第1の実施の形態.
図1,2は第1の実施の形態にかかる電機子用コアの概念的な構成の一例を示している。図1は電機子用コアの斜視図を示し、図2は電機子用コアの構成部品を回転軸Pに沿う軸方向(以下、単に軸方向と呼ぶ)で分離して示している。本電機子用コア1は、複数のティース10と、ヨーク20と、補強板30とを備えている。
複数のティース10は軟磁性体(例えば鉄)であって、回転軸Pの周りで環状に配置されている。ヨーク20は軟磁性体(例えば鉄)であって、複数のティース10を軸方向でそれぞれ貫挿する複数の貫挿孔21を有している。ヨーク20は複数のティース10を周方向で相互に磁気的に連結する。ティース10はヨーク20から軸方向の一方の側へと延在している。そして、ヨーク20に対して軸方向の一方の側において、不図示のコイルがティース10に巻回される。このコイルに電流が流れることで、ティース10には軸方向に束が流れ、ヨーク20には周方向に磁束が流れる。
図1,2の例示では、ティース10はその位置における回転軸Pを中心とした径方向(以下、単に径方向と呼ぶ)に積層された電磁鋼板101によって構成されている。なお、図1,2では、一つのティース10を構成する電磁鋼板101の上面のみを図示し、他のティース10を構成する電磁鋼板については図示を省略している。また図においては便宜上1枚1枚の電磁鋼板101の径方向における厚みを比較的大きく示している。例えば図1において、ティース10についての電磁鋼板101の積層数は簡略化されて数十枚程度となっているが、実際にはより多くの電磁鋼板101が積層されてよい。これは、他の図においても同様であり、ティース10に限らず、電磁鋼板によって構成される他の構成要素についても同様である。
なお、図1,2の例示とは異なり、ティース10はその位置における回転軸Pを中心とした周方向(以下、単に周方向と呼ぶ)で積層された電磁鋼板101によって構成されてもよい。いずれにせよ、ティース10が回転軸Pに垂直な方向で積層された電磁鋼板101によって構成されていれば、ティース10を軸方向に流れる磁束に起因してティース10に生じる渦電流を低減することができる。
またティース10は必ずしも電磁鋼板101で構成される必要はなく、例えば圧粉磁心であってもよい。この圧粉磁心は意図的に絶縁物(例えば樹脂)を含んで成型されるので、その電気抵抗は高い。これによって渦電流が低減される。
貫挿孔21は径方向において回転軸P側(以下、内周側とも呼ぶ)あるいは回転軸Pとは反対側(以下、外周側とも呼ぶ)に開口している。これによって、ティース10を軸方向に沿って流れる磁束に起因して、軸方向から見たティース10の周りでヨーク20に生じる渦電流を抑制することができる。なお図1,2の例示では貫挿孔21は内周側に開口している。
また図1,2の例示では、ヨーク20は軸方向に積層された電磁鋼板201によって構成されている。これによって、ヨーク20を周方向に流れる磁束に起因してヨーク20に生じる渦電流を低減することができる。但し、これは必須の要件ではなく、例えばヨーク20が圧粉磁心で構成されていてもよい。
補強板30は金属(例えば鉄、ステンレス、アルミニウムなど)で形成されている。補強板30は例えば板状の形状を有しており、軸方向における他方の側(コイルと反対側)でヨーク20と対面して配置される。そしてティース10と補強板30とが例えば冶金的又は機械的に相互に固定される。ヨーク20を軸方向に積層された電磁鋼板201によって構成した場合であっても、補強板30の厚みを、電磁鋼板201の1枚の厚み十分に厚くすることで、電機子用コア1として十分な強度を得ることができる。しかも、ヨーク20を微細な鉄粉を絶縁してなる圧粉磁心で構成した場合と違って、補強板30は金属としての強度を得ることができる。
なお、補強板30はティース10同士を周方向で繋ぐ磁路としての機能を期待されない。当該磁路はヨーク20によって実現される。かかる事項は、例えばヨーク20の軸方向における厚みを調整することで実現できる。補強板30は磁路としての機能を実現する必要がないので、渦電流の低減を目的とした材質、構造(例えば電磁鋼板や圧粉磁心)を有する必要がなく、安価な金属によって構成されることができる。また、補強板30に磁束が通らないようにするためには、補強板30を非磁性金属(例えばステンレス、アルミニウム)によって形成してもよい。補強板30を非磁性金属とすれば、磁束が補強板30に漏洩することを防止でき、渦電流の低減を目的とした材質、構造を有しない補強板30内部の渦電流損を低減できる。望ましくは、補強板30をステンレスによって構成する。ステンレスはアルミニウムよりも体積抵抗率が高く、微小な漏れ磁束により発生する渦電流を低減することに適しているからである。
このような電機子用コア1において、ティース10に不図示のコイルを巻回することで電機子を構成できる。かかる電機子に対して軸方向で所定の間隙を介して不図示の界磁子を配置することで回転電機を構成できる。そして、かかる回転電機においては、ティース10には軸方向に沿って磁束が流れる。またこの磁束に起因してティース10には軸方向に沿ったスラスト力が作用する。
また、上述したように、貫挿孔21は径方向で開口している。これによって、ヨーク20に生じる渦電流を抑制できるものの、径方向で開口した貫挿孔21はヨーク20の強度低下を招く。しかしながら、ティース10は補強板30に固定されているので、ヨーク20の強度に依存せずにティース10の軸方向における位置を固定できる。望ましくは、ヨーク20の貫挿孔21の断面積より、後述する補強板30の孔31の断面積を小さくする。これによって、さらに補強板30の強度を増すことができる。よって、ヨーク20のみでは強度が不十分であったとしても、上記スラスト力に対してティース10の振動、抜けを抑制することができる。しかも、補強板30として金属を採用しているので、温度が高い周囲環境下での使用、または冷媒に接触する密閉型圧縮機用電動機(例えば空気調和機、冷凍機など)へと使用を容易にすることができる。
また、例えば樹脂モールドにより強度を確保するためには電機子用コア1と不図示のコイルとの全体を樹脂で覆う必要がある。一方、本実施の形態では、補強板30として樹脂に比して強度の高い金属を採用しているので、ヨーク20に対してティース10とは反対側のみに補強板30を設けるのみで強度を確保することができる。しかもティース10と補強板30との間を固定するだけでよいので、電機子用コア1とコイルとの全体を樹脂モールドする場合に比べて、電機子用コア1やコイルが受ける圧力等の影響を電機子用コア1の一部(ティース10と補強板30の固定箇所付近)に抑えることができ、また固定の強度を安定して一定以上に保つことができる。また、樹脂モールドの場合に樹脂が強度を保つための補強部材として機能するところ、本電機子用コア1では金属が補強部材として機能するので、補強部材の厚みを小さくできる。
次に、ティース10と補強板30との具体的な固定の例について述べる。例えばティース10と補強板30とが冶金的に、例えば溶接によって固定される。図2の例示では、補強板30はティース10を軸方向で貫挿する孔31を有している。孔31は補強板30を軸方向で貫通している。孔31は、回転軸Pに垂直な断面において、例えば長辺が径方向に沿って延在する長尺状の形状を有している。
ティース10は貫挿孔21と孔31においてヨーク20,補強板30を軸方向で貫通して配置される。図3は補強板30側から見た電機子用コア1の概念的な斜視図である。ティース10と補強板30とは、軸方向における他方側(コイルと反対側)から溶接によって相互に固定される。図3の例示では、ティース10の軸方向の端部と、孔31とが近接する境界であって、且つ外部に露出した部分(図3の溶接箇所40)において、ティース10と補強板30とが溶接される。ティース10と補強板30との溶接は、温度が高い周囲環境下での使用、及び冷媒と接触する状況での使用を阻害しない。
このような溶接は任意の溶接方法によって実現され、例えばガス溶接、アーク溶接、エレクトロスラグ溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接、抵抗溶接、鍛接・摩擦圧接・爆発圧接、ろう付け・はんだ付けなどによって実現される。特にレーザ溶接であれば、入熱量が少なく、また溶接の盛り上がりや溶接径が小さいので好適である。またプラズマアーク溶接であれば精密な溶接を実現できるので好適である。なお、ティース10と補強板30とが溶接によって固定される場合は、補強板30は溶接が容易な鉄材または非磁性ステンレスによって形成されることが望ましい。また、また、積層された電磁鋼板101を有するティース10は補強板30との溶接に適する。
このような電機子用コア1に対してティース10に不図示のコイルを巻回することで電機子が構成される。かかる電機子は、例えば次の手順によって組み立てることができる。まず、複数のティース10の各々にコイルを巻回する。このとき、例えばティース10とコイルとの間に絶縁紙などを巻く。コイルとティース10とが電気的に絶縁され、ティースを介した短絡を防止できるからである。次に、コイルが巻回されたティース10を貫挿孔21に貫挿してヨーク20配置する。その後、補強板30を、コイルとは反対側からヨーク20と軸方向で対面させ、ティース10を孔31に貫挿して補強板30に配置する。次に、ティース10と補強板30とを溶接によって固定する。
この手順では、ティース10がヨーク20あるいは補強板30に設けられる前にコイルを巻回しているので、高い占積率で巻回しやすい。またこの手順では、ティース10をヨーク20に配置してから補強板30を配置している。従って、ヨーク20が周方向で一体であってもよく、周方向に分割されていてもよく、いずれの形状であっても用いることができる。
但し、必ずしもこの手順に限る必要がなく、ティース10と補強板30との固定を第1工程、ティース10へのコイルの巻回を第2工程、ティース10とヨーク20との組み立てを第3工程とすれば、次の手順のいずれであってもよい。例えば、第3工程、第1工程、第2工程の順でこれらを実行して組み立ててもよい。また、例えば、第1工程、第3工程、第2工程の順でこれらを実行して組み立ててもよい。これらの場合、溶接を行う第1工程がコイルを巻回する第2工程よりも先に実行されるので、溶接による熱がコイルに伝達されることなく、電機子を組み立てることができる。また、例えば第3工程、第2工程、第1工程の順でこれらを実行して組み立ててもよい。但し、第3工程に先だって第1工程及び第2工程を実行する場合、ヨーク20を周方向に分割し、これを内周側あるいは外周側から、補強板30とコイルとの間に挿入する必要がある。
図4〜6はティースと補強板の溶接箇所の一例を示す図である。図4〜6においては、軸方向の他方側から見た平面において、電機子用コア1のうち一つのティース10に相当する部分を示している。
図4の例示では、ティース10と補強板30とが、軸方向の他方側から見てティース10の全周に渡って溶接されている。かかる溶接箇所40によればティース10と補強板30との固定力が比較的強い。また、かかる溶接箇所40によれば電磁鋼板101の積層方向に沿ってティース10と補強板30とが溶接される。言い換えれば、電磁鋼板101の相互間においてティース10と補強板30とが溶接されている。従って、電磁鋼板101の相互間の固定と、ティース10と補強板30との間の固定とを、溶接箇所40における溶接によって実現できる。なお、電磁鋼板101同士の固定という観点では、ティース10の全周に渡って溶接される必要がなく、要するに電磁鋼板101の相互間において、ティース10と補強板30とが溶接されていればよい。溶接は連続的にされていなくてもよく、ティース10を構成する電磁鋼板101同士の表面が接触している部分を、全周に渡ってスポット溶接してもよい。
但し、図4の溶接箇所40では、ティース10の周方向における端にも溶接が行われている。溶接はティース10や補強板30に熱歪みを生じさせる。この熱歪みがヨーク20側(より具体的には周方向におけるティース10とヨーク20との境界付近)にまで生じると、ティース10とヨーク20との周方向の境界付近で磁気特性の劣化を招くことが考えられる。ティース10とヨーク20との周方向の境界付近は磁束の通り道であるので、かかる磁気特性の劣化は好ましくない。
図5の例示では、ティース10と補強板30とが、ティース10の径方向における両端にて溶接されている。換言すれば、ティース10と補強板30との境界のうち内周側及び外周側の境界で、ティース10と補強板30とが溶接されており、ティース10と補強板30の周方向の境界付近は溶接されていない。かかる溶接箇所40によれば、たとえ溶接による熱歪みがヨーク20側にまで生じたとしても、ティース10とヨーク20との周方向の境界付近では磁気特性の劣化を招きにくい。
図6の例示では、ティース10と補強板30とが、軸方向の他方側から見てティース10の4隅(孔31の4隅)で溶接されている。かかる溶接箇所40によれば、比較的少ない溶接箇所でティース10と補強板30とを溶接することができる。また、ティース10と補強板30の周方向の境界付近は溶接されていないので、たとえ溶接による熱歪みがヨーク20側にまで生じたとしても、ティース10とヨーク20との周方向の境界付近では磁気特性の劣化を招きにくい。また、ティース10の4隅が固定されているので、ティース10の位置は一義的に決定される。
図7は、ティースを通る位置での径方向に沿った断面において、電機子用コアの概念的な構成の他の一例を示している。図7の例示では、孔31が補強板30を貫通していない。孔31は軸方向においてヨーク20側に開口している。ティース10は軸方向に沿って孔31に挿入され、ティース10の軸方向の一端が孔31の底面に当接する。このような電機子用コア1において、ティース10と補強板30とは、ティース10の軸方向の一端と孔31の底面とが接する溶接箇所40にて溶接される。かかる溶接は、例えばレーザ溶接により溶接箇所40において、軸方向の他方側から補強板30を溶かすことで実現できる。孔31の存する位置において、補強板30の軸方向における厚みはレーザ溶接を阻む厚さに対して十分に薄く選定される。
図8は図7に示す電機子用コアを軸方向の他方側から見た平面図である。ティース10と補強板30とは、ティース10の積層方向に沿って溶接されている。換言すれば、電磁鋼板101の相互間にてティース10と補強板30とが溶接されている。よって、電磁鋼板101の相互間の固定も実現できる。また、図8の例示では、周方向におけるティース10の中央でティース10と補強板30とが溶接されている。ティース10を軸方向に流れる磁束はヨーク20と当接する位置で、周方向の互いに反対する二方向へ向かって流れる。即ち、ティース10において、ヨーク20に埋め込まれる部分のうち補強板30側では、ティース10の周方向における中央を流れる磁束は少ない。従って、溶接による熱歪みが、ティース10のうちヨーク20に埋め込まれる部分にまで生じたとしても、溶接箇所40による磁気特性の劣化を招きにくい。
ここで、ティース10のうち、コイルが巻回される部分をコイル巻回部10a、ヨーク10に埋め込まれる部分をヨーク埋込部10b、補強板30に埋め込まれる部分を補強板埋込部10cと呼ぶ。
図1〜3の例示では、軸方向から見たコイル巻回部10aは略台形状の形状を有し、ヨーク埋込部10b及び補強板埋込部10cは長尺状の形状を有している。
複数のティース10は、コイル巻回部10aにおける台形状の上底(<下底)を回転軸P側に向けて配置される。これによって、軸方向から見た、周方向で隣り合うティース10の相互間の面積に対してコイルが占める面積の比を増大させることができる。よって、電機子の小型化あるいは高効率化に寄与する。
また、軸方向から見たヨーク埋込部10bの形状およびヨーク20の貫挿孔21の形状がいずれも長尺状である。ティース10が電磁鋼板101によって構成される場合であれば、ティース10の積層方向に垂直な方向(ここでは周方向)における寸法精度は比較的良好である。しかも、ヨーク埋込部10bは長尺状の形状を有しているので、段差を生じない。よって、ティース10の積層方向についての長さに寸法誤差があったとしても、ティース10とヨーク20との間の周方向における間隙を小さくできる。これによって、ティース10からヨーク20への磁束の流れを良好にできる。
図9は図1〜3の電機子用コアにおいて、ティースを通る位置での周方向における断面を示している。補強板埋込部10cの周方向における幅は、コイル巻回部10a及びヨーク埋込部10bの周方向における幅よりも小さい。また補強板埋込部10cはティース10の周方向における中央に位置している。これにより、ティース10の周方向における両側でおいて、補強板30とティース10との境界30aが軸方向に垂直に形成される。かかる構造によれば、ティース10を軸方向に沿って流れる磁束が補強板30よりもヨーク20へと流れることを促す。なぜなら、ティース10を軸方向に流れる磁束は、続けてヨーク20を周方向の互いに反対の二方向へと流れる(図9において矢印)ところ、ティース10の周方向における両側で、境界30aが軸方向に対する磁気障壁として機能するからである。境界30aの存在により磁束は境界30aを越えて補強板30へと流れ込みにくく、当該磁束は境界30aに沿ってヨーク20側へと流れやすい。
またヨーク20は軸方向に積層された電磁鋼板201によって構成されている。かかる電磁鋼板201は所定の電磁鋼板に対してヨーク20の形状を軸方向に打ち抜いて形成される。通常、電磁鋼板には表面処理が施されているものの、軸方向に打ち抜かれた部分(軸方向に沿う表面20b)については表面処理が施されない。かかる表面処理は磁気抵抗を増大させる。即ち、ヨーク20において軸方向に垂直な表面20bにおける磁気抵抗は、軸方向に沿う表面20aにおける磁気抵抗よりも小さい。
コイル巻回部10aの周方向における幅は、ヨーク埋込部10bの周方向における幅と同一あるいはそれよりも小さい。よって、ティース10からヨーク20へと流れる磁束は、ヨーク20の軸方向に垂直な表面20aと交差せずに、磁気抵抗がより小さい軸方向に沿った表面20bと交差して流れる。よって、磁束の流れが阻害されにくい。
なお、本第1の実施の形態では、冶金的な固定の例として溶接について説明したが、これに限らず例えばティース10と補強板30とが焼結結合によって相互に固定されていてもよい。図10はティースを通る位置での、周方向に沿う断面において、電機子用コアの概念的な構成の一例を示している。
ティース10は金属性粉末(例えば鉄)と絶縁物(例えば樹脂)とを混合して成型された圧粉磁心である。補強板30は金属性粉末(例えば鉄またはステンレス)を焼結して成型された焼結金属である。そして、ティース10と補強板30とが焼結結合で相互に固定されている。かかる焼結結合も、温度の高い周囲環境下での使用及び冷媒と接触する環境下での使用を阻害しない。
第2の実施の形態.
第1の実施の形態では、固定の例として冶金的な固定を説明したが、第2の実施の形態では、固定の例として機械的な固定について説明する。第2の実施の形態にかかる電機子用コアの概念的な構成の一例を示す斜視図は図1と同一である。図11はティースを通る位置での径方向に沿った断面において電機子用コアの概念的な構成の一例を示している。なお、図11においては、ティース10に巻回されるコイル50が二点鎖線で示されている。
ティース10と補強板30とが締り嵌め(例えば圧入、焼き嵌め、冷やし嵌めなど)によって相互に固定されている。かかる固定によっても、第1の実施の形態と同様に、ティース10は補強板30に固定されているので、ヨーク20の強度に依存せずにティース10の軸方向における位置を固定できる。よって、ヨーク20のみでは強度が不十分であったとしても、スラスト力に対してティース10のぶれを抑制することができる。しかも、ティース10と金属の補強板30とが機械的に固定されるので、温度が高い周囲の下での使用、または冷媒に接触する圧縮機用電動機(例えば空気調和機、冷凍機など)への使用を容易にすることができる。
また図11の例示では、ティース10が電磁鋼板101によって構成されている。そして、補強板30には、積層方向(ここでは径方向)においてティース10をその外部から内部へと付勢する付勢構造が設けられている。これによって、電磁鋼板101は押圧され、その積層方向についてのティース10の寸法誤差を吸収することができ、以ってティース10と補強板30との間の接触性を向上できる。従って、締り嵌めによる固定力を向上できる。
より具体的な一例として、補強板30は、ヨーク20に対して軸方向で対面する部材32と、部材32から屈曲して軸方向に延在し、電磁鋼板101の積層方向におけるティース10とヨーク20との間に介在する部材33とを備えている。部材33は部材32から離れるに従ってティース10に近づくように傾斜している。かかる部材33は例えば部材32側で一端が固定された梁と簡易的に把握できる。部材33(梁)はティース10の存在により部材32へ向かって変形され、その弾性変形によってティース10を積層方向について押圧する。このような補強板30の形状は例えば、鋳造、焼結、絞り加工によって簡単に実現することができる。
図12はティースを通る位置での径方向に沿う断面において電機子用コアの概念的な他の一例を示している。図11に示す電機子用コアと比較して、ティース10と補強板30とが締り嵌めによって相互に固定されるとともに、溶接によっても相互に固定される。
図11の例示では、部材33は部材32から軸方向の一方側(コイル50の側)へと延在しつつティース10側に傾斜している。よって、軸方向における他方側(コイル50とは反対側)でティース10と補強板30との間に間隙が生じる。従って、軸方向における他方側からでは、ティース10と補強板30とを溶接しにくい場合がある。もちろん、軸方向における一方の側から溶接してもよいが、ティース10にコイル50が巻回された後に、このティース10を補強板30の孔31に挿入した場合、コイル50が軸方向の一方側からのティース10と補強板30の溶接を阻害する。このような場合、軸方向の他方側からの溶接が求められる。
そこで、図12の例示では、積層方向の端に位置する電磁鋼板101が軸方向における他方側で補強板30に沿って屈曲される。そして、この電磁鋼板101と補強板30とが近接する溶接箇所40で溶接が行われる。電磁鋼板101を屈曲させて補強板30に沿わせることによって、電磁鋼板101と補強板30との間の間隙を小さくできるので、これらの溶接を容易にできる。
また、屈曲された電磁鋼板101が軸方向で補強板30(より具体的には部材33)と接する。これによってティース10が軸方向で補強板30と掛止される。従って、ティース10が軸方向の一方側へとずれることを更に抑止できる。
図13はティースを通る位置での径方向に沿う断面において電機子用コアの概念的な他の一例を示している。図13の例示でも、ティース10と補強板30とが締り嵌めによって相互に固定されるとともに、溶接によっても相互に固定される。但し、図12の電機子用コアと比較して、部材33が部材32から軸方向の他方側へと延在している。部材33は部材32から離れるに従ってティース10へと近づくように傾斜しているので、軸方向の他方側においてティース10と補強板30との接触性が高い。従って、他方側からの溶接を容易にできる。但し、図13においては、部材33の最もティース10に近い角33aで溶接されていない。図12と同様に、積層方向の端に位置する電磁鋼板101が部材33側へと屈曲し、この屈曲した電磁鋼板101と部材33とが溶接されている。これによって、ティース10が軸方向の一方側へとずれることを更に抑止している。
部材33はティース10とヨーク20との間に介在していない。かかる態様は、ティース10が周方向で積層された電磁鋼板によって構成される場合に好適である。電磁鋼板101が周方向で積層される場合であれば、補強板30の押圧構造はティース10を周方向に押圧する。図11,12の例示に則れば、部材33がティース10とヨーク20との周方向における間に介在するため、ティース10からヨーク20へと周方向に流れる磁束を阻害する。他方、図13の例示に則れば、部材33がティース10と周方向で隣り合うものの、部材33は周方向におけるティース10とヨーク20との間に介在しないので、部材33は、ティース10からヨーク20へと周方向に流れる磁束を阻害しない。
図14はティースを通る位置での周方向に沿う断面において、電機子用コアの概念的な構成の一例を示している。ティース10は回転軸Pに垂直な方向(ここでは周方向)に開口する凹部11を有している。
補強板30は凹部11が開口する方向(ここでは周方向)でティース10を押圧する押圧構造を有している。図14の例示では、補強板30は部材32,33を備えている。部材32,33については、図13を用いて説明した部材32,33と同様である。部材33は凹部11と周方向で嵌合している。かかる構造を形成するには、ティース10を補強板30の孔31に挿入する。凹部11に対して補強板30側のティース10の端部が、部材33を部材32側へと押し広げつつ孔31に挿入される。これにより部材32は弾性変形し、より屈曲する。そして凹部11が軸方向における部材33の位置に到達すると、押し広げられていた部材33はその弾性復元により周方向に狭まって、凹部11と嵌合する。これによって、ティース10と補強板30とが相互に固定され、ティース10が補強板30から抜けることを防止できる。
図15はティースを通る位置での周方向に沿う断面において、電機子用コアの概念的な構成の他の一例を示している。図14の電機子用コアと比較して、付勢構造が相違している。付勢構造は補強板30に設けられる孔34によって実現される。以下、より具体的に説明する。
ティース10は補強板30に設けられた孔31に貫挿され、凹部11が当該孔31において補強板30と周方向で嵌合する。補強板30は、孔31と周方向で近接した孔34を備えている。孔31,34は周方向で相互に離間している。孔34は凹部11と周方向で近接した位置に設けられているとも把握できる。
かかる補強板30によれば、孔34が存する位置において軸方向における補強板30の厚みは孔34の分だけ薄くなる。よって、軸方向で孔34と隣接する部分の強度が低下し、以って周方向における孔31近傍での補強板30の弾性変形を容易にできる。
図16はティースを通る位置での周方向に沿う断面において、電機子用コアの概念的な構成の他の一例を示している。図15の電機子用コアと比較して、孔34は軸方向の一方側に開口している。補強板30のうち孔34に対してティース10側に位置する部分が、一端が支持された梁と簡易的に把握でき、当該部分が梁の弾性変形によってティース10の外側から内側へと周方向に付勢する。また、孔34と軸方向で隣接する部分についても、図15と同様に周方向における弾性変形が容易である。なお、軸方向の他方側に開口していてもよい。
また、図11〜図13を参照して説明した、積層方向における寸法誤差を吸収するための付勢構造として、図14〜図16を参照して説明した付勢構造を採用してもよい。
第3の実施の形態.
第3の実施の形態の概念的な構成の一例を示す斜視図は図1と同一である。また、本第3の実施の形態においても、ティース10と補強板30とが第1又は第2の実施の形態において説明した方法で相互に固定される。ここでは、溶接によってティース10と補強板30とが相互に固定された電機子用コアを例に挙げて述べる。
図17はティースを通る位置での周方向に沿った断面において電機子用コアの概念的な構成の他の一例を示している。コイル巻回部10aの周方向における幅はヨーク埋込部10bの周方向における幅よりも大きい。換言すると、ティース10は補強板30と共に軸方向でヨーク20を挟んでいる。よって、ティース10と補強板30との固定によって、ティース10と補強板30で挟まれるヨーク20も固定される。換言すると、ヨーク20はティース10と補強板30によって軸方向で狭持される。これによって、ヨーク20をティース10或いは補強板30と固定する専用の固定部を設ける必要がなく、製造コストを低減できる。またヨーク20が電磁鋼板201によって構成されていれば、ティース10と補強板30との固定が、電磁鋼板201の相互間の固定も兼ねることができる。
但し、ティース10とヨーク20とが軸方向で対面するために、ティース10を流れる磁束が軸方向に垂直なヨーク20の表面と交差する。これによって、磁束の流れが阻害されるので、ティース10のうち、ヨーク20と軸方向で接する部分の面積は小さいほうが望ましい。例えば図18は図17に示す電機子用コア1の軸方向から見た平面図である。但し、図18において、ティース10が有する鍔形状については図示していない。図18の例示では、コイル巻回部10aにおいて周方向における幅が最も広い下底側の一部のみ、ヨーク埋込部10bの幅よりも広くなっている。これによって、ティース10と補強板30とがヨーク20を軸方向で挟んで固定しつつも、磁束の流れを阻害することを抑制できる。
第4の実施の形態.
第4の実施の形態では、ティース10の形状について述べる。図19は、軸方向から見た電機子用コア1の一部の形状を示している。ヨーク埋込部10bは略台形形状を有している。図19の例示では、ヨーク埋込部10bの台形形状の上底及び下底がそれぞれ周方向に向けてヨーク埋込部10bが配置されている。また上底は下底に対して内周側に位置している。
ヨーク20が有する貫挿孔21は、径方向に開口しつつ、ヨーク埋込部10bの形状に合わせた形状を有している。図19の例示では、貫挿孔21は径方向の内周側に開口しつつ、軸方向から見て、ヨーク埋込部10bの斜辺に沿う形状を有している。
かかるヨーク埋込部10b及び貫挿孔21に依れば、ティース10を径方向内周側へと押圧することで、ヨーク埋込部10bとヨーク20とが密着する。これによって、ティース10からヨーク20との間の周方向における間隙を小さくでき、以って両者間の磁束の流れが阻害されにくい。
なお、図19の例示では、ヨーク20は、ティース10をヨーク埋込部10bの下底側から上底側へと付勢する付勢構造22を有している。この付勢構造22は、例えば図14〜図16を参照して説明した付勢構造が適用されて実現される。図19では、図15の付勢構造が例示されている。具体的には、ヨーク20は孔31において径方向においてティース10側へと突出する突部23と、当該突部の内部に設けられた孔24とを備えている。このような付勢構造によって、ティース10をヨーク20に貫挿配置すると、ティース10が径方向の内周側へと付勢され、ティース10とヨーク20との周方向における間隙を小さくできる。
第5の実施の形態.
図20は、第1乃至第4の実施の形態にかかる電機子用コアを用いた電動機が適用される圧縮機の一例を示す縦断面図である。図20に示された圧縮機は高圧ドーム型のロータリ圧縮機であって、その冷媒には例えばHFC(ハイドロフルオロカーボン)、二酸化炭素等が採用される。
この圧縮機は、密閉容器C10と、圧縮機構部C40と、電動機300とを備えている。圧縮機構部C40は密閉容器C10内に配置されている。電動機300は密閉容器C10内かつ圧縮機構部C40の上側に配置される。ここで、上側とは密閉容器C10の中心軸が水平面に対して傾斜しているか否かに関わらず、密閉容器C10の中心軸に沿った上側をいう。
電動機300は回転軸シャフトC50を介して圧縮機構部C40を駆動する。電動機300は、第1乃至第4の実施の形態のいずれかで説明された電機子用コア1と、コイル50とを有する電機子100と、界磁子200と、コイルを有さない固定子400とを備えている。電機子100は密閉容器C10に固定されて固定子として機能し、界磁子200は回転シャフトC50に固定されて回転子として機能する。
界磁子200は界磁磁石202と、磁性体201と、磁性体203とを備えている。界磁磁石202はシャフトC50の周りで環状に配置される。磁性体201は電機子100側で界磁磁石202と軸方向で重ね合わせて配置される。磁性体201は界磁磁石202の渦電流による損失及び減磁を低減する。磁性体203は磁性体201とは反対側で界磁磁石202と軸方向で重ね合わせて配置される。磁性体203は周方向で連続している。磁性体203は磁束の一部を、周方向で隣り合う界磁磁石202同士で短絡させることにより、軸方向で界磁子200に作用するスラスト力を低減させる。
固定子400は界磁子200に対して電機子100とは反対側で所定の間隙を介して配置され、密閉容器C10に固定される。固定子400は電動機300に作用する軸方向のスラスト力を低減するための界磁子200のヨークとして機能する。
密閉容器C10の下側側方には吸入管C30が接続され、密閉容器C10の上側には吐出管C20が接続される。冷媒ガス(図示省略)が吸入管C30から密閉容器C10へと供給され、圧縮機構部C40の吸込側に導かれる。このロータリ圧縮機は縦型であって、少なくとも電動機300の下部に油溜めを有する。
密閉容器C10内は高圧領域Hであり、高圧領域Hには圧縮機構部C40から吐出された高圧の冷媒ガスが満たされる。電動機300は高圧領域Hに配置されている。
補強板30の外周縁は回転シャフトC50から見てヨーク20よりも外周側にあって、密閉容器C10に固定されている。換言すれば、補強板30は回転軸Pから見て外側から密閉容器C10に固定されている。例えば補強板30と密閉容器C10とが締り嵌め(例えば焼き嵌め)によって固定されている。かかる固定によれば、ヨーク20は密閉容器C10と固定される必要がないので、電機子用コア1と密閉容器C10との固定に起因した応力がヨーク20には生じにくい。よって、ヨーク20の磁気特性の劣化を抑制できる。
また、補強板30はヨーク20の外周側で軸方向へと延在していてもよい。すなわち、補強板30をカップ状にして、ヨーク20の一部又は全てを外周から覆うようにする。これによれば、補強板30と密閉容器C10との接触面積を向上できるので、締り嵌めによる固定力を向上できる。
圧縮機構部C40は、シリンダ状の本体部C41と、上端板C42および下端板C45とを備える。上端板C42および下端板C45はそれぞれ本体部C41の上下の開口端に取り付けられる。回転シャフトC50は、上端板C42および下端板C45を貫通し、本体部C41の内部に挿入されている。回転軸シャフトC50は上端板C42に設けられた軸受C44と、下端板C45に設けられた軸受C43により回転自在に支持されている。
回転軸C50には本体部C41内でクランクピンC47が設けられる。ピストンC48はクランクピンC47に嵌合されて駆動される。ピストンC48と、これに対応するシリンダとの間には圧縮室C46が形成される。ピストンC48は偏芯した状態で回転し、または、公転運動を行い、圧縮室C46の容積を変化させる。
次に、上記ロータリ圧縮機の動作を説明する。吸入管C30から圧縮室C46に冷媒ガスが供給される。電動機300により圧縮機構部C40が駆動されて、冷媒ガスが圧縮される。圧縮された冷媒ガスは冷凍機油(図示省略)と共に、吐出孔C49を経由して圧縮機構部C40から圧縮機構部C40の上側へ運ばれ、更に電動機300を経由して吐出管C20から密閉容器C10の外部に吐出される。
冷媒ガスは冷凍機油と共に電動機300の内部を上側へと移動する。冷媒ガスは電動機300よりも上側に導かれるが、冷凍機油は界磁子200の遠心力で密閉容器C10の内壁へと向かう。冷凍機油は密閉容器C10の内壁に微粒子の状態で付着することで液化した後、重力の作用によって、電動機300の冷媒ガスの流れの上流側に戻る。
図21は、第1乃至第4の実施の形態にかかる電機子用コアを用いた電動機が適用される圧縮機の他の一例を示す縦断面図である。
図21では、電機子は界磁子200に対して圧縮機構部C40側に配置される。
補強板30は圧縮機構部C40の一部である。図21の例示では、補強板30が上端板C42の機能を有している。換言すれば、ティース10が上端板C42と固定される。例えば、ティース10が冶金的又は機械的に固定される。かかる固定は第1乃至第4の実施の形態で述べたいずれかの方法で実現できる。例えば上端板C42と締り嵌めによって固定される。
補強板30と上端板C42が一つの部材によって実現されるので、専用の補強板30あるいは専用の上端板C42を用いる必要がない。よって、製造コストを低減できる。なお、補強板30が本体部C41の機能を有していてもよい。より具体的にはティース10が本体部C41と冶金的又は機械的に固定されていてもよい。この場合であっても、製造コストを低減できる。