(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかるモータ制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態にかかるモータ制御システムは、電気自動車の駆動用モータを制御するモータ制御システムである。このモータ制御システムは、モータ10、インバータ20および制御ユニット30を主体に構成されている。
モータ10は、ロータとステータとを主体に構成されており、中性点を中心に星形結線された複数の相巻線(本実施形態では、U相巻線、V相巻線、W相巻線からなる3つの相巻線)がステータにそれぞれ巻回された永久磁石同期電動機である。このモータ10は、後述するインバータ20から、3相の交流電力が各相巻線にそれぞれ供給されることにより生じる磁界と、回転子の永久磁石が作る磁界との相互作用により駆動することにより、ロータおよびこれに連結された出力軸が回転する。モータ10の出力軸は、例えば、電気自動車の自動変速機に連結されている。
インバータ20は、電源(図示せず)に接続されており、電源からの直流電力を交流電力に変換してモータ10に供給する電力変換手段である。この交流電力はモータ10の各相に対応して生成され、インバータ20によって生成された各相の交流電力は、モータ10にそれぞれ供給される。
インバータ20は、電源の正極側の母線に接続される上アームと、電源の負極側の母線に接続される下アームとが直列接続された回路を、U相、V相およびW相の各相に対応して備えている。単一の回路における各アームは、一方向の導通を制御可能な半導体スイッチ(例えば、IGBT等のトランジスタといった自己消弧形のスイッチング素子)を主体に構成されており、この半導体スイッチには、還流用ダイオードが逆並列接続されている。
各アームのオンオフ状態、すなわち、半導体スイッチのオンオフ状態(スイッチング動作)は、制御ユニット30から出力される駆動信号を通じて制御される。個々のアームを構成する半導体スイッチは、制御ユニット30の駆動信号によりオンされることにより導通状態となり、オフされることにより非導通状態(遮断状態)となる。
制御ユニット30は、インバータ20のスイッチング動作を制御することにより、モータ10の出力トルクを制御する。制御ユニット30としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。制御ユニット30は、ROMに記憶された制御プログラムに従い、インバータ20を制御するための演算を行う。そして、制御ユニット30は、この演算によって算出された制御信号(駆動信号)をインバータ20に対して出力する。
制御ユニット30には、各種のセンサによって検出されるセンサ信号が入力されている。位置センサ(例えば、レゾルバ)50は、モータ10に取り付けられており、モータ10のロータ位置を表す位置情報を検出する。また、電流センサ51は、モータ10におけるU相の実電流iuを検出し、電流センサ52は、モータ10におけるW相の実電流iwを検出する。
制御ユニット30は、例えば、PWM波電圧駆動といった制御方式により、インバータ20のスイッチング動作、具体的には、上下アームに対応する個々の半導体スイッチのオンオフ状態を相毎に制御する。PWM波電圧駆動は、直流電圧からPWM波電圧を生成してモータ10に印加する、具体的には、キャリア信号に基づいてPWM制御を行い、PWM制御のデューティー指令値を算出することで等価的な正弦波交流電圧をモータ10に印加する駆動方式である。
制御ユニット30は、これを機能的に捉えた場合、電流制御部31と、dq/3相変換部32と、変調率生成部33と、変調率オフセット部34と、PWM信号生成部35と、位相演算部36と、3相/dp変換部37とを有している。
電流制御部31は、外部より与えられるトルク指令Te*と、モータ回転数ωとに基づいて、トルク指令Te*に対応するd軸およびq軸電流指令をそれぞれ演算する。モータ10の特性等を考慮して、トルク指令値Te*およびモータ回転数ωと、d軸およびq軸電流指令との関係を実験やシミュレーションを通じて予め取得しておくことで、電流制御部31は、この関係を規定したマップを保持している。電流制御部31は、当該マップを参照してd軸およびq軸電流指令をそれぞれを演算する。ここで、位相演算部36は、位置センサ50より検出される位置情報に基づいて電気的な位相(電気角)θを演算するとともに、この電気角θを時間微分することにより電気角速度、すなわち、モータ回転数ωを演算している。d軸およびq軸電流指令の演算に必要となるモータ回転数ωは、位相演算部36の演算結果を利用することができる。
電流制御部31は、d軸およびq軸電流指令から、モータ10の実電流に対応するd軸およびq軸電流id,iqをそれぞれ減算することにより、d軸およびq軸の電流偏差をそれぞれ演算する。ここで、モータ10の実電流に対応するd軸およびq軸電流は、3相/dq変換部37が、位相演算部36において演算される電気角θに基づいて3相の実電流を座標変換することにより演算される。また、3相の実電流は、電流センサ51,52の検出結果から特定される。なお、3相の電流の総和はゼロとなるため、U相およびW相の実電流iu,iwより残りのV相の実電流を検出することができる。
電流制御部31は、例えば、PI制御を用いて、d軸およびq軸の電流偏差がそれぞれ0となるようなd軸およびq軸電圧指令vd,vqをそれぞれ演算する。演算されたd軸およびq軸電圧指令vd,vqは、dq/3相変換部32にそれぞれ出力される。
dq/3相変換部32は、位相演算部36において演算される電気角θを参照した上で、d軸およびq軸電圧指令vd,vqを、3相に対応する電圧指令vu,vv,vwに座標変換する。各相の電圧指令vu〜vwは、変調率生成部33にそれぞれ出力される。
変調率生成部33は、各相の電圧指令vu〜vwを、電源電圧で規格化することにより、各相の変調率指令mu,mv,mwをそれぞれ算出する。この変調率指令mu〜mwは、1制御周期における各相の上下アームのオン時間比率をそれぞれ規定するパラメータである。本実施形態において、変調率生成部33は、モータ10のトルク指令Te*に基づいて、各相の変調率指令mu〜mwに算出する演算手段として機能する。算出された各相の変調率指令mu〜mwは、変調率オフセット部34およびPWM信号生成部35にそれぞれ出力される。
変調率オフセット部34は、PWM信号生成部35に入力される前段において、各相の変調率指令mu〜mwにオフセット値をそれぞれ加算することにより、各相の変調率指令mu〜mwを補正するオフセット信号m_offを生成する。このオフセット信号m_offと、変調率生成部33から出力される各相の変調率指令m〜mwとは加算器にそれぞれ入力され、各相の変調率指令m〜mwにオフセット信号m_offがそれぞれ加算される。そして、この加算結果である最終的な変調率指令mu*,mv*,mw*がPWM信号生成部35に入力される。
変調率オフセット部34は、これを機能的に捉えた場合、オン抵抗比較部34aと、最大電流検出部34bと、オフセット信号生成部34cとを有している。オン抵抗比較部34aは、アームを構成する半導体スイッチおよびダイオードのうち、それらが電流経路として機能する際の抵抗の大小を、半導体スイッチの抵抗RSおよびダイオードの抵抗RDに基づいて判断する。最大電流検出部34bは、各相電流に基づいて、絶対値が最大となる相を最大電流相として検出する(電流検出手段)。オフセット信号生成部34cは、オン抵抗比較部34aおよび最大電流検出部34bの処理結果に基づいて、オフセット信号m_offを生成する。具体的には、オフセット信号生成部34cは、最大電流相を処理対象として、PWM制御の1制御周期において、上アーム側がオンした際の当該上アーム側の電流経路における損失(オン損失)と、下アーム側がオンした際の当該下アーム側の電流経路における損失(オン損失)との大小を比較する(損失比較手段)。そして、オフセット信号生成部34cは、最大電流相において、オン損失が大きい方の電流経路に対応するアームのオン時間比率が小さくなるようにオフセット信号m_offを生成する(第1の信号生成手段)。
ここで、オン損失Wonと、オフセット信号m_offとの関係は次式で表される。
本実施形態の変調率オフセット部34は、これを構成する要素34a〜34cの各機能により、素子(半導体スイッチおよびダイオード)の抵抗の大小関係と、最大電流とに基づいて、オン損失Wonが最小となるように、オフセット信号m_offを決定する。
PWM信号生成部35は、例えば、三角波といった周期的に変動するPWMキャリアの信号レベルと、各相の変調率指令mu*〜mw*との比較に基づいて、インバータ20の各相の上下アームの半導体スイッチをオンオフする駆動信号を生成する。具体的には、PWM信号生成部35は、変調率指令mu*〜mw*よりもPWMキャリアの信号レベルの方が小さい場合には、対応する相の上アームをオンする駆動信号および下アームをオフする駆動信号を生成する。一方、PWM信号生成部35は、PWMキャリアの信号レベルよりも変調率指令mu*,mv*,mw*の方が小さい場合には、対応する相の上アームをオフする駆動信号および下アームをオンする駆動信号を生成する。そして、PWM信号生成部35は駆動信号をインバータ20に対して出力する。インバータ20は、駆動信号に応じて各相の上下アームがスイッチング動作を行うことで所定の電圧をモータ10に印加し、これにより、モータ10を駆動する。換言すれば、PWM信号生成部35は、各相の変調率指令mu*,mv*,mw*に基づいて、相毎に、上下アームのオンオフ状態をそれぞれ制御する制御手段として機能する。
図2は、第1の実施形態にかかるモータ制御方法の手順、具体的には、オフセット信号m_offの決定方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定の周期で呼び出され、制御ユニット30によって実行される。まず、ステップ10(S10)において、各相の電流iu,iv,iwが特定される。このステップ10において特定される各相の電流iu〜iwは、電流センサ51,52の検出結果に基づく実電流を用いることができるが、電流指令値によって代用してもよい。
ステップ11(S11)において、最大電流検出部34bは、U相電流iuの絶対値が、V相電流ivの絶対値およびW相電流iwの絶対値よりもそれぞれ大きいか否かを判断する。このステップ11において肯定判定された場合、すなわち、U相電流iu(絶対値)がV相およびW相電流iv,iw(絶対値)よりもそれぞれ大きい場合には、ステップ12(S12)に進む。一方、ステップ11において否定判定された場合には、ステップ13(S13)に進む。
ステップ12において、電流の絶対値が最大となる相(最大電流相)であるU相をベースに、後述するステップ18(S18)以降の演算に用いる変調率パラメータm1,m2,m3および電流パラメータipが設定される。具体的には、m1には、最大電流相であるU相の変調率指令muがセットされ、m2には、U相よりも120度位相が遅れたV相の変調率指令mvがセットされ、m3には、U相よりも240度位相が遅れたW相の変調率指令mwがセットされる。また、ipには、最大電流相であるU相電流iuがセットされる。
ステップ13において、最大電流検出部34bは、V相電流ivの絶対値が、U相電流iuの絶対値およびW相電流iwの絶対値よりもそれぞれ大きいか否かを判断する。このステップ13において肯定判定された場合、すなわち、V相電流iv(絶対値)がU相およびW相電流iu,iw(絶対値)よりもそれぞれ大きい場合には、ステップ14(S14)に進む。一方、ステップ13において否定判定された場合、W相電流iw(絶対値)がU相およびV相電流iu,iv(絶対値)よりもそれぞれ大きい場合には、ステップ15(S15)に進む。
ステップ14において、最大電流相であるV相をベースに、変調率パラメータm1,m2,m3および電流パラメータipが設定される。具体的には、m1には、最大電流相であるV相の変調率指令mvがセットされ、m2には、V相よりも120度位相が遅れたW相の変調率指令mwがセットされ、m3には、V相よりも120度位相が進んだU相の変調率指令muがセットされる。また、ipには、最大電流相であるV相電流ivがセットされる。
ステップ15において、最大電流相であるW相をベースに、変調率パラメータm1,m2,m3および電流パラメータipが設定される。具体的には、m1には、最大電流相であるW相の変調率指令mwがセットされ、m2には、W相よりも240度位相が進んだU相の変調率指令muがセットされ、m3には、W相よりも120度位相が進んだV相の変調率指令mvがセットされる。また、ipには、最大電流相であるW相電流iwがセットされる。
ステップ16(S16)において、オン抵抗比較部34aは、最大電流相に対応する上下アームについて、当該アームの一方の電流経路に相当する半導体スイッチの抵抗RSが、他方の電流経路に相当するダイオードの抵抗RDよりも大きいか否かを判断する。ステップ16において肯定判定された場合、すなわち、半導体スイッチの抵抗RSがダイオードの抵抗RDよりも大きい場合には、ステップ17(S17)に進む。一方、ステップ16において否定判定された場合、すなわち、半導体スイッチの抵抗RSがダイオードの抵抗RDよりも大きくない場合には、後述するステップ23(S23)に進む。
ステップ17において、オフセット信号生成部34cは、最大電流相の電流ipが正であるか否かを判断する。ステップ17において肯定判定された場合、すなわち、電流ipが正である場合には、ステップ18(S18)に進む。一方、ステップ17において否定判定された場合、すなわち、電流ipが正でない場合には、後述するステップ24(S24)に進む。
ステップ18〜ステップ22(S22)の処理では、最終的な変調率指令mu*〜mw*が、変調率生成部33において生成される変調率指令mu〜mwよりも下側にオフセットするようにオフセット信号m_offが生成される。この場合、変調率指令mu*〜mw*は「−1」以上「1」以下という制約ある。そのため、オフセット信号生成部34cは、変調率生成部33において演算された各相の変調率指令mu〜mwのうち最小となる変調率指令mu〜mwを特定し、この最小の変調率指令mu〜mwが「−1」までオフセットするようにオフセット信号m_offを生成する。
具体的には、ステップ18(S18)において、オフセット信号生成部34cは、変調率パラメータm1〜m3のうち最も小さいパラメータを検索すべく、m1がm2,m3よりもそれぞれ小さいか否かを判断する。ステップ18において肯定判定された場合、すなわち、変調率パラメータm1〜m3のうち最も小さいパラメータがm1である場合には、ステップ19(S19)に進む。そして、ステップ18において、オフセット信号生成部34cは、オフセット信号m_offとして「−1−m1」をセットして本ルーチンを抜ける。一方、ステップ18において否定判定された場合には、ステップ20(S20)に進む。
ステップ20において、オフセット信号生成部34cは、変調率パラメータm1〜m3のうち最も小さいパラメータを検索すべく、m2がm1,m3よりもそれぞれ小さいか否かを判断する。ステップ20において肯定判定された場合、すなわち、変調率パラメータm1〜m3のうち最も小さいパラメータがm2である場合には、ステップ21(S21)に進む。そして、ステップ21において、オフセット信号生成部34cは、オフセット信号m_offとして「−1−m2」をセットして本ルーチンを抜ける。一方、ステップ20において否定判定された場合には、すなわち、変調率パラメータm1〜m3のうち最も小さいパラメータがm3である場合には、ステップ22(S22)に進む。そして、ステップ22において、オフセット信号生成部34cは、オフセット信号m_offとして「−1−m3」をセットして本ルーチンを抜ける。
これに対して、ステップ16の否定判定に続くステップ23において、オフセット信号生成部34cは、最大電流相の電流ipが正であるか否かを判断する。ステップ23において肯定判定された場合、すなわち、電流ipが正である場合には、ステップ24(S24)に進む。一方、ステップ23において否定判定された場合、すなわち、電流ipが正でない場合には、上述したステップ18の処理に進む。
ステップ24〜ステップ28(S28)の処理では、最終的な変調率指令mu*〜mw*が、変調率生成部33において生成された変調率指令mu〜mwよりも上側にオフセットするようにオフセット信号m_offが生成される。この場合、変調率指令は「−1」以上「1」以下という制約ある。そのため、変調率生成部33において演算された各相の変調率指令mu〜mwのうち最大となる変調率指令mu〜mwを特定し、この最大の変調率指令mu〜mwが「1」までオフセットするようにオフセット信号m_offを生成する。
具体的には、ステップ24において、オフセット信号生成部34cは、変調率パラメータm1〜m3のうち最も大きいパラメータを検索すべく、m1がm2,m3よりもそれぞれ大きいか否かを判断する。ステップ24において肯定判定された場合、すなわち、変調率パラメータm1〜m3のうち最も大きいパラメータがm1である場合には、ステップ25(S25)に進む。そして、ステップ25において、オフセット信号生成部34cは、オフセット信号m_offとして「1−m1」をセットして本ルーチンを抜ける。一方、ステップ24において否定判定された場合には、ステップ26(S26)に進む。
ステップ26において、オフセット信号生成部34cは、変調率パラメータm1〜m3のうち最も大きいパラメータを検索すべく、m2がm1,m3よりもそれぞれ大きいか否かを判断する。ステップ26において肯定判定された場合、すなわち、変調率パラメータm1〜m3のうち最も大きいパラメータがm2である場合には、ステップ27(S27)に進む。そして、ステップ27において、オフセット信号生成部34cは、オフセット信号m_offとして「1−m2」をセットして本ルーチンを抜ける。一方、ステップ26において否定判定された場合には、すなわち、変調率パラメータm1〜m3のうち最も大きいパラメータがm3である場合には、ステップ28(S28)に進む。そして、ステップ28において、オフセット信号生成部34cは、オフセット信号m_offとして「1−m3」をセットして本ルーチンを抜ける。
このように、本実施形態にかかるモータ制御システムのシステム構成およびその制御方法について説明したが、これらの特徴としての本実施形態の制御概念について説明する。図3は、U相の電流経路を例示する説明図である。以下、U相を例示して説明を行うが、他の相についても同様である。同図に示すように、電源21の正極母線にはU相の上アーム23が接続されており、この上アーム23は、半導体スイッチ23aと、これに逆並列に接続されたダイオード23bとで構成されている。一方、電源21の負極母線にはU相の下アーム24が接続されており、この下アーム24は、半導体スイッチ24aと、これに逆並列に接続されたダイオード24bとで構成されている。なお、正極母線と負極母線との間には、平滑コンデンサ22が設けられている。
同図に示すように、U相の電流経路には、半導体スイッチを経由する経路と、ダイオードとを経由する経路とがある。具体的には、同図(a)に示すように、上アーム23側(半導体スイッチ23a)をオンして正方向(U相のアームからモータ10へと向かう方向)のU相電流iuを流す場合、電流経路は、上アーム23側の半導体スイッチ23aを経由する経路となる。一方、同図(b)に示すように、下アーム24側(半導体スイッチ24a)をオンして正方向のU相電流iuを流す場合、電流経路は、下アーム24側のダイオード24bを経由する経路となる。
例えば、電流経路の抵抗として、半導体スイッチよりもダイオードの方が抵抗が小さいケースを考える。このケースでは、U相電流iuが正のシーンにおいて、上アーム23側がオンした際のこの上アーム23側の電流経路における損失(オン損失)よりも、下アーム24側がオンした際のこの下アーム24側の電流経路における損失(オン損失)の方が小さいこととなる。したがって、抵抗が大なる要素が半導体スイッチで、かつ、正方向のU相電流iuを流す場合には、下アーム24側をオンする比率を増加させた方が、オン損失を相対的に低く抑えことができる。
一方、電流経路の抵抗として、ダイオードよりも半導体スイッチの方が抵抗が小さいケースを考える。このケースでは、U相電流iuが正のシーンにおいて、下アーム24側のオン損失よりも、上アーム23側のオン損失の方が小さいこととなる。したがって、抵抗が大なる要素がダイオードで、かつ、正方向のU相電流iuを流す場合には、上アーム23側をオンする比率を増加させた方が、オン損失を相対的に低く抑えことができる。
これに対して、同図(c)に示すように、上アーム23側(半導体スイッチ23a)をオンして負方向(モータ10からU相のアームへと向かう方向)のU相電流iuを流す場合、電流経路は、上アーム23側のダイオード23bを経由する経路となる。一方、同図(d)に示すように、下アーム24側(半導体スイッチ24a)をオンして負方向のU相電流iuを流す場合、電流経路は、下アーム24側の半導体スイッチ24aを経由する経路となる。
例えば、電流経路の抵抗として、半導体スイッチよりもダイオードの方が抵抗が小さいケースを考える。このケースでは、U相電流iuが負のシーンにおいて、下アーム24側のオン損失よりも、上アーム23側のオン損失の方が小さいこととなる。したがって、抵抗が大なる要素が半導体スイッチで、かつ、負方向のU相電流iuを流す場合には、上アーム23側をオンする比率を増加させた方が、オン損失を相対的に低く抑えことができる。
一方、電流経路の抵抗として、ダイオードよりも半導体スイッチの方が抵抗が小さいケースを考える。このケースでは、U相電流iuが負のシーンにおいて、上アーム23側のオン損失よりも、下アーム24側のオン損失の方が小さいこととなる。したがって、抵抗が大なる要素がダイオードで、かつ、負方向のU相電流iuを流す場合には、下アーム24側をオンする比率を増加させた方が、オン損失を相対的に低く抑えことができる。
例えば、オフセット信号m_offにより、初期的な変調率指令mu〜mwを下側にオフセットさせる補正を行った場合には、この補正を行わないケースと比較して、1制御周期における上アーム側のオン時間比率が低減し、反面、下アームのオン時間比率が増加する。一方で、オフセット信号m_offにより、初期的な変調率指令mu〜mwを上側にオフセットさせる補正を行った場合には、この補正を行わないケースと比較して1制御周期における上アーム側のオン時間比率が増加し、反面、下アームのオン時間比率が減少する。これにより、最大電流相の電流経路において、オン損失が小さい方のアームのオン時間比率が大きくなるように、上下アームのオン時間比率を変更することができる。
このような観点から、本実施形態では、電流経路を担う半導体スイッチとダイオードとの抵抗を比較するとともに、最大電流相の電流の正負が比較される。これにより、最大電流相を処理対象として、PWM制御の1制御周期において、上アーム側がオンした際の当該上アーム側の電流経路における損失(オン損失)と、下アーム側がオンした際の当該下アーム側の電流経路における損失(オン損失)との大小が比較される。これにより、最大電流相において、オン損失が大きい方の電流経路に対応するアームのオン時間比率が小さくなるようにオフセット信号m_offが決定される。そのため、図4に示すように、最大電流相(例えば、U相)において、抵抗の大きい素子(例えば、半導体スイッチ)に電流が流れる時間(オン時間)が短くなり、オン損失が低減し、インバータ20の電力変換効率の向上を図ることができる。ここで、図4において、Aは、従来例(最大電流相のスイッチングを休止する手法)を示し、Bは、本実施形態による手法を示す。この場合、(a)はアームを構成する半導体スイッチの電流波形であり、(b)は各相の最終的な変調率指令である。また、(c)は同一の線間電圧をかけているときの各相の電流の平均値の総和を示し、(d)は同一の線間電圧をかけているときの各相の電流の実効値の総和を示している。同図(d)から分かるように、本実施形態に示す手法の方が、最大電流相の通電時間を短くすることで、電流の実効値の総和が低減している。
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態にかかるモータ制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態にかかる制御システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、第1の実施形態の制御手法と、ある相のスイッチング動作を休止させる2相変調制御とを両立させて、インバータ動作の高効率化を図ることである。なお、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
本実施形態形態において、変調率オフセット部38は、PWM信号生成部35に入力される前段において、各相の変調率指令mu〜mwにオフセット値をそれぞれ加算することにより、各相の変調率指令mu〜mwを補正するオフセット信号m_offを生成する。このオフセット信号m_offと、変調率生成部33から出力される各相の変調率指令m〜mwとは加算器にそれぞれ入力され、各相の変調率指令m〜mwにオフセット信号m_offがそれぞれ加算される。そして、この加算結果である最終的な変調率指令mu*,mv*,mw*がPWM信号生成部35に入力される。
変調率オフセット部38は、これを機能的に捉えた場合、オン損失用信号生成部38aと、スイッチ損失用信号生成部38bと、スイッチ損失推定部38cと、第1の損失推定部38dと、第2の損失推定部38eと、最終信号生成部38fとを有している。
オン損失用信号生成部38aは、第1の実施形態に示す変調率オフセット部34と同様の手法によりオフセット信号m_offを生成し、この信号m_offをオン損失用オフセット信号m_onとして出力する。
スイッチ損失用信号生成部38bは、最大電流相または最大電流相の次に電流の絶対値が大きい第2電流相のスイッチング動作を休止するように、変調率生成部33によって演算される各相の変調率指令mu〜mwを補正するスイッチ損失用オフセット信号m_swを生成する(第2の信号生成手段)。
スイッチ損失推定部38cは、アームのスイッチング動作に伴う損失(スイッチ損失)を推定する。スイッチ損失推定部38cの推定結果Lswは、第1の損失推定部38dおよび第2の損失推定部38eにそれぞれ出力される。第1の損失推定部38dは、オン損失用オフセット信号m_onを用いて補正を行った場合のスイッチング損失およびオン損失をそれぞれ推定するとともに、各損失の和を第1の損失WAとして推定する(第1の推定手段)。第2の損失推定部38eは、スイッチ損失用オフセット信号m_swを用いて補正を行った場合のスイッチング損失およびオン損失をそれぞれ推定するとともに、各損失の和を第2の損失WBとして推定する(第2の推定手段)。
最終信号生成部38fは、第1の損失WAと第2の損失WBとのうち小さい方の損失に対応するオフセット信号を、補正に供するオフセット信号m_offとして決定する(最終信号生成手段)。
図6は、第2の実施形態にかかるモータ制御方法の手順、具体的には、オフセット信号m_offの決定方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定の周期で呼び出され、制御ユニット30によって実行される。まず、ステップ30(S30)において、各相の電流iu,iv,iwが特定される。このステップ30において特定される各相の電流iu〜iwは、電流センサ51,52の検出結果に基づく実電流を用いることができるが、電流指令値によって代用してもよい。
ステップ31(S31)において、オン損失用信号生成部38aは、第1の実施形態に示すステップ11からステップ28までの処理に基づいて、オン損失用のオフセット信号m_offを生成する。ステップ32(S32)において、オン損失用信号生成部38aは、ステップ31において生成されたオフセット信号m_offをオン損失用オフセット信号m_onとしてセットする。
ステップ33(S33)において、第1の損失推定部38dは、オン損失用オフセット信号m_onを用いて最終的な各相の変調率指令mu*〜mw*を生成し、これに基づいて制御を行った場合のスイッチ損失(スイッチング損失)とオン損失との和を第1の損失WAとして推定する。オン損失用オフセット信号m_onを用いた場合のオン損失は、上述した数式1における第1項を計算することにより特定することができる。一方、オン損失用オフセット信号m_onを用いた場合のスイッチ損失は、スイッチ損失推定部38cが、素子のデータシートより、ある電流と、電源電圧とにおいて、半導体スイッチとダイオードとで発生する1スイッチングあたりの損失を簡単な近似式で表しておき、この近似式に基づいて計算することが考えられる。また、スイッチ損失推定部38cは、実験やシミュレーションを通じて、スイッチ損失と、電流および電源電圧との関係をマップ化しておき、このマップを使用して算出することも考えられる。この際、温度条件も考慮することも考えられる。
ステップ34において、スイッチ損失用信号生成部38bは、図7に示すフローチャートの手順にしたがって、スイッチ損失用のオフセット信号m_offを生成する。具体的には、ステップ40(S40)において、U相電流iuの絶対値が、V相電流ivの絶対値およびW相電流iwの絶対値よりもそれぞれ大きいか否かが判断される。このステップ40において肯定判定された場合、すなわち、U相電流iu(絶対値)がV相およびW相電流iv,iw(絶対値)よりもそれぞれ大きい場合には、ステップ41(S41)に進む。一方、ステップ40において否定判定された場合、ステップ42(S42)に進む。
ステップ41において、電流の絶対値が最大となる相(最大電流相)であるU相をベースに、後述するステップ46(S46)以降の演算に用いる変調率パラメータm1,m2,m3および電流パラメータi1,i2,i3が設定される。具体的には、m1には、最大電流相であるU相の変調率指令muがセットされ、m2には、U相よりも120度位相が遅れたV相の変調率指令mvがセットされ、m3には、U相よりも240度位相が遅れたW相の変調率指令mwがセットされる。また、i1には、最大電流相であるU相電流iuがセットされ、i2には、U相よりも120度位相が遅れたV相電流ivがセットされ、i3には、U相よりも240度位相が遅れたW相電流iwがセットされる。
ステップ42において、V相電流ivの絶対値が、U相電流iuの絶対値およびW相電流iwの絶対値よりもそれぞれ大きいか否かが判断される。このステップ42において肯定判定された場合、すなわち、V相電流iv(絶対値)がU相およびW相電流iu,iw(絶対値)よりもそれぞれ大きい場合には、ステップ43(S43)に進む。一方、ステップ42において否定判定された場合には、ステップ44(S44)に進む。
ステップ43において、最大電流相であるV相をベースに、変調率パラメータm1,m2,m3および電流パラメータi1,i2,i3が設定される。具体的には、m1には、最大電流相であるV相の変調率指令mvがセットされ、m2には、V相よりも120度位相が遅れたW相の変調率指令mwがセットされ、m3には、V相よりも120度位相が進んだU相の変調率指令muがセットされる。また、i1には、最大電流相であるV相電流ivがセットされ、i2には、V相よりも120度位相が遅れたW相電流iwがセットされ、i3には、V相よりも120度位相が進んだU相電流iuがセットされる。
ステップ44において、最大電流相であるW相をベースに、変調率パラメータm1,m2,m3および電流パラメータi1,i2,i3が設定される。具体的には、m1には、最大電流相であるW相の変調率指令mwがセットされ、m2には、W相よりも240度位相が進んだU相の変調率指令muがセットされ、m3には、W相よりも120度位相が進んだV相の変調率指令mvがセットされる。また、i1には、最大電流相であるW相電流iwがセットされ、i2には、W相よりも240度位相が進んだU相電流Iuがセットされ、i3には、W相よりも120度位相が進んだV相電流ivがセットされる。
ステップ45(S45)において、最大電流相のアームのスイッチングを休止させるべく、オフセット信号m_offが「1−m1」にセットされる。ステップ46(S46)において、ステップ45において設定されたオフセット信号m_offに基づいて決定される最終的な変調率指令mu*〜mw*のそれぞれが「−1」から「1」までの範囲を満たすか否かが判断される。このステップ46において肯定判定された場合には、ステップ47(S47)に進み、オフセット信号m_offが「1−m1」として確定される。一方、ステップ46において否定判定された場合には、ステップ48(S48)に進む。
ステップ48において、最大電流相のアームのスイッチングを休止させるべく、オフセット信号m_offが「−1−m1」としてセットされる。ステップ49(S49)において、ステップ48において設定されたオフセット信号m_offに基づいて決定される最終的な変調率指令mu*〜mw*のそれぞれが「−1」から「1」までの範囲を満たすか否かが判断される。このステップ49において肯定判定された場合には、ステップ50(S50)に進み、オフセット信号m_offが「−1−m1」として確定される。一方、ステップ49において否定判定された場合には、ステップ51(S51)に進む。
ステップ51において、電流の絶対値が2番目に大きい相電流を特定すべく、i2の絶対値がi3の絶対値よりも大きいか否かが判断される。ステップ51において肯定判定された場合、すなわち、i2が2番目に大きい相電流である場合には、ステップ52(S52)に進む。一方、ステップ51において否定判定された場合、すなわち、i3が2番目に大きい相電流である場合には、後述するステップ56(S56)に進む。
ステップ52において、2番目に大きい電流i2が流れる相のアームのスイッチングを休止させるべく、オフセット信号m_offが「1−m2」としてセットされる。ステップ53(S53)において、ステップ52において設定されたオフセット信号m_offに基づいて決定される最終的な変調率指令mu*〜mw*のそれぞれが「−1」から「1」までの範囲を満たすか否かが判断される。このステップ53において肯定判定された場合には、ステップ54(S54)に進み、オフセット信号m_offが「1−m2」として確定される。一方、ステップ53において否定判定された場合には、ステップ55(S55)に進み、オフセット信号m_offが「−1−m2」として確定される。
ステップ56において、2番目に大きい電流i3が流れる相のアームのスイッチングを休止させるべく、オフセット信号m_offが「1−m3」としてセットされる。ステップ57(S57)において、ステップ56において設定されたオフセット信号m_offに基づいて決定される最終的な変調率指令mu*〜mw*のそれぞれが「−1」から「1」までの範囲を満たすか否かが判断される。このステップ57において肯定判定された場合には、ステップ58(S58)に進み、オフセット信号m_offが「1−m3」として確定される。一方、ステップ57において否定判定された場合には、ステップ59(S59)に進み、オフセット信号m_offが「−1−m3」として確定される。
再び図6を参照するに、ステップ35(S35)において、スイッチ損失用信号生成部38bは、ステップ34において生成されたオフセット信号m_offをスイッチ損失用オフセット信号m_swとしてセットする。
ステップ36(S36)において、第2の損失推定部38eは、スイッチ損失用オフセット信号m_swを用いて最終的な各相の変調率指令mu*〜mw*を生成し、これに基づいて制御を行った場合のスイッチ損失(スイッチング損失)とオン損失との和を第2の損失WBとして推定する。スイッチ損失用オフセット信号m_swを用いた場合のオン損失およびスイッチ損失は、ステップ33の処理と同様の特定することができる。
ステップ37(S37)において、最終信号生成部38fは、第1の損失WAが第2の損失WBよりも小さいか否かを判断する。このステップ37において肯定判定された場合には、ステップ38(S38)に進み、最終的なオフセット信号m_offとして、オン損失用オフセット信号m_onが設定される。一方、ステップ37において否定判定された場合には、ステップ39(S39)に進み、最終的なオフセット信号m_offとして、スイッチ損失用オフセット信号m_swが設定される。
このように本実施形態によれば、スイッチ損失がオン損に比べて大きい運転条件においても、スイッチ損失を低減するようなインバータ20の制御が可能となる。このため、オン損失とスイッチ損失との大小に拘わらず、インバータ20の高効率化を図ることができる。
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態にかかるモータ制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態にかかる制御システムが、第2の実施形態のそれと相違する点は、第2の実施形態にかかる制御手法と、キャリア周波数を低下させた3相変調制御とを両立させて、インバータ動作の高効率化を図ることである。なお、第2の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
本実施形態形態において、変調率オフセット部38は、これを機能的に捉えた場合、オン損失用信号生成部38aと、スイッチ損失用信号生成部38bと、スイッチ損失推定部38cと、第1の損失推定部38dと、第2の損失推定部38eと、最終信号生成部38fとに加え、3相スイッチング用のスイッチ損失用信号生成部(以下「3相スイッチ損失用信号生成部」という)38gと、第3の損失推定部38hとをさらに有している。
3相スイッチ損失用信号生成部38gは、オン損失が低下するように、各相のスイッチング動作が休止しない範囲において変調率生成部33によって演算される各相の変調率指令mu〜mwを補正する3相用オフセット信号m_3を生成する。第3の損失推定部38hは、3相用オフセット信号m_3を用いて補正を行った場合のスイッチング損失およびオン損失をそれぞれ推定するとともに、各損失の和を第3の損失WCとして推定する(第3の推定手段)。この場合、最終信号生成部38fは、第1の損失WA、第2の損失WBおよび第3の損失WCのうち最も小さい損失に対応するオフセット信号を、補正に供するオフセット信号m_offとして決定する。
キャリア周波数指令生成部39は、各相の変調率指令と比較されるキャリアの周波数指令を低減させる機能を担っている。
図9は、第3の実施形態にかかるモータ制御方法の手順、具体的には、オフセット信号m_offの決定方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定の周期で呼び出され、制御ユニット30によって実行される。まず、ステップ60(S60)において、各相の電流iu,iv,iwが特定される。このステップ60において特定される各相の電流iu〜iwは、電流センサ51,52の検出結果に基づく実電流を用いることができるが、電流指令値によって代用してもよい。
ステップ61(S61)において、オン損失用信号生成部38aは、第1の実施形態に示すステップ11からステップ28までの処理に基づいて、オン損失用のオフセット信号m_offを生成する。ステップ62(S62)において、オン損失用信号生成部38aは、ステップ31において生成されたオフセット信号m_offをオン損失用オフセット信号m_onとしてセットする。そして、ステップ63(S63)において、第1の損失推定部38dは、第2の実施形態に示すステップ33の処理と同様に、第1の損失WAを推定する。
ステップ64(S64)において、スイッチ損失用信号生成部38bは、第2の実施形態に示すステップ40からステップ59までの処理に基づいて、スイッチ損失用のオフセット信号m_offを生成する。ステップ65(S65)において、スイッチ損失用信号生成部38bは、ステップ64において生成されたオフセット信号m_offをスイッチ損失用オフセット信号m_swとしてセットする。そして、ステップ66(S66)において、第2の損失推定部38eは、第2の実施形態に示すステップ36の処理と同様に、第2の損失WBを推定する。
ステップ67(S67)において、3相スイッチ損失用信号生成部38gは、3相用オフセット信号m_3として、オン損失用オフセット信号m_onに微小値αを加算した値をセットする。
ステップ68(S68)において、3相スイッチ損失用信号生成部38gは、ステップ67において設定される3相用オフセット信号m_3に基づいて演算される最終的な変調率指令mu*〜mw*のそれぞれが「−1」から「1」までの範囲を満たすか否かを判断する。このステップ68において肯定判定された場合には、ステップ69(S69)に進む。一方、ステップ68において否定判定された場合には、ステップ70(S70)に進む。
ステップ69において、第3の損失推定部38hは、3相用オフセット信号m_3を用いて最終的な各相の変調率指令mu*〜mw*を生成し、これに基づいて制御を行った場合のスイッチ損失(スイッチング損失)とオン損失との和を第3の損失WCとして推定する。3相用オフセット信号m_3を用いた場合のオン損失およびスイッチ損失は、ステップ63またはステップ66と同様の手法を用いて演算することができる。
ステップ70において、3相スイッチ損失用信号生成部38gは、3相用オフセット信号m_3として、オン損失用オフセット信号m_onから微小値αを減算した値をセットする。
ステップ71(S71)において、3相スイッチ損失用信号生成部38gは、ステップ70において設定される3相用オフセット信号m_3に基づいて演算される最終的な変調率指令mu*〜mw*のそれぞれが「−1」から「1」までの範囲を満たすか否かを判断する。このステップ71において肯定判定された場合には、ステップ69に進む。一方、ステップ71において否定判定された場合には、ステップ72(S72)に進み、微小値αをゼロにセットした上で、ステップ69の処理を行う。
ステップ73(S73)において、最終信号生成部38fは、第1の損失WAが第2および第3の損失WB,WCよりもそれぞれ小さいか否かを判断する。このステップ73において肯定判定された場合、すなわち、第1の損失WAが最も小さい場合には、ステップ74に進む。一方、ステップ73において否定判定された場合には、ステップ76(S76)に進む。
ステップ74において、最終信号生成部38fは、最終的なオフセット信号m_offとしてオン損失用オフセット信号m_onを設定する。そして、ステップ75(S75)において、最終信号生成部38fは、キャリア周波数Hcを、予め設定されているベース値Hcbに設定する。
ステップ76において、最終信号生成部38fは、第2の損失WBが第1および第3の損失WA,WCよりもそれぞれ小さいか否かを判断する。このステップ76において肯定判定された場合、すなわち、第2の損失WBが最も小さい場合には、ステップ77に進む。一方、ステップ76において否定判定された場合、すなわち、第3の損失WCが最も小さい場合には、ステップ79(S79)に進む。
ステップ77において、最終信号生成部38fは、最終的なオフセット信号m_offとしてスイッチ損失用オフセット信号m_swを設定する。そして、ステップ78(S78)において、最終信号生成部38fは、キャリア周波数Hcを、予め設定されているベース値Hcbに設定する。
ステップ79において、最終信号生成部38fは、最終的なオフセット信号m_offとして3相用オフセット信号m_3を設定する。そして、ステップ80(S80)において、最終信号生成部38fは、キャリア周波数Hcを、予め設定されているベース値Hcbの2/3倍の値に設定する。
このように本実施形態によれば、低力率の状態ではスイッチ損失を低減させた2相変調制御よりも、キャリア周波数を低下させた3相変調制御の方が有効に効率の向上を図ることができる場合がある。そのため、低力率状態でも高効率を図ることができる。
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態にかかるモータ制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態にかかる制御システムが、第1から第3の各実施形態のそれと相違する点は、アームを構成する半導体スイッチおよびダイオードの抵抗RS,RDを演算することである。なお、上述した各実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
本実施形態において、変調率オフセット部40は、これを機能的に捉えた場合、オフセット信号生成部40aと、オン抵抗値演算部40bとを有することである。オフセット信号生成部40aは、上述した第1から第3の実施形態のいずれかに示す変調率オフセット部40と同様の処理を行い、オフセット信号m_offを生成する。
オン抵抗値演算部40bは、3相の電流と、アームを構成する半導体スイッチおよびダイオードの各温度TSW,TDとに基づいて、半導体スイッチおよびダイオードの抵抗RS,RDを演算する。具体的には、オン抵抗値演算部40bは、素子のデータシートより、ある電流と温度において半導体スイッチとダイオードの抵抗を簡単な近似式で表しておき、この近似式に基づいて計算することが考えられる。また、実験やシミュレーションを通じて、抵抗と、電流および温度との関係をマップ化しておき、このマップを使用して演算することも考えられる。オン抵抗値演算部40bによって演算された半導体スイッチおよびダイオードの抵抗RS,RDは、オフセット信号生成部40aに対して出力され、オン損失を演算する際に参照される。
このように本実施形態によれば、半導体スイッチやダイオードの抵抗は、温度や電流量で変化してしまうことがあるため、これを推定することで、半導体スイッチとダイオードと抵抗の大小関係を誤判断することが抑制される。これにより、任意の温度、電流条件で最適な制御を行うことができ、インバータ20の高効率化を図ることができる。