JP2011095138A - 多層膜の膜厚測定方法およびその装置 - Google Patents

多層膜の膜厚測定方法およびその装置 Download PDF

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Abstract

【課題】多層膜に光を照射してその反射光から光学膜厚を測定し、この光学膜厚から物理膜厚を演算する構成の膜厚計では、測定対象の多層膜や測定する光学膜厚が異なると、光学膜厚と物理膜厚の関係式も異なる。このため、測定に特別な知識が必要になり、また測定対象が変わると新しい関係式を設定するために改造が必要になるという課題を解決する。
【解決手段】測定した光学膜厚と各層の物理膜厚をベクトルと考え、多層膜を構成する各層の屈折率を入力して、この屈折率を用いて光学膜厚から物理膜厚を演算する係数行列を算出し、この係数行列と測定した光学膜厚から物理膜厚を演算するようにした。多層膜の構成や光学膜厚に依存しない汎用的な手法で物理膜厚を演算できるので、特別な知識や機器の改造がなくても、新しい多層膜の測定ができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、さまざまな多層膜の膜厚を測定できる多層膜の膜厚測定方法およびその装置に関するものである。
図5に、多層膜の膜厚を測定する膜厚計の構成を示す。図5において、光源11の白色出力光は光ファイバ12を経由して膜厚を測定する多層膜10に照射される。この多層膜10からの反射光は、光ファイバ12を経由して分光器13に導かれる。
分光器13は入力された反射光を分光し、この分光した光を電気信号に変換して分光スペクトルを生成する。この分光スペクトルは分光データ取得部14で取得され、光学膜厚演算部15に出力される。
設定部16により、光学膜厚を測定する波長帯域、パワースペクトルのピークを検出するピーク検出範囲が設定される。
分光スペクトルには、光学膜厚に比例した周波数の干渉縞が現れる。光学膜厚演算部15は、この干渉縞を測定することにより、光学膜厚を求める。
そのために、設定部16で設定された波長帯域について、反射分光スペクトルを等波長間隔に並べ直した波数域反射分光スペクトルに変換する。そして、この波数域反射分光スペクトルのデータをフーリエ変換して、設定された波長帯域のパワースペクトルを演算する。次に、設定部16によって設定されたピーク検出範囲におけるパワースペクトルのピークを検出する。このピークの位置から、光学膜厚が得られる。
光学膜厚演算部15が求めた光学膜厚は物理膜厚演算部17に入力される。物理膜厚演算部17は、入力された光学膜厚と屈折率から多層フィルム10の各層の実際の膜厚である物理膜厚を演算する。この物理膜厚は表示部18に表示される。
次に、図6を用いて光学膜厚と物理膜厚の関係を説明する。図6は膜厚を測定する多層膜の断面図である。多層膜は層20と21の2層で構成され、それらの物理膜厚をそれぞれd11、d12とする。層21はフィルム、層20はフィルム21上に塗工された塗工層である。層20、21の物理膜厚d11、d12をそれぞれ1μm、150μmとする。
層20の側から白色光を照射し、膜厚を測定するとする。照射された光は層20、21の境界面および多層膜の裏面で反射され、これらの反射光から光学膜厚が得られる。層20と21の境界面で反射された反射光から得られた光学膜厚をL11、多層膜の裏面で反射された反射光から得られた光学膜厚をL12とする。光学膜厚L11は層20のみに関係しているが、光学膜厚L12は層20と21の両方に関係している。
理想的には、光学膜厚は多層膜の境界面の組み合わせ数だけ測定することができるが、実際に測定できる光学膜厚は各境界面の反射率や平滑度の状態によって決まり、必ずしも測定したい層の光学膜厚が直接検出できるとは限らない。
光学膜厚は物理膜厚と屈折率の積なので、測定したい層の光学膜厚が直接測定できれば、簡単な演算で物理膜厚を求めることができる。しかし、測定したい層の光学膜厚が直接測定できないときは、複数の層に跨る光学膜厚の組み合わせから、物理膜厚を求める式を導出しなければならない。
特許文献1には、屈折率が波長によって変化することを利用して、複数の波長範囲で光学膜厚を測定することにより、同じ膜厚の層が複数存在していても、各層の物理膜厚を独立して測定することができる実施例が記載されている。以下、この実施例を図6の多層膜を用いて説明する。
層20の波長範囲W1、W2における屈折率をn11、n12、層21の波長範囲W1、W2における屈折率をn21、n22とすると、光学膜厚L12は層20と21を加算したものであるので、下記(1)、(2)式が得られる。なお、d11、d12、L11、L12は、図6で説明した物理膜厚、光学膜厚である。光学膜厚L12は層20と21の両方に関係しているので、(1)式でd11を演算し、このd11を(2)式に代入してd12を演算しなければならない。
d11=L11/n11 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
d12=(L12−d11×n12)/n22
=(L12−L11/n11×n12)/n22 ・・・・ (2)
この(1)、(2)式および光学膜厚L11、L12の測定値から、物理膜厚d11、d12を算出することができる。
特開2008−292473号公報
しかしながら、このような膜厚計には次のような課題があった。光学膜厚から物理膜厚を演算する前記(1)、(2)式は測定できる光学膜厚や測定する多層膜の構成によって異なるが、ユーザが波長による屈折率の違いを意識して、光学膜厚から物理膜厚を演算する式を導出することは困難であるという課題があった。また、たとえユーザがこの式を導出できたとしても、膜厚計が任意の形式の演算式を受け付ける仕組みを用意することは難しいという課題もあった。
これらの課題を解決するためには光学膜厚から物理膜厚を演算する全ての式を予め膜厚計に組み込まなければならないが、全ての演算式を組み込むことは不可能なので、客先の要求毎に個別の演算式を設計して組み込まなければならず、手間がかかるという課題もあった。
また、機器の納入後に新しい銘柄の測定を行わなければならない必要性が発生してもユーザで対応できず、膜厚計の再設計が必要になってしまうという課題もあった。
本発明の目的は、種々の測定対象に柔軟に対応することができる、多層膜の汎用的な膜厚測定方法およびその装置を実現することにある。
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光を検出して、前記多層膜を構成する層の物理膜厚を測定する多層膜の膜厚測定方法において、
前記多層膜を構成する各層の屈折率を設定する工程と、
前記設定した屈折率を用いて、光学膜厚から物理膜厚を演算するための係数行列を演算する工程と、
多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光から光学膜厚を測定する工程と、
前記測定した光学膜厚と前記係数行列から、前記多層膜の物理膜厚を演算する工程と、
を具備したものである。光学膜厚と物理膜厚の関係式を意識しないで、物理膜厚を測定できる。
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
測定できなかった光学膜厚を無効値とし、この無効値と0との乗算を0、0以外の数値と無効値の乗算を無効値、無効値と数値との加算を無効値として、測定した光学膜厚と前記係数行列から物理膜厚を演算するようにしたものである。測定できない光学膜厚があっても、物理膜厚を演算できる。
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、
多層膜の減衰量から測定した膜厚および前記多層膜を構成する他の層との感度比が入力され、この膜厚および感度比をそれぞれ疑似光学膜厚、および疑似屈折率として、この疑似光学膜厚と疑似屈折率、および多層膜からの反射光から測定した光学膜厚および屈折率から多層膜を構成する各層の物理膜厚を演算するようにしたものである。反射方式で測定できない層があっても、正確な物理膜厚を測定できる。
請求項4記載の発明は、
多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光を検出して、前記多層膜を構成する層の物理膜厚を測定する多層膜の膜厚測定装置において、
多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光から光学膜厚を測定する光学膜厚測定部と、
前記多層膜を構成する各層の屈折率を設定する屈折率設定部と、
前記屈折率設定部で設定した屈折率が入力され、光学膜厚から物理膜厚を演算するための係数行列を演算する係数行列演算部と、
前記光学膜厚測定部によって測定された光学膜厚および前記係数行列演算部によって演算された係数行列が入力され、これらの入力値から物理膜厚を演算する物理膜厚演算部と、
を具備したものである。光学膜厚と物理膜厚の関係式を意識しないで、物理膜厚を測定できる。
請求項5記載の発明は、請求項4に記載の発明において、
前記係数行列演算部が演算した係数行列の要素成分の絶対値をチェックし、この絶対値が所定の閾値を越えたときに警報を出力する監視部を具備したものである。安定した測定が可能になる。
請求項6記載の発明は、請求項4若しくは請求項5に記載の発明において、
前記光学膜厚測定部は測定できなかった光学膜厚の値を無効値とし、前記物理膜厚演算部は、物理膜厚を演算する際に、無効値と0との乗算を0、0以外の数値と無効値の乗算を無効値、無効値と数値との加算を無効値として物理膜厚を演算するようにしたものである。測定できない光学膜厚があっても、物理膜厚を演算できる。
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1、2、3、4、5、および6の発明によれば、多層膜を構成する各層の屈折率を設定し、この屈折率を用いて光学膜厚から物理膜厚を演算するための係数行列を演算して、測定した光学膜厚と前記係数行列を用いて物理膜厚を演算するようにした。
多層膜の層の数、および測定できる光学膜厚が変わっても、同じ手法で光学膜厚から物理膜厚を演算することができる。光学膜厚と物理膜厚の関係式を意識することなく物理膜厚を測定できるので、これらの知識を有しないユーザでも正確な測定ができるという効果がある。
また、測定対象が変わっても光学膜厚と物理膜厚の関係式を新たに設定する必要がないので、新たな関係式の設定または測定機器の改造を行わなくてもよいという効果もある。
また、測定できなかった光学膜厚を無効値とし、この無効値を考慮した演算を行って光学膜厚から物理膜厚を演算することにより、測定できない光学膜厚があっても、この光学膜厚に関係しない層の物理膜厚を測定することができるという効果もある。
さらに、X線や赤外線、放射線などを照射してその減衰量から層の膜厚を測定するセンサの出力と組み合わせて物理膜厚を演算することにより、より正確に物理膜厚を測定することができるという効果もある。
本発明の一実施例を示したフローチャートである。 多層膜の断面図である。 光学膜厚検出設定画面および屈折率設定画面を示す図である。 本発明の一実施例を示す構成図である。 従来の膜厚計の構成図である。 多層膜の断面図である。
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る多層膜の膜厚測定方法の一実施例を示したフローチャートである。なお、予備測定を行って、測定する光学膜厚を決定しておく。測定する光学膜厚の数は、測定対象である多層膜を構成する層の数と同じとする。
図1において、工程(P1−1)で光学膜厚検出のための設定値と、多層膜を構成する各層の屈折率を入力する。これらの入力については後述する。
次に、工程(P1−2)で、入力した屈折率を用いて、光学膜厚から物理膜厚を演算するための係数行列を求める。この係数行列を用いて、光学膜厚から物理膜厚を演算する。
次に、工程(P1−3)で、従来例と同様の手法で光学膜厚を測定する。すなわち、測定する多層膜に白色光を照射し、多層膜からの反射光を分光して分光スペクトルを得る。この分光スペクトルを等波長間隔に並べ直して波数域反射分光スペクトルに変換し、この波数域反射分光スペクトルのデータをフーリエ変換して、設定された波長帯域のパワースペクトルを演算する。そして、工程(P1−1)で入力されたピーク検出範囲におけるパワースペクトルのピークを検出し、このピークの位置から、光学膜厚を演算する。
次に、工程(P1−4)で、工程(P1−2)で求めた係数行列と測定した光学膜厚から、物理膜厚を演算する。
次に、この実施例を更に詳細に説明する。図2に、測定する多層膜の断面図を示す。図2において、D1〜D3は多層膜を構成する層であり、d1〜d3はそれぞれ層D1〜D3の物理膜厚である。測定する多層膜はD1〜D3の3つの層で構成される。層D1〜D3はプラスティックなどのフィルム、あるいはフィルム上に塗工された塗工層である。
L1〜L3は測定した光学膜厚である。光学膜厚L1〜L3は、それぞれ層D1とD2の境界面で反射された光と、層D2とD3の境界面で反射された光と、多層膜の裏面で反射された光とが、多層膜の表面で反射した光と干渉して作る干渉縞を測定して得られた光学膜厚である。光学膜厚L1は層D1のみに関係し、光学膜厚L2は層D1とD2に関係する。光学膜厚L3は、層D1〜D3の全てに関係する。
図3に、工程(P1−1)で入力するデータの入力画面を示す。図3において、(A)は光学膜厚検出のための設定値入力画面、(B)、(C)は屈折率の入力画面である。
(A)に示すように、光学膜厚検出のために、測定する光学膜厚L1〜L3毎に光学膜厚を測定する波長範囲(左側)とパワースペクトルのピークを検索する範囲である光学膜厚検索範囲(右側)を入力する。この例では、光学膜厚L1とL2の波長範囲は500〜900nm、光学膜厚L3の波長範囲は800〜900nmに設定されている。光学膜厚によって層D1〜D3の屈折率を異ならせるために、光学膜厚L3の波長範囲は他の光学膜厚の波長範囲と異ならせている。
また、光学膜厚検索範囲は、光学膜厚L1〜L3でそれぞれ3.0〜5.0、10.0〜15.0、110.0〜120.0に設定されている。これら波長範囲と光学膜厚検索範囲は、光学膜厚を精度よく測定できるように、測定する多層膜毎に設定される。なお、波長範囲、光学膜厚検索範囲を設定せず、全範囲を対象とすることもできる。
図3(B)は層D1〜D3の屈折率を入力する画面である。行D1〜D3はそれぞれ層D1〜D3に対応し、列L1〜L3はそれぞれ光学膜厚L1〜L3に対応する。この行、列の交点の入力欄に、光学膜厚検出値入力画面(A)で設定した波長範囲における屈折率を入力する。また、各光学膜厚に関係しない層の屈折率は0とする。これによって、各光学膜厚が各層にどの程度感度を有しているかを設定する。
図2から、光学膜厚L1は層D1のみに関係しているので、D1とL1の交点の入力欄には層D1の波長500〜900nmにおける屈折率である1.52を入力し、D2、D3とL1の交点の入力欄には0.00を入力する。
光学膜厚L2は層D1とD2に関係し、D3には関係しない。このため、D1とL2の交点の入力欄には1.52(D1とL1の交点入力欄の値と同じ)を入力し、D2とL2の交点の入力欄には、層D2の波長500〜900nmにおける屈折率である1.42を入力する。D3とL2の交点の入力欄には0.00を入力する。
光学膜厚L3は層D1〜D3の全てに関係する。L3とD1〜D3の交点の入力欄には、それぞれ層D1〜D3の波長800〜900nmにおける屈折率1.48、1.40、1.61を入力する。
層D1〜D3の物理膜厚をそれぞれd1〜d3とすると、光学膜厚は物理膜厚に屈折率を乗じた値なので、下記(3)〜(5)式が成立する。
L1=1.52×d1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
L2=1.52×d1+1.42×d2 ・・・・・・・・・・・・ (4)
L3=1.48×d1+1.4×d2+1.61×d3 ・・・・・ (5)
物理膜厚d1〜d3を要素とする縦ベクトルを、光学膜厚L1〜L3を要素とする縦ベクトルを、入力画面図2(B)で入力した屈折率を行列と考えてその転置行列をnとすると、下記(6)式が成立する。
Figure 2011095138
前記(3)〜(5)式と(6)式を比較すると、下記(7)式が成立することが導かれる。
=n ・・・・・・・・・・ (7)
この(7)式を変形すると、(8)式が得られる。なお、n−1は行列nの逆行列である。(8)式を用いて、光学膜厚から物理膜厚を演算できる。逆行列n−1は光学膜厚から物理膜厚を演算するための係数行列である。
=n−1 ・・・・・・・・・ (8)
なお、この例では屈折率の入力画面で行を層D1〜D3、列を光学膜厚L1〜L3としたために屈折率の行列を転置したが、図3(C)のように行と列を入れ替えた入力画面にすると転置する必要がなく、入力した値をそのまま行列nとし、この行列nの逆行列を求めればよい。
なお、屈折率は必ずしも図3(B)や(C)の画面で入力する必要はない。各光学膜厚について関係する層、および設定された波長範囲における各層の屈折率を入力し、前記(6)の行列nを生成するようにしてもよい。
同様の方法で、2層膜でも物理膜厚を演算することができる。図6の2層膜で層20、21の屈折率をそれぞれn11、n22とすると、下記(9)式が得られる。
Figure 2011095138
行列nの逆行列を求めて前記(9)式を変形すると、下記(10)式になり、光学膜厚L11、L12と屈折率n11、n22から物理膜厚d11、d12を演算することができる。
Figure 2011095138
この関係は4層以上の多層膜に拡張することができる。測定する多層膜がN枚の層で構成され、それらの物理膜厚をd1、d2、・・・dN、測定した光学膜厚をL1、L2、・・・LNとすると、光学膜厚は屈折率と物理膜厚の積で表されるので、下記(11)式が成立する。α11、・・・αNNは各層の屈折率であり、図3(B)、(C)で説明した方法で入力する。αijは、光学膜厚iに関係する層jの屈折率である。
L1=α11×d1+α12×d2+・・・・+α1N×dN
L2=α21×d1+α22×d2+・・・・+α2N×dN
・・・・・・・・・・・
LN=αN1×d1+αN2×d2+・・・・+αNN×dN
・・・・・・・・・・ (11)
光学膜厚、物理膜厚を縦ベクトルで表わすと、前記(11)式は下記(12)式にまとめることができる。
Figure 2011095138
行列[αij]の逆行列を[βij]とすると下記(13)式に変形でき、光学膜厚L1、L2、・・・LNから物理膜厚d1、d2、・・・・dNを演算することができる。行列[βij]は光学膜厚から物理膜厚を演算する係数行列である。
Figure 2011095138
このように、測定する多層膜を構成する層について、設定された波長範囲における各層の屈折率を入力するだけで、光学膜厚から各層の物理膜厚を演算することができる。このため、各層の光学膜厚と物理膜厚の関係を意識しなくてもよい。従って、新しい多層膜を測定する場合でも、光学膜厚と物理膜厚の関係式を入力する必要がなく、また膜厚測定装置を改造する必要もなくなる。
図4に、本発明に係る多層膜の膜厚測定装置の構成図を示す。なお、図5と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
図4において、多層膜の膜厚測定装置は光学膜厚測定部30、屈折率設定部31、係数行列演算部32、物理膜厚演算部33、表示部34で構成される。光学膜厚測定部30は、光源11、光ファイバ12、分光器13、分光データ取得部14、光学膜厚演算部15、設定部16で構成される。
光源11の出力光である白色光は光ファイバ12で導かれ、多層膜10に照射される。多層膜10からの反射光は、光ファイバ12を経由して分光器13に入力される。分光器13は入力された反射光の分光スペクトルを生成する。この分光スペクトルは分光データ取得部14で取得され、光学膜厚演算部15に出力される。
設定部16は図3(A)に示す画面を表示部34に表示する。ユーザは、この画面を用いて多層膜の各層の測定する波長範囲、およびパワースペクトルのピークを検索する範囲を設定する。これらの設定値は光学膜厚演算部15に入力される。
光学膜厚演算部15は、入力された分光スペクトルおよび設定値から光学膜厚を演算する。光学膜厚演算部15は、分光スペクトルを等波長間隔に並べ直した波数域反射分光スペクトルに変換し、この波数域反射分光スペクトルのデータをフーリエ変換して、設定された波長帯域のパワースペクトルを演算する。次に、設定部16によって設定されたピーク検出範囲におけるパワースペクトルのピークを検出し、このピークの位置から光学膜厚を演算する。
31は屈折率設定部であり、図3(B)あるいは(C)の画面を表示部34に表示する。ユーザはこの画面を用いて多層膜の各層について、測定する波長範囲における屈折率を入力する。なお、対象とする光学膜厚に関係しない層の屈折率を0.0とする。
屈折率設定部31で設定された屈折率は係数行列演算部32に入力される。係数行列演算部32は、入力された屈折率を並べ直して行列にし、この行列の逆行列を演算して係数行列を作成して、この係数行列を物理膜厚演算部33に出力する。
物理膜厚演算部33は、光学膜厚測定部30が測定した光学膜厚と係数行列演算部32が作成した係数行列を用い、前記(13)式に基づいて各層の物理膜厚を演算し、表示部34に表示する。
なお、係数行列を演算するときに、逆行列が得られない場合がある。このときは測定された光学膜厚から物理膜厚を得ることができないので、他の光学膜厚の測定値を用い、また測定する波長範囲を変えるなどして、逆行列が得られるようにする。
また、逆行列が得られても、この逆行列の要素成分の絶対値が大きな値を取るときは、測定された光学膜厚の誤差が拡大し、正確な物理膜厚を得ることができない。このため、逆行列の各要素成分の大きさをチェックし、指定された閾値より小さいかどうかをチェックするようにすると、安定した物理膜厚の測定が可能になる。この閾値は、測定対象や希望する測定精度に依存するが、要素成分の平均値の10倍程度とすればよい。
図4の多層膜の膜厚測定装置では、係数行列演算部32が出力した係数行列の要素成分をチェックする監視部を設け、この監視部で係数行列の要素成分の絶対値をチェックし、閾値以上の要素成分があると表示部34に警告を表示するようにすればよい。
測定対象の多層膜が傾き、また一部の境界面が明瞭でなくなると、反射光が弱くなってパワースペクトルのピークが低くなり、光学膜厚を正確に測定できない場合がある。そのために、パワースペクトルのピークの高さが予め定められた所定値以上のときのみ光学膜厚を出力し、所定値より小さいと無効値を出力するようにする。
物理膜厚を演算するときは、無効値×0は0、無効値×(0以外の数)は無効値とし、無効値と数値の加算は無効値として物理膜厚を演算する。このようにすると、無効値の光学膜厚を用いて演算した物理膜厚は無効値になり、無効値でない光学膜厚のみを用いて演算した物理膜厚は正しい値を演算することができる。
図3(B)からわかるように、波長範囲と層が同じであると屈折率も同じになる。図3(B)あるいは(C)の画面を用いると、屈折率入力の際には同じ値を何回も入力しなければならないので、ある屈折率を入力すると、同じ値になる欄は自動的にコピーするようにする。このようにすることにより、入力ミスを防止することができる。
また、図4では多層膜の一方からのみ光を照射する構成としたが、特許文献1の図1に記載されているように、多層膜の両側から光を照射する構成であってもよい。この場合は、分光データ取得部14で測定した分光スペクトルを用いて、それぞれ光学膜厚を測定する。また、光学膜厚測定部30は必ずしも図4の構成でなくてもよい。要は、多層膜からの反射光を用いて光学膜厚を測定できる構成であればよい。
また、照射する光は必ずしも可視光でなくてもよい。例えば、複数の光源11、分光器13を用い、可視光と赤外線を用いて光学膜厚を測定する構成であってもよい。多層膜に照射する波長の範囲を広くして測定毎に大きく変えると光学膜厚の特徴も変わるので、測定に使用する情報量を増加させることができる。例えば、薄い層は可視光領域の光を用いてできるだけ広い波長範囲を選択すると確実に測定できる場合が多くなり、厚い層は赤外線を用いて高分解能測定を行うとよい。
さらに、可視光、X線、赤外線、放射線などを照射し、測定対象である多層膜による減衰量を検出して膜厚を測定するセンサと組み合わせて、このセンサの出力を疑似光学膜厚とし、多層膜を構成する各層に対するそのセンサの感度比を疑似屈折率にして、前記(13)式から物理膜厚を演算することもできる。このようにすることにより、多層膜中に反射光を測定する方式では検出できない層があっても、全層の物理膜厚を正確に測定することができる。
例えば、透明プラスティックフィルム上にセラミックを塗布した多層膜は、セラミック層が可視光に対して不透明なので、反射光を測定する方式では物理膜厚を測定することができない。
このため、X線を用いて物理膜厚を測定する。X線はセラミック層を透過し、かつその減衰量は物理膜厚に依存するので、物理膜厚を測定することができる。X線はプラスティックフィルムではほとんど減衰しないので、多層膜の減衰量から求めた物理膜厚はほぼセラミック層の物理膜厚に等しいと考えることができる。
しかし、X線はプラスティックフィルムでもわずかに減衰されるので、この方式では正確にセラミック層の物理膜厚を測定することができない。また、プラスティックフィルムの物理膜厚は別に測定しなければならない。
このため、X線の減衰量を疑似光学膜厚とし、セラミック層とプラスティックフィルム層のX線の減衰比を疑似屈折率として、反射光を測定する方式で測定したプラスティックフィルムの光学膜厚と屈折率と共に前記(13)式に代入して物理膜厚を演算すると、プラスティックフィルム層の影響を補正して、全層の正確な物理膜厚を測定することができる。
10 多層膜
11 光源
12 光ファイバ
13 分光器
14 分光データ取得部
15 光学膜厚演算部
16 設定部
20、21、D1〜D3 層
30 光学膜厚測定部
31 屈折率設定部
32 係数行列演算部
33 物理膜厚演算部
34 表示部

Claims (6)

  1. 多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光を検出して、前記多層膜を構成する層の物理膜厚を測定する多層膜の膜厚測定方法において、
    前記多層膜を構成する各層の屈折率を設定する工程と、
    前記設定した屈折率を用いて、光学膜厚から物理膜厚を演算するための係数行列を演算する工程と、
    多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光から光学膜厚を測定する工程と、
    前記測定した光学膜厚と前記係数行列から、前記多層膜の物理膜厚を演算する工程と、
    を具備したことを特徴とする多層膜の膜厚測定方法。
  2. 測定できなかった光学膜厚を無効値とし、この無効値と0との乗算を0、0以外の数値と無効値の乗算を無効値、無効値と数値との加算を無効値として、測定した光学膜厚と前記係数行列から物理膜厚を演算するようにしたことを特徴とする請求項1記載の多層膜の膜厚測定方法。
  3. 多層膜の減衰量から測定した膜厚および前記多層膜を構成する他の層との感度比が入力され、この膜厚および感度比をそれぞれ疑似光学膜厚、および疑似屈折率として、この疑似光学膜厚と疑似屈折率、および多層膜からの反射光から測定した光学膜厚および屈折率から多層膜を構成する各層の物理膜厚を演算するようにしたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載の多層膜の膜厚測定方法。
  4. 多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光を検出して、前記多層膜を構成する層の物理膜厚を測定する多層膜の膜厚測定装置において、
    多層膜に光を照射し、この多層膜からの反射光から光学膜厚を測定する光学膜厚測定部と、
    前記多層膜を構成する各層の屈折率を設定する屈折率設定部と、
    前記屈折率設定部で設定した屈折率が入力され、光学膜厚から物理膜厚を演算するための係数行列を演算する係数行列演算部と、
    前記光学膜厚測定部によって測定された光学膜厚および前記係数行列演算部によって演算された係数行列が入力され、これらの入力値から物理膜厚を演算する物理膜厚演算部と、
    を具備したことを特徴とする多層膜の膜厚測定装置。
  5. 前記係数行列演算部が演算した係数行列の要素成分の絶対値をチェックし、この絶対値が所定の閾値を越えたときに警報を出力する監視部を具備したことを特徴とする請求項4記載の多層膜の膜厚測定装置。
  6. 前記光学膜厚測定部は測定できなかった光学膜厚の値を無効値とし、前記物理膜厚演算部は、物理膜厚を演算する際に、無効値と0との乗算を0、0以外の数値と無効値の乗算を無効値、無効値と数値との加算を無効値として物理膜厚を演算するようにしたことを特徴とする請求項4若しくは請求項5記載の多層膜の膜厚測定装置。
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