以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。説明する順序は以下の通りである。
1.第1の実施の形態(透過型の表示素子およびそれを搭載した表示装置の一例)
(1−1)表示素子の構成
(1−2)表示素子の製造方法
(1−3)表示装置の回路構成
2.第2の実施の形態(他の表示素子の一例)
3.変形例1(さらに他の表示素子の一例)
4.変形例2(表示素子に用いる他の媒質の例)
<1.第1の実施の形態(透過型の表示素子およびそれを搭載した表示装置の一例)>
[(1−1)表示素子の構成]
図1は本発明の第1の実施の形態に係る表示素子の平面構成を模式的に表している。また、図2は図1に示した表示素子の断面構成を模式的に表し、図2(A)は図1中のII(A)−II(A)線に沿った断面、図2(B)は図1中のII(B)−II(B)線に沿った断面をそれぞれ表している。図3は図2に示した画素電極を拡大して表している。なお、図1では、表示素子を透かして駆動用基板の平面構成を主に表している。
本実施の形態の表示素子は、媒質の屈折率を外部電界によって変化させる現象(電気光学効果)を利用して映像を表示するものである。この表示素子は、複数の画素10がマトリクス状に設けられたものであり、駆動用基板11と、対向基板21と、駆動用基板11および対向基板21の間に設けられた光変調層30と、駆動用基板11および対向基板21それぞれの外側に設けられた偏光板41,42とを備えている。この表示素子では、駆動用基板11に一方向(行方向)に平行して複数のデータ信号線71が配列されていると共に行方向と交差する方向(列方向)に複数の走査信号線72が配列されている。各画素10は、それらのデータ信号線71および走査信号線72が互いに交差する位置に配置されている。なお、ここでは、図1中の41Aの方向(方向41A)に偏光板41の吸収軸が延在し、42Aの方向(方向42A)に偏光板42の吸収軸が延在しているものとする。
(駆動用基板)
駆動用基板11(電極基板)は、透明基板12の対向基板21側の表面上に、各画素10に対応するようにマトリクス状に設けられた複数の共通電極13と、絶縁層14と、保護層15と、各共通電極13に対応するように設けられた複数の画素電極16とをこの順で有している。すなわち、この表示素子は、いわゆるFFS(Fringe Field switching)型の表示素子である。また、駆動用基板11には、複数のデータ信号線71および走査信号線72の他に、共通電極13に接続した複数の共通信号線73と、スイッチング素子としてTFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)111および画素容量(図示せず)とが設けられている。
透明基板12は、例えばガラス基板により構成されている。また、透明基板12では、その表面に、アルカリイオンなどのイオン性物質の浸透を防止するための保護膜が設けられていてもよい。
共通電極13は、光変調層30に電界Eを印加するための一方の電極であり、透明基板12の面に沿って形成される共に、データ信号線71および走査信号線72に取り囲まれた領域のうち、画素電極16の延在領域を含む領域全体にわたって延在している。共通電極13は、走査信号線72と平行して配列された共通信号線73と電気的に接続されている。共通電極13は透明であり、例えばITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)あるいは酸化亜鉛(ZnO)などの透明性を有する導電性材料(透明電極材料)などにより構成されている。共通電極13の厚さは、例えば、40nm〜120nm程度である。
絶縁層14は、共通電極13と画素電極16との間、およびデータ信号線71と走査信号線72との間を絶縁すると共にTFT111のゲート絶縁膜として機能するものであり、透明基板11上の共通電極13および走査信号線72を覆うように設けられている。絶縁層14を構成する材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンあるいは金属酸化物などが挙げられる。絶縁層14は、例えば酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜などの複数の絶縁膜が積層されたものでもよい。絶縁層14の厚さは、例えば、ゲート絶縁膜としての厚さが100nm以上750nm以下の範囲となっている。
保護層15は、共通電極13と画素電極16との間、およびデータ信号線71と走査信号線72との間を絶縁するためのものであり、絶縁層13上に、TFT111と画素電極16との接続部分を除いて、TFT111を覆うように設けられている。保護層15を構成する材料としては、例えば、アクリル樹脂などの有機膜材料、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンあるいは金属酸化物などが挙げられる。保護層15も、絶縁層14と同様に、複数の絶縁膜が積層されたものでもよい。
画素電極16は、光変調層30に電界Eを印加するためのもう一方の電極である。画素電極16は、櫛根部分16A(基部)と、櫛根部分16Aと一端が接続すると共に駆動用基板11の面内方向の一方向(ここでは方向41A)に向かって延在する複数の櫛歯部分16B(線状部分)とからなり、櫛型構造を有している。各櫛歯部分16Bは、ジグザグ形状(鋸歯形状あるいは楔形形状)を有し、駆動用基板11の面内方向において角度(鋸歯角度)αで屈曲した複数の屈曲部を有している。なお、「ジグザグ形状(鋸歯形状あるいは楔形形状)」とは、図1に示したように、櫛歯部分16Bが、櫛根部分16Aから遠ざかる方向に、角度αで交互に折れ曲がりながら伸長したような形状をいう。すなわち、ジグザグ形状の櫛歯部分16Bは、その構成単位が「V」の字型形状を有し、構成単位である「V」の字成分が櫛根部分16Aから遠ざかる方向に繰り返し連結して伸長した形状を有している。
櫛根部分16Aおよび櫛歯部分16Bは、不透明材料から構成され、図3に示したように、それらの断面形状は曲線からなる角部16Xを有している。すなわち、櫛根部分16Aおよび櫛歯部分16Bの角部16Xは丸みを帯びている。これにより、画素電極16がITOなどの透明電極材料により形成された場合と比較して、導電性の高い不透明な金属材料により形成されるため、駆動電圧が低く抑えられる。また、角部16Xに電界が集中しにくくなるため、各画素10の光変調層30に対して電界Eが均一に印加されやすくなり、表示特性が向上する。その上、角部16Xが丸みを帯びた分だけ光変調層30に対して斜め方向に入射する光Lが遮られることが抑えられるため、視野角を確保しやすくなる。なお、図3では、櫛歯部分16Bの角部16Xが丸みを帯びている状態を表しているが、櫛根部分16Aの断面形状の角部16Xにおいても丸みを帯びている。
ここでは、「曲線からなる角部16Xを有する」ことは、画素電極16の断面形状の角部16Xにおいて、その輪郭線上の各点における接線の傾きが連続的に変化することを意味する。具体的には、画素電極16が、電界Eの一点集中を抑える丸みを有していることを表している。より具体的には、角部16Xの曲率半径が、例えば5nm以上であればよい。すなわち、この場合、画素電極16の表面は、丸みを帯びた部分を含み、曲率半径5nm以上の曲面あるいは曲面および平面により構成されていればよい。これにより、角部16Xへの電界Eの集中が十分に抑えられる。その上、光変調層30に含まれる媒質(例えば、液晶材料)のディスクリネーションライン(欠陥線)の半径が5nm以上であることが多いため、光変調能に寄与する媒質の配向構造(配向秩序構造)が安定化する。これらの結果、表示特性がより向上する。特に、角部16Xの曲率半径は25nm以上であることが好ましい。すなわち、画素電極16の表面は、曲率半径25nm以上の曲面あるいは曲面および平面により構成されていることが好ましい。これにより、角部16Xへの電界Eの集中がさらに抑えられる上、光変調層30に含まれる液晶材料のロッド半径が25nm以上であることが多いため、媒質の配向構造がさらに安定化し、その結果、より表示特性が向上する。
画素電極16を構成する材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)あるいは白金(Pt)などの不透明導電体の単体、またはそれらの合金が挙げられる。また、画素電極16は、例えばパラジウム層とニッケル層との2層構造などの不透明導電体からなる層が積層された構造を有していてもよい。
画素電極16の厚さは、例えば10nm以上920nm以下であるが、画素電極16の厚さは厚いほうが好ましい。画素電極16の表面積が広がるため、光変調層30に対して印加される電界Eがより広くなり、その結果、駆動電圧がより低く抑えられるからである。ここで、画素電極16の厚さが100nmである場合と、620nmである場合とにおいて駆動電圧を比較すると、画素電極16の厚さが100nmである場合には駆動電圧が例えば30Vとなる。一方、その厚さが620nmである場合には、100nmである場合よりも10%程度駆動電圧が低下する。このように画素電極16の厚さが厚いほうが、駆動電圧を低く抑えることができる。このため、画素電極16は、特に、透明基板12の表面から垂直に立ち上がった側面16Yを有していることが好ましい。画素電極16の表面が全て曲面により構成されている場合と比較して、底面積を狭くしながら表面積(光変調層30と接する面積)が広くなるため、開口率を確保しながら、駆動電圧がより低く抑えられるからである。
画素電極16では、櫛歯部分16Bがジグザグ形状を有していることにより、光変調層30に対して2方向の電界E1,E2を印加できる。この方向の異なる電界E1,E2によって、光変調層30では光学異方性の方向が異なる領域DM1,DM2が形成され、ドメイン分割されるため、視野角特性が向上する。
櫛歯部分16Bの屈曲部の角度αは任意であるが、角度αは70°以上110°以下であることが好ましく、90°であることが特に好ましい。これにより、表示素子の透過率を損なうことなく、視野角特性がより向上する。また、櫛歯部分16Bの屈曲部の角度αは、電界E1,E2の方向と偏光板41,42の吸収軸の方向(41A,42Aの方向)とのなす角度が45°±10未満となるように設定されていることが好ましい。より高い透過率が得られるからである。
櫛歯部分16Bの形状は、領域DM1,DM2の割合(面積和の割合)が1:9〜1:1となるように設定されていることが好ましい。視覚上の色づきの改善(補償)効果が大きくなるからである。中でも、櫛歯部分16Bの形状は、光学的異方性の向きが90°異なる2つの領域DM1,DM2の割合が1:1になるように設定されていることが好ましい。これにより、ドメイン分割を行わない場合と比較して、色変化をおよそ半分程度に収めることができる。さらに、櫛歯部分16Bの形状は、屈曲部の角部が丸みを帯びているものが好ましい。これにより、電界Eが面内方向においても連続的に変化するため、透過率の均一性がより高まり、しかも視覚上の色づきの改善(補償)効果がより大きくなる。
さらに、櫛歯部分16Bの数および幅は任意であるが、櫛歯部分16Bの幅P1は、0.05μm以上8μm以下であることが好ましい。その範囲以外の場合と比較して、印加電界の強度が高まると共に十分な開口率が確保されるからである。特に、櫛歯部分16Bの幅は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましい。より十分な開口率が確保されるからである。
画素電極16を形成する方法としては、例えば、蒸着法あるいはスパッタ法などの気相法や、無電解めっき法あるいは電解めっき法などの液相法や、印刷法などが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、複数の方法を併せて用いてもよい。中でも、無電解めっき法を用いることが好ましい。これにより、めっき膜が形成面から等方的に析出して形成されるため、丸みを帯びた良好な画素電極16が形成される。また、スパッタ法などを用いる場合と比較して、微細なパターンを高精度で形成できる。その上、無電解めっき法を用いて透明基板12側から順にパラジウム層およびニッケル層を積層すれば、より微細なパターンを形成できるため、画素電極16の櫛歯部分16Bの幅を狭くしたり、櫛歯部分16Bの間隔を狭くしたりできる。よって、駆動電圧をより低く抑えられる。
データ信号線71、走査信号線72および共通信号線73は、偏光板41,42の吸収軸の方向41A,42Aと平行あるいは直交する方向に延在している。ここでは、偏光板41の吸収軸の方向41Aと平行にデータ通信線71が設けられており、偏光板42の吸収軸の方向42Bと平行に走査信号線72および共通信号線73が設けられている。また共通信号線73は、隣り合う走査信号線72の間に設けられている。
データ信号線71、走査信号線72および共通信号線73は、例えば、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、ネオジム(Nd)あるいは銅などの導電率が高い金属、またはMoW等の、それらの金属の2種以上を含む合金などにより形成されている。データ信号線71、走査信号線72および共通信号線73の幅は、10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることが好ましい。また、データ信号線71、走査信号線72および共通信号線73の厚さは、例えば、250nm〜350nm程度である。
TFT111は、スイッチング素子であり、データ信号線71と走査信号線72とが交差する位置の近傍に設けられている。TFT111は、走査信号線72をゲート電極、絶縁層14をゲート絶縁膜とし、その他に、半導体層112、n型半導体層113、ソース電極114、ドレイン電極115およびチャネル領域116を有している。半導体層112は、アモルファスシリコン、ポリシリコンあるいは単結晶シリコンなどにより構成され、絶縁膜14上に設けられている。n型半導体層113は、半導体層112の一部にn型不純物をドープすることにより形成され、ソース電極114と半導体層112との間、およびドレイン電極115と半導体層112との間に設けられ、それぞれソース領域、ドレイン領域として機能する。チャネル領域116は半導体層112のソース領域およびドレイン領域の間に設けられている。ソース電極114はキャパシタなどの画素容量(図示せず)の一端に電気的に接続され、ドレイン電極115は画素電極16の櫛根部分16Aに電気的に接続されている。なお、ここではスイッチング素子としてTFTを用いているが、電界効果型トランジスタ(FET)を用いてもよい。
(対向基板)
対向基板21は、透明基板22の光変調層30側の表面に、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)のフィルタがストライプ状に設けられたカラーフィルタ23を有している。透明基板22は、例えば透明基板12と同様の構成を有している。対向電極21は光変調層30側の面の、データ通信線71および走査信号線72に対応する領域にブラックマトリクス(図示せず)が形成されていてもよい。ブラックマトリックスの幅は、データ通信線71および走査信号線72の線幅と同程度であればよいが、さらに狭くなっているほうが好ましい。開口率が高くなるからである。
(光変調層)
光変調層30は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界の印加に応じて光学的異方性の程度が変化する媒質を含んでいる。すなわち、光変調層30では、駆動用基板11側から入射した光が、媒質の屈折率楕円体31の形状の変化によって変調され、対向基板21側に射出される。ここでの媒質は、外部から電界Ej が印加されると、電気変位Dij=εij・Ej を生じるが、その際、誘電率(εij)もわずかに変化する。光の周波数では屈折率(n)の自乗は誘電率と等価であるから、媒質は、電界の印加により、屈折率が変化する物質でもある。
ここで、屈折率楕円体について説明する。物質中の屈折率は一般的には等方的ではなく、異方性を有しており、この屈折率の異方性(光学的異方性)は、通常、屈折率楕円体によって表される。屈折率楕円体では、一般に原点を通り任意の方向に進行する光に対しては、光波の進行方向に垂直な面が屈折率楕円体の切り口(楕円)となる。その楕円の主軸方向(長軸方向および短軸方向)が光波の偏光成分の方向となり、楕円の主軸の長さの半分が屈折率に相当する。
媒質の屈折率楕円体31は、駆動用基板11の面内方向で電界Eの方向をx軸方向、駆動用基板11の面内方向でx軸方向と直交する方向をy軸方向、駆動用基板11に対して垂直方向をz軸方向とし、任意の直交座標軸系(X1 ,X2 ,X3 )を用いると、数式(1)の関係を満たす。数式(1)を屈折率楕円体31の主軸方向の座標系(Y1 ,Y2 ,Y3 )を用いて変換すると数式(2)に示した関係を満たす。主屈折率であるnx,ny,nzは屈折率楕円体31における三本の主軸の長さの半分に相当する。原点からY3 =0の面と垂直な方向に進行する光波はY1 とY2 との方向に偏光成分を有し、各成分の屈折率はそれぞれnx,nyとなる。また、図4に示したように媒質の屈折率楕円体31の長軸方向における屈折率(異常光屈折率)をne、短軸方向における屈折率(常光屈折率)をnoとすると媒質の屈折率異方性Δn(複屈折率変化)は、Δn=ne−noで表される。すなわち、媒質の屈折率楕円体31は、電界無印加時には、球状(nx=ny=nz)であり、電界Eが印加されるとΔnが変化する。
(n
ijは各座標における屈折率であり、n
ji=n
ij、i,j=1,2,3である。)
Y
1 2/n
1 2+Y
2 2/n
2 2+Y
3 2/n
3 2=1…(2)
(n1,n2,n3は主屈折率であり、nx,ny,nzである。)
媒質は、誘電率異方性を有しており、光変調層30に対して電界Eが印加されると、媒質の誘電率異方性の符号が正の場合には、媒質の屈折率楕円体31の長軸方向が電界Eの方向と平行になる。一方、媒質の誘電率異方性の符号が負の場合には、媒質の屈折率楕円体31の長軸方向が電界Eの方向と垂直になる。ここでは、媒質は正の誘電率異方性を有することとする。
媒質は、例えば1種あるいは2種以上の液晶分子31Aとカイラル剤とを含んでいる。媒質としては、例えば、ネマチック液晶混合体であるJC1041xx(チッソ株式会社製)と、ネマチック液晶である化1に示した5CB(4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル;アルドリッチ株式会社製)と、カイラル剤であるZLI−4572(メルク株式会社製)とを重量比(JC1041xx:5CB:ZLI−4572)で50.0:38.5:11.1の割合で混合した混合物などが挙げられる。この組成比の媒質は約53℃で等方相から光学的等方相に相転移する。
媒質のディスクリネーションラインの半径は、例えば5nm以上となっている。また、液晶分子31Aのロッド半径は、例えば25nm以上となっている。
媒質は、400nm以下の選択波長域または螺旋ピッチを有することが好ましい。媒質が400nmより大きい螺旋ピッチを有すると、媒質を透過した光は、その螺旋ピッチを反映した色に呈色することがある。このため、媒質の螺旋ピッチが400nmより大きければ、その螺旋ピッチを反映した波長の光が選択的に反射(選択反射)されてしまい、表示パネルの表示色が螺旋ピッチを反映した色に呈色してしまうことがある。よって、媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチを400nm以下とすることにより、このような呈色を防止することができる。すなわち、400nm以下の光は、人間の目にはほとんど認識できないので、上記のような呈色が問題になることがなくなる。
光変調層30は、媒質の他に、高分子化合物(ポリマ)を含んでいてもよい。これにより、液晶分子31Aの配向構造が安定化するため、媒質が光学的等方相を示す温度範囲を広げることができる。この場合、光変調層30は、例えば、モノマと媒質とを含む媒質材料を駆動用基板11と対向基板21との間に封止したのち、光重合させて形成される。媒質材料としては、例えば、上記の混合物(JC−1041xx(50.0重量%)、5CB(38.5重量%)、ZLI−4572(11.1重量%))を87.1重量%、TMPTA(trimethylolpropane triacrylate、アルドリッチ社製、アクリレートモノマ)を5.4重量%、RM257(メルク社製、ジアクリレートモノマ)を7.1重量%、DMPA(2,2−dimethoxy −2−phenyl−acetophenone、光重合開始剤)を0.4重量%の割合で混合したものなどが挙げられる。この媒質材料を、コレステリック−光学的等方相の相転移温度近傍において光学的等方相を保ちながら紫外線を照射して、モノマを光重合させて、ポリマのネットワークを形成する。これにより、媒質と共にポリマを含む光変調層30が形成される。なお、ポリマを含む光変調層30を形成する場合においても、画素電極16が丸みを帯びているので、斜め方向からの紫外光も光変調層30に照射することができる。
ここで、図5および図6を参照して、光変調層30における媒質の屈曲率楕円体31と、媒質に含まれる液晶分子31Aとの関係を説明する。光変調層30では、画素電極16と共通電極13との間に電圧が印加されてない状態、すなわち電界無印加時には、図5に示したように媒質の屈折率楕円体31の形状は、球状(屈折率nx=ny=nz)となっている(図5(A))。その場合、媒質に含まれる液晶分子31Aでは、長軸方向がランダムな方向を向き、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度はほぼ0(ほとんどない)の状態となっている(図6(A))。一方、電界Eが画素電極16の櫛歯部分16Bの長手方向に対して垂直方向に印加されると、屈折率楕円体31の長軸方向が電界Eの方向と平行な楕円体状となる(図5(B))。このときの液晶分子31Aでは、その長軸方向が電界E方向と概ね平行となるように配向し、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度は0より大きくなる(図6(B))。このように電解無印加時および電解印加時において屈折率楕円体31の形状が変化することにより、図6(C)に示したように透過率が変化する。なお、ここでの「可視光波長以上のスケールでの配向秩序度がほぼ0の状態」は、可視光よりも小さいスケールで見た場合、液晶分子31Aが一定方向に並んでいる割合が多い(配向秩序がある)が、可視光よりも大きいスケールで見ると、配向方向が平均化されていて配向秩序が無いことを意味している。すなわち、配向秩序度が可視光波長域および可視光波長域より大きい波長の光に対して何ら影響を与えない程度に小さいことを表す。例えば、クロスニコル下で黒表示をしている状態である。一方、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度が0より大きい状態というのは、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度が、ほぼ0の状態よりも大きいことを意味し、例えば、クロスニコル下で白表示を実現している状態を示す。(この場合、階調表示であるグレーも含まれる)。
(偏光板)
偏光板41,42は、特定の方向に振動する偏光を透過させ、それと直交する方向に振動する偏光を吸収するためのものである。偏光板41,42は、それぞれ透過軸および吸収軸を有している。偏光板41,42の透過軸あるいは吸収軸は互いに直交するように配置されている。偏光板41が偏光子、偏光板42が検光子となっている。
この表示素子では、駆動用基板11および対向基板21における互いの対向面に、配向膜(図示せず)が設けられていてもよい。この場合、例えば、配向膜には、ラビング処理や光配向処理などの配向処理が施されていてもよい。配向処理(ラビング処理あるいは光配向処理方向)の方向は、偏光板41,42の何れか一方の吸収軸方向(方向41A,42A)と一致していることが好ましい。このような配向処理を施すことにより、配向膜表面に吸着した液晶分子31Aを、偏光板41,42のいずれか一方の吸収軸方向に配向させることができるため、黒表示時の光の漏れを軽減でき、高いコントラストを実現できる。
なお、この表示素子では、光変調層30に含まれる媒質の相転移温度(転移点)から十分遠い温度においては表示素子の透過率を変調させるために必要な電圧は大きくなるが、転移点よりも高い近傍の温度では0〜100V前後の電圧で、十分に透過率を変調させることが可能になる。媒質の電界方向の屈折率と、電界方向に垂直な方向の屈折率とを、それぞれn//、n⊥とすると、複屈折変化(Δn=n//−n⊥)と、外部電界、すなわち電界E(V/m)とは、数式(3)の関係を満たす。
Δn=λ・Bk ・E2 …(3)
(λは真空中での入射光の波長(m)、Bk はカー定数(m/V2 )、Eは印加電界強度(V/m)である。)
カー定数Bk は、温度(T)の上昇とともに1/(T−Tni)に比例する関数で減少することが知られている。このため、カー定数Bk は、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに必要な電界強度が急激に増大する。このため、媒質の転移点から十分遠い温度(転移点よりも十分に高い温度)では表示素子の透過率を変調させるために必要な電圧は大きくなるが、相転移点直上の温度では、約100V以下の電圧で、表示素子の透過率を十分に変調させることができる。特にこの表示素子では、画素電極16を微細パターニングすることが可能なので、約30V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができる。
[(1−2)表示素子の製造方法]
この表示素子は、例えば、以下のようにして製造することができる。
始めに、例えば駆動用基板11を作製する。まず、透明基板12上に、例えばMoW膜などの金属膜を形成したのち、フォトリソグラフィ法により金属膜の所定部分をパターニングして、走査信号線72および共通信号線73を形成する。続いて、走査信号線72および共通信号線73を覆うように、例えばITO層を蒸着し、そののちITO層を所定の形状にパターニングして共通電極13を形成する。続いて、絶縁層(ゲート絶縁膜)14を共通電極13、共通信号線73および走査信号線72上に形成したのち、シリコン膜(結晶形態は、アモルファス、ポリシリコン、または単結晶)、n型シリコン膜および金属膜をこの順で蒸着したのち、所定部分をパターニングしてTFT111を形成する。そののち、TFT111の一部を除いて覆うように保護層15を形成する。
次に、2種類以上の金属からなる不透明層を形成し、画素電極16を共通電極13と対向するようにパターニングする。この場合、まず、マイクロコンタクトプリント法に用いるポリジメチルシロキサン(以下、PDMS)などのシラン化合物と結合する材料でスタンプ面を有するスタンプを作製する。具体的には、ガラス基板上に、フォトリソグラフィ法によってレジストからなるスタンプの反転パターンを形成し、これをスタンプ原版とする。続いて、スタンプ原版を、シャーレのような器の底辺に、反転パターンを上向きにして載置し、未硬化のスタンプ材料を流し込む。スタンプ材料としては、例えば東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製のSYLGARD184などのPDMSを用いる。こののち、重合が完了して固体化したPDMSからなるスタンプ材料を、スタンプ原版と分離する。これにより、ステンプ原版を反転させた凹凸形状を有するスタンプが得られる。
続いて、スタンプにおいて凹凸形状が形成されたスタンプ面上に、第1のシランカップリング材料からなるインク薄膜を塗布法により形成する。この際、第1のシランカップリング材料を有機溶剤や水などの溶媒に溶解させて、インクを調製する。第1のシランカップリング材料としては、スタンプを構成するPDMSに付着すると共に、保護層15と化学的に結合し、かつパラジウムなどのめっき触媒と結合するものを用いる。例えば、n−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系シラン化合物などである。ここでは、インクとして、n−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシランを0.02mmol/dm3 の濃度で含むエタノール溶液を用いることとする。ビーカーに入れたインクに対してスタンプのスタンプ面を1分間程度晒したのち、スタンプ面に付着した溶液を窒素ガスにて吹き飛ばし、次いで3分間乾燥させることにより、スタンプ面上にインク薄膜が形成される。
続いて、保護層15の画素電極16印刷面に対して、スタンプのインク薄膜を密着させて1分間保持することにより、保護層15の表面にインク薄膜を転写し、第1のシランカップリング材料からなる印刷パターンを形成する。次いで、印刷パターンが形成された保護層15を、例えば120℃で10分間焼成することにより、保護層15と第1のシランカップリング材料とをSi−O結合させる。なお、ここでは、上記印刷パターンの形成に、PDMSからなるスタンプを用いたマイクロコンタクトプリント法を用いたが、これに限られものではなく、凸版印刷法や他の印刷方法を用いてもよい。
続いて、保護層15の画素電極16印刷面上に、第2のシランカップリング材料を結合させた塗布膜を形成する。第2のシランカップリング材料としては、保護層15と結合する一方で第1のシランカップリング材料の印刷パターンおよびめっき触媒と結合しないものが好ましい。例えば、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシランなどのフッ素系シラン化合物である。第2のシランカップリング材料の塗布膜の形成には、第1のシランカップリング材料を溶解しない(溶解しにくい)フッ素系溶剤などの溶媒に第2のシランカップリング材料を溶解希釈させた塗布液を用いる。ここでは、塗布液として、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシランを完全フッ素化溶剤(フロリナートFC−77;3M株式会社製)に10mmol/dm3 の濃度で溶解させた溶液を用いることとする。ビーカーに入れた塗布液に印刷パターンが形成された保護層15の画素電極16印刷面を10分間ほど晒し、そののち印刷面に付着した溶液を取り除く。これにより、保護層15における印刷面の露出部に第2のシランカップリング材料からなる塗布膜が形成される。この際、塗布液の溶媒として第1のシランカップリング材料が溶解しにくいものを用いているため、第1のシランカップリング材料が塗布液中に溶出することはない。また、第2のシランカップリング材料は、第1のシランカップリング材料と結合しないため、塗布膜は印刷パターン上に形成されずに、保護層15の露出表面にのみ選択的に形成される。続いて、塗布膜が形成された保護層15を例えば120℃で10分間焼成することにより、保護層15と塗布膜を構成する第2のシランカップリング材料とをSi−O結合させる。次に、印刷パターンを構成する第1のシランカップリング材料の余剰分を除去するためのリンス工程を行う。ここでは、エタノールや水などの第1のシランカップリング材料を溶解する溶剤を用いてリンス洗浄する。
そののち、第1のシランカップリング材料の印刷パターン上に、パラジウム層を選択的に成膜する。ここでは、無電解めっき用のパラジウム触媒溶液を用いたパラジウム触媒処理法を適用してパラジウム層を形成する。この場合には、まず、保護層15の印刷面を60℃の温水に2分間晒したのち、その印刷面を、例えばIG−0218A(ディップソール社製商品名)などパラジウム触媒溶液に5分間晒し、次いで印刷面を純水により超音波洗浄する。これにより、パラジウムが、第1のシランカップリング材料として用いたアミノ系シラン化合物のアミノ基と配位結合する。その一方で、塗布膜を構成する第2のシランカップリング材料として用いたフッ素系シラン化合物は、パラジウムと結合しないため、第1のシランカップリング材料よりなる印刷パターン上にのみパラジウム層が選択的に形成される。このパラジウム層の厚さは、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることが好ましい。より良好な画素電極16がパターニングされるからである。なお、パラジウム触媒処理法によるパラジウム層の選択成膜は、パラジウム微粒子を水中に分散したパラジウム触媒溶液を用いた方法に限定されることはない。例えば、塩化スズ溶液と塩化パラジウム溶液を利用したセンシタイザ−アクチベータ法、キャタライザ−アクセラレータ法、あるいはパラジウム錯体を用いた方法などを用いてもよい。
続いて、パラジウム層を密着層として、パラジウム層上に選択的に導電性材料を成膜して導電性パターンを形成する。ここでは、例えば無電解めっきプロセスにより、パラジウム層上に選択的にニッケル層を積層させて、導電性パターンを形成する。この場合、所定温度に加熱しためっき液(例えば上村工業株式会社製のNi−B成膜用めっき液BEL−801、60℃)に、保護膜15の印刷面を1分間晒す。これにより、パラジウム層上に、パラジウム層のパターンに対応したニッケル層の導電性パターン(例えば、厚さ200nm、櫛歯部分16Bとなる部分の線幅1μm)が形成される。なお、無電解めっきプロセスによって形成される導電性パターンの構成材料は、ニッケルに限定されることはなく、一般に無電解めっきできるものであれば所望の特性に合わせて選択可能である。最後に、導電性パターンの低抵抗化のために、例えば200℃で1時間のアニール処理をする。以上により、保護層15上に形成した印刷パターンに対応した、パラジウム層およびニッケル層のパターンがこの順に成膜され、画素電極16がパターンニングされる。
こののち、導電率の高い不透明金属によりデータ通信線71をパターニングすることにより形成する。これにより、駆動用基板11が完成する。
次に、透明基板22の一面側にカラーフィルタ23を形成することにより対向基板21を作製する。この際、必要に応じて所定の位置にブラックマトリックスを設けるようにしてもよい。
次に、駆動用基板11と対向基板21とを重ね合わせ、それらの間に、媒質を含む光変調層30を封止する。具体的には、駆動用基板11あるいは対向基板21のどちらか一方に、所定のセルギャップを確保するためのスペーサ突起物、例えばプラスチックビーズやガラスファイバースペーサ等を配置させると共に、例えばスクリーン印刷法によりエポキシ接着剤等を用いて、シール部を印刷する。こののち、駆動用基板11と対向基板21とを、画素電極16とカラーフィルタ23とを対向させるように、スペーサ突起物およびシール部を介して貼り合わせると共に媒質を注入する。そののち、加熱するなどしてシール部の硬化を行い、駆動用基板11と対向基板21との間に光変調層30を封止する。
最後に、駆動用基板11および対向基板21の外側の面に、偏光板41,42をそれぞれ貼り合わせる。これにより、図1〜図3に示した表示素子が完成する。
[(1−3)表示装置の回路構成]
次に、図7を参照して、上記した表示素子を備えた表示装置の構成について説明する。図7は図1に示した表示素子を備えた表示装置の回路構成を表している。
この表示装置は、図7に示したように、表示領域60内に設けられた複数の画素10を有する表示素子と、表示領域60の周囲に設けられ、表示素子を駆動する駆動部であるソースドライバ61およびゲートドライバ62と、ソースドライバ61およびゲートドライバ62に電力を供給する電源回路63とを備えている。
表示領域60は、映像が表示される領域であり、複数の画素10がマトリックス状に配列されることにより映像を表示可能に構成された領域である。なお、図7では、複数の画素10を含む表示領域60を示している他、4つの画素10に対応する領域を別途拡大して示している。
表示領域60では、各画素10は、上記した表示素子の画素10に相当し、行方向に配列された複数のデータ信号線71と、列方向に配列された複数の走査信号線72とが互いに交差する位置にそれぞれ配置されている。各画素10は、データ信号線71、走査信号線72、共通信号線73およびTFT111と共にキャパシタ122を有している。各TFT111では、ソース電極114が画素容量であるキャパシタ122の一端に接続され、ドレイン電極115がデータ信号線71および画素電極16に接続されている。キャパシタ122では、他端が共通信号線73に接続し、共通電極13と画素電極16との間で発生する容量を蓄積し、一つのフレームにデータ信号を保持させる役割をする。各データ信号線71は、ソースドライバ61に接続されており、そのソースドライバ61から画像信号が供給されるようになっていると共に、各走査信号線72は、ゲートドライバ62に接続されており、そのゲートドライバ62から走査信号が順次供給されるようになっている。
ソースドライバ61およびゲートドライバ62は、複数の画素10の中から特定の画素10を選択するものである。
この表示装置では、以下の要領で画素電極16と共通電極13との間に駆動電圧を印加することにより、映像が表示される。具体的には、ソースドライバ61が、画像信号に基づいて所定のデータ信号線71に個別の画像信号を供給する。これと共に、ゲートドライバ62が所定のタイミングで走査信号線72に走査信号を順次供給する。これにより、画像信号が供給されたデータ信号線71と走査信号が供給された走査信号線72との交差点に位置する画素10が選択され、その画素10の駆動電圧が画素電極16と共通電極13との間に印加されることとなる。
選択された画素10では、画素電極16と共通電極13との間に駆動電圧が印加されると、フリンジ状の電界Eが発生し、光変調層30に含まれる液晶分子31Aの長軸方向の向きが電界Eの強度に応じて変化する。これにより、光変調層30に含まれる媒質の屈折率楕円体31の形状が変化し、複屈折現象が生じる。具体的には、光変調層30では、図5(A),図6(A)に示したように駆動電圧の印加前には、媒質の屈曲率楕円体31の形状が球状となっており、媒質に含まれる液晶分子31Aはその長軸方向がランダムな方向を向いている。この駆動電圧印加前の状態から、駆動電圧が印加されると、図5(B),図6(B)に示したように、液晶分子31Aは、長軸方向が電界Eの方向と平行の方向になるように配向する。これにより、媒質の屈折率楕円体31の形状は、その長軸方向が電界Eの方向と平行となるように楕円体状になる。このように駆動電圧が印加されると光変調層30の光学的特性が変化し、偏光板41側から入射した入射光が光変調層30によって変調される。この変調された光は、偏光板42により特定の偏光成分が取り出されて射出光となる。以上により、選択された画素10では、駆動電圧に対する光透過率が、図6(C)に示したように変化することによって、その光の透過率に基づいて階調表現されて、映像が表示される。
次に、本実施の形態の作用および効果について、従来の表示素子(液晶表示素子およびその他の表示素子)と比較して説明する。
本実施の形態の表示素子および表示装置では、光変調層30が、電界無印加時には光学等方性を示し、電界印加時には電界Eの強度に応じて光学的異方性の程度が変化する媒質を含んでいる。すなわち、光学的異方性の方向はほとんど変化せず、その光学的異方性の程度の変化(主に、電子分極や配向分極)により映像を表示するようになっている。
従来の液晶表示素子(比較例1)は、液晶層に含まれる液晶分子の配向によって光を変調して映像を表示するものである。比較例1の液晶表示素子では、電界印加時と電界無印加時とで、液晶層における屈折率楕円体の形状(屈折率楕円体の切り口の形状)は楕円形のまま変化せず、その長軸方向の向きが変化(回転)する。ここで、図13を参照してIPSモードの液晶表示素子を例に挙げて説明する。IPSモードの液晶表示素子は、一対の基板間に液晶層を備え、一対の基板のうちの一方の基板上に平行して延在する画素電極201および共通電極202が設けられている。この液晶表示素子では、例えば、電界無印加時において、液晶層に含まれる液晶分子は、その長軸方向が画素電極201および共通電極202の対向する方向と平行方向を向いた状態で配向している。画素電極201と共通電極202との間に駆動電圧が印加され、液晶層に対して電界が印加されると、液晶分子が基板面内方向で回転して、その長軸方向が電界方向と直交する向きに配向する。この場合の液晶層における屈折率楕円体220は、その長軸方向が、電界無印加時には画素電極201および共通電極202の対向する方向と平行な方向を向き(図13(A))、電界印加時には回転して電界方向と直交する方向を向くようになる。すなわち、液晶層における屈折率楕円体220では、その形状は電界の有無に依存することなく楕円体であり、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体220の形状および大きさは、ほとんど変化しない。この液晶層では、電界印加によって、液晶分子の配向方向の変化に応じて、屈折率楕円体220の長軸方向の向きが変化する。このことは、TNモードやVAモードやFFSモードの液晶表示素子についても同様である。以上のことから、比較例1では、電界印加により、一定方向に整列した状態の液晶分子を揃って回転させて表示を行うため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響し、よって十分な応答速度が得られにくい。その上、比較例1では、電界無印加時における液晶分子の配向状態を規定するために、配向膜を設ける必要があり、さらに配向膜のラビング工程も必要であった。ラビング工程(ラビング配向処理)を行う場合、ポリイミドなどの高分子からなる配向膜を布などでこするため、微細な埃の発生や高圧静電気による微細放電の発生という問題がある。この局部的放電は、配向膜自体の損傷、ITOなどの透明電極やTFTの断線や静電破壊などの原因になる。
これに対して、本実施の形態の表示素子および表示装置では、光変調層30の媒質に含まれる液晶分子31Aは、電界無印加時には配向秩序がほとんどない状態(配向秩序度=0)になっており、電界印加時において配向した状態(配向秩序度>0)となる。このため、液晶層に含まれる液晶分子の配向によって光を変調して映像を表示する液晶表示素子およびそれを用いた表示装置と比較して応答速度が向上する。よって、例えばフィールドシーケンシャルカラー方式のような高速性が要求される表示装置として用いることも可能になる。その上、上記したような配向膜の形成や、ラビング工程を省略できるので、埃や局部的放電が発生することがなく、上記のような問題が生じないうえ、製造費用を削減できる。
また、他の従来の表示素子(比較例2)では、光変調層として上記した媒質と同じような組成物が用いられているが、駆動電圧が高く、画素内での透過率の均一性が低いという問題がある。その理由は以下のとおりである。比較例2の表示素子は、例えば図14に示したように、駆動用基板301および対向基板311の間に設けられた光変調層320と、駆動用基板301および対向基板311の外側に偏光板331,332を備えている。駆動用電極331は、ガラス基板302上に共通電極303、絶縁膜304および画素電極305をこの順に有している。比較例2では、画素電極305が導電率の低い透明電極材料により形成されているため、駆動電圧が高くなりやすい。また、画素電極305の断面形状の角部で丸みを帯びていないため、画素電極305の角部に電界が集中する。これにより、光変調層320に印加された電界に斑が生じ、光変調層320の媒質に含まれる液晶分子の配向に乱れが生じやすい。さらに、比較例2では、画素電極305が導電率の高い不透明な金属材料により形成されていたとしても、角部が丸みを帯びていないため、透明基板302に対して斜め方向に入射する光L101が遮られ、開口率が低下するという問題もある。
これに対して、本実施の形態の表示素子および表示装置では、画素電極16が金属等の不透明材料により構成されているので、画素電極16の導電率を高くでき、駆動電圧を低く抑えることができる。また、画素電極16の断面形状は曲線からなる角部16Xを有しているので、角部16Xに電界が集中しにくくなり、光変調層30に対して印加される電界が連続的になる。その結果、電界印加時における光変調層30では、液晶分子31Aの配向の乱れが生じにくくなる。これにより、画素10内における透過率の均一性が高くなるため、表示特性を向上させることができる。また、電界印加時において光変調層30では、画素電極16の上側の領域(画素電極16に対応する領域)に印加される電界Eの強度がその他の領域よりも低くなりやすく、これにより液晶分子31Aの配向が乱れやすい。ところが、不透明な画素電極16の上側の領域は、光が入射しづらい領域であるため、その領域での液晶分子31Aの配向乱れは、透過率に影響を与えることが少ない。このため、画素10全体としての透過率の均一性は確保される。
本実施の形態では、画素電極16が駆動用基板11の面から垂直に立ち上がる側面16Yを有することが好ましい。これにより、光変調層30に対する電界Eの印加領域がより広くなるため、駆動電圧をより低く抑えることができる。
また、本実施の形態では、画素電極16は、無電解めっき法を用いて形成されることが好ましい。従来のIPSモードやFFSモードの液晶表示素子では、液晶を駆動させるための駆動電界は、通常10V未満である。その場合には、印加電界による配向乱れが大きく生じないために、電極を無電界めっきなどで形成する必要がなく、逆に電極が不透明になるため透過率が小さくなり、しかもコストが高くなるため好ましくない。すなわち、従来の液晶表示素子において電極を無電界めっきで形成することは、必要性が無い上に、様々なデメリットがあると考えられる。ところが、上記比較例2などの電界の印加に応じて光学的異方性の程度が変化する媒質を用いた表示素子では、従来の液晶表示素子とは全く表示原理が異なり、高い駆動電圧が必要とされる。このため、無電解めっき法を用いて画素電極16が形成されると、画素電極16が不透明な金属電極となり、角部16Xが良好な丸みを帯びることにより、駆動電圧が低く抑えられ、光変調層30における配向乱れがより抑制される。よって、低電圧駆動が可能になり、その上、表示特性をより向上させることができる。さらに、無電解めっき法を用いれば、画素電極16を、櫛歯部分16Bの幅P1を狭くするといった微細パターンを有するように形成できるため、駆動電圧をより低く抑えることができる。画素電極16は、2種類以上の金属から形成されていてもよく、2種類以上の金属として、パラジウムやニッケルを含んでいてもよい。また、透明基板12側から順にパラジウム層およびニッケル層を積層するようにすれば、より微細なパターンが形成されやすくなる。よって、画素電極16の櫛歯部分16Bの幅P1を狭くしたり、櫛歯部分16Bの間隔L1を狭くできるため、駆動電圧をさらに低く抑えられる。
本実施の形態では、画素電極16は、駆動用基板10の面に沿って方向41Aに向かって延在する複数の櫛歯部分16Bを有し、共通電極13は、駆動用基板10の面に沿って画素電極16とは異なる階層に形成されると共に画素電極16の複数の櫛歯部分16Bの延在領域を含む領域全体に延在している。各櫛歯部分16Bがジグザグ形状を有することにより、光変調層30に対して2方向の電界E1,E2が印加されるため、光変調層30では光学異方性の方向が異なる領域DM1,DM2が形成される。よって、視野角特性が向上する。この場合、櫛歯部分16Bの屈曲部の角度αは、70°以上110°以下であることが好ましく、90°であることが特に好ましい。これにより、電界E1,E2の方向は互いに90°±20°異なり、光変調層30の領域DM1,DM2における光学異方性の向きが略直交することになるため、主に光変調層30に起因する斜め視野角の色づき現象を、各領域DM1,DM2で互いに補償しあうことができる。その結果、表示素子の透過率を損なうことなく、視野角特性がより向上する。また、櫛歯部分16Bの屈曲部の角度αは、電界E1,E2の方向と偏光板41,42の吸収軸の方向(方向41A,42A)とのなす角度が45°±10未満となるように設定されていることが好ましい。以下の理由により、より高い透過率が得られるからである。電界E(E1,E2)の方向、すなわち光変調層30の光学的異方性の方向が、方向41A,42Aにそれぞれ±θ(°)に存在する場合の透過率(P)は、P(%)=Sin2 (2θ)により見積もられる。よって、電界E印加方向と方向41A,42Aとのなす角度が45°の時に最大透過率が得られる。θ=45°の透過率を100%とすると、透過率がほぼ90%以上であれば人間の目には最大輝度と感じられるため、θが35°<θ<55°であれば、人間の目には最大輝度として感じられる。よって高い透過率が得られることになる。
特に、本実施の形態では、櫛歯部分16Bの形状は、領域DM1,DM2の割合(面積和の割合)が1:9〜1:1となるように設定されていることが好ましい。視覚上の色づきの改善(補償)効果が大きくなるからである。色変化は、領域DM1,DM2の割合(DM1/DM2)が1/9から1/1に向かって大きくなるのにしたがって小さくなり、1/1のときが最も小さくなる。このため、櫛歯部分16Bの形状は、領域DM1,DM2の割合(面積和の割合)が1:1となるように設定されていることがより好ましい。中でも、櫛歯部分16Bの形状は、光学的異方性の向きが90°異なる2つの領域DM1,DM2の割合が1:1になるように設定されていることが好ましい。これにより、表示面に対して極角±60°の範囲内での色変化(同じ画像を異なる角度から見たときの色変化(色度座標距離√{△x2 +△y2 }で示される色度座標変化の範囲))を測定すると、ドメイン分割を行わない場合と比較して、色変化をおよそ半分程度に収めることができる。さらに、櫛歯部分16Bの形状は、屈曲部の角部が丸みを帯びているものが好ましい。これにより、電界Eが面内方向においても連続的に変化するため、透過率の均一性がより高まり、しかも視覚上の色づきの改善(補償)効果がより大きくなる。
さらに、本実施の形態では、データ信号線71、走査信号線72および共通信号線73は、偏光板41,42の吸収軸の方向41A,42Aと平行あるいは直交する方向に延在している。これにより、データ信号線71と共通電極13あるいは画素電極16との間で生じる電界が、光変調層30の領域DM3において光学的異方性の程度の変化を誘起し、その結果、領域DM3の光変調層30が光学的等方性に戻らない場合が生じる。ところが、この場合の領域DM3における光学的異方性の方向(屈折率楕円体の長軸の方向)は、偏光板41,42の吸収軸の方向41A,42Aと平行または垂直になり、黒表示状態になる。よって、データ信号線71と共通電極13あるいは画素電極16との間の領域DM3からの光漏れが抑制されるため、領域DM3をブラックマトリクスで覆い隠さなくてもよくなり、開口率を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、光変調層30に対して印加される電界E(E1,E2)の方向が2方向になるように画素電極16が設けられていたが、電界Eの方向は、1方向であってもよいし、3方向以上であってもよい。例えば、直線形状の櫛歯部分16Bを設けるようにして1方向に電界Eを印加するようにしてもよい。また、例えば、櫛歯部分16Bが互いに所定の角度をなす屈曲部を組合わせて3方向以上に電界を印加する形状を有するようにしてもよい。3方向以上に電界を印加する場合においても互いの角度は90°となることが好ましい。
また、共通電極13は、透明材料に構成されていたが、不透明材料により構成されていてもよい。この場合、反射型の表示素子として用いることができる。
次に、本発明の他の実施の形態および変形例を説明するが、第1の実施の形態と共通の構成要素については、同一の符号を付してその説明は省略する。
<2.第2の実施の形態(他の表示素子の一例)>
図8は本発明の第2の実施の形態に係る表示素子の平面構成を模式的に表すものであり、図9は図8に示したIX−IX線に沿った断面構成を模式的に表している。本実施の形態の表示素子は、共通電極の形状が異なることを除き、第1の実施の形態と同様の構成を有している。すなわち、本実施の形態の表示素子もFFS型の表示素子である。
共通電極17は、上記した共通電極13と同様に透明材料からなり、画素電極16と異なる階層に形成されている。共通電極17は、櫛根部分(基部)である共通信号線73と接続されると共に駆動用基板11の面に沿って方向41Aに向かって延在した複数の櫛歯部分17B(線状部分)からなり、櫛型構造を有している。各櫛歯部分17Bは、画素電極16の櫛歯部分16Bと同様に駆動用基板11の面内方向において角度αで屈曲した複数の屈曲部を含むジグザグ形状を有している。各櫛歯部分17Bは、透明基板12の表面の、櫛歯部分16Bと対応する領域の間の領域と、櫛歯部分16Bと対応する領域の外側の領域とに、櫛歯部分16Bに沿って延在している。
櫛歯部分17Bの幅P2は櫛歯部分16Bの間隔L1より小さくなっている。櫛歯部分17Bの間隔L2は、櫛歯部分16Bの間隔L1と同程度になっている。櫛歯部分17Bと櫛歯部分16Bとの間隔L3は、光変調層30の厚さよりも小さくなっている。中でも、櫛歯部分17Bの幅P2は、櫛歯部分16Aと櫛歯部分17Aとの間隔L3よりも小さくなっていることが好ましい。高い透過率が得られるからである。この場合、幅P2は櫛歯部分16Bの幅P1と同程度であることが特に好ましい。透過率がより高くなるからである。具体的には、櫛歯部分17Bの幅P2は0.05μm以上8μm以下であることが好ましく、0.05μm以上5μm以下であることがより好ましい。また、櫛歯部分17Bと櫛歯部分16Bとの間隔L3は、0.05μm以上8μm以下であることが好ましく、0.05μm以上5μm以下であることがより好ましい。また、間隔L3は、0.1μm以上であることが好ましい。これにより、媒質に含まれる液晶分子31Aの配向構造の周期が100nm以上になりやすいため、液晶分子31Aの配向構造がより安定化するからである。なお、例えば間隔L3を1μmとした場合には、30Vの駆動電圧を印加すると、間隔L3を5μmに設定した場合と比較して、電界強度が5倍程度高くなる。
櫛歯部分17Bの形状も、屈曲部の角が丸みを帯びているものが好ましい。これにより、電界Eが面内方向において連続的に変化するため、透過率の均一性がより高まり、しかも視覚上の色づきの改善(補償)効果がより大きくなる。
共通電極17の断面形状も曲線からなる角部を有していることが好ましい。これにより、共通電極17においても角部に電界Eが集中しにくくなるため、光変調層30に含まれる液晶分子31Aの配向構造がより安定化する。この場合も、共通電極17は、透明基板12の表面に対して垂直方向に立ち上がった側面を有していることが好ましい。駆動電圧がより低く抑えられるからである。
共通電極17を構成する材料としては、例えば、上記した共通電極13を構成する材料と同じ材料が挙げられる。
共通電極17は、例えば、蒸着法あるいはスパッタ法などの気相法により、透明電極材料層を形成したのち、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いてパターニングすることにより形成される。
本実施の形態の表示素子では、共通電極17は、駆動用基板10の面に沿って画素電極16とは異なる階層に形成されると共に櫛歯部分16Bに沿って延在する櫛歯部分17Bを複数有している。櫛歯部分17Bの幅P2は櫛歯部分16Bの間隔L1より小さくなっている。これにより、共通電極17が画素電極16の複数の櫛歯部分16Bの延在領域を含む領域全体に延在する場合(図1)と比較して、透過率が高くなる。
また、本実施の形態では、共通電極17の櫛歯部分17Bと画素電極16の櫛歯部分16Bとの間隔L3は、光変調層30の厚さ(セルギャップ)よりも、小さく(短く)なっている。これにより、画素電極16と共通電極17との間に曲率および半径の大きい放射線状のフリンジ電界が形成される。このため、電界印加の際に画素電極16と共通電極17との間に形成される等電位線が、画素電極16および共通電極17の上側の領域(透明基板12表面の法線方向から見て各画素電極16と共通電極17と重畳する領域)にも形成される。その結果、各画素電極16および共通電極17の上側の領域における媒質の光学的異方性の程度の変化を誘起することができる。よって、開口率を向上させることができる。この場合の間隔L3は、画素10の大きさが330μm×110μmの場合、0.1μm以上5μm以下となるように形成することが好ましい。
ちなみに、従来のIPSモードの液晶表示素子では、表示に必要な電界を得るために共通電極と画素電極との間隔を液晶層の厚さ(セルギャップ)よりも広くなっている。具体的には、単位画素の大きさが330μm×110μmであり、かつセルギャップが4.5μmの場合、共通電極と画素電極との間隔は、10μm〜20μmになっている。
本実施の形態の表示素子における他の作用効果は、第1の実施の形態の表示素子と同様である。
なお、本実施の形態では、共通電極17は透明材料により構成され、透明であったが、不透明材料により構成され、不透明であってもよい。この場合においても、櫛歯部分17Bの幅P2は櫛歯部分16Bの間隔L1より小さくなっているので、透過型の表示素子として機能するうえ、駆動電圧をより低く抑えることができる。
この場合でも、櫛歯部分17Bの幅P2は、櫛歯部分16Aと櫛歯部分17Aとの間隔L3よりも小さくなっていることが好ましい。高い透過率を確保することができるからである。また、幅P2は櫛歯部分16Bの幅P1と同程度であることが特に好ましい。駆動電圧がより低く抑えられ、その上、より高い透過率が確保されるからである。この場合における具体的な櫛歯部分17Bの幅P2および櫛歯部分17Bと櫛歯部分16Bとの間隔L3は、上記した幅P2および間隔L3と同様である。また、この場合における共通電極17を構成する材料としては、例えば、画素電極16を構成する材料と同じ材料が挙げられる。共通電極17を形成する方法としては、画素電極16を形成する方法と同様の方法が挙げられる。
また、本実施の形態では、光変調層30に対して印加される電界E(E1,E2)の方向が2方向になるように画素電極16および共通電極17が設けられていたが、電界Eの方向は、1方向であってもよいし、3方向以上であってもよい。例えば、直線形状の櫛歯部分16B,17Bを設けるようにして1方向に電界Eを印加するようにしてもよい。また、例えば、櫛歯部分16B,17Bが互いに所定の角度をなす屈曲部を組合わせて3方向以上に電界を印加する形状を有するようにしてもよい。3方向以上に電界を印加する場合においても互いの角度は90°となることが好ましい。
<3.変形例1(さらに他の表示素子の一例)>
第2の実施の形態では、共通電極17を透明基板12の表面上に設けたが、画素電極16と同一面上(同一階層)に設けるようにしてもよい。具体的には、図10,図11に示したように保護層15上に共通電極18を設けるようにしてもよい。すなわち、本変形例1の表示素子は、いわゆるIPS型の表示素子である。図10は第2の実施の形態の表示素子の変形例1の平面構成を表し、図11は図10に示したXI−XI線に沿った断面構成を表している。
共通電極18は、保護層15上に設けられており、櫛根部分(基部)である共通信号線73と接続されると共に駆動用基板11の面内方向の一方向(方向41A)に向かって延在した複数の櫛歯部分18B(線状部分)からなる櫛型構造を有している。各櫛歯部分18Bは、画素電極16の櫛歯部分16Bと同様に駆動用基板11の面内方向において角度αで屈曲した複数の屈曲部を含むジグザグ形状を有している。各櫛歯部分18Bは、保護層15上の、櫛歯部分16Bとの間の領域と、櫛歯部分16Bの外側の領域とに、櫛歯部分16Bに沿って延在している。櫛歯部分18Bは、上記した共通電極17の櫛歯部分17Bと同様の構成を有している。また、櫛歯部分18Bの幅P2、櫛歯部分18Bの間隔L2、および櫛歯部分18Bと櫛歯部分16Bとの間隔L3も、上記した幅P2および間隔L2,L3と同様である。
変形例1に係る表示素子においても、第1および第2の実施の形態の表示素子と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
なお、本変形例1の表示素子においても、共通電極18は、不透明材料により構成され、不透明であってもよい。この場合においても、櫛歯部分18Bの幅P2は櫛歯部分16Bの間隔L1より小さくなっているので、透過型の表示素子として機能するうえ、駆動電圧をより低く抑えることができる。
<4.変形例2(他の媒質の例)>
上記した実施の形態および変形例では、媒質としてJC1041xxと、化1に示した5CBと、ZLI−4572とを所定の組成比で混合したものを用いた場合について説明したが、これに限られるものではない。媒質は、電界印加により複屈折が上昇するものが特に好ましいが、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加すると光学的異方性の程度が変化する媒質であればよい。なお、ここでの光学的等方性とは、巨視的に見て、少なくとも駆動用基板11の面内方向について等方であることをいい、光学的異方性とは、少なくとも駆動用基板11の面内方向で異方性を有することをいう。
媒質としては、例えば、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質(各種有機材料、無機材料)などが挙げられる。ポッケルス効果およびカー効果(それ自身は、等方相状態で観察される)は、それぞれ、電界の一次あるいは二次に比例する電気光学効果である。電気光学効果を示す物質は、電界無印加状態では、等方相であるため光学的に等方的であるが、電圧印加状態では、電界が印加されている領域において、電界方向に化合物の分子の長軸方向が配向し、複屈折が発現する。例えば、カー効果を示す物質を用いた表示方式の場合、電界を印加して1つの分子内での電子の偏りを制御することにより、ランダムに配列した個々の分子が各々別個に回転して向きを変える。これにより、応答速度が非常に速く、また、分子が無秩序に配列していることから、視角制限がないという利点がある。なお、上記媒質のうち、大まかに見て電界の一次または二次に比例しているものは、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質として扱うことができる。
ポッケルス効果を示す物質としては、例えば、ヘキサミン等の有機固体材料などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
カー効果は入射光に対して透明な媒質中で観測されるため、カー効果を示す物質は、透明媒質として用いられる。カー効果を示す物質としては、液晶性物質が好ましい。通常、液晶性物質は、温度上昇に伴って、短距離秩序を持った液晶相から、分子レベルでランダムな配向を有する等方相に移行する。すなわち、液晶性物質のカー効果は、ネマチック相ではなく、液晶相−等方相温度以上の等方相状態の液体に見られる現象であり、このような液晶性物質は、透明な誘電性液体として使用される。媒質として液晶性物質を使用する場合には、液晶性物質は、巨視的には等方相を示す透明な液体であるが、微視的には一定の方向に配列した短距離秩序を有する分子集団であるクラスタを含んでいてもよい。液晶性物質は可視光に対して透明な状態で使用されるため、このクラスタも可視光に対して透明(光学的に等方)な状態で用いることができる。これら液晶性物質は、何れも、単体で液晶性を示すものであってもよいし、複数の物質が混合されることにより液晶性を示すものであってもよいし、これらの物質に他の非液晶性物質が混入されていてもよい。
なお、媒質は、上記のポッケルス効果またはカー効果を示す物質に限定されない。すなわち、媒質は、分子の配列が光の波長以下(例えばナノスケール)のスケールのキュービック対称性を有する秩序構造を有し、光学的には等方的に見えるキュービック相を有していてもよい。
また、媒質としては、図12にしめしたようなコレステリックブルー相を適用することもできる。図12に示したように、コレステリックブルー相は、螺旋軸が3次元的に周期構造を形成しており、その構造は、高い対称性を有していることが知られている。コレステリックブルー相は、光の波長以下の秩序を有しているのでほぼ透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、コレステリックブルー相は、光学的に概ね等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。なお、図12(A)はコレステリックブルー相の基本構造(ロッドの配置)、図12(B)はコレステリックブルー相のディスクリネーションの位置、図12(C)はポリマを用いた場合のポリマネットワークの位置をそれぞれ表している。
コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、JC1041(商品名、チッソ株式会社製混合液晶)を48.2mol%、5CBを47.4mol%およびZLI−4572を4.4mol%の割合で含む組成物が知られている。この組成物は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。コレステリックブルー相を示す物質は、図12(C)に示したようにポリマと共に用いて配向秩序を安定化させてもよい。
また、媒質としてのコレステリックブルー相は、光学波長未満の欠陥秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明であり、概ね光学的に等方性を示す。ここで、概ね光学的に等方性を示すというのは、コレステリックブルー相は液晶の螺旋ピッチを反映した色を呈するが、この螺旋ピッチによる呈色を除いて、光学的に等方性を示すことを意味する。
なお、螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。この選択反射の波長域が可視域に無い場合には呈色しない(呈色が人間の目に認識されない)が、可視域にある場合にはその波長に対応した色を示す。400nm以上の選択反射波長域または螺旋ピッチを持つ場合、その螺旋ピッチを反映した色に呈色する。すなわち、可視光が反射されるので、それによって呈する色が人間の目に認識されてしまう。よって、例えば、フルカラー表示の表示素子をテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。この選択反射波長は、媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、媒質の構造が一次元的ではないとき、つまりコレステリックブルー相のように三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。
このため、コレステリックブルー相(ブルー相)の選択反射波長域または螺旋ピッチは可視域以下、つまり400nm以下であることが好ましい。ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが400nm以下であれば、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されない。また、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目の認識できない波長は380nm以下であると定められている。したがって、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であることがより好ましい。この場合、上記のような呈色が人間の目に認識されることを確実に防止できる。
また、上記のような呈色は、螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、媒質の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。Δnは、誘電性物質によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を光変調層30に含まれる媒質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率は1.5程度、Δnは0.1程度となる。この場合、呈色する色が可視域にないためには、螺旋ピッチPは、λ=400nmとすると、P=400nm/1.5=267nmになる。また、ΔλはΔλ=0.1×267=26.7になる。したがって、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されないようにするためには、媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下にすればよい。すなわち、上記のような呈色を防止するためには、媒質の螺旋ピッチが253nm以下であることが好ましい。ただし、ここでは、λ=nPの関係において、λを400nmとしたが、λを国際照明委員会CIEが人間の目の認識できない波長として定めている380nmとした場合には、呈色する色が可視域外とするための螺旋ピッチは240nm以下となる。すなわち、媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記のような呈色を確実に防止することができる。
なお、上記実施の形態で説明したJC1041と5CBとZLI−4572とを所定の組成比で混合したものは、約53℃以下で液体的な等方相から光学的な等方相に相転移するが、螺旋ピッチが約220nmであり、可視域未満にあるために呈色しない。
このように、媒質としてのコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有している。欠陥構造は隣り合う分子が大きく捩れていることに起因していているので、コレステリックブルー相を示す誘電性媒質は大きなねじれ構造を発現させるためにカイラル性を示す必要がある。大きな捩れ構造を発現させるためには、誘電性媒質にカイラル剤を加えることが好ましい。カイラル剤としては、上記したZLI−4572の他、例えばMLC−6248(メルク株式会社製)などが挙げられるが、これに限るものではない。ところで、カイラル剤添加による上記の効果はコレステリックブルー相に限定されるものではなく、ネマチック相等の液晶相を示す誘電性媒質においても、略同様の効果を得ることができる。
また、媒質としては、有極性分子を含有することが望ましく、例えばニトロベンゼン等が媒質として好適である。なお、ニトロベンゼンもカー効果を示す媒質の一種である。
このように本変形例では、媒質として使用できる物質は、電界の印加により光学的異方性(屈折率、配向秩序度)の程度が変化するものでありさえすれば、ポッケルス効果あるいはカー効果を示す物質であってもよい。また、キュービック相、スメクチックD相、コレステリックブルー相あるいはスメクチックブルー相の何れかを示す分子からなるものであってもよい。また、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相の何れかを示すリオトロピック液晶もしくは液晶微粒子分散系であってもよい。さらに、媒質は、微粒子、水素結合体あるいは重合性化合物が含まれていてもよい。またさらに、媒質は、液晶マイクロエマルションやデンドリマー、両親媒性分子、コポリマあるいは上記以外の有極性分子などであってもよい。
また、上記媒質は、液晶性物質に限らず、電界印加時に光の波長以下の秩序構造(配向秩序)を有することが好ましい。秩序構造が光の波長以下であれば、光学的に等方性を示す。従って、電界印加時に秩序構造が光の波長以下となる媒質を用いることにより、電界無印加時と電界印加時とにおける表示状態を確実に異ならせることができる。
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等において説明した態様に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。具体的には、上記実施の形態等では、透過型の表示素子について説明したが、反射型の表示素子としてもよい。
また、上記した実施の形態等では、駆動用基板を構成する各層の厚さや画素電極の櫛歯部分の幅や、画素電極の櫛歯部分と共通電極の櫛歯部分との間隔や、画素の面積などについて、数値範囲を説明しているが、その説明は、あくまでも一例であり、これに限定されるものではない。