以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
図1は、本発明の第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械を示す側面図である。
この建設機械の下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。また、上部旋回体3には、ブーム4、アーム5、及びバケット6、それらを油圧駆動するためのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9、キャビン10、並びに動力源が搭載される。ここで、図1に示すように建設機械が平坦地にある場合は、旋回機構2の旋回軸は鉛直上方を向く。
図2は、図1に示す建設機械が傾斜角θの傾斜地にある状態を示す図である。傾斜地では、旋回機構2の旋回軸も角度θだけ傾く。このため、従来のハイブリッド型の建設機械では、平坦地にある場合と異なり、既に課題として説明したように、駆動トルクが不足すると運転者が操作して上部旋回体3を旋回させようとする方向とは逆の方向に旋回するおそれがある。
「全体構成」
図3は、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械の構成を表すブロック図である。この図3では、機械的動力系を二重線、高圧油圧ラインを実線、パイロットラインを破線、電気駆動・制御系を一点鎖線でそれぞれ示す。
機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、ともに増力機としての減速機13の入力軸に接続されている。また、この減速機13の出力軸には、メインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。
コントロールバルブ17は、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械における油圧系の制御を行う制御装置であり、このコントロールバルブ17には、下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続される。
また、電動発電機12には、インバータ18を介して蓄電装置としてのバッテリ19が接続されており、また、バッテリ19には、インバータ20を介して旋回用電動機21が接続されている。
旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。
操作装置26には、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及びレバー操作検出部としての圧力センサ29がそれぞれ接続される。この圧力センサ29には、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械の電気系の駆動制御を行うコントローラ30が接続されている。
このように第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械は、エンジン11、電動発電機12、及び旋回用電動機21を動力源とするハイブリッド型の建設機械である。これらの動力源は、図1に示す上部旋回体3に搭載される。以下、各部について説明する。
「各部の構成」
エンジン11は、例えば、ディーゼルエンジンで構成される内燃機関であり、その出力軸は減速機13の一方の入力軸に接続される。このエンジン11は、建設機械の運転中は常時運転される。
電動発電機12は、力行運転及び回生運転の双方が可能な電動機であればよい。ここでは、電動発電機12として、インバータ20によって交流駆動される電動発電機を示す。この電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnetic)モータで構成することができる。電動発電機12の回転軸は減速機13の他方の入力軸に接続される。
減速機13は、2つの入力軸と1つの出力軸を有する。2つの入力軸の各々には、エンジン11の駆動軸と電動発電機12の駆動軸が接続される。また、出力軸にはメインポンプ14の駆動軸が接続される。エンジン11の負荷が大きい場合には、電動発電機12が力行運転を行い、電動発電機12の駆動力が減速機13の出力軸を経てメインポンプ14に伝達される。これによりエンジン11の駆動がアシストされる。一方、エンジン11の負荷が小さい場合は、エンジン11の駆動力が減速機13を経て電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が回生運転による発電を行う。電動発電機12の力行運転と回生運転の切り替えは、コントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
メインポンプ14は、コントロールバルブ17に供給するための油圧を発生するポンプである。この油圧は、コントロールバルブ17を介して油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9の各々を駆動するために供給される。
パイロットポンプ15は、油圧操作系に必要なパイロット圧を発生するポンプである。この油圧操作系の構成については後述する。
コントロールバルブ17は、高圧油圧ラインを介して接続される下部走行体1用の油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9の各々に供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御することにより、それらを油圧駆動制御する油圧制御装置である。
インバータ18は、上述の如く電動発電機12とバッテリ19との間に設けられ、コントローラ30からの指令に基づき、電動発電機12の運転制御を行う。これにより、インバータ18が電動発電機12の力行を運転制御している際には、必要な電力をバッテリ19から電動発電機12に供給する。また、電動発電機12の回生を運転制御している際には、電動発電機12により発電された電力をバッテリ19に充電する。
バッテリ19は、インバータ18とインバータ20との間に配設されている。これにより、電動発電機12と旋回用電動機21の少なくともどちらか一方が力行運転を行っている際には、力行運転に必要な電力を供給するとともに、また、少なくともどちらか一方が回生運転を行っている際には、回生運転によって発生した回生電力を電気エネルギーとして蓄積するための電源である。
インバータ20は、上述の如く旋回用電動機21とバッテリ19との間に設けられ、コントローラ30からの指令に基づき、旋回用電動機21に対して運転制御を行う。これにより、インバータが旋回用電動機21の力行を運転制御している際には、必要な電力をバッテリ19から旋回用電動機21に供給する。また、旋回用電動機21が回生運転をしている際には、旋回用電動機21により発電された電力をバッテリ19へ充電する。
旋回用電動機21は、力行運転及び回生運転の双方が可能な電動機であればよく、上部旋回体3の旋回機構2を駆動するために設けられている。力行運転の際には、旋回用電動機21の回転駆動力の回転力が減速機24にて増幅され、上部旋回体3が加減速制御され回転運動を行う。また、上部旋回体3の慣性回転により、減速機24にて回転数が増加されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させることができる。ここでは、旋回用電動機21として、PWM(Pulse Width Modulation)制御信号によりインバータ20によって交流駆動される電動機を示す。この旋回用電動機21は、例えば、磁石埋込型のIPMモータで構成することができる。これにより、より大きな誘導起電力を発生させることができるので、回生時に旋回用電動機21にて発電される電力を増大させることができる。
なお、バッテリ19の充放電制御は、バッテリ19の充電状態、電動発電機12の運転状態(力行運転又は回生運転)、旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づき、コントローラ30によって行われる。
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転位置及び回転角度を検出するセンサであり、旋回用電動機21と機械的に連結することで旋回用電動機21の回転前の回転軸21Aの回転位置と、左回転又は右回転した後の回転位置との差を検出することにより、回転軸21Aの回転角度及び回転方向を検出するように構成されている。旋回用電動機21の回転軸21Aの回転角度を検出することにより、旋回機構2の回転角度及び回転方向が導出される。
メカニカルブレーキ23は、機械的な制動力を発生させる制動装置であり、旋回用電動機21の回転軸21Aを機械的に停止させる。このメカニカルブレーキ23は、電磁式スイッチにより制動/解除が切り替えられる。この切り替えは、コントローラ30によって行われる。
旋回減速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転速度を減速して旋回機構2に機械的に伝達する減速機である。これにより、力行運転の際には、旋回用電動機21の回転力を増力させ、より大きな回転力として上部旋回体3へ伝達することができる。これとは逆に、回生運転の際には、上部旋回体3で発生した回転数を増加させ、より多くの回転動作を旋回用電動機21に発生させることができる。
旋回機構2は、旋回用電動機21のメカニカルブレーキ23が解除された状態で旋回可能となり、これにより、上部旋回体3が左方向又は右方向に旋回される。
操作装置26は、旋回用電動機21、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6を操作するための操作装置であり、レバー26A及び26Bとペダル26Cを含む。レバー26Aは、旋回用電動機21及びアーム5を操作するためのレバーであり、上部旋回体3の運転席近傍に設けられる。レバー26Bは、ブーム4及びバケット6を操作するためのレバーであり、運転席近傍に設けられる。また、ペダル26Cは、下部走行体1を操作するための一対のペダルであり、運転席の足下に設けられる。
この操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を運転者の操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。
レバー26A及び26Bとペダル26Cの各々が操作されると、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17が駆動され、これにより、油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9内の油圧が制御されることによって、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6が駆動される。
なお、油圧ライン27は、油圧モータ1A及び1Bを操作するために1本ずつ(すなわち合計2本)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダをそれぞれ操作するために2本ずつ(すなわち合計6本)設けられるため、実際には全部で8本あるが、説明の便宜上、1本にまとめて表す。
レバー操作検出部としての圧力センサ29では、レバー26Aの操作による、油圧ライン28内の油圧の変化が圧力センサ29で検出される。圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。この電気信号は、コントローラ30に入力される。これにより、レバー26Aの操作量を的確に把握することができる。また、第一実施例では、レバー操作検出部としての圧力センサを用いたが、レバー26Aの操作量をそのまま電気信号で読み取るセンサを用いてもよい。
「コントローラ30」
コントローラ30は、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械の駆動制御を行う制御装置であり、速度指令変換部31、駆動制御装置32、及び旋回駆動制御装置40を含む。このコントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、速度指令変換部31、駆動制御装置32、及び旋回駆動制御装置40は、コントローラ30のCPUが内部メモリに格納される駆動制御用のプログラムを実行することにより実現される装置である。
速度指令変換部31は、圧力センサ29から入力される信号を速度指令に変換する演算処理部である。これにより、レバー26Aの操作量は、旋回用電動機21を回転駆動させるための速度指令(rad/s)に変換される。この速度指令は、駆動制御装置32及び旋回駆動制御装置40に入力される。なお、この速度指令変換部31で用いる変換特性については、図4を用いて後述する。
駆動制御装置32は、電動発電機12の運転制御(力行運転又は回生運転の切り替え)、及び、バッテリ19の充放電制御を行うための制御装置である。この駆動制御装置32は、エンジン11の負荷の状態とバッテリ19の充電状態に応じて、電動発電機12の力行運転と回生運転を切り替える。駆動制御装置32は、電動発電機12の力行運転と回生運転を切り替えることにより、インバータ18を介してバッテリ19の充放電制御を行う。
「操作量/速度指令の変換特性」
図4は、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械の速度指令変換部31において操作レバー26Aの操作量を速度指令(上部旋回体3を旋回させるために旋回用電動機21を回転させるための速度指令)に変換する変換特性を示す図である。この変換特性は、操作レバー26Aの操作量に応じて、不感帯領域、零速度指令領域(左旋回用及び右旋回用)、左方向旋回駆動領域、及び右方向旋回駆動領域の5つの領域に区分される。
ここで、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械の制御系では、左旋回を表す値を正の値で表し、右旋回を表す値を負の値で表すこととする。このため、上部旋回体3を左方向に旋回させるための速度指令の値が正となり、右方向に旋回させるための速度指令の値が負となる。
「不感帯領域」
この変換特性に示すように、不感帯領域は、レバー26Aの中立点付近に設けられている。この不感帯領域では、速度指令変換部31から速度指令は出力されず、旋回駆動制御装置40による旋回用電動機21の駆動制御は行われない。また、不感帯領域では、メカニカルブレーキ23によって旋回用電動機21が機械的に停止された状態となる。
従って、レバー26Aの操作量が不感帯領域内にある間は、メカニカルブレーキ23によって旋回用電動機21が機械的に停止され、これにより、上部旋回体3が機械的に停止された状態となる。
「零速度指令領域」
零速度指令領域は、レバー26Aの操作方向における不感帯領域の両外側に設けられている。この零速度指令領域は、不感帯領域における上部旋回体3の停止状態と、左右方向の旋回駆動領域における旋回状態とを切り替える際に操作性を良くするために設けられる緩衝領域である。
操作レバー26Aの操作量がこの零速度指令領域の範囲内にあるときは、速度指令変換部31から零速度指令が出力され、メカニカルブレーキ23は解除された状態となる。
ここで、零速度指令とは、上部旋回体3の旋回速度を零にするために、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転速度を零にするための速度指令であり、後述するPI(Proportional Integral)制御では、回転軸21Aの回転速度を零に近づけるための目標値として用いられる。
なお、メカニカルブレーキ23の制動(オン)/解除(オフ)の切り替えは、不感帯領域と零速度指令領域の境界においてコントローラ30内の旋回駆動制御装置40によって行われる。
具体的には、操作レバー26Aの操作量が不感帯領域から零速度指令領域に移行した場合、旋回駆動制御装置40は、即座にメカニカルブレーキ23に対して解除(オフ)信号を出力する。
従って、平坦地では、レバー26Aの操作量が零速度指令領域内にある間は、メカニカルブレーキ23は解除され、零速度指令により、旋回用電動機21の回転軸21Aは停止状態に保持される。これにより、平坦地では、上部旋回体3は旋回駆動されずに停止状態に保持される。
一方で、操作レバー26Aの操作量が左(右)方向旋回駆動領域から零速度指令領域を経て不感帯領域に移行する場合、旋回駆動制御装置40は、即座にメカニカルブレーキ23に対して制動(オン)信号を出力することなく、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転速度が継続的に零速度検出閾値(ほぼ零と見なせる値であり、レゾルバ22の検出精度に応じて設定される。)以下となる時間(以下、「零速度継続時間」とする。)が継続時間閾値を超え、且つ、操作レバー26Aの操作量が不感帯領域に留まる時間(以下、「不感帯領域滞留時間」とする。)が滞留時間閾値を超えた場合に、上部旋回体3の旋回が完全に停止したものと判定して(以下、「完全停止判定」とする。)、メカニカルブレーキ23に対して制動(オン)信号を出力する。
従って、操作レバー26Aの操作量が不感帯領域にある場合であっても、完全停止判定が行われない限りメカニカルブレーキ23は解除されたままであり、零速度指令による回転軸21Aの停止が継続されることとなる。
「左方向旋回駆動領域」
左方向旋回駆動領域は、上部旋回体3を左方向に旋回させるための速度指令が速度指令変換部31から出力される領域である。
この領域内では、レバー26Aの操作量に応じて、速度指令の絶対値が増大するように設定されている。具体的には、図3において速度指令が(+)の方向へ増大する。平坦地では、この速度指令に基づいて旋回駆動制御装置40で駆動指令が演算され、この駆動指令によって旋回用電動機21が駆動され、その結果、上部旋回体3が左方向に旋回駆動される。なお、図4中の速度指令の絶対値は、レバー26Aの操作量が一定の範囲を超えると一定値となっているが、これは、上部旋回体3の旋回速度を予め定められた値以下に制限するために、速度指令値の絶対値を制限していることを示している。
なお、上部旋回体3の旋回速度をある一定以下に制限するために、左方向旋回駆動領域における速度指令値は、絶対値が所定の値で制限される。
「右方向旋回駆動領域」
右方向旋回駆動領域は、上部旋回体3を右方向に旋回させるための速度指令が速度指令変換部31から出力される領域である。
この領域内では、レバー26Aの操作量に応じて、速度指令の絶対値が増大するように設定されている。具体的には、図3において速度指令が(−)の方向へ増大する。平坦地では、この速度指令に基づいて旋回駆動制御装置40で駆動指令が演算され、この駆動指令によって旋回用電動機21が駆動され、この結果、上部旋回体3が右方向に旋回駆動される。
なお、左方向旋回駆動領域と同様に、右方向旋回駆動領域における速度指令値は、絶対値が所定の値で制限される。
図5は、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械における旋回制御の各種モード間の遷移を説明するための図であり、その旋回制御は、停止(ブレーキ)モード、起動モード、旋回モード、及び停止(保持制御)モードの四つのモードで構成される。
停止(ブレーキ)モードは、メカニカルブレーキ23によって旋回停止状態が維持されるモードであり、操作レバー26Aの操作量が不感帯領域から零速度指令領域に移行すると起動モードに遷移する。
起動モードは、旋回用電動機21が零速度指令により制御されて旋回停止状態が維持されるモードであり、操作レバー26Aの操作量が零速度指令領域から不感帯領域に移行すると停止(ブレーキ)モードに遷移し、操作レバー26Aの操作量が零速度指令領域から左(右)方向旋回駆動領域に移行すると旋回モードに遷移する。
旋回モードは、旋回用電動機21が速度指令により制御されて旋回が行われるモードであり、操作レバー26Aの操作量が左(右)方向旋回駆動領域から零速度指令領域に移行すると停止(保持制御)モードに遷移する。
停止(保持制御)モードは、旋回用電動機21が零速度指令により制御されて旋回停止状態が維持されるモードであり、上部旋回体3の旋回が完全に停止したか否かの判定が開始されるモードである。停止(保持制御)モードは、完全停止判定が行われる前に操作レバー26Aの操作量が零速度指令領域から左(右)方向旋回駆動領域に移行すると旋回モードに遷移し、完全停止判定が行われると停止(ブレーキ)モードに遷移する。
「旋回駆動制御装置40」
図6は、旋回駆動制御装置40の構成を示す制御ブロック図である。
旋回駆動制御装置40は、インバータ20を介して旋回用電動機21の駆動制御を行うための制御装置であり、旋回用電動機21を駆動するための駆動指令を生成する駆動指令生成部50、駆動指令を補正する駆動指令補正部60、及び主制御部80を含む。
駆動指令生成部50には、レバー26Aの操作量に応じて速度指令変換部31から出力される速度指令が入力され、この駆動指令生成部50は速度指令に基づき駆動指令を生成する。駆動指令生成部50から出力される駆動指令はインバータ20に入力され、このインバータ20によって旋回用電動機21がPWM制御信号により交流駆動される。
駆動指令補正部60は、旋回用電動機21の駆動制御に際して、運転者によって指定される旋回操作方向と上部旋回体3の旋回方向が異なる場合には、旋回用電動機21を駆動するための駆動指令を補正する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲では、運転者が操作装置26のレバー26Aを中立点より操作して上部旋回体3を旋回させようとする方向(すなわち、操作装置26に入力される旋回方向)を「旋回操作方向」と称す。
主制御部80は、旋回駆動制御装置40の制御処理に必要な周辺処理を行う制御部である。具体的な処理内容については、関連箇所においてその都度説明する。
「駆動指令生成部50」
駆動指令生成部50は、減算器51、PI制御部52、トルク制限部53、トルク制限部54、減算器55、PI制御部56、電流変換部57、及び旋回動作検出部58を含む。この駆動指令生成部50の減算器51には、レバー26Aの操作量に応じた旋回駆動用の速度指令(rad/s)が入力される。
減算器51は、レバー26Aの操作量に応じた速度指令の値(以下、速度指令値)から、旋回動作検出部58によって検出される旋回用電動機21の回転速度(rad/s)を減算して偏差を出力する。この偏差は、後述するPI制御部52において、旋回用電動機21の回転速度を速度指令値(目標値)に近づけるためのPI制御に用いられる。
PI制御部52は、減算器51から入力される偏差に基づき、旋回用電動機21の回転速度を速度指令値(目標値)に近づけるように(すなわち、この偏差を小さくするように)PI制御を行い、そのために必要なトルク電流指令を演算する。生成されたトルク電流指令は、トルク制限部53に入力される。
トルク制限部53は、レバー26Aの操作量に応じてトルク電流指令の値(以下、トルク電流指令値)を制限する処理を行う。この制限処理は、レバー26Aの操作量に応じてトルク電流指令値が緩やかに増大するようにトルク電流指令値を制限する制限特性に基づいて行われる。このようなトルク電流指令値の制限は、PI制御部52によって演算されるトルク電流指令値が急激に増大すると制御性が悪化するため、これを抑制するために行われる。
この制限特性は、レバー26Aの操作量の増大に伴ってトルク電流指令値を緩やかに増大させる特性を有し、上部旋回体3の左方向及び右方向の双方向のトルク電流指令値を制限するための特性を有するものである。制限特性を表すデータは、主制御部80の内部メモリに格納されており、トルク制限部53によって読み出される。
トルク制限部54は、後述する加算器68から入力されるトルク電流指令によって生じるトルクが旋回用電動機21の許容最大トルク値以下となるように、加算器68から入力されるトルク電流指令値を制限する。このトルク電流指令値の制限は、トルク制限部53と同様に、上部旋回体3の左方向及び右方向の双方向の回転に対して行われる。
ここで、トルク制限部54においてトルク電流指令値を制限するための上限値(左旋回用の最大値)及び下限値(右旋回用の最小値)は、このトルク制限部54によってトルク電流指令値の制限が行われた場合であっても、傾斜地で、ブーム4、アーム5、及びブーム6が伸張されて上部旋回体3の慣性モーメントが大きい状態において、ブーム4、アーム5、及びブーム6を斜面の上方に旋回させるために必要十分な駆動トルクを発生できるような値に設定されている。なお、トルク電流指令値を制限するための特性を表すデータは、主制御部80の内部メモリに格納されており、トルク制限部54によって読み出される。
減算器55は、トルク制限部54から入力されるトルク電流指令値から、電流変換部57の出力値を減算して得る偏差を出力する。この偏差は、後述するPI制御部56及び電流変換部57を含むフィードバックループにおいて、電流変換部57から出力される旋回用電動機21の駆動トルクに相当するトルク電流指令値を、トルク制限部54を介して入力されるトルク電流指令値(目標値)に近づけるためのPI制御に用いられる。
PI制御部56は、減算器55から入力される偏差に基づき、この偏差を小さくするようにPI制御を行い、インバータ20に送る最終的な駆動指令となるトルク電流指令を生成する。インバータ20は、PI制御部56から入力されるトルク電流指令に基づき、旋回用電動機21をPWM駆動する。
電流変換部57は、旋回用電動機21のモータ電流を検出し、検出した電流値をトルク電流指令値に変換し、減算器55に入力する。
旋回動作検出部58は、レゾルバ22によって検出される旋回用電動機21の回転位置の変化(すなわち上部旋回体3の旋回)を検出するとともに、回転位置の時間的な変化から旋回用電動機21の回転速度を微分演算によって導出する。導出された回転速度を表すデータは、駆動指令生成部50の減算器51、駆動指令補正部60の減算器62、及び主制御部80に入力される。
このような構成の駆動指令生成部50において、速度指令変換部31から入力される速度指令に基づき、旋回用電動機21を駆動するためのトルク電流指令が生成され、平坦地では、上部旋回体3が所望の位置まで旋回される。このような旋回動作は、平坦地では油圧駆動の建設機械と同様の操作手法により、同様の動作が実現される。
ところで、上述のように、建設機械が傾斜地にある場合には、慣性モーメントが大きいことから上部旋回体3が意に反して旋回する場合がある。
そこで、旋回駆動制御装置40は、駆動指令補正部60によってトルク電流指令を補正することにより、このような旋回操作方向とは逆方向の旋回を減じるようにする。以下、駆動指令補正部60について説明する。
「駆動指令補正部60」
駆動指令補正部60は、補正用零速度指令生成部61、減算器62、PI制御部63、リレー64、トルク電流指令修正部65、リレー66、トルク電流指令修正部67、及び加算器68を含み、上述のような操作装置26に入力される旋回操作方向とは逆方向の旋回が生じた場合に、これを減じるために旋回用電動機21を駆動するためのトルク電流指令を補正する演算処理部である。
補正用零速度指令生成部61は、補正用の零速度指令(rad/s)を出力する。この補正用の零速度指令は、駆動指令生成部50で演算されるトルク電流指令が足りない場合に、このトルク電流指令を補正するための補正用のトルク電流指令(以下、補正用トルク電流指令)を生成するための速度指令である。補正用零速度指令生成部61は、レバー26Aの操作量が零速度指令領域、左方向旋回駆動領域、及び右方向旋回駆動領域にある間は、常に補正用の零速度指令を出力する。
減算器62は、補正用零速度指令生成部61から入力される補正用の零速度指令の値(以下、補正用零速度指令値)から回転速度の値(以下、回転速度値)を減算する。減算によって得られる偏差は、PI制御部63に入力される。
PI制御部63は、減算器62から入力される偏差に基づき、この偏差を小さくするように(すなわち、補正用零速度指令生成部61から入力される補正用零速度指令値を目標値として回転速度を零に近づけるように)PI制御を行い、駆動指令生成部50によって生成されるトルク電流指令値を補正するための補正用トルク電流指令値を生成する。
ここで、PI制御部63の制御ゲインは、PI制御部52の制御ゲインに比べて大きく設定される。PI制御部52は、旋回用電動機21を駆動するためのトルク電流指令値を生成する駆動指令生成部50に含まれるため、制御ゲイン(比例ゲイン及び/又は積分ゲイン)をあまり大きくすると、オーバーシュートの原因になる可能性があるため好ましくない。
しかしながら、PI制御部63は、駆動指令生成部50に送るための補正用トルク電流指令値を演算するため、制御ゲイン(比例ゲイン及び/又は積分ゲイン)を大きくしてもオーバーシュートの原因にはなりにくく、逆方向の旋回動作を迅速に抑制することができる。このため、例えば、PI制御部52に対して、PI制御部63の比例ゲインを4倍程度に、かつ、積分ゲインを10倍程度に設定してもよい。
リレー64は、操作レバー26Aによって左旋回が指定された場合に閉成され、これによりトルク電流指令修正部65が選択される。このリレー64の開閉制御は、主制御部80によって行われる。
トルク電流指令修正部65は、旋回操作方向(左旋回)と上部旋回体3の旋回方向の異同に基づき、必要に応じてPI制御部63から入力される補正用トルク電流指令値を修正する修正処理を行う。この修正処理では、図7に示す特性を用いる。なお、上部旋回体3の旋回方向は、旋回用電動機21の回転方向より得られる。
図7は、旋回駆動制御装置40におけるトルク電流指令修正部65及び67の入出力特性を示す図であり、(a)は左旋回用の修正特性、(b)は右旋回用の修正特性を表す。
ここで、図7(a)及び(b)の横軸は、PI制御部63からリレー64及び66を介してトルク電流指令修正部65及び67に入力される補正用トルク電流指令値の値を表す。この入力値(補正用トルク電流指令値)は、減算器62において補正用零速度指令値から回転速度値を減算して得られる偏差に基づいてPI制御部63で演算されるため、上部旋回体3が左方向に旋回している場合に負の値をとる。これは、左旋回を表す回転速度は正の値であるが、減算器62で補正用零速度指令値から減算されて符号が反転して負の値になり、さらにPI制御部63で右方向への駆動トルクを発生させるために負の値を有する補正用トルク電流指令値を生成するからである。
同様に、トルク電流指令修正部65及び67の入力値は、上部旋回体3が右方向に旋回している場合に正の値をとる。これは、右旋回を表す回転速度は負の値であるが、減算器62で補正用零速度指令値から減算されて符号が反転して正の値になり、さらにPI制御部63で左方向への駆動トルクを発生させるために正の値を有する補正用トルク電流指令値を生成するからである。
このため、図7(a)及び(b)では、トルク電流指令修正部65及び67の入力値を表す横軸が負の場合が上部旋回体3の左方向の旋回に対応し、横軸が正の場合が上部旋回体3の右方向の旋回に対応する。
また、図7(a)、(b)の縦軸は、トルク電流指令修正部65及び67から出力される修正後の補正用トルク電流指令値を表し、図4と同様に、上部旋回体3を左旋回方向へ旋回させるための補正用トルク電流指令値を正の値で表し、右旋回方向へ旋回させるための補正用トルク電流指令値を負の値で表す。
なお、図7(a)及び(b)の特性を表すデータは、主制御部80の内部メモリに格納されており、トルク電流指令修正部65及び67によって読み出される。
図7(a)に示すように、左旋回用の修正特性は、上部旋回体3が左方向に旋回している際には(修正特性の縦軸より左側の領域では)出力値が零となる特性を有する。また、上部旋回体3が右方向に旋回している際には(修正特性の縦軸より右側の領域では)入出力値の比(出力値/入力値)が「1」になる特性を有する。
レバー26Aによって左方向の旋回操作が行われているときに、上部旋回体3が左方向に旋回しているときは、駆動指令生成部50の内部で生成されるトルク電流指令だけで十分であり、補正用トルク電流指令値は不要である。
このため、トルク電流指令修正部65で用いる入出力特性は、図7(a)に示すように、入力値が(左旋回を表す)負の値である場合は、PI制御部63から入力される補正用トルク電流指令値を零にする特性となっている。トルク電流指令修正部65は、この特性を用いて、旋回操作方向(左旋回)と上部旋回体3の旋回方向が同一の場合は、PI制御部63で演算される補正用トルク電流指令を零に修正する。
一方、レバー26Aによって左方向の旋回操作が行われているときに、上部旋回体3が右方向に逆旋回しているときは、駆動指令生成部50の内部で生成されるトルク電流指令だけでは不十分であるため、右方向(逆方向)への旋回動作を減じるために、PI制御部63で演算される補正用トルク電流指令を駆動指令生成部50に送る必要がある。
このため、トルク電流指令修正部65で用いる入出力特性は、図7(a)に示すように、入力値が(右旋回を表す)正の値である場合は、補正用トルク電流指令値を出力するために、入力値に対する出力値の比(出力値/入力値)が「1」の特性となっている。これにより、PI制御部63から入力される補正用トルク電流指令値と等しい値の補正用トルク電流指令値がトルク電流指令修正部65から出力される。なお、ここでは入出力比が「1」の場合について説明するが、この入出力比は零(0)以外の値であれば、制御系内のゲイン等に応じて任意に設定することができる値である。
トルク電流指令修正部65は、この特性を用いて、旋回操作方向(左旋回)と上部旋回体3の旋回方向が異なる場合は、PI制御部63から入力される補正用トルク電流指令値と等しい値の補正用トルク電流指令値を駆動指令生成部50の加算器68に入力する。
なお、旋回操作方向と旋回用電動機21の回転方向の異同の判定は、主制御部80によって行われる。
リレー66は、操作レバー26Aによって右旋回が指定された場合に閉成され、これによりトルク電流指令修正部67が選択される。このリレー66の開閉制御は、主制御部80によって行われる。
トルク電流指令修正部67は、旋回操作方向(右旋回)と上部旋回体3の旋回方向の異同に基づき、必要に応じてPI制御部63から入力される補正用トルク電流指令値を修正する修正処理を行う。この修正処理では、図7(b)に示す特性を用いる。なお、上部旋回体3の旋回方向は、レゾルバ22の検出値により得られる。
図7(b)に示すように、右旋回用の修正特性は、上部旋回体3が左方向に旋回している際には(修正特性の縦軸より左側の領域では)入出力値の比(出力値/入力値)が「1」になる特性を有する。また、上部旋回体3が右方向に旋回している際には(修正特性の縦軸より右側の領域では)出力値が零となる特性を有する。
修正処理の内容は、左右の方向が異なるだけでトルク電流指令修正部65と基本的に同一である。トルク電流指令修正部67は、旋回操作方向(右旋回)と上部旋回体3の旋回方向が同一である場合は、駆動指令生成部50の内部で生成されるトルク電流指令だけで十分であり、補正用トルク電流指令値は不要であるため、トルク電流指令修正部67は、PI制御部63で演算される補正用トルク電流指令を零に修正する。
このため、トルク電流指令修正部67で用いられる入出力特性は、図7(b)に示すように、入力値が(右旋回を表す)正の値である場合は、PI制御部63から入力される補正用トルク電流指令値を零にする特性を有する。
一方、旋回操作方向(右旋回)と上部旋回体3の旋回方向が異なる場合は、駆動指令生成部50の内部で生成されるトルク電流指令だけでは不十分であるため、左方向(逆方向)への旋回動作を減じるために、PI制御部63で演算される補正用トルク電流指令を駆動指令生成部50に送る必要がある。
このため、トルク電流指令修正部67で用いられる入出力特性は、図7(b)に示すように、入力値が(左旋回を表す)負の値である場合は、補正用トルク電流指令値を出力するために、入力値に対する出力値の比(出力値/入力値)が「1」の特性となっている。これにより、PI制御部63から入力される補正用トルク電流指令値と等しい値の補正用トルク電流指令値がトルク電流指令修正部65から出力される。なお、ここでは入出力比が「1」の場合について説明するが、この入出力比は零(0)以外の値であれば、制御系内のゲイン等に応じて任意に設定することができる値である。
トルク電流指令修正部67は、この特性を用いて、PI制御部63で演算される補正用トルク電流指令値と等しい値の補正用トルク電流指令値を駆動指令生成部50の加算器68に入力する。
なお、旋回操作方向と旋回用電動機21の回転方向の異同の判定は、主制御部80によって行われる。
加算器68は、旋回操作方向と上部旋回体3の旋回方向とが異なる場合にトルク電流指令修正部65又はトルク電流指令修正部67から入力される補正用トルク電流指令値と、トルク制限部53から入力されるトルク電流指令値とを加算する。この加算処理により駆動指令生成部50によって生成されるトルク電流指令が補正される。
なお、リレー64及び66は、レバー26Aによって旋回方向が指定されることによって閉成されるリレーであり、旋回方向が指定されていない場合は開放される。
「駆動指令補正部60による補正が行われない場合の旋回操作(比較例)」
ここで、比較のために、駆動指令補正部60による補正が行われない場合の旋回操作(すなわち、図4の変換特性による速度指令のみによる旋回動作)について説明する。
平坦地において、停止状態からレバー26Aが左旋回方向に操作されていくと、不感帯領域を越えて零速度指令領域に切り替わる際に、メカニカルブレーキ23が解除されるとともに、速度指令変換部31から出力される零速度指令が駆動指令生成部50に入力される。零速度指令が入力されると、旋回用電動機21の回転軸21Aが回転して旋回動作検出部58から回転速度を表すデータが出力されて減算器51から回転速度の偏差が出力されても、この回転速度の偏差を零にするように旋回用電動機21が駆動制御され、回転軸21Aが停止状態に保持される。
さらに、レバー26Aが操作されることにより、速度指令特性が零速度指令領域を越えて左旋回駆動領域に切り替わると、速度指令変換部31から出力される速度指令に基づくトルク電流指令が駆動指令生成部50から出力される。これにより、速度指令変換部31から出力される速度指令を目標値とした駆動制御が行われ、旋回用電動機21の回転軸21Aが駆動されて上部旋回体3が左方向に旋回する。
また、平坦地で上部旋回体3が左方向に旋回している状態でレバー26Aの操作量を減じて行き、速度指令特性が左方向旋回駆動領域から零速度指令領域に切り替わると、零速度指令によって旋回用電動機21の回転軸21Aが停止状態に保持される。
さらに、レバー26Aの操作量を減じて行き、速度指令特性が零速度指令領域から不感帯領域に切り替わると、メカニカルブレーキ23が掛かるとともに、速度指令変換部31から駆動指令は出力されなくなり、駆動指令生成部50は駆動制御を行わなくなる。これにより、旋回用電動機21の回転軸21Aは機械的に停止された状態となる。
具体的には、旋回駆動制御装置40は、零速度継続時間が継続時間閾値を超え、且つ、不感帯領域滞留時間が滞留時間閾値を超えた場合に、完全停止判定を行い、メカニカルブレーキ23を作動させるようにする。
零速度継続時間が経過する前に回転軸21Aの回転速度が零速度検出閾値を上回った場合には、旋回駆動制御装置40は、零速度継続時間のカウントをリセットし、操作レバー26Aの操作量が不感帯領域にあったとしてもメカニカルブレーキ23を作動させることなく、駆動指令生成部50による駆動制御を継続させる。
また、不感帯領域滞留時間が経過する前に操作レバー26Aの操作量が不感帯領域から零速度指令領域へ推移した場合にも、旋回駆動制御装置40は、不感帯領域滞留時間のカウントをリセットし、メカニカルブレーキ23を作動させることなく、駆動指令生成部50による駆動制御を継続させる。
完全停止判定が行われると、旋回駆動制御装置40は、メカニカルブレーキ23に対して制動(オン)信号を出力し、メカニカルブレーキ23を作動させるとともに、速度指令変換部31からの駆動指令の出力を中止させ、且つ、駆動指令生成部50による駆動制御を中止させる。
なお、これら一連の動作は平坦地における右方向の旋回動作においても同様であるため、その説明は省略する。
このように、平坦地では、上述のように運転者がレバー26Aに入力する旋回操作方向に応じた上部旋回体3の旋回駆動が可能である。
また、傾斜地において、重量の大きいブーム4、アーム5、及びバケット6が斜面下方に向かう方向に上部旋回体3を旋回させる場合も、上述の平坦地の場合と同様に旋回を行うことができる。
しかしながら、傾斜地において、重量の大きいブーム4、アーム5、及びバケット6が斜面上方に向かう方向に上部旋回体3を旋回させる場合は、速度指令によって旋回用電動機21の回転軸21Aに生じる駆動トルクよりも、慣性モーメントによって上部旋回体3が逆方向に旋回するトルクの方が大きくなる場合がある。この場合には、重量の大きいブーム4、アーム5、及びバケット6が斜面下方に向かう方向に上部旋回体3が旋回してしまう。
すなわち、傾斜地では、レバー26Aで左方向又は右方向への旋回操作を行い、操作量が零速度指令領域にある場合でも、旋回操作方向とは逆方向に旋回する場合がある。
また、速度指令特性が左方向旋回領域又は右方向旋回領域にある場合でも、旋回用電動機21の回転軸21Aに生じる駆動トルクよりも、慣性モーメントによって上部旋回体3が旋回するトルクの方が大きくなる場合がある。この場合には、上部旋回体3が旋回操作方向とは逆方向(ブーム4、アーム5、及びバケット6が斜面下方に向かう方向)に旋回してしまう。
すなわち、傾斜地では、レバー26Aで左方向又は右方向への旋回操作を行い、操作量が左方向旋回領域又は右方向旋回領域にある場合でも、旋回操作方向とは逆方向に旋回する場合がある。
ところが旋回駆動制御装置40を含む建設機械によれば、駆動指令補正部60によって駆動指令の補正が行われるため、このような旋回操作方向とは逆方向への旋回を減じることができ、さらに動きだしを滑らかにすることができる。以下、その原理を説明する。
「駆動指令補正部60による補正が行われる場合の旋回動作」
次に、旋回駆動制御装置40を含む建設機械の平坦地及び傾斜地における旋回動作を説明する。駆動指令補正部60による補正が行われると、比較のために説明した補正が行われない平坦地での旋回動作とは異なり、以下のように旋回操作方向とは逆方向への旋回が減じられる。
傾斜地においても、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分の影響を受けない程度の緩やかな傾斜で旋回動作をさせる場合には、平坦地と同様に、レバー26Aの操作量に応じた左方向又は右方向への速度指令特性に基づき、駆動指令生成部50でトルク電流指令が演算される。また、傾斜が緩やかであると、平坦地と同様に上部旋回体3を旋回させるための旋回用電動機21の駆動トルクが不足することはなく、旋回操作方向とは逆方向への旋回は検出されない。このため、トルク電流指令修正部65及びトルク電流指令修正部67から出力される補正値は零であり、トルク電流値の補正は行われない。これにより、傾斜が緩やかな傾斜地では図4に示す速度指令特性に応じた旋回動作が行われる。
これと同様に、傾斜が急な傾斜地において、重量の大きいブーム4、アーム5、及びバケット6が斜面下方に向かう方向に上部旋回体3を旋回させる場合も、平坦地の場合と同様に上部旋回体3を旋回させるための旋回用電動機21の駆動トルクが不足することはなく、旋回操作方向とは逆方向への旋回は検出されないため、旋回操作方向と同一の方向に旋回を行うことができる。
次に、傾斜が急な傾斜地において、重量の大きいブーム4、アーム5、及びバケット6が左方向の旋回を行うことで斜面上方に向かう方向に上部旋回体を旋回させる際の動作について説明する。
運転者によるレバー26Aの操作により左旋回が指定されると、レバー26Aの操作量が図4に示す零速度指令領域に入ってメカニカルブレーキ23が解除される。この状態で、旋回動作検出部58によって右方向(逆方向)の旋回が検出されると、減算器62から回転速度の偏差(正の値)が出力され、この偏差に基づいてPI制御部63で正の値を有する補正用トルク電流指令値が演算される。この補正用トルク電流指令値は、トルク電流指令修正部65に入力され、この入力値と等しい値を有する補正用トルク電流指令値がトルク電流指令修正部65から加算器68に入力され、加算器68においてトルク制限部53から入力されるトルク電流指令値(左旋回用の正の値を有する)に加算される。
ここで、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分によって右方向(逆方向)へ動き出す際には、減算器62から出力される偏差は増大する。このため、トルク電流指令修正部65から出力される出力値も右方向(逆方向)への動きだしの際には増大し、トルク制限部53から出力されるトルク電流指令値も増大する(図7(a))。そして、旋回用電動機21の駆動トルクが増大すると、上部旋回体3を左方向(正方向)へ旋回させようとする力が大きくなるため、上部旋回体3の右方向(逆方向)への旋回速度は低下し始める。これにより、減算器62からの偏差は徐々に減少し、トルク電流指令修正部65から出力される補正用トルク電流指令値も徐々に小さくなる。このようにして右方向(逆方向)への旋回動作が減じられる。
なお、逆方向への旋回が停止するのは、旋回用電動機21の駆動軸に発生させる駆動トルクと旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が釣り合うときである。このときの駆動トルクは、傾斜角や上部旋回体3の慣性モーメントによって決まり、旋回駆動制御装置40のその偏差に対する応答性能によって、レバー26Aの操作量が零速度指令領域内にあるときに釣り合いが取れる場合もあれば、レバー26Aの操作量がさらに増して左方向旋回駆動領域に入ってから釣り合いが取れる場合もある。この釣り合いが取れるまでの間は、駆動指令補正部60で生成される補正用トルク電流指令値によって逆方向の旋回が減じられるため、運転者は、滑らかに左方向への旋回動作を行うことができる。
その後、上部旋回体3が左方向(正方向)へ旋回すると、旋回駆動制御装置40においては駆動指令補正部60による補正処理は行われず、平坦地と同様の処理が行われる。
なお、傾斜地において、重量の大きいブーム4、アーム5、及びバケット6が斜面上方に向かう方向に上部旋回体3を旋回させるために、右方向の旋回を行う場合は、上述の動作説明において左右を入れ替えた内容となるため、省略する。
以上より、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械によれば、旋回操作方向とは逆方向の上部旋回体3の旋回が検出されても、駆動指令補正部60で生成される補正用トルク電流指令値によって旋回用電動機21の駆動トルクが補われるため、傾斜地でブーム4等の重量物が斜面上方に移動するように上部旋回体3を旋回させようとした場合に、上部旋回体3の慣性モーメントが大きくても、旋回操作方向とは逆方向への旋回を減じることができる。これにより、動き出しの滑らかな旋回動作を実現できる旋回駆動制御装置及び建設機械を提供することができる。
なお、第一実施例に係る旋回駆動制御装置のように駆動指令補正部60を備えることなく、PI制御部52又は56におけるPI制御のゲインを増大させることによって旋回操作方向とは逆方向の旋回動作を減じる手法も考えられる。しかしながら、このような手法では、増大されたゲインを用いたPI制御により、速度指令(運転者の入力)に基づいてトルク電流指令値が演算されることになるため、PI制御におけるオーバーシュートが生じ、トルク電流指令値が目標値に収束しにくくなり、これにより滑らかな旋回動作が実現しにくくなるという問題がある。
これに対して、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械によれば、上述のように、駆動指令生成部50におけるPI制御のゲインを増大させることなく、駆動指令補正部60で演算される補正用トルク電流指令値によって旋回操作方向とは逆方向の旋回動作が減じられるため、動き出しの滑らかな旋回動作と良好な乗り心地を提供することができる。
また、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械は、旋回操作方向とは逆方向の上部旋回体3の旋回が検出されない場合には、駆動指令生成部50が生成するトルク電流指令値のみに基づいて旋回用電動機21の駆動させ、旋回操作方向とは逆方向の上部旋回体3の旋回が検出された場合に、駆動指令補正部60が生成する補正用トルク電流指令値をそのトルク電流指令値に加算して旋回用電動機21を駆動させるが(以下、「第一旋回駆動制御方式」とする。)、旋回操作方向とは逆方向の上部旋回体3の旋回が検出された場合に、駆動指令補正部60が生成するトルク電流指令値のみに基づいて旋回用電動機21の駆動させるようにしてもよい(以下、「第二旋回駆動制御方式」とする。)。
また、旋回操作方向と上部旋回体3の旋回方向とが異なる場合に常に駆動指令補正60による補正を行うこととすると、駆動指令補正60は、外力の影響等により旋回操作方向と上部旋回体3の旋回方向とが相反する状態が生じた場合にも、その逆方向への旋回を減ずるための旋回操作方向へのトルクを追加的に発生させ、傾斜地の場合に比べて作業機構の自重による旋回が生じない平坦地においては、上部旋回体3をその旋回操作方向に旋回させ過ぎてしまう場合がある。
これに対して、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械では、主制御部80が、PI制御部56の出力に基づいて、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かを判定し、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用していないと判定した場合に、リレー64及び66の双方を開放させPI制御部63の出力を遮断させることで、駆動指令補正60による不必要な補正が行われるのを禁止する。
具体的には、主制御部80は、旋回機構2の旋回が停止しようとしている場合におけるPI制御部56の出力に基づいて、旋回機構2の旋回を停止させたときにその停止状態を維持するために必要となる駆動トルク(トルク電流指令値)の大きさを推定し、その推定したトルク電流指令値の大きさに基づいて旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かを判定する。
図8は、旋回機構2を停止させる際のPI制御部56の出力(トルク電流指令値)の時間推移を示す図であり、図8(A)は、平坦地にある建設機械の旋回機構2を停止させる際のトルク電流指令値の時間推移を示し、図8(B)は、傾斜地にある建設機械が斜面下方向に向かって左旋回している旋回機構2を斜面途中で停止させる際のトルク電流指令値の時間推移を示す。なお、ステップ状の出力は、PI制御部56が所定時間間隔でトルク電流指令値を更新することを意味する。
図8(A)は、PI制御部56が旋回機構2を停止させるために(トルク電流指令値を零に収束させるために)左旋回用のトルク電流指令値(旋回機構2の右旋回を弱めるためのトルクを発生させる指令値である。)と右旋回用のトルク電流指令値(旋回機構2の左旋回を弱めるためのトルクを発生させる指令値である。)とを徐々に低減させながら交互に出力する状態を示す。
主制御部80は、このトルク電流指令値の振幅の変化に基づいてトルク電流指令値の収束値を推定し、推定した収束値が零であるとして、「旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用していない」と判定する。
また、図8(B)は、図8(A)と同様に、PI制御部56が旋回機構2を停止させるために左旋回用のトルク電流指令値と右旋回用のトルク電流指令値とを徐々に低減させながら交互に出力する状態を示す。
主制御部80は、このトルク電流指令値の振幅の変化に基づいてトルク電流指令値の収束値を推定し、推定した収束値が右旋回用のトルク電流指令値α(負の値)であるとして、「旋回機構2を斜面下方向(左方向)に回転させようとする重力成分が作用している」と判定する。
なお、図8(B)における矢印G群は、旋回機構2を斜面下方向(左方向)に回転させようとする重力成分であり、右旋回用のトルク電流指令値α(負の値)に対応する旋回機構2が発生させる右旋回用の駆動トルクと釣り合う力である。
なお、主制御部80は、好適には、旋回機構2が旋回モードから停止(保持制御)モードに切り替わる度に、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かを判定するが、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用していると一旦判定した場合に内部メモリに用意された落下防止制御フラグをオンに切り替え、その後に下部走行体1が駆動されて建設機械が所定距離だけ移動したことを検知するまで、落下防止制御フラグをオンのまま維持するようにしてもよい。この場合、主制御部80は、落下防止制御フラグがオンとなっている限り、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かの判定を行わないものとする。その判定の繰り返しを省略するためである。
主制御部80は、駆動指令補正60による補正を機能させるべくリレー64又は66を閉成しようとするときにその落下防止制御フラグを参照し、落下防止制御フラグがオン(例えば、建設機械が傾斜地に存在すると推定される場合である。)であればその閉成を許可し(駆動指令補正60による補正を機能させることを意味する。)、落下防止制御フラグがオフ(例えば、建設機械が平坦地に存在すると推定される場合である。)であればその閉成を禁止する(駆動指令補正60による補正を禁止することを意味する。)。
ここで、図9を参照しながら、主制御部80が落下防止制御フラグを切り替える処理(以下、「落下防止制御フラグ切り替え処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図9は、落下防止制御フラグ切り替え処理の流れを示すフローチャートであり、主制御部80は、所定周期で繰り返しこの落下防止制御フラグ切り替え処理を実行する。なお、落下防止制御フラグが既にオンである場合、主制御部80は、この判定を省略するようにしてもよい。
最初に、主制御部80は、レバー26Aの操作に応じて旋回機構2が旋回モードから停止(保持制御)モードに切り替わったか否かを判定する(ステップS1)。
旋回モードから停止(保持制御)モードへの切り替えが発生していないと判定すると(ステップS1のNO)、主制御部80は、この落下防止制御フラグ切り替え処理を終了させる。
旋回モードから停止(保持制御)モードへの切り替えが発生したと判定すると(ステップS1のYES)、主制御部80は、PI制御部56の出力に基づいてトルク電流指令値の収束値が零であるか否かを判定する(ステップS2)。
トルク電流指令値の収束値が零でないと判定した場合(ステップS2のNO)、主制御部80は、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているとして、落下防止制御フラグをオンに切り替え(ステップS3)、一方で、トルク電流指令値の収束値が零であると判定した場合には(ステップS2のYES)、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用していないとして、落下防止制御フラグをオフに切り替える(ステップS4)。
その後、主制御部80は、前回の落下防止制御フラグの切り替え後の下部走行体1による移動距離を零にリセットする(主制御部80は、ペダル26Cの操作に応じて下部走行体1を走行させた場合にその移動距離を計数しているものとする。)。一旦、落下防止制御フラグをオンに切り替えた場合(例えば、建設機械が傾斜地に存在していたためである。)、下部走行体1が所定距離以上を移動するまでは、その建設機械は、そのまま傾斜地に存在するものと想定されるからである。
このように、主制御部80は、トルク電流指令値の収束値を推定して、或いは、下部走行体1の移動状態に応じて、落下防止制御フラグを切り替えるようにする。
次に、図10を参照しながら、主制御部80が下部走行体1の移動距離に応じて落下防止制御フラグをリセットする処理(以下、「落下防止制御フラグリセット処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図10は、落下防止制御フラグリセット処理の流れを示すフローチャートであり、主制御部80は、所定周期で繰り返しこの落下防止制御フラグリセット処理を実行する。
最初に、主制御部80は、ペダル26Cの操作に応じて下部走行体1が走行しているか否かを判定する(ステップS11)。
下部走行体1が走行していないと判定すると(ステップS11のNO)、主制御部80は、この落下防止制御フラグリセット処理を終了させる。
下部走行体1が走行していると判定すると(ステップS11のYES)、主制御部80は、その移動距離が閾値以上となったか否かを判定する(ステップS12)。
その移動距離が閾値未満であると判定した場合(ステップS12のNO)、主制御部80は、落下防止制御フラグをリセットすることなく、この落下防止制御フラグリセット処理を終了させる。
一方、その移動距離が閾値以上であると判定した場合(ステップS12のYES)、主制御部80は、落下防止制御フラグをオフにリセットし(ステップS13)、且つ、その移動距離を零にリセットする(ステップS14)。落下防止制御フラグがオンに切り替えられていたとしても、建設機械が所定距離を超えて移動したので、もはや建設機械が傾斜地に存在しているとは限らないからであり、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かを改めて判定すべきだからである。
このようにして、主制御部80は、下部走行体1が所定距離以上移動した場合に落下防止制御フラグをリセットするようにする。
このようにして、主制御部80は、建設機械が平坦地にある場合、或いは、建設機械が傾斜地にある場合であっても旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しない場合(例えば、作業機構が傾斜面の真上又は真下を向いている場合である。)には、リレー64及び66の双方を開放させPI制御部63の出力を遮断させることで、駆動指令補正60による補正が行われるのを禁止することができる。なお、作業機構が傾斜面の真下を向いている場合に旋回を開始させるときには、作業機構が既に傾斜面の真下を向いていることにより旋回操作方向と上部旋回体3の旋回方向とが逆になる状況は発生しないので、駆動指令補正60による補正が行われなくとも、運転者は、滑らかな旋回動作を開始させることができる。
なお、主制御部80は、旋回機構2の旋回が停止しようとしている場合に推定したトルク電流指令値の大きさに基づいて旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かを判定するが、旋回機構2が停止した後、停止状態にある旋回機構2が発生させているトルク電流指令値の大きさに基づいて旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かを判定するようにしてもよい。
旋回機構2が停止する前にそのトルク電流指令値を早期に推定することの有利点は、主制御部80が、停止(ブレーキ)モードを経ることなく旋回モードを再開させた場合にも、駆動指令補正60による補正が行われるのを確実に禁止できる点にある。
一方で、旋回機構2が停止した後にそのトルク電流指令値を取得することの有利点は、強風等の影響により平坦地であるにもかかわらず旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用していると主制御部80が誤って判定した場合であっても、その判定を訂正できる点にある。
また、主制御部80は、例えば、旋回機構2が停止しようとしている状態で推定したトルク電流指令値の絶対値が所定値以下である場合、或いは、旋回機構2が停止した状態におけるトルク電流指令値の絶対値が所定値以下である場合に、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用していないと判定するようにしてもよい。柔軟な判定を行うためである。
次に、図11を参照しながら、旋回駆動制御装置40が第一旋回駆動制御方式に基づいてトルク電流指令値を出力する処理(以下、「第一旋回駆動制御処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図11は、第一旋回駆動制御処理の流れを示すフローチャートであり、旋回駆動制御装置40は、所定周期で繰り返しこの第一旋回駆動制御処理を実行する。
最初に、旋回駆動制御装置40は、旋回機構2が停止(ブレーキ)モードから起動モードに切り替わった場合に旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しいか否かを主制御部80に判定させる(ステップS21)。
旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しいと判定された場合(ステップS21のYES)、旋回駆動制御装置40は、駆動指令生成部50にトルク電流指令値を生成させ(ステップS22)、そのトルク電流指令値をインバータ20に対して出力する。このとき、駆動指令補正部60は、旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しいと判定されているので、補正用トルク電流指令値として零を出力する。
一方、旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しくないと判定された場合(ステップS21のNO)、旋回駆動制御装置40は、主制御部80の内部メモリに記憶された落下防止制御フラグを主制御部80に参照させ、落下防止制御フラグがオンに設定されているか否かを判定させる(ステップS23)。
落下防止制御フラグがオンであると判定された場合(ステップS23のYES)、旋回駆動制御装置40は、駆動指令生成部50にトルク電流指令値を生成させ(ステップS24)、且つ、駆動指令補正部60にそのトルク電流指令値を補正させた上で(ステップS25)、その補正されたトルク電流指令値をインバータ20に対して出力する。旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用している場合(例えば、建設機械が傾斜地にある場合である。)であっても、動き出しの滑らかな旋回動作を実現できるようにするためである。
なお、落下防止制御フラグがオンでないと判定された場合には(ステップS23のNO)、旋回駆動制御装置40は、駆動指令生成部50にトルク電流指令値を生成させ(ステップS26)、一方で、駆動指令補正部60によるそのトルク電流指令値の補正を禁止した上で(ステップS27)、駆動指令生成部50が生成したトルク電流指令値をインバータ20に対して出力する。このとき、駆動指令補正部60は、旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しくないと判定されているので、零以外の補正用トルク電流指令値を生成するが、主制御部80によって加算器68に対する出力が禁止される。旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しくないと判定された場合であってもその原因が旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分によらない場合(例えば、強風が原因となる場合である。)があり、そのような場合に駆動指令補正部60によるトルク電流指令値に対する過度の補正が行われないようにするためである。
次に、図12を参照しながら、旋回駆動制御装置40が第二旋回駆動制御方式に基づいてトルク電流指令値を出力する処理(以下、「第二旋回駆動制御処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図12は、第二旋回駆動制御処理の流れを示すフローチャートであり、旋回駆動制御装置40は、所定周期で繰り返しこの第二旋回駆動制御処理を実行する。
最初に、旋回駆動制御装置40は、旋回機構2が停止(ブレーキ)モードから起動モードに切り替わった場合に旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しいか否かを主制御部80に判定させる(ステップS31)。
旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しいと判定された場合(ステップS31のYES)、旋回駆動制御装置40は、駆動指令生成部50にトルク電流指令値を生成させ(ステップS32)、そのトルク電流指令値をインバータ20に対して出力する。
一方、旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しくないと判定された場合(ステップS31のNO)、旋回駆動制御装置40は、主制御部80の内部メモリに記憶された落下防止制御フラグを主制御部80に参照させ、落下防止制御フラグがオンに設定されているか否かを判定させる(ステップS33)。
落下防止制御フラグがオンであると判定された場合(ステップS33のYES)、旋回駆動制御装置40は、駆動指令生成部50によるトルク電流指令値の生成を禁止し、駆動指令生成部50の代わりに、駆動指令補正部60にトルク電流指令値を生成させ(ステップS34)、そのトルク電流指令値をインバータ20に対して出力する。旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用している場合(例えば、建設機械が傾斜地にある場合である。)であっても、動き出しの滑らかな旋回動作を実現できるようにするためである。このとき、駆動指令生成部50は、零以外のトルク電流指令値を生成するが、主制御部80によって加算器68に対する出力が禁止される。
なお、落下防止制御フラグがオンでないと判定された場合には(ステップS33のNO)、旋回駆動制御装置40は、旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しいと判定された場合と同様に、駆動指令補正部60によるトルク電流指令値の生成を禁止し、駆動指令生成部50にトルク電流指令値を生成させ(ステップS26)、駆動指令生成部50が生成したトルク電流指令値をインバータ20に対して出力する。このとき、駆動指令補正部60は、旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しくないと判定されているので、零以外の補正用トルク電流指令値を生成するが、主制御部80によって加算器68に対する出力が禁止される。旋回操作方向と旋回機構2の実際の旋回方向とが等しくないと判定された場合であってもその原因が旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分によらない場合(例えば、強風が原因となる場合である。)があり、そのような場合に駆動指令補正部60による過大なトルク電流指令値の生成が行われないようにするためである。
これにより、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械は、作業機構の自重による旋回が生じる旋回位置において旋回操作方向と上部旋回体3の旋回方向とが相反する状態が生じた場合であっても、上部旋回体3をその旋回操作方向に滑らかに旋回させることができる。
また、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械は、作業機構の自重による旋回が生じない旋回位置において旋回操作方向と上部旋回体3の旋回方向とが相反する状態が生じた場合であっても、上部旋回体3をその旋回操作方向に過度に旋回させてしまうのを防止することができる。
また、第一実施例に係る旋回駆動制御装置を含む建設機械は、旋回機構2の旋回を停止させる際に旋回駆動制御装置40がインバータ20に対して出力するトルク電流指令値の収束値を取得することによって、旋回機構2を斜面下方向に回転させようとする重力成分が作用しているか否かを判定するので、傾斜センサを備えることなくそのような重力成分の存否を判定して駆動指令補正部60による不必要な補正を禁止することができる。
以上では、駆動指令補正部60による補正の禁止をリレー64及び66の双方の開放によるものとした形態について説明したが、これに代えて、PI制御部63の出力側にPI制御部63の出力値と零値とを選択的に切り替える切替手段を設け、作業機構の自重による旋回トルクが作用していないと判定した場合に、PI制御部63の出力値を常に零値とするようにしてもよいし、駆動指令補正部60の出力側(加算器68の手前側)にトルク電流指令修正部65及びトルク電流指令修正部67の出力値と零値とを選択的に切り替える切替手段を設け、作業機構の自重による旋回トルクが作用していないと判定した場合に、常に加算器68に零値を出力するようにしてもよい。
また、以上では、旋回用電動機21がインバータ20によってPWM駆動される交流モータであり、その回転速度を検出するために、レゾルバ22及び旋回動作検出部58を用いる形態について説明したが、旋回用電動機21は直流モータであってもよい。この場合は、インバータ20、レゾルバ22及び旋回動作検出部58が不要となり、回転速度としては直流モータのタコジェネレータで検出される値を用いればよい。
また、以上では、駆動指令補正部60が補正用零速度指令生成部61を含み、補正用トルク電流指令値を演算するための補正用零速度指令が駆動指令補正部60の内部で生成される形態について説明したが、駆動指令補正部60が補正用零速度指令生成部61を含まずに、駆動指令補正部60の外部から補正用零速度指令が供給されるように構成されていてもよい。
また、以上では、トルク電流指令の演算にPI制御を用いる形態について説明したが、これに代えて、ロバスト制御、適応制御、比例制御、積分制御等を用いてもよい。
また、以上では、ハイブリッド型の建設機械を用いて説明したが、旋回機構が電動化された建設機械であれば、第一実施例に係る旋回駆動制御装置の適用対象は、バイブリッド型に限定されるものではない。
以上、本発明の例示的な第一実施例に係る旋回駆動制御装置及びこれを用いた建設機械について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。