JP2011084501A - 環状不飽和化合物の製造方法 - Google Patents

環状不飽和化合物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ラクトン環構造にヘテロ原子を介して水素原子や官能基が結合した構造を有する化合物を製造する新たな方法、及び該製造方法によって得られるエーテル構造等を有する有用な環状不飽和化合物の提供。
【解決手段】γ位に-OCOR(Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される基を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を基質とし、活性水素含有化合物と反応させて下記一般式(1)
Figure 2011084501

(式中、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子等表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表される環状不飽和化合物を生成することを特徴とする環状不飽和化合物の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、環状不飽和化合物の製造方法、及び、それによって得られる環状不飽和化合物に関する。より詳しくは、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を基質として環状不飽和化合物のエーテル体等を製造する方法、及び、それによって得られる化学原料等として有用な環状不飽和化合物のエーテル体等に関する。
環状不飽和化合物は、様々な化学製品に対して環構造と不飽和結合とに由来する構造を付与し、それによる特性を与えることができる原料として有用なものである。例えば、生理活性発現骨格として知られており、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤等の医農薬中間体として期待される他、耐熱性、光学特性、UV硬化性、粘着性等の特性を有する重合体を製造するための単量体として適用されることが期待されるものである。このような単量体から得られる重合体は、電子情報材料、光学材料、レジスト材料、塗料、接着剤、洗剤ビルダー等の各種化学製品の製造原料や医農薬原料に適用できる可能性がある。
このように、環状不飽和化合物は、化学、医農薬等の分野において有用な化合物であるが、中でも、5員環のラクトン環構造とそのα位に不飽和結合を持つα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物は、これらの分野において有用な特性を付与することができる化合物として注目されている。
これまでに開発された環状不飽和化合物を製造する方法、特にα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の製造方法としては、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを触媒の存在下で反応させて環状不飽和化合物を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1等参照。)。
この製造方法においては、例えば、α,β−不飽和カルボン酸としてアクリル酸、不飽和有機化合物としてエチレンを用いる場合、下記反応式によってα−メチレン−γ−ブチロラクトンが生成することが示されている。
Figure 2011084501
このように生成するα−メチレン−γ−ブチロラクトンとしては、α,β−不飽和カルボン酸や不飽和有機化合物を変えれば種々のものが得られることになり、様々な分野において活用されることが期待されているところである。
国際公開第2008/23823号パンフレット(第107−109頁、図1)
上記のように有用なα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の製造方法が開発されているが、一方で、環状不飽和構造に由来する特性に加えて、更に様々な化学製品に対して機能性等を付与するために種々の化学構造を持つものが検討され、工業的に供給されることが期待されている。そのために、環状不飽和化合物の製造方法としてα−メチレン−γ−ブチロラクトンの骨格を持つ化合物の新たな製法が求められるところであった。
そのような環状不飽和化合物の製法の1つとして、ラクトン環構造に酸素原子等のヘテロ原子を介して水素原子や官能基が結合した構造を有する化合物を製造する方法を開発することができれば、新たな製法によってラクトン環構造を有する有用な環状不飽和化合物の種類(バリエーション)を増やすことができる。また、当該製造方法によって得られる環状不飽和化合物は、従来開示されている環状不飽和化合物にはないエーテル構造等を有するものであり、種々の化学製品の原料として期待されるところである。
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、ラクトン環構造にヘテロ原子を介して水素原子や官能基が結合した構造を有する化合物を製造する新たな方法を提供し、また、そのような製造方法によって得られるエーテル構造等を有する有用な環状不飽和化合物を提供することを目的とするものである。
本発明者等は、環状不飽和化合物の新たな製造方法について、ラクトン環構造に酸素原子等のヘテロ原子を介して水素原子や官能基が結合した構造を有する化合物を製造する方法を開発すべく種々検討した。そのような化合物の製造ルートとしては種々考えられるが、反応性や工業的適応性等をも考慮すれば、基質を選択し、製造ルートを特定する必要があることが分かった。すなわち、反応原料となる基質としてα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物においてそのγ位にアセトキシ基を有するものを用いることによって、該γ位部位において反応性を示して活性水素含有化合物と反応し、その結果、活性水素含有化合物の活性水素原子を除く残基が結合した化合物を生成することを見出した。
これによって、例えば活性水素含有化合物が酸素原子を有するアルコールであり、活性水素含有基として水酸基を有する場合、活性水素含有化合物の残基が酸素原子を介してα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に結合した構造を有する、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物にエーテル構造が導入された化学構造を有する化合物を製造することができる。
また活性水素含有化合物が硫黄原子を有し、該硫黄原子に結合する活性水素原子を有するチオールである場合も同様に反応し、ラクトン環構造にこれらのヘテロ原子を介して水素原子や官能基が結合した構造を有する化合物を製造することができる。なお、活性水素含有化合物の活性水素原子が酸素原子又は硫黄原子のいずれに結合する形態であっても、アセトキシ基のメチル基が他の1価有機基となっているα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して反応させることができる。このように本発明においては、活性水素含有化合物における活性水素原子が結合するヘテロ原子として、酸素原子又は硫黄原子が挙げられ、2種の形態のいずれであっても本発明の目的を達成することができる。好ましい形態としては、活性水素含有基が酸素原子と活性水素原子とからなる形態である。
いずれの形態においても、活性水素含有化合物の残基がヘテロ原子に結合した基2個がラクトン環に結合した副生物ができる可能性があり、活性水素原子が結合するヘテロ原子が酸素原子の場合には、アセタール体となる。このような副生物が生じる場合、活性水素含有化合物の使用割合が、活性水素含有化合物の残基がヘテロ原子に結合した目的生成物と上記副生物との比率に影響する場合があり、活性水素含有化合物の使用割合に好ましい範囲があることも見出したものである。
更に、これらの製造方法によって得られるエーテル構造等を有する有用な環状不飽和化合物は、新規化合物であり、環状不飽和構造に由来する特性に加えて、更に様々な化学製品に対して新たな導入された化学構造に基づく機能性等を付与することができる。
このように、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を基質として環状不飽和化合物のエーテル体等を生成する新たな製造方法、及び、それによって得られる化学原料等として有用な環状不飽和化合物のエーテル体等が上記課題をみごと解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを酸触媒存在下に反応させる工程を含む環状不飽和化合物の製造方法であって、上記製造方法は、γ位に-OCOR(Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される基を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を基質とし、活性水素含有化合物と反応させて下記一般式(1);
Figure 2011084501
(式中、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表される環状不飽和化合物を生成する環状不飽和化合物の製造方法である。
本発明はまた、上記環状不飽和化合物の製造方法によって得られる環状不飽和化合物であって、下記一般式(1);
Figure 2011084501
(式中、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表される環状不飽和化合物でもある。
以下に本発明を詳述する。
本発明においては、反応原料として、一方の基質をγ位に-OCOR(Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される基を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物とし、もう一方の基質を活性水素含有化合物とすることとなる。
なお、本発明の環状不飽和化合物の製造方法は、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを酸触媒存在下に反応させる工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。また、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物、活性水素含有化合物及び酸触媒を含む限り、その他の化合物を含んでいてもよい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物としては、下記一般式(2)で表されるものを用いることが好ましい。この化合物においては、5員環であるラクトン環構造中に不飽和結合を有していても有していなくてもよく、下記一般式(2)においては点線でそのことを示している。すなわち、該点線部が点線のない単結合であってもよく、二重線で表される不飽和結合であってもよい。不飽和結合の場合、R及びRが結合して不飽和結合を形成することになる。
Figure 2011084501
式中、上記R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。好ましくは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、又は、芳香族基含有基を表すことである。より好ましくは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数4〜8のシクロアルキル基、フェニル基、ニトロフェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基、又は、ナフチル基を表す。更に好ましくは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、フェニル基、又は、ナフチル基を表す。特に好ましくは、水素原子を表す。
上記R、Rは、結合し、環構造を形成してもよい。
上記R、R及びRとしても、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上60以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基若しくは脂環式不飽和アルキル基、又は、炭素数0以上60以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基や、水酸基、ハロゲン基、イソニトリル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン酸基、カルボニル基(例えば、ケトンやアルデヒド)、アセタール基、オルトエステル基、ケタール基、オニウム塩、複素環式化合物、ヘテロ芳香族化合物若しくはヘテロ元素等を有する原子団を表すことである。より好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上30以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基若しくは脂環式不飽和アルキル基、又は、炭素数0以上30以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基や、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基、アミノ基、アミド基若しくはオニウム塩を有する原子団を表す。更に好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上18以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基若しくは脂環式飽和アルキル基、又は、炭素数0以上18以下のエステル基、カルボン酸基、エーテル基や、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基若しくはアミノ基を有する原子団を表す。特に好ましくは、水素原子を表す。
上記R、R、Rは、結合し、環構造を形成してもよい。また、上述したように、R及びRが結合してラクトン環構造中に不飽和結合を形成してもよい。
α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物としては、これら1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物としては、例えば、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン、γ−プロピオニルオキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン、γ−ベンゾイロキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
上記活性水素含有化合物とは、活性水素含有基を有するものであり、活性水素含有基としては、−OH、−SHが挙げられ、これらの活性水素含有基を有する活性水素含有化合物の1種又は2種以上を用いることができる。これらの活性水素含有化合物を用いて生成する環状不飽和化合物としては、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して、アルコール、水を用いる場合はエーテル構造が導入された化学構造を有する化合物、チオールを用いる場合はチオエーテル構造が導入された化学構造を有する化合物が製造されることになる。
上記したように、本発明においては、活性水素含有化合物における活性水素原子が結合するヘテロ原子として酸素原子又は硫黄原子が挙げられ、2種の形態のいずれであっても上記一般式(1)で表される環状不飽和化合物を製造することができ、本発明の目的を達成することができる。好ましい形態としては、活性水素含有基が酸素原子と活性水素原子とからなる形態であり、特に好ましくはアルコールを用いることである。
上記活性水素含有化合物を化学式で表せば、下記一般式(3)〜(5)のようになる。
Figure 2011084501
式中、上記Y及びYは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。該有機基は、アルキル基、シクロアルキル基、又は、芳香族基含有基であることが好ましい。有機基がアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は、1〜12であることがより好ましく、1〜10であることが更に好ましい。なお、アルキル基の有する水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。有機基がシクロアルキル基である場合、シクロアルキル基の炭素数は、1〜12であることがより好ましく、1〜10であることが更に好ましい。有機基が芳香族基含有基である場合、フェニル基、ニトロフェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基、又は、ナフチル基であることがより好ましい。
式中、上記Rは、炭素数2〜4のアルキル基を表す。好ましくは、炭素数2〜3のアルキル基であり、より好ましくは、炭素数2のアルキル基である。上記Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。好ましくは、炭素数1〜15のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基である。上記nは、式中の−R−O−で表される繰り返し単位の繰り返し数を示し、1〜200の数である。好ましくは、1〜100の数であり、より好ましくは、1〜50の数である。
なお、上記式(5)において、−R−O−で表されるオキシアルキレン基の繰り返し単位は、1種類のオキシアルキレン基であってもよく、2種類以上のオキシアルキレン基を含んでいてもよく、2種類以上のオキシアルキレン基が含まれる場合、その付加形態は、ブロック構造で付加していてもよく、ランダム構造で付加していてもよく、又は、交互付加していてもよい。
上記一般式(3)〜(5)で表される活性水素含有化合物は、1種を用いても2種以上を用いてもよく、2種以上を用いる場合には、上記Y及びYは、同一又は異なって、上記有機基を表すことになる。
上記一般式(3)〜(5)で表される活性水素含有化合物の好ましい形態を例示すれば、炭素数1〜12のアルコール、炭素数1〜12のアルキルチオール、水等が挙げられる。それらの中でも、より好ましくは、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール、2−クロロエタノール、ブタンチオールである。更に好ましくは、メタノール、シクロヘキサノール、1−ブタノール、イソプロパノール、1−オクタノール、2−クロロエタノール、ブタンチオールであり、特に好ましくは、メタノール、1−ブタノール、1−オクタノールである。
上記活性水素含有化合物の使用量としては、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して1〜20当量であることが好ましい。活性水素含有化合物の使用量がこのような範囲である場合、生成物としてラクトン環の開環した形態等の副生成物の生成を抑えることが可能となる。すなわち、本発明の環状不飽和化合物の製造方法において、活性水素含有化合物の使用量をα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して1〜20当量とすることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。活性水素含有化合物の使用量としてより好ましくは、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して1〜10当量であり、更に好ましくは、1〜5当量であり、特に好ましくは、2〜5当量である。
上記環状不飽和化合物の製造方法において用いられる酸触媒は、ルイス酸でもよいし、ブレンステッド酸でもよく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸鉄六水和物、過塩素酸亜鉛六水和物、過塩素酸マグネシウム、塩化すず等が好適に挙げられる。これらの中でも、塩酸、過塩素酸鉄六水和物、塩化すずがより好ましく、更に好ましくは、塩酸、過塩素酸鉄六水和物である。
上記酸触媒の使用量としては、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して0.01〜3当量であることが好ましい。酸触媒の使用量がこのような範囲である場合、生成物としてラクトン環の開裂した形態等の副生成物の生成を抑えることが可能となる。酸触媒の使用量としてより好ましくは、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して0.01〜1当量であり、更に好ましくは、0.05〜1当量であり、特に好ましくは、0.05〜0.7当量である。
本発明の製造方法は、有機溶媒中で行われてもよいし、無溶媒で行われてもよい。
これらのなかでも、有機溶媒中で行われることが好ましく、用いられる有機溶媒としては、エーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒としては、具体的には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンが好適に挙げられる。
なお、上記無溶媒で行うとは、後述するような溶媒として用いられる化合物が、反応系中に存在しない中で反応を行うことをいう。本発明においては、溶媒として用いられる化合物が反応系中に存在しないとは、反応系中に全く存在しない場合だけでなく、実質的に存在しないといえる量、すなわち、反応系中に存在するとしても、存在量が少なく、それだけでは反応系中で必要とされる溶媒としての機能を充分に果たすことができない量である場合も含む。
上記有機溶媒は、1種類を用いてもよく、2種類以上を適宜混合して混合溶媒として用いてもよく、その種類及び使用量は、基質や酸触媒に応じて適宜設定することができる。
上記有機溶媒の好ましい使用量は、基質や有機溶媒、酸触媒を合わせた反応時に必要となる全質量の0〜2000質量%であることが好ましく、より好ましくは、0〜1000質量%である。
本発明の環状不飽和化合物の製造方法において、上述した反応工程における反応条件としては、例えば、反応温度は、20〜120℃であることが好ましく、より好ましくは、20〜100℃であり、更に好ましくは、20〜80℃である。反応時間は、1〜60時間であることが好ましく、より好ましくは、1〜50時間であり、更に好ましくは、3〜50時間である。
本発明の環状不飽和化合物の製造方法によって製造された環状不飽和化合物に更にアルキレンオキサイドを反応させてラクトン環の側鎖にオキシアルキレン基が付加した化合物を製造することができる。例えば、上記一般式(1)で表され、式中のXが酸素原子である環状不飽和化合物にエチレンオキサイドを反応させた場合には、下記一般式(6);
Figure 2011084501
(式中、R、R、R、R、R、及び、Yは、上述したものと同様である。nは、重合度を表し、1以上の自然数である。)で表される化合物が得られることになる。
本発明の製造方法において用いられるα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物は、上述したものを用いることができ、その合成方法は特に制限されないが、例えば、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物との触媒存在下における反応によって合成することができる。すなわち、本発明の製造方法において、下記一般式(2);
Figure 2011084501
(式中、R、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物との触媒存在下における反応によって生成するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を基質として用いることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物との触媒存在下における反応によってα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を製造する方法については、後述する。
本発明の製造方法によって製造される環状不飽和化合物は、下記一般式(1);
Figure 2011084501
(式中、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表される環状不飽和化合物であり、このような本発明の製造方法によって得られる上記一般式(1)で表される環状不飽和化合物もまた、本発明の1つである。
上記環状不飽和化合物としては、例えば、該化合物にポリアルキレングリコール等を付加させることによって、そのような化合物を重合してポリマーを合成すると、該ポリマーに親水性等の機能を付与することができることが期待される。そして、そのような親水性等の機能の付与されたポリマーは、例えば、分散剤としての効果を奏することが期待される。
上記一般式(1)で表される環状不飽和化合物の中には、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを酸触媒存在下に反応させる製造方法によってはじめて生成が確認された化合物が含まれる。そのような化合物は、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物としてγ位にアセトキシ基を有する化合物、活性水素含有化合物として、炭素数1〜12のアルコール、炭素数1〜12のアルキルチオール及び水からなる群より選択される少なくとも1種を用いて得られるものであって、下記一般式(7);
Figure 2011084501
(式中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表される構造を有する環状不飽和化合物に該当するものである。
このような、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを酸触媒存在下に反応させることによって得られる環状不飽和化合物であって、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物は、γ位にアセトキシ基を有し、上記活性水素含有化合物は、炭素数1〜12のアルコール、炭素数1〜12のアルキルチオール及び水からなる群より選択される少なくとも1種であり、上記環状不飽和化合物は、下記一般式(7);
Figure 2011084501
(式中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表される環状不飽和化合物もまた本発明の1つである。
本発明の製造方法においては、反応基質であるα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対する環状不飽和化合物の収率の値は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましい。このような値とすることにより、本発明の環状不飽和化合物の製造方法に好適となる。特に好ましくは、50%以上である。
本発明の製造方法において、環状不飽和化合物(A)の収率と非環状不飽和化合物(B)の収率の割合(A/B)、つまり選択率の値は、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が特に好ましい。このような値とすることにより、本発明の環状不飽和化合物の製造方法に好適となる。
なお、上記収率は、例えばガスクロマトグラフィーを用いることにより測定することができる。ガスクロマトグラフィーを用いる分析は、例えば下記装置及びカラムを用いて行うことができる。
装置名:島津製作所社製 GC−2014(商品名)、又は、アジレント・テクノロジー社製 6890N(商品名)
カラム:ジーエルサイエンス社製 TC−WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μm、又は、ジーエルサイエンス社製 InertCap Pure WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μm
以下においては、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とを触媒存在下に反応させてα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を製造する、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法について述べる。
上記α,β−不飽和カルボン酸及び不飽和有機化合物は、それらを触媒存在下に反応させることによって、本発明において用いられるγ位に-OCOR(Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される基を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物が合成されることとなるよう選択することができる。
上記不飽和有機化合物としては、下記一般式(8)で表されるものを用いることができる。式中、R、R、R及びRは、上述したものと同様である。
Figure 2011084501
上記不飽和有機化合物としては、これらの中でも、上記式(8)中、R、R及びRが、水素原子であり、Rが、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、パーフルオロアルキル基又は芳香族基含有基であることが好ましい。R、R及びRが、水素原子であり、Rが、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であることがより好ましく、R、R及びRが、水素原子であり、Rが、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが更に好ましい。R、R及びRが、水素原子であり、Rが、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であることが特に好ましい。
上記Rとしては、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。中でも、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましく、より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基であり、更に好ましくは、メチル基である。
上記不飽和有機化合物として最も好ましくは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルである。
上記α,β−不飽和カルボン酸は、下記一般式(9)で表されるものを用いることができる。式中、R及びRは、上述したものと同様である。
Figure 2011084501
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の製造においては、溶媒を用いて行ってもよいし、無溶媒系で行ってもよい。
ここで、無溶媒系で行うとは、α,β−不飽和カルボン酸、不飽和有機化合物のいずれにも該当せず、後述するような溶媒として用いられる化合物が、反応系中に存在しない中で反応を行うことをいう。したがって、α,β−不飽和カルボン酸、不飽和有機化合物のいずれにも該当せず、溶媒として用いられる化合物が反応系中に存在しない限り、α,β−不飽和カルボン酸、不飽和有機化合物が反応系中で溶媒としての作用を発揮し得るとしても、無溶媒での反応となる。
なお、本発明において、α,β−不飽和カルボン酸、不飽和有機化合物のいずれにも該当せず、溶媒として用いられる化合物が反応系中に存在しないとは、反応系中に全く存在しない場合だけでなく、実質的に存在しないといえる量、すなわち、反応系中に存在するとしても、存在量が少なく、それだけでは反応系中で必要とされる溶媒としての機能を充分に果たすことができない量である場合も含む。
上記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、アニソール、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、メシチレン、プソイドクメン、トリフルオロトルエン等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸t−ブチル、アセトキシエトキシエタン、プロピオン酸エチル、ギ酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−ブチロラクトン類、α−ビニル−γ−ブチロラクトン類、マレイン酸ジメチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、フェニル酢酸メチル、酢酸ベンジル等のエステル基含有化合物;シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル基含有化合物;炭素数3〜10のカーボネート基含有化合物であって、カーボネート基の両端に同一若しくは異なる炭素数1〜4のアルキル基を有するカーボネート基含有化合物;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸、等のカルボン酸系化合物;等が挙げられる。
これらのうち、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよく、その種類及び使用量は、基質や触媒等に応じて適宜設定することができる。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法において用いられる触媒は、特に制限されるものではなく、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とからの環状不飽和化合物の製造に一般に用いられるものを用いることができる。
上記触媒とは、反応の活性化エネルギーを低くする作用を持つ物質で、基質と短寿命の中間体を形成することにより新しい反応経路を可能にし、反応速度を増大させる物質である。また、触媒の1種に助触媒といわれるものがある。助触媒とは、それ自体では直接に基質と中間体を形成して生成物を生成することは無いが、中間体を形成して反応物を得ることが出来る(主)触媒と同時に使用することで、単独で反応することが出来る(主)触媒の効果を著しく促進することが出来る触媒のことを言う。本明細書中では、単に触媒と記載した場合には、主触媒を指し、助触媒は含まれない。また、触媒は基質よりも相対的に少量である方が好ましいが、基質と当量若しくはそれ以上加えて反応させ、反応後に回収した後、2回目以降の反応にも使用することができる場合にも、ここでは触媒と呼ぶ。助触媒についても同様であり、助触媒は基質よりも相対的に少量である方が好ましいが、基質と当量若しくはそれ以上加えて反応させ、反応後に回収した後、2回目以降の反応にも使用することができる場合にも、ここでは助触媒と呼ぶ。このとき、1回目の反応終了後に触媒活性を戻すために処理を施しても良いし、施さなくても良い。
上記触媒により、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法におけるα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の収率及び選択率をより高いものとすることができる。
上記触媒は、第8〜12族元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を必須とするものであることが好ましい。上記元素は1種若しくは2種以上を使用することができる。更に好ましくは、第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を必須とするものであることである。
上記第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物としては、特に限定されないが、例えば、ニッケルを含む化合物、パラジウムを含む化合物、白金を含む化合物が挙げられる。その中でも、本発明に用いるものとしては、パラジウムを含む化合物が特に好ましい。すなわち、上記第8〜12族元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素は、パラジウムであることが特に好ましい。
上記パラジウムを含む化合物としては、例えば、2価パラジウム化合物が好ましく、中でも、酢酸パラジウムやトリフルオロ酢酸パラジウム等に代表されるパラジウムカルボキシラート、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、水酸化パラジウム、炭酸パラジウム、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムテトラフルオロボレート等に代表されるカチオン性パラジウム、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム等に代表される酸素配位性有機基を有するパラジウム、ビス(アセトニトリル)塩化パラジウム、ビス(ベンゾニトリル)塩化パラジウム、ジクロロ(オクタジエン)パラジウム等に代表される不飽和結合含有有機基を有するパラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、窒素原子含有有機化合物が配位したパラジウム、リン原子含有有機化合物が配位したパラジウム、カルベン含有有機化合物が配位したパラジウム、ニトロ基及び/又はニトロソ基が配位したパラジウム、酸化パラジウム等に代表される2価のパラジウムが好ましい。その他、[Pd(CO)(OCOCH]・2CHCOOHに代表される1価のパラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウム黒等に代表される0価のパラジウムでもよく、3価若しくは4価のパラジウムでもよい。0価のパラジウムを使用した場合には、反応系中で酸化状態のパラジウムを形成することになる。上記パラジウムを含む化合物の中でも、酢酸パラジウムやトリフルオロ酢酸パラジウム等に代表されるカルボキシラート系錯体、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムテトラフルオロボレート等に代表されるカチオン性パラジウム(カチオン性錯体)、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム等に代表される酸素配位性有機基を有するパラジウム(アセチルアセトナート系錯体ともいう)、ジクロロ(オクタジエン)パラジウム等に代表される不飽和結合含有有機基を有するパラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、[Pd(CO)(OCOCH]・2CHCOOHが特に好ましい。中でも、カルボキシラート系錯体、アセチルアセトナート系錯体、及びカチオン性錯体が更に好ましい。言い換えれば、カルボキシラート系錯体、アセチルアセトナート系錯体及びカチオン性錯体からなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。これらの中でも、トリフルオロ酢酸パラジウム、酢酸パラジウムが特に好ましい。
錯体の配位子を選択することにより、酸化還元電位やパラジウムの電子状態及び電子軌道エネルギー準位を任意に調整することができ、反応に適した触媒を設計することができる。パラジウムが配位子を有する場合には、該配位子は単座配位子でもよいし、二座以上の多座配位子でもよい。光学活性な配位子を有するパラジウムを触媒に用いた場合には、β位及び/又はγ位に光学活性点を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン類を合成することが可能である。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法における上記触媒は、均一系触媒、不均一系触媒に拘わらず、単核化合物でもよいし、2核以上の化合物であってもよく、予め合成することにより得られた単核化合物や2核以上の化合物を触媒として用いるものであってもよいが、反応開始時には触媒が単核化合物や2核以上の化合物を含まないで、反応中に単核化合物や2核以上の化合物が生成して、それらが触媒として作用するものであってもよい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法において、反応工程内における触媒中にしめる金属元素の使用量が、α,β−不飽和カルボン酸に対して、50mol%以下であることが好ましい。更に好ましくは、15mol%以下である。特に好ましくは、5mol%以下である。また、1×10−8mol%以上であることが好ましい。更に好ましくは、5×10−6mol%以上であり、特に好ましくは、1×10−4mol%以上である。
上記触媒中にしめる金属元素の使用量が、50mol%を超えると、触媒1分子当たりにおける原料から目的物を得ることができる触媒サイクルの回転数(TON)を充分に向上できないこと等から目的物の収率が向上せず、反応不活性な触媒凝集体が析出することがあることから経済的に不利となる場合がある。1×10−8mol%未満であると、触媒の量が少ないことから、反応が充分に進行しなくなるおそれがある。
上記触媒の濃度、すなわち反応させる液相中における上記触媒中にしめる金属元素の濃度は、好ましくは、1×10−8M以上、1M以下であり、更に好ましくは、1×10−6M以上、2×10−1M以下である。特に好ましくは、5×10−6M以上、1×10−1M以下である。これにより、目的物の収率を更に向上させることが可能である。
なお、上記触媒中にしめる金属元素の使用量、濃度は、単独で触媒反応を示す主触媒、すなわちパラジウム触媒の使用量、濃度であり、触媒反応を補助的に強化する助触媒(例えば、銅種)を含んだ使用量、濃度ではない。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法は、再酸化剤を用いて触媒を再酸化する工程を含むものであることが好ましい。上述したように触媒としてパラジウム触媒を用いる場合は、再酸化剤を用いてパラジウム触媒を再酸化する工程を含むことが本発明の好ましい形態である。
上記再酸化とは、反応系中、若しくは、反応後において、触媒の還元された成分を、還元される前、若しくは、それに近い酸化状態に酸化することを意味する。つまり、触媒活性種であるパラジウム触媒が、反応工程において還元されて酸化数が低くなったものを、再び高い酸化数に酸化することを意味する。例えば、1価以上、4価以下のパラジウム種、又は、ややプラス電荷を帯びたパラジウム種が、反応工程において還元されてそれよりも低い価数になったものを、再び元の状態や価数、若しくは、それに近い価数や状態に酸化することを意味する。
上記再酸化剤とは、触媒の再酸化を行う酸化剤を意味するが、反応機構上、触媒が低酸化数や低酸化状態に落ちることなく、高酸化数や高酸化状態を保持して反応が進行する経路も考えられ、上記高酸化数や高酸化状態を保持する役目を担う剤も、ここでは再酸化剤という。また、上記「触媒の再酸化を行う酸化剤」とは、触媒を酸化したり触媒の高酸化数や高酸化状態を保持する酸化剤に加えて、助触媒を用いる場合には、酸化剤が助触媒を酸化したり助触媒の高酸化数や高酸化状態を保持し、当該助触媒が触媒を酸化したり触媒の高酸化数や高酸化状態を保持するような酸化剤も含むものである。
上記再酸化剤としては、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではなく、有機系再酸化剤及び/又は無機系再酸化剤のいずれも使用することができ、1種又は2種以上使用することができる。有機系再酸化剤とは、金属元素や半金属元素を含まず、主に炭素からなる酸化剤を指し、無機系再酸化剤とは、炭素以外の元素からなる酸化剤を指す。有機配位子を含有する金属化合物や半金属化合物は、ここでは無機系再酸化剤に分類する。中でも、キノン類、過酸化物、酸素、酸化物、亜硝酸エステル類、鉱酸、一酸化窒素、一酸化二窒素等が好ましい。より好ましくは、ベンゾキノン、アントラキノン、2−(シクロヘキシルスルフィニル)−ベンゾキノン、2−(フェニルスルフィニル)−ベンゾキノン、過酸化水素、過酸化水素水、過酢酸、酸素存在下で過酸化物を発生し得るイソブチルアルデヒド等のアルデヒド類、クメンハイドロパーオキシド、エチルベンゼンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド、ヨードシルベンゼン、過ヨウ素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、オキソン、分子状酸素(O)、原子状酸素、オゾン、酸化ルテニウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化セレン、酸化テルル、ポリオキソメタレート、酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトナート等のバナジウム含有化合物、二酸化マンガン、酢酸マンガン等のマンガン含有化合物、亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸ブチル、亜硝酸t−ブチル、塩酸、硝酸、硫酸、一酸化窒素等が好ましい。キノン類は、系中で発生させてもよく、ヒドロキノン類を前駆体として使用することも可能である。遷移金属含有化合物を使用する場合は、反応系中で単独に存在してもよいし、触媒と2核以上の化合物を形成してもよい。上記再酸化剤は、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。
上記分子状酸素は、圧力調整や気相部組成の管理目的、重合禁止剤としても用いることが可能である。
本明細書中、分子状酸素を酸素ともいう。
上記再酸化剤の少なくとも一つは、酸素であることが特に好ましい。すなわち、上記再酸化剤は、酸素を必須成分とすることが特に好ましい。上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法が再酸化剤として少なくとも酸素を用いて触媒を再酸化する工程を含むα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一つである。すなわち、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法が分子状酸素を必須とする再酸化剤を用いて触媒を再酸化する工程を含む形態は、本発明の好ましい実施形態の一つである。中でも、再酸化剤が実質的に酸素だけからなる形態が本発明の特に好ましい実施形態である。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法は、再酸化剤を用いて触媒を再酸化する工程を含むものとすることにより、触媒が好適に再酸化されることで触媒の酸化・還元のサイクルが効率的に行われたり、触媒が高酸化状態で保持されたりすることになり、非環状不飽和化合物の生成を充分に抑制しながら目的物である環状不飽和化合物の収率を高めることができ、工業的製造に適用する際に有用なものとなる。例えば、上記再酸化工程の好ましい形態としては、再酸化剤を用いてパラジウム触媒を再酸化する形態が挙げられる。
上記再酸化は、反応系中で行われるものであってもよいし、反応終了後に再酸化処理を施すものであってもよい。
上記有機系再酸化剤を用いて触媒を再酸化する場合であっても、無機系再酸化剤を用いて触媒を再酸化する場合であっても、回分式、半回分式、流通式(固定床・流動床)、高速ジェットを利用したループリアクター等のような拡散律速反応に適した反応形式等いずれの反応様式においても、反応工程内における再酸化剤の使用量が、α,β−不飽和カルボン酸に対して1×10mol%以下であることが好ましい。更に好ましくは、2.5×10mol%以下であり、特に好ましくは、1×10mol%以下である。また、α,β−不飽和カルボン酸に対して、1×10−3mol%以上であることが好ましい。更に好ましくは、1mol%以上であり、特に好ましくは、5mol%以上である。α,β−不飽和カルボン酸に対して、1×10mol%を超えたり、1×10−3mol%未満となると、本発明の製造方法の目的物である環状不飽和化合物の収率や選択率が低くなるおそれがある。反応の進行状況により、反応中に再酸化剤を適宜加えてもよい。
上記有機系再酸化剤は、金属元素や半金属元素を含まず、主に炭素から構成される酸化剤であれば特に限定されず、一般に使用されるものを適宜用いることができる。
上記有機系再酸化剤を用いる場合は、有機系再酸化剤の一つが、ベンゾキノン類及び/又は過酸化物類であることが好ましい。
ベンゾキノン類とすると、それが触媒と相互作用し、環状不飽和化合物の選択率を更に高める効果も発現し得る。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法は、分子状酸素の存在下で反応を行うものであることが好ましい。分子状酸素は、酸化剤として作用するものであるため、触媒や基質が存在するいわゆる反応場に存在することが好ましい。すなわち、分子状酸素が酸化剤として作用することになるように、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物とから環状不飽和化合物が得られる反応が起こる場に分子状酸素が存在するようにすることが好ましい。酸化剤としての作用は、触媒に対する再酸化剤としての作用となる。したがって、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法においては、分子状酸素が実質的かつ主体的に触媒に対する再酸化剤として作用することになるように分子状酸素を反応場に存在させて反応を行うことになる。このように反応場に酸素を存在させることにより、環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとし、簡便でかつ効率のよいものとしたうえで、特に触媒効率及び選択率等の点で優れるα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の製造方法とすることができる。なお、分子状酸素は、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の製造方法にいう助触媒には該当しない。
上記のことから、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法における好ましい形態としては、分子状酸素を用いて酸化する工程を含む形態である。
上述したように、本発明における酸化とは、反応工程において還元されたパラジウム触媒を、分子状酸素を再酸化剤として用いて再酸化すること、つまり、反応系中又は反応後において、触媒の還元された成分を、還元される前又はそれに近い酸化状態に酸化することであることが好ましい。例えば、触媒活性種であるパラジウム原子が、反応工程において還元されて酸化数が低くなったものを、再び高い酸化数に酸化することを意味する。例えば、1価以上、4価以下のパラジウム種、又は、ややプラス電荷を帯びたパラジウム種が、反応工程において還元されてそれよりも低い価数になったものを、再び元の状態や価数、若しくは、それに近い価数や状態に酸化することを意味する。これにより、反応において還元され、失活したパラジウム触媒が、反応前と同等又はそれに近い状態に戻ることになる。
触媒が好適に再酸化されることで触媒の酸化・還元のサイクルが効率的に行われたり、触媒が高酸化状態で保持されたりすることになり、非環状不飽和化合物の生成を充分に抑制しながら目的物である環状不飽和化合物の収率を高めることができ、工業的製造に適用する際に有用なものとなる。例えば、上記再酸化工程の好ましい形態としては、分子状酸素を用いてパラジウム触媒を再酸化する形態が挙げられる。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法は、反応させる液相部に接触する気相部の分子状酸素分圧が0.0001MPa以上となるようにして酸化する工程を含むものであることが好ましい。より好ましくは、0.001MPa以上であり、更に好ましくは、0.005MPa以上である。このような条件下で反応させることにより、触媒サイクルの回転数が増大し、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を製造するに際し、反応速度や収率、触媒効率及び選択率等を優れたものとすることができる。上記分子状酸素分圧の上限は、反応装置の耐圧性向上のために費用がかかるなど経済的に不利になることから、10MPa以下であることが好ましい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法は、上述したように再酸化剤として実質的に分子状酸素だけを用いる形態であることが好ましいが、本発明の効果が充分に発揮される限り、分子状酸素以外の再酸化剤の存在下で反応を行うものであってもよい。
上記分子状酸素以外の再酸化剤としては、反応に悪影響を及ぼさないものが好適であり、有機系再酸化剤及び/又は無機系再酸化剤のいずれも使用することができ、1種又は2種以上使用することができる。上記再酸化剤は、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法においてはまた、助触媒を用いて反応させる形態によって、環状不飽和化合物を製造するに際し、反応速度や収率を良好なものとしたうえで、触媒効率及び選択率等の点で優れるものとすることができる。すなわち、本発明の製造方法は、助触媒を用いて反応させるものであることが好ましい。
上記助触媒とは、上述したようにそれ自体では直接に基質と中間体を形成することは無いが、(主)触媒と同時に使用することで、(主)触媒の効果を著しく促進することが出来る触媒のことを言い、下記に例示されるようなものであることが好ましい。これら助触媒は、反応に関与するが、反応した後は元の価数に戻るとされるものである。再酸化工程を円滑にする機能とは、触媒が再酸化する際に酸化還元機構の一部に組み込まれて自ら酸化還元し、それにより酸化還元機構において触媒がより再酸化されやすくする機能をいう。助触媒は、無機物でもよいし有機物であってもよく、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、また、反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。なお、このような助触媒は、反応系中で単独に存在してもよいし、主成分となる触媒や他の触媒成分と2核以上の化合物や合金等を形成してもよい。
このような触媒の再酸化工程をより円滑にすることができる助触媒としては、後述する助触媒が好適である。再酸化は、反応系中で行われるものであってもよいし、反応終了後に再酸化処理を施すものであってもよい。助触媒を含む化合物1種類以上を、系中若しくは触媒に共存させることが好ましい。この時、上記化合物は、反応系中で単独に存在してもよいし、主成分となる触媒や他の触媒成分と2核以上の化合物や合金等を形成してもよい。
上記助触媒となる化合物の好ましい形態としては、上述した再酸化剤の好ましい形態と同様である。助触媒を用いることにより、再酸化剤として実質的に分子状酸素だけを用いる形態で、環状不飽和化合物を効率よく製造することができ、コスト面、環境面等において有利となる。中でも、本発明の製造方法のカルボン酸系溶媒を用いる反応系で行われる形態において、上記製造方法は、助触媒の存在下で反応させる工程を含むものであることが特に好ましい。
上記助触媒としては、例えば、バナジウム、モリブデン、鉄、ルテニウム、コバルト、マンガン、銅、銀、金、ホウ素、アルミニウム、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
これら助触媒は、系中に存在させてもよく、触媒に共存させてもよい。この時、上記元素含有化合物は、反応系中で単独に存在してもよいし、触媒と2核以上の化合物や合金等を形成してもよい。助触媒は実施する反応条件に即して適宜選択することができ、無機物でもよいし有機物を含んでいてもよい。より好ましくは、バナジウム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、銅、銀、金、アンチモン、ビスマス、セレン及びテルルからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物である。上記化合物の形態としては、酸化物、ポリオキソメタレート化合物、水酸化物、ハロゲン化物(フッ化物)、合金化合物、有機基含有化合物、塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられ、より好ましくは、酸化物、ポリオキソメタレート化合物、ハロゲン化物、合金化合物、有機基含有化合物、塩である。すなわち、上記化合物の形態としては、酸化物、ポリオキソメタレート化合物、ハロゲン化物、合金化合物、有機基含有化合物及び塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることがより好ましい。ポリオキソメタレート化合物は、構成元素の選択やカウンターカチオンの選択により、一方、有機基含有化合物は、配位子の選択により、酸化還元電位や元素の電子状態及び電子軌道エネルギー準位を任意に調整することができる。中でも、銅を含む化合物であることがより好ましい。また、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化アンチモン、酸化ビスマス、二酸化セレン、二酸化テルル、ポリオキソメタレート系化合物等の酸化物の他、カルボキシラート類、アセチルアセトナート類、窒素含有有機化合物類、リン含有有機化合物類、不飽和有機化合物類、カルベン類、ハロゲン(フッ素)等を配位子として有する配位金属化合物が好ましい。より好ましくは、カルボキシラート類、アセチルアセトナート類、窒素含有有機化合物類、不飽和有機化合物類、ハロゲンを配位子として有する配位金属化合物であり、更に好ましくは、カルボキシラート類、アセチルアセトナート類、窒素含有有機化合物類、不飽和有機化合物類、ハロゲンを配位子として有する銅化合物である。これらの中でも、トリフルオロ酢酸銅、酢酸銅が特に好ましい。このような化合物を用いることにより、触媒の再酸化工程が円滑になり、上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法をより効率のよいものとすることができる。助触媒が配位子を有する場合には、該配位子は単座配位子でもよいし、二座以上の多座配位子でもよい。光学活性な配位子を有する化合物を用いた場合には、配位子交換を通じて、β位及び/又はγ位に光学活性点を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン類を合成することが可能である。上記助触媒は、反応系中で単独に存在してもよいし、触媒と2核以上の化合物や合金を形成してもよい。上記再酸化剤は、実施する反応条件に即して適宜選択することができ、1種又は2種以上を使用することができる。反応開始時に一括で添加してもよいし、反応中に適宜添加してもよい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法において、反応工程内における助触媒中にしめる金属元素の使用量が、α,β−不飽和カルボン酸に対して、1×10−7mol%以上、500mol%以下が好ましい。上限は150mol%以下であることがより好ましい。特に好ましくは、50mol%以下である。また、下限は5×10−4mol%以上であることがより好ましい。特に好ましくは、1×10−3mol%以上である。助触媒中にしめる金属元素の使用量が、500mol%を超えると、目的物の収率が特に向上しないことから経済的に不利となる場合がある。1×10−7mol%未満であると、助触媒の量が少ないことから、反応が充分に進行しなくなるおそれがある。
なお、上記助触媒中にしめる金属元素の使用量は、触媒反応を補助的に強化する助触媒(例えば、銅種)の使用量であり、単独で触媒反応を示す主触媒を含んだ使用量ではない。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法の好ましい形態としては、例えば、触媒としての酢酸パラジウム又はトリフルオロ酢酸パラジウムに加えて、助触媒として酢酸銅又はトリフルオロ酢酸銅を用いる形態が挙げられる。
上記助触媒(例えば、銅種)が再酸化工程を円滑にする機能を有する場合は、触媒活性種が再酸化されやすくなる。助触媒が触媒と2核以上の錯体(例えば、パラジウム−銅錯体)を形成して酸化数の高い状態が維持される場合等には、触媒活性種が失活しないことになる。いずれの場合も、触媒が失活した凝集粒子になることが充分に抑制され、酸化・還元のサイクルや、高酸化数触媒活性種の維持が効率的に起こることになる。同時に、Wacker型反応では再酸化を効率的に行うために、触媒や系中に塩酸を導入することが知られているが、上記酸化方法はこのような化合物を特に使用することなく、上記再酸化が進行するため、腐食、生成物の異性化、塩素化合物含有副生物、環境汚染等の問題も回避できることになる。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法は、α,β−不飽和カルボン酸の不飽和結合部位が金属−炭素結合へ挿入する工程を含むものであることが好ましい。
不飽和有機化合物がパラジウム等の触媒に配位した後、α,β−不飽和カルボン酸(イオン)が不飽和有機化合物の不飽和結合を求核的に攻撃して結合し、続いてα,β−不飽和カルボン酸の不飽和結合が、生成した金属(例えば、パラジウム)−炭素結合に挿入反応を起こし、β−ヒドリド脱離を経て目的の環状不飽和化合物を与えることになる。
このような製造方法により、環化反応を効率的に進行させることができ、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の収率を更に高めることができる。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法において、上述した反応工程における反応条件としては、例えば、反応温度は、0℃以上が好ましく、また、300℃以下が好ましい。より好ましくは、20℃以上、200℃以下である。更に好ましくは、50℃以上、170℃以下である。反応時間は、1時間以上が好ましく、また、96時間以下が好ましい。より好ましくは、2時間以上、90時間以下である。更に好ましくは、4時間以上、60時間以下である。
また、反応初期の反応釜内の圧力としては、常圧以上、ゲージ圧25MPa以下が好ましい。上限は、20MPaがより好ましく、18MPaが更に好ましい。
圧力調整や気相部組成の管理が必要な場合には、それに使用する気体としては、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えば窒素、酸素、空気、酸素/窒素標準ガス、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等が好ましい。上記気体は、1種を用いてもよく、また、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法においては、反応基質であるα,β−不飽和カルボン酸に対するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の収率の値は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましい。このような値とすることにより、本発明の環状不飽和化合物の製造方法に好適となる。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法において、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物(A)の収率と副生する非環状不飽和化合物(B)の収率の割合(A/B)、つまり選択率の値は、2以上が好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が特に好ましい。このような値とすることにより、本発明の環状不飽和化合物の製造方法に好適となる。
なお、上記選択率は、上述した環状不飽和化合物の収率と同様の方法により測定することができる。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法においては、反応を更に促進させることを目的として、また触媒活性の向上及び安定化を目的として、添加剤を反応液に添加しても良い。添加剤としては、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えばブレンステッド酸、ルイス酸、第15族元素含有化合物、第16族元素含有化合物、第17族元素含有化合物、不飽和結合含有有機化合物、塩等が好ましい。
上記α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物の好適な製造方法において、α,β−不飽和カルボン酸、及び、目的物である環状不飽和化合物は、共に重合し易い性質を有している場合があることから、反応時の重合を抑制するために、反応系に重合防止剤(又は重合禁止剤)を添加することが好ましい。
上記重合防止剤としては、重合防止剤としての作用を有するものであればよく、例えば、分子状酸素、分子状酸素含有気体、空気、一酸化窒素等の不対電子を持つ気体;ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、2,4−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,4−ジメチルヒドロキノン等のキノン類;フェノチアジン等のアミン化合物;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、p−メトキシフェノール等のフェノール類;p−t−ブチルカテコール等の置換カテコール類;置換レゾルシン類;テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−ヒドロキシ−テトラメチルピペリジン−N−オキシド等の安定遊離基含有化合物;ジチオカルバミン酸銅等の金属含有化合物等の1種又は2種以上を好適に用いることができる。
反応終了後は、必要に応じて、蒸留、ろ過、抽出、遠心分離、再結晶、乾燥、カラムクロマトグラフィー等の工程を経て分離・精製することにより、目的の環状不飽和化合物を得ることができる。このような分離・精製工程としては、例えば、反応後の反応液、抽出や活性炭等の多孔質固体により触媒を分離後の反応液、分液等の所定の操作を行った抽出液等を、常圧蒸留(精留)、減圧蒸留(精留)、再結晶等を行うことにより、生成物である環状不飽和化合物を単離・精製することができる。
本発明の環状不飽和化合物の製造方法は、上述の構成よりなり、特定の構造を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを原料として用いて環状不飽和化合物を製造するに際し、反応が良好に進行し、収率や選択率の点で優れる、有用な環状不飽和化合物の製造方法である。
図1は、実施例1で得られる化合物のH−NMRスペクトルデータとその結果を帰属させた図である。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「mol%」を意味するものとする。
以下の合成例、実施例及び参考例におけるガスクロマトグラフィーでの分析は、下記装置及びカラムを用いて行った。
装置名:島津製作所社製 GC−2014(商品名)、又は、アジレント・テクノロジー社製 6890N(商品名)
カラム:ジーエルサイエンス社製 TC−WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μm、又は、ジーエルサイエンス社製 InertCap Pure WAX(商品名) 内径0.25mm 長さ30m 膜厚0.25μm
合成例1
(γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン)
オートクレーブに、アクリル酸 0.21mol、トリフルオロ酢酸パラジウム 3mmol、酢酸銅一水和物 13mmol、酢酸ビニル 1.3mol、トルエン 625mLを加えた。気相部は0.21MPaとし、90℃で1時間攪拌した。冷却後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトンの収率は30%であった。
(実施例1)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 2.7mmol、メタノール 12.9mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 1mL、ジエチルエーテル 8mLを入れ、室温で48時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は67%であり、非環状不飽和化合物の収率は35%であった。
また、核磁気共鳴装置(400MHz、バリアンアソシエイツ社製)で生成した環状不飽和化合物のH−NMRを測定し、下記化学式(10);
Figure 2011084501
で表される化合物を含有することを確認した。
H−NMRのスペクトルデータと帰属を図1に示す。
(実施例2)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、シクロヘキサノール 2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.2mL、ジエチルエーテル 2mLを入れ、室温で40時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は10%であった。
(実施例3)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、水 2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.2mL、ジエチルエーテル 2mLを入れ、室温で40時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は38%であった。
(実施例4)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、1−ブタノール 2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.2mL、ジエチルエーテル 2mLを入れ、室温で41時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は29%であった。
(実施例5)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、イソプロピルアルコール 2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.2mL、ジエチルエーテル 2mLを入れ、室温で41時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は15%であった。
(実施例6)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、1−オクタノール 2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.2mL、ジエチルエーテル 2mLを入れ、室温で41時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は40%であった。
(実施例7)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、2−クロロエタノール 2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.2mL、ジエチルエーテル 2mLを入れ、室温で41時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は9%であった。
(実施例8)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 1.1mmol、メタノール 5.4mmol、過塩素酸鉄六水和物 0.5mmol、テトラヒドロフラン 8mLを入れ、50℃で18時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は34%であり、非環状不飽和化合物の収率は8%であった。
った。
(実施例9)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、ブタンチオール 2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.2mL、ジエチルエーテル 2mLを入れ、室温で40時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は1%であった。
(参考例1)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、メタノール 6.2mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.85mLを入れ、室温で3時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は9%であり、非環状不飽和化合物の収率は19%であった。
(参考例2)
50mLフラスコに、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトン 0.4mmol、メタノール 6mmol、2N塩酸/ジエチルエーテル溶液 0.85mLを入れ、室温で41時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、環状不飽和化合物の収率は11%であり、非環状不飽和化合物の収率は41%であった。
った。
(比較例1)
以下の文献の方法を参考に、塩基でラクトン環を開環させた後、酸で閉環する方法により、γ−アセトキシ−α−メチレン−γ−ブチロラクトンから本発明の環状不飽和化合物の合成を試みたが、目的の生成物を得ることはできなかった。
W.J.グリーンリー(W.J.Greenlee)、外1名、「テトラヒドロン(Tetrahedron)」、1980年、第36巻、p.3361−3366。
(比較例2)
以下の文献には、反応条件に関する記載がなく、実験することができなかった。
カズヒロ・マルヤマ(Kazuhiro Maruyama)、外2名、「ケミカル コミュニケーションズ(J.C.S.Chemical Communications)」、1980年、第15巻、p.723−724。
実施例及び比較例の結果から、ラクトン環構造に酸素原子等のヘテロ原子を介して水素原子や官能基が結合した構造を有するメチレンラクトン系化合物を製造するための製造ルートは種々考えられるが、本発明の製造ルート以外では目的の生成物を得ることができず、本発明の製造ルート(すなわち、反応原料となる基質としてα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物においてそのγ位に-OCOR(Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される基を有するものを用い、それと活性水素含有化合物とを酸触媒存在下に反応させるルート)において目的の生成物を得ることができることが分かった。
なお、上記実施例においては、特定のα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物、活性水素含有化合物、酸触媒が用いられているが、α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物のγ位の-OCORと、活性水素含有化合物とが酸触媒存在下に反応して、活性水素含有化合物の活性水素原子を除く残基が結合したα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物が生成する機構は、γ位に-OCORを有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを用いる場合には、全て同様である。従って、上記実施例、比較例の結果から、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができると言える。
s:ピークの分裂パターンが1重線
dd:ピークの分裂パターンが2重線
t:ピークの分裂パターンが3重線
m:ピークの分裂パターンが多重線

Claims (5)

  1. α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを酸触媒存在下に反応させる工程を含む環状不飽和化合物の製造方法であって、
    該製造方法は、γ位に-OCOR(Rは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される基を有するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を基質とし、活性水素含有化合物と反応させて下記一般式(1);
    Figure 2011084501
    (式中、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表される環状不飽和化合物を生成することを特徴とする環状不飽和化合物の製造方法。
  2. 前記製造方法は、活性水素含有化合物の使用量をα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物に対して1〜20当量とすることを特徴とする請求項1に記載の環状不飽和化合物の製造方法。
  3. 前記製造方法は、下記一般式(2);
    Figure 2011084501
    (式中、R、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される、α,β−不飽和カルボン酸と不飽和有機化合物との触媒存在下における反応によって生成するα−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物を基質として用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の環状不飽和化合物の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の環状不飽和化合物の製造方法によって得られる環状不飽和化合物であって、下記一般式(1);
    Figure 2011084501
    (式中、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表されることを特徴とする環状不飽和化合物。
  5. α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物と活性水素含有化合物とを酸触媒存在下に反応させることによって得られる環状不飽和化合物であって、
    該α−メチレン−γ−ブチロラクトン系化合物は、γ位にアセトキシ基を有し、該活性水素含有化合物は、炭素数1〜12のアルコール、炭素数1〜12のアルキルチオール及び水からなる群より選択される少なくとも1種であり、該環状不飽和化合物は、下記一般式(7);
    Figure 2011084501
    (式中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは、活性水素含有化合物の残基を表す。)で表されることを特徴とする環状不飽和化合物。

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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