図1は、本発明の実施例に係るハイブリッド式ショベルの側面図である。
ハイブリッド式ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4、アーム5、及びバケット6と、これらを油圧駆動するためのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が設けられる。また、上部旋回体3には、キャビン10及び動力源が搭載される。
図2は、ハイブリッド式ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。図2では、機械的動力系を二重線、高圧油圧ラインを実線、パイロットラインを破線、電気駆動・制御系を一点鎖線でそれぞれ示す。
機械式駆動部としてのエンジン11と、発電も行うアシスト駆動部としての電動発電機12は、ともに変速機13の入力軸に接続されている。また、変速機13の出力軸には、メインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。
コントロールバルブ17は、油圧系の制御を行う制御装置である。コントロールバルブ17には、下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続される。
電動発電機12には、インバータ18を介して、蓄電用のキャパシタ又はバッテリを含む蓄電系120が接続されている。本実施例では蓄電系120は蓄電器としてキャパシタを含むものとする。蓄電系120には、インバータ20を介して旋回用電動機21が接続されている。
図3は蓄電系120の構成を示すブロック図である。蓄電系120は、蓄電器としてのキャパシタ19と、昇降圧コンバータ100とDCバス110とを含む。DCバス110は、キャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を制御する。キャパシタ19には、キャパシタ電圧値を検出するためのキャパシタ電圧検出部112と、キャパシタ電流値を検出するためのキャパシタ電流検出部113が設けられている。キャパシタ電圧検出部112とキャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電圧値とキャパシタ電流値は、コントローラ30に供給される。
昇降圧コンバータ100は、電動発電機12及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス電圧値を一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り替える制御を行う。DCバス110は、インバータ18、20と昇降圧コンバータ100との間に配設されており、キャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を行う。また、上述では蓄電器としてキャパシタを例として示したが、キャパシタの代わりに、リチウムイオン電池等の充電可能な二次電池、又は、電力の授受が可能なその他の形態の電源を蓄電器として用いてもよい。
図2に戻り説明を続ける。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。
操作装置26には、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及びレバー操作検出部としての圧力センサ29がそれぞれ接続される。この圧力センサ29には、電気系の駆動制御を行うコントローラ30が接続されている。
エンジン11、電動発電機12、及び旋回用電動機21等の動力源は、図1に示す上部旋回体3に搭載される。以下、各部について説明する。
エンジン11は、例えば、ディーゼルエンジンで構成される内燃機関であり、その出力軸は変速機13の一方の入力軸に接続される。このエンジン11は、ショベルの運転中は常時運転される。
電動発電機12は、力行運転及び発電運転の双方が可能な電動機であればよい。ここでは、電動発電機12として、インバータ20によって交流駆動される電動発電機を示す。電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnetic)モータで構成することができる。電動発電機12の回転軸は変速機13の他方の入力軸に接続される。
変速機13は、2つの入力軸と1つの出力軸を有する。2つの入力軸のそれぞれには、エンジン11の駆動軸と電動発電機12の駆動軸が接続される。出力軸にはメインポンプ14の駆動軸が接続される。エンジン11の負荷が大きい場合には、電動発電機12が力行運転を行い、電動発電機12の駆動力が変速機13の出力軸を経てメインポンプ14に伝達される。これによりエンジン11の駆動がアシストされる。一方、エンジン11の負荷が小さい場合は、エンジン11の駆動力が変速機13を経て電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が発電運転を行う。電動発電機12の力行運転と発電運転の切り替えは、コントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
メインポンプ14は、コントロールバルブ17に供給するための油圧を発生するポンプである。メインポンプ14が発生した油圧は、コントロールバルブ17を介して油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9のそれぞれを駆動するために供給される。パイロットポンプ15は、油圧操作系に必要なパイロット圧を発生するポンプである。
コントロールバルブ17は、高圧油圧ラインを介して接続される下部走行体1用の油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9のそれぞれに供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御することにより、これらを油圧駆動制御する油圧制御装置である。
インバータ18は、上述の如く電動発電機12と蓄電系120との間に設けられ、コントローラ30からの指令に基づき、電動発電機12の運転制御を行う。これにより、インバータ18が電動発電機12の力行を運転制御している際には、必要な電力を蓄電系120から電動発電機12に供給する。また、電動発電機12の発電運転を制御している際には、電動発電機12により発電された電力を蓄電系120のキャパシタ19に蓄電する。
蓄電系120は、インバータ18とインバータ20との間に配設されている。これにより、電動発電機12と旋回用電動機21の少なくともどちらか一方が力行運転を行っている際には、蓄電系120は、力行運転に必要な電力を供給するとともに、少なくともどちらか一方が発電運転を行っている際には、蓄電系120は発電運転によって発生した電力を電気エネルギとして蓄積する。
インバータ20は、上述の如く旋回用電動機21と蓄電系120との間に設けられ、コントローラ30からの指令に基づき、旋回用電動機21に対して運転制御を行う。これにより、インバータ20は、旋回用電動機21が力行運転をしている際には、必要な電力を蓄電系120から旋回用電動機21に供給する。また、旋回用電動機21が発電運転をしている際には、旋回用電動機21により発電された電力を蓄電系120のキャパシタ19に蓄電する。
旋回用電動機21は、力行運転及び発電運転の双方が可能な電動機であればよく、上部旋回体3の旋回機構2を駆動するために設けられている。力行運転の際には、旋回用電動機21の回転駆動力が減速機24にて増幅され、上部旋回体3が加減速制御され回転運動を行う。また、発電運転の際には、上部旋回体3の慣性回転は、減速機24にて回転数が増加されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させることができる。ここでは、旋回用電動機21は、PWM(Pulse Width Modulation)制御信号によりインバータ20によって交流駆動される電動機である。旋回用電動機21は、例えば、磁石埋込型のIPMモータで構成することができる。これにより、より大きな誘導起電力を発生させることができるので、回生時に旋回用電動機21にて発電される電力を増大させることができる。
なお、蓄電系120のキャパシタ19の充放電制御は、キャパシタ19の充電状態、電動発電機12の運転状態(力行運転又は発電運転)、旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づき、コントローラ30によって行われる。
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転位置及び回転角度を検出するセンサである。具体的には、レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転前の回転軸21Aの回転位置と、左回転又は右回転した後の回転位置との差を検出することにより、回転軸21Aの回転角度及び回転方向を検出する。旋回用電動機21の回転軸21Aの回転角度及び回転方向を検出することにより、旋回機構2の回転角度及び回転方向が導出される。
メカニカルブレーキ23は、機械的な制動力を発生させる制動装置であり、旋回用電動機21の回転軸21Aを機械的に停止させる。このメカニカルブレーキ23は、電磁式スイッチにより制動/解除が切り替えられる。この切り替えは、コントローラ30によって行われる。
旋回変速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転を減速して旋回機構2に機械的に伝達する変速機である。これにより、力行運転の際には、旋回用電動機21の回転力を増力させ、より大きな回転力を旋回体へ伝達することができる。これとは逆に、回生運転の際には、旋回体で発生した回転を増速して旋回用電動機21に機械的に伝達することができる。
旋回機構2は、旋回用電動機21のメカニカルブレーキ23が解除された状態で旋回可能となり、これにより、上部旋回体3が左方向又は右方向に旋回される。
操作装置26は、旋回用電動機21、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6を操作するための操作装置であり、レバー26A及び26Bとペダル26Cを含む。レバー26Aは、旋回用電動機21及びアーム5を操作するためのレバーであり、上部旋回体3の運転席近傍に設けられる。レバー26Bは、ブーム4及びバケット6を操作するためのレバーであり、運転席近傍に設けられる。また、ペダル26Cは、下部走行体1を操作するための一対のペダルであり、運転席の下に設けられる。
操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を運転者の操作量(例えば、中立位置を基準としたレバー傾斜角度である。)に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。
レバー26A、レバー26B、ペダル26Cが操作されると、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17が駆動され、これにより、油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9の油圧が制御されることによって、下部走行体1、ブーム4、アーム5、バケット6が駆動される。
レバー操作検出部としての圧力センサ29は、レバー26Aの操作による、油圧ライン28内の油圧の変化を検出する。そして、圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。この電気信号は、コントローラ30に入力される。これにより、レバー26Aの操作量を的確に把握することができる。また、本実施例では、レバー操作検出部として圧力センサを用いたが、レバー26Aの操作量をそのまま電気信号で読み取るセンサを用いてもよい。
コントローラ30は、ショベルの駆動制御を行う制御装置であり、駆動制御部32、電動旋回制御部40、及び主制御部60を含む。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成される。駆動制御部32、電動旋回制御部40及び主制御部60は、コントローラ30のCPUが内部メモリに格納される駆動制御用のプログラムを実行することにより、実現される機能要素である。
駆動制御部32は、電動発電機12の運転制御(力行運転又は発電運転の切り替え)、及び、キャパシタ19の充放電制御を行うための機能要素である。駆動制御部32は、エンジン11の負荷の状態とキャパシタ19の充電状態に応じて、電動発電機12の力行運転と発電運転を切り替える。駆動制御部32は、電動発電機12の力行運転と発電運転を切り替えることにより、インバータ18を介してキャパシタ19の充放電制御を行う。
電動旋回制御部40は、インバータ20を介して旋回用電動機21の駆動制御を行って上部旋回体3の旋回動作を制御するための機能要素である。
図4は、電動旋回制御部40の構成を示すブロック図であり、電動旋回制御部40は、速度指令変換部31及び駆動指令生成部50を含む。
速度指令変換部31は、圧力センサ29から入力される信号を速度指令に変換する演算処理部である。これにより、レバー26Aの操作量は、旋回用電動機21を回転駆動させるための速度指令(rad/s)に変換される。この速度指令は、駆動制御部32、駆動指令生成部50、及び主制御部60に入力される。
駆動指令生成部50は、旋回用電動機21を駆動するためのトルク電流増減値(トルク指令値)を生成する機能要素である。駆動指令生成部50には、レバー26Aの操作量に応じて速度指令変換部31から出力される速度指令が入力される。駆動指令生成部50は、速度指令に基づきトルク指令値を生成する。トルク指令値はインバータ20に入力される。インバータ20は、トルク指令値に応じたPWM制御により旋回用電動機21を交流駆動する。
インバータ20は、駆動指令生成部50から受けるトルク指令値によりトルク電流値を増減させて電動機21を左方向又は右方向に加速又は減速させる。なお、インバータ20は、例えば、トルク電流値がマイナス側に大きいほど上部旋回体3を左方向に旋回させる旋回用電動機21のトルクを増大させるようにし、トルク電流値がプラス側に大きいほど上部旋回体3を右方向に旋回させる旋回用電動機21のトルクを増大させるようにする。
主制御部60は、電動旋回制御装置40の制御処理に必要な周辺処理を行う機能要素である。具体的な処理内容については、関連箇所においてその都度説明する。
駆動指令生成部50は、減算器51、PI制御部52、トルク制限部53、及び旋回動作検出部58を含む。この駆動指令生成部50の減算器51には、レバー26Aの操作量に応じた旋回駆動用の速度指令(rad/s)が入力される。
減算器51は、レバー26Aの操作量に応じた速度指令(rad/s)から、旋回動作検出部58によって検出される旋回用電動機21の回転速度(rad/s)を減算して偏差を出力する。この偏差は、PI制御部52において、旋回用電動機21の回転速度を速度指令(目標値)に近づけるためのPI制御に用いられる。
PI制御部52は、減算器51から入力される偏差に基づき、旋回用電動機21の回転速度を速度指令(目標値)に近づけるように(すなわち、この偏差を小さくするように)PI制御を行い、そのために必要なトルク指令値を生成する。生成されたトルク指令値は、トルク制限部53に入力される。
具体的には、PI制御部52は、今回の制御サイクルにおいて減算器51から入力される偏差に所定の比例(P)ゲインを乗じた値(比例成分)と、今回の制御サイクルまでの偏差の積算値(積分値)に所定の積分(I)ゲインを乗じた値(積分成分)とを加算してトルク指令値を生成する。
トルク制限部53は、トルク指令値の変動幅を制限する処理を行う。トルク指令値の変動幅の制限は、例えば、PI制御部52によって生成されるトルク指令値が急激に変動すると旋回制御性が悪化するため、この悪化を抑制するために行われる。この制限特性は、上部旋回体3の左方向及び右方向の双方向における急旋回を制限するための特性を有するものであり、レバー26Aの操作量の増大に応じてトルク指令値の変動幅を緩やかに増大させる特性を有する。
また、トルク指令値の変動幅の制限は、電動旋回ショベルとしてのハイブリッド式ショベル上で、油圧旋回ショベルの動きを再現するためにも行われる。この制限特性は、旋回を含む複合操作の場合に、油圧アクチュエータを操作するための操作装置26の操作量が大きいほどトルク指令値の上限が小さくなることを意味する。なお、この制限特性については以下で詳細に説明する。
また、制限特性を表すデータ(例えば、参照マップの形式で提供される。)は、主制御部60の内部メモリに格納されており、トルク制限部53によって読み出される。
上述のような構成のハイブリッド式ショベルによる作業では、上部旋回体3を旋回させながらブーム4を上昇させるといった複合操作が行われる場合がある。このとき、コントローラ30は、油圧旋回ショベルの動きを模した態様で、電動旋回ショベルであるハイブリッド式ショベルを動作させることができる。
ここで、図5を参照しながら、旋回を含む複合操作が行われる場合における、油圧旋回ショベルの動きと電動旋回ショベルの動きの違いを説明する。なお、図5は、油圧旋回ショベルに搭載される油圧回路と電動旋回ショベルに搭載される油圧回路とを比較するための図であり、左側が油圧旋回ショベルの油圧回路を示し、右側が電動旋回ショベルの油圧回路を示す。
図5に示すように、双方の油圧回路は何れも2つのメインポンプ14a、14bを有する。また、双方の油圧回路は、ブーム4を上昇させる操作が行われると、合流切換弁を開いて第1メインポンプ14aが吐出する作動油を第2メインポンプ14bが吐出する作動油に合流させ、合流後の作動油をブームシリンダ7のボトム側油室7bに流入させる。このように、双方の油圧回路は、旋回停止中にブーム4を上昇させる際には共通の作動油の流れを生じさせる。なお、合流切換弁は、ブーム操作レバーであるレバー26Bが操作された場合に開き、操作量が大きくなるにつれてその絞り開度が大きくなる弁である。
しかしながら、旋回機構2を旋回させる場合には、それぞれの油圧回路が異なる作動油の流れを生じさせる。具体的には、図5に示すように、旋回機構2を旋回させる操作が行われると、油圧旋回ショベルの油圧回路は、旋回用油圧モータに対応する流量制御弁17aを通じて、第1メインポンプ14aが吐出する作動油を旋回用油圧モータに供給する。また、旋回機構2を旋回させる操作とブーム4を上昇させる操作が同時に行われると、油圧旋回ショベルの油圧回路は、第1メインポンプ14aが吐出する作動油の一部分を旋回用油圧モータに供給し、他の部分をブームシリンダ7に供給する。
より具体的には、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力(旋回トルクに相当する。)は、ブーム操作レバーとしてのレバー26Bの操作量が大きいほど小さくなる。レバー26Bの操作量が大きいほど合流切換弁の絞り開度が大きくなり、合流切換弁での圧力損失が低下し、第1メインポンプ14aが吐出する作動油が、旋回用油圧モータよりもブームシリンダ7に流入し易くなるためである。その結果、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力は、ブームシリンダ7に流入する作動油の圧力と同等になる。
反対に、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力は、ブーム操作レバーとしてのレバー26Bの操作量が小さいほど大きくなる。レバー26Bの操作量が小さいほど合流切換弁の絞り開度が小さくなり、合流切換弁での圧力損失が増大し、第1メインポンプ14aが吐出する作動油が、ブームシリンダ7よりも旋回用油圧モータに流入し易くなるためである。その結果、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力は、ブームシリンダ7に流入する作動油の圧力に、合流切換弁での圧力損失を加えた圧力となる。なお、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力は、合流切換弁の絞りが閉じられた場合、すなわち、ブーム4が操作されない場合に最大となる。
一方、旋回機構2を旋回させる操作が行われた場合であっても、電動旋回ショベルの油圧回路は、旋回電動機21によって旋回機構2が旋回駆動されるため、旋回機構2を旋回させるために作動油を用いることはない。また、旋回機構2を旋回させる操作とブーム4を上昇させる操作が同時に行われた場合であっても、電動旋回ショベルの油圧回路は、旋回機構2を旋回させることなくブーム4を上昇させる際の作動油の流れと同じ作動油の流れを生じさせる。
そのため、旋回機構2を旋回させる操作とブーム4を上昇させる操作が同時に行われた場合には、油圧旋回ショベルの動きと電動旋回ショベルの動きの間に違いが生じる。具体的には、油圧旋回ショベルでは、第1メインポンプ14aが吐出する作動油の一部がブームシリンダ7を駆動するために利用される分、旋回用油圧モータに流入する作動油の量が減少するため、電動旋回ショベルに比べて旋回速度の増大が遅くなる。言い換えれば、電動旋回ショベルにおける旋回加速度が、油圧旋回ショベルにおける旋回加速度よりも大きくなる。その結果、油圧旋回ショベルの操作に慣れた操作者は、電動旋回ショベルを操作する際に違和感を抱く。コントローラ30は、油圧旋回ショベルの操作に慣れた操作者が抱くこの違和感を緩和し或いは解消させるようにする。
具体的には、コントローラ30は、複合操作の際の油圧旋回ショベルの動きを再現すべく、複合操作が行われた場合に旋回用電動機21に対して入力されるトルク電流値を以下の関係に基づいて決定する。
より具体的には、コントローラ30は、以下の式(1)で表される旋回の運動方程式に基づいて、インバータ20に対して出力するトルク電流値を決定する。
ここで、Jは慣性モーメントを表し、ωは旋回角速度を表し、Dは旋回粘性係数を表し、τは制御トルクを表す。なお、Dωは、旋回時に発生する摩擦力を表す。すなわち、旋回の運動方程式は、上部旋回体3を旋回させるための力が、制御トルクから摩擦力を差し引いたものであることを表す。
また、制御トルクτは、油圧旋回の場合、以下の式(2)で表される。
ここで、V
Pは旋回用油圧モータのモータ容積を表し、P
INは旋回用油圧モータの入口圧を表し、P
OUTは旋回用油圧モータの出口圧を表す。
さらに、制御トルクτは、電動旋回の場合、以下の式(3)で表される。
ここで、K
Tはモータトルク定数を表し、I
Mは、トルク電流値(実効値)を表す。
再現すべき対象となる仮想的な油圧旋回ショベルにおける旋回用油圧モータ(以下、「仮想旋回用油圧モータ」とする。)のモータ容積VPを予め決定しておき、POUTを実質的にゼロ(タンク圧)とすると、コントローラ30は、仮想旋回用油圧モータの入口圧PINを推定することによって、式(2)から仮想的な油圧旋回の場合の制御トルクτを推定できる。そして、仮想的な油圧旋回の場合の制御トルクτが推定できれば、コントローラ30は、油圧旋回ショベルの動きを再現するためのトルク電流値(実効値)IMを式(3)に基づいて決定できる。
油圧旋回では、旋回用油圧モータの入口圧PIN、すなわち、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力は、上述の通り、合流切換弁の絞り開度、すなわち、ブーム操作レバーとしてのレバー26Bの操作量に応じて変化する。そのため、コントローラ30は、レバー26Bの操作量に基づいて仮想旋回用油圧モータの入口圧PINを推定することで、油圧旋回ショベルの動きを再現するためのトルク電流値(実効値)IMを決定できる。
ここで、図6を参照しながら、油圧旋回ショベルの動きを再現するためのトルク電流値をコントローラ30が決定する制御(以下、「第1仮想油圧旋回制御」とする。)について説明する。なお、図6は、第1仮想油圧旋回制御の流れを示すブロック図である。
図6に示すように、コントローラ30の主制御部60は、圧力センサ29が出力するブームシリンダ用流量制御弁の上げ方向のパイロットポートに導入されるパイロット圧(以下、「ブーム上げパイロット圧」とする。)を入力とし、トルク制限部53に対する第1旋回トルク上限値を出力とする。
具体的には、主制御部60は、合流切換弁開度算出部61及び第1旋回トルク上限値算出部62を含む。
合流切換弁開度算出部61は、ブーム上げパイロット圧が入力されると、そのブーム上げパイロット圧に応じた合流切換弁の絞り開度を第1旋回トルク上限値算出部62に対して出力する。すなわち、合流切換弁開度算出部61は、ブーム操作レバーとしてのレバー26Bの上げ方向への操作量に応じた合流切換弁の絞り開度を第1旋回トルク上限値算出部62に対して出力する。なお、ブーム上げパイロット圧と合流切換弁の絞り開度との対応関係は、ブーム上げパイロット圧が高いほど、すなわち、レバー26Bの上げ方向への操作量が大きいほど合流切換弁の絞り開度が大きくなるように、予め算出式として登録され、或いは、参照マップ等に登録される。
第1旋回トルク上限値算出部62は、絞り開度が入力されると、その絞り開度に応じた第1旋回トルク上限値をトルク制限部53に対して出力する。すなわち、第1旋回トルク上限値算出部62は、ブーム操作レバーとしてのレバー26Bの上げ方向への操作量に応じた第1旋回トルク上限値をトルク制限部53に対して出力する。なお、絞り開度と第1旋回トルク上限値との対応関係は、絞り開度が大きいほど第1旋回トルク上限値が小さくなるように、予め算出式として登録され、或いは、参照マップ等に登録される。
図7は、絞り開度と第1旋回トルク上限値との対応関係を表す参照マップの1例を示す。図7の参照マップは、絞り開度がゼロのとき、第1旋回トルク上限値が、仮想的な油圧旋回ショベルにおける旋回用油圧モータのリリーフ弁(図5参照。)のリリーフ圧に相当することを示す。すなわち、図7の参照マップは、レバー26Bが操作されておらず合流切換弁が閉じられているときに、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力の上限値が許容最大圧としてのリリーフ圧に相当することを示す。また、図7の参照マップは、絞り開度が閾値αに達するまで、第1旋回トルク上限値がリリーフ圧相当のまま推移することを示す。旋回単独操作の場合、或いは、複合操作(ブーム上げ旋回操作)であってもブーム4の動きが小さい場合には、旋回油圧ショベルの動きを再現するために旋回加速度を低下させる必要がないためである。また、図7の参照マップは、絞り開度が閾値αを超えると、絞り開度が増大するにつれて第1旋回トルク上限値が減少し、所定圧に至ることを示す。複合操作(ブーム上げ旋回操作)においてブーム4の動きが大きい場合には、旋回油圧ショベルの動きを再現すべく旋回加速度を低下させる必要があるためである。
トルク制限部53は、第1旋回トルク上限値算出部62が算出した第1旋回トルク上限値が入力されると、インバータ20に対して出力可能なトルク指令値の最大値としてその第1旋回トルク上限値を採用する。このとき、トルク制限部53によって実現される制限特性は、レバー26Bのブーム上げ方向への操作量が大きいほど旋回加速度が小さくなることを意味する。
ここで、図8を参照しながら、旋回を含む複合操作の際に第1仮想油圧旋回制御を用いる場合の旋回速度の推移と、旋回を含む複合操作の際に第1仮想油圧旋回制御を用いない場合の旋回速度の推移との違いについて説明する。なお、図8は、旋回単独操作に続いてブーム上げ旋回操作が行われる場合の旋回速度の推移を示す図であり、実線で示す推移が第1仮想油圧旋回制御を用いない場合の推移を示し、点線で示す推移が第1仮想油圧旋回制御を用いる場合の推移を示す。
第1仮想油圧旋回制御を用いない場合、主制御部60は、上部旋回体3の急旋回を防止するための制限特性のみをトルク制限部53に適用する。そのため、旋回速度は、図8の実線で示すように、旋回単独操作が行われていたときの加速度と同じ加速度で上昇を続ける。
一方、第1仮想油圧旋回制御を用いる場合、主制御部60は、上部旋回体3の急旋回を防止するための制限特性に加え、或いはその制限特性に代えて、油圧旋回ショベルの動きを再現するための制限特性をトルク制限部53に適用する。そのため、旋回速度は、図8の点線で示すように上昇を続けるが、その加速度は、旋回単独操作が行われていたときの加速度よりも低下する。この点線で示す推移は、油圧旋回ショベルでブーム上げ旋回操作が行われたときの旋回速度の推移に相当する。
次に、図9を参照しながら、油圧旋回ショベルの動きを再現するためのトルク電流値をコントローラ30が決定する別の制御(以下、「第2仮想油圧旋回制御」とする。)について説明する。なお、図9は、第2仮想油圧旋回制御の流れを示すブロック図である。
図9に示すように、コントローラ30の主制御部60は、圧力センサ29が出力するブーム上げパイロット圧と、図示しないブームシリンダ圧センサが出力するブームシリンダ圧とを入力とし、トルク制限部53に対する最終旋回トルク上限値を出力とする。本実施例では、ブームシリンダ圧は、ブームシリンダ7のボトム側油室における作動油の圧力を意味する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。他の実施例では、ブームシリンダ圧は、ブームシリンダ7のロッド側油室における作動油の圧力であってもよい。
主制御部60は、第2旋回トルク上限値算出部63及び比較器64を有する点で図6の主制御部60と相違するがその他の点で共通する。そのため、共通点の説明を省略しながら、相違点を詳細に説明する。なお、本実施例では、第1旋回トルク上限値算出部62は、第1旋回トルク上限値をトルク制限部53に対して出力する代わりに比較器64に対して出力する。
第2仮想油圧旋回制御は、油圧旋回ショベルにおいて、合流切換弁の絞り開度が大きくなり合流切換弁での圧力損失が低下すると、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力が、ブームシリンダ7のボトム側油室に流入する作動油の圧力と同等になるという見解に基づく。また、第2仮想油圧旋回制御は、ブームシリンダ7のボトム側油室に流入する作動油の圧力が、ブームシリンダ7の負荷の大きさに応じて変化するという見解に基づく。なお、ブームシリンダ7の負荷は、例えば、バケット6内の土砂である。
第2旋回トルク上限値算出部63は、ブームシリンダ圧が入力されると、そのブームシリンダ圧に応じた第2旋回トルク上限値を比較器64に対して出力する。すなわち、第2旋回トルク上限値算出部63は、例えば、バケット6内の土砂の重量に応じた第2旋回トルク上限値を比較器64に対して出力する。なお、ブームシリンダ圧と第2旋回トルク上限値との対応関係は、ブームシリンダ圧が大きいほど第2旋回トルク上限値が大きくなるように、予め算出式として登録され、或いは、参照マップ等に登録される。油圧旋回ショベルでは、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力は、ブームシリンダのボトム側油室に流入する作動油の圧力と同等になるためである。すなわち、合流切換弁の絞り開度が大きい場合には、バケット6内の土砂の重量が小さいときの旋回加速度より、バケット6内の土砂の重量が大きいときの旋回加速度の方が大きくなるためである。
比較器64は、第1旋回トルク上限値算出部62が出力する第1旋回トルク上限値と、第2旋回トルク上限値算出部63が出力する第2旋回トルク上限値とが入力されると、2つの値のうちの大きい方を最終旋回トルク上限値としてトルク制限部53に対して出力する。その結果、絞り開度が小さい場合、すなわち、ブーム操作レバーとしてのレバー26の上げ方向の操作量が小さい場合には、第1仮想油圧旋回制御のときと同様に、第1旋回トルク上限値が採用される。一方、絞り開度が大きい場合、すなわち、ブーム操作レバーとしてのレバー26の上げ方向の操作量が大きい場合には、第1仮想油圧旋回制御のときとは違い、第2旋回トルク上限値が採用され易くなる。これは、レバー26の上げ方向の操作量が大きい場合には、バケット6内の土砂の重量に応じて旋回加速度に違いが生じることを意味する。このようにして、第2仮想油圧旋回制御は、第1仮想油圧旋回制御に比べ、レバー26の上げ方向の操作量が大きい場合の油圧旋回ショベルの動きをより正確に再現できる。
ここで、図10を参照しながら、旋回を含む複合操作の際に第2仮想油圧旋回制御を用いる場合の旋回速度の推移と、旋回を含む複合操作の際に第2仮想油圧旋回制御を用いない場合の旋回速度の推移との違いについて説明する。なお、図10は、旋回単独操作に続いてブーム上げ旋回操作が行われる場合の旋回速度の推移を示す図であり、実線で示す推移が第2仮想油圧旋回制御を用いない場合の推移を示す。また、図10は、一点鎖線で示す推移が第2仮想油圧旋回制御を用いる場合で且つブームシリンダ7の負荷が大きい場合の推移を示し、二点鎖線で示す推移が第2仮想油圧旋回制御を用いる場合で且つブームシリンダ7の負荷が小さい場合の推移を示す。なお、ブーム操作レバーとしてのレバー26Bの操作量は、仮想旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力がブームシリンダ7のボトム側油室に流入する作動油の圧力と同等になる程度に大きい。
第2仮想油圧旋回制御を用いない場合、主制御部60は、上部旋回体3の急旋回を防止するための制限特性のみをトルク制限部53に適用する。そのため、旋回速度は、図10の実線で示すように、旋回単独操作が行われていたときの加速度と同じ加速度で上昇を続ける。
一方、第2仮想油圧旋回制御を用いる場合、主制御部60は、上部旋回体3の急旋回を防止するための制限特性に加え、或いはその制限特性に代えて、油圧旋回ショベルの動きを再現するための制限特性をトルク制限部53に適用する。そのため、旋回速度は、図10の一点鎖線及び二点鎖線で示すように上昇を続けるが、その加速度は、旋回単独操作が行われていたときの加速度よりも低下する。これら一点鎖線及び二点鎖線で示す推移は、油圧旋回ショベルでブーム上げ旋回操作が行われたときの旋回速度の推移に相当する。
また、第2仮想油圧旋回制御を用いる場合、旋回加速度は、図10に示すように、ブームシリンダ7の負荷が大きいほど大きくなるように制御される。すなわち、旋回加速度は、バケット6内の土砂の重量が大きいほど大きくなるように制御される。油圧旋回ショベルの動きをより正確に再現するためであり、油圧旋回ショベルでは、ブームシリンダ圧が大きいほど、旋回用油圧モータに流入する作動油の圧力も大きくなるためである。
以上の構成により、本発明の実施例に係るハイブリッド式ショベルは、電動旋回ショベル上で油圧旋回ショベルの動きを再現することができ、油圧旋回ショベルの操作に慣れた操作者が電動旋回ショベルを操作する際に抱く違和感を緩和し或いは解消させることができる。
なお、上述の実施例では、ブーム上げ旋回操作の際にコントローラ30が第1仮想油圧旋回制御又は第2仮想油圧旋回制御を実行する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。コントローラ30は、例えば、ブーム下げ旋回操作、アーム開き旋回操作、アーム閉じ旋回操作等の他の複合操作の際に第1仮想油圧旋回制御又は第2仮想油圧旋回制御を実行してもよい。その場合、主制御部60は、ブーム上げパイロット圧の代わりに、ブーム下げパイロット圧、アーム開きパイロット圧、アーム閉じパイロット圧等を入力とし、ブームシリンダ圧の代わりに、アームシリンダ圧等を入力とする。
また、上述の実施例では、主制御部60は、トルク制限部53に対して第1旋回トルク上限値、最終旋回トルク上限値を出力し、インバータ20に対して入力されるトルク電流値が制限されるようにする。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。主制御部60は、例えば、ブーム上げパイロット圧やブームシリンダ圧に基づいてトルク電流値を算出した上で、算出したトルク電流値をインバータ20に対して直接出力してもよい。或いは、主制御部60は、例えば、ブーム上げパイロット圧やブームシリンダ圧に基づいてトルク指令値を生成し、生成したトルク指令値をPI制御部52の代わりにトルク制限部53に対して出力してもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施形態では、エンジン11と電動発電機12とを油圧ポンプであるメインポンプ14に接続してメインポンプを駆動する、いわゆるパラレル型のハイブリッド式ショベルに本発明を適用した例について説明した。しかしながら、本発明は、エンジン11で電動発電機12を駆動し、電動発電機12が生成した電力を蓄電系120に蓄積してから蓄積した電力のみによりメインポンプ14を駆動する、いわゆるシリーズ型のハイブリッド式ショベルにも適用することもできる。この場合、電動発電機12は、エンジン11によって駆動させることによる発電運転のみを行なう発電機としての機能を備えている。
また、エンジンが搭載されずに電動機のみで油圧ポンプを駆動する電気式ショベルにも本発明を適用することができる。この場合、蓄電系120には、コンバータを介して外部電源が接続され、蓄電系120の蓄電部(キャパシタ19)には、その外部電源から電力が供給されて充電される。