断する溝54bが形成されている。ブレード回転軸52を水平に貫くピン52aがハブ54aを受け止め、また溝54bに係合して粉砕ブレード54をブレード回転軸52に対し回転不能に連結する。粉砕ブレード54はブレード回転軸52から簡単に引き抜くことができるので、製パン作業終了後の洗浄や、切れ味が悪くなったときの交換を手軽に行うことができる。
ブレード回転軸52の上端には平面形状円形のドーム状カバー70が取り付けられる。カバー70はアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなり、粉砕ブレード54を囲んで覆い隠す。カバー70は粉砕ブレード54のハブ54aに回転自在に支持され、座金70aと抜け止めリング70bによりハブ54aから抜けないようにされている。すなわち本実施形態では、粉砕ブレード54とカバー70は分離できないユニットを構成し、粉砕ブレード54のハブ54aがカバー70のブレード回転軸受入部を兼ねることになる。カバー70は粉砕ブレード54と共にブレード回転軸52から簡単に引き抜くことができるので、製パン作業終了後の洗浄を手軽に行うことができる。
カバー70の外面には、ブレード回転軸52から離れた箇所に配置された垂直な支軸71(図9参照)により、平面形状「く」字形の混練ブレード72が取り付けられている。混練ブレード72もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。支軸71は混練ブレード72に固定ないし一体化されており、混練ブレード72と動きを共にする。
混練ブレード72は支軸71と共に支軸71の軸線まわりに回転し、図6から図9に示す折り畳み姿勢と、図10に示す開き姿勢の2姿勢をとる。折り畳み姿勢では、混練ブレード72の下縁から垂下した突起72a(図6参照)がカバー70の上面に設けられたストッパ部70e(図7参照)に当たり、混練ブレード72はそれ以上カバー70に対し時計方向(上から見て)の回動を行うことができない。混練ブレード72の先端は、この時、カバー70から少し突き出している。ここから混練ブレード72が反時計方向(上から見て)の回動を行い、図10の開き姿勢になると、混練ブレード72の先端はカバー70から大きく突き出す。
カバー70には、カバー内空間とカバー外空間を連通する窓74が形成される。窓74は粉砕ブレード54に並ぶ高さかそれよりも上の位置に配置される。実施形態では計4個の窓74が90°間隔で配置されているが、それ以外の数と配置間隔を選択することもできる。
図8及び図9に示すように、カバー70の内面には、各窓74に対応して計4個のリブ75が形成されている。各リブ75はカバー70の中心近傍から外周の環状壁まで半径方向に対し斜めに延び、4個合わさって一種の巴形状を構成する。また各リブ75は、それに向かって押し寄せる製パン原料に対面する側が凸となるように湾曲している。
カバー70とブレード回転軸52の間にはクラッチ76(図9参照)が介在する。クラッチ76は、製パン原料の混練のために混練モータ60が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この方向の回転を「正方向回転」とする)において、ブレード回転軸52とカバー70を連結する。逆に、穀物粒の粉砕のために粉砕モータ64が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この方向の回転を「逆方向回転」とする)では、クラッチ76はブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離すものである。なお、図10では、前記「正方向回転」は反時計方向回転となり、「逆方向回転」は時計方向回転となる。
クラッチ76を構成するのは第1係合体76aと第2係合体76bである。第1係合体76aは粉砕ブレード54のハブ54aに固定または一体成形され、従ってブレード回転軸52に回転不能に取り付けられているものである。第2係合体76bは混練ブレード72の支軸71に固定または一体成形されており、混練ブレード72の姿勢変更に伴って角度を変える。
クラッチ76は、混練ブレード72の姿勢に応じて連結状態を切り換える。すなわち混練ブレード72が折り畳み姿勢にあるときは、第2係合体76bは図9の角度にある。この時第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道に干渉しており、ブレード回転軸52が図9において時計方向に、言い換えれば正方向に回転すると、第1係合体76aが第2係合体76bに係合し、ブレード回転軸52の回転力がカバー70及び混練ブレード72に伝達される。混練ブレード72が開き姿勢にあるときは、第2係合体76bは図10の角度となる。この時第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道から退避しており、ブレード回転軸52が図10において時計方向に、言い換えれば逆方向に回転しても、第1係合体76aと第2係合体76bの間に係合が生じない。従ってブレード回転軸52の回転力はカバー70及び混練ブレード72には伝わらない。
カバー70の外面には、混練ブレード72に並ぶように補完混練ブレード77が形成されている。補完混練ブレード77は、折り畳み姿勢の混練ブレード72に整列する。すなわち混練ブレード72が折り畳み姿勢になると、混練ブレード72の延長上に補完混練ブレード77が並び、あたかも混練ブレード72の「く」字形状が大型化したかのようになる。
パン容器50の底部には、粉砕ブレード54とカバー70を収容する凹部55が形成されている。凹部55は平面形状円形で、カバー70の外周部と凹部55の内面の間には、製パン原料の流動を可能とする間隙56が形成されている。
カバー70には、その下面を覆って粉砕ブレード54への指の接近を阻止するガード78が着脱可能に取り付けられる。ガード78は図12に示す構造となっている。すなわち、中心にはブレード回転軸52を通すリング状のハブ78aがあり、周縁にはリング状のリム78bがある。ハブ78aとリム78bを複数のスポーク78cが連結する。スポーク78c同士の間は粉砕ブレード54によって粉砕される穀物粒を通す開口部78dとなる。開口部78dは指が通り抜けられない程度の大きさになっている。
ガード78は、カバー70に取り付けられたとき、粉砕ブレード54と近接状態になる。具体的には、スポーク78cと粉砕ブレード54が、接触しない程度に接近する。あたかも、ガード78が回転式電気かみそりの外刃で、粉砕ブレード54が内刃のような形になる。
スポーク78cは、ガード78の半径に沿って直線的に延びるのではなく、ブレード回転軸52が正方向(上から見て反時計方向)に回転し、カバー70とガード78も正方向に回転したとき、ガード78の中心側が先行(基準となる直径線を先に通過する)し、ガード78の周縁側が後続(前記基準直径線を中心側に遅れて通過する)するように延びている。実施形態ではスポーク78cは湾曲しているが、直線形状であってもよい。
ガード78の周縁には、カバー70を取り囲む複数の柱78eが、所定の角度間隔でリム78bに一体成型される。実施形態では計4個の柱78eが90°間隔で配置されている。柱78eの、ブレード回転軸52が正方向に回転するときに回転方向前面となる側面78fは、上向きに傾斜している。また、柱78eの下端はスポーク78cよりも下に突き出している。
柱78eはガード78をカバー70に連結する役割も果たす。柱78eの、ガード中心側を向いた側面には、一端が行き止まりになった水平な溝78gが形成される。これに対応してカバー70の外周には、図6に示すように、溝78gに係合する突起70cが形成される。実施形態では、計8個の突起70cが45°間隔で配置されている。
溝78gと突起70cはバヨネット結合を構成する。溝78gを突起70cに係合させるときのガード78のひねり方向は、ブレード回転軸52の逆方向回転方向に一致している。このため、混練のためカバー70が正方向に回転しても、ガード78がカバー70から脱落することはない。
粉砕ブレード54で穀物粒の粉砕を行うため、ブレード回転軸52を逆方向に回転させると、その時に生じる穀物粒と液体の流動で、ガード78に圧力がかかるが、その圧力はガード78の取り付け時ひねり方向と同じ方向なので、この時もガード78がカバー70から脱落することはない。
ガード78があまり簡単にカバー70から外れることのないように、取り外し方向のひねりに対し抵抗を生じる仕組みが柱78eとカバー70の間に設けられている。すなわち溝78gの内部にはうねのように垂直方向に延びる突起78hが形成され、突起70cには突起78hを係合させる凹部70dが形成されている。ガード78の取り付け時のひねりが最終段階に至ると、突起78hが凹部70dに弾性係合する。これにより、ガード78の取り外し方向のひねりに対し所定の抵抗が生じることになる。
ガード78は、耐熱性を有するエンジニアリングプラスチック、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)で成型される。
ブレード回転軸52は金属製であり、カバー70のブレード回転軸受入部となる粉砕ブレード54のハブ54aも金属製である。ブレード回転軸52のハブ54aへの嵌合部と、ハブ54aの内面には、一方または双方の表面に断熱層を形成する。本実施形態では、図3に示す通り、ブレード回転軸52の先端部にキャップ状の断熱層79が被せられている。断熱層79は、ブレード回転軸52の先端部を金型に入れておいて合成樹脂の射出成型を行う、いわゆるインサート成型によって成形することができる。断熱層79の材料樹脂としては、耐熱性と強度に優れたエンジニアリングプラスチック、例えばポリアセタール(POM)を採用する。
自動製パン機1の動作制御は、図14に示す制御装置80によって行われる。制御装置80は本体10内の適所(焼成室40の熱の影響を受けにくい箇所が望ましい)に配置された回路基板により構成され、操作部20及び加熱装置41の他、混練モータ60のモータドライバ81、粉砕モータ64のモータドライバ82、及び温度センサ83が接続される。温度センサ83は焼成室40内に配置され、焼成室40の温度を測定する。84は各構成要素に電力を供給する商用電源である。
続いて、自動製パン機1を用いて穀物粒からパンを製造する工程を、図15から図24までの図を参照しつつ説明する。その中で、図15から図21までの図に示すのが第1態様パン製造工程である。
パン製造工程を開始する前に、自動製パン機1の準備を整える必要がある。前述の通り、粉砕ブレード54とカバー70は分離できないユニットを構成している。このユニットにガード78を組み合わせたものをブレード回転軸52に取り付けるとき、指が粉砕ブレード54に接近しようとするのをガード78が阻止するから、粉砕ブレード54に指が触れて指を負傷するおそれがない。
図15は第1態様パン製造工程の全体フローチャートである。図15では、粉砕前含浸工程#10、粉砕工程#20、混練工程#30、発酵工程#40、焼成工程#50の順で工程が進行する。続いて、各工程の内容を説明する。
図16に示す粉砕前含浸工程#10では、まずステップ#11において、使用者が穀物粒を計量し、所定量をパン容器50に入れる。穀物粒としては米粒が最も入手しやすいが、それ以外の穀物、例えば小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこしなどの粒も利用可能である。
ステップ#12では使用者が液体を計量し、所定量をパン容器50に入れる。液体として一般的なのは水であるが、だし汁のような味成分を有する液体でもよく、果汁でもよい。アルコールを含有していてもよい。なおステップ#11とステップ#12は順序が入れ替わっても構わない。
パン容器50に穀物粒と液体を入れる作業は、パン容器50を焼成室40から出して行ってもよく、パン容器50を焼成室40に入れたまま行ってもよい。
焼成室40内のパン容器50に穀物粒と液体を入れたら、あるいは外部で穀物粒と液体を入れたパン容器50をパン容器支持部13に取り付けたら、蓋30を閉じる。ここで使用者は操作部20の中の所定の操作キーを押し、液体含浸のタイムカウントをスタートさせる。この時点からステップ#13が始まる。
ステップ#13では穀物粒と液体の混合物をパン容器50内で静置し、穀物粒に液体を含浸させる。一般的に、液体温度が高くなるほど含浸が促進されるので、加熱手段41に通電して焼成室40の温度を高めるようにしてもよい。
ステップ#14では穀物粒と液体の静置を開始してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら粉砕前含浸工程#10は終了する。このことは、操作部20における表示や、音声などで使用者に報知される。
粉砕前含浸工程#10に続き、図17に示す粉砕工程#20が遂行される。使用者が操作部20を通じ粉砕作業データ(穀物粒の種類や量、これから焼くパンの種類など)を入力し、スタートキーを押すと、ステップ#21が開始される。
ステップ#21では制御装置80が粉砕モータ64を駆動し、ブレード回転軸52を逆方向回転させる。すると、穀物粒と液体の混合物の中で粉砕ブレード54が回転を開始する。カバー70もブレード回転軸52に追随して回転を開始する。この時のカバー70の回転方向は図10において時計方向であり、混練ブレード72は、それまで折り畳み姿勢であった場合には、穀物粒と液体の混合物から受ける抵抗で開き姿勢に転じる。混練ブレード72が開き姿勢になると、クラッチ76は、第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌跡から退避することにより、ブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離す。同時に、開き姿勢になった混練ブレード72は図10に示すようにパン容器50の内側壁の突部50aに当たり、カバー70の回転を阻止する。以後、ブレード回転軸52と粉砕ブレード54が逆方向に高速回転する。
ブレード回転軸52が逆回転したとき、混練ブレード72が不完全な開き姿勢で突部50aに当たることがある。この状態を図11に示す。本実施形態では、支軸71の中心から混練ブレード72の先端までの回転半径が、不完全な開き姿勢で突部50aに当たった混練ブレード72が、不完全な開き姿勢のまま突部50aとの接触箇所を通過できる値に設定されているから、図11の混練ブレード72はこの後突部50aを通り抜ける。このため混練ブレード72から粉砕モータ64までの回転系が停止してしまうことがなく、粉砕モータ64が焼損するといった事態を招かない。図11の上方の突部50aを通り抜けた混練ブレード72は、図11の下方の突部50aに達するまでに完全な開き姿勢になるから、図11の下方の突部50aでも同じことが繰り返されることはない。
このように開き姿勢の混練ブレード72が突部50aに当たってカバー70と混練ブレード72が停止するので、粉砕ブレード54が高速回転しても、穀物粒と液体の混合物がパン容器50の中で渦を巻かない。そのため、渦が周縁で盛り上がり、パン容器50の外にこぼれるようなこともない。
混練ブレード72が突部50aに当たってカバー70の回転を止めている間、ガード78も回転を止めている。ガード78の開口部78dからカバー70の中に入る穀物粒は、静止したスポーク78cと回転する粉砕ブレード54の間で剪断される形になるから、粉砕性能が向上する。
粉砕ブレード54による粉砕は、穀物粒に液体が浸み込んだ状態で行われるから、穀物粒を芯まで容易に粉砕することができる。カバー70の中心近傍から外周の環状壁まで延びるリブ75が、穀物粒と液体の混合物の、粉砕ブレード54の回転方向と同方向の流動を抑制し、粉砕を助ける。すなわち、リブ75が混合物の流れを変更し、粉砕ブレード54との衝突機会を増やすように作用する。粉砕はカバー70の中で行われるから、穀物粒がパン容器50の外に飛び散ることもない。
粉砕された穀物粒と液体の混合物はリブ75により窓74の方向に誘導され、窓74を通じてカバー70の外に排出される。リブ75は、それに向かって押し寄せる穀物粒と液体の混合物に対面する側が凸となるように湾曲しているので、穀物粒と液体の混合物はリブ75の表面に滞留しにくく、スムーズに窓74の方へ流れて行く。
カバー70の内部から穀物粒と液体の混合物が排出されるのと入れ替わりに、凹部55の上の空間に存在した穀物粒と液体の混合物が、間隙56を通じて凹部55に入り、凹部55からガード78の開口部78dを通ってカバー70の中に入る。穀物粒はカバー70の中で粉砕ブレード54により粉砕され、カバー70の窓74から凹部55の上に戻る。このように穀物粒を循環させつつ粉砕を行うことにより、穀物粒を効率良く粉砕することができる。前述の通り、ガード78のスポーク78cが穀物粒の粉砕を助ける。また、リブ75の存在により、粉砕ブレード54が生成した粉砕物は速やかに窓74へ誘導され、カバー70の中に滞留しないから、粉砕能率はさらに向上する。
窓74が配置されているのは粉砕ブレード53に並ぶ高さかそれよりも上の位置なので、粉砕された穀物粒と液体の混合物がカバー70から排出される方向は水平か斜め上向きとなり、穀物粒の循環が促進される。
ステップ#22では、所望の粉砕穀物粒を得るために設定通りの粉砕パターン(粉砕ブレードを連続回転させるか、停止期間を織り交ぜて間欠回転させるか、間欠回転させる場合、どのようにインターバルをとるか、回転時間の長さをどのようにするか等)が完遂されたかどうかを制御装置80がチェックする。
設定通りの粉砕パターンが完遂されたらステップ#23に進んで粉砕ブレード54の回転を終了し、粉砕工程#20は終了する。このことは、表示部22における表示や、音声などで使用者に報知される。
以上の説明では、粉砕前含浸工程#10の後、使用者の操作で粉砕工程#20が開始されるものとしたが、使用者が粉砕前含浸工程#10の前か、粉砕前含浸工程#10の途中で粉砕作業データを入力すれば、粉砕前含浸工程#10の終了後、自動的に粉砕工程#20が開始されるように構成してもよい。
粉砕工程#20に続き、図18に示す混練工程#30が遂行される。混練工程#30に入る時点では、パン容器50の中の穀物粒と液体は、ペースト状またはスラリー状の生地原料となっている。なお本明細書では、混練工程#30の開始時点のものを「生地原料」と呼称し、混練が進行して目的とする生地の状態に近づいたものは、半完成状態であっても「生地」と呼称することとする。
ステップ#31では使用者が蓋30を開け、生地原料に所定量のグルテンを投入する。必要に応じ、食塩、砂糖、ショートニングといった調味材料も投入する。自動製パン機1にグルテンや調味材料の自動投入装置を設けておき、使用者の手を煩わすことなくそれらを投入する構成にすることもできる。
使用者は、ステップ#31に前後して、操作部20よりパンの種類や調理内容の入力を行う。準備が整ったところで使用者がスタートキーを押すと、混練工程#30から発酵工程#40、さらに焼成工程#50へと自動的に連続する製パン作業が開始される。
ステップ#32では、制御装置80は混練モータ60を駆動する。ブレード回転軸52が正方向に回転すると、粉砕ブレード54も正方向に回転し、粉砕ブレード54の周囲の生地原料が正方向に流動する。それにつられてカバー70が正方向に動くと、混練ブレード72は、生地原料からの抵抗を受けて、開き姿勢から折り畳み姿勢へと角度を変えて行く。第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌跡に干渉する角度となるまで混練ブレード72の角度が変わると、クラッチ76の連結が生じ、カバー70はブレード回転軸52によって本格的に駆動される態勢に入る。混練ブレード72も完全な折り畳み姿勢になる。以後、カバー70と混練ブレード72はブレード回転軸52と一体になって正方向に回転する。
混練ブレード72が折り畳み姿勢になると、混練ブレード72の延長上に補完混練ブレード77が並び、あたかも混練ブレード72の「く」字形状が大型化したかのようになって、生地原料は力強く押される。このため、確実に混練を行うことができる。
カバー70と共にガード78も正方向に回転する。前述の通り、スポーク78cは、正方向回転時、ガード78の中心側が先行しガード78の外周側が後続する形状とされているから、ガード78は、正方向に回転することにより、カバー70内外の生地原料をスポーク78cで外側に押しやる。これにより、焼き上がったパンからカバー70を取り出すときに廃棄分となる生地の割合を減らすことができる
また、前述の通り、ガード78の柱78eは、ガード78が正方向に回転するときに回転方向前面となる側面78fが上向きに傾斜しているから、混練時、カバー70の周囲の生地原料が柱78eの前面で上方に跳ね上げられ、上方の生地原料本体部に合体する。このため、パンとしてまとまることなく廃棄処分となる生地の量を減らすことができる。
ステップ#32の間に、制御装置80は加熱装置41に通電し、焼成室40の温度を上げる。混練ブレード72と補完混練ブレード77が回転するに従い生地原料は混練され、所定の弾力を備える、一つにつながった生地(dough)に練り上げられて行く。混練ブレード72と補完混練ブレード77が生地を振り回してパン容器50の内側壁に、特に突起50aに、たたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。
カバー70が回転すればリブ75も回転する。リブ75が回転することにより、カバー70内の生地原料は速やかに窓74から排出され、混練ブレード72と補完混練ブレード77が混練している生地原料の塊に同化する。
ステップ#33では混練ブレード72と補完混練ブレード77の回転開始以来どれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したらステップ#34に進む。
ステップ#34では使用者が蓋30を開け、生地にイースト菌を投入する。この時生地に投入するイースト菌はドライイーストでよい。イースト菌の代わりにベーキングパウダーを用いてもよい。イースト菌やベーキングパウダーについても自動投入装置を採用し、使用者の手間を省くことができる。
ステップ#35では生地にイースト菌を投入してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所望の生地を得るのに必要な時間が経過したらステップ#36へ進んで混練ブレード72と補完混練ブレード77の回転が終了する。この時点で、一つにつながり、所要の弾力を備えた生地が完成している。生地の大部分は凹部55より上に留まり、凹部55の中に入り込む量は僅かである。
具材入りパンを焼く場合は、混練工程#30のいずれかのステップで具材を投入する。具材投入についても自動投入装置の採用が可能である。
混練工程#30に続き、図19に示す発酵工程#40が遂行される。ステップ#41では混練工程#30を経た生地が発酵環境に置かれる。すなわち制御装置80は焼成室40を、必要があれば加熱装置41に通電して、発酵が進む温度帯とする。使用者は生地を、必要に応じ形を整えて静置する。
ステップ#42では生地を発酵環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら発酵工程#40は終了する。
発酵工程#40に続き、図20に示す焼成工程#50が遂行される。ステップ#51では発酵した生地が焼成環境に置かれる。すなわち制御装置80はパン焼きに必要な電力を加熱装置41に送り、焼成室40の温度をパン焼き温度帯まで上昇させる。
ステップ#52では生地を焼成環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら焼成工程#50は終了する。ここで表示部22における表示または音声により製パン完了の報知がなされるので、使用者は蓋30を開けてパン容器50を取り出す。そしてパン容器50からパンを取り出す。パンの底には混練ブレード72の抜き跡が残るが、カバー70とガード78は凹部55の中に収容された状態であり、パン容器50の底部から突き出していないため、パンの底に大きな抜き跡を残すようなことはない。
パンに続いて粉砕ブレード54とカバー70のユニットをパン容器50から取り出す。前記ユニットからガード78を取り外してテーブル等の載置面の上に置けば、ガード78は熱を伝えにくい合成樹脂製であるから、取り出したパンを冷ますための置き台としてガード78を利用することができる。
柱78eの下端がスポーク78cよりも下に突き出しているので、載置面の上にガード78を置いたとき、スポーク78cが載置面から浮き上がり、スポーク78cの下に空気流通空間が生じる。このため、ガード78自体、またはそれが支えるカバー70や粉砕ブレード54を冷却したいときなど、速やかに冷却することができる。
ここで、ブレード回転軸52とそれを受け入れる粉砕ブレード54のハブ54aが、金属面同士を向かい合わせていたとすると、その間の僅かな隙間に入り込んだ生地が焼き付きを起こし、粉砕ブレード54とカバー70のユニットをブレード回転軸52から抜き取りにくくなることがある。ところが本実施形態では、ブレード回転軸52の表面に断熱層79を形成したので、ブレード回転軸52とハブ54aの隙間に生地が入り込んだとしても焼き付きが生じにくい。このため、粉砕ブレード54とカバー70のユニットを容易にブレード回転軸52から抜き取ることができる。
断熱層79を、ブレード回転軸52にではなく、ハブ54aの内面に形成することもでききる。ブレード回転軸52の外面とハブ54aの内面の両方に断熱層79を形成することもできる。
ブレード回転軸52の外面とハブ54aの内面の一方のみに断熱層79を形成することとした場合、他方の表面にフッ素樹脂コーティングやセラミックコーティングのような低摩擦コーティングを施しておくのがよい。これにより、粉砕ブレード54とカバー70のユニットの抜き取りが一層容易になる。低摩擦コーティングの方も、むき出しの金属面が当たるのでなく断熱層79が当たるため、摩耗や剥落が生じにくく、長期にわたり低摩擦を維持することができる。
制御装置80は、ブレード回転軸52の回転制御を次のように行う。すなわち制御装置80は、ブレード回転軸52を混練モータ60または粉砕モータ64で回転させる際、混練時または粉砕時の設定回転数(これを本明細書では「定格回転数」と称する)に立ち上げる前に、低速で、または間欠的に、回転させる段階を置く。低速回転または間欠回転は所定時間継続される。この関係を概念的に示したのが図21であり、そこには(a)(b)(c)の3種類の制御態様が例示されている。
(a)の態様では、ブレード回転軸52は所定時間低速回転を続け、その後、定格回転数まで回転を立ち上げる。ブレード回転軸52が混練モータ60により正方向に回転せしめられる場合、クラッチ76の第1係合体76aはゆっくり動いて第2係合体76bに係合するから、カバー70、混練ブレード72、補完混練ブレード77、及びガード78の動き出しもゆっくりであり、穀物粒、液体、粉砕された穀物粒と液体の混合物である生地原料などをパン容器50の外にはね散らかすことがない。カバー70、混練ブレード72、補完混練ブレード77、及びガード78の動き出しに付随する騒音や振動も低レベルにすることができる。クラッチ76をはじめとする機構部品の破損も避けることができる。
ブレード回転軸52が粉砕モータ64により逆方向に回転せしめられるときも同じであって、ブレード回転軸52は所定時間低速回転を続け、その後、定格回転数まで回転を立ち上げる。混練ブレード72は低速回転の間に折り畳み姿勢から開き姿勢に姿勢を変えてパン容器50の内側壁に当たるから、当たる時の騒音や振動が少ない。低速始動期間があるので、機構部品の破損も防ぐことができる。
(b)の態様では、ブレード回転軸52の回転数が階段状に上昇する。作用効果は(a)の態様と同様である。
(c)の態様では、ブレード回転軸52は間欠回転を行ってから連続回転に移行する。
この態様によっても、カバー70、混練ブレード72、補完混練ブレード77、ガード78、及び粉砕ブレード54の動き出しを緩やかなものにすることができる。
続いて第2態様製パン工程を図22と図23に基づき説明する。図22は第2態様パン製造工程の全体フローチャートである。図22では、粉砕工程#20、粉砕後含浸工程#60、練り工程#30、発酵工程#40、焼成工程#50の順で工程が進行する。続いて、図23に基づき粉砕後含浸工程#60の内容を説明する。
ステップ#61では、粉砕工程#20で形成された生地原料がパン容器50の内部で静置される。この生地原料は、粉砕前含浸工程を経ていなかったものである。静置されている間に、粉砕穀物粒に液体が浸み込んで行く。制御装置80は必要に応じ加熱装置41に通電して生地原料を加熱し、含浸を促進する。
ステップ#62では静置開始以来どれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら粉砕後含浸工程#60は終了する。粉砕後含浸工程#60が終了すれば自動的に混練工程#30に移行する。混練工程#30以降の工程は第1態様製パン工程と同じである。
続いて第3態様製パン工程を図24に基づき説明する。図24は第3態様パン製造工程の全体フローチャートである。ここでは、粉砕工程#20の前に第1態様の粉砕前含浸工程#10を置き、粉砕工程#20の後に第2態様の粉砕後含浸工程60を置いている。混練工程30以降の工程は第1態様製パン工程と同じである。
粉砕ブレード54は、穀物粒を粉砕するだけでなく、ナッツ類や葉物野菜などの具材の細片化にも用いることができる。このため、粒の細かい具材を入れたパンを焼くことができる。粉砕ブレード54は、パンに混ぜる具材以外の食材や、生薬原料の粉砕にも利用できる。
本実施形態では、単一の制御装置80により、粉砕ブレード54の回転と混練ブレード72及び補完混練ブレード77の回転を互いに関連づけて制御することが可能であるから、穀物粒を粉砕する段階と、粉砕後の穀物粉を混練する段階において、穀物粒の種類や量に適した回転を粉砕ブレード54と混練ブレード72及び補完混練ブレード77に与え、パンの品質を向上させることができる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。