JP2011020130A - 突き合わせガスシールドアーク溶接継手および方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、海底パイプラインの現地敷設工事などで適用される、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、鋼管のグレード(材質)によらず、溶接速度を現状以上の1.5m/min以上で行っても高温割れを発生させず、かつ上向き姿勢で平滑な溶接ビードとなり、安定した溶接品質となるような溶接方法および溶接装置を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼管どうしの突合せガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、突き合わせ部の開先部分の開先角度を3度以上5度以下、ルートフェイスを1.0mm以上1.5mm以下、開先ルート部の幅を3.5mm以上4.7mm以下としたU字開先形状とし、溶接後の裏波ビード幅が4.5mm以上となり、溶接ビードの断面形状における溶接ビードの全高さに対する裏波側からのデンドライト組織の高さの比が0.5以上とする。
【選択図】図18

Description

本発明は、鋼板どうしの突き合せガスシールドアーク溶接において、初層(ルートパス)溶接に関するものである。特に、鋼管を接合する際に、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接における高速ルートパス溶接に用いられる技術に関するものである。
石油や天然ガス等の海底パイプライン(水平固定管)の現地溶接における鋼管端部の突き合わせ円周溶接は、自動溶接機を用いた全姿勢溶接が行われている。特に海底パイプライン敷設工事で用いられている各々の溶接ステージで各板厚方向位置を同時並行的に溶接するスプレッド工法においては、作業の迅速性および効率化の観点から、ルートパスの溶接速度の向上と高温割れのない継手品質の確保が強く望まれている。例えば、鋼管端部どうしの円周突き合わせ溶接には、一般的に消耗電極式ガスシールドアーク溶接が使用されており、従来ルートパス溶接の速度は1.5m/分程度が限界であった。
特許文献1には、消耗電極式ガスシールドアーク溶接を用いた鋼管端部どうしの突き合わせルートパス溶接において、ワイヤー送給量と溶接速度との関係が開示され、溶接速度が1m/分以上4.3m/分以下の範囲で可能とされている。これは、適正な開先形状と、電極ワイヤー送給速度と溶接速度の適正な関係を満たしたときに実現されるものである。
特許文献2には、鋼管突合せ部のサブマージアーク溶接の前に、突合せ部を適正な温度で予熱することにより、適正な溶接ビード形状が得られ、1パスあたりの溶け込み深さを極力大きくすることと高温割れの発生防止を両立させたものである。しかし、このときの溶接速度は、0.25m/分と非常に遅いものである。
特開2006-224116号公報 特開2008-142744号公報
昨今、極地資源の開発などが活発化しており、海底パイプラインに求められているのは、ハイグレードな鋼管(例えば、低温靭性に優れた鋼管)と、パイプ敷設の効率化が挙げられる。ハイグレード化については、API 5L X80規格に則った配管の適用が進められており、海底パイプラインの敷設効率化には、スプレッド工法における鋼管溶接の生産性向上が重要課題として挙げられている。
特許文献1は、鋼管端部どうしの円周突き合わせ溶接において、溶接速度1.0m/min以上4.3m/min以下の範囲で、高温割れや溶融ビードと裏当て金属材との溶着を防止するためのワイヤー送給量と溶接速度との関係を与えている。さらに、電極ワイヤー成分や溶接金属成分の炭素(C)と硫黄(S)の含有量を規定し、ビードの高温割れを防止する技術を提案している。しかし、例えば特許文献1の実施例にあるようにSが過剰でも溶接速度を遅くすれば高温割れが発生しない。つまり、電極ワイヤーの成分を限定しても、実際の溶接現場での溶接速度や鋼管グレード(材質)等の溶接条件との関係により、高温割れが発生したりしなかったりするのである。そのため、API 5L X65クラス以上の鋼管の溶接に求められる信頼性の高い溶接継手品質を安定的に得るためには、鋼管グレード(材質)等によらず、ある程度の溶接速度を維持し、高温割れを本質的に解決する溶接技術の確立が求められている。
また鋼管端部どうしの円周突き合わせ溶接において、特許文献1にて規定されている溶接金属の成分にて溶接した場合、上向き溶接姿勢で凸ビードとなり、次層溶接時に溶け残り2層目溶接時に1〜2層間に融合不良を発生させてしまう可能性があり、現場での溶接には不向きである。溶接金属中のS分を多くすれば、上向き姿勢における溶接性を向上させビード形状をフラットにすることができるが、高温割れ防止のため溶接速度を低下させなければならず、生産性の低下と品質安定性の低下をもたらす。そこで、溶接金属中のS含有量を多少増加させても高温割れが発生せず、生産性も落ちない溶接方法の開発が課題である。
特許文献2は、比較的厚肉(およそ20mm以上)の鋼管どうしの突き合せサブマージアーク溶接を対象としており、大溶け込み量・低溶接速度の溶接技術であり、スプレッド工法などのある程度溶接速度を必要とするものには適用できない。
本発明は、上記従来技術の持つ課題を鑑みてなされたものであり、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、鋼管のグレード(材質)によらず、溶接速度を現状以上の1.5m/min以上で行っても高温割れを発生させず、かつ上向き姿勢で平滑な溶接ビードとなるような溶接方法および溶接装置を提供することを目的とする。
なお、本発明は、鋼管端部どうしの突き合わせ溶接を例として成されたものであるが、言うまでもなく、その溶接は、鋼板どうしの突き合わせ溶接と本質的に同じであることから、鋼管だけでなく鋼板の突き合わせガスシールドアーク溶接にも適用可能である。
本発明者らは、上記課題を解決するため材料組織学的観点から検討を重ね、裏波側からのデンドライト成長と両側開先壁からのデンドライト成長を制御することにより、溶接部分の高温割れの発生防止と溶接速度の維持向上を両立させることができることを見出し、本発明を成すに至った。
溶接速度が速い場合に発生する溶接部の高温割れは、溶接ビード断面における突き合わせ凝固部(両側開先壁からのデンドライト成長がぶつかり合った部分で発生し、開先断面で見ると線状であり、それが溶接方向に延びるため面状の形態となる。)に低融点化合物が偏析し、開先壁側から(鋼管の管軸方向)の引張応力が、突き合わせ凝固部(面)に対して垂直に作用することで発生する。突き合せ凝固部は、溶接中のビード断面内における最終凝固部であり、硫黄(以下S)などの脆い低融点化合物が偏析しやすい箇所である。
そこで、裏波側からのデンドライト成長を両側開先壁からのデンドライト成長より早くした場合、3方向からのデンドライト成長の相互作用により、突合せ凝固部(面)は、鋼管の管軸に対し垂直でなく、少し傾いたものとなることを、本発明者らは見出した。その分、突き合わせ凝固面に対して作用する管軸方向の引張応力が軽減され、高温割れを防止できるのである。
更に、本発明者らは、デンドライトの成長制御を実現し、溶接速度も維持向上することができる、最適な溶接条件についても、鋭意検討し、その結果適正な溶接条件を見出した。前述したように、本発明は、鋼管端部どうしの突き合わせ溶接を例として成されたものであるが、言うまでもなく、その溶接は、鋼板どうしの突き合わせ溶接と本質的に同じであることから、鋼管だけでなく鋼板の突き合わせガスシールドアーク溶接にも適用可能である。
即ち、本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)鋼板どうしの突合せガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、溶接ビードの断面形状における溶接ビードの全高さに対する裏波側からのデンドライト組織の高さの比が0.5以上であることを特徴とする突き合わせガスシールドアーク溶接継手。
(2)前期鋼板どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接が、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接であることを特徴とする(1)に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接継手。
(3)突き合わせ部の開先の開先角度が2度以上7度以下、かつルートフェイスが0.7mm以上1.5mm以下、および開先ルート部の幅が3.5mm以上4.7mm以下であるU字開先形状の開先であり、溶接後の裏波ビード幅が4.5mm以上であるすることを特徴とする(1)又は(2)に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接継手。
(4)鋼板どうしの突合せガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、突き合わせ部の開先部分の開先角度を2度以上7度以下、ルートフェイスを0.7mm以上1.5mm以下、開先ルート部の幅を3.5mm以上4.7mm以下としたU字開先形状とし、溶接後の裏波ビード幅が4.5mm以上となり、溶接ビードの断面形状における溶接ビードの全高さに対する裏波側からのデンドライト組織の高さの比が0.5以上となるようにすることを特徴とする突き合わせガスシールドアーク溶接方法。
(5)前期鋼板どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接が、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接であることを特徴とする(4)に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接方法。
(6)前記突き合わせガスシールドアーク溶接における溶接電流を355A以上400A以下とすることを特徴とする(4)又は(5)に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接方法。
本発明によれば、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、1.5m/分以上の溶接速度で、電極ワイヤーによらず、高温割れを発生させない溶接方法を提供することができる。これにより、海底パイプライン等のスプレッド工法において、高温割れのない安定した品質を得られるだけでなく、生産性を向上させることが可能となる。
本発明の実施形態である鋼管の突き合わせ円周溶接システムの全体を示す図である。 本発明の実施形態である鋼管の開先突合せ部の断面を示す図である。 実施例における鋼管の開先突合せ部の断面形状を示す図である。 実施例におけるマクロ試験片採取位置を示す図である。 実施例における鋼管の開先突合せ溶接部の断面の計測位置を示す図である。 実施例における溶接電流と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す図である。 実施例における開先幅と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を、開先形状を変化させて示す図である。 実施例における開先幅と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を、溶接電流を変化させて示す図である。 実施例におけるシールドガスと高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す図である。 実施例における溶接ワイヤー種類と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す図である。 実施例における溶接電流と裏波ビード幅の関係を示す図である。 実施例における開先幅と裏波ビード幅の関係を示す図である。 実施例におけるシールドガスと裏波ビード幅の関係を示す図である。 実施例における溶接ワイヤー種類と裏波ビード幅の関係を示す図である。 実施例における裏波ビード幅と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す図である。 従来技術での高温割れを起こすときの開先突き合わせ溶接部断面の模式図を示す。 従来技術での高温割れを起こすときの開先突き合わせ溶接部断面例の写真を示す。 本発明に係る開先突き合わせ溶接部断面の模式図を示す。 本発明に係る開先突き合わせ溶接部断面例の写真を示す。
本発明に係る、鋼管端部どうしの突き合わせルートパス溶接における消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法の実施形態を以下に説明する。前述したように、その溶接は鋼板どうしの突き合わせ溶接と本質的に同じであることから、鋼管だけでなく鋼板の突き合わせガスシールドアーク溶接にも適用可能である。
図1に、鋼管端部どうしの突き合わせルートパス溶接における、消耗電極式ガスシールドアーク溶接システムを示す。当該システムは、鋼管1、2 、 裏波形成用の銅裏当てを装備したクランプ3、ガイドレール4、溶接ヘッド5、溶接ヘッド制御盤6、溶接ワイヤーを溶接ヘッドに供給するワイヤーフィーダー7、溶接電源8、シールドガス供給系9から構成される。鋼管1、2は裏波形成用の銅裏当てを装備したクランプ3で固定される。鋼管上に取り付けられたガイドレール4上を溶接ヘッド5は、従来の溶接速度1.5m/分以上の設定された速度で移動しながら溶接する。
図2に、水平固定管の開先形状を示す。図2に示すように本発明の実施形態においては、水平固定管の開先形状としてU型開先を採用している。図2において符号10、11は固定管であり、この固定管10、11の突き合わせ部に開先部12が形成されている。図2では、上側が鋼管の外側を、下側が鋼管の内側を表している。この開先部12には断面視略U字型のルート部開先12a(突き合わせ部)を設けている。またルート部開先12aの裏側(固定管10、11の内周側)には、裏開先12bを設けている。ルート部開先12aはテーパ部12cを介して固定管10、11の外周面10a、11aに連結されている。このテーパ部12cは、2°以上7°以下の開先角度αを有している。開先角度を2°以上にすることにより溶接中のワイヤー揺動幅を広げることができるため、裏波ビード幅を広くすることができ、高温割れが発生しにくくなる。これは、裏波ビードが広いと、裏波が冷却される面積が大きくなり、裏波ビード側からのデンドライト成長が促進され、デンドライト組織の高さが高くなるためである。
後述する実施例の結果、図15に示すように、裏波ビード幅と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)は正の相関があり、裏波ビード幅4.5mm以上であれば、高温割れ発生評価パラメータは0.5以上となり高温割れは発生しない。2°以下であると、溶接中の溶接ワイヤーの揺動幅を狭くする必要があるため、裏波ビード幅を4.5mm以上確保することが困難になり、高温割れが発生する原因となる。揺動幅を狭くしない場合はアークが開先壁に引かれ、溶け込み不良の原因となる。
また開先角度が7°以上の場合、上向き溶接部で溶融プールが重力に耐え切れず、ハンピングビードが発生し、2層目以降の溶接が困難となる原因となる。よって、開先角度αは、2°以上7°以下の範囲に設定している。施工上の誤差等を考慮すると、開先角度αは、3°以上5°以下の範囲に設定することが望ましい。
固定管10、11の長手方向に沿う開先部の底面幅w(開先底面幅)は3.5mm以上4.7mm以下の範囲に設定している。開先底面幅は、開先底面から鋼管の板厚方向に6mmの位置での開先の幅をいう。開先底面幅(図2中のw)を3.5mm以上にすることにより溶接ビードを広げることができるため、裏波ビード幅も広くすることができ、高温割れが発生しにくくなる。開先底面幅が3.5mm以下であると、溶け込み不良防止のためには、揺動幅を狭くせざるを得ない。揺動幅を狭くすると、溶接ビード幅が狭くなるため、裏波ビード幅を4.5mm以上確保することが困難になり、高温割れが発生する原因となる。また開先底面幅が4.7mm以上の場合、上向き溶接部で溶融プールが重力に耐え切れず、ハンピングビードが発生し、2層目以降の溶接が困難となる原因となる。よって開先底面幅は、3.5mm以上4.7mm以下の範囲に設定している。
またルートフェイス(rf)は0.7mm以上1.5mm以下の範囲に設定している。ルートフェイスを0.7mm以上に設定することにより溶接時に溶接ビードと裏当て材との焼き着きを防止することができる。0.7mm以下の場合、溶接ビードと裏当て材との焼き着きが発生する原因となる。またルートフェイスが1.5mm以上の場合、溶接疵(溶け込み不良)が発生する原因となる。よってルートフェイスは、0.7mm以上1.5mm以下の範囲に設定している。裏当て材との焼き着き防止を万全にするためには、ルートフェイスは、1.0mm以上1.5mm以下とすることが望ましい。
また本発明のガスシールドアーク溶接法においては、図2に示すようにルート部開先12aの裏面側に裏当て金属材13を当てた状態で溶接を行うこととしている。この裏当て金属材13は、固定管10、11の内周面(裏面)10b、11b側においてインターナルクランプ14によって支持されている。また裏当て金属材13の材質としては、高融点で熱伝導性が高いもの、例えば銅や銅合金を用いている。溶接条件として、溶接電流は355A以上400A以下、溶接電圧は25V以上30V以下、および溶接速度は2.0m/min以上2.5m/min以下とすることで、溶接入熱を、2130J/cm以上2880J/cm以下の範囲に制御することが好ましい。溶接入熱が2130J/cm以下になると、良好な裏波ビード幅を十分に確保することが出来ず、高温割れを発生させたり、溶け込み不良を発生させたりする原因となる。一方で、溶接入熱が2880J/cm以上になると、溶接時に裏当て材の焼き着きが起こる原因となり、操業上好ましくない。
シールドガスはアルゴン(Ar)と炭酸ガス(CO2)の混合ガスとすることが好ましく、シールドガス組成はAr:C02=50:50とすることが好ましい。通常用いられるMAG溶接用シールドガスはAr:C02=80:20であるが、C02の混合量を増加させることで溶け込みが深くなり、裏波ビード幅4.5mm以上が確保でき、ビード裏波側からのデンドライト成長を促進できる。
以上の構成のガスシールドアーク溶接方法により、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアークルートパス溶接において、裏波ビード幅4.5mm以上が確保でき、ビード裏波側からのデンドライト成長を促進させることができ、当該ルートパス全ビード高さの0.5倍以上のビード裏波側からのデンドライト成長層が、ビード中央部に濃縮する低融点化合物の濃縮を抑制し、高温割れ発生を防止できる。これにより、溶接速度2.0m/min以上2.5m/min以下の範囲で高温割れを発生させない溶接ビードを形成することが可能である。
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本実施例では、溶接電流、開先形状、シールドガス成分、溶接ワイヤーが高温割れ発生に与える影響について調査している。本実施例に使用した鋼管は、API 5L X65材とした。鋼管の化学成分を表1に示す。
本実施例で使用した溶接条件を表2に示す。溶接姿勢は円周下進溶接とし、溶接速度は2.5m/minで一定である。溶接条件は、ワイヤー送給量(電流値)および電圧値を変更した3条件である。
図3および表3に開先形状を示す。開先は図3に示すようにU開先とし、開先角度は3.0°とした。開先IIおよび開先III は、開先Iを基準として、表面幅を0.25mm、0.5mm狭くするように開先加工を施している。
シールドガスは50%CO2−50%Ar、26%CO2−74%Ar 、30%CO2−70%Arの3種類である。
表4に試験に使用した溶接ワイヤーを示す。溶接ワイヤーは、JIS Z 3312 YGW 24およびJIS Z 3312 YGW 17の2種類である。
手順として、まず初めに自動インターナルクランプにより、開先合わせ(ルートギャップなし)を行う。自動インターナルクランプには銅裏当て材が取り付けられており、開先面に内側から銅板が当たるようにしている。
次に水平に固定された鋼管を外周から片面溶接する。溶接は、ルートパスのみとし、溶接条件は溶接姿勢によらず、一定条件としている。溶接後、放射線透過試験(JIS Z 3104参照)を実施し高温割れ発生の有無を調査した。
図4に鋼管軸方向の断面図を示す。図4に示したマクロ試験片採取位置からマクロ試験片を1、3、5時の位置(図中の1、3、5の位置に対応)から採取した。また、マクロ試験片採取位置から近い位置で高温割れが発生した場合には、高温割れ発生位置からもマクロ試験片を採取した。マクロ試験片は研磨して、エッチング処理し、拡大投影機(50倍)にて観察した。計測項目は、図5に示すように、開先底面幅(開先底面から鋼管の板厚方向に6mmの位置での開先の幅)、ビード高さ(裏波ビード最下点からビード最上点までの鋼管の板厚方向の高さ)、裏波ビード幅(裏波ビードの最大幅)、裏波側からのデンドライト成長高さ(裏波ビード最下点から裏波側からのデンドライトの最上点までの鋼管の板厚方向の高さ)の4項目について計測した。
高温割れを起こすときの開先溶接部断面の模式図を図16に、写真を図17に示す。上述したように、高温割れは、溶接ビード断面における突き合わせ凝固部(両側開先壁からのデンドライト成長52がぶつかり合った部分)に、鋼管の板厚方向に平行に薄い面状(断面図では線状にみえる)に、低融点化合物が偏析する。このため、溶接金属中に低融点化合物の脆い偏析層51ができ、しかもそこに、開先壁側からの引張応力(鋼管の管軸方向)が垂直に作用するため、割れが発生し易くなる。
一方、本発明に係る開先溶接部断面の模式図を図18に、写真を図19に示す。裏波ビード側からのデンドライト成長53が、両側開先壁からのデンドライト成長より速く、溶接ビード高さHに対し概ね半分以上成長していれば、低融点化合物の偏析層を生じることがない。たとえ、偏析層が生じたとしても、裏波ビードから成長したデンドライト組織50が形成する、裏波ビード幅を底辺とする二等辺三角形の両等辺上に偏析層が生じるため、開先壁からの引張応力(鋼管の管軸方向)が、脆い低融点化合物偏析層に対して、垂直に作用せず、引張応力は分散するので、高温割れは発生しにくくなる。
以上の原理から高温割れの発生の有無は、裏波側からのデンドライト成長速度と両側開先壁からのデンドライト成長によって決定されると考えられる。そこで、溶接ビードの断面形状における溶接ビードの全高さHに対する裏波側からのデンドライト組織50の高さhの比を高温割れ発生評価パラメータと定義し、高温割れ発生限界を定量的に把握した。
図6から図10に高温割れ発生パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)と溶接電流、開先幅、シールドガス、ワイヤー種類との関係を、図11から図14に裏波ビード幅と溶接電流、開先幅、シールドガス、ワイヤー種類の関係を示す。各図において、黒塗りつぶしのプロット(●等)は高温割れが発生していない試験片を示しており、白抜きのプロット(○等)は高温割れが発生した試験片を示している。
図6に溶接電流と高温割れ発生パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す。縦軸は高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)、横軸は溶接電流を示している。溶接電流以外の継手作製条件としては、開先は開先I、溶接ワイヤーはJIS Z 3312 YGW 24、シールドガスは30%CO2−70%Arを用いている。図6に示すように、溶接電流が増加するにつれて、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が増加する傾向があり、低電流条件においては高温割れが多発した。
図7に開先幅と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す。開先幅以外の継手作製条件としては、溶接条件は高電流条件、溶接ワイヤーはJIS Z 3312 YGW 24、シールドガスは30%CO2−70%Ar、開先は表3に示した開先条件を用いている。図7に示すように開先幅が増加するにつれ、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が増加した。
図8に、溶接電流を変化させた場合の開先幅と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す。図8に示すように同じ電流条件であれば、開先幅が増加するにつれ、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が増加した。一方、開先幅が広くても低電流条件では高温割れが発生した。
図9にシールドガスと高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す。シールドガス以外の継手作製条件としては、溶接条件は高電流条件、開先は開先I、溶接ワイヤーはJIS Z 3312 YGW 24としている。図9に示すように、シールドガス中の二酸化炭素量が多くなるにつれて、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の値が大きくなる。
図10に溶接ワイヤーと高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す。溶接ワイヤー以外の継手作製条件としては、開先は開先I、溶接条件は高電流条件、シールドガスは30%CO2−70%Arを用いている。図10に示すようにYGW24を用いた場合は、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が大きな値を示しており、高温割れが発生しなかった。これに対して、YGW17を用いた場合は高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が小さな値を示しており、高温割れが発生する場合があった。
両者の高温割れ発生に影響を及ぼす因子における違いとして、硫黄(S)の含有量が挙げられる。硫黄(S)は溶けた溶融池の中で脆い低融点化合物を形成し、ビード中央部に偏析し高温割れを引き起こす元素であることが知られている。表4に示したように、YGW24に含まれるS量は0.004質量%、YGW17に含まれるS量は0.006質量%であることから、溶接ワイヤー中のS量は0.004質量%以下が好ましい。しかし、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が0.5以上である断面については、高温割れは発生していなかった。
鋼材のグレードが変わっても、高温割れの発生有無は、基本的に溶接金属中の硫黄量に支配されるため、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が0.5以上である断面であれば、高温割れは発生しないと考えられる。
上述した4つのパラメータと裏波ビード幅の関係について図11〜図14に示す。図11に示すように電流が高いほど裏波ビード幅が広くなっている。これは電流が高くなるとアーク力が増し、溶け込みが深くなるため裏波ビード幅が広くなる。本実施例では、図11に示すように、355A以上であれば、ビード幅も広くなり高温割れは発生しなかった。上限は、特に限定されないが、電流が大きくなるほど電源装置も大きくなるため、400A以下が実用的な上限となる。このとき、アークが安定する電圧として、25V以上30V以下とすることが好ましい。電流値とワイヤー径には関係があり、ワイヤー径が細い方が、電流密度が上がるため、溶け込み深さが深くなる。上記電流値は、本実施例での使用ワイヤー径1.2mmに対し、±25%程度のワイヤー径の範囲で使用できることが経験的に知られている。
開先幅については、図12に示すように開先幅が広いほど、裏波ビード幅が広くなっている。開先幅については、開先幅が広くなると、溶接ビード自体の幅が広がるので裏波ビード幅も広くなる。
シールドガスについては、図13に示すようにシールドガス中の二酸化炭素の比率が増加するにつれて、裏波ビード幅が広くなっている。これは二酸化炭素の比率が増加するとアーク力が増し溶け込みが深くなるため裏波ビード幅が広くなる。
溶接ワイヤー成分については、図14に示すように溶接ワイヤー成分と裏波ビード幅には特に相関関係はない。
図15に裏波ビード幅と高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)の関係を示す。両者の間には比例関係が見受けられる。全ての実施例結果から、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)が0.5倍以上であれば、高温割れは発生していない。また裏波ビード幅が4.5mm以上であれば、高温割れ発生評価パラメータ(裏波側からのデンドライト成長高さ/ビード高さ)は0.5倍以上となる。
以上、本実施例に基づき本発明について説明したが、本実施例は、本発明の一実施形態を示しているにすぎない。ガスシールドアーク溶接には、ガスの種類と電極が消耗性かどうかによって、MAG、MIG、TIGに分けられるが、これら方法による本発明への影響はなく、どの方法であってもかまわない。従って、本発明を実施する上での実施形態は、実施例に示した実施形態に限定されることはなく、本発明の要件を満足するものであればよい。
本発明は、鋼管端部どうしの突き合わせ溶接を例として成されたものであるが、言うまでもなく、その溶接は、鋼板どうしの突き合わせ溶接と本質的に同じであることから、鋼管だけでなく鋼板の突き合わせガスシールドアーク溶接にも適用可能である。
本発明は、例えば、海底パイプラインの配管敷設にあたり、現地での鋼管のスプレッド工法による溶接に利用することができ、高温割れのない高品質溶接継手を得られるだけでなく、溶接速度を速くすることができるので、生産性が格段に向上する。本発明は、今後の資源エネルギー分野でのパイプライン建設を初め、多くの溶接利用分野で利用でき、産業の発達に貢献するものと確信する。
1,2 鋼管(固定管)
3 クランプ
4 ガイドレール
5 溶接ヘッド
6 制御盤
7 ワイヤーフィーダー
8 溶接電源
9 シールドガス供給系
10,11 鋼管(固定管)
10a,11a 外周面
10b,11b 内周面(裏面)
12 開先部
12a ルート部開先(開先突合せ部)
12b 裏開先
12c テーパ部
13 銅裏当て
14 クランプ
50 裏波側からのデンドライト組織
51 偏析層
52 開先壁からのデンドライト成長
53 裏波側からのデンドライト成長
H 溶接ビードの全高さ
h 裏波側からのデンドライト組織の高さ
LR 平行部長さ
R 底面曲率
RF ルートフェイス
RH 内面高さ
t 板厚
w 開先底面幅(開先ルート幅)
W ベベル幅(鋼管外面の開先幅の半分)
WR ベベルルート幅(開先底面幅の半分)
α 開先角度
β 内面角度

Claims (6)

  1. 鋼板どうしの突合せガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、溶接ビードの断面形状における溶接ビードの全高さに対する裏波側からのデンドライト組織の高さの比が0.5以上であることを特徴とする突き合わせガスシールドアーク溶接継手。
  2. 前記鋼板どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接が、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接であることを特徴とする請求項1に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接継手。
  3. 突き合わせ部の開先の開先角度が2度以上7度以下、かつルートフェイスが0.7mm以上1.5mm以下、および開先ルート部の幅が3.5mm以上4.7mm以下であるU字開先形状の開先であり、溶接後の裏波ビード幅が4.5mm以上であるすることを特徴とする請求項1又は2に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接継手。
  4. 鋼板どうしの突合せガスシールドアーク溶接のルートパス溶接において、突き合わせ部の開先部分の開先角度を2度以上7度以下、ルートフェイスを0.7mm以上1.5mm以下、開先ルート部の幅を3.5mm以上4.7mm以下としたU字開先形状とし、溶接後の裏波ビード幅が4.5mm以上となり、溶接ビードの断面形状における溶接ビードの全高さに対する裏波側からのデンドライト組織の高さの比が0.5以上となるようにすることを特徴とする突き合わせガスシールドアーク溶接方法。
  5. 前期鋼板どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接が、鋼管端部どうしの突き合わせガスシールドアーク溶接であることを特徴とする請求項4に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接方法。
  6. 前記突き合わせガスシールドアーク溶接において溶接電流を355A以上400A以下とすることを特徴とする請求項4又は5に記載の突き合わせガスシールドアーク溶接方法。
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