本発明の実施の一形態について図1ないし図17に基づいて説明すれば、以下の通りである。
図1は、本実施の形態にかかる表示素子の要部の概略構成を示す断面図である。図2(a)は、電圧無印加状態(OFF状態)における本実施の形態にかかる表示素子の要部の概略構成を模式的に示す断面図であり、図2(b)は電圧印加状態(ON状態)における本実施の形態にかかる表示素子の要部の概略構成を模式的に示す断面図である。本実施の形態にかかる表示素子は、駆動回路や信号線(データ信号線)、走査線(走査信号線)、スイッチング素子等とともに表示装置に配されて用いられる。
図29は、本実施の形態にかかる表示素子(表示素子20)を用いる表示装置80の要部の概略構成を示すブロック図であり、図30は、図29に示す表示装置80に用いられる表示素子20の周辺の概略構成を示す模式図である。
図29に示すように、本実施の形態にかかる表示装置80は、画素81…がマトリクス状に配された表示パネル82と、駆動回路としてのソースドライバ83およびゲートドライバ84と、電源回路86等とを備えている。
上記各画素81には、図30に示すように、表示素子20およびスイッチング素子87が設けられている。
また、上記表示パネル82には、複数のデータ信号線SL1〜SLn(nは2以上の任意の整数を示す)と、各データ信号線SL1〜SLnにそれぞれ交差する複数の走査信号線GL1〜GLm(mは2以上の任意の整数を示す)とが設けられ、これらデータ信号線SL1〜SLnおよび走査信号線GL1〜GLmの組み合わせ毎に、上記画素81…が設けられている。
上記電源回路86は、上記ソースドライバ83およびゲートドライバ84に、上記表示パネル82にて表示を行うための電圧を供給し、これにより、上記ソースドライバ83は、上記表示パネル82のデータ信号線SL1〜SLnを駆動し、ゲートドライバ84は、表示パネル82の走査信号線GL1〜GLmを駆動する。
上記スイッチング素子87としては、例えばFET(電界効果型トランジスタ)あるいはTFT(薄膜トランジスタ)等が用いられ、上記スイッチング素子87のゲート電極88が走査信号線GLiに、ドレイン電極89がデータ信号線SLiに、さらに、ソース電極90が、表示素子20に接続されている。また、表示素子20の他端は、全画素81…に共通の図示しない共通電極線に接続されている。これにより、上記各画素81において、走査信号線GLi(iは1以上の任意の整数を示す)が選択されると、スイッチング素子87が導通し、図示しないコントローラから入力される表示データ信号に基づいて決定される信号電圧が、ソースドライバ83によりデータ信号線SLi(iは1以上の任意の整数を示す)を介して表示素子20に印加される。表示素子20は上記走査信号線GLiの選択期間が終了してスイッチング素子87が遮断されている間、理想的には、遮断時の電圧を保持し続ける。
図1および図2(a)・(b)に示すように、本実施の形態にかかる表示素子は、互いに対向して配置された、少なくとも一方が透明な一対の基板(以下、画素基板11および対向基板12と記す)を備え、これら一対の基板間に、光学変調層として、電界の印加により光学変調する媒質(以下、媒質Aと記す)からなる媒質層(誘電性物質層)3が挟持されている構成を有している。また、上記一対の基板の外側、つまり、上記画素基板11および対向基板12の互いの対向面とは反対側の面には、偏光板6・7がそれぞれ設けられていると共に、上記対向基板12と、該対向基板12の外側に設けられた偏光板7との間には、二軸光学異方性を有する位相差板21が設けられている。
上記画素基板11および対向基板12は、図2(a)・(b)に示すように、例えばガラス基板等の透明な基板1・2をそれぞれ備えている。また、上記画素基板11における基板1の上記基板2との対向面、つまり、上記対向基板12との対向面には、図2(b)に示すように上記基板1に略平行な電界(横向きの電界)を上記媒質層3に印加するための電界印加手段である櫛形状の櫛形電極4・5が、図6に示すように、これら櫛形電極4・5の櫛歯部分4a・5aが互いに噛み合う方向に対向配置されている。
上記櫛形電極4・5は、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明電極材料からなり、本実施の形態では、例えば線幅5μm、電極間距離(電極間隔)5μmに設定されている。但し、上記線幅および電極間距離は単なる一例であり、これに限定されるものではない。
上記表示素子は、例えば、上記櫛形電極4・5が設けられた基板1と、基板2とを、図示しないシール剤により、必要に応じて、例えば図示しないプラスチックビーズやガラスファイバースペーサ等のスペーサを介して貼り合わせ、その空隙に、前記媒質Aを封入することにより形成される。
本実施の形態に用いられる上記媒質Aは、電界を印加することにより、光学的異方性の程度が変化する媒質である。物質中に外部から電界Ejを加えると、電気変位Dij=εij・Ejを生じるが、そのとき、誘電率(εij)にもわずかな変化が見られる。光の周波数では屈折率(n)の自乗は誘電率と等価であるから、上記媒質Aは、電界の印加により、屈折率が変化する物質と言うこともできる。なお、上記媒質Aは、液体、気体、固体の何れであっても構わない。
このように、本実施の形態にかかる表示素子は、物質の屈折率が外部電界によって変化する現象(電気光学効果)を利用して表示を行うものであり、電界印加により分子(分子の配向方向)が揃って回転することを利用した液晶表示素子とは異なり、光学的異方性の方向は殆ど変化せず、その光学的異方性の程度の変化(主に、電子分極や配向分極)により表示を行うようになっている。
上記媒質Aとしては、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質等、電界無印加時に光学的には等方(巨視的に見て等方であればよい)であり、電界印加により光学的異方性が発現する物質であってもよく、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により異方性が消失し、光学的に等方性(巨視的に見て等方であればよい)を示す物質であってもよい。典型的には、電界無印加時には光学的に等方(巨視的に見て等方であればよい)であり、電界印加により光学変調(特に電界印加により複屈折が上昇することが望ましい)を発現する媒質である。
ポッケルス効果、カー効果(それ自身は、等方相状態で観察される)は、それぞれ、電界の一次または二次に比例する電気光学効果であり、電圧無印加状態では、等方相であるため光学的に等方的であるが、電圧印加状態では、電界が印加されている領域において、電界方向に化合物の分子の長軸方向が配向し、複屈折が発現することにより透過率を変調することができる。例えば、カー効果を示す物質を用いた表示方式の場合、電界を印加して1つの分子内での電子の偏りを制御することにより、ランダムに配列した個々の分子が各々別個に回転して向きを変えることから、応答速度が非常に速く、また、分子が無秩序に配列していることから、視角制限がないという利点がある。したがって、本表示素子は、その高速応答性を利用して、例えばフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置に適用することもできる。なお、上記媒質Aのうち、大まかに見て電界の一次または二次に比例しているものは、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質として扱うことができる。
ポッケルス効果を示す物質としては、例えば、ヘキサミン等の有機固体材料等が挙げられるが、特に限定されるものではない。上記媒質Aとしては、ポッケルス効果を示す各種有機材料、無機材料を用いることができる。
また、カー効果を示す物質としては、例えば、PLZT(ジルコン酸鉛とチタン酸鉛との固溶体にランタンを添加した金属酸化物)や、下記構造式(1)〜(4)
で示される液晶性物質等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
カー効果は、入射光に対して透明な媒質中で観測される。このため、カー効果を示す物質は、透明媒質として用いられる。通常、液晶性物質は、温度上昇に伴って、短距離秩序を持った液晶相から、分子レベルでランダムな配向を有する等方相に移行する。つまり、液晶性物質のカー効果は、ネマチック相ではなく、液晶相−等方相転移温度)以上の等方相状態の液体に見られる現象であり、上記液晶性物質は、透明な誘電性液体として使用される。
液晶性物質等の誘電性液体は、加熱による使用環境温度(加熱温度)が高いほど、等方相状態となる。よって、上記媒質として液晶性物質等の誘電性液体を使用する場合には、該誘電性液体を透明、すなわち可視光に対して透明な液体状態で使用するために、例えば、(1)媒質層3の周辺に、図示しないヒータ等の加熱手段を設け、該加熱手段により上記誘電性液体をその透明点以上に加熱して用いてもよいし、(2)バックライトからの熱輻射や、バックライトおよび/または周辺駆動回路からの熱伝導(この場合、上記バックライトや周辺駆動回路が加熱手段として機能する)等により、上記誘電性液体をその透明点以上に加熱して用いてもよい。また、(3)上記基板1・2の少なくとも一方に、ヒータとしてシート状ヒータ(加熱手段)を貼合し、所定の温度に加熱して用いてもよい。さらに、上記誘電性液体を透明状態で用いるために、透明点が、上記表示素子の使用温度範囲下限よりも低い材料を用いてもよい。
上記媒質Aは、液晶性物質を含んでいることが望ましく、上記媒質Aとして液晶性物質を使用する場合には、該液晶性物質は、巨視的には等方相を示す透明な液体であるが、微視的には一定の方向に配列した短距離秩序を有する分子集団であるクラスタを含んでいることが望ましい。なお、上記液晶性物質は可視光に対して透明な状態で使用されることから、上記クラスタも、可視光に対して透明(光学的に等方)な状態で用いられる。
このために、上記表示素子は、上述したように、ヒータ等の加熱手段を用いて温度制御を行ってもよいし、特許文献2に記載されているように、媒質層3を、高分子材料等を用いて小区域に分割して用いてもよく、上記液晶性物質の直径を例えば0.1μm以下とする等、上記液晶性物質を、光の波長よりも小さな径を有する微小ドロップレットとし、光の散乱を抑制することにより透明状態とするか、あるいは、使用環境温度(室温)にて透明な等方相を示す液晶性化合物を使用する等してもよい。上記液晶性物質の直径、さらにはクラスタの径(長径)が0.1μm以下、つまり、光の波長(入射光波長)よりも小さい場合の光の散乱は無視することができる。このため、例えば上記クラスタの径が0.1μm以下であれば、上記クラスタもまた可視光に対して透明である。
なお、上記媒質Aは、上述したようにポッケルス効果またはカー効果を示す物質に限定されない。このため、上記媒質Aは、分子の配列が、光の波長未満(例えばナノスケール)のスケールのキュービック対称性を有する秩序構造を有し、光学的には等方的に見えるキュービック相(非特許文献3・6〜8参照)を有していてもよい。キュービック相は上記媒質Aとして使用することができる液晶性物質の液晶相の一つであり、キュービック相を示す液晶性物質としては、例えば、下記構造式(5)
で示されるBABH8等が挙げられる。このような液晶性物質に電界を印加すれば、微細構造に歪みが与えられ、光学変調を誘起させることが可能となる。
BABH8は、136.7℃以上、161℃以下の温度範囲では、格子定数が約6nmと光学波長より1桁以上も小さく、光の波長未満のスケールのキュービック対称性を有する秩序構造からなるキュービック相を示す。該BABH8は、光の波長未満の秩序構造を有し、上記温度範囲において、電圧無印加時に光学的等方性を示すことで、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
一方、上記BABH8の温度を、例えば前記した加熱手段等を用いて136.7℃以上、161℃以下に制御しながら、櫛形電極4・5間に電圧を印加すると、キュービック対称性を有する構造(秩序構造)に歪が生じる。すなわち、上記BABH8は、上記の温度範囲において、電圧無印加状態では光学的に等方的であり、電圧印加により光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。
これにより、上記媒質層3において複屈折が発生するので、上記表示素子は、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電圧印加によって変化する。また、櫛形電極4・5間に印加する電圧と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、136.7℃以上、161℃以下の温度範囲、すなわち、約20Kという広い温度範囲において安定した曲線となる。このため、上記BABH8を上記媒質Aとして使用した場合、温度制御を極めて容易に行うことができる。すなわち、上記BABH8からなる媒質層3は、熱的に安定な相であるため、急激な温度依存性が発現せず、温度制御が極めて容易である。
また、上記媒質Aとしては、液晶分子が光の波長未満のサイズで放射状に配向した集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を実現することも可能であり、その手法としては非特許文献4に記載の液晶マイクロエマルションや非特許文献5に記載の液晶・微粒子分散系(溶媒(液晶)中に微粒子を混在させた混合系、以下、単に液晶微粒子分散系と記す)の手法を応用することも可能である。これらに電界を印加すれば、放射状配向の集合体に歪みが与えられ、光学変調を誘起させることが可能である。
なお、これら液晶性物質は、何れも、単体で液晶性を示すものであってもよいし、複数の物質が混合されることにより液晶性を示すものであってもよいし、これらの物質に他の非液晶性物質が混入されていてもよい。さらには、非特許文献1に記載されているような高分子・液晶分散系の物質を適用することもできる。また、非特許文献2に記載されているようなゲル化剤を添加してもよい。
また、上記媒質Aとしては、有極性分子を含有することが望ましく、例えばニトロベンゼン等が媒質Aとして好適である。なお、ニトロベンゼンもカー効果を示す媒質の一種である。
以下に、上記媒質Aとして用いることができる物質もしくは該物質の形態の一例を示すが、本発明は以下の例示にのみ限定されるものではない。
〔スメクチックD相(SmD)〕
スメクチックD相(SmD)は、上記媒質Aとして使用することができる液晶性物質の液晶相の一つであり、三次元格子構造を有し、その格子定数が光の波長未満である。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、非特許文献3もしくは非特許文献8に記載の下記一般式(6)・(7)
で表されるANBC16等が挙げられる。なお、上記一般式(6)・(7)において、mは任意の整数、具体的には、一般式(6)においてはm=16、一般式(7)においてはm=15を示し、Xは−NO2基を示す。
上記ANBC16は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相が発現する。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(登録商標)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数は数十nm以下であり、光学波長未満である。すなわち、スメクチックD相は、キュービック対称性を有しており、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。なお、本実施の形態に示した上記ANBC16の格子定数は約6nmである。ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16に電界を印加すれば、ANBC16の分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、ANBC16に光学的異方性が発現する。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。
〔液晶マイクロエマルション〕
液晶マイクロエマルションとは、非特許文献4において提案された、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である。
液晶マイクロエマルションの具体例としては、例えば、非特許文献4に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶であるペンチルシアノビフェニル(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック(ライオトロピック)液晶であるジドデシルアンモニウムブロマイド(DDAB)の水溶液との混合系がある。この混合系は、図15および図16に示すような模式図で表される構造を有している。
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が50Å程度、逆ミセル間の距離が200Å程度である。これらのスケールは光の波長より一桁程度小さい。すなわち、上記の混合系(液晶マイクロエマルション)は光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、この混合系は、光学的には等方性を示す。
そして、この混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学的異方性が発現する。なお、上記の混合系に限らず、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する(例えば、電圧無印加時には光学的に等方性を示し、電圧印加によって光学的異方性が発現する)液晶マイクロエマルションであれば、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。
〔リオトロピック液晶〕
リオトロピック(ライオトロピック)液晶とは、液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味する。また、上記の特定の相とは、電界印加時と電圧無印加時とで、光学的異方性の程度が変化する相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献11に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。図17に、リオトロピック液晶相の分類図を示す。
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液等は球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキング(分子集合体を形成)して球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光の波長未満であるため、異方性を示さず、等方的に見える。すなわち、球状ミセルは、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため異方性を発現する。よって、球状ミセル相を有するリオトロピック液晶もまた、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相等を媒質Aとして使用しても、同様の効果を得ることができる。
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基とが入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を媒質Aとして適用することにより、ミセル相を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、前述した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を有するリオトロピック液晶の一例である。
また、非イオン性界面活性剤であるペンタエチレングリコール−ドデシルエーテルの水溶液には、図17に示したような、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光の波長未満の秩序(配向秩序、秩序構造)を有しているので透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電圧を印加すると、配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を有するリオトロピック液晶もまた、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。
〔液晶微粒子分散系〕
また、媒質Aは、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテルの水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径100Å程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系であってもよい。上記液晶微粒子分散系ではスポンジ相が発現するが、本実施の形態において用いられる媒質Aとしては、前述したミセル相、キュービック相、逆ミセル相等を発現する液晶微粒子分散系であってもよい。なお、上記ラテックス粒子に代えて前記DDABを使用することによって、前述した液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
また、溶媒中に分散させる微粒子は、1種または2種以上のものにより構成されることが好ましい。
また、平均粒子径が0.2μm以下の微粒子を用いることが好ましい。平均粒子径0.2μm以下の微小な大きさの微粒子を用いることにより、媒質層3内における微粒子の分散性が安定し、長時間経っても微粒子が凝集したり、相が分離したりしない。したがって、例えば、微粒子が沈殿して局所的な微粒子のムラが生じることより、表示素子としてムラが生じることを充分に抑制できる。
また、各微粒子の粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
三次元的に分布した粒子に光を入射すると、ある波長において回折光が生じる。この回折光の発生を抑制すれば、光学的等方性が向上し、表示素子のコントラストが上昇する。
三次元的に分布した粒子による回折光は入射する角度にも依存するが、回折される波長λは概ねλ=2dで与えられる。ここで、dは粒子間距離である。
ここで、回折光の波長が400nm以下であれば、人間の目にほとんど認識されない。このため、λ≦400nmとすることが好ましく、その場合、粒子間距離dを200nm以下とすればよい。
さらに、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。このため、λ≦380nmとすることがさらに好ましく、その場合、粒子間距離dを190nm以下とすればよい。
また、粒子間距離が長いと粒子間の相互作用が充分に働かず、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの相が発現しにくくなるので、この観点からも、粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
また、媒質層3における微粒子の濃度(含有量)を、この微粒子と媒質層3に封入される媒質Aとの総重量に対して、0.05wt%〜20wt%とすることが好ましい。媒質層3における微粒子の濃度が0.05wt%〜20wt%となるように調製することにより、微粒子の凝集を抑制することができる。
なお、媒質層3に封入する微粒子は特に限定されるものではなく、透明なものでも不透明なものでもよい。また、微粒子は、高分子などの有機質微粒子であってもよく、無機質微粒子や金属系微粒子などであってもよい。
有機質微粒子を用いる場合、例えば、ポリスチレンビーズ、ポリメチルメタクリレートビーズ、ポリヒドロキシアクリレートビーズ、ジビニルベンゼンビーズなどのポリマービーズ形態の微粒子を用いることが好ましい。また、これらの微粒子は架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。無機質微粒子を用いる場合、例えば、ガラスビーズやシリカビーズ等の微粒子を用いることが好ましい。
金属系微粒子を用いる場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属が好ましい。例えば、チタニア、アルミナ、パラジウム、銀、金、銅が好ましく、これらの金属あるいはこれら金属元素の酸化物などからなる微粒子を用いることが好ましい。これら金属系微粒子は1種類の金属のみで用いてもよいし、2種類以上の金属を合金化、複合化して形成してもよい。例えば、銀粒子の周りをチタニアやパラジウムで覆ってもよい。銀粒子だけで金属微粒子を構成すると、銀の酸化により表示素子の特性が変化する恐れがあるが、パラジウムなどの金属で表面を覆うことにより銀の酸化が防げる。また、ビーズの形態の金属系微粒子はそのまま用いても良く、加熱処理したものや、ビーズ表面に有機物を付与したものを用いてもよい。付与する有機物としては液晶性を示すものが好ましい。例えば下記の構造式(8)からなる化合物が好ましい。
ここで、nは0〜2の整数である。
また、6員環Aは、下記の官能基のいずれかが好ましい。
また、6員環B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘキシル基(trans−1,4−シクロヘキシレン基)等の6員環構造を有する置換基を示す。ただし、6員環B,Cは、上記例示の置換基にのみ限定されるものではなく、下記構造
を有する置換基のうち、何れか一種の置換基を有していればよく、互いに同じであっても異なっていても構わない。なお、上記置換基において、mは1〜4の整数を示す。
また、上記構造式(8)におけるY1、Y2およびY3は、それぞれ、10個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはアルケニル基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基は、−O−、−S−、−CO−O−および/または−O−CO−、により置き換えられていてもよく、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を含んでいてもよい。また、キラル炭素を含んでいてもよく、含まなくてもよい。また、Y1、Y2およびY3は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
また、上記構造式(8)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基を表す。
また、金属微粒子の表面に付与する有機物は、金属1モルに対して1モル以上50モル以下の割合であることが好ましい。
上記の有機物を付与した金属系微粒子は、例えば、金属イオンを溶媒に溶解または分散してから、上記有機物と混合し、これを還元することによって得られる。上記溶媒としては水、アルコール類、エーテル類を用いることができる。
また、分散させる微粒子としてフラーレン、および/または、カーボンナノチューブで形成されたものを用いてもよい。フラーレンとしては、炭素原子を球殻状に配置したものであればよく、例えば炭素原子数nが24から96の安定した構造のものが好ましい。このようなフラーレンとしては、例えば、炭素原子60個からなるC60の球状閉殻炭素分子群などが上げられる。また、カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒形状のナノチューブなどが好ましい。
また、微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円体状、塊状、柱状、錐状や、これらの形態に突起を持った形態、これらの形態に孔が開いている形態などであってもよい。また、微粒子の表面形態についても特に限定されるものではなく、例えば、平滑でも良く、凹凸や孔、溝を有していてもよい。
〔デンドリマー〕
デンドリマーとは、モノマー単位毎に枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光の波長未満の秩序(配向秩序、秩序構造)を有しているので透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。したがって、デンドリマーもまた、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。また、前述した液晶マイクロエマルションにおいてDDABに代えて上記デンドリマーを使用することにより、前述した液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができる。このようにして得られた媒質もまた、上記媒質Aとして適用することができる。
〔コレステリックブルー相〕
コレステリックブルー相は、螺旋軸が3次元的に周期構造を形成しており、その構造は、高い対称性を有していることが知られている(例えば、非特許文献6・7参照)。コレステリックブルー相は、光の波長未満の秩序(配向秩序、秩序構造)を有しているのでほぼ透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。すなわち、コレステリックブルー相は、光学的に概ね等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。
なお、コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、「JC1041」(商品名、チッソ社製混合液晶)を48.2mol%、「5CB」(4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル、ネマチック液晶)を47.4mol%、「ZLI−4572」(商品名、メルク社製カイラルドーパント)を4.4mol%の割合で混合してなる組成物が知られている。該組成物は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
また、コレステリックブルー相を示す他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、P8PIMB(1,3-phenylene bis[4-(4-8-alkylphenyliminomethyl-benzoate、バナナ型(屈曲型)液晶、下記構造式(9)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、77.2℃から82.1℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、P8PIMBを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は80.8℃から81.6℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
また、コレステリックブルー相を示すさらに他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、MHPOBC(4-(1-methylheptyloxycarbonyl)phenyl-4’-octylcarboxybiphenyl-4-carboxylate、直線状液晶、下記構造式(10)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、83.6℃から87.9℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、MHPOBCを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は87.8℃から88.4℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
なお、ZLI−2293とMLC−6248とを混合するだけではコレステリックブルー相を発現させることはできなかったが、バナナ型(屈曲型)をした液晶P8PIMBや直線状液晶MHPOBCを添加することによりコレステリックブルー相を示した。
また、上記の例では、直線状液晶としてラセミ体を用いたが、必ずしもラセミ体に限定されるものではなく、カイラル体を用いてもよい。またカイラル炭素を1つ、あるいは複数以上含んでいてよい。また、直線状液晶を用いる場合、直線状液晶MHPOBCのように反傾構造(一層ごとに異なる方向を向いている)を持つものを用いることが好ましい。
また、直線状液晶とは、化学構造式においてほぼ横長の直線に近い液晶分子を表すために用いた総称であり、実際の立体配置は化学構造式のように一平面内にあるとは限らず、折れ曲がっていることがあることはいうまでもない。
また、バナナ型(屈曲型)液晶とは、化学構造式において屈曲部を有する液晶分子を表わすために用いた総称であり、P8PIMBに限定されるものではない。例えば、化学構造式における屈曲部が、フェニレン基などのベンゼン環であってもよく、あるいは、ナフタレン環やメチレン鎖などで結合されてなるものであってもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(11)〜(14)に示す化合物が挙げられる。
また、アゾ基が含まれているバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(15)に示す化合物などが挙げられる。
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶は結合部(屈曲部)の左右で対称的な化学構造を持っているが、これに限らず、結合部の左右で非対称な化学構造を持っていてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(16)に示す化合物が挙げられる。
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶分子はカイラル炭素を含んでいないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カイラル炭素を1つ、あるいは複数含んでいてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(17)に示す化合物が挙げられる。
また、上記したように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明であり、概ね光学的に等方性を示す。ここで、概ね光学的に等方性を示すというのは、コレステリックブルー相は液晶の螺旋ピッチを反映した色を呈するが、この螺旋ピッチによる呈色を除いて、光学的に等方性を示すことを意味する。なお、螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。この選択反射の波長域が可視域に無い場合には呈色しない(呈色が人間の目に認識されない)が、可視域にある場合にはその波長に対応した色を示す。
ここで、400nm以上の選択反射波長域または螺旋ピッチを持つ場合、コレステリックブルー相(ブルー相)では、その螺旋ピッチを反映した色に呈色する。すなわち、可視光が反射されるので、それによって呈する色が人間の目に認識されてしまう。したがって、例えば、本発明の表示素子でフルカラー表示を実現してテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。
なお、選択反射波長は、上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の構造が一次元的ではないとき、つまりコレステリックブルー相のように三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。
このため、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは可視域以下、つまり400nm以下であることが好ましい。ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが400nm以下であれば、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されない。
また、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目の認識できない波長は380nm以下であると定められている。したがって、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であることがより好ましい。この場合、上記のような呈色が人間の目に認識されることを確実に防止できる。
また、上記のような呈色は、螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、誘電性媒質の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
Δnは、誘電性物質によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記媒質層3に封入する物質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率は1.5程度、Δnは0.1程度なので、この場合、呈色する色が可視域にないためには、螺旋ピッチPは、λ=400nmとすると、P=400/1.5=267nmになる。また、ΔλはΔλ=0.1×267=26.7になる。したがって、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されないようにするためには、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下にすればよい。すなわち、上記のような呈色を防止するためには、上記媒質の螺旋ピッチが253nm以下であることが好ましい。
また、上記の説明では、λ=nPの関係において、λを400nmとしたが、λを国際照明委員会CIEが人間の目の認識できない波長として定めている380nmとした場合には、呈色する色が可視域外とするための螺旋ピッチは240nm以下となる。すなわち、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記ような呈色を確実に防止することができる。
例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を50.0wt%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を38.5wt%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を11.5wt%混合した物質がある。この物質は、約53℃以下で液体的な等方相から光学的な等方相に相転移するが、螺旋ピッチが約220nmであり、可視域以下にあるために呈色しなかった。
上述のように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有している。欠陥構造は隣り合う分子が大きく捩れていることに起因していているので、コレステリックブルー相を示す誘電性媒質は大きなねじれ構造を発現させるためにカイラル性を示す必要がある。大きな捩れ構造を発現させるためには、誘電性媒質にカイラル剤を加えることが好ましい。
カイラル剤の濃度としてはカイラル剤の持つ捩れ力にもよるが、8wt%または4mol%以上であることが好ましい。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%以上とすることにより、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃以上になった。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%未満の場合は、コレステリックブルー相の温度範囲が狭くなった。
また、カイラル剤の濃度が11.5wt%以上であることが、さらに好ましい。カイラル剤の濃度が11.5wt%以上の場合、螺旋ピッチが約220nmになり呈色しなかった。
また、カイラル剤の濃度は15wt%以上であることが、さらに好ましい。バナナ型(屈曲型)液晶や反傾構造をもつ直線状液晶を添加することによりコレステリックブルー相を発現させる場合、カイラル剤の濃度が15wt%以上であれば、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃になった。また、カイラル剤の濃度を17.9wt%に増やすことにより、コレステリックブルー相の温度範囲はさらに広がった。
このように、カイラル剤の濃度が高いとコレステリックブルー相を発現しやすくなり、さらにコレステリックブルー相が持つ螺旋ピッチも短くなるので好ましい。
ただし、カイラル剤の添加量が多くなり過ぎると、媒質層3全体の液晶性が低下するという問題が生じる。液晶性の欠如は、電圧印加時における光学的異方性の発生度合い(光学的異方性の程度の変化の度合い)の低下に繋がり、表示素子としての機能の低下を招く。また、液晶性が低下することにより、コレステリックブルー相の安定性の低下に繋がり、コレステリックブルー相の温度範囲の拡大が見込めなくなる。このため、カイラル剤の添加濃度の上限値が決まり、本願本発明者等の解析によれば、その上限濃度は80wt%であることがわかった。すなわち、カイラル剤の濃度は80wt%以下であることが好ましい。
また、本実施の形態では、カイラル剤としてはZLI−4572やMLC−6248を用いたが、これに限るものではない。一例として、S811(E.Merck社製)など市販品を用いてもよい。また、軸不斉のカイラル剤を用いても良い。軸不斉のカイラル剤としては、例えば、軸不斉ビナフチル誘導体(下記化合物(18)参照)を用いることができる。
ここで、nは4〜14の整数である。
なお、この化合物(16)はnが奇数の時に単独でブルー相を示すことがある。例えば、n=7の場合には約103℃から約94℃の範囲でブルー相を示す。したがって、この化合物(16)が単独でブルー相を示す(液晶性がある)場合には、媒質層3に封入する媒質として、この化合物(16)を単独で用いても良いし、また、化合物(16)をカイラル剤として用いても良い。
なお、上記の説明では、コレステリックブルー相におけるカイラル剤添加による効果を述べてきたが、カイラル剤添加による上記の効果はコレステリックブルー相に限定されるものではなく、スメクチックブルー相やネマチック相等の液晶相を示す誘電性媒質においても、略同様の効果を得ることができる。
〔スメクチックブルー相〕
スメクチックブルー(BPSm)相は、コステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有し(例えば、非特許文献7、非特許文献10等参照)、光の波長未満の秩序(配向秩序、秩序構造)を有しているのでほぼ透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。すなわち、スメクチックブルー相は、光学的に概ね等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献10に記載されているFH/FH/HH−14BTMHC等が挙げられる。該物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃でBPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。BPSm相は、非特許文献7に示すように、高い対称性の構造を有するため、おおむね光学的等方性が示される。また、物質FH/FH/HH−14BTMHCに電界を印加すると、液晶分子が電界方向に向こうとすることにより格子が歪み、同物質は異方性を発現する。よって、同物質は、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして使用することができる。
また、スメクチックブルー相を示す媒質を用いる場合には、コレステリックブルー相を示す媒質を用いる場合と同様、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは400nm以下であることが好ましく、380nm以下であることがより好ましい。さらに、螺旋ピッチは253nm以下であることが好ましく、240nm以下であることがより好ましい。
また、本表示素子の誘電性物質層3に用いる媒質としては、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有していて、電圧印加により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよく、スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を持つ物質でもよい。
スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を示す物質としては、例えば下記の化合物(19)および(20)の混合物があげられる。
ここで、Lは2〜10の整数を表し、mは2〜14の整数を表し、nは0〜6の整数である。
なお、化合物(19)と化合物(20)とを混合する場合には、2×(n+1)=mの関係を満たすように混合することが好ましい。また、化合物(19)と化合物(20)との混合割合は、適宜設定すればよい。例えばL=6、m=6、n=2の場合、化合物(19)と化合物(20)とを等量混合すると、スメクチックブルー相に類似した相(光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相)を約143℃から約130℃の範囲で示す。また、L=6、m=6、n=2の場合に、化合物(19)を30%、化合物(20)を70%の割合で混合したときには、約132℃から約120℃の範囲で光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相を示す。
また、誘電性物質(媒質層3に封入する媒質A)のネマティック相状態における、550nmでの屈折率異方性をΔnとし、1kHzでの誘電率異方性をΔεとすると、Δn×Δεが2.9以上であることが好ましい。
ここで、屈折率異方性(Δn)は、電界印加時の楕円(屈折率楕円体)の主軸方向(すなわち、光波の偏光の成分方向)の屈折率(異常光屈折率)をne、上記楕円の主軸方向に垂直な方向の屈折率(常光屈折率)をnoとすると、Δn=ne−noで表される。すなわち、本発明において、上記屈折率異方性(Δn)は、Δn=ne−no(ne:異常光屈折率、no:常光屈折率)で示される複屈折変化を示す。
また、誘電率異方性(誘電率変化)(Δε)は、誘電率の異方性を示し、液晶分子の長軸方向における誘電率をεe、液晶分子の短軸方向における誘電率をεoとすると、Δε=εe−εoで表される値である。
次に、媒質層3に上記液晶微粒子分散系を封入した本表示素子について行った、駆動電圧の測定結果について説明する。
溶媒としては上記化合物(7)を用いた。この誘電性物質(液晶微粒子分散系)のΔn×Δεは約2.2であった。また、媒質層層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5(4a・5a)の電極間距離を3.3μmで形成した。なお、上記屈折率異方性Δnは、アッベ屈折計(アタゴ製「4T(商品名)」)を使用し、波長550nmにて測定した。また、上記誘電率異方性Δεは、インピーダンスアナライザー(東陽テクニカ社製「SI1260(商品名)」)を使用し、周波数1kHzにて測定した。
このように形成した本表示素子について、駆動電圧を変化させながら透過率を測定したところ、透過率が最大となる駆動電圧は約28Vであった(図31参照)。
ところで、非特許文献9によると、電界印加により発生する複屈折△n(E)は、
△n(E)=λBE2
で記述できる。ここで、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
また、複屈折が変化することにより透過率Tは下式のように変化する。
T=sin2(π×Δn(E)×d/λ)=sin2(πBE2d)
ここで、dは媒質層3の厚さである。
したがって、上式より、透過率が最大になるのは、πBE2d=π/2の場合である。
また、上式よりΔB=Δn(E)/λE2=ΔnQ(E)/λE2である。ここで、Q(E)は配向秩序パラメータである。
また、非特許文献9によると、Q∝Δε×E2である。
よって、透過率が最大となる駆動電圧Vは、櫛型電極4・5(4a・5a)の電極間距離をSとすると、
V=ES=S×sqrt(1/(2×B×d))∝S×sqrt(1/(Δn×Δε)×d)
になる。
以上の結果をもとに、上記誘電性物質を本表示素子に封入して測定した電圧−透過率特性、及び、上記駆動電圧とΔn×Δεの関係式から見積もった、透過率が最大となる電圧値(V(V))と、Δn×Δεとの関係を図31に示す。
図31に示すように、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用し、媒質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5(4a・5a)の電極間距離を3.3μmとした場合、透過率が最大となる駆動電圧は24Vになる。
本表示素子をアクティブマトリクス駆動の表示装置に適用する場合には、櫛歯電極4・5に印加する電圧のON/OFFを切り替えるスイッチング素子(TFT素子)を用いる。スイッチング素子(TFT素子)のゲート電極の膜厚と膜質とを最適化した場合に、ゲート電極に印加することが可能な耐圧(電圧)を測定したところ、最大で63Vであった。したがって、この耐圧からゲート電極の電位がHigh(すなわち、ゲート電極ON)のときの電圧10Vおよびゲート電極の電位がLow(すなわち、ゲート電極OFF)のときの電圧−5V分を差し引いた48Vpp(63−10−5=48Vpp(peak-to-peak))が、媒質層3に印加することができる最大限の電圧値である。この電圧値は、実効値(rms:root-mean-square)で言えば±24Vになる。
したがって、媒質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5(4a・5a)の電極間距離を3.3μmとする場合には、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用することにより、スイッチング素子の耐圧範囲内で、透過率を最大とすることができる。
なお、Δn×Δεが2.9以上の誘電率物質としては、例えば、化合物(21)があげられる。
ここで、Rはアルキル基を表す。化合物(21)はΔεが約25、Δnが約0.15であり、Δn×Δε=3.75になる。
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに透過率が最大となる駆動電圧を下げるためには、櫛歯電極間隔を狭くすることが考えられるが、製造上の精度やプロセスマージン、プロセスコスト等の制限から、櫛歯電極間隔を狭くすることには限界がある。
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに駆動電圧を下げるためには、媒質層3の厚さをさらに厚くすることも考えられる。しかしながら、媒質層の厚さを単純に厚くしても、電界が印加される厚みは、必ずしも媒質層の厚さの増加分だけ増えるわけではない。このため、媒質層3の厚みを10μmから、さらに厚くしても駆動電圧の低減には効果的ではない。
以上のように、本実施の形態にかかる表示素子において媒質Aとして使用することができる物質は、電界の印加により光学的異方性(屈折率、配向秩序度)の程度が変化するものでありさえすれば、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質であってもよく、キュービック相、スメクチックD相、コレステリックブルー相、スメクチックブルー相の何れかを示す分子からなるものであってもよく、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相の何れかを示すリオトロピック液晶もしくは液晶微粒子分散系であってもよい。また、上記媒質Aは、液晶マイクロエマルションやデンドリマー(デンドリマー分子)、両親媒性分子、コポリマー、もしくは、上記以外の有極性分子等であってもよい。
また、上記媒質は、液晶性物質に限らず、電圧印加時または電圧無印加時に光の波長未満の秩序構造(配向秩序)を有することが好ましい。秩序構造が光の波長未満であれば、光学的に等方性を示す。従って、電圧印加時または電圧無印加時に秩序構造が光の波長未満となる媒質を用いることにより、電圧無印加時と電圧印加時とにおける表示状態を確実に異ならせることができる。
以下、本実施の形態では、上記媒質Aとして、前記構造式(1)で示されるペンチルシアノビフェニル(5CB)を使用するものとするが、上記媒質Aとしては、これに限定されるものではなく、上記5CBに代えて、上述した各種物質を適用することができる。
本実施の形態によれば、上記櫛形電極4・5としてITOを使用し、線幅5μm、電極間距離5μm、媒質層3の層厚(すなわち基板1・2間の距離)を10μmとし、媒質Aとして5CBを使用し、外部加温装置(加熱手段)により上記5CBをネマチック等方相の相転移直上近傍の温度(相転移温度よりも僅かに高い温度、例えば+0.1K)に保ち、電圧印加を行うことにより、透過率を変化させることができた。なお、上記5CBは、33.3℃未満の温度でネマチック相、それ以上の温度で等方相を示す。
本実施の形態において、基板1・2におけるそれぞれの対向面上には、ラビング処理が施された図示しない誘電体薄膜(配向膜)が必要に応じて形成されていてもよい。上記一対の基板1・2のうち少なくとも一方の基板の内側に上記誘電体薄膜が形成されていることで、上記配向の秩序の度合いを向上させることができ、より大きな電気光学効果、例えばより大きなカー効果を得ることができる。
上記誘電性薄膜としては、それぞれ、有機膜であってもよいし、無機膜であってもよく、上記配向効果を得ることができさえすれば、特に限定されるものではないが、上記誘電体薄膜を有機薄膜により形成した場合、良好な配向効果を示すことから、上記誘電性薄膜としては有機薄膜を用いることがより望ましい。このような有機薄膜の中でもポリイミドは安定性、信頼性が高く、極めて優れた配向効果を示すことから、上記誘電性薄膜材料にポリイミドを使用することで、より良好な表示性能を示す表示素子を提供することができる。
上記誘電体薄膜は、上記一対の基板1・2のうち少なくとも一方の基板の内側、例えば、上記基板1上に、上記櫛形電極4・5を覆うように形成すればよく、その膜厚は特に限定されない。また、上記基板1上に設けられた誘電性薄膜と、基板2上に設けられた誘電性薄膜とは、例えば、上記櫛形電極4・5の櫛歯部分4a・5aに沿って互いに逆方向にラビング処理が施される。
次に、本実施の形態にかかる表示素子における表示原理について図3(a)・(b)〜図5(a)〜(g)を参照して以下に説明する。
なお、以下の説明では、主に、上記表示素子として透過型の表示素子を使用し、電界無印加時に光学的にはほぼ等方、好適には等方であり、電界印加により光学的異方性が発現する物質を用いる場合を例に挙げて説明するものとするが、本発明はこれに限定されるものではない。
図3(a)は電圧無印加状態(OFF状態)における上記表示素子の媒質を模式的に示す断面図であり、図3(b)は電圧印加状態(ON状態)における上記表示素子の断面を模式的に示す図である。図4は、上記表示素子における印加電圧と透過率との関係を示すグラフであり、図5(a)〜(g)は、本実施形態にかかる表示素子と従来の液晶表示素子との表示原理の違いを、電圧無印加時(OFF状態)および電圧印加時(ON状態)における媒質の平均的な屈折率楕円体の形状(屈折率楕円体の切り口の形状にて示す)およびその主軸方向にて模式的に示す断面図であり、図5(a)〜(g)は、順に、本実施の形態にかかる表示素子の電圧無印加時(OFF状態)の断面図、該表示素子の電圧印加時(ON状態)の断面図、TN(Twisted Nematic)方式の液晶表示素子の電圧無印加時の断面図、該TN方式の液晶表示素子の電圧印加時の断面図、VA(Vertical Alignment)方式の液晶表示素子の電圧無印加時の断面図、該VA方式の液晶表示素子の電圧印加時の断面図、IPS(In Plane Switching)方式の液晶表示素子の電圧無印加時の断面図、該IPS方式の液晶表示素子の電圧印加時の断面図を示す。
物質中の屈折率は、一般には等方的でなく方向によって異なっている。この屈折率の異方性は、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両櫛形電極4・5の対向方向、基板面に垂直な方向(基板法線方向)、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両櫛形電極4・5の対向方向に垂直な方向を、それぞれx,y,z方向とすると、任意の直交座標系(X1,X2,X3)を用いて次式(1)
(nji=nij、i,j=1,2,3)
で表される楕円体(屈折率楕円体)で示される(例えば非特許文献12参照)。ここで、上記式(1)を楕円体の主軸方向の座標系(Y1,Y2,Y3)を使用して書き直すと、次式(2)
で示される。n1,n2,n3(以下、nx,ny,nzと記す)は主屈折率と称され、楕円体における三本の主軸の長さの半分に相当する。原点からY3=0の面と垂直な方向に進行する光波を考えると、この光波はY1とY2との方向に偏光成分を有し、各成分の屈折率はそれぞれnx,nyである。一般に、任意の方向に進行する光に対しては原点を通り、光波の進行方向に垂直な面が、屈折率楕円体の切り口と考えられ、この楕円の主軸方向が光波の偏光の成分方向であり、主軸の長さの半分がその方向の屈折率に相当する。
まず、本実施形態にかかる表示素子と従来の液晶表示素子との表示原理の相違について、従来の液晶表示素子として、TN方式、VA方式、IPS方式を例に挙げて説明する。
図5(c)・(d)に示すように、TN方式の液晶表示素子は、対向配置された一対の基板101・102間に液晶層105が挟持され、上記両基板101・102上にそれぞれ透明電極103・104(電極)が設けられている構成を有し、電圧無印加時には、液晶層105における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電圧印加時には、上記液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向するようになっている。この場合における平均的な屈折率楕円体105aは、電圧無印加時には、図5(c)に示すように、その主軸方向(長軸方向)が基板面に平行な方向(基板面内方向)を向き、電圧印加時には、図5(d)に示すように、その主軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体105aの形状は楕円であり、電圧印加によって、その長軸方向(主軸方向、屈折率楕円体の向き)が変化する。つまり、屈折率楕円体105aが回転する。なお、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体105aの形状は、ほぼ変わらない。
VA方式の液晶表示素子は、図5(e)・(f)に示すように、対向配置された一対の基板201・202間に液晶層205が挟持され、上記両基板201・202上にそれぞれ透明電極(電極)203・204が備えられている構成を有し、電圧無印加時には、液晶層205における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電圧印加時には、上記液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体205aは、図5(e)に示すように、電圧無印加時には、その主軸方向(長軸方向)が基板面法線方向を向き、図5(f)に示すように、電圧印加時にはその主軸方向が基板面に平行な方向(基板面内方向)を向く。すなわち、VA方式の液晶表示素子の場合にも、TN方式の液晶表示素子と同様、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体205aの形状は楕円であり、電圧印加によって、その長軸方向(主軸方向、屈折率楕円体の向き)が変化する。つまり、屈折率楕円体205aが回転する。なお、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体205aの形状は、ほぼ変わらない。
また、IPS方式の液晶表示素子は、図5(f)・(g)に示すように、同一の基板301上に、1対の電極302・303が対向配置された構成を有し、図示しない対向基板との間に挟持された液晶層に、上記電極302・303により電圧が印加されることで、上記液晶層における液晶分子の配向方向(屈折率楕円体305aの主軸方向(長軸方向))を変化させ、電圧無印加時と電圧印加時とで、異なる表示状態を実現することができるようになっている。すなわち、IPS方式の液晶表示素子の場合にも、TN方式およびVA方式の液晶表示素子と同様、図5(f)に示す電圧無印加時と図5(g)に示す電圧印加時とで、屈折率楕円体305aの形状は楕円であり、電圧印加によって、その長軸方向(主軸方向、屈折率楕円体の向き)が変化する。つまり、屈折率楕円体305aが回転する。なお、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体305aの形状は、ほぼ変わらない。
このように、従来の液晶表示素子では、電圧無印加時でも液晶分子が何らかの方向に配向しており、電圧を印加することによってその配向方向を変化させて表示(透過率の変調)を行っている。すなわち、屈折率楕円体の形状は変化しないが、屈折率楕円体の主軸方向が電圧印加によって回転(変化)することを利用して表示を行っている。また、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体の形はほぼ変わらない。つまり、従来の液晶表示素子では、液晶分子の可視光以上における配向秩序度は一定であり、配向方向を変化させることによって表示(透過率の変調)を行っている。
これに対し、本実施の形態にかかる表示素子は、図5(a)・(b)に示すように、電圧無印加時における屈折率楕円体3aの形状は、従来の液晶表示素子とは異なり、球状となる。すなわち、電界印加時には光学的に等方(nx=ny=nz、可視光以上における配向秩序度=0(配向秩序度が、可視光波長域および可視光波長域より大きい波長の光に対して何ら影響を与えない程度に小さい))であり、電圧を印加することによって光学的異方性(nx>ny、可視光以上における配向秩序度>0(配向秩序度が、可視光波長域および可視光波長域より大きい波長の光に対して影響を与える大きさ))が発現して、屈折率楕円体が楕円になる(光学的異方性を示す)。なお、上記nx,ny,nzは、それぞれ、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両櫛形電極4・5の対向方向の主屈折率、基板面に垂直な方向(基板法線方向)の主屈折率、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両櫛形電極4・5の対向方向に垂直な方向の主屈折率を表している。
また、上記電界印加時の屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して平行(誘電異方性が正の媒質の場合)、または、垂直(誘電異方性が負の媒質を用いる場合)となる。
これに対して、従来の液晶表示素子では、電界印加によって屈折率楕円体の長軸方向を回転させて表示を行うので、屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して平行または垂直になるとは限らない。
このように、本実施の形態にかかる表示素子は、光学的異方性の方向は一定(電圧印加方向は変化しない)で例えば可視光以上における配向秩序度を変調させることによって表示を行う。すなわち、本実施の形態にかかる表示素子では、媒質そのものの光学的異方性(または可視光以上における配向秩序度)の程度が変化する。したがって、従来の液晶表示素子とは表示原理が大きく異なっている。
本実施の形態にかかる表示素子は、図3(a)に示すように、櫛形電極4・5に電圧を印加していない状態では、基板1・2間に封入される媒質Aが等方相を示し、光学的にも等方となるので、黒表示になる。
一方、図3(b)に示すように、櫛形電極4・5に電圧を印加すると、上記媒質Aの各分子8が、その長軸方向が上記櫛形電極4・5間に形成される電界に沿うように配向されるので、複屈折現象が発現する。この複屈折現象により、図4に示すように、櫛形電極4・5間の電圧に応じて表示素子の透過率を変調することができる。
なお、相転移温度(転移点)から十分遠い温度においては表示素子の透過率を変調させるために必要な電圧は大きくなるが、転移点のすぐ直上の温度では0〜100V前後の電圧で、十分に透過率を変調させることが可能になる。
例えば、非特許文献9および非特許文献12によれば、電界方向の屈折率と、電界方向に垂直な方向の屈折率とを、それぞれn//、n⊥とすると、複屈折変化(Rtac=n//−n⊥)と、外部電界、すなわち電界E(V/m)との関係は、Rtac=λ・Bk・E2で表される。なお、λは真空中での入射光の波長(m)、Bkはカー定数(m/V2)、Eは印加電界強度(V/m)である。
カー定数Bは、温度(T)上昇とともに1/(T−Tni)に比例する関数で減少することが知られており、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに急激に必要な電界強度が増大する。このため、転移点から十分遠い温度(転移点よりも十分に高い温度)では透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなるが、相転移直上の温度では、約100V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができる。
なお、上記媒質層3は、電界印加方向に配向秩序度が上昇することにより光学的異方性が発現(光学的異方性の程度が変化)し、透過率が変化するシャッタ型の表示素子として機能し得る。したがって、互いに直交する偏光板吸収軸方向に対して、その異方性方向は45度の角度をなす時に最大透過率を与える。なお、媒質Aの光学的異方性が発現する方位が、偏光板吸収軸にそれぞれ±θ(度)の角度に存在するとしたときの透過率(P)は、P(%)=Sin2(2θ)より見積もられ、上記θが45度の時の透過率を100%とすれば、ほぼ90%以上であれば人間の目には最大輝度を有していると感じられることから、上記θは、35度<θ<55度であれば、人間の目には最大輝度を有していると感じられる。
本実施の形態では、図6に示すように、両基板1・2にそれぞれ設けられた偏光板6・7は、互いの吸収軸6a・7a、つまり、偏光板吸収軸方向が直交するように形成されている。また、各偏光板6・7における吸収軸6a・7aと櫛形電極4・5における櫛歯部分4a・5aの電極伸長方向とは約45度の角度をなすように形成されている。このため、各偏光板6・7における吸収軸6a・7aは、櫛形電極4・5の電界印加方向に対して、約45度の角度をなすように形成されている。
また、上記基板2と偏光板7との間に設けられた二軸光学異方性を有する位相差板21は、該位相差板21の面内方向の主屈折率をnx1、ny1、法線方向の主屈折率をnz1とすると、該位相差板21は、ny1方向が、位相差板21を介して上記基板2と反対側に形成されている偏光板7の吸収軸7aと平行または直交するように配置されている。つまり、上記位相差板21の屈折率楕円体における主屈折率をnx1、ny1、nz1としたとき、nx1方向、ny1方向は基板2面内および位相差板21面内に平行な方向に存在し、nz1方向は上記基板2および位相差板21の基板面および位相差板面の法線方向に存在し、ny1方向は隣接する偏光板7の吸収軸7aと平行または直交する関係を有している。
ここで、比較のために、上述した構成を有する表示素子において、上記位相差板21を設けずに、図7に示すように偏光板吸収軸方向(方位A)および偏光板吸収軸から45度方向の方位(方位B)において極角0度〜85度のコントラストを調べた結果を図8に示す。なお、コントラストは、ELDIM社(フランス)製の「EZContrast」によって測定した。
図8に示す結果から、上記位相差板21を設けない場合、方位Aではコントラストは高いが、方位Bでは極角の増加と共にコントラストが急激に減少することが判る。このような表示素子をテレビ、パソコンモニタ等の表示装置に適用した場合、実用上の問題が大きい。特に、実用上問題なく使用するためにはコントラストは10以上であることが好ましい。
そこで、まず、リタデーション(Rxz、Ryz)の値が異なる種々の位相差板21を用いて、該位相差板21を用いたときの、方位B、極角60度におけるコントラストを調べた。なお、Rxz、Ryzは、
Rxz(nm)=d1×(nx1−nz1)、
Ryz(nm)=d1×(ny1−nz1)
で示される値であり、上記位相差板21(位相差フィルム)の厚みd1は100μm、観察波長は550nmとした。この結果を図9に示す。
図9は、横軸をRxz、縦軸をRyzとしたときのコントラストを示し、図9中、黒く塗り潰した領域がコントラスト20以上の領域であり、グレーの領域(斜線領域)がコントラスト10以上の領域であり、着色されていない領域(無印領域)が、コントラストが改善されたとしても、コントラスト10未満の領域である。
実用上問題なく使用するためにはコントラストが10以上であることが望ましく、十分コントラストが向上したと認められるには、コントラストが20以上であることが必要である。
ここで、コントラストが最大になる点は、
(Rxz、Ryz)=(140nm、−140nm)および、
(Rxz、Ryz)=(−140nm、140nm)
である。なお、
(Rxz、Ryz)=(400nm、−400nm)および、
(Rxz、Ryz)=(−400nm、400nm)
付近にもコントラストが向上する領域が存在した。しかしながら、この場合には、前者と異なり、位相差板21の波長分散に起因する着色が大きく見られた。
図10に、上記したコントラスト最大条件のときの方位Aおよび方位Bの極角0〜85度のコントラストを調べた結果を示す。上記した主屈折率、さらには上記したリタデーションを有する位相差板21を用いることで、前述したように位相差板21がないときと比べて方位Bのコントラストが大きく向上し、方位Aと方位Bとでほぼ差がないコントラストが得られた。このような表示素子をテレビ、パソコンモニタ等の表示装置に適用したところ、視野角において実用上の問題はなかった。
なお、最適点は2箇所あり、それぞれRxzとRyzとが入れ替わった関係にある。したがって、位相差板21を90度回転させても同様な特性が得られることが判る。
なお、ほぼコントラスト10以上の値が得られる領域は、次式
Rxz≧0、
Ryz≦(225/500)Rxz−125、
Ryz≧(175/275)Rxz−300、
Ryz≧(500/500)Rxz−400、
Ryz≧−225、
または、
Ryz≧0、
Rxz≦(225/500)Ryz−125、
Rxz≧(175/275)Ryz−300、
Rxz≧(500/500)Ryz−400、
Rxz≧−225
で示される領域であり、上記位相差板21が上記の関係を満たす(つまり、上記位相差板21として上記関係式を満足する位相差板を使用する)ことで、コントラスト10以上の値を得ることができる。なお、位相差板21の他の範囲においてもコントラスト向上効果のある範囲はあるものの、その範囲では波長分散に起因する着色現象が強く見られ、上記位相差板21が上記の関係を満たすことで、波長分散に起因する着色を防止することができる。
また、ほぼコントラスト20以上が得られる領域は、次式
Rxz≧25、
Ryz≦(125/250)Rxz−175、
−200≦Ryz≦−50、
Ryz≧(250/300)Rxz−300、
または、
Ryz≧25、
Rxz≦(125/250)Ryz−175、
−200≦Rxz≦−50、
Rxz≧(250/300)Ryz−300、
で示される領域であり、上記位相差板21が上記の関係を満たすことで、コントラスト20以上の値を得ることができる。なお、位相差板21の他の範囲においてもコントラスト向上効果のある範囲はあるものの、その範囲では波長分散に起因する着色現象が強く見られ、上記位相差板21が上記の関係を満たすことで、波長分散に起因する着色を防止することができる。
なお、コントラスト最大点は、ほぼ(Rxz=−Ryz)であり、かつ、(Rxz−Ryz)が観察波長λの約1/2(Rxz−Ryz≒1/2λ)、つまり、透過光の波長の1/2あり、上記位相差板21が上記の関係を満たすことで、最大のコントラストを得ることができることも判った。
なお、本実施の形態では、位相差板21を1枚にて構成したが、2枚に分割して基板1と偏光板6との間(すなわち画素基板11と偏光板6との間)並びに基板2と偏光板7との間(すなわち対向基板12と偏光板7との間)にそれぞれ挿入しても同様の効果が得られる。
さらに、上記位相差板21を設けない場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC1と記す)で、上記位相差板21を設けた場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC2と記す)を除した値(C2/C1)を、図11に示す。図11において、横軸はRxz、縦軸はRyzであり、図11中、黒く塗り潰した領域が、(C2/C1)が2よりも大きい領域であり、グレーの領域(斜線領域)が、(C2/C1)が1よりも大きい領域であり、着色されていない領域(無印領域)が(C2/C1)が1以下の領域である。よって、図11中、グレーもしくは黒色領域が、二軸異方性を有する位相差板21をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板2と偏光板7との間に設けることによりコントラストの改善効果が得られる領域であり、二軸異方性を有する位相差板21をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板2と偏光板7との間に設けることにより、ほぼコントラスト改善効果を得ることができることが判る。
以上のように、本実施の形態によれば、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板と偏光板との間に、二軸光学異方性を有する位相差板を備え、上記位相差板の面内方向の主屈折率をnx1、ny1、法線方向の主屈折率をnz1とすると、上記位相差板が、そのny1方向が、該位相差板を介して上記基板と反対側に形成されている偏光板の吸収軸と平行または直交する関係を有していること、特に、前記関係式を満足する主屈折率、さらにはリタデーションを有していることで、斜め視角のコントラスト、特に偏光板吸収軸から約45度の方位における斜め視角のコントラストを向上することができ、上記表示素子の視野角特性を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、主に、透過型の表示素子を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、反射型の表示素子としてもよい。
図12に、本発明を適用した、本実施の形態にかかる反射型の表示素子の概略構成の一例を示す。
上記反射型の表示素子は、画素基板11が、例えば、ガラス基板等からなる一方の基板1上に反射層31を設けると共に、該反射層31上に、絶縁層32を介して例えばITO等の櫛形電極4・5が設けられている構成を有している。なお、その他の構成については、前記した通りである。上記絶縁層32としては、アクリル系樹脂等の有機膜;窒化ケイ素、酸化ケイ素等の無機膜;を適用することができる。また、上記反射層31としては、アルミニウムや銀の薄膜等を適用することができる。上記の構成においては、反射層31がガラス基板等の透明基板からなる他方の基板2から入射してきた光を反射することができるため、反射型の表示素子として機能する。
なお、上記したように反射型の表示素子に本発明を適用する場合には、位相差板21を光が2回透過するために、位相差板21のリタデーション(Rxz等)の値は、透過型の表示素子に本発明を適用した場合の半分の値とすることが望ましい。
なお、本実施の形態にかかる表示素子を反射型の表示素子として使用する場合、上記櫛形電極4・5としては、透過型の表示素子として用いる場合のようにITO等の透明電極材料以外にも、アルミニウム等の金属電極材料等、電極材料として従来公知の各種材料を用いることができる。また、櫛型電極4・5の線幅や電極間距離(電極間隔)等も特に限定されるものではなく、例えば、基板1と基板2との間のギャップ等に応じて任意に設定することができる。
さらに、本実施の形態では、上記基板1・2として、ガラス基板を用いた場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、基板1・2のうち、少なくとも一方が透明な基板であればよく、例えば従来公知の各種基板を使用することができる。
なお、上記基板1・2としては、従来基板として用いられているものに限定されるものではなく、例えばフィルム状であってもよく、また、可撓性を有するものであってもよく、少なくとも一方が透明であり、上記媒質Aを基板間、つまり、内部に保持(挟持)することができるものであれば、媒質Aの種類や相の状態等に応じて、様々な材料を使用することができる。
また、本実施の形態では、具体例として、媒質Aとして電界無印加時に光学的には等方であり、電界印加により光学的異方性が発現する物質を使用した場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、上記媒質Aが電界印加により異方性が消失し、光学的に等方性を示す物質であってもよいことは、前述した通りである。
以下に、上記媒質Aとして電界印加により異方性が消失し、光学的に等方性を示す物質を用いた具体例を示す。
本具体例においては、ガラス基板からなる透明な2枚の基板1・2のうち一方の基板1における基板2との対向面に、ITOからなる透明な櫛形電極4・5と、ポリイミドからなる配向膜とを形成すると共に、両基板1・2間に、媒質Aとして、透明な誘電性物質である4’−n−アルコキシ−3’−ニトロビフェニル−4−カルボン酸(ANBC−22)を封入した。また、上記表示素子における媒質層3の厚みは、上記基板1・2の対向面に予めプラスチックビーズを散布しておくことにより、4μmになるように調整した。
なお、偏光板6・7は、前記したように、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板6・7における吸収軸6a・7aと櫛形電極4・5における櫛歯部分4a・5aの電極伸長方向とが約45度の角度をなすように、それぞれ基板1・2の外側(対向面の反対側)に設けた。
このようにして得られた表示素子を、外部加温装置(加熱手段)により、スメクチックC相−キュービック相の相転移近傍の温度(相相転移温度の低温側10K程度まで)に保ち、電圧印加(50V程度の交流電場(0より大きく数百kHzまで))を行ったところ、透過率を変化させることができた。すなわち、電圧無印加時に光学的異方性を示すスメクチックC相(明状態)に、電圧を印加することにより、等方的なキュービック相(暗状態)に変化させることができた。すなわち、上記表示素子は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的等方性を示す。なお、この場合、屈折率楕円体の形状は楕円(電圧無印加時)から球状(電圧印加時)に変化する。
また、後述する実施の形態2に示すように基板1・2に、それぞれ電極を設け、基板面法線方向の電界を発生させても、ほぼ同様の結果が得られた。すなわち、電界方向は基板面水平方向だけでなく、基板面法線方向でもほぼ同様な結果が得られた。
このように、本実施の形態にかかる表示素子に用いられる媒質Aとしては、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質を用いてもよい。
また、上記媒質Aは、正の誘電異方性を有するものであっても、負の誘電異方性を有するものであってもよい。媒質Aとして正の誘電率異方性を有する媒質を用いた場合には、基板1・2に概ね平行な電界にて駆動する必要があるが、負の誘電異方性を有する媒質を適用した場合にはその限りではない。例えば、基板1・2に斜めの電界によっても駆動可能であり、垂直な電界によっても駆動可能であり、この場合には、電極の形状、材質および配置位置を適宜変更すればよい。なお、透明電極を用いて垂直に電界を印加すれば、開口率の点で有利である。
さらに、本実施の形態では、基板面内方向、つまり、上記基板1・2(画素基板11および対向基板12)に平行に電界を発生させる場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば特許文献1に示すように、基板面法線方向、つまり、基板1・2に垂直な電界を印加して表示を行ってもよい。なお、このような場合においても、電界印加による光学的異方性の程度の変化は、基板1・2に略平行な電界を印加して表示を行う場合と基本的に同じであるため、このような場合にも本発明を同様に適用することができる。
基板面法線方向に電界を印加する場合について、図13・14に基づいて説明すれば以下の通りである。
図13は、基板面法線方向への電界印加による表示方式を用いた本実施の形態にかかる表示素子の要部の概略構成を示す断面図である。
図13に示すように、上記表示方式を用いた本実施の形態にかかる表示素子は、櫛形電極4・5に代えて、透明電極33・34が、基板1・2の対向面にそれぞれ備えられている構成を有している。
このような表示素子においても、媒質Aが、透明電極33・34に電圧を印加していない状態では、基板1・2間に封入される媒質Aが等方相を示し、光学的にも等方となるので、黒表示になる。
一方、上記透明電極33・34に電圧を印加すると、上記媒質Aの各分子が、その長軸方向が上記透明電極33・34間に形成される電界に垂直な方向に配向するので、複屈折現象が発現する。この複屈折現象により、透明電極33・34間の電圧に応じて表示素子の透過率を変調することができる。
なお、このような構成の表示素子においても、前記実施の形態1と同様、相転移温度(転移点)よりも十分に高い温度では、透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなるが、転移点のすぐ直上の温度では0〜100V前後の電圧で、十分に透過率を変調させることが可能である。
また、図13に示す表示素子は、上記透明電極33・34上に、配向膜35・36がそれぞれ設けられている構成を有している。
本実施の形態では、ガラス基板からなる透明な2枚の基板1・2の対向面にそれぞれITOからなる透明電極33・34並びにポリイミドからなる配向膜35・36を形成すると共に、両基板1・2間に、媒質Aとして、前記構造式(2)〜(4)で示される化合物をそれぞれ順に30重量%、40重量%、30重量%の割合で混合してなる組成物からなる透明な誘電性液体を封入した。上記誘電性液体は、113℃未満の温度でネガ型ネマチック液晶相、それ以上の温度で等方相を示すことが確認された。また、上記表示素子における媒質層3の厚みは、上記基板1・2の対向面に予めプラスチックビーズを散布しておくことにより、5μmになるように調整した。
なお、上記配向膜35・36には予めラビング処理を施しておいた。互いのラビング方向は図14に示すように反平行とし、その方位は、偏光板吸収軸と45度の角度をなすようにした。また、両基板1・2の外側には、図13に示すように、それぞれ偏光板6・7を配置した。このようにして得られた表示素子を、外部加温装置(加熱手段)によりネマチック等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電圧印加を行うことにより、透過率を変化させることができた。
また、本実施の形態においては、上記媒質の光学的異方性の程度を変更させる手段として、主に、電界の印加を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電界以外の外場を印加することにより、外場印加時と無印加時とで、光学的異方性の程度を変更させてもよい。後述する他の実施例についても同様である。
すなわち、本発明にかかる表示素子は、少なくとも一方が透明な一対の基板と、該一対の基板間に挟持され、外場の印加により光学的異方性の程度が変化する媒質と、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板における上記媒質との対向面とは反対側に配置された偏光板とを備えた表示素子であって、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板と偏光板との間に二軸光学異方性を有する位相差板を備え、上記位相差板は、上記位相差板の面内方向の主屈折率をnx1、ny1、法線方向の主屈折率をnz1とすると、ny1方向が、該位相差板を介して上記基板と反対側に形成されている偏光板の吸収軸と平行または直交するように配されている構成であってもよい。
上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板と偏光板との間に二軸光学異方性を有する位相差板が、その主屈折率と偏光板の吸収軸とが上記した関係を有するように配されていることで、斜め視角のコントラストを従来よりも向上させることができる。よって、上記の構成によれば、従来よりも視野角特性に優れた表示素子を提供することができる。
例えば、電界を印加する代わりに、磁場を印加するようにしてもよい。この場合、媒質の磁気異方性を用いることにより、磁場印加時と無印加時とで媒質の光学的異方性の程度を変化させることになる。このため、媒質としては、磁化率の異方性の大きいものが好ましい。
有機分子の場合、磁化率への寄与のほとんどは反磁性磁化率によるものなので、磁界の変化によってπ電子が分子内で環状に運動できる場合に、その絶対値が大きくなる。したがって、例えば分子内に芳香環がある場合に、磁界の方向に対して芳香環が垂直に向くような場合に磁化率の絶対値が大きくなる。この場合、芳香環の水平面方向の磁化率の絶対値は垂直方向に比べて小さいので、磁化率の異方性が大きくなる。よって、媒質は分子内に6員環などの環状構造があるものが好ましい。
また、磁化率の異方性を上げるには媒質内の電子スピンを配列させることも好ましい。分子内にNやOやNOのラジカルの電子スピンを導入することにより、分子が安定なスピンを持つことができる。スピンを平行に配列させるためには、例えば平面上の共役系分子を積み重ねることにより実現できる。例えば、中心のコア部分が積み重なりカラムを形成しているディスコチック液晶が好適である。
また、上記媒質の光学的異方性の程度を変更させるための外場として、光を用いることもできる。この場合、外場として用いる光の波長は特に限定されるものではないが、例えばNd:YAGレーザーで532nmの光を発振させて媒質に照射することにより、媒質の光学的異方性の程度を変化させることができる。
この場合に用いる媒質は、特に限定されるものではなく、光照射により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよい。例えば、上記した電界を用いる場合の各媒質例と同様のものを用いることができる。一例として、ペンチルシアノビフェニル(5CB)を用いてもよい。
また、外場として光を用いる場合、媒質中に色素が少量含まれていることが好ましい。色素を少量添加することにより、色素を添加しない場合に比べて、光学的異方性の程度の変化が大きくなる。なお、媒質中における色素の含有量は0.01wt%以上、5%未満であることが好ましい。0.01%未満だと、色素の量が少ないために光学的異方性の程度の変化にほとんど寄与せず、5%以上だと励起光が色素に吸収されてしまうからである。
例えば、ペンチルシアノビフェニル(5CB)をそのまま媒質として用いてもよいが、この物質に色素を加えたものを媒質として用いてもよい。加える色素としては特に限定されるものではないが、色素の吸収帯が励起光の波長を含むものが好ましい。例えば、1AAQ(1-amino-anthroquinone、アルドリッチ(Aldrich)社製、下記化学構造式参照)を加えてもよい。
ペンチルシアノビフェニル(5CB)に、1AAQを0.03%加えることにより、光励起による光学的異方性の程度の変化は、1AAQを加える前に比べて10倍程度大きくなった。
なお、電界以外の外場を印加することによって媒質の光学的異方性の程度を変化させる構成においても、電界を印加することによって媒質の光学的異方性の程度を変化させる構成と同様、媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチは400nm以下であることが好ましい。
また、本発明の表示素子では、光学的異方性の程度が変化する媒質として、例えば、電界(外場)を印加することによって秩序構造(配向秩序)が変化し、光学的異方性の程度が変化するものを用いることができる。例えば、電界(外場)印加時または無印加時に光学波長以下の秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。あるいは、電界(外場)無印加時に光学的異方性を示す秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。つまり、本発明の表示素子は、少なくとも一方が透明な一対の基板間に挟持された媒質に電界(外場)を印加することによって表示を行う表示素子であって、上記媒質は、電界を印加することによって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。
この場合、液晶分子の配向方向の変化を利用する従来の液晶表示素子のように液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響することがないので、従来の液晶表示素子よりも高速応答を実現できる。
また、この場合、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態(外場を印加することによって秩序構造に歪みが生じ、光学的異方性の程度が変化する状態)となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。例えば、上記した特許文献1に記載されているような、電界印加による有極性分子における電子の偏りを利用する従来の電気光学効果を利用した表示装置では、駆動温度範囲が液晶相の相転移点近傍の温度に制限され、極めて高精度な温度制御が必要であるという問題があった。これに対して、上記の構成によれば、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
例えば、上記したBABH8を上記媒質として用いる場合、24.3Kの温度範囲(136.7℃〜161℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。また、上記したANBC16を上記媒質として用いる場合、26.2Kの温度範囲(171.0℃〜197.2℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。なお、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の上限は特に限定されるものではなく、上記した各媒質よりもさらに広い温度範囲で所定の秩序構造を示す媒質を用いてもよい。また、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の下限は0.1Kよりも大きいことが好ましく、1K以上であることがより好ましい。
また、本発明の表示素子に用いられる媒質は、電界(外場)を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであればよく、必ずしもカー効果を示す媒質、すなわち電界の2乗に比例して屈折率が変化する媒質である必要はない。
〔実施の形態2〕
本発明の実施の他の形態について図18〜図22に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態では、主に、前記実施の形態1との相違点について説明するものとし、前記実施の形態1で用いた構成要素と同一の機能を有する構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。
前記実施の形態1では、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板と偏光板との間に、二軸光学異方性を有する位相差板を設けた場合を例に挙げて説明したが、本実施の形態では、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板と偏光板との間に、一軸光学異方性を有する位相差板を設けた場合を例に挙げて説明する。
図18は、本実施の形態にかかる表示素子の要部の概略構成の一例を示す断面図である。図18に示す表示素子は、対向基板12と偏光板7との間に、二軸光学異方性を有する位相差板21に代えて一軸光学異方性を有する位相差板42(第1の位相差板)が設けられていると共に、画素基板11と偏光板6との間に、一軸光学異方性を有する位相差板41(第2の位相差板)が設けられている構成を有している。なお、上記位相差板42・41以外の構成は、前記実施の形態1と同様に設定されている。
また、本実施の形態でも、両基板1・2にそれぞれ設けられた偏光板6・7は、互いの吸収軸6a・7a、つまり、偏光板吸収軸方向が直交するように形成されていると共に、各偏光板6・7における吸収軸6a・7aと櫛形電極4・5における櫛歯部分4a・5aの電極伸長方向とが約45度の角度をなすように形成されている。このため、各偏光板6・7における吸収軸6a・7aは、櫛形電極4・5の電界印加方向に対して、約45度の角度をなすように形成されている。
本実施の形態では、上記位相差板42・41は、上記位相差板42の面内方向の主屈折率をnx2、ny2、法線方向の主屈折率をnz2とし、上記位相差板41の面内方向の主屈折率をnx3、ny3、法線方向の主屈折率をnz3とすると、上記位相差板42が、nx2>ny2=nz2の関係を満足すると共に、ny2方向が、該位相差板42を介して上記基板2と反対側に形成されている偏光板7の吸収軸7aと平行であり、上記位相差板41が、nx3=ny3<nz3の関係を満足すると共に、nx3、ny3方向が、該位相差板41を介して上記基板1と反対側に形成されている偏光板6の吸収軸6aと平行または直交するように配されている。
以下に、上記位相差板42・41のリタデーション(Re、Rth)を種々変更して、方位B、極角60度におけるコントラストを調べた。なお、Re、Rthは、
Re(nm)=d2×(nx2−ny2)
Rth(nm)=d3×(nz3−ny3)
で示される値であり、上記位相差板42・41(位相差フィルム)の厚みd2・d3は共に100μm、観察波長は550nmとした。この結果を図19に示す。
図19は、横軸をRth、縦軸をReとしたときのコントラストを示し、図19中、黒く塗り潰した領域がコントラスト20以上の領域であり、グレーの領域(斜線領域)がコントラスト10以上の領域であり、着色されていない領域(無印領域)が、コントラストが改善されたとしても、コントラスト10未満の領域である。
実用上問題なく使用するためにはコントラストが10以上であることが望ましく、十分コントラストが向上したと認められるには、コントラストが20以上であることが必要である。
ここで、コントラストが最大になる点は、
(Rth、Re)=(140nm、100nm)
である。
図20に、上記したコントラスト最大条件のときの方位Aおよび方位Bの極角0〜85度のコントラストを調べた結果を示す。上記した主屈折率、さらには上記したリタデーションを有する位相差板42・41を用いることで、前述したように位相差板42・41がないときと比べて方位Bのコントラストが大きく向上し、方位Aと方位Bとでほぼ差がないコントラストが得られた。このような表示素子をテレビ、パソコンモニタ等の表示装置に適用したところ、視野角において実用上の問題はなかった。また、上記位相差板42・41が上記の関係を満たすことで、波長分散に起因する着色を防止することができた。
なお、ほぼコントラスト10以上の値が得られる領域は、次式
(Rth−140)2+(Re−100)2≦652
で示される領域、つまり、中心が(Rth、Re)=(140nm、100nm)、半径65nmの円であり、上記位相差板42・41が上記の関係を満たす(つまり、上記位相差板42・41として上記関係式を満足する位相差板を使用する)ことで、コントラスト10以上の値を得ることができる。なお、位相差板42・41の他の範囲においてもコントラスト向上効果のある範囲はあるものの、その範囲では波長分散に起因する着色現象が強く見られ、上記位相差板42・41が上記の関係を満たすことで、波長分散に起因する着色を防止することができる。
また、ほぼコントラスト20以上が得られる領域は、次式
(Rth−140)2+(Re−100)2≦402
で示される領域、つまり、中心が(Rth、Re)=(140nm、100nm)、半径40nmの円であり、上記位相差板42・41が上記の関係を満たすことで、コントラスト20以上の値を得ることができる。なお、位相差板42・41の他の範囲においてもコントラスト向上効果のある範囲はあるものの、その範囲では波長分散に起因する着色現象が強く見られ、上記位相差板42・41が上記の関係を満たすことで、波長分散に起因する着色を防止することができる。
さらに、上記位相差板42・41を設けない場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC3と記す)で、上記位相差板42・41を設けた場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC4と記す)を除した値(C4/C3)を、図21に示す。図21において、横軸はRth、縦軸はReであり、図21中、黒く塗り潰した領域が、(C4/C3)が2よりも大きい領域であり、グレーの領域(斜線領域)が、(C4/C3)が1よりも大きい領域であり、着色されていない領域(無印領域)が(C4/C3)が1以下の領域である。よって、図21中、グレーもしくは黒色領域が、一軸異方性を有する位相差板42・41をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板1・2と偏光板6・7との間に設けることによりコントラストの改善効果が得られる領域であり、一軸異方性を有する位相差板42・41をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板1・2と偏光板6・7との間に設けることにより、ほぼコントラスト改善効果を得ることができることが判る。
以上のように、本実施の形態によれば、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板と偏光板との間に一軸光学異方性を有する第1および第2の位相差板を備え、上記第1および第2の位相差板は、上記第1の位相差板の面内方向の主屈折率をnx2、ny2、法線方向の主屈折率をnz2とし、上記第2の位相差板の面内方向の主屈折率をnx3、ny3、法線方向の主屈折率をnz3とすると、上記第1の位相差板は、nx2>ny2=nz2の関係を満足すると共に、ny2方向が、該第1の位相差板を介して上記基板と反対側に形成されている偏光板の吸収軸と平行または直交し、上記第2の位相差板は、nx3=ny3<nz3の関係を満足すると共に、ny3方向が、該第2の位相差板を介して上記基板と反対側に形成されている偏光板の吸収軸と平行または直交する関係を有していること、特に、前記関係式を満足する主屈折率、さらにはリタデーションを有していることで、斜め視角のコントラスト、特に偏光板吸収軸から約45度の方位における斜め視角のコントラストを向上することができ、上記表示素子の視野角特性を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、図18に示すように対向基板12と偏光板7との間に、二軸光学異方性を有する位相差板21に代えて一軸光学異方性を有する第1の位相差板である位相差板42が設けられていると共に、画素基板11と偏光板6との間に、一軸光学異方性を有する第2の位相差板である位相差板41が設けられている場合を例に挙げて説明したが、本実施の形態はこれに限定されるものではなく、上記一対の基板1・2(画素基板11・対向基板12)のうち、少なくとも一方の基板と偏光板(偏光板6または偏光板7)との間に、一軸光学異方性を有する第1および第2の位相差板(位相差板42・41)のうち少なくとも一方が設けられている構成としてもよい。
このような表示素子としては、例えば、上記位相差板42、位相差板41が、図22(a)に示すように、上記対向基板12と偏光板7との間に、対向基板12側からこの順に積層されている構成としてもよく、図22(b)に示すように、上記対向基板12と偏光板7との間に、対向基板12側から位相差板41、位相差板42の順に積層されている構成としてもよい。また、図22(c)に示すように、上記対向基板12と偏光板7との間に位相差板42のみが設けられている構成としてもよく、図22(d)に示すように、上記対向基板12と偏光板7との間に位相差板41のみが設けられている構成としてもよい。
すなわち、上記位相差板42・41は、その少なくとも一方が設けられていればよく、また、偏光板が設けられた側の基板の少なくとも一方(つまり、一方の基板の外側にのみ偏光板が設けられている場合は、該偏光板と基板との間であり、両基板の外側に偏光版が設けられている場合にはその少なくとも一方の基板と偏光版との間)に、少なくとも1つの位相差板が設けられていればよい。
なお、上記位相差板41・42は、互いに組み合わせて適用した場合に特に顕著なコントラストの改善効果を得ることができたが、何れか一方のみの場合でも、位相差板が設けられていない従来の構成と比較すれば、コントラスト改善効果を得ることができた。なお、上記構成のうち何れの構成を採用するかは、コストと性能のバランスを考えて適宜選択すればよい。
なお、第1の位相差板(位相差板42)の遅相軸(面内の主屈折率が大きい方向)は、隣接する偏光板7の吸収軸7aと平行または直交するときにコントラスト向上効果を発現し、より望ましくは直交しているときであった。
〔実施の形態3〕
本発明の実施のさらに他の形態について図23〜図28に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態では、主に、前記実施の形態1および2との相違点について説明するものとし、前記実施の形態1および2で用いた構成要素と同一の機能を有する構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。
図23は、本実施の形態にかかる表示素子に設けられた偏光板7の要部の概略構成を示す断面図である。
上記偏光板7は、図23に示すように、基板2(図1参照)側から、接着層71、基材フィルム72、偏光層73、表面保護層74が、この順に積層された構造を有している。上記接着層71は、基材フィルム72裏面に設けられ、基板2に、当該偏光板7を接着するようになっている。また、偏光層73は、特定の方向の偏光のみ透過するようになっており、上記表面保護層74は、上記偏光層73表面を保護するために形成されている。
また、上記基材フィルム72は、通常、トリアセチルセルロース(TAC)にて形成されている。前記実施の形態1および2でも、偏光板6・7としては、一般的な偏光板を用いており、両偏光板6・7の基材フィルムには上記TACが使用されている。
しかしながら、TACは、それ自身、光学異方性を有している。このため、上記偏光板6・7における基材フィルムはそれぞれ光学異方性を有しており、面内のリタデーションはほぼ0であるが、厚み方向のリタデーションは45nmであった。
そこで、本実施の形態では、前記実施の形態1および2における構成において、偏光板6・7のTACを排除しときの基材フィルムのリタデーションの影響、つまり、上記偏光板6・7が有するリタデーションの影響を調べた。
まず、実施の形態1に対応する2軸光学異方性を有する位相差板21を用いた場合、図24に示すように、最大コントラストを与える(Rxz、Ryz)の値はほとんど変わらないことが判った。但し、最大コントラスト点周辺の傾向には変化があり、最大コントラスト点からずれた場合のコントラストには違いがあり、等高線形状が長円状から三角状になった。
このため、ほぼコントラスト10以上が得られる領域を数式で表せば、
Rxz2+Ryz2≦3002、
Rxz≧50、
Ryz≦−50、
または、
Rxz2+Ryz2≦3002、
Ryz≧50、
Rxz≦−50
となった。
また、ほぼコントラスト20以上が得られる領域を数式で表せば、
Rxz2+Ryz2≦2502、
Rxz≧75、
Ryz≦−75、
または、
Rxz2+Ryz2≦2502、
Ryz≧75、
Rxz≦−75
となった。なお、上記何れの場合にも、上記位相差板21が上記の関係を満たすことで、波長分散に起因する着色を防止することができた。
なお、上記したように偏光板6・7におけるリタデーションの影響を排除した場合においても、前記実施の形態1同様、最適点(最大コントラストが得られる点)は2箇所あり、それぞれがRxzとRyzとが入れ替わった関係である。これにより、上記位相差板21を90度回転させても同様な特性が得られることが判る。
また、上記した場合において、上記位相差板21を設けない場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC5と記す)で、上記位相差板21を設けた場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC6と記す)を除した値(C6/C5)を調べた結果を、図25に示す。図25において、横軸はRxz、縦軸はRyzであり、図25中、黒く塗り潰した領域が、(C6/C5)が2よりも大きい領域であり、グレーの領域(斜線領域)が、(C6/C5)が1よりも大きい領域であり、着色されていない領域(無印領域)が(C6/C5)が1以下の領域である。よって、図25中、グレーもしくは黒色領域が、偏光板6・7におけるリタデーションの影響を排除した場合に、二軸異方性を有する位相差板21をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板1・2と偏光板6・7との間に設けることによりコントラストの改善効果が得られる領域であり、二軸異方性を有する位相差板21をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板1・2と偏光板6・7との間に設けることにより、ほぼコントラスト改善効果を得ることができることが判る。
さらに、本実施の形態でも、位相差板21を1枚にて構成したが、2枚に分割してそれぞれ基板1・2と偏光板6・7との間に挿入しても同様の効果が得られる。
一方、前記実施の形態2に対応する、1軸光学異方性を有する位相差板42・41を用いた場合、図26に示すように、最大コントラストを与える点は変化した。
上記したように偏光板6・7におけるリタデーションの影響を排除した場合にコントラストが最大になる点は、
(Rth、Re)=(90nm、140nm)
であった。
したがって、前記実施の形態2の構成において斜め視角のコントラストを最適化するためには、基材フィルムのリタデーション(偏光板6・7のリタデーション)を考慮することが望ましいことが判った。
なお、ほぼコントラスト10以上が得られる領域は、次式
(Rth−90)2+(Re−140)2≦652
で示される領域、つまり、中心が(Rth、Re)=(90nm、140nm)、半径65nmの円であった。
また、ほぼコントラスト20以上が得られる領域は、次式
(Rth−90)2+(Re−140)2≦402
で示される領域、つまり、中心が(Rth、Re)=(140nm、100nm、半径40nmの円であった。なお、上記何れの場合にも、上記位相差板42・41が上記の関係を満たすことで、波長分散に起因する着色を防止することができた。
以上のことから、偏光板6・7の法線方向のリタデーション、つまり、TACのリタデーションをRtacとすると、Rtac=45nmのときにコントラストが最大になる点は(Re、Rth)=(100nm、140nm)であり、Rtac=0nmのときにコントラストが最大になる点は(Re、Rth)=(140nm、90nm)であり、TACのリタデーション(Rtac)を変化させたときには、図27(a)・(b)に示すように、上記2点で外挿または内挿できる新たな(Re、Rth)を適用することが望ましい。
また、大凡、図27(a)・(b)に示す直線グラフから±50%程度の範囲であれば、実用的な効果(明らかに従来例より視野角が向上したと判断できる)を発現し、±25%程度の範囲であれば顕著な効果(主観評価レベルでほぼ効果が飽和している領域)を有することが判った。
すなわち、図27(a)・(b)に示す直線グラフから±50%程度の範囲の場合、第1の位相差板である位相差板42の厚みをd2(nm)、第2の位相差板である位相差板41の厚みをd3(nm)、これら位相差板42・41のリタデーションをそれぞれRe(nm)=d2×(nx2−ny2)、Rth(nm)=d3×(nz3−ny3)とし、偏光板6・7の法線方向のリタデーションをRtacとすると、上記Reが、(Rtac、Re)=(45、100×1.5)および(Rtac、Re)=(0、140×1.5)の2点を含む直線と、(Rtac、Re)=(45、100×0.5)および(Rtac、Re)=(0、140×0.5)の2点を含む直線とで囲まれた範囲に存在すると共に、上記Rthが、(Rtac、Rth)=(45、140×1.5)および(Rtac、Rth)=(0、90×1.5)の2点を含む直線と、(Rtac、Rth)=(45、140×0.5)および(Rtac、Rth)=(0、90×0.5)の2点を含む直線とで囲まれた範囲に存在するようにすればよいことになる。
また、図27(a)・(b)に示す直線グラフから±25%程度の範囲の場合上記位相差板42の厚みをd2(nm)、上記位相差板41の厚みをd3(nm)、上記位相差板42・41のリタデーションをそれぞれRe(nm)=d2×(nx2−ny2)、Rth(nm)=d3×(nz3−ny3)とし、上記偏光板6・7の法線方向のリタデーションをRtacとすると、上記Reが、(Rtac、Re)=(45、100×1.25)および(Rtac、Re)=(0、140×1.25)の2点を含む直線と、(Rtac、Rth)=(45、140×1.25)および(Rtac、Rth)=(0、90×1.25)の2点を含む直線とで囲まれた範囲に存在すると共に、上記Rthが、(Rtac、Re)=(45、100×0.75)および(Rtac、Re)=(0、140×0.75)の2点を含む直線と、(Rtac、Rth)=(45、140×0.75)および(Rtac、Rth)=(0、90×0.75)の2点を含む直線とで囲まれた範囲に存在するようにすればよいことになる。
なお、上記の範囲(±50%および±25%の範囲)は、ReとRthにおける2点の値によって得られる直線によってそれぞれ補間されたものである。
また、上述したように偏光板6・7のリタデーションの影響を除外した場合に、上記位相差板42・41を設けない場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC7と記す)で、上記位相差板42・41を設けた場合における方位B、極角60度でのコントラスト値(以下、コントラストC8と記す)を除した値(C8/C7)を調べた結果を、図28に示す。図28において、横軸はRth、縦軸はReであり、図28中、黒く塗り潰した領域が、(C8/C7)が2よりも大きい領域であり、グレーの領域(斜線領域)が、(C8/C7)が1よりも大きい領域であり、着色されていない領域(無印領域)が(C8/C7)が1以下の領域である。よって、図28中、グレーもしくは黒色領域が、偏光板6・7におけるリタデーションの影響を排除した場合に、一軸異方性を有する位相差板42・41をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板1・2と偏光板6・7との間に設けることによりコントラストの改善効果が得られる領域であり、一軸異方性を有する位相差板42・41をその主屈折率方向と偏光板吸収軸との位置関係が前記した関係を有するように基板1・2と偏光板6・7との間に設けることにより、ほぼコントラスト改善効果を得ることができることが判る。
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。