JP2011058377A - 内燃機関の筒内ガス温度推定装置 - Google Patents

内燃機関の筒内ガス温度推定装置 Download PDF

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Abstract

【課題】ピストンの頂部にキャビティが形成される場合において筒内ガスの温度を精度良く推定し得る内燃機関の筒内ガス温度推定装置を提供すること。
【解決手段】筒内ガス温度の推定に際し、クランク角度がTDCを含むCA1〜CA2の範囲外では、筒内ガスの全てがキャビティ外に存在すると仮定され、シリンダ側壁に対するスワール流速V1に基づく熱伝達率h1を用いて算出される「筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達量」に基づき筒内ガスの熱損失量が算出される(ステップ1018)。クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では、筒内ガスの全てがキャビティ内に存在すると仮定され、スピンアップにより増速されたキャビティ側壁に対するスワール流速V2(>V1)に基づく熱伝達率h2(>h1)を用いて算出される「筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達量」に基づき筒内ガスの熱損失量が算出される(ステップ1036)。
【選択図】図10

Description

本発明は、内燃機関の燃焼室に吸入されている筒内ガスの温度を推定する内燃機関の筒内ガス温度推定装置に関する。筒内ガスには新気に加えてEGRガスが含まれ得る。筒内ガスには燃料噴霧は含まれない。
近年、筒内ガスの温度(特に、圧縮上死点での圧縮端温度等)を精度良く推定し、その推定結果に基づいて燃焼を精度良く制御する要求が高まってきている。特に、圧縮による自己着火により混合気(筒内ガスと燃料噴霧とが混ざり合って形成される)が燃焼を開始するディーゼル機関においては、機関の運転状態に応じて着火時期を適切に制御する必要がある。この着火時期は着火前の筒内ガス温度に大きく依存する。従って、着火時期を適切に制御するためにも筒内ガス温度を精度良く推定する必要がある。
このような観点に基づき、下記特許文献1に記載の装置では、筒内ガスの温度が、燃焼室の容積変化に基づく筒内ガス温度の変化分に加えて、筒内ガスと燃焼室壁との間の熱伝達による筒内ガスの熱損失分にも基づいて推定されるようになっている。この熱損失分は、筒内ガスと燃焼室壁との間の熱伝達率と、熱伝達に係わる燃焼室壁の表面積と、筒内ガスと燃焼室壁との温度差とに基づいて算出されている。
特開2007−77838号公報
ところで、燃焼効率の向上等の観点より、ピストンの頂部にキャビティが形成される場合がある。この場合、キャビティ外に存在する筒内ガスについての熱伝達は、主としてシリンダの壁(特に、シリンダ側壁)と間で行われ、キャビティ内に存在する筒内ガスについての熱伝達は、主としてキャビティの壁(特に、キャビティ側壁)との間で行われる。
一般に、シリンダ壁とキャビティ壁とでは、壁温度が異なることに加え、壁に対する筒内ガスのスワール流の相対流速(スワール流速)も異なる。壁に対するスワール流速が異なると、筒内ガスと壁との間の熱伝達率も異なる。従って、ピストンの頂部にキャビティが形成される場合において筒内ガスの温度を精度良く推定するためには、筒内ガスとシリンダ壁との熱伝達と、筒内ガスとキャビティ壁との熱伝達とを個別に扱う必要があると考えられる。
しかしながら、上記文献に記載の装置では、筒内ガスとシリンダ壁との熱伝達と、筒内ガスとキャビティ壁との熱伝達とを個別に扱う点について何らの考慮がなされていない。従って、筒内ガス温度を精度良く推定する上で改善の余地があった。
本発明は、かかる課題に対処するためになされたものであって、その目的は、ピストンの頂部にキャビティが形成される場合において筒内ガスの温度を精度良く推定し得る内燃機関の筒内ガス温度推定装置を提供することにある。
即ち、本発明に係る筒内ガス温度推定装置は、少なくとも内燃機関のシリンダと、頂部にキャビティが形成されたピストンとにより画定された燃焼室内に吸入されている筒内ガスの温度を推定する。ピストンの頂部にキャビティが形成されている場合、燃焼室内にて、吸気流に起因して筒内ガスのスワール流(シリンダ側壁・キャビティ側壁に沿う周方向の流れ)が発生することに加えて、シリンダに対するピストンの移動に起因して筒内ガスのスキッシュ流(キャビティの外から内及び内から外への径方向の流れ)が発生する。
この筒内ガス温度推定装置では、クランク角度が圧縮上死点を含む所定範囲の外では筒内ガスの大部分がキャビティ外に存在し、クランク角度が前記所定範囲内では筒内ガスの大部分がキャビティ内に存在すると想定される。ここで、前記所定範囲としては、例えば、スキッシュ流におけるキャビティへ流入する方向の流速が最大となるクランク角度(第1クランク角度)からスキッシュ流におけるキャビティから流出する方向の流速が最大となるクランク角度(第2クランク角度)までの範囲が使用され得る。なお、第1、第2クランク角度は内燃機関の運転速度によらず一定である。
加えて、通常、シリンダは円筒状の側壁(直径=第1直径)を備え、キャビティはシリンダ側壁と同軸的に配置された円筒状の側壁(直径=第2直径(<第1直径))を備える。この場合、角運動量保存則等を考慮すると、筒内ガスの大部分がキャビティ内に存在する場合におけるキャビティ内でのスワール流(即ち、キャビティ側壁に対するスワール流)の流速(第2流速)は、筒内ガスの大部分がキャビティ外に存在する場合におけるキャビティ外でのスワール流(即ち、シリンダ側壁に対するスワール流)の流速(第1流速)よりも大きい。具体的には、角運動量保存則を考慮すると、第2流速は、第1流速に「第2直径に対する第1直径の割合(第1直径/第2直径)」を乗じた値に決定され得る。
ここで、壁に対するスワール流速が大きいほど、壁と筒内ガスとの間の熱伝達率が大きくなる。従って、筒内ガスの大部分がキャビティ内に存在する場合における筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達率は、筒内ガスの大部分がキャビティ外に存在する場合における筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達率よりも大きい。
係る想定のもと、この装置では、クランク角度が前記所定範囲外では、第1熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとシリンダ壁(側壁、内壁)との間の熱伝達の量に基づいて筒内ガスの熱損失量が算出される。一方、クランク角度が前記所定範囲内では、第1熱伝達率よりも大きい第2熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとキャビティ壁(側壁、内壁)との間の熱伝達の量に基づいて筒内ガスの熱損失量が算出される。そして、このように算出された筒内ガスの熱損失量に基づいて筒内ガスの温度が推定される。
上記構成によれば、筒内ガスとシリンダ壁との熱伝達と筒内ガスとキャビティ壁との熱伝達とが個別に扱われる。従って、筒内ガスに接触する壁との間での筒内ガスの熱損失の量が精度良く推定され得、この結果、筒内ガス温度が精度良く推定され得る。
上記本発明に係る筒内ガス温度推定装置においては、クランク角度が前記所定範囲外では筒内ガスの全てがキャビティ外に存在し、クランク角度が前記所定範囲内では筒内ガスの全てがキャビティ内に存在すると考えることもできる。この場合、クランク角度が前記所定範囲外では、筒内ガスの熱損失量として、第1熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとシリンダ壁との間の熱伝達量そのものが使用され、前記クランク角度が前記所定範囲内では、筒内ガスの熱損失量として、第2熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとキャビティ壁との間の熱伝達量そのものが使用され得る。これにより、筒内ガスの熱損失量の計算に要する負荷が極力小さくされ得る。
他方、上記本発明に係る筒内ガス温度推定装置においては、筒内ガスがキャビティ内外に存在するとともに、クランク角度が前記所定範囲外ではキャビティ内外の何れの筒内ガスも第1流速のスワール流を形成し、クランク角度が前記所定範囲内ではキャビティ外の筒内ガスが第1流速のスワール流を形成しキャビティ内の筒内ガスが第2流速のスワール流を形成していると考えることもできる。この場合、クランク角度が前記所定範囲外では、筒内ガスの熱損失量として、第1熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとシリンダ壁との間の熱伝達量と第1熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとキャビティ壁との間の熱伝達量との和が使用され、クランク角度が前記所定範囲内では、筒内ガスの熱損失量として、第1熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとシリンダ壁との間の熱伝達量と第2熱伝達率を用いて算出される筒内ガスとキャビティ壁との間の熱伝達量との和が使用され得る。これにより、筒内ガスの熱損失量の計算精度が極力良くされ得る。
上記本発明に係る筒内ガス温度推定装置においては、クランク角度が微小クランク角度だけ進行する毎に、筒内ガスの温度変化量が逐次算出されるとともにその温度変化量が逐次積算されていくことにより筒内ガスの温度が逐次推定されていくように構成され得る。この場合、具体的には、クランク角度が微小クランク角度だけ進行する毎に、燃焼室の容積の変化に基づく筒内ガス温度の変化分(第1変化分)と、前記微小クランク角度分に対応する筒内ガスの熱損失量に基づく筒内ガス温度の変化分(第2変化分)とが逐次算出され得る。そして、クランク角度が微小クランク角度だけ進行する毎に、これらの第1、第2変化分に基づいて筒内ガスの温度変化量が逐次算出され得る。
本発明の第1実施形態に係る内燃機関の筒内ガス温度推定装置を4気筒内燃機関(ディーゼル機関)に適用したシステム全体の概略構成図である。 図1に示したディーゼル機関における燃焼室の形状を示した模式図である。 クランク角度に対する筒内ガス温度の変化の一例を示したグラフである。 クランク角度に対するスキッシュ流速の変化の一例を示したグラフである。 図1に示した装置において想定される圧縮行程中期における、筒内ガスの存在領域、及びスワールの状態を示した模式図である。 図1に示した装置において想定される圧縮行程の第1クランク角度直前における、筒内ガスの存在領域、スワールの状態、及びスキッシュの状態を示した模式図である。 図1に示した装置において想定される圧縮上死点近傍における、筒内ガスの存在領域、及びスワールの状態を示した模式図である。 図1に示した装置において想定される膨張行程の第2クランク角度直前における、筒内ガスの存在領域、スワールの状態、及びスキッシュの状態を示した模式図である。 図1に示した装置において想定される膨張行程中期における、筒内ガスの存在領域、及びスワールの状態を示した模式図である。 図1に示したCPUが実行する筒内ガス温度の計算を行うためのルーチンを示したフローチャートである。 本発明の第2実施形態に係る内燃機関の筒内ガス温度推定装置において想定される圧縮行程中期における、筒内ガスの存在領域、及びスワールの状態を示した模式図である。 本発明の第2実施形態に係る内燃機関の筒内ガス温度推定装置において想定される圧縮行程の第1クランク角度直前における、筒内ガスの存在領域、スワールの状態、及びスキッシュの状態を示した模式図である。 本発明の第2実施形態に係る内燃機関の筒内ガス温度推定装置において想定される圧縮上死点近傍における、筒内ガスの存在領域、及びスワールの状態を示した模式図である。 本発明の第2実施形態に係る内燃機関の筒内ガス温度推定装置において想定される膨張行程の第2クランク角度直前における、筒内ガスの存在領域、スワールの状態、及びスキッシュの状態を示した模式図である。 本発明の第2実施形態に係る内燃機関の筒内ガス温度推定装置において想定される膨張行程中期における、筒内ガスの存在領域、及びスワールの状態を示した模式図である。 本発明の第2実施形態に係る内燃機関の筒内ガス温度推定装置のCPUが実行する筒内ガス温度の計算を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
以下、本発明による内燃機関(ディーゼル機関)の筒内ガス温度推定装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、係る内燃機関の制御装置の第1実施形態を4気筒内燃機関(ディーゼル機関)10に適用したシステム全体の概略構成を示している。このシステムは、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20の各気筒の燃焼室(筒内)にガスを導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを放出するための排気系統40、排気還流を行うためのEGR装置50、及び電気制御装置60を含んでいる。
エンジン本体20の各気筒の上部には燃料噴射弁21が配設されている。各燃料噴射弁21は、図示しない燃料タンクと接続された燃料噴射用ポンプ22に燃料配管23を介して接続されている。燃料噴射用ポンプ22は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の圧力(レール圧)を調整できるようになっている。また、各燃料噴射弁21は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の量(燃料噴射量)を調整できるようになっている。
吸気系統30は、エンジン本体20の各気筒の燃焼室にそれぞれ接続された吸気マニホールド31、吸気マニホールド31の上流側集合部に接続され同吸気マニホールド31とともに吸気通路を構成する吸気管32、吸気管32内に回動可能に保持されたスロットル弁33、電気制御装置60からの駆動信号に応答してスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流において吸気管32に順に介装されたインタクーラー34と過給機35のコンプレッサ35a、及び吸気管32の先端部に配設されたエアクリーナ36とを含んでいる。
排気系統40は、エンジン本体20の各気筒にそれぞれ接続された排気マニホールド41、排気マニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、排気管42に配設された過給機35のタービン35b、及び排気管42に介装された吸蔵還元型のNOx触媒(以下、「NOx触媒」と呼ぶ。)43を含んでいる。排気マニホールド41及び排気管42は排気通路を構成している。タービン35b内には、タービン35bの容量を調整するためのバリアブルノズル35b1が備えられている。バリアブルノズル35b1は、電気制御装置60からの駆動信号に応答し、タービン35bの容量を変更し得るようになっている。
EGR装置50は、排気ガスを還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51と、排気還流管51に介装されたEGR制御弁52と、EGRクーラー53とを備えている。排気還流管51はタービン35bの上流側排気通路(排気マニホールド41)とスロットル弁33の下流側吸気通路(吸気マニホールド31)を連通している。EGR制御弁52は電気制御装置60からの駆動信号に応答し、再循環される排気ガス量(排気還流量、EGRガス流量、EGR率)を変更し得るようになっている。なお、EGR率とは、本例では、燃焼室に流入する全ガス流量(新気流量+EGRガス流量)に対するEGRガス流量の割合をいう。
電気制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するプログラム、テーブル(マップ)、及び定数等を予め記憶したROM62、RAM63、バックアップRAM64、並びにADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース65は、熱線式エアフローメータ71、スロットル弁開度センサ72、吸気温度センサ73、クランクポジションセンサ74、アクセル開度センサ75、EGR制御弁開度センサ76、水温センサ77、空燃比センサ78、及び吸気圧力センサ79と接続されていて、これらのセンサからの信号をCPU61に供給するようになっている。
また、インターフェース65は、燃料噴射弁21、燃料噴射用ポンプ22、スロットル弁アクチュエータ33a、バリアブルノズル35b1、及びEGR制御弁52と接続されていて、CPU61の指示に応じてこれらに駆動信号を送出するようになっている。
熱線式エアフローメータ71は、吸気通路内を通過する吸入空気の質量流量(単位時間当りの吸入空気(新気)量)を計測するようになっている。スロットル弁開度センサ72は、スロットル弁33の開度を検出するようになっている。吸気温度センサ73は、吸気マニホールド31と排気還流管51との合流地点よりも下流の吸気通路内のガス(従って、エンジン10の燃焼室に吸入されるガス)の温度を検出するようになっている。
クランクポジションセンサ74は、実クランク角度とともにエンジン10の回転速度であるエンジン回転速度を検出するようになっている。アクセル開度センサ75は、アクセルペダルAPの操作量を検出するようになっている。EGR制御弁開度センサ76は、EGR制御弁52の開度を検出するようになっている。水温センサ77は、冷却水の温度を検出するようになっている。
空燃比センサ78は、NOx触媒43の上流の排気通路に配設されていて、NOx触媒43に流入する排ガスの空燃比に応じた出力を発生するようになっている。吸気圧力センサ79は、吸気マニホールド31と排気還流管51との合流地点よりも下流の吸気通路内のガスの圧力を検出するようになっている。
(燃焼室の形状)
図2に示すように、上記のように構成された本発明による筒内ガス温度推定装置の第1実施形態(以下、「本装置」と呼ぶ。)では、各気筒のシリンダは、直径D1の円筒状の内壁(シリンダ側壁)を備えている。各シリンダにはピストンが同軸的に往復運動可能に勘合されている。各ピストンの頂部には、上方に開口する円柱状のキャビティ(凹部)がシリンダ側壁と同軸的に形成されている。各キャビティは、直径D2(<D1)の円筒状の内壁(キャビティ側壁)により囲まれている。
キャビティ側壁の高さ(キャビティの深さ)H2は一定である。一方、シリンダ側壁のうち燃焼室を画定する範囲の高さH1は、クランク角度により変化する。図2に示すように、各気筒の燃焼室は、シリンダ側壁と、キャビティ側壁と、キャビティ底壁と、ピストンの上壁と、シリンダヘッドの下壁とにより画定されている。以下、燃焼室を画定するこれらの壁を総称して「燃焼室壁」と呼ぶ。燃焼室内に吸入されたガス(以下、「筒内ガス」と呼ぶ。)は、燃焼室壁との間で熱伝達を行い得る。
本装置では、ピストンの頂部にキャビティが形成されている。これにより、シリンダに対するピストンの往復運動に起因して、燃焼室内にて筒内ガスのスキッシュ流(キャビティの外から内及び内から外への径方向の流れ)が発生する。また、吸気行程における吸気の流れに起因して、燃焼室内にて筒内ガスのスワール流(シリンダ側壁、キャビティ側壁に沿う周方向の流れ)が発生する。
(筒内ガス温度の推定方法の概要)
次に、本装置による筒内ガス温度の推定方法について説明する。筒内ガスには、吸気管32の先端部からスロットル弁33を介して吸入された新気と、排気還流管51からEGR制御弁52を介して吸入されたEGRガスが含まれる。筒内ガスは吸気弁の閉弁により燃焼室に密閉される。その後、筒内ガスは、圧縮行程においてピストンの上昇(燃焼室の容積の減少)に伴って圧縮され、膨張行程においてピストンの下降(燃焼室の容積の増大)に伴って膨張する。
図3は、圧縮行程(吸気弁閉弁後)〜膨張行程におけるクランク角度に対する筒内ガス温度の変化の一例を示す。筒内ガス温度の変化は、上述したピストンの往復動による筒内ガスの圧縮・膨張により発生することに加え、筒内ガスと燃焼室壁との間の熱伝達による筒内ガスの熱損失によっても発生する。
筒内ガスの圧縮・膨張に起因する筒内ガス温度の変化量は、例えば、筒内ガスが断熱変化するとの仮定のもと、断熱変化を表す周知の関係式の1つを利用して求めることができる(詳細は、後述する図10のステップ1020等を参照)。以下、筒内ガスと燃焼室壁との間の熱伝達について考察する。
筒内ガスと燃焼室壁との間の熱伝達を考察するにあたり、先ず、スキッシュ流の流速(スキッシュ流速)について考える。図4は、圧縮行程(吸気弁閉弁後)〜膨張行程におけるクランク角度に対するスキッシュ流速の変化の一例を示す。図4において、(+)はスキッシュ流がキャビティの外から内へ移動する状態に対応し、(−)はスキッシュ流がキャビティの内から外へ移動する状態に対応する。
図4から理解できるように、スキッシュ流速は、圧縮上死点TDCの前(圧縮行程の後期)のクランク角度(第1クランク角度)CA1にて(+)方向にて最大となり、圧縮上死点TDCの後(膨張行程の前期)のクランク角度(第2クランク角度)CA2にて(−)方向にて最大となる。CA1,CA2はエンジン回転速度によらず一定である。
本装置では、CA1,CA2がエンジン回転速度によらず一定であることを利用して、クランク角度がCA1〜CA2の範囲外では筒内ガス(の大部分)がキャビティ外に存在し、クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では筒内ガス(の大部分)がキャビティ内に存在すると仮定される。この仮定は、クランク角度が(+)方向のスキッシュ流速が最大となるCA1に達した段階では筒内ガスの大部分がキャビティ外からキャビティ内に流入完了したと考えられること、並びに、クランク角度が(−)方向のスキッシュ流速が最大となるCA2に達した段階では筒内ガスの大部分がキャビティ内からキャビティ外に流出完了したと考えられること、に基づく。
加えて、本装置では、吸気行程における吸気の流れに起因して燃焼室内にて発生した筒内ガスのスワール流についての角運動量は、吸気弁閉弁以降の圧縮行程〜膨張行程に亘って保存されると仮定される。吸気弁閉弁時におけるシリンダ側壁に対するスワール流速(スワール流の相対速度)は値Vsであるものとする。
以下、図5〜図9を参照しながら、上記仮定に基づく筒内ガスの状態について説明する。図5〜図9において、微細なドットで示した領域は筒内ガスが存在する領域を示し、白抜きの太い矢印はスキッシュ流を示し、太い黒矢印はスワール流を示す。V1はシリンダ側壁に対するスワール流速(対シリンダ壁流速)であり、V2はキャビティ側壁に対するスワール流速(対キャビティ壁流速)である。
図5に示すように、圧縮行程中期では、クランク角度はCA1よりも十分に手前である。従って、筒内ガスがキャビティ外に存在すると仮定される。クランク角度がCA1よりも十分に手前にあることによりスキッシュ流は殆ど発生していない(図4を参照)。上述した角運動量保存により、対シリンダ壁流速V1は値Vsに維持されている。
図6に示すように、圧縮行程におけるクランク角度がCA1の直前にある段階では、(+)方向のスキッシュ流速が最大近傍となっている。しかしながら、この段階では未だクランク角度がCA1に達していないので、筒内ガスがキャビティ外に存在すると仮定される。また、図5に示す場合と同様、対シリンダ壁流速V1は値Vsに維持されている。
クランク角度がCA1に達すると、筒内ガスがキャビティ外からキャビティ内に移動し、以降、筒内ガスがキャビティ内に存在すると仮定される。即ち、図7に示すように、クランク角度がCA1の後の圧縮上死点TDCの近傍では、筒内ガスがキャビティ内に存在すると仮定される。この段階では、スキッシュ流は殆ど発生していない(図4を参照)。
また、筒内ガスがキャビティ外からキャビティ内に移動する際に、スワール流の回転直径(最大回転直径)がD1からD2に縮小する。このことにより、スワール流速が増大する(スピンアップ)。上述した角運動量保存を考慮すると、筒内ガスがキャビティ外からキャビティ内に移動した後における対キャビティ壁流速V2は下記(1)式に従って表すことができる。
V2=Vs・(D1/D2) …(1)
図8に示すように、TDCの後の膨張行程におけるクランク角度がCA2の直前にある段階では、(−)方向のスキッシュ流速が最大近傍となっている。しかしながら、この段階では未だクランク角度がCA2に達していないので、筒内ガスがキャビティ内に存在すると仮定される。また、図7に示す場合と同様、対キャビティ壁流速V2は値「Vs・(D1/D2)」に維持されている(スピンアップ)。
クランク角度がCA2に達すると、筒内ガスがキャビティ内からキャビティ外に移動し、以降、筒内ガスがキャビティ外に存在すると仮定される。即ち、図9に示すように、クランク角度がCA2の後の膨張行程中期では、筒内ガスがキャビティ外に存在すると仮定される。この段階では、スキッシュ流は殆ど発生していない(図4を参照)。
また、筒内ガスがキャビティ内からキャビティ外に移動する際に、スワール流の回転直径(最大回転直径)がD2からD1に拡大する。このことにより、スワール流速が減少する(スピンダウン)。上述した角運動量保存を考慮すると、筒内ガスがキャビティ内からキャビティ外に移動した後における対シリンダ壁流速V1は、図5、図6に示す場合の値と同じ値Vsに戻る。
以上のように、本装置では、クランク角度がCA1〜CA2の範囲外では、「筒内ガスの全てがキャビティ外に存在し、スワール流がシリンダ側壁に沿って流速(対シリンダ壁流速)V1=Vs(一定)をもって回転移動する」と仮定される。一方、クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では、「筒内ガスの全てがキャビティ内に存在し、スワール流がキャビティ側壁に沿って流速(対キャビティ壁流速)V2=Vs・(D1/D2)(一定)をもって回転移動する」と仮定される。
一般に、壁とその壁に接触するガスとの間の熱伝達率は、壁に対するガスの相対流速が大きいほど大きくなる。従って、上記の仮定のもと、クランク角度がCA1〜CA2の範囲外では、燃焼室壁のうちで筒内ガスとの相対速度が最も大きいのはシリンダ側壁である。従って、筒内ガスと熱伝達を行う主たる対象はシリンダ側壁と考えることができる。同様に、上記の仮定のもと、クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では、燃焼室壁のうち筒内ガスとの相対速度が最も大きいのはキャビティ側壁である。従って、筒内ガスと熱伝達を行う主たる対象はキャビティ側壁と考えることができる。
以上のことから、本装置では、クランク角度がCA1〜CA2の範囲外では、筒内ガスと熱伝達を行う対象がシリンダ側壁のみとされ、筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達のみが考慮される。この熱伝達における熱伝達率(対シリンダ壁熱伝達率)をh1とすると、h1は、対シリンダ壁流速V1(=Vs)に基づいて決定される。なお、筒内ガスと、シリンダ側壁以外の燃焼室壁(例えば、ピストンの上壁、シリンダヘッドの下壁)との間の熱伝達が考慮されてもよい。
同様に、クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では、筒内ガスと熱伝達を行う対象がキャビティ側壁のみとされ、筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達のみが考慮される。この熱伝達における熱伝達率(対キャビティ壁熱伝達率)をh2とすると、h2は、対キャビティ壁流速V2(=Vs・(D1/D2))に基づいて決定される。ここで、V2>V1の関係から、h2>h1という関係が成立する。なお、筒内ガスと、キャビティ側壁以外の燃焼室壁(例えば、キャビティ底壁)との間の熱伝達が考慮されてもよい。
本装置では、クランク角度が微小クランク角度ΔCAだけ進行する毎に、燃焼室の容積変化に起因する(筒内ガスの圧縮・膨張に基づく)筒内ガスの温度変化量(第1温度変化量)ΔT1と、筒内ガスと燃焼室壁(具体的にはシリンダ側壁又はキャビティ側壁)との間の熱伝達に起因する筒内ガスの温度変化量(第2温度変化量)ΔT2と、が算出される。クランク角度が微小クランク角度ΔCAだけ進行する毎に、下記(2)式に従って筒内ガスの温度変化量ΔTが算出される。
ΔT=ΔT1+ΔT2 …(2)
そして、所定のクランク角度範囲CAs〜CAe(図3を参照)において、クランク角度が微小クランク角度ΔCAだけ進行する毎に、下記(3)式に従って温度変化量ΔTが逐次積算されていくことで筒内ガス温度Tが逐次更新・推定されていく。以上が、本装置による筒内ガス温度の推定方法の概要である。
T=T+ΔT …(3)
以下、上述した本装置により筒内ガス温度Tが逐次推定されていく際の処理の流れについて、図10に示したフローチャートを参照しながら説明する。このフローチャートに示すルーチンは、例えば、燃料が噴射される気筒のクランク角度CAが初期値CAsに達する毎に繰り返し実行される。CAsは、例えば、吸気弁の閉弁時に対応するクランク角度である。
ステップ1002では、各種の初期値が算出される。具体的には、クランク角度CAが上述の初期値CAsに設定され、筒内ガス温度TがCAsに対応する初期値Tsに設定され、筒内ガス圧力PがCAsに対応する初期値Psに設定される。加えて、上記Vs(吸気弁閉弁時におけるシリンダ側壁に対するスワール流速)が算出され、燃焼室に吸入・密閉されている筒内ガスの量Msが算出される。
ここで、筒内ガス温度初期値Tsは、吸気弁閉弁時における吸気温度に略等しいとの仮定のもと、吸気温度センサ73の検出結果に基づいて算出され得る。筒内ガス圧力初期値Psは、吸気弁閉弁時における吸気圧力に略等しいとの仮定のもと、吸気圧力センサ79の検出結果に基づいて算出され得る。筒内ガス量Msは、上記算出されたPs,Tsと、「クランク角度と燃焼室容積との関係を規定する予め作製されたマップ」(CA−Vマップ)にCAsを入力することで算出される燃焼室容積初期値と、周知の気体の状態方程式と、に基づいて算出され得る。Vsは、例えば、吸気弁閉弁時におけるエンジン回転速度に基づいて算出され得る。エンジン回転速度が大きいほどVsはより大きい値に設定される。
ステップ1004では、下記(4)式に従って、クランク角度CAが微小クランク角度ΔCAだけ進行・更新される。
CA=CA+ΔCA …(4)
ステップ1006では、更新後のクランク角度CAにおける筒内圧力Pが算出される。この筒内圧力Pは、例えば、「CA−Vマップ」に更新後のクランク角度CAを入力することで算出される更新後の燃焼室容積と、現在のTと、上記Msと、周知の気体の状態方程式とに基づいて算出され得る。
ステップ1008では、シリンダ壁面積S1が算出される。S1は、シリンダ側壁のうち燃焼室を画定する範囲(筒内ガスと接触する範囲)の面積であり、具体的には、下記(5)式に従って算出され得る。H1(図2を参照)は、クランク角度とH1との関係を規定する予め作製されたマップに更新後のクランク角度CAを入力することで算出され得る。
S1=π・D1・H1 …(5)
ステップ1010では、更新後のクランク角度CAがCA1〜CA2の範囲内か否かが判定される。以下、先ず、CAがCA1〜CA2の範囲外にある場合について説明する。この場合(ステップ1010にて「No」)、ステップ1012にて、上記対シリンダ壁流速V1(シリンダ側壁に対するスワール流速)が上記Vs(一定)に設定される。
ステップ1014では、上記対シリンダ壁熱伝達率h1(筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達率)が算出される。h1は、例えば、V1と現在のPとに基づいて算出される。具体的には、V1が大きいほど、Pが大きいほど、h1はより大きい値に算出される。
ステップ1016では、シリンダ壁温度T1が算出される。T1は、例えば、水温センサ77から得られる冷却水温に基づいて算出され得る。ステップ1018では、筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達について、単位時間当たりの熱伝達量qが、下記(6)式に従って算出される。T1>Tのときq>0となり、T1<Tのときq<0となる。ここで、値(−q)が前記「筒内ガスの熱損失量」に対応する。
q=h1・S1・(T1−T) …(6)
ステップ1020では、クランク角度がΔCAだけ進行したことによる第1温度変化量ΔT1(上記(2)式を参照)が算出される。更新前のクランク角度CAにおける燃焼室容積をv1、更新後のクランク角度CAにおける燃焼室容積をv2としたとき、ΔT1は、現在のTと、断熱変化を表す周知の式とに基づいて下記(7)式に従って算出され得る。ここで、κは筒内ガスの比熱比である。v2<v1のときΔT1>0となり(圧縮行程)、v2>v1のときΔT1<0となる(膨張行程)。
ΔT1=((v1/v2)κ-1−1)・T …(7)
ステップ1022では、第2温度変化量ΔT2(上記(2)式を参照)が算出される。ΔT2は、下記(8)式に従って算出され得る。ここで、dt/dCAはエンジン回転速度から得られる。Cは筒内ガスの比熱である。q>0のときΔT2>0となり、q<0のときΔT2<0となる。(8)式の右辺の分子(q・ΔCA・(dt/dCA))は、クランク角度がΔCAだけ進行する間において筒内ガスが熱伝達により相手壁(具体的には、シリンダ側壁又はキャビティ側壁)から受ける熱量である。
ΔT2=(q・ΔCA・(dt/dCA))/(Ms・C) …(8)
ステップ1024では、上記のように算出されたΔT1,ΔT2と、上記(2)式とに基づいて、温度変化量ΔTが算出される。ステップ1026にて、このΔTと、上記(3)式とに基づいて、筒内ガス温度Tが更新される。ステップ1028では、更新後のクランク角度CAがCAe(図3を参照)に達したか否かが判定される。そして、ここで「No」と判定される限りにおいて、ステップ1004〜1026の処理が繰り返し実行される。ステップ1028にて「Yes」と判定されると、本ルーチンの処理が終了する。
次に、CAがCA1〜CA2の範囲内にある場合について説明する。この場合(ステップ1010にて「Yes」)、上述したステップ1012〜1018に代えて、ステップ1030〜1036が実行される。その他のステップ(ステップ1002〜1010、1020〜1028)の処理については、CAがCA1〜CA2の範囲外にある場合と同じであるのでそれらの詳細な説明は省略される。
先ず、ステップ1030にて、上記(1)式に従って、上記対キャビティ壁流速V2(キャビティ側壁に対するスワール流速)が「Vs・(D1/D2)」(一定)に設定される。
ステップ1032では、上記対キャビティ壁熱伝達率h2(筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達率)が算出される。h2は、例えば、V2と現在のPとに基づいて算出される。具体的には、V2が大きいほど、Pが大きいほど、h2はより大きい値に算出される。V2>V1の関係より、h2>h1の関係が成立する。
ステップ1034では、キャビティ壁温度T2が算出される。T2は、例えば、水温センサ77から得られる冷却水温に基づいて算出され得る。ステップ1036では、筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達について、単位時間当たりの熱伝達量qが、下記(9)式に従って算出される。T2>Tのときq>0となり、T2<Tのときq<0となる。ここで、値(−q)が前記「筒内ガスの熱損失量」に対応する。S2は、キャビティ側壁全体の面積であり、具体的には、下記(10)式に従って算出され得る。H2はキャビティ深さ(一定)である(図2を参照)。このように(9)式に従って算出されたqがステップ1022にて使用される(上記(8)式を参照)。
q=h2・S2・(T2−T) …(9)
S2=π・D2・H2 …(10)
以上、説明したように、本発明による内燃機関の筒内ガス温度推定装置の第1実施形態によれば、筒内ガス温度の推定に際し、クランク角度がTDCを含むCA1〜CA2の範囲の外では、筒内ガスの全てがキャビティ外に存在すると仮定され、対シリンダ壁流速V1(=Vs)に基づいて得られる対シリンダ壁熱伝達率h1を用いて算出される「筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達量」に基づいて筒内ガスの熱損失量が算出される(上記(6)式を参照)。一方、クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では、筒内ガスの全てがキャビティ内に存在すると仮定され、スピンアップにより増速された対キャビティ壁流速V2(=Vs・(D1/D2)>V1)に基づいて得られる対キャビティ壁熱伝達率h2(>h1)を用いて算出される「筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達量」に基づいて筒内ガスの熱損失量が算出される(上記(9)式を参照)。
このように、筒内ガスとシリンダ側壁との熱伝達と筒内ガスとキャビティ側壁との熱伝達とが個別に扱われる。従って、筒内ガスに接触する壁との間での筒内ガスの熱損失の量が精度良く推定され得る。この結果、筒内ガス温度が精度良く推定され得る。
(第2実施形態)
次に、本発明による内燃機関の筒内ガス温度推定装置の第2実施形態について説明する。上述した図5〜図9にそれぞれ対応する図11〜図15に示すように、第2実施形態では、クランク角度がCA1〜CA2の範囲の内外によらず筒内ガスがキャビティの内外(即ち、燃焼室の全体)に亘って存在すると仮定される。
加えて、クランク角度がCA1〜CA2の範囲外では、スワール流がシリンダ側壁に沿って対シリンダ壁流速V1=Vs(一定)をもって回転移動するとともに、スワール流がキャビティ側壁に沿って対キャビティ壁流速V2=Vs(一定)をもって回転移動する」と仮定される。V2=V1とされるのは、筒内ガスの大部分がキャビティ外に存在することにより上述したスピンアップが作用し難いであろうと考えられることに基づく。
一方、クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では、スワール流がシリンダ側壁に沿って対シリンダ壁流速V1=Vs(一定)をもって回転移動するとともに、スワール流がキャビティ側壁に沿って対キャビティ壁流速V2=Vs・(D1/D2)>V1(一定)をもって回転移動する」と仮定される。V2>V1とされるのは、筒内ガスの大部分がキャビティ内に存在することにより上述したスピンアップが作用し易いであろうと考えられることに基づく。
第2実施形態では、筒内ガスと熱伝達を行う対象がシリンダ側壁及びキャビティ側壁とされ、「筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達」と「筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達」が考慮される。対シリンダ壁熱伝達率h1(筒内ガスとシリンダ側壁との間の熱伝達率)は、クランク角度がCA1〜CA2の範囲の内外によらず、対シリンダ壁流速V1(=Vs)に基づいて決定される。一方、対キャビティ壁熱伝達率h2(筒内ガスとキャビティ側壁との間の熱伝達率)は、クランク角度がCA1〜CA2の範囲外では対キャビティ壁流速V2(=Vs)に基づいて決定され、クランク角度がCA1〜CA2の範囲内では対キャビティ壁流速V2(=Vs・(D1/D2))に基づいて決定される。なお、筒内ガスと、シリンダ側壁及びキャビティ側壁以外の燃焼室壁(例えば、ピストンの上壁、シリンダヘッドの下壁、キャビティ底壁)との間の熱伝達が考慮されてもよい。
図16は、第2実施形態により筒内ガス温度Tが逐次推定されていく際の処理の流れを示す図10に対応するフローチャートである。図16において太枠で示したステップが図10に示すステップと相違する部分に対応する。図16に示すように、第2実施形態では、下記(11)式に従って、単位時間当たりの熱伝達量qが算出される(ステップ1614を参照)。
q=h1・S1・(T1−T)+h2・S2・(T2−T) …(11)
以上、第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様、筒内ガスとシリンダ側壁との熱伝達と筒内ガスとキャビティ側壁との熱伝達とが個別に扱われることで、筒内ガス温度が精度良く推定され得る。
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記各実施形態においては、熱伝達率h1,h2がスワール流速に基づいて算出されているが、スワール比に基づいて算出されてもよい。また、熱伝達率h1,h2が一定であってもよい。
加えて、上記各実施形態はディーゼル機関に適用されているが、火花点火式内燃機関に適用されてもよい。
60…電気制御装置、61…CPU、73…吸気温度センサ、77…水温センサ、79…吸気圧力センサ

Claims (6)

  1. 少なくとも内燃機関のシリンダと、頂部にキャビティが形成されたピストンとにより画定された燃焼室内に吸入されている筒内ガスの温度を推定する内燃機関の筒内ガス温度推定装置であって、
    クランク角度が圧縮上死点を含む所定範囲の外では第1熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記シリンダの壁との間の熱伝達の量に基づいて前記筒内ガスの熱損失量を算出し、クランク角度が前記所定範囲内では前記第1熱伝達率よりも大きい第2熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記キャビティの壁との間の熱伝達の量に基づいて前記筒内ガスの熱損失量を算出する熱損失量推定手段と、
    前記筒内ガスの熱損失量に基づいて前記筒内ガスの温度を推定する筒内ガス温度推定手段と、
    を備えた、内燃機関の筒内ガス温度推定装置。
  2. 請求項1に記載の内燃機関の筒内ガス温度推定装置において、
    前記熱損失量推定手段は、
    前記クランク角度が前記所定範囲外では、前記第1熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記シリンダの壁との間の熱伝達の量を前記筒内ガスの熱損失量として使用し、前記クランク角度が前記所定範囲内では、前記第2熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記キャビティの壁との間の熱伝達の量を前記筒内ガスの熱損失量として使用するように構成された内燃機関の筒内ガス温度推定装置。
  3. 請求項1に記載の内燃機関の筒内ガス温度推定装置において、
    前記熱損失量推定手段は、
    前記クランク角度が前記所定範囲外では、前記第1熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記シリンダの壁との間の熱伝達の量と前記第1熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記キャビティの壁との間の熱伝達の量との和を前記筒内ガスの熱損失量として使用し、前記クランク角度が前記所定範囲内では、前記第1熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記シリンダの壁との間の熱伝達の量と前記第2熱伝達率を用いて算出される前記筒内ガスと前記キャビティの壁との間の熱伝達の量との和を前記筒内ガスの熱損失量として使用するように構成された内燃機関の筒内ガス温度推定装置。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の内燃機関の筒内ガス温度推定装置において、
    前記熱損失量推定手段は、
    前記所定範囲として、前記シリンダに対する前記ピストンの移動に伴って前記燃焼室内にて発生する前記筒内ガスのスキッシュ流における前記キャビティへ流入する方向の流速が最大となるクランク角度から前記スキッシュ流における前記キャビティから流出する方向の流速が最大となるクランク角度までの範囲を使用するように構成された内燃機関の筒内ガス温度推定装置。
  5. 請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の内燃機関の筒内ガス温度推定装置において、
    前記シリンダは第1直径を有する円筒状の側壁を備えるとともに、前記キャビティは前記第1直径よりも小さい第2直径を有するとともに前記シリンダ側壁と同軸的に配置された円筒状の側壁により囲まれていて、
    前記熱損失量推定手段は、
    前記シリンダ側壁に対する前記筒内ガスのスワール流の相対流速である第1流速に基づいて前記第1熱伝達率を決定するとともに、前記キャビティ側壁に対する前記スワール流の相対流速である第2流速に基づいて前記第2熱伝達率を決定し、
    前記第2流速を、前記第1流速に前記第2直径に対する前記第1直径の割合を乗じた値に決定するように構成された内燃機関の筒内ガス温度推定装置。
  6. 請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の内燃機関の筒内ガス温度推定装置において、
    前記熱損失量推定手段は、
    クランク角度が微小クランク角度だけ進行する毎に前記微小クランク角度分に対応する前記筒内ガスの熱損失量を逐次算出し、
    前記筒内ガス温度推定手段は、
    クランク角度が前記微小クランク角度だけ進行する毎に、前記燃焼室の容積の変化に基づく前記筒内ガス温度の第1変化分と、前記微小クランク角度分に対応する前記筒内ガスの熱損失量に基づく前記筒内ガス温度の第2変化分とを逐次算出するとともに、前記第1、第2変化分に基づいて前記筒内ガスの温度変化量を逐次算出し、
    クランク角度が前記微小クランク角度だけ進行する毎に、前記温度変化量を逐次積算していくことにより前記筒内ガスの温度を逐次推定していくように構成された内燃機関の筒内ガス温度推定装置。
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