この種の係合装置により、相互に差動作用を有する複数の回転要素のうち一の回転要素をロックする構成を採るハイブリッド車両において、係合装置の係合要素同士を係合させる過程において、車両に外乱要素が入力された場合、例えばドライバ操作等により内燃機関に対する要求出力が変化すると、係合要素同士の回転同期状態の維持が困難になってしまうという問題がある。係る問題に対し、上記各特許文献に開示される技術思想は、元より係合時の要求出力の変化が考慮されていないため、係る問題を好適に解決することはできない。即ち、上記各特許文献に開示される技術を含む従来の技術には、係合要素同士を係合させるにあたって内燃機関の要求トルクに変化が生じた場合に、騒音やショックの増大を回避できないという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであって、係合要素同士を係合させるにあたって騒音やショックの発生を抑制可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、内燃機関及び回転電機を含む動力要素と、前記回転電機により回転速度が調整可能な第1回転要素、車軸に繋がる駆動軸に連結される第2回転要素及び前記内燃機関に連結される第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備え、該複数の回転要素の状態に応じて定まる動力伝達モードに従って前記動力要素と前記駆動軸との間の動力伝達を行う動力伝達機構と、前記第1回転要素に固定された第1係合要素と該第1係合要素に対向するように取り付けられた第2係合要素とを有し、前記動力伝達モードとして前記内燃機関の回転速度と前記駆動軸の回転速度との比たる変速比が固定される固定変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合してなるロック状態と、前記動力伝達モードとして前記変速比が連続的に可変な無段変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合しない非ロック状態との間で状態を切り替え可能に構成されると共に、前記非ロック状態から前記ロック状態へと前記状態を切り替える過程としてのロック過程が、前記第1係合要素と前記第2係合要素とを回転同期状態に維持する回転同期段階と、前記回転同期状態において前記第1係合要素と前記第2係合要素とを係合させる係合段階とを含むロック手段と、を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記回転電機のトルクを推定する推定手段と、前記推定されたトルクに基づいて、前記係合段階における前記回転電機の回転速度の不確定さγを算出する算出手段と、前記回転電機の回転速度に対応する回転同期状態判別用の閾値βを、前記算出された不確定さγに基づいて、設定する設定手段と、前記回転電機の回転数速度が前記設定された閾値β以内である場合に、前記第1及び第2係合要素が前記回転同期状態であると判別する判別手段と、前記回転同期状態と判別された場合に、前記状態を切り替えるように前記第1及び前記第2係合要素を制御する制御手段とを備え、前記設定手段は、前記不確定さγが大きいほど前記閾値βが小さくなるように設定することを特徴とする。
本発明に係るハイブリッド車両は、動力要素として、例えばモータジェネレータ等の電動発電機等の形態を採り得る回転電機と、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関とを少なくとも備えた車両である。また、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このハイブリッド車両を制御する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
本発明に係るハイブリッド車両は、動力伝達機構を備える。動力伝達機構は、回転電機によりその回転速度を調整可能な第1回転要素、駆動軸に連結される第2回転要素及び内燃機関に連結される第3回転要素を含む、相互に差動作用をなし得る複数の回転要素を備えており、係る差動作用により各回転要素の状態(端的には、回転可能であるか否か及び他の回転要素又は固定要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて定まる各種の動力伝達モードに従って、上記動力要素と駆動軸との間の動力伝達(端的にはトルクの伝達である)を行う機構である。特に、動力伝達機構に備わる複数の回転要素のうち、第1、第2及び第3回転要素は、典型的には、これらのうち二要素の回転速度が定まれば自ずと残余の一回転要素の回転速度が定まる二自由度の差動機構(尚、回転要素は必ずしもこれら三要素に限定されない)を構築する。動力伝達機構は、例えば、一又は複数の遊星歯車機構等のギア機構を好適な一形態として採り得るものであって、複数の遊星歯車機構を含む場合には、各遊星歯車機構を構成する回転要素の一部が複数の遊星歯車機構相互間で適宜共有され得る。
動力伝達機構は、好適な一形態として、内燃機関の動力(端的にはトルクである)を第1回転要素と駆動軸(即ち、駆動軸に連結される回転要素)とに所定の比率で分配可能な所謂動力分割機構や、動力要素として他の回転電機が備わる構成において、複数の回転電機の役割を、内燃機関の反力を負担する反力要素と駆動軸への動力供給を担う出力要素との間で交互に切り替えるための、或いは回転電機の回転速度を適宜減速又は変速するための各種減速又は変速機構等を含み得るが、動力伝達機構の実践上の態様は、ハイブリッド車両の仕様、仕向け、要求性能、或いは例えば電気的、機械的又は経済的な各種の制約に応じて多種多様であってよい。
尚、「動力伝達モード」とは、動力伝達に際しての物理的、機械的又は電気的な各種の制約及び仕組みの総称であり、例えば、駆動軸の回転速度と内燃機関の回転速度との比たる変速比に関して言えば、例えば固定されているのか自由に又は予め物理的又は電気的に定まり得る範囲で連続的であるのかといった性質に関するモードや、その採り得る範囲に関するモード、反力要素及び出力要素の選択に関するモード、走行用の動力を供給すべき動力要素の選択に関するモード、駆動軸への動力供給を担う出力要素と内燃機関の反力を受け持つ反力要素との間の役割分担に関するモード等を適宜含み得る趣旨である。
本発明に係るハイブリッド車両は、ロック手段を備える。ロック手段は、第1回転要素に同軸的に取り付けられた第1係合要素と、この第1係合要素に対向するように取り付けられ、第1係合要素と係合可能な第2係合要素とを備え、これらが相互に係合してなるロック状態と、これらが相互いに解放された非ロック状態とを採ることができる。
ロック手段が非ロック状態にある場合、動力伝達機構により、動力伝達モードの一つとして無段変速モードが実現される。無段変速モードでは、内燃機関の回転速度と駆動軸の回転速度との比たる変速比を、理論的に、実質的に或いは予め規定された物理的、機械的、機構的又は電気的な制約の範囲内で連続的に(実践上連続的であるのと同等に段階的な態様を含む)変化させることが可能となる。より具体的には、上述の二自由度の差動機構において回転電機を内燃機関の反力を受け持つ反力要素として機能させ、回転電機の回転速度を制御することにより内燃機関の回転速度を自由に制御することが可能となる。この場合、好適な一形態として、内燃機関の動作点(例えば、機関回転速度とトルクとにより規定される内燃機関の一運転条件を規定する点)が、例えば、理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で自由に選択され、例えば、燃料消費率が理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で最小となる、或いはハイブリッド車両のシステム効率(例えば、動力伝達機構の伝達効率と内燃機関の熱効率等に基づいて算出される総合的な効率である)が理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で最大となる、最適燃費動作点等に制御される。
一方、ロック手段がロック状態にある場合、動力伝達機構により、動力伝達モードの一つとして固定変速モードが実現され、変速比が一の値に固定される(尚、固定される変速比は、例えば有段変速機等により複数の変速比の中から選択されてもよい)。即ち、ロック状態において、内燃機関の回転速度は、第2係合要素と係合した第1係合要素の回転速度、即ち第1回転要素の回転速度と、車速に律束される第2回転要素の回転速度とにより必然的に定まることとなる。第2係合要素は、好適には固定要素であるが、固定変速モードを実現可能である限りにおいて回転要素であってもよい。固定変速モードでは、ロック手段に内燃機関の反力を負担させることが可能となるため、回転電機を理想的には非稼動とすることができ、運転条件により生じ得る、所謂動力循環と称される無駄な電気パスの発生を回避することが可能となる。
ここで、本発明に係るロック手段は、非ロック状態からロック状態へ状態遷移する過程として規定されるロック過程が、第1係合要素と第2係合要素とを回転同期状態に維持する回転同期段階と、回転同期状態に維持されたこれら第1及び第2係合要素を相互に係合させる係合段階とを含む構成となっており、例えばドグクラッチ機構やカムロック機構等の、所謂回転同期式の係合装置となっている。
このように本発明におけるハイブリッド車両は、動力要素、動力伝達機構及びロック手段を備えてなり、以下に説明する「推定手段」、「算出手段」、「設定手段」、「判別手段」及び制御手段を備えた制御装置によって制御される。
推定手段は、回転電機のトルクを推定する。外乱要素の入力がハイブリッド車両にあった場合、回転電機のトルクは少なからずその影響を受ける。回転電機により回転速度が調整可能な第1回転要素は、駆動軸側の第2回転要素及び内燃機関側の第3回転要素と相互に差動関係にあり、車速が変化しない(即ち、第2回転要素の回転速度が変化しない)と仮定すれば、第1回転要素の回転状態は、第3回転要素の回転状態に左右される。従って、係合段階を迎えるにあたって外乱要素の入力がある場合、回転電機のトルクは程度の差こそ変化する。外乱要素によるトルクの変化は外乱要素の種類、ハイブリッド車両を構成する要素等の要因が複雑に絡み合っているため、その変化を正確に把握することは実践上不可能である。そこで、本発明では、例えば外乱オブザーバ等を用いて外乱要素が入力される前後の回転電機のトルクの差分に基づいて、回転電機のトルクを推定する。
ここで「推定」とは、検出、算出、導出、推定、同定、選択及び取得等の包括概念であって、制御上の参照情報として確定し得る限りにおいて、その実践的態様は如何様にも限定されない趣旨である。例えば、特定手段は、ハイブリッド車両のアクセル開度及び車速から推定される要求駆動力に基づいた演算処理の結果として、或いはこれらに基づいてマップから該当値を選択することによって推定を行ってもよい。
しかしながら、このように推定された回転電機のトルクには必然的に誤差が伴う。そのため、回転電機の回転速度もまた誤差を伴うこととなる。上述のように、回転電機は第1回転要素の回転速度を調整可能に配置されているため、第1回転要素に固定された第1係合要素の回転速度にも誤差に伴う不確定さが生じる。従って、外乱要素の入力がある場合、第1及び第2係合要素の回転同期状態を正確に制御することが困難になるという問題がある。
この問題に対して、本発明では、第1及び第2係合要素が回転同期状態であると判別するための閾値βを、不確定さγが大きいほど小さくなるように設定することで解決を図っている。ここで、閾値βは、判別手段において第1及び第2係合要素が回転同期状態であるか否かを判別するための閾値として用いられる。仮に回転電機の回転速度が誤差を伴わず、正確に制御することが可能である場合には、当該閾値は第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度の最大値として設定すればよいが、実際の回転電機の回転速度には不確定さγが伴うため、本発明では回転同期状態であるか否かの判別するための閾値を考慮して、第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度の最大値よりも小さい値に設定する。特に、不確定さγが増大するにつれて、第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度に、より確実に収まるように不確定さγが大きいほど、閾値βは小さくなるように設定される。このように閾値βを設定すれば、第1及び第2係合要素の相対的な回転速度が仮にγ(すなわち不確定さの最大値の分)だけばらついたとしても、依然として、相対的な回転速度は、第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度の最大値以内に収めることができるので、係合ショックが問題になることを抑制することができる。即ち、予め回転電機の回転速度の不確定さを回転同期状態を判別するための閾値を設定する際に考慮することで、より確実に係合ショックの発生を効果的に抑制することができる。
尚、具体的な閾値βの設定方法としては、第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度の最大値をαとすると、例えばβ=α/f(γ)、β=α・g(γ)及びβ=α・k・γなどの算出式を用いることができる。ここで、f(γ)及びg(γ)は、不確定さγを変数とする任意の関数であり、kは所定の定数である。これらの関数及び定数は、係合ショックは問題にならない程度に微小になるような回転同期状態を判別するための閾値βが算出されるように、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて設定される。
制御手段は、判別手段において回転同期状態と判別された場合に、第1及び前記第2係合要素を係合させるように制御する。
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、係合時に外乱要素の入力がある場合であっても、予め回転電機の回転速度の不確かさを考慮して回転同期状態を判別することによって、係合時における騒音や係合ショックを効果的に抑制することが可能となる。これは、係合要素を構成するギア等がかけたり破損したりすることを効果的に回避することにも繋がる。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一の態様では、前記設定手段は、前記閾値βを、次式β=α―γ但し、αは前記第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度の最大値により算出することで又は該式に基づいて予め作成されたマップから前記回転電機の回転数速度に対応する前記閾値βを読み出すことで、前記閾値βを設定することを特徴とする。
この態様によれば、第1及び第2係合要素が回転同期状態であると判別するための閾値βは、第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度の最大値αと、係合段階における回転電機の回転速度の不確定さγとの差として設定される。ここで、「第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度」とは、第1及び第2係合要素を係合させた場合に、係合ショックが生じない、又は生じたとしてもドライバに対して不快感を与えない程度に微小になるような相対的な回転速度である。即ち、厳密な意味では第1及び第2係合要素を係合させる場合には相対速度をゼロにすることが係合ショックを完全に解消できるという観点から最も好ましいが、実際には少々の相対的な回転速度があっても係合ショックは問題にならない程度に微小である。従って、「第1及び第2係合要素が係合可能な相対的な回転速度」とは、ハイブリッド車両に用いられる係合要素の種類、材質等によって個別の値を有するものであり、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて設定される。従って、本発明に係る「係合可能な相対的な回転速度の最大値」とは、当該ロック手段或いは制御装置に固有であると共に予め設定される、既知の値である。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記算出手段は、前記不確定さγを、前記ロック過程における所定の期間Δtに入力された外乱トルクによる前記推定されたトルクの変化量ΔT、前記係合段階における前記回転電機の回転速度の不確定さγ及び前記回転電機の慣性モーメントJから次式γ=ΔT×Δt/Jにより算出することを特徴とする。
本願発明者の研究によれば、係合時に外乱要素の入力がある場合に生じる、回転電機の回転速度の不確かさγは上式によって算出することができる。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記推定手段は、前記ハイブリッド車両へ入力される外乱要素を監視する外乱オブザーバを有する。
この態様では、外乱オブザーバを用いて、回転電機の過去のトルクの経時変化を基準に現時点におけるトルクを推定する。例えば、外乱オブザーバが一次遅れを含む場合、即ち時間微分を行うことによって回転電機のトルクを推定する場合には、必然的に推測されたトルクには誤差が伴う。このような場合であっても、本願の発明によれば、上述のように予め生じる誤差を考慮して回転同期状態を判別するための閾値を設定することによって、係合ショックが生じることを効果的に抑制することができる。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記係合段階より前の所定の期間において、前記内燃機関のトルクの値を制御するための信号である内燃機関出力指示信号を一定値又は一定範囲内に維持する一定化手段を更に備える。
上述の各態様では、予め回転電機の回転数の不確定さγを考慮して閾値βを設定しているが、外乱要素の影響が大きい場合、例えばドライバが急加減速したり、路面状況が急激に変化した場合には、不確定さγの値が大きくなる。すると、回転同期状態を判別するための閾値β(=α―γ)の値が小さくなり、回転電機の回転数をより精度よく行う必要が生じ、回転同期状態を実現することが困難になってしまう。前述のように、係合時に外乱要素の入力がある場合には回転電機の回転数を正確に制御することは困難であるため、閾値βが極端に小さくなってしまうと、回転同期状態を実現することが現実的に不可能になってしまう。
そこで、本態様に係る制御装置では、不確定さγが過度に大きくならないように、一定化手段により内燃機関出力指示信号を一定値又は一定範囲内に維持する。内燃機関出力指示信号とは、例えばエンジンなどの内燃機関に出力すべきトルクを指示するエンジン指令パワー信号であり、ドライバのアクセルペダルの踏み具合に応じて変化する信号である。つまり、一定化手段によって、ドライバがアクセルを大きく踏み込んでも、不確定さγが過度に大きくなる場合には、エンジン指令パワー信号はアクセルの踏み込みの程度まで増加せずに、より小さい値で一定に制限される。言い換えれば、不確定さγが適度な大きさになるように、内燃機関出力指示信号を一定値に制限される。
以上説明したように、本態様によれば、大きな外乱要素の入力があった場合であっても、内燃機関出力指示信号を適切に制限することによって、回転電機の回転数の不確定さγを適切な値に抑え、より確実に係合ショックの発生を抑制することが可能となる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<1:第1実施形態>
<1-1:実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両1の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両1の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、ハイブリッド車両1は、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びECU100を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するMG1ロック制御を実行可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る各種手段の一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能な不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1のパワートレインとして機能する動力ユニットである。
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、入力軸400、駆動軸500、減速機構600及びロック機構700を備える。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能するように構成されている。
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「回転電機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギアS1と、サンギアS1の外周に同心円状に或いは同軸的に設けられた、本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギアR1と、サンギアS1とリングギアR1との間に配置されてサンギアS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギアP1と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備えた、本発明に係る「動力伝達機構」の一例たる動力分配装置である。
ここで、サンギアS1は、サンギア軸310を介してモータジェネレータMG1のロータRTに連結されており、その回転速度はモータジェネレータMG1の回転速度(以下、適宜「MG1回転速度Nmg1」と称する)と等価である。また、リングギアR1は、駆動軸500及び減速機構600を介してモータジェネレータMG2の不図示のロータに結合されており、その回転速度はモータジェネレータMG2の回転速度(以下、適宜「MG2回転速度Nmg2」と称する)と等価である。更に、キャリアC1は、エンジン200の先に述べたクランクシャフト205に連結された入力軸400と連結されており、その回転速度は、エンジン200の機関回転速度NEと等価である。尚、ハイブリッド駆動装置10において、MG1回転速度Nmg1及びMG2回転速度Nmg2は、夫々レゾルバ等の回転センサにより一定の周期で検出されており、ECU100に一定又は不定の周期で送出されている。
一方、駆動軸500は、ハイブリッド車両1の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFLと、デファレンシャル等各種減速ギアを含む減速装置としての減速機構600を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸500に供給されるモータトルクTmg2(即ち、本発明に係る「動力」の一例である)は、減速機構600を介して各ドライブシャフトへと伝達され、各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、同様に減速機構600及び駆動軸500を介してモータジェネレータMG2に入力される。即ち、MG2回転速度Nmg2は、ハイブリッド車両1の車速Vと一義的な関係にある。
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200からクランクシャフト205を介して入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1とピニオンギアP1とによってサンギアS1及びリングギアR1に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギアR1の歯数に対するサンギアS1の歯数としてのギア比ρを定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギア軸310に現れるトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるトルクTerは下記(2)式により夫々表される。
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
尚、本発明に係る「動力伝達機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構300のものに限定されない。例えば、本発明に係る動力伝達機構は、複数の遊星歯車機構を備え、一の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素が、他の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素の各々と適宜連結され、一体の差動機構を構成していてもよい。また、本実施形態に係る減速機構600は、予め設定された減速比に従って駆動軸500の回転速度を減速するに過ぎないが、ハイブリッド車両1は、この種の減速装置とは別に、例えば、複数のクラッチ機構やブレーキ機構を構成要素とする複数の変速段を備えた有段変速装置を備えていてもよい。例えばモータジェネレータMG2と減速機構600との間に、動力分割機構300と同等の遊星歯車機構を介在させ、この遊星歯車機構のサンギアにMG2のロータを、リングギアにリングギアR1を夫々連結すると共に、キャリアを回転不能に固定することによって、MG2回転速度Nmg2を減速させる構成であってもよい。
ロック機構700は、一対のクラッチ板710及び720を有するドグクラッチ機構である。
クラッチ板710は、サンギア軸310に固定されており、サンギア軸310と一体に回転可能な、本発明に係る「第1係合要素」の一例である。クラッチ板710において、クラッチ板720と対向する対向面には、周方向に所定間隔で不図示の歯状部材(所謂、ドグ歯である)が形成されている。
クラッチ板720は、固定要素たるケースCSに固定された、本発明に係る「第2係合要素」の一例である。クラッチ板720において、クラッチ板710と対向する対向面には、クラッチ板710と同様に周方向に所定間隔で不図示の歯状部材が形成されている。一対のクラッチ板710及び720は、サンギア軸310に対して、同軸的に取り付けられている。
クラッチ板720は、不図示の電磁アクチュエータの作用により、図中右方向へ所定量ストローク可能に構成されており、所定量ストロークした状態において、対向面に形成された歯状部材が、クラッチ板710の対向面に形成された歯状部材と相互に噛合する(より具体的には、一方の凸部と他方の凹部が、また一方の凹部と他方の凸部とが噛合する)ことにより、ロック状態を採るように構成されている。ロック状態において、クラッチ板710の回転は、固定要素たるケースCSに固定されたクラッチ板720によって阻まれ、クラッチ板710は回転不能にロックされる。
補足すると、このようにドグクラッチ機構では、係合要素同士が回転同期した状態で、最終的に係合要素同士が所定の位相関係にある必要がある。従って、ロック機構700を非ロック状態(クラッチ板同士が離間した状態)からロック状態へ状態遷移させるロック過程においては、(ア)モータジェネレータMG1によりクラッチ板710の回転がゼロ又は略ゼロに維持され、更に位相制御により然るべき位相状態が形成された後に、(イ)アクチュエータによりクラッチ板720がストロークされる構成を採る。即ち、(ア)は本発明に係る「回転同期段階」の一例であり、(イ)は本発明に係る「係合段階」の一例である。尚、係合段階には、或いは係合段階の後段階としては、歯状部材相互間に形成されたガタを詰める所謂ガタ詰め段階が存在してもよい。
尚、この電磁アクチュエータは、PCU11を介してECU100と電気的に接続された状態となっており、その動作状態は、ECU100により制御される構成となっている。また、ドグクラッチ機構の実践的態様は、ロック機構700のものに限定されない。例えば、サンギア軸310に、第1係合要素として中空のハブが固定され、このハブの外周面に歯状部材(即ち、外歯)が形成され、一方で、ケースCSに固定された環状部材の外周面に同様に歯状部材(即ち、外歯)が形成され、更に、第2係合要素として、この環状部材の外歯に勘合する内歯を有するスリーブが、図示右方向に電磁アクチュエータによりストローク可能に設置される構成であってもよい。この場合、スリーブの内歯と環状部材の外歯とを常時噛合させ、ストローク時にスリーブの内歯が更にハブの外歯と噛合することにより、ハブと環状部材とを固定させ、ロック状態を構築してもよい。
また、本発明に係るロック手段は、このようなドグクラッチ機構に限定されない。例えば、ロック手段は、サンギア軸310に固定された、第1係合要素たるカムと、このカムとの間にカムボールを挟んでこのカムと一体に回転するクラッチ板と、固定要素に連結された第2係合要素たる電磁アクチュエータとを備える所謂カムロック式係合装置であってもよい。この種のカムロック式係合装置においては、カムが係合対象(この場合、固定要素たる電磁アクチュエータである)と回転同期した状態において、電磁アクチュエータによりクラッチ板を電磁アクチュエータ側の摩擦要素へ引きつけ、クラッチ板とカムとの間に生じる差回転によりカムボールを介してセルフロック作用を発現させ、カムの回転を阻止することが可能である。
<1-2:実施形態の動作>
<1-2-1:変速モードの詳細>
本実施形態に係るハイブリッド車両1は、サンギアS1の状態に応じて、本発明に係る「動力伝達モード」の一例たる変速モードとして固定変速モード又は無段変速モードを選択可能である。ここで、図3を参照し、ハイブリッド車両1の変速モードについて説明する。ここに、図3は、ハイブリッド駆動装置10の動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図3(a)において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1(一義的にサンギアS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータジェネレータMG2(一義的にリングギアR1)が表されている。ここで、動力分割機構300は、回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギアS1、キャリアC1及びリングギアR1のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が必然的に定まる構成となっている。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表すことができる。尚、これ以降適宜、動作共線図上の点を動作点mi(iは自然数)によって表すこととする。即ち、一の動作点miには一の回転速度が対応している。
図3(a)において、モータジェネレータMG2の動作点が動作点m1であるとする。この場合、モータジェネレータMG1の動作点が動作点m3であれば、残余の一回転要素たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点m2となる。この際、駆動軸500の回転速度を維持したままMG1の動作点を動作点m4及び動作点m5に変化させれば、エンジン200の動作点は夫々動作点m6及び動作点m7へと変化する。
即ち、この場合、モータジェネレータMG1を回転速度制御装置とすることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能となる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(この場合の動作点とは、機関回転速度とエンジントルクTeとの組み合わせによって規定される)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。尚、当然ながら無段変速モードにおいて、MG1回転速度Nmg1は可変である必要がある。このため、無段変速モードが選択される場合、ロック機構700は、サンギアS1が解放状態となるように、その駆動状態が制御される。
ここで補足すると、動力分割機構300において、駆動軸500に先に述べたエンジントルクTeに対応するトルクTerを供給するためには、サンギア軸310にエンジントルクTeに応じて現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符合が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクをモータジェネレータMG1からサンギア軸310に供給する必要がある。この場合、動作点m3或いは動作点m4といった正回転領域の動作点において、モータジェネレータMG1は正回転負トルクの発電状態となる。即ち、無段変速モードにおいては、モータジェネレータMG1(一義的にサンギアS1)を反力要素として機能させることにより、駆動軸500にエンジントルクTeの一部を供給し、且つサンギア軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で発電が行われる。駆動軸500に対し要求されるトルクがエンジン直達のトルクで不足する場合には、この発電電力を利用する形で、モータジェネレータMG2から駆動軸500に対し適宜トルクTmg2が供給される。
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えばMG2回転速度Nmg2が高いものの機関回転速度NEが低く済むような運転条件においては、MG1が、例えば動作点m5の如き負回転領域の動作点となる。この場合、モータジェネレータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しており、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータジェネレータMG1からのトルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸500に伝達されてしまう。
他方で、モータジェネレータMG2は、駆動軸500に出力される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータジェネレータMG2は、正回転負トルクの状態となって発電状態となる。このような状態においては、モータジェネレータMG1からの駆動力をモータジェネレータMG2での発電に利用し、この発電電力によりMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10の伝達効率が低下してハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
そこで、ハイブリッド車両1では、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構700が先に述べたロック状態に制御される。その様子が図3(b)に示される。ロック機構700がロック状態となると、即ち、サンギアS1がロックされると、必然的にモータジェネレータMG1もまたロック状態となり、モータジェネレータMG1の動作点は、回転速度がゼロである動作点m8となる。このため、エンジン200の動作点は動作点m9となり、その機関回転速度NEは、車速Vと一義的なMG2回転速度Nmg2により一義的に決定される(即ち、変速比が一定となる)。このようにモータジェネレータMG1がロック状態にある場合に対応する変速モードが、固定変速モードである。
固定変速モードでは、本来モータジェネレータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクをロック機構700の物理的な制動力により代替させることができる。即ち、モータジェネレータMG1を発電状態にも力行状態にも制御する必要はなくなり、モータジェネレータMG1を停止させることが可能となる。従って、基本的にモータジェネレータMG2を稼動させる必要もなくなり、MG2は言わば空転状態となる。結局、固定変速モードでは、駆動軸500に現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸500側に分割された直達成分(上記(2)式参照)のみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
<1-2-2:MG1ロック制御の詳細>
ハイブリッド車両1において、変速モードは、ECU100によりその都度、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率ηsysがより高い変速モードに制御される。この際、ECU100は、予めROMに格納された変速マップを参照する。この変速マップは、縦軸及び横軸に夫々要求駆動力Ft及び車速Vが表されてなる二次元マップである。変速マップ上においては、モータジェネレータMG1をロック状態に制御して固定変速モードを選択すべき領域が、MG1ロック領域として規定されている。尚、要求駆動力Ftとは、各ドライブシャフトに加わる駆動力の要求値であり、車速センサ14により検出される車速Vとアクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Accとをパラメータとする要求駆動力マップより取得される。ECU100は、車速V及び要求駆動力Ftにより規定されるハイブリッド車両1の運転条件が、固定変速モードに該当する場合に、MG1ロック制御を実行することによって、変速モードを無段変速モードから固定変速モードへ切り替える。
ここで、図4を参照し、MG1ロック制御の詳細について説明する。ここに、図4は、MG1ロック制御のフローチャートである。
図4において、まずECU100は、回転同期制御を実行する(ステップS101)。ここで、回転同期制御とは、クラッチ板710とクラッチ板720とを回転同期状態に維持する制御であり、モータジェネレータMG1によりクラッチ板710の回転速度を、クラッチ板720の回転速度と同様に、ゼロになるように或いはゼロに近付けるように制御することにより実現される。また、本実施形態では、この回転同期制御において、クラッチ板710とクラッチ板720との位相状態も制御されることとする。即ち、これ以降に説明における「回転同期状態」とは、両者間で回転速度が同期し且つ位相が整合した状態を意味することとする。
回転同期制御が開始されると、ECU100は、回転同期判別用閾値βを設定する(ステップS102)。ここで、回転同期判別用閾値βとは、クラッチ板710とクラッチ板720との回転速度の差に対応する、回転同期制御が終了したか否かを判別するための閾値である。上述の通り、厳密な意味での回転同期状態は、両者間の回転速度が等しくなることが必要とされるが、実際には、両者の回転速度が厳密に一致していない場合であっても、回転同期状態とみなすことができる。即ち、クラッチ板710とクラッチ板720との互いの回転速度の差がある程度小さければ、両者を係合させた場合に係合ショックや騒音が発生しない、又は発生しても問題とならない。そこで、本実施形態では、クラッチ板710とクラッチ板720との互いの回転速度に差はある場合であっても、その回転速度の差が回転同期判別用閾値β以内であれば、実質的に係合ショックや騒音が発生しない、又は発生しても問題とならないとして回転同期状態であると判別するように設定される。後述するように本実施形態では、クラッチ板710とクラッチ板720との回転速度の差が、回転同期判別用閾値β以内に収まった場合に回転同期状態であると判別される。
回転同期判別用閾値βは、クラッチ板710及びクラッチ板720の材質や形状等の固有の要素から、クラッチ板710とクラッチ板720とを係合させた場合に係合ショックが発生しない、又は発生しても問題とならない最大の回転速度の差として規定される許容値αと、係合段階におけるモータジェネレータMG1の回転数の乱れを示す回転数誤差γとを用いて、次式
β=α―γ・・・(3)
によって規定される。
尚、本実施形態においては、閾値βの設定方法として、(3)式を採用しているが、例えば、不確定さγを変数とする任意の関数f(γ)及びg(γ)、並びに所定の定数kを用いて、β=α/f(γ)、β=α・g(γ)及びβ=α・k・γなどの算出式を用いて閾値βを設定することも可能である。この場合、これらの関数及び定数は、係合ショックは問題にならない程度に微小になるような回転同期状態を判別するための閾値βが算出されるように、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて設定するとよい。
係合ショックを抑制するために、クラッチ板710及びクラッチ板720は、係合が開始する以前に回転同期状態にある必要があるが、クラッチ板710が固定されるサンギアS1は、駆動軸500側のリングギアR1及びエンジン200側のピニオンギアP1と相互に差動関係にあり、車速が変化しない(即ち、リングギアR1の回転速度が変化しない)と仮定すれば、サンギアS1の回転状態は、ピニオンギアP1の回転状態に左右される。従って、ロック過程を迎えるにあたってエンジントルクTeが変動すると、係合要素同士の同期関係が程度の差こそあれ崩れ、騒音レベルや係合ショックのレベルが実践上看過し難い程度に上昇する懸念がある。補足すれば、サンギアS1の回転状態は、モータジェネレータMG1により制御されるから、定常的に見れば、エンジントルクTeの変動に伴うサンギアS1の回転変動は、モータジェネレータMG1のトルクTmg1の制御により抑制できるものの、一種の過渡過程であるロック過程において、クラッチ板710及びクラッチ板720の位相関係を好適に維持し得る程度に精細にサンギアS1の回転変動を抑制することは、実践上不可能に近い。尚、このようにエンジントルクTeに変動が生じる場合としては、例えばドライバのスロットルの踏み込み具合が係合時に変化したり、ハイブリッド車両1の走行路面の状況が変動する場合など、ハイブリッド車両に対して外乱要素が入力された場合が相当する。
このように係合時におけるエンジントルクTeの変動に起因して、クラッチ板710及びクラッチ板720の位相関係を好適に維持することが困難になることを抑制するために、本実施形態では、クラッチ板720と同軸上に固定されたモータジェネレータMG1の回転数Nmg1をフィードバック制御を行っている。ここで、図5は、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1のフィードバック制御に関する各種制御信号の入出力を示すブロック図である。
ECU100は、クラッチ板710及びクラッチ板720を回転同期状態にするためのモータジェネレータMG1の目標回転数(即ちクラッチ板710の回転速度がゼロになるような回転数)を設定し、制御対象であるモータジェネレータMG1の実際の回転数Nmg1がこの目標回転数に一致するように、制御対象であるモータジェネレータMG1のトルクTmg1を制御する。しかし、上述のように外乱要素の入力がある場合、モータジェネレータMG1のトルクTmg1が少なからず乱されるので、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1もまた目標回転数からずれてしまう。そこで、ECU100は、実際のモータジェネレータMG1の回転数Nmg1をモニタすることで、目標回転数との差分を算出し、当該差分を打ち消すようにモータジェネレータMG1のトルクTmg1をフィードバック制御する。
また外乱オブザーバ110は、外乱要素の入力の前後におけるモータジェネレータMG1の出力トルク(即ち、Tmg11及びTmg12)を夫々取得する。外乱オブザーバ110は、外乱要素の入力の前後におけるモータジェネレータMG1の出力トルクTmg11及びTmg12の差分ΔTを求め、当該差分ΔTに基づいてエンジントルクTEのうちモータジェネレータMG1のロータRTに印加される分力を推定する。前述のとおり、モータジェネレータMG1のトルクTmg1は、エンジントルクTEの反力として発生させられるので、このようにエンジントルクTEのうちモータジェネレータMG1のロータRTに印加される分力を推定することによって、モータジェネレータMG1のトルクTmg1を推定することができる。ECU100は、このように外乱オブザーバ110によって推定されたモータジェネレータMG1のトルクTmg1(以下モータジェネレータMG1の推定トルクTmgn1という)に基づいて、トルクの観点からもモータジェネレータMG1の回転数Nmg1をフィードバック制御している。
ここで図6は、実際のモータジェネレータMG1のトルクTmg1と、モータジェネレータMG1の推定トルクTmgn1との関係を示すグラフ図である。
図6に示すように、例えば、時刻t1からドライバがハイブリッド車両1のアクセルを踏むことによって、実際のモータジェネレータMG1のトルクTmg1が時間に比例するように増加した場合、モータジェネレータMG1の推定トルクTmgn1は、モータジェネレータMG1のトルクTmg1と同様に時刻t1から増加し始めるものの、時刻t1付近の時間では実際のモータジェネレータMG1のトルクTmg1に比べて増加の速度が遅い。即ち、モータジェネレータMG1の推定トルクTmgn1は、実際のモータジェネレータMG1のトルクTmg1に対して時間的な遅延を伴う。この遅延は外乱オブザーバ110が推定トルクTmgn1を求める過程において時間微分を含んでいることに起因するものである。具体的には、本実施形態における外乱オブザーバ110は、ある特定の時刻において推定トルクTmgn1を求める際に、当時刻より過去のモータジェネレータMG1のトルクTmg1の変化履歴について時間微分演算を施す。従って、ある時刻で外乱が入力されることによって実際のモータジェネレータMG1のトルクTmg1が変化したとしても、推定トルクTmgn1は過去のモータジェネレータMG1のトルクTmg1に基づいて算出されているため、入力された外乱の影響を含んでいない。そのため、モータジェネレータMG1の推定トルクTmgn1は必然的に誤差を含む。
このようにモータジェネレータMG1の回転数Nmg1のフィードバック制御に用いられる推定トルクTmgn1に誤差が含まれると、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1の制御の正確さが低下してしまう。そこで本実施形態に係る制御装置では、予め推定トルクTmgn1に誤差を考慮して、回転同期状態にあるか否かを判別するための回転同期判別用閾値βを設定する際に考慮することで、係合ショックの発生を効果的に抑制することができる。本願発明者の研究によれば、推定トルクTmgn1に含まれる誤差に基づいて生じるモータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγは、モータジェネレータMG1が有する慣性モーメントJを用いて、次式
γ=(Tmg1−Tmgn1)/J・・・(4)
によって求めることができる。
再び図4に戻って、ECU100は設定された回転同期判別用閾値βに基づいて、回転同期が完了したか否かを判別する(ステップS103)。
ここで、仮にモータジェネレータMG1の回転数Nmg1を正確に制御できると仮定した場合、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1は、クラッチ板710及びクラッチ板720の材質や形状等の固有の要素から、クラッチ板710とクラッチ板720とを係合させた場合に係合ショックが発生しない、又は発生しても問題とならない最大の回転速度の差として規定される許容値αを基準として回転同期が完了したか否かが判別される。即ち、回転数Nmg1が正確に把握できるので、許容値αを回転同期判別用閾値としてそのまま用いても、係合ショックが発生する極めて少ない。
しかしながら、上述したように、実際には、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1を正確に制御することは不可能であり、係合段階におけるモータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγの分だけ、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1に不確定さが伴うこととなる。そこで、本実施形態では、許容値αから係合段階におけるモータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγを予め差し引いた値βを回転同期判別用閾値として用いることで(上式(3)参照)、係合時のショックの発生を効果的に抑制することができる。即ち、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1に含まれる誤差を予め考慮した値に基づいて回転同期状態を判別することに特徴がある。
図7は、クラッチ板710及びクラッチ板720回転同期が完了する前後におけるモータジェネレータMG1の回転数Nmg1の経時変化の一例を示すグラフ図である。
図7に示すように、回転同期開始時からモータジェネレータMG1の回転数Nmg1は、完全に同期状態にあるゼロに向かって減少していく。そして、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1が回転同期判別用閾値β以内になった場合に、回転同期が完了したとして係合段階に移行し、ECU100はアクチュエータに命令してクラッチ板710及びクラッチ板720の係合を実行する。係合開始後、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1にはγの分だけ不確定さが伴うため、アクチュエータの作動中に回転数Nmg1は、係合開始時のモータジェネレータMG1の回転数Nmg1をNmg1sとすると、
Nmg1s―γ<Nmg<Nmg1s+γ・・・(5)
の範囲でバラツク可能性がある(図7の一点鎖線を参照)。しかしながら、バラツク範囲の上限回転数Nmg1s+γ及び下限回転数Nmg1s―γの絶対値はいずれも、回転同期判別用閾値βよりも小さいため、回転同期状態を維持することが可能である。即ち、予めモータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγを考慮して回転同期判別用閾値が設定されているため、外乱要素の入力によってモータジェネレータMG1の回転数Nmg1がばらついても、確実に係合ショックを抑制することができる。
再度図4に戻って、クラッチ板710とクラッチ板720との回転同期が完了すると(ステップS103:YES)、ECU100は、係合制御を開始する(ステップS104)。係合制御とは、クラッチ板720をクラッチ板710の方向へ所定量ストロークさせる制御を意味し、ECU100が電磁アクチュエータを駆動制御することにより実現される。尚、係合制御の実行期間は、本発明に係る「係合段階」に相当する。
係合制御が開始されると、ECU100は、クラッチ板710とクラッチ板720との係合が完了したか否かを判別する(ステップS105)。係合途中である場合には(ステップS105:NO)、ステップS104が継続され、クラッチ板720のストロークが継続されると共に、両者の係合が完了すると(ステップS105:YES)、MG1ロック制御は終了する。
<2.第2実施形態>
第1実施形態では、予めモータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγを考慮して回転同期判別用閾値が設定している。しかしながら、外乱要素の影響が大きい場合、例えばドライバが急加減速したり、路面状況が急激に変化した場合には、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγの値が大きくなり、バラツク範囲の上限回転数Nmg1s+γ及び下限回転数Nmg1s―γの少なくとも一方が、クラッチ板710とクラッチ板720とを係合させた場合に係合ショックが発生しない、又は発生しても問題とならない最大の回転速度の差として規定される許容値αを超えてしまうことが考えられる。この場合、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1が、許容値αを超える可能性が生じ、係合ショックが生ずるリスクが高まってしまう。
そこで、第2実施形態では、ある所定値より大きな外乱要素の入力があった場合に、ECU100によりエンジン200の出力値を指令する際の信号であるエンジン指令パワーPneの上限値を予め設定することで、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγを適切な値に抑えることができる。
図8は、モータジェネレータMG1のロック制御の実行過程におけるエンジン200の動作状態の一時間推移を例示する模式的な時間特性図である。図8では、上段から順に、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1、エンジントルクTe及びエンジン指令パワーPneの時間特性(即ち、横軸は時刻で共通である)が例示されている。
図示時刻T1において、モータジェネレータMG1のロック要求に応じて回転同期段階が開始され、クラッチ板710とクラッチ板720とが回転同期状態になるように、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1が増加し始める。時刻T2において、ドライバがスロットル開度Thrを時間に比例して増加するように操作し始める。このとき、ECU100は同時に、エンジン200に対してエンジン出力(即ちエンジントルクTe)を増加させるようにエンジン指令パワーPneを上昇させ始める。ここで、上述の通り、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγを適切な値に抑えるために、時刻T3において、エンジン指令パワーPneの値をPne1に一時的に制限する。尚、エンジン指令パワーPneの変化を受けて、エンジントルクTeは、エンジン指令パワーPneから所定の時間だけ遅延して、時刻T4から増加し始める。また時刻T4では、Pne1に制限されていたエンジン指令パワーPneが、再度増加し始める。時刻T5になると、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1の変化が終了し、クラッチ板710とクラッチ板720は回転同期状態となる。尚、本実施形態では時刻T1からT5までの回転同期段階は300msを要するものとする。また、時刻T5では、時刻T3からT4の期間(30ms)において一定とされていたエンジン指令パワーPneに対応するように、エンジントルクTeが一定に維持されると共に、クラッチ板710とクラッチ板720との係合が開始される。係合時(即ち、T5からT6の期間)においてはモータジェネレータMG1の回転数Nmg1に不確定さγが伴うものの、第1実施形態と同様に、許容値αを超えてしまうことはないため、係合ショックが生じることはない。
エンジン指令パワーPneを一定値Pne1に制限されている時刻T3からT4の期間は、クラッチ板710とクラッチ板720とが係合するのに要する期間である時刻T5からT6の期間と同様に、30msである。また、エンジン指令パワーPneの制限が開始された時刻T3と、実際にエンジントルクTeが一定に維持され始める時刻T5とは、Amsだけ時間差がある。即ち、本態様では、エンジントルクTeはエンジン指令パワーPneに対してAmsの時間遅延を伴う。
尚、係合時(即ち、T5からT6の期間)においてエンジントルクTeが一定に維持されていることは、時刻T3からT4の期間において、スロットル開度が増加しているにも関わらずエンジン指令パワーPneを一定値Pne1に制限されることに起因するものである。そのため、抑制されたエンジン指令パワーPneに従って、遅延して発生したエンジントルクTeのみを用いて走行すると、ドライバの要求(即ち、スロットル開度の程度)に対して加減速が不十分であり、ドライバに違和感を感じさせる原因ともなる。そこで、本実施形態ではバッテリ12に蓄積された電力を用いてモータジェネレータMG2を力行させることにより、制限されたエンジントルクTeを補い、ドライバの違和感を軽減させることができる。
上述したように、係合段階においてエンジントルクTeが一定値Te1に維持されるために、エンジン指令パワーPneが所定の期間において制限を受ける。この所定の期間は、ECU100によるエンジン指令パワー制限タイミング制御によって、回転同期段階のしかるべきタイミングに設けられる。図9は、エンジン指令パワー制限タイミング制御のフローチャート図である。
まず、ECU100は、エンジン指令パワーPneに対するエンジントルクTeの時間遅延A(ms)を算出する(ステップS201)。時間遅延(Ams)はエンジン200の駆動状態等によって可変であり、予めECU100は、予めROMに格納されたマップを参照することによって、遅延時間A(ms)を特定する。このマップは、例えば、縦軸及び横軸に夫々エンジントルクTe及び遅延時間A(ms)が表されてなる二次元マップである。
続いて、ステップS202では回転同期制御が開始したか否かを判断する。回転同期制御が開始されていない場合(ステップS202:NO)、ECUは再びステップS202を実行し、ループを形成する。一方、回転同期制御が開始された場合(ステップS202:YES)、ECU100はカウントを開始し(ステップS203)、カウントが次式
(300ms−A)<カウント<(300ms−A+30ms)・・・(6)
を満たすか否かを判定する。尚、図8に示すように、上式(6)の下限値(300ms−A)及び上限値(300ms−A+30ms)は、夫々エンジン指令パワーPneが制限を受けて一定に維持される期間の開始時である時刻T3及び終了時である時刻T4に対応する。
上式(6)を満たす場合(ステップ204:YES)、係合段階におけるエンジントルクTeの変化が停止するように、ECU100はエンジン指令パワーPneを一定値Pne1に制限する(ステップS205)。一方、上式(6)を満たさない場合(ステップ204:NO)は、上式(6)を満たすまでカウントを続行する。
このように、時刻T5においてエンジントルクTeの変化が一時的に停止するように、予め把握され得る時間遅延量に基づいて、エンジン指令パワーPneが一定値Pne1に制限されるタイミングである時刻T3が決定されているのである。同様に、時刻T6においてエンジントルクTeが再度増加するように、予め把握され得る時間遅延量に基づいて、エンジン指令パワーPneの制限が解除されるタイミングである時刻T5が決定される。また、本実施形態における係合段階に要する期間は30msであるが、この期間の長さ(即ち、クラッチ板同士を係合させるのに要する時間)は、クラッチ板720を所定量ストロークさせるのに要する時間であり、予め実験等により把握可能である。
このように、本実施形態に係るモータジェネレータMG1のロック制御によれば、大きな外乱要素の入力があった場合であっても、エンジン指令パワーPneを適切に制限することによって、モータジェネレータMG1の回転数Nmg1の不確定さγを適切な値に抑え、より確実に係合ショックの発生を抑制することが可能となる。
<3.第3実施形態>
上記第1及び第2実施形態においては、ハイブリッド駆動装置10が固定変速モードを採るに際して、MG1がロックされる(正確には、サンギアS1及びクラッチ板710を介してMG1がロックされる)構成を採る。然るに、固定変速モードを得るに際してのハイブリッド駆動装置の構成は、この種のMG1ロックに限定されない。ここで、図10を参照し、他のハイブリッド駆動装置の構成について説明する。ここに、図10は、本発明の第3実施形態に係るハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図10において、ハイブリッド駆動装置20は、動力分割機構300に代えて、本発明に係る「動力伝達機構」の他の一例として動力分割機構800を備える点において、ハイブリッド駆動装置10と相違する構成となっている。動力分割機構800は、複数の回転要素により構成される差動機構として、シングルピニオンギア型の第1遊星歯車機構810及びダブルピニオン型の第2遊星歯車機構820を備えた、所謂ラビニヨ型遊星歯車機構の形態を採る。
第1遊星歯車機構810は、サンギア811、キャリア812及びリングギア813並びに軸線方向に自転し且つキャリア812の自転により公転するようにキャリア812に保持された、サンギア811及びリングギア813に噛合するピニオンギア814を備え、サンギア811にモータジェネレータMG1のロータが、キャリア812に入力軸400が、またリングギア813に駆動軸500が夫々連結された構成となっている。
第2遊星歯車機構820は、サンギア821、キャリア822及びリングギア823並びに軸線方向に自転し且つキャリア822の自転により公転するように夫々キャリア822に保持された、サンギア821に噛合するピニオンギア825及びリングギア823に噛合するピニオンギア824を備え、サンギア821にブレーキ機構700のカム710(不図示)が連結された構成となっている。即ち、本実施形態においては、サンギア821が、本発明に係る「第1回転要素」の他の一例として機能する。
このように、動力分割機構800は、全体として第1遊星歯車機構810のサンギア811、第2遊星歯車機構820のサンギア821(第1回転要素)、相互に連結された第1遊星歯車機構810のキャリア812及び第2遊星歯車機構820のリングギア823からなる第3回転要素群、並びに相互に連結された第1遊星歯車機構810のリングギア813及び第2遊星歯車機構820のキャリア822からなる第2回転要素群の、合計4個の回転要素(回転要素群)を備えている。
ハイブリッド駆動装置20によれば、サンギア821がロック状態となり、その回転速度がゼロとなると、車速Vと一義的な回転速度を有する第2回転要素群と、このサンギア821とによって、残余の一回転要素たる第3回転要素群の回転速度が規定される。第3回転要素群を構成するキャリア812は、エンジン200(不図示)のクランクシャフト205に連結された入力軸400に連結されているため、結局エンジン200の機関回転速度Neは、車速Vと一義的な関係となって、固定変速モードが実現されるのである。このように、固定変速モードは、ハイブリッド駆動装置10以外の構成においても実現可能であり、それに合わせて、ブレーキ機構700のクラッチ板710が固定される第1回転要素も適宜変更されてよい。尚、動力分割機構800を構成する各回転要素のうち、相互に連結されたもの同士以外の回転要素には差動作用が生じるため、第1回転要素たるサンギア821の回転速度は、第1実施形態と同様にモータジェネレータMG1により制御可能である。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。