JP2010531932A - ダイアモンドイド前駆体を用いた外面上の非晶質炭素被膜の作製方法 - Google Patents

ダイアモンドイド前駆体を用いた外面上の非晶質炭素被膜の作製方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、プラズマ化学気相成長法により外面に堆積される高sp3含有非晶質炭素被膜の形成方法に関する。この方法により、硬度、ヤング率、耐摩耗性及び摩擦係数などのトライボロジー的性質、並びに屈折率などの光学的性質の調整が可能になる。更に、得られた被膜は均一かつ優れた耐食性を備えている。圧力、ダイアモンドイド前駆体の種類及びバイアス電圧を制御することにより、この新しい方法は、ダイアモンドイド前駆体が基材との衝突によって完全に分解することを防止する。ダイアモンドイドは、高圧下で、高sp3含有膜を生じるsp3結合を有する。これによりダイアモンドイド前駆体を用いない場合に比べて、堆積速度を速めることができる。

Description

本発明は物品の表面への炭素系被膜の堆積に関し、特に、限定するものではないが、例えば物品の外面などの金属表面への該被膜の堆積に関する。
本発明は、限定ではないが、特に物品表面の高sp3含有非晶質炭素被膜に関し、限定ではないが、特に高濃度のダイアモンドイド前駆体を用いたプラズマ化学気相成長法(PECVD)により作製された、外面上の高sp3含有非晶質炭素被膜に関する。また、イオン衝撃のエネルギーを制御して、ダイアモンド状炭素(DLC)から高sp3含有炭化水素ポリマまでの性質を備えた被膜を堆積する方法が開示される。
ダイアモンド状炭素を形成する先行技術の被膜方法として、化学的気相成長法(CVD)、物理的気相成長法(PVD)及びプラズマ化学気相成長法(PECVD)がある。DLCの望ましい性質の大半は、sp2結合(黒鉛)する炭素の量に対するsp3結合(ダイアモンド)する炭素の量によって決定される。sp3/sp2比を高めることにより、高硬度及び高ヤング率、低摩耗及び低摩擦、並びに耐食性及び均一な膜性質等のダイアモンドの優れたトライボロジー的性質の多くを得ることができる。
DLC系の複合被膜もまた、好ましい性質を有することが示されている。例えば、低弾性率の材料に高硬度の材料を続けて用いた積層膜(例えば、タングステンカーバイド/炭素)では、耐摩耗性が向上することが示されている。また、「ナノ複合材料」も使用できる。ナノ複合材料は、積層ではなく材料を混合して、極めて硬い材料(例えば、TiN)のナノサイズの結晶が非晶質DLC基質中に埋め込まれるようにすることで形成される。ナノ複合材料は、特許文献1に記載されているようなC−H基質及び分離した金属−金属基質などの、2つ以上の異なる非晶質基質を含むこともできる。先行技術においては、高品質の膜は、PECVD法単独では得られておらず、PVD法又はPVD法とPECVD法との併用によって得られている。
先行技術によるDLC膜の形成については、参照により本願に取り入れられる非特許文献1に詳細に記載されている。DLC形成において一般に受け入れられているモデルは、「サブプランテーション」モデルと呼ばれるものである。
先行技術によるDLC系被膜のPECVDでは、イオン衝撃のエネルギーを用いてsp3結合が形成される。これを用いないと、ダイアモンドではなく黒鉛が形成される。sp3含有量を最大にするには、C+イオンのエネルギーとして約100eVが必要であることが分かっている。イオンエネルギーが著しく高いと、高sp2含有量の膜が形成される。イオンエネルギーが著しく低いと、先行技術の方法では高水素含有量のポリマが生じる。炭素イオンのエネルギーは、バイアス電圧、圧力、前駆体ガス及びプラズマ密度の相関的要素である。電子サイクロトロン共鳴などの高プラズマ密度の低圧(1e-3torr未満)PECVD法により、最大sp3含有量のPECVD膜が作製されており、最大で70%のsp3含有量が報告されている。しかし、これらの方法は低圧に限定されるので、堆積速度は極めて遅い(約1μm/hr)。
DLC被膜の堆積については、特許文献2に詳細な記述がある。この被膜についての記載には、接着層、傾斜層及びDLC保護膜の記載が含まれている。特許文献2により示された効果の1つに高堆積速度プロセスがあり、堆積速度は好ましくは10-3〜10-2mbar(0.75〜7.5mTorr)の圧力で1〜4μm/hrの範囲となっている。特許文献2により示された例では、最大硬度は2,500HKである。これに対し、本発明では、高硬度及び動作圧力が高い状態で、極めて高い堆積速度が達成されている。先行技術(特許文献2)と本発明とのプロセス条件の比較を以下に示す。
Figure 2010531932
上記は本発明の方法の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、上記よりいくらか堆積速度を下げてより高い硬度を得るようにしたり、硬度を下げて高い堆積速度を得るようにしたりして、本方法を最適化できる。
高圧(10mTorr超)のPECVD法は、高堆積速度という利点を有しているが、先行技術の方法では、無衝突プラズマシースが無いために高sp3含有膜を作製することができない。つまり、イオンの平均自由行程がプラズマシース幅より短いので、イオンのエネルギーが低い。更に、高圧での(フリー)ラジカル/イオン比が高くなるので、sp2を多く含んだ膜が生じる。ラジカルは反応性が高いがイオンのエネルギーを有さないため、イオンに対するラジカルの度合いが高いことは、DLCの性質に悪影響を及ぼす。高品質のDLC膜を形成するためには、イオン衝撃のエネルギーが重要であるので、膜堆積におけるかなりの部分が非イオン化(すなわちラジカル)束でなく、イオン束によるものであることが重要である。イオン/ラジカル比は、圧力の増加にしたがって減少するので、先行技術のsp3形成方法は低圧力に限定され、結果的に低圧力に伴う低い堆積速度に限定されていた。
前駆体分子の飽和度、すなわちsp3結合の増加に伴って、硬度が高くなるという傾向がある。この理由は、アセチレンなどの2つのpi結合を有する分子は、メタンなどのsp3結合を有する、すなわちpi結合を有さない分子に比べて反応性ラジカルを形成しやすいためである。このため、アセチレンに比べ、メタンにより作製される膜は硬度が高い。逆に、ラジカルの反応性は高いので、アセチレン系の被膜は、メタン系の被膜に比べて堆積速度が速くなる。
先行技術におけるほとんどの前駆体は、メタン、アセチレン及びベンゼンなどの炭化水素である。膜形成に使用される前駆体は、表面との衝突で分子が分解することによって炭素のエネルギーが変化する。このため、アセチレン(C22)から生じる炭素原子のエネルギーは、メタン(CH4)から生じる炭素原子のエネルギーの約半分である。したがって、大きい前駆体分子を用いる場合には、高sp3含有膜を作製するために高いバイアス電圧が必要とされる。また、大きい炭化水素前駆体の使用は、熱スパイクの増大などの悪影響を生じる。
先行技術のPECVD法では、DLCに取り込まれる炭化水素前駆体に含まれた水素に起因してかなりの量の水素がDLCに含まれていた。この水素は、被膜の硬さや温度安定性の低下などの悪影響を及ぼす。
CVD法に比べて、PECVDでは、エネルギーが熱ではなくプラズマから供給されるので、低温での被膜が可能である。このことは、基材が温度に敏感である場合に重要である。
プラズマ浸漬イオン注入及び堆積(PIIID)法は、複雑な形状の外面の被膜に有用であることが示されてきた。PIIIDは、加工物に負のバイアスを加えることで実施され、プラズマシースが共形であれば、この負のバイアスが正のイオンを加工物に引き寄せる。この場合も、加工物のイオン衝撃により接着性や膜密度などの膜性質を改善することができる。
先行技術のPECVDによるプラスチック材料上の炭素被覆O2バリア膜の形成においては、高sp3シード材料が用いられてきた。例えば、特許文献3では、アセチレンなどの標準的な炭化水素前駆体の濃度に比べて著しく低い濃度(10%未満)のダイアモンドイド前駆体が使用されている。ただし、この先行技術では、ダイアモンドイドの濃度が低いこと及びイオン衝撃のエネルギーを制御できないことから膜性質の調整能力が限られる。
アダマンタン系のダイアモンドイドは、縮合シクロヘキサンリングからなる炭化水素であり、このリングは、極めて安定な互いにかみ合うかご構造を形成する。低級ダイアモンドイドは、C4n+64n+12の化学式を有するものであり、式中nはかご構造の数である。参照により本願に取り入れられる非特許文献2には、これら材料についての詳細な説明がある。最初の3つの非置換ダイアモンドイドは、アダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタンである。
「ダイアモンドイド」という用語は、アダマンタン系の置換及び非置換ケージド化合物を指し、アダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラアマンタン、ペンタアマンタン、ヘキサアマンタン、ヘプタアマンタン、オクタアマンタン、ノナアマンタン、デカアマンタン、ウンデカアマンタン等を含み、さらにそれらの全ての異性体及び立体異性体を含む。これらの化合物は、「ダイアモンドイド」トポロジーを有する。つまり、それらの炭素原子の配置は、FCCダイアモンド格子のフラグメントに重ね合わせることができる。置換ダイアモンドイドは、1〜10個、好ましくは1〜4個の独立して選択されたアルキル置換基を含む。ダイアモンドイドには、本明細書で定義される「低級ダイアモンドイド」及び「高級ダイアモンドイド」、並びに低級ダイアモンドイド及び高級ダイアモンドイドのあらゆる組み合わせの混合物が含まれる。
「低級ダイアモンドイド」という用語は、アダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタン、並びにアダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタンのいずれか及び/又は全ての非置換誘導体及び置換誘導体を指す。これらの非置換低級ダイアモンドイド成分は、異性体やキラリティを示さず、かつ合成が容易であることで「高級ダイアモンドイド」と区別される。
「高級ダイアモンドイド」という用語は、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換テトラアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ペンタアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ヘキサアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ヘプタアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換オクタマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ノナアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換デカアマンタン成分、いずれか及び/又は全ての置換及び非置換ウンデカアマンタン成分、並びに前記の成分の混合物、及びテトラアマンタン、ペンタアマンタン、ヘキサアマンタン、ヘプタアマンタン、オクタアマンタン、ノナアマンタン、デカアマンタン及びウンデカアマンタンの異性体及び立体異性体を指す。
アダマンタンの化学的性質については、非特許文献3に詳しく述べられている。アダマンタンは、ダイアモンドイド系の最小メンバーであり、1つのかご結晶のサブユニットと考えることができる。ジアマンタンは、2つのサブユニットを含み、トリアマンタンは3つ、テトラアマンタンは4つなどである。アダマンタン、ジアマンタン及びトリアマンタンには、1個の異性体のみが存在するが、テトラアマンタンには、4つの異なる異性体が存在する(その中の2つは鏡像異性体対を表す)。すなわち、4つのアダマンタンサブユニットを配列する4つの異なる方法がある。可能な異性体の数は、ペンタアマンタン、ヘキサアマンタン、ヘプタアマンタン、オクタアマンタン、ノナアマンタン、デカアマンタン等のダイアモンドイド系の高級メンバーになるにつれて、非線形的に増加する。
アダマンタンは市販されており、幅広く研究が行われてきた。研究は、熱力学的安定性、機能化、及びアダマンタン含有材料の性質などの複数の分野を対象にして行われてきた。例えば、次の特許文献が、アダマンタンサブユニットを含む材料について説明している。特許文献4は、アルキニルアダマンタンからのポリマの調製を示し、特許文献5は、アルキルアダマンタンジアミンから作製されるポリアミドのポリマ形を示し、特許文献6は、アダマンタン誘導体からの熱的に安定な樹脂の形成について説明し、特許文献7は、種々のアダマンタン誘導体の合成及び重合について報告している。また、従来型ポリマに低級ダイアモンドイド成分を用いることで、優れた熱的安定性及び機械的性質が付与されることが知られている。
米国特許第7,786,068号明細書 米国特許第6,740,393号明細書 欧州特許第0763144B1号明細書 米国特許第3,457,318号明細書 米国特許第3,832,332号明細書 米国特許第5,017,734号明細書 米国特許第6,235,851号明細書
J. Robertson 「ダイアモンド−ライク・アモルファス・カーボン(Diamond-Like amorphous carbon)」、Materials Science and Engineering R37(2002) pp129-281 Dahl, Liu & Carlson 「アイソレーション・アンド・ストラクチャ・オブ・ハイヤ・ダイアモンドイズ、ナノメーターサイズド・ダイアモンド・モレキュールズ(Isolation and Structure of Higher Diamondoids, Nanometer-Sized Diamond Molecules)」、Science, Jan. 2003, Vol. 299 Fort et al. 「アダマンタン:コンシカンスズ・オブ・ザ・ダイアモンドイド・ストラクチャ(Adamantane: Consequences of the Diamondoid Structure)」、Chem. Rev. vol. 64, pp. 277-300(1964)
ここに述べる本発明は、PECVD法に関するものである。ただし、PVD法にも適用可能である。
本発明に係る方法により、外面にPECVD法によって堆積される高sp3含有非晶質炭素被膜の形成が可能になる。この被膜は、望ましいトライボロジー的及び機械的性質を備えており、かつ化学的及び腐食の面で不活性である。圧力、ダイアモンドイド前駆体の種類、及びバイアス電圧を制御することによって、この新規方法は、密な炭素クラスタ内にsp3結合を保持する表面の前駆体をもたらし、高圧下で高sp3含有膜を生成する。これにより、ダイアモンドイド前駆体を用いない場合に比べて、速い堆積速度が得られる。
本発明の一態様によれば、プラズマ化学気相成長法によってダイアモンド状炭素被膜を形成する方法が提供される。この方法は、処理される表面近傍に減圧された気圧を作り出すステップ、前記表面にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、第1の電極及び第2の電極間にバイアス電圧を確立するステップ、及び前記表面近傍にプラズマ領域を形成するステップを含み、前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含有し、前記気圧及びバイアス電圧は、20mTorr及び600Vより大きく、それによって4μm/hrより速い高堆積速度を保持しながら前記表面上にダイアモンド状炭素が堆積される。
本発明の別の態様によれば、プラズマ化学気相成長法によってダイアモンド状炭素被膜を形成する方法が提供される。この方法は、処理される表面近傍に減圧された気圧を作り出すステップ、前記表面にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、第1の電源を用いて陽極及び陰極間にバイアス電圧を確立するステップ、及び第2の電源を用いて前記表面近傍にプラズマ領域を形成するステップを含み、前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含有し、前記圧力及びバイアス電圧は、それぞれ前記表面上にダイアモンド状炭素が堆積されるようにして選択される。この方法においても、前述の圧力及びバイアス電圧が使用できる。
上記の各方法には、以下のステップ又は材料を1つ以上付加できる。例えば、前駆体は、アダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン及び1,3ジメチル−アダマンタン、並びにそれらの組み合わせからなるグループから選択でき、1,3ジメチル−アダマンタンをアルキル化してもよい。アダマンタンは、他の反応性ガス中に10%〜100%の割合で存在させることができ、作業気圧は、20mTorr〜200mTorrの範囲で選択でき、バイアス電圧は、600V〜3000Vの範囲で選択できる。場合によっては、ダイアモンドイド前駆体と併せてC22又はC48などの炭化水素を導入するステップを含むことが望ましい。さらに、本方法は、テトラキスジメチルアミノ−チタン(TDMAT)などの金属を前駆体に添加するステップを含むことができる。また、本方法は、他の反応性ガスにおけるダイアモンドイド含有の有無にかかわらず、他の反応性ガスを用いることなく、ダイアモンドイドを積層して複合材被膜を形成するステップを含むことができ、またN2、シリコン、ゲルマニウム、又はTDMATを含む金属含有MOCVD前駆体、並びにそれらの組み合わせからなるグループから選択されるドーパントを、前記ダイアモンドイド前駆体に添加するステップを含むことができる。好ましい構成では、前記第1及び第2の電源の両方が、前記表面に電気的に接触した前記第1の電極に電気的に接触しており、前記第1、第2の電源は、個別の戻り電極を有している。さらに、好ましくは、前記第1の電源は直流パルス電源であり、前記第2の電源は高周波電源である。
ここに述べる方法により形成される複合材は、新規なものと考えられる。本方法により形成される膜及び/又は被膜もまた、新規なものと考えられる。
本発明の実施形態である、DLC膜を堆積するPECVDシステムを示す図である。 本発明の実施形態で使用されるDLIシステムの詳細図である。 最適化された動作サイクルにおける制御パラメータの線図である。 外面被膜プロセスに適用された場合の、種々のプロセスパラメータ及び種々の加工ガス混合物中のダイアモンドイド濃度における延性及び硬度の向上を示す試験データの表である。 内面被膜プロセスで実施された試験から得られたC22中のDMA濃度の関数としての硬度のグラフである。 内面被膜プロセスに適用された場合の、種々のプロセスパラメータ及び種々の加工ガス混合物中のDMA濃度における被膜性質の向上を示す試験データの表である。 DMDを用いて形成された被膜の性質を示す試験データの表である。 ダイアモンドイドの割合を変化させた種々の試験条件に対する試験データの表である。 図8のデータに関連した堆積速度のグラフである。 本発明に従って作製された被膜の摩耗特性を、先行技術の方法と比較して示す図である。 本発明に従って作製された被膜の摩耗特性を、先行技術の方法と比較して示す図である。
図1を参照すると、加工物409が真空チャンバー401内に置かれ、バイアス系300、ガス導入系500、及びポンプ系600に接続されている。バイアス系は、加工物に負のバイアスを加える電源からなる。この負のバイアスを用いて、(a)加工物近傍のプラズマ強度を増大し、(b)被膜される表面にイオン化された反応性ガスを引き寄せ、(c)膜のイオン衝撃で密度や応力レベルなどの膜性質を向上させる。好ましい実施形態では、直流パルス電源300は、負のバイアスを供給する。これにより、デューティサイクルが調整されて加熱を制御し得るので、膜の均一性を制御することができる。また、これにより、デューティサイクルのオフ部分の間に、原料ガスを補充し、DLCなどの絶縁膜表面のアーク発生の原因となり得る、被膜工程で生じた表面での正の電荷蓄積を消散することができる。さらに、電荷の消散を促進するために、非対称の双極性パルスを用いて微小な短い正パルスを印加して、電子を引き寄せて正の電荷を消散させる。第2の電源は、この場合高周波電源310であるが、これを用いてチャンバー内にプラズマを発生させると共にチャンバー内のプラズマ密度を高める。これは重要な特徴であり、これによりチャンバー内のプラズマに大きな影響を与えることなく、加工物のバイアス電圧を独立して制御することができる。本発明のさらなる実施形態では、第2の電源は、イオン源又は誘導コイルである。ここで、加工物409は、それ自体が陰極として機能するか、又は陰極に接続されている。一方、チャンバー壁又は分離した複数の電極が陽極310として機能して、パルス直流電源のプラス側に接続されている。加工物の上方の電極350が、チャンバー壁である戻り電極を備えた高周波電源に接続されている。好ましい構成では、前記第1及び第2の電源は、共に前記第1の電極に電気的に接触し、第1の電極は、前記表面に電気的に接触し、前記第1及び第2の電源は、個別に複数の戻り電極を備えている。さらに、好ましくは、前記第1の電源は直流パルス電源であり、前記第2の電源は高周波電源である。この構成により、有用な直流パルスの頂部への高周波電圧の印加が可能になる。
望ましくはオプション工程として、加工物をスパッタ洗浄し、接着促進層を次のとおり堆積する。チャンバーを真空源及びガス源に接続する。チャンバー内をポンプで低圧の基底圧にして、揮発性の有機物を除去する。アルゴンをチャンバー内に導入し、絞り弁405を用いて圧力を数mTorrまで高める。陽極及び陰極の間に負の電圧バイアスが印加されると、チャンバー内にアルゴンプラズマが発生する。この負バイアスが、加工物のイオン衝撃及びスパッタ洗浄をもたらす。このアルゴン洗浄後にシリコン含有接着層が堆積され、それにより加工物に、この場合は鋼基材であるが、強力な鉄−シリサイド結合が形成され、非晶質炭素被膜の堆積時にSiC結合が非晶質炭素被膜に形成される。金属基材がシリコンと強固な結合を形成しない場合は、シリコン以外の前駆体を接着層に用いることが望ましい。形成される結合の強度は、化合物の形成における負熱によって表され、負数が大きい程、熱力学的に容易に化学結合が生じる。
接着層の堆積後、ダイアモンドイド系非晶質炭素膜を形成する。この膜形成は、ダイアモンドイド前駆体蒸気をチャンバー内に注入することにより行われる。好ましいダイアモンドイド前駆体は、真空チャンバーに送り込まれる蒸気圧が十分に高い標準状態では液状である。これは、精製されたアルキル化ダイアモンドイド及びアルキル化ダイアモンドイドの混合物などであり、アルキル化アダマンタン、アルキル化ジアマンタン、アルキル化トリアマンタン、及びその他のアダマンタン系などが含まれる。また、好ましいダイアモンドイド前駆体には、1つ以上のアルキル基を含むジアマンタンの異性体の液体混合物も含まれる。
アダマンタンのイオン化電位(IP)については、NISTデータベース(米国基準・科学技術協会、NIST Chemistry webbook, http://webbook.nist.gov/chemistry/)において9.25eVと報告されている。他の種類のダイアモンドイドは、「エレクトロニク・アンド・バイブレーショナル・プロパーティズ・オブ・ダイアモンドライク・ハイドロカーボンズ(Electronic and Vibrational Properties of Diamond-like Hydrocarbons)」 Physical Review B 72, 035447 (2005)において、Lu等によって計算され、2〜10のかご構造を含むダイアモンドイドで7〜9eVの範囲という、類似のIPを示している。未置換のダイアモンドイドは、本発明のプラズマ堆積室内において、容易にイオン化してカチオン及びラヂカルカチオンになる。ダイアモンドイドカチオンは非常に安定で、負にバイアスされた加工物表面に向かって加速されている間もそのままの状態を保つことができる。ダイアモンドイドカチオンの安定性については、Waltman及びLingによって「マス・スペクトロメトリ・オブ・ジアマンタン・アンド・サム・アダマンタン・デリバティブズ(Mass Spectrometry of Diamantane and Some Adamantane Derivatives)」Canadian Journal of Chemistry, Volume 58, pp2189-2195 (1980)で示された、質量スペクトル測定において見られる非常に強い正に帯電した分子イオンによって証明されている。Polfer, Sartakov及びOomensは、「ザ・インフラレッド・スペクトラム・オブ・ザ・アダマンチル・カチオン(The Infrared Spectrum of the Adamantyl Cation) Chemical Physics Letters, Volume 400, pp201-205 (2004)において、ダイアモンドイドカチオン及びダイアモンドイドラジカルカチオンが真空中で数百ミリ秒間残存することができることを示した。アルキル化ダイアモンドイドから生じたカチオンは、主にラジカルカチオンであることが質量分析から分かっている。ラジカルダイアモンドイドカチオンは、中性種であるアルキル基が無くなることにより形成され、その電荷は元のダイアモンドイドかご構造によって保持される。ラジカルダイアモンドイドカチオンは、ダイアモンドイドカチオンより少ない1つの水素原子を持ち、それが水素含有量の少ない被膜を形成する。また、ラジカルダイアモンドイドカチオン同士は、ダイアモンドイドカチオン同士に比べて表面で容易に架橋する。
ダイアモンドイドカチオン又はラジカルダイアモンドイドカチオンが過度な速度で加工物に向けて加速されると、かご構造の分解が起こり得る。しかし、本発明では、一定範囲のバイアス電圧及び圧力を用いてカチオンのエネルギーを調整し、そのような分解を極力少なく(又は多く)することができる。
好適なダイアモンドイド前駆体は、1,3ジメチルアダマンタンである。精製されたアダマンタンは固体であるが、アダマンタンの置換体は、室温条件で液体となっている。1,3ジメチルアダマンタンは、10mTorr〜1Torrのプロセス圧力の範囲で高いsp3含有量、均一な膜性質、低水素含有量、及び高速の堆積速度を示すことが分かっている。この液体は、バブリング又は直接液体注入(DLI)のいずれかの公知の方法によって加工物に供給される。図2には、好ましい方式としてDLIシステム(404の詳細な模式図)が示されている。圧力容器(52)からの計測された少量の液体(例えば、0.5cm3/min)が、液体流量調整器54から蒸発室56内に注入される。加熱コイル60により、この溶液を100mTorrにおける1,3ジメチルアダマンタン溶液の沸点を超える温度(例えば、100℃)まで加熱する。N2又はアルゴン58などのキャリアガスも導入される。蒸発器とパイプとの間の全てのダイアモンドイド前駆体供給ラインや他の部品も、濃縮を防ぐために加熱されなければならない。
多くのダイアモンドイドの形態は標準状態では固体であるが、これらは該固体を加熱して十分な量の蒸気を昇華により発生させることで送り出すことが可能である。この場合、送り出し圧力を高めるために、キャリアガスを用いることができる。また、下流の配送管は全て加熱されるべきである。
この新規な改良方法は、圧力、ダイアモンドイド前駆体の大きさ及びバイアス電圧の組み合わせを用いてイオン衝撃エネルギーを抑え、ダイアモンドイド前駆体が基材との衝突で完全には分解せず、部分的に元のsp3結合を残すようにすることを含む。結合が部分的に元のまま残るためには、炭素原子1個当たりのイオンエネルギーを低い値に抑制する必要がある(100mTorrで400eV未満)。本発明では、プラズマ又はイオンの発生と加工物のバイアスとが、それぞれ別の電源によって制御される。ただし、加工物との高周波容量結合により誘起される自己発生バイアスが考慮されている。本発明の好ましい実施形態では、システムはかなりの低圧(150mTorr未満)で作動し、プラズマシースを突き抜けてのイオン衝突がほとんどもしくは全く起こらず、そのため基材のバイアスが、直接イオン衝撃エネルギーを設定するのに用いられることができる。基材バイアスを低く設定すると(400eV未満)、ダイアモンドイド前駆体は、表面との衝突で完全には分解されず、結び付いて高sp3含有膜を形成する。この方法を用いてイオンエネルギーを低く維持すると、光学的に透明で、高屈折率な水素含有量の低いsp3結合ポリマが得られた。この方法を用いてイオンエネルギーを中程度に維持すると、水素含有量が低くてsp3含有量の多い硬質DLC膜が得られた。第2の非バイアス電源を用いることにより(高周波プラズマ、イオン源又は誘導コイルにより)、チャンバー内のイオン密度を高い状態に維持することができることに注意しなければならない。これにより複数の効果が得られる。すなわち、薄いプラズマシースが保たれ、それによりイオン衝突が減少してイオンエネルギーが制御される。高堆積速度が保たれると共に、薄いシースにより複雑な形状に共形的な被膜を形成することができる。
さらに、(プラズマシースを突き抜けてのイオン衝突をもたらす)システムの圧力の増加、又は前駆体分子の大きさ(より具体的には分子量)を大きくすることにより、炭素原子1個当たりのイオンエネルギーを小さくすることができる。例えば、1,3ジメチルアダマンタンを前駆体に用い、プロセス圧力を十分高く(100mTorr超)設定してプラズマシースを突き抜けてのイオン衝突が生じるようにすると、基材との衝突によりイオンエネルギーは印加バイアス電圧よりも著しく低下する。また、この方法を用いてイオンエネルギーを制御し、sp3含有量及び膜性質を変化させることができる。また、高圧力を用いることで、堆積速度の増加という付加的な効果が得られる。さらに、ダイアモンドイドの分子量を用いて、炭素原子1個当たりのイオンエネルギーを小さくすることができる。例えば、アダマンタン(C1016)の代りにジアマンタン(C1420)を用いることができる。これらのイオンエネルギー制御技術は、ダイアモンドイド前駆体を用いない場合に比べて、sp3含有量の多い膜を形成することができる。また、1分子当たりに極めて多数の炭素原子が存在することから、sp3含有量の多い膜を作製しながらも、アセチレンなどの小さい炭化水素に比べて著しく高い堆積速度が可能になる。
ジメチルダイヤマンチン(ジメチルジアマンタンに次ぐ二番目に大きいダイアモンドイド)やジメチルトリアマンタン(ジメチルダイヤマンチンの次に大きい)などの大型ダイアモンドイド分子を使用する利点には、次のようなものがある。1)イオン1個当たりの炭素分子数が多いことに基づく継続的な堆積速度の増加、すなわち加工物に供給される電流の各アンペアに対して、より多数のsp3炭素原子が供給される。2)より高い炭素/水素比が得られる。3)高sp3含有の透明ポリマ被膜を形成するには低バイアスが要求されることを含め、イオン1個当たりの炭素エネルギーが、被膜性質が制御され得るようにして、前駆体分子の大きさに基づいて制御される。これは、ダイアモンドイド分子が大きくなるに従って、一定のバイアス電圧において炭素原子1個当たりのエネルギーが減少することによる。4)膜形成時に前駆体分子が結合する際に生じるsp2結合に比べ、前駆体により多数のsp3炭素原子が供給されることから、より高い被膜内に含まれるsp3炭素原子の比率が得られる。
デューティサイクルを用いて加工物の加熱を制御することができる。また、デューティサイクルを微小な短期間の正のバイアスと共に用いて、加工物から正電荷を消散させることができる。
本方法の更なる効果として、前述のようにバイアス電圧、圧力又はダイアモンドイド前駆体を変化させることによって、新規な層状の複合材料を形成することができる。より軟質かつ丈夫なsp3ポリマの層と硬質DLCの層とを備えた材料が考えられ、これにより組み合わされる層の望ましい性質を合わせ持つ複合材が形成される。
本方法の更なる効果として、先行技術のDLC膜は、低湿度環境でCOF及び摩耗速度が増すことが知られている。ダイアモンドイド系DLCは、低湿度を含む全ての湿度レベルにおいて常に低いCOF及び摩耗速度が得られる(図10及び11参照)。
本発明の他の実施形態では、炭化水素をダイアモンドイド前駆体に添加して被膜中のダイアモンドイドフラグメント間の結合を促進する。アセチレンなどの分解されやすい低水素含有炭化水素が使用される。ダイアモンドイド前駆体に添加される炭化水素の濃度は、通常全反応性ガスの75mol%を超えないようにされる。この種の炭化水素の添加は、機械的及びトライボロジー的性質が向上した膜を作製できると共に、より厚い膜の堆積を可能にする。
本発明の別の実施形態では、水素及び炭素以外の元素を含有する分子状前駆体をダイアモンドイドに添加して、機械的及びトライボロジー的性質を向上させる。性質が向上された膜の形成に加えて、これらの材料を用いて膜の電気抵抗を下げてより厚い膜を作製することができる。例えば、直流パルスバイアスを用いる場合、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(TDMAT)などの金属含有前駆体を添加して導電性を高め、より厚い膜を作製することができる。
さらに、スパッタ又は蒸着により金属層を付加してもよい。ダイアモンドイド前駆体と併用可能な他の材料には、窒素、シリコン、又はTDMATなどの有機金属化学的気相成長法(MOCVD)の前駆体がある。PVD源がプロセスに追加されて、ダイアモンドイド前駆体の存在下で(又は金属とDLCとの交互の層として)金属をスパッタ又は蒸着し、金属接着層の接着性の向上又は延性及び靭性の向上など、性質を向上させることができる。機械的及びトライボロジー的性質や耐食性を向上させた種々の複合膜の形成に加えて、これらドーパントを用いて膜の電気抵抗を下げることで、より厚い膜を作製することができる。
図3に最適化された処理サイクルでの制御及び制御パラメータの変化をグラフで示す。特に他のパラメータに対する最適化が所望される場合は、この構成の種々の変更が考えられる。図3から、初期加熱ステップAは、温度を約300℃に上げる部材に応じた適当な期間に、約1700Vの電圧、50%のデューティサイクル及び約1mTorrの低圧力を用いて実施される。
任意の洗浄ステップBは、電圧設定を1000Vに下げ、流量約500sccmのアルゴン中及び約10Wの高周波電力で、他の制御パラメータは変えずに5分間行われる。
次のステップ(ステップC)は、接着層の付与からなる。これは、電圧を例えば1700Vに上げ、圧力を例えば150mTorrに上げ、約250sccmのシラン(Si4)又は他の適当なガスを供給流中に導入し、そしてデューティサイクルを例えば5%に下げることを要する。これにより、概ね良好に結合した軟質の層が堆積され、その上に次の層が容易に結合される。
ステップDで混合層を取り込み、被膜の性質が高接着性から高硬度に変化する。これは、例えば、電圧を1700Vから600Vに緩やかに下げ、デューティサイクルを40%に上げ、ダイアモンドイドの濃度を約20sccmのアルゴン雰囲気中で0.050sccmまで緩やかに増加させ、シラン(Si4)濃度を緩やかに下げることで行われる。
ステップEでバルク堆積が行われる。これは、所望の厚さのsp3を多く含んだ被膜の堆積のために必要とされる時間、継続される。以下に述べるように、必要に応じて圧力、電力及びバイアス電圧を変化させ又は制御して、所望の性質を備えた被膜を作製する。バルク堆積ステップEの終了近くで、最終層の形成に備えてバイアス電圧Vを上げることが望ましい。このステップでは、純粋なDLCを形成するためにシランは止められる。
ステップFで最終のキャップ層が付与され、デューティサイクルが5%に戻される。これらの組み合わせにより、温度が下がると共に最終層が滑らかになる。このステップではシランは止められる。
当然ながら、バルク堆積ステップEの間に圧力、電力、ダイアモンドイド%、及びアルゴン流量などの制御パラメータの比を変化させて、所望のように最終の性質を変えることができる。図4は、上記制御パラメータを変化させると硬さ、厚さ、堆積速度、ひっかき抵抗性及び接着性がどのように変化するかを詳細に示す。この図から、A、B、C及びDの記号を付した試料により明確な比較がなされる。試料Aでは、23.6Gpaという高硬度の表面と7.05μm/hrという高い堆積速度が得られる。ここでは、圧力は200mTorrであり、電力は10Wに設定され、1000Vのバイアス電圧であり、200sccmのアルゴンの流量中での0.05ccmのダイアモンドイドの流量を用いた。試料Aは、前述の特許文献2(Massler)の試料よりも優れた性質を有している。試料Bでは、優れた延性と11.3Gpaという低めだが受容し得る硬さを備えた表面が得られるが、堆積速度は3μm/hrと遅い。ただし、ひっかき抵抗性は14.8Nと特に優れており、必要なバイアス電圧はわずか600Vである。試料Cでは、17.5Gpaという高硬度の表面及び2.55μm/hrという受容し得る堆積速度が得られているが、これを達成するためにはわずか50mTorrという低圧での操作になる。試料Dは、7.7Gpaという硬度で、13.5μm/hrという極めて高い堆積速度である。図4はさらに、試料Dとして、200mTorrの圧力及び2000V(10%DC)のバイアス電圧における試料の性能データを示している。バイアス電圧1700V及び圧力100mTorrでのアルゴン中シランの接着層を基礎に、DMA流量は0.05ccm、アルゴン流量は175であり、混合層を用いないで10分間という条件であった。試験では最終的に、31.1Gpaの硬度と4.6μm/hrの堆積速度が得られた。これらは非常に優れた結果であり、特に外面被膜プロセスにおけるバイアス電圧の上昇による効果を表している。図4はまた、試料Eとして、プラズマのイオン化度を高めるためにマグネットを用い、バイアス電圧1000V、DMA流量0.05ccm及びアルゴン流量175sccmでの20mTorrのプロセスについて試料の性能を示している。これにより、堆積速度は3μm/hrとやや低いが、35Gpaという最高硬度の被膜が形成された。図4はまた、試料Eとして、プラズマのイオン化度を高めるためにマグネットを用い、バイアス電圧1500V、DMA流量0.05ccm及びアルゴン流量200sccmでの20mのTorrのプロセスについて試料の性能を示している。これにより、堆積速度は3μm/hrとやや低いが35Gpaという最高硬度の被膜が形成され、このような工程におけるマグネットの使用の効果が確認された。
図5は、C22中のDMA濃度の関数として、硬度と該DMA濃度との間に成立する関係を示す。この図から、硬度はDMA濃度0〜11%の範囲で急速に増加し、DMA濃度11%〜100%の範囲でも引き続き堅実に増加することが分かる。本発明で利用されるのは、この特性である。図6に、図5のグラフを描いたデータを示す。
図6を参照すると、この図に示した被膜性質は、中空陰極効果を用いた内面被膜プロセスにおいて、アルゴンをキャリアガスとしたDMAを使用して得られたものである。試料Fは、全反応性ガスとして100%C22を使用し、C22流量24sccmで行ったものであり、20.9GPaの硬度及び12.9μm/hrの堆積速度をもたらした。これを100%DMAを用いた試料Gと比較すると、試料Gでは21.5μm/hrという遥かに速い堆積速度で24.2GPaの硬度が得られた。したがって、アダマンタンの添加によって、遥かに速い堆積速度(67%高速)で20%硬い膜が得られたことが分かる。
図7は、DMD被膜プロセスにおけるデータを示す。この図から、DMDプロセスでは、図6の1行に示した同一条件でのアダマンタンプロセスに比べて、堆積速度が増し(約32%高速)、硬度が低下していることが分かる。この硬度の低下は、分子サイズの増大に基づく炭素原子1個当たりのイオンエネルギーの低下によるものであり、DMDプロセスにおいてバイアス電圧が上げられれば、DMA前駆体と同等の硬度が得られる。
図8は、一定の圧力及びバイアス電圧の条件で、キャリアガスでのダイアモンドイド比の増加に伴う効果を立証するために行われた試験でのデータを示す。図8のデータを図9にグラフで示す。図9から、ダイアモンドイド比が増えるにつれて、堆積速度が顕著に高まることが分かる。さらに、ダイアモンドイドがゼロから15パーセントの範囲における初期の堆積速度の上昇及び降下は、20%より多くなると止まり、約80%で最大に達した後顕著に降下し、その後最後に6μm/hrまで上昇することが認められる。ダイアモンドイド100%ではなく、単に80%を選択する方が若干効果的と言える。
図10及び11は、先行技術の前駆体及び本発明の前駆体を用いて作製された被膜の摩耗特性を示す。図から、ダイアモンドイド被膜は、乾燥窒素又は低湿度環境の中において、他のDLC膜に比べて安定した摩耗性及び低いCOFを示すことが分かる。
以上のプロセスにおいて、例えばジメチルジアマンタンなどの高ダイアモンドイド構造を有する他の前駆体材料を用いてもよいことは、当業者にとって明らかである。そのような状況下では、当然ながら1000〜3000Vの更なる高バイアス電圧が使用される。また、金属を前駆体に添加して延性やじん性を付与すると共に、導電性を高めて膜厚の増加を可能にすることも、当業者にとって明らかである。このような工程もまた、本発明での効果のために使用可能である。金属としては、例えばテトラキスジメチルアミノ−チタン(TDMAT)である。さらに、周知のC22又はC48の形態の炭化水素の導入が、本発明においても使用できる。また、本発明の方法の工程は、他の反応性ガスにおけるダイアモンドイド含有の有無にかかわらず、他の反応性ガスを用いることなく、ダイアモンドイドを積層して複合材被膜を形成するステップを含むことができる。この複合材被膜が、優れた性質を有する硬質及び軟質材料を幾度も積層することにより、各材料単独よりも向上された延性、硬度及びじん性をもたらすことは、当業者にとって明らかである。さらに、前記ダイアモンドイド前駆体へドーパントを添加することも望ましく、適当なドーパントの例としては、N2、H2、Si、金属類、ゲルマニウム、又はTDMATなどの金属含有MOCVD前駆体である。場合によっては、前駆体をアルキル化してもよい。DLC系の複合被膜もまた、好ましい性質を有することが示されてきた。例えば、WC/Cなどの低弾性率の材料に高硬度の材料を続けて用いた積層膜では、耐摩耗性が向上することが示されている。同様に、いわゆる「ナノ複合材料」を用いることもできる。ナノ複合材料は、積層ではなく材料を混合して、極めて硬い材料(例えば、TiN)のナノサイズの結晶が非晶質DLC基質中に埋め込まれるようにすることで形成される。ナノ複合材料は、特許文献1に記載されているようなC−H基質及び分離した金属−金属基質などの、二つ以上の異なる非晶質基質を含むこともできる。先行技術においては、純粋なPECVD法でこの種の膜を作製した場合は良好な結果が得られておらず、PVD法単独又はPVD法とPECVD法との併用によって良好な結果が得られている。また、当然ながら、バイアス電圧を高めることによって被膜の質がさらに改善され、最大で3000Vまでのバイアス電圧を使用することができる。

Claims (21)

  1. プラズマ化学気相成長法によってダイアモンド状炭素被膜を形成する方法であって、該方法が、
    (a)処理される表面近傍に減圧された気圧を作り出すステップ、
    (b)前記表面にダイアモンドイド前駆体ガスを導入するステップ、
    (c)電源を用いて第1の電極及び第2の電極間にバイアス電圧を確立するステップ、
    (d)前記表面近傍にプラズマ領域を形成するステップを含み、
    前記ダイアモンドイド前駆体ガスは、アダマンタン系のダイアモンドイドを含み、前記気圧及び前記バイアス電圧は、前記表面上にダイアモンド状炭素の堆積が行われるように選択されることを特徴とする方法。
  2. 前記気圧及び前記バイアス電圧は、それぞれ20mTorr、600Vより大きいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記圧力は20mTorr〜200mTorrであり、前記バイアス電圧は600V〜3000Vであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  4. 前記ダイアモンドイド前駆体は、アダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン及びそれらの組み合わせからなるグループから選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記ダイアモンドイド前駆体は、アルキル化されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記ダイアモンドイド前駆体は、1,3ジメチル−アダマンタンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記アダマンタンは、他の反応性ガス中に10%〜100%の割合で存在することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
  8. マグネットが、高堆積速度に伴うイオン化を促進し、20mTorr〜50mTorrの低圧動作を可能にするために使用されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
  9. さらに前記ダイアモンドイド前駆体と併せて炭化水素を導入するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  10. 前記炭化水素は、C22又はC48の形態であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  11. さらに金属を前記ダイアモンドイド前駆体に添加するステップを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記金属は、テトラキスジメチルアミノ−チタン(TDMAT)であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
  13. さらに他の反応性ガスにおけるダイアモンドイド含有の有無にかかわらず、他の反応性ガスを用いずに、ダイアモンドイドを積層して複合材被膜を形成するステップを含むことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
  14. さらにドーパントを前記ダイアモンドイド前駆体に添加するステップを含むことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記ドーパントは、N2、シリコン、ゲルマニウム、TDMAT、その他の金属含有MOCVD前駆体、及びそれらの組み合わせからなるグループから選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
  16. 第2の電源によって前記表面近傍にプラズマを形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  17. 前記圧力及びバイアス電圧は、それぞれ20mTorr、50Vより大きく、堆積速度は4μm/hrより大きいことを特徴とする請求項16に記載の方法。
  18. 前記圧力が10mTorr〜200mTorr、前記バイアス電圧が50V〜500Vで高sp3含有ポリマを含む前記ダイアモンド状炭素被膜のサブセットを形成することを特徴とする請求項16に記載の方法。
  19. 前記電源及び前記第2の電源が共に前記第1の電極に電気的に接触し、前記第1の電極が前記表面に電気的に接触し、前記電源及び前記第2の電源は、個別の戻り電極を有することを特徴とする請求項16に記載の方法。
  20. 前記電源は直流パルス電源であり、前記第2の電源は高周波電源であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
  21. 請求項1から20のいずれか1項に記載の方法により被膜されることを特徴とする製品。
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