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Description
本発明は、ストライプ状に加工されたa面サファイア基板を用いてm面III 族窒化物半導体を製造する方法に関するもので、特に、m面III 族窒化物半導体の欠陥を低減することができる製造方法に関する。また、ストライプ状の凹部を有したa面サファイア基板上にm面を主面とするIII 族窒化物半導体が形成された基板に関する。
従来のIII 族窒化物半導体からなる発光素子は、III 族窒化物半導体層の主面が極性面であるc面であり、結晶内部にピエゾ電界が誘起されるため、内部量子効率の低下などの問題がある。一方、ピエゾ電界は、m面、a面などの無極性面や、r面などの半極性面では発生しないことが知られている。そのため、それらの無極性面や半極性面を主面とするIII 族窒化物半導体を結晶成長させる技術が開発検討されており、たとえば特許文献1の結晶成長方法がある。
特許文献1に記載の結晶成長方法では、まず、所定の面方位を主面とするサファイア基板にストライプ状の凹部を形成し、凹部側面にサファイアの特定の面方位を露出させる。続いて凹部側面にバッファ層を形成する。そして、凹部側面からバッファ層を介してIII 族窒化物半導体をc軸方向に成長させ、サファイア基板上部を埋めるようにしてIII 族窒化物半導体を結晶成長させる。これによって、サファイア基板上に特定の面方位を主面とするIII 族窒化物半導体を得ることができる。III 族窒化物半導体の主面の面方位は、サファイア基板の主面の面方位と、凹部側面の面方位によって決まり、たとえばa面サファイア基板を用い、凹部をm軸方向に沿ったストライプ状に形成し、凹部側面をc面もしくはそれに近い面方位とすれば、a面サファイア基板上にm面III 族窒化物半導体を結晶成長させることができる。
この特許文献1には、凹部の深さについての具体的な記述はあるが、凹部底面の幅やストライプの間隔については具体的な記述がなく、これらがm面III 族窒化物半導体の結晶性、表面平坦性に与える影響は不明である。
しかし、本発明者らが上記特許文献1に示された結晶成長方法でm面GaN結晶を作製してみたところ、凹部が形成されずにストライプ状に残されたサファイア基板表面(以下、テラスという)と凹部側面との段差部分(エッジ部)の上部にあたるm面GaN結晶の領域中に、多数の貫通転位が生じていることがわかった。本発明者らは、この貫通転位がストライプ状の凹部底面の幅などに依存しているものと考え、本発明の完成に至ったものである。
本発明の目的は、ストライプ状の凹部を有したa面サファイア基板上にm面III 族窒化物半導体を形成する場合に、m面III 族窒化物半導体のテラスエッジ部の上部の欠陥を低減し、かつ表面平坦性を高くすることである。
第1の発明は、a面を主面とするサファイア基板の表面に、長手方向がm軸方向に沿った帯状であり、サファイア基板の主面に平行な底面と、底面に角度を成した平面である2つの側面とを有した凹部を、一定の間隔で並んだストライプ状に複数形成し、凹部側面にバッファ層を形成し、凹部側面からバッファ層を介してIII 族窒化物半導体をc軸方向に成長させて、サファイア基板上にm面を主面とするIII 族窒化物半導体を形成するIII 族窒化物半導体の製造方法であって、凹部底面の幅は、15μm以下、凹部間に残った前記サファイア基板表面の幅は、20μm以下、凹部の深さは、50nm以上、凹部側面の前記サファイア基板主面に対する角度は、50〜90°、となるように凹部を形成し、2つの凹部側面のうち一方の凹部側面にマスクを形成し、他方の凹部側面からのみ、III 族窒化物半導体をc軸方向に成長させることを特徴とするIII 族窒化物半導体基板の製造方法である。
ここで、III 族窒化物半導体とは、一般式Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1)で表される化合物半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。n型不純物にはSi、p型不純物にはMgが通常用いられる。
本発明によってサファイア基板上に形成するm面III 族窒化物半導体には、n型やp型の不純物をドープしてもよく、物性、結晶性、結晶成長速度などの制御のための不純物をドープしてもよい。
サファイア基板表面への凹部の形成は、ドライエッチングなどによって行うことができる。
サファイア基板の主面は完全にa面である必要はなく、a面に対してc軸方向、またはm軸方向に5°程度のずれを有している面であってもよい。また、凹部の長手方向が完全にm軸方向に一致している必要はなく、m軸方向から5°程度ずれた方向であってもよい。また、サファイア基板上に形成されるIII 族窒化物半導体は、主面が完全にm面である場合だけでなく、m面に対してc軸方向、またはa軸方向に5°程度のずれを有している面も含む。
凹部底面の幅を15μm以下、凹部が形成されずに残されたサファイア基板表面(テラス)の幅を20μm以下とするのは、凹部底面の幅やテラスの幅を広くすると、貫通転位が減少する傾向にあるが、幅を広くしすぎると、III 族窒化物半導体で凹部やテラスを覆うことが難しくなり、表面平坦性が悪化してしまうからである。また、凹部底面またはテラスに垂直な方向をc軸方向として、凹部底面またはテラスからIII 族窒化物半導体が成長してしまい、m面III 族窒化物半導体結晶とc面III 族窒化物半導体結晶とが混在した結晶となってしまうからである。また、凹部底面の幅およびテラスの幅は、2μm以上が望ましい。幅を広くすることによってテラスエッジ部の割合が減少するため、そのテラスエッジ部の上部に発生する貫通転位を多数含むIII 族窒化物半導体の領域も減少し、その結果、III 族窒化物半導体の結晶性が向上するからである。したがって、凹部底面の幅は、2〜15μmが望ましく、テラスの幅は、2〜20μmが望ましい。結晶性、表面平坦性を良好とするため、凹部底面の幅は10μm以下ないし2〜6μmとすることが望ましく、2〜3μmとするとさらに望ましい。また、テラスの幅は10μm以下ないし2〜10μmとすることが望ましく、2〜3μmとするとさらに望ましい。
凹部の深さを50nm以上とするのは、これよりも浅いと凹部側面の面積が狭いため凹部側面からの成長が難しくなり、m面III 族窒化物半導体結晶を得難くなるためである。また、凹部を深くしすぎても、凹部の内部に原料ガスが入り込みにくくなり、凹部側面からの結晶成長が難しなるので、1.5μm以下とすることが望ましい。したがって、凹部の深さは、50nm〜1.5μmとするのが望ましい。凹部の深さは100nm以上ないし100nm〜1.5μmとすることがより望ましく、0.5〜1.5μmとするとさらに望ましい。
凹部底面と凹部側面が成す角度を50〜90°とするのは、50°よりも小さい角度では凹部側面からIII 族窒化物半導体を結晶成長させるのが難しくなるからである。なお、2つの凹部側面が成す角度はそれぞれ異なっていてもよいが、m面III 族窒化物半導体結晶の表面平坦性や結晶性を高めるために同じ角度とするのが望ましい。
2つの凹部側面のうち、一方はSiO2 などのIII 族窒化物半導体を結晶成長させないマスクで覆った方がよい。両方の側面からIII 族窒化物半導体を結晶成長させると、+c面(Ga極性面)の結晶と−c面(N極性面)の結晶が混在し、結晶性、表面平坦性が悪化してしまうからである。また、一方の凹部側面にマスクを形成すれば、テラスの両エッジ部のうち、マスク形成側のエッジ部上部において欠陥が発生せず、結晶性をより改善することができる。また、マスクを形成した側の凹部側面近傍は、結晶成長したIII 族窒化物半導体によって埋められずにボイドが形成される。そのボイドによってサファイア基板とIII 族窒化物半導体との熱膨張係数差、格子定数差に起因する応力を緩和することができ、ウェハの反りを低減することができる。
凹部側面に形成するバッファ層は、AlNやAlGaNなどからなる層を用いることができる。AlNからなるバッファ層は、たとえば、サファイア基板にアルミニウム源を供給してAl薄膜を形成し、その後アンモニアを供給して窒化処理を行うことで形成することができる。アルミニウム源には、TMA(トリメチルアルミニウム)などを用いることができる。また、サファイア基板を高温水素ガス処理し、エッチングと還元反応によってAl薄膜を形成し、その後窒化処理を行うことでAlNからなるバッファ層を形成してもよい。
また、サファイア基板上にm面を主面とするIII 族窒化物半導体を結晶成長させた後に、エッチング、研磨、レーザーリフトオフなどの公知の方法でサファイア基板を除去し、m面III 族窒化物半導体の自立基板を作製してもよい。このような自立基板を作製する場合は、m面III 族窒化物半導体は400μm以上の厚さに形成することが望ましい。
第2の発明は、第1の発明において、凹部の幅は6μm以下、凹部間に残ったサファイア基板表面の幅は10μm以下、凹部の深さは100nm以上、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度は60〜90°、となるよう凹部を形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法である。
第3の発明は、第2の発明において、凹部の幅は2〜3μm、凹部間に残ったサファイア基板表面の幅は2〜3μm、凹部の深さは0.5〜1.5μm、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度は75〜90°、となるよう凹部を形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法である。
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、III 族窒化物半導体は、GaNであることを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法である。
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、バッファ層は、AlNからなり、サファイア基板にトリメチルアルミニウムを供給してAl薄膜を形成し、その後アンモニアを供給してAl薄膜を窒化させてバッファ層を形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法である。
第6の発明は、a面を主面とするサファイア基板上に、m面を主面とするIII 族窒化物半導体が位置したIII 族窒化物半導体基板であって、サファイア基板のIII 族窒化物半導体側表面に、長手方向がm軸方向に沿った帯状であり、サファイア基板の主面に平行な底面と、底面に角度を成した平面である2つの側面とで構成された凹部を複数備え、各凹部は、一定の間隔でストライプ状に配置されていて、各凹部側面にバッファ層を有し、III 族窒化物半導体の一部領域は、各凹部側面にバッファ層を介して位置し、凹部底面の幅は、15μm以下、凹部間に残ったサファイア基板表面の幅は、20μm以下、凹部の深さは、50nm以上、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度は、50〜90°であり、2つの凹部側面のうち一方の凹部側面は、III 族窒化物半導体を結晶成長させないマスクに覆われていることを特徴とするIII 族窒化物半導体基板である。
第7の発明は、第6の発明において、凹部の幅は6μm以下、凹部間に残ったサファイア基板表面の幅は10μm以下、凹部の深さは100nm以上、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度は60〜90°、であることを特徴とするIII 族窒化物半導体基板である。
第8の発明は、第7の発明において、凹部の幅は2〜3μm、凹部間に残ったサファイア基板表面の幅は2〜3μm、凹部の深さは0.5〜1.5μm、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度は75〜90°、であることを特徴とするIII 族窒化物半導体基板である。
第9の発明は、第6の発明から第8の発明において、III 族窒化物半導体は、GaNであることを特徴とするIII 族窒化物半導体基板である。
第10の発明は、第6の発明から第9の発明において、2つの凹部側面のうち一方の凹部側面は、III 族窒化物半導体を結晶成長させないマスクに覆われている、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体基板である。
第1の発明のように、凹部底面の幅を15μm以下、テラスの幅を20μm以下、凹部の深さを50nm以上、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度を50〜90°、としてサファイア基板表面にストライプ状に複数の凹部を形成すると、m面を主面とするIII 族窒化物半導体結晶のテラスエッジ部の上部にあたる領域の結晶欠陥を低減することができ、また表面平坦性にも優れた良質なm面III 族窒化物半導体結晶を得ることができる。また、第1の発明によると、ある凹部側面から成長するIII 族窒化物半導体と、他の凹部側面から成長するIII 族窒化物半導体とが合体する領域であってサファイア基板近傍の領域にボイドが形成されるため、サファイア基板とIII 族窒化物半導体との熱膨張係数差、格子定数差に起因する応力を緩和することができ、室温に戻した際のウェハの反りを低減することができる。
また、一方の凹部側面にマスクを形成してIII 族窒化物半導体を成長させないようにしているので、そのマスクを形成した側のテラスエッジ部の上部にあたるIII 族窒化物半導体の領域中の結晶欠陥をより低減することができる。また、マスクを形成した凹部側面近傍はIII 族窒化物半導体によって埋められず、ボイドが発生する。そのボイドは、サファイア基板とIII 族窒化物半導体との熱膨張係数差、格子定数差に起因する応力を緩和するため、ウェハの反りを低減することができる。また、一方の凹部側面のみからIII 族窒化物半導体を結晶成長させているため、それぞれの凹部側面から成長した結晶が合体したときにc軸方向が揃い、結晶性がより改善する。
また、一方の凹部側面にマスクを形成してIII 族窒化物半導体を成長させないようにしているので、そのマスクを形成した側のテラスエッジ部の上部にあたるIII 族窒化物半導体の領域中の結晶欠陥をより低減することができる。また、マスクを形成した凹部側面近傍はIII 族窒化物半導体によって埋められず、ボイドが発生する。そのボイドは、サファイア基板とIII 族窒化物半導体との熱膨張係数差、格子定数差に起因する応力を緩和するため、ウェハの反りを低減することができる。また、一方の凹部側面のみからIII 族窒化物半導体を結晶成長させているため、それぞれの凹部側面から成長した結晶が合体したときにc軸方向が揃い、結晶性がより改善する。
また、第2の発明のように、凹部の幅を6μm以下、テラスの幅を10μm以下、凹部の深さを100nm以上、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度を60〜90°、としてサファイア基板表面にストライプ状に複数の凹部を形成すると、III 族窒化物半導体結晶のテラスエッジ部の上部にあたる領域の結晶欠陥をより低減することができる。
また、第3の発明のように、凹部の幅を2〜3μm、テラスの幅を2〜3μm、凹部の深さは0.5〜1.5μm、凹部側面のサファイア基板主面に対する角度を75〜90°、としてサファイア基板表面にストライプ状に複数の凹部を形成すると、III 族窒化物半導体結晶のテラスエッジ部の上部にあたる領域の結晶欠陥を第2の発明の場合よりもさらに低減することができる。
また、第4の発明のように、本発明はm面を主面とするGaNを作製するのに適用することができる。
また、第5の発明によれば、容易に凹部側面にバッファ層を形成することができ、凹部側面以外の面からの結晶成長を抑制することができるため、III 族窒化物半導体の結晶性をより改善することができる。
また、第6〜10の発明によるm面を主面とするIII 族窒化物半導体基板は、III 族窒化物半導体の結晶欠陥が少なく結晶性に優れ、かつ表面平坦性に優れている。
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
図1は、m面GaN結晶の成長に用いるサファイア基板10の斜視図であり、図2は、サファイア基板10の主面に垂直な方向の断面を示した図である。サファイア基板10は、主面をa面とする基板である。サファイア基板10の一方の表面には、長手方向をm軸方向(図2中において紙面垂直方向)とする帯状の凹部11が、ストライプ状に配置されて複数形成されている。凹部11は、サファイア基板10の主面に平行な底面11aと、向かい合う2つの側面11bで構成されている。側面11bは平面状である。また、図2のように、凹部11のサファイア基板10主面に垂直な方向であって、凹部11の長手方向に垂直な断面は台形状であり、凹部11のサファイア基板10主面に平行な面での断面積が、凹部11の底面11aから遠ざかるにつれて増加するように、底面11aに対して側面11bは角度を成している。各凹部11は、サファイア基板10表面がストライプ状に残るように、一定の間隔を隔てて形成されている。以下、この残されたサファイア基板10表面をテラス10aと呼ぶこととする。
テラス10aの幅xは20μm以下、凹部11の底面11aの幅yは15μm以下、凹部11の深さzは50nm以上、サファイア基板10の主面に対して凹部11の側面11bのなす角度θは50〜90°、である。このような範囲とする理由は後述する。
凹部11は、任意の方法で形成してよく、たとえばICPエッチングなどのドライエッチングによって形成することができる。
次に、サファイア基板10を用いてm面GaN結晶を成長させる結晶成長方法について説明する。
まず、上記のように凹部11が形成されたサファイア基板10を水素雰囲気下で1160℃に加熱し、サーマルクリーニングを行った。これにより、凹部11の形成によって生じたエッチングダメージを回復させるとともに、サファイア基板10表面の不純物や酸化物を除去した。
次に、サファイア基板10を降温して300〜420℃に保持し、TMA(トリメチルアルミニウム)を供給した。キャリアガスには水素と窒素の混合ガスを用いた。これにより、サファイア基板10の露出した面をAlで終端させてAl薄膜を形成した。このAl薄膜は40Å以下の厚さである。次に、TMAの供給を停止してキャリアガスとアンモニアを供給し、サファイア基板10を1010℃まで昇温した。これにより、Al薄膜のAlを窒化し、サファイア基板10にAlN薄膜12を形成した(図3)。このAlN薄膜12はバッファ層として機能し、凹部11の側面11bからの結晶成長を促し、テラス10aや、凹部11の底面11aからの結晶成長を抑制する働きをする。ここで、Al薄膜を40Å以下としたのは、40Åよりも厚く形成してしまうと、サファイア基板10のa面である底面11aやテラス11aからの結晶成長が主体となり、m面GaN結晶を成長させることが難しいからである。
次に、凹部11の側面11bの一方、およびその近傍の凹部11底面11a、テラス10aに、SiO2 からなるマスク13をフォトリソグラフィを用いて蒸着により形成した(図4)。このマスク13は、2つの凹部11の側面11bのうち、一方の側面11bからのGaN結晶成長を抑制し、他方の側面11bからのみGaNを結晶成長させるために設けたものである。
なお、マスク13には、側面11bからIII 族窒化物半導体を結晶成長させない材料であればSiO2 以外の材料を用いてもよい。また、マスク13はスパッタやCVD法により形成してもよい。このように、一方の凹部11側面11bからのみGaNを結晶成長させるには、マスク13で一方の側面11bを覆うのが簡易で望ましいが、他の方法によってGaNの結晶成長を抑制してもよい。たとえば、一方の側面11bをノコギリ歯状にエッチングするなどして結晶成長しにくい面を露出させることで、一方の側面11bからの結晶成長を抑制してもよい。また、先にマスク13を形成した後に、AlN薄膜12を形成してもよい。
次に、MOCVD法によって、GaN結晶14を結晶成長させた。キャリアガスには水素と窒素の混合ガス、窒素源にはアンモニア、Ga源にはTMG(トリメチルガリウム)を用いた。また、成長温度は1000℃、TMGに対するアンモニアの供給量の比(V/III 比)は150とした。このとき、凹部11の底面11aやテラス10aからの結晶成長は、AlN薄膜12によって阻害され、マスク13に覆われた側面11bからの結晶成長も阻害される。一方、マスク13に覆われていない凹部側面11bからは、AlN薄膜12を介してGaN結晶14が結晶成長する。GaN結晶14は、サファイア基板10の主面、つまりa面に平行で、かつ凹部11の長手方向(サファイア基板10のm軸方向)に垂直な方向をc軸方向として結晶成長する。また、各側面11bから成長するGaN結晶14のc軸極性は、凹部11の側面11bから凹部11の内部に向かう側が〈000−1〉方向(−c面方向)であり、各GaN結晶14の極性はすべて揃っている。ここで、本来はミラー指数の負値は数字の上にバーをつけて表記するが、本明細書では数字の左に負号を付して表記している。GaN結晶14の結晶成長は、サファイア基板10の主面に平行な方向へ成長して凹部11内部を埋めつつ、サファイア基板10の主面に垂直な方向へ成長し、テラス10a上にも成長していく(図5)。
図7は、テラス10aの幅xを2μm、凹部11の底面11aの幅yを2μm、凹部11の深さzを0.7μm、凹部11の側面11bのサファイア基板10の主面に対する角度θを75°とした場合の、GaN結晶14の結晶成長初期段階におけるTEM写真である。上記説明のように、マスク13を形成した側の凹部11側面11bからはGaNが結晶成長せず、マスク13を形成していない側の凹部11側面11bからのみ、GaNが結晶成長していることがわかる。
GaN結晶14の結晶成長が進むと、マスク13に覆われている側の凹部11側面11bの近傍にボイド15を残しつつサファイア基板10上を覆うように成長し、隣接する他の凹部11側面11bから成長したGaN結晶14と合体してサファイア基板10上に一続きのGaN結晶16が形成される。ここで、側面11bから成長した各GaN結晶14は、c軸極性が揃っているため、合体後のGaN結晶16はc軸極性が揃っており、良質な結晶となる。また、この結晶同士が合体する領域であって、サファイア基板10の近傍にも、ボイド17が生じる。結晶成長がさらに進むと、GaN結晶16の表面は次第に平坦となり、最終的には、サファイア基板10上に、サファイア基板の主面に平行で平坦な表面16aを有したGaN結晶16が形成される(図6)。このGaN結晶16は、サファイア基板の主面がa面で、凹部11の長手方向がサファイア基板10のm軸方向であることから、主面はm面である。
なお、その後さらにGaN結晶16を厚く成長させ、サファイア基板10を除去してm面GaN結晶16の自立基板としてもよい。サファイア基板10の除去は、エッチング、研磨、レーザーリフトオフなどの公知の方法によって可能である。
以上のようにして形成したm面GaN結晶16は、テラス10aの幅xを20μm以下、凹部11の底面11aの幅yを15μm以下、凹部11の深さzを50nm以上、凹部11の側面11bのサファイア基板10の主面に対する角度θを50〜90°としているため、GaN結晶16の結晶性、および表面16aの平坦性が高い。その理由を以下に説明する。
まず、テラス10aの幅xを20μm以下、凹部11の底面11aの幅yを15μm以下とするのは、テラス10aのエッジ部上部におけるGaN結晶16の領域16bの結晶欠陥を低減するためである。本発明者らの検討によると、このテラス10aのエッジ部上の領域16bには貫通転位が多数形成されることがわかった。そこで、テラス10aの幅x、および凹部11の底面11aの幅yについて検討したところ、幅x、yを広げると、GaN結晶16中の領域16bの占める割合が減り、GaN結晶16全体の貫通転位密度が減少する方向にあることがわかった。特に、幅x、yを2μm以上とした場合に、貫通転位の減少が十分であった。しかし、幅x、yを広げすぎると、テラス10aや底面11aからc面GaNが成長してしまい、m面GaNとc面GaNが混在してしまうこともわかった。また、幅x、yを広げることにより、GaN結晶によって凹部11を埋め込み、サファイア基板10上を覆うことが困難になり、表面平坦性が悪化してしまう。そこで、幅xを20μm以下、幅yを15μm以下に抑えることにより、良質で表面平坦性の高いm面GaN結晶が得られるようにしている。より望ましくは幅xを2〜20μm、幅yを2〜15μmとすることである。
また、凹部11の深さzを50nm以上とするのは、これよりも浅くすると側面11bの面積が狭いために側面11bからの結晶成長が難しくなり、底面11aやテラス10aからも結晶成長してしまうからである。一方、凹部11の深さzが深すぎると、凹部11の内部に原料ガスが入り込みにくくなり、側面11bからの結晶成長が難しくなるため、深さzは1.5μm以下であることが望ましい。よって、50nm〜1.5μmがより望ましい。
また、凹部11の側面11bのサファイア基板10の主面に対する角度θを50〜90°とするのは、50°よりも小さい角度では、側面11bの面方位が、サファイア基板10のc面からずれすぎてしまい、側面11bからGaNを結晶成長させるのが難しくなるからである。
また、テラス10aの幅x、凹部11の底面11aの幅y、凹部11の深さz、凹部11の側面11bのサファイア基板10の主面に対する角度θが、上記範囲を満たしていると、GaN結晶14同士が合体する領域であって、サファイア基板10の近傍に、容易にボイド17を形成することができる。このボイド17により、サファイア基板10とGaN結晶14との熱膨張係数差、格子定数差に起因して生じる応力を緩和し、ウェハの反りを抑制することができる。
また、実施例1では、GaN結晶16のc軸極性を揃えるために一方の側面11bにマスク13を形成しているが、マスク13を形成したことにより、マスク13を形成している側のテラス10aエッジ部上の領域16bの貫通転位密度を大幅に減少させることができることも、発明者らの検討によりわかった。また、マスク13を形成した場合、そのマスク13を形成下側の凹部11側面11bの近傍に、ボイド15を形成することができる。このボイド15もまた、ボイド17と同様に、応力を緩和し、ウェハの反りを抑制することができる。
以上のように、実施例1によれば、テラスの両エッジ部の上部領域における結晶欠陥が低減され、表面平坦性も高いm面GaN結晶を結晶成長させることができる。
なお、m面GaN結晶16の結晶性、表面平坦性をより高めるためには、テラス10aの幅xは10μm以下ないし2〜10μm、凹部11の底面11aの幅yは6μm以下ないし2〜6μm、凹部11の深さzは100nm以上ないし100nm〜1.5μm、凹部11の側面11bのサファイア基板10の主面に対する角度θは60〜90°、とすることが望ましく、テラス10aの幅xは2〜3μm、凹部11の底面11aの幅yは2〜3μm、凹部11の深さzは0.5〜1.5μm、凹部11の側面11bのサファイア基板10の主面に対する角度θは75〜90°、とするとさらに望ましい。
また、実施例1はm面GaN結晶を成長させるものであったが、本発明はGaNに限るものではなく、m面を主面とするIII 族窒化物半導体結晶の結晶成長に適用することができる。また、実施例1のm面GaN結晶はノンドープであったが、Siなどのn型不純物をドープしてもよいし、Mgなどのp型不純物をドープしてもよく、物性や成長速度等を制御するための不純物をドープしてもよい。
また、実施例1では凹部側面の一方にマスクを形成したが、これは必ずしも必要ではない。しかし、マスクを形成しない場合、c軸極性が混在してしまい、結晶が合体する領域に結晶欠陥を生じてしまい望ましくない。また、マスクを形成しないと、テラスエッジ部の両方の上部に貫通転位が多数形成されてしまい、結晶性が悪化してしまうため望ましくない。
また、実施例1では、サファイア基板にAl薄膜を形成し、Alを窒化させることでAlNからなるバッファ層を形成しているが、他の方法によって形成してもよい。たとえば、凹部側面にスパッタなどによって直接AlN膜を形成してもよい。また、AlNに限らず、GaN、AlGaN、AlGaInNなどをバッファ層として用いてもよいが、格子整合性などからAlの組成比はなるべく高いことが望ましく、AlNが最も望ましい。
本発明のm面を主面とするIII 族窒化物半導体基板を用いて発光素子を作製すれば、発光効率を向上することができる。
10:サファイア基板
10a:テラス
11:凹部
12:AlN薄膜
13:マスク
14、16:GaN結晶
15、17:ボイド
10a:テラス
11:凹部
12:AlN薄膜
13:マスク
14、16:GaN結晶
15、17:ボイド
Claims (9)
- a面を主面とするサファイア基板の表面に、長手方向がm軸方向に沿った帯状であり、サファイア基板の主面に平行な底面と、前記底面に角度を成した平面である2つの側面とを有した凹部を、一定の間隔で並んだストライプ状に複数形成し、前記凹部側面にバッファ層を形成し、前記凹部側面から前記バッファ層を介してIII 族窒化物半導体をc軸方向に成長させて、前記サファイア基板上にm面を主面とするIII 族窒化物半導体を形成するIII 族窒化物半導体の製造方法であって、
前記凹部底面の幅は、15μm以下、
前記凹部間に残った前記サファイア基板表面の幅は、20μm以下、
前記凹部の深さは、50nm以上、
前記凹部側面の前記サファイア基板主面に対する角度は、50〜90°、
となるように前記凹部を形成し、
2つの前記凹部側面のうち一方の前記凹部側面にマスクを形成し、他方の前記凹部側面からのみ、前記III 族窒化物半導体をc軸方向に成長させる、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法。 - 前記凹部の幅は6μm以下、前記凹部間に残った前記サファイア基板表面の幅は10μm以下、前記凹部の深さは100nm以上、前記凹部側面の前記サファイア基板主面に対する角度は60〜90°、となるよう前記凹部を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
- 前記凹部の幅は2〜3μm、前記凹部間に残った前記サファイア基板表面の幅は2〜3μm、前記凹部の深さは0.5〜1.5μm、前記凹部側面の前記サファイア基板主面に対する角度は75〜90°、となるよう前記凹部を形成する、ことを特徴とする請求項2に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
- 前記III 族窒化物半導体は、GaNであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
- 前記バッファ層は、AlNからなり、
前記サファイア基板にトリメチルアルミニウムを供給してAl薄膜を形成し、その後アンモニアを供給して前記Al薄膜を窒化させて前記バッファ層を形成する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。 - a面を主面とするサファイア基板上に、m面を主面とするIII 族窒化物半導体が位置したIII 族窒化物半導体基板であって、
前記サファイア基板のIII 族窒化物半導体側表面に、長手方向がm軸方向に沿った帯状であり、前記サファイア基板の主面に平行な底面と、前記底面に角度を成した平面である2つの側面とで構成された凹部を複数備え、各前記凹部は、一定の間隔でストライプ状に配置されていて、
各前記凹部側面にバッファ層を有し、
前記III 族窒化物半導体の一部領域は、各前記凹部側面にバッファ層を介して位置し、
前記凹部底面の幅は、15μm以下、
前記凹部間に残った前記サファイア基板表面の幅は、20μm以下、
前記凹部の深さは、50nm以上、
前記凹部側面の前記サファイア基板主面に対する角度は、50〜90°であり、
2つの前記凹部側面のうち一方の前記凹部側面は、III 族窒化物半導体を結晶成長させないマスクに覆われている、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体基板。 - 前記凹部の幅は6μm以下、前記凹部間に残った前記サファイア基板表面の幅は10μm以下、前記凹部の深さは100nm以上、前記凹部側面の前記サファイア基板主面に対する角度は60〜90°、であることを特徴とする請求項6に記載のIII 族窒化物半導体基板。
- 前記凹部の幅は2〜3μm、前記凹部間に残った前記サファイア基板表面の幅は2〜3μm、前記凹部の深さは0.5〜1.5μm、前記凹部側面の前記サファイア基板主面に対する角度は75〜90°、であることを特徴とする請求項7に記載のIII 族窒化物半導体基板。
- 前記III 族窒化物半導体は、GaNであることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体基板。
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