JP2011060674A - 燃料電池システム - Google Patents

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Abstract

【課題】触媒電極層の抵抗を測定するための煩雑な動作を抑制しつつ、触媒電極層の劣化を検出する。
【解決手段】燃料電池システムは、氷点下の温度条件に曝されることに起因して進行する触媒電極層の劣化の程度を反映する値である低温起因劣化値を取得する低温起因劣化値取得部と、触媒電極層の抵抗値を測定する触媒抵抗測定部と、低温起因劣化値取得部が取得した低温起因劣化値に基づいて、触媒電極層の抵抗値を測定する必要の有無を判断する抵抗測定判断部と、抵抗測定判断部が、触媒電極層の抵抗値を測定する必要があると判断したときに、触媒抵抗測定部による触媒電極層の抵抗値の測定を行なわせる測定制御部と、を備える。
【選択図】図1

Description

本発明は、燃料電池を備える燃料電池システムに関するものである。
燃料電池においては、例えば燃料電池の運転状態や、燃料電池の構成部材の経時的な劣化等に起因して、内部抵抗の変動が生じ得る。燃料電池の内部抵抗が増大すると、燃料電池の出力電圧が低下することにより、燃料電池において所望の出力制御を行なうことができなくなるという問題を生じる可能性がある。そのため、従来から、燃料電池の内部抵抗に基づいて、燃料電池の発電条件を制御することによって、上記問題の抑制が図られていた。例えば、燃料電池の内部抵抗に基づいて制御する燃料電池の発電条件として、燃料電池に供給する酸化ガスの加湿量を制御することにより、電解質膜の乾燥に起因する燃料電池の内部抵抗の増大を抑制する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2002−252011号公報 特開2003−157858号公報
しかしながら、燃料電池の内部抵抗の増加は、触媒電極層、電解質膜、あるいはガス拡散層等の燃料電池の構成部材自身の劣化や、これらの構成部材間の接触性の悪化等、種々の要因によって引き起こされる。このような内部抵抗の増加の原因によっては、燃料電池内部の湿潤状態を高めることによって燃料電池の出力電圧低下を抑制できるものもある。また、逆に、例えばガス拡散層の劣化を原因とする場合のように、燃料電池の湿潤状態を高めることによって燃料電池の性能低下が引き起こされるものもある。そのため、燃料電池の内部抵抗の上昇に対応する制御を行なおうとする場合には、内部抵抗上昇の要因を明確にする必要がある。上記した内部抵抗増加の種々の要因の内、経時的に進行する劣化の主要な要因の一つとして、触媒電極層の劣化、より具体的には触媒電極層の構造的な劣化であって、例えば、触媒電極層の電解質膜からの剥離に起因する劣化が挙げられる。したがって、触媒電極層の劣化の検出は、燃料電池の性能を維持する制御を行なう上で、極めて重要である。しかしながら、触媒電極層の劣化に起因する内部抵抗の上昇だけを検出する動作は、一般に煩雑な動作を伴う。そのため、触媒電極層の抵抗測定の動作を抑制しつつ、必要なときには触媒電極層の劣化を検出することが望まれていた。
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、触媒電極層の抵抗を測定するための煩雑な動作を抑制しつつ、触媒電極層の劣化を検出することを目的とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
[適用例1]
電解質膜と該電解質膜の両面に形成された触媒電極層とを有する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
氷点下の温度条件に曝されることに起因して進行する前記触媒電極層の劣化の程度を反映する値である低温起因劣化値を取得する低温起因劣化値取得部と、
前記触媒電極層の抵抗値を測定する触媒抵抗測定部と、
前記低温起因劣化値取得部が取得した前記低温起因劣化値に基づいて、前記触媒電極層の抵抗値を測定する必要の有無を判断する抵抗測定判断部と、
前記抵抗測定判断部が、前記触媒電極層の抵抗値を測定する必要があると判断したときに、前記触媒抵抗測定部による前記触媒電極層の抵抗値の測定を行なわせる測定制御部と、
を備える燃料電池システム。
適用例1に記載の燃料電池システムによれば、取得した低温起因劣化値に基づいて、触媒電極層の抵抗値を測定する必要があると判断される場合に、触媒電極層の抵抗値の測定を行なうため、必要な抵抗測定の動作を確保しつつ、抵抗値測定の動作の頻度を抑制することができる。このように、不必要な触媒電極層の抵抗値測定の動作を抑えることができることにより、触媒電極層の抵抗値の測定を行なう間が待ち時間となって、使用者に対する使い勝手が悪化することを抑制可能となる。
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、さらに、前記測定制御部が測定した前記触媒電極層の抵抗値が、予め定めた基準値を超えるか否かを判断する抵抗上昇判断部と、前記燃料電池内部における湿潤状態を上昇させる制御を行なう湿潤状態上昇部と、前記抵抗上昇判断部が、前記抵抗値が前記基準値を超えると判断したときに、前記湿潤状態上昇部による燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御を行なわせる湿潤状態上昇制御部とを備える燃料電池システム。適用例2に記載の燃料電池システムによれば、氷点下の温度条件に曝されることに起因して触媒電極層の劣化が進行したときには、燃料電池内部における湿潤状態を上昇させて、触媒電極層の抵抗値の上昇を抑制することができる。そのため、触媒電極層の抵抗測定を行なう頻度を抑制しても、必要な判断を行なって、燃料電池の性能を維持するために必要な処理を実行することが可能になる。
[適用例3]
電解質膜と該電解質膜の両面に形成された触媒電極層とを有する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
氷点下の温度条件に曝されることに起因して進行する前記触媒電極層の劣化の程度を反映する値である低温起因劣化値を取得する低温起因劣化値取得部と、
前記低温起因劣化値取得部が取得した前記低温起因劣化値が、予め定めた基準値を超えるか否かを判断する低温起因劣化判断部と、
前記燃料電池内部における湿潤状態を上昇させる制御を行なう湿潤状態上昇部と、
前記低温起因劣化判断部が、前記低温起因劣化値が前記基準値を超えると判断したときに、前記湿潤状態上昇部による燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御を行なわせる湿潤状態上昇制御部と
を備える燃料電池システム。
適用例3に記載の燃料電池システムによれば、取得した低温起因劣化値が基準値を超えた場合には、燃料電池内部における湿潤状態を上昇させて、触媒電極層の抵抗値の上昇を抑制することができる。そのため、触媒電極層の抵抗値を測定するための煩雑な動作を行なうことなく必要な判断を行なって、氷点下の温度条件に曝されることに起因して進行する触媒電極層の劣化による燃料電池の性能低下を抑制するために必要な処理を実行することが可能になる。
[適用例4]
適用例1ないし3いずれか記載の燃料電池システムであって、前記低温起因劣化値は、氷点下の温度条件に曝されて前記電解質膜で応力が発生することに起因して進行する前記触媒電極層の劣化の程度を反映する値であり、前記応力の大きさを反映する値と該応力が発生していた時間とを乗じて積算することによって取得される値である燃料電池システム。適用例4に記載の燃料電池システムによれば、電解質膜で応力が発生することに起因して進行する触媒電極層の劣化の程度を、精度良く求めることが可能になる。
[適用例5]
適用例4記載の燃料電池システムであって、前記応力の大きさを反映する値は、前記燃料電池の温度が0℃を下回った度合いであり、前記低温起因劣化値は、前記燃料電池の温度が0℃を下回った度合いと、各度合いにおいて0℃を下回った時間とを掛け合わせて積算した値としての氷点下履歴積算値である燃料電池システム。適用例5に記載の燃料電池システムによれば、上記氷点下履歴積算値に基づいて、触媒電極層の劣化の進行状態を、精度良く求めることが可能になる。
[適用例6]
適用例4記載の燃料電池システムであって、前記低温起因劣化値は、前記燃料電池の温度が0℃を下回っている条件下において、前記燃料電池が備える電解質膜で発生した応力と、該応力を発生していた時間とを掛け合わせて積算した値としての応力積算値である燃料電池システム。適用例6に記載の燃料電池システムによれば、上記応力積算値を用いることにより、触媒電極層の劣化の進行状態を求める精度をさらに向上させることができる。
[適用例7]
適用例2記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池に供給する燃料ガスおよび/または酸化ガス中の水蒸気量を、前記抵抗値が前記基準値を超えると判断された時点における水蒸気量よりも増加させる制御である燃料電池システム。適用例7に記載の燃料電池システムによれば、燃料ガスおよび/または酸化ガス中の水蒸気量を増加させることにより、触媒電極層の湿潤状態を高め、触媒電極層の抵抗値の上昇を抑制することができる。
[適用例8]
適用例3記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池に供給する燃料ガスおよび/または酸化ガス中の水蒸気量を、前記低温起因劣化値が前記基準値を超えると判断された時点における水蒸気量よりも増加させる制御である燃料電池システム。適用例8に記載の燃料電池システムによれば、燃料ガスおよび/または酸化ガス中の水蒸気量を増加させることにより、触媒電極層の湿潤状態を高め、触媒電極層の抵抗値の上昇を抑制することができる。
[適用例9]
適用例2記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池の内部温度を、前記抵抗値が前記基準値を超えると判断された時点における内部温度よりも低く設定する制御である燃料電池システム。適用例9に記載の燃料電池システムによれば、燃料電池の内部温度を低くすることにより、触媒電極層の湿潤状態を高め、触媒電極層の抵抗値の上昇を抑制することができる。
[適用例10]
適用例3記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池の内部温度を、前記低温起因劣化値が前記基準値を超えると判断された時点における内部温度よりも低く設定する制御である燃料電池システム。適用例10に記載の燃料電池システムによれば、燃料電池の内部温度を低くすることにより、触媒電極層の湿潤状態を高め、触媒電極層の抵抗値の上昇を抑制することができる。
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池システムを駆動用電源として搭載する移動体や、燃料電池システムの運転方法などの形態で実現することが可能である。
燃料電池システム10の概略構成を表わすブロック図である。 単セル21を表わす断面模式図である。 氷点下の温度条件を変更して燃料電池の性能低下の程度を比較した結果を表わす説明図である。 氷点下履歴積算値と電圧低下量との関係を表わすグラフである。 触媒電極層劣化判断処理ルーチンを表わすフローチャートである。 制御部50が備える機能ブロックを表わす説明図である。 非電気化学反応状態における交流インピーダンスと触媒層抵抗の関係を示した説明図である。 第2実施例の触媒電極層劣化判断処理ルーチンを表わすフローチャートである。 第2実施例の制御部150における機能ブロックを表わす説明図である。 第3実施例の触媒電極層劣化判断処理ルーチンを表わすフローチャートである。 電解質膜内で発生する応力との関係を調べた結果を例示する説明図である。 氷点下の温度条件を変更して燃料電池の性能低下の程度を比較した結果を表わす説明図である。 氷点下履歴積算値と電圧低下量との関係を表わすグラフである。 低温熱応力積算値と電圧低下量との関係を表わすグラフである。
A.装置の全体構成:
図1は、本発明の第1実施例である燃料電池システム10の概略構成を表わすブロック図である。燃料電池システム10は、燃料電池20と、燃料ガス供給部30と、酸化ガス供給部40と、窒素供給部42と、交流インピーダンス測定部70と、制御部50と、を備えている。燃料電池20の正負両端子には、負荷60、例えば、インバータを介して接続されるモータ等が接続されている。この燃料電池20の正負両極端子には、さらに、負荷60に並列に、上記交流インピーダンス測定部70が接続されている。
燃料電池20は、固体高分子型の燃料電池である。図2は、燃料電池20の構成単位である単セル21を表わす断面模式図である。単セル21は、電解質膜22、アノード電極23、カソード電極24、ガス拡散層25,26、セパレータ27,28によって構成されている。
電解質膜22は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な導電性を示す。アノード電極23およびカソード電極24は、電解質膜22上に形成された触媒電極層であり、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば白金)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質と、電子伝導性を有するカーボン粒子と、を備えている。ガス拡散層25,26は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、発泡金属や金属メッシュなどの金属製部材や、カーボンクロスやカーボンペーパなどのカーボン製部材により形成することができる。セパレータ27,28は、ガス不透過の導電性部材によって形成されており、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成することができる。
セパレータ27,28は、その表面に、単セル21内のガス流路を形成するための凹凸形状を有している。セパレータ27は、ガス拡散層25との間に、水素を含有する燃料ガスが通過する単セル内燃料ガス流路27aを形成する。また、セパレータ28は、ガス拡散層26との間に、酸素を含有する酸化ガスが通過する単セル内酸化ガス流路28aを形成する。なお、単セル21の外周部には、単セル21の積層方向と平行であって燃料ガスあるいは酸化ガスが流通する複数のガスマニホールドが設けられている(図示せず)。これら複数のガスマニホールドのうちの燃料ガス供給マニホールドを流れる燃料ガスは、各単セル21に分配され、電気化学反応に供されつつ各単セル内燃料ガス流路27a内を通過し、その後、燃料ガス排出マニホールドに集合する。同様に、酸化ガス供給マニホールドを流れる酸化ガスは、各単セル21に分配され、電気化学反応に供されつつ各単セル内酸化ガス流路28a内を通過し、その後、酸化ガス排出マニホールドに集合する。
燃料電池20は、このような単セル21が複数積層されたスタック構造を有している。なお、燃料電池20には、さらに、スタック構造の内部温度を調節するために、各単セル間に、あるいは所定数の単セルを積層する毎に、冷媒の通過する冷媒流路が設けられている(図示せず)。冷媒流路は、例えば、隣り合う単セル間において、一方の単セルが備えるセパレータ27と、他方の単セルが備えるセパレータ28との間に設けることができる。
さらに、燃料電池20には、燃料電池20の内部温度を検出するための温度センサ62が設けられている。温度センサ62は、燃料電池20の内部温度を反映する温度を検出可能なセンサである。本実施例では、温度センサ62は、燃料電池20内を通過する冷媒が流れる既述した冷媒流路において、燃料電池20から冷媒が排出される出口部近傍の冷媒温度を検出するセンサとして設けている。あるいは、温度センサ62を、例えば熱電対によって構成し、燃料電池20の内部温度を直接検出することとしても良い。
交流インピーダンス測定部70は、周波数掃引部72およびインピーダンス測定部74を備えている。交流インピーダンス測定部70は、制御部50の指示に従って、周波数掃引部72が燃料電池20の正負両極端子に交流の電圧をその周波数を掃引しつつ入力する際に、インピーダンス測定部74が正負両極端子間を流れる交流の電流を検出することにより、正負両極端子間の交流インピーダンスを測定する。この交流インピーダンス測定部70は、本実施例では、燃料電池が備える触媒電極層の抵抗値を測定する触媒抵抗測定部として機能する。触媒電極層の抵抗値の測定については後述する。
燃料ガス供給部30は、燃料電池20に対して燃料ガスを供給するための装置である。燃料ガスとして水素ガスを用いる場合には、燃料ガス供給部30は、例えば、水素ガスを加圧状態で貯蔵する水素ボンベと、供給水素量を調整する調整弁と、を備えることとすればよい。あるいは、水素を吸蔵させる水素吸蔵合金を備える水素タンクを備えることとしても良い。また、燃料ガスとして改質ガスを用いる場合には、燃料ガス供給部30は、炭化水素などの燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質装置によって構成することもできる。このような燃料ガス供給部30は、燃料ガス供給路35を介して、燃料電池20における燃料ガスの流路の端部に接続されている。
酸化ガス供給部40は、燃料電池20に対して酸化ガスとしての空気を供給するための装置であり、例えば、ブロワを備えることとすれば良い。このような酸化ガス供給部40は、酸化ガス供給路41およびカソードガス供給路45を介して、燃料電池20における酸化ガスの流路の端部に接続されている。
窒素供給部42は、燃料電池20に対して、酸素を含まない非酸化ガスとしての窒素ガスを供給するための装置であり、例えば、窒素ボンベと、供給窒素量を調整する調整弁とを備えることとすれば良い。このような窒素供給部42は、窒素ガス供給路43を介して、カソードガス供給路45に接続されている。カソードガス供給路45と、窒素ガス供給路43と、酸化ガス供給路41との接続部には、切替弁44が設けられている。この切替弁44を切り替えることによって、酸化ガス供給路41を介して燃料電池20へと酸化ガスが供給可能な状態と、窒素ガス供給路43を介して燃料電池20へと窒素ガスが供給可能な状態とを、切り替えることができる。
燃料ガス供給路35と、カソードガス供給路45とには、それぞれ、加湿部36,46が設けられており、各々の流路を流れるガスを加湿可能となっている。本実施例では、加湿部36,46は、バブラによって構成している。そのため、バブラの設定温度(ガスを加湿する水蒸気を発生するためにバブラ内で水を加熱する温度であり、以下、加湿温度と呼ぶ)を制御することにより、ガスの加湿量を調節することができる。
制御部50は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPU、ROM、RAM、および、各種の信号を入出力する入出力ポート等を備える。この制御部50は、既述した温度センサ62等の各種センサの検出信号を取得すると共に、交流インピーダンス測定部70との間で情報をやり取りし、また、燃料ガス供給部30、酸化ガス供給部40、窒素供給部42、加湿部36,46、あるいは負荷60等の各部に対して駆動信号を出力する。
B.氷点下履歴積算値と触媒電極層の劣化について:
燃料電池は、一般に、使用時間が長くなるほど、燃料電池を構成する各部が劣化することによって、性能低下が引き起こされる。このように経時的に進行する燃料電池の性能低下を引き起こす主要な要因の一つとして、燃料電池が氷点下の温度条件に曝されることによって進行する触媒電極層の劣化が挙げられる。燃料電池の温度が低下するときには、燃料電池の構成部材の内、特に電解質膜が大きく収縮する。また、燃料電池が氷点下の温度条件になるときには、燃料電池内に残留する液水が凍結し、これによって、液水が残留する多数の細孔が内部に形成されて電解質膜上に設けられた触媒電極層全体が、凍結し、硬くなる。そのため、氷点下の温度条件では、凍結によって硬くなった触媒電極層との界面において、温度低下により収縮した電解質膜で熱応力が発生して、触媒電極層の劣化、具体的には、触媒電極層の電解質膜からの部分的な剥離等が生じる。このような触媒電極層の劣化は、燃料電池の温度が低く、電解質膜の収縮が大きいほど、また、燃料電池が氷点下の温度条件に曝される時間が長いほど、劣化の進行度合いが大きくなる。
図3は、本実施例と同様の燃料電池を用いて、氷点下の温度条件に曝す条件を種々変更して、その結果生じる燃料電池の性能低下の程度を比較した結果を表わす説明図である。図3に示すように、燃料電池を氷点下の温度条件に曝す条件(冷熱条件)として、4種類の冷熱条件について比較を行なった。条件(1)では、80℃で10分間保持した後に温度を−10℃まで低下させて、−10℃で10時間保持する(10時間ソーク)というサイクルを、10回行なった。条件(2)では、80℃で10分間保持した後に温度を−20℃まで低下させて、−20℃で10時間保持するというサイクルを、10回行なった。条件(3)では、80℃で10分間保持した後に温度を−30℃まで低下させて、−30℃で10時間保持するというサイクルを、10回行なった。条件(4)では、80℃で10分間保持した後に温度を−20℃まで低下させて、−20℃で2時間保持するというサイクルを、10回行なった。
図3では、各温度条件について、氷点下履歴積算値を記載している。氷点下履歴積算値とは、燃料電池の温度が0℃を下回った度合いと、各度合いにおいて0℃を下回った時間とを掛け合わせて積算した値をいう。図3の各条件においては、「氷点下で燃料電池温度を保持したときの温度(氷点下保持温度)」と、「氷点下の温度を保持したソーク時間とサイクル数の積」とを掛け合わせた値となる。したがって、氷点下履歴積算値は、条件(1)では−1000(℃・h)となり、条件(2)では−2000(℃・h)となり、条件(3)では−3000(℃・h)となり、条件(4)では−400(℃・h)となる。なお、80℃と各氷点下保持温度との間を温度変化する際に、各氷点下保持温度よりも高温の氷点下温度となる状態を経由するが、このような温度が変化する時間は、ソーク時間に比べて極めて短いため(例えば、30分程度)、氷点下履歴積算値を算出する際には無視している。
上記のような冷熱条件で処理を行なった後に、各燃料電池について、一定の条件で発電反応を行なわせて電圧を測定し、冷熱条件の処理を行なう前の初期値との比較を行なった。発電の条件は、燃料電池温度が80℃、供給する燃料ガス流量が0.27L/min、供給する酸化ガスの流量が0.87L/min、燃料ガスの加湿温度が45℃、酸化ガスの加湿温度が55℃、とした。このような条件下で、0.8A/cm2の電流密度で発電を行なわせ、そのときの出力電圧値を、同様の条件下で電圧を測定した初期値と比較して、初期値に対する電圧低下量を、性能低下の指標とした。経時的な劣化は、燃料電池を構成する各部において進行しうるが、上記のような冷熱条件下では、主として触媒電極層の劣化が進行していると考えることができる。
図4は、図3に示した結果を、横軸に氷点下履歴積算値をとり、縦軸に上記冷熱条件を10サイクル行なった後の電圧低下量をとって表わしたグラフである。図4に示すように、氷点下保持温度やソーク時間にかかわらず、氷点下履歴積算値が大きくなるほど、電圧低下量(性能低下の度合い)が大きくなった。具体的には、氷点下履歴積算値をx、電圧低下量をyとすると、xとyとの関係は、以下に(1)式として示す近似式によって表わすことができた。このように、氷点下履歴積算値を求めて、用いた燃料電池について予め求めた(1)式のような氷点下履歴積算値と電圧低下量との関係に基づくことによって、氷点下の温度条件に起因する触媒電極層の劣化の程度(燃料電池の性能低下の程度)を、推定することが可能と考えられる。そして、このような氷点下履歴積算値と燃料電池の性能低下との関係は、個々のタイミングにおける燃料電池温度が0℃を下回った度合いや、その氷点下の温度条件下にあった時間にかかわらず、氷点下履歴積算値として評価すればよいと考えることができる。
y=−0.0271x+6.77 …(1)
C.触媒電極層の劣化に起因する性能低下を抑制する動作:
図5は、燃料電池システム10の起動時に制御部50において実行される触媒電極層劣化判断処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム10を起動したときに実行される。このような動作を行なう際に、制御部50は、複数の機能ブロックとして働く。図6は、制御部50が備える機能ブロックを表わす説明図である。図6に示すように、本実施例の制御部50は、氷点下履歴積算部51と、抵抗測定判断部52と、測定制御部53と、抵抗上昇判断部54と、湿潤状態上昇制御部55と、発電制御部56と、を備えている。
図5の触媒電極層劣化判断処理ルーチンが起動されると、まず、制御部50の氷点下履歴積算部51が、その時点での氷点下履歴積算値を取得する(ステップS100)。氷点下履歴積算部51は、常に、一定の時間間隔で、温度センサ62から燃料電池20の内部温度を取得している。そして、燃料電池20の内部温度として氷点下の温度が検出されたときには、上記時間間隔の間は、検出された氷点下の温度であったものとして、検出された氷点下の温度と上記時間間隔とを乗算し、それまでに求められた氷点下履歴にさらに積算する動作を繰り返している。このようにして、氷点下履歴積算部51では、燃料電池システム10が製造されてからその時点までの氷点下履歴積算値が常に求められている。そして、ステップS100では、その時点における氷点下履歴積算値が取得される。なお、本実施例の燃料電池システム10は、図示しない2次電池を備えている。そのため、燃料電池20が発電を停止しているときであっても、上記2次電池から供給される電力を用いて、温度センサ62による燃料電池内部温度の検出と、検出した温度の氷点下履歴積算部51への出力と、氷点下履歴積算部51における氷点下履歴の積算の動作を行なうことができる。
ステップS100で取得された氷点下履歴積算値は、制御部50の抵抗測定判断部52に伝えられる。その後、抵抗測定判断部52は、氷点下履歴基準値を取得すると共に(ステップS110)、氷点下履歴積算部51が取得した氷点下履歴積算値と、上記氷点下履歴基準値との比較を行なう(ステップS120)。この抵抗測定判断部52による動作は、後述する触媒電極層の抵抗値の測定を行なう必要の有無を判断するためのものである。本実施例では、氷点下の温度条件に起因する触媒電極層の劣化の程度を知るための触媒電極層の抵抗測定を、触媒電極層の劣化が進行していると推定される場合にのみ行なうこととしているためである。ステップS120において、氷点下履歴積算値が氷点下履歴基準値を超える場合には、抵抗測定を行なう必要がある程度に触媒電極層の劣化が進行していると判断される。ステップS110で取得する氷点下履歴基準値は、燃料電池20について予め調べられた図4および(1)式に示した氷点下履歴積算値と電圧低下量との関係に基づいて、予め定めて制御部50内に記憶されているものである。本実施例の制御部50には、複数の氷点下履歴基準値が記憶されており、その中の最も小さい値は、許容できない程度に電圧が低下し始める可能性がある時に対応する氷点下履歴積算値として設定されている。燃料電池システム10における氷点下履歴基準値の初期値は、上記最も小さい値となっている。そして、ステップS120において、氷点下履歴積算値が、ステップS110で取得された氷点下履歴基準値を超えると判断されたときには、次回起動時に触媒電極層劣化判断処理ルーチンが実行されるときには、ステップS110において、氷点下履歴基準値として、1段階大きな値が取得される。その後、ステップS120で氷点下履歴積算値が上記氷点下履歴基準値を超えると判断されるまで、この新たに取得された1段階大きな値としての氷点下履歴基準値が、繰り返し用いられる。ステップS120において氷点下履歴積算値が上記氷点下履歴基準値を超えると判断されると、それ以後の起動時におけるステップS110では、氷点下履歴基準値として、さらに1段階大きな値が取得される。
ステップS120において氷点下履歴積算値が氷点下履歴基準値を上回ると判断されると、この判断は、制御部50の測定制御部53へと伝えられる、そして、測定制御部53は、燃料ガス供給部30、酸化ガス供給部40、切替弁44、加湿部36,46、負荷60等に駆動信号を出力する。これにより、触媒電極層の抵抗測定温度Trmとして予め定めた温度へと燃料電池20を昇温させるための暖機運転を行なう(ステップS130)。すなわち、燃料電池20に対して暖機運転時の供給量として予め定めた燃料ガスおよび酸化ガスを供給しつつ、負荷60を制御することによって、起動時の燃料電池20の温度であっても支障なく発電可能な程度の発電を行なわせ、発電に伴って生じる熱によって燃料電池20を暖機する。本実施例では、暖機運転の目標値である抵抗測定温度Trmは、80℃としている。なお、燃料電池20を抵抗測定温度Trmに昇温させるために、異なる方法を用いても良い。例えば、燃料電池20にヒータを設け、上記暖機運転に代えて、あるいは暖機運転に加えて、ヒータを用いて燃料電池20を昇温させることとしても良い。
ステップS130において燃料電池20の温度が抵抗測定温度Trmに達すると、測定制御部53は、交流インピーダンス測定部70に駆動信号を出力して、触媒電極層の抵抗値の測定を行なう(ステップS140)。ここで、触媒電極層の抵抗値の測定を行なう際には、測定制御部53は、燃料ガス供給部30、酸化ガス供給部40、窒素供給部42、切替弁44に対して駆動信号を出力して、燃料電池20を、抵抗測定用運転状態に変更する。すなわち、切替弁44を切り替えて、カソードガス供給路45を介して燃料電池20に供給されるガスを、酸化ガス供給部40が供給する酸化ガスから、窒素供給部42が供給する窒素ガスへと変更する。これにより、燃料電池20は、アノード側には燃料ガスが供給されるものの、カソード側には酸素が供給されることなく窒素ガスが供給されて、発電を行なわない状態(非電気化学反応状態)としての抵抗測定用運転状態となる。このとき、燃料電池20に供給される燃料ガスおよび窒素ガスの加湿条件は、その時点において制御部50内に記憶されている加湿条件に設定される。具体的には、加湿部36が備えるバブラの設定温度(加湿温度Tha)および加湿部46が備えるバブラの設定温度(加湿温度Thc)として、その時点において制御部50に記憶されている温度となるように、各加湿部が制御される。本実施例の燃料電池20では、製造時の初期値として、加湿部36の加湿温度Thaは45℃に設定され、加湿部46の加湿温度Thcは55℃に設定されている。
そして、交流インピーダンス測定部70によって交流インピーダンスの測定を行い、測定結果から触媒電極層の抵抗Rcmを求める。燃料電池の触媒電極層の抵抗Rcmは、交流インピーダンス法により求めることができることが知られている。触媒層抵抗Rcmは、具体的には、以下で説明するようにして求められる。まず、交流インピーダンス測定部70のインピーダンス測定部74が、燃料電池20の正負両極間にVin=0.5V±50mVの交流信号を印加して、周波数掃引部72がその周波数ωを0.1Hz〜10kHzまで掃引する。このとき、インピーダンス測定部74が、燃料電池20の電圧および電流を計測することによって、各周波数での燃料電池20のインピーダンスを測定する。そして、測定制御部53は、交流インピーダンス測定部70から出力された測定結果、すなわち、交流インピーダンスの測定値から触媒層抵抗Rcmを導き出す。
図7は、燃料電池の非電気化学反応状態における交流インピーダンスと触媒層抵抗の関係を示した説明図である。図7は、横軸を交流インピーダンスZの実部ReZ(実インピーダンス成分)[Ω]、縦軸を虚部−ImZ(虚インピーダンス成分)[Ω]とする複素平面を表している。燃料電池20を非電気化学反応状態とした場合における交流インピーダンスは、周波数ωを0から無限大∞にむかって掃引することによって、図7に示すような軌跡を描く。具体的には、交流インピーダンスは、周波数ωが特定の値であるωcmp以下の低周波領域においては、虚部−ImZ、すなわち、容量成分が支配的となってほほ直線的に変化する。また、周波数ωがωcmp以上の高周波領域においては、虚部−ImZおよび実部ReZの両方が同程度に変化し、周波数ωが無限大∞において、虚部−ImZはほぼ無視され、実部ReZ、すなわち、抵抗成分がほぼ一定の値となる。
燃料電池20の正負両極間の交流インピーダンスは、図2に示した構造からわかるように、電解質膜、触媒電極層、ガス拡散層、および、セパレータのそれぞれのインピーダンスを合成したものである。
ここで、電解質膜、ガス拡散層、および、セパレータのインピーダンスは、非電気化学反応状態においては、周波数に依存せず、一定の抵抗成分(実部ReZ)Rotrのみで表される。従って、図7に示した交流インピーダンスにおいて、ω=無限大∞における実部ReZの値Z1が、触媒電極層を除く他の層のインピーダンス(以下、「非触媒層抵抗」と呼ぶ)Rotrとなる。
一方、触媒電極層は、並列な2つの抵抗、具体的には、電子の電導による抵抗成分(以下、「電子抵抗」と呼ぶ)、および、陽イオンの移動による抵抗成分(以下、「イオン抵抗」と呼ぶ)と、これらの抵抗間に存在する容量成分(以下、「触媒層容量」と呼ぶ)とで表されると考えられる。ただし、電子抵抗は、イオン抵抗に比べて非常に小さいため、無視することができ、触媒電極層は、イオン抵抗(以下、「触媒層抵抗」と呼ぶ)と触媒層容量とで表されるとして良いと考えられる。従って、触媒電極層のインピーダンスは、周波数の逆数に比例して、周波数ωが小さくなるほど虚部−ImZの値が大きくなり、周波数ωが大きくなるほど虚部−ImZの値が小さくなるものである。すなわち、触媒電極層のインピーダンスにおいて、低周波領域の実部ReZの値は、触媒層抵抗Rcmの値を表していると考えられる。ただし、燃料電池20の交流インピーダンスには、上記非触媒層抵抗Rotrが含まれているので、この場合の低周波領域の実部ReZの値は、触媒層抵抗Rcmと非触媒層抵抗Rotrの合成値であると考えられる。
以上の点を考慮すると、測定した交流インピーダンスから、以下のように触媒層抵抗Rcmの値を求めることができる。すなわち、測定した交流インピーダンスの低周波領域の変化から、近似直線(図4に一点鎖線で示す)を求める。そして、求めた近似直線が実部ReZを表す横軸と交わる点の値Z2を求める。この求めた値Z2が、触媒層抵抗Rcmと非触媒層抵抗Rotrの合成値と考えられる。そして、この合成値Z2から非触媒層抵抗Rotrの値を示す値Z1を減算することにより、触媒層抵抗Rcmの値を求めることができる。
なお、上記したように、周波数掃引の最高周波数ωmaxは10kHzとしているため、非触媒層抵抗Rotrの値を示す値Z1は最高周波数ωmax=10kHzの交流インピーダンスの実部ReZの値とするものとする。これは、周波数ωが100Hz以上において測定された交流インピーダンスの実部ReZの値がほぼ同じであることが実験的に求められていることから、周波数掃引の最高周波数ωmaxを10kHzとすれば十分であると判断したからである。また、周波数掃引の最低周波数ωminは0.1Hzとしているが、これは、周波数ωcmpの値は、1Hz以上であることが実験的に求められていることから、周波数掃引の最低周波数ωminを0.1Hzとすれば十分であると判断したからである。
なお、本実施例では、ステップS140において触媒電極層の抵抗値を測定するために、燃料電池20の正負両極間にVin=0.5V±50mVの交流信号を印加しつつ、その周波数ωを0.1Hz〜10kHzまで掃引して、各周波数での燃料電池20のインピーダンスを測定することによって、触媒層抵抗Rcmを導き出しているが、異なる構成としても良い。例えば、インピーダンスの値が図7に表わした挙動を示すことを前提として、掃引した周波数の限られたポイントでのみインピーダンスを求めて、図7に基づいて触媒電極層抵抗Rcmを求めても良い。
ステップS140において触媒電極層の抵抗値を求めると、求められた抵抗値は、制御部50の抵抗上昇判断部54へと伝えられる。そして、抵抗上昇判断部54は、ステップS140で求めた触媒層抵抗Rcmと、予め定めた基準値との比較を行なう(ステップS150)。触媒層抵抗Rcmが上記基準値を超える場合には、触媒電極層の劣化の程度(特に触媒電極層の剥離の程度)が、許容できる範囲を超えて進行していると判断される。ステップS150で用いる上記基準値は、本実施例では、燃料電池20における触媒層抵抗Rcmの初期値とした。なお、ステップS150における基準値は、上記初期値よりも大きな値を設定しておくことも可能である。
ステップS150において触媒層抵抗Rcmが基準値を超えると判断されると、この判断は、制御部50の湿潤状態上昇制御部55へと伝えられる。その後、湿潤状態上昇制御部55は、燃料電池20に供給するガスの加湿量を増加させる制御を行なう(ステップS160)。具体的には、加湿部36における加湿温度Thaと加湿部46における加湿温度Thcを、それぞれ1℃ずつ上昇させる。このように加湿量を増加させることにより、触媒電極層の抵抗値を下げることが可能となる。
ステップS160において供給ガスの加湿量を増加させる制御を行なうと、制御部50では、ステップS140に戻り、触媒電極層の抵抗値の測定を行なう。そして、制御部50は、ステップS150において触媒電極層の抵抗値が基準値以下であると判断されるまで、供給ガスの加湿量を増加させる制御(加湿部における加湿温度Tha、Thcを1℃ずつ上昇させる制御)と、触媒電極層の抵抗値の測定の動作を繰り返す。
ステップS150において触媒層抵抗Rcmが基準値以下であると判断されると、最終的に触媒層抵抗Rcmが基準値以下となったときの加湿温度Tha、Thcが、湿潤状態上昇制御部55から発電制御部56へと伝えられる。そして、発電制御部56が、通常の暖気温度への昇温の後、通常の発電制御を開始して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。このとき、発電制御部56は、燃料ガス供給部30、酸化ガス供給部40、窒素供給部42、切替弁44に対して駆動信号を出力して、燃料電池20を、抵抗測定用運転状態から通常の発電が可能な状態に変更する。すなわち、切替弁44を切り替えて、カソードガス供給路45を介して燃料電池20に供給されるガスを、窒素供給部42が供給する窒素ガスから、酸化ガス供給部40が供給する酸化ガスへと変更する。そして、燃料ガス供給部30および酸化ガス供給部40から、所望の発電量に応じた量の燃料ガスおよび酸化ガスを、燃料電池20に対して供給させる。
このステップS170において、上記のように通常の暖気温度への昇温、および通常の発電制御を行なう際には、上記最終的に触媒層抵抗Rcmが基準値以下となったときの加湿温度Tha、Thcが、加湿部36,46における加湿温度として用いられる。上記のように設定された加湿温度Tha、Thcを用いて通常の発電制御を行なうことにより、通常の発電制御を行なう際における触媒電極層の抵抗値の上昇を抑えることができ、燃料電池20の出力性能を維持することが可能になる。すなわち、通常の発電制御を行なう際には、負荷が変動すると共に、負荷変動に伴って燃料電池20の内部温度が変動する場合があるが、上記のように加湿温度を上昇させて供給ガスの加湿量を増加させることにより、負荷等が変動しても、触媒電極層の抵抗値の上昇を抑制することができる。なお、本実施例では、ステップS130における暖気温度である触媒電極層の抵抗測定温度Trmよりも、ステップS170における通常の暖気温度の方が高温に設定されているため、ステップS170において追加的に暖機運転を行なっているが、異なる構成としても良い。例えば、触媒電極層の抵抗測定温度Trmと、最終的な暖気温度とを同じ温度とするならば、ステップS150において触媒層抵抗Rcmが基準値以下であると判断された後に、直ちに通常の発電制御を開始することができる。
上記のように燃料電池システム10の起動時に実行される処理によって、ステップS160において加湿部36,46の加湿温度Tha、Thcが、より高い温度に設定されると、燃料電池システム10の停止時には、新たに設定された上記温度が、加湿温度Tha、Thcとして記憶される。そして、次回に燃料電池システム10を起動する際には、ステップS140で触媒電極層の抵抗値を測定するための加湿条件として、前回停止時に記憶した加湿温度Tha、Thcが用いられる。
ステップS120において、氷点下履歴積算値が基準値以下であると判断されたときには、その後、発電制御部56によって通常の暖気温度への暖気が行なわれ、通常の発電制御が開始されて(ステップS170)、本ルーチンを終了する。この場合には、前回停止時に記憶した加湿温度Tha、Thcを用いて、通常の発電制御が行なわれる。そして、燃料電池システム10を停止する際には、前回停止時と同じ値である加湿温度Tha、Thcが、再び制御部50に記憶される。
既述したように、本実施例では、ステップS110で取得され得る氷点下履歴基準値の値を複数用意しており、用いる氷点下履歴基準値を順次大きくしている。これにより、一旦供給ガスの加湿量を増加して触媒電極層の抵抗を低下させた後に、さらに触媒電極層の劣化が進行して再び触媒電極層の抵抗が上昇し始めたときに、一段大きな氷点下履歴基準値を用いることによって、触媒電極層の抵抗値の測定を再び行なうべきであるとの判断を行なうことができる。このような氷点下履歴基準値は、上記のように複数用意することが望ましいが、触媒電極層の抵抗値が許容できない程度に増加し始める可能性がある時に対応する氷点下履歴積算値を最小値として含む、1以上の氷点下履歴積算値を用意すればよい。
以上のように構成された本実施例の燃料電池システム10によれば、氷点下履歴積算値を求めて、システム起動時に氷点下履歴積算値が氷点下履歴基準値を超えた場合に、触媒電極層の抵抗値の測定を行なっている。このように、氷点下履歴積算値に基づいて触媒電極層の劣化の進行が推定される場合にのみ、触媒電極層の抵抗値を測定するため、不必要な触媒電極層の抵抗値の測定動作を抑制することができる。そのため、燃料電池システム10の起動時に、触媒電極層の抵抗値の測定動作を行なうことに起因して、通常の発電制御を行なうことができるようになるまでの時間が長期化することを抑制可能となる。一般に、触媒電極層の抵抗測定温度Trmへと暖機運転を行なって(ステップS130)、実際に触媒電極層の抵抗値を測定するには(ステップS140)、通常は数10秒〜数分を要する。本実施例のように触媒電極層の抵抗値測定動作を削減することにより、使用者に与える不快感や待ち時間を抑制して、使い勝手を向上させることができる。その際に、触媒電極層の劣化の程度を推定して触媒電極層の抵抗値の測定の要否を判断しているため、触媒電極層の劣化が進行したときには、速やかに触媒電極層の抵抗値を測定して上記劣化の進行を検出し、供給ガス中の加湿量の増加という対策を取ることが可能になる。その結果、触媒電極層の抵抗測定の動作を削減しても、必要な判断を行なって、燃料電池の性能を維持するために必要な処理を実行することが可能になる。特に、氷点下の温度条件に曝されることに起因する触媒電極層の劣化は、突然に発生したり、急激に進行する性質のものではない。そのため、本実施例のように充分な精度で推定を行なって必要と判断されるときのみ実際の測定を行なうことにより、供給ガスの加湿量増加による電池性能の維持の効果と、測定動作の削減による使い勝手の向上という効果を両立することができる。
また、本実施例では、測定した触媒電極層の抵抗値が基準値を上回るときには、触媒電極層の抵抗値が基準値以下となるまで、供給ガスの加湿量を増加させる動作を繰り返している。そのため、触媒電極層の劣化が進行した場合にも、触媒電極層の抵抗値を低下させて電池性能を維持する効果を、確実に得ることができる。
氷点下履歴積算値に基づいて必要と判断される場合に行なう触媒電極層の抵抗値の測定動作は、本実施例のような起動時以外に行なうことも可能である。例えば、燃料電池システム10のメインテナンス時や、起動時の暖機運転終了後においても、触媒電極層の抵抗値の測定動作を行なうことは可能である。しかしながら、本実施例のように起動時に行なうことにより、触媒電極層の抵抗測定に起因して使用者に与える不快感を軽減する効果を、顕著に得ることができる。
D.第2実施例:
第1実施例では、氷点下履歴積算値に基づいて触媒電極層の抵抗値測定の要否を判断し、必要と判断された場合には触媒電極層の抵抗値測定を行なって、触媒電極層の劣化の進行が実際に検出されると、供給ガスの加湿量を増加させているが、異なる構成としても良い。以下に、第2実施例として、氷点下履歴積算値に基づいて触媒電極層の劣化の進行を判断し、触媒電極層の劣化が進行していると判断されたときには、供給ガスの加湿量を増加させる制御を行なう構成について説明する。第2実施例の燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム10と同様の構成を備えており、共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。なお、第2実施例の燃料電池システムは、図1における交流インピーダンス測定部70は備えていない。
図8は、第2実施例の燃料電池システムの起動時に、図5に示した処理に代えて、第2実施例の燃料電池が備える制御部150において実行される触媒電極層劣化判断処理ルーチンを表わすフローチャートである。また、図9は、第2実施例の制御部150における機能ブロックを表わす説明図である。図9に示すように、本実施例の制御部150は、氷点下履歴積算部51と、抵抗上昇判断部54と、湿潤状態上昇制御部55と、発電制御部56と、を備えている。
図8の触媒電極層劣化判断処理ルーチンが起動されると、第1実施例と同様にして、制御部150の氷点下履歴積算部51が、その時点での氷点下履歴積算値を取得する(ステップS200)。そして、制御部150の抵抗測定判断部52が、氷点下履歴基準値を取得すると共に(ステップS210)、氷点下履歴積算部51が取得した氷点下履歴積算値と、上記氷点下履歴基準値との比較を行なう(ステップS220)。
本実施例では、上記した氷点下履歴積算値と氷点下履歴基準値との比較によって、燃料電池に供給する供給ガスにおける加湿量増加の必要性の有無を判断している。そのため、本実施例の制御部150では、ステップS210で取得される氷点下履歴基準値として、供給ガスの加湿量を増加して触媒電極層の抵抗値を低下させる必要がある程度に触媒電極層の劣化が進行していると判断するための複数の基準値が、設定され記憶されている。このような複数の氷点下履歴基準値は、燃料電池20について予め調べられた図4および(1)式に示した氷点下履歴積算値と電圧低下量との関係に基づいて、予め定めて記憶されているものである。ステップS210では、上記複数の氷点下履歴基準値の内、氷点下履歴積算値が超えたとは未だ判断されていない最小の基準値が取得される。
ステップS220において氷点下履歴積算値が氷点下履歴基準値を上回ると判断されたときには、この判断は、制御部50の湿潤状態上昇制御部55へと伝えられる。その後、湿潤状態上昇制御部55は、燃料電池20に供給するガスの加湿量が増加するように、加湿部36における加湿温度Thaと加湿部46における加湿温度Thcとを、それまでよりも高い所定の値に設定する(ステップS260)。ここで、ステップS260で設定される加湿温度の設定温度は、触媒電極層の抵抗値を充分に低下させることが可能な量として、予め定めて制御部150内に記憶しておいたものである。このような加湿温度の設定温度は、例えば、ステップS220で用いるために複数用意された氷点下履歴基準値毎に、充分に触媒電極層の抵抗を低下させることができる加湿温度として、予め実験的に適切な値を求めておけばよい。
ステップS260において加湿温度が設定されると、設定された加湿温度は、制御部150の発電制御部56へと伝えられる。その後、発電制御部56は、通常の暖気温度への昇温の後、通常の発電制御を開始して(ステップS270)、本ルーチンを終了する。このとき、暖機運転や通常の発電制御を行なう際には、ステップS260で設定された加湿温度Tha、Thcが、加湿部36,46における加湿温度として用いられる。上記のように設定された加湿温度Tha、Thcを用いて通常の発電制御を行なうことにより、燃料電池20の触媒電極層においては、抵抗値が充分に抑えられて、燃料電池20の出力性能が維持される。なお、燃料電池システムが停止するときには、上記のように設定されて通常の発電制御において用いられた加湿温度が、制御部150内に記憶される。
ステップS220において、氷点下履歴積算値が基準値以下であると判断されたときには、その後、発電制御部56によって通常の暖気温度への暖気が行なわれ、通常の発電制御が開始されて(ステップS270)、本ルーチンを終了する。この場合には、前回停止時に記憶した加湿温度Tha、Thcを用いて、通常の発電制御が行なわれる。そして、燃料電池システムを停止する際には、前回停止時と同じ値である加湿温度Tha、Thcが、再び制御部50に記憶される。なお、ステップS220において氷点下履歴積算値が氷点下履歴基準値を超えるとの判断が1度もなされていないときには、通常の発電制御においては、加湿温度として予め設定して制御部150内に記憶された初期値が用いられる。
以上のように構成された本実施例の燃料電池システムによれば、氷点下履歴積算値に基づいて、供給ガスの加湿量を増加させるか否か、増加させる場合には加湿温度を何℃に設定するかを判断している。そのため、供給ガスの加湿量を増加させるか否か、増加させる場合には加湿温度を何℃に設定するか、を判断するために、触媒電極層の抵抗値を測定する必要がない。したがって、氷点下の温度条件下に曝されることに起因する触媒電極層の劣化による電池性能の低下を抑制する動作を、より簡素化することができる。また、触媒電極層の抵抗値を測定するための構成(交流インピーダンス測定部70等)が不要となるため、システム構成を簡素化することができる。
E.第3実施例:
第1実施例では、燃料電池20が氷点下の温度条件に曝されることに起因して進行する触媒電極層の劣化の程度を反映する値である低温起因劣化値として、氷点下履歴積算値を用いているが、異なる構成としても良い。第1実施例の氷点下履歴積算値を求める際には、燃料電池の温度が0℃を下回った度合いと、各度合いにおいて0℃を下回った時間とを掛け合わせて積算した。上記のような0℃を下回った度合いと同様に、氷点下の温度条件に曝されて電解質膜で発生する応力の大きさを反映する値を用いるならば、この反映する値と、応力が発生していた時間とを乗じて積算することにより、同様の低温起因劣化値を求めることができる。以下に、上記低温起因劣化値として、電解質膜で生じる応力の積算値を用い、触媒電極層の抵抗値測定の要否を判断する構成を、第3実施例として説明する。第3実施例の燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム10と同様の構成を備えており、共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。
図10は、第3実施例の燃料電池システムの起動時に、図5に示した処理に代えて、第3実施例の燃料電池システムが備える制御部250において実行される触媒電極層劣化判断処理ルーチンを表わすフローチャートである。第3実施例の制御部250は、図6に示した制御部50と同様の機能ブロックを備えているが、氷点下履歴積算部51に代えて、低温熱応力積算部251を備えている。
図10の触媒電極層劣化判断処理ルーチンが起動されると、制御部250の低温熱応力積算部251が、その時点での低温熱応力積算値を取得する(ステップS300)。低温熱応力積算値とは、燃料電池20の温度が0℃を下回っている条件下において、電解質膜22で発生した熱応力と、この熱応力を発生していた時間とを掛け合わせて積算した値である。以下に、電解質膜22で発生する低温熱応力と、触媒電極層の劣化との関係について説明する。
図11は、高分子電解質膜における、温度条件と、電解質膜内で発生する応力との関係を調べた結果を例示する説明図である。ここでは、A膜とB膜と表わした2種類の電解質膜について、応力を測定した結果を表わしている。A膜としては、ポリエチレン多孔質シート(膜厚11μm)をNafion溶液(デュポン社製)に含浸し、上記シートの空孔内にNafion溶液を含浸させて、さらにこの溶液を上記シートの両面に8μmずつ塗布して厚さ27μmにした膜を用いた。また、B膜としては、デュポン社製の電解質膜(NRE212CS)を用いた。これら2種類の膜の各々について、引張試験機を用いて、両端を固定した状態で温度を30℃から−30℃まで徐々に低下させ、各温度において膜に発生する力を、膜発生応力として測定した。図11に示すように、高分子電解質膜は、温度が低くなるほど収縮して、より大きな応力を発生する。このとき、所定の温度において電解質膜で発生する応力は、電解質膜によって定まった値となる。具体的には、温度をx、膜発生応力をyとすると、xとyとの関係は、以下に(2)式および(3)式として示す近似式によって表わすことができた。(2)式はA膜についての式であり、(3)式はB膜についての式である。
y=0.00459x2−0.473x+9.42 …(2)
y=0.000281x2−0.0748x+1.71 …(3)
図12は、上記A膜およびB膜を用いて図2に示す本実施例と同様の燃料電池を組み立て、氷点下の温度条件に曝す条件を種々変更して、その結果生じる燃料電池の性能低下の程度を比較した結果を表わす説明図である。図12では、各々の電解質膜を用いた燃料電池を氷点下の温度条件に曝す条件(冷熱条件)は、図3と同様に表わしている。また、図12では、各条件に対して、氷点下履歴積算値を、図3と同様に記載している。さらに、図12では、各条件に対して、低温熱応力積算値を記載している。低温熱応力積算値とは、燃料電池の温度が0℃を下回っているときに、電解質膜内で発生している応力と、この応力が発生している時間とを掛け合わせて積算した値をいう。図12の各条件においては、「氷点下で燃料電池温度を保持したときの温度(氷点下保持温度)における図11から求められる膜発生応力」と、「氷点下の温度を保持したソーク時間とサイクル数の積」とを掛け合わせた値となる。なお、80℃と各氷点下保持温度との間を温度変化する際に、各氷点下保持温度よりも高温の氷点下温度となる状態を経由するが、このような温度が変化する時間は、ソーク時間に比べて極めて短いため(例えば、30分程度)、低温熱応力積算値を算出する際には無視している。
上記のような冷熱条件で処理を行なった後に、各燃料電池について、一定の条件で発電反応を行なわせて電圧を測定し、冷熱条件の処理を行なう前の初期値との比較を行なった。発電の条件は、図3に示した性能低下量としての電圧低下量を測定したときと同じである。
図13は、図12に示した結果を、横軸に氷点下履歴積算値をとり、縦軸に上記冷熱条件を10サイクル行なった後の電圧低下量をとって表わしたグラフである。図13に示すように、氷点下保持温度やソーク時間にかかわらず、氷点下履歴積算値が大きくなるほど、電圧低下量(性能低下の度合い)が大きくなった。このとき、氷点下履歴積算値と電圧低下量とは、用いた電解質膜毎に、それぞれ一定の対応関係を示した。
図14は、図12に示した結果を、横軸に低温熱応力積算値をとり、縦軸に上記冷熱条件を10サイクル行なった後の電圧低下量をとって、A膜およびB膜についてのデータを区別無く合わせて表わしたグラフである。図14に示すように、低温熱応力積算値が大きくなるほど電圧低下量は大きくなり、用いた電解質膜の種類にかかわらず、低温熱応力積算値と電圧低下量とは一定の対応関係を示した。具体的には、低温熱応力積算値をx、電圧低下量をyとすると、xとyとの関係は、以下に(4)式として示す近似式によって表わすことができた。
y=17.0e0.00058x …(4)
このように、低温熱応力積算値を求めて、用いた燃料電池について予め求めた(4)式のような低温熱応力積算値と電圧低下量との関係に基づくことによって、氷点下の温度条件に起因する触媒電極層の劣化の程度(燃料電池の性能低下の程度)を、推定することが可能と考えられる。図12および図13に示すように、氷点下履歴積算値が同じであっても、用いる電解質膜が異なれば、燃料電池の性能低下の程度は異なる。これに対して、低温熱応力積算値を基準とすることにより、図14に示すように、用いる電解質膜に関わらず、同じように触媒電極層の劣化の程度を評価することが可能になる。
なお、温度が低下することにより電解質膜に生じる応力は、図11に示すように0℃以上であっても発生する。しかしながら、触媒電極層の劣化(触媒電極層の剥離等)は、主として、凍結して硬くなった触媒電極層間で保持される電解質膜が収縮して、電解質膜と触媒電極層の界面に応力が発生することによって進行すると考えられる。そのため、触媒電極層の劣化の程度に影響する電解質膜における応力の積算値としては、0℃以下の温度条件における低温熱応力積算値を用いた。
本実施例の燃料電池システムの低温熱応力積算部251は、常に、一定の時間間隔で、温度センサ62から燃料電池20の内部温度を取得している。そして、燃料電池20の内部温度として氷点下の温度が検出されたときには、制御部250内に予め記憶しておいた図11のようなマップを参照して、その温度条件下で電解質膜22において発生している応力を求めている。低温熱応力積算部251は、このような応力が、上記時間間隔の間中、電解質膜22内で発生しているものとして、マップを参照して求められた膜発生応力と上記時間間隔とを乗算し、それまでに求められた低温熱応力積算値にさらに積算する動作を繰り返している。このようにして、低温熱応力積算部251では、燃料電池システムが製造されてからその時点までの低温熱応力積算値が常に求められている。そして、ステップS300では、その時点における低温熱応力積算値が取得される。
その後、制御部250の抵抗測定判断部52が、低温熱応力基準値を取得すると共に(ステップS310)、低温熱応力積算部251が取得した低温熱応力積算値と、上記低温熱応力基準値との比較を行なう(ステップS320)。この抵抗測定判断部52による動作は、触媒電極層の抵抗値の測定を行なう必要の有無を判断するためのものである。ステップS310で取得する低温熱応力基準値は、燃料電池20について予め調べられた図14および(4)式に示した低温熱応力積算値と電圧低下量との関係に基づいて、予め定めて制御部250内に記憶されているものである。本実施例の制御部250には、複数の低温熱応力基準値が記憶されており、その中の最も小さい値は、許容できない程度に電圧が低下し始める可能性がある時に対応する低温熱応力積算値として設定されている。燃料電池システムにおける低温熱応力基準値の初期値は、上記最も小さい値となっている。そして、ステップS320において、低温熱応力積算値が、ステップS310で取得された低温熱応力基準値を超えると判断されたときには、次回起動時に触媒電極層劣化判断処理ルーチンが実行されるときには、ステップS310において、低温熱応力基準値として、1段階大きな値が取得される。その後、ステップS320で低温熱応力積算値が上記低温熱応力基準値を超えると判断されるまで、この新たに取得された1段階大きな値としての低温熱応力基準値が、繰り返し用いられる。ステップS320において低温熱応力積算値が上記低温熱応力基準値を超えると判断されると、それ以後の起動時におけるステップS310では、低温熱応力基準値として、さらに1段階大きな値が取得される。
本実施例においては、ステップS320よりも後の工程であるステップS330〜370は、第1実施例のステップS130〜S170と同様に行なわれる。すなわち、低温熱応力積算値に基づいて、触媒電極層の抵抗値を測定する必要があると判断されたときには、交流インピーダンス法により触媒電極層の抵抗値を測定する。そして、触媒電極層の抵抗値が基準値を超えている場合には、上記抵抗値が基準値以下となるまで、供給ガスにおける加湿量を増加させる制御を行なう。
以上のように構成された第3実施例の燃料電池システムによれば、低温熱応力積算値に基づいて触媒電極層の劣化の進行が推定される場合にのみ、触媒電極層の抵抗値を測定するため、第1実施例と同様の効果が得られる。具体的には、不必要な触媒電極層の抵抗値の測定動作を抑制することにより、触媒電極層の抵抗値を測定することに起因して使用者に与える不快感や待ち時間を抑制し、使い勝手を向上させることができる。また、触媒電極層の抵抗値が上昇しているときには、供給ガス量の増加という対策を取るため、触媒電極層の抵抗測定の動作を削減しても、必要な判断を行なって、燃料電池の性能を維持するために必要な処理を実行することが可能になる。
特に、本実施例では、電解質膜の中で発生している応力に基づいているため、触媒電極層の劣化の進行を推定する精度を向上させることができる。例えば、電解質膜の特性(氷点下履歴積算値に対する電圧低下量の関係)が、電解質膜の構造の変化等により経時的に変化する場合には、触媒電極層の劣化の進行を推定する精度を特に高めることができる。このような場合には、低温熱応力積算値を求めるために用いる図11のようなマップを経時的に異ならせて低温熱応力積算値を求めることにより、単に氷点下履歴積算値を用いる場合よりも、触媒電極層の劣化の程度を正確に推定することが可能になる。触媒電極層の劣化の程度の推定の精度が向上することにより、触媒電極層の抵抗値を測定するための不必要な動作を、さらに抑制することができる。
なお、第3実施例では、低温熱応力積算値に基づいて触媒電極層が劣化していると判断される場合には、触媒電極層の抵抗値を実測しているが、異なる構成としても良い。すなわち、第2実施例における氷点下履歴積算値に代えて低温熱応力積算値を用い、低温熱応力積算値に基づいて、触媒電極層の抵抗値の低減のための加湿量制御を行なっても良い。この場合には、例えば、低温熱応力積算値が複数の基準値を順次超えるごとに、加湿量を増加させる制御を行なえばよい。
また、第3実施例では、電解質膜に発生する応力を、温度と対応づけることによってマップを参照して求めているが、実測することとしても良い。電解質膜に発生する応力は、電解質膜の弾性率と歪み(電解質膜の膜平面方向変化量を変形前の膜平面方向の厚さで除した値)の積として求めることができる。電解質膜の弾性率および電解質膜の変形前の厚みは一定の値に定まるものとして、膜の変形量(膜平面方向変化量)を経時的に測定し、応力を算出してこれを積算することによって、第3実施例と同様の供給ガス加湿量の増加に係る制御を行なうことができる。
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
F1.変形例1:
第1あるいは第2実施例では、触媒電極層の抵抗値上昇を抑制するために、加湿部36,46における加湿温度1℃ずつ上昇させることで、燃料電池20に供給するガスの加湿量を増加させているが、異なる構成としても良い。例えば、加湿温度の上昇の幅を、1℃以外としても良く、また、測定した触媒電極層の抵抗値と基準値との差に応じて、加湿温度の上昇の幅を適宜変更しても良い。測定した触媒電極層の抵抗値と基準値との差が大きいほど加湿温度の上昇の幅を大きくすれば、触媒電極層の劣化が進行した場合であっても、速やかに電池性能を回復させることができる。また、第1ないし第3実施例とは異なり、加湿部としてバブラ以外の構成を用いる場合には、実施例と同様の判断を行なった上で、用いる加湿部の種類に応じて、適宜、加湿量を増加させる制御を行なえばよい。
F2.変形例2:
第1あるいは第3実施例では、交流インピーダンス測定部70によって、燃料電池20の正負両極端子に交流の電圧を入力しつつ、正負両極端子間を流れる交流の電流を検出することにより、正負両極端子間の交流インピーダンスを測定しているが、異なる構成としても良い。例えば、実施例のようにスタック全体として触媒電極層の抵抗を測定するのではなく、スタックを構成する特定のセルについて、交流インピーダンス法により触媒電極層の抵抗を測定することとしても良い。この場合には、上記特定のセルにおける触媒電極層の抵抗上昇に基づいて、燃料電池内の湿潤状態を上昇させる制御を行なうことにより、実施例と同様の効果を得ることができる。あるいは、連続して配置された複数のセルであって、スタックを構成する一部のセルについて、触媒電極層の抵抗を測定する動作を行なっても良い。
F3.変形例3:
第1ないし第3実施例では、触媒電極層の劣化が検出されたときには、供給ガスの加湿量を増加させることによって、燃料電池内部における湿潤状態を上昇させ、触媒電極層の抵抗上昇を抑制しているが、異なる構成としても良い。例えば、燃料電池20内部を循環させる冷媒を制御することによって、燃料電池20の内部温度を低下させる制御を行なっても良い。具体的には、実施例における加湿温度の上昇の動作に代えて、燃料電池20に供給する冷媒の流量の設定値を増加させたり、燃料電池20に供給する冷媒の温度をより低く設定する動作を行なえばよい。また、燃料電池20に供給する酸化ガスの流量を減少させて(負荷要求から理論的に必要とされる酸化ガス量に対する、実際に燃料電池20に供給する酸化ガス量の割合を減少させて)、酸化ガス流れによる燃料電池内部(特に触媒電極層および電解質膜)からの水の持ち去り量を抑制しても良い。また、燃料ガス流路と酸化ガス流路の少なくとも一方において、燃料電池からのガスの出口部に設けた背圧弁の開度を絞って背圧を上昇させることによって、ガス流れによる燃料電池内部からの水の持ち去り量を抑制しても良い。あるいは、燃料電池20からの出力がほぼ一定であるような運転制御を行なう場合には、触媒電極層の抵抗値に応じて燃料電池20からの出力電流値を次第に増加させて、発電に伴う生成水量を増加させても良い。結果的に燃料電池内部の水分量、具体的には触媒電極層の含水量が増加する制御であれば、同様の効果を得ることができる。
F4.変形例4:
第1実施例の構成と、第2実施例の構成とを組み合わせることとしても良い。すなわち、通常は、第2実施例のように、氷点下履歴積算値に基づいて、燃料電池の湿潤状態を上昇させる制御を行なう。そして、上記のように氷点下履歴積算値に基づいて湿潤状態を上昇させる制御を行なう頻度よりも低い頻度で、第1実施例のように触媒電極層の抵抗値を測定し、測定した抵抗値に基づいて、燃料電池の湿潤状態を上昇させる制御を行なえばよい。このような構成とすれば、触媒電極層の抵抗値を測定する頻度を第1実施例よりもさらに低くすると共に、触媒電極層の抵抗上昇を抑制する動作の信頼性を、第2実施例に比べて高めることができる。上記構成において、氷点下履歴積算値に代えて、第3実施例と同様の低温熱応力積算値を用いる場合にも、触媒電極層の抵抗測定の頻度を抑えつつ、触媒電極層の抵抗抑制の信頼性を高める同様の効果が得られる。
F5.変形例5:
第1ないし第3実施例の燃料電池システムでは、触媒電極層の抵抗値上昇を抑制して電池性能の維持を図っているが、このような構成では、触媒電極層の劣化状態そのものを回復することはできない。そのため、触媒電極層の劣化状態がある程度進行したと判断されるときには、劣化の進行を使用者に報知する報知部をさらに備えて、燃料電池の点検や交換を促すことが望ましい。例えば、第1実施例において、ステップS120で用いる氷点下履歴基準値が、用意した複数の氷点下履歴基準値の内の最大値、あるいは最大値に近い特定の値に達したときに、触媒電極層の劣化状態が、抵抗値を抑制できる限界に近い状態となったと判断して、使用者に報知すれば良い。あるいは、第1実施例のステップS160において、供給ガスの加湿量を予め設定した基準値まで増加させても、ステップS150において触媒電極層の抵抗値を充分に小さくすることができなくなった場合には、触媒電極層の劣化状態が、抵抗値を抑制できる限界に近い状態となったと判断して、使用者に報知すれば良い。使用者への報知は、例えば、使用者が視認可能な位置に設けた表示部への表示や、音声による報知とすることができる。
F6.変形例6:
第1ないし第3実施例では、触媒電極層の抵抗値が上昇していると判断されたときには、燃料ガスと酸化ガスの両方の加湿量を増加させているが、いずれか一方のガスの加湿量のみを増加させても良い。この場合には、加湿量を増加させたガスが供給される触媒電極層において、抵抗値上昇を抑制する効果を顕著に得ることができる。
10…燃料電池システム
20…燃料電池
21…単セル
22…電解質膜
23…アノード電極
24…カソード電極
25,26…ガス拡散層
27,28…セパレータ
27a…単セル内燃料ガス流路
28a…単セル内酸化ガス流路
30…燃料ガス供給部
35…燃料ガス供給路
36,46…加湿部
40…酸化ガス供給部
41…酸化ガス供給路
42…窒素供給部
43…窒素ガス供給路
44…切替弁
45…カソードガス供給路
50,150,250…制御部
51…氷点下履歴積算部
52…抵抗測定判断部
53…測定制御部
54…抵抗上昇判断部
55…湿潤状態上昇制御部
56…発電制御部
60…負荷
62…温度センサ
70…交流インピーダンス測定部
72…周波数掃引部
74…インピーダンス測定部
251…低温熱応力積算部

Claims (10)

  1. 電解質膜と該電解質膜の両面に形成された触媒電極層とを有する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
    氷点下の温度条件に曝されることに起因して進行する前記触媒電極層の劣化の程度を反映する値である低温起因劣化値を取得する低温起因劣化値取得部と、
    前記触媒電極層の抵抗値を測定する触媒抵抗測定部と、
    前記低温起因劣化値取得部が取得した前記低温起因劣化値に基づいて、前記触媒電極層の抵抗値を測定する必要の有無を判断する抵抗測定判断部と、
    前記抵抗測定判断部が、前記触媒電極層の抵抗値を測定する必要があると判断したときに、前記触媒抵抗測定部による前記触媒電極層の抵抗値の測定を行なわせる測定制御部と、
    を備える燃料電池システム。
  2. 請求項1記載の燃料電池システムであって、さらに、
    前記測定制御部が測定した前記触媒電極層の抵抗値が、予め定めた基準値を超えるか否かを判断する抵抗上昇判断部と、
    前記燃料電池内部における湿潤状態を上昇させる制御を行なう湿潤状態上昇部と、
    前記抵抗上昇判断部が、前記抵抗値が前記基準値を超えると判断したときに、前記湿潤状態上昇部による燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御を行なわせる湿潤状態上昇制御部と
    を備える燃料電池システム。
  3. 電解質膜と該電解質膜の両面に形成された触媒電極層とを有する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
    氷点下の温度条件に曝されることに起因して進行する前記触媒電極層の劣化の程度を反映する値である低温起因劣化値を取得する低温起因劣化値取得部と、
    前記低温起因劣化値取得部が取得した前記低温起因劣化値が、予め定めた基準値を超えるか否かを判断する低温起因劣化判断部と、
    前記燃料電池内部における湿潤状態を上昇させる制御を行なう湿潤状態上昇部と、
    前記低温起因劣化判断部が、前記低温起因劣化値が前記基準値を超えると判断したときに、前記湿潤状態上昇部による燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御を行なわせる湿潤状態上昇制御部と
    を備える燃料電池システム。
  4. 請求項1ないし3いずれか記載の燃料電池システムであって、
    前記低温起因劣化値は、氷点下の温度条件に曝されて前記電解質膜で応力が発生することに起因して進行する前記触媒電極層の劣化の程度を反映する値であり、前記応力の大きさを反映する値と該応力が発生していた時間とを乗じて積算することによって取得される値である
    燃料電池システム。
  5. 請求項4記載の燃料電池システムであって、
    前記応力の大きさを反映する値は、前記燃料電池の温度が0℃を下回った度合いであり、
    前記低温起因劣化値は、前記燃料電池の温度が0℃を下回った度合いと、各度合いにおいて0℃を下回った時間とを掛け合わせて積算した値としての氷点下履歴積算値である
    燃料電池システム。
  6. 請求項4記載の燃料電池システムであって、
    前記低温起因劣化値は、前記燃料電池の温度が0℃を下回っている条件下において、前記燃料電池が備える電解質膜で発生した応力と、該応力を発生していた時間とを掛け合わせて積算した値としての応力積算値である
    燃料電池システム。
  7. 請求項2記載の燃料電池システムであって、
    前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池に供給する燃料ガスおよび/または酸化ガス中の水蒸気量を、前記抵抗値が前記基準値を超えると判断された時点における水蒸気量よりも増加させる制御である
    燃料電池システム。
  8. 請求項3記載の燃料電池システムであって、
    前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池に供給する燃料ガスおよび/または酸化ガス中の水蒸気量を、前記低温起因劣化値が前記基準値を超えると判断された時点における水蒸気量よりも増加させる制御である
    燃料電池システム。
  9. 請求項2記載の燃料電池システムであって、
    前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池の内部温度を、前記抵抗値が前記基準値を超えると判断された時点における内部温度よりも低く設定する制御である
    燃料電池システム。
  10. 請求項3記載の燃料電池システムであって、
    前記燃料電池の湿潤状態を上昇させるための前記制御は、前記燃料電池の内部温度を、前記低温起因劣化値が前記基準値を超えると判断された時点における内部温度よりも低く設定する制御である
    燃料電池システム。
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