JP2011108776A - 永久磁石の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】亀裂や凹凸を有する永久磁石表面層を排除しながら、新たに露出した表面に別途の亀裂や凹凸が形成されることがなく、しかも、保磁力性能の高い金属粒を効率的に永久磁石内に粒界拡散することのできる、永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】機械加工されてその形状および寸法が規定され、主相Sと粒界相Rとからなる金属組織を呈する、永久磁石Eを用意し、該永久磁石Eの表面の一部もしくは全部に高圧流体を噴射する液体ブラスト処理をおこない、次いで、該永久磁石Eの保磁力性能を高める金属粒を該永久磁石Eの液体ブラスト処理された表面を介して粒界拡散させる、永久磁石の製造方法である。
【選択図】図3

Description

本発明は、永久磁石の製造方法に関するものである。
ブラシレスDCモータをはじめとする各種モータの中で、ロータコア内部に複数の永久磁石が埋め込まれてなる永久磁石埋込型のロータを具備するモータ(以下、IPMモータという)はよく知られるところである。例えば、ハイブリット車両の駆動用モータには、上記するIPMモータが使用されている。
モータ等のアクチュエータに適用される上記永久磁石に関してさらに言及するに、Nd−Fe−B系焼結永久磁石(たとえば、NdFe14B)はその優れた磁気特性ゆえにその用途が広範囲に広がっており、たとえば、近時の自動車産業界を牽引するといってもよいハイブリッド車をはじめとする車両、産業機械、現在クリーンエネルギとして注目を集めている風力発電機器など、その用途は広範に及んでいる。
ところで、磁石性能の指標として残留磁束密度と保磁力を挙げることができるが、Nd−Fe−B系焼結永久磁石に関して言えば、体積率を増大させること、結晶配向度を向上させることでその残留磁束密度を増大させることができ、結晶粒の微細化を図ること、Nd量の多い組成合金を用いること、保磁力性能の高い金属粒を添加すること、などによってその保磁力を増大させることができる。
その中でも現在一般に適用されている保磁力性能向上のための方策として、保磁力性能の高い金属である、Dy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)などでNd−Fe−B系合金のうちのNdの一部を置換することにより、金属化合物の異方性磁界を増大させ、これによって保磁力増大を図る方策がある。
しかし、上記するジスプロシウムやテルビウムの使用量は、希土類元素の自然存在比を大きく超過していることに加えて、商業的に開発されている鉱床の推定埋蔵量は極めて少なく、さらには、鉱床存在地域も世界的に偏在していることから、元素戦略の必要性が認識されるに至っている。なお、テルビウムの存在比率はジスプロシウムのそれに比して格段に低いことが知られている。
上記するように、ジスプロシウムやテルビウムをNdの一部と置換することで永久磁石の保磁力が高められる一方で、この置換物が存在することで永久磁石の飽和磁気分極を減少させることも知られており、したがって、ジスプロシウム等を使用して永久磁石の保磁力を増大させようとする場合には、少なからずその残留磁束密度の低下を許容せざるを得ない。さらには、ジスプロシウムやテルビウムがレアメタルであることより、資源リスクや材料コストの観点から、その使用量を可及的に低減する必要があることは言うまでもない。
そこで、ジスプロシウムやテルビウム等の金属粒を永久磁石表面から粒界拡散させ、該永久磁石を構成する粒界表面もしくはその近傍のみに濃化させて合金を形成する方法などが現在検討されている。
ここで、従来技術に目を転じるに、研削加工等の機械加工を経て所定の実用形状に加工された永久磁石に関し、この研削加工にて磁気特性が劣化した永久磁石の表面を、酸や有機溶媒で洗浄したり、あるいは、研削加工後の永久磁石の表面をショットブラストで除去することで、磁気特性の劣化を回復させる、もしくは劣化した箇所を取り除く永久磁石の製造方法が特許文献1に開示されている。
特開2007−287869号公報
特許文献1に開示の永久磁石の製造方法に関し、酸や有機溶媒で洗浄する方法では、永久磁石表面にできた亀裂や凹凸が無くならないことが本発明者等によって特定されている。また、ショットブラストにて磁石表面層を取り除く場合には、表面の酸化物層を取り除くことはできても、その衝撃が大き過ぎて、新たに露出した表面に別途の亀裂や凹凸を形成する可能性が極めて高い。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、亀裂や凹凸を有する永久磁石表面層を排除しながら、新たに露出した表面に別途の亀裂や凹凸が形成されることがなく、しかも、保磁力性能の高い金属粒を効率的に永久磁石内に粒界拡散することのできる、永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明による永久磁石の製造方法は、主相と粒界相とからなる金属組織を呈する、永久磁石を用意し、該永久磁石の表面の一部もしくは全部に高圧流体を噴射する液体ブラスト処理をおこない、次いで、該永久磁石の保磁力性能を高める金属粒を該永久磁石の液体ブラスト処理された表面を介して粒界拡散させるものである。
ここで、本発明の製造方法が対象としている永久磁石は、希土類磁石やフェライト磁石、アルニコ磁石等を包含するものであり、磁化に寄与する主相と保磁力に寄与する粒界相からなる金属組織を有していれば特に限定されるものではない。また、本発明でいう「永久磁石」とは、着磁後の前記希土類磁石等のほかに、着磁前の焼結体やただの圧粉体をも含む意味である。希土類磁石としては、ネオジムに鉄とボロンを加えた3成分系のネオジム磁石(Nd−Fe−B系焼結永久磁石)、サマリウムとコバルトとの2成分系の合金からなるサマリウムコバルト磁石、サマリウム鉄窒素磁石、プラセオジム磁石などを挙げることができる。中でも、希土類磁石はフェライト磁石やアルニコ磁石に比して最大エネルギー積(BH)maxが高いことから、高出力が要求されるハイブリッド車等の駆動用モータへの適用に好適である。
本発明の永久磁石の製造方法は、機械加工されてその形状および寸法が規定された永久磁石にその保磁力性能を高める金属粒を粒界拡散させるに際し、この粒界拡散に先行して、永久磁石の表面の一部もしくは全部に高圧流体を噴射する液体ブラスト処理を実施することで、金属粒が永久磁石内部に拡散浸透する浸透路となる粒界相を永久磁石の表面に露出させるようにしたものである。
ここで、粒界相を永久磁石の表面に露出させる有効な他の方策として、永久磁石を割断する方法がある。確かに割断によっても粒界相を永久磁石表面に露出させることはできるが、割断の場合には、割断そのものに時間を要することから効率的な方法とは言い難く、対象となる永久磁石が昨今その製造が盛んになっているハイブリッド車用の駆動用モータ等に適用される場合には、永久磁石の量産という観点から割断処理を採用し難い面がある。
そこで、効率的に粒界相を永久磁石の表面に露出させること、さらには、この粒界相の露出に際して、ショットブラスト処理等の場合のように露出面が新たに損傷されることを抑止すること、の双方を満足させる方法として、高圧流体を噴射する液体ブラスト処理を適用したものである。
ここで、高圧流体としては、高圧な水、有機溶剤などを適用することができ、好ましくは、表面の露出面が酸化されないような液体が適用されるのがよい。また、流体圧(もしくは流速)は、永久磁石の素材により、あるいは、処理されるべき永久磁石表面の厚み等により、所望に調整されるものの、たとえば、50〜300m/sec程度の流速の水、有機溶剤等を提供することができる。
液体ブラスト処理により、永久磁石の所望箇所の表面の一部が取り除かれるが、この際には、隣接する主相同士の界面に存在する粒界相が、主相に対して構造弱部であることから、この粒界相に沿ってその上層表面が取り除かれることとなり、処理後の永久磁石表面には粒界相が効果的に露出される。
そして、表面に露出された粒界相に被粒界拡散される金属粒が提供されることで、この金属粒は粒界相に沿って永久磁石内部に効果的に拡散浸透することができる。ここで、液体ブラスト処理された永久磁石表面に提供される金属粒としては、Dy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)、もしくはそれらの混合素材のいずれか一種を挙げることができる。
この金属粒を永久磁石の内部へ粒界拡散させるに際しては、該金属粒をスパッタリングする方法や、真空雰囲気中もしくはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気で所定時間高温処理する方法(真空蒸着など)、気相法による方法、金属粒が混合された溶媒を液体ブラスト処理された永久磁石表面に塗布する方法、金属粒が混合された溶媒内に液体ブラスト処理された永久磁石表面を浸漬する方法など、その処理方法の具体例は多様である。なお、たとえば、高温処理時の温度条件、高温処理時間条件などを調整することで、金属粒の粒界拡散深度の調整が可能となる。
また、液体ブラスト処理にて表面処理される永久磁石の処理領域もしくは処理範囲は、該永久磁石の用途により、あるいは、部位ごとに異なる要求保持力性能等により、適宜調整され、表面処理された部位にのみジスプロシウム等を粒界拡散させることで、レアメタル使用量を低減しながら保持力性能に優れた永久磁石を得ることができる。
たとえば、前記永久磁石が、IPMモータを構成するステータの内側に回転自在に配されたロータの磁石用スロットに配設されるものである場合においては、永久磁石のうち、前記液体ブラスト処理される表面は、該永久磁石が磁石用スロット内に挿入された際に前記ステータ側となる表面の一部もしくは全部に限定することができる。
特に、永久磁石のステータ側表面のうち、その隅角部には、ステータ側からの逆磁界が通過し、該隅角部における保磁力低下が懸念されることから、このステータ側の隅角部のみを液体ブラスト処理し、次いでジスプロシウム等を粒界拡散させることにより、トルク性能、回転性能に優れたIPMモータを、可及的安価に製造することが可能となる。
したがって、永久磁石のステータ側表面の全部を処理対象とする形態、永久磁石のステータ側表面の隅角部のみを処理対象とする形態など、が永久磁石表面の一部を処理する実施の形態となる。
上記する本発明による永久磁石の製造方法によれば、ジスプロシウム等の保磁力性能を高める金属粒を永久磁石の内部に拡散浸透させるに当たり、高圧流体のみで永久磁石表面を取り除き、該拡散浸透のための浸透路となる粒界相を表面に露出させるようにしたことで、新たな亀裂等の損傷が無い、もしくは極めて少ない露出面であって、粒界相の露出割合が極めて高い露出面を形成することができ、ジスプロシウム等の保磁力性能を高める金属粒の永久磁石内への効果的な浸透拡散に寄与できる。また、この製造方法では、割断にて永久磁石の新たな露出面を形成する場合と同様に、損傷の無い、もしくは極めて少ない粒界相露出面を形成できることに加えて、該割断による方法に比してその処理効率は格段に高く、保磁力性能に優れた永久磁石の量産に寄与できるものである。
以上の説明から理解できるように、本発明の永久磁石の製造方法によれば、機械加工されてその形状および寸法が規定された永久磁石において、亀裂や凹凸のある磁石表面を液体ブラスト処理にて表面処理することで、亀裂等が無く、粒界相の割合の高い表面を露出させ、次いでジスプロシウム等の金属粒を粒界拡散させるようにしたことで、保磁力性能の高い永久磁石を効率的に製造することができる。
永久磁石表面に液体ブラスト処理を実施している状況を説明した模式図である。 図1のII−II矢視図を拡大して、液体ブラスト処理を実施する前の永久磁石表面の状況を示した模式図であり、液体ブラスト処理を実施しない場合の永久磁石内へ高保磁力性能金属粒が粒界拡散している状況をともに示した図である。 図2に対応する図であって、液体ブラスト処理を実施した後の永久磁石表面の状況を示した模式図であり、液体ブラスト処理後の永久磁石内へ高保磁力性能金属粒が粒界拡散している状況をともに示した図である。 (a),(b),(c)はともに、本発明の製造方法で製造される永久磁石の実施の形態を示した斜視図である。 従来の製造方法による永久磁石(比較例)と、本発明の製造方法による永久磁石(実施例)に関し、残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積を測定した結果のうち、保磁力の結果を示した測定結果である。
以下、図面を参照して本発明の永久磁石の製造方法の一実施の形態を説明する。
本発明の永久磁石の製造方法は、まず、機械加工されてその形状および寸法が規定された永久磁石を用意し、用意された永久磁石の表面の一部もしくは全部に高圧流体を噴射する液体ブラスト処理をおこなう工程、次いで、表面の一部もしくは全部が液体ブラスト処理された永久磁石に対して、その保磁力性能を高めるための金属粒を、永久磁石の液体ブラスト処理された表面を介して該永久磁石内に粒界拡散させる工程、からなる。
図1は、永久磁石表面に液体ブラスト処理を実施している状況を説明したものである。この液体ブラスト処理は、ウェットブラスト処理と称することもできるが、液体ブラスト処理装置Mに配された圧縮エアAA用の管路と、水もしくは有機溶剤などの液体L用の管路のそれぞれに圧縮エアAA,液体Lが提供され、該装置M内で高圧流体が生成され、これが、装置Mの下方に載置された永久磁石Eの表面に噴射ノズルを介して提供される。
なお、永久磁石Eの2以上の側面を液体ブラスト処理する場合には、一つの側面が液体ブラスト処理された後に永久磁石Eの姿勢を回動させて非処理面を上方に向け、他方の側面の液体ブラスト処理を実行すればよい。また、図示する装置に改良を加えて、たとえば3方向から圧縮流体を同時に提供できるような装置としておき、一度に永久磁石Eの3面に高圧流体を提供するものであってもよい。また、永久磁石表面をノズルが移動しながら高圧流体を提供する形態の装置であってもよい。
また、永久磁石Eの一側面のさらに隅角部のみを液体ブラスト処理したい場合には、永久磁石Eの隅角部のみに高圧流体が提供されるように永久磁石Eの位置決めをおこなったり、図示例の装置よりも幅の狭い噴射ノズルを有する装置を使用して、隅角部のみに高圧流体を提供するようにしてもよい。
図2は、図1のII−II矢視図を拡大して、液体ブラスト処理を実施する前の永久磁石表面の状況を示した図であり、参考として、液体ブラスト処理を実施しない場合の永久磁石内へ高保磁力性能金属粒が粒界拡散している状況をともに示した図である。
永久磁石Eであるネオジム磁石等の希土類磁石やフェライト磁石は、磁化(残留磁束密度)に寄与する主相Sと、保磁力に寄与する粒界相Rからなる金属組織を有している。
切断、研摩等の機械加工を経て所定の寸法および形状に形成された永久磁石Eにおいて、液体ブラスト処理が施されていない表面の状態は、図2で示すように、機械加工の際に主相Sに亀裂Cが入っていたり、隣接する主相S,S間の粒界相Rが陥没してなるくぼみKが形成されている可能性が極めて高い。主相Sに亀裂Cが生じていることで、永久磁石の磁化特性が低下してしまう。
また、既述するように、ジスプロシウム等の金属粒を永久磁石内に粒界拡散させる際の浸透路は粒界相Rが担うものであるが、図2で示す表面状態では、まず、該表面で金属粒の浸透路となる粒界相Rが臨む領域が極めて少なく、たとえば図示するように、X1、X2の少ないルートに限定されてしまい、金属粒の粒界拡散性は極めて悪い。
一方、図3は図2に対応する図であり、図1で示す液体ブラスト処理を実施した後の永久磁石表面の状況を示した模式図である。
液体ブラスト処理を実施することにより、図2で示す永久磁石表面の亀裂Cを有する主相S等が流体圧によって取り除かれ、しかも、この表面層の取り除きに際しては、相対的に構造弱部である粒界相Rに沿って表層の主相Sが取り除かれることから、図3で示すように、液体ブラスト処理後の永久磁石表面には、金属粒の浸透路となる粒界相Rの割合が極めて高い活性表面が露出することとなる。
しかも、高圧流体による表面処理であることから、ショットブラスト処理の場合のような高い衝撃を新生露出面に付与することもなく、露出面に新たな亀裂等が生じる可能性は極めて低い。
図3で示すように、多くの粒界相Rが露出した永久磁石表面にジスプロシウム等の金属粒を提供すると、該金属粒は多数の浸透路Y1〜Y6など(粒界相R)を経て、効果的に永久磁石内部へ拡散浸透することができる。
また、永久磁石Eを構成する主相Sに関して言えば、図2のように機械加工の際に生じた亀裂を有する主相Sが存在していないことより、永久磁石の磁化特性(残留磁束密度)にも優れている。
永久磁石表面の全部もしくは一部を液体ブラスト処理した後に、ジスプロシウム等の金属粒を永久磁石内に粒界拡散させる。ここで、金属粒の粒界拡散方法には種々の方法がある。
その一つの方法は、スパッタリングにて金属粒からなる薄層を形成し、次いで、真空雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気および高温雰囲気下で金属粒を永久磁石内に浸透させる方法である。
この方法では、金属粒を含浸させる永久磁石表層からの深度を調整するべく、処理の際の温度や高温雰囲気下に置く載置時間が設定され、さらには、その圧力条件なども調整される。すなわち、永久磁石の内部にまで完全にジスプロシウム等が浸透してしまうと、今度は永久磁石の磁化特性を低下させてしまうことから、表層数10μ〜数mm程度の深度まで金属粒の拡散浸透を実施するのがよい。
たとえば、スパッタリングしてジスプロシウム等からなる薄層を永久磁石表面に形成後、800〜900℃程度の高温雰囲気下、真空雰囲気下で10時間程度置き、もしくは、同様に800〜900℃程度の高温雰囲気下、アルゴンガス雰囲気下、減圧雰囲気下(10torr程度)で10時間程度置き、次いで、一度温度を室温程度(20℃)に戻した後に、さらに500℃程度の高温雰囲気で1時間程度置くことにより、所望深度までジスプロシウム等を拡散浸透させることができ、保磁力性能はもとより、最大エネルギー積の高い永久磁石を得ることが可能となる。
一方、他の一つの方法は、化学気相蒸着法(CVD)を適用し、永久磁石表面にジスプロシウム等を蒸着させ、気相化学反応をさせた後に金属元素を永久磁石内に浸透させる方法である。
たとえば、真空ガラス封入された永久磁石とジスプロシウム等を、800〜900℃程度の高温雰囲気下で50時間程度置き、一度温度を室温程度(20℃)に戻した後に、さらに500℃程度の高温雰囲気で1時間程度置くことにより、所望深度までジスプロシウム等を拡散浸透させることができる。
図4は、上記製造方法にて製造された永久磁石の実施の形態を示したものである。図4aで示す永久磁石Eaは、6面体のうちの4面に液体ブラスト処理が施され、ジスプロシウム等が所定深度まで拡散浸透されてなる永久磁石である。
また、図4bで示す永久磁石Ebは、その一側面のみに液体ブラスト処理が施され、ジスプロシウム等が所定深度まで拡散浸透されてなる永久磁石である。たとえば、この永久磁石EbがIPMモータ用ロータの磁石用スロット内に配設される際に、この処理面をステータ側に向けた姿勢で配設されることで、レアメタルであるジスプロシウム等使用量の低減を図りながら、ステータ側からの逆磁界が大きく作用する永久磁石のステータ側側面の保磁力を高めておくことができる。
さらに、図4cで示す永久磁石Ecは、その一側面のさらに隅角部のみに液体ブラスト処理が施され、ジスプロシウム等が所定深度まで拡散浸透されてなる永久磁石である。これも、この永久磁石EcがIPMモータ用ロータの磁石用スロット内に配設される際に、そのステータ側の側面のうちで、さらに逆磁界が大きな永久磁石の隅角部の保磁力のみを高めておくことをその目的としたものであり、所定の保磁力性能を確保しながら、ジスプロシウム等使用量のさらなる低減を図ることができるものである。なお、図示例以外の形態、たとえば、6面体の全面に表面処理および金属粒の拡散浸透を実施する形態などであってもよいことは勿論のことである。
上記する本発明の永久磁石の製造方法によれば、その保磁力性能を高めるためにジスプロシウム等の金属粒を該永久磁石内に拡散浸透させるに際して、機械加工された際に表層の主相や粒界相が損傷を受けている永久磁石表面を効率的に取り除くとともに、新生露出面に新たな損傷を付与する危険性がない。しかも、この新生露出面には、多数の、もしくは高い面積比率で金属粒の浸透路となる粒界相が存在していることより、ジスプロシウム等の金属粒の永久磁石内への効果的な拡散浸透を実現できる。
[従来の製造方法による永久磁石(比較例)と、本発明の製造方法による永久磁石(実施例)に関し、残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積を測定した実験とその結果]
本発明者等は、平面が5×4.5mm、厚みが2mm(磁化方向は4.5mm辺に沿う方向)のNdFe14B焼結磁石を用意した。なお、この磁石は、天津天和磁材技術有限公司社製で、以下の表1で示す化学成分を有する永久磁石である。そして、用意された永久磁石に対し、実施例1,2ではともに、同条件のウォータジェット処理(液体ブラスト処理)を5×4.5mmの2つの平面に実施した。
ウォータジェット処理時の条件は、FLOW社製の高圧ポンプ(20XW、ウォータージェット)とファンジェットノズル(15/1000inch)を使用し、高圧流体の圧力を30000psi、ノズル移動速度を20mm/sec、ノズル−永久磁石間の離間を20mmとしたものである。
実施例1では、永久磁石のウォータジェット処理面上に、ジスプロシウムをスパッタリングにて4μm厚の薄層を形成した。より具体的には、100℃程度の温度雰囲気下でアルゴンスパッタリングを10分間おこない、次いで、マグネトロンスパッタリングをおこなった。
スパッタリング後、試料をアルゴン雰囲気下、10torrの減圧雰囲気下、900℃の高温雰囲気下で10時間置き、一度室温まで戻した後に、500℃の高温雰囲気下で1時間の熱処理をおこなうことで、ジスプロシウムを永久磁石内に拡散浸透させた。
また、実施例2では、ウォータジェット処理後の永久磁石とジスプロシウムチップを、10−4Paで真空ガラス封入し、900℃の高温雰囲気下で50時間置き、一度室温まで戻した後に、500℃の高温雰囲気下で1時間の熱処理をおこなうことで、ジスプロシウムを永久磁石内に拡散浸透させた。
一方、比較例として、上記実施例1,2に対応する永久磁石であって、ウォータジェット処理されていないものを比較例1,2として製造し、さらに、ジスプロシウムの拡散浸透を実施しない永久磁石を比較例3として別途用意した。
実施例1,2、比較例1〜3の各永久磁石に対して、試料振動式磁束計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を使用して、各永久磁石の残留磁束密度、保磁力、および最大エネルギー積を測定した。
以下、表1に本実験で使用した永久磁石の成分組成を、表2に実験結果を、図5に、表2中の保磁力のみの結果を取り出して図化したものを、それぞれ示している。
Figure 2011108776
Figure 2011108776
表2、図5より、実施例1,2は、ウォータジェット処理されていない比較例1,2に対して、およそ1割程度の保磁力の向上が認められ、ウォータジェット処理による効果が確認された。
一方、残留磁束密度に関しては、ジスプロシウムが永久磁石内に浸透されたことで、該ジスプロシウムのない比較例3が最も高い値を呈したものの、実施例1,2は、比較例3と同程度の残留磁束密度であることが確認できた。さらに、実施例1,2では、比較例1,2に対して残留磁束密度が5%程度向上していることが認めらえれ、実施例1,2の永久磁石が損傷のない主相にて構成されていることが確認できた。
さらに、最大エネルギー積に関しては、比較例1,2に対して実施例1,2はともに3%程度向上することが確認され、磁化特性および保磁力性能に優れた永久磁石であることが確認された。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
M…液体ブラスト装置、AA…圧縮空気、L…液体(水、有機溶剤など)、E…永久磁石、Ea,Eb,Ec…永久磁石(液体ブラスト処理、および高保磁力金属粒の粒界拡散処理済み)、S…主相、R…粒界相、C…亀裂、K…くぼみ、H…高保磁力金属粒

Claims (3)

  1. 主相と粒界相とからなる金属組織を呈する、永久磁石を用意し、該永久磁石の表面の一部もしくは全部に高圧流体を噴射する液体ブラスト処理をおこない、次いで、該永久磁石の保磁力性能を高める金属粒を該永久磁石の液体ブラスト処理された表面を介して粒界拡散させる、永久磁石の製造方法。
  2. 前記永久磁石は、IPMモータを構成するステータの内側に回転自在に配されたロータの磁石用スロットに配設されるものであり、
    前記永久磁石のうち、前記液体ブラスト処理される表面は、該永久磁石が磁石用スロット内に挿入された際に前記ステータ側となる表面の一部もしくは全部である、請求項1に記載の永久磁石の製造方法。
  3. 用意された前記永久磁石が、Nd−Fe−B系焼結永久磁石であり、保磁力性能を高める前記金属粒が、Dy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)、もしくはそれらの混合素材のいずれか一種からなる、請求項1または2に記載の永久磁石の製造方法。
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