JP2010275267A - 歯のコーティング用キット - Google Patents

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Abstract

【課題】少なくともレジン歯表面へのコーティング処理に際して歯科医師や歯科技工士の作業時間の増大や、患者への肉体的負担を抑制すると共に、レジン歯に対する密着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有するコーティング層が形成できる歯のコーティング用キットを提供すること。
【解決手段】(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体および(b)ラジカル重合開始剤を含むプライマーと、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、を少なくとも含むことを特徴とする歯のコーティング用キット。
【選択図】なし

Description

本発明は、歯のコーティング用キットに関するものである。
う蝕等により歯に欠損を乗じた場合、近年では、審美性や成形性に優れる点から、硬化性樹脂を主成分とする歯科用セメント(重合性ペースト)を利用して歯の修復が行われることが多い。この場合、歯の欠損部に、重合性ペーストを盛り付けて所定の形に整えた後、硬化させることで、レジン製の歯(レジン歯)を形成する。このレジン歯の形成に用いられる重合性ペーストとしては、酸性基を含まない(メタ)アクリレート系重合性単量体などの酸性基を含有しないラジカル重合性単量体と、無機フィラーと、ラジカル重合性開始剤とを主成分とする組成物(たとえば、特許文献1参照)や、シランカップリング剤と、酸性基を含有するラジカル重合性単量体と、アルコールと、水とを含む組成物(たとえば、特許文献2)が提案されている。これら重合性ペーストの組成は、その目的やラジカルに応じて様々なものが提案されているが、実用性等も考慮した場合、実際の医療現場では、重合性単量体と、無機系のフィラーとを主成分としたものがよく利用されている。
また、う蝕等により歯に重大なダメージが生じない場合でも、歯にデンタルプラークが付着したり、たばこのヤニや飲食物などにより歯が変色する場合がある。それゆえ、これらも防止すべく、歯の表面をコーティング材でコートする予防的な歯科治療が行われることも多い。このようなコーティング材としては、たとえば、ケイ素化合物を含むものが知られている(たとえば、特許文献3参照)。
特開2009−013170号公報
特開2008−1624号公報
特開2001−220309号公報
一方、レジン歯は、金属やガラスセラミックを用いた人工歯や、表面が硬質なエナメル質で覆われた天然歯と比べて表面硬度の点で劣るため、表面が摩耗して傷つき易い。よって、このような摩耗を防止するためにはレジン歯を構成する材料自体をより硬質なものに改良するか、レジン歯の表面に硬質のコーティング層を設ける必要がある。レジン歯を構成する材料自体をより硬質なものにする方法としては、重合性ペースト中にケイ素化合物を添加し、レジン歯のマトリックス中にシロキサン結合を形成させることにより硬質化する方法が挙げられる。この方法では、レジン歯表面の硬度はある程度向上することが期待できる。しかし、ケイ素化合物を用いたとしても、レジン歯を構成する材料中の主成分が摩耗に弱い樹脂であることには変わりない。このため、レジン歯表面の耐摩耗性を抜本的に改善することは困難である。
これに対して、レジン歯の表面に硬質のコーティング層を施す方法では、メガネレンズのハードコートなどで用いられているような有機ケイ素化合物を用いたコーティング層をレジン歯表面に形成すれば、レジン歯表面の耐摩耗性を大幅に改善できることが期待される。ただし、コーティング層のレジン歯表面に対する密着性が低ければ、コーティング層が容易に剥離してしまう。このため、コーティング層の形成に際しては、コーティング層とレジン歯表面との密着性の確保も必要である。
ここで、固体表面に対する膜の密着性を向上させるためには、通常、固体表面に対して何がしかの表面処理を施してからコーティング層を形成することが有効である。そして、このような表面処理方法としては、固体表面の研磨処理のような機械的処理や、固体表面の酸処理やプライマー処理などのような化学的処理、UV光照射などのような物理的処理などから選択される処理方法の1種または2種以上の組み合わせを、固体表面の材質や形状、コーティング材の材質を考慮して適宜選択できる。しかしながら、レジン歯に対するコーティング処理を行う場合、口腔内でコーティング処理を行う必要がある。このため、コーティング処理は、人体に対する安全性が確保される必要があることに加え、狭い口腔内でも作業が容易なものでなければならない。したがって、密着性の向上に加えて、安全性、作業性も考慮すると、表面処理の選択肢は非常に限られてしまう。それゆえ、通常、効果的な表面処理の選択肢のひとつとして、レジン歯への表面研磨が実施されることが多い。
このような表面研磨を採用する理由は、重合性ペーストを単に硬化させただけのレジン歯の表面には、ラジカル重合性単量体が大気中の酸素と反応するなどにより未重合のまま残存する表面未重合層が存在するためである。そして、レジン歯が無機フィラーを含む場合は、表面研磨により、有機ケイ素化合物と親和性の高い無機フィラーが表面に露出するため、コーティング材の材質によってはより密着性を高めることができる。しかし、表面未重合層は、有機ケイ素化合物に対して高い親和性を有する無機フィラーと異なり、化学的に反応可能な結合サイトを表面に殆ど有さない。このため、表面研磨が実施されずに、表面未重合層が存在する場合、コーティング材の材質によっては、密着性が大幅に低下してしまう。特に、有機ケイ素化合物を利用したコーティング材は、無機フィラーに対する親和性は高いものの、表面未重合層に対する親和性は非常に低い。これらの事情を考慮すれば、たとえば、コーティング処理前のレジン歯表面の表面研磨処理は、表面未重合層を除去して無機フィラーを露出させることができるため、密着性向上には非常に有効な方法である。
しかしながら、レジン歯は、歯の欠損部に、重合性ペーストを欠損前と略同様の形状となるように盛り付けてから硬化させることにより形成される。このため、コーティング層を形成するために、レジン歯の表面研磨を行うと、欠損前の歯の形状に似せて形成されたレジン歯の形状が大なり小なり崩れてしまうことになる。そして、このような形状のズレは、場合によっては噛み合わせの悪化や、治療のやり直しを招く場合もある。また、表面研磨に起因する形状のズレを考慮して、欠損部に重合性ペーストを余分に盛り付けることも考えられる。しかし、この場合は、硬化処理した後に、研磨によりレジン歯の形状を整える必要がある。このため、歯科医師や歯科技工士にとっては、操作が煩雑となり、作業時間の増大を招く。特に歯科医師にとっては、狭くて作業が困難な口腔内での作業時間の増大を招き、患者にとっては、口を開いたままの姿勢を長時間維持する必要があるため、肉体的負担が増大する。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、少なくともレジン歯表面へのコーティング処理に際して歯科医師や歯科技工士の作業時間の増大や、患者への肉体的負担を抑制すると共に、レジン歯に対する密着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有するコーティング層が形成できる歯のコーティング用キットを提供することを課題とする。
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の歯のコーティング用キットは、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体および(b)ラジカル重合開始剤を含むプライマーと、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、を少なくとも含むことを特徴とする。
本発明の歯のコーティング用キットの一実施態様は、(i)有機ケイ素化合物が、前記反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、およびグリシドキシ基から選択される少なくとも1つの反応性有機官能基を含むことが好ましい。
本発明の歯のコーティング用キットの他の実施態様は、(a)ラジカル重合性単量体が、前記酸性基として、リン酸、ホスホン酸、および、カルボン酸から選択される少なくとも1つの酸性基を含むことが好ましい
本発明の歯のコーティング用キットの他の実施態様は、プライマーとコーティング材とを少なくとも含む本発明の歯のコーティング用キットを用いた歯の表面のコーティング処理が、歯の表面に上記プライマーを塗布して未硬化プライマー層を形成する未硬化プライマー層形成工程と、未硬化プライマー層上にコーティング材を塗布して未硬化コーティング層を形成する未硬化コーティング層形成工程と、光照射により未硬化プライマー層および未硬化コーティング層を硬化させる硬化工程とを含むものに適用され、歯の表面が、レジン歯の形成材料である重合性ペーストを硬化させた後に、最表面層を除去する処理を施していないレジン歯の表面を含むことが好ましい。
本発明の歯のコーティング用キットを使用した歯のコーティング処理方法は、ラジカル重合性単量体を少なくとも含む重合性ペーストを、歯の欠損部または歯列模型に盛り付けた後に硬化させることでレジン製の歯を形成するレジン歯形成工程と、少なくともレジン歯の表面にプライマーを塗布して未硬化プライマー層を形成する未硬化プライマー層形成工程と、未硬化プライマー層上にコーティング材を塗布して未硬化コーティング層を形成する未硬化コーティング層形成工程と、光照射により未硬化プライマー層および未硬化コーティング層を硬化させる硬化工程とを経て、少なくともレジン歯の表面にコーティング処理を施す際に、レジン歯の表面が、重合性ペーストを硬化させた後に、最表面層を除去する処理を施されていないことを特徴とする。
本発明によれば、少なくともレジン歯表面へのコーティング処理に際して歯科医師や歯科技工士の作業時間の増大や、患者への肉体的負担を抑制すると共に、レジン歯に対する密着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有するコーティング層が形成できる歯のコーティング用キットを提供することができる。
(歯のコーティング用キット)
本実施形態の歯のコーティング用キットは、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体および(b)ラジカル重合開始剤を含むプライマーと、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、を少なくとも含むことを特徴とする。
ここで、本実施形態の歯のコーティング用キットを用いて、歯の表面にコーティング処理する場合、コーティング処理は以下の手順で実施される。まず、歯の表面にプライマーを塗布して未硬化プライマー層を形成する(未硬化プライマー層形成工程)。次に、この未硬化プライマー層上にコーティング材を塗布して未硬化コーティング層を形成する(未硬化コーティング層形成工程)。次いで、光照射により、未硬化プライマー層および未硬化コーティング層を硬化させる(硬化工程)。これにより、歯の表面に硬化したプライマー層(以下、当該層が硬化した状態を単に「プライマー層」と略す場合がある)と、硬化したコーティング層(以下、当該層が硬化した状態を単に「コーティング層」と略す場合がある)とが、この順に積層され、コーティング処理が完了する。
硬化工程は、未硬化プライマー層形成工程後、および、未硬化コーティング層形成工程後に各々実施してもよく、両工程を終えた後に一括して実施してもよい。両工程を終えた後に硬化工程を一括して実施する方が、プライマー層側に含まれる酸性基とコーティング層側に含まれる反応性有機官能基との反応性が高くなり、コーティング層の接着強度がより高くなるため好適である。なお、未硬化プライマー層形成工程後にこの未硬化プライマー層を硬化させるのであれば、その硬化は上記光照射により遂行させるだけでなく、ラジカル重合開始剤として、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)を用いて実施してもよい。この場合この化学重合開始剤は、試薬を2包装以上に分割した形態で保存される。
上記によりコーティング処理されたレジン歯の最表面は、コーティング材の主成分である有機ケイ素化合物の重縮合によってマトリックス中にポリシロキサン結合が形成されたコーティング層で覆われる。それゆえ、コーティング処理された歯は優れた耐摩耗性を有する。
さらに、コーティング処理された歯の表面が、レジン歯部分の表面を含む場合、以下に説明するメリットがある。すなわち、この場合、コーティング層と、レジン歯表面との間には、プライマー層が存在する。そして、ラジカル重合性単量体を主成分とするプライマーを用いて形成されたプライマー層は、実質的に樹脂成分から形成される。これに対して、硬化後に最表面層を除去する何らかの処理が施されなかったレジン歯の表面は、実質的に樹脂成分のみから構成される表面未重合層で覆われている。すなわち、表面未重合層とプライマー層とは、いずれも実質的に樹脂成分から構成されるため、親和性が高い。よって、本実施形態の歯のコーティング用キットを用いて、レジン歯の形成材料である重合性ペーストを硬化させた後に、最表面層を除去する処理を施していないレジン歯表面にコーティング処理すれば、表面未重合層とプライマー層との間の密着性を十分に確保できる。
さらに、プライマー層の形成に用いたラジカル重合性単量体としては、少なくとも酸性基を含有するものが必ず用いられる。それゆえ、プライマー層のコーティング層が設けられた側の表面には、プライマー層やコーティング層の硬化処理前において、未反応の酸性基が存在することになる。このため、この酸性基は、コーティング材に含まれる有機ケイ素化合物の反応性有機官能基と結合するため、コーティング層に対してアンカリング効果を発揮する。したがって、硬化後に何らの最表面層除去処理が施されなかったレジン歯に対して、本実施形態の歯のコーティング用キットを用いてコーティング処理を施した場合、コーティング層は、プライマー層を介して、レジン歯表面に対して高い密着性を有する。それゆえ、レジン歯表面に対するコーティング層の密着性や、コーティング層の硬度を確保する上で、レジン歯を硬化して形成した後に、何らの最表面層除去処理を施すこと無くコーティング処理を行うことができる。このため、歯科医師や歯科技工士の作業時間の増大や、患者への肉体的負担を抑制することができる。
なお、密着性という点で上記とほぼ同様の効果は、通常、硬化後に研磨処理などにより最表面層を除去する何らかの処理が施されたレジン歯を用いてコーティング処理を行った場合でも得ることができる。これは、仮にレジン歯の形成に用いた重合性ペーストに無機フィラーが含まれている場合でも、最表面層除去処理が施されたレジン歯の表面は、部分的に無機フィラーが露出した領域が存在するものの、これ以外の領域は、樹脂成分が露出した領域から構成されるためである。このため、プライマー層とレジン歯表面との間の密着性が十分に確保される。
また、レジン歯表面に対するコーティング層の密着性を更に向上させるためには、プライマー層の形成に用いるラジカル重合性単量体の分子構造と、レジン歯の形成に用いるラジカル重合性単量体の分子構造とが類似していることが好ましい。(1)この観点からは、レジン歯の形成に用いるラジカル重合性単量体は、プライマー層の形成に用いるラジカル重合性単量体とラジカル重合する重合性単量体であれば、特に制限はなく、(メタ)アクリレート系重合性単量体、ビニル系重合性単量体、アリル系重合性単量体、シアン系重合性単量体等が良好に使用でき、特に(メタ)アクリレート系重合性単量体であることが好ましい。(2)また、耐水性、機械的強度の観点からは、レジン歯の形成に用いるラジカル重合性単量体は、酸性基を含まないラジカル重合性単量体であることが好ましい。また、上記(1)および(2)に示した観点を考慮すれば、レジン歯の形成に用いられる重合性ペーストに含まれるラジカル重合性単量体は、酸性基を含まない(メタ)アクリレート系重合性単量体であることが特に好ましい。ここで、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートおよびアクリレートの総称を意味する。
このような酸性基を含まない(メタ)アクリレート系重合性単量体の具体例としては、
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能性ビニルモノマー;、2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の二官能性ビニルモノマー;、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等の三官能性メタクリレートモノマー、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の三官能性ビニルモノマー;、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の四官能性ビニルモノマー等が挙げられる。
なお、本実施形態の歯のコーティング用キットによりコーティング処理されるレジン歯は、公知のレジン歯であれば特に限定されず、通常、少なくともラジカル重合性単量体を含む重合性ペーストを重合させて硬化させたレジン歯が利用できる。なお、重合性ペーストは、一般的に、ラジカル重合性単量体に加えて、有機系や無機系のフィラーや、ラジカル重合開始剤を含む。また、本実施形態の歯のコーティング用キットを用いた場合に、より優れた密着性が得られるという観点からは、レジン歯の形成に用いる重合性ペーストは、ラジカル重合性単量体として、酸性基を含まない(メタ)アクリレート系重合性単量体を用いたものであることが好ましい。
また、本実施形態の歯のコーティング用キットは、レジン歯のみならず、天然歯のコーティング処理にも用いることができる。健康な天然歯は、表面が硬質なエナメル質で覆われた構造を有する。また、天然歯の付け根側で柔らかい歯肉に覆われた部分は、エナメル質よりも弱いセメント質からなるが、この部分は比較的露出しやすい。これらエナメル質やセメント質は、ハイドロキシアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウム系の無機材料を主成分とする組織である。天然歯、すなわち、表面がエナメル質からなる天然歯や、セメント質が部分的に露出した天然歯に対して、プライマーを塗布した場合、エナメル質やセメント質に含まれるカルシウムイオンと、プライマーに含まれるラジカル重合性単量体の酸性基とが、高い親和性を発揮する。よって、本実施形態の歯のコーティング用キットを用いて、天然歯表面にコーティング処理すれば、天然歯表面とプライマー層との間の密着性を十分に確保できる。また、プライマー層とコーティング層との間の密着性が確保できる点については、上述したようにレジン歯にコーティング処理する場合と同様である。したがって、天然歯に対して、本実施形態の歯のコーティング用キットを用いてコーティング処理を施した場合、コーティング層は、プライマー層を介して、天然歯表面に対して高い密着性を有する。さらに、本実施形態の歯のコーティング用キットを用いれば、耐摩耗性の点でエナメル質よりも劣るセメント質が露出した箇所にもコーティング層を強く密着させて形成することができる。このため、耐摩耗性に劣るセメント質表面の摩滅や損傷を長期に渡ってより確実に防止することも可能である。
また、表面がエナメル質のみから覆われる健康な天然歯は、レジン歯と異なり表面を多少研磨しても、新たなエナメル質が露出するだけである。さらに、エナメル質は、人体中のその他の組織と異なり、一旦、失われた部分については、これを再生することができない。これらの点を考慮すると、健康な天然歯に対しては、基本的に、表面研磨などの最表面層を除去する何がしかの前処理を行わずにコーティング処理することが好ましい。また、これにより、コーティング処理に際して、狭くて作業が困難な口腔内での作業時間を短縮できる。さらに、歯科治療に際して、天然歯の欠損部にレジン歯を形成する場合、天然歯の欠損部を修復した後に、表面研磨等を行うことなく直ぐに、レジン歯部分と天然歯部分とをまとめて同時にコーティング処理することができる。このため、歯の欠損部を修復する修復治療と、歯のコーティング処理による予防治療とを同時かつ短時間に行うことができる。
ただし、コーティング処理する際の天然歯は、通常、極めて長時間にわたって、口腔環境;すなわち、唾液や飲食物などに曝されてきている。このため、天然歯の表面にはデンタルプラークなどの汚れが強く固着している場合がある。また、口腔内に存在する菌により、キャンディーや清涼飲料水などに含まれる砂糖から乳酸が産生され、口腔内のpHが低下した結果、エナメル質の脱灰が起こり、エナメル質層の最表面が変質している場合もある。この場合、天然歯の表面において、プライマー層側の酸性基と強い親和性を発揮できるカルシウムイオンが欠乏し易くなる。それゆえ、表面研磨などの最表面層を除去する何がしかの前処理を行うこと無く天然歯に対してコーティング処理しても、プライマー層と天然歯表面との密着性が十分に確保できない場合がある。よって、このような場合は、天然歯の表面を軽く表面研磨するなどによって、表面にフレッシュなエナメル質を露出させてからコーティング処理を行うことが好適である。なお、天然歯の欠損部の治療を行う場合は、欠損部やその周辺の表面研磨を行ってから重合性ペーストを盛り付けて硬化させた後にコーティング処理を行うことが好適である。これにより、欠損部に形成されたレジン歯表面のみならず欠損部周辺の天然歯表面にも確実にコーティング処理を施すことができる。
次に、本実施形態の歯のコーティング用キットに含まれるプライマーおよびコーティング材を構成する各成分の詳細について説明する。
<プライマー>
プライマーには、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体および(b)ラジカル重合開始剤が少なくとも含まれる。なお、プライマーには(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体以外のラジカル重合性単量体を併用することができ、また、多価金属イオンを含む化合物や、溶媒、フィラーなど、その他の成分を適宜用いることができる。以下に各成分の詳細について説明する。
−(A)重合性単量体−
(A)重合性単量体としては、少なくとも(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体(以下、「(a)重合性単量体」と略す場合がある)が用いられ、必要に応じて、(a’)酸性基を含有しないラジカル重合性単量体(以下、「(a’)重合性単量体」と略す場合がある)も併用できる。(A)重合性単量体を利用することにより、レジン歯表面に対する接着性を確保できる。これに加えて、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の酸性基は、レジン歯の表面にコーティング処理する場合、プライマー層上に設けられるコーティング層を形成する有機ケイ素化合物の反応性有機官能基と結合し、アンカー効果を発揮する。また、この酸性基は、レジン歯が無機フィラーを含み、かつ、これを表面研磨処理などにより最表面層を露出させたレジン歯表面にコーティング処理した場合には、無機フィラーとも親和性を発揮する。さらに、天然歯にコーティング処理した場合には、この酸性基は、天然歯表面のエナメル質やセメント質に含まれるカルシウムイオンと、高い親和性を発揮する。
よって、レジン歯表面との接着性の確保という観点から、プライマーに含まれる(A)全重合性単量体成分100質量部に対して、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の含有割合は、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。なお、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の含有割合の上限は特に限定されないが、(a’)酸性基を含有しないラジカル重合性単量体を用いる場合のバランスを考慮した場合、80質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましい。
−(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体−
(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。このような(a)重合性単量体に用いられる酸性基としては、カルボキシル基(無水構造のものを含む)、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ホスホン酸基、リン酸基等が挙げられ、具体例としては下記に示すようなものを挙げることができる。
Figure 2010275267
なお、プライマー処理を施す歯が天然歯である場合、上記酸性基としては、リン酸系の酸基(たとえば、−O−P(=O)(OH)、(−O−)P(=O)OH)やホスホン酸系の酸基(たとえば、−P(=O)(OH),>P(=O)OH))であるのが、特に好ましい。これらのリン酸またはホスホン酸系の酸基は酸性度が強いため、天然歯表面に対してはエナメル質やセメント質の脱灰作用を強め、かつ、歯質中のカルシウムイオンとの親和性が高く、本質的な結合力を高めるため、天然歯表面に対しても高い接着強度が得られる。
また、(a)重合性単量体に用いられる重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチレン基等が好ましく、硬化速度の速さや生体親和性の観点から、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
上記のような酸性基および重合性不飽和基を分子中に有している(a)重合性単量体の具体例としては、下記構造式で表される化合物が代表的である。
Figure 2010275267
Figure 2010275267
Figure 2010275267
Figure 2010275267
Figure 2010275267
Figure 2010275267
ただし、上記に列挙した化合物中、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、上記の化合物以外にも、ビニル基に直接ホスホン酸基が結合したビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸も、ビニルスルホン酸等も(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体として使用することができる。
上記に例示した(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体は、それぞれ単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。なお、プライマーに後述する多価金属イオンを含む化合物も添加する場合、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体としては分子内における酸の価数が2価以上の化合物(多塩基酸化合物)を使用することが、後述する多価金属イオンとのイオン結合性を高め、強固な接着強度を得るという観点から好ましい。このような多塩基酸化合物は、分子内に1価の酸基を2個以上有するものであってもよいし、2価以上の酸基を分子中に少なくとも1個有するものであってもよい。ただし、このような多塩基酸化合物のみを(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体として用いた場合、強度向上の観点からは好ましいが、1液状態での保存安定性は若干低下する傾向がある。したがって、多塩基酸化合物と、分子内における酸の価数が1価の酸性化合物とを併用することが、接着強度と保存安定性とを両立させる上で、より好適である。
−(a’)酸性基を含有しない重合性単量体−
(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体と併用してもよい(a’)酸性基を含有していないラジカル重合性単量体は、酸性基を含有しておらず且つ分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を有しているものであれば、公知の化合物を何等制限無く使用できる。この(a’)酸性基を含有していないラジカル重合性単量体が有している重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基が最も好ましいが、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基等であっても良い。このような(a’)重合性単量体の代表例としては、以下の(メタ)アクリレート系単量体を挙げることができ、これらは1種単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
(a’)酸性基を含有していないラジカル重合性単量体がモノ(メタ)アクリレート系単量体である場合の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等を挙げることができる。
(a’)酸性基を含有していないラジカル重合性単量体が多官能(メタ)アクリレート系単量体である場合の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
また、上記(メタ)アクリレート系単量体以外のラジカル重合性単量体を混合して用いることも可能である。このような他のラジカル重合性単量体としては、スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン系化合物;、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物などを挙げることができる。これらの他のラジカル重合性単量体は単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
また、(a’)酸性基を含有していないラジカル重合性単量体として疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、歯表面との親和性を向上させるために、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の単量体も併用することが好適である。このような両親媒性の単量体の併用により、プライマーに水を用いた場合に、水の分離を防止し、組成の均一性を確保することができ、安定して高い接着強度を得ることができるからである。このような両親媒性の単量体の好ましい配合量は特に制限されるものではないが、吸水性の観点から(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体100質量部に対して、55質量部未満が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
(b)ラジカル重合開始剤
プライマーには、プライマー層とレジン歯や天然歯の表面との接着性や、プライマー層とコーティング層との接着性をさらに向上させるために、(b)ラジカル重合開始剤が配合される。このような(b)ラジカル重合開始剤としては、前記未硬化プライマー層形成後において、該層を先に硬化させてから、さらに未硬化コーティング層を形成させるキットの使用態様等であれば、化学重合開始剤も良好に使用可能であるが、任意のタイミングで重合硬化させることができることから、光重合開始剤が特に好ましく使用される。特に、未硬化プライマー層形成工程後、および未硬化コーティング層形成工程後に各々同時に両層を硬化させる使用態様の場合は、ラジカル重合開始剤は、通常、光重合開始剤が使用される。光重合開始剤は、そのもの自身が光照射によってラジカル種を生成する化合物や、このような化合物に重合促進剤を加えた混合物が使用される。
それ自身が光照射にともない分解して重合可能なラジカル種を生成する化合物としては、以下のものを例示することができる。すなわち、「α−ジケトン類」として、カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等が挙げられ、「チオキサントン類」として、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられ、「α−アミノアセトフェノン類」として、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン等が挙げられ、「アシルフォスフィンオキシド誘導体」として、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
また、上記した重合促進剤としては、第三級アミン類、などが使用される。その具体例は以下の通りである。すなわち、「第三級アミン類」として、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
このような(b)ラジカル重合開始剤の配合量は、このプライマーを硬化できるだけの有効量であれば特に限定されず、適宜設定すれば良いが、一般的には、(A)全重合性単量体成分100質量部当り、0.01〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部の範囲がより好ましい。0.01質量部以上とすることにより重合反応を十分に行うことができ、10質量部以下とすることにより、生成した重合体の強度を十分なものとすることができる。なお、前述した重合硬化促進剤は、使用する(A)全重合性単量体成分100質量部当り、0.01〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部の範囲がより好ましい。さらに上記重合開始剤、重合促進剤に加え、ヨードニウム塩、トリハロメチル置換S−トリアジン、フェナンシルスルホニウム塩化合物等の電子受容体を加えても良い。上記光重合開始剤は、化学重合開始剤と組み合わせて、デュアルキュアタイプの重合触媒としてもよい。
−(c)多価金属イオンを含む化合物−
プライマーには、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の酸性基の一部とイオン結合して中和させる範囲で、(c)多価金属イオンを含む化合物を添加することもできる。すなわち、このような使用量で、(c)多価金属イオンを含む化合物を用いた場合、レジン歯表面の成分とプライマー層を構成する(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の一部との間でイオン架橋を形成することができる。このようなイオン架橋の作用により、プライマー層とレジン歯表面との親和性が高められ、レジン歯とプライマー層との接着強度をより高めることができる。
(c)多価金属イオンを含む化合物に用いられる多価金属イオンとしては、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体が有している酸性基と結合可能な2価以上の金属イオンであれば、任意の多価イオンであってよい。しかし、歯科用に使用されるという観点から、多価金属イオンとして、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、イッテルビウム、チタン、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ランタノイド等のイオンが好適である。このうち、接着性の高さから多価金属イオンは3価以上のイオンが好適であり、このような3価のイオンとしては接着性の高さや、生体に対する安全性の観点から、アルミニウムイオン、ランタンイオン、チタンイオンを好適に挙げることができる。
(c)多価金属イオンを含む化合物を用いる場合、プライマー中の多価金属イオンの添加量は、あまり過剰に配合すると、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体が有する酸性基による、前記コーティング材に対する接着力向上作用が十分に発揮されなくなる虞がある。このため、プライマー中の多価金属イオンの多価金属イオンの添加量は、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の酸の総価数に対して、0.6以下の範囲に抑えることが好ましい。これら両者の作用をバランスさせて接着強度を特に高くする観点からは、プライマー中の多価金属イオンの添加量は、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の酸の総価数に対して0.01〜0.5の範囲がより好ましく、0.05〜0.35の範囲がさらに好ましい。
(c)多価金属イオンを含む化合物としてはとしては、多価金属を含むアルコキシドや、多価金属を含む水溶性塩、多価金属を含む水溶性水酸化物、多価金属を含む水溶性酸化物、多価金属の錯塩などのイオン性化合物を、その溶解度や解離度に応じた量で使用することができる。また、この他に、多価金属イオン溶出性フィラー(以下、単に「多価金属フィラー」と略す場合がある)を使用することもできる。なお、この多価金属フィラーは、本来、レジン歯や天然歯表面とコーティング層との密着性確保のために設けられるプライマー層の機械的強度をより向上させる。すなわち、コーティング層の下地層であるプライマー層の強度を向上させるため、コーティング層およびプライマー層からなるコーティング膜全体の機械的強度をより向上させることができる。
多価金属を含むアルコキシドとしては、たとえば、アルミニウムトリイソプロポキシド、マグネシウムヒドロキシド、カルシウムヒドロキシド、バリウムヒドロキシド、ランタントリイソプロポキシド、スカンジウムトリイソプロポキシド、イッテルビウムトリイソプロポキシド、クロミウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、鉄(III)エトキシド、銅(II)エトキシド、亜鉛ビス(2−メトキシエトキシド)等を例示することができる。また、多価金属を含む水溶性塩としては、サリチル酸アルミニウムや塩化アルミニウムなどを例示することができ、多価金属を含む水溶性水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化ランタン、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどを挙げることができる。さらに水溶性酸化物としては、酸化アルミニウムを挙げることができ、錯塩としては、バナジウム(III)テトラキスアセチルアセトナト、マンガン(III)テトラキスアセチルアセトナト、コバルト(III)テトラキスアセチルアセトナト、ニッケル(II)テトラキスアセチルアセトナト等を例示することができる。
多価金属フィラーは、多価金属イオンを溶出し得るものであれば特に限定されないが、多価金属イオンが、該多価金属イオンと同時に溶出可能なカウンターアニオンの塩として含まれている場合、溶出−解離したカウンターアニオンが接着強度に悪影響を与える恐れがある(これは、多価金属の水溶性塩を用いた場合も同様である)。したがって、多価金属イオンのカウンターアニオンが同時に溶出しないような多価金属フィラーを用いるのが好ましい。このような条件を満足する多価金属フィラーとしては、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に多価金属イオンを含有したものを挙げることができる。
上記のようなガラス類としては、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスなどの酸化物ガラス成分を含有するものや、フッ化ジルコニウムガラス等のフッ化物ガラス成分を含有するものが好適である。すなわち、これらの成分を含有するガラス類からなる多価金属溶出性フィラーは、多価金属イオンを溶出させた後は、網様構造を有する多孔性の粒子となり、プライマーが硬化して形成されたプライマー層の強度を向上させる作用を有する。多価金属イオンをこのように多価金属溶出性フィラーとして配合する場合、その配合量は、溶出される多価金属イオンが(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体の酸の総価数に対して前述した範囲となるようにすれば良い。そして、その上で、全重合性単量体成分100質量部に対して20質量部以下に調整することが好ましく、2〜10質量部の範囲内に調整することがより好ましい。
−(d)溶媒−
プライマーには、通常、各種成分を均一に分散させるための溶媒として、水や揮発性有機溶媒が用いられる。なお、プライマー中に(c)多価金属イオンを含む化合物を添加する場合は、溶媒として水を併用することが好適である。水が存在することにより、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体と多価金属イオンとのイオン結合を促進させることができる。また、揮発性有機溶媒は、上述した多価金属イオンに由来するゲル化を防止する機能を有している。このため、プライマー中に多価金属イオンが含まれる場合に揮発性有機溶媒を併用すれば、多価金属イオンに起因する急激なゲル化が抑制されるため、プライマーのコーティングを容易に行うことができる。
ここで、水としては、貯蔵安定性および医療用成分に有害な不純物を実質的に含まない蒸留水や脱イオン水が好適に使用される。また、揮発性有機溶媒としては、常温で揮発性を有する有機溶媒を意味する。ここで当該「揮発性」とは、760mmHg(101.32KPa)での沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。なお、プライマー中に多価金属イオンや水が含まれる場合に、溶媒として揮発性有機溶媒を用いるとき、当該揮発性有機溶媒は水溶性を示すものであることが好適である。これにより多価金属イオンに対する希釈性や水との相溶性が確保できるためである。ここで、「水溶性」とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。揮発性有機溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら揮発性有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、揮発性有機溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコールおよびアセトンが好ましい。
プライマー中に用いられる溶媒の配合量としては特に限定されないが、重合性単量体100質量部に対し、5〜550質量部の範囲が好ましく、10〜200質量部の範囲がより好ましい。配合量を5質量部以上とすることによりプライマーを構成する組成物の均一性を確保できる。また、配合量を550質量部以下とすることにより、レジン歯や天然歯表面にプライマーを塗布した後に、エアブローを併用することで適度な速度で塗膜が乾燥して未硬化のプライマー層を形成できる。このため、コーティング処理時の作業時間の増大を防ぐと共に、残留溶媒濃度の高い状態で未硬化プライマー層上に未硬化コーティング層が形成されることが無いため、プライマー層とコーティング層との密着性も確実に確保できる。
−(e)その他の配合剤−
プライマーには、必要に応じて、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。また、機械的強度の向上等を目的として充填剤を添加してもよい。このような充填剤としては、有機充填剤および無機充填材のいずれであっても良いが、たとえば、火炎加水分解法により得られヒュームドシリカや、ゾルゲル法等により得られたシリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア、シリカ・アルミナなどの複合無機酸化物からなるもの等が好ましい。これら充填剤の平均1次粒径は、0.001〜1μmであるのが好ましい。これらの充填剤はシランカップリング剤により表面処理されていても良い。また、プライマーに充填剤を配合する場合、充填剤の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して2質量部〜20質量部の範囲が好ましく、5質量部〜10質量部の範囲内が好ましい。また、この他にも紫外線吸収剤、染料や顔料などの色材、帯電防止剤等の各種添加剤を、必要に応じて選択して使用することもできる。また、コーティング処理に際しては、プライマーを塗布後にコーティング材が塗付されるため、硬化処理前の未硬化プライマー層中に溶存する酸素は少ないと思われる。しかしながら、未硬化プライマー層中に溶存する酸素による硬化阻害などを最小限に抑えるために、重合硬化促進剤の例として示した第三級アミンを必要に応じて添加してもよい。
<コーティング材>
コーティング材には、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒、および、(iii)有機溶媒が少なくとも含まれる。なお、これら成分以外に、必要に応じて(i’)反応性有機官能基を有さない重縮合可能な有機ケイ素化合物や、無機酸化物ゾルなどの(iiii)その他の成分が含まれていてもよい。
−(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物−
上述したように(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物としては、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物が必ず用いられるが、必要に応じて(i’)反応性有機官能基を有さない重縮合可能な有機ケイ素化合物も併用することができる。ここで、コーティング層の硬度確保の点から、コーティング材中に含まれる(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物の配合割合(すなわち、成分(i)と(i’)との総和)は、最終的に形成されるコーティング層100質量部に対し、30質量部以上が好ましく、30〜80質量部の範囲がより好ましく、35〜65質量部の範囲がさらに好ましい。重縮合が可能な有機ケイ素化合物の配合量を30質量部以上とすることで、コーティング層のクラック発生を確実に抑制できるようになる。
また、コーティング材に含まれる(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物の配合割合は、プライマー層との接着性の観点から最終的に形成されるコート膜100質量部に対し、30質量部以上が好ましく、30〜80質量部の範囲が好ましく、30〜60質量部の範囲がより好ましい。配合割合を30質量部以上とすることにより、プライマー層側に含まれる酸性基と、反応性有機官能基との結合により、プライマー層とコーティング層との密着性を高めることができる。また、反応性有機官能基の存在は、有機ケイ素化合物の重縮合による剛直化を適度に緩和してコーティング膜に適度な弾力性を付与し、硬化したコーティング層のクラック発生も抑制できる。また、配合割合を79.5質量部以下とすることにより、コーティング層の硬度を低下させる反応性有機官能基の含有割合を適度に抑制できるため、優れた耐擦傷性を確保できる。
コーティング材に用いられる(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物としては、コーティング膜、特に耐摩耗性や耐傷性の確保を目的としたハードコート用のコーティング層の形成に利用される公知の有機ケイ素化合物が制限なく利用できる。このような有機ケイ素化合物としては、通常は、シラノール基を有する有機ケイ素化合物や、加水分解してシラノール基を生成する各種のアルコキシシラン類が利用できる。
(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物において、該反応性有機官能基は、重縮合反応後も重縮合物に残存していることが必要である。これにより、該反応性有機官能基を、プライマー層側に含まれる酸性基と反応させて、該プライマー層とコーティング層との密着性を高めることができるからである。よって、該反応性有機官能基は、重縮合により脱離する基、具体的には、有機ケイ素化合物を構成するケイ素原子に2価の酸素原子を介して結合する炭化水素基(鎖式または環式のアルキル基や、アリール基、これらの基を構成する炭素または水素の一部をヘテロ原子に置換した基)の置換基としてではなく、重縮合に関与しない基、具体的には、上記有機ケイ素化合物の主骨格を構成する原子(ケイ素原子や、ケイ素原子および当該原子に結合する2価の酸素原子を除く主骨格を構成する原子)に直接結合する炭化水素基の置換基として導入されていることが求められる。
本明細書において、「反応性有機官能基」とは、プライマーに含まれる(a)重合性単量体に含まれる酸性基と化学結合を生じせしめる反応性基であれば特に限定されずに適用できる。具体的には、エポキシ基、グリシドキシ基、オキセタン基等、イソシアネート基等の、酸性基の対アニオン等の求核剤と求電子付加反応を起こす求電子性官能基;、アミノ基、4級アンモニウム塩等の、酸性基と中和反応し、イオン的に結合する塩基性官能基;、(メタ)アクリロイルオキシ基、アリル基、エチニル基、ビニル基、スチリル基、アリロキシ基等の、酸性基と付加反応を形成する不飽和炭化水素基を有する官能基等が挙げられる。これらの中でも、酸性基との反応性、保存安定性の観点から、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、およびグリシドキシ基が好ましい。さらには、酸性基がカルボン酸である場合には、上記反応性有機官能基としては、脱水縮合を起こし、結合力の高いアミド結合を形成することから、アミノ基が最も好ましい。
また、反応性有機官能基が、上記不飽和炭化水素基の場合には、歯のコーティング処理は、未硬化プライマー層と未硬化コーティング層とに対して一括して光照射して、両層を同時に硬化させるキットの使用態様により実施するのが、特に効果的である。この場合、未硬化コーティング層が有する反応性有機官能基は、未硬化プライマー層に含まれる、(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体成分に対して、酸性基との付加反応だけでなく、不飽和炭化水素基の重合反応にも加わるものになり、プライマー層とコーティング層との結合をより強固なものにすることができる。
このような(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物としては、たとえば、下記一般式(1)に示す化合物、ならびに、これらの化合物において一部もしくは全部を加水分解したもの、または、一部縮合したものが好ましく用いられる。
・一般式(1) R Si(OR(3−a)
(ただし、式中RおよびRは各々独立に置換基を有しても良い、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、または炭素数 5〜20のアリール基であり、RおよびRの少なくとも1つは置換基として反応性有機官能基を有するものであり、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、aおよびbは0または1の整数である。)
なお、一般式(1)中のRおよびRは、各々独立に置換基を有しても良い、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、または炭素数5〜20のアリール基であり、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、オクテニル基、ドコセニル基等のアルキル基;、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;、プロペニル基、1−ブテニル基等のアルケニル基;、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。これらの置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;、メチル基、エチル基等のアルキル基;、メトキシ基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、シアノ基、メルカプト基、前述の反応性有機官能基を挙げることができる。
一般式(1)中のRは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、該アルキル基を具体的に例示すれば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
一般式(1)中、aは、それぞれ0または1の整数であるが、高硬度のコーティング層を得るという観点から、aは0であることが好ましい。
一般式(1)で示される有機ケイ素化合物の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランおよびこれらが一部或いは全部加水分解したものまたは一部縮合したもの等が挙げられる。
これらの中でもプライマー層に対する密着性向上と言う観点からは、RおよびRの少なくとも1つが、反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、およびグリシドキシ基から選択される基を有する有機ケイ素化合物が好適である。なお、これらの有機ケイ素化合物は、1種のみを使用しても2種類以上を組み合わせて併用してもよい。
また、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物としては、上述した一般式(1)に示す化合物やその誘導体以外にも、下記一般式(2)で示される化合物、ならびに、これらの化合物において、一部もしくは全部を加水分解したもの、または、一部縮合したものを用いることも好適である。
・一般式(2) X{SiR (OR3−c}
(ただし、式中Rは各々独立に置換基を有しても良い、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、または炭素数 5〜20のアリール基であり、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは2価の有機残基または酸素原子であり、RおよびXから選ばれる少なくとも1つは置換基として反応性有機官能基を有するものであり、cは0〜2の整数である。)
一般式(2)中のRは、前記一般式(1)でRおよびRとして説明した基と同様のものが好適に使用できる。また、一般式(2)中のRも、前記一般式(1)でRとして説明した基と同様のものが好適に使用できる。
一般式(2)中のXは2価の有機残基または酸素原子である。当該有機残基の構造は特に限定されるものではなく、1つ以上のアルコキシ基を有するケイ素原子が2個結合可能な基であれば何ら制限無く用いることができる。その構造中に、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、アミノ結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホニル結合等の炭素―炭素結合以外の結合を有していてもよく、さらにはオキサ基(ケトン炭素)が含まれていてもよい。
Xで示される2価の有機残基を具体的に挙げれば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等の炭素数1〜15のアルキレン基;あるいは以下の化学式として示す基(ただし、下記化学式中、m、nおよびlは、それぞれ0〜10の整数である)、ならびに、これらの基に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;、メチル基、エチル基等のアルキル基;、メトキシ基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、シアノ基、メルカプト基、前述の反応性有機官能基等が置換した基を挙げることができる。
Figure 2010275267
なお、一般式(2)中のcは0〜2の整数であるが、高硬度のコーティング層を得るという観点から0もしくは1であることが好ましい。
本実施形態の歯のコーティング用キットにおいては、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物以外にも、(i’)反応性有機官能基を有しない有機ケイ素化合物を添加することができる。具体例を例示すれば、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルメチルジメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−オクチルメチルジメトキシシラン、n−オクチルジメチルメトキシシラン、n−オクチルメチルジエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルメチルジメトキシシラン、n−オクタデシルメチルジエトキシシラン、n−オクタデシルジメチルメトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、トリエトキシシリルウンデカナル、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン及びこれらが一部或いは全部加水分解したもの又は一部縮合したもの等が挙げられる。
なお、本実施形態の歯のコーティング用キットにおいては、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物の該反応性有機官能基として、エポキシ基、およびグリシドキシ基を有するものを用いる場合は、コーティング層の架橋密度を高める観点から、他のエポキシ化合物を併用してもよい。こうしたエポキシ化合物としては、公知のエポキシ化合物を何ら制限なく使用することができる。ここで言うエポキシ化合物とは、反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物とは異なり、シラノール基やアルコキシル基等を有さずエポキシ基を有する化合物のことを指す。エポキシ化合物の具体例として、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらエポキシ化合物は、2種以上混合して用いてもかまわない。
また、本実施形態の歯のコーティング用キットにおいては、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物の該反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アリル基、エチニル基、ビニル基、スチリル基等の不飽和炭化水素を有する官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物を用いる場合も、コーティング層の架橋密度を高める観点から、他のラジカル重合性単量体を併用してもよい。こうしたラジカル重合性単量体としては、公知のものが何ら制限なく使用することができるが、(メタ)アクリレート系のものが好適である。具体的には、前述のレジン歯の形成に用いられる重合性ペーストに含まれるものや、プライマー成分として説明したものが挙げられる。これらラジカル重合する重合性単量体は、2種以上混合して用いてもかまわない。
−(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒−
本実施形態の歯のコーティング用キットでは、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物の重合を促進する目的で、コーティング材中に有機ケイ素化合物の重縮合用触媒を配合させる。この触媒としては、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物中に含まれるアルコキシシリル基を加水分解、縮合させる機能を有するアルカリ金属アルコキシド、酸、塩基性化合物、過塩素酸塩、アセチルアセトネート錯体、有機金属塩等の公知のものが何ら制限無く使用できる。
−アルカリ金属アルコキシド−
ここで、アルカリ金属アルコキシドとしては、下記一般式(4)で示されるものが好適に用いられる。
・一般式(4) MOR
(M:アルカリ金属 R:アルキル基)
ここで、一般式(4)中、Mとしては公知のアルカリ金属が利用できるが、特にリチウム、ナトリウムが好ましい。また、Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜10の範囲のアルキル基が好ましく、特にメトキシド、エトキシドが好ましい。一般式(4)で示されるアルカリ金属アルコキシドの具体例としては、リチウムメトキシド、リチウムエトキシドなどが挙げられる。一般式(4)で示されるアルカリ金属アルコキシドは固体であるため、コーティング材の調製の際には、メタノールなどのアルカリ金属アルコキシドを溶解可能な溶媒に溶解させて用いると良い。このとき、溶媒は共溶媒となるものであれば適宜選択可能である。
−酸−
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボキシル基を有する有機酸、あるいは、塩化第二銅、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化アンチモン等のルイス酸が挙げられる。これらの中でも、コーティング材の保存安定性、加水分解性の観点から、塩酸や硫酸等が好適に使用される。なお、コーティング材の調整に際して、これら触媒を溶解させた溶液を用いる場合、その濃度は0.01〜5mol/l程度の範囲内とすることが好ましい。
−塩基性化合物−
塩基性化合物としては、アンモニア、メチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が上げられる。これらの中でも、コーティング材の保存安定性、加水分解性の観点から、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好適に使用される。なお、コーティング材の調整に際して、これら触媒を溶解させた溶液を用いる場合、その濃度は0.01〜5mol/l程度の範囲内とすることが好ましい
−過塩素酸塩−
過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アンモニウム等が挙げられる。硬化性の観点から、過塩素酸アンモニウムが好ましい。
−アセチルアセトネート錯体
アセチルアセトナート錯体は、公知の化合物から、コーティング材への溶解性、コーティング材の保存安定性やコート膜の硬度などの物性を考慮して適宜に請託すればよい。その具体例を示せば、Li(I)、Cu(II),Zn(II),Co(II),Ni(II),Be(II),Ce(III),Ta(III),Ti(III),Mn(III),La(III),Cr(III),V(III),Co(III),Fe(III),Al(III),Ce(IV),Zr(IV),V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート錯体を挙げることができる。硬化性の観点から、Al(III)、Fe(III)、Li(I)を中心金属とするアセチルアセトネート錯体などが特に好ましい。またこれらアセチルアセトナート錯体は、単独で使用しても2種以上を混合して使用しても何ら問題はない。
−有機金属塩−
有機金属塩としては、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、後述するような二価のカルボン酸塩等の有機金属塩をあげることができる。有機酸の金属塩としては、2価のカルボン酸ズズ塩を用いることもできる。この2価のカルボン酸スズ塩を構成するカルボン酸を具体的に例示すると、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸等の直鎖飽和脂肪酸類;、ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸等のモノエン不飽和脂肪酸類;リノール酸、リノレン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、4,8,12,15,18−エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等などのポリエン不飽和脂肪酸類;、イソ酸、アンテイソ酸等の枝分れ脂肪酸類;タリリン酸、ステアロール酸等の三重結合をもつ脂肪酸類;、炭素数11以上のナフテン酸、マルバリン酸等の脂環式カルボン酸類;、サビニン酸、2−ヒドロキシテトラデカン酸等の含酸素脂肪酸類;、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類等が挙げられる。
また、2価のカルボン酸スズ塩の触媒活性をより高める触媒活性促進剤として、アミン化合物を併用してもよい。
このアミン化合物の具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン等の脂肪族第一アミン類;、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン等の脂肪族第二アミン類;、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−エチルジアリルアミン、N−エチルジベンジルアミン、トリエタノールアミン、トリ(イソプロパノール)アミン、トリ(2−ヒドロキシブチル)アミン、トリアリルアミン、トリベンジルアミントリヘキシルアミン、等の脂肪族第三アミン類;、トリアリルアミン、オレイルアミン、などの脂肪族不飽和アミン類;、アニリン、ラウリルアニリン、トルイジン等の芳香族第1級アミン化合物;、N−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等の芳香族第2級アミン化合物;、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル等の第3級アミン化合物等の芳香族アミン類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのアミン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
上記の重合触媒は、その効果が発揮される範囲において、2種以上併用してもよい。また、上記重合触媒の配合量は特に制限されないが、最終的に形成されるコーティング層100質量部に対して、0.01質量部〜5.0質量部の範囲内が好ましく、0.1〜3.0質量部の範囲内がより好ましい。
−(iii)有機溶媒−
本実施形態の歯のコーティング用キットに使用する(iii)有機溶媒は、(I)に示す重縮合可能な有機ケイ素化合物や、必要に応じ配合されるエポキシ化合物、また、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒を溶解し、かつ、揮発性を有するものであれば公知の有機溶媒を何ら制限なく使用することができる。このような有機溶媒を例示すれば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノールなどのアルコール類;、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチルなどのエステル類;、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジオキサンなどのエーテル類;、アセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類が挙げられる。これら有機溶媒は、単独で使用してもかまわないが、コーティング材の物性を制御する目的のために2種以上を混合して用いるのが好ましい。なお、メチレンクロライドなどのハロゲン化炭化水素;、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類等の水との相溶性の低い有機溶媒も、上記したような水との相溶性の高い有機溶媒と混合することにより、全体として水を相溶する混合溶媒として用いるのであれば使用可能である。
これら有機溶媒の中でも、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物および(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒に対する溶解性の良好さや、コーティング層形成時の揮発性の容易さ、更にはコーティング層形成時の平滑性という観点から、アルコール類、エーテル類、ケトン類を用いるのが好ましく、特に、メタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルなどを使用するのが好適である。
(iii)有機溶媒の配合量は特に限定されないが、通常、コーティング材の固形分100質量部に対し、100〜2000質量部の範囲が好ましく、150〜1000質量部の範囲がより好ましい。
−(iv)無機酸化物ゾル−
コーティング層の硬度や固結性をより高めるために、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物に加えて、シリカゾルや、シリカゾルをベースとした組成に他の金属酸化物成分を含むシリカ系ゾルなどの無機酸化物ゾルを併用してもよい。コーティング材中に含まれる無機酸化物ゾルの配合量は、最終的に得られるコーティング層の目的に応じ所望の物性等により適宜決定すればよい。具体的には、配合量は、あまり多すぎても(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物の配合量が少なくなり、クラックを生じる原因になるため、最終的に形成されるコート膜100質量部に対し70.5質量部以下にするのが好適である。無機酸化物ゾルを全く用いない場合と比べて、十分な硬度向上や固結性向上効果が得られる観点からは、最終的に形成されるコート膜100質量部に対し20.5〜70質量部の範囲がより好ましく、35〜65質量部の範囲が特に好ましい。
−(v)その他の成分−
コーティング材の調整には、その他の成分として、水を用いることができる。ここで、コーティング材として利用する(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物が、アルコキシシランであり、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒として酸触媒を用いる場合は、コーティング材中に含まれるアルコキシ基に対して、モル比で0.1倍〜3倍程度となるように配合するのが好適である。
<包装形態>
本実施形態の歯のコーティング用キットを構成するプライマーやコーティング材の包装形態は特に限定されるものでは無いが、具体的には以下の通りであることが好ましい。まず、プライマーは、(b)ラジカル重合開始剤が光重合開始剤であり、包装容器が遮光性に優れるものであれば、各成分を一包装に混合した形態であっても良く、この場合、使用時に調合操作が不要になり効率的である。無論、ラジカル重合開始剤として、2成分以上からなる化学重合開始剤や、光重合開始剤においても2成分以上からなるものの場合には、保存中に反応が生じないように、成分を少なくとも2つ以上に分けて包装・保存し、コーティング処理の直前に、1液に混合して使用する形態にしても良い。
他方、コーティング材は、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物と(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒とを共存させた包装形態では経時劣化するため、通常は、これら両成分を分けて2つ以上の包装で保存し、コーティング処理の直前に1液に混合して使用する形態にすることが特に好適である。具体的には、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物、及び必要に応じて配合する触媒以外の成分の包装と、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒の包装であり、後者は通常、水に溶解した溶液とするのが好ましい。これらプライマーやコーティング材を2つ以上の包装とする場合、各部材を、膜等で仕切られた2室を有する1つの容器に分別収容し、使用の前に該仕切りを取り除き、容器内でこれらの部材を1液に混合する形態とするのも大変効率的である。
(歯のコーティング処理方法)
以上に説明した本実施形態の歯のコーティング用キットを用いれば、レジン歯などの各種の人工歯や、天然歯の表面に対してコーティング処理を実施することができる。ここで、コーティング処理の対象として好適な歯の表面としては、具体的には、(W)重合性単量体を少なくとも含む重合性ペーストを、歯の欠損部または歯列模型に盛り付けた後に硬化させることでレジン製の歯を形成するレジン歯形成工程を経た後であって、かつ、レジン歯表面に対して最表面層を除去する処理を施していない状態において、(W1)少なくともレジン歯の表面、(W2)レジン歯の表面およびレジン歯が盛り付けられた周囲近傍の天然歯表面、あるいは、(W3)レジン歯部分表面も含めて欠損部治療の対象となった天然歯表面全体が挙げられる。この場合、レジン歯表面部分については、既述したように、コーティング処理に際して、表面研磨などにより最表面層を除去する処理を施こさなくてもよいが、(W2)や(W3)に示すように天然歯表面部分も同時にコーティング処理する場合、少なくとも汚れや変質のある部分については研磨処理などの最表面層を除去する処理を実施してから、コーティング処理を行うことが好適である。これにより、レジン歯表面のみならず、天然歯表面に対しても確実に密着性よくコーティング層を形成することができる。
また、コーティング処理の対象として好適な歯の表面としては、(X)天然歯の表面全体が挙げられる。この場合、少なくとも汚れや変質のある部分については研磨処理などの最表面層を除去する処理を実施してから、コーティング処理を行うことが好適である。これにより、天然歯表面に対して確実に密着性よくコーティング層を形成することができる。
さらに、コーティング処理の対象として好適な歯の表面としては、(Y)過去に治療が行われることによって、欠損部に既にレジン歯が形成された天然歯において、(Y1)少なくともレジン歯の表面、(Y2)レジン歯の表面およびレジン歯が盛り付けられた周囲近傍の天然歯表面、あるいは、(Y3)レジン歯部分表面も含めて欠損部治療の対象となった天然歯表面全体が挙げられる。この場合、天然歯表面部分かレジン歯表面部分かを問わず、少なくとも汚れや変質のある部分については研磨処理などの最表面層を除去する処理を実施してから、コーティング処理を行うことが好適である。これにより、歯の表面に対して確実に密着性よくコーティング層を形成することができる。
そして、これら歯の表面にプライマーを塗布して未硬化プライマー層を形成する未硬化プライマー層形成工程と、未硬化プライマー層上にコーティング材を塗布して未硬化コーティング層を形成する未硬化コーティング層形成工程と、光照射により未硬化プライマー層および未硬化コーティング層を硬化させる硬化工程とを経て、少なくとも歯の表面にコーティング処理を施すことができる。
以下に、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
<<プライマー構成成分>>
後述する各実施例および比較例に用いたプライマーを調整するために、下記に列挙する成分を準備した。
<(A)ラジカル重合性単量体成分>
−(a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体−
・PM:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−
メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートとを質量比で2:1で混合
した混合物
・MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
・MAC−10:11−メタクリロイルオキシ−1、1−ウンデカンジカルボン酸
・4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
・HP:下記化合物1
Figure 2010275267
−(a’)酸性基を含有しないラジカル重合性単量体−
・BisGMA:2,2’−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポ
キシ)フェニル)プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
<(b)ラジカル重合開始剤>
・CQ:カンファキノン
・DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
<その他成分>
−多価金属イオン供給源−
・アルミニウムトリイソプロポキシド:Al(O−iPr)
・ランタントリイソプロポキシド:La(O−i−Pr)
−有機溶媒−
・エタノール:EtOH
・イソプロピルアルコール:IPA
−フィラー−
・FS1:平均1次粒径18nm、比表面積220m/g、
シラノール基数5個/nm
−重合禁止剤−
・BHT: 2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
<<コーティング材構成成分>>
後述する各実施例および比較例に用いたコーティング材を調整するために、下記に列挙する成分を準備した。
<(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物>
−(i)反応性有機官能基を含有する重縮合可能な有機ケイ素化合物−
・MTS:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
・GTS:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・ATS:γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
−(i’)反応性有機官能基を含有しない重縮合可能な有機ケイ素化合物−
・TES:テトラエトキシシラン
<(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒>
・E1:過塩素酸アンモニウム
・0.5Nの塩酸水溶液
<(iii)有機溶媒>
・EtOH:エタノール
・IPA:イソプロパノール
<(iiii)その他の成分:無機酸化物ゾル>
・Siゾル:メタノール分散シリカゾル:(固形分濃度30.0質量%、日産化学工業(
株)製)
・Sn−Zr−Sb−Siゾル:メタノール分散酸化スズ−酸化ジルコニウム−五酸化ア
ンチモン−二酸化ケイ素複合金属酸化物ゾル(固形分濃度30.3質量%、ジイソプロ
ピルアミン1.0質量%、日産化学工業(株)製)
<金属イオンの測定方法>
プライマーを調整し、24時間攪拌した後、100mlのサンプル管に0.2gを計り取り、IPAを用いて1質量%に希釈した。この液をシリンジフィルターでろ過し、ろ液をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、プライマーに含まれる各金属イオン濃度を測定した。プライマーに含まれる各酸性基含有重合性単量体の総イオン濃度は、添加した組成から算出し、これらの値を用いて、(多価金属イオンの総イオン価数)/(酸性基含有重合性単量体の総イオン価数)を算出した。
(実施例1)
−プライマーおよびコーティング材の調整−
実施例1に用いるプライマー(プライマー1)として、表1に示す成分に加えて、BHTを0.05質量部を混合したものを準備した。また、実施例1に用いるコーティング材(組成物2)は、表1に示す成分中、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒を除く成分を混合した溶液を予め調整した後、コーティング処理の直前に、この溶液に対して(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒成分を添加して準備した。これによりプライマー1と組成物2とからなるコーティング用キットを得た。続いて、このコーティング用キットを用いて、コーティング処理を行い、外観、耐磨傷性および接着強度評価用サンプルを作製した。
(実施例2)
実施例2に用いるプライマー(プライマー2)を、水を除く表1に示す成分に加えて、BHTを0.05質量部を混合したものを24時間撹拌した後、さらに水2.5gを添加することで準備した。また、実施例2に用いるコーティング材(組成物1)は、表1に示す成分中、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒を除く成分を混合した溶液を予め調整した後、コーティング処理の直前に、この溶液に対して(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒成分を添加して準備した。これによりプライマー2と組成物1とからなるコーティング用キットを得た。続いて、このコーティング用キットを用いて、実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
(実施例3〜19)
実施例2に示した手順に準じて、表3中に示されるプライマーおよびコーティング材を、表1および表2に示す組成となるように準備した。これにより表3に示すプライマーとコーティング材との組み合わせからなるコーティング用キットを得た。続いて、これらのコーティング用キットを用いて、実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
(比較例1)
実施例1に示した手順に準じて、表4に示すコーティング材(表2に示す組成物1)のみを準備した。次に、プライマーを用いずに直接コーティング材を塗布した点を除いて実施例1と同様にしてコーティング処理を行い、実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
(比較例2〜3)
比較例1に示した手順に準じて、表4に示すコーティング材(表2に示す組成物)のみを準備した。次に、プライマーを用いずに直接コーティング材を塗布した点を除いて実施例1と同様にしてコーティング処理を行い、実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
(比較例4〜9)
実施例2に示した手順に準じて、表4中に示されるプライマーおよびコーティング材を、表1、2に示す組成となるように準備した。これにより表4に示すプライマーとコーティング材との組み合わせからなるコーティング用キットを得た。続いて、これらのコーティング用キットを用いて、実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
<プライマー、コーティング材の一覧およびコーティングサンプルの評価結果>
なお、以下に各実施例および比較例で用いたプライマーの組成の一覧を表1に、コーティング材の組成の一覧を表2に示す。また、各実施例および比較例でコーティング処理に用いたプライマーおよびコーティング材の種類とその組み合わせを表3および表4に示す。また、各実施例および比較例で得られた3種類のコーティング処理されたサンプルについて、外観、耐摩傷性および接着強度を評価した。結果を表3および表4に示す。なお、接着強度の欄中、括弧内に示される値は、接着強度の標準偏差を意味する。
Figure 2010275267
Figure 2010275267
Figure 2010275267
Figure 2010275267
なお、表3および表4中に示す外観、耐摩傷性および接着強度の評価方法および評価基準は以下の通りである。
<外観評価>
−レジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプルの評価−
市販の歯科用レジン(トクヤマデンタル社製、パールエステ、重合性単量体としてメタクリレート系モノマー、無機フィラーとしてシリカを主成分として含む重合性ペースト)を、10×10×3mmのテフロン(登録商標)製のモールドに充填し、表面が空気に触れた状態で光照射することで硬化させ、レジンブロック(レジン歯サンプル)を作製した。なお、表面が空気に触れる面は、歯科用レジンを充填する際にヘラで形を整えて、平滑な面とした。
続いて、レジンブロックが硬化する際にその表面が空気に触れた面(未研磨処理面)に、各実施例および比較例で用いるプライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付けた。なお、プライマーを用いない比較例1〜3では、このプライマー処理を省略した。この後、各実施例および比較例で用いるコーティング材をスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射し、37℃、24時間保った。なお、実施例4では、プライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射した後に、上記コーティング処理を行った。以上の操作により、レジン歯露出面をコーティング処理した耐磨傷性評価サンプルを得た。
目視検査で被膜の透明性を観察した。検査には、光源(キャビン工業(株)製colorCABINIII)を用いて作製したサンプルに光を当て、コーティング処理を施した面から目視にてその白濁の程度を評価した。なお、評価基準は、以下の通りである。
○:ほぼ透明である
△:若干白濁している
×:顕著に白濁している
−レジン歯(研磨処理面)のコーティング処理サンプルの評価−
上述したレジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプルの作製に際して、レジンブロックが硬化する際にその表面が空気に触れた面(未研磨処理面)を♯1500の耐水研磨紙で磨いて平滑にした。その後、レジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプルと同様にして外観評価用サンプルを準備して、同様の外観評価を行った。
−天然歯のコーティング処理サンプルの評価−
牛を屠殺した後24時間以内に、前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出すことで、天然歯サンプルを準備した。次に、この天然歯サンプルの研削面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。
次に、表面を削り出した面に各実施例および比較例で用いるプライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付けた。なお、プライマーを用いない比較例1〜3では、このプライマー処理を省略した。この後、各実施例および比較例で用いるコーティング材をスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射し、37℃、24時間保った。なお、実施例4では、プライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射した後に、上記コーティング処理を行った。以上の操作により、天然歯表面をコーティング処理した外観評価用サンプルを得、これを用いて、レジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプルと同様の外観評価を行った。
<耐磨傷性評価>
外観評価に用いたものと同様のレジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプル、レジン歯(研磨処理面)のコーティング処理サンプル、および、天然歯のコーティング処理サンプルを準備した。
次に、スチールウール(日本スチールウール(株)製ボンスター#0000番)を用いて、これら3種類のサンプル表面を0.5kgの荷重で10往復および50往復擦った後について、膜の剥離や傷ついた程度を目視で5段階評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:50往復擦った後に、膜の剥離は観察されず、傷も殆ど観察されない。
○:50往復擦った後に、膜の剥離は観察されないが、若干の傷が観察される。但し、10往復擦った時点では、傷は殆ど観察されない。
△:50往復擦った後に、膜の剥離は観察されない。但し、傷については、10往復擦った時点で若干観察され、50往復擦った後では著しくなる。
×:10往復擦った後に、膜の一部に剥離が観察され、50往復擦った後に、膜の大部分が剥離する。
××:10往復擦った後に、膜の大部分が剥離する。
<接着強度評価>
−レジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプルの評価−
市販の歯科用レジン(トクヤマデンタル社製、パールエステ、重合性単量体としてメタクリレート系モノマー、無機フィラーとしてシリカを主成分として含む重合性ペースト)を、10×10×3mmのテフロン(登録商標)製のモールドに充填し、表面が空気に触れた状態で光照射することで硬化させ、レジンブロック(レジン歯サンプル)を作製した。なお、表面が空気に触れる面は、歯科用レジンを充填する際にヘラで形を整えて、平滑な面とした。
続いて、レジンブロックが硬化する際にその表面が空気に触れた面(未研磨処理面)に、3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。なお、この穴の内側の面は、歯の欠損部(窩洞)に歯科用レジンが盛り付けられて硬化した後に露出した面を模したものである。次に、この穴が開けられた部分の表面(レジン歯露出面)に各実施例および比較例で用いるプライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付けた。なお、プライマーを用いない比較例1〜3では、このプライマー処理を省略した。
この後、各実施例および比較例で用いるコーティング材をスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射し、37℃、24時間保った。なお、実施例4では、プライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射した後に、上記コーティング処理を行った。
以上の操作により、レジン歯露出面をコーティング処理した。
その後、瞬間接着剤をコーティング処理されたレジン歯露出面上に塗布し、その上から直径8mmのステンレス製アタッチメント(接着試験片)を圧接して接着試験評価用サンプルを準備した。次いで、この接着試験評価用サンプルを、37℃24時間静置した後、引張試験機(島津製作所製オートグラフ)を用い、クロスヘッドスピード2mm/minにて、レジンブロックと接着試験片との接着強度を測定した。なお、1試験当り、4つの試験片について、引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度として評価した。
−レジン歯(研磨処理面)のコーティング処理サンプルの評価−
上述したレジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプルの作製に際して、レジンブロックが硬化する際にその表面が空気に触れた面(未研磨処理面)を♯1500の耐水研磨紙で磨いて平滑にした後に、この面に対して、3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。この後は、レジン歯(未研磨表面)のコーティング処理サンプルと同様にして接着試験評価用サンプルを準備して、同様の接着強度評価を行った。
−天然歯のコーティング処理サンプルの評価−
牛を屠殺した後24時間以内に、前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出すことで、天然歯サンプルを準備した。次に、この天然歯サンプルの研削面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを貼り付けた。
次に、この穴が開けられた部分の表面(天然歯露出面)に各実施例および比較例で用いるプライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付けた。なお、プライマーを用いない比較例1から3では、このプライマー処理を省略した。
次いで、この後、各実施例および比較例で用いるコーティング材をスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射し、37℃、24時間保った。なお、実施例4では、プライマーをスポンジで塗布し、30秒放置した後に圧縮空気を約10秒間吹き付け、トクヤマパワーライトにより30秒光照射した後に、上記コーティング処理を行った。以上の操作により、天然歯露出面をコーティング処理した。
その後、瞬間接着剤をコーティング処理された天然歯露出面上に塗布し、その上から直径8mmのステンレス製アタッチメント(接着試験片)を圧接して接着試験評価用サンプルを準備した。次いで、この接着試験評価用サンプルを、37℃で24時間静置した後、引張試験機(島津製作所製オートグラフ)を用い、クロスヘッドスピード2mm/minにて、天然歯と接着試験片(ステンレス製アタッチメント)との接着強度を測定した。なお、1試験当り、4つの試験片について、引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度として評価した。

Claims (4)

  1. (a)酸性基を含有するラジカル重合性単量体および(b)ラジカル重合開始剤を含むプライマーと、
    (i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、
    を少なくとも含むことを特徴とする歯のコーティング用キット。
  2. 請求項1に記載の歯のコーティング用キットにおいて、
    (i)前記有機ケイ素化合物が、前記反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、および、グリシドキシ基から選択される少なくとも1つの反応性有機官能基を含むことを特徴とする歯のコーティング用キット。
  3. 請求項1または2に記載の歯のコーティング用キットにおいて
    (a)前記ラジカル重合性単量体が、前記酸性基として、リン酸、ホスホン酸、および、カルボン酸から選択される少なくとも1つの酸性基を含むことを特徴とする歯のコーティング用キット。
  4. 請求項1〜3のいずれか1つに記載のプライマーと請求項1〜3のいずれか1つに記載のコーティング材とを少なくとも含む歯のコーティング用キットにおいて、
    当該歯のコーティング用キットを用いた歯の表面のコーティング処理が、
    歯の表面に上記プライマーを塗布して未硬化プライマー層を形成する未硬化プライマー層形成工程と、
    上記未硬化プライマー層上に上記コーティング材を塗布して未硬化コーティング層を形成する未硬化コーティング層形成工程と、
    光照射により上記未硬化プライマー層および上記未硬化コーティング層を硬化させる硬化工程とを含むものに適用され、
    上記歯の表面が、レジン歯の形成材料である重合性ペーストを硬化させた後に、最表面層を除去する処理を施していないレジン歯の表面を含むことを特徴とする歯のコーティング用キット。
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